液体吐出装置
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する内部直径が15[μm]以下のノズル(21)を有する液体吐出ヘッド(26)と、ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段(25)と、ノズル内の溶液が当該ノズルから凸状に盛り上がった状態を形成する凸状メニスカス形成手段(40)と、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧印加及び吐出電圧印加手段の吐出電圧印加を制御すると共に、吐出電圧印加手段による吐出電圧としてのパルス電圧の印加と重なるタイミングで、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧を印加させる動作制御手段(50)とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出させる技術として、吐出ノズル内の溶液を帯電させ、吐出ノズルと液滴の着弾を受ける対象物となる各種の基材との間に形成される電界から受ける静電吸引力により吐出させるいわゆる静電吸引方式の液滴吐出技術が知られている。
かかる分野の液滴吐出技術の中でも、吐出ノズル径の微細化(20〜30[μm]以下)を図ると共に、ノズル先端部において表面張力により形成される溶液の半球状の盛り上がり状態の頂点部に生じる電界集中効果を利用して、従来にない微小な液滴を吐出させることが可能となってきている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開第03/070381号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来例には以下の問題あった。
即ち、吐出ノズルを微細径としても円滑に吐出が行われるのは、吐出ノズルの先端部に帯電した溶液による略半球状のメニスカスが形成され、これにより電界集中の効果を得ることが前提となる。しかし、その一方で、溶液の帯電が継続して行われた場合、エレクトロウェッティング効果を生じ、吐出ノズルの先端面の濡れ性が高くなり、吐出ノズルの内径に等しくメニスカスを形成すべきところを、溶液が吐出ノズルの先端面上に広がってしまい、吐出不良、液滴径の不安定等の吐出性能の低下を生じるという問題があった。
【0004】
さらに、吐出ノズルが超微細径化(15[μm]以下)の条件で吐出する場合、液滴の超微小化及び電界集中効果による吐出高効率化(低電圧吐出)が可能となるが、その一方で、液滴の微小化によりレイリー分裂の電圧限界値が下がり、吐出可能な電圧値に近づくことから液滴の霧散化を抑制するため電荷量の精密制御が要求される(図9参照)。
この問題に対し、電荷の注入ではない凸状メニスカス形成手段を有する方式による吐出は、吐出のための電荷量を低減でき、液滴の霧散化の抑制に効果があることから、ノズルの微小化にあっても、精密制御を回避することができる。
しかしながら、液滴の霧散化は、ノズルと基板間のギャップ拡大や高速吐出等を要因としても生じやすくなる傾向にあり、このようなギャップ拡大の要請に対して凸状メニスカス形成のみでは十分に対処を図りきれないという問題があった。
【0005】
また、吐出ノズルが微細径であることから、帯電する粒状物を含む溶液を吐出対象物とし、溶液の帯電が継続して行われた場合、吐出ノズル内の溶液の粒状物が吐出ノズル先端側に集中し過ぎて目詰まりを生じるという問題があった。
さらに、溶液の帯電が継続して行われた場合、液滴の着弾を受ける基材に帯電を生じることがあるが、その場合、吐出に要する電位差に満たなくなって吐出不良を生じたり、また、吐出される液滴が微小であることから、着弾位置精度の低下を生じるという問題があった。
【0006】
そこで、微小液滴吐出における課題、1)溶液の帯電が継続して行われた場合、エレクトロウェッティング効果を生じ、吐出ノズルの先端面の濡れ性が高くなり、吐出ノズルの内径に等しくメニスカスを形成すべきところを、溶液が吐出ノズルの先端面上に広がってしまい、吐出不良、液滴径の不安定等の吐出性能の低下を生じるという課題、2)液滴の霧散化のさらなる抑制、3)吐出ノズル内の溶液の粒状物が吐出ノズル内に集中しすぎて目詰まりを生じるという課題を解決し、微小液滴を安定して円滑に吐出することを第一の目的とする。
また、微小液滴の着弾径の安定化を図ることを第二の目的とする。さらに、着弾位置精度の向上を図ることを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
液体吐出装置は、帯電した溶液の液滴を基材に吐出する内部直径が15[μm]以下のノズルを有する液体吐出ヘッドと、ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段と、ノズル内の溶液が当該ノズルから凸状に盛り上がった状態を形成する凸状メニスカス形成手段と、凸状メニスカス形成手段を駆動する駆動電圧の印加及び吐出電圧印加手段による吐出電圧の印加を制御すると共に、吐出電圧印加手段による吐出電圧としてのパルス電圧の印加と重なるタイミングで、前記凸状メニスカス形成手段の駆動電圧を印加させる動作制御手段と、を備えることで、課題の解決を図っている。
【0008】
以下、ノズル径という場合には、液滴を吐出するノズルの内部直径(ノズルの吐出を行う部分の内部直径)を示すものとする。なお、ノズル内の液体吐出穴の断面形状は円形に限定されるものではない。例えば、液体吐出穴の断面形状が多角形、星形その他の形状である場合にはその断面形状の外接円が15[μm]以下となることを示すものとする。
また、ノズル半径という場合には、このノズル径(ノズルの内部直径)の1/2の長さを示すものとする。
【0009】
本発明において、「基材」とは吐出された溶液の液滴の着弾を受ける対象物を示し、材質的には特に限定されない。従って、例えば、上記構成をインクジェットプリンタに適用した場合には、用紙やシート等の記録媒体が基材に相当し、導電性ペーストを用いて回路の形成を行う場合には、回路が形成されるべきベースが基材に相当することとなる。
【0010】
上記構成にあっては、ノズルに基材の液滴受け面が対向するように、相対的に配置される。
そして、液体吐出ヘッド内には溶液が供給される。かかる状態において、動作制御手段は、圧電素子、静電アクチュエータ、発熱抵抗体等による凸状メニスカス形成手段に対する駆動電圧の印加と吐出電極の吐出電圧の印加とが重複を生じるように、双方の電圧印加を行う。
その際、凸状メニスカス形成手段によりノズルにおいて溶液が盛り上がった状態(凸状メニスカス)が形成される。かかる凸状メニスカスの形成のためには、例えば、ノズル内圧力をノズルから液滴がこぼれ落ちない範囲で高める等の方法が採られる。
また、吐出電圧は、継続的に上昇状態を維持するのではなく、瞬間的に立ち上がるパルス電圧により印加を行う。
なお、凸状メニスカス形成手段に対する駆動電圧と、吐出電極の吐出電圧とは、それぞれ単独の印加では液滴が吐出されない範囲であって、双方の印加が行われてはじめて液滴が吐出される電位に設定されている。これにより、凸状メニスカスを形成する駆動電圧により凸状メニスカスがノズルに形成されると、凸状メニスカスの突出先端部から溶液の液滴が基材の受け面に対して垂直方向に飛翔し、基材の受け面上には溶液のドットが形成される。
【0011】
なお、本発明では、溶液に対する電圧の印加を行う吐出電圧印加手段とは別に、凸状メニスカスを形成するための凸状メニスカス形成手段を備えることにより、吐出電圧印加手段単独でメニスカス形成及び液滴吐出に要する電圧印加を行う場合と比較して、低電圧化が図られる。
さらに、吐出電圧がパルス電圧であることから、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であり、エレクトロウェッティング効果により吐出ノズル周囲への溶液の広がりを生じる前に吐出が行われる。
また、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、溶液中の粒状物の吐出ノズル側への過剰な集中を防ぎ、目詰まりが低減する。
さらに、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、基材側での帯電(チャージアップ)が抑制されて、安定した吐出が行われると共に微小液滴でも所定の方向に飛翔する。
また、凸状メニスカス形成手段により、吐出電極への印加電圧低減に伴う溶液の電荷量の低減が図られ、レイリー限界による液滴の霧散化の抑制が図られる。さらに、吐出電極に対するパルス電圧印加において、パルス幅の調整により液滴の電荷量の最適化を図ることができる。そして、電荷量の最適化により、吐出可能電圧値とレイリー限界電圧値が近い場合であっても、さらなる、霧散化の抑制を図ることができ、ノズルと基板間のギャップ拡大化を図る場合や高速吐出を行う場合であっても、液滴の霧散化を抑制することが可能となる。
【0012】
また、前述した動作制御手段は、ノズル内の溶液に対する吐出電圧印加の直前又は直後に吐出電圧とは逆極性の電圧を印加させる制御を行っても良い。
つまり、吐出電圧印加の直前に吐出電圧と逆極性の電圧の印加が行われる場合には、前回の吐出時における吐出電圧印加によるノズルのエレクトロウェッティング効果、溶液中の粒状物の吐出ノズル側への過剰な集中、基材側でのチャージアップの影響を相殺し低減して当該吐出が行われる。
また、吐出電圧印加の直後に吐出電圧と逆極性の電圧の印加が行われる場合には、当該吐出時における吐出電圧印加によるノズルのエレクトロウェッティング効果、溶液中の粒状物の吐出ノズル側への過剰な集中、基材側でのチャージアップの影響を相殺し低減して次回の吐出が行われる。
【0013】
また、前述した動作制御手段は、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧の印加を先行させつつもこれと重なるタイミングで、吐出電圧印加手段の吐出電圧を印加させる制御を行っても良い。
上記構成では、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧の印加が先に行われ、印加継続中に吐出電極に対する吐出電圧の印加が行われる。
これにより、凸状メニスカス形成手段の応答性の遅れが生じても、これを解消することができる。
さらに、凸状メニスカスが形成された状態で吐出電極に吐出電圧の印加が行われるので、吐出電圧のパルス幅を短く設定しても、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧と容易に同期を図ることができる。
【0014】
また、前述したヘッドにノズルを複数設けると共に、各ノズルごとに凸状メニスカス形成手段を設けても良い。
ヘッドに複数のノズルを設けた場合、各ノズルを近接配置して高集積化を図ろうとすると、各ノズルにおける吐出電極の吐出電圧の印加により電界強度分布に不均一によるクロストークを生じ、吐出が不安定、ドット径が不均一、着弾精度の低下を生じやすいが、上記構成では、凸状メニスカス形成手段によって、吐出電圧の低下が図られるので、クロストークが抑制され、多ノズルの高集積化も可能となる。
【発明の効果】
【0015】
液体吐出装置は、溶液に対する吐出電圧の印加を行う吐出電圧印加手段とは別に、凸状メニスカスを形成するための凸状メニスカス形成手段を備えることにより、吐出電圧印加手段単独でメニスカス形成及び液滴吐出に要する電圧印加を行う場合と比較して、低電圧化を図ることが可能となる。従って、高電圧の印加回路や装置の耐高電圧化を不要とし、部品点数の軽減、構成の簡易化による生産性の向上を図ることが可能となる。
【0016】
さらに、吐出電圧印加手段に印加する吐出電圧をパルス電圧とすることにより、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的となり、エレクトロウェッティング効果による吐出ノズル周囲の溶液の広がりを生じる前に吐出を行うことが可能となり、吐出不良を抑制し液滴径の安定化を図ることが可能となる。
また、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、吐出電圧が継続的に印加される場合のように溶液中の粒状物が吐出ノズル側への過剰に集中する事態を回避し、粒状物による目詰まりを低減し、吐出の円滑化を図ることが可能となる。
さらに、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、吐出電圧が継続的に印加される場合に生じる基材側の帯電(チャージアップ)を抑制することができ、吐出に要する電位差を安定して維持することができ、吐出不良の低減による吐出安定性の向上を図ることが可能となる。また、基材側の帯電を抑制するので、微小液滴でも安定して所定の方向に飛翔させることができ、着弾位置精度の向上を図ることが可能となる。
さらに、レイリー限界に対する凸状メニスカス形成手段による霧散化の抑制が図られ、吐出電極に対するパルス電圧印加に基づく電荷量の最適化によりさらなる霧散化の抑制を図ることが可能となる。このため、ノズルと基板間のギャップ拡大化を図る場合や高速吐出を行う場合であっても、液滴の霧散化を抑制することが可能となる。
【0017】
また、動作制御手段が、吐出電圧印加手段を制御して吐出電圧の印加直後に逆極性の電圧印加を行わせる場合には、当該吐出電圧の印加によるエレクトロウェッティング効果、溶液中の帯電粒状物のノズル側への集中、チャージアップへの影響を相殺し、次回の吐出を良好な状態に維持することを可能とする。
また、吐出電圧の印加直前に逆極性の電圧印加を行う場合には、前回の吐出による吐出電圧の印加によるエレクトロウェッティング効果、溶液中の帯電粒状物のノズル側への集中、チャージアップへの影響を低減除去し、当該吐出を良好な状態に維持することを可能とする。
【0018】
また、動作制御手段が、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧の印加を吐出電圧印加手段の吐出電圧の印加よりも先行させる場合には、凸状メニスカス形成手段の駆動によるノズルに形成される凸状メニスカス形成の遅れの影響を解消することができる。
また、予めメニスカス形成状態にある溶液に対して帯電用の吐出電圧を印加することとなるので、同期を図りやすく、その結果、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧よりも吐出電圧のパルス幅を短く設定することができ、エレクトロウェッティング効果の抑制、溶液中の帯電粒状物のノズル側への集中の抑制、チャージアップの抑制を、より効果的に実現することが可能となる。
【0019】
また、ヘッドにノズルを複数設け、各ノズルごとに凸状メニスカス形成手段を備える場合、吐出電圧の低減を図ることができ、これにより、各ノズル間で生じるクロストークの影響を抑制することが可能となる。従って、吐出ヘッドに、従来よりもより高密度にノズルを設けることができ、吐出ヘッドのノズルの高集積化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第一の実施形態たる液体吐出装置のノズルに沿った断面図である。
【図2A】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた断面図であり溶液室側に丸みを設けた例を示す。
【図2B】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた断面図であり流路内壁面をテーパ周面とした例を示す。
【図2C】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた断面図でありテーパ周面と直線状の流路とを組み合わせた例を示す。
【図3A】溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、吐出を行わない状態を示す。
【図3B】溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、吐出状態を示す。
【図4】吐出電圧とピエゾ素子の駆動電圧のタイミングチャートである。
【図5】吐出電極に吐出電圧(直流電圧)を連続的に印加する比較例のタイミングチャートである。
【図6】いずれのノズルにおいて吐出を行うかによって吐出ヘッドの吐出側前面に生じる電界強度分布への影響を示す説明図である。
【図7】溶液に吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段とした例を示す構成図である。
【図8】本発明の実施の形態として、ノズルの電界強度の計算を説明するために示したものである。
【図9】ノズルのノズル径とメニスカス部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示す線図である。
【図10】ノズル径と対向電極までの距離と最大電界強度との関係を示す図表である。
【図11】ノズルのノズル径のメニスカス部の最大電界強度と強電界領域の関係を示す線図である。
【図12A】ノズル径とノズル先端部の強電界の領域の関係を表すグラフである。
【図12B】図12Aにおけるノズル径が微小な範囲での拡大図を示す。
【図13】ノズルに吐出空圧を付与する凸状メニスカス形成手段を用いた場合の空気圧の大きさとその時の最低吐出電圧との関係を示す線図である。
【図14A】駆動遅延時間とその際に要する吐出電極の印加電圧値との関係を示す線図である。
【図14B】空気圧を発生させる駆動電圧を印加してからの経過時間が長くなるにつれてノズル先端部に生じるメニスカスの発生状態の変化を示す説明図である。
【図15】ノズル−基材間の間隔と最低吐出電荷量との関係を示す線図である。
【図16】本発明と比較例とにおけるノズル−基材間の間隔による液滴の霧散化への影響を示す比較試験結果を示す図表である。
【図17】吐出電極にパルス電圧を印加した場合とバイアス電圧を印加した場合の吐出に要する最低電圧値をそれぞれ示したグラフである。
【図18】吐出電極にパルス電圧を印加した場合とバイアス電圧を印加した場合の比較試験であって、ノズルの小径化とノズル先端面に生じるエレクトロウェッティングの影響を観察した結果を示す図表である。
【図19】吐出電極にパルス電圧を印加した場合とバイアス電圧を印加した場合の比較試験であって、ノズルの小径化とノズル先端面に生じる目詰まりの影響を観察した結果を示す図表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(液体吐出装置の全体構成)
以下、本発明の実施形態である液体吐出装置20について図1乃至図6に基づいて説明する。図1は後述するノズル21に沿った液体吐出装置20の断面図である。
この液体吐出装置20は、帯電可能な溶液の液滴をその先端部から吐出する超微細径のノズル21と、ノズル21の先端部に対向する対向面を有すると共にその対向面で液滴の着弾を受ける基材Kを支持する対向電極23と、ノズル21内の流路22に溶液を供給する溶液供給手段29と、ノズル21内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段25と、ノズル21内の溶液が当該ノズル21の先端部から凸状に盛り上がった状態を形成する凸状メニスカス形成手段40と、凸状メニスカス形成手段40の駆動電圧の印加及び吐出電圧印加手段25による吐出電圧の印加を制御する動作制御手段50とを備えている。
【0022】
なお、上記ノズル21は、吐出ヘッド26に複数のものが同一平面上に同一方向に向けられた状態で設けられている。そして、これに伴い、溶液供給手段29は、各ノズル21ごとに吐出ヘッド26に形成され、また、凸状メニスカス形成手段40も各ノズル21ごとに吐出ヘッド26に設けられている。その一方で、吐出電圧印加手段25と対向電極23とは一つのみであり、各ノズル21に対して共用で用いられる。
なお、図1では、説明の便宜上、ノズル21の先端部が上方を向き、ノズル21の上方に対向電極23が配設されている状態で図示されているが、実際上は、ノズル21が水平方向か或いはそれよりも下方、より望ましくは垂直下方に向けた状態で使用される。
また、吐出ヘッド26と基材Kとを相対的に移動位置決めする図示しない位置決め手段により吐出ヘッド26と基材Kとがそれぞれ搬送され、これにより吐出ヘッド26の各ノズル21から吐出される液滴は基材Kの表面に任意の位置に着弾させることが可能となっている。
【0023】
(ノズル)
上記各ノズル21は、後述するノズルプレート26cと共に一体的に形成されており、当該ノズルプレート26cの平板面上から垂直に立設されている。また、液滴の吐出時においては、各ノズル21は、基材Kの受け面(液滴が着弾する面)に対して垂直に向けて使用される。さらに、各ノズル21にはその先端部からノズルの中心に沿って貫通するノズル内流路22が形成されている。
【0024】
各ノズル21についてさらに詳説する。各ノズル21は、その先端部における開口径とノズル内流路22とが均一であって、前述の通り、これらが超微細径で形成されている。具体的な各部の寸法の一例を挙げると、ノズル内流路22の内部直径は、15[μm]以下、さらに10[μm]以下、さらに8[μm]以下、さらに4[μm]以下が好ましく、本実施形態ではノズル内流路22の内部直径が1[μm]に設定されている。そして、ノズル21の先端部における外部直径は2[μm]、ノズル21の根元の直径は5[μm]、ノズル21の高さは100[μm]に設定されており、その形状は限りなく円錐形に近い円錐台形に形成されている。また、ノズルの内部直径は0.2[μm]より大きい方が好ましい。なお、ノズル21の高さは、0[μm]でも構わない。つまり、ノズル21がその周囲の平面と同じ高さで形成され、平坦面に吐出口が単に形成されて吐出口から溶液室24間で通じるノズル内流路22が形成されているだけでも良い。但し、高さを0[μm]とするときには、ノズル21の吐出側開口部が設けられた吐出ヘッド26の端面側を絶縁性材料で形成するか端面に絶縁性被膜を設けることが望ましい。
【0025】
なお、ノズル内流路22の形状は、図1に示すような、内径一定の直線状に形成しなくとも良い。例えば、図2Aに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部における断面形状が丸みを帯びて形成されていても良い。また、図2Bに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部における内径が吐出側端部における内径と比して大きく設定され、ノズル内流路22の内面がテーパ周面形状に形成されていても良い。さらに、図2Cに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部のみがテーパ周面形状に形成されると共に当該テーパ周面よりも吐出端部側は内径一定の直線状に形成されていても良い。
【0026】
(溶液供給手段)
各溶液供給手段29は、液体吐出ヘッド26の内部であって対応するノズル21の基端部側に設けられると共にノズル内流路22に連通する溶液室24と、図示しない外部の溶液タンクから溶液室24に溶液を導く供給路27と、溶液室24への溶液の供給圧力を付与する図示しない供給ポンプとを備えている。
上記供給ポンプは、ノズル21の先端部まで溶液を供給し、凸状メニスカス形成手段40の非作動時であって吐出電圧印加手段40の非作動時において、各ノズル21の先端部から外部に現れない範囲(凸状メニスカスを形成しない範囲)の供給圧力を維持して溶液の供給を行う。
なお、上記の供給ポンプとは、液体吐出ヘッド26と供給タンクの配置位置による差圧を利用する場合も含み、別途、溶液供給手段を設けなくとも溶液供給路のみで構成しても良い。ポンプシステムの設計にもよるが、基本的にはスタート時に液体吐出ヘッド26に溶液を供給するときに稼動し、液体吐出ヘッド26から液体を吐出し、それに応じた溶液の供給は、キャピラリ及び凸状メニスカス形成手段による液体吐出ヘッド26内の容積変化及び供給ポンプの各圧力の最適化を図って溶液の供給が実施される。
【0027】
(吐出電圧印加手段)
吐出電圧印加手段25は、液体吐出ヘッド26の内部であって溶液室24とノズル内流路22との境界位置に設けられた吐出電圧印加用の吐出電極28と、この吐出電極28への吐出電圧として瞬間的に立ち上がるパルス電圧を印加するパルス電圧電源30と、を備えている。詳細は後述するが、吐出ヘッド26は、各ノズル21を形成する層と、各溶液室24及び供給路27を形成する層とを備えており、これらの層の境界全面に渡って吐出電極28は設けられている。これにより、単一の吐出電極28が全ての溶液室24内の溶液に接液し、単一の吐出電極24に吐出電圧を印加することで全てのノズル21に導かれる溶液を帯電させることができる。
【0028】
パルス電圧電源30による吐出電圧は、凸状メニスカス形成手段40によりノズル21の先端部に溶液の凸状メニスカスが形成された状態で吐出が可能となる範囲の電圧を印加するようにその値が設定されている。
このパルス電圧電源30により印加を行う吐出電圧は、理論上は、次式(1)により求められる。
【数1】
ただし、γ:溶液の表面張力(N/m)、ε0:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル直径(m)、h:ノズル−基材間距離(m)、k:ノズル形状に依存する比例定数(1.5<k<8.5)とする。
なお、上記条件は理論値であり、実際上は、凸状メニスカスの形成時と非形成時における試験を行い、適宜な電圧値を求めても良い。
本実施形態では、一例として吐出電圧を400[V]とする。
【0029】
(液体吐出ヘッド)
液体吐出ヘッド26は、図1において最も下層に位置し、可撓性を有する素材(例えば金属,シリコン、樹脂等)からなる可撓ベース層26aと、この可撓ベース層26aの上面全体に形成される絶縁素材からなる絶縁層26dと、その上に位置する溶液の供給路を形成する流路層26bと、この流路層26bのさらに上に形成されるノズルプレート26cとを備え、流路層26bとノズルプレート26cとの間には前述した吐出電極28が介挿されている。
【0030】
上記可撓ベース層26aは、上述の如く、可撓性を有する素材であれば良く、例えば金属薄板を使用しても良い。このように、可撓性が要求されるのは、可撓ベース層26aの外面であって溶液室24に対応する位置に、後述する凸状メニスカス形成手段40のピエゾ素子41を設け、可撓ベース層26aを撓ませるためである。即ち、ピエゾ素子41に所定電圧を印加して、可撓ベース層26aを上記位置において内側又は外側のいずれにも窪ませることで溶液室24の内部容積を縮小又は増加させ、内圧変化によりノズル21の先端部に溶液の凸状メニスカスを形成し又は液面を内側に引き込むことを可能とするためである。
【0031】
可撓ベース層26aの上面には絶縁性の高い樹脂を膜状に形成し、絶縁層26dが形成される。かかる、絶縁層26dは、可撓ベース層26aが窪むことを妨げないように十分に薄く形成されるか、より変形が容易な樹脂素材が使用される。
そして、絶縁層26dの上には、溶解可能な樹脂層を形成すると共に供給路27及び溶液室24を形成するための所定のパターンに従う部分のみを残して除去し、当該残存部を除いて除去された部分に絶縁樹脂層を形成する。この絶縁樹脂層が流路層26bとなる。そして、この絶縁樹脂層の上面に面状に広がりをもって導電素材(例えばNiP)のメッキにより吐出電極28を形成し、さらにその上から絶縁性のレジスト樹脂層或いはパリレン層を形成する。このレジスト樹脂層がノズルプレート26cとなるので、この樹脂層はノズル21の高さを考慮した厚みで形成される。そして、この絶縁性のレジスト樹脂層を電子ビーム法やフェムト秒レーザにより露光し、ノズル形状を形成する。ノズル内流路22もレーザ加工により形成される。そして、供給路27及び溶液室24のパターンに従う溶解可能な樹脂層を除去し、これら供給路27及び溶液室24が開通して液体吐出ヘッド26が完成する。
【0032】
なお、ノズルプレート26c及びノズル21の素材は、具体的には、エポキシ、PMMA、フェノール、ソーダガラス、石英ガラス等の絶縁材の他、Siのような半導体、Ni、SUS等のような導体であっても良い。但し、導体によりノズルプレート26c及びノズル21を形成した場合には、少なくともノズル21の先端部における先端部端面、より望ましくは先端部における周面については、絶縁材による被膜を設けることが望ましい。ノズル21を絶縁材から形成し又はその先端部表面に絶縁材被膜を形成することにより、溶液に対する吐出電圧印加時において、ノズル先端部から対向電極23への電流のリークを効果的に抑制することが可能となるからである。
また、絶縁処理をしたかにかかわらず、各ノズル21の先端面が使用する溶液に対して濡れ性が高い場合には、当該先端面に撥水処理を図ることが望ましい。ノズル21の先端部で形成される凸状メニスカスの曲率半径をいつもノズル径により近い値とすることができるからである。
【0033】
また、ノズル21を含めてノズルプレート26cが撥水性を有していても良いし(例えば、ノズルプレート26cがフッ素を含有した樹脂で形成されている。)、ノズル21の表層に撥水性を有する撥水膜が形成されていても良い(例えば、ノズルプレート26cの表面に金属膜が形成され、更にその金属膜上にその金属と撥水性樹脂との共析メッキによる撥水層が形成されている。)。ここで撥水性とは、液体に対してはじく性質である。また、液体に応じた撥水処理方法を選択することによって、ノズルプレート26cの撥水性をコントロールすることができる。撥水処理方法としては、カチオン系又はアニオン系の含フッ素樹脂の電着、フッ素系高分子、シリコーン系樹脂、ポリジメチルシロキサンの塗布、焼結法、フッ素系高分子の共析メッキ法、アモルファス合金薄膜の蒸着法、モノマーとしてのヘキサメチルジシロキサンをプラズマCVD法によりプラズマ重合させることにより形成されるポリジメチルシロキサン系を中心とする有機シリコン化合物やフッ素系含有シリコン化合物等の膜を付着させる方法がある。
【0034】
(対向電極)
対向電極23は、ノズル21の突出方向に垂直な対向面を備えており、かかる対向面に沿うように基材Kの支持を行う。ノズル21の先端部から対向電極23の対向面までの距離は、500[μm]以下が好ましく、さらには100[μm]以下が好ましく、一例としては100[μm]に設定される。
また、この対向電極23は接地されているため、常時,接地電位を維持している。従って、ノズル21の先端部と対向面との間に生じる電界による静電力により吐出された液滴を対向電極23側に誘導する。
なお、液体吐出装置20は、ノズル21の超微細化による当該ノズル21の先端部での電界集中により電界強度を高めることで液滴の吐出を行うことから、対向電極23による誘導がなくとも液滴の吐出を行うことは可能ではあるが、ノズル21と対向電極23との間での静電力による誘導が行われた方が望ましい。また、帯電した液滴の電荷を対向電極23の接地により逃がすことも可能である。
【0035】
(凸状メニスカス形成手段)
各凸状メニスカス形成手段40は、ノズルプレート26の可撓ベース層26aの外側面(図1における下面)であって溶液室24に対応する位置に設けられた圧電素子としてのピエゾ素子41と、このピエゾ素子41を変形させるために瞬間的に立ち上げられる駆動パルス電圧を印加する駆動電圧電源42とを備えている。
上記ピエゾ素子41は、駆動パルス電圧の印加を受けて可撓ベース層26aを内側又は外側のいずれにも窪ませる方向に変形を生じるように当該可撓ベース層26aに装着されている。
【0036】
駆動電圧電源42は、動作制御手段50の制御により、ノズル内流路22内の溶液がノズル21の先端部おいて凸状のメニスカスを形成していない状態(参照図3A)から凸状にメニスカスを形成する状態(参照図3B)となるために適当な溶液室24の容積の減少をピエゾ素子41がもたらすための適当な値の駆動パルス電圧(例えば10[V])を出力する。
【0037】
(溶液)
上記液体吐出装置20による吐出を行う溶液の例としては、無機液体としては、水、COCl2、HBr、HNO3、H3PO4、H2SO4、SOCl2、SO2Cl2、FSO3Hなどが挙げられる。有機液体としては、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、tert−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール類;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、などのフェノール類;ジオキサン、フルフラール、エチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エピクロロヒドリンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、アセトフェノンなどのケトン類;ギ酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などの脂肪酸類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−3−メトキシブチル、酢酸−n−ペンチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、セロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、アセト酢酸エチル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチルなどのエステル類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、o−トルイジン、p−トルイジン、ピペリジン、ピリジン、α−ピコリン、2,6−ルチジン、キノリン、プロピレンジアミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N,N',N'−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類;ベンゼン、p−シメン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキセンなどの炭化水素類;1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン(cis−)、テトラクロロエチレン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、2−クロロ−2−メチルプロパン、ブロモメタン、トリブロモメタン、1−ブロモプロパンなどのハロゲン化炭化水素類、などが挙げられる。また、上記各液体を二種以上混合して溶液として用いても良い。
【0038】
さらに、高電気伝導率の物質(銀粉等)が多く含まれるような導電性ペーストを溶液として使用し、吐出を行う場合には、上述した液体に溶解又は分散させる目的物質としては、ノズルで目詰まりを発生するような粗大粒子を除けば、特に制限されない。PDP、CRT、FEDなどの蛍光体としては、従来より知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、赤色蛍光体として、(Y,Gd)BO3:Eu、YO3:Euなど、緑色蛍光体として、Zn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、(Ba,Sr,Mg)O・α−Al2O3:Mnなど、青色蛍光体として、BaMgAl14O23:Eu、BaMgAl10O17:Euなどが挙げられる。上記の目的物質を記録媒体上に強固に接着させるために、各種バインダーを添加するのが好ましい。用いられるバインダーとしては、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースおよびその誘導体;アルキッド樹脂;ポリメタクリタクリル酸、ポリメチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート・メタクリル酸共重合体、ラウリルメタクリレート・2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体などの(メタ)アクリル樹脂およびその金属塩;ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアクリルアミドなどのポリ(メタ)アクリルアミド樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・イソプレン共重合体などのスチレン系樹脂;スチレン・n−ブチルメタクリレート共重合体などのスチレン・アクリル樹脂;飽和、不飽和の各種ポリエステル樹脂;ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ポリマー;ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;エポキシ系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のポリアセタール樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂などのポリエチレン系樹脂;ベンゾグアナミン等のアミド樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂及びそのアニオンカチオン変性;ポリビニルピロリドンおよびその共重合体;ポリエチレンオキサイド、カルボキシル化ポリエチレンオキサイド等のアルキレンオキシド単独重合体、共重合体及び架橋体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール;ポリエーテルポリオール;SBR、NBRラテックス;デキストリン;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン及びその誘導体、カゼイン、トロロアオイ、トラガントガム、プルラン、アラビアゴム、ローカストビーンガム、グアガム、ペクチン、カラギニン、にかわ、アルブミン、各種澱粉類、コーンスターチ、こんにゃく、ふのり、寒天、大豆蛋白等の天然或いは半合成樹脂;テルペン樹脂;ケトン樹脂;ロジン及びロジンエステル;ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンイミン、ポリスチレンスルフォン酸、ポリビニルスルフォン酸などを用いることができる。これらの樹脂は、ホモポリマーとしてだけでなく、相溶する範囲でブレンドして用いても良い。
【0039】
液体吐出装置20をパターンニング方法として使用する場合には、代表的なものとしてはディスプレイ用途に使用することができる。具体的には、プラズマディスプレイの蛍光体の形成、プラズマディスプレイのリブの形成、プラズマディスプレイの電極の形成、CRTの蛍光体の形成、FED(フィールドエミッション型ディスプレイ)の蛍光体の形成、FEDのリブの形成、液晶ディスプレイ用カラーフィルター(RGB着色層、ブラックマトリクス層)、液晶ディスプレイ用スペーサー(ブラックマトリクスに対応したパターン、ドットパターン等)などが挙げることができる。ここでいうリブとは一般的に障壁を意味し、プラズマディスプレイを例に取ると各色のプラズマ領域を分離するために用いられる。その他の用途としては、マイクロレンズ、半導体用途として磁性体、強誘電体、導電性ペースト(配線、アンテナ)などのパターンニング塗布、グラフィック用途としては、通常印刷、特殊媒体(フィルム、布、鋼板など)への印刷、曲面印刷、各種印刷版の刷版、加工用途としては粘着材、封止材などの本発明を用いた塗布、バイオ、医療用途としては医薬品(微量の成分を複数混合するような)、遺伝子診断用試料等の塗布等に応用することができる。
【0040】
(動作制御手段)
動作制御手段50は、実際的にはCPU51,ROM52,RAM53等を含む演算装置を有する構成であり、これらに所定のプログラムが入力されることにより、下記に示す機能的な構成を実現すると共に後述する動作制御を実行する。
上記動作制御手段50は、各凸状メニスカス形成手段40のパルス電圧電源42のパルス電圧出力制御と吐出電圧印加手段25のパルス電圧電源30のパルス電圧出力制御とを行う。
【0041】
まず、動作制御手段50のCPU51はROM52に格納された電源制御プログラムにより、溶液の吐出を行う場合に、対象となる凸状メニスカス形成手段40のパルス電圧電源42を先行させてパルス電圧出力状態とし、その後に吐出電圧印加手段25のパルス電圧電源30のパルス電圧出力状態とする制御を行う。このとき、先行する凸状メニスカス形成手段40の駆動電圧としてのパルス電圧は、吐出電圧印加手段25のパルス電圧と重複するように制御される(図4参照)。そして、当該重複したタイミングで液滴の吐出が行われる。
【0042】
また、動作制御手段50は、吐出電圧印加手段25の吐出電圧である矩形に立ち上がるパルス電圧の印加の直後に逆極性の電圧を出力する制御を行う。この逆極性の電圧は、パルス電圧の非印加時よりも低電位であって、矩形に落ち込む波形を描く。
【0043】
(液体吐出装置による微小液滴の吐出動作)
図1、図3A、図3B及び図4により液体吐出装置20の動作説明を行う。図3Aは凸状メニスカス形成手段40における動作説明図であって駆動電圧の非印加時を示し、図3Bは駆動電圧の印加時を示している。図4は吐出電圧とピエゾ素子41の駆動電圧のタイミングチャートを示す。なお、図4の最上部には凸状メニスカス形成手段40がない場合に要する吐出電圧電位を示し、最下部には各印加電圧の印加に伴うノズル21の先端部の溶液の状態変化を示している。
【0044】
溶液供給手段29の供給ポンプにより各ノズル内流路22,溶液室24及びノズル21には溶液が供給された状態にある。そして、動作制御手段50が、例えば、外部からいずれかのノズル21について溶液を吐出する指令を受けると、まず、該当するノズル21の凸状メニスカス形成手段40について、パルス電圧電源42からパルス電圧である駆動電圧をそのピエゾ素子41に対して印加させる。これにより、当該ノズル21の先端部において、図3Aの状態から溶液が押し出されるように図3Bの凸状メニスカス形成状態に移行する。
かかる移行過程において、動作制御手段50は、吐出電圧印加手段25について、パルス電圧電源30からパルス電圧である吐出電圧を吐出電極28に対して印加させる。
図4に示すように、凸状メニスカス形成手段40の駆動電圧と、これに遅れて印加される吐出電圧印加手段25の吐出電圧とが、双方の立ち上がり状態がタイミング的に重複するように制御される。このため、凸状メニスカス形成状態で溶液は帯電し、凸状メニスカスの先端部に生じる電界集中効果により微小液滴が飛翔する。
【0045】
(液体吐出装置の効果説明)
液体吐出装置20は、溶液に対する吐出電圧の印加を行う吐出電圧印加手段25とは別に凸状メニスカス形成手段40を備えていることから、吐出電圧印加手段25単独でメニスカス形成及び液滴吐出に要する電圧印加を行う場合と比較して、低電圧化を図ることが可能となる。従って、高電圧の印加回路や装置の耐高電圧化を不要とし、部品点数の軽減、構成の簡易化による生産性の向上を図ることが可能となる。
【0046】
さらに、吐出電極28に対する吐出電圧をパルス電圧とすることから、その電圧印加時間を短縮化することができる。図5は吐出電極に吐出電圧(直流電圧)を連続的に印加する比較例のタイミングチャートを示す。かかる図5の例では、吐出電極28に印加するパルス電圧の立ち上がり状態の電位と等しい電位の直流電圧を継続的に印加する。
上記比較例と比して、本実施形態では、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的となり、帯電した液体に生じるエレクトロウェッティング効果によるノズル21の先端面での溶液の広がりを生じる前に吐出を行うことが可能となり、吐出不良を抑制し液滴径の安定化を図ることが可能となる。
また、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、比較例の如く、吐出電圧が継続的に印加される場合のように溶液中の帯電した粒状物がノズル21の先端部側への過剰に集中する事態を回避し、粒状物による目詰まりを低減し、吐出の円滑化を図ることが可能となる。
【0047】
さらに、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、比較例のように吐出電圧が継続的に印加される場合に生じる基材K側の帯電(チャージアップ)を抑制することができ、吐出に要する電位差を安定して維持することができ、吐出不良の低減による吐出安定性の向上を図ることが可能となる。また、基材側の帯電を抑制するので、微小液滴でも安定して所定の方向に飛翔させることができ、着弾位置精度の向上を図ることが可能となる。
【0048】
さらに、動作制御手段50は、凸状メニスカス形成手段40におけるパルス電圧の印加を吐出電圧印加手段25におけるパルス電圧の印加のタイミングよりも先行させることで、凸状メニスカス形成手段40の駆動によるノズル21の先端部に形成される凸状メニスカス形成の遅れの影響を解消することができる。
また、予めメニスカス形成状態にある溶液に対して帯電用の吐出電圧を印加することとなるので、同期を図りやすく、その結果、ピエゾ素子に対する駆動電圧のパルス幅よりも吐出電極に対するパルス電圧のパルス幅を短く設定することが可能となる。このため、エレクトロウェッティング効果の抑制、溶液中の帯電粒状物のノズル先端部側への集中の抑制、チャージアップの抑制により貢献することとなる。
【0049】
また、動作制御手段50は、吐出電極28に対する吐出電圧の印加直後に逆極性の電圧印加を行うことから、吐出電圧の印加によるエレクトロウェッティング効果、溶液中の帯電粒状物のノズル先端部側への集中、チャージアップへの影響を相殺し、次回の吐出を良好な状態に維持することを可能とする。
なお、本実施形態では、吐出電圧の印加直後に逆極性の電圧印加を行っているが、吐出電圧の印加直前に逆極性の電圧印加を行っても良い。この場合、前回の吐出による吐出電圧の印加によるエレクトロウェッティング効果、溶液中の帯電粒状物のノズル先端部側への集中、チャージアップへの影響を低減除去し、当該吐出を良好な状態に維持することを可能とする。
【0050】
複数ノズルを備える液体吐出ヘッド26に固有な凸状メニスカス形成手段40の効果について図6に基づいて説明する。図6は、いずれのノズル21において吐出を行うかによって吐出ヘッド26の吐出側前面に生じる電界強度分布への影響を示す説明図である。P1は図示されている三つノズル21の内の真ん中のものを除いて吐出を行う場合の電界強度分布を示し、P2は全てのノズル21において吐出を行う場合の電界強度分布を示す。なお、P1,P2に表される電界強度は図の上方に向かうにつれて高くなるものとする。
【0051】
まず、真ん中のノズル21のみ吐出を行わない場合には、電界強度の分布は吐出を行わない中央の位置について電界強度が低くなる。かかる分布が生じると、両側の各ノズル21では、当該ノズル21の左右両側で電界強度の差を生じることとなり、吐出された液滴は、直進しないでそれぞれ左右両側に広がる方向に吐出が行われることとなる。また、吐出を行わない予定の中央のノズル21からは溶液が引き出される力を受けてノズル21先端において溶液漏れを生じる場合がある。
【0052】
次に、全てのノズル21で吐出を行う場合には、電界強度は一様になるが近隣に吐出を行わないノズル21が存在する場合に比して、電界強度が一様に高くなり過ぎる状態となる。このため、各ノズル21から吐出される液滴の径が大きくなり着弾径にバラツキを生じる場合がある。
このように、複数ノズル21を搭載する吐出ヘッド26において、吐出を行うものと行わないものとによる電界強度の不均衡状態をクロストークといい、その影響は吐出電圧が高くなればなるほど且つ各ノズル21が密集すればするほど顕著に発生していた。そして、このクロストークが静電吸引力を利用する吐出ヘッド全般に多ノズルの高集積化の妨げとなっていた。
【0053】
液体吐出装置20では、凸状メニスカス形成手段40を備え、凸状メニスカスの形成は静電吸引力ではなくピエゾ等のアクチュエータで行う構成としているため、その分の吐出電圧の低減を図ることが可能となり、その結果クロストークの影響を低減し、複数ノズル21を近接状態で備える吐出ヘッドの高集積化を図ることが可能となった。
特に、上記吐出ヘッド26にあっては各ノズル21について単一の吐出電極28が共用されるので、各ノズル21ごとの電界強度分布に生じる差異を効果的に解消し、クロストークの影響をより低減し、複数ノズル21のさらなる高集積化を図ることが可能となった。
【0054】
(その他)
上記凸状メニスカス形成手段は、ピエゾ素子を用いるものに限定されるわけではなく、溶液を保持すると共にその液圧変化によりノズル21の先端部に凸状メニスカスを形成する他の手段であっても良いことはいうまでもない。
例えば、図7に示すように、ノズルから吐出可能な密閉容器内に溶液を保持し、当該溶液に吐出空圧を付与する圧力発生器40Aを凸状メニスカス形成手段として設ける構成としても良い。なお、この図7に示す吐出ヘッドにおいて、ノズル形状、各部の寸法、材質等については前述した吐出ヘッド26と同様である。
【0055】
なお、以上の説明において記載したパルス電圧の波形としては、矩形波を例示したが、適宜他の形態の波形のパルス電圧も使用可能である。例えば、三角波や台形波、円形波、正弦波等の形態や、パルス波形の立ち上がりの波形と立ち下がりの波形とが非対称であるものや異なる形態のものであっても良い。また、以下の記載にあっても同様である。
【0056】
(微小ノズルによる微小液滴吐出の理論説明)
以下に、本発明による液体吐出の理論説明及びこれに基づく基本例の説明を行う。なお、以下に説明する理論及び基本例におけるノズルの構造、各部の素材及び吐出液体の特性、ノズル周囲に付加する構成、吐出動作に関する制御条件等全ての内容は、可能な限り上述した各実施形態中に適用しても良いことはいうまでもない。
【0057】
(印加電圧低下および微少液滴量の安定吐出実現の方策)
従前は以下の条件式により定まる範囲を超えて液滴の吐出は不可能と考えられていた。
【数2】
λCは静電吸引力によりノズル先端部からの液滴の吐出を可能とするための溶液液面における成長波長(m)であり、λC=2πγh2/ε0V2で求められる。
【数3】
【数4】
本発明では、静電吸引型インクジェット方式において果たすノズルの役割を再考察し、従来吐出不可能として試みられていなかった領域において、マクスウェル力などを利用することで、微小液滴を形成することができる。
このような駆動電圧低下および微少量吐出実現の方策のための吐出条件等を近似的に表す式を導出したので以下に述べる。
以下の説明は、上記各本発明の実施形態で説明した液体吐出装置に適用可能である。
いま、内径dのノズルに導電性溶液を注入し、基材としての無限平板導体からhの高さに垂直に位置させたと仮定する。この様子を図8に示す。このとき、ノズル先端部に誘起される電荷は、ノズル先端の半球部に集中すると仮定し、以下の式で近似的に表される。
【数5】
ここで、Q:ノズル先端部に誘起される電荷(C)、ε0:真空の誘電率(F/m)、ε:基材の誘電率(F/m)、h:ノズル−基材間距離(m)、d:ノズル内部の直径(m)、V:ノズルに印加する総電圧(V)である。α:ノズル形状などに依存する比例定数で、1〜1.5程度の値を取り、特にd<<hのときほぼ1程度となる。
【0058】
また、基材としての基板が導体基板の場合、電荷Qによる電位を打ち消すための逆電荷が表面付近に誘起され、それらの電荷分布により、基板内の対称位置に反対の符号を持つ鏡像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。また、基板が絶縁体の場合は、基板表面で分極により逆電荷が表面側に誘起され、誘電率によって定まる対称位置に同様に反対符号の映像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。
ところで、ノズル先端部に於ける凸状メニスカスの先端部の電界強度Eloc.[V/m]は、凸状メニスカス先端部の曲率半径をR[m]と仮定すると、
【数6】
で与えられる。ここでk:比例定数で、ノズル形状などにより異なるが、1.5〜8.5程度の値をとり、多くの場合5程度と考えられる。(P. J. Birdseye and D.A. Smith, Surface Science, 23 (1970) 198-210)。
今簡単のため、d/2=Rとする。これは、ノズル先端部に表面張力で導電性溶液がノズルの半径と同じ半径を持つ半球形状に盛り上がっている状態に相当する。
ノズル先端の液体に働く圧力のバランスを考える。まず、静電的な圧力は、ノズル先端部の液面積をS[m2]とすると、
【数7】
(5)、(6)、(7)式よりα=1とおいて、
【数8】
と表される。
【0059】
一方、ノズル先端部に於ける液体の表面張力をPsとすると、
【数9】
ここで、γ:表面張力(N/m)、である。
静電的な力により流体の吐出が起こる条件は、静電的な力が表面張力を上回る条件なので、
【数10】
となる。十分に小さいノズル直径dをもちいることで、静電的な圧力が、表面張力を上回らせる事が可能である。この関係式より、Vとdの関係を求めると、
【数11】
が吐出の最低電圧を与える。すなわち、式(4)および式(11)より、
【数12】
が、本発明の動作電圧となる。
【0060】
ある内径dのノズルに対し、吐出限界電圧Vcの依存性を前述した図9に示す。この図より、微細ノズルによる電界の集中効果を考慮すると、吐出開始電圧は、ノズル径の減少に伴い低下する事が明らかになった。
従来の電界に対する考え方、すなわちノズルに印加する電圧と対向電極間の距離によって定義される電界のみを考慮した場合では、微細ノズルになるに従い、吐出に必要な電圧は増加する。一方、局所電界強度に注目すれば、微細ノズル化により吐出電圧の低下が可能となる。
【0061】
静電吸引による吐出は、ノズル端部における液体(溶液)の帯電が基本である。帯電の速度は誘電緩和によって決まる時定数程度と考えられる。
【数13】
ここで、ε:溶液の誘電率(F/m)、σ:溶液の導電率(S/m)である。溶液の比誘電率を10、導電率を10-6S/m を仮定すると、τ=1.854×10-5secとなる。あるいは、臨界周波数をfc[Hz]とすると、
【数14】
となる。このfcよりも早い周波数の電界の変化に対しては、応答できず吐出は不可能になると考えられる。上記の例について見積もると、周波数としては10 kHz程度となる。このとき、ノズル半径2μm、電圧500V弱の場合、ノズル内流量Gは10-13m3/sと見積もることができるが、上記の例の液体の場合、10kHzでの吐出が可能なので、1周期での最小吐出量は10fl(フェムトリットル、1fl:10-15 l)程度を達成できる。
【0062】
なお、各上記本実施の形態においては、図8に示したようにノズル先端部に於ける電界の集中効果と、対向基板に誘起される鏡像力の作用を特徴とする。このため、先行技術のように基板または基板支持体を導電性にすることや、これら基板または基板支持体への電圧の印加は必ずしも必要はない。すなわち、基板として絶縁性のガラス基板、ポリイミドなどのプラスチック基板、セラミックス基板、半導体基板などを用いることが可能である。
また、上記各実施形態において電極への印加電圧はプラス、マイナスのどちらでも良い。
さらに、ノズルと基材との距離は、500[μm]以下に保つことにより、溶液の吐出を容易にすることができる。また、図示しないが、ノズル位置検出によるフィードバック制御を行い、ノズルを基材に対し一定に保つようにしても良い。
また、基材を、導電性または絶縁性の基材ホルダーに裁置して保持するようにしても良い。
【0063】
(実測値に基づく好適なノズル径の考察)
図10に、各条件下での最大電界強度を示す図表を示す。この図表から、ノズルと対向電極の距離が電界強度に影響していることが分かった。即ち、ノズル径がφ20[μm]とφ8[μm]の間のφ15[μm]から電界強度の増加がみられ、φ10[μm]以下、更には、φ8[μm]以下であると電界強度はより集中すると共に、対向電極の距離の変動が電界強度分布にほとんど影響することがなくなる。従って、ノズル径がφ15[μm]、より好ましくはノズル径がφ10[μm]、更により好ましくはφ8[μm]以下であれば、対向電極の位置精度及び基材の材料特性のバラ付きや厚さのバラツキの影響を受けずに安定した吐出が可能となる。
【0064】
次に、上記ノズルのノズル径とノズルの先端位置に液面があるとした時の最大電界強度と強電界領域の関係を図11に示す。
図11に示すグラフから、ノズル径がφ4[μm]以下になると、電界集中が極端に大きくなり最大電界強度を高くすることができるのが分かった。これによって、溶液の初期吐出速度を大きくすることができるので、液滴の飛翔安定性が増すと共に、ノズルの先端部での電荷の移動速度が増すために吐出応答性が向上する。
【0065】
続いて、吐出した液滴における帯電可能な最大電荷量について、以下に説明する。液滴に帯電可能な電荷量は、液滴のレイリー分裂(レイリー限界)を考慮した以下の式で示される。
【数15】
ここで、qはレイリー限界を与える電荷量(C)、ε0は真空の誘電率(F/m)、γは溶液の表面張力(N/m)、d0は液滴の直径(m)である。
上記(14)式で求められる電荷量qがレイリー限界値に近いほど、同じ電界強度でも静電力が強く、吐出の安定性が向上するが、レイリー限界値に近すぎると、逆にノズルの液体吐出孔で溶液の霧散が発生してしまい、吐出安定性に欠けてしまう。
【0066】
ここで、ノズルのノズル径とノズルの先端部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示す前述した図9のグラフを参照する。
図9に示すグラフから、ノズル径がφ0.2[μm]からφ4[μm]の範囲において、吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比が0.6を超え、低い吐出電圧でも比較的大きな帯電量を液滴に与えることができ、液滴の帯電効率が良い結果となっており、該範囲において安定した吐出が行えることが分かった。
例えば、図12A及び図12Bに示すノズル径とノズルの先端部の強電界(1×106[V/m]以上)の領域をノズルの中心位置からの距離で示したものの値との関係で表されるグラフでは、ノズル径がφ0.2[μm]以下になると電界集中の領域が極端に狭くなることが示されている。このことから、吐出する液滴は、加速するためのエネルギーを十分に受けることができず飛翔安定性が低下することを示す。よって、ノズル径はφ0.2[μm]より大きく設定することが好ましい。
【0067】
(凸状メニスカス形成手段による吐出電圧低減効果試験)
図13は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、メニスカス制御のための空気圧をかける時間を一定にした時に、その空気圧の大きさを横軸とし、ある空気圧の時の最低吐出電圧を縦軸にとった線図である。
曲線C1はトリエチレングリコールにDC電圧(連続的なバイアス電圧)を印加した場合を示し、曲線C2はAC電圧(パルス電圧)とをかけた場合を示している。また、曲線C3はブチルカルビトールにAC電圧(パルス電圧)とをかけた場合、C4はブチルカルビトール+PVP(ポリビニルフェノールを10wt%(パーセント)含有するブチルカルビトール溶液)にAC電圧(パルス電圧)とをかけた場合を示している。
これらの線図C1〜C4に示されているように、メニスカス形成のための空圧が大きくなるにつれて、吐出電圧が低減される傾向を示し、メニスカス形成による吐出電圧低減の効果が観測された。
【0068】
(凸状メニスカス形成手段による吐出電圧低減効果試験)
図14Aは前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、メニスカス制御のための空気圧を発生させる駆動電圧を印加してから吐出電極に吐出電圧を印加するまでのインターバル期間(駆動遅延時間)とその際に要する吐出電極の印加電圧値との関係を示す線図であり、図14Bは空気圧を発生させる駆動電圧を印加してからの経過時間が長くなるにつれてノズル先端部に生じるメニスカスの発生状態の変化を示す説明図である。図14Bは、左から右に移行するにつれて駆動電圧を印加してからの経過時間が長くなる状態を示す。
【0069】
図14Aに示すように、駆動遅延時間が0から100[msec]まで増加するにつれて最低吐出電圧は低下を生じ、駆動遅延時間がそれ以上となると、再び最低吐出電圧が増加するという傾向が観察された。
一方、図14Bにおいて駆動電圧の印加からの経過時間が長くなると、メニスカスの吐出量がだんだん大きくなり、ついにはノズル先端からあふれ出る状態に至ることが観測され、駆動電圧の印加から100[msec]の経過後におけるメニスカス形成状態が図14Bにおける左から三番目に示すように、曲率半径が最も小さくなることが観測された。
即ち、メニスカスの曲率半径が最も小さくなるタイミングと駆動遅延時間とを一致させることで、駆動遅延時間の適正化が図られて、最低吐出電圧を効果的に低減させることが可能となることが観測された。
【0070】
(凸状メニスカス形成手段によるレイリー限界起因霧散化抑制効果試験)
図9に示すグラフにより、霧散化せずに吐出できる電圧値(レイリー限界電圧)は、ノズル径の微細化による液滴の微小化が進むほど吐出開始電圧に近づくことが分かる。そのため、微小液滴領域では霧散化しない安定な吐出が困難になってくる。
これに対して、吐出状態において式(14)により、電荷量qが小さいほど霧散化しにくいことが分かる。本発明で用いられている凸状メニスカス形成手段によると、ノズル先端部においてメニスカスが形成された状態に電圧をかけると、電界集中の効果から、電界のみで吐出する場合に比べて、式(7)より吐出条件としてq(式(7)ではQと表記)を低減することが可能となる。特に、吐出電極に対して適切なパルス幅でパルス電圧を印加することで、過剰に電荷を液滴に注入することなく、吐出に要する最小限の電荷量に近づけることができ、容易に電荷量の最適化を図ることが可能となる。
このため、レイリー限界に対する凸状メニスカス形成手段による霧散化の抑制、及び、吐出電極に対するパルス電圧印加に基づく電荷量の最適化による霧散化の抑制を図ることが可能となる。
【0071】
また、ノズル−基材間の間隔(Gap)を広げると吐出に必要な電荷量が大きくなり、霧散化が発生しやすい傾向を生じる。ここで、ノズル先端の電界E[V/m]は次式で表される(dはノズル先端の内部直径)。
E=f(Gap,V,d)
つまり、ノズル先端の電界Eは、ノズル−基材間の間隔と印加電圧値とノズル先端直径の関数で表される。そして、ノズル先端に誘起すべき電荷Q[C]の値は次式の条件を満たす必要がある(γ:溶液の表面張力[N/m])。
Q>2γπd/E
ノズル径を10[μm]、吐出電圧を1000[V]とした場合のノズル−基材間の間隔とノズル先端に誘起すべき電荷量の関係を表すグラフを図15に示す。この図15から分かるように、ノズル−基材間の間隔を広げると、最低吐出電荷量が高くなるので、液滴がレイリー限界を越えて霧散化を生じやすくなる。
そこで、ノズル−基材間の間隔の拡大に対する本発明の霧散化の抑制効果試験を行い、その結果について説明する。
【0072】
図16は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置において、(1)吐出電極にパルス電圧を印加した場合と(2)直流電圧を印加した場合、さらに、(3)凸状メニスカス形成手段を使用しない液体吐出装置の三種における比較試験の結果を示している。また、Gapについては、50[μm]、100[μm]、1000[μm]の三段階で変化させ、連続的に吐出した場合において溶液の霧散(飛散)を生じているかを観測した。
図16において、◎(二重丸)は連続吐出を行っても飛散が観測されなかった場合を示し、○(一重丸)は連続吐出を行った場合に若干の液滴の飛散が観測された場合を示し、×は連続吐出で霧散化状態が観測された場合を示す。
上記試験によれば、Gap50[μm]にあってはいずれも飛散を発生せずに吐出可能であるが、Gap100[μm]を越えると、凸状メニスカス形成手段を有しない液体吐出装置は霧散化により吐出不能となった。また、凸状メニスカス形成手段を備えるが吐出電極に直流電圧を印加する液体吐出装置にあっては、Gap100[μm]を越えると、吐出可能ではあるが液滴の飛散状態を伴う状態が観測された。
そして、凸状メニスカス形成手段を備え且つ吐出電極にパルス電圧を印加する液体吐出装置にあっては、Gapを1000[μm]まで広げても、溶液の飛散を生じることなく良好な吐出状態が観測された。
以上の結果から、凸状メニスカス形成手段が溶液の霧散化の抑制効果を有し、さらに吐出電極にパルス電圧を印加することで電荷量の最適化によるさらなる霧散化の抑制効果が得られ、Gapの拡大環境下においてもなお霧散化抑制を図り得ることが観測された。
【0073】
(吐出電圧をパルス電圧とした場合の効果試験[1])
図17は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、吐出電極にパルス電圧を印加した場合と一定期間の直流定電圧印加であるバイアス電圧を印加した場合の吐出に要する最低電圧値をそれぞれ示したグラフである。なお、吐出対象となる基材Kは絶縁体を使用した。図17において○はパルス電圧を印加した結果を示し、×はバイアス電圧を印加した結果を示す。
絶縁体に対して吐出を行う場合、絶縁体表面におけるチャージアップの影響を生じやすいが、上述の線図に示すように、パルス電圧はバイアス電圧よりも印加時間が短いことから、その吐出に要する電圧値の低減が図られることが観測された。
【0074】
(吐出電圧をパルス電圧とした場合の効果試験[2])
図18は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、吐出電極にパルス電圧を印加した場合と一定期間の直流定電圧印加であるバイアス電圧を印加した場合の比較試験であって、ノズルの小径化とノズル先端面に生じるエレクトロウェッティングの影響を観察した結果を示す図表である。
比較試験に用いたノズルの内部直径は30,10,1[μm]であり、溶液はトリエチレングリコールを使用した。また、パルス電圧とバイアス電圧の値はいずれも1000[V]とした。
【0075】
バイアス電圧を印加した場合には、ノズル径が10[μm]以下とした場合おいて、ノズル先端面にエレクトウェッティングによる溶液メニスカスの広がり(にじみ)が発生した。
一方、パルス電圧を印加した場合、その電圧印加時間の短縮により、ノズル径を1[μm]とした場合であっても、ノズル先端面にエレクトウェッティングによる溶液メニスカスの広がり(にじみ)は発生しないことが観測された。
【0076】
(吐出電圧をパルス電圧とした場合の効果試験[3])
図19は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、吐出電極にパルス電圧を印加した場合と一定期間の直流定電圧印加であるバイアス電圧を印加した場合の比較試験であって、ノズルの小径化とノズル先端面に生じる目詰まりの影響を観察した結果を示す図表である。
比較試験に用いたノズルの内部直径は30,10,1[μm]であり、溶液は金属ペーストを使用した。また、パルス電圧とバイアス電圧の値はいずれも1000[V]とした。
【0077】
バイアス電圧を印加した場合には、ノズル径が10[μm]以下とした場合おいて、ノズルに目詰まりが発生した。
一方、パルス電圧を印加した場合、その電圧印加時間の短縮により、ノズル径を1[μm]とした場合であっても、目詰まりは発生しないことが観測された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明に係る液体吐出装置は、グラフィック用途としての通常印刷、特殊媒体(フィルム、布、金属板等)への印刷、又は、液体状又はペースト状の導電性物質による配線、アンテナ等のパターニング塗布、加工用途としての粘着剤、封止剤等の塗布、バイオ、医療用途としては医薬品(微量の成分を複数混合するような場合)、遺伝子診断用試料等の塗布等において、各用途に応じた液体の吐出に適している。
【符号の説明】
【0079】
20 液体吐出装置
21 ノズル
25 吐出電圧印加手段
26 液体吐出ヘッド
40 凸状メニスカス形成手段
50 動作制御手段
K 基材
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に液体を吐出する液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出させる技術として、吐出ノズル内の溶液を帯電させ、吐出ノズルと液滴の着弾を受ける対象物となる各種の基材との間に形成される電界から受ける静電吸引力により吐出させるいわゆる静電吸引方式の液滴吐出技術が知られている。
かかる分野の液滴吐出技術の中でも、吐出ノズル径の微細化(20〜30[μm]以下)を図ると共に、ノズル先端部において表面張力により形成される溶液の半球状の盛り上がり状態の頂点部に生じる電界集中効果を利用して、従来にない微小な液滴を吐出させることが可能となってきている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開第03/070381号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来例には以下の問題あった。
即ち、吐出ノズルを微細径としても円滑に吐出が行われるのは、吐出ノズルの先端部に帯電した溶液による略半球状のメニスカスが形成され、これにより電界集中の効果を得ることが前提となる。しかし、その一方で、溶液の帯電が継続して行われた場合、エレクトロウェッティング効果を生じ、吐出ノズルの先端面の濡れ性が高くなり、吐出ノズルの内径に等しくメニスカスを形成すべきところを、溶液が吐出ノズルの先端面上に広がってしまい、吐出不良、液滴径の不安定等の吐出性能の低下を生じるという問題があった。
【0004】
さらに、吐出ノズルが超微細径化(15[μm]以下)の条件で吐出する場合、液滴の超微小化及び電界集中効果による吐出高効率化(低電圧吐出)が可能となるが、その一方で、液滴の微小化によりレイリー分裂の電圧限界値が下がり、吐出可能な電圧値に近づくことから液滴の霧散化を抑制するため電荷量の精密制御が要求される(図9参照)。
この問題に対し、電荷の注入ではない凸状メニスカス形成手段を有する方式による吐出は、吐出のための電荷量を低減でき、液滴の霧散化の抑制に効果があることから、ノズルの微小化にあっても、精密制御を回避することができる。
しかしながら、液滴の霧散化は、ノズルと基板間のギャップ拡大や高速吐出等を要因としても生じやすくなる傾向にあり、このようなギャップ拡大の要請に対して凸状メニスカス形成のみでは十分に対処を図りきれないという問題があった。
【0005】
また、吐出ノズルが微細径であることから、帯電する粒状物を含む溶液を吐出対象物とし、溶液の帯電が継続して行われた場合、吐出ノズル内の溶液の粒状物が吐出ノズル先端側に集中し過ぎて目詰まりを生じるという問題があった。
さらに、溶液の帯電が継続して行われた場合、液滴の着弾を受ける基材に帯電を生じることがあるが、その場合、吐出に要する電位差に満たなくなって吐出不良を生じたり、また、吐出される液滴が微小であることから、着弾位置精度の低下を生じるという問題があった。
【0006】
そこで、微小液滴吐出における課題、1)溶液の帯電が継続して行われた場合、エレクトロウェッティング効果を生じ、吐出ノズルの先端面の濡れ性が高くなり、吐出ノズルの内径に等しくメニスカスを形成すべきところを、溶液が吐出ノズルの先端面上に広がってしまい、吐出不良、液滴径の不安定等の吐出性能の低下を生じるという課題、2)液滴の霧散化のさらなる抑制、3)吐出ノズル内の溶液の粒状物が吐出ノズル内に集中しすぎて目詰まりを生じるという課題を解決し、微小液滴を安定して円滑に吐出することを第一の目的とする。
また、微小液滴の着弾径の安定化を図ることを第二の目的とする。さらに、着弾位置精度の向上を図ることを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
液体吐出装置は、帯電した溶液の液滴を基材に吐出する内部直径が15[μm]以下のノズルを有する液体吐出ヘッドと、ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段と、ノズル内の溶液が当該ノズルから凸状に盛り上がった状態を形成する凸状メニスカス形成手段と、凸状メニスカス形成手段を駆動する駆動電圧の印加及び吐出電圧印加手段による吐出電圧の印加を制御すると共に、吐出電圧印加手段による吐出電圧としてのパルス電圧の印加と重なるタイミングで、前記凸状メニスカス形成手段の駆動電圧を印加させる動作制御手段と、を備えることで、課題の解決を図っている。
【0008】
以下、ノズル径という場合には、液滴を吐出するノズルの内部直径(ノズルの吐出を行う部分の内部直径)を示すものとする。なお、ノズル内の液体吐出穴の断面形状は円形に限定されるものではない。例えば、液体吐出穴の断面形状が多角形、星形その他の形状である場合にはその断面形状の外接円が15[μm]以下となることを示すものとする。
また、ノズル半径という場合には、このノズル径(ノズルの内部直径)の1/2の長さを示すものとする。
【0009】
本発明において、「基材」とは吐出された溶液の液滴の着弾を受ける対象物を示し、材質的には特に限定されない。従って、例えば、上記構成をインクジェットプリンタに適用した場合には、用紙やシート等の記録媒体が基材に相当し、導電性ペーストを用いて回路の形成を行う場合には、回路が形成されるべきベースが基材に相当することとなる。
【0010】
上記構成にあっては、ノズルに基材の液滴受け面が対向するように、相対的に配置される。
そして、液体吐出ヘッド内には溶液が供給される。かかる状態において、動作制御手段は、圧電素子、静電アクチュエータ、発熱抵抗体等による凸状メニスカス形成手段に対する駆動電圧の印加と吐出電極の吐出電圧の印加とが重複を生じるように、双方の電圧印加を行う。
その際、凸状メニスカス形成手段によりノズルにおいて溶液が盛り上がった状態(凸状メニスカス)が形成される。かかる凸状メニスカスの形成のためには、例えば、ノズル内圧力をノズルから液滴がこぼれ落ちない範囲で高める等の方法が採られる。
また、吐出電圧は、継続的に上昇状態を維持するのではなく、瞬間的に立ち上がるパルス電圧により印加を行う。
なお、凸状メニスカス形成手段に対する駆動電圧と、吐出電極の吐出電圧とは、それぞれ単独の印加では液滴が吐出されない範囲であって、双方の印加が行われてはじめて液滴が吐出される電位に設定されている。これにより、凸状メニスカスを形成する駆動電圧により凸状メニスカスがノズルに形成されると、凸状メニスカスの突出先端部から溶液の液滴が基材の受け面に対して垂直方向に飛翔し、基材の受け面上には溶液のドットが形成される。
【0011】
なお、本発明では、溶液に対する電圧の印加を行う吐出電圧印加手段とは別に、凸状メニスカスを形成するための凸状メニスカス形成手段を備えることにより、吐出電圧印加手段単独でメニスカス形成及び液滴吐出に要する電圧印加を行う場合と比較して、低電圧化が図られる。
さらに、吐出電圧がパルス電圧であることから、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であり、エレクトロウェッティング効果により吐出ノズル周囲への溶液の広がりを生じる前に吐出が行われる。
また、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、溶液中の粒状物の吐出ノズル側への過剰な集中を防ぎ、目詰まりが低減する。
さらに、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、基材側での帯電(チャージアップ)が抑制されて、安定した吐出が行われると共に微小液滴でも所定の方向に飛翔する。
また、凸状メニスカス形成手段により、吐出電極への印加電圧低減に伴う溶液の電荷量の低減が図られ、レイリー限界による液滴の霧散化の抑制が図られる。さらに、吐出電極に対するパルス電圧印加において、パルス幅の調整により液滴の電荷量の最適化を図ることができる。そして、電荷量の最適化により、吐出可能電圧値とレイリー限界電圧値が近い場合であっても、さらなる、霧散化の抑制を図ることができ、ノズルと基板間のギャップ拡大化を図る場合や高速吐出を行う場合であっても、液滴の霧散化を抑制することが可能となる。
【0012】
また、前述した動作制御手段は、ノズル内の溶液に対する吐出電圧印加の直前又は直後に吐出電圧とは逆極性の電圧を印加させる制御を行っても良い。
つまり、吐出電圧印加の直前に吐出電圧と逆極性の電圧の印加が行われる場合には、前回の吐出時における吐出電圧印加によるノズルのエレクトロウェッティング効果、溶液中の粒状物の吐出ノズル側への過剰な集中、基材側でのチャージアップの影響を相殺し低減して当該吐出が行われる。
また、吐出電圧印加の直後に吐出電圧と逆極性の電圧の印加が行われる場合には、当該吐出時における吐出電圧印加によるノズルのエレクトロウェッティング効果、溶液中の粒状物の吐出ノズル側への過剰な集中、基材側でのチャージアップの影響を相殺し低減して次回の吐出が行われる。
【0013】
また、前述した動作制御手段は、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧の印加を先行させつつもこれと重なるタイミングで、吐出電圧印加手段の吐出電圧を印加させる制御を行っても良い。
上記構成では、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧の印加が先に行われ、印加継続中に吐出電極に対する吐出電圧の印加が行われる。
これにより、凸状メニスカス形成手段の応答性の遅れが生じても、これを解消することができる。
さらに、凸状メニスカスが形成された状態で吐出電極に吐出電圧の印加が行われるので、吐出電圧のパルス幅を短く設定しても、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧と容易に同期を図ることができる。
【0014】
また、前述したヘッドにノズルを複数設けると共に、各ノズルごとに凸状メニスカス形成手段を設けても良い。
ヘッドに複数のノズルを設けた場合、各ノズルを近接配置して高集積化を図ろうとすると、各ノズルにおける吐出電極の吐出電圧の印加により電界強度分布に不均一によるクロストークを生じ、吐出が不安定、ドット径が不均一、着弾精度の低下を生じやすいが、上記構成では、凸状メニスカス形成手段によって、吐出電圧の低下が図られるので、クロストークが抑制され、多ノズルの高集積化も可能となる。
【発明の効果】
【0015】
液体吐出装置は、溶液に対する吐出電圧の印加を行う吐出電圧印加手段とは別に、凸状メニスカスを形成するための凸状メニスカス形成手段を備えることにより、吐出電圧印加手段単独でメニスカス形成及び液滴吐出に要する電圧印加を行う場合と比較して、低電圧化を図ることが可能となる。従って、高電圧の印加回路や装置の耐高電圧化を不要とし、部品点数の軽減、構成の簡易化による生産性の向上を図ることが可能となる。
【0016】
さらに、吐出電圧印加手段に印加する吐出電圧をパルス電圧とすることにより、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的となり、エレクトロウェッティング効果による吐出ノズル周囲の溶液の広がりを生じる前に吐出を行うことが可能となり、吐出不良を抑制し液滴径の安定化を図ることが可能となる。
また、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、吐出電圧が継続的に印加される場合のように溶液中の粒状物が吐出ノズル側への過剰に集中する事態を回避し、粒状物による目詰まりを低減し、吐出の円滑化を図ることが可能となる。
さらに、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、吐出電圧が継続的に印加される場合に生じる基材側の帯電(チャージアップ)を抑制することができ、吐出に要する電位差を安定して維持することができ、吐出不良の低減による吐出安定性の向上を図ることが可能となる。また、基材側の帯電を抑制するので、微小液滴でも安定して所定の方向に飛翔させることができ、着弾位置精度の向上を図ることが可能となる。
さらに、レイリー限界に対する凸状メニスカス形成手段による霧散化の抑制が図られ、吐出電極に対するパルス電圧印加に基づく電荷量の最適化によりさらなる霧散化の抑制を図ることが可能となる。このため、ノズルと基板間のギャップ拡大化を図る場合や高速吐出を行う場合であっても、液滴の霧散化を抑制することが可能となる。
【0017】
また、動作制御手段が、吐出電圧印加手段を制御して吐出電圧の印加直後に逆極性の電圧印加を行わせる場合には、当該吐出電圧の印加によるエレクトロウェッティング効果、溶液中の帯電粒状物のノズル側への集中、チャージアップへの影響を相殺し、次回の吐出を良好な状態に維持することを可能とする。
また、吐出電圧の印加直前に逆極性の電圧印加を行う場合には、前回の吐出による吐出電圧の印加によるエレクトロウェッティング効果、溶液中の帯電粒状物のノズル側への集中、チャージアップへの影響を低減除去し、当該吐出を良好な状態に維持することを可能とする。
【0018】
また、動作制御手段が、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧の印加を吐出電圧印加手段の吐出電圧の印加よりも先行させる場合には、凸状メニスカス形成手段の駆動によるノズルに形成される凸状メニスカス形成の遅れの影響を解消することができる。
また、予めメニスカス形成状態にある溶液に対して帯電用の吐出電圧を印加することとなるので、同期を図りやすく、その結果、凸状メニスカス形成手段の駆動電圧よりも吐出電圧のパルス幅を短く設定することができ、エレクトロウェッティング効果の抑制、溶液中の帯電粒状物のノズル側への集中の抑制、チャージアップの抑制を、より効果的に実現することが可能となる。
【0019】
また、ヘッドにノズルを複数設け、各ノズルごとに凸状メニスカス形成手段を備える場合、吐出電圧の低減を図ることができ、これにより、各ノズル間で生じるクロストークの影響を抑制することが可能となる。従って、吐出ヘッドに、従来よりもより高密度にノズルを設けることができ、吐出ヘッドのノズルの高集積化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第一の実施形態たる液体吐出装置のノズルに沿った断面図である。
【図2A】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた断面図であり溶液室側に丸みを設けた例を示す。
【図2B】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた断面図であり流路内壁面をテーパ周面とした例を示す。
【図2C】ノズル内流路の他の形状の例を示す一部切り欠いた断面図でありテーパ周面と直線状の流路とを組み合わせた例を示す。
【図3A】溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、吐出を行わない状態を示す。
【図3B】溶液の吐出動作と溶液に印加される電圧との関係を示す説明図であって、吐出状態を示す。
【図4】吐出電圧とピエゾ素子の駆動電圧のタイミングチャートである。
【図5】吐出電極に吐出電圧(直流電圧)を連続的に印加する比較例のタイミングチャートである。
【図6】いずれのノズルにおいて吐出を行うかによって吐出ヘッドの吐出側前面に生じる電界強度分布への影響を示す説明図である。
【図7】溶液に吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段とした例を示す構成図である。
【図8】本発明の実施の形態として、ノズルの電界強度の計算を説明するために示したものである。
【図9】ノズルのノズル径とメニスカス部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示す線図である。
【図10】ノズル径と対向電極までの距離と最大電界強度との関係を示す図表である。
【図11】ノズルのノズル径のメニスカス部の最大電界強度と強電界領域の関係を示す線図である。
【図12A】ノズル径とノズル先端部の強電界の領域の関係を表すグラフである。
【図12B】図12Aにおけるノズル径が微小な範囲での拡大図を示す。
【図13】ノズルに吐出空圧を付与する凸状メニスカス形成手段を用いた場合の空気圧の大きさとその時の最低吐出電圧との関係を示す線図である。
【図14A】駆動遅延時間とその際に要する吐出電極の印加電圧値との関係を示す線図である。
【図14B】空気圧を発生させる駆動電圧を印加してからの経過時間が長くなるにつれてノズル先端部に生じるメニスカスの発生状態の変化を示す説明図である。
【図15】ノズル−基材間の間隔と最低吐出電荷量との関係を示す線図である。
【図16】本発明と比較例とにおけるノズル−基材間の間隔による液滴の霧散化への影響を示す比較試験結果を示す図表である。
【図17】吐出電極にパルス電圧を印加した場合とバイアス電圧を印加した場合の吐出に要する最低電圧値をそれぞれ示したグラフである。
【図18】吐出電極にパルス電圧を印加した場合とバイアス電圧を印加した場合の比較試験であって、ノズルの小径化とノズル先端面に生じるエレクトロウェッティングの影響を観察した結果を示す図表である。
【図19】吐出電極にパルス電圧を印加した場合とバイアス電圧を印加した場合の比較試験であって、ノズルの小径化とノズル先端面に生じる目詰まりの影響を観察した結果を示す図表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(液体吐出装置の全体構成)
以下、本発明の実施形態である液体吐出装置20について図1乃至図6に基づいて説明する。図1は後述するノズル21に沿った液体吐出装置20の断面図である。
この液体吐出装置20は、帯電可能な溶液の液滴をその先端部から吐出する超微細径のノズル21と、ノズル21の先端部に対向する対向面を有すると共にその対向面で液滴の着弾を受ける基材Kを支持する対向電極23と、ノズル21内の流路22に溶液を供給する溶液供給手段29と、ノズル21内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段25と、ノズル21内の溶液が当該ノズル21の先端部から凸状に盛り上がった状態を形成する凸状メニスカス形成手段40と、凸状メニスカス形成手段40の駆動電圧の印加及び吐出電圧印加手段25による吐出電圧の印加を制御する動作制御手段50とを備えている。
【0022】
なお、上記ノズル21は、吐出ヘッド26に複数のものが同一平面上に同一方向に向けられた状態で設けられている。そして、これに伴い、溶液供給手段29は、各ノズル21ごとに吐出ヘッド26に形成され、また、凸状メニスカス形成手段40も各ノズル21ごとに吐出ヘッド26に設けられている。その一方で、吐出電圧印加手段25と対向電極23とは一つのみであり、各ノズル21に対して共用で用いられる。
なお、図1では、説明の便宜上、ノズル21の先端部が上方を向き、ノズル21の上方に対向電極23が配設されている状態で図示されているが、実際上は、ノズル21が水平方向か或いはそれよりも下方、より望ましくは垂直下方に向けた状態で使用される。
また、吐出ヘッド26と基材Kとを相対的に移動位置決めする図示しない位置決め手段により吐出ヘッド26と基材Kとがそれぞれ搬送され、これにより吐出ヘッド26の各ノズル21から吐出される液滴は基材Kの表面に任意の位置に着弾させることが可能となっている。
【0023】
(ノズル)
上記各ノズル21は、後述するノズルプレート26cと共に一体的に形成されており、当該ノズルプレート26cの平板面上から垂直に立設されている。また、液滴の吐出時においては、各ノズル21は、基材Kの受け面(液滴が着弾する面)に対して垂直に向けて使用される。さらに、各ノズル21にはその先端部からノズルの中心に沿って貫通するノズル内流路22が形成されている。
【0024】
各ノズル21についてさらに詳説する。各ノズル21は、その先端部における開口径とノズル内流路22とが均一であって、前述の通り、これらが超微細径で形成されている。具体的な各部の寸法の一例を挙げると、ノズル内流路22の内部直径は、15[μm]以下、さらに10[μm]以下、さらに8[μm]以下、さらに4[μm]以下が好ましく、本実施形態ではノズル内流路22の内部直径が1[μm]に設定されている。そして、ノズル21の先端部における外部直径は2[μm]、ノズル21の根元の直径は5[μm]、ノズル21の高さは100[μm]に設定されており、その形状は限りなく円錐形に近い円錐台形に形成されている。また、ノズルの内部直径は0.2[μm]より大きい方が好ましい。なお、ノズル21の高さは、0[μm]でも構わない。つまり、ノズル21がその周囲の平面と同じ高さで形成され、平坦面に吐出口が単に形成されて吐出口から溶液室24間で通じるノズル内流路22が形成されているだけでも良い。但し、高さを0[μm]とするときには、ノズル21の吐出側開口部が設けられた吐出ヘッド26の端面側を絶縁性材料で形成するか端面に絶縁性被膜を設けることが望ましい。
【0025】
なお、ノズル内流路22の形状は、図1に示すような、内径一定の直線状に形成しなくとも良い。例えば、図2Aに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部における断面形状が丸みを帯びて形成されていても良い。また、図2Bに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部における内径が吐出側端部における内径と比して大きく設定され、ノズル内流路22の内面がテーパ周面形状に形成されていても良い。さらに、図2Cに示すように、ノズル内流路22の後述する溶液室24側の端部のみがテーパ周面形状に形成されると共に当該テーパ周面よりも吐出端部側は内径一定の直線状に形成されていても良い。
【0026】
(溶液供給手段)
各溶液供給手段29は、液体吐出ヘッド26の内部であって対応するノズル21の基端部側に設けられると共にノズル内流路22に連通する溶液室24と、図示しない外部の溶液タンクから溶液室24に溶液を導く供給路27と、溶液室24への溶液の供給圧力を付与する図示しない供給ポンプとを備えている。
上記供給ポンプは、ノズル21の先端部まで溶液を供給し、凸状メニスカス形成手段40の非作動時であって吐出電圧印加手段40の非作動時において、各ノズル21の先端部から外部に現れない範囲(凸状メニスカスを形成しない範囲)の供給圧力を維持して溶液の供給を行う。
なお、上記の供給ポンプとは、液体吐出ヘッド26と供給タンクの配置位置による差圧を利用する場合も含み、別途、溶液供給手段を設けなくとも溶液供給路のみで構成しても良い。ポンプシステムの設計にもよるが、基本的にはスタート時に液体吐出ヘッド26に溶液を供給するときに稼動し、液体吐出ヘッド26から液体を吐出し、それに応じた溶液の供給は、キャピラリ及び凸状メニスカス形成手段による液体吐出ヘッド26内の容積変化及び供給ポンプの各圧力の最適化を図って溶液の供給が実施される。
【0027】
(吐出電圧印加手段)
吐出電圧印加手段25は、液体吐出ヘッド26の内部であって溶液室24とノズル内流路22との境界位置に設けられた吐出電圧印加用の吐出電極28と、この吐出電極28への吐出電圧として瞬間的に立ち上がるパルス電圧を印加するパルス電圧電源30と、を備えている。詳細は後述するが、吐出ヘッド26は、各ノズル21を形成する層と、各溶液室24及び供給路27を形成する層とを備えており、これらの層の境界全面に渡って吐出電極28は設けられている。これにより、単一の吐出電極28が全ての溶液室24内の溶液に接液し、単一の吐出電極24に吐出電圧を印加することで全てのノズル21に導かれる溶液を帯電させることができる。
【0028】
パルス電圧電源30による吐出電圧は、凸状メニスカス形成手段40によりノズル21の先端部に溶液の凸状メニスカスが形成された状態で吐出が可能となる範囲の電圧を印加するようにその値が設定されている。
このパルス電圧電源30により印加を行う吐出電圧は、理論上は、次式(1)により求められる。
【数1】
ただし、γ:溶液の表面張力(N/m)、ε0:真空の誘電率(F/m)、d:ノズル直径(m)、h:ノズル−基材間距離(m)、k:ノズル形状に依存する比例定数(1.5<k<8.5)とする。
なお、上記条件は理論値であり、実際上は、凸状メニスカスの形成時と非形成時における試験を行い、適宜な電圧値を求めても良い。
本実施形態では、一例として吐出電圧を400[V]とする。
【0029】
(液体吐出ヘッド)
液体吐出ヘッド26は、図1において最も下層に位置し、可撓性を有する素材(例えば金属,シリコン、樹脂等)からなる可撓ベース層26aと、この可撓ベース層26aの上面全体に形成される絶縁素材からなる絶縁層26dと、その上に位置する溶液の供給路を形成する流路層26bと、この流路層26bのさらに上に形成されるノズルプレート26cとを備え、流路層26bとノズルプレート26cとの間には前述した吐出電極28が介挿されている。
【0030】
上記可撓ベース層26aは、上述の如く、可撓性を有する素材であれば良く、例えば金属薄板を使用しても良い。このように、可撓性が要求されるのは、可撓ベース層26aの外面であって溶液室24に対応する位置に、後述する凸状メニスカス形成手段40のピエゾ素子41を設け、可撓ベース層26aを撓ませるためである。即ち、ピエゾ素子41に所定電圧を印加して、可撓ベース層26aを上記位置において内側又は外側のいずれにも窪ませることで溶液室24の内部容積を縮小又は増加させ、内圧変化によりノズル21の先端部に溶液の凸状メニスカスを形成し又は液面を内側に引き込むことを可能とするためである。
【0031】
可撓ベース層26aの上面には絶縁性の高い樹脂を膜状に形成し、絶縁層26dが形成される。かかる、絶縁層26dは、可撓ベース層26aが窪むことを妨げないように十分に薄く形成されるか、より変形が容易な樹脂素材が使用される。
そして、絶縁層26dの上には、溶解可能な樹脂層を形成すると共に供給路27及び溶液室24を形成するための所定のパターンに従う部分のみを残して除去し、当該残存部を除いて除去された部分に絶縁樹脂層を形成する。この絶縁樹脂層が流路層26bとなる。そして、この絶縁樹脂層の上面に面状に広がりをもって導電素材(例えばNiP)のメッキにより吐出電極28を形成し、さらにその上から絶縁性のレジスト樹脂層或いはパリレン層を形成する。このレジスト樹脂層がノズルプレート26cとなるので、この樹脂層はノズル21の高さを考慮した厚みで形成される。そして、この絶縁性のレジスト樹脂層を電子ビーム法やフェムト秒レーザにより露光し、ノズル形状を形成する。ノズル内流路22もレーザ加工により形成される。そして、供給路27及び溶液室24のパターンに従う溶解可能な樹脂層を除去し、これら供給路27及び溶液室24が開通して液体吐出ヘッド26が完成する。
【0032】
なお、ノズルプレート26c及びノズル21の素材は、具体的には、エポキシ、PMMA、フェノール、ソーダガラス、石英ガラス等の絶縁材の他、Siのような半導体、Ni、SUS等のような導体であっても良い。但し、導体によりノズルプレート26c及びノズル21を形成した場合には、少なくともノズル21の先端部における先端部端面、より望ましくは先端部における周面については、絶縁材による被膜を設けることが望ましい。ノズル21を絶縁材から形成し又はその先端部表面に絶縁材被膜を形成することにより、溶液に対する吐出電圧印加時において、ノズル先端部から対向電極23への電流のリークを効果的に抑制することが可能となるからである。
また、絶縁処理をしたかにかかわらず、各ノズル21の先端面が使用する溶液に対して濡れ性が高い場合には、当該先端面に撥水処理を図ることが望ましい。ノズル21の先端部で形成される凸状メニスカスの曲率半径をいつもノズル径により近い値とすることができるからである。
【0033】
また、ノズル21を含めてノズルプレート26cが撥水性を有していても良いし(例えば、ノズルプレート26cがフッ素を含有した樹脂で形成されている。)、ノズル21の表層に撥水性を有する撥水膜が形成されていても良い(例えば、ノズルプレート26cの表面に金属膜が形成され、更にその金属膜上にその金属と撥水性樹脂との共析メッキによる撥水層が形成されている。)。ここで撥水性とは、液体に対してはじく性質である。また、液体に応じた撥水処理方法を選択することによって、ノズルプレート26cの撥水性をコントロールすることができる。撥水処理方法としては、カチオン系又はアニオン系の含フッ素樹脂の電着、フッ素系高分子、シリコーン系樹脂、ポリジメチルシロキサンの塗布、焼結法、フッ素系高分子の共析メッキ法、アモルファス合金薄膜の蒸着法、モノマーとしてのヘキサメチルジシロキサンをプラズマCVD法によりプラズマ重合させることにより形成されるポリジメチルシロキサン系を中心とする有機シリコン化合物やフッ素系含有シリコン化合物等の膜を付着させる方法がある。
【0034】
(対向電極)
対向電極23は、ノズル21の突出方向に垂直な対向面を備えており、かかる対向面に沿うように基材Kの支持を行う。ノズル21の先端部から対向電極23の対向面までの距離は、500[μm]以下が好ましく、さらには100[μm]以下が好ましく、一例としては100[μm]に設定される。
また、この対向電極23は接地されているため、常時,接地電位を維持している。従って、ノズル21の先端部と対向面との間に生じる電界による静電力により吐出された液滴を対向電極23側に誘導する。
なお、液体吐出装置20は、ノズル21の超微細化による当該ノズル21の先端部での電界集中により電界強度を高めることで液滴の吐出を行うことから、対向電極23による誘導がなくとも液滴の吐出を行うことは可能ではあるが、ノズル21と対向電極23との間での静電力による誘導が行われた方が望ましい。また、帯電した液滴の電荷を対向電極23の接地により逃がすことも可能である。
【0035】
(凸状メニスカス形成手段)
各凸状メニスカス形成手段40は、ノズルプレート26の可撓ベース層26aの外側面(図1における下面)であって溶液室24に対応する位置に設けられた圧電素子としてのピエゾ素子41と、このピエゾ素子41を変形させるために瞬間的に立ち上げられる駆動パルス電圧を印加する駆動電圧電源42とを備えている。
上記ピエゾ素子41は、駆動パルス電圧の印加を受けて可撓ベース層26aを内側又は外側のいずれにも窪ませる方向に変形を生じるように当該可撓ベース層26aに装着されている。
【0036】
駆動電圧電源42は、動作制御手段50の制御により、ノズル内流路22内の溶液がノズル21の先端部おいて凸状のメニスカスを形成していない状態(参照図3A)から凸状にメニスカスを形成する状態(参照図3B)となるために適当な溶液室24の容積の減少をピエゾ素子41がもたらすための適当な値の駆動パルス電圧(例えば10[V])を出力する。
【0037】
(溶液)
上記液体吐出装置20による吐出を行う溶液の例としては、無機液体としては、水、COCl2、HBr、HNO3、H3PO4、H2SO4、SOCl2、SO2Cl2、FSO3Hなどが挙げられる。有機液体としては、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、tert−ブタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどのアルコール類;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、などのフェノール類;ジオキサン、フルフラール、エチレングリコールジメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エピクロロヒドリンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、2−メチル−4−ペンタノン、アセトフェノンなどのケトン類;ギ酸、酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸などの脂肪酸類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−3−メトキシブチル、酢酸−n−ペンチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、セロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、アセト酢酸エチル、シアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチルなどのエステル類;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、o−トルイジン、p−トルイジン、ピペリジン、ピリジン、α−ピコリン、2,6−ルチジン、キノリン、プロピレンジアミン、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N,N',N'−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどの含窒素化合物類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄化合物類;ベンゼン、p−シメン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、シクロヘキセンなどの炭化水素類;1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン(cis−)、テトラクロロエチレン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、2−クロロ−2−メチルプロパン、ブロモメタン、トリブロモメタン、1−ブロモプロパンなどのハロゲン化炭化水素類、などが挙げられる。また、上記各液体を二種以上混合して溶液として用いても良い。
【0038】
さらに、高電気伝導率の物質(銀粉等)が多く含まれるような導電性ペーストを溶液として使用し、吐出を行う場合には、上述した液体に溶解又は分散させる目的物質としては、ノズルで目詰まりを発生するような粗大粒子を除けば、特に制限されない。PDP、CRT、FEDなどの蛍光体としては、従来より知られているものを特に制限なく用いることができる。例えば、赤色蛍光体として、(Y,Gd)BO3:Eu、YO3:Euなど、緑色蛍光体として、Zn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、(Ba,Sr,Mg)O・α−Al2O3:Mnなど、青色蛍光体として、BaMgAl14O23:Eu、BaMgAl10O17:Euなどが挙げられる。上記の目的物質を記録媒体上に強固に接着させるために、各種バインダーを添加するのが好ましい。用いられるバインダーとしては、例えば、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロースおよびその誘導体;アルキッド樹脂;ポリメタクリタクリル酸、ポリメチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート・メタクリル酸共重合体、ラウリルメタクリレート・2−ヒドロキシエチルメタクリレート共重合体などの(メタ)アクリル樹脂およびその金属塩;ポリN−イソプロピルアクリルアミド、ポリN,N−ジメチルアクリルアミドなどのポリ(メタ)アクリルアミド樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・イソプレン共重合体などのスチレン系樹脂;スチレン・n−ブチルメタクリレート共重合体などのスチレン・アクリル樹脂;飽和、不飽和の各種ポリエステル樹脂;ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ポリマー;ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体等のビニル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;エポキシ系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール等のポリアセタール樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂などのポリエチレン系樹脂;ベンゾグアナミン等のアミド樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂及びそのアニオンカチオン変性;ポリビニルピロリドンおよびその共重合体;ポリエチレンオキサイド、カルボキシル化ポリエチレンオキサイド等のアルキレンオキシド単独重合体、共重合体及び架橋体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール;ポリエーテルポリオール;SBR、NBRラテックス;デキストリン;アルギン酸ナトリウム;ゼラチン及びその誘導体、カゼイン、トロロアオイ、トラガントガム、プルラン、アラビアゴム、ローカストビーンガム、グアガム、ペクチン、カラギニン、にかわ、アルブミン、各種澱粉類、コーンスターチ、こんにゃく、ふのり、寒天、大豆蛋白等の天然或いは半合成樹脂;テルペン樹脂;ケトン樹脂;ロジン及びロジンエステル;ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンイミン、ポリスチレンスルフォン酸、ポリビニルスルフォン酸などを用いることができる。これらの樹脂は、ホモポリマーとしてだけでなく、相溶する範囲でブレンドして用いても良い。
【0039】
液体吐出装置20をパターンニング方法として使用する場合には、代表的なものとしてはディスプレイ用途に使用することができる。具体的には、プラズマディスプレイの蛍光体の形成、プラズマディスプレイのリブの形成、プラズマディスプレイの電極の形成、CRTの蛍光体の形成、FED(フィールドエミッション型ディスプレイ)の蛍光体の形成、FEDのリブの形成、液晶ディスプレイ用カラーフィルター(RGB着色層、ブラックマトリクス層)、液晶ディスプレイ用スペーサー(ブラックマトリクスに対応したパターン、ドットパターン等)などが挙げることができる。ここでいうリブとは一般的に障壁を意味し、プラズマディスプレイを例に取ると各色のプラズマ領域を分離するために用いられる。その他の用途としては、マイクロレンズ、半導体用途として磁性体、強誘電体、導電性ペースト(配線、アンテナ)などのパターンニング塗布、グラフィック用途としては、通常印刷、特殊媒体(フィルム、布、鋼板など)への印刷、曲面印刷、各種印刷版の刷版、加工用途としては粘着材、封止材などの本発明を用いた塗布、バイオ、医療用途としては医薬品(微量の成分を複数混合するような)、遺伝子診断用試料等の塗布等に応用することができる。
【0040】
(動作制御手段)
動作制御手段50は、実際的にはCPU51,ROM52,RAM53等を含む演算装置を有する構成であり、これらに所定のプログラムが入力されることにより、下記に示す機能的な構成を実現すると共に後述する動作制御を実行する。
上記動作制御手段50は、各凸状メニスカス形成手段40のパルス電圧電源42のパルス電圧出力制御と吐出電圧印加手段25のパルス電圧電源30のパルス電圧出力制御とを行う。
【0041】
まず、動作制御手段50のCPU51はROM52に格納された電源制御プログラムにより、溶液の吐出を行う場合に、対象となる凸状メニスカス形成手段40のパルス電圧電源42を先行させてパルス電圧出力状態とし、その後に吐出電圧印加手段25のパルス電圧電源30のパルス電圧出力状態とする制御を行う。このとき、先行する凸状メニスカス形成手段40の駆動電圧としてのパルス電圧は、吐出電圧印加手段25のパルス電圧と重複するように制御される(図4参照)。そして、当該重複したタイミングで液滴の吐出が行われる。
【0042】
また、動作制御手段50は、吐出電圧印加手段25の吐出電圧である矩形に立ち上がるパルス電圧の印加の直後に逆極性の電圧を出力する制御を行う。この逆極性の電圧は、パルス電圧の非印加時よりも低電位であって、矩形に落ち込む波形を描く。
【0043】
(液体吐出装置による微小液滴の吐出動作)
図1、図3A、図3B及び図4により液体吐出装置20の動作説明を行う。図3Aは凸状メニスカス形成手段40における動作説明図であって駆動電圧の非印加時を示し、図3Bは駆動電圧の印加時を示している。図4は吐出電圧とピエゾ素子41の駆動電圧のタイミングチャートを示す。なお、図4の最上部には凸状メニスカス形成手段40がない場合に要する吐出電圧電位を示し、最下部には各印加電圧の印加に伴うノズル21の先端部の溶液の状態変化を示している。
【0044】
溶液供給手段29の供給ポンプにより各ノズル内流路22,溶液室24及びノズル21には溶液が供給された状態にある。そして、動作制御手段50が、例えば、外部からいずれかのノズル21について溶液を吐出する指令を受けると、まず、該当するノズル21の凸状メニスカス形成手段40について、パルス電圧電源42からパルス電圧である駆動電圧をそのピエゾ素子41に対して印加させる。これにより、当該ノズル21の先端部において、図3Aの状態から溶液が押し出されるように図3Bの凸状メニスカス形成状態に移行する。
かかる移行過程において、動作制御手段50は、吐出電圧印加手段25について、パルス電圧電源30からパルス電圧である吐出電圧を吐出電極28に対して印加させる。
図4に示すように、凸状メニスカス形成手段40の駆動電圧と、これに遅れて印加される吐出電圧印加手段25の吐出電圧とが、双方の立ち上がり状態がタイミング的に重複するように制御される。このため、凸状メニスカス形成状態で溶液は帯電し、凸状メニスカスの先端部に生じる電界集中効果により微小液滴が飛翔する。
【0045】
(液体吐出装置の効果説明)
液体吐出装置20は、溶液に対する吐出電圧の印加を行う吐出電圧印加手段25とは別に凸状メニスカス形成手段40を備えていることから、吐出電圧印加手段25単独でメニスカス形成及び液滴吐出に要する電圧印加を行う場合と比較して、低電圧化を図ることが可能となる。従って、高電圧の印加回路や装置の耐高電圧化を不要とし、部品点数の軽減、構成の簡易化による生産性の向上を図ることが可能となる。
【0046】
さらに、吐出電極28に対する吐出電圧をパルス電圧とすることから、その電圧印加時間を短縮化することができる。図5は吐出電極に吐出電圧(直流電圧)を連続的に印加する比較例のタイミングチャートを示す。かかる図5の例では、吐出電極28に印加するパルス電圧の立ち上がり状態の電位と等しい電位の直流電圧を継続的に印加する。
上記比較例と比して、本実施形態では、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的となり、帯電した液体に生じるエレクトロウェッティング効果によるノズル21の先端面での溶液の広がりを生じる前に吐出を行うことが可能となり、吐出不良を抑制し液滴径の安定化を図ることが可能となる。
また、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、比較例の如く、吐出電圧が継続的に印加される場合のように溶液中の帯電した粒状物がノズル21の先端部側への過剰に集中する事態を回避し、粒状物による目詰まりを低減し、吐出の円滑化を図ることが可能となる。
【0047】
さらに、溶液に対する吐出電圧の印加時間が瞬間的であることから、比較例のように吐出電圧が継続的に印加される場合に生じる基材K側の帯電(チャージアップ)を抑制することができ、吐出に要する電位差を安定して維持することができ、吐出不良の低減による吐出安定性の向上を図ることが可能となる。また、基材側の帯電を抑制するので、微小液滴でも安定して所定の方向に飛翔させることができ、着弾位置精度の向上を図ることが可能となる。
【0048】
さらに、動作制御手段50は、凸状メニスカス形成手段40におけるパルス電圧の印加を吐出電圧印加手段25におけるパルス電圧の印加のタイミングよりも先行させることで、凸状メニスカス形成手段40の駆動によるノズル21の先端部に形成される凸状メニスカス形成の遅れの影響を解消することができる。
また、予めメニスカス形成状態にある溶液に対して帯電用の吐出電圧を印加することとなるので、同期を図りやすく、その結果、ピエゾ素子に対する駆動電圧のパルス幅よりも吐出電極に対するパルス電圧のパルス幅を短く設定することが可能となる。このため、エレクトロウェッティング効果の抑制、溶液中の帯電粒状物のノズル先端部側への集中の抑制、チャージアップの抑制により貢献することとなる。
【0049】
また、動作制御手段50は、吐出電極28に対する吐出電圧の印加直後に逆極性の電圧印加を行うことから、吐出電圧の印加によるエレクトロウェッティング効果、溶液中の帯電粒状物のノズル先端部側への集中、チャージアップへの影響を相殺し、次回の吐出を良好な状態に維持することを可能とする。
なお、本実施形態では、吐出電圧の印加直後に逆極性の電圧印加を行っているが、吐出電圧の印加直前に逆極性の電圧印加を行っても良い。この場合、前回の吐出による吐出電圧の印加によるエレクトロウェッティング効果、溶液中の帯電粒状物のノズル先端部側への集中、チャージアップへの影響を低減除去し、当該吐出を良好な状態に維持することを可能とする。
【0050】
複数ノズルを備える液体吐出ヘッド26に固有な凸状メニスカス形成手段40の効果について図6に基づいて説明する。図6は、いずれのノズル21において吐出を行うかによって吐出ヘッド26の吐出側前面に生じる電界強度分布への影響を示す説明図である。P1は図示されている三つノズル21の内の真ん中のものを除いて吐出を行う場合の電界強度分布を示し、P2は全てのノズル21において吐出を行う場合の電界強度分布を示す。なお、P1,P2に表される電界強度は図の上方に向かうにつれて高くなるものとする。
【0051】
まず、真ん中のノズル21のみ吐出を行わない場合には、電界強度の分布は吐出を行わない中央の位置について電界強度が低くなる。かかる分布が生じると、両側の各ノズル21では、当該ノズル21の左右両側で電界強度の差を生じることとなり、吐出された液滴は、直進しないでそれぞれ左右両側に広がる方向に吐出が行われることとなる。また、吐出を行わない予定の中央のノズル21からは溶液が引き出される力を受けてノズル21先端において溶液漏れを生じる場合がある。
【0052】
次に、全てのノズル21で吐出を行う場合には、電界強度は一様になるが近隣に吐出を行わないノズル21が存在する場合に比して、電界強度が一様に高くなり過ぎる状態となる。このため、各ノズル21から吐出される液滴の径が大きくなり着弾径にバラツキを生じる場合がある。
このように、複数ノズル21を搭載する吐出ヘッド26において、吐出を行うものと行わないものとによる電界強度の不均衡状態をクロストークといい、その影響は吐出電圧が高くなればなるほど且つ各ノズル21が密集すればするほど顕著に発生していた。そして、このクロストークが静電吸引力を利用する吐出ヘッド全般に多ノズルの高集積化の妨げとなっていた。
【0053】
液体吐出装置20では、凸状メニスカス形成手段40を備え、凸状メニスカスの形成は静電吸引力ではなくピエゾ等のアクチュエータで行う構成としているため、その分の吐出電圧の低減を図ることが可能となり、その結果クロストークの影響を低減し、複数ノズル21を近接状態で備える吐出ヘッドの高集積化を図ることが可能となった。
特に、上記吐出ヘッド26にあっては各ノズル21について単一の吐出電極28が共用されるので、各ノズル21ごとの電界強度分布に生じる差異を効果的に解消し、クロストークの影響をより低減し、複数ノズル21のさらなる高集積化を図ることが可能となった。
【0054】
(その他)
上記凸状メニスカス形成手段は、ピエゾ素子を用いるものに限定されるわけではなく、溶液を保持すると共にその液圧変化によりノズル21の先端部に凸状メニスカスを形成する他の手段であっても良いことはいうまでもない。
例えば、図7に示すように、ノズルから吐出可能な密閉容器内に溶液を保持し、当該溶液に吐出空圧を付与する圧力発生器40Aを凸状メニスカス形成手段として設ける構成としても良い。なお、この図7に示す吐出ヘッドにおいて、ノズル形状、各部の寸法、材質等については前述した吐出ヘッド26と同様である。
【0055】
なお、以上の説明において記載したパルス電圧の波形としては、矩形波を例示したが、適宜他の形態の波形のパルス電圧も使用可能である。例えば、三角波や台形波、円形波、正弦波等の形態や、パルス波形の立ち上がりの波形と立ち下がりの波形とが非対称であるものや異なる形態のものであっても良い。また、以下の記載にあっても同様である。
【0056】
(微小ノズルによる微小液滴吐出の理論説明)
以下に、本発明による液体吐出の理論説明及びこれに基づく基本例の説明を行う。なお、以下に説明する理論及び基本例におけるノズルの構造、各部の素材及び吐出液体の特性、ノズル周囲に付加する構成、吐出動作に関する制御条件等全ての内容は、可能な限り上述した各実施形態中に適用しても良いことはいうまでもない。
【0057】
(印加電圧低下および微少液滴量の安定吐出実現の方策)
従前は以下の条件式により定まる範囲を超えて液滴の吐出は不可能と考えられていた。
【数2】
λCは静電吸引力によりノズル先端部からの液滴の吐出を可能とするための溶液液面における成長波長(m)であり、λC=2πγh2/ε0V2で求められる。
【数3】
【数4】
本発明では、静電吸引型インクジェット方式において果たすノズルの役割を再考察し、従来吐出不可能として試みられていなかった領域において、マクスウェル力などを利用することで、微小液滴を形成することができる。
このような駆動電圧低下および微少量吐出実現の方策のための吐出条件等を近似的に表す式を導出したので以下に述べる。
以下の説明は、上記各本発明の実施形態で説明した液体吐出装置に適用可能である。
いま、内径dのノズルに導電性溶液を注入し、基材としての無限平板導体からhの高さに垂直に位置させたと仮定する。この様子を図8に示す。このとき、ノズル先端部に誘起される電荷は、ノズル先端の半球部に集中すると仮定し、以下の式で近似的に表される。
【数5】
ここで、Q:ノズル先端部に誘起される電荷(C)、ε0:真空の誘電率(F/m)、ε:基材の誘電率(F/m)、h:ノズル−基材間距離(m)、d:ノズル内部の直径(m)、V:ノズルに印加する総電圧(V)である。α:ノズル形状などに依存する比例定数で、1〜1.5程度の値を取り、特にd<<hのときほぼ1程度となる。
【0058】
また、基材としての基板が導体基板の場合、電荷Qによる電位を打ち消すための逆電荷が表面付近に誘起され、それらの電荷分布により、基板内の対称位置に反対の符号を持つ鏡像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。また、基板が絶縁体の場合は、基板表面で分極により逆電荷が表面側に誘起され、誘電率によって定まる対称位置に同様に反対符号の映像電荷Q’が誘導された状態と等価となると考えられる。
ところで、ノズル先端部に於ける凸状メニスカスの先端部の電界強度Eloc.[V/m]は、凸状メニスカス先端部の曲率半径をR[m]と仮定すると、
【数6】
で与えられる。ここでk:比例定数で、ノズル形状などにより異なるが、1.5〜8.5程度の値をとり、多くの場合5程度と考えられる。(P. J. Birdseye and D.A. Smith, Surface Science, 23 (1970) 198-210)。
今簡単のため、d/2=Rとする。これは、ノズル先端部に表面張力で導電性溶液がノズルの半径と同じ半径を持つ半球形状に盛り上がっている状態に相当する。
ノズル先端の液体に働く圧力のバランスを考える。まず、静電的な圧力は、ノズル先端部の液面積をS[m2]とすると、
【数7】
(5)、(6)、(7)式よりα=1とおいて、
【数8】
と表される。
【0059】
一方、ノズル先端部に於ける液体の表面張力をPsとすると、
【数9】
ここで、γ:表面張力(N/m)、である。
静電的な力により流体の吐出が起こる条件は、静電的な力が表面張力を上回る条件なので、
【数10】
となる。十分に小さいノズル直径dをもちいることで、静電的な圧力が、表面張力を上回らせる事が可能である。この関係式より、Vとdの関係を求めると、
【数11】
が吐出の最低電圧を与える。すなわち、式(4)および式(11)より、
【数12】
が、本発明の動作電圧となる。
【0060】
ある内径dのノズルに対し、吐出限界電圧Vcの依存性を前述した図9に示す。この図より、微細ノズルによる電界の集中効果を考慮すると、吐出開始電圧は、ノズル径の減少に伴い低下する事が明らかになった。
従来の電界に対する考え方、すなわちノズルに印加する電圧と対向電極間の距離によって定義される電界のみを考慮した場合では、微細ノズルになるに従い、吐出に必要な電圧は増加する。一方、局所電界強度に注目すれば、微細ノズル化により吐出電圧の低下が可能となる。
【0061】
静電吸引による吐出は、ノズル端部における液体(溶液)の帯電が基本である。帯電の速度は誘電緩和によって決まる時定数程度と考えられる。
【数13】
ここで、ε:溶液の誘電率(F/m)、σ:溶液の導電率(S/m)である。溶液の比誘電率を10、導電率を10-6S/m を仮定すると、τ=1.854×10-5secとなる。あるいは、臨界周波数をfc[Hz]とすると、
【数14】
となる。このfcよりも早い周波数の電界の変化に対しては、応答できず吐出は不可能になると考えられる。上記の例について見積もると、周波数としては10 kHz程度となる。このとき、ノズル半径2μm、電圧500V弱の場合、ノズル内流量Gは10-13m3/sと見積もることができるが、上記の例の液体の場合、10kHzでの吐出が可能なので、1周期での最小吐出量は10fl(フェムトリットル、1fl:10-15 l)程度を達成できる。
【0062】
なお、各上記本実施の形態においては、図8に示したようにノズル先端部に於ける電界の集中効果と、対向基板に誘起される鏡像力の作用を特徴とする。このため、先行技術のように基板または基板支持体を導電性にすることや、これら基板または基板支持体への電圧の印加は必ずしも必要はない。すなわち、基板として絶縁性のガラス基板、ポリイミドなどのプラスチック基板、セラミックス基板、半導体基板などを用いることが可能である。
また、上記各実施形態において電極への印加電圧はプラス、マイナスのどちらでも良い。
さらに、ノズルと基材との距離は、500[μm]以下に保つことにより、溶液の吐出を容易にすることができる。また、図示しないが、ノズル位置検出によるフィードバック制御を行い、ノズルを基材に対し一定に保つようにしても良い。
また、基材を、導電性または絶縁性の基材ホルダーに裁置して保持するようにしても良い。
【0063】
(実測値に基づく好適なノズル径の考察)
図10に、各条件下での最大電界強度を示す図表を示す。この図表から、ノズルと対向電極の距離が電界強度に影響していることが分かった。即ち、ノズル径がφ20[μm]とφ8[μm]の間のφ15[μm]から電界強度の増加がみられ、φ10[μm]以下、更には、φ8[μm]以下であると電界強度はより集中すると共に、対向電極の距離の変動が電界強度分布にほとんど影響することがなくなる。従って、ノズル径がφ15[μm]、より好ましくはノズル径がφ10[μm]、更により好ましくはφ8[μm]以下であれば、対向電極の位置精度及び基材の材料特性のバラ付きや厚さのバラツキの影響を受けずに安定した吐出が可能となる。
【0064】
次に、上記ノズルのノズル径とノズルの先端位置に液面があるとした時の最大電界強度と強電界領域の関係を図11に示す。
図11に示すグラフから、ノズル径がφ4[μm]以下になると、電界集中が極端に大きくなり最大電界強度を高くすることができるのが分かった。これによって、溶液の初期吐出速度を大きくすることができるので、液滴の飛翔安定性が増すと共に、ノズルの先端部での電荷の移動速度が増すために吐出応答性が向上する。
【0065】
続いて、吐出した液滴における帯電可能な最大電荷量について、以下に説明する。液滴に帯電可能な電荷量は、液滴のレイリー分裂(レイリー限界)を考慮した以下の式で示される。
【数15】
ここで、qはレイリー限界を与える電荷量(C)、ε0は真空の誘電率(F/m)、γは溶液の表面張力(N/m)、d0は液滴の直径(m)である。
上記(14)式で求められる電荷量qがレイリー限界値に近いほど、同じ電界強度でも静電力が強く、吐出の安定性が向上するが、レイリー限界値に近すぎると、逆にノズルの液体吐出孔で溶液の霧散が発生してしまい、吐出安定性に欠けてしまう。
【0066】
ここで、ノズルのノズル径とノズルの先端部で吐出する液滴が飛翔を開始する吐出開始電圧、該初期吐出液滴のレイリー限界での電圧値及び吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比との関係を示す前述した図9のグラフを参照する。
図9に示すグラフから、ノズル径がφ0.2[μm]からφ4[μm]の範囲において、吐出開始電圧とレイリー限界電圧値の比が0.6を超え、低い吐出電圧でも比較的大きな帯電量を液滴に与えることができ、液滴の帯電効率が良い結果となっており、該範囲において安定した吐出が行えることが分かった。
例えば、図12A及び図12Bに示すノズル径とノズルの先端部の強電界(1×106[V/m]以上)の領域をノズルの中心位置からの距離で示したものの値との関係で表されるグラフでは、ノズル径がφ0.2[μm]以下になると電界集中の領域が極端に狭くなることが示されている。このことから、吐出する液滴は、加速するためのエネルギーを十分に受けることができず飛翔安定性が低下することを示す。よって、ノズル径はφ0.2[μm]より大きく設定することが好ましい。
【0067】
(凸状メニスカス形成手段による吐出電圧低減効果試験)
図13は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、メニスカス制御のための空気圧をかける時間を一定にした時に、その空気圧の大きさを横軸とし、ある空気圧の時の最低吐出電圧を縦軸にとった線図である。
曲線C1はトリエチレングリコールにDC電圧(連続的なバイアス電圧)を印加した場合を示し、曲線C2はAC電圧(パルス電圧)とをかけた場合を示している。また、曲線C3はブチルカルビトールにAC電圧(パルス電圧)とをかけた場合、C4はブチルカルビトール+PVP(ポリビニルフェノールを10wt%(パーセント)含有するブチルカルビトール溶液)にAC電圧(パルス電圧)とをかけた場合を示している。
これらの線図C1〜C4に示されているように、メニスカス形成のための空圧が大きくなるにつれて、吐出電圧が低減される傾向を示し、メニスカス形成による吐出電圧低減の効果が観測された。
【0068】
(凸状メニスカス形成手段による吐出電圧低減効果試験)
図14Aは前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、メニスカス制御のための空気圧を発生させる駆動電圧を印加してから吐出電極に吐出電圧を印加するまでのインターバル期間(駆動遅延時間)とその際に要する吐出電極の印加電圧値との関係を示す線図であり、図14Bは空気圧を発生させる駆動電圧を印加してからの経過時間が長くなるにつれてノズル先端部に生じるメニスカスの発生状態の変化を示す説明図である。図14Bは、左から右に移行するにつれて駆動電圧を印加してからの経過時間が長くなる状態を示す。
【0069】
図14Aに示すように、駆動遅延時間が0から100[msec]まで増加するにつれて最低吐出電圧は低下を生じ、駆動遅延時間がそれ以上となると、再び最低吐出電圧が増加するという傾向が観察された。
一方、図14Bにおいて駆動電圧の印加からの経過時間が長くなると、メニスカスの吐出量がだんだん大きくなり、ついにはノズル先端からあふれ出る状態に至ることが観測され、駆動電圧の印加から100[msec]の経過後におけるメニスカス形成状態が図14Bにおける左から三番目に示すように、曲率半径が最も小さくなることが観測された。
即ち、メニスカスの曲率半径が最も小さくなるタイミングと駆動遅延時間とを一致させることで、駆動遅延時間の適正化が図られて、最低吐出電圧を効果的に低減させることが可能となることが観測された。
【0070】
(凸状メニスカス形成手段によるレイリー限界起因霧散化抑制効果試験)
図9に示すグラフにより、霧散化せずに吐出できる電圧値(レイリー限界電圧)は、ノズル径の微細化による液滴の微小化が進むほど吐出開始電圧に近づくことが分かる。そのため、微小液滴領域では霧散化しない安定な吐出が困難になってくる。
これに対して、吐出状態において式(14)により、電荷量qが小さいほど霧散化しにくいことが分かる。本発明で用いられている凸状メニスカス形成手段によると、ノズル先端部においてメニスカスが形成された状態に電圧をかけると、電界集中の効果から、電界のみで吐出する場合に比べて、式(7)より吐出条件としてq(式(7)ではQと表記)を低減することが可能となる。特に、吐出電極に対して適切なパルス幅でパルス電圧を印加することで、過剰に電荷を液滴に注入することなく、吐出に要する最小限の電荷量に近づけることができ、容易に電荷量の最適化を図ることが可能となる。
このため、レイリー限界に対する凸状メニスカス形成手段による霧散化の抑制、及び、吐出電極に対するパルス電圧印加に基づく電荷量の最適化による霧散化の抑制を図ることが可能となる。
【0071】
また、ノズル−基材間の間隔(Gap)を広げると吐出に必要な電荷量が大きくなり、霧散化が発生しやすい傾向を生じる。ここで、ノズル先端の電界E[V/m]は次式で表される(dはノズル先端の内部直径)。
E=f(Gap,V,d)
つまり、ノズル先端の電界Eは、ノズル−基材間の間隔と印加電圧値とノズル先端直径の関数で表される。そして、ノズル先端に誘起すべき電荷Q[C]の値は次式の条件を満たす必要がある(γ:溶液の表面張力[N/m])。
Q>2γπd/E
ノズル径を10[μm]、吐出電圧を1000[V]とした場合のノズル−基材間の間隔とノズル先端に誘起すべき電荷量の関係を表すグラフを図15に示す。この図15から分かるように、ノズル−基材間の間隔を広げると、最低吐出電荷量が高くなるので、液滴がレイリー限界を越えて霧散化を生じやすくなる。
そこで、ノズル−基材間の間隔の拡大に対する本発明の霧散化の抑制効果試験を行い、その結果について説明する。
【0072】
図16は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置において、(1)吐出電極にパルス電圧を印加した場合と(2)直流電圧を印加した場合、さらに、(3)凸状メニスカス形成手段を使用しない液体吐出装置の三種における比較試験の結果を示している。また、Gapについては、50[μm]、100[μm]、1000[μm]の三段階で変化させ、連続的に吐出した場合において溶液の霧散(飛散)を生じているかを観測した。
図16において、◎(二重丸)は連続吐出を行っても飛散が観測されなかった場合を示し、○(一重丸)は連続吐出を行った場合に若干の液滴の飛散が観測された場合を示し、×は連続吐出で霧散化状態が観測された場合を示す。
上記試験によれば、Gap50[μm]にあってはいずれも飛散を発生せずに吐出可能であるが、Gap100[μm]を越えると、凸状メニスカス形成手段を有しない液体吐出装置は霧散化により吐出不能となった。また、凸状メニスカス形成手段を備えるが吐出電極に直流電圧を印加する液体吐出装置にあっては、Gap100[μm]を越えると、吐出可能ではあるが液滴の飛散状態を伴う状態が観測された。
そして、凸状メニスカス形成手段を備え且つ吐出電極にパルス電圧を印加する液体吐出装置にあっては、Gapを1000[μm]まで広げても、溶液の飛散を生じることなく良好な吐出状態が観測された。
以上の結果から、凸状メニスカス形成手段が溶液の霧散化の抑制効果を有し、さらに吐出電極にパルス電圧を印加することで電荷量の最適化によるさらなる霧散化の抑制効果が得られ、Gapの拡大環境下においてもなお霧散化抑制を図り得ることが観測された。
【0073】
(吐出電圧をパルス電圧とした場合の効果試験[1])
図17は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、吐出電極にパルス電圧を印加した場合と一定期間の直流定電圧印加であるバイアス電圧を印加した場合の吐出に要する最低電圧値をそれぞれ示したグラフである。なお、吐出対象となる基材Kは絶縁体を使用した。図17において○はパルス電圧を印加した結果を示し、×はバイアス電圧を印加した結果を示す。
絶縁体に対して吐出を行う場合、絶縁体表面におけるチャージアップの影響を生じやすいが、上述の線図に示すように、パルス電圧はバイアス電圧よりも印加時間が短いことから、その吐出に要する電圧値の低減が図られることが観測された。
【0074】
(吐出電圧をパルス電圧とした場合の効果試験[2])
図18は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、吐出電極にパルス電圧を印加した場合と一定期間の直流定電圧印加であるバイアス電圧を印加した場合の比較試験であって、ノズルの小径化とノズル先端面に生じるエレクトロウェッティングの影響を観察した結果を示す図表である。
比較試験に用いたノズルの内部直径は30,10,1[μm]であり、溶液はトリエチレングリコールを使用した。また、パルス電圧とバイアス電圧の値はいずれも1000[V]とした。
【0075】
バイアス電圧を印加した場合には、ノズル径が10[μm]以下とした場合おいて、ノズル先端面にエレクトウェッティングによる溶液メニスカスの広がり(にじみ)が発生した。
一方、パルス電圧を印加した場合、その電圧印加時間の短縮により、ノズル径を1[μm]とした場合であっても、ノズル先端面にエレクトウェッティングによる溶液メニスカスの広がり(にじみ)は発生しないことが観測された。
【0076】
(吐出電圧をパルス電圧とした場合の効果試験[3])
図19は前述した図7に示すノズルに吐出空圧を付与する圧力発生器を凸状メニスカス形成手段として用いた場合の液体吐出装置について、吐出電極にパルス電圧を印加した場合と一定期間の直流定電圧印加であるバイアス電圧を印加した場合の比較試験であって、ノズルの小径化とノズル先端面に生じる目詰まりの影響を観察した結果を示す図表である。
比較試験に用いたノズルの内部直径は30,10,1[μm]であり、溶液は金属ペーストを使用した。また、パルス電圧とバイアス電圧の値はいずれも1000[V]とした。
【0077】
バイアス電圧を印加した場合には、ノズル径が10[μm]以下とした場合おいて、ノズルに目詰まりが発生した。
一方、パルス電圧を印加した場合、その電圧印加時間の短縮により、ノズル径を1[μm]とした場合であっても、目詰まりは発生しないことが観測された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明に係る液体吐出装置は、グラフィック用途としての通常印刷、特殊媒体(フィルム、布、金属板等)への印刷、又は、液体状又はペースト状の導電性物質による配線、アンテナ等のパターニング塗布、加工用途としての粘着剤、封止剤等の塗布、バイオ、医療用途としては医薬品(微量の成分を複数混合するような場合)、遺伝子診断用試料等の塗布等において、各用途に応じた液体の吐出に適している。
【符号の説明】
【0079】
20 液体吐出装置
21 ノズル
25 吐出電圧印加手段
26 液体吐出ヘッド
40 凸状メニスカス形成手段
50 動作制御手段
K 基材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する内部直径が15[μm]以下のノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段と、
前記ノズル内の溶液が当該ノズルから凸状に盛り上がった状態を形成する凸状メニスカス形成手段と、
前記凸状メニスカス形成手段を駆動する駆動電圧の印加及び吐出電圧印加手段による吐出電圧の印加を制御すると共に、前記吐出電圧印加手段による吐出電圧としてのパルス電圧の印加と重なるタイミングで、前記凸状メニスカス形成手段の駆動電圧を印加させる動作制御手段と、
を備える液体吐出装置。
【請求項2】
前記動作制御手段は、前記ノズル内の溶液に対する吐出電圧印加の直前又は直後に前記吐出電圧とは逆極性の電圧を印加させる請求の範囲第1項記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記動作制御手段は、前記凸状メニスカス形成手段の駆動電圧の印加を先行させつつもこれと重なるタイミングで、前記吐出電圧印加手段の吐出電圧を印加させる請求の範囲第1項又は第2項に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記ヘッドに前記ノズルを複数設けると共に、
前記各ノズルごとに前記凸状メニスカス形成手段を備える請求の範囲第1項から第3項のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項1】
帯電した溶液の液滴を基材に吐出する内部直径が15[μm]以下のノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段と、
前記ノズル内の溶液が当該ノズルから凸状に盛り上がった状態を形成する凸状メニスカス形成手段と、
前記凸状メニスカス形成手段を駆動する駆動電圧の印加及び吐出電圧印加手段による吐出電圧の印加を制御すると共に、前記吐出電圧印加手段による吐出電圧としてのパルス電圧の印加と重なるタイミングで、前記凸状メニスカス形成手段の駆動電圧を印加させる動作制御手段と、
を備える液体吐出装置。
【請求項2】
前記動作制御手段は、前記ノズル内の溶液に対する吐出電圧印加の直前又は直後に前記吐出電圧とは逆極性の電圧を印加させる請求の範囲第1項記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記動作制御手段は、前記凸状メニスカス形成手段の駆動電圧の印加を先行させつつもこれと重なるタイミングで、前記吐出電圧印加手段の吐出電圧を印加させる請求の範囲第1項又は第2項に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記ヘッドに前記ノズルを複数設けると共に、
前記各ノズルごとに前記凸状メニスカス形成手段を備える請求の範囲第1項から第3項のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【国際公開番号】WO2005/063491
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516555(P2005−516555)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017707
【国際出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/017707
【国際出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]