説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】制御の処理負荷やデータの転送量を削減しながら微振動駆動を適切に実行する。
【解決手段】圧電素子45は、圧力室50内の圧力を変化させてノズル52からインクを噴射させる。第1保持部342は、印字周期TP[k]についてインクの噴射/非噴射を示す制御データDC[n]を保持する。第2保持部344は、印字周期TP[k]の直前の印字周期TP[k-1]についてインクの噴射/非噴射を示す参照データDR[n]を保持する。駆動回路346は、制御データDC[n]がインクの噴射を示す場合には印字周期TP[k]にて圧電素子45に噴射駆動を実行させる。制御データDC[n]がインクの非噴射を示す場合、駆動回路346は、参照データDR[n]がインクの非噴射を示すときには圧電素子45に微振動駆動を実行させ、参照データDR[n]がインクの噴射を示すときには圧電素子45に微振動駆動を実行させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子や発熱素子等の圧力発生素子により圧力室内の圧力を変動させて圧力室内のインクをノズルから噴射する液体噴射ヘッド(記録ヘッド)では、インクが噴射しない程度にノズル内の液面(メニスカス)を微振動させる微振動駆動が実行される。微振動駆動による撹拌でノズルの近傍のインクを適切な粘度に維持することが可能である。ただし、微振動駆動によるインクの振動が充分に減衰する前にインクを噴射させた場合、インクの噴射量や飛翔速度等の噴射特性が目標の特性から変動するという問題がある。以上の問題を解決するために、例えば特許文献1には、インクを噴射する直前の期間では微振動駆動を停止させる技術が開示されている。
【0003】
特許文献1の技術では、制御装置(CPU)が、複数のノズルの各々に対応するドットパターンデータを印字周期毎に順次に生成する。ドットパターンデータは、噴射駆動の要否(インクの噴射/非噴射)を指示する印刷用ビットデータと、微振動駆動の要否を指示する微振動用ビットデータとを含む。印刷用ビットデータが噴射駆動を指示する印字周期の直前に位置する3個の印字周期については、微振動用ビットデータが、微振動駆動の停止を指示する数値に設定される。制御装置がノズル毎に生成したドットパターンデータは、制御装置と記録ヘッドとを接続する伝送路を介して制御装置から記録ヘッドにシリアルに伝送されて各圧電素子の駆動に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−37867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、1ライン分の画像データを読込んで解析することにより微振動用ビットデータが生成されるから、1ライン分の画像データを取扱うためのリソースが必要となり、処理負荷や制御装置の回路規模が増大するという問題がある。また、噴射駆動の要否を指示する印刷用ビットデータに加えて微振動駆動の要否を指示する微振動用ビットデータも制御装置にてノズル毎に生成したうえで伝送路を介して記録ヘッドに転送する必要があるから、制御装置による処理の負荷や伝送路を介したデータの転送量が大きくなってしまうという問題がある。これらの問題を解決するために、処理能力の高い制御装置や高速転送が可能な伝送路を採用すれば、装置の製造コストが増大するという問題がある。以上の事情を考慮して、本発明は、液体噴射ヘッドの制御の処理負荷を削減しながら微振動駆動を適切に実行することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明の液体噴射ヘッドは、液体を噴射するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内の圧力を変化させて前記ノズルから前記液体を噴射させる圧力発生素子と、前記圧力発生素子を所定の駆動周期毎に駆動する駆動手段と、第1駆動周期について前記液体の噴射の制御内容(圧力発生素子の制御内容(例えば噴射/非噴射))を示す制御データを保持する第1保持手段と、前記第1駆動周期の前方および後方の少なくとも一方に位置する第2駆動周期について前記液体の噴射の制御内容を示す参照データを保持する第2保持手段とを具備し、前記制御手段は、前記第1保持手段に保持された制御データと前記第2保持手段に保持された参照データとに応じて前記圧力発生素子を駆動する。
【0007】
以上の構成によれば、第1駆動周期について第1保持手段に保持された制御データと第2駆動周期について第2保持手段に保持された参照データとに応じて圧力発生素子が駆動されるから、例えば、特許文献1の技術のように1ライン分の画像データを読込んで解析する構成と比較して、圧力発生素子を駆動するために参照するデータ量が削減される。したがって、圧力発生素子を駆動するための処理負荷や回路規模を低減することが可能である。
【0008】
本発明の第1態様において、前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の前方の第2駆動周期について前記参照データを保持し、前記駆動手段は、前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の噴射を示す場合には、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の非噴射を示す場合、前記参照データが前記液体の非噴射を示すときには、前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、前記参照データが前記液体の噴射を示すときには、前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に前記微振動駆動を実行させない。
【0009】
第1態様では、第1駆動周期の制御データが液体の非噴射を示す場合、第2駆動周期の参照データが液体の非噴射を示すときには圧力発生素子が微振動駆動を実行し、第2駆動周期の参照データが液体の噴射を示すときには微振動駆動が実行されない。すなわち、第1駆動周期での微振動駆動に起因した圧力室内の圧力変動とその前方の第2駆動周期での噴射駆動に起因した圧力変動との重畳が防止される。したがって、第1駆動周期でのノズル内の液面の異常振動(ひいては液体の誤噴射や気泡の侵入)を防止できるという利点がある。
【0010】
第1態様の好適例において、前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の直前の1個の前記第2駆動周期について前記参照データを保持する。以上の構成によれば、例えば第1駆動周期の2個以上前の第2駆動周期について第2保持手段が参照データを保持する構成や、第1駆動周期の前方の複数の第2駆動周期について第2保持手段が参照データを保持する構成と比較して、液体噴射ヘッドの構成が簡素化されるという利点がある。
【0011】
また、第1態様の好適例において、前記第2保持手段は、駆動周期毎に、前記第1保持手段に保持されていた制御データを前記参照データとして保持する。以上の構成によれば、第1保持手段に保持されていた制御データが参照データとして保持されるから、制御データの加工で参照データを生成する構成と比較して液体噴射ヘッドの構成が簡素化されるという利点がある。
【0012】
もっとも、第1駆動周期における圧電素子の駆動の段階では、第2駆動周期における圧電素子の駆動は終了しているから、第2駆動周期の制御データを簡略化した参照データを第2保持手段に保持することも可能である。すなわち、第1態様の好適例に係る液体噴射ヘッドは、制御データよりも少ないビット数で前記液体の噴射の制御内容を示す前記参照データを前記制御データから生成する変換手段を具備し、前記第2保持手段は、前記変換手段が生成した参照データを記憶する。以上の構成によれば、第2保持手段に必要な容量が削減されるという利点がある。直径が相違する複数種のドットの何れかに対応する重量の前記液体の噴射または前記液体の非噴射を指示する多値データ(複数ビット)を前記制御データとし、前記液体の噴射の制御内容を示す2値データ(1ビット)を前記参照データとした構成では、第2保持手段の容量が削減されるという効果は格別に顕著である。
【0013】
ところで、第1駆動周期の直前の第2駆動周期での液体の噴射の制御内容に応じて第1駆動周期での微振動駆動の有無を制御する構成では、圧力発生素子に噴射駆動を実行させる駆動周期の直前の駆動周期で微振動駆動が実行される可能性がある。そこで、第1態様の好適例において、前記駆動手段は、前記圧力発生素子に噴射駆動を実行させる噴射パルスと、前記圧力発生素子に微振動駆動を実行させる微振動パルスとを駆動周期毎に含む駆動信号から、前記噴射パルスまたは前記微振動パルスを前記制御データに応じて選択して前記圧力発生素子に供給し、前記駆動信号の各駆動周期内において前記微振動パルスは前記噴射パルスの前方に位置する。以上の態様では、微振動駆動が実行される駆動周期の直後の駆動周期にて噴射駆動が実行される場合に、先行の駆動周期での微振動駆動と後続の駆動周期での噴射駆動との間隔が充分に確保されるから、微振動駆動による圧力変動と噴射駆動による圧力変動との重畳が抑制される。したがって、圧力変動の重畳に起因した噴射特性の誤差を防止することが可能である。
【0014】
本発明の第2態様において、前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の後方の第2駆動周期について前記参照データを保持し、前記駆動手段は、前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の噴射を示す場合には、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の非噴射を示す場合、前記参照データが前記液体の非噴射を示すときには、前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、前記参照データが前記液体の噴射を示すときには、前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に前記微振動駆動を実行させない。
【0015】
第2態様では、第1駆動周期の制御データが液体の非噴射を示す場合、第2駆動周期の参照データが液体の非噴射を示すときには圧力発生素子が微振動駆動を実行し、第2駆動周期の参照データが液体の噴射を示すときには微振動駆動が実行されない。すなわち、第1駆動周期での微振動駆動に起因した圧力室内の圧力変動とその後方の第2駆動周期での噴射駆動に起因した圧力変動との重畳が防止される。したがって、第2駆動周期での噴射特性の誤差を防止できるという利点がある。
【0016】
第2態様の好適例において、前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の直後の1個の前記第2駆動周期について前記参照データを保持する。以上の構成によれば、例えば第1駆動周期の2個以上後の第2駆動周期について第2保持手段が参照データを保持する構成や、第1駆動周期の後方の複数の第2駆動周期について第2保持手段が参照データを保持する構成と比較して、液体噴射ヘッドの構成が簡素化されるという利点がある。
【0017】
第2態様の好適例において、前記第1保持手段は、駆動周期毎に、前記第2保持手段に保持されていた参照データを前記制御データとして保持する。以上の構成によれば、第2保持手段に保持されていた参照データが制御データとして保持されるから、参照データを制御データとは別個に生成する構成と比較して液体噴射ヘッドの構成が簡素化されるという利点がある。
【0018】
ところで、第1駆動周期の直後の第2駆動周期での液体の噴射の制御内容に応じて第1駆動周期での微振動駆動の有無を制御する構成では、圧力発生素子に噴射駆動を実行させる駆動周期の直後の駆動周期で微振動駆動が実行される可能性がある。そこで、第2態様の好適例において、前記駆動手段は、前記圧力発生素子に噴射駆動を実行させる噴射パルスと、前記圧力発生素子に微振動駆動を実行させる微振動パルスとを駆動周期毎に含む駆動信号から、前記噴射パルスまたは前記微振動パルスを前記制御データに応じて選択して前記圧力発生素子に供給し、前記駆動信号の各駆動周期内において前記微振動パルスは前記噴射パルスの後方に位置する。以上の態様では、噴射駆動が実行される駆動周期の直後の駆動周期にて微振動駆動が実行される場合に、先行の駆動周期での噴射駆動と後続の駆動周期での微振動駆動との間隔が充分に確保されるから、噴射駆動による圧力変動と微振動駆動による圧力変動との重畳が抑制される。したがって、圧力変動の重畳に起因した液面の異常振動を防止することが可能である。
【0019】
本発明の第3態様において、前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の前方の第2駆動周期および前記第1駆動周期の後方の第2駆動周期の各々について前記参照データを保持し、前記駆動手段は、前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の噴射を示す場合には、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の非噴射を示す場合、前記第2保持手段が保持する全部の参照データが前記液体の非噴射を示すときには、前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、前記第2保持手段が保持する少なくともひとつの参照データが前記液体の噴射を示すときには、前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に前記微振動駆動を実行させない。第3態様の液体噴射ヘッドによれば、第1態様および第2態様と同様の効果が実現される。
【0020】
本発明の液体噴射装置は、液体を噴射するノズルと、前記ノズルに連通する圧力室と、前記圧力室内の圧力を変化させて前記ノズルから前記液体を噴射させる圧力発生素子と、前記圧力発生素子を所定の駆動周期ごとに駆動する駆動手段と、第1駆動周期について前記液体を噴射するか否かを示す制御データを保持する第1保持手段と、前記第1駆動周期の前方および後方の少なくとも一方に位置する第2駆動周期について前記液体をするか否かを示す参照データを保持する第2保持手段と、を具備し、前記駆動手段は、前記第1保持手段に保持された制御データと前記第2保持手段に保持された参照データとに応じて前記圧力発生素子を駆動する。本発明の液体噴射装置によれば、本発明に係る液体噴射ヘッドと同様の効果が実現される。また、制御装置から液体噴射ヘッドに供給されるデータ量が削減されるため、制御装置から液体噴射ヘッドにデータを供給するための構成を簡素化する(ひいては液体噴射装置の製造コストを低減する)ことが可能である。
【0021】
本発明の好適例に係る液体噴射装置は、前記ノズルと前記圧力室と前記圧力発生素子と前記駆動手段とを有する液体噴射ヘッドと、駆動周期ごとに制御データを生成して前記液体噴射ヘッドに供給する制御装置とを具備する。以上の構成によれば、制御装置から液体噴射ヘッドに供給されるデータ量が削減されるから、処理能力が大きい制御装置や高速転送が可能な伝送路が不要となり、液体噴射装置の製造コストを低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の部分的な構成図である。
【図2】記録ヘッドの模式図である。
【図3】記録ヘッドのうち噴射部の構成図である。
【図4】印刷装置の電気的な構成のブロック図である。
【図5】駆動信号の波形図および駆動回路の動作の説明図である。
【図6】第2実施形態における記録ヘッドの模式図である。
【図7】変換回路の動作の説明図である。
【図8】第3実施形態における記録ヘッドの模式図である。
【図9】第4実施形態における駆動信号の波形図である。
【図10】第4実施形態の動作の説明図である。
【図11】第5実施形態における駆動信号の波形図である。
【図12】第5実施形態の動作の説明図である。
【図13】第6実施形態における記録ヘッドの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、記録紙200にインクの液滴を噴射する液体噴射装置であり、キャリッジ12と移動機構14と用紙搬送機構16とを具備する。
【0024】
キャリッジ12には、インクカートリッジ22と記録ヘッド24とが搭載される。インクカートリッジ22は、記録紙200に噴射されるインク(液体)を貯留する容器である。記録ヘッド24は、インクカートリッジ22から供給されるインクを記録紙200に噴射する液体噴射ヘッドとして機能する。なお、印刷装置100の筐体(図示略)にインクカートリッジ22を固定して記録ヘッド24にインクを供給する構成(オフキャリッジ方式)も採用され得る。
【0025】
移動機構14は、X方向(主走査方向)にキャリッジ12を往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダー等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。用紙搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200をY方向(副走査方向)に搬送する。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド24が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。
【0026】
図2は、記録ヘッド24の模式図である。図2に示すように、記録ヘッド24は、噴射部32とヘッド制御部34とを具備する。噴射部32は、Y方向に配列するN個のノズル52の各々から記録紙200にインクを噴射する。なお、第1実施形態では便宜的にN個のノズル52で構成される1列のみに着目するが、実際には複数列のノズル52が形成される。ヘッド制御部34は、噴射部32の圧電素子を駆動する回路であり、例えば集積回路(ICチップ)の形態で記録ヘッド24に実装される。
【0027】
図3は、噴射部32の構成図である。具体的には、図3の部分(A)は噴射部32の平面図であり、図3の部分(B)は部分(A)におけるIIIb−IIIb線の断面図であり、図3の部分(C)は部分(A)におけるIIIb-IIIb線に垂直な断面での断面図である。図3に示すように、噴射部32は、概略的には、流路形成基板41とノズル形成基板42と弾性膜43と絶縁膜44と圧電素子45と保護基板46とを積層した構造である。
【0028】
流路形成基板41は、例えばステンレス鋼等の金属板材またはシリコン単結晶基板等で構成される板材である。図3の部分(A)および部分(C)に示すように、流路形成基板41には、長尺状の複数の圧力室50が各々の幅方向(ノズル52が配列するY方向)に並設される。相互に隣合う圧力室50は隔壁412で区画される。また、流路形成基板41のうち各圧力室50の長手方向の外側の領域には連通部414が形成される。連通部414と各圧力室50とは、圧力室50毎に形成されたインク供給路416を介して相互に連通する。インク供給路416は、圧力室50よりも狭い幅に形成され、連通部414から圧力室50に流入するインクに対して一定の流路抵抗を付与する。
【0029】
図3の部分(B)および部分(C)に示すように、流路形成基板41の表面(開口面)にはノズル形成基板42が例えば接着剤や熱溶着フィルム等で固定される。ノズル形成基板42には、各圧力室50のうちインク供給路416とは反対側の端部に連通するノズル(貫通孔)52が形成される。他方、流路形成基板41のうちノズル形成基板42とは反対側の表面には、弾性膜43が例えば二酸化シリコン(SiO2)で形成される。弾性膜43の表面には絶縁膜44が例えば酸化ジルコニウム(ZrO2)で形成され、絶縁膜44の表面には圧力室50毎に圧電素子45が形成される。
【0030】
図3の部分(B)および部分(C)に示すように、各圧電素子45は、下電極451と圧電体452と上電極453とを絶縁膜44側からこの順番に積層した構造体である。下電極451および上電極453の一方は、複数の圧力室50にわたって連続する共通電極であり、下電極451および上電極453の他方と圧電体452とは圧力室50毎に個別に形成(パターニング)される。下電極451および上電極453の何れを共通電極とするかは、例えば圧電体452の分極方向や配線の都合等に応じて適宜に決定される。各圧電素子45の上電極453には、例えば金(Au)等で形成されたリード電極47が接続される。リード電極47を介した駆動信号の供給で下電極451と上電極453との間に電界を付与すると、各圧電素子45および弾性膜43が変形(撓み変形)する。
【0031】
図3の部分(B)に示すように、流路形成基板41のうち各圧電素子45の設置面には保護基板46が固定される。保護基板46のうち各圧電素子45に対向する領域には、各圧電素子45を収容する圧電素子保持部461が形成される。圧電素子保持部461は、各圧電素子45の変位を阻害しない程度の大きさに成形されて各圧電素子45を保護する。また、保護基板46のうち流路形成基板41の連通部414に対応する領域には、保護基板46を貫通するリザーバー部462が形成される。リザーバー部462は、各圧力室50が配列する方向に沿う長尺状の空間である。流路形成基板41の連通部414と保護基板46のリザーバー部462とを連通させた空間が、各圧力室50の共通のインク室として機能するリザーバー54を構成する。
【0032】
保護基板46のうち圧電素子保持部461とリザーバー部462との間の領域には、保護基板46を厚さ方向に貫通する貫通孔463が形成される。圧電素子45の下電極451およびリード電極47が貫通孔463の内側に露出する。保護基板46の面上には、封止膜481と固定板482とを積層したコンプライアンス基板48が接合される。封止膜481は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えばポリフェニレンサルファイドフィルム)で構成され、保護基板46のリザーバー部462を封止する。固定板482は、金属等の硬質の材料(例えばステンレス鋼)で構成されて封止膜481を固定する。固定板482のうちリザーバー54(リザーバー部462)に対向する領域には開口部483が形成される。
【0033】
以上の構成の噴射部32において、リザーバー54から各インク供給路416と各圧力室50とを介してノズル52に至る空間に、インクカートリッジ22から供給されるインクが充填される。駆動信号の供給により圧電素子45および弾性膜43が変形すると圧力室50内の圧力が変動する。圧力室50内の圧力変動を駆動信号に応じて制御することで、圧力室50内のインクをノズル52から噴射させる動作(以下「噴射駆動」という)または圧力室50内のインクが噴射されない程度にノズル52内のインクの液面(メニスカス)を微振動させる動作(以下「微振動駆動」という)を実行させることが可能である。
【0034】
図4は、印刷装置100の電気的な構成のブロック図である。図4に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104とを具備する。印刷処理部104は、記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の記録ヘッド24と移動機構14と用紙搬送機構16とを含む。制御装置102は、印刷処理部104を制御する要素であり、制御部60と記憶部62と駆動信号生成部64と外部I/F(interface)66と内部I/F68とを含む。記録紙200に印刷される画像を示す印刷データDPが外部装置300(例えばホストコンピューター)から外部I/F66に供給され、内部I/F68には印刷処理部104が接続される。例えば記録ヘッド24のヘッド制御部34は、図2に示すように、シリアル伝送用の伝送路106を介して制御装置102の内部I/F68に接続される。
【0035】
図4の駆動信号生成部64は、基準電位VREFを基準として高位側および低位側に電位が変動する図5の駆動信号COMを生成する。駆動信号COMは、各圧電素子45の駆動に使用される周期信号である。図5に示すように、駆動信号COMの1周期に相当する期間(以下「印字周期」という)TP内には、圧電素子45に噴射駆動を実行させる噴射パルスPD1および噴射パルスPD2と、圧電素子45に微振動駆動を実行させる微振動パルスPBとが配置される。
【0036】
噴射パルスPD1または噴射パルスPD2が供給されると、圧電素子45は、圧力室50内の圧力を変動させることで所定量のインクをノズル52から噴射させる(噴射駆動)。噴射パルスPD1の供給で噴射されるインクの重量は、噴射パルスPD2の供給で噴射されるインクの重量を上回る。他方、微振動パルスPBが供給されると、圧電素子45は、圧力室50内のインクがノズル52から噴射されない程度に圧力室50内の圧力を変動させてノズル52内のメニスカスを微振動させる(微振動駆動)。微振動駆動による撹拌で圧力室50内のインクの増粘が低減される。
【0037】
図4の記憶部62は、制御プログラム等を記憶するROMと、画像の印刷に必要な各種のデータを一時的に記憶するRAMとを含む。制御部60は、記憶部62に記憶された制御プログラムの実行で印刷処理部104を統括的に制御する。具体的には、制御部60は、各圧電素子45の動作(インクの噴射/非噴射)を指示する制御データDCを印刷データDPに応じて印字周期TP毎に順次に生成する。
【0038】
1個の圧電素子45に対応する制御データDCは2ビットで構成され、記録紙200に記録されるべき4種類の階調の何れかを指定する。具体的には、制御データDCは、大ドットを指定する数値“11”と、中ドットを指定する数値“10”と、小ドットを指定する数値“01”と、ドットの非形成(非噴射)を指定する数値“00”との何れかに設定される。制御データDCの数値“11“は、大ドットに対応する重量のインクを噴射する噴射駆動の指示に相当し、数値“10“は中ドットに対応する噴射駆動の指示に相当し、数値“01”は小ドットに対応する噴射駆動の指示に相当する。すなわち、制御データDCは、直径が相違する複数種のドット(大ドット,中ドット,小ドット)の何れかに対応する重量のインクの噴射(数値“11”,“10”,“01”)またはインクの非噴射(数値“00”)を指示する多値データである。制御部60が各圧電素子45について生成した制御データDCは、伝送路106を介して記録ヘッド24のヘッド制御部34に印字周期TP毎にシリアル伝送される。
【0039】
図2に示すように、記録ヘッド24のヘッド制御部34は、第1保持部342と第2保持部344と駆動回路346とを具備する。第1保持部342は、制御部60から伝送路106を介して順次に供給される制御データDC(DC[1]〜DC[N])を記憶する記憶回路(例えばラッチ回路)である。具体的には、N個の圧電素子45に対応するN個の制御データDC[1]〜DC[N]が第1保持部342に格納され、印字周期TP毎に、制御部60から新たに供給される制御データDC[1]〜DC[N]に更新される。第1実施形態の制御データDCは2ビットで構成されるから、第1保持部342は、少なくとも(2×N)ビットの記憶容量を有する。
【0040】
第2保持部344は、N個の圧電素子45に対応するN個の参照データDR(DR[1]〜DR[N])を記憶する記憶回路(例えばラッチ回路)である。具体的には、第1保持部342に保持されていた制御データDC[1]〜DC[N]が印字周期TP毎に新たな参照データDR[1]〜DR[N]として第2保持部344に転送される。すなわち、第k番目(kは自然数)の印字周期TP[k](第1駆動周期)の制御データDC[1]〜DC[N]が第1保持部342に保持されている状態では、印字周期TP[k]の直前の印字周期TP[k-1]の制御データDC[1]〜DC[N]が参照データDR[1]〜DR[N]として第2保持部344に保持される。したがって、第2保持部344は、少なくとも(2×N)ビットの記憶容量を有する。
【0041】
駆動回路346は、第1保持部342に保持された制御データDC[1]〜DC[N]と第2保持部344に保持された参照データDR[1]〜DR[N]とに応じて各圧電素子45を駆動する回路(駆動手段)である。図2に示すように、駆動回路346は、相異なる圧電素子45(ノズル52)に対応するN個の素子駆動部U[1]〜U[N]を含む。第n段目(n=1〜N)の素子駆動部U[n]は、制御データDC[n]と参照データDR[n]とに応じて第n番目の圧電素子45を駆動する論理回路である。図5の部分(A)から部分(E)は、各印字周期TPにて素子駆動部U[n]から圧電素子45に供給される電位の波形図である。各素子駆動部U[n]の動作を以下に説明する。
【0042】
図5の部分(A)から部分(C)に示すように、第1保持部342に保持された制御データDC[n]がインクの噴射を指示する場合(DC[n]=“11”,“10”,“01”)、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]の数値に関わらず、制御データDC[n]に応じた噴射駆動を圧電素子45に実行させる。
【0043】
具体的には、制御データDC[n]が大ドットを示す数値“11”である場合、素子駆動部U[n]は、図5の部分(A)に示すように、駆動信号生成部64が生成した駆動信号COMから噴射パルスPD1と噴射パルスPD2とを選択して圧電素子45に供給することで、大ドットに対応する重量のインクを噴射する噴射駆動を圧電素子45に実行させる。また、制御データDC[n]が中ドットを示す数値“10”である場合、素子駆動部U[n]は、図5の部分(B)に示すように、駆動信号COMの噴射パルスPD1を圧電素子45に供給することで、中ドットに対応する重量のインクの噴射駆動を圧電素子45に実行させる。同様に、制御データDC[n]が小ドットを示す数値“01”である場合、素子駆動部U[n]は、図5の部分(C)に示すように、駆動信号COMの噴射パルスPD2を圧電素子45に供給することで、小ドットに対応する重量のインクを噴射する噴射駆動を圧電素子45に実行させる。以上のように圧電素子45に噴射駆動を実行させることで、制御データDC[n]が示す数値(階調値)に応じた直径のドットが記録紙200に形成される。
【0044】
図5の部分(D)および部分(E)に示すように、第1保持部342に保持された制御データDC[n]がインクの非噴射を示す場合、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]に応じて圧電素子45を制御する。具体的には、制御データDC[n]がインクの非噴射を示し(DC[n]=“00”)、かつ、参照データDR[n]もインクの非噴射を示す場合(DR[n]=“00”)、素子駆動部U[n]は、図5の部分(D)に示すように、駆動信号COMの微振動パルスPBを圧電素子45に供給することで圧電素子45に微振動駆動を実行させる。したがって、ノズル52内のインクの液面が揺動(微振動)してインクの増粘が低減される。
【0045】
他方、図5の部分(E)に示すように、制御データDC[n]がインクの非噴射を示し(DC[n]=“00”)、かつ、参照データDR[n]がインクの噴射を示す数値(DR[n]=“11”,“10”,“01”)である場合、素子駆動部U[n]は、圧電素子45に噴射駆動も微振動駆動も実行させずに待機させる。具体的には、素子駆動部U[n]は、印字周期TPの全体にわたって基準電位VREFを圧電素子45に供給する。
【0046】
以上に説明した通り、例えば第k番目の印字周期TP[k]の制御データDC[n]がインクの非噴射を示す場合、直前の印字周期TP[k-1]で噴射駆動が実行されていないとき(DR[n]=“00”)には印字周期TP[k]にて圧電素子45が微振動駆動を実行し、直前の印字周期TP[k-1]で噴射駆動が実行されたとき(DR[n]=“11”,“10”,“01”)には印字周期TP[k]にて圧電素子45は噴射駆動も微振動駆動も実行せずに待機(静止)する。
【0047】
各印字周期TP[k-1]での噴射駆動の実行で発生した圧力室50内の圧力変動(振動)は、直後の印字周期TP[k]が開始した時点でも完全には減衰せずに残留し得る。したがって、噴射駆動が実行された印字周期TP[k-1]の直後の印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させた場合には、印字周期TP[k-1]での噴射駆動に起因した圧力変動と印字周期TP[k]での微振動駆動に起因した圧力変動とが重畳され(すなわち両者が強め合い)、結果的にノズル52内のメニスカスが異常に振動する可能性がある。メニスカスに異常振動が発生すると、ノズル52からインクが誤噴射される場合や、メニスカスの陥没により圧力室50内に気泡が侵入する場合がある。
【0048】
第1実施形態では、印字周期TP[k]についてインクの非噴射が指示された場合、直前の印字周期TP[k-1]にて噴射駆動が実行されていたとき(DR[n]≠“00”)には、印字周期TP[k]では圧電素子45は噴射駆動も微振動駆動も実行しない。以上の構成によれば、印字周期TP[k-1]での噴射駆動により発生した圧力室50内の圧力変動が直後の印字周期TP[k]内に残留する場合でも、噴射駆動に起因した圧力変動と微振動駆動に起因した圧力変動との重畳は発生しない。したがって、第1実施形態によれば、印字周期TP[k]内でのメニスカスの異常振動を有効に防止できるという利点がある。他方、印字周期TP[k-1]にて圧電素子45が噴射駆動を実行していない場合には直後の印字周期TP[k]にて微振動駆動が実行されるから、各ノズル52の近傍のインクの増粘を低減する効果は充分に確保される。
【0049】
なお、印字周期TP[k-1]での噴射駆動による圧力変動と印字周期TP[k]での微振動駆動による圧力変動との重畳が防止されるということは、微振動駆動でメニスカスに付与される微振動の強度を上昇させた場合でも、圧力変動の重畳に起因したメニスカスの異常振動を防止できることを意味する。すなわち、第1実施形態によれば、噴射駆動による圧力変動と微振動駆動による圧力変動とが重畳し得る構成と比較して、微振動駆動でメニスカスに付与される微振動の強度の選定の自由度が高まる。したがって、例えばインクの増粘が充分に低減される程度に微振動の強度を上昇させることが可能である。
【0050】
また、第1実施形態では、制御データDC[n]を記憶する第1保持部342と参照データDR[n]を記憶する第2保持部344とが記録ヘッド24に設置される。すなわち、制御装置102は、各圧電素子45の制御データDCを印字周期TP毎に記録ヘッド24に転送すれば足りる。したがって、噴射駆動の要否を指示する印刷用ビットデータと微振動駆動の要否を指示する微振動用ビットデータとを制御装置にて個別に生成して記録ヘッドに転送する特許文献1の技術と比較すると、制御装置102にの処理負荷や伝送路106を介したデータの転送量を低減することが可能である。換言すると、処理能力の高い制御装置102や高速転送が可能な伝送路106は不要であるから、印刷装置100の製造コストが低減されるという利点がある。
【0051】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。第1実施形態では、第1保持部342に記憶された制御データDC[n]を参照データDR[n]として第2保持部344に格納した。第2実施形態では、制御データDC[n]のビット数を削減した参照データDR[n]を生成して第2保持部344に格納する。なお、以下に例示する各態様において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0052】
図6は、第2実施形態における記録ヘッド24の模式図である。図6に示すように、第2実施形態の記録ヘッド24のヘッド制御部34は、第1実施形態と同様の要素(第1保持部342,第2保持部344,駆動回路346)に変換回路348を追加した構成である。噴射部32の構成は第1実施形態と同様である。
【0053】
変換回路348は、第1保持部342に保持された制御データDC[1]〜DC[N]から参照データDR[1]〜DR[N]を生成する論理回路(変換手段)である。印字周期TP毎に制御データDC[n]から順次に参照データDR[n]が生成されて第2保持部344に保持される。第1保持部342に保持される制御データDC[1]〜DC[N]は、変換回路348による参照データDR[1]〜DR[N]の生成後に、制御装置102から新たに供給された制御データDC[1]〜DC[N]に更新される。
【0054】
図7は、変換回路348の動作の説明図である。図7に示すように、制御データDC[n]がインクの噴射を示す場合(DC[n]=“11”,“10”,“01”)、参照データDR[n]はインクの噴射を示す数値“1”に設定され、制御データDC[n]がインクの非噴射を示す場合(DC[n]=“00”)、参照データDR[n]はインクの非噴射を示す数値“0”に設定される。すなわち、印字周期TP[k]でのインクの噴射/非噴射を示す多値データ(複数ビット)が制御データDC[n]として第1保持部342に保持された状態では、印字周期TP[k]の直前の印字周期TP[k-1]でのインクの噴射/非噴射を示す2値データ(1ビット)が参照データDR[n]として第2保持部344に保持される。したがって、第2保持部344の記憶容量はNビットで足りる。
【0055】
駆動回路346の各素子駆動部U[n]は、第1実施形態と同様に、制御データDC[n]と参照データDR[n]とに応じて圧電素子45を駆動する。すなわち、第1保持部342の制御データDC[n]がインクの噴射を指示する場合(DC[n]=“11”,“10”,“01”)、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]の数値に関わらず、制御データDC[n]に応じた噴射駆動を印字周期TP[k]にて圧電素子45に実行させる。他方、制御データDC[n]がインクの非噴射を指示する場合(DC[n]=“00”)、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]が非噴射を示す数値“0”であるとき(すなわち直前の印字周期TP[k-1]で噴射駆動が実行されていないとき)には印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させ、参照データDR[n]が噴射を示す数値“1”であるとき(すなわち直前の印字周期TP[k-1]で噴射駆動が実行されたとき)には印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させない。
【0056】
第2実施形態でも第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態では、制御データDC[n]よりもビット数が少ない参照データDR[n]が生成されて第2保持部344に格納されるから、制御データDC[n](2ビット)をそのまま第2保持部344に転送する第1実施形態と比較して、第2保持部344に必要な記憶容量を削減することが可能である。したがって、記録ヘッド24(ヘッド制御部34)の回路規模や製造コストを削減できるという利点がある。
【0057】
<C:第3実施形態>
本発明の第3実施形態を説明する。第1実施形態および第2実施形態では、印字周期TP[k]での微振動駆動の有無を直前の印字周期TP[k-1]でのインクの噴射の有無に応じて制御した。第3実施形態では、印字周期TP[k]の直後の印字周期TP[k+1]でのインクの噴射の有無に応じて印字周期TP[k]での微振動駆動の有無を制御する。
【0058】
図8は、第3実施形態における記録ヘッド24の模式図である。第3実施形態のヘッド制御部34は、第1保持部342と第2保持部344とを第1実施形態とは逆転させた構成である。すなわち、第2保持部344は、制御部60から伝送路106を介して順次に供給される制御データDCを参照データDR[n](DR[1]〜DR[N])として印字周期TP毎に保持する。他方、第1保持部342は、制御データDC[1]〜DC[N]を保持する。具体的には、第2保持部344に保持されていた参照データDR[n]が制御データDC[n]として印字周期TP毎に第1保持部342に転送される。したがって、第k番目の印字周期TP[k](第1駆動周期)の制御データDC[1]〜DC[N]が第1保持部342に保持されている状態では、印字周期TP[k]の直後の印字周期TP[k+1]の制御データDC[1]〜DC[N]が参照データDR[1]〜DR[N]として第2保持部344に保持される。
【0059】
以上のように、第3実施形態においても、第1実施形態と同様に第1保持部342および第2保持部344が記録ヘッド24に設置されるから、制御装置102による処理の負荷や伝送路106を介したデータの転送量が特許文献1の技術と比較して低減されるという効果が実現される。
【0060】
駆動回路346(各素子駆動部U[n])の動作は第1実施形態と同様である。すなわち、第1保持部342の制御データDC[n]がインクの噴射を指示する場合(DC[n]=“11”,“10”,“01”)、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]の数値に関わらず、制御データDC[n]に応じた噴射駆動を印字周期TP[k]にて圧電素子45に実行させる。また、制御データDC[n]がインクの非噴射を指示する場合(DC[n]=“00”)、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]が非噴射を示す数値“00”であるとき(すなわち直後の印字周期TP[k+1]で噴射駆動が実行されないとき)には印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させ、参照データDR[n]が噴射を示す数値(DR[n]=“11”,“10”,“01”であるとき(すなわち直後の印字周期TP[k+1]で噴射駆動が実行されるとき)には印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させない。
【0061】
印字周期TP[k]での微振動駆動の実行で発生した圧力室50内の圧力変動(振動)は、直後の印字周期TP[k+1]が開始した時点でも完全には減衰せずに残留し得る。したがって、噴射駆動を実行する印字周期TP[k+1]の直前の印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させた場合には、印字周期TP[k]での微振動駆動に起因した圧力変動と印字周期TP[k+1]での噴射駆動に起因した圧力変動とが重畳され、結果的に印字周期TP[k+1]で噴射特性(インクの重量や飛翔速度)に誤差が発生する可能性がある。
【0062】
第3実施形態では、印字周期TP[k]についてインクの非噴射が指示された場合、直後の印字周期TP[k+1]にて噴射駆動が実行されるときには、印字周期TP[k]にて圧電素子45は噴射駆動も微振動駆動も実行しないから、印字周期TP[k+1]にて噴射駆動が開始される時点では、圧力室50内の圧力変動を充分に抑制(静止)させることが可能である。したがって、印字周期TP[k+1]での噴射特性の誤差を有効に低減できるという利点がある。他方、印字周期TP[k+1]にて噴射駆動を実行しない場合には印字周期TP[k]にて微振動駆動が実行されるから、各ノズル52の近傍のインクの増粘を低減する効果は充分に確保される。
【0063】
なお、第3実施形態では、印字周期TP[k]での微振動駆動による圧力変動と印字周期TP[k+1]での噴射駆動による圧力変動との重畳が抑制されるから、微振動駆動でメニスカスに付与される微振動の強度を上昇させた場合でも、圧力変動の重畳に起因した噴射特性の誤差は有効に防止される。したがって、第1実施形態と同様に、微振動駆動でメニスカスに付与される微振動の強度の選定の自由度が高まる。すなわち、例えばインクの増粘が充分に低減される程度に微振動の強度を上昇させることが可能である。
【0064】
<D:第4実施形態>
図9は、本発明の第4実施形態における駆動信号COMの波形図である。図9に示すように、駆動信号COMには、圧電素子45に噴射駆動を実行させる噴射パルスPDと、圧電素子45に微振動駆動を実行させる微振動パルスPBとが印字周期TP毎に配置される。微振動パルスPBは、印字周期TPの前方(例えば印字周期TPの中点に対して始点側)に配置される。具体的には、各印字周期TP内において微振動パルスPBは噴射パルスPDの前方に位置する。
【0065】
第1実施形態や第2実施形態と同様に、ヘッド制御部34の第1保持部342は、印字周期TP[k]でのインクの噴射/非噴射を示す制御データDC[1]〜DC[N]を保持し、第2保持部344は、直前の印字周期TP[k-1]でのインクの噴射/非噴射を示す参照データDR[1]〜DR[N]を保持する。駆動回路346の各素子駆動部U[n]は、第1実施形態と同様に圧電素子45を駆動する。具体的には、第1保持部342の制御データDC[n]がインクの噴射を指示する場合、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]の数値に関わらず、駆動信号COMの噴射パルスPDを圧電素子45に供給して噴射駆動を実行させる。他方、制御データDC[n]がインクの非噴射を指示する場合、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]が非噴射を示すとき(印字周期TP[k-1]で噴射駆動が実行されていないとき)には印字周期TP[k]にて微振動パルスPBを圧電素子45に供給して微振動駆動を実行させ、参照データDR[n]が噴射を示すとき(印字周期TP[k-1]で噴射駆動が実行されたとき)には印字周期TP[k]にて圧電素子45に基準電位VREFを供給する(すなわち微振動駆動を実行させない)。
【0066】
図10は、第4実施形態において圧電素子45に供給される電位の波形図である。図10では、印字周期TP[k]についてインクの非噴射が指示され、印字周期TP[k-1]についてインクの噴射が指示された場合が想定されている。印字周期TP[k-1]にて噴射駆動が実行されるから、印字周期TP[k]では微振動駆動は実行されない(駆動停止)。他方、印字周期TP[k-1]の直前の印字周期TP[k-2]では、直前の印字周期TP[k-3](図示略)でインクの非噴射が指示された結果、微振動パルスPBの供給により圧電素子45は微振動駆動を実行する。以上の例示から理解されるように、直前の印字周期TPでの噴射駆動の有無に応じて微振動駆動の有無を制御する第4実施形態(第1実施形態や第2実施形態)では、噴射駆動が実行される印字周期TP(TP[k-1])の直前の印字周期TP(TP[k-2])にて微振動駆動が実行される場合がある。
【0067】
したがって、印字周期TP[k-2]での微振動駆動(微振動パルスPB)と印字周期TP[k-1]での噴射駆動(噴射パルスPD)との間隔δが短い構成では、印字周期TP[k-2]での微振動駆動に起因した圧力変動の減衰前に印字周期TP[k-1]での噴射駆動が開始され、第3実施形態にて説明したように印字周期TP[k-1]での噴射特性に誤差が発生する可能性がある。そこで、第4実施形態では、前述の通り微振動パルスPBを印字周期TP内の前方に配置した。以上の構成によれば、印字周期TP[k-2]での微振動駆動と直後の印字周期TP[k-1]での噴射駆動との間隔δが充分に確保されるから、印字周期TP[k-2]での微振動駆動に起因した圧力室50内の圧力変動を、印字周期TP[k-1]での噴射駆動の開始の時点では充分に減衰させることが可能である。したがって、噴射駆動が実行される印字周期TP[k-1]の直前の印字周期TP[k-2]で微振動駆動が実行される構成にも関わらず、印字周期TP[k-1]での噴射特性の誤差を防止することが可能である。
【0068】
<E:第5実施形態>
図11は、本発明の第5実施形態における駆動信号COMの波形図である。第4実施形態と同様に、駆動信号COMの各印字周期TP内には噴射パルスPDと微振動パルスPBとが配置される。ただし、微振動パルスPBは印字周期TPの後方(例えば印字周期TPの中点に対して終点側)に配置される。具体的には、各印字周期TP内において微振動パルスPBは噴射パルスPDの後方に位置する。
【0069】
第3実施形態と同様に、ヘッド制御部34の第1保持部342は、印字周期TP[k]でのインクの噴射/非噴射を示す制御データDC[1]〜DC[N]を保持し、第2保持部344は、直後の印字周期TP[k+1]でのインクの噴射/非噴射を示す参照データDR[1]〜DR[N]を保持する。駆動回路346(各素子駆動部U[n])の動作は第3実施形態と同様である。具体的には、制御データDC[n]がインクの噴射を指示する場合、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]の数値に関わらず、駆動信号COMの噴射パルスPDを圧電素子45に供給して噴射駆動を実行させる。他方、制御データDC[n]がインクの非噴射を指示する場合、素子駆動部U[n]は、参照データDR[n]が非噴射を示すとき(印字周期TP[k+1]で噴射駆動が実行されないとき)には印字周期TP[k]にて微振動パルスPBを圧電素子45に供給して微振動駆動を実行させ、参照データDR[n]が噴射を示すとき(印字周期TP[k+1]で噴射駆動が実行されるとき)には印字周期TP[k]にて圧電素子45に基準電位VREFを供給する(すなわち微振動駆動を実行させない)。
【0070】
図12は、第5実施形態において圧電素子45に供給される電位の波形図である。図12では、印字周期TP[k+1]についてインクの噴射が指示されるから、インクの非噴射が指示される印字周期TP[k]では微振動駆動が実行されない(駆動停止)。また、印字周期TP[k+3](図示略)ではインクの非噴射が指示されるため、直前の印字周期TP[k+2]では微振動パルスPBの供給により圧電素子45は微振動駆動を実行する。以上の例示から理解されるように、直後の印字周期TPでの噴射駆動の有無に応じて微振動駆動の有無を制御する第5実施形態(第3実施形態)では、噴射駆動が実行される印字周期TP(TP[k+1])の直後の印字周期TP(TP[k+2])にて微振動駆動が実行される場合がある。
【0071】
したがって、印字周期TP[k+1]での噴射駆動(噴射パルスPD)と直後の印字周期TP[k+2]での微振動駆動(微振動パルスPB)との間隔δが短い構成では、印字周期TP[k+1]での噴射駆動に起因した圧力変動の減衰前に印字周期TP[k+2]での微振動駆動が開始され、第1実施形態で説明したようにノズル52内のメニスカスに異常振動が発生する可能性がある。そこで、第5実施形態では、前述の通り微振動パルスPBを印字周期TP内の後方に配置した。以上の構成によれば、印字周期TP[k+1]での噴射駆動と直後の印字周期TP[k+2]での微振動駆動との間隔δが充分に確保されるから、印字周期TP[k+1]での噴射駆動に起因した圧力室50内の圧力変動を、印字周期TP[k+2]での微振動駆動の開始の時点では充分に減衰させることが可能である。したがって、噴射駆動が実行される印字周期TP(TP[k+1])の直後の印字周期TP(TP[k+2])にて微振動駆動が実行される構成にも関わらず、印字周期TP[k+2]でのメニスカスの異常振動を防止することが可能である。
【0072】
<F:第6実施形態>
図13は、第6実施形態における記録ヘッド24の模式図である。第6実施形態は、第1実施形態と第3実施形態とを併合した形態である。図13に示すように、ヘッド制御部34は、第1保持部342と第2保持部344Aと第2保持部344Bと駆動回路346とを具備する。第2保持部344Aは第3実施形態の第2保持部344に相当し、第2保持部344Bは第1実施形態の第2保持部344に相当する。すなわち、印字周期TP[k]の制御データDC[1]〜DC[N]が第1保持部342に保持された状態では、直後の印字周期TP[k+1]の制御データDC[1]〜DC[N]が参照データDRa[1]〜DRa[N]として第2保持部344Aに保持されるとともに、直前の印字周期TP[k-1]の制御データDC[1]〜DC[N]が参照データDRb[1]〜DRb[N]として第2保持部344Bに保持される。
【0073】
駆動回路346の素子駆動部U[n]は、制御データDC[n]と参照データDRa[n]と参照データDRb[n]とに応じて圧電素子45を駆動する。具体的には、制御データDC[n]がインクの噴射を示す場合(DC[n]=“11”,“10”,“01”)、素子駆動部U[n]は、第1実施形態や第3実施形態と同様に、参照データDRa[n]および参照データDRb[n]の数値に関わらず、制御データDC[n]に応じた噴射駆動を圧電素子45に実行させる。
【0074】
他方、制御データDC[n]がインクの非噴射を示す場合(DC[n]=“00”)、素子駆動部U[n]は、参照データDRa[n]および参照データDRb[n]に応じて圧電素子45を制御する。具体的には、素子駆動部U[n]は、参照データDRa[n]および参照データDRb[n]の双方がインクの非噴射を示す場合(すなわち、直前の印字周期TP[k-1]および直後の印字周期TP[k+1]の双方において噴射駆動が実行されない場合)には、印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させる。他方、参照データDRa[n]および参照データDRb[n]の少なくとも一方がインクの噴射を示す場合(すなわち、直前の印字周期TP[k-1]および直後の印字周期TP[k+1]の双方または片方において噴射駆動が実行される場合)、素子駆動部U[n]は、印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させない。
【0075】
第6実施形態によれば、第1実施形態および第3実施形態と同様の効果が実現される。なお、以上の例示では制御データDC[n]を参照データDRb[n]として第2保持部344Bに保持したが、第2実施形態と同様に、制御データDC[n]のビット数を削減した参照データDRb[n]を変換回路348にて生成して第2保持部344Bに保持することも可能である。
【0076】
<G:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は適宜に併合され得る。
【0077】
(1)変形例1
第1実施形態や第2実施形態では、印字周期TP[k]の直前の1個の印字周期TP[k-1]でのインクの噴射/非噴射を示す参照データDR[n]を第2保持部344に保持したが、参照データDR[n]に対応する印字周期TPの位置や個数は適宜に変更される。例えば、印字周期TP[k]の直前の複数個の印字周期TPの各々について参照データDR[n]を第2保持部344に保持する構成や、印字周期TP[k]の2個前の印字周期TP[k-2]の参照データDR[n]を第2保持部344に保持する構成も採用され得る。以上の例示から理解されるように、第1実施形態や第2実施形態の第2保持部344(または第6実施形態の第2保持部344B)は、印字周期TP[k]の前方に位置する印字周期TP(印字周期TP[k]の前方であれば位置や個数は不問)についてインクの噴射/非噴射を示す参照データDR[1]〜DR[N]を保持する手段(第2保持手段)として包括される。ただし、最も簡便かつ効果的に所期の効果を実現するという観点からすれば、第1実施形態や第2実施形態のように、印字周期TP[k]の直前の1個の印字周期TP[k-1]のみについて参照データDR[n]を第2保持部344に保持する構成が好適である。
【0078】
第3実施形態についても同様に、参照データDR[n]が噴射/非噴射を示す印字周期TPの位置や個数は適宜に変更される。例えば、印字周期TP[k]の直後の複数個の印字周期TPの各々について参照データDR[n]を第2保持部344に保持する構成や、印字周期TP[k]の2個後の印字周期TP[k+2]の参照データDR[n]を第2保持部344に保持する構成も採用され得る。以上の例示から理解されるように、第3実施形態の第2保持部344(または第6実施形態の第2保持部344A)は、印字周期TP[k]の後方に位置する印字周期TP(印字周期TP[k]の後方であれば位置や個数は不問)についてインクの噴射/非噴射を示す参照データDR[1]〜DR[N]を保持する手段(第2保持手段)として包括される。ただし、最も簡便かつ効果的に所期の効果を実現するという観点からすれば、第3実施形態のように、印字周期TP[k]の直後の1個の印字周期TP[k+1]のみについて参照データDR[n]を第2保持部344に保持する構成が好適である。
【0079】
なお、複数個の印字周期TPについて参照データDR[n]を保持する構成では、第6実施形態と同様に、複数個の印字周期TPの全部の参照データDR[n]がインクの非噴射を示す場合に印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させ、複数個のうち少なくとも1個の印字周期TPの参照データDR[n]がインクの噴射を示す場合に印字周期TP[k]にて圧電素子45に微振動駆動を実行させない構成が好適である。
【0080】
(2)変形例2
駆動信号COMの波形は任意である。例えば、印字周期TP内の各パルス(噴射パルスPD,微振動パルスPB)の総数や波形は適宜に変更される。また、以上の各形態では1系統の駆動信号COMを記録ヘッド24に供給したが、複数系統の駆動信号を各圧電素子45の駆動に使用する構成(例えば噴射パルスPDと微振動パルスPBとを別系統の駆動信号に配置した構成)も採用され得る。
【0081】
(3)変形例3
前述の各形態では、記録ヘッド24に第1保持部342および第2保持部344を搭載したが、制御装置102に第1保持部342および第2保持部344を設置することも可能である。具体的には、制御装置102の制御部60は、制御データ(DC[n])と参照データ(DR[n],DRa[n],DRb[n])とに応じて制御内容(微振動の有無)を示すデータを生成して記録ヘッド24(ヘッド制御部34)に送信する。以上の構成によれば、例えば1ライン分の画像データを読込んで解析する構成と比較して、制御装置102の処理負荷や回路規模を低減することが可能である。
【0082】
(4)変形例4
以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12を移動させるシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙200の幅方向の全域に対向するように複数のノズル52が配列されたライン型の印刷装置100にも本発明を適用することが可能である。ライン型の印刷装置100では記録ヘッド24が固定され、記録紙200を搬送させながら各ノズル52からインクの液滴を噴射することで記録紙200に画像が記録される。以上の説明から理解されるように、記録ヘッド24自体の可動/固定は本発明において不問である。
【0083】
(5)変形例5
圧力室50内の圧力を変化させる要素(圧力発生素子)の構成は以上の例示に限定されない。例えば、静電アクチュエーター等の振動体を利用することも可能である。また、本発明の圧力発生素子は、圧力室50に機械的な振動を付与する要素に限定されない。例えば、圧力室50の加熱で気泡を発生させて圧力室50内の圧力を変化させる発熱素子(ヒーター)を圧力発生素子として利用することも可能である。すなわち、本発明の圧力発生素子は、圧力室50内の圧力を変化させる要素として包括され、圧力を変化させる方法(ピエゾ方式/サーマル方式)や構成の如何は不問である。
【0084】
(6)変形例6
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物化学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。そして、液体の噴射の目標となる物体(着弾対象)は液体噴射装置の用途に応じて相違する。例えば、前述の印刷装置100の着弾対象は記録紙200であるが、液体噴射装置を表示装置の製造に使用する場合には、例えば表示装置を構成する基板が着弾対象に相当する。
【符号の説明】
【0085】
100……印刷装置、12……キャリッジ、14……移動機構、16……用紙搬送機構、22……インクカートリッジ、24……記録ヘッド、32……噴射部、34……ヘッド制御部、342……第1保持部、344……第2保持部、346……駆動回路、348……変換回路、41……流路形成基板、42……ノズル形成基板、43……弾性膜、44……絶縁膜、45……圧電素子、46……保護基板、50……圧力室、52……ノズル、102……制御装置、104……印刷処理部、60……制御部、62……記憶部、64……駆動信号生成部、66……外部I/F、68……内部I/F、200……記録紙、300……外部装置、COM……駆動信号、PD(PD1,PD2)……噴射パルス、PB……微振動パルス、TP……印字周期(駆動周期)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルと、
前記ノズルに連通する圧力室と、
前記圧力室内の圧力を変化させて前記ノズルから前記液体を噴射させる圧力発生素子と、
前記圧力発生素子を所定の駆動周期毎に駆動する駆動手段と、
第1駆動周期について前記液体の噴射の制御内容を示す制御データを保持する第1保持手段と、
前記第1駆動周期の前方および後方の少なくとも一方に位置する第2駆動周期について前記液体の噴射の制御内容を示す参照データを保持する第2保持手段とを具備し、
前記駆動手段は、前記第1保持手段に保持された制御データと前記第2保持手段に保持された参照データとに応じて前記圧力発生素子を駆動する
液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の前方の第2駆動周期について前記参照データを保持し、
前記駆動手段は、
前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の噴射を示す場合には、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、
前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の非噴射を示す場合、前記参照データが前記液体の非噴射を示すときには、前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、前記参照データが前記液体の噴射を示すときには、前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に前記微振動駆動を実行させない
請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の直前の1個の前記第2駆動周期について前記参照データを保持する
請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記第2保持手段は、駆動周期毎に、前記第1保持手段に保持されていた制御データを前記参照データとして保持する
請求項2または請求項3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記制御データよりも少ないビット数で前記液体の噴射の制御内容を示す前記参照データを前記制御データから生成する変換手段を具備し、
前記第2保持手段は、前記変換手段が生成した参照データを記憶する
請求項2から請求項4の何れかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記制御データは、直径が相違する複数種のドットの何れかに対応する重量の前記液体の噴射または前記液体の非噴射を指示する多値データであり、
前記参照データは、前記液体の噴射の制御内容を示す2値データである
請求項5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記駆動手段は、前記圧力発生素子に噴射駆動を実行させる噴射パルスと、前記圧力発生素子に微振動駆動を実行させる微振動パルスとを駆動周期毎に含む駆動信号から、前記噴射パルスまたは前記微振動パルスを前記制御データに応じて選択して前記圧力発生素子に供給し、
前記駆動信号の各駆動周期内において前記微振動パルスは前記噴射パルスの前方に位置する
請求項2から請求項6の何れかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の後方の第2駆動周期について前記参照データを保持し、
前記駆動手段は、
前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の噴射を示す場合には、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、
前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の非噴射を示す場合、前記参照データが前記液体の非噴射を示すときには、前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、前記参照データが前記液体の噴射を示すときには、前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に前記微振動駆動を実行させない
請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の直後の1個の前記第2駆動周期について前記参照データを保持する
請求項8に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記第1保持手段は、駆動周期毎に、前記第2保持手段に保持されていた参照データを前記制御データとして保持する
請求項8または請求項9に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
前記駆動手段は、前記圧力発生素子に噴射駆動を実行させる噴射パルスと、前記圧力発生素子に微振動駆動を実行させる微振動パルスとを駆動周期毎に含む駆動信号から、前記噴射パルスまたは前記微振動パルスを前記制御データに応じて選択して前記圧力発生素子に供給し、
前記駆動信号の各駆動周期内において前記微振動パルスは前記噴射パルスの後方に位置する
請求項8から請求項10の何れかに記載の液体噴射ヘッド。
【請求項12】
前記第2保持手段は、前記第1駆動周期の前方の第2駆動周期および前記第1駆動周期の後方の第2駆動周期の各々について前記参照データを保持し、
前記駆動手段は、
前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の噴射を示す場合には、前記ノズルから前記液体を噴射させる噴射駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、
前記第1駆動周期の前記制御データが前記液体の非噴射を示す場合、前記第2保持手段が保持する全部の参照データが前記液体の非噴射を示すときには、前記ノズルから前記液体が噴射しない程度に前記ノズル内の液面を微振動させる微振動駆動を前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に実行させ、前記第2保持手段が保持する少なくともひとつの参照データが前記液体の噴射を示すときには、前記第1駆動周期にて前記圧力発生素子に前記微振動駆動を実行させない
請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項13】
液体を噴射するノズルと、
前記ノズルに連通する圧力室と、
前記圧力室内の圧力を変化させて前記ノズルから前記液体を噴射させる圧力発生素子と、
前記圧力発生素子を所定の駆動周期毎に駆動する駆動手段と、
第1駆動周期について前記液体の噴射の制御内容を示す制御データを保持する第1保持手段と、
前記第1駆動周期の前方および後方の少なくとも一方に位置する第2駆動周期について前記液体の噴射の制御内容を示す参照データを保持する第2保持手段とを具備し、
前記駆動手段は、前記第1保持手段に保持された制御データと前記第2保持手段に保持された参照データとに応じて前記圧力発生素子を駆動する
液体噴射装置。
【請求項14】
前記ノズルと前記圧力室と前記圧力発生素子と前記駆動手段とを含む液体噴射ヘッドと、
駆動周期毎に制御データを生成して前記液体噴射ヘッドに供給する制御装置と
を具備する請求項13に記載の液体噴射装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−171162(P2012−171162A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34272(P2011−34272)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】