説明

液体吸い上げシートおよび液体気化シート

【課題】薄いシート形態であり、幅方向の側縁を水と接触させたときに幅方向に沿って液体が速やかに上昇するような液体吸い上げ性を有し、かつ折り畳みに適した「コシ」を有する液体吸い上げシートを提供する。
【解決手段】 繊維長20mm以下の短繊維から成り、親水性短繊維を含む第1親水性繊維層の少なくとも一方の表面に、繊維長が20mmを越える繊維から成り、親水性繊維を含む親水性繊維ウェブを配置した積層ウェブを支持体の上に載せ、圧力が2MPa以上10MPa以下の柱状水流を、親水性繊維ウェブの両面に1〜5回ずつ噴射することにより、繊維同士を交絡させるとともに、第1親水性繊維層と第2親水性繊維層とを一体化して、積層構造の液体吸い上げシートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を速やかに吸い上げることができる液体吸い上げシートおよびその製造方法、このシートを含んで成る液体気化シート、およびこのシートを用いて液体を気化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体を吸い上げる機能を有するシート、即ち、液体吸い上げシートは、加湿器の気化フィルター、芳香剤を吸い上げて揮散させる吸い上げ芯、ならびに農業および園芸用の水分補給シート等として使用されている。ここで、液体吸い上げシートとは、シートの一辺を液体に接触させると、毛細管現象により液体が当該辺に垂直な方向に沿ってシートを進行し、シートに浸透することをいう。この液体吸い上げシートとして、種々の不織布が使用されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2003−279084号公報)は、水の吸い上げ性が高く、かつ通気抵抗が少ない加湿等フィルターを、明瞭な開孔を有する孔あき不織布を用いた波状乃至凹凸の孔あき不織布と平面状の孔あき不織布を交互に重ねて形成することを提案している。また、特許文献1は、孔あき不織布を親水性繊維と疎水性繊維とを混合して形成すること、および疎水性繊維を接着性複合繊維とすることを提案している。特許文献1に記載のフィルターは、開孔することにより通気抵抗が小さく、また、接着性複合繊維を使用することで、波状の孔あき不織布と平面状の孔あき不織布とを接着する接着剤量を少なくすることができるという利点を有する。特許文献2(特開2005−58550号公報)は、植物繊維同士の交点部分を熱可塑性樹脂で固定することで、植物繊維間に空隙が確保され、それにより薬剤の吸い上げ性と揮発性能の良い構造物が得られることを開示している。
【0004】
【特許文献1】特開2003−279084号公報
【特許文献2】特開2005−58550号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の加湿等フィルターは、開孔の存在により嵩高になる、即ち、単位体積あたりの繊維の量(繊維密度)が小さくなる傾向にある。そのため、吸い上げ高さ、即ち、吸い上げ速度は、場合によっては必ずしも十分に高くならない。さらに、接着性複合繊維のような疎水性繊維が不織布に含まれると、不織布全体の親水性が低下するため、吸い上げ高さはより小さくなる。同様に、特許文献2に記載の吸い上げ・揮散性構造物も、繊維間の空隙によって嵩高となるため、吸い上げ高さは必ずしも十分に大きくならない。また、構造物中に熱可塑性樹脂が存在することによっても、構造物の吸い上げ高さは小さくなる傾向にある。このように、従来提案されている液体吸い上げシートは、液体の吸い上げ性においてなお改善の余地を有する。
【0006】
また、液体吸い上げシートは、その側方の辺(即ち、側縁)を液体に接触させたときにも、大きい吸い上げ高さを示すことが要求される場合がある。しかし、不織布等のシートにおいては、構成繊維が縦方向(即ち、機械方向)に沿って配列する傾向にあるため、シートは縦方向と平行な方向において高い吸い上げ性を示す傾向にあり、横方向と平行な方向における液体吸い上げ性は一般に小さい。
【0007】
本発明は、これらの事情に鑑みてなされたものであり、液体吸い上げ性が高く、吸い上げた液体が均一に拡散し、かつ横方向と平行な方向においても高い液体吸い上げ性を示すシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、繊維長20mm以下の短繊維から成り、かつ親水性短繊維を含む第1親水性繊維層の少なくとも一方の表面に、繊維長が20mmを越える繊維から成り、かつ親水性繊維を含む第2親水性繊維層が配置され、第1親水性繊維層と第2親水性繊維層とが繊維同士の交絡により一体化されている、液体吸い上げシートを提供する。このシートは、短い繊維から成る第1親水性繊維層とそれよりも長い繊維から成る第2親水性繊維層とが繊維同士の交絡により一体化されている不織布であることを特徴とする。この特徴により、本発明のシートは、緻密で繊維密度(単位体積あたりの繊維の量)が大きく、毛細管が多数形成されるとともに、2種類の異なる繊維層による吸水性が良好に発揮されるので、より高い液体の吸い上げ性を示す。また、本発明のシートは、地合が良好なものとなるから、シート全体にわたって液体の吸い上げ性を均一に示す。それにより、シート全体において液体の吸収量のばらつきが少なく、吸収した液体を蒸発又は揮散させる場合に、安定した性能を示す。
【0009】
ここで、「吸い上げ」という用語は、液体がシートにおいて上向きに進行してシートに吸収される現象だけでなく、シートの一部が液体の供給源と接触したときに、接触した部分から毛細管現象等により液体がシート内を徐々に一方向で進行して吸収される現象を広く指す。したがって、例えば、一部が液体供給源と接触し、かつ水平に配置されたシートを、液体が上昇せずに一方向に進行してシートに吸収される現象も、「吸い上げ」に含まれる。
【0010】
第1親水性繊維層は、第2親水性繊維層と交絡一体化する前の形態が、湿式抄紙ウェブまたは湿式不織布であることが好ましい。湿式抄紙ウェブまたは湿式不織布を用いることにより、より緻密で繊維密度の大きい不織布を得ることができる。
【0011】
第1親水性繊維層は、親水性短繊維としてセルロース系短繊維を30質量%以上含む層であることが好ましい。セルロース系短繊維はそれ自体優れた親水性を有するため、これで第1親水性繊維層を構成することにより、液体の吸い上げ性をより高くすることができ、また、水流交絡法によりシートを製造する場合に第2親水性繊維層と良好に交絡して、シートの繊維密度をより高くする。セルロース系短繊維は、好ましくはパルプ繊維である。
【0012】
本発明は、本発明の液体吸い上げシートを含んで成る液体気化シートを提供する。液体気化シートは、液体を吸収し、吸収した液体を気化させるために用いられ、例えば、加湿器の気化フィルターとして用いられる。本発明の液体吸い上げシートは、短繊維とステープル繊維との絡み合いにより高い強力を有するため、これを含む液体気化シートは、形態保持性に優れ、加工しやすい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液体吸い上げシートは、短繊維から成る親水性繊維層とそれよりも長い繊維から成る別の親水性繊維層の交絡により微細な毛細管が多数形成された構造を有するため、液体吸い上げ性が高い。さらにまた、本発明のシートにおいては液体が均一に吸い上げられて、シート全体にわたって均一に含浸されるので、含浸された液体がシート全体から安定して放出されるという利点もある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、本発明の液体吸い上げシートの断面を模式的に示す。図示したシートは、第1親水性繊維層(2)の両面に第2親水性繊維層(1,3)が配置された、三層構造の液体吸い上げシートである。但し、シートの全ての箇所が、必ずしも図示したような三層構造をとっているわけではない。シートにおいては、例えば第1親水性繊維層(2)が脱落し及び/又は周囲へ分散する等して、第1親水性繊維層(2)が第2親水性繊維層(1,3)の間に位置しない箇所が存在することもある。
【0015】
本発明の液体吸い上げシートは、第1親水性繊維層(2)が吸い上げた液体を拡散させるように機能し、第2親水性繊維層(1,3)が液体を一方向に進行させるように機能し、これらの2種類の繊維層の効果が相乗的に作用して、優れた液体吸い上げ性を示すと考えられる。より具体的には、この構成の液体吸い上げシートにおいては、短い構成繊維がランダムに配列した第1親水性繊維層が、吸い上げた液体を均一に且つ良好に拡散させる。また、構成繊維が長くて一定の方向(具体的には不織布の縦(MD)方向)に比較的配向している第2親水性繊維層は、液体が一定の方向に沿って吸い上げられることをより容易にする。さらに、これらの2つの繊維層は、繊維同士の交絡により一体化され、交絡した部分において、繊維が層と層との間を繋ぐ「橋」の役割をするので、この「橋」を液体が通過することにより、液体の吸い上げと拡散が交互に繰り返されるものと考えられる。したがって、本発明の液体吸い上げシートによれば、第1親水性繊維層による液体拡散効果と第2親水性繊維層による液体吸い上げ効果とが相乗的に発揮されて、優れた液体吸い上げ性が得られるものと考えられる。さらに、この構成の液体吸い上げシートは、第1親水性繊維層が均一な地合を有するので、シートの一辺を液体と接触させたときに、液体が当該一辺全体にわたって均一に吸い上げられる。このことは、本発明のシートにおいて、液体の浸透経路が特定の経路に固定されないことを意味し、したがって本発明のシートにおいては目詰まりが比較的生じにくい。
【0016】
本発明の液体吸い上げシートは、不織布の横(CD)方向を液体吸い上げ方向とする場合にも、高い液体吸い上げ性を示す。それは、上記のように吸い上げと拡散とが交互に繰り返されることによる吸い上げ効果の向上に加えて、第2親水性繊維層が、液体の吸い上げ方向と垂直な方向(不織布の縦(MD)方向と平行な方向)に液体が拡散することを促進することによると考えられる。即ち、第2親水性繊維層によって、液体の吸い上げ方向と垂直な方向において均一に且つ速やかにシートが濡らされ、その後、未だ濡れていないシートの部分を濡らすように、液体が吸い上げ方向に順次速やかに拡散され且つ進行するために、本発明のシートは横方向の液体吸い上げ性も良好であると考えられる。
以下、各繊維層の具体的な構成等を説明する。
【0017】
まず、第1親水性繊維層(2)について説明する。第1親水性繊維層(2)は、繊維長が20mm以下である短繊維から構成され、かつ親水性短繊維を含んで成る層である。第1親水性繊維層(2)を構成する繊維の繊維長は、好ましくは10mm以下である。第1親水性繊維層(2)には、親水性短繊維が含まれる。親水性繊維としては、パルプ、コットン、麻、シルク、およびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(リヨセル)などの再生繊維、ならびに合成繊維に親水化処理を施したもの等を用いることができる。溶剤紡糸セルロース繊維は、具体的には、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標)の名称で上市されている。このうち、天然繊維、再生繊維、および親水化処理した合成繊維を使用するときは、必要に応じて繊維長が20mm以下となるようにカットする。親水性短繊維は、親水性繊維層(2)に好ましくは30質量%以上含まれ、より好ましくは50質量%以上含まれ、さらにより好ましくは80質量%以上含まれる。
【0018】
第1親水性繊維層(2)は親水性短繊維以外の繊維を含んでいてよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、およびエチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ナイロン6およびナイロン66等のポリアミド系繊維、ならびにアクリル系繊維等の合成繊維(親水化処理されていないもの)を含んでいてよい。
【0019】
本発明の液体吸い上げシートにおいて、第1親水性繊維層(2)は、パルプ繊維を30質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことがさらにより好ましく、パルプ繊維のみからなることが最も好ましい。第1親水性繊維層(2)がパルプ繊維を含むシートは、吸液性が高いので、高い液体吸い上げ性を示し、また、コシが大きくなるので、紙のごとく取り扱うことができ、ある種の機械加工において加工が容易となる。ここで、「コシ」とは、液体吸い上げシートが変形しにくい性質をいう。具体的には、例えば、一定寸法の液体吸い上げシートの中央を尖った棒状物で下側から支えたときに、シートが棒状物から垂れ下がる度合が小さいほど、そのコシは大きいといえる。本発明の液体吸い上げシートについては、後述のように、ハンドルオメータで測定する剛軟度に基づいてコシの有無を評価している。
【0020】
パルプ繊維は、針葉樹木材または広葉樹木材を用いて常套の方法で製造されたものを任意に使用できる。一般的に、パルプ繊維の繊度は、1.0〜4.0dtex程度、繊維長は0.8〜4.5mm程度であるが、この範囲外の繊度および/または繊維長を有するパルプ繊維を使用してもよい。
【0021】
第1親水性繊維層(2)がパルプ繊維と他の繊維とから構成される場合、当該他の繊維はパルプ以外のセルロース系短繊維(例えば、ビスコースレーヨンおよび溶剤紡糸セルロース繊維)または合成繊維(例えば、ポリプロピレン繊維およびポリエステル繊維)等であってよい。
【0022】
第1親水性繊維層(2)は、パルプ繊維以外の他のセルロース系短繊維を1種または2種以上含むように構成してよい。ここで、パルプ繊維以外のセルロース系短繊維は、繊維長が20mm以下である、コットンおよび前述の再生繊維等であり、好ましくは再生繊維である。これらのセルロース系繊維のうち、例えば、コットンは中空状、およびレーヨンは菊花状の断面を有しているので、扁平断面を有するパルプと比較して第1親水性繊維層を嵩高にすることができ、液体吸い上げシートが液体を保持する機能(保液性)をより高くし得る。また、再生繊維は種々の繊度を有するように製造できるので、繊度を選択することにより第1親水性繊維層の構造を変化させて、液体吸い上げシートが所望の性能を有するようにしうる。例えば、再生繊維は、パルプよりも細い繊維として得ることも可能なので、第1親水性繊維層をより緻密化することができ、それにより液体吸い上げシートの吸い上げ性をより向上させ得る。
【0023】
第1親水性繊維層(2)に再生繊維が含まれる場合、その割合は好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらにより好ましくは80質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。第1親水性繊維層(2)が再生繊維と他の繊維とから構成される場合、当該他の繊維は、パルプ繊維または合成繊維等であってよい。第1親水性繊維層(2)に含まれる再生繊維は、0.3〜6dtex程度であることが好ましく、0.5〜5dtex程度であることがより好ましい。再生繊維の繊度が小さすぎると、第1親水性繊維層が緻密になりすぎて水流交絡処理に付したときに水が通りにくく、第2親水性繊維層(1、3)が乱れて、得られるシートの表面状態が悪くなることがある。再生繊維の繊度が大きすぎると、シートに地合ムラが生じやすくなる、緻密性が低下する、あるいは繊維同士の交絡が不十分となる等の不都合が生じることがある。
【0024】
いずれの繊維から成る場合でも、第2親水性繊維層(1、3)と交絡一体化させる前の第1親水性繊維層(2)は、エアレイドウェブもしくはエアレイド不織布、または湿式抄紙ウェブもしくは湿式不織布であることが好ましい。エアレイドウェブもしくはエアレイド不織布、または湿式抄紙ウェブもしくは湿式不織布は、構成繊維が比較的ランダムに配向した形態であり、また均一な地合を有するので、これらから形成した第1親水性繊維層は、吸収した液体をより拡散させやすいものとなる。親水性短繊維がパルプ繊維である場合、第1親水性繊維層(2)は、綿状のパルプ(フラッフ(fluff)パルプ)として提供され得る。パルプ繊維を含む又はこれのみから成る湿式不織布には、紙が含まれる。パルプ繊維を含む又はこれのみから成る紙には、ティッシュ(ティッシュペーパーとも呼ばれる)が含まれる。
【0025】
本発明において、第1親水性繊維層は第2親水性繊維層と一体化する前に湿式抄紙ウェブまたは湿式不織布であることが好ましい。湿式抄紙ウェブまたは湿式不織布は、それ自体が緻密なウェブまたはシートであるため、最終的に得られるシートを緻密にし、微細な毛細管がシートに多数形成されることを可能にする。湿式不織布は、波状または皺状に加工された、いわゆるクレープ紙であってもよい。
【0026】
湿式不織布は、好ましくは、パルプ繊維のみから成り、ティッシュまたはパルプ紙として提供される紙である。ティッシュまたはパルプ紙は、紙力増強剤を有していてよく、または有していなくてもよい。紙力増強剤を含むティッシュまたはパルプ紙を使用すると、シートのコシがより大きくなる傾向にある。但し、紙力増強剤を含むティッシュまたはパルプ紙を使用して、水流交絡法により液体吸い上げシートを製造する場合には、それを含まないティッシュまたはパルプ紙を使用する場合と比較して、水流の水圧を高くする必要があり、製造コストおよび設備に加わる負荷が大きくなる。したがって、紙力増強剤の割合(ゼロの場合も含めて)は、最終的に得ようとするシートの剛軟度およびシートの製造設備等を考慮して、適宜選択される。
【0027】
次に第2親水性繊維層(1、3)について説明する。第2親水性繊維層は繊維長が20mmを越える繊維から成り、親水性繊維を含む。第2親水性繊維層は親水性繊維を好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらにより好ましくは65質量%以上含む。親水性繊維としては、パルプ、コットン、麻、シルク、およびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、ならびに合成繊維に親水化処理を施したもの等を用いることができる。これらから任意に1種または2種以上の親水性繊維を選択し、必要に応じて他の繊維とともに第2親水性繊維層を構成する。
【0028】
本発明の液体吸い上げシートにおいて、第2親水性繊維層に含まれる親水性繊維は、特に再生繊維であることが好ましい。再生繊維は優れた親水性を有し、また、後述するように水流交絡法でシートを製造する場合に、第1親水性繊維層と良好に交絡して緻密な構造を与えるからである。再生繊維は、例えばビスコースレーヨンまたは溶剤紡糸セルロース繊維であり、特にビスコースレーヨンは交絡性が良好であり、また、異形断面繊維であってシートの吸水速度を高くすることから好ましく用いられる。
【0029】
第2親水性繊維層を構成する再生繊維は、その繊度が0.4〜5dtexであることが好ましく、0.7〜3dtexであることがより好ましい。再生繊維の繊度が小さいほど、緻密な構造の液体吸い上げシートを得られるものの、繊度が0.4dtex未満であると、例えば第2親水性繊維層をカードウェブで構成する場合に、ウェブを構成しにくく、製造効率が低下する傾向にある。一方、繊度が5dtexを越えると、シートの緻密性が低下して、液体の吸い上げ性が低下することがある。再生繊維は、小さい繊度を有するものと、大きい繊度を有するものを組み合わせて使用してよく、それにより緻密な構造の第2親水性繊維層を効率的に製造することが可能となる。具体的には、繊度0.5〜2.0dtex程度の再生繊維と、繊度1.0〜5.0dtex程度の再生繊維とを、3:7〜7:3(質量比)の割合で混合して使用することが好ましい。
【0030】
第2親水性繊維層は、第1親水性繊維層(2)と交絡一体化する前に、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブ、およびランダムウェブ等のカードウェブ、ならびに長繊維ウェブおよび長繊維不織布等から選択される形態をとる。図示した形態のシートにおいて、第2親水性繊維層(1、3)はそれぞれ、2以上のウェブを積層したものであってよい。あるいは、2つの第2親水性繊維層のうち一方が2以上のウェブを積層したものであり、他方が単層のウェブから成るものであってよい。
【0031】
第2親水性繊維層は、カードウェブで形成することが好ましい。カードウェブを使用すると、第1親水性繊維層との交絡性が良好となる。第1親水性繊維層と第2親水性繊維層との交絡性が悪いと、両方の繊維層の吸水特性を相乗的に得ることが困難となることがある。また、カードウェブは、2種以上の繊維を混合して形成することが容易であり、また得られたウェブにおいて2種以上の繊維が均一に混合した形態を与える。したがって、カードウェブの使用すれば、用途および目的に応じて2種以上の繊維の種類及び割合を調整して所望の物性のシートを得ることが容易となる。
【0032】
第2親水性繊維層をカードウェブで構成する場合、当該繊維層を構成する繊維は、繊維長が20mmを越え、110mm以下であるステープル繊維であることが好ましい。ステープル繊維の繊維長は、より好ましくは20mmを越え、80mm以下であり、さらにより好ましくは30mm以上70mm以下である。ステープル繊維の繊維長が20mm未満であると、繊維の脱落が多くなり、また、工程性においても劣る。ステープル繊維の繊維長が110mmを越えると、高圧水流処理による交絡性が低下する。
【0033】
第2親水性繊維層が親水性繊維以外の他の繊維を含む場合、当該他の繊維は、例えば、第1親水性繊維層に関連して説明した合成繊維を含んでよい。例えば、当該他の繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のようなポリエステル繊維であってよい。第2親水性繊維層がポリエステル繊維を含むと、第2親水性繊維層は嵩高なものとなるため、例えば、固形分又は経時変化により固体となる成分を含む液体を吸い上げる場合に、シートにおいて目詰まりが生じにくくなる。但し、第2親水性繊維層に占める合成繊維の割合が大きいと、親水性が低下して吸い上げ高さが小さくなることに留意すべきである。したがって、第2親水性繊維層に含まれる合成繊維の割合は、70質量%未満であることを要し、20〜50質量%程度であることが好ましく、20〜35質量%程度であることがより好ましい。
【0034】
第1親水性繊維層(2)および第2親水性繊維層(1、3)の目付は、シートの所望の目付およびシートに付与すべきコシ(剛軟度)に応じて適宜選択される。概して、第1親水性繊維層(2)の目付が大きいほど、シートのコシは大きくなる傾向にある。具体的には、第1親水性繊維層(2)の目付は、好ましくは、シート全体の目付の70質量%を越えないように選択され、より好ましくは、60質量%を越えないように選択され、最も好ましくは10〜50質量%となるように選択される。第1親水性繊維層(2)の占める割合が70質量%を越えると(即ち、第2親水性繊維層(1、3)の占める割合が合わせて30質量%以下であると)、水流交絡法によりシートを作製する場合に、水流が貫通しにくくなることがあり、その結果、シート強力が低下することがある。一方、第1親水性繊維層(2)の占める割合が小さいと(即ち、第2親水性繊維層(1、3)の占める割合が大きいと)、シートのコシが小さくなり、また、緻密な液体吸い上げシートが得られず、所望の液体吸い上げ性が得られないことがある。
【0035】
本発明の液体吸い上げシートは、シート全体の目付を50〜400g/m程度とし、第1親水性繊維層(2)の目付を、10〜100g/m程度とすることが好ましく、第2親水性繊維層(1,3)の目付はそれぞれ、10〜200g/m程度とすることが好ましい。シート全体の目付が50g/m未満であると、シート全体のコシが小さくなることがある。シートのコシが小さいと、形態保持性が悪く、成形性が低下することがあり、また、例えば、シートの先端を液体に接触させて使用する場合にシートの先端が液底に沿いにくい又はとどまりにくくなる。また、目付が小さいと、液体吸い上げシートに保持される液体の量が少なくなる、ならびに吸い上げた液体を揮発させるように使用する場合に揮発性が低下することがある。さらに、目付が小さいシートを例えば芳香剤の吸い上げ芯として使用する場合には、芳香剤に含まれる成分が時間の経過とともに固形分となって析出したときに、シートにおいて目詰まりが生じることがある。シート全体の目付が400g/mを越えると、取り扱いにくくなり、またコストが高くなることがある。より好ましくは、シート全体の目付は70〜300g/m程度であり、第1親水性繊維層(2)の目付は10〜60g/m程度であり、第2親水性繊維層(1,3)の目付はそれぞれ、10〜150g/m程度である。シートの目付は上述した範囲内で用途に応じて選択される。例えば、シートを加湿器に用いる気化フィルターとして使用する場合には、シート全体の目付を50〜150g/m程度とし、第1親水性繊維層(2)の目付を10〜60g/m程度とすることが好ましく、第2親水性繊維層(1,3)の目付は20〜70g/m程度とすることが好ましい。より好ましくは気化フィルター用のシートの目付は60〜100g/m程度であり、第1親水性繊維層(2)の目付は10〜50g/m程度であり、第2親水性繊維層(1,3)の目付は25〜35g/m程度である。
【0036】
いずれの用途においても、第1親水性繊維層(1)と第2親水性繊維層(3)の目付は同じであってよく、あるいは互いに異なっていてよい。例えば、一方の目付を他方の目付の2〜3倍程度としてよい。
【0037】
本発明の液体吸い上げシートは、繊維同士が水流交絡処理により交絡して、第1親水性繊維層(2)と第2親水性繊維層(1、3)とが一体化した構成を有することが好ましい。水流交絡処理によれば、短繊維と親水性繊維とが良好に交絡して、より緻密な液体吸い上げシートを得ることができる。また、水流交絡処理により繊維同士を交絡させて成る液体吸い上げシートは、繊維密度が高く、比較的薄い形態で提供され得る。したがって、そのような液体吸い上げシートは、例えば、加湿器の気化フィルターとして使用する場合には、所定の空間により多く収納することが可能であるから、シートそれ自体の高い吸水性と相俟って、より多くの水を均一に吸い上げて、より多くの水蒸気を安定的に供給することができる。同様に、本発明の液体吸い上げシートを芳香製品の吸い上げ芯として使用する場合にも、より多くの芳香剤を速やかに、シート全体に均一に浸透させ、シート全体から均一に揮散させることが可能となる。
【0038】
あるいは、本発明の液体吸い上げシートは、繊維同士がニードルパンチ処理により交絡して、第1親水性繊維層と第2親水性繊維層とが一体化した構成を有してよい。そのような構成は、特に、液体吸い上げシートの目付が大きい場合に採用される。あるいはまた、ニードルパンチ処理と水流交絡処理を組み合わせて、液体吸い上げシートを構成してよい。
【0039】
本発明の液体吸い上げシートは例えば液体気化シートとして用いることができ、前述のように、芳香剤または防虫剤を吸い上げて揮散させるシート、および加湿器等の気化フィルターとして好ましく用いられる。それは、本発明のシートが、コシを有していて形態保持性が良好であるので、種々の形状に加工しやすく、また、例えば容器内で液体と接触させるときに、液底(容器の底部)に沿いやすいことによる。
【0040】
具体的には、本発明の液体吸い上げシートを加湿器等の気化フィルターまたは芳香剤もしくは防虫剤揮散用のシートとして使用する場合、ハンドルオメータで測定されるシートの剛軟度が、縦(MD)方向(不織布製造ラインの機械の配置方向(不織布の進行方向))において、40g以上であることが好ましい。ハンドルオメータで測定される剛軟度は、シートのコシ(または剛性)を示す指標である。剛軟度が縦方向において上記好ましい下限値より小さい場合には、シートにコシがないために取り扱いにくく、また、シートの成形性および保形性が劣ることがある。
【0041】
また、本発明の液体吸い上げシートは、バイレック法で測定される横方向の吸い上げ高さが、100mm/5分以上であることが好ましく、110mm/5分以上であることがより好ましい。本発明のシートは、その緻密な構造に起因して、横方向と平行な方向においても液体の吸い上げ性が高く、このような吸い上げ高さを有するように構成できる。横方向の吸い上げ高さが、100mm/5分未満であると、前述したように、側縁を液体と接触させて使用する場合に、シートが濡れるまでに時間を要し、前述の液体気化シートとして使用する場合に、使用開始時から十分な量の液体を揮散させるまでの時間が長くなることがある。
【0042】
上記において示した剛軟度および吸い上げ高さは、気化フィルターの好ましい一形態を示すものである。かかる剛軟度および吸い上げ高さを有するシートは、プリーツ状またはハニカム状に成形して気化フィルターとして使用してよい。本発明の液体吸い上げシートは、いずれの方向にも高い液体吸い上げ性およびコシを有するので、例えば折り畳んで使用する場合には、折り畳み線を不織布の縦方向および横方向のいずれとも平行にすることができる。本発明の液体吸い上げシートから成る気化フィルターは、加湿器の仕様および折り畳み形態等に応じて、剛軟度および横方向の吸い上げ高さが上記範囲外となるように構成されてよい。さらに、本発明の液体吸い上げシートを加湿器の気化フィルター以外の用途に使用する場合は、剛軟度は上記範囲の下限より小さくてよく、あるいは横方向の吸い上げ高さは上記範囲の下限より小さくてよい。
【0043】
次に、本発明の液体吸い上げシートの好ましい製造方法について説明する。図示したシートを製造するために、まず、第2親水性繊維層となる繊維ウェブの間に第1親水性繊維層となる繊維ウェブまたは不織布が位置する積層ウェブを準備する。積層ウェブは、第2親水性繊維層となる繊維ウェブ−第1親水性繊維となる繊維ウェブまたは不織布−第2親水性繊維層となる繊維ウェブの順にウェブを積層して作製する。第1親水性繊維層となる繊維ウェブまたは不織布は、前述したように、湿式抄紙ウェブまたは予め作製された湿式不織布であり、またはエアレイドウェブである。第1親水性繊維層をパルプ繊維で形成する場合には、親水性繊維ウェブ上にフラッフパルプを撒布することによりパルプ繊維層を作製してよい。
【0044】
第2親水性繊維層となる繊維ウェブは、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、ならびに長繊維ウェブ等から選択されるいずれの形態であってもよい。親水性繊維ウェブはカードウェブとすることが好ましい。カードウェブは、強度が大きく、また適度な繊維密度(繊維間空隙)を有していることによる。
【0045】
積層ウェブの水流交絡処理条件は、積層ウェブの目付および得られるシートの所望の機械的強度に応じて適宜設定される。例えば、目付が50〜100g/mである積層ウェブの水流交絡処理は、80〜100メッシュの平織の支持体の上にウェブを載せて、孔径0.05mm以上0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧2MPa以上10MPa以下の水流を積層ウェブの表裏面に1〜5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は好ましくは、2MPa以上8MPa以下であり、より好ましくは、3MPa以上7MPa以下である。積層ウェブが第1親水性繊維層と1つの第2親水性繊維層とから成る二層構造である場合、水流は、第2親水性繊維層の側にのみ噴射される。
【0046】
水流交絡処理は、孔径0.08mm以上0.2mm以下のオリフィスが3mm以上15mm以下の間隔で設けられたノズルから、上記範囲の水圧の水流を積層ウェブの一方の面に1回噴射することをさらに含んでよい。それにより、繊維同士がより緊密に交絡した厚さの小さい部分が、当該オリフィスの間隔に対応してストライプ状に形成されたシートを得ることができる。
【0047】
高圧水流処理後、得られた積層不織布は、水分を除去するために乾燥させる。乾燥温度は、シートを構成する繊維の種類及び目付に応じて選択される。例えば、第1親水性繊維層がパルプ繊維を含み、第2親水性繊維層が再生繊維を含む積層構造である場合、乾燥温度は、好ましくは100〜150℃に設定され、より好ましくは120〜140℃に設定される。
【0048】
このようにして得られる本発明の液体吸い上げシートは、水流交絡により繊維同士が緊密に絡み合って、高い強度を有し、また、コシのあるものとなる。したがって、このシートは、繊維同士をバインダーまたは熱接着性繊維で接着しなくても、十分に実用可能である。バインダーまたは熱接着性繊維は一般に疎水性であって液体吸い上げ性を低下させるので、これを使用しないことにより、液体吸い上げシートはより高い液体吸い上げ性を示すこととなる。
【0049】
本発明の液体吸い上げシートは、用途に応じて、適当な寸法に切断されて使用される。また、シートは、用途に応じて、複数枚重ねて使用してもよい。
【0050】
本発明の液体吸い上げシートは、横方向の吸い上げ高さが大きいという特徴を有するので、側方(即ち、幅方向の端部)の一辺を液体と接触させて、幅方向に平行な方向で、当該辺から当該辺と対向する辺に向かって液体をシート内で進行させるように使用してよい。あるいは、シートは、幅方向と平行な一辺(シートの縦方向と直交する一辺)を液体と接触させて使用することも当然に可能である。液体と接触させたシートは、シートの全部または一部に液体が進行し浸透した後で液体との接触を解除して、シート内に浸透した液体を利用する独立した形態の液体含浸シートとして用いてもよい。シート内に進行した液体は、通風、加熱、または自然蒸発により揮散させてもよい。液体は、例えば、水、又は抗菌剤もしくは防腐剤を含む水、芳香剤、消臭剤、防虫剤、殺虫剤、または液体肥料等である。
【0051】
以上においては、三層構造の液体吸い上げシートを主として説明したが、本発明のシートは、第1親水性繊維層と1つの第2親水性繊維層とから成る二層構造のものであってよい。その場合の各層の好ましい目付などは、先に三層構造の不織布に関連して説明したように、第1親水性繊維層がシート全体に占める割合を考慮して、適宜決定される。あるいは、本発明の液体吸い上げシートは、2以上の第1親水性繊維層と2以上の第2親水性繊維層とが積層された形態を有してよい。その場合の各層の好ましい目付などは、先に三層構造の不織布に関連して説明したように、シート全体に占める2以上の第1親水性繊維層を合わせた割合を考慮して、適宜決定される。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の内容について実施例を挙げて説明する。
[試料1]
第1親水性繊維層となる不織布として、パルプ繊維100質量%からなる目付12g/mのティッシュ(大宮製紙(株)製)を準備した。一方、第2親水性繊維層となる繊維ウェブとして、繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(ダイワボウレーヨン(株)製)と、繊度1.45dtex、繊維長38mmのポリエチレンテレフタレート繊維(商品名:RA02F、帝人(株)製)を7:3(質量比)の割合で混合した、パラレルカードウェブを準備した。ティッシュの両面に第2親水性繊維層となる繊維ウェブが配されるように積層し、この積層ウェブに水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に水圧2MPaの柱状水流を2回噴射し、他方の面に水圧3MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。柱状水流の噴射は、ウェブを90メッシュの平織支持体の上に載せて、4m/分の速度で搬送して実施した。水流交絡処理後、135℃で乾燥させて、液体吸い上げシートを得た。
【0053】
[試料2〜10]
表1に示す繊維および水流交絡処理条件を用いて、試料1の作製の際に採用した手順と同様の手順に従って、液体吸い上げシートを作製した。表中、各記号の意味は以下のとおりである。
【0054】
第1親水性繊維層(一体化前の不織布またはウェブの構成繊維および目付等)
T12 パルプ繊維100質量%、目付12g/mのティッシュ
大宮製紙(株)製
T24−a パルプ繊維100質量%、目付24g/mのティッシュ、
湿式抄紙前のスラリーに紙力増強剤を0.6%添加して製造したもの
マツオカ製紙(株)製
T24−b パルプ繊維100質量%、目付24g/mのティッシュ、
湿式抄紙前のスラリーに紙力増強剤を0.2%添加して製造したもの
マツオカ製紙(株)製
T24−c パルプ繊維100質量%、目付24g/mのティッシュ、
紙力増強剤の使用量がゼロ
マツオカ製紙(株)製
T24−2ply パルプ繊維100質量%、目付12g/mのティッシュの2ply品
大宮製紙(株)製
T−17 パルプ繊維100質量%、目付17g/mのティッシュ
ハビックス(株)製
T−19 パルプ繊維100質量%、目付17g/mのティッシュ
(株)クレシア製
【0055】
第2親水性繊維層
R1 繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン
ダイワボウレーヨン(株)製
R2 繊度0.9dtex、繊維長38mmのビスコースレーヨン
ダイワボウレーヨン(株)製
PET 繊度1.45dtex、繊維長38mmのポリエチレンテレフタレート繊維
帝人(株)製
【0056】
[試料11]
第1親水性繊維層となる不織布として、パルプ繊維100質量%からなる目付17g/mのティッシュ(ハビックス(株)製)を準備した。一方、第2親水性繊維層となる繊維ウェブとして、繊度0.9dtex、繊維長38mmのビスコースレーヨン(ダイワボウレーヨン(株)製)と、繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(ダイワボウレーヨン(株)製)を7:3(質量比)の割合で混合した、パラレルカードウェブを準備した。ティッシュの両面に第2親水性繊維層となるウェブが配されるように積層し、この積層ウェブに水流交絡処理を施した。水流交絡処理は、孔径0.12mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に水圧2MPaの柱状水流を1回噴射し、同じノズルを用いて他方の面に水圧3MPaの柱状水流を1回噴射した後、他方の面に孔径0.13mmのオリフィスが7mm間隔で設けられたノズルを用いて、水圧5MPaの柱状水流を1回噴射して実施した。柱状水流の噴射は、ウェブを90メッシュの平織支持体の上に載せて、4m/分の速度で搬送して実施した。水流交絡処理後、135℃で乾燥させて、液体吸い上げシートを得た。このシートには、約7mm間隔で、厚さの小さい部分がストライプ状に形成されていた。
【0057】
[試料12および13]
表1に示す繊維および水流交絡処理条件を用いて、試料11の作製の際に採用した手順と同様の手順に従って、液体吸い上げシートを作製した。
【0058】
[試料14]
試料1の製造で使用したビスコースレーヨンのみを使用して、目付約70g/mのパラレルカードウェブを作製し、これを試料1の作製の際に採用した条件と同じ条件で水流交絡処理に付してシートを得た。
[試料15]
試料1の製造で使用したビスコースレーヨンおよびPET繊維を使用して、目付約70g/mのパラレルカードウェブを作製し、これを試料1の作製の際に採用した条件と同じ条件で水流交絡処理に付してシートを得た。
【0059】
[試料16]
繊度1.5dtex、繊維長45mmのPET繊維(帝人(株)製)と、繊度1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(ダイワボウレーヨン(株)製)を7:3(質量比)の割合で混合した、パラレルカードウェブを準備した。このウェブの両面に、試料1の製造で使用したビスコースレーヨンのみから成るパラレルウェブが配されるように積層して、この積層ウェブに水流交絡処理を施した。水流交絡処理の条件は、表1に示すとおりである。
【0060】
[試料17〜23]
試料1〜13の作製に使用したティッシュを、それ自身の液体吸い上げ性を評価するために準備した。
【0061】
【表1】

【0062】
得られた試料について、バイレック法および剛軟度による吸い上げ高さを次の手順に従って評価した。評価結果を表2〜4に示す。
【0063】
[吸い上げ高さ]
JIS L 1096 6.26.1 B法に従って、試料1〜21については、水の吸い上げ方向が横方向と一致するように試料をセットして吸い上げ高さを測定し、試料1〜3、7、8および10についてはさらに、吸い上げ方向が縦方向と一致するように試料をセットして吸い上げ高さ測定した。吸い上げ高さは、一部の試料については30秒ごとに測定し、すべての試料について5分経過後の吸い上げ高さを測定した。
【0064】
[剛軟度]
ハンドルオメータ(型式HOM−200 (株)大栄科学精器製作所製)を用いて、測定した。より具体的には、縦×横が20×17.5cmである試験片を、幅10mmのスリット上にスリットと直角になるようにセットし、試験片の辺から6.7cm(試験幅の1/3)の位置をペネトレーターのブレードにて8mm押しこみ、このときの抵抗値を剛軟度として評価した。ここでは、試料1〜3、7、8および10について、縦方向の剛軟度のみ測定した。表4に示す剛軟度は、1つの試料につき、表、裏それぞれについて測定剛軟度の平均値である。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
表2および3に示す結果より、ティッシュを中層とする三層構造のシートである、試料1〜13は、縦方向および/または横方向の吸い上げ高さが5分間で100mmを越え、液体吸い上げ性が高いことがわかる。より詳細には、試料1〜4と試料15との比較から、第2親水性繊維層が合成繊維を含む場合でも、ティッシュと組み合わせることにより、優れた吸い上げ性を示すことがわかる。また、レーヨン繊維層のみから成る試料14と、試料5〜11および13との比較から、レーヨン繊維のみから成る親水性層をティッシュと組み合わせることにより、より高い吸い上げ性を得られることがわかる。試料16は中層をステープル繊維で形成したものであり、試料1〜11と比較して、吸い上げ高さが小さかった。このこともまた、親水性短繊維を含む層を形成することがシートの液体吸い上げ性の向上に寄与することを示している。
【0069】
さらに、吸い上げ高さの測定中、試料14および15においては水が均一に吸い上げられず、吸い上げ高さにおいて差が生じていた。表中のこれらの試料についての数値は吸い上げられた水のうち、最も高い位置にある水の高さに相当する。これに対し、試料1〜13においては、試料14および15と比較して、水が均一に上昇し、特に親水性層がビスコースレーヨンのみから成る試料5〜11および13においては、水と接触させた辺全体にわたって、より均一に水が上昇した。また、特に縦方向の吸い上げ高さについて、試料1と2、試料3と4、および試料7と試料10を比較することにより、第2親水性繊維層の構成繊維が同じである場合、ティッシュの目付が大きいほど、吸い上げ高さは大きくなる傾向にあることがわかった。
【0070】
試料1と3、試料2と4、試料5と6を比較することにより、第2親水性繊維層が繊度の小さいビスコースレーヨンを含む場合には、より吸い上げ性能が向上することがわかる。また、試料1と2、および試料7と試料10の縦方向の吸い上げ高さの比較より、ティッシュの目付が大きいほど、吸い上げ性が高くなることがわかる。
【0071】
ティッシュ中の紙力増強剤の含有量が異なる、試料7、8、9は、それぞれ同程度の液体吸い上げ性を示したが、水流交絡処理の際の水圧は試料9が最も低かった。このことから、紙力増強剤を使用しないティッシュのパルプ繊維は、紙力増強剤を含むティッシュのパルプ繊維よりも親水性繊維と絡みやすいといえる。
【0072】
剛軟度は、測定した試料の中で試料7が最も大きかった。また、試料7の剛軟度は、試料8のそれ(2番目に大きい)と比較しても有意の差を有していた。このことから、紙力増強剤を含むティッシュを使用することにより、シート全体のコシを大きくし得ることが分かった。したがって、試料7は、コシが高く、かつ吸い上げ性の高いものとなるから、特に加湿器の気化フィルターとして特に好ましいものであった。
【0073】
さらに、試料1と試料2の剛軟度の比較より、ティッシュの目付が大きいほど、剛軟度が大きくなる傾向にあることがわかった。これは、ティッシュそれ自体が緻密な構造体であることによると考えられる。また、試料1と試料3の剛軟度の比較より、第2親水性繊維層を構成する繊維が細いほど、剛軟度は大きくなる傾向にあることがわかった。これは、第2親水性繊維層の繊維が細いほど、当該繊維とパルプ繊維との絡み合いがより緊密になるためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の液体吸い上げシートは、繊維長が20mm以下の短繊維から成り、かつ親水性短繊維を含む第1親水性繊維層と繊維長が20mmを越える繊維から成り、かつ親水性繊維を含む第2親水性繊維層とを組み合わせることによって、液体の吸い上げ性に優れ、また、第1親水性繊維層を湿式不織布で構成することによりコシを有するものとして構成することができる。したがって、本発明の液体吸い上げシートは、折り畳み加工が必要な加湿器の気化フィルターとして好ましく使用され、あるいは、芳香製品、または農業用・園芸用の保水シートとしても好ましく使用される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の液体吸い上げシートの一形態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0076】
1、3 第2親水性繊維層
2 第1親水性繊維層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長20mm以下の短繊維から成り、かつ親水性短繊維を含む第1親水性繊維層の少なくとも一方の表面に、繊維長が20mmを越える繊維から成り、親水性繊維を含む第2親水性繊維層が配置され、第1親水性繊維層と第2親水性繊維層とが繊維同士の交絡により一体化されている、液体吸い上げシート。
【請求項2】
第1親水性繊維層が第2親水性繊維層と一体化する前に、湿式抄紙ウェブまたは湿式不織布である、請求項1に記載の液体吸い上げシート。
【請求項3】
第1親水性繊維層が、親水性短繊維としてセルロース系短繊維を30質量%以上含む、請求項1または請求項2に記載の液体吸い上げシート。
【請求項4】
セルロース系短繊維がパルプ繊維である、請求項3に記載の液体吸い上げシート。
【請求項5】
第2親水性繊維層が、親水性繊維として再生繊維を30質量%以上含むカードウェブである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体吸い上げシート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体吸い上げシートを含んで成る、液体気化シート。


【図1】
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【公開番号】特開2007−51398(P2007−51398A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238874(P2005−238874)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】