説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】ノズル開口の目詰まりが低減し、噴射不良の少ない液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を得ること。
【解決手段】電源240によって、インク400にプラス電荷を蓄積させてインク400の表面張力を下げつつ、低電位のノズルプレート210との間の静電力により、ノズル開口211でのメニスカス216の位置を噴射面212側の撥液性の位置まで移動できる。したがって、ノズル開口211内の材料500は、インク400のメニスカス216の移動によって親液性のインク400に取り囲まれながらノズル開口211から離れ、インク400の吐出によって材料500を容易に排除できるインクジェット式記録ヘッド200を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式プリンターやプロッター等のインクジェット式記録装置に代表される液体噴射装置は、液体カートリッジや液体タンク等の液体貯留手段に貯留された液体を、液滴として吐出可能な液体噴射ヘッドを有する。
ここで、液体噴射ヘッドとしては、ノズル開口に連通する圧力発生室と、圧力発生室に圧力変化を生じさせてノズル開口から液滴を吐出させる圧力発生手段とを具備する。そして、液体噴射ヘッドに搭載される圧力発生手段としては、例えば圧電素子、発熱素子及び静電気力を用いたものなどが挙げられる。
ノズル開口の形成された噴射面に、熱融解型の材料を塗布装置によって塗布してノズル開口を覆う被膜を形成して、ノズル開口内に存在する液体の乾燥を防止し、液体に噴射前に被膜を加熱して除去する除去装置を有する液体吐出装置が知られている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−76238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱融解型の材料を加熱して塗布、除去する際に、当該材料の流動性が上昇する。この材料の流動性の上昇に伴い、毛細管現象の発生、流動性の上昇した材料の噴射面に対する接触角とノズル開口内に対する接触角との違い等により、ノズル開口内にこの材料が引き込まれ、材料の除去後にもノズル開口内に材料が残る。ノズル開口内に残った流動性の低下した材料は、ノズル開口からの液体の噴射を妨げ、液体の噴射不良が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
親液性の液体を噴射するノズル開口が形成された噴射面を有するノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドであって、前記液体と前記ノズルプレートとは絶縁され、前記ノズル開口の前記噴射面側の内壁上に撥液膜を有し、前記ノズル開口の前記噴射面側とは反対側の内壁に親液膜を有し、前記液体と前記ノズルプレートとの間に、前記液体側を高電位にする電圧印加手段が前記親液膜の領域から前記撥液膜の領域に亘って備えられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【0007】
この適用例によれば、ノズル開口の内壁の表面状態を、噴射面側を撥液性とし、噴射面側とは反対側を親液性とすることで、ノズル開口内での親液性の液体のメニスカスの位置が親液性の位置になる。また、疎液性の異物はノズル開口の噴射面側に位置する。ここで、電圧印加手段によって、液体の表面にプラス電荷を蓄積させて液体の表面張力を下げつつ、低電位のノズルプレートとの間の静電力により、ノズル開口でのメニスカスの位置を親液性の位置から噴射面側の撥液性の位置まで移動できる。したがって、ノズル開口内の液体以外の異物は、液体のメニスカスの移動によって親液性の液体に取り囲まれながらノズル開口から離れ、液体の噴射によって異物を容易に排除できる液体噴射ヘッドが得られる。
【0008】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドにおいて、前記ノズルプレートはシリコンを含み、前記液体と前記ノズルプレートとは二酸化シリコン膜で絶縁されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
この適用例では、シリコンの表面に自然酸化、あるいは熱酸化によって容易に形成できる二酸化シリコンを絶縁膜として利用できる。また、二酸化シリコンは親液性と絶縁性とを併せ持っているので、1つの膜でノズル開口の親液性部分を形成でき、絶縁性も確保できる。したがって、製造の容易な液体噴射ヘッドが得られる。
【0009】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドと、前記噴射面に疎液性の材料を含む被膜を形成して前記ノズル開口を覆う塗布装置とを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0010】
この適用例によれば、前述の液体噴射ヘッドを備えているので、塗布装置により材料を塗布する際に、ノズル開口内での親液性の液体のメニスカスの位置が親液性の位置になり、ノズル開口に侵入した疎液性の材料は、ノズル開口の噴射面側に位置する。ノズル開口内の材料は、液体のメニスカスの移動によって親液性の液体に取り囲まれながらノズル開口から離れ、液体の噴射によって材料が容易に排除される。したがって、材料がノズル開口内に残りにくく、液体の噴射が妨げられにくいので、液体の噴射不良のより少ない液体噴射装置が得られる。
【0011】
[適用例4]
上記液体噴射装置において、前記材料が熱融解性を有し、前記塗布装置は前記材料を加熱して融解して塗布し、塗布されて固まった前記材料を加熱して融解する加熱手段を備えていることを特徴とする液体噴射装置。
この適用例では、材料が熱融解性を有しているので、材料を加熱して塗布した後、材料は固まり、垂れることなくノズル開口を塞げる。したがって、ノズル開口での液体の乾燥がより抑えられ、粘度の高まった液体によるノズル開口の目詰まりがより減少し、液体の噴射不良のより少ない液体噴射装置が得られる。
また、加熱手段を備えているので、固まった材料の流動性を上昇させることにより、液体のメニスカスの移動によって、材料が親液性の液体に取り囲まれながらノズル開口から離れ、液体の噴射によって材料が容易に排除される。したがって、熱融解性の材料において、材料がノズル開口内に残りにくく、液体の噴射が妨げられにくいので、液体の噴射不良のより少ない液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係るインクジェットプリンターの概略斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの分解斜視図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの概略断面図。
【図4】ノズル開口付近の概略拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施形態における液体噴射装置としてのインクジェットプリンター1000を示した概略斜視図である。
図1において、インクジェットプリンター1000は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体2上にインクドットを形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷媒体2の紙送りを行うためのプラテンローラー70と、正常に印刷可能なようにメンテナンスを行うメンテナンス機構300とを備えている。
【0014】
キャリッジ20には、インクを収容したインクカートリッジ26、インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22およびキャリッジケース22の底面側(印刷媒体2に向いた側)に搭載されて液体噴射ヘッドの一種である、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッド200などが設けられている。
インクカートリッジ26内のインクをインク供給針やフレキシブルなインクチューブやなどの供給部材を経由してインクジェット式記録ヘッド200に導いて、インクジェット式記録ヘッド200から吐出媒体となる印刷媒体2に正確な分量だけインクを吐出することによって、画像が印刷されるようになっている。
【0015】
図2に、インクジェット式記録ヘッド200の分解斜視図を示した。
図2において、インクジェット式記録ヘッド200は、圧力発生素子として圧電素子100を有する。以下の例では、圧力発生素子として撓み振動型の圧電素子100を有するインクジェット式記録ヘッド200について説明する。圧力発生素子としては、縦振動型の圧電素子、発熱素子および静電気力を用いたものであってもよく、後述する流路222に圧力を発生させてノズル開口211からインクを吐出させることができるように構成されているのであれば、上記素子に限定されない。
【0016】
インクジェット式記録ヘッド200は、ノズル開口211が形成されたノズルプレート210と流路基板220と圧電素子100とを備えている。
ノズル開口211はノズルプレート210の噴射面212に形成されている。流路基板220には、流路222が形成されている。
また、インクジェット式記録ヘッド200は、筐体230を備えている。
【0017】
ノズル開口211からは、インクが吐出される。ノズルプレート210には、例えば、多数のノズル開口211が一列に設けられている。ノズルプレート210の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを列挙することができるがこれらの材質に限定されない。
【0018】
流路基板220は、ノズルプレート210上(図2の例では下)に設けられている。流路基板220の材質としては、ここでは、シリコンなどを例示することができる。
流路基板220がノズルプレート210と基板10との間の空間を区画することにより、マニホールド224と、マニホールド224と連通する複数の流路222(例えば圧力発生室ともいえる)とが設けられている。すなわち、マニホールド224は、複数の流路222にとって共通の流路となる。また、マニホールド224および流路222は、ノズルプレート210と流路基板220と基板10とによって区画されている。例えば、図2に示すように、マニホールド224と流路222とは、流路222毎に設けられた供給口226を介して、連通している。
【0019】
マニホールド224は、図1に示したインクカートリッジ26から、基板10に設けられた貫通孔228を通じて供給されるインクを一時貯留することができる。マニホールド224内のインクは、流路222に供給される。圧電素子100が変位することで、基板10が変形し、その結果、流路222の容積が変化する。流路222は流路222毎に設けられたノズル開口211と連通しており、流路222の容積変化によって、ノズル開口211からインクが吐出される。それぞれの流路222は、それぞれの圧電素子100に対応して設けられている。
【0020】
圧電素子100は、流路基板220上(図2の例では下)に設けられている。圧電素子100は、図示しない圧電素子駆動回路に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて振動、変形する。基板10は、圧電素子100の動作によって変形し、流路222の内部圧力を瞬間的に高める。
【0021】
筐体230は、図2に示すように、ノズルプレート210、流路基板220および圧電素子100を収納することができる。筐体230の材質としては、例えば、樹脂、金属などを列挙することができる。
【0022】
図3は、インクジェット式記録ヘッド200の概略断面図である。断面は、ノズル開口211を通る断面で、ノズル開口211の断面も示している。
図3において、インクジェット式記録ヘッド200は圧電素子100を備えている。圧電素子100は、基板10上に、下電極40と、圧電体50と、上電極60とを含むことで構成される。
【0023】
基板10の材質としては、例えば、導電体、半導体、絶縁体などを例示することができる。より具体的には、基板10としては、例えば、単結晶シリコン上に酸化シリコン(SiO2)と酸化ジルコニウム(ZrO2)とを積層したものを用いることができる。
【0024】
下電極40は、基板10上に直接または間接的に形成されている。直接とは、基板10と下電極40との間に別の層や膜を形成しない場合を意味する。また、間接的とは、基板10と下電極40との間に別の層や膜の存在を許容することを意味する。下電極40の材質としては、例えば、白金、イリジウム、それらの導電性酸化物、ランタンニッケル酸化物(LaNiO3:LNO)などを例示することができる。下電極40は、前述の例示した材料の単層構造でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。下電極40の厚さは、例えば、50nm〜300nmである。下電極40は、圧電体50に電圧を印加するための一方の電極である。
【0025】
圧電体50は、下電極40上に形成されている。圧電体50としては、ペロブスカイト型酸化物の圧電材料を用いることができる。より具体的には、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:PZT)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O3:PZTN)などを用いることができる。圧電体50の厚さは、例えば、300nm〜3000nmである。
【0026】
上電極60は、圧電体50上に形成されている。図3の例では、上電極60は、圧電体50の上面に形成されているが、さらに、圧電体50の側面および基板10の上面にわたって形成されていてもよい。上電極60の材質としては、例えば、下電極40として例示した材質を用いることができる。上電極60の厚さは、例えば、50nm〜300nmである。上電極60は、圧電体50に電圧を印加するための他方の電極である。
【0027】
図3において、ノズル開口211は、噴射面212にアウトレットが開口するように形成されている。
ここで、流路222中の親液性のインク400とノズルプレート210とは絶縁膜214によって絶縁されている。また、撥液膜215が、噴射面212から、ノズル開口211の噴射面212側の内壁の途中まで形成され、撥液性を有している。一方、噴射面212側と反対側の内壁には、撥液膜215が形成されていないため、親液性を有している。また、親液性は、絶縁膜214を例えば、二酸化シリコンとすることによっても得られる。本実施形態では、親液性を発揮するために、絶縁膜214をノズル開口211の内壁に形成することで説明する。
また、インク400とノズルプレート210との間に、インク400側を高電位にする電圧印加手段としての電源240を備えている。
この電源240は、少なくとも絶縁膜214に対応する領域から撥液膜215に対応する領域に亘って設けられている。
電源240によるノズル開口211内のインクに対して電圧の印加が無い状態において、親液性のインク400のノズル開口211でのメニスカス216は、噴射面212側と反対側の、親液性の絶縁膜214上に形成されている。つまり、電圧の印加が無い状態においては、ノズル開口211の内壁に形成された撥液膜215の表面にメニスカス216は形成されていない。
【0028】
図1において、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向に延設されたガイドレール38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミングベルト32の歯形と噛み合う駆動プーリー34と、駆動プーリー34を駆動するためのステップモーター36などから構成されている。タイミングベルト32の一部はキャリッジケース22に固定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレール38に沿ってキャリッジケース22を移動させることができる。また、タイミングベルト32と駆動プーリー34とは歯形によって互いに噛み合っているので、ステップモーター36で駆動プーリー34を駆動すると、駆動量に応じて精度良くキャリッジケース22を移動させることが可能となっている。
【0029】
印刷媒体2の紙送りを行うプラテンローラー70は、図示しない駆動モーターやギア機構によって駆動されて、印刷媒体2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能となっている。インクジェットプリンター1000は、こうした機構によって副走査方向へ印刷媒体2を紙送りしながら、インクジェット式記録ヘッド200を主走査方向に駆動して各色のインク400をノズル開口211から吐出することによって、印刷媒体2上に画像を印刷していく。
【0030】
この様に、インクジェットプリンター1000では、インクジェット式記録ヘッド200に設けられた複数のノズル開口211から各色のインク400を吐出することによって、画像を印刷していく。ノズル開口211からインク400を適切に吐出するためには、ノズル開口211内のインク400の状態が適切な状態に保たれていることが重要である。インク400の溶媒が蒸発し乾燥するなどしてインク400の状態が変化(例えば、粘度の上昇やその結果として固化)してしまうと、ノズル開口211からインク400を正常に吐出することができなくなってしまう。こうした理由から、インクジェットプリンター1000は、画像を印刷するための各種の機構に加えて、インク400を正常に吐出可能な状態を維持するためのメンテナンス機構300を備えている。
【0031】
図1において、メンテナンス機構300は、印字領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設けられており、塗布装置としてのディップ槽120、インクジェット式記録ヘッド200の図2および図3に示した噴射面212を払拭するワイパーブレード130、インクジェット式記録ヘッド200の底面側に設けられ、噴射面212に押しつけられて、噴射面212との間に空間を形成するキャップ部材の一種であるキャッピングユニット140、キャッピングユニット140と噴射面212で形成する空間に接続された吸引ポンプ150などから構成されている。ディップ槽120には、熱融解性の膜を形成する材料500が充填されている。ディップ槽120は、必要に応じて加熱が可能で熱融解性の材料500を溶かすことができる。
【0032】
キャッピングユニット140で、インクジェット式記録ヘッド200の噴射面212にキャッピングユニット140を押し付けてインク400の乾きを防いだとしても、少しずつインク400内の溶媒が蒸発して、インク400の状態が変化してしまう。
そこで、実施形態では、ノズル開口211内でのインク400の溶媒の蒸発をより防ぐために、疎液性の材料500の噴射面212への塗布および除去を行なう。
【0033】
図4に、ノズル開口211付近の概略拡大断面図を示した。(a)は、材料500を塗布した状態の概略拡大断面図、(b)は、インク400とノズルプレート210との間で、インク400側を高電位にした状態の概略拡大断面図、(c)は、材料500の除去中の状態の概略拡大断面図である。
材料500の噴射面212への塗布は、塗布装置であるディップ槽120の融解した材料500に噴射面212を接触させることで行なう。また、塗布装置としてワイパーブレード130を利用し、ワイパーブレード130の先に材料500を乗せた状態で噴射面212に材料500を接触させながらワイパーブレード130を移動させて塗布してもよい。
【0034】
材料500としては、シリコンオイル、熱融解性を有するパラフィン等を用いることができる。熱融解性の材料500の場合、加熱して流動性を上昇させた上で塗布を行なう。
パラフィンとしては、炭素数が18以上のアルカンを用いれば、常温で固体であり、40℃〜70℃で容易に融解し扱い易い。
塗布の頻度は、インク400の性質、例えば、使用する溶媒の揮発性によるインク400の固まり易さ等によって決めることができる。例えば、電源オフ時に塗布したり、インク400の固まり易さに応じて決められた時間ごとに塗布したりすることができる。
【0035】
図4(a)において、図1に示したディップ槽120によって塗布された材料500は、ノズル開口211に入り込む。このとき、ノズル開口211中の気体は圧縮されて、メニスカス216を流路222に向かって押すため、メニスカス216と材料500とは接触しにくくなる。メニスカス216は、撥液膜215が形成された噴射面212側とは反対側で、親液性を有する絶縁膜214に形成される。ノズル開口211が材料500で塞がれば、インク400の溶媒の蒸発を抑えられる。
【0036】
材料500の除去は、インクジェット式記録ヘッド200を用いて行うことができる。
材料500が、常温で粘度の低いシリコンオイルのような場合は、その状態で材料500の除去を行い、材料500が熱融解性の場合、材料500を、加熱手段を用いて加熱して融解させて、材料500の除去を行う。常温で粘度の高い材料500の場合も加熱して粘度を下げて材料500の除去を行うことができる。材料500の加熱は、ディップ槽120を加熱手段として用い、ディップ槽120に浸漬して材料500を溶かしてもよいし、ノズルプレート210を加熱手段として加熱してもよいし、キャッピングユニット140を加熱手段として加熱してもよい。
【0037】
材料500の除去は、材料500の粘度が低い状態で、インクジェット式記録ヘッド200を作動させて、ノズル開口211からインク400を噴射させて行なう。
その他、除去装置としてワイパーブレード130を用い、噴射面212をワイピングすることによって除去したり、除去装置としてキャッピングユニット140を用い、キャッピングユニット140で吸引ポンプ150によって材料500を吸引することで除去したりすることができる。また、図示しない布で材料500を吸い取ってもよい。
【0038】
図4(b)において、インク400とノズルプレート210との間に、インク400側が高電位となるように、電圧を印加すると、インク400と絶縁膜214との界面のインク400側には、プラス電荷が蓄積し、プラス電荷同士が反発することによって、インク400の表面張力が低下する。
一方、絶縁膜214とノズルプレート210との界面のノズルプレート210側には、マイナス電荷が蓄積する。したがって、インク400は、表面張力の低下とプラス電荷とマイナス電荷とが引き合う力によって、ノズル開口211の内面を濡らしていく。このとき、材料500は、ノズル開口211の内面から引き剥がされ、インク400に取り囲まれていく。
【0039】
図4(c)において、インク400を吐出すると、材料500はインク400に取り囲まれた状態で、インク400とともに、あるいは材料500だけが押し出され、吐出される。
【0040】
キャッピングユニット140は、吸引ポンプ150を作動させることによって、ノズル開口211から状態が変化してしまったインク400を吸い出す動作(クリーニング動作)を行うこともできる。クリーニング動作を行うと、状態が変化してしまったインク400をノズル開口211から強制的に排出できるので、ノズル開口211を正常な状態に回復させることが可能となる。
この様に、インクジェットプリンター1000は、メンテナンス機構300によって、インク400の溶媒の蒸発を防いだり、あるいは、状態が変化したインク400を強制的に排出したりすることが可能となっており、これにより、インクジェット式記録ヘッド200を正常な状態に維持することが可能となっている。
【0041】
以上に述べた実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)電源240によってノズル開口211内のインクに電圧が印加されていないときに、ノズル開口211の内壁の性質を、噴射面212側を撥液性とし、噴射面212側とは反対側を親液性とすることで、ノズル開口211内での親液性のインク400のメニスカス216の位置が親液性の位置になる。また、疎液性の材料500はノズル開口211の噴射面212側に位置する。ここで、電源240によって、インク400にプラス電荷を蓄積させてインク400の表面張力を下げつつ、低電位のノズルプレート210との間の静電力により、ノズル開口211でのメニスカス216の位置を噴射面212側の撥液性の膜が形成された位置まで移動できる。したがって、ノズル開口211内の材料500は、インク400のメニスカス216の移動によって親液性のインク400に取り囲まれながらノズル開口211から離れ、インク400の吐出によって材料500を容易に排除できるインクジェット式記録ヘッド200を得ることができる。
【0042】
(2)シリコンの表面に自然酸化、あるいは熱酸化によって容易に形成できる二酸化シリコンを絶縁膜214として利用できる。また、二酸化シリコンは親液性と絶縁性とを併せ持っているので、1つの絶縁膜214でノズル開口211の親液性部分を形成でき、絶縁性も確保できる。したがって、製造の容易なインクジェット式記録ヘッド200を得ることができる。
【0043】
(3)ディップ槽120により材料500を塗布する際に、ノズル開口211内での親液性のインク400のメニスカス216の位置が親液性の位置になり、ノズル開口211に侵入した疎液性の材料500は、ノズル開口211の噴射面212側に位置する。ノズル開口211内の材料500は、インク400のメニスカス216の移動によって親液性のインク400に取り囲まれながらノズル開口211から離れ、インク400の吐出によって材料500を容易に排除できる。したがって、材料500がノズル開口211内に残りにくく、インク400の吐出が妨げられにくいので、インク400の吐出不良の少ないインクジェットプリンター1000を得ることができる。
【0044】
(4)材料500が熱融解性を有していると、材料500を加熱して塗布した後、材料500は固まり、垂れることなくノズル開口211を塞ぐことができる。したがって、ノズル開口211でのインク400の乾燥がより抑えられ、粘度の高まったインク400によるノズル開口211の目詰まりがより減少し、インク400の吐出不良の少ないインクジェットプリンター1000を得ることができる。
また、加熱手段を備えているので、固まった材料500の流動性を上昇させることにより、インク400のメニスカス216の移動によって、材料500が親液性のインク400に取り囲まれながらノズル開口211から離れ、インク400の吐出によって材料500を容易に排除できる。したがって、熱融解性の材料500において、材料500がノズル開口211内に残りにくく、インク400の吐出が妨げられにくいので、インク400の吐出不良のより少ないインクジェットプリンター1000を得ることができる。
【0045】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッドがインクジェット式記録ヘッド200である場合について説明した。しかしながら、本発明の液体噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0046】
以上、本発明にかかる液体噴射装置の一例として、インクジェットプリンター1000を説明したが、本発明にかかる液体噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液体噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
2…印刷媒体、10…基板、20…キャリッジ、22…キャリッジケース、26…インクカートリッジ、30…駆動機構、32…タイミングベルト、34…駆動プーリー、38…ガイドレール、40…下電極、50…圧電体、60…上電極、70…プラテンローラー、100…圧電素子、120…ディップ槽、130…ワイパーブレード、140…キャッピングユニット、150…吸引ポンプ、200…インクジェット式記録ヘッド、210…ノズルプレート、211…ノズル開口、212…噴射面、214…絶縁膜、215…撥液膜、216…メニスカス、220…流路基板、222…流路、224…マニホールド、226…供給口、228…貫通孔、230…筐体、240…電源、300…メンテナンス機構、400…インク、500…材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親液性の液体を噴射するノズル開口が形成された噴射面を有するノズルプレートを備えた液体噴射ヘッドであって、
前記液体と前記ノズルプレートとは絶縁され、
前記ノズル開口の前記噴射面側の内壁に撥液膜を有し、
前記噴射面側とは反対側の内壁に親液膜を有し、
前記液体と前記ノズルプレートとの間に、前記液体側を高電位にする電圧印加手段が前記親液膜の領域から前記撥液膜の領域に亘って設けられている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドにおいて、
前記ノズルプレートはシリコンを含み、
前記液体と前記ノズルプレートとは二酸化シリコン膜で絶縁されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドと、
前記噴射面に疎液性の材料を含む被膜を形成して前記ノズル開口を覆う塗布装置とを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項4】
請求項3に記載の液体噴射装置において、
前記材料が熱融解性を有し、
前記塗布装置は前記材料を加熱して融解して塗布し、
塗布されて固まった前記材料を加熱して融解する加熱手段を備えている
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−196937(P2012−196937A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64023(P2011−64023)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】