説明

液体噴射ヘッドのメンテナンス方法、メンテナンス機構、記録装置及びメディア処理装置

【課題】 キャッピングが長時間にわたって行われても、ノズル形成面に付着した液滴によって他の部材などを汚すことのない液体噴射ヘッドのメンテナンス方法、メンテナンス機構、記録装置及びメディア処理装置を提供する。
【解決手段】 インクジェットヘッド61のノズル形成面61aをヘッドキャップ82で覆うキャッピング工程と、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aをワイパ121によって払拭するワイピング工程とを有するインクジェットヘッド61のメンテナンス方法において、ヘッドキャップ82のキャッピング時間が所定時間以上の場合、ヘッドキャップ82が開放された後に、ワイピング工程が実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタなどの液体噴射ヘッドを備えた液体消費装置のノズル形成面をクリーニングするメンテナンス方法、メンテナンス機構、及びそれを備えた記録装置、メディア処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、多数枚のブランクCD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などのメディア(情報記憶媒体)にデータの書き込みを行うディスクダビング装置や、データの書き込みとレーベル印刷を行ってメディアを制作して発行可能なCD/DVDパブリッシャなどのメディア処理装置が知られている。この種のメディア処理装置は、メディアへデータを書き込むドライブ及びメディアのレーベル面に印刷を施す記録装置であるプリンタを備えている。
【0003】
一般に、この種のプリンタ(液体消費装置)は、往復移動可能なキャリッジに装填されたインクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)が複数のインクノズルからインク滴を所望の位置に噴射することによって印刷を行うように構成されている。インクジェットヘッドのノズル形成面には、印刷の際にインクやごみ等の異物が付着することがあるため、印宇領域外にて適宜クリーニングする必要がある。
【0004】
そこで、インクジェットヘッドによる印刷領域から外れたメンテナンス領域に、インクジェットヘッドの保守動作を行うヘッドメンテナンス機構を配置する。このヘッドメンテナンス機構によって、インクジェットヘッドのノズル形成面にヘッドキャップを密着させて増粘状態のインクを吸引する吸引クリーニング、インクジェットヘッドのノズル形成面の汚れを払拭するワイピング、インクノズルの詰まりを防止するためにヘッドキャップをノズル形成面に密着させるキャッピングなどを行うようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−1835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、吸引クリーニング及びワイピングなどのメンテナンス後や電源OFF時には、ヘッドキャップによりキャッピングがなされるが、このキャッピング時にノズル形成面にインクが結露することがある。そして、長時間放置された後や電源ON時に、所定の初期化動作を行い、待機状態となるが、所定の初期化動作中、又はその度の印刷後に、ノズル形成面に結露したインクが被印刷物であるCDやDVD等のメディアに付着したり、メディアを保持する機構部分に付着したりして汚してしまう可能性があった。
【0007】
特に、保持機構によって保持したメディアのレーベル面に印刷を行うメディア処理装置では、保持用の爪などを有することにより保持機構とインクジェットヘッドとのヘッドギャップが狭くなっており、インクジェットヘッドの移動時における付着の可能性が高くなっている。
【0008】
従って、本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、キャッピングが長時間にわたって行われても、ノズル形成面に付着した液滴によって他の部材などを汚すことのない液体噴射ヘッドのメンテナンス方法、メンテナンス機構、記録装置及びメディア処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、液体噴射ヘッドのノズル形成面をヘッドキャップで覆うキャッピング工程と、
前記液体噴射ヘッドのノズル形成面をワイパによって払拭するワイピング工程と、
を有する液体噴射ヘッドのメンテナンス方法であって、
前記ヘッドキャップのキャッピング時間が所定時間以上の場合、前記ヘッドキャップが開放された後に、前記ワイピング工程が実施されることを特徴とする液体噴射ヘッドのメンテナンス方法により達成される。
【0010】
上記構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法によれば、キャッピング時間が所定時間以上であった場合、ヘッドキャップを開放した後に、ワイピング工程を実施してノズル形成面をワイパによって払拭するので、キャッピング時にノズル形成面に結露したとしても、その液滴を除去することができる。
したがって、その後、ノズル形成面に結露した液滴が他の部材などに付着して汚してしまうような不具合を回避することができる。
【0011】
尚、上記構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法において、前記液体噴射ヘッドが対象物に液体を噴射する噴射領域へ移動する前に、前記ワイピング工程を実施することが望ましい。
このような構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法によれば、ノズル形成面に結露した液滴が噴射領域の対象物やその周辺に付着するのを確実に防止することができる。
【0012】
また、上記構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法において、前記所定時間が、使用環境温度に応じて変更されることが望ましい。
このような構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法によれば、使用環境温度に応じて、判定基準となるキャッピング時間の所定時間が変更されるので、ヘッドキャップ内の結露の可能性をより正確に予測してワイピング工程の要否を判定することができる。
【0013】
また、上記構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法において、前記使用環境温度が低くなるほど、前記所定時間が短くなることが望ましい。
このような構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法によれば、使用環境温度が低くなって結露し易くなるほど、所定時間が短くなるようにすることにより、必要な場合だけワイピングを効率良く行うことができる。
【0014】
また、本発明の上記目的は、液体噴射ヘッドのノズル形成面を覆うヘッドキャップと、
前記液体噴射ヘッドのノズル形成面を払拭するワイパと、
キャッピング時間を計測するタイマと、
前記タイマの計測時間が所定時間以上の場合、前記ヘッドキャップの開放後に前記ノズル形成面のワイピングを実施させる制御部と、を備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドのメンテナンス機構により達成される。
【0015】
上記構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構によれば、制御部が、タイマの計測時間に基づいてキャッピング時間が所定時間以上であったと判断したら、ヘッドキャップを開放した後に、ワイピングを実施してノズル形成面をワイパによって払拭する。そこで、キャッピング時にノズル形成面にヘッドキャップ内の水分が結露したとしても、その水滴を除去することができる。
したがって、その後、ノズル形成面に結露した水滴が他の部材などに付着して汚してしまうような不具合を回避することができる。
【0016】
尚、このような構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構において、前記制御部は、前記液体噴射ヘッドによって対象物に液体を噴射させる噴射領域へ前記液体噴射ヘッドを移動させる前に、前記ノズル形成面のワイピングを実施することが望ましい。
このような構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構によれば、ノズル形成面に結露した液滴が噴射領域の対象物やその周辺に付着するのを確実に防止することができる。
【0017】
また、上記構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構において、使用環境温度を検出する温度センサを備え、前記制御部は前記温度センサの検出結果に応じて前記所定時間を変更することが望ましい。
このような構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構によれば、制御部が、温度センサによって検出された使用環境温度に応じて判定基準となるキャッピング時間の所定時間を変更するので、ヘッドキャップ内の結露の可能性をより正確に予測してワイピング工程の要否を判定することができる。
【0018】
また、上記構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構において、前記制御部は、前記使用環境温度が低くなるほど、前記所定時間を短く設定することが望ましい。
このような構成の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構によれば、制御部が、温度センサによって検出された使用環境温度が低くなって結露し易くなるほど、所定時間を短くするので、必要な場合だけワイピングを効率良く確実に行うことができる。
【0019】
また、本発明の上記目的は、前記液体噴射ヘッドからインクを噴射させることにより、被印刷物に対して印刷を施す記録装置であって、
上記のいずれかの液体噴射ヘッドのメンテナンス機構を備えたことを特徴とする記録装置により達成される。
上記構成の記録装置によれば、所定の初期化動作中、又はその度の印刷後などに、ノズル形成面に結露したインクが被印刷物や被印刷物の保持機構部分に付着して汚すような不具合なく、高品質に印刷を行うことができる。
【0020】
また、本発明の上記目的は、メディアに対して各種処理を行うメディア処理装置であって、
上記の記録装置を備えたことを特徴とするメディア処理装置により達成される。
上記構成のメディア処理装置によれば、被印刷物であるCDやDVD等のメディアを汚したり、メディアの保持機構部分を汚したりするような不具合なく、メディアのレーベル面に高品質に印刷を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る液体噴射ヘッドのメンテナンス方法、メンテナンス機構、記録装置及びメディア処理装置の実施形態について図面を参照して説明する。
なお、本実施形態では、パブリッシャからなるメディア処理装置に適用した場合を例にとって説明する。
図1は各部を閉状態としたパブリッシャ(メディア処理装置)の外観斜視図、図2は各部を開状態としたパブリッシャの外観斜視図、図3はパブリッシャのケースを外した状態の前方上側から見た斜視図、図4はパブリッシャに設置されたレーベルプリンタ部分の斜視図である。
【0022】
図1に示すように、パブリッシャ1は、例えばCDあるいはDVD等の円板状のメディア(情報記録媒体)へのデータの書き込みやメディアのレーベル面への印刷を行うメディア処理装置であり、ほぼ直方体形状のケース2を備えている。
このケース2の前面には、左右に開閉可能な開閉扉3,4が取り付けられている。ケース2の上側左端部には、表示ランプ、操作ボタン等が配列された操作面5が設けられており、また、ケース2の下端には、下方に突出するように載置用の脚部6が左右両側に設けられている。左右の脚部6の間位置には引出機構7が設けられている。
【0023】
正面視右側の開閉扉3は、図2に示すように、パブリッシャ1の前面側の開口部8を開閉するもので、例えば未使用(ブランク)のメディアMを開口部8を介してセットする時、あるいは作成済みのメディアMを、開口部8を介して取り出すときに、開閉する扉である。
また、正面視左側の開閉扉4は、図3に示すレーベルプリンタ11のインクカートリッジ12の入れ換え時に開閉するためのものであり、この開閉扉4を開けると、鉛直方向に配列された複数のカートリッジホルダ13を有するカートリッジ装着部14が露出するようになっている。
【0024】
パブリッシャ1のケース2の内部には、データ書き込み処理が行われていない複数枚(例えば50枚)の未使用のメディアMをスタック可能なメディア保管部としてのメディアスタッカ21と、複数枚(例えば50枚)の未使用のメディアMあるいは作成済みメディアMが保管されるメディア保管部としてのメディアスタッカ22とが、保管されるメディアMの中心軸線が同一となるように上下に配置されている。メディアスタッカ21およびメディアスタッカ22は、それぞれ所定位置に対して着脱自在である。
【0025】
上側のメディアスタッカ21は、左右一対の円弧状の枠板24,25を備えており、これにより、メディアMを上側から受け入れ、同軸に積層した状態で収容可能な構成をなしている。メディアスタッカ21にメディアMを収容あるいは補充する作業は、開閉扉3を開けてメディアスタッカ21を取り出すことにより、簡単に行うことが可能となっている。
【0026】
下側のメディアスタッカ22も同一構造となっており、左右一対の円弧状の枠板27,28を備え、これによって、メディアMを上側から受け入れ、同軸に積層した状態で収容可能なスタッカが構成されている。
【0027】
これらのメディアスタッカ21およびメディアスタッカ22の後側には、メディア搬送機構31が配置されている。
メディア搬送機構31は、本体フレーム30とシャーシ32の天板33との間に垂直に架け渡されている垂直ガイド軸35を有している。この垂直ガイド軸35に搬送アーム36が昇降および旋回可能な状態で支持されている。搬送アーム36は、駆動モータ37によって垂直ガイド軸35に沿って昇降可能であるとともに、垂直ガイド軸35を中心に左右に旋回可能である。
【0028】
上下のメディアスタッカ21,22およびメディア搬送機構31の側方の後方の部位には、上下に積層配置された2つのメディアドライブ41が配置され、これらメディアドライブ41の下側にレーベルプリンタ11の後述するキャリッジ62が移動可能に配置されている。
メディアドライブ41は、メディアMへのデータ書き込み位置と、メディアMの受け取り受け渡しを行うメディア受け渡し位置との間を移動可能なメディアトレイ41aをそれぞれ有している。
【0029】
また、レーベルプリンタ11は、メディアMのレーベル面へのレーベル印刷可能な印刷位置とメディアMの受け取り受け渡しを行うメディア受け渡し位置との間を移動可能なメディアトレイ45を有している。
【0030】
図3では、上下のメディアドライブ41のメディアトレイ41aが手前に引き出されてメディア受け渡し位置にある状態および下側のレーベルプリンタ11のメディアトレイ45が手前側のメディア受け渡し位置にある状態が示されている。
また、液体消費装置としてのレーベルプリンタ11はインクジェットプリンタであり、インク供給機構60として各色(本実施形態ではブラック、シアン、マゼンタ、イエロー、ライトシアン、ライトマゼンタの6色)のインクカートリッジ12が用いられ、これらのインクカートリッジ12がカートリッジ装着部14の各カートリッジホルダ13に前方から装着されている。
【0031】
ここで、メディアスタッカ21の左右一対の枠板24,25間およびメディアスタッカ22の左右一対の枠板27,28間には、メディア搬送機構31の搬送アーム36が昇降可能な隙間が形成されている。
また、これら上下のメディアスタッカ21とメディアスタッカ22との間には、メディア搬送機構31の搬送アーム36が水平に旋回して、メディアスタッカ22の真上に位置できるように隙間が開いている。
さらに、両メディアトレイ41aをメディアドライブ41に押し込むと、メディア搬送機構31の搬送アーム36を下降させて、メディア受け渡し位置にあるメディアトレイ45にアクセス可能となっている。
【0032】
メディア搬送機構31の搬送アーム36は、両メディアトレイ41aをデータ書き込み位置に位置させ、メディアトレイ45を奥側の印刷位置に位置させた状態で、メディアトレイ45の高さ位置よりもさらに下側まで下降可能となっている。
そして、メディアトレイ45のメディア受け渡し位置の下方には、搬送アーム36がこの位置まで下降してリリースしたメディアMが通過するガイド穴であって、後述するメディアスタッカ(別体スタッカ)が装着されるガイド穴65が形成されている(図2参照)。
【0033】
引出機構7は、本体フレーム30の下側に、本体フレーム30から引き出して開いたり、収納して閉じたりすることが可能な引出トレイ70を有している。引出トレイ70には、スタッカ部71が下方に凹んで設けられている。
引出トレイ70が収納位置(閉位置)にあるとき、スタッカ部71は、ガイド穴65の下方に位置し、スタッカ部71の中心部は、受け渡し位置にある両メディアトレイ41aとメディアトレイ45の中心軸線が同一となるように位置されている。
このスタッカ部71は、ガイド穴65を介して投入されるメディアMを受け入れ、このメディアMを比較的少量(例えば5枚〜10枚程度)だけ収容する。スタッカ部71は、メディアMを上側から受け入れ、同軸に積層した状態で収容可能となっている。
【0034】
収納状態にある引出トレイ70のスタッカ部71およびガイド穴65には、スタッカ部71よりもメディアMの収容量が多いメディアスタッカ(別体スタッカ)72が着脱可能となっている(図3参照)。このメディアスタッカ72も、一対の円弧状の枠板73,74を備えており、これによって、メディアMを上側から受け入れ、同軸に積層した状態で複数枚(例えば50枚)収容可能となっている。一対の円弧状の枠板73,74間には、メディア搬送機構31の搬送アーム36が昇降可能な隙間が形成されている。また、一方の枠板74の上部には着脱時にユーザによって保持される取っ手75が設けられている。
【0035】
そして、メディアスタッカ72を取り付けた状態とすれば、下側のメディアスタッカ22から未使用のメディアMを取り出し、メディアドライブ41およびレーベルプリンタ11でデータ記録および印刷を行った後に、メディアスタッカ72に収容することができる。
【0036】
また、例えば、上側のメディアスタッカ21および下側のメディアスタッカ22にそれぞれの最大収容枚数(50枚+50枚)の未使用のメディアMを装填し、下側のメディアスタッカ22の全枚数(50枚)のメディアMを順次処理してメディアスタッカ72に収容し、次に、上側のメディアスタッカ21の全枚数(50枚)のメディアMを順次処理して、空となった下側のメディアスタッカ22に収容する。このようにして、上側のメディアスタッカ21および下側のメディアスタッカ22の最大収容枚数(50枚+50枚)のメディアMを一度に処理する(バッチ処理モード)。
【0037】
また、メディアスタッカ72を取り外した状態とすれば、上側のメディアスタッカ21あるいは下側のメディアスタッカ22から未使用のメディアMを取り出し、メディアドライブ41およびレーベルプリンタ11でデータ記録および印刷を行った後に、収納状態にある引出トレイ70のスタッカ部71に収容することができる。
【0038】
これにより、その後、引出トレイ70を引き出すことでスタッカ部71から処理が完了したメディアMを取り出すことができる。つまり、メディアMへの処理中であっても、開閉扉3を閉じたまま、処理が完了したメディアMから順に一枚ずつあるいは複数枚ずつ取り出すことができる(外部排出モード)。
【0039】
ここで、メディア搬送機構31の搬送アーム36の昇降および左右への旋回の組み合わせ動作によって、メディアMは、メディアスタッカ21、メディアスタッカ22、引出トレイ70のスタッカ部71(またはメディアスタッカ72)、各メディアドライブ41のメディアトレイ41aおよびレーベルプリンタ11のメディアトレイ45間で適宜搬送される。
【0040】
図4に示すように、レーベルプリンタ11はインク吐出用のノズル(図示省略)を備えたインクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)61を有するキャリッジ62を備えており、このキャリッジ62は、キャリッジモータの駆動力でキャリッジガイド軸に沿って水平方向に往復移動する(図示省略)。
【0041】
レーベルプリンタ11は、インクカートリッジ12が装着されるカートリッジ装着部14を有するインク供給機構60を備えている。このインク供給機構60は、縦型構造を有しており、パブリッシャ1の本体フレーム30上に立設されて鉛直方向に配設されている。このインク供給機構60には、可撓性を有するインク供給チューブ63の一端が接続されており、このインク供給チューブ63の他端は、キャリッジ62に接続されている。
【0042】
そして、インク供給機構60に装着されるインクカートリッジ12のインクは、インク供給チューブ63を介してキャリッジ62に供給され、このキャリッジ62に設けられたダンパユニットおよび背圧調整ユニット(図示省略)を経てインクジェットヘッド61に供給され、図示しないインクノズル(ノズル)から吐出される。
なお、インク供給機構60には、その上部に加圧機構64が設けられており、この加圧機構64は、圧縮空気を送り出してインクカートリッジ12内を加圧し、インクカートリッジ12内のインクパックに貯留しているインクを送り出す。
【0043】
また、キャリッジ62のホームポジション(図4に示す位置)における下方側には、ヘッドメンテナンス機構81が設けられている。
このヘッドメンテナンス機構81は、ホームポジションに配置されたキャリッジ62の下面に露出するインクジェットヘッド61のインクノズルを覆うヘッドキャップ82と、インクジェットヘッド61のヘッドクリーニング動作やインク充填動作によってヘッドキャップ82に排出されたインクを吸引する廃インク吸引ポンプ83とを備えている。
【0044】
そして、このヘッドメンテナンス機構81の廃インク吸引ポンプ83によって吸引されたインクは、チューブ84を介して、廃インク吸収タンク85へ送り込まれる。
この廃インク吸収タンク85は、ケース86内に図示しない吸収材を配設したもので、その上面は、複数の通気孔87を有するカバー88によって覆われている。
なお、ヘッドメンテナンス機構81の下方には、廃インク吸収タンク85の一部である廃インク受け部89が設けられ、ヘッドメンテナンス機構81から滴下したインクを受け止め、吸収材によって吸収するようになっている。
【0045】
次に、ヘッドメンテナンス機構81を詳述する。
図5はヘッドメンテナンス機構の構造を説明する斜視図、図6はヘッドメンテナンス機構の構造を説明する正面図、図7はヘッドメンテナンス機構の動作を説明する斜視図、図8はヘッドメンテナンス機構の動作を説明する正面図である。
【0046】
ヘッドメンテナンス機構81は、図5及び図6に示すように、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aを封止するためのヘッドキャップ機構101と、このノズル形成面61aを払拭するためのワイパ機構102とを備えている。
【0047】
ヘッドキャップ機構101は、キャップスライダ111を備えている。キャップスライダ111は、ケース状に形成されたもので、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aに対して接近又は離間する方向にスライドするようになっている。
【0048】
キャップスライダ111の上端凹部には、先端部分にヘッドキャップ82が固定されたキャップホルダ112がキャップスライダ111に対し進退移動できるように保持されている。ヘッドキャップ82は、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aを封止可能な大きさの開口を有する箱型状のゴムで形成されたもので、その開口部分には、多層構造の吸収材113が取り付けられている。
【0049】
ワイパ機構102は、弾性材であるゴム性の板材からなるワイパ121を有している。このワイパ121は、インクジェットヘッド61の移動方向に対して直交する方向へ進退可能に支持されたワイパスライダ122に固定されている。
そして、ワイパ121は、ワイパスライダ122の移動により、ノズル形成面61aの汚れを払拭するワイピング処理を行うためにインクジェットヘッド61の移動経路内に配置されたワイピング位置(図5の状態)と、インクジェットヘッド61の移動経路から外れた退避位置(図7の状態)との間を移動できるようになっている。
【0050】
図6に示すように、ワイパ121は、その先端がノズル形成面61aからはみ出し量s分インクジェットヘッド61側に配置されている。これにより、ワイピング位置にワイパ121を配置させた状態にて、インクジェットヘッド61をホームポジションから印刷領域へ移動させることにより、図8に示すように、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aに対してワイパ121が接触して擦れ、ワイパ121によってノズル形成面61aが払拭され、ノズル形成面61aに付着しているインク等の異物が除去される。尚、インクの種類によっては、ワイパ121を軟質のプラスチック等により形成しても良い。
【0051】
また、図5及び図7に示すように、ワイパ機構102は、スライドするワイパ121の経路の途中に、吸収材123を備えており、ワイパ121が吸収材123に接触しながらスライドすることにより、ワイパ121に付着したインクが吸収材123によって拭き取られる。
なお、ヘッドキャップ機構101のキャップスライダ111及びワイパ機構102のワイパスライダ122は、いずれも廃インク吸引ポンプ83の駆動によってスライドされる。
【0052】
そして、上述したレーベルプリンタ11では、ヘッドメンテナンス機構81によってインクジェットヘッド61のクリーニング処理が行われる。
なお、このクリーニング処理は、予め設定された所定のタイミングあるいはユーザの操作時に行われるものであり、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aにヘッドキャップ82を密着させて廃インク吸引ポンプ83によって内部を吸引してインクジェットヘッド61のインクノズルから増粘状態のインクを吸引するインク吸引クリーニングと、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aの汚れをワイパ121によって払拭するワイピングとが行われる。
【0053】
また、上記ヘッドメンテナンス機構81を備えたレーベルプリンタ11では、インクジェットヘッド61のインクノズルでのインクのメニスカスを形成するために、印刷開始前あるいは定期的にインクジェットヘッド61のインクノズルから所定量のインクをヘッドキャップ82内に吐出するフラッシングや、インクノズルの詰まりを防止するために印刷休止後にてインクジェットヘッド61のノズル形成面61aにヘッドキャップ82を密着させて保護するキャッピングも行う。
【0054】
図9に示すように、レーベルプリンタ11及びヘッドメンテナンス機構81を制御する制御部100には、インクジェットヘッド61付近の温度を検出する温度センサ101、内蔵されたタイマ102及びマップデータを記憶している記憶部103が接続されている。
これら温度センサ101及びタイマ102からの信号、並びに記憶部103に記憶されたマップデータに基づいて、制御部100がレーベルプリンタ11及びヘッドメンテナンス機構81を制御する。
【0055】
ここで、吸引クリーニング及びワイピングなどのメンテナンス後や電源OFF時には、キャッピングがなされるが、このキャッピング時にノズル形成面61aにヘッドキャップ82内の水分が結露することがある。したがって、この結露が生じた後に、インクジェットヘッド61を印刷領域側(図6における左側)へ向かって移動させると、ノズル形成面61aに結露したインクが被印刷物であるCDやDVD等のメディアMに付着したり、メディアMを保持するメディアトレイ45や保持爪に付着したりして汚してしまうことがある。
【0056】
このため、本実施形態のレーベルプリンタ11では、制御部100が、ヘッドキャップ82によるキャッピングの状況に応じて、キャッピング後にワイピング工程を行う。
次に、この制御部100によるキャッピング後のワイピング工程について、パブリッシャ1の電源ON時の初期化動作を例にとって説明する。
図10は電源ON時におけるレーベルプリンタ11での初期化動作の制御の流れを説明するフローチャートである。
【0057】
電源がONされると、まず、タイマ102からの計数信号に基づいて、インクジェットヘッド61に対するヘッドキャップ82によるキャッピング時間を確認する(ステップS1)。
また、温度センサ101からの検出信号に基づいて、インクジェットヘッド61付近の使用環境温度を検出する(ステップS2)。
【0058】
そして、キャリッジ62のロックを解除し、ヘッドキャップ82を下降させることにより、インクジェットヘッド61のノズル形成面61aからヘッドキャップ82を離間させる(ステップS3)。
【0059】
次に、記憶部103に記憶されているマップデータを引き出し、このマップデータに使用環境温度をあてはめてキャッピング時間のしきい値(所定時間)を割り出し、確認したキャッピング時間と比較し、キャッピング時間がしきい値以上であるか否かによってワイピング工程の要否を判定する(ステップS4)。具体的には、キャッピング時間がしきい値以上である場合は、ワイピング工程が必要であると判定し、キャッピング時間がしきい値未満である場合は、ワイピング工程が不要であると判定する。
【0060】
ここで、キャッピング時間がしきい値以上であるため、ワイピング工程が必要である場合とは、ヘッドキャップ82内の水分がノズル形成面61aに結露するおそれがある場合である。そして、記憶部103に記憶されているマップデータは、予め求めた使用環境温度に対する結露が生じるおそれがあるキャッピング時間の関係からなるもので、使用環境温度が低くなって結露し易くなるほどキャッピング時間のしきい値が短くなっている。
【0061】
上記の判定の結果(ステップS4)、ワイピング工程が必要であると判定した場合は、ワイピング工程に移行してワイピング動作を行い(ステップS5)、キャリッジ62をメンテナンスポジションからホームポジションへ移動させる(ステップS6)。
なお、判定の結果(ステップS4)、ワイピング工程が不要であると判定した場合は、ワイピング動作を行うことなく、キャリッジ62をメンテナンスポジションからホームポジションへ移動させる(ステップS6)。
【0062】
上記ワイピング動作では、まず、退避位置のワイパ121をインクジェットヘッド61の移動経路内に移動させてワイピング位置に配置させる。
次に、インクジェットヘッド61を印刷領域側(図6における左側)へ向かって移動させ、インクジェットヘッド61を移動方向前方側端部にワイパ121が接触するワイピング開始位置へ配置させる。
【0063】
ワイピング開始位置にてインクジェットヘッド61を一旦停止させた後、インクジェットヘッド61を、その移動後方側端部がワイパ121を通過するワイピング終了位置まで印刷領域に向かって移動させる。このようにすると、ワイパ121は、図8に示すように、インクジェットヘッド61のノズル形成面61a上をはみ出し量sに応じた撓み量をもって摺動し、ノズル形成面61a上に付着したインクをワイパ121自体に転移させることによって払拭する。
ワイピング終了位置までインクジェットヘッド61を移動させたら、ワイピング位置のワイパ121をスライドさせ、インクジェットヘッド61の移動経路から外れた退避位置に配置させる。このとき、ワイパ121に付着したインクが吸収材123によって拭き取られる。
【0064】
必要なときだけワイピング動作を行ったら、キャリッジ62をホームポジションから印刷領域へ移動させることにより、キャリッジ62に設けられた図示しないメディア検出センサによってメディアトレイ45におけるメディアMの有無の確認動作を行い(ステップS7)、キャリッジ62を印刷領域からホームポジションへ移動させる(ステップS8)。
その後、レーベルプリンタ11のインク供給機構60などからなるインクシステムを動作させて印刷準備を完了させ(ステップS9)、キャリッジ62をメンテナンス領域へ移動させてロックし、ヘッドキャップ82を上昇させてインクジェットヘッド61のノズル形成面61aに密着させるキャッピングを行う(ステップS10)。
【0065】
このように、上記実施形態に係るヘッドのメンテナンス方法及びメンテナンス機構によれば、キャッピング時間が所定時間以上であった場合、キャッピングを解除してヘッドキャップ82を開放した後に、ワイピング工程を実施してノズル形成面61aをワイパ121によって払拭するので、キャッピング時にノズル形成面61aにヘッドキャップ82内のインクが結露したとしても、そのインクを除去することができる。
【0066】
また、インクジェットヘッド61を印刷領域へ移動させる前にワイピング工程を実施するので、キャリッジ62を移動させてインクジェットヘッド61を印刷領域へ移動させたとしても、ノズル形成面61aに結露したインクが被印刷物であるCDやDVD等のメディアMに付着したり、メディアMを保持するメディアトレイ45や保持爪に付着したりして汚してしまうような不具合を回避することができる。
【0067】
更に、使用環境温度に応じて、判定基準となるキャッピング時間のしきい値を変更するので、ヘッドキャップ82内の結露の可能性をより正確に予測してワイピング工程の要否を判定することができる。
具体的には、使用環境温度が低くなって結露し易くなるほど、しきい値となる所定時間が短くなるようにされており、これにより、必要な場合だけワイピングを効率良く確実に行うことができる。
【0068】
そして、上記のメンテナンス機構を備えたレーベルプリンタ11及びパブリッシャ1によれば、所定の初期化動作中、又はその度の印刷後に、ノズル形成面に結露したインクが被印刷物であるCDやDVD等のメディアMに付着したり、メディアMを保持するメディアトレイ45や保持機構部分に付着したりして汚すような不具合なく、メディアMのレーベル面に高品質に印刷を行うことができる。
【0069】
なお、上記実施形態では、電源ON時における初期化動作時を例にとって説明したが、本発明のメンテナンス方法は、キャッピング解除後であれば初期化動作時に限定されず、印刷開始時などにも適用されるのは勿論である。
また、上記実施形態では、円板状のメディアのレーベル面に印刷を行うレーベルプリンタを備えたパブリッシャに適用した場合を示したが、本発明のヘッドメンテナンス方法は、用紙に印刷を施すプリンタにも適用可能であることは勿論である。
【0070】
更に、本発明に係る液体噴射ヘッドは、上記実施形態で例示したインクジェットプリンタヘッドをはじめとして、例えば液晶ディスプレー等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、面発光ディスプレー(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド、精密ピペットとしての試料噴射ヘッド、捺染装置やマイクロデスペンサ等の液体噴射ヘッドにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】パブリッシャ(メディア処理装置)の外観斜視図である。
【図2】各部を開状態としたパブリッシャの外観斜視図である。
【図3】パブリッシャのケースを外した状態の前方側から視た斜視図である。
【図4】パブリッシャに設置されたレーベルプリンタ部分の斜視図である。
【図5】ヘッドメンテナンス機構の構造を説明する斜視図である。
【図6】ヘッドメンテナンス機構の構造を説明する正面図である。
【図7】ヘッドメンテナンス機構の動作を説明する斜視図である。
【図8】ヘッドメンテナンス機構の動作を説明する正面図である。
【図9】レーベルプリンタの制御系を説明する概略ブロック図である。
【図10】電源ON時におけるレーベルプリンタ11での初期化動作の制御の流れを説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
1…パブリッシャ(メディア処理装置)、11…レーベルプリンタ(記録装置)、61…インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)、61a…ノズル形成面、81…メンテナンス機構、82…ヘッドキャップ、100…制御部、101…温度センサ、102…タイマ、121…ワイパ、M…メディア(対象物、被印刷物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴射ヘッドのノズル形成面をヘッドキャップで覆うキャッピング工程と、
前記液体噴射ヘッドのノズル形成面をワイパによって払拭するワイピング工程と、
を有する液体噴射ヘッドのメンテナンス方法であって、
前記ヘッドキャップのキャッピング時間が所定時間以上の場合、前記ヘッドキャップが開放された後に、前記ワイピング工程が実施されることを特徴とする液体噴射ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項2】
前記液体噴射ヘッドが対象物に液体を噴射する噴射領域へ移動する前に、前記ワイピング工程を実施することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項3】
前記所定時間が、使用環境温度に応じて変更されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項4】
前記使用環境温度が低くなるほど、前記所定時間が短くなることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス方法。
【請求項5】
液体噴射ヘッドのノズル形成面を覆うヘッドキャップと、
前記液体噴射ヘッドのノズル形成面を払拭するワイパと、
キャッピング時間を計測するタイマと、
前記タイマの計測時間が所定時間以上の場合、前記ヘッドキャップの開放後に前記ノズル形成面のワイピングを実施させる制御部と、を備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドのメンテナンス機構。
【請求項6】
前記制御部は、前記液体噴射ヘッドによって対象物に液体を噴射させる噴射領域へ前記液体噴射ヘッドを移動させる前に、前記ノズル形成面のワイピングを実施することを特徴とする請求項5に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構。
【請求項7】
使用環境温度を検出する温度センサを備え、前記制御部は前記温度センサの検出結果に応じて前記所定時間を変更することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構。
【請求項8】
前記制御部は、前記使用環境温度が低くなるほど、前記所定時間を短く設定することを特徴とする請求項7に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構。
【請求項9】
前記液体噴射ヘッドからインクを噴射させることにより、被印刷物に対して印刷を施す記録装置であって、
請求項5〜8のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドのメンテナンス機構を備えたことを特徴とする記録装置。
【請求項10】
メディアに対して各種処理を行うメディア処理装置であって、
請求項9に記載の記録装置を備えたことを特徴とするメディア処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−12381(P2009−12381A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178543(P2007−178543)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】