説明

液体噴射ヘッドユニットの製造方法及び液体噴射装置の製造方法

【課題】液体噴射ヘッドの位置ずれによる液滴の吐出精度の低下を防止した液体噴射ヘッドユニットの製造方法及び液体噴射装置の製造方法を提供する。
【解決手段】インクを吐出するノズルを有する記録ヘッド30と、記録ヘッドが複数固定されたサブキャリッジ20とを備えたヘッドユニットの製造方法であって、サブキャリッジ20の所定位置に配置した記録ヘッド30をネジで第1温度の環境下で固定し、記録ヘッドが固定されたサブキャリッジ20を前記第1温度よりも高い第2温度で所定時間加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドユニットの製造方法及び液体噴射装置の製造方法に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドユニットの製造方法及びインクジェット式記録装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を液滴として噴射可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、インクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクをインク滴として噴射させて記録を行うインクジェット式記録装置(プリンター)等の画像記録装置を挙げることができる。
【0003】
上記プリンターとして、ノズルを複数列設してなるノズル列を有する記録ヘッドをサブキャリッジに複数並べて固定し、サブキャリッジをメインキャリッジに搭載して1つのヘッドユニットとする構成を採用するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなプリンターの製造は、例えば、サブキャリッジの所定位置に各記録ヘッドを配置し、ネジなどの締結部材を用いて固定する。このとき、サブキャリッジに固定された記録ヘッドのノズル列の列設方向が、メインキャリッジの主走査方向に対して所定の角度になるように、サブキャリッジをメインキャリッジに取り付ける。所定の角度としては、例えば、主走査方向に対してノズル列の列設方向が直角となる角度を採用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−193458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようにして製造されたヘッドユニットは、記録ヘッドをネジで固定したときの温度(常温)よりも高い温度(例えば60℃)の下に放置されると、記録ヘッドをネジでサブキャリッジに固定した際にサブキャリッジ内部に残留した応力が解放される。このように応力が解放されると、サブキャリッジが変形し、サブキャリッジの所定位置に配置された記録ヘッドがずれてしまう。記録ヘッドをネジで固定したときの温度(常温)に戻っても、ヘッドユニットは、各記録ヘッドがサブキャリッジの所定位置からずれたままであり、インクの吐出精度が低下してしまう。特に、製品輸送時の環境温度の影響により位置ずれが発生することが懸念される。
【0007】
なお、このような問題は、インク滴を噴射するインクジェット式記録装置だけでなく、他の液滴を噴射する液体噴射装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、液体噴射ヘッドの位置ずれによる液滴の吐出精度の低下を防止した液体噴射ヘッドユニットの製造方法及び液体噴射装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、液体を吐出するノズルを有する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドが複数固定された固定部材とを備えた液体噴射ヘッドユニットの製造方法であって、前記固定部材の所定位置に配置した前記液体噴射ヘッドを締結部材で第1温度の環境下で固定し、前記液体噴射ヘッドが固定された前記固定部材を前記第1温度よりも高い第2温度で所定時間加熱することを特徴とする液体噴射ヘッドユニットの製造方法にある。
かかる態様では、締結部材で液体噴射ヘッドを固定したことによる固定部材内の残留応力が加熱によって解放された液体噴射ヘッドユニットが提供される。本製造方法により製造された液体噴射ヘッドユニットは、高温下に置かれたとしても、固定部材内の残留応力のさらなる解放は生じないため、固定部材の変形も生じない。したがって、製造後に液体噴射ヘッドユニットが高温の使用環境・保管環境に置かれても、液体噴射ヘッドの位置ずれが防止される。すなわち、液滴の吐出精度の低下が防止された液体噴射ヘッドユニットを提供することができる。
【0010】
ここで、前記締結部材により前記固定部材内に残留した応力が解放されるまで、前記固定部材を加熱することが好ましい。これにより、ほぼ完全に固定部材内の残留応力を解放できるので、より確実に液体噴射ヘッドの位置ずれを防止することができる。
【0011】
また、前記固定部材は、開口を有し、前記液体噴射ヘッドは、前記ノズルを複数列設してなるノズル列と当該ノズル列の列設方向に突出したフランジ部とを有し、前記ノズル列の列設方向とは交差する方向に複数の液体噴射ヘッドを前記固定部材に順次固定し、各液体噴射ヘッドの前記固定部材への固定は、液体噴射ヘッドの両端のフランジ部を前記固定部材の開口の周囲に載置し、当該フランジ部を前記開口の周囲に前記締結部材で締結することにより行うことが好ましい。これにより、開口を有する固定部材に複数の液体噴射ヘッドが配置され、当該液体噴射ヘッドの位置ずれが防止された液体噴射ヘッドユニットを提供することができる。
【0012】
本発明の他の態様は、液体を吐出するノズルが複数列設されたノズル列を有する液体噴射ヘッド及び前記液体噴射ヘッドが複数固定された固定部材とを備えた液体噴射ヘッドユニットと、当該液体噴射ヘッドユニットを収容し、液体が噴射される被噴射媒体に対して相対移動する収容部材とを備えた液体噴射装置の製造方法であって、前記固定部材の所定位置に配置した前記液体噴射ヘッドを締結部材で第1温度の環境下で固定し、前記液体噴射ヘッドが固定された前記固定部材を前記第1温度よりも高い第2温度で所定時間加熱することで前記液体噴射ヘッドユニットを作製し、当該液体噴射ヘッドユニットの各液体噴射ヘッドの各ノズル列が、前記収容部材の被噴射媒体に対する相対移動方向に対して所定配置となるように、前記各ノズルが設けられた液体噴射面に垂直な方向を回動軸として前記液体噴射ヘッドユニットを回動させ、当該液体噴射ヘッドユニットを前記収容部材に固定することを特徴とする液体噴射装置の製造方法にある。
本態様によれば、高温下に置かれても、各液体噴射ヘッドの位置ずれが防止され、各液体噴射ヘッドが所定位置に配置された液体噴射装置を提供することができる。すなわち、高温の使用環境・保存環境に置かれても液体の吐出精度の低下が防止された液体噴射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】インクジェット式記録装置の概略構成図である。
【図2】ヘッドユニットの上面図である。
【図3】ヘッドユニットの底面図である。
【図4】図2におけるA−A線断面図である。
【図5】図2におけるB−B線断面図である。
【図6】記録ヘッドの斜視図及び底面図である。
【図7】偏心カムを有する角度調整レバーの斜視図である。
【図8】角度調整機構の動作を説明する概略断面図である。
【図9】角度調整機構の動作を説明する概略平面図である。
【図10】本実施形態に係る製造方法に用いる治具の平面図及び側面図である。
【図11】インクジェット式記録装置の製造方法を示す平面図及び側面図である。
【図12】インクジェット式記録装置の製造方法を示す平面図及び側面図である。
【図13】インクジェット式記録装置の製造方法を示す平面図である。
【図14】記録ヘッドの位置ずれと加熱時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
〈実施形態1〉
図1は、インクジェット式記録装置の概略構成図である。図1に示すように、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置1は、収容部材の一例であるメインキャリッジ10を備える。メインキャリッジ10は、中空箱体状の部材であり、内部空間内には、詳細は後述するが、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を複数有するヘッドユニット(図示せず)が内部に搭載されている。
【0015】
ヘッドユニットが搭載されたメインキャリッジ10は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5の軸方向に移動自在に設けられている。そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してメインキャリッジ10に伝達されることで、メインキャリッジ10はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙装置等により給紙された紙等の被記録媒体S(被噴射媒体)がプラテン8上を搬送されるようになっている。すなわち、メインキャリッジ10は、被記録媒体Sの送り方向に交差する方向であるキャリッジ軸5の軸方向(以下、主走査方向)に往復移動する。
【0016】
また、特に図示しないが、メインキャリッジ10には、内部に搭載されたヘッドユニットにインクを供給するためのインク供給チューブと、駆動信号等の信号を供給するための信号ケーブルが接続されている。その他、インクジェット式記録装置1には、図示しないが、インクを貯留したインクカートリッジ(液体貯留手段)が着脱可能に取り付けられるカートリッジ装着部が設けられている。
【0017】
図2は、メインキャリッジに搭載されたヘッドユニットの上面図であり、図3は、メインキャリッジに搭載されたヘッドユニットの底面図であり、図4は、図2におけるA−A線断面図であり、図5は、図2におけるB−B線断面図である。なお、図2は、キャリッジカバー12を取り外した状態である。
【0018】
メインキャリッジ10は、キャリッジ本体11と、このキャリッジ本体11の上部開口を塞ぐキャリッジカバー12とからなり、上下に分割可能な中空箱体状の部材である。キャリッジ本体11とキャリッジカバー12とから構成される内部空間には、後述するヘッドユニット40(本発明における液体噴射ヘッドユニットの一種)およびヘッドユニット40の上部に接続される流路部材(特に図示せず)が搭載されている。
【0019】
キャリッジ本体11は、略矩形状の底板部11aと、当該底板部11aの四方の外周縁からそれぞれ上方に起立した側壁部11bとを備えている。また、底板部11aの側壁部11bよりも内側には、側壁部11bよりも高さが低い載置部11cが設けられている。また、底板部11aには、底部開口13が開設されている。
【0020】
また、メインキャリッジ10(キャリッジ本体11)には、サブキャリッジ20のメインキャリッジ10(キャリッジ本体11)に対する角度を調整する角度調整機構70が取り付けられている。角度調整機構70は、底板部11aに立設した回動軸71と、記録ヘッド30の並設方向(図2の左右方向)を軸として回動する偏心カム72を有する角度調整レバー73とから構成されている。
【0021】
ヘッドユニット40は、複数の記録ヘッド30等を一体化したものであり、複数の記録ヘッド30と、これらの記録ヘッド30が所定位置に位置決めされた状態で複数並列に取り付けられるサブキャリッジ20とから構成されている。本実施形態では、ヘッドユニット40は、サブキャリッジ20に取り付けられた5つの記録ヘッド30を有している。もちろん、記録ヘッド30の個数は5つに限定されない。
【0022】
サブキャリッジ20は、固定部材の一例であり、略中央部に矩形状の開口部21を有し、平面視で略長方形状の部材である。サブキャリッジ20には、複数の記録ヘッド30が搭載される。具体的には、記録ヘッド30が開口部21に挿通され、記録ヘッド30に取り付けられたスペーサー34(図6参照)が開口部21の四方の外周を形成する外枠部の裏面側(記録媒体に対向する側)に固定される。なお、各記録ヘッド30は、ノズル形成面33と被記録媒体との間隔が等しくなるようにスペーサー34を介してサブキャリッジに固定されている。
【0023】
サブキャリッジ20には、次のように記録ヘッド30が配置されている。サブキャリッジ20は、その長手方向を被記録媒体に対する主走査方向とする。図2及び図3には、主走査方向がX軸方向となるように図示してある。また、詳細は後述するが、記録ヘッド30には、複数のノズル31が一方向に列設されたノズル列36が設けられている。記録ヘッド30は、このノズル列36の列設方向がX軸に直交するY軸に平行となるようにサブキャリッジ20に配置されている。さらに、各記録ヘッド30は、各記録ヘッド30の各ノズル列36を構成するノズル31のY軸方向における位置が同じになるようにサブキャリッジ20に配置されている。例えば、図3の各記録ヘッド30の各ノズル列36の最も下端のノズル31は、全てY軸方向の位置が同じとなっており、各ノズル列36の二番目以降のノズル31も同様にY軸方向の位置が同じとなっている。
【0024】
また、サブキャリッジ20には、図2に示すように一辺の一部をV字型に切り欠いた溝部23と、溝部23と同じ一辺側の角部を矩形状に切り欠いた切り欠き部24が設けられている。
【0025】
このような構成のヘッドユニット40は、キャリッジ本体11の載置部11cの上面にヘッドユニット40を構成するサブキャリッジ20の外縁部が載置され、底板部11a及び側壁部11bに囲まれた空間内にヘッドユニット40および流路部材(特に図示せず)が収容される。そして、ヘッドユニット40をキャリッジ本体11内に収容した状態では、各記録ヘッド30のノズル形成面33(図6参照)は、底板部11aの底部開口13に露出し、キャリッジ本体11の下方(記録動作時における記録媒体側)にインクを吐出可能となっている。
【0026】
なお、特に図示しないが、ヘッドユニット40の上部(キャリッジカバー12側)には、流路部材が設けられている。流路部材は、各記録ヘッド30のサブタンク37(後述)の流路接続部38にそれぞれ対応した各色のインク分配流路(図示せず)が区画形成されている。また、流路部材には、外部のインクカートリッジのインクを供給するインク供給チューブが接続され、インクカートリッジのインクが前記インク分配流路に供給されるようになっている。さらに、流路部材は、インク分配流路のインクが各記録ヘッド30のサブタンク37に供給されるように構成されている。これにより、インクカートリッジ側からインク供給チューブを通じて送られてきた各色のインクが、流路部材内のインク分配流路にそれぞれ導入され、流路部材のインク分配流路を通ったインクは、各記録ヘッド30のサブタンク37に供給される。
【0027】
図6は、記録ヘッドの斜視図及び底面図である。記録ヘッド30は、ノズル31に連通する圧力室を含むインク流路を形成する流路ユニットや、圧力室内のインクに圧力変動を生じさせる圧電振動子或いは発熱素子などの圧力発生手段(何れも図示せず)を収容するヘッドケース32を備えている。記録ヘッド30は、インクジェット式記録装置1の制御部側からの駆動信号を圧力発生手段に印加して圧力発生手段を駆動することにより、ノズル31からインクを噴射して記録紙等の記録媒体に着弾させる記録動作を行うように構成されている。
【0028】
記録ヘッド30のノズル形成面33(液体噴射面)には、インクを噴射するノズル31が複数列設されてノズル列36を構成し、このノズル列36がノズル列36に直交する方向に2列並べて形成されている。
【0029】
ヘッドケース32は、中空箱体状部材であり、その先端側には、ノズル形成面33を露出させた状態で流路ユニットが固定されている。また、ヘッドケース32には、ノズル形成面33とは反対側(上面側。記録媒体とは反対側)には、流路ユニットにインクを供給するためのサブタンク37が装着されている。
【0030】
サブタンク37は、流路部材からのインクを記録ヘッド30の圧力室側に導入する部材である。また、サブタンク37は、内部の圧力変動に応じてバルブを開閉し、圧力室側へのインクの導入を制御する自己封止機能を有している。このサブタンク37のノズル形成面33とは反対面に、流路部材が接続される流路接続部38が設けられている。また、サブタンク37の内部には、圧力発生手段に駆動信号を供給するための駆動基板(図示せず)が設けられており、各駆動基板に電気的に接続された配線部材(図示せず)がサブタンク37の流路接続部38側にそれぞれ引き出されている。この配線部材が上記の信号ケーブルと接続されることで、当該信号ケーブルを通じてインクジェット式記録装置1の制御部から送られてくる駆動信号等を、駆動基板を介して圧力発生手段側に供給することができる。
【0031】
また、ヘッドケース32の上面側におけるノズル列36に沿った方向の両端部には、側方に向けて突出したフランジ部35がそれぞれ形成されている。このフランジ部35には、スペーサー34がネジ等により着脱可能に固定されている。
【0032】
スペーサー34は、直方体状に形成された合成樹脂等の部材であり、1つの記録ヘッド30に対して、両側のフランジ部35のサブタンク37側の面にそれぞれ1つずつ、合計2つ取り付けられる。また、図5に示すように、スペーサー34には、ナット51が収容される空間部50と空間部50に連通して上下方向に貫通した挿通穴52が設けられている。一方、サブキャリッジ20の開口部21の外枠部には、貫通孔である止着穴22が開設されている。止着穴22と挿通穴52の位置が揃えられ、これらの止着穴22と挿通穴52にネジ53が挿通し、当該ネジ53がナット51に螺合することで、スペーサー34を介して記録ヘッド30がサブキャリッジ20に固定されている。
【0033】
フランジ部35には、厚さ方向に設けられて位置決めピンが挿通する位置決め穴60a、60bが設けられている。位置決め穴60aは、記録ヘッド30をサブキャリッジ20に位置決めして取り付ける際に用いられる。この記録ヘッド30のサブキャリッジ20への取り付けは後述する。
【0034】
位置決め穴60a、60bは、ノズル31を基準とした位置に設けられている。位置決め穴60a、60bがノズル31を基準とした位置に設けられているとは、図6(b)に示すように、ノズル31及び位置決め穴60a、60bの平面視において、ノズル31(例えば、一のノズル列36のうち、一端にあるノズル31)に対して所定の位置に設けられていることをいう。本実施形態では、位置決め穴60aは丸穴であり、位置決め穴60bは、開口形状がノズル31の並設方向に長くなるように形成された長穴である。位置決め穴60bの短辺方向の長さは、位置決め穴60aの直径と同じである。位置決め穴60aの中心と位置決め穴60bの中心(位置決め穴60bの短手方向の中心)とを結ぶ直線L2が、ノズル31の並設方向L1と平行となっている。
【0035】
図7は、偏心カムを有する角度調整レバーの斜視図である。図7及び図2に示すように、角度調整機構70は、底板部11aに立設した回動軸71と、偏心カム72を有する角度調整レバー73とから構成されている。
【0036】
角度調整レバー73は、平板状の部材である把持部74と、把持部74の一方面に設けられた軸部75とを有する。軸部75には、軸部75と同軸となるように偏心カム72が設けられている。
【0037】
このような構成の角度調整レバー73は、軸部75の軸方向が、キャリッジ本体11の主走査方向(図2のX軸方向)と平行になるように回動自在にキャリッジ本体11に取り付けられている。
【0038】
回動軸71は、角度調整レバー73の軸部75の略延長線上に位置するように、キャリッジ本体11の底板部11aに立設されている。図2には、回動軸71の方向をZ軸方向としてある。
【0039】
このような構成の角度調整機構70に対して、図2に示すように、サブキャリッジ20が取り付けられている。すなわち、サブキャリッジ20は、溝部23が回動軸71の側面に当接し、切り欠き部24が偏心カム72に当接して配置され、キャリッジ本体11に固定されている。
【0040】
図8は、角度調整機構の動作を説明する概略断面図であり、図9は、角度調整機構の動作を説明する概略平面図である。
【0041】
上述したサブキャリッジ20をキャリッジ本体11に取り付ける際には、サブキャリッジ20に搭載された記録ヘッド30の各ノズル列36がメインキャリッジ10の主走査方向(図2中のX軸方向)に対して所定の角度、例えば直角となるようにする。この角度の調整に際しては、角度調整レバー73を回動させることにより行う。すなわち、サブキャリッジ20の溝部23が回動軸71の側面に当接し、切り欠き部24が偏心カム72に当接する方向にサブキャリッジ20を付勢した状態で、角度調整レバー73を回動させる。
【0042】
角度調整レバー73の回動と共に偏心カム72が回動し、その回動中心から外周面までのカム径が増減する。上述したようにサブキャリッジ20が付勢された状態でカム径が増大すれば、図8に示すように、偏心カム72により切り欠き部24が押圧され、図9に示すように回動軸71を中心としてサブキャリッジ20が時計回りに回動する。角度調整レバー73を回動させる量を適宜調整することで、サブキャリッジ20に搭載された記録ヘッド30のノズル列36をメインキャリッジ10の主走査方向に対して直角とすることができる。図示しないが、偏心カム72のカム径が減少すれば、サブキャリッジ20は反時計回りに回動する。
【0043】
このように、角度調整機構70によれば、記録ヘッド30のノズル形成面33に垂直な方向の軸(回動軸71)を中心としてサブキャリッジ20を回動させることができ、サブキャリッジ20に搭載された記録ヘッド30のノズル列36をメインキャリッジ10の主走査方向に対して所定角度とすることができる。
【0044】
ここで、上述した構成のインクジェット式記録装置1の製造方法について説明する。図10は、インクジェット式記録装置を製造する際に用いる治具の平面図及び側面図である。
【0045】
治具100は、平板状の基台部101と、基台部101上に設けられた位置決め円柱部102及び位置決め凸部103と、位置決めピン104とを備えている。
【0046】
位置決め円柱部102は、円柱状の部材であり、キャリッジ本体11に設けられた回動軸71と同形状である。詳細は後述するが、位置決め円柱部102は、サブキャリッジ20に設けられた溝部23が位置決めされる部材である。
【0047】
位置決め凸部103は、直方体状の部材である。詳細は後述するが、位置決め凸部103は、サブキャリッジ20に設けられた切り欠き部24が位置決めされる部材である。
【0048】
位置決めピン104は、本実施形態では二本設けられており、各位置決めピン104は、記録ヘッド30に設けられた位置決め穴60a、60bのそれぞれに挿通される。二本の位置決めピン104は、その軸の方向が基台部101の上面(位置決め円柱部102が設けられた面)に垂直な方向(図中のZ軸方向)となる状態で保持部材106に保持され、二本の位置決めピン104の間隔は、位置決め穴60a、60bの相対位置と略同一の相対位置となっている。また、保持部材106は、基台部101の上面に垂直な方向に上下動可能となっている。
【0049】
二本の位置決めピン104は、軸方向の断面形状が略円形状に形成され、その断面形状は、位置決め穴60a(丸穴)の開口形状と略同一である。したがって、位置決め穴60aに挿通された位置決めピン104と、当該位置決め穴60aとの間に、若干の隙間を有してほぼ嵌合した状態となる。また、位置決めピン104は、位置決め穴60bに挿通されると、位置決め穴60bの長手方向(図6(b)の左右方向)には遊びがあり、短手方向(図6(b)の上下方向)には動きが規制されるようになっている。
【0050】
また、基台部101には、直方体状の載置部105が4つ設けられ、各載置部105の上面には、サブキャリッジ20が載置される。また、各載置部105は、基台部101の上面から各載置部105の上面までの高さが同一となるように形成されている。
【0051】
図11及び図12は、インクジェット式記録装置の製造方法を示す平面図及び側面図である。5つある記録ヘッド30を図11の左側から、記録ヘッド30a、30b、30c、30d、30eとも称する。これらの図を用いて、一番目の記録ヘッド30aは、サブキャリッジ20の開口部21の一端側(図11の左側)に配置し、以降、他端側(図11の右側)に向かい、二番目以降の記録ヘッド30b〜30eを順次配置する例を示す。
【0052】
図11に示すように、サブキャリッジ20に、一番目の記録ヘッド30aを仮固定しておく。すなわち、記録ヘッド30のスペーサー34をサブキャリッジ20の開口部21の外枠部に載置し、サブキャリッジ20に設けられた止着穴22にスペーサー34の挿通穴52(図5参照)の位置を揃え、これらの止着穴22と挿通穴52にネジ53を挿通し、当該ネジ53をナット51に螺合する。このネジ53とナット51は、スペーサー34がサブキャリッジ20に完全に締結されない程度に螺合させる。すなわち、記録ヘッド30aがサブキャリッジ20に対してサブキャリッジの止着穴22とネジ53のガタ分、XY平面で多少移動できる程度に仮固定し仮位置決めする。
【0053】
次に、溝部23及び切り欠き部24を、位置決め円柱部102及び位置決め凸部103にそれぞれ位置決めする。
【0054】
具体的には、4つの載置部105の上面に、サブキャリッジ20を載置する。そして、位置決め円柱部102に溝部23を位置決めし、位置決め凸部103に切り欠き部24を位置決めする。
【0055】
溝部23が位置決め円柱部102に位置決めされた状態とは、溝部23の内面が位置決め円柱部102の外周面に当接した状態をいう。また、切り欠き部24が位置決め凸部103に位置決めされた状態とは、切り欠き部24の側面(サブキャリッジ20が位置決め円柱部102及び位置決め凸部103側に付勢される方向に垂直な側面)が位置決め凸部103の一方面に当接した状態をいう。
【0056】
同図には、位置決め円柱部102及び位置決め凸部103に位置決めされたサブキャリッジ20は、サブキャリッジ20の主走査方向がX軸方向となるように図示してある。
【0057】
そして、サブキャリッジ20を位置決め円柱部102及び位置決め凸部103側に付勢し、クランプなどでその状態を保持する。
【0058】
次に、記録ヘッド30aの位置決め穴60a、60bを位置決めピン104に位置決めする。すなわち、記録ヘッド30aのサブキャリッジ20に対する位置を微調整し、仮固定された記録ヘッド30aに対して保持部材106を下降させて位置決めピン104を記録ヘッド30aの位置決め穴60a、60bに挿通させる。また、その状態で一方向(X軸方向)から記録ヘッド30aを押圧し、位置決めピン104の外周と位置決め穴60a、60bの内周とを当接させる。これにより、記録ヘッド30aのがたつきを抑える。
【0059】
位置決めピン104が挿通される位置決め穴60aを丸穴とし、位置決め穴60bを長穴とすることにより、サブキャリッジ20側の止着穴22の間隔(開口部21を挟んだ止着穴22同士の間隔)とスペーサー34の挿通穴52の間隔(両端のフランジ部35にそれぞれ取り付けられたスペーサー34の挿通穴52同士の間隔)との誤差が、位置決め穴60bの長径の範囲内で許容される。
【0060】
ここで、位置決めピン104は、図11(a)に示すような平面視において、位置決め円柱部102及び位置決め凸部103に位置決めされる溝部23及び切り欠き部24を基準とした所定位置に配置されている。本実施形態では、位置決めピン104は、図11(a)に示す平面視において、溝部23及び切り欠き部24を基準とした位置であって、二本の位置決めピン104を結ぶ直線が、位置決め円柱部102及び位置決め凸部103に位置決めされたサブキャリッジ20の主走査方向(メインキャリッジ10の主走査方向と同じ。同図中のX軸方向)に直交する方向(Y軸方向)となるように配置されている。
【0061】
このような位置決めピン104が記録ヘッド30aの位置決め穴60a、60bに挿通されると、記録ヘッド30aは、溝部23及び切り欠き部24を基準とした所定位置に配置される。
【0062】
上述したように、記録ヘッド30aの位置決め穴60a、60bを結ぶ直線は、記録ヘッドのノズル列36と平行であるので(図6(b)参照)、位置決めピン104が記録ヘッド30aの位置決め穴60a、60bに挿通されると、ノズル列36も二本の位置決めピン104を結ぶ直線と平行となる。そして、二本の位置決めピン104を結ぶ直線は、サブキャリッジ20の主走査方向に直交しているので、ノズル列36もサブキャリッジ20の主走査方向に直交することになる。
【0063】
つまり、サブキャリッジ20に配置された記録ヘッド30aは、位置決め円柱部102及び位置決め凸部103を基準として配置された位置決めピン104に位置決めされることで、ノズル列36がサブキャリッジ20の主走査方向に直交するようにサブキャリッジ20に配置される。
【0064】
このように一番目の記録ヘッド30aを位置決めした後、スペーサー34とサブキャリッジ20との接触面に瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤など)を注入して仮固定し、ネジ53をナット51に締結することで、記録ヘッド30aをサブキャリッジ20に本固定する。
【0065】
次に、図12に示すように、一番目の記録ヘッド30aのノズル列36を基準として、二番目以降の4つの記録ヘッド30b〜30eをサブキャリッジ20に取り付ける。取り付けは、一番目の記録ヘッド30aの右隣に二番目の記録ヘッド30bを配置、固定し、以降、記録ヘッド30c、30d、30eも同様に配置、固定することにより行う。
【0066】
具体的には、一番目の記録ヘッド30a及び二番目以降の記録ヘッド30b〜30eのノズル形成面33をCCDカメラ等の撮像手段を用いて観察しながら、二番目以降の記録ヘッド30b〜30eの各ノズル列36が所定の配置、例えば、一番目の記録ヘッドのノズル列36と所定の間隔を空けて平行となり、かつ各ノズル列36を構成するノズル31のY軸方向における位置が同じとなるように、二番目以降の記録ヘッド30b〜30eの位置を規定する。なお、X軸方向は吐出タイミング調整を行う前提の場合、Y軸方向よりも粗い位置調整でも構わない。
【0067】
例えば、ガラスなどの透明な部材に、ノズル31の開口径と同程度の大きさの基準マークを設けたアライメントマスクを用いる。この基準マークは、各記録ヘッド30a〜30eに対応してアライメントマスクに複数設けられており、各基準マークの相対位置は、サブキャリッジ20に配置された各記録ヘッド30a〜30eの各ノズル31が配置されるべき位置に対応して設定されている。
【0068】
一番目の記録ヘッド30aの位置決めをした後、記録ヘッド30aのノズル形成面33側にアライメントマスクを重ね、撮像手段を用いて一番目の記録ヘッド30aのノズル形成面33を観察しながら、当該アライメントマスクの一番目の記録ヘッド30aに対応する基準マークを当該記録ヘッド30aのノズル31に合わせる。そして、その状態を保持しながら、二番目の記録ヘッド30bについて、当該記録ヘッド30bのノズル31を、アライメントマスクの二番目の記録ヘッド30bのノズル31に対応する基準マークに合わせる。このようにして、二番目の記録ヘッド30bの位置決めを行う。
【0069】
取り付け対象の記録ヘッド30bが位置決めされたならば、当該記録ヘッド30bのスペーサー34とサブキャリッジ20との接触面に瞬間接着剤を注入して仮固定する。そして、止着穴22とスペーサー34の挿通穴52とに挿通し、ナット51に螺合させてあったネジ53をさらにナット51に螺合して本固定する。
【0070】
以降、三番目〜五番目の記録ヘッド30c〜30eについても、二番目の記録ヘッド30bと同様にサブキャリッジ20に位置決めし、固定する。
【0071】
二番目以降の記録ヘッド30b〜30eは、一番目の記録ヘッド30aを基準に位置決めされてサブキャリッジ20に固定されるので、二番目以降の記録ヘッド30b〜30eのノズル列36は、一番目の記録ヘッド30aのノズル列36を基準とした位置に配置される。本実施形態では、二番目以降の記録ヘッド30b〜30eは、当該記録ヘッド30の各ノズル列36が一番目のノズル列36と平行となり、各ノズル列36のノズル31のY軸方向の位置が揃うようにサブキャリッジ20に配置される。
【0072】
二番目〜五番目の記録ヘッド30b〜30eはY軸方向、X軸方向の相対位置が重要になる。そのため、上述したとおり、二番目〜五番目の相対位置については、一番目の記録ヘッド30aの取り付けとは別段取りとし、CCDカメラ(撮像手段)などを用いて得られた画像に現れたノズル31と基準マークとが一致するように記録ヘッド30b〜30eの位置を微調整する。この微調整は、マイクロメートル単位のオーダーで行う。これにより、二番目以降の記録ヘッド30b〜30eを一番目の記録ヘッド30aを基準として精度良く位置決めすることができる。
【0073】
上述した記録ヘッド30a〜30eのサブキャリッジ20への固定は、第1温度の環境下で行われている。第1温度としては、例えば、常温(20℃〜30℃)を挙げることができる。
【0074】
次に、複数の記録ヘッド30a〜30eが所定位置に配置されたサブキャリッジ20、すなわちヘッドユニット40を第1温度よりも高い第2温度で所定時間加熱する。ここでいう加熱とは、ヘッドユニット40を第2温度の雰囲気中に所定時間放置することをいう。
【0075】
ヘッドユニット40を第2温度で所定時間加熱すると、記録ヘッド30a〜30eをネジ53でサブキャリッジ20に固定した際にサブキャリッジ20内部に残留した応力が解放される。
【0076】
図13に示すように、当該応力の解放により、サブキャリッジ20は変形し、サブキャリッジ20の所定位置に配置された記録ヘッド30a〜30eは、その所定位置からずれる。具体的には、記録ヘッド30a〜30eは、Y軸方向の+側(図13の上側)にずれており、ずれる量は、記録ヘッド30a〜30eの順に徐々に大きくなっている。すなわち、図中の右上に向かって昇るような階段状に記録ヘッド30a〜30eがずれている。このように各記録ヘッド30a〜30eがずれた状態では、ノズル列36は、サブキャリッジ20の主走査方向(X軸方向)に直交するY軸方向に平行な状態を保ってはいるが、各ノズル列36のノズル31のY軸方向における位置がずれている。例えば、図13の各記録ヘッド30の各ノズル列36の最も下端のノズル31を結ぶ直線L3は、Y軸方向に対して角度θだけ傾いている。
【0077】
このような加熱による記録ヘッド30の位置ずれは、加熱温度と加熱時間とにより、一定以上には大きくならないことが実験により得られている。
【0078】
図14は、記録ヘッドの位置ずれと加熱時間との関係を示すグラフである。X軸は時間を示し、Y軸は加熱前と比較した記録ヘッド30のY軸方向+側への変位量を示している。このグラフで例示された記録ヘッド30は、ヘッドケース32内にアクチュエータ部を備えている。アクチュエータ部は、例えば、圧力室が設けられた流路基板と、圧力室内のインクに圧力変動を生じさせる圧電振動子或いは発熱素子などの圧力発生手段と、圧力室に連通するノズル31が設けられて流路基板の一方面に接合されたノズルプレートと、流路基板のノズル側とは反対側に設けられたシートと、から構成されている。シートは、流路基板に設けられた複数の圧力室に連通し、流路基板の一方面に開口した凹部であるマニホールドを封止する。シートが変形することによってマニホールド内の圧力変化を吸収し、マニホールド内の圧力を常に一定に保持する役割を果たす。圧力発生手段は、取付板を介してヘッドケース32に固定されている。
【0079】
このような記録ヘッド30を備えるヘッドユニット40を構成する各部材の材料は次の通りである。サブキャリッジ20はアルミニウム合金(ADC12)、スペーサー34はエポキシ樹脂、記録ヘッド30の流路基板はシリコン、ヘッドケース32(フランジ35含む)はエポキシ樹脂、ヘッドケース32の剛性を強化するために内部に挿入されたインサート金具はSUS304、取付板はSUS430、サブタンク37はポリプロピレン樹脂から形成されている。
【0080】
上述した材料からなる各部材を備える記録ヘッド30が固定されたサブキャリッジ20を、第2温度として例えば60℃の雰囲気下に、それぞれ2時間、4時間、6時間放置し、変位量を測定した。
【0081】
同グラフに示すように、2時間放置した場合は約1μm、4時間放置した場合は約1.8μm、6時間放置した場合は約2μmと、変位量が増大している。しかしながら、6時間以上放置した場合は、変位量は増大せず、約2μmで一定である。なお、このような傾向は、上述した材料、構成の記録ヘッドに限らない。他の材料、構成の記録ヘッドを第2温度で加熱すれば、変位量は一定時間までは増大し、それ以後は、増大しない。
【0082】
このような結果から、各記録ヘッド30をサブキャリッジ20に固定したときの第1温度より高い第2温度の雰囲気中でヘッドユニット40を所定時間加熱すれば、ネジ53の締結によりサブキャリッジ20の内部に生じた応力がほぼ完全に解放されたと考えることができる。したがって、サブキャリッジ20は、当該応力が解放された後に加熱されても変形せず、記録ヘッド30a〜30eの位置ずれが増大することもない。
【0083】
第2温度の雰囲気中で所定時間加熱されたヘッドユニット40は、元の第2温度に戻ると、各記録ヘッド30a〜30eが階段状にずれたままの状態である。しかしながら、上述したように応力はほぼ完全に解放されているので、再度高温下に置かれても、応力の解放に伴う記録ヘッド30a〜30eの位置ずれは生じない。
【0084】
上述した本実施形態に係るヘッドユニットの製造方法における第1温度として常温を採用した場合、常温とは20〜30℃である。また、第2温度の上限は、60℃〜80℃、好ましくは50℃〜70℃である。加熱時の第2温度は、高ければ高いほどヘッドユニット40の加熱時間は短くてすむが、ヘッドユニット40を構成する各部品の耐熱温度以下とすることが好ましい。
【0085】
具体的には、記録ヘッド30のアクチュエータ部の構成材を接着している接着層の剥離の影響を考慮して80℃以下とするのが好ましい。アクチュエータ部の構成材の接着層には、構成材の線膨張係数が異なる場合に熱応力が発生する。例えば、ノズルプレートにSUS304(線膨張係数:18×10-6)、SUS316(線膨張係数:16×10-6)またはSUS430(線膨張係数:11×10-6)、流路基板にシリコン(線膨張係数:2.6×10-6)、シートにPPS(ポリフェニレンサルファイド)などの樹脂フィルムを用いる場合が考えられる。
【0086】
また、加熱時間は、ネジ53の締結により生じたサブキャリッジ20の応力が完全に解放されるまでの時間であることが好ましい。例えば、ヘッドユニット40を全く加熱せずに製造した場合、使用環境・保管環境などが高温となれば、記録ヘッド30は位置ずれし、その量は約2μmとなる。一方、ヘッドユニット40の製造時において6時間以上第2温度で加熱すれば、記録ヘッド30は約2μm変位し、それ以上は変位しない。したがって、このヘッドユニット40を第1温度に戻し、使用環境・保管環境などが高温になったとしても、記録ヘッド30の位置ずれは生じない。このように、ヘッドユニット40を第2温度で所定時間加熱しておけば、高温下に再度放置されても、記録ヘッド30の位置ずれを防ぐことができる。
【0087】
なお、加熱時間は、ネジ53の締結により生じたサブキャリッジ20の応力が完全に解放されるまでの時間よりも短くても良い(図14の例では、加熱時間が0〜6時間)。例えば、ヘッドユニット40を全く加熱せず、使用環境・保管環境などが高温となれば、記録ヘッド30は位置ずれし、その量は約2μmとなる。一方、ヘッドユニット40の製造時において2時間、第2温度で加熱すれば、記録ヘッド30の変位量は約1μmである。このヘッドユニット40を第1温度に戻し、使用環境などが高温下になったとしても、記録ヘッド30の位置ずれは、約1μmですむ。このように、第2温度でヘッドユニット40を加熱しておけば、高温下に再度放置されても、記録ヘッド30の位置ずれの量を低減することができる。
【0088】
また、加熱時間は、連続である必要はない。例えば、第2温度で加熱した後、第1温度に戻し、さらに第2温度で加熱してもよい。第2温度で加熱した累計の時間で記録ヘッド30の変位量が定まる。
【0089】
このようにして、サブキャリッジ20に複数の記録ヘッド30が位置決めされて固定されたヘッドユニット40が作製される。
【0090】
次に、特に図示しないが、ヘッドユニット40のサブキャリッジ20(固定部材)をキャリッジ本体11(収容部材)に収容し、固定する。このとき、各ノズル列36のノズル31を結ぶ直線L3は、サブキャリッジ20の主走査方向に対して角度θだけずれている(図13参照)。したがって、角度調整機構70を調整してサブキャリッジ20の角度を−θだけ回動させる。これにより、直線L3がキャリッジ本体11の主走査方向(X軸方向)と平行となる。その状態でサブキャリッジ20をキャリッジ本体11に固定する。
【0091】
以降、ヘッドユニット40が固定されたキャリッジ本体11にキャリッジカバー12を取り付けてメインキャリッジ10を構成し、メインキャリッジ10をキャリッジ軸5に移動自在に取り付ける。そして、メインキャリッジ10にその内部のヘッドユニット40にインクを供給するためのインク供給チューブや、駆動信号等の信号を供給するための信号ケーブルを接続することで、各ノズル列36を構成する各ノズル31のY軸方向における位置が揃うように記録ヘッド30が配置されたインクジェット式記録装置1が作製される。
【0092】
以上に説明したように、本実施形態に係るヘッドユニットの製造方法によれば、使用環境・保管環境などが高温になったとしても、サブキャリッジ20の応力の解放は生じないため、サブキャリッジ20の変形も生じない。したがって、製造後にヘッドユニット40が高温下に放置されても、記録ヘッド30の位置ずれが防止されたヘッドユニット40を提供できる。
【0093】
また、本実施形態に係るインクジェット式記録装置1の製造方法によれば、各記録ヘッド30が所定位置に配置された状態、すなわち、各ノズル列36を構成する各ノズル31のY軸方向における位置が揃うように各記録ヘッド30が配置されたインクジェット式記録装置1が提供される。なお、各ノズル列36はメインキャリッジ10の主走査方向に対して若干傾斜することになるが、吐出精度の低下への影響はほぼ無視できる。
【0094】
このように製造されたインクジェット式記録装置1は、製造後に再度高温下に放置されても、上述したように記録ヘッド30の位置ずれが防止されているので、各記録ヘッド30が所定位置に配置された状態が保たれる。これにより、高温下で使用・保管されてもインクの吐出精度の低下が防止されたインクジェット式記録装置1が提供される。
【0095】
〈他の実施形態〉
以上、本発明の実施形態を説明したが、勿論、本発明は上述したものに限定されるものではない。
【0096】
サブキャリッジ20に配置された記録ヘッド30a〜30eは、第2温度で所定時間加熱された後、図13に示すように階段状に位置ずれした。このような記録ヘッド30a〜30eの配置に限らない。
【0097】
例えば、各記録ヘッド30の位置ずれ量を見込んで、予めY軸方向の−側にずらしてサブキャリッジ20に固定する。すなわち、図13の直線L3のY軸に対する角度が−θとなるように、各記録ヘッド30a〜30eをサブキャリッジ20に配置し、固定する。そして、当該サブキャリッジ20を第2温度で所定時間加熱する。当該加熱により、各記録ヘッド30はY軸方向の+側にずれ、ちょうど各ノズル列36がサブキャリッジ20の主走査方向に対して直交し、かつ各ノズル列36を構成する各ノズル31のY軸方向における位置が揃った状態で、サブキャリッジ20の応力がほぼ完全に解放される。
【0098】
このようなヘッドユニット40をキャリッジ本体11に収容し、固定する。これにより、各ノズル列36がメインキャリッジ10の主走査方向に対して直交し、かつ各ノズル列36を構成する各ノズル31のY軸方向における位置が揃ったインクジェット式記録装置1が提供される。
【0099】
すなわち、各記録ヘッド30の位置ずれ量を見込んで、予めY軸方向の−側にずらしてサブキャリッジ20に固定することで、ヘッドユニット40をメインキャリッジ10に取り付ける際の角度調整機構70による調整が殆ど不要となり、製造工程の短縮を図ることができる。なお、各記録ヘッド30が階段状にずれない場合においても同様に調整することができる、すなわち、予め記録ヘッド30がどの方向にどれだけずれるか傾向を把握しておき、加熱による応力解放で生じる位置ずれが相殺されるような位置に各記録ヘッド30をサブキャリッジ20に配置する。
【0100】
固定部材の一例として、開口部21を有するサブキャリッジ20を例示したが、このようなものに限定されない。すなわち、開口部21を有さなくても、記録ヘッド30を固定できる形状であればよい。
【0101】
5つの記録ヘッド30を一方から他方に順次サブキャリッジ20に配置し、固定したが、このような順序に限定されない。すなわち、複数の記録ヘッド30を任意の順序でサブキャリッジ20に配置し固定してもよい。
【0102】
また、アライメントマスクと、記録ヘッド30の各ノズル31が所定配置となるように記録ヘッド30をサブキャリッジ20に配置するための治具とを用いて、次のように記録ヘッド30をサブキャリッジ20に位置決めすることもできる。
【0103】
まず、実施形態1に説明したアライメントマスクを用い、アライメントマスクの基準マークの位置を記録する。すなわち、治具に対する記録ヘッド30の各基準マークの位置を記録する。次に、治具にサブキャリッジ20を配置し、一番目の記録ヘッド30をサブキャリッジ20に位置決めして固定する。この一番目の記録ヘッド30をサブキャリッジ20に固定する方法は、実施形態1と同様に行う。
【0104】
次に、アライメントマスクの記録ヘッド30に対応する基準マークの記録位置に基づいて液体噴射ヘッドのノズルを位置決めする。具体的には、次のように行う。
【0105】
一番目の記録ヘッド30のノズル31をCCDで撮像して第1の位置を測定する。先に記録した、一番目の記録ヘッド30に対応するアライメントマスクの基準マークの第2の位置と、第1の位置との差分を得る。
【0106】
そして、二番目以降の記録ヘッド30は、先に記録した、二番目以降の記録ヘッド30に対応するアライメントマスクの基準マークの位置に、第1の位置と第2の位置との差分を加算(補正)した補正後の位置を演算し、当該位置に二番目以降の記録ヘッド30のノズル31が合うようにサブキャリッジ20に配置する。
【0107】
このように、第1の位置と第2の位置との差分から得た補正後の位置に二番目以降の記録ヘッド30のノズル31を位置決めすることで、サブキャリッジ20に固定された各記録ヘッド30のノズル31同士の相対位置は、アライメントマスクに設けられた基準マークの相対位置と同じになっている。
【0108】
各記録ヘッド30のノズル31同士の相対位置を規定する基準マークが高精度にアライメントマスクに設けられており、当該アライメントマスクを用いて記録ヘッド30をサブキャリッジ20に位置決めすることで、記録ヘッド30がサブキャリッジ20の所定配置に高精度に位置決めされたヘッドユニット40が製造される。
【0109】
実施形態1では、記録ヘッド30をサブキャリッジ20に位置決めする際には、治具100を用いたが、このような治具100を用いる場合に限定されない。すなわち、サブキャリッジ20の所定位置に記録ヘッド30を配置できればよい。
【0110】
また、予め記録ヘッド30をサブキャリッジ20にネジ53で仮止めし、その後、サブキャリッジ20に記録ヘッド30を位置決めして固定したが、必ずしもネジ53による記録ヘッド30の仮止めは必須ではない。例えば、サブキャリッジ20に記録ヘッドを位置決めして接着剤で仮固定し、その後にネジ53により本固定を行ってもよい。
【0111】
角度調整機構70は偏心カム72のカム径の増大によるものに限らず、サブキャリッジ20のメインキャリッジ10に対する角度(図2及び図3のXY平面における角度)を調整できるものであればよい。
【0112】
記録ヘッド30は、ノズル列36がメインキャリッジ10(サブキャリッジ20)の主走査方向と直交するようにサブキャリッジ20に位置決めされたが、これに限らず、ノズル列36と主走査方向との角度は任意であってもよい。
【0113】
上述した実施形態1では、インクジェット式記録装置1として、被噴射媒体に対してメインキャリッジ10(ヘッドユニット40)を主走査方向に移動させながら印刷を行う、シリアル型のインクジェット式記録装置を例示したが、特にこれに限定されない。例えば、メインキャリッジ10(ヘッドユニット40)を固定し、被噴射媒体を搬送するだけで印刷を行う、いわゆるライン型のインクジェット式記録装置についても本発明を適用することができる。
【0114】
なお、上述した実施形態においては、本発明の液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを説明したが、液体噴射ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するものにも勿論適用することができる。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0115】
1 インクジェット式記録装置、 10 メインキャリッジ、 11 キャリッジ本体、 12 キャリッジカバー、 20 サブキャリッジ、 23 溝部、 24 切り欠き部、 30,30a,30b,30c,30d,30e 記録ヘッド、 31 ノズル、 33 ノズル形成面、 34 スペーサー、 36 ノズル列、 40 ヘッドユニット、 60a,60b 位置決め穴、 51 ナット、 53 ネジ、 70 角度調整機構、 71 回動軸、 72 偏心カム、 100 治具、 102 位置決め円柱部、 103 位置決め凸部、 104 位置決めピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルを有する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドが複数固定された固定部材とを備えた液体噴射ヘッドユニットの製造方法であって、
前記固定部材の所定位置に配置した前記液体噴射ヘッドを締結部材で第1温度の環境下で固定し、
前記液体噴射ヘッドが固定された前記固定部材を前記第1温度よりも高い第2温度で所定時間加熱する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドユニットの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドユニットの製造方法において、
前記締結部材により前記固定部材内に残留した応力が解放されるまで、前記固定部材を加熱する
ことを特徴とする液体噴射ヘッドユニットの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する液体噴射ヘッドユニットの製造方法において、
前記固定部材は、開口を有し、
前記液体噴射ヘッドは、前記ノズルを複数列設してなるノズル列と当該ノズル列の列設方向に突出したフランジ部とを有し、
前記ノズル列の列設方向とは交差する方向に複数の液体噴射ヘッドを前記固定部材に順次固定し、
各液体噴射ヘッドの前記固定部材への固定は、液体噴射ヘッドの両端のフランジ部を前記固定部材の開口の周囲に載置し、当該フランジ部を前記開口の周囲に前記締結部材で締結することにより行う
ことを特徴とする液体噴射ヘッドユニットの製造方法。
【請求項4】
液体を吐出するノズルが複数列設されたノズル列を有する液体噴射ヘッド及び前記液体噴射ヘッドが複数固定された固定部材とを備えた液体噴射ヘッドユニットと、
当該液体噴射ヘッドユニットを収容し、液体が噴射される被噴射媒体に対して相対移動する収容部材とを備えた液体噴射装置の製造方法であって、
前記固定部材の所定位置に配置した前記液体噴射ヘッドを締結部材で第1温度の環境下で固定し、前記液体噴射ヘッドが固定された前記固定部材を前記第1温度よりも高い第2温度で所定時間加熱することで前記液体噴射ヘッドユニットを作製し、
当該液体噴射ヘッドユニットの各液体噴射ヘッドの各ノズル列が、前記収容部材の被噴射媒体に対する相対移動方向に対して所定配置となるように、前記各ノズルが設けられた液体噴射面に垂直な方向を回動軸として前記液体噴射ヘッドユニットを回動させ、当該液体噴射ヘッドユニットを前記収容部材に固定する
ことを特徴とする液体噴射装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate