説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】各圧力発生室に対応する振動板の変位量を均一化することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液滴を噴射するノズル21に連通する圧力発生室12が設けられたシリコン基板からなる流路形成基板10と、流路形成基板10上に設けられて圧力発生室12の一方面を構成する振動板と、振動板を変位させて圧力発生室12内に圧力を付与する圧力発生手段300とを具備すると共に、振動板が、圧力発生室12に対向する領域のシリコン基板に不純物がドープされてなる拡散層55を含み、振動板の変形に伴う拡散層55の抵抗値の変化を検出する検出手段202と、検出手段202の検出結果に基づいて圧力発生手段300に印加する駆動電圧を調整する調整手段203とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッド及びそれを具備する液体噴射装置に関し、特に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例であるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズルに連通するインク室(圧力発生室)が設けられた単結晶珪素基板(流路形成基板)と、この単結晶珪素基板の一方面側に振動板を介して設けられた圧力発生手段である圧電体素子(圧電素子)とを具備するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドでは、複数の圧力発生室が並設されており、各圧力発生室に対応する複数の圧電素子が設けられている。そして、各圧電素子に一定の電圧を印加し、圧電素子と共に振動板を変位させることで圧力発生室に圧力を付与してノズルからインク滴を噴射している。
【0004】
【特許文献1】特開平9−254386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、各圧電素子に一定の電圧を印加しても、各圧力発生室に対応する振動板の変位量にバラツキが生じてしまうという問題がある。すなわち、各ノズルからのインク滴の噴射量にバラツキが生じてしまうという問題がある。
【0006】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の他の液滴を噴射する他の液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、各圧力発生室に対応する振動板の変位量を均一化することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、液滴を噴射するノズルに連通する圧力発生室が設けられたシリコン基板からなる流路形成基板と、該流路形成基板上に設けられて前記圧力発生室の一方面を構成する振動板と、前記振動板を変位させて前記圧力発生室内に圧力を付与する圧力発生手段とを具備し、前記振動板が、シリコン基板に不純物がドープされてなり前記圧力発生室に対向する領域に設けられた拡散層を含むと共に、前記振動板の変形に伴う前記拡散層の抵抗値の変化を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて前記圧力発生手段に印加する駆動電圧を調整する調整手段とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる本発明では、拡散層を設けると共に、振動板の変位に伴う拡散層の抵抗値の変化を検出するようにした。拡散層の抵抗値は、拡散層を変形させて応力を変化させることによって増減するため、振動板の変形に伴う拡散層の抵抗値の変化を検出することで、圧電素子の駆動による振動板の変位量を取得することができる。そして、この検出手段の検出結果に応じて圧電素子に印加する電圧を調整するようにしたので、各圧力発生室を構成する振動板の変位量を均一化することができる。よって、各ノズルから噴射される液滴の噴射特性を均一化することができる。
【0009】
ここで、前記拡散層は、前記圧路力発生室の長手方向に沿って設けられていることが好ましい。特に、前記拡散層が、前記圧力発生室の幅方向中央部に配されていることが好ましい。これにより、圧電素子の変位に伴う拡散層の変位量が比較的大きくなり、抵抗値の変化量も比較的大きくなる。したがって、検出手段によって、拡散層の抵抗値の変化を比較的容易に検出することができる。
【0010】
また前記拡散層は、前記圧力発生室に対向する領域から当該圧力発生室の外側まで延設され、当該拡散層の前記圧力発生室の外側の部分に前記検出手段が接続されていることが好ましい。これにより、拡散層の検出手段が接続される部分は、圧電素子を駆動した際にも変形することがなく、接触不良等の問題の発生を未然に防止でき、検出手段によって拡散層の抵抗値の変化を常に良好に検出することができる。
【0011】
また前記振動板が、絶縁材料からなる複数層の絶縁層を含む場合、前記拡散層が前記絶縁層間に設けられていることが好ましい。これにより、各圧力発生室に対応する拡散層のそれぞれがこれら絶縁層によって絶縁される。したがって、検出手段によって各拡散層の抵抗値の変化をより正確に検出することができる。
【0012】
また前記振動板が、シリコン基板を熱酸化することによって形成される弾性膜を含む場合、前記拡散層は、前記弾性膜の前記圧力発生室側に設けられていてもよい。これにより、拡散層を比較的容易に形成することができるため、製造コストを低く抑えることができる。
【0013】
また前記圧力発生手段が、圧電材料からなる圧電体層を有する圧電素子である場合には、振動板の変位が比較的大きいため、拡散層を設けた本発明の構成は特に有効である。
【0014】
さらに、本発明は、上述したような液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる本発明では、液滴の噴射特性が均一化されるため、信頼性を向上した液体噴射装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、その平面図であり、図3は、図2のA−A′断面図及びB−B′断面図であり、図4は、制御ブロックを示す概略図である。
【0016】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では結晶面方位が(110)であるシリコン単結晶基板(シリコン基板)からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に並設されている。
【0017】
また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、隔壁11によって区画され各圧力発生室12に連通するインク供給路13と連通路14とが設けられている。さらに、連通路14の外側には、各連通路14と連通する連通部15が設けられている。この連通部15は、後述するリザーバ形成基板30のリザーバ部31と連通して、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する。
【0018】
ここで、インク供給路13は、圧力発生室12よりも狭い断面積となるように形成されており、連通部15から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。例えば、本実施形態では、インク供給路13は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また各連通路14は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部15側に延設してインク供給路13と連通部15との間の空間を区画することで形成されている。
【0019】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えばガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などで形成されている。
【0020】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜51が形成されている。また詳しくは後述するが、本実施形態では、弾性膜50と絶縁体膜51との間には、シリコン基板に不純物がドープされてなる拡散層55が各圧力発生室12に対応して設けられている。
【0021】
絶縁体膜51上には、下電極膜60と、圧電体層70と、上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。一般的には、圧電素子300は、その何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングすることによって形成されている。例えば、本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電体層70と共にパターニングして圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
【0022】
なお、圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有するリザーバ形成基板30が接着剤によって接合されている。リザーバ部31は、リザーバ形成基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部15と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0023】
また、リザーバ形成基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0024】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、各圧力発生室12に対応する圧電素子300の圧電体層70をたわみ変形させ、それに伴って振動板を変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が噴射する。なお振動板とは、圧電体層70の下側に設けられて圧電素子300に電圧を印加した際に圧電体層70と共に変形が生じる全ての膜を含む。例えば、本実施形態では、弾性膜50、絶縁体膜51、下電極膜60及び拡散層55が振動板に含まれる。
【0025】
ここで、圧電素子300は、長期間に亘って繰り返し駆動させていると、その変形が完全には元に戻らなくなる現象(エージング)が生じ、これに伴って振動板の変位量も減少する。このため、各圧電素子300に常に一定の電圧を印加していると、各圧力発生室12のノズル21から噴射されるインク滴の噴射特性(噴射量など)にバラツキが生じてしまう。そこで、本発明では、所定のタイミングで拡散層55の抵抗値の変化を検出、つまり振動板の変位量の変化を検出し、その検出結果に応じて各圧電素子300に印加する電圧を調整することで、各ノズル21から噴射されるインク滴の噴射特性を均一化するようにしている。
【0026】
振動板を構成する拡散層55は、シリコン基板に不純物(ドーパント)をドープすることによって形成されており、例えば、本実施形態では、ドーパントとしてボロンが用いられている。また拡散層55は、各圧力発生室12に対応してそれぞれ独立して設けられており、本実施形態では、絶縁材料からなる絶縁層である弾性膜50及び絶縁体膜51によって隣接する拡散層55と絶縁されている。また、図2及び図3(b)に示すように、拡散層55は圧電素子300の幅よりも狭い幅で、圧力発生室12の幅方向中央部にその長手方向に沿って形成されている。拡散層55の両端部は、圧力発生室12の外側までそれぞれ延設されている。
【0027】
この拡散層55は、比較的薄く形成されていることが好ましく、例えば、弾性膜50が1.0μm程度である場合、拡散層は0.5μm以下であることが好ましい。これにより、振動板の変位に伴う拡散層へのクラックの発生を確実に防止することができる。
【0028】
このような拡散層55は、圧力発生室12の外側の部分で、圧電素子300の駆動を制御する制御部200に接続されている。圧力発生室12の外側の領域の絶縁体膜51には、拡散層55に対向する部分に微細孔(トレンチ)52が形成されており、図4に示すように、拡散層55はこの微細孔52内に配された接続配線56を介して制御部200の検出手段202に接続されている。
【0029】
圧電素子300の駆動を制御する制御部200は、駆動手段201と、検出手段202と調整手段203とを具備する。駆動手段201は、外部からの印刷信号に基づいて圧電素子300に電圧を印加し、圧電素子300を選択的に駆動させることで印刷動作を実行する。検出手段202は、所定のタイミングで、圧電素子300の駆動に伴う拡散層55の抵抗値の変化を検出する。本実施形態では、圧電素子300の駆動前後に拡散層55の抵抗値を測定することで、拡散層55の抵抗値の変化量を検出している。
【0030】
調整手段203は、検出手段202の検出結果に応じて各圧電素子300に印加される電圧を調整する。すなわち、圧電素子300を駆動した際に、各圧力発生室12を構成する振動板の変位量が略均一となるように各圧電素子300に印加される電圧を調整する。
【0031】
シリコン基板にボロンがドープされた拡散層55は、その応力変化に伴って抵抗値が変化するため、検出手段202によって圧電素子300の駆動に伴う拡散層55の抵抗値の変化を検出することで、各圧力発生室12に対応する振動板の変位量を検出することができる。そして、このように検出手段202が検出した検出結果に基づいて、調整手段203が各圧電素子に印加される電圧を調整し、駆動手段201が調整された所定電圧を各圧電素子300に印加して圧電素子300を変形させる。
【0032】
これにより、圧電素子300の駆動に伴う各圧力発生室12に対応する振動板の変位量が均一化される。したがって、各圧力発生室12に連通するノズル21から噴射されるインク滴の吐出特性を均一化して、印刷品質を向上することができる。また、本実施形態では、圧力発生室12の外側の領域、すなわち圧電素子300の駆動によって振動板が振動しない領域で、接続配線56が拡散層55に接続されている。したがって、圧電素子300の繰り返し駆動によっても、接続配線56と拡散層55との接触不良も未然に防止することができる。
【0033】
なお、調整手段203による駆動電圧の調整方法は特に限定されないが、例えば、拡散層55の抵抗値の変化量が予め設定された基準値となるように駆動電圧を高く調整する。また圧電素子300に印加される電圧が一旦調整されると、検出手段202による拡散層55の抵抗値の検出が次に行われるまでは、駆動手段201は各圧電素子300に一定の電圧を印加する。
【0034】
また本実施形態では、拡散層55を圧力発生室12の幅方向中央部にその長手方向に沿って形成するようにしたが、拡散層55の形成位置は特に限定されるものではない。例えば、図5(a)に示すように、拡散層55は、圧力発生室12の幅方向一方の端部に対向する領域に形成するようにしてもよい。圧力発生室12の幅方向端部に対向する領域の振動板は、圧電素子300の駆動によって比較的大きく変形するため、この部分に拡散層55を設けた場合でも、検出手段202は拡散層55の抵抗値の変化を比較的容易に検出することができる。
【0035】
さらに拡散層55は、図5(b)に示すように圧力発生室12の幅方向に沿って延設するようにしてもよいし、図5(c)に示すように圧力発生室12に対して斜め方向に延設するようにしてもよい。拡散層55の抵抗値の変化量は、シリコン基板の結晶面方位によって変化するため、その点を考慮して拡散層55の形成位置を決定する必要がある。しかしながら、何れの構成としても、拡散層55の抵抗値の変化は検出手段202によって確実に検出することができる。
【0036】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法を、図6及び図7を参照して説明する。なお図6及び図7は、インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す図であり、圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0037】
また以下に説明する例は、二酸化シリコンからなる絶縁層401の両側に単結晶シリコンからなるシリコン層402,403を有するSOI基板400を用いてヘッドを製造した例であり、このSOI基板400の一方のシリコン層(第1のシリコン層)401を流路形成基板10として利用している。
【0038】
具体的には、まず、図6(a)に示すように、SOI基板400の流路形成基板10となる第1のシリコン層402とは反対側の第2のシリコン層403上の全面に、例えば、窒化シリコン等からなる保護膜410を形成し、この保護膜410をパターニングして拡散層55を形成する領域のみに残す。
【0039】
次いで、図6(b)に示すように、保護膜410が形成された状態でSOI基板400の表面を熱酸化することによって弾性膜50を形成する。すなわち、第2のシリコン層403には、保護膜410が形成された部分を除いて熱酸化されて二酸化シリコン層420が形成され、この二酸化シリコン層420と絶縁層401とが連続することで弾性膜50が形成される。なお、保護膜410が形成された部分の第2のシリコン層403は熱酸化されずに残る。
【0040】
次に、図6(c)に示すように、保護膜410を除去し、熱酸化されずに残った第2のシリコン層403に、イオン注入によりボロンをドープすることで拡散層55を形成する。なお、第2のシリコン層403にボロンをドープした後、この第2のシリコン層403を、例えば、950〜1050℃で熱処理することが好ましい。これにより、第2のシリコン層403にドープされたボロン(ドーパント)が活性化して拡散層55が良好に形成される。
【0041】
またドーパントとしては、ボロン(B)を用いることが好ましいが、例えば、ヒ素(As)や、リン(P)等を用いてもよい。ドーズ量は、第2のシリコン層403の結晶がアモルファス化しない程度とする必要があるが、ピーク濃度が1.0×1019(atoms/cm3)以上であることが好ましい。
【0042】
次に、図6(d)に示すように、弾性膜50及び拡散層55上に絶縁体膜51を形成する。具体的には、弾性膜50及び拡散層55上にスパッタリング法等によりジルコニウム層を形成後、このジルコニウム層を所定温度で熱酸化することによって酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜51を形成する。
【0043】
次いで、図7(a)に示すように、絶縁体膜51上に、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を順次積層及びパターニングすることによって圧電素子300を形成する。
【0044】
なお、圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料の他、この圧電材料に、ニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。その組成は、圧電素子の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1-x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/3Ta2/3)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。また、圧電体層70の形成方法は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。勿論、圧電体層70の形成方法は、ゾル−ゲル法に限定されるものではなく、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法、スパッタリング法又はレーザーアブレーション法等のPVD(Physical Vapor Deposition)法等を用いてもよい。
【0045】
次いで、図7(b)に示すように、拡散層55の両端部に対向する領域の絶縁体膜51に、微細孔(トレンチ)52を形成し、この微細孔52内で一端側が制御部200の検出手段202に繋がる接続配線56を拡散層55に接続する。
【0046】
その後は、図示しないがSOI基板400の表面、すなわち流路形成基板10である第1のシリコン層402とは反対側の面にリザーバ形成基板30を接合し、例えば、KOH等のアルカリ溶液を用いて、流路形成基板10である第1のシリコン層402を弾性膜50に達するまで異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、図7(c)に示すように圧力発生室12等の流路を形成する。また圧力発生室12が形成された流路形成基板10にノズルプレート20を接合することによってインクジェット式記録ヘッドが製造される(図2参照)。
【0047】
なお、実際には、流路形成基板10は、一枚のウェハに複数個一体的に形成され、そのウェハを最終的に分割することによって複数のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0048】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図である。本実施形態は、拡散層の形状を変更した例である。具体的には、図8に示すように、拡散層55Aが、圧力発生室12の開口形状と略同一形状で形成されている以外は、実施形態1と同様である。
【0049】
このような構成としても、拡散層55Aの抵抗値の変化を検出し、その検出結果に応じて圧電素子300に印加する電圧を調整することで、振動板の変位量を均一化してインク滴の噴射特性を均一化することができる。
【0050】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、特に限定されず、実施形態1と同様の製造方法によって形成することもできるが、圧電素子300を形成する前に圧力発生室12を形成できる場合には、例えば、以下に説明する製造方法で製造するようにしてもよい。なお、図9は、本発明の実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す図であり、圧力発生室の幅方向の断面図である。
【0051】
まず、図9(a)に示すように、シリコン基板である流路形成基板10の一方の表面に、窒化シリコン等からなる保護膜410Aを形成する。この保護膜410Aは、流路形成基板10の各圧力発生室12が形成される領域を覆うように形成する。そして、保護膜410Aが形成された状態で流路形成基板10を熱酸化して、流路形成基板10の表面に弾性膜50となる二酸化シリコン膜57を形成する。
【0052】
次いで、図9(b)に示すように、流路形成基板10の他方面に形成されている二酸化シリコン膜57をパターニングし、この二酸化シリコン膜57をマスクとして流路形成基板10を異方性エッチングすることで、流路形成基板10に凹部120を形成する。このとき、エッチング時間を制御することで、凹部120の底面が二酸化シリコン膜57との境界面と略一致するように、凹部120を所定の深さで形成する。またこの凹部120は、圧力発生室12よりも若干狭い幅及び長さで形成する。
【0053】
次いで、流路形成基板10の他方面側の二酸化シリコン膜57を除去した後、図9(c)に示すように、流路形成基板10を再び熱酸化して凹部120の内面に二酸化シリコン膜58を形成する。このとき凹部120の底面部分に形成される二酸化シリコン膜58が、上述した工程で形成された二酸化シリコン膜57と連続することで弾性膜50が形成される。なお二酸化シリコン膜58の外側で保護膜410Aが形成されている部分の流路形成基板10aは熱酸化されずに残る。
【0054】
次いで、図9(d)に示すように、保護膜410Aを除去すると共に、凹部120の底面部分、つまり弾性膜50を構成する部分を除いて二酸化シリコン膜58を除去する。凹部120の側面部分の二酸化シリコン膜58が除去された結果、凹部120の幅及び長さが若干広がって所定幅及び長さの圧力発生室12が形成される。このように本実施形態では、凹部120の側面の二酸化シリコン膜58を除去することによって圧力発生室12を形成するため、凹部120の幅及び長さは、熱酸化により形成する二酸化シリコン膜58の厚さに応じて適宜決定しておく必要がある。
【0055】
その後、弾性膜50上に酸化されずに残っている流路形成基板10aに、イオン注入によりボロンをドープして拡散層55Aを形成する。またこのように弾性膜50及び拡散層55Aを形成した後は、上述したように絶縁体膜51及び圧電素子300の各層を形成する。
【0056】
このような製造方法を採用することにより、SOI基板を用いなくてもインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。したがって、製造コストを低減することができ、比較的安価にインクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
【0057】
(実施形態3)
図10は、実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図である。本実施形態は、拡散層の変形例である。上述した実施形態では、拡散層55が弾性膜50と絶縁体膜51との間に設けられていたが、本実施形態は、図10に示すように、拡散層55Bを、弾性膜50よりも圧力発生室12側に形成するようにした例であり、それ以外の構成は、実施形態2と同様である。
【0058】
勿論、このような構成としても、拡散層55Bの抵抗値の変化を検出し、その検出結果に応じて圧電素子300に印加する電圧を調整することで、振動板の変位量を均一化してインク滴の噴射特性を均一化することができる。
【0059】
なお、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下のような製造方法によって製造することができる。図11は、本発明の実施形態3に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す図であり、圧力発生室の幅方向の断面図である。
【0060】
まず、図11(a)に示すように、シリコン基板である流路形成基板10を熱酸化することにより、その表面に弾性膜50となる二酸化シリコン膜57を形成する。次いで、図11(b)に示すように、流路形成基板10の他方面に形成されている二酸化シリコン膜57をパターニングし、この二酸化シリコン膜57をマスクとして流路形成基板10を異方性エッチングすることで、流路形成基板10に圧力発生室12を形成する。このとき、二酸化シリコン膜57(弾性膜50)に達するまでエッチングすることなく、エッチング時間を制御することで、圧力発生室12の底面部分に所定の厚さで流路形成基板10が残るようにする。
【0061】
次いで、図11(c)に示すように、圧力発生室12の開口側から、圧力発生室12の底面部分の流路形成基板10に、イオン注入によりボロンをドープすることで拡散層55Bを形成する。これにより、弾性膜50の圧力発生室12側に拡散層55Bが形成される。なお、その後は、実施形態1で説明したように絶縁体膜51及び圧電素子300の各層を形成すればよい。
【0062】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、勿論、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、検出手段202が拡散層55の抵抗値を検出するようにしたが、必ずしも抵抗値自体を測定する必要はなく、例えば、拡散層55の電流値を測定し、その測定結果から抵抗値の変化を算出するようにしてもよい。また例えば、上述の実施形態では、ヘッドの製造過程において拡散層55を形成、つまり不純物をドープするようにしたが、SOI基板、或いはシリコン基板を形成する際に、予め所定部分に不純物をドープしておいてもよい。
【0063】
また、本実施形態では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、薄膜型の圧電素子300を例示したが、圧力発生手段は特に限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のアクチュエータ装置や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型のアクチュエータ装置などを使用することができる。また、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエータなどを使用することができる。
【0064】
なお、このようなインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図12は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図12に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0065】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0066】
なお、上述した例では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの制御ブロックを示す図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの変形例を示す平面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る記録ヘッドの断面図である。
【図9】本発明の実施形態2に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図10】本発明の実施形態3に係る記録ヘッドの断面図である。
【図11】本発明の実施形態3に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係る記録装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0068】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 リザーバ形成基板、 31 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 51 絶縁体膜、 55 拡散層、 56 接続配線、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、100 リザーバ、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射するノズルに連通する圧力発生室が設けられたシリコン基板からなる流路形成基板と、該流路形成基板上に設けられて前記圧力発生室の一方面を構成する振動板と、前記振動板を変位させて前記圧力発生室内に圧力を付与する圧力発生手段とを具備し、
前記振動板が、シリコン基板に不純物がドープされてなり前記圧力発生室に対向する領域に設けられた拡散層を含むと共に、
前記振動板の変形に伴う前記拡散層の抵抗値の変化を検出する検出手段と、該検出手段の検出結果に基づいて前記圧力発生手段に印加する駆動電圧を調整する調整手段とを有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記拡散層が、前記圧路力発生室の長手方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記拡散層が、前記圧力発生室の幅方向中央部に配されていることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記拡散層が、前記圧力発生室に対向する領域から当該圧力発生室の外側まで延設され、当該拡散層の前記圧力発生室の外側の部分に前記検出手段が接続されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記振動板が、絶縁材料からなる複数層の絶縁層を含み、前記拡散層が前記絶縁層間に設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記振動板が、シリコン基板を熱酸化することによって形成される弾性膜を含み、前記拡散層が、前記弾性膜の前記圧力発生室側に設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記圧力発生手段が、圧電材料からなる圧電体層を有する圧電素子であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−137132(P2009−137132A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315183(P2007−315183)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】