説明

液体噴射ヘッドユニット

【課題】簡単な構造で記録ヘッドより上流側の流路に熱を与えることができる液体噴射ヘッドユニットを提供する。
【解決手段】複数のノズル38に連通する流路を備えた流路ユニット39と、該流路ユニットの前記流路に液体を供給する共通液体流路42が形成され、前記流路ユニット39が接合されたヘッドケース35と、該ヘッドケースの前記流路ユニット接合側とは反対側に接合され、前記共通液体流路に液体を供給する上流側流路を備えた流路部材14と、前記ヘッドケースの側面に装着される発熱可能なヒーター17と、該ヒーターに一部分が接合されると共に、他の部分が前記流路部材の一部と対向する金属板19と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルに連通する圧力室に圧力変動を与えて、圧力室内の液体をノズルから噴射させるインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液滴として噴射させる液体噴射ヘッドとしては、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)などの画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)、液晶ディスプレイなどのカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro
Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)などの電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどがある。
【0003】
例えば、上記の記録ヘッドでは、リザーバーから圧力室を経てノズルに至る一連の液体流路が形成された流路ユニットや圧力室の容積を変動可能な圧力発生素子を有するアクチュエーターユニットなどを樹脂製のヘッドケースに取り付けて構成されているものがある。上記流路ユニットには、複数のノズルを開設したノズルプレートが接合されている。
【0004】
このような記録ヘッドから噴射する液体には、例えば、常温でおよそ4mPa・sなどのように、噴射に適した粘度がある。液体の粘度は、温度と相関関係にあり、温度が低いほど粘度が高くなり、温度が高いほど粘度が低くなる傾向がある。また、例えば、紫外線硬化型インク等のように常温で8mPa・s以上の所謂高粘度領域の液体を噴射する用途に記録ヘッドが用いられる場合もある。そのため、環境温度に拘わらず各ノズルから噴射する液体の粘度を噴射に適した値にするために、液体を加熱するヒーターをヘッドケースに備えた記録ヘッドが知られている。また、このヒーターがノズルプレートを保護するヘッドカバーに当接し、ヘッドカバーを介してノズルプレートに伝熱することで記録ヘッド内の液体を温める構成のものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−262543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような記録ヘッドでは、記録ヘッド内に形成された流路の距離が短い場合(例えば、記録ヘッドが小型な場合)、液体噴射時に上流側から流れてくる液体が短時間で記録ヘッド内を通過するため、液体を十分に加熱することができない。このため、記録ヘッドより上流側に位置する流路部材にもヒーターを備えた構成の液体噴射ヘッドユニットが開発されつつある。しかしながら、このような液体噴射ヘッドユニットには、ヒーターを複数設けるため、構造が複雑になり、コストアップにもなっていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な構造で記録ヘッドより上流側の流路に熱を与えることができる液体噴射ヘッドユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、複数のノズルに連通する流路を備えた流路ユニットと、
該流路ユニットの前記流路に液体を供給する共通液体流路が形成され、前記流路ユニットが接合されたヘッドケースと、
該ヘッドケースの前記流路ユニット接合側とは反対側に接合され、前記共通液体流路に液体を供給する上流側流路を備えた流路部材と、
前記ヘッドケースの側面に装着される発熱可能なヒーターと、
該ヒーターに一部分が接合されると共に、他の部分が前記流路部材の一部と対向する金属板と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ヘッドケースに装着されるヒーターと、流路部材の一部と対向する金属板とが接合しているため、ヒーターの熱を金属板に伝えることができ、この金属板の熱を利用して流路部材の流路内の液体を加熱することができる。これにより、液体噴射ヘッド内の液体の温度をより安定化させることができる。その結果、液体噴射ヘッド内のインクの粘度ムラを抑えることができ、液体噴射ヘッドの信頼性を高めることができる。また、流路部材にヒーターを別途設ける必要が無いため、容易に製造することができ、製造コストを抑えることができる。
【0010】
上記構成において、前記金属板の外側において当該金属板を覆う断熱部材を備えた構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、断熱部材で覆った空間内の雰囲気を金属板の熱によってより効率的に温めることができ、保温性も高まるので、流路部材の温度のムラを抑制することができ、流路部材内の液体の温度を均一にすることができる。
【0011】
上記構成において、前記金属板の熱を、前記断熱部材によって覆われた空間内に放熱させる放熱部材を当該金属板に備えた構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、金属板の熱を雰囲気に伝え易くすることができ、断熱部材で覆った空間内の雰囲気をより温め易くすることができる。
【0012】
また、前記金属板は、前記流路部材と前記ヘッドケースの境界に対向する領域に少なくとも1つのスリットを開口した構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、スリットにより金属板のヘッドケース側から流路部材側への伝熱の仕方をコントロールすることができる。例えば、流路部材における温まり難い領域に対応する部分にはスリットを設けないことで当該領域に対して熱が伝わりやすくする一方で、流路部材において温まり易い領域に対応する部分にはスリットを設けることで当該領域に対して熱が伝わり難くすることができる。これにより、流路部材の温度のムラを抑制することができ、流路部材内の液体の温度をより均一にすることができる。
【0013】
上記構成において、前記金属板は、前記スリットを前記流路部材と前記ヘッドケースの境界に沿って複数列設し、該列設方向における中央部に開口したスリットの長さを、同方向における両端部に開口したスリットの長さよりも長くした構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、金属板において、比較的温まり難い両端部ではヘッドケース側から流路部材側への伝熱がされ易くなる一方、比較的温まり易い中央部ではヘッドケース側から流路部材側への伝熱が抑えられる。これにより、流路部材の温度のムラを抑制することができ、流路部材内の液体の温度をより均一にすることができる。
【0014】
また、前記各スリットは、当該各スリットの列設方向において前記共通液体流路の仮想延長線上から外れた位置にそれぞれ設けられた構成を採用することが望ましい。
この構成によれば、金属板において、共通液体流路に対向する部分ではヘッドケース側から流路部材側への伝熱がされ易くなる一方、共通液体流路に対向する以外の部分ではヘッドケース側から流路部材側へ伝熱が抑えられる。これにより、流路部材から共通液体流路側に供給される液体を積極的に温めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンターの斜視図である。
【図2】第1の実施形態における液体噴射ヘッドユニットの要部断面図である。
【図3】第1の実施形態における金属板、ヘッドカバー、および断熱部材を外した状態の液体噴射ヘッドユニットの正面図である。
【図4】第1の実施形態における断熱部材を外した状態の液体噴射ヘッドユニットの正面図である。
【図5】第2の実施形態における断熱部材を外した状態の液体噴射ヘッドユニットの正面図である。
【図6】第3の実施形態における断熱部材を外した状態の液体噴射ヘッドユニットの正面図である。
【図7】第4の実施形態における液体噴射ヘッドユニットの拡大断面図である。
【図8】第5の実施形態における液体噴射ヘッドユニットの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、液体噴射装置として、図1に示すインクジェット式記録装置1(以下、単にプリンターという)を例示する。
【0017】
プリンター1は、液体噴射ヘッドユニットの一種であるインクジェット式記録ヘッドユニット2(以下、単に記録ヘッドユニットという)が取り付けられると共に、記録ヘッドユニット2およびインクカートリッジ4が取り付けられるキャリッジ5と、記録ヘッドユニット2の下方に配設されたプラテン6と、記録ヘッドユニット2が搭載されたキャリッジ5を記録紙7(ノズル38から噴射された液体が着弾する着弾対象の一種)の紙幅方向に移動させるキャリッジ移動機構8と、紙幅方向に直交する方向である紙送り方向に記録紙7を搬送する紙送り機構9等を備えて概略構成されている。ここで、紙幅方向とは、主走査方向(記録ヘッドユニット2の往復移動方向)であり、紙送り方向とは、副走査方向(即ち、記録ヘッドユニット2の走査方向に直交する方向)である。
【0018】
キャリッジ5は、主走査方向に架設されたガイドロッド10に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構8の作動により、ガイドロッド10に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ5の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー11によって検出され、検出信号が位置情報として制御部(図示せず)に送信される。これにより、制御部はこのリニアエンコーダー11からの位置情報に基づいてキャリッジ5(記録ヘッドユニット2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッドユニット2による記録動作(噴射動作)等を制御することができる。
【0019】
記録ヘッドユニット2は、キャリッジ5の下部(記録動作時の記録紙7側)に取り付けられている。また、インク(液体の一種)を貯留したインクカートリッジ4は、キャリッジ5に対して着脱可能に取り付けられている。さらに、記録ヘッドユニット2は上部にインクを貯留するサブタンク13を有しており、このサブタンク13がインクカートリッジ4の内部と連通することで、インクカートリッジ4内のインクを記録ヘッドユニット2内に導入できるように構成されている。
【0020】
次に、記録ヘッドユニット2の構成について詳しく説明する。図2は記録ヘッドユニット2の要部断面図、図3は後述する金属板19、ヘッドカバー20、および断熱部材21を外した状態の記録ヘッドユニット2の正面図、図4は断熱部材21を外した状態(図3の状態の記録ヘッドユニット2に金属板19およびヘッドカバー20を取り付けた状態)の記録ヘッドユニット2の正面図である。本実施形態における記録ヘッドユニット2は、サブタンク13と、該サブタンク13の下部に接続される流路部材14と、該流路部材14の下部に接続部材15を介して接続されるインクジェット式記録ヘッド16(以下、単に記録ヘッドという)と、該記録ヘッド16の側面に装着されるヒーター17およびサーミスター18と、記録ヘッド16の下部を保護するヘッドカバー20と、ヒーター17の側面に接続される金属板19と、該金属板19の外側を覆う断熱部材21と、を備えて構成される。なお、本実施形態における記録ヘッドユニット2は、主走査方向と直交する断面(図2参照)において左右対称であるため、以下ではそのうちの一側の構成について説明し、当該一側の構成とは対称な他側の構成の説明については省略する。
【0021】
サブタンク13は、樹脂等により作製された中空箱体状の部材であり、上部に位置するインクカートリッジ4と液体導入針等(図示せず)を介して連通している。このため、インクカートリッジ4内のインクは、サブタンク13内に導入して貯留されている。また、サブタンク13の下部には、後述する流路部材14の循環流路24と連通する導出口22および導入口23が開口しており、導出口22を介してサブタンク13内のインクを流路部材14内に導入可能にすると共に、導入口23を介して流路部材14内のインクをサブタンク13内に導出可能にする。
【0022】
流路部材14は、サブタンク13の下部に接続される箱体状の部材であり、内部に形成される循環流路24と、該循環流路24の途中に取り付けられるポンプ25と、循環流路24の内部に装着されるフィルター26と、該フィルター26を挟んで循環流路24と連通する複数(本実施形態では、4本。図3参照。)の連通路27と、を備えている。循環流路24は、後述する金属板19と平行な面内をインクがサブタンクを介して循環可能に構成された流路である。この循環流路24は、サブタンク13の導出口22と連通し、該導出口22から下側(記録ヘッド16側)に延伸した供給流路24aと、該供給流路24aの下端部と連通し、下辺が後述するリザーバー29の長さと揃えられた幅広な流路であるフィルター装着部24bと、該フィルター装着部24bの上部と下端が連通し、上端がサブタンク13の導入口23と連通するクランク状の排出流路24cと、から構成される。また、本実施形態では、供給流路24aの上部にポンプ25を装着しており、このポンプ25の圧力によってインクを押し出すことで、インクの循環を可能としている。つまり、サブタンク13内のインクは、導出口22、供給流路24a、フィルター装着部24b、排出流路24c、導入口23を介して再びサブタンク13に導入することで、金属板19と平行な面内を循環する(図3の矢印の向きに循環する)。なお、このようなインクの循環は、記録ヘッド16が待機している時(記録動作をしていない時)等にポンプ25を駆動することで実行され、インクの増粘を抑制することができる。また、フィルター装着部24b内には、正面視においてフィルター装着部24bと略同じ形状のフィルター26が備えられている(図3参照)。このフィルター26は、例えば、金属をメッシュ状に細かく編み込んで形成されており、循環流路24側から連通路27側へ送るインクを濾過することができる。また、連通路27は、一端がフィルター26を介してフィルター装着部24bと流路部材14の内側で連通し、他端が後述する共通液体流路42と連通する流路である。そして、記録動作時において、循環流路24内のインクの一部は連通路27を介して記録ヘッド16側に送られる。なお、循環流路24および連通路27が本発明の上流側流路に相当する。
【0023】
次に記録ヘッド16の構成について詳しく説明する。本実施形態における記録ヘッド16は、圧電振動子31(圧力発生素子の一種)、固定板32、及び、フレキシブルケーブル33をユニット化した振動子ユニット34と、この振動子ユニット34を収納可能なヘッドケース35と、リザーバー29(共通インク室)から圧力発生室37を通りノズル38に至る一連の流路を形成する流路ユニット39と、を備えて構成される。
【0024】
ヘッドケース35は、例えば、エポキシ系樹脂などの樹脂により作製された中空箱体状の部材であり、上側に流路部材14が接続部材15を介して接合され、下側(流路部材14の接合側とは反対側)に流路ユニット39が接合されている。また、ヘッドケース35の内部には、共通液体流路42と収容空部40が形成されている。共通液体流路42は、上端側で接続部材15の接続流路41を介して流路部材14の連通路27と連通し、下端側で流路ユニット39のリザーバー29と連通している。本実施形態では、片側の側面側に4本の共通液体流路42を形成している(図3参照)。なお、接続部材15はエラストマー等で形成された可撓性を有するシール部材であり、共通液体流路42および連通路27は、この接続部材15の接続流路41によって液密状態で接続されている。また、収容空部40は、共通液体流路42より内側に形成されており、アクチュエーターの一種である振動子ユニット34を収容している。
【0025】
振動子ユニット34は、圧電振動子31、固定板32、及び、フレキシブルケーブル33から構成されている。詳しくは、圧電振動子31は縦方向に細長な部材であり、基材である圧電振動板を数十μm程度の極めて細い幅の櫛歯状に切り分けることで、複数形成される。この圧電振動子31は縦方向に伸縮可能な縦振動型の圧電振動子として構成されている。各圧電振動子31は、固定端部を固定板32上に接合することにより、自由端部を固定板32の先端縁よりも外側に突出させて所謂片持ち梁の状態で固定されている。そして、各圧電振動子31における自由端部の先端は、後述するように、それぞれ流路ユニット39におけるダイヤフラム部44を構成する島部45に接合される。また、フレキシブルケーブル33は、一端が固定板32とは反対側となる固定端部の側面で圧電振動子31と電気的に接続され、他端が制御基板43に接続されている。このフレキシブルケーブル33の表面には、制御用IC46が実装されている。この制御基板43および制御用IC46によって、各圧電振動子31の駆動等が制御される。さらに、各圧電振動子31を支持する固定板32は、圧電振動子31からの反力を受け止め得る剛性を備えた金属製の板材によって構成されており、本実施形態では、厚さが1mm程度のステンレス鋼板によって作製されている。
【0026】
次に、流路ユニット39について説明する。流路ユニット39は、図2に示すように、ノズルプレート47、流路形成基板48、及び振動板49から構成され、ノズルプレート47とは反対側でヘッドケース35に接合している。また流路ユニット39は、ノズルプレート47を流路形成基板48の一方の表面に、振動板49をノズルプレート47とは反対側となる流路形成基板48の他方の表面にそれぞれ配置して積層し、接着等により一体化することで形成される。
【0027】
ノズルプレート47は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル38を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。本実施形態では、例えば、180個のノズル38を列状に開設し、これらのノズル38によってノズル列を構成している。
【0028】
流路形成基板48は、リザーバー29、インク供給口53、及び圧力発生室37からなる一連のインク流路を形成する板状部材である。具体的には、この流路形成基板48は、各ノズル38に対応して連通する複数の圧力発生室37となる空部を隔壁で区画した状態で複数並べて形成すると共に、各圧力発生室37に対応する複数のインク供給口53およびリザーバー29となる空部を形成した板状の部材である。そして、本実施形態の流路形成基板48は、シリコンウェハーをエッチング処理することで作製されている。上記の圧力発生室37は、ノズル38の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成され、インク供給口53は、圧力発生室37とリザーバー29との間を連通する流路幅の狭い狭窄部として形成されている。また、リザーバー29は、共通液体流路42、接続流路41、連通路27、循環流路24を介して上部でサブタンク13と連通すると共に、インク供給口53を介して対応する各圧力発生室37に連通している。このため、リザーバー29はサブタンク13に貯留されたインクを各圧力発生室37に供給することができる。なお、リザーバー29、インク供給口53および圧力発生室37からなる一連の流路が本発明における流路に相当する。
【0029】
振動板49は、ステンレス鋼等の金属製の支持板55上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂フィルム56をラミネート加工した二重構造の複合板材であり、共通液体流路42の下端に対応する位置に上下方向に開口を貫通させて、共通液体流路42とリザーバー29を連通可能に構成している。また、振動板49は、圧力発生室37の一方の開口面を封止してこの圧力発生室37の容積を変動させるためのダイヤフラム部44を有すると共に、リザーバー29の一方の開口面を封止するコンプライアンス部57が形成されている。そして、ダイヤフラム部44は、圧力発生室37に対応した部分の支持板55にエッチング加工を施し、当該部分を環状に除去して圧電振動子31の自由端部の先端を接合するための島部45を複数形成することで構成されている。この島部45は、圧力発生室37の平面形状と同様に、ノズル38の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、この島部45の周りの樹脂フィルム56が弾性体膜として機能する。また、コンプライアンス部57として機能する部分、すなわちリザーバー29に対応する部分は、このリザーバー29の開口形状に倣って支持板55がエッチング加工で除去されて樹脂フィルム56のみとなっている。
【0030】
このように、上記島部45には圧電振動子31の先端面が接合されているので、この圧電振動子31の自由端部を伸縮させることで圧力発生室37の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力発生室37内のインクに圧力変動が生じる。この圧力変動を利用することで、記録ヘッド16はノズル38からインク滴を噴射(吐出)させている。
【0031】
そして、上記記録ヘッド16の側面には、ヒーター17およびサーミスター18が装着されている。詳しくは、ヒーター17は、複数の共通液体流路42と対向してヘッドケース35の側面の全面を覆うように、熱伝導率の高い(例えば、2(W・m−1・K−1)以上の)接着剤等(熱伝導性シリコン接着剤あるいは熱伝導性エポキシ接着剤等)を用いて装着されている。また、ヒーター17表面の中央部には、同様の接着剤等を用いてサーミスター18を装着している。本実施形態のヒーター17は、電熱線(ニッケル合金、ステンレス鋼等)をポリイミド樹脂等で挟み込んだシート状(フィルム状)に構成され、電熱線に電流を流すことによって発熱する。そして、このヒーター17の発熱によって、ヘッドケース35を介して共通液体流路42内のインクを加熱することができる。なお、サーミスター18は、ヒーター17の温度を測定する温度センサーであり、サーミスター18が読み取った温度情報に基づいて、ヒーター17の発熱量を調節することで、記録ヘッド16内のインクが所定の温度になるように調節している。また、図2に示すように、ヒーター17の外側の表面には後述する金属板19の下部を接着固定している。さらに、この金属板19と干渉しない位置であって、ヒーター17の外側の表面の下部にはヘッドカバー20の一部が当接している。
【0032】
ヘッドカバー20は、例えば金属製の薄板部材によって作製され、流路ユニット39の側面および底部を保護する保護部材である。このヘッドカバー20は、上端部がヒーター17に当接しており、該ヒーター17側(ヘッドケース35の側面側)からノズルプレート47側に略90度屈曲して、ノズルプレート47の端部に固定されている。このため、ヒーター17の熱がヘッドカバー20を介してノズルプレート47に伝えられ、ノズルプレート47が加熱される。これにより、流路ユニット39内のインクを温めることができる。なお、ヘッドカバー20はグランドに接続することで、ノズルプレート47の帯電を防止することができる。
【0033】
金属板19は、図2、図4に示すように、記録ヘッド16の幅と略同じ幅に形成された平板状の部材である。この金属板19は、一部分がヒーター17に接合される一方、他の部分が流路部材14の一部(主に循環流路24を封止する面)に対して非接触で対向する状態で、記録ヘッド16と流路部材14とに渡って配設されている。本実施形態では、金属板19の下端部がヒーター17の上下中央よりもやや下側に位置するように当該金属板19とヒーター17とを対向させて、熱伝導率の高い接着剤等を用いて両者を固定している。また、金属板19の上端部は、流路部材14の上端と略同じ高さに位置している。このため、循環流路24の大部分が金属板19と対向する。なお、金属板19のサーミスター18と対向する位置には、サーミスター18との干渉を避けるため、僅かに凹ませている。また、流路部材14と金属板19の間には、わずかな隙間を設けており、流路部材14と金属板19が接触しないように構成されている。
【0034】
さらに、本実施形態では、金属板19の外側において当該金属板19を覆う断熱部材21を備えている。この断熱部材21は、樹脂等の熱伝導率の低い部材で形成されており、記録ヘッド16および流路部材14の側面全体を囲繞して取り付けられている。詳しくは、断熱部材21は、金属板19との間に隙間を空けて金属板19と平行に配置されており、断熱部材21の上端部を流路部材14の上端部に対向する位置(供給流路24aまたは排出流路24cの上端部に対向する位置)で流路部材14側に屈曲させて該流路部材14と当接させている。また、断熱部材21の下端部は、流路ユニット39と対向する位置で流路ユニット39側に屈曲し、ヘッドカバー20に当接している。同様に、断熱部材21のノズル列方向の両端部も、それぞれ記録ヘッド16および流路部材14側に屈曲しており、これらに当接するように構成されている。このため、断熱部材21と金属板19およびヘッドカバー20の間に空気層が形成される。特に、流路部材14と対向する部分では、金属板19を挟んで両側に空気層が形成される。このように、断熱部材21により囲繞された内部の雰囲気(空気層)は外気と隔離されるので、当該雰囲気の温度が可及的に一定に保たれる。本実施形態では、ヒーター17の熱が金属板19に伝えられ、金属板19によって放熱されるため、空気層がヒーター17と略同じ温度に保持される。さらに、この空気層によって流路部材14が加熱されることで、循環流路24および連通路27内のインクを温めることができる。例えば、記録ヘッド16が記録動作を行っていない場合等において、循環流路24内のインクを循環させると共に、循環流路24内を温めることで、循環するインクの増粘をより抑制することができる。また、記録ヘッド16が記録動作を行う場合、流路部材14内で温められたインクが記録ヘッド16側に送られるため、記録ヘッド16内での加熱時間が短時間であったとしても所定の温度に加熱することができる。
【0035】
このように、ヘッドケース35に装着されるヒーター17と流路部材14と対向する金属板19とが接合しているため、ヒーター17の熱を金属板19に伝えることができ、この金属板19の熱を利用して流路部材14を加熱することができる。このため、ヘッドケース35側と流路部材14側との両方からインクが加熱されることとなり、インクの流速に拘わらずより確実にインクを温めることができる。これにより、記録ヘッド16内のインクの温度をより安定化させることができる。その結果、記録ヘッド16内のインクの粘度ムラを抑えることができ、記録ヘッド16の信頼性を高めることができる。また、流路部材14にヒーター17を別途設ける必要が無いため、容易に製造することができ、製造コストを抑えることができる。さらに、本実施形態では、断熱部材21で覆った空間内の雰囲気を金属板19の熱によって温めることができ、保温性も高まるので、流路部材14の温度のムラを抑制することができ、流路部材14内のインクの温度を均一にすることができる。そして、金属板19は、流路部材14に対して非接触で配置されるので、流路部材14内のインクが必要以上に加熱されることが防止される。
【0036】
ところで、金属板19により放熱する構成は、上記した第1の実施形態に限定されない。例えば、他の実施形態として、図5〜7に第2〜4の実施形態を示す。
【0037】
まず、第2の実施形態について説明する。図5に示す第2の実施形態の金属板19は、当該金属板19の厚さ方向を貫通したスリット(貫通開口部)58を流路部材14とヘッドケース35の境界に沿って複数列設している。そして、該列設方向(本実施形態においては、ノズル列方向)における中央部に開口したスリット58の同方向の長さを、同方向における両端部に開口したスリット58の長さよりも長くしている。詳しくは、スリット58は、流路部材14と記録ヘッド16を接続する接続部材15の厚みと略同じ幅のスリット58が、当該接続部材15と対向する位置に設けられている。本実施形態では、5つのスリット58が開口しており、中央部に位置する1つのスリット58の長さがもっとも長く形成されている。本実施形態においては、中央部のスリット58は、スリット列設方向に長尺な長穴となっている。また、中央部のスリット58の長さよりも短いスリット58が、中央部のスリット58の両隣に位置し、本実施形態においては、スリット列設方向に横長な楕円となっている。このスリット58よりもさらに長さの短いスリット58が、金属板19の両端部に位置している。つまり、金属板19の両端部に位置するスリット58の長さがもっとも短くなっており、本実施形態においては、略円形に形成されている。なお、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0038】
このように、金属板19にスリット58を複数設け、中央部に開口したスリット58の長さを、同方向における両端部に開口したスリット58の長さよりも長くしたので、熱が逃げやすく比較的温まりにくい金属板19の両端部ではヘッドケース35側から流路部材14側への伝熱がされ易くなる一方、比較的温まりやすい金属板19の中央部ではヘッドケース35側から流路部材14側へ伝熱が抑えられる。これにより、流路部材14の温度のムラを抑制することができ、流路部材14内のインクの温度をより均一にすることができる。
【0039】
第3の実施形態の金属板19では、図6に示すように、スリット58の列設方向において共通液体流路42の仮想延長線上から外れた位置にそれぞれ設けられている。なお、図6では、金属板19上における共通液体流路42の仮想延長線Sを一点鎖線で図示している。また、本実施形態の共通液体流路42は、ヘッドケース35の片側の側面に4本設けられており、これらに対応して、4本の仮想延長線Sが図示されている。そして、金属板19のスリット58は、流路部材14とヘッドケース35の境界に沿って複数列設すると共に、各共通液体流路42の仮想延長線S上の間に設けられている。本実施形態では、4本の仮想延長線Sに対応して大きさの等しい3つのスリット58を設けている。なお、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0040】
ところで、金属板19のヒーター17と対向する領域のうち共通液体流路42と対向する領域は、共通液体流路42内のインクによってヒーター17の熱が奪われるため、当該領域以外の領域と比べて温度が低くなる傾向がある。このような場合、上記のように、金属板19にスリット58を複数列設し、各スリット58を共通液体流路42の仮想延長線上Sから外れた位置にそれぞれ設けたので、金属板19において、共通液体流路42に対向する領域ではヘッドケース35側から流路部材側への伝熱がされ易くなる一方、共通液体流路42に対向する以外の領域ではヘッドケース35側から流路部材24側への伝熱が抑えられる。これにより、流路部材24から共通液体流路42側に供給されるインク(即ち、連通路27を通過するインク)を積極的に温めることができる。
【0041】
なお、金属板19に設けるスリット58は複数である必要はなく、1つだけでも良い。要は、金属板19は、前記流路部材14と前記ヘッドケース35の境界に対向する領域に少なくとも1つのスリット58を設ければ良い。このようにスリット58を設けることで、金属板19のヘッドケース35側から流路部材14側への伝熱をスリット58によって遮ることができ、金属板19における伝熱の仕方をコントロールすることができる。例えば、流路部材14における温まり難い領域(熱が逃げやすい領域)に対応する部分にはスリット58を設けないことで当該領域に対して熱が伝わりやすくする一方で、流路部材14における温まり易い領域に対応する部分にはスリット58を設けることで当該領域に対して熱が伝わり難くすることができる。これにより、流路部材14の温度のムラを抑制することができ、流路部材14内のインクの温度をより均一にすることができる。
【0042】
第4の実施形態の金属板19では、図7に示すように、金属板19の熱を断熱部材21によって覆われた空間内(空気層)に積極的に放熱させる放熱部材59を当該金属板19に備えている。詳しくは、放熱部材59は、金属板19の断熱部材21側の表面に取り付けると共に、断熱部材21との間に隙間を設けて保持されている。また放熱部材59は、金属等により構成された放熱し易い部材(ヒートシンク)であり、本実施形態における放熱部材59には、フィンが複数形成されている。このフィンによって空気層との接触面積を増やし、放熱し易くしている。なお、本実施形態では、放熱部材59を金属板19の流路部材14と対向する領域に配置しているが、これに限らず、金属板19の全面に配置しても良い。また、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0043】
このように、放熱部材59を金属板19に備えたので、金属板19の熱を雰囲気に伝え易くすることができ、断熱部材21で覆った空間内の雰囲気をより温め易くすることができる。これにより、流路部材14の温度のムラをより抑制することができ、流路部材14内のインクの温度をより均一にすることができる。
【0044】
ところで、流路部材14内の循環流路24の構成は、上記した各実施形態に限定されない。例えば、図8に第5の実施形態を示す。第5の実施形態の循環流路24は金属板19と直交する面内に設けられ、1つの共通液体流路42に対し1つの循環流路24が設けてある。具体的には、金属板19と直交する面内において、サブタンク13は導出口22および導入口23を並べて開口している。また、循環流路24は、金属板19と直交する面内において、サブタンク13の導出口22と連通し、該導出口22から下側に延伸した供給流路24aと、該供給流路24aの下端部と連通し、供給流路24aと直交する方向に延伸したフィルター装着部24bと、該フィルター装着部24bの供給流路24aとは反対側の端部と下端が連通し、上端がサブタンク13の導入口23と連通するクランク状の排出流路24cと、から構成される。そして、供給流路24aの上部に装着されたポンプ25によって、サブタンク13のインクは導出口22、供給流路24a、フィルター装着部24b、排出流路24c、導入口23を介して再びサブタンク13に導入することで、金属板19と直交する面内を循環する(図8の矢印の向きに循環する)。また、フィルター26は、フィルター装着部24bの底部に装着されている。さらに、共通液体流路42と連通する連通路27は、フィルター26を介してフィルター装着部24bの底部に連通している。そして、このような循環流路24および連通路27は共通液体流路42ごとに形成されている。なお、各循環流路24および連通路27が本発明の上流側流路に相当する。また、その他の構成は、第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0045】
このように、流路部材14内に複数の循環流路が構成されていたとしても、金属板19の熱によって断熱部材21で覆った空間内の雰囲気を温め、さらに雰囲気を介して流路部材14の各流路を温めることができる。これにより、流路部材14の複数の流路をムラなく温めることができ、各流路内のインクの温度を揃えることができるため、記録ヘッド内の温度のムラを抑えることができる。
【0046】
また、上記各実施形態では、上流側流路として、循環する流路を例示したが、これには限られない。例えば、サブタンクと記録ヘッドを循環しない一方向の流路で接続する場合にも本発明を適用することが可能である。この場合、サブタンクを設けず、インクカートリッジと記録ヘッドを直接接続する構成とすることもできる。また、インクカートリッジをキャリッジ外(プリンターのフレーム側等)に設けても良い(いわゆる、オフキャリッジタイプ)。この場合、インクカートリッジとサブキャリッジをチューブ等で接続することで、インクカートリッジ内のインクをサブキャリッジ側に送る。さらに、金属板が対向する流路部材よりもさらに上流側の流路にインクを加熱する機構を設けることも可能である。この場合、流路部材内にはすでに加熱されているインクが流入するため、本発明の構成は流路部材内のインクを保温する機構として機能する。
【0047】
さらに、上記実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動モードの圧電振動子を例示したが、これには限られない。例えば、所謂撓み振動モードの圧電振動子や発熱素子を用いる場合にも本発明を適用することが可能である。
【0048】
そして、本発明は、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…プリンター,2…記録ヘッドユニット,13…サブタンク,14…流路部材,16…記録ヘッド,17…ヒーター,19…金属板,20…ヘッドカバー,21…断熱部材,24…循環流路,34…振動子ユニット,35…ヘッドケース,38…ノズル,39…流路ユニット,42…共通液体流路,58…スリット,59…放熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルに連通する流路を備えた流路ユニットと、
該流路ユニットの前記流路に液体を供給する共通液体流路が形成され、前記流路ユニットが接合されたヘッドケースと、
該ヘッドケースの前記流路ユニット接合側とは反対側に接合され、前記共通液体流路に液体を供給する上流側流路を備えた流路部材と、
前記ヘッドケースの側面に装着される発熱可能なヒーターと、
該ヒーターに一部分が接合されると共に、他の部分が前記流路部材の一部と対向する金属板と、を備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項2】
前記金属板の外側において当該金属板を覆う断熱部材を備えたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドユニット。
【請求項3】
前記金属板の熱を、前記断熱部材によって覆われた空間内に放熱させる放熱部材を当該金属板に備えたことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッドユニット。
【請求項4】
前記金属板は、前記流路部材と前記ヘッドケースの境界に対向する領域に少なくとも1つのスリットを開口したことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドユニット。
【請求項5】
前記金属板は、前記スリットを前記流路部材と前記ヘッドケースの境界に沿って複数列設し、該列設方向における中央部に開口したスリットの長さを、同方向における両端部に開口したスリットの長さよりも長くしたことを特徴とする請求項4に記載の液体噴射ヘッドユニット。
【請求項6】
前記各スリットは、当該各スリットの列設方向において前記共通液体流路の仮想延長線上から外れた位置にそれぞれ設けられたことを特徴とする請求項4に記載の液体噴射ヘッドユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−66425(P2012−66425A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211697(P2010−211697)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】