説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】 変位特性を向上した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的と
する。
【解決手段】
共通電極60は、複数のスリットにより分割され圧力発生室12に対応する領域に設け
られる複数の個別部61と、これらの個別部の一端部側を繋ぐ基体部62と、を備え、個
別部61の基体部62側が平面視において幅が漸大し、且つ共通電極60は、個別部61
に設けられる薄膜部64と、基体部62に設けられる厚膜部65と、を備え、薄膜部64
と厚膜部65の間において薄膜部64から厚膜部65に向かって膜厚が漸大している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液滴を吐出する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特
に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録
装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例としては、例えば、インク滴を吐出するノズル開口と連通する
圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室
のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド等
がある。また、インクジェット式記録ヘッドに搭載される圧電素子としては、例えば、振
動板の表面全体に亘って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリ
ソグラフィー法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて圧力発生室毎に独立するよ
うに圧電素子を形成したものがある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、複数
の圧電素子の個別電極及び共通電極を各圧電素子毎に櫛歯状に設けていることで、圧電体
層の変位量を確保することができ、高い吐出特性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3379106号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような液体噴射ヘッドでは、印刷品質を向上するために、圧電素子の高密度化が望
まれている。高密度化を図ろうとすると、これに伴って圧電素子を小型化する必要があり
、小型化した圧電素子では十分な変位量が確保できないことが問題となる。
【0005】
しかしながら、変位量を確保するために電極を薄膜化すると、電気抵抗値が上昇し、電
圧降下が発生して圧電素子を均一な変位量で変形させることができないという問題があっ
た。特に、これにより、圧電素子を選択的に駆動する場合と、全ての圧電素子を同時に駆
動する場合とで、電圧降下によって吐出特性にばらつきが発生してしまうことが問題とな
っていた。
【0006】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液
体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、変位特性を向上した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置
を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室
と、該圧力発生室に圧力変化を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる圧電アク
チュエーターと、を具備し、前記圧電アクチュエーターは、圧力発生室に対応するように
独立して設けられる個別電極と、複数の該圧電アクチュエーターに共通する共通電極と、
前記共通電極及び前記個別電極間に設けられた圧電体層と、を有し、前記共通電極は、複
数のスリットにより分割され前記圧力発生室に対応する領域に設けられる複数の個別部と
、これらの個別部の少なくとも一端部側を繋ぐ基体部と、を備え、前記個別部の基体部側
が平面視において幅が漸大し、且つ前記共通電極は、前記個別部に設けられる薄膜部と、
前記基体部に設けられる厚膜部と、を備え、前記薄膜部と前記厚膜部の間において前記薄
膜部から前記厚膜部に向かって膜厚が漸大していることを特徴とする液体噴射ヘッドにあ
る。
かかる態様では、共通電極の基体部の膜厚が厚いことにより、電気抵抗値を下げて電圧
降下を抑制することができ、また、共通電極の個別部の膜厚が薄いことにより、圧電アク
チュエーターの変位量を向上させることができる。これにより、電圧降下による変位量の
ばらつきを抑制することができると共に変位量を向上させることができ、変位特性を向上
させることができる。さらに、個別部と基体部との接続部分では、個別部側から基体部側
に向かって膜厚が漸大し、また、個別部の基体部側は平面視において幅が漸大しているこ
とにより、個別部と基体部との接続部分近傍への応力集中を抑制することができ、共通電
極におけるクラックの発生を抑制することができる。これにより、共通電極のクラックの
発生による断線を抑制して耐久性を向上させることができる。
【0009】
本発明の好適な実施態様としては、前記共通電極は、複数の個別部の一端部側のみが基
体部により繋がれているものが挙げられる。
【0010】
また、前記薄膜部と前記厚膜部の間において前記薄膜部から前記厚膜部に向かって膜厚
が漸大している漸大部は、表面が曲面からなるのが好ましく、表面が凹状の曲面からなる
ものが挙げられる。これによれば、接続部分への応力集中を確実に抑制することができ、
共通電極におけるクラックの発生を確実に抑制することができる。
【0011】
また、前記個別部と前記基体部との平面視における角部が、曲線状となっているのが好
ましい。これによれば、共通電極の接続部分近傍への応力集中をより確実に抑制すること
ができ、共通電極におけるクラックの発生を確実に抑制することができる。
【0012】
前記基体部は、同一材料又は異種材料を積層して形成したものであるのが好ましい。こ
れによれば、所望の形状の共通電極をより容易に形成することができる。
【0013】
本発明の他の態様は、上記の液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置にある。
かかる態様では、変位特性及び耐久性が向上した液体噴射装置を実現することができる

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの共通電極の平面図及び断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態2に係る記録ヘッドの共通電極の平面図及び断面図である。
【図7】他の実施形態に係る記録ヘッドの共通電極の平面図及び断面図である。
【図8】他の実施形態に係る記録ヘッドの共通電極の断面図である。
【図9】本発明にかかる記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの
概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A'断面図である

【0016】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態ではシリコン単結晶基板からなり、
その一方の面には酸化膜からなる弾性膜50が形成されている。
【0017】
流路形成基板10には、複数の隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がそ
の幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の
領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12
毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は
、後述する保護基板のリザーバー部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室と
なるリザーバーの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で
形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保
持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を
形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路
の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0018】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反
対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や
熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えばガラス
セラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0019】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、弾性膜
50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この
絶縁体膜55上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とが、後述するプロセ
スで積層形成されて、圧電アクチュエーター300を構成している。ここで、圧電アクチ
ュエーター300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。
一般的には、圧電アクチュエーター300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電
極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここで
はパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧
の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。本実施形態では、第1
電極60を圧電アクチュエーター300の共通電極とし、第2電極80を圧電アクチュエ
ーター300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障は
ない。また、ここでは、圧電アクチュエーター300と当該圧電アクチュエーター300
の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上
述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、
勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、
第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電アクチュエータ
ー300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0020】
本実施形態では、圧電アクチュエーター300は、白金からなる第1電極60と、チタ
ン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電体層70と、イリジウムからなる第2電極80
とからなる。本実施形態では、第1電極60が白金からなり、第2電極80がイリジウム
からなるようにしたが、特にこれに限定されず、第1電極60及び第2電極80は、それ
ぞれ、例えば、ニッケル、銅、ニオブ、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、錫、オ
スミウム、イリジウム、白金、金、ビスマス、もしくはこれらの積層又は合金等の金属材
料からなるようにしてもよい。なお、勿論、第1電極60、第2電極80は、これ以外の
導電性材料から構成されていてもよい。
【0021】
ここで、図3を用いて本実施形態にかかる第1電極60について詳細に説明する。なお
、図3(a)は、本実施形態にかかる第1電極60の平面図であり、図3(b)は、本実
施形態にかかる第1電極60の断面図である。
【0022】
第1電極60は、図3に示すように、第1電極60は、圧力発生室12に対応する領域
に設けられる複数の個別部61と、これらの個別部61の一端部側を繋ぐ基体部62とを
備えており、いわゆる櫛歯形状となっている。
【0023】
複数の個別部61は、複数のスリット63により分割されて圧力発生室12に対応する
領域に設けられている、すなわち、各スリット63は、圧力発生室12の短手方向の側面
を画成する隔壁11に相対向する領域に設けられている。なお、本実施形態では、個別部
61を圧力発生室12の短手方向の幅よりも幅狭で且つ圧力発生室12の長手方向の長さ
よりも長くなるように形成したが、圧力発生室12と略同一形状に形成してもよく、また
、個別部61を圧力発生室12の短手方向の幅よりも幅広で且つ圧力発生室12の長手方
向の長さよりも長く形成してもよい。いずれにしても、個別部61の間のスリット63を
、圧力発生室12の短手方向の側面を画成する隔壁11に相対向する領域に設けるように
すればよい。
【0024】
第1電極60は、個別部61に設けられる薄膜部64と、基体部62に設けられる厚膜
部65とを備えている、すなわち、基体部62の膜厚が個別部61の膜厚よりも厚くなっ
ている。そして、第1電極60は、薄膜部64と厚膜部65の間において、薄膜部64か
ら厚膜部65に向かって膜厚が漸大している、すなわち、個別部61と基体部62との接
続部分では、個別部61側から基体部62側に向かって膜厚が漸大している。言い換えれ
ば、薄膜部64から厚膜部65に向かって膜厚が漸大している漸大部66が、薄膜部64
と厚膜部65との間に設けられている。本実施形態では、図3に示すように、個別部61
の基体部62側から基体部62の個別部61側までの領域が漸大部66となっている。ま
た、本実施形態では、漸大部66は、表面が凹状の曲面からなるように構成した。
【0025】
また、個別部61の基体部62側は、平面視において幅が漸大している。言い換えれば
、スリット63の基体部62側端部は、平面視において幅が漸小するようになっている。
具体的には、個別部61と基体部62との平面視における角部が曲線状となるように構成
されている。言い換えれば、スリット63の基体部62側端部は、幅が曲線的に狭くなる
R形状となっている。なお、ここでいう幅とは、個別部61の列設方向の幅を指す。
【0026】
本実施形態では、上述したように、第1電極60の基体部62の膜厚を厚くすることに
より、第1電極60の電気抵抗値を低くすることができ、電圧降下を抑制することができ
る。これにより、電圧降下による変位量のばらつきを抑制することができ、また、本実施
形態では、第1電極60の個別部61の膜厚を薄くすることにより、圧電アクチュエータ
ー300の変位量を向上させることができる。すなわち、第1電極60は、電圧の印加に
より圧電歪みが生じる圧電体能動部320の領域では、膜厚を薄く形成して圧電アクチュ
エーター300の変位量を向上させると共に、各個別部61に電気信号を送信する領域で
は、膜厚を厚く形成して電気抵抗値を低く維持して電圧降下を抑制している。これにより
、変位特性の向上した圧電アクチュエーター300とすることができる。本実施形態のイ
ンクジェット式記録ヘッドは、変位量のばらつきが抑制されることにより、早いタイミン
グで複数のインク滴を吐出させる高周波吐出を行わせることができ、高速印刷を行うこと
ができるものとなる。また、圧電アクチュエーター300の変位量が向上することにより
、インクの吐出量が向上したものとなる。
【0027】
さらに、本実施形態では、個別部61と基体部62との接続部分では、個別部61側か
ら基体部62側に向かって膜厚が漸大し、また、個別部61の基体部62側は平面視にお
いて幅が漸大している。これにより、第1電極60の個別部61と基体部62との接続部
分近傍への応力集中を抑制することができ、クラックの発生を抑制することができる。な
お、ここでいう応力集中としては、製造工程において第1電極60に生じる引張応力の接
続部分近傍への集中等が挙げられる。これにより、第1電極60は、クラックによる断線
が抑制された耐久性の高いものとすることができ、信頼性の高いものとすることができる
。ちなみに、個別部61と基体部62との接続領域に、角が存在すると、その角を起点と
してクラックが発生し、クラックが第1電極60全体に及んで断線する虞があるが、本実
施形態では、漸大部66の表面が曲面からなることにより、個別部61と基体部62と接
続部分近傍への応力集中を確実に抑制することができる。
【0028】
さらに、上述したように、第1電極60の個別部61が圧力発生室12に対応する領域
に設けられる、すなわち、隔壁11上方にスリット63が設けられることによって、第1
電極60が隔壁11から拘束されることによる振動板の変位低下を防止することができる
と共に、第1電極60が拘束されて圧電体層70への残留分極及び歪みが増大するのを防
止することができ、インク吐出特性の経時劣化が生じるのを防止することができる。
【0029】
また、第1電極60にスリット63を設けることによって、圧電アクチュエーター30
0を駆動して変位させた際に、第1電極60に印加される応力が隣接する圧電アクチュエ
ーター300に影響するのを低減することができるため、複数の圧電アクチュエーター3
00を同時に駆動した場合の変位量と、複数の圧電アクチュエーター300から選択され
た1つの圧電アクチュエーター300を駆動した場合の変位量とで異なる、いわゆるクロ
ストークが発生するのを防止して、インク吐出特性を向上することができると共に、イン
ク吐出特性を均一化することができる。
【0030】
図1及び図2に戻って、圧電体層70は、電気機械変換作用を示す圧電材料からなるも
のであり、圧電材料の中でもペロブスカイト構造の強誘電体材料からなるのが好ましい。
圧電体層70としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電体材料や、
これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等
が好適である。また、圧電体層70は、ゾル−ゲル法、MOD法等によって形成されたも
のであるのが好ましい。薄膜プロセスにより圧電体層を形成することで、変位効率が高く
なり、変位特性がさらに向上したものとなる。また、液体噴射ヘッドを小型化することが
できる。圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを
抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電
体層70を1〜2μm前後の厚さで形成した。
【0031】
また、圧電アクチュエーター300の個別電極である各第2電極80には、インク供給
路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(A
u)等からなるリード電極90が接続されている。
【0032】
このような圧電アクチュエーター300が形成された流路形成基板10上には、リザー
バー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31を有する保護基板30が接着剤
35を介して接合されている。このリザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30
を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流
路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザ
ーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎
に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、
流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間
に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室1
2とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0033】
また、保護基板30の圧電アクチュエーター300に対向する領域には、圧電アクチュ
エーター300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電アクチュエーター保持部32
が設けられている。圧電アクチュエーター保持部32は、圧電アクチュエーター300の
運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封さ
れていなくてもよい。
【0034】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例え
ば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板
10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0035】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられて
いる。そして、各圧電アクチュエーター300から引き出されたリード電極90の端部近
傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0036】
また、保護基板30上には、並設された圧電アクチュエーター300を駆動するための
駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半
導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極9
0とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからなる接続配線を介して電気的に接
続されている。
【0037】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプラ
イアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する
材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。ま
た、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のリザーバー1
00に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザ
ーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0038】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給
手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル開口2
1に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発
生室12に対応するそれぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧を印加し、弾性
膜50、絶縁体膜55、第1電極60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、
各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0039】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図4及び図5を参
照して説明する。
【0040】
まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10が複数一体的に形成されるシリコン
ウェハーである流路形成基板用ウェハー110の表面に弾性膜50を構成する二酸化シリ
コン(SiO)からなる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図4(b)に示す
ように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、例えば、酸化ジルコニウムからなる
絶縁体膜55を形成する。
【0041】
次いで、例えば、白金(Pt)からなる第1電極60を絶縁体膜55上に形成する。具
体的には、圧力発生室12に対応する領域に櫛歯状の櫛歯が形成されるようにする(図2
参照)。
【0042】
本実施形態では、この第1電極60をスクリーン印刷により成膜した。まず、絶縁体膜
55上の所定位置にマスクを載置し、図4(c)に示すように、このマスクを介して白金
を含むスラリーを、上述した櫛歯状パターンに塗布して、第1塗布膜601を形成する(
第1塗布工程)。次に、図4(d)に示すように、第1電極60上(第1塗布膜601上
)の基体部62となる領域に、さらに、スラリーを塗布して第2塗布膜602を形成する
(第2塗布工程)。このとき、塗布した第2塗布膜の端面が曲線を描くように、スラリー
の粘度を調整する。その後、第1塗布膜601及び第2塗布膜602を所定温度で焼成す
ることにより第1電極60を構成する。このように、第1塗布膜601及び第2塗布膜6
02を同時に焼成することで、第1塗布膜601及び第2塗布膜602の密着強度を向上
させることができる。上述した方法では、基体部62の個別部61側とは反対側の面に膜
厚が漸小する漸小部が形成されることもあるが、基体部62の個別部61側とは反対側の
面の形状は特に問題とはならない。なお、本実施形態では、第1塗布膜601と第2塗布
膜602を同時に焼成したが、第1塗布膜601を仮焼成してから、第2塗布膜602を
塗布し、焼成してもよい。
【0043】
次に、図5(a)に示すように、第1電極60上に、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(
PZT)等からなる圧電体層70を形成する。なお、圧電アクチュエーター300を構成
する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電
性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等
の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その組成は、圧電アクチュエーター
300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよい。また、圧電体層70の形成方法は
、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したい
わゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧
電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。なお、圧電
体層70の形成方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD法、スパッタリング
法、レーザーアブレーション法などの薄膜形成方法を利用して圧電体層70を形成するよ
うにしてもよい。実際には、圧電体層70は、上述したゾル−ゲル法により厚さの薄い圧
電体膜を形成する工程を複数回繰り返し行って、複数層の圧電体膜からなる圧電体層70
を形成する。
【0044】
次に、図5(b)に示すように、圧電体層70上に第2電極80を形成する。
そして、図5(c)に示すように、圧電体層70及び第2電極80を同時に所定形状に
パターニングする。具体的には、圧電体層70及び第2電極80は、隔壁11に対応する
部分を長手方向に亘って除去して、第1電極60を露出させる。これにより、圧電体層7
0及び第2電極80を、圧力発生室12に対応する領域に設ける。ここで、第2電極80
及び圧電体層70のパターニングとしては、例えば、反応性イオンエッチングやイオンミ
リング等のドライエッチングが挙げられる。
【0045】
次に、図5(d)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の全面に亘って金(A
u)からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターンを介
して各圧電アクチュエーター300毎にパターニングする。
【0046】
次いで、図示しないが、流路形成基板用ウェハー110の圧電アクチュエーター300
側に、シリコンウェハーであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハーを接着剤3
5によって接合する。なお、保護基板30には、リザーバー部31、圧電アクチュエータ
ー保持部32等が予め形成されている。また、保護基板30は、例えば、400μm程度
の厚さを有するシリコン単結晶基板からなり、保護基板30を接合することで流路形成基
板10の剛性は著しく向上することになる。その後、流路形成基板用ウェハー110を所
定の厚さにする。
【0047】
次いで、流路形成基板用ウェハー110にマスク膜を新たに形成し、所定形状にパター
ニングする。そして、流路形成基板用ウェハー110をマスク膜を介してKOH等のアル
カリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電アクチ
ュエーター300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路
15等を形成する。
【0048】
その後は、保護基板用ウェハー上に駆動回路120を実装すると共に、駆動回路120
とリード電極90とを接続配線によって接続する(図2参照)。そして、流路形成基板用
ウェハー110の圧力発生室12が開口する面側のマスク膜を除去し、流路形成基板用ウ
ェハー110及び保護基板用ウェハーの外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等に
より切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハー110の保護基板
用ウェハーとは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合する
と共に、保護基板用ウェハーにコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板
用ウェハー110等を、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分
割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0049】
本実施形態では、スクリーン印刷により同一材料を積層して、第1電極60(の基体部
)を形成したが、第1電極60の形成方法はこれに限定されるものではない。例えば、ス
パッタリング法やPVD法(物理蒸着法)などにより第1電極60を形成し、第1電極6
0上にフォトリソグラフィー法により所定形状に形成したレジストを介してドライエッチ
ングによりパターニングすると共に、ドライエッチングを用いて個別部61側から基体部
62側に向かって膜厚が漸大する漸大部66を同時に形成してもよい。
【0050】
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係るインクジェット式記録ヘッドの第1電極を示す図である。具
体的には、図6(a)が第1電極の上面図、図6(b)が第1電極の断面図である。実施
形態1と同一作用を示す部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0051】
本実施形態の第1電極60Aは、図6に示すように、第1電極60Aは、圧力発生室1
2に対応する領域に設けられる複数の個別部61Aと、これらの個別部61Aの一端部側
を繋ぐ基体部62Aとを備えており、いわゆる櫛歯形状となっている。
【0052】
複数の個別部61Aは、複数のスリット63Aにより分割されて圧力発生室12に対応
する領域に設けられている、すなわち、各スリット63Aは、圧力発生室12の短手方向
の側面を画成する隔壁11に相対向する領域に設けられている。
【0053】
第1電極60Aは、個別部61Aに設けられる薄膜部64Aと、基体部62Aに設けら
れる厚膜部65Aとを備えている、すなわち、基体部62Aの膜厚が個別部61Aの膜厚
よりも厚くなっている。そして、第1電極60Aは、薄膜部64Aと厚膜部65Aの間に
おいて、薄膜部64Aから厚膜部65Aに向かって膜厚が漸大している、すなわち、個別
部61Aと基体部62Aとの接続部分では、個別部61A側から基体部62A側に向かっ
て膜厚が漸大している。言い換えれば、薄膜部64Aから厚膜部65Aに向かって膜厚が
漸大している漸大部66Aが、薄膜部64Aと厚膜部65Aとの間に設けられている。本
実施形態では、図6に示すように、個別部61Aの基体部62A側から基体部62Aの個
別部61A側までの領域が漸大部66となっている。この漸大部66Aは、表面が傾斜面
からなっている。
【0054】
また、個別部61Aの基体部62A側は、平面視において幅が漸大している。言い換え
れば、スリット63Aの基体部62A側端部は、平面視において幅が漸小するようになっ
ている。ここでいう幅とは、個別部61Aの列設方向の幅を指す。本実施形態では、個別
部61Aと基体部62Aとの平面視における角部が傾斜するように構成されている。言い
換えれば、スリット63Aの基体部62A側端部は、幅が漸次狭くなる面取り形状となっ
ている。
【0055】
本実施形態では、第1電極60Aは、電圧の印加により圧電歪みが生じる圧電体能動部
320の領域では、膜厚を薄く形成して圧電アクチュエーター300の変位量を向上させ
ると共に、各個別部61Aに電気信号を送信する領域では、膜厚を厚く形成して電気抵抗
値を低く維持して電圧降下を抑制している。これにより、変位特性の向上した圧電アクチ
ュエーター300とすることができる。本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、変
位量のばらつきが抑制されることにより、早いタイミングで複数のインク滴を吐出させる
高周波吐出を行わせることができ、高速印刷を行うことができるものとなる。また、圧電
アクチュエーター300の変位量が向上することにより、インクの吐出量が向上したもの
となる。
【0056】
さらに、本実施形態では、個別部61Aと基体部62Aとの接続部分では、個別部61
A側から基体部62A側に向かって膜厚が漸大し、また、個別部61Aの基体部62A側
は平面視において幅が漸大していることにより、第1電極60Aの個別部61と基体部6
2との接続部分近傍への応力集中を抑制することができ、クラックの発生を抑制すること
ができる。これにより、第1電極60Aは、クラックによる断線が抑制された耐久性の高
いものとすることができ、信頼性の高いものとすることができる。ちなみに、個別部61
Aと基体部62Aとの接続領域に、90度以上の角が存在する場合、例えば、個別部61
Aの上面と基体部62Aの個別部61A側端面とのなす角度が90度以上であったり、個
別部61Aと基体部62Aとの平面視における角部が90度であったりすると、これらの
角に応力が集中するため、これらの角を起点としてクラックが発生し、クラックが第1電
極60A全体に及んで断線する虞があるが、本実施形態では、個別部61Aの上面と漸大
部66Aの傾斜面のなす角度が90度未満であり、また、スリット63Aの基体部62A
側端部の幅が漸次狭くなる面取り形状となっていることにより、個別部61と基体部62
と接続部分近傍への応力集中を抑制することができる。
【0057】
さらに、上述したように、第1電極60Aの個別部61Aが圧力発生室12に対応する
領域に設けられる、すなわち、隔壁11上方にスリット63Aが設けられることによって
、第1電極60Aが隔壁11から拘束されることによる振動板の変位低下を防止すること
ができると共に、第1電極60Aが拘束されて圧電体層70への残留分極及び歪みが増大
するのを防止することができ、インク吐出特性の経時劣化が生じるのを防止することがで
きる。
【0058】
また、第1電極60Aにスリット63Aを設けることによって、圧電アクチュエーター
300を駆動して変位させた際に、第1電極60Aに印加される応力が隣接する圧電アク
チュエーター300に影響するのを低減することができるため、複数の圧電アクチュエー
ター300を同時に駆動した場合の変位量と、複数の圧電アクチュエーター300から選
択された1つの圧電アクチュエーター300を駆動した場合の変位量とで異なる、いわゆ
るクロストークが発生するのを防止して、インク吐出特性を向上することができると共に
、インク吐出特性を均一化することができる。
【0059】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定さ
れるものではない。例えば、実施形態1及び2では、第1電極において、個別部の基体部
側から基体部の個別部側までの領域を、個別部側から前記基体部側に向かって膜厚が漸大
する「漸大部」としたが、これに限定されるものではない。第1電極は、上方に圧電体層
70が形成されない領域において膜厚が漸大するようにすればよく、例えば、個別部の基
体部側の領域のみを漸大部となるようにしてもよく、基体部の個別部側の領域のみを漸大
部となるようにしてもよい。
【0060】
また、漸大部の形状は、上述したものに限定されず、例えば、表面が凸状と凹状とが連
続した曲面となっていてもよい。この場合は、個別部側が凹状で基体部側が凸状の連続曲
面となっているのが好ましい。
【0061】
実施形態1では、漸大部66の表面が凹状の曲面からなるものとしたが、漸大部66の
表面が傾斜面となっていてもよい。また、実施形態2では、漸大部66の表面が傾斜面か
らなるものとしたが、漸大部66の表面が凹状の曲面となっていてもよい。
【0062】
上述した実施形態では、共通電極である第1電極は、複数の個別部の一端部側のみが基
体部により繋がれているものを例に挙げたが、これに限定されるものではない。共通電極
は、圧力発生室に対応する領域に設けられる複数の個別部と、これらの個別部の一端部側
を繋ぐ基体部と、を備えていればよく、図7に示すように、隣り合う圧力発生室12より
も外側のインク供給路14とは反対側において連続した梯子形状であっていてもよい。
【0063】
図7に示す第1電極60Bは、圧力発生室に対応する領域に設けられる複数の個別部6
1Bと、個別部61Bの一端部側を繋ぐ基体部621Bと、個別部61Bの他端部側を繋
ぐ基体部622Bと、を備えている。
【0064】
個別部61Bは、複数のスリット63Bにより分割されて圧力発生室12に対応する領
域に設けられている。第1電極60Bは、個別部61Bに設けられる薄膜部64Bと、基
体部621Bに設けられる厚膜部651Bと、基体部622Bに設けられる厚膜部652
Bと、を備えている、すなわち、基体部621B及び基体部622Bの膜厚が個別部61
Bの膜厚よりも厚くなっている。そして、薄膜部64Bと厚膜部651Bの間において、
薄膜部64Bから厚膜部651Bに向かって膜厚が漸大している。同様に、薄膜部64B
と厚膜部652Bの間において、薄膜部64Bから厚膜部652Bに向かって膜厚が漸大
している。言い換えれば、薄膜部64Bと厚膜部651Bとの間には、薄膜部64Bから
厚膜部651Bに向かって膜厚が漸大している漸大部661Bが設けられており、薄膜部
64Bと厚膜部652Bとの間には、薄膜部64Bから厚膜部652Bに向かって膜厚が
漸大している漸大部662Bが設けられている。そして、漸大部661B及び漸大部66
2Bは、それぞれ、表面が凹状の曲面からなる。
【0065】
また、個別部61Bの端部は、平面視において幅が漸大している。すなわち、個別部6
1Bの基体部621B側及び基体部622B側いずれも、平面視において幅が漸大してい
る。具体的には、個別部61Bの端部は、個別部61Bと基体部621B側との平面視に
おける角部が曲線状であり、個別部61Bと基体部622B側との平面視における角部が
曲線状となっている。
【0066】
このような構成とすることにより、実施形態1と同様の効果を奏するものとなる。なお
、図7では、個別部61Bの両端部の基体部(621B,622B)に個別部61Bより
も厚膜が厚い厚膜部652(651B,652B)を設けるように構成したが、いずれか
一方の基体部のみに厚膜部を形成し、他方の基体部は個別部と同一の膜厚となるようにし
てもよい。そして、厚膜部が設けられた基体部と個別部61Bとの接続部分では、個別部
61B側から基体部側に向かって膜厚が漸大するようにする。なお、この場合は、厚膜部
が設けられた基体部側から電圧をかけるのが好ましい。また、図7では、漸大部661B
,漸大部662Bの表面が凹状の曲面からなるものとしたが、表面が傾斜面となっていて
もよい。また、個別部61Bと、基体部621B又は基体部622Bとの平面視における
角部が曲線状となるようにしたが、傾斜するようにしてもよい。
【0067】
また、上述した実施形態では、第1電極を共通電極とし、第2電極80を個別電極とし
たが、第1電極を個別電極として第2電極80を共通電極としてもよい。この場合も同様
に、共通電極は、個別部に設けられる薄膜部と、基体部に設けられる厚膜部と、薄膜部と
厚膜部との間に設けられ薄膜部から厚膜部に向かって膜厚が漸大する漸大部66Cとを備
え、個別部の基体部側は、平面視において幅が漸大するようにすればよい。
【0068】
上述した実施形態では、第1電極が一層からなるものを例に挙げて説明したが、第1電
極は、同一材料又は異種材料を積層して形成したものであってもよい。なお、同一材料を
積層して形成した第1電極とは、第1電極に界面が存在するものを指す。例えば、図8に
示すように、第1電極60Cは、白金からなる複数の個別部61Cと、複数の個別部61
Cの一端部側を繋ぐ基体部62Cとからなり、基体部62Cが電気抵抗の低い材料からな
る第1の基体部621Cと、白金からなる第2の基体部622Cとからなるように構成し
てもよい。この場合も同様に、第1電極60Cは、個別部61Cに設けられる薄膜部64
Cと、基体部62Cに設けられる厚膜部65Cと、薄膜部64Cと厚膜部65Cとの間に
設けられ薄膜部64Cから厚膜部65Cに向かって膜厚が漸大する漸大部66Cと、を備
え、個別部61Cの基体部62C側が、平面視において幅が漸大するようにすればよい。
【0069】
さらに、圧電アクチュエーター300の圧力発生室12に対応する領域以外の部分には
、耐湿性を有する絶縁材料からなる保護膜を形成してもよい。なお、保護膜としては、酸
化シリコン(SiOx)、酸化タンタル(TaOx)、酸化アルミニウム(AlOx)等
の無機絶縁材料を用いるのが好ましく、特に、無機アモルファス材料である酸化アルミニ
ウム(AlOx)、例えば、アルミナ(Al)を用いるのが好ましい。
【0070】
また、上述した実施形態では、流路形成基板10としてシリコン単結晶基板を例示した
が、特にこれに限定されず、例えば、SOI基板、ガラス基板、MgO基板等においても
本発明は有効である。また、振動板の最下層に二酸化シリコンからなる弾性膜50を設け
るようにしたが、振動板の構成は、特にこれに限定されるものではない。
【0071】
また、上述した実施形態では、圧力変化を生じさせてノズル開口から液滴を吐出させる
圧力発生手段として、第1電極、圧電体層、第2電極を順に積層させた撓み振動型の圧電
アクチュエーターを有する記録ヘッドを例示して説明したが、厚膜型の圧電アクチュエー
ターを有するインクジェット式記録ヘッドであっても同様の効果を奏する。
【0072】
上記実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するイン
ク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭
載される。図9は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0073】
図9に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び
1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、こ
の記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けら
れたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及
び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するも
のとしている。
【0074】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を
介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキ
ャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って、すなわち、主走査方向に、移動される。一方、装
置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ロー
ラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に副走査方向
に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0075】
図9に示す例では、インクジェット式記録ヘッドユニット1A、1Bは、それぞれ1つ
のインクジェット式記録ヘッドを有するものとしたが、特にこれに限定されず、例えば、
1つのインクジェット式記録ヘッドユニット1A又は1Bが2以上のインクジェット式記
録ヘッドを有するようにしてもよい。
【0076】
また、上述したインクジェット式記録装置では、インクジェット式記録ヘッドがキャリ
ッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例
えば、インクジェット式記録ヘッドが固定されて、紙等の被記録媒体Sを副走査方向に移
動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0077】
なお、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッ
ドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、イ
ンク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体
噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッ
ド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機E
Lディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴
射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0078】
また、本発明は、インクジェット式記録ヘッドに代表される液体噴射ヘッドに搭載され
るアクチュエーター装置に限られず、他の装置に搭載されるアクチュエーター装置にも適
用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 12
圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 20 ノズル
プレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧
電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 60,60A,60B,60C 第1
電極、 61,61A,61B,61C 個別部、 62,62A,621B,622B
,62C 基体部、 63,63A,63B スリット、 64,64A,64B,64
C 薄膜部、 65,65A,651B,652B,65C 厚膜部、 66,66A,
661B,662B,66C 漸大部、 70 圧電体層、 80 第2電極、 90
リード電極、 100 リザーバー、 120 駆動回路、 300 圧電アクチュエー
ター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通する圧力発生室と、
該圧力発生室に圧力変化を生じさせて前記ノズル開口から液滴を吐出させる圧電アクチ
ュエーターと、を具備し、
前記圧電アクチュエーターは、圧力発生室に対応するように独立して設けられる個別電
極と、複数の該圧電アクチュエーターに共通する共通電極と、前記共通電極及び前記個別
電極間に設けられた圧電体層と、を有し、
前記共通電極は、複数のスリットにより分割され前記圧力発生室に対応する領域に設け
られる複数の個別部と、これらの個別部の少なくとも一端部側を繋ぐ基体部と、を備え、
前記個別部の基体部側が平面視において幅が漸大し、
且つ前記共通電極は、前記個別部に設けられる薄膜部と、前記基体部に設けられる厚膜
部と、を備え、前記薄膜部と前記厚膜部の間において前記薄膜部から前記厚膜部に向かっ
て膜厚が漸大していることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記共通電極は、複数の個別部の一端部側のみが基体部により繋がれていることを特徴
とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記薄膜部と前記厚膜部の間において前記薄膜部から前記厚膜部に向かって膜厚が漸大
している漸大部は、表面が曲面からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴
射ヘッド。
【請求項4】
前記薄膜部と前記厚膜部の間において前記薄膜部から前記厚膜部に向かって膜厚が漸大
している漸大部は、表面が凹状の曲面からなることを特徴とする請求項3に記載の液体噴
射ヘッド。
【請求項5】
前記個別部と前記基体部との平面視における角部が、曲線状となっていることを特徴と
する請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記基体部は、同一材料又は異種材料を積層して形成したものであることを特徴とする
請求項1〜5のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体
噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−106342(P2012−106342A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254590(P2010−254590)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】