説明

液体噴射ヘッドの製造方法、圧電素子の製造方法、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】圧電体層の厚さを均一に形成することができる液体噴射ヘッドの製造方法、圧電素子の製造方法、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】複数の流路形成基板用ウエハー110に順番に圧電体前駆体膜となる塗布溶液73をスピンコート法により塗布する際に、圧電体前駆体膜の各層となる塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110の順番を所定枚数ずらして行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法、圧電素子の製造方法、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料からなる誘電体膜を2つの電極で挟んだ素子であり、誘電体膜は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。また、このような圧電素子は、液体噴射ヘッドのノズル開口から液体を噴射させる圧力発生手段として用いられる。
【0003】
このような圧電素子の製造方法としては、基板(流路形成基板)の一方面側に下電極膜をスパッタリング法等により形成した後、下電極膜上に圧電体層をゾル−ゲル法又はMOD法等により形成すると共に、圧電体層上に上電極膜をスパッタリング法により形成し、圧電体層及び上電極膜をパターニングすることで圧電素子を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、圧電体層を形成する際に、基板上に圧電体前駆体膜となる塗布溶液の塗布は、スピンコート法により行われている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−274472号公報(第5〜6頁、第6〜7図)
【特許文献2】特開平5−85704号公報
【特許文献3】特開平9−223831号公報
【特許文献4】特開2007-042949号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、圧電体前駆体膜となる塗布溶液を流路形成基板用ウエハー上にスピンコート法により塗布する際には、複数の流路形成基板用ウエハーからなる流路形成基板用ウエハー群の各流路形成基板用ウエハーに順番に1層ずつ塗布溶液を塗布し、これを乾燥させることで圧電体前駆体膜を形成する工程を繰り返すことで、各流路形成基板用ウエハーに複数層の圧電体膜を積層形成している。すなわち、1層目の圧電体前駆体膜を各流路形成基板用ウエハーに順番に形成した後、2層目の圧電体前駆体膜を各流路形成基板用ウエハーに順番に形成している。
【0007】
しかしながら、複数の流路形成基板用ウエハーの間で、塗布された塗布溶液の厚さにばらつきが生じ、流路形成基板用ウエハーの間で圧電体膜が積層された圧電素子の厚さにばらつきが生じて、圧電素子の変位特性にばらつきが生じてしまうと問題がある。
【0008】
また、圧電体前駆体膜となる塗布溶液を流路形成基板用ウエハー上にスピンコート法により塗布した際に、流路形成基板用ウエハーの面内方向で塗布された塗布溶液の厚さにばらつきが生じ、圧電体膜が積層された圧電素子の厚さにばらつきが生じて、圧電素子の変位特性にばらつきが生じてしまうと問題がある。
【0009】
そして、このような圧電素子の変位特性のばらつきは、流路形成基板用ウエハーを分割して1つのチップサイズの液体噴射ヘッドを形成した際に、各液体噴射ヘッドの液体噴射特性にばらつきが生じてしまうと共に、複数の液体噴射ヘッドを液体噴射装置に組み込んで使用した際に、液体噴射特性を揃えることができないという問題がある。
【0010】
なお、このような問題は圧電素子を有する液体噴射ヘッドの製造方法だけではなく、その他のデバイスに用いられる圧電素子の製造方法においても同様に存在する。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑み、圧電体層の厚さを均一に形成することができる液体噴射ヘッドの製造方法、圧電素子の製造方法、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板が複数一体的に形成された流路形成基板用ウエハーの一方面側に下電極を形成する工程と、塗布チャンバー内に回転自在に設けられた回転テーブル上に前記流路形成基板用ウエハーを保持させて、当該回転テーブルによって前記流路形成基板用ウエハーを回転させながら当該流路形成基板用ウエハーの前記下電極側に塗布溶液を塗布して圧電体前駆体膜を形成する工程及び前記圧電体前駆体膜を焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って複数層の圧電体膜が積層された圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記流路形成基板用ウエハーが複数枚で構成される流路形成基板用ウエハー群に対して、各流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液を塗布して前記圧電体前駆体膜を1層ずつ順番に形成すると共に、前記流路形成基板用ウエハー群に対して、前記圧電体前駆体膜の各層となる前記塗布溶液の塗布を開始する前記流路形成基板用ウエハーの順番を所定枚数ずらして行うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、圧電体前駆体膜となる塗布溶液の塗布を開始する流路形成基板用ウエハーとして、常に所定の流路形成基板用ウエハーから開始するのに比べて、塗布を開始する基板の順番をずらすことにより、塗布溶液の塗布の開始時と終了時とで塗布溶液を塗布する雰囲気や温度などの塗布条件が均一化されるため、複数の流路形成基板用ウエハーに均一な厚さで圧電体層を形成することができる。これにより、複数の流路形成基板用ウエハーから切り分けられた液体噴射ヘッドにおいて圧電特性を均一化して液体噴射特性を均一化することができる。
【0013】
ここで、前記流路形成基板用ウエハー群が、各流路形成基板用ウエハーに形成する前記圧電体前駆体膜の積層数以下の前記流路形成基板用ウエハーで構成される場合には、前記流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液の塗布を開始する順番を1枚ずつずらして行うことが好ましい。また、前記流路形成基板用ウエハー群が、各流路形成基板用ウエハーに形成する前記圧電体前駆体膜の積層数のn(整数)倍の前記流路形成基板用ウエハーで構成される場合には、前記流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液の塗布を開始する順番をn枚ずつずらして行うことが好ましい。これによれば、塗布溶液の塗布の開始時と終了時とで塗布溶液を塗布する雰囲気や温度などの塗布条件が均一化されるため、複数の流路形成基板用ウエハーに均一な厚さで圧電体層を形成することができる。
【0014】
また、前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記塗布チャンバー内の雰囲気を前記塗布溶液の溶媒の飽和蒸気とすると共に当該塗布チャンバー内を外気圧よりも高い気圧として、前記流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液を塗布することが好ましい。これによれば、各流路形成基板用ウエハーの面内での塗布溶液の厚さを均一化することができ、1枚の流路形成基板用ウエハーから切り分けられる複数の液体噴射ヘッドにおいて、圧電特性を均一化して液体噴射特性を均一化することができる。したがって、複数の流路形成基板用ウエハーから切り分けられた液体噴射ヘッドと、1枚の流路形成基板用ウエハーから切り分けられる複数の液体噴射ヘッドとの全ての液体噴射ヘッドにおいて、圧電特性を均一化して液体噴射特性を均一化することができる。
【0015】
また、前記圧電体層としてチタン酸ジルコン酸鉛を用いることが好ましい。これによれば、チタン酸ジルコン酸鉛からなる圧電体層の膜厚を均一化できる。
【0016】
さらに、本発明の他の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板が複数一体的に形成された流路形成基板用ウエハーの一方面側に下電極を形成する工程と、塗布チャンバー内に回転自在に設けられた回転テーブル上に前記流路形成基板用ウエハーを保持させて、当該回転テーブルによって前記流路形成基板用ウエハーを回転させながら当該流路形成基板用ウエハーの前記下電極側に塗布溶液を塗布して圧電体前駆体膜を形成する工程及び前記圧電体前駆体膜を焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って複数層の圧電体膜が積層された圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記塗布チャンバー内の雰囲気を前記塗布溶液の溶媒の飽和蒸気とすると共に当該塗布チャンバー内を外気圧よりも高い気圧として、前記流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液を塗布することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる態様では、各流路形成基板用ウエハーの面内での塗布溶液の厚さを均一化することができ、1枚の流路形成基板用ウエハーから切り分けられる複数の液体噴射ヘッドにおいて、圧電特性を均一化して液体噴射特性を均一化することができる。
【0017】
また、本発明の他の態様は、上記態様に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。かかる態様では、圧電特性を均一化して液体噴射特性を均一化した液体噴射ヘッドを実現できる。
【0018】
さらに本発明の他の態様は、上記態様に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、圧電特性を均一化して液体噴射特性を均一化した液体噴射装置を実現できると共に、液体噴射特性が均一な液体噴射ヘッドの制御を容易に行うことができる。
【0019】
また、本発明の他の態様は、基板上に下電極を形成する工程と、塗布チャンバー内に回転自在に設けられた回転テーブル上に前記基板を保持させて、当該回転テーブルによって前記基板を回転させながら当該基板の前記下電極側に塗布溶液を塗布して圧電体前駆体膜を形成する工程及び前記圧電体前駆体膜を焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って複数層の圧電体膜が積層された圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記基板が複数枚で構成される基板群に対して、各基板に前記塗布溶液を塗布して前記圧電体前駆体膜を1層ずつ順番に形成すると共に、前記基板群に対して、前記圧電体前駆体膜の各層となる前記塗布溶液の塗布を開始する前記基板の順番を所定枚数ずらして行うことを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、圧電体前駆体膜となる塗布溶液の塗布を開始する基板として、常に所定の基板から開始するのに比べて、塗布を開始する基板の順番をずらすことにより、塗布溶液の塗布の開始時と終了時とで塗布溶液を塗布する雰囲気や温度などの塗布条件が均一化されるため、複数の基板に均一な厚さで圧電体層を形成することができる。
【0020】
さらに、本発明の他の態様は、基板上に下電極を形成する工程と、塗布チャンバー内に回転自在に設けられた回転テーブル上に前記基板を保持させて、当該回転テーブルによって前記基板を回転させながら当該基板の前記下電極側に塗布溶液を塗布して圧電体前駆体膜を形成する工程及び前記圧電体前駆体膜を焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って複数層の圧電体膜が積層された圧電体層を形成する工程と、前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記塗布チャンバー内の雰囲気を前記塗布溶液の溶媒の飽和蒸気とすると共に当該塗布チャンバー内を外気圧よりも高い気圧として、前記基板に前記塗布溶液を塗布することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる態様では、基板の面内での塗布溶液の厚さを均一化することができ、圧電特性を均一化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(インクジェット式記録ヘッド)
まず、本発明の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの基本的な構造について説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
【0023】
図示するように、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
【0024】
流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0025】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えばガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0026】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0027】
圧電体層70は、下電極膜60上に形成される電気機械変換作用を示す圧電材料からなる。圧電体層70は、ペロブスカイト構造の結晶膜を用いるのが好ましく、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層70を1〜2μm前後の厚さで形成した。
【0028】
また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0029】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0030】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0031】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0032】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0033】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0034】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0035】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0036】
(インクジェット式記録ヘッドの製造方法)
以下、上述したインクジェット式記録ヘッドの基本的な製造方法について、図3〜図8を参照して説明する。なお、図3〜図8は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【0037】
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10が複数一体的に形成されるシリコンウエハーである流路形成基板用ウエハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図3(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
【0038】
次いで、図3(c)に示すように、絶縁体膜55上の全面に下電極膜60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この下電極膜60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、下電極膜60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。また、下電極膜60は、例えば、スパッタリング法やCVD法(化学蒸着法)などにより形成することができる。
【0039】
次に、流路形成基板用ウエハー110の下電極膜60が形成された面にチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70を形成する。ここで、本実施形態では、有機金属化合物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾル(塗布溶液)を塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成している。なお、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法等を用いてもよい。
【0040】
圧電体層70の具体的な作成手順を説明する。まず、図4(a)に示すように、下電極膜60上にPZT前駆体膜である圧電体前駆体膜71を成膜する。すなわち、下電極膜60が形成された流路形成基板10上に有機金属化合物を含むゾル(塗布溶液)をスピンコート法により塗布する(塗布工程)。次いで、この圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間乾燥させる(乾燥工程)。次に、乾燥した圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。次に、図4(b)に示すように、圧電体前駆体膜71を所定温度に加熱して一定時間保持することによって結晶化させ、圧電体膜72を形成する(焼成工程)。
【0041】
なお、このような乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程で用いられる加熱装置としては、例えば、ホットプレートや、赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置などを用いることができる。
【0042】
そして、上述した塗布工程、乾燥工程、脱脂工程及び焼成工程からなる圧電体膜形成工程を複数回繰り返すことにより、図4(c)に示すように複数層の圧電体膜72が積層された圧電体層70を形成する。例えば、ゾルの1回あたりの膜厚が0.1μm程度の場合には、例えば、12層の圧電体膜72からなる圧電体層70全体の膜厚は約1.2μm程度となる。
【0043】
次に、図5(a)に示すように、圧電体層70上に亘って、例えば、イリジウム(Ir)からなる上電極膜80を形成する。そして、図5(b)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80を、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。圧電体層70及び上電極膜80のパターニングとしては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミリング等のドライエッチングが挙げられる。
【0044】
次に、リード電極90を形成する。具体的には、図5(c)に示すように、流路形成基板用ウエハー110の全面に亘ってリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
【0045】
次に、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウエハー110の圧電素子300側に、シリコンウエハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウエハー130を接着剤35を介して接合する。
【0046】
次に、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウエハー110を所定の厚みに薄くする。次いで、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウエハー110にマスク膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図7に示すように、流路形成基板用ウエハー110をマスク膜52を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0047】
その後は、流路形成基板用ウエハー110及び保護基板用ウエハー130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウエハー110の保護基板用ウエハー130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウエハー130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウエハー110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0048】
(実施形態1)
ここで、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図8は、ウエハーカートリッジの断面図であり、図9は、スピンコーターの断面図である。
【0049】
本実施形態の圧電体層70を形成する工程は、複数の流路形成基板用ウエハー110によって構成される流路形成基板用ウエハー群に対して同時に行われる。例えば、図8に示すように、ウエハーカートリッジ200に複数枚、本実施形態では6枚の流路形成基板用ウエハー110A〜110Fを収納して流路形成基板用ウエハー群201を構成している。そして、このウエハーカートリッジ200の流路形成基板用ウエハー群201から、1枚ずつ流路形成基板用ウエハー110A〜110Fを取り出して、取り出した流路形成基板用ウエハー110A〜110Fにスピンコート法により塗布溶液(ゾル)を塗布する。
【0050】
ここで、流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに塗布溶液を塗布するスピンコーターについて説明する。図9に示すように、スピンコーター210は、内部に塗布チャンバー211となる空間が設けられた本体212と、塗布チャンバー211内に回転自在に設けられた回転テーブル213と、回転テーブル213の一方面に塗布溶液73を供給する供給ノズル214とを具備する。
【0051】
回転テーブル213は、一方面に流路形成基板用ウエハー110A〜110Fを保持すると共に図示しないモーター等の駆動手段によって回転されるように設けられている。また、供給ノズル214は、回転テーブル213に保持された流路形成基板用ウエハー110A〜110Fの表面に塗布溶液73であるゾルを滴下するものであり、塗布溶液73が貯留された貯留手段(図示なし)に接続されている。
【0052】
このようなスピンコーター210では、回転テーブル213によって流路形成基板用ウエハー110A〜110Fを回転させながら、流路形成基板用ウエハー110A〜110F上に供給ノズル214によって塗布溶液73を供給することで、塗布溶液73を流路形成基板用ウエハー110A〜110Fの表面に均一な厚さで塗布することができる。
【0053】
そして、ウエハーカートリッジ200に保持された流路形成基板用ウエハー110A〜110Fを、図示しない搬送アームによって順番にスピンコーター210に搬送させて、その表面に塗布溶液73を塗布する。
【0054】
このとき、流路形成基板用ウエハー110A〜110Fが複数枚で構成される流路形成基板用ウエハー群201に対して、各流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに圧電体前駆体膜71を1層ずつ順番に形成する。すなわち、例えば、1枚目の流路形成基板用ウエハー110Aに1層目の塗布溶液73を塗布した後、2枚目の流路形成基板用ウエハー110Bに1層目の塗布溶液73を塗布する。これにより、1枚目の流路形成基板用ウエハー110Aに塗布された塗布溶液73を乾燥させて圧電体前駆体膜71を形成する乾燥工程やその後の脱脂工程及び焼成工程などを行っている最中に、2枚目の流路形成基板用ウエハー110Bに塗布溶液73を塗布することができるため、塗布工程を効率よく行うことができる。
【0055】
そして、少なくとも塗布工程及び乾燥工程からなる圧電体前駆体膜71を1層ずつ形成する工程を各流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに繰り返し行うことで、複数層の圧電体前駆体膜71を形成することができる。なお、ここでは、圧電体前駆体膜71を形成する工程を繰り返すことで塗布溶液73を塗布する塗布工程が繰り返されるように説明したが、塗布工程を繰り返し行うには、少なくとも流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに形成された圧電体前駆体膜71上に、2層目以降の圧電体前駆体膜71となる塗布溶液73が塗布される必要がある。したがって、上述したように圧電体前駆体膜71を1層ずつ焼成して圧電体膜72を形成してから、圧電体膜72上に圧電体前駆体膜71となる塗布溶液73を塗布するようにしてもよく、塗布工程及び乾燥工程を繰り返し行って圧電体前駆体膜71を複数層積層した状態で同時に焼成して圧電体膜72を形成する際には、圧電体前駆体膜71上に塗布溶液73を塗布するようにしてもよい。
【0056】
このとき、本実施形態では、このような流路形成基板用ウエハー群201に対して、各流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに圧電体前駆体膜71を1層ずつ順番に形成する際に、流路形成基板用ウエハー群201に対して、圧電体前駆体膜71の各層となる塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110A〜110Fの順番を所定枚数ずらして行う。
【0057】
すなわち、例えば、12層の圧電体前駆体膜71(圧電体膜72)を形成する場合には、例えば、1層目の圧電体前駆体膜71の形成では、1層目の圧電体前駆体膜71となる塗布溶液73の塗布を流路形成基板用ウエハー110Aから開始し、流路形成基板用ウエハー110B、110C、110D、110E及び110Fに順番に行う。
【0058】
次に、2層目の圧電体前駆体膜71の形成では、2層目の圧電体前駆体膜71となる塗布溶液73の塗布を流路形成基板用ウエハー110Bから開始し、流路形成基板用ウエハー110C、110D、110E、110F及び110Aに順番に行う。
【0059】
次に、3層目の圧電体前駆体膜71の形成では、3層目の圧電体前駆体膜71となる塗布溶液73の塗布を流路形成基板用ウエハー110Cから開始し、流路形成基板用ウエハー110D、110E、110F、110A及び110Bに順番に行う。その後の3層目以降の圧電体前駆体膜71の形成も同様に、塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110A〜110Fの順番をずらして行う。
【0060】
本実施形態では、6枚の流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに、それぞれ12層の圧電体膜72を形成するため、圧電体前駆体膜71となる塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110A〜110Fは、それぞれ2回循環することになる。
【0061】
このように、圧電体前駆体膜71の各層となる塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110A〜110Fの順番をずらすことで、各流路形成基板用ウエハー110の間で、圧電体層70の膜厚にばらつきが生じるのを防止することができる。
【0062】
ちなみに、圧電体前駆体膜71の各層となる塗布溶液73の塗布を、常に所定の流路形成基板用ウエハー110Aから開始すると、各流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに形成される圧電体層70の膜厚にばらつきが生じてしまう。このような圧電体層70の膜厚のばらつきは、圧電体前駆体膜71の各層の形成を開始する流路形成基板用ウエハー110Aから、圧電体前駆体膜71の各層が最後に形成される流路形成基板用ウエハー110Fに向かって徐々に厚くなる傾向を有する。なお、このような圧電体層70の膜厚のばらつきは、各流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに塗布溶液73の塗布を繰り返すことによって、塗布チャンバー211内で塗布溶液73に含まれる溶媒が揮発し、各流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに塗布溶液73を塗布する際の塗布チャンバー211内の雰囲気中に含まれる溶媒の濃度が変化することで発生すると考えられる。したがって、本実施形態のように、圧電体前駆体膜71の各層となる塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110A〜110Fの順番をずらすことで、複数の流路形成基板用ウエハー110間で圧電体層70の膜厚にばらつきが生じるのを防止することができる。
【0063】
また、上述した製造方法のように流路形成基板用ウエハー110A〜110Fを切り分けて、一つのチップサイズのインクジェット式記録ヘッドを形成した際に、複数の流路形成基板用ウエハー110A〜110Fから切り分けられたインクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電体層70の膜厚を均一化して、インク吐出特性を均一化することができる。したがって、複数のインクジェット式記録ヘッドを組み合わせてインクジェット式記録装置等に組み込んだ際に、インク吐出特性を均一化して印刷品質を向上することができると共に、インクジェット式記録ヘッドをインク吐出特性に基づいて分別して、同一インク吐出特性のインクジェット式記録ヘッドを組み合わせるという煩雑な作業が不要となり、製造工程を簡略化することができる。
【0064】
なお、本実施形態では、6枚の流路形成基板用ウエハー110A〜110Fからなる流路形成基板用ウエハー群201に、それぞれ12層の圧電体膜72を形成するようにしたが、流路形成基板用ウエハー群201を構成する流路形成基板用ウエハー110の数及び圧電体膜72の積層数は、これに限定されるものではない。
【0065】
例えば、12枚の流路形成基板用ウエハー110のそれぞれに、6層の圧電体膜72を形成する際には、圧電体前駆体膜71の各層で、塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110の順番を2枚ずつずらすようにすればよい。
【0066】
また、12枚の流路形成基板用ウエハー110のそれぞれに、4層の圧電体膜72を形成する際には、圧電体前駆体膜71の各層で、塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110の順番を3枚ずつずらすようにすればよい。
【0067】
すなわち、流路形成基板用ウエハー群201が、圧電体前駆体膜71の積層数のn(整数)倍の流路形成基板用ウエハー110で構成される場合には、流路形成基板用ウエハー110に圧電体前駆体膜71の各層を形成する際に、塗布溶液の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110の順番をn枚ずつずらすようにすればよい。
【0068】
勿論、流路形成基板用ウエハー群201が、圧電体前駆体膜71の積層数のn(整数)倍以外の枚数の流路形成基板用ウエハー110で構成される場合であっても、2枚以上ずつずらすようにしてもよい。すなわち、例えば、12枚の流路形成基板用ウエハー110のそれぞれに、5層の圧電体膜72を形成する際であっても、塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110の順番を2枚ずつずらせばよい。
【0069】
さらに、例えば、12枚の流路形成基板用ウエハー110のそれぞれに、11層の圧電体膜72を形成する際には、圧電体前駆体膜71の各層で、塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110の順番を1枚ずつずらせばよい。すなわち、流路形成基板用ウエハー群201が、各流路形成基板用ウエハー110に形成する圧電体前駆体膜71の積層数以下の流路形成基板用ウエハー110で構成される場合には、流路形成基板用ウエハー110に圧電体前駆体膜71を形成する際に塗布溶液73の塗布を開始する順番を1枚ずつずらすようにすればよい。
【0070】
以上のことから、複数枚の流路形成基板用ウエハー110において、塗布溶液73の塗布を開始する順番が、複数枚の流路形成基板用ウエハー110で平均化されるようにすれば、複数の流路形成基板用ウエハー110間で形成される圧電体層70の膜厚を均一化することができる。
【0071】
(実施形態2)
ここで、本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。
【0072】
本実施形態の圧電体層70を形成する工程、特に圧電体前駆体膜71となる塗布溶液を流路形成基板用ウエハー110に塗布する塗布工程では、塗布チャンバー内の雰囲気を塗布溶液の溶媒の飽和蒸気とすると共に、塗布チャンバー内を外気圧(本実施形態では、大気圧)よりも高い気圧として、流路形成基板用ウエハー110に塗布溶液を塗布する。
【0073】
ここで、このような塗布工程で用いられるスピンコーターについて、図10を参照して説明する。なお、図10は、本実施形態のスピンコーターを示す断面図である。
【0074】
図10に示すように、スピンコーター210Aは、内部に塗布チャンバー211となる空間が設けられた本体212Aと、塗布チャンバー211内に回転自在に設けられた回転テーブル213と、回転テーブル213の一方面に塗布溶液73を供給する供給ノズル214とを具備する。
【0075】
本体212Aは、中空の箱形状を有し、内部の塗布チャンバー211と外部とを連通して、塗布チャンバー211を大気開放する開放孔215を具備する。
【0076】
また、本体212Aの塗布チャンバー211内には、圧電体前駆体膜71となる塗布溶液73であるゾルの溶媒217が保持されたケース216が設けられている。ケース216は、内部に充填された溶媒217が塗布チャンバー211内に揮発し易いように上面が開口されている。なお、PZTからなる圧電素子300を形成するための溶媒217としては、揮発性を有する材料、例えば、アルコールが挙げられる。
【0077】
回転テーブル213は、一方面に流路形成基板用ウエハー110を保持すると共に図示しないモーター等の駆動手段によって回転されるように設けられている。また、供給ノズル214は、回転テーブル213に保持された流路形成基板用ウエハー110の表面に塗布溶液73であるゾルを滴下するものであり、塗布溶液73が貯留された貯留手段(図示なし)に接続されている。
【0078】
このようなスピンコーター210Aでは、回転テーブル213によって流路形成基板用ウエハー110を回転させながら、流路形成基板用ウエハー110上に供給ノズル214によって塗布溶液73を供給することで、塗布溶液73を流路形成基板用ウエハー110の表面に均一な厚さで塗布することができる。
【0079】
そして、本実施形態では、塗布チャンバー211内に塗布溶液73の溶媒217が揮発可能な状態で保持されているため、塗布チャンバー211内の雰囲気は、塗布溶液73の溶媒217で飽和蒸気となっている。
【0080】
また、流路形成基板用ウエハー110を回転させながら、流路形成基板用ウエハー110に塗布溶液73を塗布すると、塗布溶液73に含まれる溶媒が揮発し、塗布チャンバー211内は、外気よりも高圧となる。このとき、塗布チャンバー211内が高圧になりすぎると、流路形成基板用ウエハー110に塗布された塗布溶液73に含まれる溶媒の揮発量が少なくなり、流路形成基板用ウエハー110に塗布された塗布溶液73が乾燥することなく、流路形成基板用ウエハー110の回転により周囲に飛散するため、流路形成基板用ウエハー110に塗布された塗布溶液73の外周側の厚さは、中央部側に比べて厚くなってしまう。このため、本実施形態では、本体212Aに開放孔215を設けることで、塗布チャンバー211内の気圧が、外気圧よりも若干大きくなるようにしている。
【0081】
ちなみに、塗布チャンバー211内の気圧が、外気圧以下で、且つ塗布チャンバー211内の雰囲気が、塗布溶液73に含まれる溶媒の飽和蒸気ではない場合、流路形成基板用ウエハー110の回転によって、流路形成基板用ウエハー110に塗布された外周側の塗布溶液73が、中央部の塗布溶液73に比べてその溶媒が早く揮発する。これは、流路形成基板用ウエハー110の中央部と外周側とで線速度の違いによって生じる。そして、流路形成基板用ウエハー110の外周側の塗布溶液73に含まれる溶媒が、中央部に比べて早く揮発することで、外周側の塗布溶液73の厚さが中央部に比べて厚くなってしまう。
【0082】
本実施形態では、塗布チャンバー211内の雰囲気を塗布溶液73の溶媒217の飽和蒸気とすると共に、塗布チャンバー211内を外気圧(本実施形態では、大気圧)よりも高い気圧として、流路形成基板用ウエハー110に塗布溶液73を塗布することで、流路形成基板用ウエハー110の面内で塗布溶液73の厚さを均一にすることができる。これにより、流路形成基板用ウエハー110の面内で圧電体層70の膜厚にばらつきが生じるのを防止することができる。
【0083】
また、上述した製造方法のように流路形成基板用ウエハー110を切り分けて、一つのチップサイズのインクジェット式記録ヘッドを形成した際に、流路形成基板用ウエハー110から切り分けられた複数のインクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電体層70の膜厚を均一化して、インク吐出特性を均一化することができる。したがって、複数のインクジェット式記録ヘッドを組み合わせてインクジェット式記録装置等に組み込んだ際に、インク吐出特性を均一化して印刷品質を向上することができると共に、インクジェット式記録ヘッドをインク吐出特性に基づいて分別して、同一インク吐出特性のインクジェット式記録ヘッドを組み合わせるという煩雑な作業が不要となり、製造工程を簡略化することができる。
【0084】
なお、本実施形態では、塗布溶液73の溶媒217として、揮発性材料であるアルコールを例示し、溶媒217を塗布チャンバー211内に載置することで、溶媒217を揮発するようにしたが、その他の溶媒を塗布チャンバー211内で飽和蒸気となるようにすれば、塗布溶液73の溶媒217の材料は特に限定されるものではない。
【0085】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1と実施形態2とを組み合わせて行うことで、複数の流路形成基板用ウエハー110、110A〜110F間での圧電体層70の膜厚の均一化と、各流路形成基板用ウエハー110、110A〜110Fの面内での圧電体層70の膜厚の均一化とを行うことができる。すなわち、実施形態1で説明したように、流路形成基板用ウエハー群201に対して、各流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに圧電体前駆体膜71を1層ずつ順番に形成する際に、流路形成基板用ウエハー群201に対して、圧電体前駆体膜71の各層となる塗布溶液73の塗布を開始する流路形成基板用ウエハー110A〜110Fの順番を所定枚数ずらして行うと共に、各流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに塗布溶液73を塗布する際に、実施形態2で説明したように、塗布チャンバー211内の雰囲気を塗布溶液73の溶媒217の飽和蒸気とすると共に塗布チャンバー211内を外気圧よりも高い気圧として、流路形成基板用ウエハー110A〜110Fに塗布溶液73を塗布するようにすればよい。これにより、複数の流路形成基板用ウエハー110、110A〜110Fから一つのチップサイズのインクジェット式記録ヘッドを形成した際に、各インクジェット式記録ヘッドにおいて、圧電体層70の膜厚を均一化して、インク吐出特性を均一化することができる。
【0086】
また、上述したインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、下電極膜60をパターニングすることにより形成した後に圧電体層70を形成するようにしたが、デバイスの関係上、下電極膜上に1層目の圧電体膜72を形成し、その後、下電極膜60を圧電体膜72と共にパターニングするようにしてもよい。
【0087】
また、上述した実施形態1では、圧電体前駆体膜71を塗布、乾燥及び脱脂した後、焼成して圧電体膜72を形成するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧電体前駆体膜71を塗布、乾燥及び脱脂する工程を複数回、例えば、2回繰り返し行った後、焼成することで圧電体膜72を形成するようにしてもよい。
【0088】
また、上述した実施形態1では、流路形成基板10として、シリコン単結晶基板を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス等の材料を用いるようにしてもよい。
【0089】
また、上述したインクジェット式記録ヘッドIは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図11は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0090】
図11に示すインクジェット式記録装置IIにおいて、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0091】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0092】
また、上述したインクジェット式記録装置IIでは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0093】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを、また液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【0094】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載される圧電素子の製造方法に限られず、他の装置に搭載される圧電素子の製造方法にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】本発明の記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図4】本発明の記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】本発明の記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図7】本発明の記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図9】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図10】本発明の実施形態2に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0096】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 71 圧電体前駆体膜、 72 圧電体膜、 73 塗布溶液、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバー、 110、110A〜110F 流路形成基板用ウエハー、 120 駆動回路、 121 接続配線、 200 ウエハーカートリッジ、 201 流路形成基板用ウエハー群、 210、210A スピンコーター、 211 塗布チャンバー、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板が複数一体的に形成された流路形成基板用ウエハーの一方面側に下電極を形成する工程と、
塗布チャンバー内に回転自在に設けられた回転テーブル上に前記流路形成基板用ウエハーを保持させて、当該回転テーブルによって前記流路形成基板用ウエハーを回転させながら当該流路形成基板用ウエハーの前記下電極側に塗布溶液を塗布して圧電体前駆体膜を形成する工程及び前記圧電体前駆体膜を焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って複数層の圧電体膜が積層された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、
前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記流路形成基板用ウエハーが複数枚で構成される流路形成基板用ウエハー群に対して、各流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液を塗布して前記圧電体前駆体膜を1層ずつ順番に形成すると共に、前記流路形成基板用ウエハー群に対して、前記圧電体前駆体膜の各層となる前記塗布溶液の塗布を開始する前記流路形成基板用ウエハーの順番を所定枚数ずらして行うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記流路形成基板用ウエハー群が、各流路形成基板用ウエハーに形成する前記圧電体前駆体膜の積層数以下の前記流路形成基板用ウエハーで構成される場合には、前記流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液の塗布を開始する順番を1枚ずつずらして行うことを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記流路形成基板用ウエハー群が、各流路形成基板用ウエハーに形成する前記圧電体前駆体膜の積層数のn(整数)倍の前記流路形成基板用ウエハーで構成される場合には、前記流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液の塗布を開始する順番をn枚ずつずらして行うことを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記塗布チャンバー内の雰囲気を前記塗布溶液の溶媒の飽和蒸気とすると共に当該塗布チャンバー内を外気圧よりも高い気圧として、前記流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液を塗布することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記圧電体層としてチタン酸ジルコン酸鉛を用いることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室が形成される流路形成基板が複数一体的に形成された流路形成基板用ウエハーの一方面側に下電極を形成する工程と、
塗布チャンバー内に回転自在に設けられた回転テーブル上に前記流路形成基板用ウエハーを保持させて、当該回転テーブルによって前記流路形成基板用ウエハーを回転させながら当該流路形成基板用ウエハーの前記下電極側に塗布溶液を塗布して圧電体前駆体膜を形成する工程及び前記圧電体前駆体膜を焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って複数層の圧電体膜が積層された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、
前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記塗布チャンバー内の雰囲気を前記塗布溶液の溶媒の飽和蒸気とすると共に当該塗布チャンバー内を外気圧よりも高い気圧として、前記流路形成基板用ウエハーに前記塗布溶液を塗布することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項7記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項9】
基板上に下電極を形成する工程と、
塗布チャンバー内に回転自在に設けられた回転テーブル上に前記基板を保持させて、当該回転テーブルによって前記基板を回転させながら当該基板の前記下電極側に塗布溶液を塗布して圧電体前駆体膜を形成する工程及び前記圧電体前駆体膜を焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って複数層の圧電体膜が積層された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、
前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記基板が複数枚で構成される基板群に対して、各基板に前記塗布溶液を塗布して前記圧電体前駆体膜を1層ずつ順番に形成すると共に、前記基板群に対して、前記圧電体前駆体膜の各層となる前記塗布溶液の塗布を開始する前記基板の順番を所定枚数ずらして行うことを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項10】
基板上に下電極を形成する工程と、
塗布チャンバー内に回転自在に設けられた回転テーブル上に前記基板を保持させて、当該回転テーブルによって前記基板を回転させながら当該基板の前記下電極側に塗布溶液を塗布して圧電体前駆体膜を形成する工程及び前記圧電体前駆体膜を焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を繰り返し行って複数層の圧電体膜が積層された圧電体層を形成する工程と、
前記圧電体層上に上電極を形成する工程とを具備し、
前記圧電体前駆体膜を形成する工程では、前記塗布チャンバー内の雰囲気を前記塗布溶液の溶媒の飽和蒸気とすると共に当該塗布チャンバー内を外気圧よりも高い気圧として、前記基板に前記塗布溶液を塗布することを特徴とする圧電素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−208467(P2009−208467A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328145(P2008−328145)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】