説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】固定部材と液体噴射面とを確実に接合し、固定部材への液体の付着を防止することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】インクを噴射するノズル開口21が設けられた液体噴射面Aを有するヘッド本体220と、ヘッド本体220に固定され、ノズル21が露出する露出開口部241を有するカバーヘッド240とを備え、ヘッド本体220の液体噴射面Aの縁部には、インクが吐出される方向と反対方向に液体噴射面Aよりも凹んだ段差24が設けられ、カバーヘッド240の接合部242は、ヘッド本体220の段差24に接合され、インクに対して撥液性を有する撥液テープ25がカバーヘッド240の表面から液体噴射面Aの一部まで連続して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、インクを吐出するノズルが開口する液体噴射面を有するノズルプレートと、ノズルプレートの液体噴射面に接着剤を介して固定される固定板等の固定部材とを具備するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
吐出したインクの一部が固定部材に付着し、固化すると、固定部材から突出した突起物となる。この突起物は、紙などの印刷媒体に接触し、紙面が擦られるなど不具合が生じる。
【0004】
このような不具合を防止するために、固定板に撥液膜を設けたインクジェット式記録ヘッドが提案されている(例えば、特許文献2参照)。例えば、撥液性を有する溶液中に固定部材を浸すことで、固定部材の全面に撥液膜が設けられる。固定部材に撥液膜が設けられることで、固定部材にインクが付着することが防止され、インクが固化した突起物が生じることが防止される。
【0005】
また、固定部材として金属製のカバーを用い、突起を有する導電性部材及び導電性接着剤を介して、カバーとノズルプレートとを接合したインクジェット式記録ヘッドが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−096419号公報
【特許文献2】特開2008−221653号公報
【特許文献3】特開2009−196328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固定部材の全面に撥液膜が形成されると、ノズルプレートとの接合面にまで撥液膜が形成されることになる。このため、固定部材を接着剤などでノズルプレートに接着しても、接着力が弱く、接合不良が生じてしまう。
【0008】
一方、固定部材のノズルプレートとの接合面にマスクを設け、ノズルプレートとの接合面に撥液膜を設けないことも可能である。しかし、固定部材に、選択的に撥液膜を設けるためにマスクを貼付する工程が必要となる。このような工程では、マスクを貼付する作業に精密さが要求されるため、手間やコストが掛かる。さらに、マスクの貼付・剥離を繰り返すと、固定部材が変形する虞もある。固定部材が変形してしまうと、固定部材に取り付けられるヘッド本体の位置にばらつきが生じてしまう。
【0009】
また、固定部材とノズルプレートとの接合に、突起を有する導電性部材が介在していると、突起によってノズルプレートに亀裂等の破壊が発生してしまうという問題がある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑み、固定部材と液体噴射面とを確実に接合し、固定部材への液体の付着を防止することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズルが設けられた液体噴射面を有するヘッド本体と、前記ヘッド本体に固定され、前記ノズルが露出する露出開口を有する固定部材とを備え、前記ヘッド本体の前記液体噴射面の縁部には、液体が吐出される方向と反対方向に前記液体噴射面よりも凹んだ段差が設けられ、前記固定部材は、前記ヘッド本体の前記段差に接合され、前記液体に対して撥液性を有する撥液部材が前記固定部材の少なくとも一部の表面から前記液体噴射面の一部まで連続して設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、液体が付着する可能性がある固定部材の表面を確実に撥液部材で保護することができる。すなわち、固定部材に液体が付着して固化した突起物が生じることが防止される。これにより、突起物が紙などの印刷媒体に接触し、印刷媒体の表面を擦ってしまうことが防止される。
また、従来技術のように固定部材の全表面に撥液膜を設ける必要が無い。これにより、固定部材と液体噴射面とを接着剤で接着する場合、その接着力が低下しないので、固定部材と液体噴射面とを確実に接合することができる。また、従来技術のように、固定部材の表面に選択的に撥液膜を形成するための手間やコストが不要となる。
さらに、液体噴射面の縁部に段差を設け、段差に固定部材を接合したことで、固定部材の表面と液体噴射面とを、ほぼ面一にすることができる。これにより、面一となった固定部材及び液体噴射面に撥液部材を折り曲げることなく平面的に貼付することができる。したがって、撥液部材は、固定部材及び液体噴射面から剥離し難い。
【0012】
ここで、前記固定部材は、前記ヘッド本体の前記段差に金属接合されていることが好ましい。これにより、撥液部材を、固定部材及び液体噴射面により確実に接合することができる。
【0013】
また、前記液体噴射面には、撥液膜が設けられた撥液領域と非撥液領域とを有し、前記撥液部材は、前記固定部材の少なくとも一部の表面から前記液体噴射面の非撥液領域まで連続して設けられていることが好ましい。これにより、撥液性のない非撥液領域に撥液部材が接合されるので、撥液部材をより確実に接合することができる。
【0014】
本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、固定部材と液体噴射面とを確実に接合し、固定部材への液体の付着を防止することができる液体噴射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】一実施形態に係る記録ヘッドの組立斜視図である。
【図3】一実施形態に係るヘッド本体の分解斜視図である。
【図4】一実施形態に係る記録ヘッドの要部断面図である。
【図5】一実施形態に係る記録ヘッドの要部拡大断面図である。
【図6】一実施形態に係る記録ヘッドの要部拡大断面図である。
【図7】一実施形態に係るインクジェット式記録装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。以下、インクジェット式記録ヘッドは液体噴射ヘッドの一例であり、単に記録ヘッドとも言う。
【0017】
図1は、実施形態に係る記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、記録ヘッドの組立斜視図である。
【0018】
図1に示すように、記録ヘッド1を構成するカートリッジケース210は、インク供給手段であるインクカートリッジ(図示なし)がそれぞれ装着されるカートリッジ装着部211を有する。例えば、本実施形態では、インクカートリッジは、ブラック及び3色のカラーインクが充填された別体で構成され、カートリッジケース210には、各色のインクカートリッジがそれぞれ装着される。また、カートリッジケース210には、インクの流路となるインク連通路(図示なし)が設けられている。インク連通路は、一端が各カートリッジ装着部211に開口し、他端がヘッドケース230側に開口している。インク連通路内には、インク内の気泡や異物を除去するフィルター(図示なし)が設けられている。さらに、カートリッジ装着部211には、インク連通路の開口部に連通し、インクカートリッジのインク供給口に挿入されるインク供給針213が固定されている。
【0019】
カートリッジケース210の底面側(カートリッジ装着部211とは反対側)には、ヘッド本体220が固定されるヘッドケース230が設けられている。
【0020】
ヘッド本体220は、インクの色に対応して複数設けられており、各ヘッド本体220はインクカートリッジの各色のインクを吐出する。ヘッド本体220の詳細な構成は後述する。また、ヘッドケース230も各ヘッド本体220に対応してそれぞれ独立して設けられている。
【0021】
また、記録ヘッド1は、複数のヘッド本体220を保持する固定部材の一例であるカバーヘッド240を備えている。カバーヘッド240は、箱形状を有し、金属材料から形成されている。具体的には、カバーヘッド240は、箱形状の底面を構成する接合部242を備えている。
【0022】
接合部242は、中央部に開口を有する平板状の枠部243と、枠部243の開口を分割する梁部244とで構成されている。各梁部244により分割された枠部243の開口を露出開口部241と称する。露出開口部241には、接合部242に接合された各ヘッド本体220のノズル21が露出し、枠部243及び梁部244には、ヘッド本体220のノズルプレート20の表面の一部が接合されている。ヘッド本体220のノズルプレート20と接合部242(カバーヘッド240)との接合部分の詳細は後述する。
【0023】
また、カバーヘッド240には、接合部242に連続し、ヘッド本体220の側面側(ノズルプレート20に連続した側面側)に、屈曲された側壁部245が設けられている。さらに、側壁部245には、側方に突出するフランジ部246が設けられ、フランジ部246には、厚さ方向に貫通した固定孔247が設けられている。固定孔247は、カートリッジケース210に設けられた突起部215が挿通される。固定孔247に突起部215が挿通され、突起部215の先端部が加熱によりかしめられることで、カバーヘッド240がカートリッジケース210に位置決め固定される。
【0024】
図3は、ヘッド本体及びヘッドケースの分解斜視図であり、図4は、ヘッド本体、ヘッドケース及びカバーヘッドの断面図である。図3及び図4に示すように、ヘッド本体220を構成する流路形成基板10は、本実施形態では、シリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁によって区画された圧力発生室12が複数形成されている。圧力発生室12は、同じ色のインクを吐出する複数のノズル21が並設される方向に沿って並設されている。この圧力発生室12が並設された方向を第1方向とする。本実施形態では、第1方向に沿って並設された複数の圧力発生室12の一群が、第1方向とは直交する第2方向に並設されている。各列の圧力発生室12の第2方向の外側には、後述するマニホールド100を構成する連通部13が形成されている。また、連通部13は、インク供給路14を介して各圧力発生室12の一端部とそれぞれ連通されている。
【0025】
流路形成基板10の圧電素子300と反対側には、各圧力発生室12に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。ノズルプレート20には、圧力発生室12に対応して複数のノズル21が第1方向に沿って列設されたノズル列21Aが設けられており、2つのノズル列21Aが第2方向に列設されている。
【0026】
ノズルプレート20は、シリコン単結晶基板からなり、ノズル21は、例えば、異方性エッチングによって形成されている。なお、ノズルプレート20は、シリコン単結晶基板に限定されず、SUSから形成されていてもよい。
【0027】
また、ノズルプレート20の液体噴射面A(ノズル21が開口し、インクが吐出される側の表面)の一部(ノズルプレート20の縁部を除いた領域)には、撥液膜23が設けられている。カバーヘッド240の表面及びノズルプレート20の液体噴射面Aの少なくとも一部の表面(液体噴射面Aに撥液膜23が設けられていない領域)には、撥液部材の一例である撥液テープが貼付されている。これらのカバーヘッド240とノズルプレート20との接合部分及び撥液テープに関する詳細は後述する。
【0028】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、弾性膜50上に、金属からなる下電極膜と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層と、金属からなる上電極膜とを順次積層することで形成された圧電素子300が形成されている。このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接合されている。このマニホールド部31は、保護基板30を厚さ方向に貫通して第1方向に亘って形成されており、流路形成基板10の連通部13と連通されている。このマニホールド部31と連通部13とから各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100が構成されている。
【0029】
保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。このような保護基板30としては、ガラス、セラミック、金属、プラスチック等を挙げることができるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0030】
保護基板30上には、各圧電素子300を駆動するための駆動IC110が設けられている。この駆動IC110の各端子は、図示しないボンディングワイヤー等を介して各圧電素子300の個別電極から引き出された引き出し配線と接続されている。そして、駆動IC110の各端子には、図1に示すような、フレキシブルプリントケーブル(FPC)等の外部配線111を介して外部と接続され、外部から外部配線111を介して印刷信号等の各種信号を受け取る。
【0031】
さらに、保護基板30上には、コンプライアンス基板40が接合されている。コンプライアンス基板40のマニホールド100に対向する領域には、マニホールド100にインクを供給するためのインク導入口44が厚さ方向に貫通することで形成されている。また、コンプライアンス基板40のマニホールド100に対向する領域のインク導入口44以外の領域は、厚さ方向に薄く形成された可撓部43となっており、マニホールド100は、可撓部43により封止されている。この可撓部43により、マニホールド100内にコンプライアンスを与えている。
【0032】
このように、本実施形態のヘッド本体220は、ノズルプレート20、流路形成基板10、保護基板30及びコンプライアンス基板40の4つの基板で構成されている。そして、このようなヘッド本体220のコンプライアンス基板40上には、ヘッドケース230が設けられている。
【0033】
ヘッドケース230には、インク供給連通路231が設けられている。インク供給連通路231は、インク導入口44に連通すると共にカートリッジケース210のインク連通路に連通し、カートリッジケース210からのインクをインク導入口44に供給する。
【0034】
また、ヘッドケース230には、可撓部43に対向する領域に凹部232が形成され、可撓部43の撓み変形が適宜行われるようになっている。また、ヘッドケース230には、保護基板30上に設けられた駆動IC110に対向する領域に厚さ方向に貫通した駆動IC保持部233が設けられており、外部配線111は、駆動IC保持部233を挿通して駆動IC110と接続されている。
【0035】
このようなヘッド本体220は、1枚のシリコンウェハー上に多数のチップを同時に形成し、ノズルプレート20及びコンプライアンス基板40を接着して一体化し、その後、1つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することによってヘッド本体220となる。
【0036】
ヘッドケース230及びヘッド本体220を構成する各部材には、組立時に各部材を位置決めするためのピンが挿入されるピン挿入孔234が角部の2箇所に設けられている。そして、ピン挿入孔234にピンを挿入して各部材の相対的な位置決めを行いながら部材同士を接合することで、ヘッド本体220及びヘッドケース230が一体的に形成される。
【0037】
このような本実施形態のヘッド本体220は、インクカートリッジからのインクをインク連通路及びインク供給連通路231を介してインク導入口44から取り込み、マニホールド100からノズル21に至るまで流路内部をインクで満たす。その後、ヘッド本体220は、駆動IC110からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの圧電素子300に電圧を印加し、弾性膜50及び圧電素子300をたわみ変形させる。この圧電素子300のたわみ変形により、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0038】
また、本実施形態の記録ヘッド1は、2列のノズル列21Aを備えるヘッド本体220を4つ備えるので、計8列のノズル列21Aを有する。このように記録ヘッド1の多列化を図ることで、1つのヘッド本体220にノズル列21Aを多列形成するのに比べて歩留まりの低下を防止することができる。また、ノズル列21Aの多列化を図るために複数のヘッド本体220を用いることで、1枚のシリコンウェハーから形成できるヘッド本体220の取り数を増大させることができ、シリコンウェハーの無駄な領域を減少させて製造コストを低減することができる。
【0039】
ここで、カバーヘッド240とノズルプレート20との接合部分及び撥液テープについて詳細に説明する。図5は、図4の要部拡大図である。
【0040】
図示するように、ノズルプレート20の液体噴射面Aには、下地膜22を介して撥液膜23が設けられている。
【0041】
下地膜22は、シリコン材料のプラズマ重合膜、SiO2、ZnO、NiO、SnO2、Al23、ZrO2、酸化銅、酸化銀、酸化クロム、または酸化鉄を用いることができる。本実施形態では、下地膜22として、シリコーンをアルゴンプラズマガスにより重合したプラズマ重合膜を用いた。そして、この下地膜22は、後述する分子膜である撥液膜23とシリコン単結晶基板からなるノズルプレート20との密着性を向上する役割がある。
【0042】
撥液膜23は、インクに対して撥液性を有する膜である。例えば、金属アルコキシドの分子膜からなる。当該分子膜は、アルコキシラン等のシランカップリング剤をシンナー等の溶媒と混合して金属アルコキシド溶液を形成し、この金属アルコキシド溶液にノズルプレート20を浸漬することで形成することができる。
【0043】
当該分子膜からなる撥液膜23は、従来の撥液膜、例えば、共析メッキによる撥液膜よりも薄く形成できると共に、ヘッド面をクリーニングする際にワイピングによって液体噴射面Aが拭かれることによっても撥液性が劣化しない耐擦性及び耐液性を向上できるという利点を有する。勿論、耐擦性、撥液性は劣るが、従来の撥液膜を用いることもできる。
【0044】
撥液膜23及び下地膜22の端部、すなわち、後述するノズルプレート20の段差24近傍の領域は除去されており、ノズルプレート20の液体噴射面Aが露出している。この液体噴射面Aが露出した領域を非撥液領域26と称し、撥液膜23が表面に現れている領域を撥水領域27と称する。
【0045】
ノズルプレート20の液体噴射面Aの縁部には、インクが吐出される方向(図中の下側)と反対方向に液体噴射面Aよりも凹んだ段差24が設けられている。段差24の深さは、接合部242の厚さとほぼ同じである。本実施形態では、ノズルプレート20の液体噴射面の縁部の全体に亘って段差24が設けられている。
【0046】
段差24は、カバーヘッド240の接合部242(枠部243及び梁部244)が接合される平面状の領域である。この段差24に、接着剤28を介してカバーヘッド240の接合部242の表面の一部が接着されている。このように、各ヘッド本体220は、ノズルプレート20の段差24が接着剤28で接合部242に接着されることでカバーヘッド240に固定されている。
【0047】
段差24に接合された接合部242の表面の一部には、撥液部材の一例である撥液テープ25が貼付されている。撥液テープ25は、カバーヘッド240の外面全体を覆う形状に形成されている。すなわち、カバーヘッド240の枠部243、梁部244及び側壁部245の形状に合わせて形成されている。これらの枠部243、梁部244及び側壁部245のヘッド本体220とは反対側の面に撥液テープ25が接着剤(図示せず)で貼付されている。
【0048】
さらに、撥液テープ25は、接合部242からノズルプレート20の非撥液領域26まで延設されている。具体的には、撥液テープ25は、露出開口部241よりも内側(ノズルプレート20の中心側)に延設された端部25aを有している。端部25aはノズルプレート20の非撥液領域26を覆い、接着剤(図示せず)で非撥液領域26(ノズルプレート20の少なくとも一部の表面。本実施形態では撥液膜23が設けられていない表面。)に貼付されている。
【0049】
このような撥液テープ25は、COF(チップオンフィルム)やFPC(フレキシブルプリント基板)で用いられるポリイミドやポリエステル等からなるフィルムから形成されている。なお、撥液テープ25としては、このようなフィルムから形成される場合に限らず、インクに対して撥液性を有する材料からテープ状に形成された部材であればよい。例えば、樹脂などからなるテープ状部材の一方面に、上述した撥液膜23と同様の膜を形成した撥液テープを用いることもできる。
【0050】
上述したように、カバーヘッド240の表面は、撥液テープ25が覆っているので、カバーヘッド240にインクが付着することが防止される。すなわち、カバーヘッド240の表面に、インクが付着し、固化することで突起物が生じることが防止される。さらに撥液テープ25は、ノズルプレート20の非撥液領域26まで連続しているので、カバーヘッド240の接合部242の表面全体を確実に覆うことができる。
【0051】
このように本実施形態に係る記録ヘッド1によれば、インクが付着する可能性があるカバーヘッド240の表面を確実に撥液テープ25で保護することができる。すなわち、カバーヘッド240にインクが付着して固化した突起物が生じることが防止される。これにより、突起物が紙などの印刷媒体に接触し、紙面を擦ってしまうことが防止される。
【0052】
なお、本実施形態では、ノズルプレート20にも撥液膜23が設けられているので、ノズルプレート20の表面に突起物が生じることも防止されている。
【0053】
さらに、本実施形態に係る記録ヘッド1では、カバーヘッド240の全表面に撥液膜を設けずに、ヘッド本体220とは反対側の表面(外表面)にのみ撥液テープ25が設けられている。これにより、カバーヘッド240とノズルプレート20とを接着する接着剤28は、その接着力が低下しないので、カバーヘッド240とノズルプレート20とを確実に接合することができる。なお、本実施形態では、接着性を高めるために、突起を有する導電性部材をカバーヘッド240とノズルプレート20との間に介在させないので、ノズルプレート20が突起で損傷することが生じ得ない。
【0054】
また、従来技術に係る記録ヘッドでは、マスクを用いて、カバーヘッド240の外表面に選択的に撥液膜を形成すると、手間やコストが掛かる。またマスクの貼付・剥離によりカバーヘッド240が変形してしまう。
【0055】
しかしながら、本実施形態に係る記録ヘッド1では、このような手間やコストが掛かることなく、また、カバーヘッド240の変形を伴うことなく、カバーヘッド240の外表面に撥液テープ25を設けるだけで、外表面にインクが付着することを防止できる。
【0056】
ここで、仮に、接合部242と非撥液領域26とが面一でなく段差があると、撥液テープ25がその段差で折れ曲がった状態で接合部242及び非撥液領域26に接着されることになる。このため撥液テープ25は、折り曲げた状態から戻ろうとする復元力で接合部242又は非撥液領域26から剥離してしまう。
【0057】
しかしながら、本実施形態に係る記録ヘッド1は、ノズルプレート20に段差24を設け、段差24に接合部242を接合したことで、接合部242の表面がノズルプレート20の液体噴射面Aとほぼ面一になっている。このように面一となった接合部242及び非撥液領域26に撥液テープ25を折り曲げることなく平面的に貼付することができる。したがって、撥液テープ25は、接合部242及び非撥液領域26から剥離し難い。これにより、撥液テープ25の剥離が防止された記録ヘッド1が提供される。
【0058】
〈実施形態2〉
実施形態1では、撥液テープ25は、接着剤で非撥液領域26に接着されていたが、このような態様に限定されない。
【0059】
図6(a)は、実施形態2に係る記録ヘッドの要部拡大断面図である。なお、実施形態1と同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0060】
本実施形態に係る撥液テープ25は、金属からなる配線パターンが形成されたCOFフィルムである。撥液テープ25の端部25aには、ノズルプレート20の液体噴射面A側の表面に配線パターンの一部が露出している。その露出した配線パターンの一部には、半田29が設けられている。一方、ノズルプレート20は、SUSから形成されている。
【0061】
撥液テープ25は、実施形態1と同様に、カバーヘッド240の側壁部245及び接合部242を覆うと共に、端部25aが非撥液領域26にまで連続して覆っている。この端部25aと非撥液領域26とは、半田29により接合されている。
【0062】
このように半田29で金属接合することで、撥液テープ25をノズルプレート20により強固に接合することができる。なお、ノズルプレート20がシリコン単結晶基板から形成されている場合でも同様に半田による金属接合を行ってもよい。この場合、ノズルプレート20側にも、金属からなる配線パターンを形成しておく。そして、端部25aとノズルプレート20の双方にそれぞれ形成された配線パターン同士を半田29で金属接合する。
【0063】
また、実施形態1では、撥液テープ25は、ノズルプレート20の表面に接着されていたが、このような態様に限定されない。
【0064】
図6(b)は、実施形態2に係る記録ヘッドの要部拡大断面図である。なお、実施形態1と同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0065】
本実施形態に係るノズルプレート20には、液体噴射面Aに下地膜22が設けられ、下地膜22に撥液膜23が設けられている。
【0066】
ノズルプレート20の段差24近傍の端部は、撥液膜23が一部除去されて下地膜22が露出している。下地膜22と、段差24に接合された接合部242の表面とは、ほぼ面一となっている。この下地膜22が露出した部分が非撥液領域26である。
【0067】
撥液テープ25は、カバーヘッド240の側壁部245及び接合部242の表面を覆い、非撥液領域26まで連続して覆っている。下地膜22は、撥液膜23と異なり、接着剤の接着力を低下させないので、確実に、撥液テープ25をノズルプレート20に接合することができる。
【0068】
〈実施形態3〉
実施形態1及び実施形態2に例示した記録ヘッド1は、インクジェット式記録装置Iに搭載される。図7は、本発明の実施形態に係るインクジェット式記録装置を示す概略図である。
【0069】
図示するように、本実施形態の液体噴射装置であるインクジェット式記録装置Iは、例えば、ブラック(B)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)等の複数の異なる色のインクが貯留される貯留室を有するインクカートリッジ(液体貯留手段)2が装着された記録ヘッド1を具備する。記録ヘッド1はキャリッジ3に搭載されており、記録ヘッド1が搭載されたキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、キャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙装置等により給紙された紙等の被記録媒体Sがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0070】
〈他の実施形態〉
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0071】
例えば、上述した実施形態1では、ヘッド本体220のノズルプレート20を保持する固定部材として、カバーヘッド240を例示したが、固定部材は特にこれに限定されるものではない。例えば、側壁部245を有さず、接合部242のみからなる平板状の固定部材であってもよい。また、一つのカバーヘッド240が複数のヘッド本体220に共通に取り付けられていたが、このような態様に限定されない。例えば、一つのカバーヘッド240が一つのヘッド本体220に設けられていてもよい。
【0072】
撥液テープ25は、カバーヘッド240の外表面全体を覆う必要はなく、少なくとも一部の外表面に設けられていればよい。例えば、液体噴射面Aと面一となる接合部242の表面にのみ撥液テープ25が接合されてもよい。また、撥液テープ25は、液体噴射面Aの縁部全体に設けられていたが、このような態様に限定されない。例えば、ノズル21が封止されないように、液体噴射面Aの縁部の一部に撥液テープ25が接合されていてもよい。
【0073】
さらに、上述した実施形態1では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、撓み振動型の圧電素子300を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子などを使用することができる。また、圧力発生手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズルから液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズルから液滴を吐出させるものなどを使用することができる。
【0074】
なお、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド、インクジェット式記録ヘッドユニット及びインクジェット式記録装置Iを一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【符号の説明】
【0075】
I インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 1 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 10 流路形成基板、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 22 下地膜、 23 撥液膜、 24 段差、 25 撥液テープ、 25a 端部、 26 非撥液領域、 27 撥水領域、 28、 接着剤、 29 半田、 220 ヘッド本体、 240 カバーヘッド、 241 露出開口部、 242 接合部、 243 枠部、 244 梁部、 245 側壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルが設けられた液体噴射面を有するヘッド本体と、
前記ヘッド本体に固定され、前記ノズルが露出する露出開口を有する固定部材とを備え、
前記ヘッド本体の前記液体噴射面の縁部には、液体が吐出される方向と反対方向に前記液体噴射面よりも凹んだ段差が設けられ、
前記固定部材は、前記ヘッド本体の前記段差に接合され、
前記液体に対して撥液性を有する撥液部材が前記固定部材の少なくとも一部の表面から前記液体噴射面の一部まで連続して設けられている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記固定部材は、前記ヘッド本体の前記段差に金属接合されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記液体噴射面には、撥液膜が設けられた撥液領域と非撥液領域とを有し、
前記撥液部材は、前記固定部材少なくとも一部の表面から前記液体噴射面の非撥液領域まで連続して設けられている
ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−218255(P2012−218255A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84925(P2011−84925)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】