説明

液体吸引装置

【課題】ノズルや容器底面を破損させることなくノズル先端を容器底面に接触させて液体を吸引できるようにする。
【解決手段】3次元的に移動可動なアーム101に上方に伸びる複数本のレール112を設け、レールに沿って可動な配管固定部材103に配管102を固定する。配管は、先端部分がノズルとして機能する。複数の反発材114をアームに設けることにより、配管固定部材の傾斜が補正される。アームを下降して配管先端が容器106の底に衝突すると、配管及び配管固定部がレールに沿って上方に移動し、配管及び容器底部の破損を回避して配管先端を容器底部に接触させることができ、その状態で容器内の液体を吸引する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルや試薬等の液体の吸引に使用される液体吸引装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生化学や免疫学等の分野における分析や検査では、吸引吐出操作によってサンプルや試薬等の液体を試料容器に小分けする。例えば、多数の試験管やマイクロプレートの多数の小孔に保存されたサンプル液や試薬液、希釈液、洗浄液を吸引吐出ノズルに吸引し、吸引した液体を別の容器や小孔に吐出する操作を行う。この吸引吐出操作の自動化は、容器の深さ方向(Z方向)及び多数の容器が縦横に並ぶ平面方向(XY方向)へ移動可能な吸引吐出ノズルと、配管を経由してノズルと接続するポンプを有する吸引吐出装置によって行われる。
【0003】
吸引吐出装置は、吸引吐出ノズルを容器内に降下し、ノズル先端を容器内部の液体に浸して液体を吸引する。一般的に、ノズルの降下時、ノズル先端と容器底面の間に少し隙間を設けることで、衝突によるノズル先端や容器底面の破損を防いでいる。容器底面との間に十分な隙間を設けることは、ノズル先端のZ方向の位置決めや、大量生産に伴う試料容器のサイズばらつきを緩和し、吸引吐出装置内での試料容器の設置位置の厳密性を軽減する。
【0004】
特許文献1には、ノズルの破損防止を目的として、ノズル先端が障害物に衝突すると、ノズルと配管が上動し、配管がばね付きアース板に当接してアームの降下を停止させる方法が開示されている。特許文献2には、ノズルや容器に変形や破損、疲労破壊を生じさせることなく、容器内に収容されている微量な液体を吸引するために、ノズル先端を容器底部に低速で弾性的に当接させる方法が開示されている。特許文献3には、ニードルガイドとニードルの相対高さが変位した状態を保持することを目的として、ニードルと、ニードルに設けられた相対高さが所定量変位可能なガイド、ガイドを下方向に付勢する手段、ニードルガイド保持手段を設けることが開示されている。特許文献4には、ノズル先端部が障害物に当たると、移動体がノズル受けより隔離して、ノズルをノズル受けの移動方向と逆方向に移動する方法が開示されている。特許文献5には、XY平面に対して精度良くノズル先端基準高さ位置を調整するために、ノズルを保持するノズル保持具をスライド可能とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−55925号公報
【特許文献2】特開平11−271322号公報
【特許文献3】特開2005−172764号公報
【特許文献4】特開2000−88864号公報
【特許文献5】特開2007−139704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ノズル先端と容器底面の間に隙間を設けると、その隙間分だけ液体を吸引できなくなり、液体が試料容器内に残留することになる。例えば、液体吸引装置を、検査部や分析部を持つ計測装置に組み込んだ場合、吸引前の試料容器内部の液体量と吸引吐出ノズルへ吸引した液体量との比を液体吸引効率とすると、吸引した液体を化学反応させて検査部や分析部で計測する際、液体吸引率が低いと計測感度も低くなる。従って、ノズル先端と容器底面間の隙間を最小化することは液体回収率の向上に寄与し、検査や分析感度の向上にもつながる。理想は試料容器内部の液体の全量回収であり、ノズル先端を容器底面に安全に接触させる方法が望まれている。
【0007】
多数の試料容器が縦横に並ぶXY方向にノズル先端を正確に位置決めすることも重要である。吸引吐出ノズル先端を目的試料容器に向けてXY方向に移動し、Z方向にノズルを降下させて試料容器内部の液体を吸引するが、液体が微量である場合には、特に正確な位置決めが必要となる。容器内部の液体が微量であると液体は半球様の液滴状になるが、吸引吐出ノズルの位置ずれが起きると、ノズルを容器内に降下した時、ノズル先端が容器底面上の液滴に接触せず液滴が存在しない容器底面上に位置し、液滴を吸引できない問題が発生する。
【0008】
近年、生化学や免疫学の分野における検査・分析の高感度化や単位時間当たりの処理能力(スループット)向上のため、吸引操作の液体吸引効率と吸引吐出ノズル先端の平面方向の位置決め精度の向上が求められている。しかし、以下の理由で液体吸引効率と位置決め精度の向上は困難であった。
【0009】
ノズル先端が液滴表面付近に位置すると、吸引時に液滴表面付近の空気も同時に吸引し、吸引液体量がばらつく。またノズル先端と容器底面の間に隙間があると、隙間分だけノズル先端から液体が吸引できず、液体が試料容器内に残留する。吸引液体量のばらつきと液体の残留を抑えるためには、ノズル先端を液滴がある容器底面に隙間無く接触させる必要がある。しかし試料容器には平らな底面や、錐形状の底面など様々な形状の底面が存在し、また容器底面から発光反応を検出する場合には、容器底面の素材が薄い石英ガラスであったり、微生物を捕捉する場合は、厚さ数マイクロメートルから百数十マイクロメートルで開孔率20〜80%のメンブレンフィルターであったり、様々な素材の容器底面も存在する。このように容器底面の形状や素材が異なるため、容器の深さ方向の距離や、容器底面上の液滴の位置が変わりやすい。従って、ノズル長やノズル降下量、ノズルの縦横方向移動量を一律に設定することで、ノズル先端と容器底面の隙間を縮める事は難しい。一律な設定は、ノズル先端と容器底面の強い衝突を発生させ、ノズル先端又は容器底面を破損してしまう恐れがある。このため液体吸引率や位置決め精度の向上に限界がある。
【0010】
我々は、このような多様な容器底面に対してノズル先端を接触させる目的で、従来の液体吸引装置の液体吸引率や位置決め精度の向上を詳細かつ継続的に試みた。まずノズルや容器底面の破損を防止するため、ノズル先端を容器底面に弾性的に接触させ、ノズル先端と容器底面の接触で生じる衝撃の緩和を試みた。しかし、生じた弾性力が容器底面へ押圧として働くことで容器底面を傷つけたり、ノズル先端を破損させたりした。ノズル先端がキャピラリーガラスであったり、容器底面が石英ガラス又はメンブレンフィルターである場合には、顕著にそれらが破損した。降下速度を低下させる方法も試みたが、スループットが低下する結果となった。
【0011】
そこで弾性体を用いない方法として、ノズルを降下させ、ノズル先端が容器底面に接触した後、ノズル全体を容器底面に対して相対的に上方向へ移動させる方法を試みた。この方法においても、ノズルや容器底面を破損させる問題が生じた。特開2007−139704号公報に記載のように、ノズルを固定したノズル保持具に、ノズル保持具がスライド可能なLM(Linear Motion)ガイドを設けてみた。LMガイドはノズル保持具を直線的に移動させる手段として効果はあるが、ノズル先端を容器底面に衝突させた時、ノズル保持具が重く、ノズル保持具がスライドする前にノズル先端や容器底面が破損した。そこでノズル保持具の重さを徐々に軽くし、ノズル保持具が相対的にスライドしやすい条件にした。しかし、ノズル保持具がスムーズにスライドする時もあれば、ノズル保持具がスライドせずに途中で止まり、容器底面に接触できなかったり、ノズル先端や容器底面を破損したり、液滴が回収できない問題が観察された。
【0012】
これはノズルがXYZ方向に移動する時、ノズルに横ぶれ(傾斜)が発生するのが原因であるとわかった。ノズルの傾斜により、スライドに噛み合わせ不良が生じ、ノズルの自重による降下移動や、容器底面と接触した際の上昇移動が不可能になったり、ノズルの傾斜によってノズル先端位置がずれて液滴への位置決めが不正確になったり、脆弱な容器底面を傷つけたり破損したり、容器底面が相対的に強固な場合は、ノズル先端やノズル自身を破損したりすることがわかった。
【0013】
ノズルを傾斜させないため、ノズルや配管、ポンプを常に直線上に位置させる方法が考えられるが、ノズルの移動のたびに直線上に位置した配管やポンプも移動させなければならないため、液体吸引装置が巨大化する問題がある。
【0014】
従って、従来の液体吸引装置は、ノズルの縦横高さ方向の移動により生じるノズルの傾斜が原因で、ノズル先端や容器底面を破損させたり、ノズル先端の位置決め精度を低下させたりする問題があった。
【0015】
本発明は、ノズルの傾斜を補正することで、ノズルや容器底面を破損させることなくノズル先端を容器底面に接触させ、かつノズル先端の位置決め精度を向上させて、液体の吸引率を向上できる液体吸引装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の液体吸引装置は、以下のような手段をいくつか組み合わせて用いる。
(1)XYZ方向に移動可能なアーム、配管、配管が固定された配管固定部材、配管に結合したポンプを備える。配管固定部材はアームと繋がり、配管末端開口部が容器底面に接触した際、配管固定部材はアームに対して相対的な変位が可能で、配管固定部材がアームに対して傾斜した場合、傾斜の補正が可能な機構を備える。なお、ノズルは配管と一体であり、配管末端開口部がノズル先端に相当する。
(2)配管固定部材とアームの相対的な位置変化は、アームの上方に延びる3本以上の互いに平行なレールを設け、配管固定部材に設けた貫通孔にレールを通して、配管固定部材がレール上を移動できるようにすることで可能とした。ノズルの傾斜の補正は、アーム上のレール位置を結んでできる多角形上あるいはその外側に反発材を設けることで可能とした。反発材は配管固定部材には結合していない。配管固定部材がレール上でアームに対して傾斜すると、配管固定部材が反発材を押し、反発材が配管固定部材を押し返すことでノズルの傾斜が補正される。この構成により、配管末端開口部(ノズル先端)を容器底面に接触させて、溶液を回収できる。
(3)反発材は、配管固定部材の相対的に移動可能なすべての方向に備えられており、配管固定部材がレール上の中心から移動可能などちらか一方に位置していた際、傾斜しても、配管固定部材は一方に位置していた側に備えられた反発材を押し、反発材は押し返すことで傾斜を補正する。
(4)反発材を導電性とし、反発材が接触する配管固定部材の面に導電膜を設ける。この場合、複数の反発材が配管固定部材と接触するとその反発材同士が電気的に導通し、反発材間の電気的な導通と非導通によって、配管固定部材の傾斜を判定することができる。
(5)反発材の基部に圧電素子を設ける。この場合、配管固定部材が傾斜し、配管固定部材が反発材を押したとき、反発材による押圧を圧電素子が検出して配管固定部材の傾斜を判定することができる。
(6)反発材間の電気的導通もしくは非導通、又は圧電素子による押圧検出もしくは非検出の組み合わせによって、配管固定部材の傾斜を判定し、所定量の配管固定部材の傾斜を検出した場合は、配管固定部材の傾斜を配管調整部で補正するようにしてもよい。
(7)配管調整部は、配管固定部材とポンプの間に設ける。配管調整部は回転体であり、回転体に配管が巻かれており、回転体が回転して、配管調整部と配管固定部材の間の配管長を調整することで、配管固定部材の傾斜を補正する。
(8)液体吸引装置は、アームをXY方向に移動させることで、配管末端開口部を試料容器上に移動させ、アームをZ方向に移動させることで、配管末端開口部を試料容器底面と接触させ、接触と同時に配管と結合する配管固定部材がアームと結合するレール上を移動し、配管末端開口部から配管内に液体を吸引する。
(9)アームのXY方向の移動前に、反発材間の通電を確認し、通電が検出された場合には配管固定部材は正常位置にあり、通電が検出されなかった場合には配管固定部材は不正位置にあると判定する。不正位置の場合、配管調整部によって配管長を調整し、配管固定部材を正常位置に補正する。配管固定部材が正常位置の場合、アームをXY方向又はZ方向に移動させる。Z方向移動中、反発材間の通電をモニタリングし、反発材間の通電が検出されている間は、配管末端開口部は容器底面と接触していないと判定してZ方向のアームの移動を続け、反発材間の通電が検出されなくなったとき、配管末端開口部が容器底面と接触したと判定し、アームの高さ方向の移動を停止する。その後、配管末端開口部から液体を吸引する。
(10)反発材を配管固定部材の下方だけでなく、上方にも設置する。下側の反発材間同士で通電している場合は、配管固定部材は正常位置と判定し、上側の反発材同士で通電している場合には、配管固定部材の上下移動の上限にあることを判定する。上側の反発材と下側の反発材で通電している場合には、配管固定部材が傾斜していると判定し、配管調整部を用いて配管長を調整し、配管固定部材の傾斜を補正する。
(11)反発材の基部に設けられている圧電素子が所定量以上の押圧を検出した場合、配管固定部材が傾斜していると判定し、配管調整部を用いて配管長を調整し、配管固定部材の傾斜を補正するようにしてもよい。
(12)反発材は、ばね、ゴム、スポンジ、もしくは磁石とすることができる。反発材を磁石で構成する場合には、反発材と配管固定部材が向かい合う部分を同極の磁石とする。あるいは、反発材と配管固定部材、レールのお互いに向かい合う部分を同極の磁石とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、配管末端開口部(ノズル先端)や容器底面を破損させずに配管末端開口部を容器底面に接触させることができ、容器底面上にある液滴を効率良く回収することができる。また、配管が曲がることで配管固定部材が傾斜しても補正可能なため、配管を常に直線状にする必要が無く、装置をコンパクト化できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】液体吸引装置の一例の全体構造図。
【図2A】配管固定部材とレール台の分解組立図。
【図2B】配管固定部材とレール台を組み立てた状態の図。
【図3A】配管固定部材の一例を示す平面模式図。
【図3B】レール台の一例を示す平面模式図。
【図4A】ノズル先端が液滴の上方に位置する状態を示す図。
【図4B】ノズル先端がメンブレンフィルターと衝突した状態を示す図。
【図5A】反発材による配管固定部材の傾斜補正効果を説明する図。
【図5B】反発材が無い場合の比較図。
【図6A】配管固定部材の上下に反発材を有し、配管固定部材が自重により下側の反発材と接触している状態を示す図。
【図6B】配管固定部材の下側の反発材による傾斜補正効果の説明図。
【図6C】配管固定部材の上下に反発材を有し、配管固定部材が上方向に移動した状態を示す図。
【図6D】配管固定部材の上側の反発材による傾斜補正効果の説明図。
【図7A】配管固定部材の位置と傾斜状態を検出するための構成例を説明する図。
【図7B】配管固定部材の位置と傾斜状態を検出するための構成例を説明する図。
【図7C】配管固定部材の位置と傾斜状態を検出するための構成例を説明する図。
【図7D】配管固定部材の位置と傾斜状態を検出するための構成例を説明する図。
【図7E】配管固定部材の位置と傾斜状態を検出するための構成例を説明する図。
【図8】微生物計測が可能な液体吸引装置の説明図。
【図9】液体吸引の手順を示すフローチャート。
【図10】入出力部の表示画面例を示す図。
【図11A】本発明を用いなかった場合に生じた問題の説明図。
【図11B】本発明を用いなかった場合に生じた問題の説明図。
【図11C】本発明を用いなかった場合に生じた問題の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1を用いて、本発明による液体吸引装置の全体構造例を説明する。なお、以下の説明中の具体的な数値や材料等は単に一例を示したにすぎず、本発明を限定するものではない。
【0020】
液体吸引装置の外枠の大きさと形状の一例は、縦30cm、横40cm、高さ40cmの直方体状である。液体吸引装置の基本構成は、XYZ方向に移動可能なアーム101、配管102、配管102が固定された配管固定部材103、配管102の後端に接続されたポンプ104、アーム101を駆動する移動機構115、配管固定部材103がアーム101に対して傾斜したときに傾斜を補正する傾斜補正機構を備える。移動機構115やポンプ104は制御部105によって制御される。この他に、複数の試料容器106,107,108、試料容器台109を備える。なお、図示した試料容器106の容器底面はメンブレンフィルター110である。アーム101にはレール台111が、レール台111には複数本のレール112が固定されている。複数本のレールは互いに平行である。
【0021】
図2Aは配管固定部材103とレール台111の分解組立図、図2Bは配管固定部材103とレール台111を組み立てた状態の図である。図2Aに示されているように、配管固定部材103には上下に貫通する貫通孔113が設けられ、使用状態では図2Bに示すように、貫通孔113にレール112が貫通している。配管固定部材103は、図2Bに上下の矢印で示すように、レール112上を自由に上下動可能である。通常、配管固定部材103は自身の自重で、レール台111上の反発材114と接触しているが、反発材114と結合してはいない。
【0022】
図3Aは配管固定部材の一例を示す平面模式図、図3Bはレール台の一例を示す平面模式図である。図3Bに示すように、レール台111上に設けられた反発材114は、4本のレール112で形作られる四角形の外側の四隅に位置する。レール台111の中央には配管102が貫通する穴116が設けられている。図3Aに示すように、配管固定部材103は、4つの貫通孔113に4本のレール112が通り、自身の自重で四隅の反発材114を覆う形で接触する(図2B)。配管固定部材103の中央には配管102が固定されている。
【0023】
本実施例の配管102は、長さ2m、内径0.530mm、外形0.660mmの円筒形のガラスキャピラリー(GL Science社)である。配管102は、一方の末端がポンプ104に接続されており、他方の末端から4cmの所で配管固定部材103に固定されている。配管の開口末端部から配管固定部材103までの4cmの部分はノズルとして機能し、配管開口末端部はノズル末端として機能する。ノズルと配管を一体とすることで、ノズル−配管構成の単純化と、ノズル−配管間の接続面を無くすことによる液体吸引速度の安定化、ノズル−配管間の接続面からのコンタミネーション防止を実現している。
【0024】
アーム101はXY(平面)方向に20cm、Z(鉛直)方向に20cm移動可能である。
【0025】
配管固定部材103は、重さ3gのポリプロピレン製で、縦1.5cm、横3cm、高さ0.5cmの直方体である。配管固定部材103に4つ設けられた貫通孔113は、それぞれ直径0.3cmの円筒形の穴である。レール112もアーム101上に4本あり、アルミニウム製で、直径0.28cmの円筒である。配管固定部材103は、貫通孔113にレール112が貫通しており、レール112による拘束を受けてアーム101に対して変位可能である。
【0026】
容器底面に用いたメンブレンフィルター110は、孔径0.45μm、厚さ150μm、空隙率79%のMF−ミリポアメンブレンフィルター(ミリポア製)、又は孔径10μmのマイテックスメンブレンフィルター(ミリポア製)、孔径0.3μm、厚さ7μmのポリカーボネートフィルター(ミリポア製)をそれぞれ直径0.5cmの円形に加工したメンブレンフィルターである。なお、底面がメンブレンフィルターではない汎用的な試料容器としては、直径1.2cmのポリプロピレンチューブ(SARSTEDT、55.535)とポリスチレンチューブ(SARSTEDT、657.462)を用いた。
【0027】
反発材114にはアルミニウムばねを用いたが、スポンジやゴムなどを用いてもよい。また反発材114は磁石でも良く、反発材114として磁石を用いる場合には、反発材114と向かい合う配管固定部材103の面を反発材114と同極の磁石とする。
【0028】
図4A、図4Bと図5A、図5Bを用いて、配管固定部材103のレール112上の移動により生じる効果と、傾斜補正効果について説明する。
【0029】
図4A、図4Bは、配管固定部材がレールに沿って移動することにより生じる効果を示す図である。図4Aの状態において、アーム101は任意の高さ位置にあり、配管末端開口部(ノズル先端)201はどこにも接触しておらず、メンブレンフィルター110上の液滴202の上方に位置する。この任意の高さ位置からアーム101を降下させるとき、ノズル先端201がどこにも接触しない間は、配管固定部材103は反発材114上に載ってアーム101と共に降下する。引き続きアーム101を降下させ、ノズル先端201がメンブレンフィルター110と衝突すると、図4Bに示すように、衝突後のアーム101の降下距離分、配管固定部材103はレール112上を上方向に移動する。この移動によりノズル先端201がメンブレンフィルター110と衝突しても、ノズル先端201とメンブレンフィルター110を破損させずに、ノズル先端201をメンブレンフィルター110に確実に接触させることができる(衝突緩和効果)。続いて、メンブレンフィルター110上の液滴202を吸引する。ノズル先端201とメンブレンフィルター110は接触しているため、ノズル先端201とメンブレンフィルター110に隙間が生じず、効率よく液滴202を吸引できる。
【0030】
なお、ノズル先端201はメンブレンフィルター110に対して平滑以外の形状が好ましい。ノズル先端201がメンブレンフィルター面と平行になるような平滑形状の場合、ノズル先端201とメンブレンフィルター110が接触後、ノズル先端201がメンブレンフィルター110に埋もれてしまい液滴202の吸引が困難になる。ノズル先端が斜めに切断された形状の場合、ノズル先端はメンブレンフィルターに埋もれること無く、液滴の吸引が可能になる。
【0031】
衝突緩和効果は、配管固定部材103がレール112に沿って上方に移動することで生じる。すなわち、配管固定部材103がレール112に沿って上下動可能なことが必要であるが、我々は、配管固定部材103がアーム101に対して傾斜すると、配管固定部材103の貫通孔113とレール112間で摩擦が生じ、配管固定部材103の上下動が不可能になることを見出した。
【0032】
配管固定部材103の傾斜を生じさせない方法として、貫通孔113とレール112の直径をほぼ同じにすることが考えられるが、そうすると配管固定部材103の僅かな傾斜で貫通孔113の内面とレール112の外面で摩擦が生じ、配管固定部材103の上下動が不可能になる。また、配管固定部材103の傾斜はノズル先端201の位置決め精度にも関わり、微量な液滴202にノズル先端201を接触させようとする場合、配管固定部材103の傾斜に伴いノズル先端201が傾斜してノズル先端の位置が変化し、微量な液滴と接触できず、吸引しても液滴を回収できない。
【0033】
ノズル先端201や容器底面がガラスキャピラリーやメンブレンフィルターのような脆弱な材質の場合、摩擦を小さくし、配管固定部材103を可能な限り軽くして、摩擦や重量によるノズル先端201や容器底面の破損を防ぐ必要がある。ただし摩擦を小さくし、重量を軽くすると、配管固定部材103は傾斜しやすくなる。配管固定部材103の傾斜は、ノズル先端201を容器底面に接触させる試みにおいて、常に付きまとう問題である。配管固定部材103の傾斜は、アーム101のXY方向あるいはZ方向の移動時や、ノズル先端201が容器底面と接触する時に生じる。この過程で配管固定部材103の傾斜を補正する必要がある。
【0034】
図5A及び図5Bを用いて、本発明の傾斜補正効果について説明する。図5Aはレール台111上に反発材が有る場合を示し、図5Bは反発材が無い場合を示している。図4Aを初期状態として、その状態からの傾斜に着目した。図4Aの状態では、ノズル先端201はどこにも接触しておらず、アーム101は任意のXYZ位置にあり、図3Bに示したように、反発材114はレールで囲まれる四角形の外側かつ配管固定部材103の下方に設けられている。配管固定部材103は、その自重により反発材114と接触しており、配管固定部材103は傾斜していない。
【0035】
次の2つの方法を用いて傾斜補正の効果を評価した。
(1)配管固定部材103から例えば30cm上の配管102の部分をつまみ、右横方向に引っ張ると、配管102は配管の固定点を支点として右方向に曲がる。配管102を右横方向に更に引っ張ると、配管102は更に右方向に曲がる。それに伴って配管固定部材103が右方向に傾斜し始める。反発材114が設けられている図5Aの場合、配管固定部材103が右側に傾斜すると、配管固定部材103の右側に設けられた反発材114が押し返す。反発材114の押し返しにより、配管固定部材103の傾斜が補正される。
【0036】
傾斜補正が可能な傾斜角度を評価するため、配管固定部材上の配管を原点とする縦約10cm、横約5cmの大きさの四角形を設け、その四角形と引っ張った配管の交点と、原点とを結ぶ直線と、配管を引っ張る前の位置(直線)で構成される角度を計算した。図5Aのように反発材114を設けた場合、配管102が38°傾いても、配管固定部材103は上下動可能な状態に補正された。一方、図5Bのように反発材114が設けられていない場合、配管102が24°傾くと、配管固定部材103の上下動は不可能になった。反発材114を設けたことによる傾斜補正効果により、傾斜は58%改善した。
【0037】
(2)アーム101の横移動量から傾斜補正効果を評価した。ポンプ104付近の配管を固定し、固定した位置から離れる横方向へアーム101を移動させることで、配管固定部材103を傾斜させ、配管固定部材103の上下動が可能な距離を評価した。反発材114を設けた場合は、反発材114が無い場合に比べて、横移動量が70%改善した。
【0038】
以上2つの結果は、たとえ配管102が曲がっても、配管固定部材103の上下動が可能なことを示している。配管の曲がりの自由度が増えるため、その分、配管設計に自由度が生まれ、装置のコンパクト化が可能になる。また横移動量の増加は、ノズル先端のXY方向とZ方向への移動量の増加を意味し、配管固定部材の傾斜によるノズル先端と容器底面に接触時の各部の破損確率の大幅な低減が可能になる。
【0039】
次に、レール台111上のレール112の本数と位置について検討した。レール112の本数は、3本以上が好ましい。2本以下でも構わないが、その場合には配管固定部材103が傾斜しやすく、傾斜補正も難しいことがわかった。レール112の位置はレール台111の中心から等距離で、レール間も等距離であることが好ましいが、厳密に等距離である必要はない。
【0040】
反発材114の設置位置について検討した。レール台111上のレール112の位置を結んで構成される多角形上、ないしその多角形の外側に反発材114を設けるのが好ましい(図3B)。例えば、レール112を4本とすると、4本のレール112を頂点とする四角形上ないし四角形の外側に設置するのが好ましい。反発材114は、各レール112の位置に、そのレールを取り囲むようにして設けてもよい。なお反発材114は、配管固定部材103又はレール台111のどちらか一方に結合するか、又はどちらにも結合しないことが好ましい。反発材114を配管固定部材103とレール台111の両方に結合すると、ノズル先端や容器底面を破損することが判明した。
【0041】
傾斜補正の効果は、配管固定部材103が傾斜した時、反発材114と接触することで生じる。従って、図4Bのように、衝突緩和効果が生じ、配管固定部材103が反発材114から離れているときには、配管固定部材103が傾斜しても反発材114と接触しないと傾斜補正の効果は生じない。
【0042】
この問題に対処するため、新たに配管固定部材の上方向の移動側にも反発材301を設けた。図6Aから図6Dにより説明する。図6Aから図6Dに示すように、本実施例では、レール112の上端に上部レール台121を固定し、上部レール台の下面にも反発材301を設けた。上側の反発材301は、レール台111に設けられた下側の反発材114と対向する位置に複数個設けた。反発材301には、反発材114と同じ材質のものを用いた。2つのレール台111,121間の間隔は配管固定部材103が傾斜した際に反発材が接触するように設定すればよく、本実施例では、間隔幅を約3cmとした。
【0043】
図6Aの状態では、ノズル先端201はどこにも接触しておらず、アーム101は任意のXYZ位置にあり、配管固定部材103は自重により下側の反発材114と接触している。一方、配管固定部材103は、上方向の移動側に設けられた反発材301とは接触していない。この状態から仮にアーム101を左横方向に移動させると、配管固定部材103より上の配管102は右方向に曲がる。更にアーム101を左横方向に移動させると、配管102は右方向に曲がり、それに伴って配管固定部材103が右方向に傾斜する。図6Bに示すように、配管固定部材103が右側に傾斜すると、下側の反発材114が配管固定部材103を押し返す。この反発材114の押し返しにより、配管固定部材103の傾斜が補正され、配管固定部材103はレール112に沿って上下動が可能な状態に補正される。
【0044】
図6Cは、配管固定部材103が上方向に移動した状態を示しており、この状態になるのは、ノズル先端201が容器底面に接触している時か、もしくはノズル先端201が容器底面から離れた瞬間である。配管固定部材103は、上側に設けられた反発材301と接触しているが、下側の反発材114とは接触していない。この状態で仮にアーム101を左横方向に移動させると、配管102は右方向に曲がる。更にアーム101を左横方向に移動させると、配管102は右方向に曲がり、それに伴って配管固定部材103が右方向に傾斜する。上側の反発材301が設けられていない場合、配管固定部材103と結合する配管102が図6Cの位置から20°傾くと、配管固定部材103のレール112に沿った上下動は不可能になる。しかし、配管固定部材103の上側に反発材301が設けられている場合、配管固定部材103が右側に傾斜すると、図6Dに示すように、左側に設けられた反発材301は配管固定部材103を押し返す。この反発材301の押し返しにより、配管固定部材103の傾斜が補正され、配管102が25°傾いても、配管固定部材103はレール112に沿った上下動が可能な状態に補正される。傾斜補正は傾斜を25%改善した。
【0045】
次に、配管固定部材103の位置と傾斜状態をモニタリングする実施例について説明する。配管固定部材103の位置と傾斜状態が目視確認できない環境で、アームを移動させなければならない場合がある。例えば微弱光検出装置は、外枠は外から光が入り込まない暗箱として設計することで、暗箱内の検出部、例えば光電子増倍管に外光を蓄光させず検出装置の高感度化を実現している。このような装置に本発明を組み込んだ場合、配管固定部材103の状態を確認するために、暗箱の扉を常時開放することはできない。このような装置では、サンプルを暗箱内に設置し、液体吸引装置によりサンプルを吸引吐出し、かつ微弱光検出が終了するまで、配管固定部材103の位置と傾斜状態を目視で確認することはできない。万が一、人為的な問題等で、傾斜補正効果が機能しなかった場合、唯一のサンプルを失う恐れがある。そこで、配管固定部材103の位置と傾斜状態をモニタリングして、ノズル先端201を容器底面に確実に接触させ、配管固定部材103が傾斜しても正常位置に補正することができ、またノズルやノズル先端201、容器底面を破損させる危険を確実に回避するようにした。
【0046】
図7Aを用いて、配管固定部材103の位置と傾斜状態を検出するための構成例を説明する。液体吸引装置は、配管固定部材103の上側と下側に導電性の反発材114,301を複数個有し、各反発材は制御部105と電気的に繋がっている。また配管固定部材103は反発材114,301との接触面に導電膜401を備えており、反発材114、301が配管固定部材103と接触すると、接触した反発材同士は電気的に導通する。配管固定部材103の上面の導電膜と下面の導電膜の間も電気的に接続されている。従って、配管固定部材103が傾斜して、下側の一部の反発材114が配管固定部材103の下面の導電膜に接触し、上側の一部の反発材301が上側の導電膜に接触した場合には、上下の反発材の間が導電膜を介して導通し、配管固定部材103の傾斜が検出される。また反発材114,301の基部にそれぞれ圧電素子402,403を設け、配管固定部材103が傾斜して反発材を押すと、反発材からの押圧を圧電素子402,403が検出する。
【0047】
図7Aは、配管固定部材103が基準位置にあるときの図である。ノズル先端201はどこにも接触せず、アーム101は任意のXYZ位置にあり、配管固定部材103はその自重で下側の反発材114と接触している。配管固定部材103下面の導電膜401は反発材114と接触しているため、反発材114間は電気的に結合している。また配管固定部材103は傾斜していないため、反発材114の基部に設けられた圧電素子402には配管固定部材103の自重(所定量の圧)を大きく超える圧力が加わっていない。この電気的な結合と、圧電素子402の検出圧が所定量の圧力の場合、液体吸引装置は、配管固定部材103が基準位置にあると判定する。
【0048】
図7Bは、ノズル先端201が容器底面404に接触し、配管固定部材103が上方向に移動した時の図である。配管固定部材103はどの反発材にも接触していないため、各反発材間は電気的に導通していない。また反発材の基部に設けられた圧電素子には押圧が加わらない。電気的な導通が無く、圧電素子が圧力を検出しない時、液体吸引装置は、配管固定部材103が傾斜せず、ノズル先端201が容器底面404に接触したと判定する。
【0049】
図7Cは、ノズル先端201が容器底面404に接触してから更にアーム101が降下し、配管固定部材103が上方向の移動の上限に達した状態の図である。配管固定部材103は上側の反発材301と接触し、反発材301間は電気的に導通している。配管固定部材103は傾斜していないため、反発材301の基部に設けられた圧電素子403に押圧を加えていない。このように上側の反発材301間に電気的な導通があり、圧電素子が圧力を検出しない時、液体吸引装置は、配管固定部材103が傾斜せず、ノズル先端201が容器底面に接触し、かつ配管固定部材103の上方向の移動の上限に達したと判定する。
【0050】
図7Dは、配管固定部材103が傾斜して下側の一部の反発材114を押し、反発材114が配管固定部材103を押し返すも、押し返しの力よりも傾斜の力が強いため、傾斜補正の効果が働かない場合の図である。配管固定部材103は傾いた側のみの反発材114と接触している。この時、反発材114間は電気的に導通していない。配管固定部材103は傾斜しているため、下側の一部の反発材114の基部に設けられた圧電素子402に配管固定部材103の自重を大きく超える圧力が加わる。このように、反発材間に電気的な導通がなく、一部の圧電素子402が所定量以上の圧力を検出した場合、液体吸引装置は、反発材114が機能せず、配管固定部材103が傾斜していると判定する。
【0051】
図7Eは、配管固定部材103が傾斜して上側の一部の反発材301を押し、上側の反発材301が配管固定部材103を押し返すも、押し返しの力よりも傾斜の力が強いため、傾斜補正の効果が働かない時の図である。配管固定部材103は傾いた側と反対側の上側反発材301のみと接触している。この時、反発材301間は電気的に導通していない。一方、上側の一部の圧電素子403には規定以上の圧力が加わる。この電気的な導通がないことと、一部の圧電素子が大きな圧力を検出した場合には、液体吸引装置は、反発材301が機能せず、配管固定部材103が傾斜していると判定する。
【0052】
図7A〜図7Eの実施例では、反発材にアルミニウムのばねを用い、導電膜401にはアルミニウム薄膜を用いた。反発材と導電膜401は、電気的に通電可能であれば良く、金属や導電性高分子膜を用いても良い。
【0053】
実験では、図7Dや図7Eのように、反発材が機能せず、配管固定部材103が傾斜したままの時があった。このように反発材の押し返し以上の傾斜が生じる原因は、配管固定部材103とポンプ間の配管長が長すぎたり、短すぎたりして、適切な配管長が維持されていないためと判明した。そこで、図8に示すように、配管長を調整する配管調整部801を設けた。配管調整部801は、配管固定部材103とポンプ104の間に設けた。配管調整部801は回転体を備え、回転体に配管102を巻き、回転体が回転することで配管調整部801と配管固定部材103間の配管長を調整し、配管固定部材103の傾斜を補正する。図5Aで示した配管が38°以上傾いた時、配管長を調整することで傾斜補正が可能となった。
【0054】
配管固定部材の傾斜を補正し、適切に液体吸引操作を行う方法について、図9のフローチャートを用いて説明する。装置構成としては、図7及び図8を参照する。
【0055】
液体吸引操作を開始する(S501)。液体吸引装置は、下側の反発材114間の通電を確認する(S502)。通電が確認できない場合や上側反発材301間で通電が確認された場合は、配管固定部材103が傾斜している、又は基準位置ではないと判定し、配管調整部を稼動し、配管固定部材103の傾斜を補正する(S503)。下側反発材114間で通電している場合は、下側反発材の基部に設置した圧電素子402の検出圧を確認する(S504)。所定量以上の圧力が検出された場合、配管固定部材103が傾斜していると判定し、配管調整部を稼動し、配管固定部材103の傾斜を補正する。基準値以上の圧力が検出されない場合、配管固定部材103は正常位置(図7A)にあると判定する(S505)。
【0056】
続いて液体吸引装置は、アーム101をXY方向又はZ方向に移動させることを選択する(S506)。アーム101をXY軸平面方向に移動(S507)する場合は、移動終了(S508)後、再び配管固定部材103の位置と傾斜を確認する。
【0057】
ノズル先端201をZ軸方向に移動する場合、アーム101を下降移動させ(S509)、反発材間の通電をモニタリングする(S510)。下側反発材114間の通電を検出した場合は(S511)、ノズル先端201は容器底面404と接触していないと判定し、アーム101の下降移動を続ける。上側反発材301同士で通電している場合、配管固定部材103の上方向の移動の上限に位置すると判定した場合(S512)、又は下側反発材114間と上側反発材301間の通電が検出されなかった場合(S510)、圧電素子402により圧力を確認し(S513)、圧力が検出されなかった場合、ノズル先端201と容器底面404が接触し、配管固定部材103が上方向に移動したと判定し(S514)、アーム101の下降移動を停止する。その後、ノズル先端201から液体を吸引し(S515)、アーム101を上昇移動させ(S516)、アーム101の移動選択(S517)もしくは、液体吸引操作を終了する(S518)。液体を吐出する操作についても、図9のフローに従って操作し、ステップ515において吸引操作に代えて吐出操作を行うようにしてもよい。
【0058】
ここでは、導電性の反発材と表面に導電膜を備える配管固定部材を用いて、配管固定部材の位置と傾斜状態を検出する構成、及び、各反発材の基部に圧電素子を設けて配管固定部材の傾斜を検出する構成を、配管固定部材の下方及び上方の両方に反発材が設置されている実施例によって説明した。しかし、これらの構成は、図1から図5で説明した、配管固定部材の下方にのみ反発材が配置されている実施例に適用することも可能である。また、導電性の反発材と表面に導電膜を備える配管固定部材を用いる構成と、各反発材の基部に圧電素子を設ける構成を、それぞれ単独で採用することもできる。
【0059】
また、配管固定部材の傾斜状態を常にモニタリングし、モニタリングしたデータを記憶部に格納し、液体吸引操作が正常に開始され終了したデータを記録するようにしてもよい。モニタリングデータは、例えば、本発明が医療分野などの検査装置に組み込まれた場合において、人の血液検査等の分注操作が適切に実施され終了したことを証明するものとして使用する。モニタリングデータに異常があった場合は、分注操作の異常個所がすみやかに発見でき、貴重なサンプルの喪失防止と確実な部品交換が可能となる。
【0060】
以下、液体吸引装置と液体吸引吐出方法を用いた微生物検出の実施例について説明する。
本発明の液体吸引装置を用いた場合と用いない場合とで、暗箱内で大腸菌由来のATP(Adenosine triphosphate)分子をホタル由来ルシフェラーゼとルシフェリンで微弱発光反応させ、発光を検出し、発光量からATP量を換算し、大腸菌検出感度として両者を比較した。
【0061】
図8は、本実施例で用いた分析装置の概略図である。なお液体吸引装置には、メンブレンフィルターを底面とする試料容器の設置が可能である。液体吸引装置には、吸引部802と廃液部803、微生物溶解液805の入った微生物溶解液供給部804、検出部806、発光試薬808が入った発光試薬槽807が設けられており、これらは暗箱809内に納められている。液体吸引装置は、暗箱809の外側に設けられた入出力部810から操作される。なお、試料容器106の設置から、微弱発光反応を検出終了までの間、測定者は暗箱809を開けることができず、目視で暗箱809内のノズル先端201の位置及び傾斜状態を確認することができない。
【0062】
測定対象微生物として大腸菌を用いた。大腸菌数が300個/300μLとなるように、大腸菌をリン酸バッファーpH7.4(インビトロジェン)に懸濁し、大腸菌懸濁液を作製した。
【0063】
試料容器106内のメンブレンフィルター110上にそれぞれ大腸菌懸濁液を10mL加え、さらに微生物外生体物質除去試薬であるルシフェールHSセット(キッコーマン)付属のATP消去液を10μL加え、試料容器106を暗箱809内に設置し、暗箱809を閉じた。図10は、入出力部810の表示画面例を示す図である。入出力部には、図9に示した処理工程に従って、ノズル先端の位置や配管固定部材の傾斜状態が表示される。また、ステップモニタリング表示部608にノズル操作の現在の工程が表示される。
【0064】
吸引部802を用いてメンブレンフィルター110を介して大腸菌懸濁液とATP消去液をろ過した。ろ過後、ノズル先端201は微生物溶解液供給部804から微生物溶解液805であるルシフェールHSセット付属のATP抽出液を300μL吸引し、メンブレンフィルター110上に吐出し、大腸菌からATP分子を抽出した。メンブレンフィルター110上に残った微生物溶解液を、ノズル先端201を降下させてメンブレンフィルター110に接触させることで、微生物溶解液を配管102内に吸引し、検出部806上に設置された発光試薬槽807内にある発光試薬808(ルシフェールHSセット付属の発光試薬200μL)へ、ノズル先端201を発光試薬槽807の底面に接触させながら吐出した。発光試薬槽807底面は検出部806に最も近く、この位置で吐出すると、生じた発光を検出部806は最も効率よく検出する。なおノズル先端201を底面に接触させずに吐出すると検出感度は低下した。
【0065】
以上、本発明の液体吸引装置を用いた場合、配管固定部材103の位置と傾斜状態を常に入出力部810でモニタリングすることが可能となった。なお入力部810はタッチパネルディスプレイである。例えば、配管固定部材103が傾斜した場合、配管固定部材103の傾斜判定ステップS502、S504、S513で傾斜を判定し、判定結果を入出力部810の配管傾斜アラート602の表示で確認する。配管固定部材103が傾斜していると判定されると、例えば、配管傾斜アラート602の表示の背景色が変化する。その場合、配管調整部稼動ステップS503で配管調整部801が配管長を調整して傾斜を補正していることを、入出力部810の配管調整部稼動中603の表示で確認することができ、補正後、正常位置判定ステップS506で配管固定部材が正常位置にあることを、入出力部810の配管固定部材正常位置604の表示で確認することができる。
【0066】
また、容器底面接触判定ステップS514で配管固定部材103が傾斜することなく、ノズル先端201がメンブレンフィルター110と接触したことも、入出力部810の容器底面接触中605の表示で確認することができ、微弱発光反応に伴う発光は、発光モニタリング画面606により観察することができる。入出力部810には、測定開始ボタン607と、現在ステップを知らせるステップモニタリング608の表示部も設けられている。一方、本発明の液体吸引装置を用いなかった場合では、発光反応スペクトルのみを得た。
【0067】
それぞれ試行回数を10回とした時の結果は、本発明を用いた場合、大腸菌1個あたり平均1.36amolのATPを検出でき、SD 0.01amol ATP、C.V.1%となった。一方、本発明を用いなかった場合、大腸菌1個あたり平均値0.95amol ATP、SD 0.34amol ATP、C.V.35.4%となり、発明を用いた場合は平均値、SD、C.V.共に改善された。
【0068】
更に、本発明を用いない場合において、発光を検出できない場合が生じた。発光が検出されない場合ごとに、暗箱を開けて装置内部を確認したところ、図11Aに示すように、アーム101の降下の際、配管102の長さが足りず、配管固定部材103が傾斜して、レール台111上のレール112が貫通孔113に引っかかり、ノズル先端201も傾斜して試料容器106のメンブレンフィルター110上の液滴202が吸引できない場合があった。また、図11Bに示すように、配管固定部材103が傾斜して上下動できなくなり、ノズル先端201がメンブレンフィルター110を突き抜けることで、サンプル液滴を喪失したり、図11Cに示すように、配管固定部材103が基準位置にないため、ノズル先端201がメンブレンフィルター上の液滴202に接触できないことで液滴を吸引できず、発光が生じなかったことがわかった。
【0069】
本発明を用いた場合には、メンブレンフィルター上の液滴を効率よく配管内に吸引でき、微生物検出感度が改善された。
【符号の説明】
【0070】
101 アーム
102 配管
103 配管固定部材
104 ポンプ
105 制御部
106〜108 試料容器
109 試料容器台
110 メンブレンフィルター
111 レール台
112 レール
113 貫通孔
114 反発材
121 上部レール台
201 ノズル先端
202 液滴
301 反発材
401 伝導体
402 圧電素子
403 圧電素子
404 容器底部
601 入力部
602 配管傾斜アラート表示
603 配管調整部稼動中表示
604 配管固定部材正常位置表示
605 容器底面接触中表示
606 発光モニタリング表示
607 測定開始ボタン
608 ステップモニタリング表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元方向に移動可能なアームと、
前記アームから上方に突出して設けられた複数本の互いに平行なレールと、
ポンプと、
先端部分がノズルとして機能し後端が前記ポンプに結合した配管と、
前記配管の前記先端部分が固定され、前記複数本のレールを通す複数の貫通孔を有し、前記複数本のレールに沿って前記アームに対して可動な配管固定部材と、
前記アームと前記配管固定部材の間に位置するように前記アームに固定された複数の反発材と、
を有することを特徴とする液体吸引装置。
【請求項2】
請求項1記載の液体吸引装置において、前記複数本のレールの上端に固定された上部レール台と、前記上部レール台と前記配管固定部材の間に位置するように前記上部レール台に固定された複数の反発材と、を有することを特徴とする液体吸引装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液体吸引装置において、前記反発材は、ばね、ゴム、スポンジ、又は磁石であり、前記反発材が磁石の場合には前記反発材と対向する前記配管固定部材の部分を同極の磁石とすることを特徴とする液体吸引装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の液体吸引装置において、前記レールは3本以上であり、前記反発材は、前記複数のレールを結んでできる多角形上もしくは当該多角形の外側に配置されていることを特徴とする液体吸引装置。
【請求項5】
請求項1又は2項記載の液体吸引装置において、前記配管の先端を容器の底面に接触させて、当該容器内の液体を吸引することを特徴とする液体吸引装置。
【請求項6】
請求項1又は2記載の液体吸引装置において、前記反発材は導電性を有し、前記配管固定部材は表面に導電膜を有し、前記反発材の間の導通状態から前記配管固定部材の位置と傾斜を判定することを特徴とする液体吸引装置。
【請求項7】
請求項1又は2記載の液体吸引装置において、各反発材の基部に設置された圧電素子を有し、各圧電素子が検出した圧力によって配管固定部材の傾斜状態を判定することを特徴とする液体吸引装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載の液体吸引装置において、前記配管固定部材と前記ポンプとの間に、前記配管が巻かれた回転体を有する配管調整部を備え、前記配管固定部材の所定量の傾斜を検出したときは前記回転体を回転して前記配管固定部材との間の配管長を調整することを特徴とする液体吸引装置。
【請求項9】
請求項1記載の液体吸引装置において、
前記反発材は導電性を有し、前記配管固定部材は表面に導電膜を有し、
前記配管固定部材と前記ポンプとの間に、前記配管が巻かれた回転体を有し、前記回転体を回転して前記配管固定部材との間の配管長を調整する配管調整部を備え、
前記アームの移動前に、前記配管固定部材の導電膜を介した前記反発材間の通電を確認し、通電が検出された場合には前記配管固定部材が正常位置にあり、通電が検出されなかった場合には前記配管固定部材が不正位置にあると判定し、
不正位置と判定された場合には、前記配管調整部を用いて配管長を調整して前記配管固定部材を正常位置に補正し、
前記配管固定部材が正常位置の場合、前記アームを所望の方向に移動し、移動中、前記反発材間の通電を常時モニタリングし、
高さ方向へのアーム移動時、前記反発材間の通電が検出されなくなった時、前記配管の先端が容器底面と接触したと判定して、前記アームの移動を停止し、
前記配管の先端から前記容器内の液体を吸引する
ことを特徴とする液体吸引装置。
【請求項10】
請求項2記載の液体吸引装置において、
前記反発材は導電性を有し、前記配管固定部材は表面に導電膜を有し、
前記配管固定部材と前記ポンプとの間に、前記配管が巻かれた回転体を有し、前記回転体を回転して前記配管固定部材との間の配管長を調整する配管調整部を備え、
前記アームに固定された反発材同士が前記導電膜を介して通電している場合、前記配管固定部材は正常位置と判定し、
前記上部レール台に固定された反発材同士が前記導電膜を介して通電している場合、前記配管固定部材は前記レールに沿った上下移動の上限にあると判定する
ことを特徴とする液体吸引装置。
【請求項11】
請求項10記載の液体吸引装置において、前記アームに固定された反発材と前記上部レール台に固定された反発材の間で通電している場合、配管固定部材が傾斜していると判定し、前記配管調整部を用いて配管長を調整し前記配管固定部材の傾斜を補正することを特徴とする液体吸引装置。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項記載の液体吸引装置において、前記配管固定部材の傾斜状態を常にモニタリングし、モニタリングしたデータを記憶部に格納し、液体吸引操作が正常に開始され終了したデータを記録することを特徴とする液体吸引装置。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか1項記載の液体吸引装置において、
微生物溶解液の入った試薬槽と、
底部にメンブレンフィルターを備える試料容器と、
前記メンブレンフィルターを介して前記試料容器中の液体を吸引する吸引部と、
発光試薬の入った試薬容器と、
発光を検出する検出部とを有し、
微生物を含むサンプルを前記試料容器に供給し、前記メンブレンフィルターを介して前記吸引部を用いてろ過し、前記メンブレンフィルター上に微生物を捕捉し、
前記配管の先端から前記試薬槽内の微生物溶解液を吸引して前記メンブレンフィルター上へ吐出し、前記配管の先端を前記メンブレンフィルターに接触させて再び前記微生物溶解液を吸引し、
前記吸引した微生物溶解液を前記試薬容器内の発光試薬内へ吐出し、
生じた発光を前記検出部で検出することを特徴とする液体吸引装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【公開番号】特開2011−174818(P2011−174818A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39247(P2010−39247)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】