説明

液体噴出装置及び液体噴出方法

【課題】 液体噴出装置において外乱に強く正確な駆動波形信号を生成する。
【解決手段】 (A)信号の波形形状を規定するデジタル信号を生成するデジタル信号生成部と、前記デジタル信号に基づいてアナログ波形信号を生成するアナログ波形信号生成部と、が一体的に形成されたチップを有する制御部と、(B)前記アナログ波形信号を電圧増幅および電流増幅して電圧波形信号を生成する電圧波形信号生成部と、前記電圧波形信号とグランドとの電位差に応じて駆動され、ノズルから液体を噴出させる素子と、を有するヘッド部と、(C)所定の方向に並ぶ複数の伝送線を有する伝送部であって、前記アナログ波形信号を、前記制御部から前記ヘッド部へ所定の伝送線を介して伝送する伝送部と、を備える液体噴出装置であって、前記伝送部において、前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線が、グランド線に隣接するように配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴出装置及び液体噴出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッド部から液体を噴出して媒体上に液滴(ドット)を着弾させることで画像等の記録を行う液体噴出装置が広く普及している。そして、ヘッド部から液体を噴出させる方法として、ヘッド部の内部に設けられた圧電素子等の素子に駆動波形信号を印加して、当該圧電素子を振動させることで液体を噴出させる方法が知られている。
【0003】
このような液体噴出装置において、所定の電圧信号を生成する制御部からフレキシブルフラットケーブル(FFC)等のケーブルを介してヘッド部に小振幅の電圧信号を入力し、ヘッド部において該電圧信号を電力増幅することで、駆動波形信号を生成する方法が提案されている。(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−343690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法で、ヘッド上に電源用の十分大きなコンデンサを設けておけば、ヘッド駆動時に瞬間的に流れる大きなピークを有する電流を、FFC等のケーブルに流す必要が無い。つまり、FFC等のケーブルには平均的な電流が流れるので、該ケーブルにおける発熱を小さくすることができ、FFCの芯数を減らすことができる。しかし、小振幅の電圧波形信号を制御部からヘッド部に伝送する際に、伝送経路(FFC)でノイズ等の外乱による影響を受けることによって電圧波形信号に歪等が生じ、ヘッド部において正確な駆動波形信号を生成することができなくなることがある。このような場合、液体噴出量を精度良く制御することができない。
本発明は、液体噴出装置において外乱に強く正確な駆動波形信号を生成することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、(A)信号の波形形状を規定するデジタル信号を生成するデジタル信号生成部と、前記デジタル信号に基づいてアナログ波形信号を生成するアナログ波形信号生成部と、が一体的に形成されたチップを有する制御部と、(B)前記アナログ波形信号を電圧増幅および電流増幅して電圧波形信号を生成する電圧波形信号生成部と、前記電圧波形信号とグランドとの電位差に応じて駆動され、ノズルから液体を噴出させる素子と、を有するヘッド部と、(C)所定の方向に並ぶ複数の伝送線を有する伝送部であって、前記アナログ波形信号を、前記制御部から前記ヘッド部へ所定の伝送線を介して伝送する伝送部と、を備える液体噴出装置であって、前記伝送部において、前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線が、グランド線に隣接するように配置されることを特徴とする液体噴出装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】プリンター1の全体構成を示すブロック図である。
【図2】図2Aは、本実施形態のプリンターの構成を説明する図である。図2Bは、本実施形態のプリンターの構成を説明する側面図である。
【図3】ヘッドの構造を説明するための断面図である。
【図4】ヘッド制御部HCの構成及びその動作について説明する図である。
【図5】駆動波形信号COMについて説明する図である。
【図6】比較例におけるFFC内の伝送線の配置の一例を示す図である。
【図7】実施形態におけるFFC内の伝送線の配置の一例を示す図である。
【図8】FFCが2枚設けられる場合の伝送線の配置の一例を示す図である。
【図9】プリンターの印刷動作中に図8に示される2つのFFCの相対位置がずれた場合の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0010】
(A)信号の波形形状を規定するデジタル信号を生成するデジタル信号生成部と、前記デジタル信号に基づいてアナログ波形信号を生成するアナログ波形信号生成部と、が一体的に形成されたチップを有する制御部と、(B)前記アナログ波形信号を電圧増幅および電流増幅して電圧波形信号を生成する電圧波形信号生成部と、前記電圧波形信号とグランドとの電位差に応じて駆動され、ノズルから液体を噴出させる素子と、を有するヘッド部と、(C)所定の方向に並ぶ複数の伝送線を有する伝送部であって、前記アナログ波形信号を、前記制御部から前記ヘッド部へ所定の伝送線を介して伝送する伝送部と、を備える液体噴出装置であって、前記伝送部において、前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線が、グランド線に隣接するように配置されることを特徴とする液体噴出装置。
このような液体噴出装置によれば、外乱に強く正確な駆動波形信号を生成することができる。
【0011】
かかる液体噴出装置であって、前記伝送部は、前記所定の方向に並ぶ複数の伝送線からなる第1のケーブルと、前記第1のケーブルと対向するように配置され、前記所定の方向に並ぶ複数の伝送線からなる第2のケーブルとを有し、前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線が前記第1のケーブルに含まれるとき、前記第2のケーブルにおいて、前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線と対向する位置に配置される伝送線が、グランド線であることが望ましい。
このような液体噴出装置によれば、ケーブル(FFC)が複数枚重なるように配置されている場合でも、ノイズの影響の小さい正確な駆動波形信号を生成することが可能となる。
【0012】
かかる液体噴出装置であって、前記第2のケーブルにおいて、前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線と対向する位置に配置される伝送線と隣接する伝送線が、グランド線であることが望ましい。
このような液体噴出装置によれば、複数のFFC同士でズレが生じた場合でも、アナログ波形信号COM´とグランド線とを対向した位置関係に保つことができるので、正確な駆動波形信号を生成することが可能となる。
【0013】
かかる液体噴出装置であって、前記伝送部において、電源の電流を伝送する伝送線とグランド線とが隣接するように配置されることが望ましい。
このような液体噴出装置によれば、電流の揺れを小さくし、アナログ波形信号COM´にノイズが影響するのを抑制することができる。
【0014】
また、信号の波形形状を規定するデジタル信号を生成するデジタル信号生成部と、前記デジタル信号に基づいてアナログ波形信号を生成するアナログ波形信号生成部と、が一体的に形成されたチップにおいて、前記アナログ波形信号を生成することと、前記アナログ波形信号を伝送する伝送線が、グランド線に隣接するように配置される伝送部を介して、前記アナログ波形信号を、ヘッド部へ伝送することと、前記ヘッド部において、前記アナログ波形信号を電圧増幅および電流増幅して電圧波形信号を生成し、該電圧波形信号とグランドとの電位差に応じて素子を駆動することにより、ノズルから液体を噴出させることと、を有する液体噴出方法が明らかとなる。
【0015】
===液体噴出装置の基本的構成===
発明を実施するための液体噴出装置の形態として、インクジェットプリンター(プリンター1)を例に挙げて説明する。
【0016】
<プリンターの構成>
図1は、プリンター1の全体構成を示すブロック図である。プリンター1は、紙・布・フィルム等の媒体に文字や画像を記録(印刷)する液体噴出装置であり、外部装置であるコンピューター110と通信可能に接続されている。
【0017】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタードライバーは、表示装置(不図示)にユーザーインターフェースを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピューターが読み取り可能な記録媒体)に記録されている。また、プリンタードライバーはインターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
【0018】
コンピューター110はプリンター1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。印刷データは、プリンター1が解釈できる形式のデータであって、各種のコマンドデータと、画素データSIとを有する。コマンドデータとは、プリンター1に特定の動作の実行を指示するためのデータである。このコマンドデータには、例えば、給紙を指示するコマンドデータ、搬送量を示すコマンドデータ、排紙を指示するコマンドデータがある。また、画素データSIは、印刷される画像の画素に関するデータである。ここで、画素とは画像を構成する単位要素であり、この画素が2次元的に並ぶことにより画像が構成される。印刷データにおける画素データSIは、媒体(例えば紙Sなど)上に形成されるドットに関するデータ(例えば、階調値)である。画素データは画素毎に例えば2ビットのデータによって構成される。この2ビットの画素データは1つの画素を4階調で表現できる。すなわち、ドット無しに対応するデータ[00]と、小ドットに対応するデータ[01]と、中ドットの形成に対応するデータ[10]と、大ドットに対応するデータ[11]とがある。
【0019】
プリンター1は、搬送ユニット20と、キャリッジユニット30と、ヘッドユニット40と、検出器群50と、コントローラー60と、伝送部70とを有する。コントローラー60は、外部装置であるコンピューター110から受信した印刷データに基づいてヘッドユニット40等の各ユニットを制御し、媒体に画像を印刷する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は検出器群50から出力された検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0020】
<搬送ユニット20>
図2Aは本実施形態のプリンター1の構成を表した鳥瞰図であり、図2Bはプリンター1の構成を表した側面図である。
【0021】
搬送ユニット20は、媒体(例えば紙Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。ここで、搬送方向はキャリッジの移動方向と交差する方向である。搬送ユニット20は、給紙ローラー21と、搬送モーター22と、搬送ローラー23と、プラテン24と、排紙ローラー25とを有する(図2A及び図2B)。
【0022】
給紙ローラー21は、紙挿入口に挿入された紙をプリンター内に給紙するためのローラーである。搬送ローラー23は、給紙ローラー21によって給紙された紙Sを印刷可能な領域まで搬送するローラーであり、搬送モーター22によって駆動される。搬送モーター22の動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。プラテン24は、印刷中の紙Sを、紙Sの裏側から支持する部材である。排紙ローラー25は、紙Sをプリンターの外部に排出するローラーであり、印刷可能な領域に対して搬送方向下流側に設けられている。
【0023】
<キャリッジユニット30>
キャリッジユニット30は、ヘッドユニット40が取り付けられたキャリッジ31を所定の方向(以下、移動方向という)に移動(「走査」とも呼ばれる)させるためのものである。キャリッジユニット30は、キャリッジ31と、キャリッジモーター32(CRモータとも言う)とを有する(図2A及び図2B)。
【0024】
キャリッジ31は、移動方向に往復移動可能であり、キャリッジモーター32によって駆動される。キャリッジモーター32の動作はプリンター側のコントローラー60により制御される。また、キャリッジ31は、インクを収容するインクカートリッジを着脱可能に保持している。
【0025】
<ヘッドユニット40>
ヘッドユニット40は、紙Sにインクを噴出するためのものである。ヘッドユニット40は、複数のノズルを有するヘッド41とヘッド制御部HCとを備える。このヘッド41はキャリッジ31に設けられ、キャリッジ31が移動方向に移動すると、ヘッド41も移動方向に移動する。そして、ヘッド41が移動方向に移動中にインクを断続的に噴出することによって、移動方向に沿ったドットライン(ラスタライン)が媒体上に形成される。
【0026】
図3は、ヘッド41の構造を示した断面図である。ヘッド41は、ケース411と、流路ユニット412と、ピエゾ素子群とを有する。ケース411はピエゾ素子群を収納し、ケース411の下面に流路ユニット412が接合されている。流路ユニット412は、流路形成板412aと、弾性板412bと、ノズルプレート412cとを有する。流路形成板412aには、圧力室412dとなる溝部、ノズル連通口412eとなる貫通口、共通インク室412fとなる貫通口、インク供給路412gとなる溝部が形成されている。弾性板412bはピエゾ素子PZTの先端が接合されるアイランド部412hを有する。そして、アイランド部412hの周囲には弾性膜412iによる弾性領域が形成されている。インクカートリッジに貯留されたインクが、共通インク室412fを介して、各ノズルNzに対応した圧力室412dに供給される。ノズルプレート412cはノズルNzが形成されたプレートである。ノズル面では、イエローインクを吐出するイエローノズル列Yと、マゼンタインクを吐出するマゼンタノズル列Mと、シアンインクを吐出するシアンノズル列Cと、ブラックインクを吐出するブラックノズル列Kと、が形成されている。各ノズル列では、複数のノズルNzが搬送方向に所定間隔にて並ぶことによって構成されている。
【0027】
ピエゾ素子群は、櫛歯状の複数のピエゾ素子PZT(駆動素子)を有し、ノズルNzに対応する数分だけ設けられている。ヘッド制御部HCなどが実装された配線基板(以下、ヘッド基板Base_Hとも呼ぶ)によって、電圧波形信号である駆動波形信号COMがピエゾ素子PZTに印加されると、該駆動波形信号COMとグランドとの電位差に応じてピエゾ素子PZTは上下方向に伸縮(駆動)する。ピエゾ素子PZTが伸縮すると、アイランド部412hは圧力室412d側に押されたり、反対方向に引かれたりする。このとき、アイランド部412h周辺の弾性膜412iが変形し、圧力室412d内の圧力が上昇・下降することにより、ノズルからインク滴が吐出される。
【0028】
ヘッド制御部HCは、ピエゾ素子群PZTの駆動を制御するための制御用ICであり、ヘッド41に固定されたヘッド基板Base_H上に設けられる。ヘッド制御部HCの詳細については、後で説明する。
【0029】
<検出器群50>
検出器群50は、プリンター1の状況を監視するためのものである。検出器群50には、リニア式エンコーダ51、ロータリー式エンコーダ52、紙検出センサ53、及び光学センサ54等が含まれる(図2A及び図2B)。
【0030】
リニア式エンコーダ51は、キャリッジ31の移動方向の位置を検出する。ロータリー式エンコーダ52は、搬送ローラー23の回転量を検出する。紙検出センサ53は、給紙中の媒体(紙S)の先端の位置を検出する。光学センサ54は、キャリッジ31に取付けられている発光部と受光部により、対向する位置の媒体の有無を検出し、例えば、移動しながら紙の端部の位置を検出し、紙の幅を検出することができる。また、光学センサ54は、状況に応じて、媒体の先端(搬送方向下流側の端部であり、上端ともいう)・後端(搬送方向上流側の端部であり、下端ともいう)も検出できる。
【0031】
<コントローラー60>
コントローラー60は、プリンター1の制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラー60は、インターフェース部61と、SOC(System-on-a-chip)とを有し、プリンター1の本体に固定されたメイン基板Base_M上に搭載されている。
【0032】
インターフェース部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。
【0033】
SOCは、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64と、アナログ波形信号生成回路65とが一体的に形成されたチップである(図1)。
【0034】
CPU62は、プリンター1の全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子によって構成される。そして、CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して搬送ユニット20やキャリッジユニット30等の各ユニットを制御する。
【0035】
また、CPU62は駆動波形信号COMの波形形状を規定するデジタル信号を生成し、SOC内においてアナログ波形信号生成回路65に出力する。このデジタル信号はDAC値と呼ばれ、駆動波形信号COMの波形を定めるための波形情報に相当する。すなわち、CPU62は、デジタル信号(DAC値)を生成するデジタル信号生成部にも相当する。
【0036】
また、CPU62は、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、転送用クロック信号SCK等の各種制御信号を生成し、ヘッドユニット40へ出力する。これらの制御信号は、後述するヘッド制御部HCにおいて、前述の画素データSIと共に駆動波形信号COMをピエゾ素子PZTへ印加するのを制御するSW信号を生成する際に用いられる。
【0037】
アナログ波形信号生成回路65は、CPU62から入力されるデジタル信号(DAC値)に基づいて、駆動波形信号COMの基となる電圧変化パターンであるアナログ波形信号COM´を生成する。すなわち、アナログ波形信号生成回路65はアナログ波形信号生成部である。例えば、デジタル信号(DAC値)について、当該デジタル信号の値が大きいほど高い電圧となり、デジタル信号の値が小さいほど低い電圧となるように、デジタル信号の値に応じた波形を有するアナログ波形信号を生成する。本実施形態において、アナログ波形信号COM´は3.3V程度の電圧を有する電圧波形信号である。
【0038】
アナログ波形信号生成回路65で生成されたアナログ波形信号COM´は後述する伝送部70を介してヘッドユニット40へ伝送され、電圧増幅および電流増幅されることで駆動波形信号COMが生成される。駆動波形信号COMの生成方法については後で説明する。
【0039】
上述のように、本実施形態ではCPU62と、アナログ波形信号生成回路65とがSOC内で一体的に形成されているため、正確なアナログ波形信号COM´を生成することができる。
【0040】
CPU62とアナログ波形信号生成回路65とが別個のユニットとして離れた位置に設置される場合、CPU62で生成されたデジタル信号(DAC値)をアナログ波形信号生成回路65に伝送する際に、その伝送経路においてノイズ等の影響を受けてDAC値に歪が生じることがある。DAC値に歪が生じると、アナログ波形信号生成回路65において当該DAC値から生成されるアナログ波形信号COM´にもその歪が伝播するので、正確な波形とすることが難しくなる。したがって、最終的に生成される駆動波形信号COMも不正確な波形となり、ピエゾ素子PZTの伸縮動作に乱れが生じ、インク噴出量の制御が困難になる。
【0041】
一方、本実施形態では、CPU62とアナログ波形信号生成回路65とがSOCとして一体的に構成されるため、DAC値の伝送過程においてノイズの影響を受ける可能性は非常に小さくなる。したがって、コントローラー60においてアナログ波形信号COM´を正確に生成することが可能となり、正確な波形形状を有する駆動波形信号COMを生成しやすくなる。
【0042】
<伝送部70>
伝送部70は、コントローラー60のメイン基板Base_Mと、ヘッドユニット40のヘッド基板Base_Hとを接続する複数の伝送線によって構成される。SOCから出力されるアナログ波形信号COM´や、画素データSI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、転送用クロック信号SCK等の各種制御信号は、伝送部70の各伝送線を介してヘッドユニット40側に伝送される。本実施形態では、伝送部70として図2Bに示されるようなフレキシブルフラットケーブル(以下、FFCとも呼ぶ)を用いる。FFCは複数の平板型伝送線を並列に並べることで、ケーブル自体の厚さを薄くしつつ、該複数の平板型伝送線を一体的に可動できるようにしたリボン状の伝送部材である。
【0043】
また、FFCには電源(例えば、主電源Vdd)からヘッドユニット40に電力を供給するための伝送線、及び、グランド(GND)の電圧を印加するグランド線等も含まれる。なお、本実施形態において、主電源Vddとグランドとの電位差は42V程度である。
【0044】
<ヘッド制御部HCについて>
ヘッド制御部HCの構成及びその動作について説明する。図4に、ヘッド制御部HCの構成及びその動作について説明する図を示す。
【0045】
ヘッド制御部HCは、ヘッド制御回路42と、駆動波形信号生成回路43とを有し、ヘッド41に固定されたヘッド基板Base_H上に設けられる(図4)。また、駆動波形信号生成回路43は、電圧増幅部431と、スイッチ432と、電流増幅部433とを有する。なお、図4ではピエゾ素子PZTが二つのみ描かれているが、プリンター1は実際には多数のピエゾ素子を備える。図4に示される構成の場合、スイッチ432及び電流増幅部433は各ピエゾ素子PZTについて設けられる。
【0046】
ヘッド制御回路42は、コントローラー60から送信される転送用クロック信号SCK、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH等の各種制御信号、及び、画素データSIに応じてスイッチ432を制御するためのSW信号を出力する。
【0047】
駆動波形信号生成回路43は、コントローラー60のSOCからFFCを介して伝送されたアナログ波形信号COM´を電圧増幅および電流増幅して、電圧波形信号である駆動波形信号COMを生成し、ピエゾ素子PZTに印加して該ピエゾ素子PZTを駆動させる。すなわち、駆動波形信号生成回路43は、電圧波形信号生成部に相当する。
【0048】
電圧増幅部431は、アナログ波形信号COM´の電圧を増幅して、アナログ波形信号COM´´を生成する。例えば、3.3Vのアナログ波形信号COM´を、各ピエゾ素子PZTを駆動するのに必要な電圧である30V程度まで増幅する。電圧増幅部431には、オペアンプ等を用いた一般的な電圧増幅回路を使用することができる。
【0049】
スイッチ432は、ヘッド制御回路42から入力されるSW信号に応じて、電圧増幅部431で生成されたアナログ波形信号COM´´を電流増幅部433へ入力する。例えば、SW信号がHレベルのとき、スイッチ432はON状態になり、アナログ波形信号COM´´が電流増幅部433へ入力される。一方、SW信号がLレベルのとき、スイッチ432はOFF状態になり、アナログ波形信号COM´´は電流増幅部433へ入力されない。
【0050】
電流増幅部433は、アナログ波形信号COM´´の入力を受けて、その電流を増幅して駆動波形信号COMを生成し、ピエゾ素子PZTへ印加する。電流増幅部433は、NPN型トランジスタとPNP型トランジスタとを相補的に接続することによって構成される。NPN型トランジスタのコレクタは主電源Vddに接続され、PNP型トランジスタのコレクタはグランド(GND)に接続される。また、MOS・FET等トランジスタ以外の素子を用いて電流増幅部433を構成することも可能である。
【0051】
なお、電圧増幅部431、スイッチ432、電流増幅部433の配置は、図4に示される例には限られない。例えば、電圧増幅部431とスイッチ432との位置が逆であったり、スイッチ432と電流増幅部433との位置が逆であったりしてもよい。ただし、その場合は電圧増幅部431や電流増幅部433の数を適宜変更する必要がある点に留意する。
【0052】
また、ヘッド基板Base_Hには、十分な容量のコンデンサ(不図示)があってVddに接続されており、多くのピエゾ素子PZTに同時に大きな電流を流しても、瞬時にはコンデンサより電流が供給され、伝送部70に大きな電流が流れることがないので、伝送部70の電流容量を小さく出来る。
【0053】
続いて、図5に、駆動波形信号COMについて説明する図を示す。図に示すように、駆動波形信号COMは、ラッチ信号LATの立ち上がりタイミングを区切りとした期間Tを1つの単位として生成される。期間Tには、ラッチ信号LAT又はチェンジ信号CHの立ち上がりタイミングによって区切られる区間T1〜T4が含まれる。また、区間T1〜T4には後述する駆動パルスがそれぞれ含まれる。繰り返し周期である期間Tは、ノズルが1画素分移動する間の期間に対応する。例えば、印刷解像度が720dpiの場合、期間Tは、ノズルが1/720インチ移動するための期間に相当する。そして、画素データSIに基づいて、期間Tに含まれる各区間の駆動パルスPS1〜PS4をピエゾ素子PZTに印加することによって、ノズルから噴出されるインクの量を調節し、複数階調からなる画像の表現を可能としている。
【0054】
駆動波形信号COMは、繰り返し周期における区間T1で生成される第1波形部SS1と、区間T2で生成される第2波形部SS2と、区間T3で生成される第3波形部SS3と、区間T4で生成される第4波形部SS4とを有する。ここで、第1波形部SS1は駆動パルスPS1を有している。また、第2波形部SS2は駆動パルスPS2を、第3波形部SS3は駆動パルスPS3を、第4波形部SS4は駆動パルスPS4をそれぞれ有している。
各駆動パルスは電圧波形であり、主電源Vddとグランド(GND)との電位差を用いて生成される。
【0055】
画素データSIが[00]の場合、駆動波形信号COMの第1区間信号SS1がピエゾ素子PZTへ印加され、ピエゾ素子PZTは駆動パルスPS1により駆動される。この駆動パルスPS1に応じてピエゾ素子PZTが駆動すると、インクが噴出されない程度の圧力変動がインクに生じて、インクメニスカス(ノズル部分で露出しているインクの自由表面)が微振動する。
【0056】
画素データSIが[01]の場合、駆動波形信号COMの第3区間信号SS3がピエゾ素子PZTへ印加され、ピエゾ素子PZTは駆動パルスPS3により駆動される。この駆動パルスPS3に応じてピエゾ素子PZTが駆動すると、小程度の量のインクが噴出され、媒体に小ドットが形成される。
【0057】
画素データSIが[10]の場合、駆動波形信号COMの第2区間信号SS2がピエゾ素子PZTへ印加され、ピエゾ素子PZTが駆動パルスPS2により駆動される。この駆動パルスPS2に応じてピエゾ素子PZTが駆動すると、中程度の量のインクが噴出され、媒体に中ドットが形成される。
【0058】
画素データSIが[11]の場合、駆動波形信号COMの第2区間信号SS2及び第4区間信号SS4がピエゾ素子PZTへ印加され、ピエゾ素子PZTが駆動パルスPS2及び駆動パルスPS4により駆動される。これらの駆動パルスPS2及び駆動パルスPS4に応じてピエゾ素子PZTが駆動すると、媒体に大ドットが形成される。
【0059】
<プリンターの印刷動作>
プリンター1の印刷動作について簡単に説明する。コントローラー60は、コンピューター110からインターフェース部61を介して印刷命令を受信し、各ユニットを制御することにより、給紙処理・ドット形成処理・搬送処理等を行う。
【0060】
給紙処理は、印刷すべき紙をプリンター内に供給し、印刷開始位置(頭出し位置とも言う)に紙を位置決めする処理である。コントローラー60は、給紙ローラー21を回転させ、印刷すべき紙を搬送ローラー23まで送る。続いて、搬送ローラー23を回転させ、給紙ローラー21から送られてきた紙を印刷開始位置に位置決めする。
【0061】
ドット形成処理は、移動方向(走査方向)に沿って移動するヘッドからインクを断続的に噴出させ、紙上にドットを形成する処理である。コントローラー60は、キャリッジ31を移動方向に移動させ、キャリッジ31が移動している間に、印刷データに基づいてヘッド41からインクを噴出させる。噴出されたインク滴が紙上に着弾すると、紙上にドットが形成され、紙上には移動方向に沿った複数のドットからなるドットラインが形成される。
【0062】
搬送処理は、紙をヘッドに対して搬送方向に沿って相対的に移動させる処理である。コントローラー60は、搬送ローラー23を回転させて紙を搬送方向に搬送する。この搬送処理により、ヘッド41は、先ほどのドット形成処理によって形成されたドットの位置とは異なる位置に、ドットを形成することが可能になる。
【0063】
コントローラー60は、印刷すべきデータがなくなるまで、ドット形成処理と搬送処理とを交互に繰り返し、ドットラインにより構成される画像を徐々に紙に印刷する。そして、印刷すべきデータがなくなると、排紙ローラー25を回転させてその紙を排紙する。なお、排紙を行うか否かの判断は、印刷データに含まれる排紙コマンドに基づいても良い。
【0064】
次の紙に印刷を行う場合は同処理を繰り返し、行わない場合は、印刷動作を終了する。
【0065】
===実施形態===
本実施形態では、FFC内に並ぶ複数の伝送線を適当に配置することにより、正確な駆動波形信号COMを生成する。特に、アナログ波形信号COM´を伝送する伝送線配置に着目し、アナログ波形信号COM´がコントローラー60からヘッドユニット40に伝送される際に、ノイズの影響を受けにくくなるようにする。
【0066】
<比較例>
まず、比較例として、アナログ波形信号COM´とグランド線(GND)とが、FFC内において離れて配置される場合について説明する。図6は、比較例におけるFFC内の伝送線の配置の一例を示す図である。同図は、伝送線の配置(各種信号の配置)を説明するためにFFCの断面を概略的に表した図であり、FFC内において番号を付されて並んでいる長方形がそれぞれ平板型伝送線を表す。なお、図6は実際に伝送される全ての信号について説明するものではない。
【0067】
比較例において、FFCは12本の平板型伝送線が並列に並んだフレキシブルフラットケーブルである。図6の上側から1〜2番目、及び10〜12番目の黒く着色された伝送線がグランド線(GND)を表し、7番目の斜線で表される伝送線がアナログ波形信号COM´の伝送線を表す。また、3〜6番目は各種制御信号の伝送線を表し、8番目は主電源Vddの伝送線を表し、9番目は制御用Logic電源の伝送線を表す。
【0068】
FFC内の伝送線を介して、コントローラー60からヘッドユニット40に各種信号を伝送する際に、信号はノイズの影響を受けるおそれがある。特に、COM´はアナログ信号であることから、ノイズの影響を受けると電圧波形に歪や乱れが生ずる。COM´の波形に乱れ等が生じると、COM´に基づいて生成される駆動波形信号COMの波形も変形されるため、ピエゾ素子PZTから噴出されるインク液滴の量や速度を正確に制御することができなくなるおそれがある。
【0069】
なお、ピエゾ素子PZTの駆動を制御する駆動波形信号COMは、COM´とグランド(GND)との間の電位差を増幅することによって生成される。したがって、COM´とグランド(GND)が共に同一のノイズの影響を受けるのであれば電位差は変化しないため、駆動波形を生成する上では問題にはなりにくい。しかし、図6において、COM´(7番目の伝送線)とグランド線(2番目または10番目の伝送線)とは離れた位置に配置されていることから、全く同一のノイズの影響を受けるとは考えにくい。つまり、アナログ波形信号COM´とグランド(GND)とが異なるノイズの影響を受けた場合、COM´とGNDとの間の電位差が変動するため、正確な駆動波形を生成することができなくなる。
【0070】
また、8番目の伝送線であるVddには比較的大きな電流(42V)が流れるため、発生した磁界によって並行して配置される伝送線にノイズが発生するおそれがある。すなわち、Vddそれ自体がノイズ源となるおそれがある。この場合、Vddに起因して生じたノイズがCOM´のみに影響すると駆動波形COMの波形形状を乱す原因ともなる。
【0071】
このように、比較例の場合、FFC内においてアナログ波形信号COM´とグランド(GND)とが異なるノイズの影響を受けるおそれがあり、正確な駆動波形を生成することは困難である。
【0072】
<本実施形態における伝送線の配置>
そこで、本実施形態ではアナログ波形信号COM´とグランド(GND)との位置関係に着目する。図7は、本実施形態におけるFFC内の伝送線の配置の一例を示す図である。図6と同様、図7もFFCの断面を概略的に表した図であり、実際に伝送される全ての信号について説明するものではない。
【0073】
図7の上側から1〜4番目に配置される伝送線は、各種制御信号の伝送線を表す。また、6番目の制御用Logic電源の伝送線を挟んで、5番目と7番目にGND線(黒く着色された伝送線)が配置される。また、アナログ波形信号COM´は、7番目と9番目のGND線(黒く着色された伝送線)に挟まれるように、8番目の伝送線として配置される。また、主電源Vddは、10番目と12番目のGND線(黒く着色された伝送線)に挟まれるように、11番目の伝送線として配置される。
【0074】
図7に示されるように、アナログ波形信号COM´の伝送線がグランド(GND)線と隣接するように配置されることで、信号伝送中に受けるノイズの影響を小さくすることができる。例えば、各種信号の伝送中に、FFCの5番目の伝送線から10番目の伝送線の範囲に同一のノイズが作用したとする。この場合、COM´(8番目の伝送線)はノイズの影響を受けてその電圧波形に乱れが生じるものと考えられる。また、COM´に隣接するGND(7番目及び9番円の伝送線)も同等のノイズの影響を受けて乱れが生じる。つまり、COM´とそれに隣接するGNDには同一のノイズによって同じような乱れが発生する。
【0075】
前述のように、ピエゾ素子PZTからのインク噴出量を制御する駆動波形信号COMは、COM´とグランド(GND)との間の電位差に応じて生成される。そのため、COM´の電圧波形がノイズの影響によって乱れたとしても、電位差の基準となるグランド(GND)にもそれと同等の乱れが生じていれば、COM´とGNDとの間の相対的な電位差への影響は小さい。すなわち、COM´とグランドGNDとの間の電位差自体はノイズを受けた場合であっても変動しないため、駆動波形信号COMの波形形状に乱れが生じにくくなる。
【0076】
このように、アナログ波形信号COM´を伝送する伝送線がグランド線に隣接するように配置されることで、ノイズの影響の小さい正確な駆動波形信号COMを生成することが可能となる。
【0077】
また、本実施形態では、主電源Vddおよび制御用Logic電源の伝送線もそれぞれGNDに隣接するようにして配置される。一般に、並行する2本の伝送線を電流が往復する場合、2本の伝送線間の距離が近いほどインダクタンスが小さくなり、逆起電力が発生しにくくなる。したがって、電源の伝送線とグランド線とを隣接させることで、ヘッドに流れる電流の変動に対し、逆起電力による妨げなく電流を流すことができるため、ヘッド基板BASE_H上の主電源Vdd等が安定し、COMが歪みなく生成される。また、逆起電力によるGNDの揺れも小さくなり、COM´等の他の信号にノイズが影響するのを抑制することができる。
【0078】
<本実施形態の変形例>
前述の例は、FFCが1枚の場合について説明されていた。しかし、実際のプリンターにおいて、コントローラー60からヘッドユニット40へ伝送する信号の種類が多い場合等には伝送部70としてFFCが2枚設けられることがある。このような場合にも、アナログ波形信号COM´へのノイズの影響を小さくする必要がある。そこで、変形例として、FFCが2枚重なって設けられる場合の伝送線の配置例について説明する。
【0079】
図8はFFCが2枚設けられる場合の伝送線の配置の一例を示す図である。本変形例において、伝送部70は図8の右側に示されるFFC−1(第1のケーブルとする)と左側に示されるFFC−2(第2のケーブルとする)との2つのFFCが対向するように配置される。FFC−1及びFFC−2は、それぞれケーブルの幅方向に並ぶ12本の平板型伝送線からなるフレキシブルフラットケーブルであるものとして説明を行なう。また、右側に示されるFFC−1における各伝送線の配置は、図7で説明したFFCと同様とする。すなわち、アナログ波形信号COM´の伝送線は、FFC−1(第1のケーブル)に含まれるものとする。
【0080】
本変形例では、図8に示されるように、FFC−2の上側から7〜9番目の伝送線(黒く着色された伝送線)をグランド(GND)線とする。
【0081】
まず、FFC−1の上から8番目の伝送線(斜線で表される伝送線)がアナログ波形信号COM´であるため、FFC−2において、それに対向する位置に配置される伝送線(上から8番目の伝送線)をグランド線とする。これにより、アナログ波形信号COM´の伝送線(FFC−1の8番目の伝送線)が、両隣に位置するグランド線(FFC−1の7番目、9番目の伝送線)及び、対向する位置のグランド線(FFC−2の8番目の伝送線)によって囲まれるような配置とする。
【0082】
このような伝送線の配置としておけば、信号の伝送中にCOM´がノイズの影響を受けたとしても、近接するグランド線(FFC−1の7番目・9番目の伝送線、及びFFC−2の8番目の伝送線)も同等のノイズの影響を受けることになる。したがって、前述のように、COM´とグランドGNDとの間の電位差自体は変動しないので、ノイズの影響を抑制して正確な駆動波形信号COMを生成することが可能となる。
【0083】
なお、上述の例では、2枚のFFCが対向するように重ねて配置されているが、FFCが3枚以上の場合についても同様のことが言える。すなわち、複数枚のFFCが重ねて配置される場合には、COM´の伝送線と対向する位置に配置される伝送線をグランド線とすることで、正確な駆動波形信号COMを生成することができる。
【0084】
また、FFC−2においてアナログ波形信号COM´と対向する位置(FFC−2の8番目)に配置される伝送線と隣接する伝送線もグランド(GND)線とすることで、さらにノイズの影響の小さい正確な駆動波形信号COMを生成することが可能となる。例えば、図8では、FFC−2の8番目の伝送線の両隣に配置されるFFC−2の7番目及び9番目の伝送線もグランド線としている。
【0085】
FFCを2枚重ねて伝送部70として用いる場合、プリンターの印刷動作中に2つのFFCが常に同じ相対位置を保った状態で印刷が行われるとは限らない。例えば、プリンター1において、FFCの一端側が接続されるヘッドユニット40(キャリッジユニット30)は移動方向を往復移動しながらインクを噴出するが、一方で、FFCの他端側が接続されるコントローラー60はプリンター1の本体側に固定されている。従って、ヘッドユニット40が移動することによって、重ねられたFFC同士で、伝送線の並ぶ方向にずれが生じる場合がある。このような場合に、COM´と対向する位置に配置される伝送線と隣接する伝送線もグランド線としておくことで、FFC同士の相対位置にずれが生じても、COM´とグランド線とを対向した位置関係にすることができる。
【0086】
図9に、プリンターの印刷動作中に図8に示される2つのFFCの相対位置がずれた場合の例を示す。図9のように、FFC−1とFFC−2との間で伝送線が並ぶ方向に伝送線1本分の範囲でズレが生じた場合、FFC−1の8番目に位置するCOM′の伝送線は、FFC−2の7番目(若しくはFFC−2の9番目)の伝送線と対向する位置関係となる。この場合、本来COM′と対向する位置にあるFFC−2の8番目の伝送線の両隣(FFC−2の7番目及び9番目の伝送線)もグランドとしておくことで、COM′とグランドとが対向する位置関係を保つことがでる。これにより、前述のようにノイズの影響を小さくして、正確な駆動波形COMを生成することが可能になる。
【0087】
<まとめ>
本実施形態では、ピエゾ素子PZTを駆動させる駆動波形信号の波形形状を規定するデジタル信号を生成するCPUと、該デジタル信号に基づいてアナログ波形信号COM′を生成する駆動波形信号生成部とが、SOC(System-on-a-tip)において一体的に形成されている。CPUとアナログ波形信号生成部とが1チップとして構成されているため、アナログ波形信号COM′生成の過程においてノイズ等の外乱による影響を受けにくく、正確な波形の信号を生成しやすくなる。
【0088】
また、SOCから出力されるCOM′は、FFC(フレキシブルフラットケーブル)内の伝送線を介してヘッド部へと伝送され、電圧増幅および電流増幅されることにより駆動波形信号COMとなる。ここで、FFCにおいてCOM′の伝送線がグランド(GND)線に隣接するように配置される。COM′はFFCを伝送される間にノイズの影響を受ける可能性があるが、仮にCOM′がノイズを受けた場合でも、隣接するグランド線も同程度のノイズを受けることになる。したがって、COM′とGNDとの間の電位差は変化しないため、該電位差を増幅することで生成される駆動波形信号COMも、外乱に強く正確な波形とすることができる。
【0089】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0090】
<液体噴出装置について>
前述の各実施形態では、液体噴出装置の一例としてプリンターが説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造型機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体噴出装置に、本実施形態と同様の技術を適用してもよい。
【0091】
<ピエゾ素子について>
前述の各実施形態では、液体を噴出させるための動作を行う素子としてピエゾ素子PZTを例示したが、他の素子であってもよい。例えば、発熱素子や静電アクチュエーターを用いてもよい。
【0092】
<電流増幅部433のトランジスタについて>
前述の各実施形態では、電流増幅部433が有するトランジスタとしてNPN型トランジスタ及びPNP型トランジスタを例示した。しかし、アナログ波形信号COM´について電流の増幅を行えるものであれば、他の種類のトランジスタを用いてもよい。
【0093】
<他の装置について>
前述の各実施形態では、ヘッド41をキャリッジとともに移動させるタイプのインクジェットプリンター(シリアルプリンター)を例に挙げて説明したが、プリンターはヘッドが固定された、いわゆるラインプリンターであってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 プリンター、
20 搬送ユニット、21 給紙ローラー、22 搬送モーター、
23 搬送ローラー、24 プラテン、25 排紙ローラー、
30 キャリッジユニット、31 キャリッジ、32 キャリッジモーター、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、411 ケース、412 流路ユニット、
412a 流路形成板、412b 弾性板、412c ノズルプレート、
412d 圧力室、412e ノズル連通口、412f 共通インク室、
412g インク供給路、412h アイランド部、412i 弾性膜、
42 ヘッド制御回路、43 駆動波形信号生成回路、
431 電圧増幅部、432 スイッチ、433 電流増幅部、
50 検出器群、51 リニア式エンコーダ、52 ロータリー式エンコーダ、
53 紙検出センサ、54 光学センサ、
60 コントローラー、61 インターフェース部、
62 CPU、63 メモリー、64 ユニット制御回路、
65 アナログ波形信号生成回路、
70 伝送部、
110 コンピューター、
SOC System-on-a-tip、
PZT ピエゾ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)信号の波形形状を規定するデジタル信号を生成するデジタル信号生成部と、
前記デジタル信号に基づいてアナログ波形信号を生成するアナログ波形信号生成部と、
が一体的に形成されたチップを有する制御部と、
(B)前記アナログ波形信号を電圧増幅および電流増幅して電圧波形信号を生成する電圧波形信号生成部と、
前記電圧波形信号とグランドとの電位差に応じて駆動され、ノズルから液体を噴出させる素子と、
を有するヘッド部と、
(C)所定の方向に並ぶ複数の伝送線を有する伝送部であって、
前記アナログ波形信号を、前記制御部から前記ヘッド部へ所定の伝送線を介して伝送する伝送部と、
を備える液体噴出装置であって、
前記伝送部において、前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線が、グランド線に隣接するように配置されることを特徴とする液体噴出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴出装置であって、
前記伝送部は、前記所定の方向に並ぶ複数の伝送線からなる第1のケーブルと、
前記第1のケーブルと対向するように配置され、前記所定の方向に並ぶ複数の伝送線からなる第2のケーブルとを有し、
前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線が前記第1のケーブルに含まれるとき、
前記第2のケーブルにおいて、前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線と対向する位置に配置される伝送線が、グランド線であることを特徴とする液体噴出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液体噴出装置であって、
前記第2のケーブルにおいて、前記アナログ波形信号を伝送する前記伝送線と対向する位置に配置される伝送線と隣接する伝送線が、グランド線であることを特徴とする液体噴出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の液体噴出装置であって、
前記伝送部において、電源の電流を伝送する伝送線とグランド線とが隣接するように配置されることを特徴とする液体噴出装置。
【請求項5】
信号の波形形状を規定するデジタル信号を生成するデジタル信号生成部と、
前記デジタル信号に基づいてアナログ波形信号を生成するアナログ波形信号生成部と、
が一体的に形成されたチップにおいて、前記アナログ波形信号を生成することと、
前記アナログ波形信号を伝送する伝送線が、グランド線に隣接するように配置される伝送部を介して、前記アナログ波形信号を、ヘッド部へ伝送することと、
前記ヘッド部において、前記アナログ波形信号を電圧増幅および電流増幅して電圧波形信号を生成し、該電圧波形信号とグランドとの電位差に応じて素子を駆動することにより、ノズルから液体を噴出させることと、
を有する液体噴出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−196820(P2012−196820A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61378(P2011−61378)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】