説明

液体噴射ヘッド

【課題】端子接合時の接続信頼性を維持しつつ、小型化が可能な液体噴射ヘッドを提供する。
【解決手段】個別素子電極端子48及び個別素子電極端子に接合されるフレキシブルケーブルの一端側個別電極配線端子53それぞれが、各圧力室の列設方向に沿って列設され、端子列設方向Xの端部側に位置する端部側個別素子電極端子48Bと、端部側個別素子電極端子に接合される一端側個別電極配線端子53Bとの少なくとも一方が、端子列設方向の中央部に位置する中央部個別素子電極端子48Aに対して傾斜した状態で配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力変動によってノズルから液滴を噴射するインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液滴として噴射させる液体噴射ヘッドとしては、例えば、インクジェット式記録装置(以下、単にプリンターという)などの画像記録装置に用いられるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)、液晶ディスプレイなどのカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)などの電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどがある。
【0003】
そして、液体噴射ヘッドの一種に、振動板に接合された圧電素子(圧力発生素子の一種)を変形させることで液滴を噴射させるように構成されたものがある。この液体噴射ヘッドでは、駆動電圧(駆動パルス)を印加して圧電素子を駆動させることで圧力室容積を変化させ、圧力室内に貯留された液体に圧力変動を生じさせ、この圧力変動を利用することでノズルから液滴を噴射させる。
【0004】
上記圧電素子は、COF(Chip On Film)やTCP(Tape Career Package)等の、圧電素子を駆動するためのICをポリイミド等のベースフィルムに実装したフィルム状の配線部材(以下、フレキシブルケーブル)が電気的に接続され、このフレキシブルケーブルを介して駆動電圧が供給されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。圧電素子は、下電極膜、圧電体層、及び上電極膜を有しており、一般的には、一方の電極(例えば、下電極膜)を、複数の圧電素子に共通の共通素子電極とし、他方の電極(例えば、上電極膜)を、各圧電素子に個別にパターニングされた個別素子電極としている。共通素子電極と個別素子電極との間に挟まれる圧電体層は、両電極間への駆動電圧の印加により圧電歪みが生じる圧電体能動部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−034293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年の記録ヘッドにおいては、ノズルの高密度化が望まれており、圧力発生素子から引き出された引き出し配線が高密度に配列されている。したがって、その線幅も細くなる傾向にあり、ともすると、隣接する配線同士が短絡してしまうことによる接続不良が発生する問題があった。また、ポリイミド等から構成されたフレキシブルケーブルは、圧電素子側の配線等への接合の際の加熱や吸湿によって、接合部分のうち特に端子を列設させて長尺となる端子列設方向に膨張することがあった。そのため、予め設定されたフレキシブルケーブルの端子と圧力発生素子側の端子との接合位置が位置ずれして、接続不良を招く虞があった。
【0007】
さらに、圧力室などの液体流路が形成された流路形成基板に重ねられる振動板上に、共通素子電極と個別素子電極とは電気的に独立して形成され、振動板の亀裂(クラック)を検出するためのクラックチェックパターンが圧力発生素子側の端子列よりも外側に配されている。しかしながら、クラックチェックパターンも、このパターンから引き出された引き出し配線の線幅も細くなる傾向にあり、フレキシブルケーブルの端子との接合精度確保が困難となる傾向があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、端子接合時の接続信頼性を維持しつつ、小型化が可能な液体噴射ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射ヘッドは、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズルに連通する圧力室が列設された流路形成基板と、
前記流路形成基板に振動板を介して配置されて前記圧力室内の液体に圧力変動を与える圧力発生素子と、
前記圧力発生素子の一部を構成する個別電極に導通する個別電極端子と、
前記圧力発生素子の一部を構成する共通電極に導通する共通電極端子と、
可撓性を有する絶縁部材に配線が施されて構成され、前記個別電極端子及び共通電極端子のそれぞれに接合される配線端子を有する配線部材と、を備え、
前記個別電極端子及び当該個別電極端子に接合される配線部材の個別配線端子それぞれが、各圧力室の列設方向に沿って列設され、
前記端子列設方向の端部側に位置する個別電極端子と、当該個別電極端子に接合される個別配線端子との少なくとも一方が、前記端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子に対して傾斜した状態で配置されていることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、個別電極端子及び当該個別電極端子に接合される個別配線端子それぞれが、各圧力室の列設方向に沿って列設され、端子列設方向の端部側に位置する個別電極端子と、当該個別電極端子に接合される個別配線端子との少なくとも一方が、端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子に対して端子列設方向に傾斜した状態で配置されているので、配線部材の個別配線端子を圧力発生素子側の個別電極端子に接合する際に、接合時の加熱や吸湿によって配線部材が端子列設方向に膨張して、個別配線端子間の間隔が広がったとしても、配線部材と圧力発生素子側とを端子列設方向とは交差する方向に相対的に移動させることで、端子の接合位置を合わせることができる。これにより、個別電極端子と個別配線端子とを位置合わせした状態で接合することができ、接合時の接続信頼性を維持しつつ、液体噴射ヘッドの小型化が可能となる。
【0011】
上記構成において、前記共通電極端子が、前記端子列設方向の線上に配置され、
前記共通電極端子と、当該共通電極端子に接合される共通配線端子との少なくとも一方が、前記端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子に対して前記端子列設方向に傾斜した状態で配置されている構成を採用することが望ましい。
【0012】
この構成によれば、共通電極端子が、端子列設方向の線上に配置され、共通電極端子と、共通電極端子に接合される共通配線端子との少なくとも一方が、端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子に対して端子列設方向に傾斜した状態で配置されているので、熱溶着によって配線部材の共通配線端子を圧力発生素子側の共通電極端子に接合する際に、溶着時の加熱により配線部材が端子列設方向に膨張したとしても、配線部材側と圧力発生素子側とを端子列設方向とは交差する方向に相対的に移動させることで、端子の接合位置を合わせることができる。これにより、共通電極端子と共通電極配線端子とを位置合わせした状態で接合することができる。
【0013】
上記構成において、前記振動板上に、前記個別電極及び共通電極とは電気的に独立した状態で金属層が形成され、
前記金属層は、前記端子列設方向の端部側に位置する個別電極端子よりも前記端子列設方向の外側に、前記配線部材の金属層配線端子と接合される金属層電極端子を有し、
前記金属層電極端子と、前記金属層配線端子との少なくとも一方が、前記端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子に対して前記端子列設方向に傾斜した状態で配置されている構成を採用することが望ましい。
【0014】
この構成によれば、振動板上に、個別電極及び共通電極とは電気的に独立した状態で金属層が形成され、金属層は、端子列設方向の端部側に位置する個別電極端子よりも端子列設方向の外側に、配線部材の金属層配線端子と接合される金属層電極端子を有し、金属層電極端子と、金属層配線端子との少なくとも一方が、端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子に対して端子列設方向に傾斜した状態で配置されているので、共通電極及び金属層と圧力室内の液体との導通検査をすることで、接続不良の発生位置及びその原因、具体的には、振動板に発生した亀裂(クラック)であるか、端子の接合不良であるのかを特定することができる。
【0015】
上記構成において、前記端子の傾斜角度が、前記端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子から離れる程、大きくなるように設定されている構成を採用することが望ましい。
【0016】
この構成によれば、端子の傾斜角度が、端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子から離れる程、大きくなるように設定されているので、電極端子と配線端子との接合位置をより正確に位置合わせすることができ、互いを位置合わせした状態で接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドを斜め上方から観た分解斜視図である。
【図3】ヘッドユニットの分解斜視図である。
【図4】ヘッドユニットの要部断面図である。
【図5】圧電素子の素子電極および電極端子のレイアウトについて説明する模式図である。
【図6】フレキシブルケーブル及びアクチュエーターユニットの構成を説明する斜視図である。
【図7】フレキシブルケーブルとアクチュエーターユニットとの接合時のアライメントを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明は、本発明の液体噴射ヘッドとして、インクジェット式プリンター(本発明の液体噴射装置の一種)に搭載されるインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を例に挙げて行う。
【0019】
まず、プリンターの概略構成について、図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2の表面へ液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、インクを噴射する記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送するプラテンローラー6等を備えている。ここで、上記のインクは、本発明の液体の一種であり、インクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジ7がプリンター1の本体側に配置され、当該インクカートリッジ7からインク供給チューブを通じて記録ヘッド3に供給される構成を採用することもできる。
【0020】
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。従ってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。
【0021】
図2は、上記記録ヘッド3の構成を示す分解斜視図である。本実施形態における記録ヘッド3は、ケース15と、複数のヘッドユニット16と、ユニット固定板17と、ヘッドカバー18とにより概略構成されている。
ケース15は、内部にヘッドユニット16や集束流路(図示せず)を収容する箱体状部材であり、上面側に針ホルダー19が形成されている。この針ホルダー19は、インク導入針20を取り付けるための板状部材であり、本実施形態においてはインクカートリッジ7のインク色に対応させて8本のインク導入針20がこの針ホルダー19に横並びに配設されている。このインク導入針20は、インクカートリッジ7内に挿入される中空針状の部材であり、先端部に開設された導入孔(図示せず)からインクカートリッジ7内に貯留されたインクをケース15内の集束流路を通じてヘッドユニット16側に導入するようになっている。
【0022】
また、ケース15の底面側には、4つのヘッドユニット16が、主走査方向に横並びに位置決めされた状態で各ヘッドユニット16に対応した4つの開口部17′を有する金属製のユニット固定板17に接合されると共に、同じく各ヘッドユニット16に対応する4つの開口部18′が開設された金属製のヘッドカバー18によって固定される。
【0023】
図3は、ヘッドユニット16(記録ヘッド3よりも狭義の液体噴射ヘッド)の構成を示す分解斜視図であり、図4は、ヘッドユニット16の断面図である。なお、便宜上、各部材の積層方向を上下方向として説明する。
本実施形態におけるヘッドユニット16は、ノズルプレート22、流路基板23(本発明における流路形成基板に相当)、共通液室基板24、及び、コンプライアンス基板25から概略構成され、これらの部材を積層した状態でユニットケース26に取り付けられている。
【0024】
ノズルプレート22(ノズル形成部材の一種)は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル27を列状に開設した板状の部材である。本実施形態では、180dpiのピッチで180個のノズル27を列設することでノズル列が構成されている。
【0025】
流路基板23は、その上面(共通液室基板24側の面)に二酸化シリコンからなる極薄い弾性膜30(本発明における振動板に相当)が熱酸化によって形成されている。この流路基板23には、図4に示すように、異方性エッチング処理によって複数の隔壁で区画された圧力室31が各ノズル27に対応して複数列設された状態で形成されている。この流路基板23における圧力室31の列の外側には、各圧力室31の共通のインクが導入される室としての共通液室32の一部を区画する連通空部33が形成されている。この連通空部33は、インク供給路34を介して各圧力室31と連通している。
【0026】
流路基板23の上面の弾性膜30上には、金属製の下電極膜(共通素子電極46)と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層(図示せず)と、金属からなる上電極膜(個別素子電極47)とを順次積層することで形成された圧電素子35(本発明における圧力発生素子に相当)が圧力室31毎に形成されている。この圧電素子35は、所謂撓みモードの圧電素子であり、圧力室31の上部を覆うように形成されている。圧電素子35の各素子電極47,46からはそれぞれ電極端子48,49が弾性膜30上に延出されており、これらの電極端子48,49に、フレキシブルケーブル39の配線端子53,55が電気的に接続されるようになっている。そして、各圧電素子35は、フレキシブルケーブル39を通じて個別素子電極47および共通素子電極46間に駆動電圧が印加されることにより変形するように構成されている。本実施形態において、上記弾性膜30、各電極46,47を含む圧電素子35、及び圧電素子35の各電極に導通する電極端子48,49が、本発明におけるアクチュエーターユニット45に相当する。なお、電極端子やフレキシブルケーブル39の詳細については後述する。
【0027】
上記圧電素子35が形成された流路基板23上には、厚さ方向に貫通した貫通空部36を有する共通液室基板24(保護基板)が配置される。この共通液室基板24は、流路基板23やノズルプレート22と同様にシリコン単結晶基板を用いて作製されている。また、この共通液室基板24における貫通空部36は、流路基板23の連通空部33と連通して共通液室32の一部を区画するようになっている。
【0028】
また、共通液室基板24の上面側には、コンプライアンス基板25が配置される。このコンプライアンス基板25における共通液室基板24の貫通空部36に対向する領域には、インク導入針20側からのインクを共通液室32に供給するためのインク導入口40が厚さ方向に貫通して形成されている。また、このコンプライアンス基板25のインク導入口40と対向する領域は、内部に空部を有する状態で隔壁が極薄く形成された可撓部41となっており、この可撓部41は、インク導入口40と連通する共通液室32内のインクの圧力変動を吸収するコンプライアンス部として機能するようになっている。
【0029】
ユニットケース26は、インク導入口40に連通してインク導入針20側から導入されたインクを共通液室32側に供給するためのインク導入路42が形成されると共に、可撓部41に対向する領域にこの可撓部41の膨張を許容する凹部43が形成された部材である。このユニットケース26の中心部には、厚さ方向に貫通した空部44が開設されており、この空部44内にフレキシブルケーブル39の一端側が挿通されて、アクチュエーターユニット45の素子電極端子と接続されるようになっている。
【0030】
そして、これらのノズルプレート22、流路基板23、共通液室基板24、コンプライアンス基板25、及び、ユニットケース26は、接着剤や熱溶着フィルム等を間に配置して積層した状態で加熱することで相互に接合される。
【0031】
以上のように構成されたヘッドユニット16を備える記録ヘッド3は、各ノズルプレート22がプラテン5に対向した状態でノズル列方向が副走査方向と一致するようにキャリッジ4に取り付けられる。そして、各ヘッドユニット16は、インクカートリッジ7からのインクを、インク導入路42を通じてインク導入口40から共通液室32側に取り込み、共通液室32からノズル27に至るインク流路(液体流路の一種)をインクで満たす。そして、フレキシブルケーブル39からの駆動電圧を圧電素子35に供給してこの圧電素子35を撓み変形させることによって、対応する圧力室31内のインクに圧力変動を生じさせ、このインクの圧力変動を利用してノズル27からインクを噴射させる。
【0032】
図5は、圧電素子35の素子電極および当該素子電極から延びる素子電極端子(リード電極)のレイアウトを説明する模式図である。なお、同図において、斜線で示す部分は、各電極端子48に接合されるフレキシブルケーブル39の配線端子である。また、同図では、横方向がノズル列設方向(圧電素子列設方向)であり、ノズル列2列分に対応する構成のうち一方の列の構成が主に図示され、当該一方の列の構成と同様な構成を含む他方の列については電極端子以外の部分が省略されている。本実施形態において、電極膜の材料としては、白金又は金が用いられる。
【0033】
本実施形態においては、圧力室31の一部を区画する弾性膜30上に各圧電素子35に共通な共通素子電極46が、ノズル列方向に沿って同方向に長尺な平面視矩形状に連続的に形成され、その上に圧電体層(図示せず)、個別素子電極47が順次積層されて圧電素子35毎にパターニングされている。個別素子電極47の長手方向(ノズル列方向に直交する方向)の寸法は、共通素子電極46の短尺方向の幅よりも少し長くなっている。また、個別素子電極47の幅方向(短尺方向)の寸法は、圧力発生素子35の幅と同程度に揃えられている。
【0034】
また、隣り合うノズル列の間には、各個別素子電極47に対応して当該電極47に導通する平面視短冊状の個別素子電極端子48(個別電極端子の一種)が圧力室31の列設方向(ノズル列方向)に複数列設して形成されている。より具体的には、個別素子電極端子48のうち、端子列設方向(ノズル列方向と同方向であり、図5中に符号Xで示す)の中央部に位置する中央部個別素子電極端子48Aは、端子列設方向Xに直交する方向に沿って延びている。その一方、端子列設方向Xの端部側に位置する端部側個別素子電極端子48Bの個別素子電極47に接続されている側の根元部分は端子列設方向Xに直交する方向に沿って延び、その途中から中央部個別素子電極端子48Aに対して傾斜するように屈曲し、その屈曲から先端部分までは端子列設方向Xに交差する方向に沿って斜めに延びている。より具体的には、一方のノズル列に対応する端部側個別素子電極端子48Bは、根元側よりも先端側が中央部個別素子電極端子48A(端子列設方向の中央に端子が形成されていない場合は、端子列設方向の中間地点。以下、同様。)に近づくように内側に向けて傾斜し、その隣に図示した他方のノズル列に対応する端部側個別素子電極端子48b(48B)は、根元側よりも先端側が中央部個別素子電極端子48Aから遠ざかるように外側に向けて傾斜している。なお、端部側個別素子電極端子48Bの傾斜方向については、例示した構成とは逆になるようにしても良い。即ち、一方のノズル列に対応する端部側個別素子電極端子48Bが、根元側よりも先端側が中央部個別素子電極端子48Aに遠ざかるように外側に向けて傾斜し、他方のノズル列に対応する端部側個別素子電極端子48Bが、根元側よりも先端側が中央部個別素子電極端子48Aに近づくように内側に向けて傾斜する構成を採用することもできる。この場合、後述する共通素子電極端子49、金属層電極端子51、およびフレキシブルケーブル39の各配線端子の傾斜方向も同様に本実施形態の場合とは逆向きとなる。また、端部側個別素子電極端子48Bとは、中央部個別素子電極端子48Aから端子列設方向両側の所定の本数の端部側個別素子電極端子48を中央側個別素子電極端子群として、当該中央側個別素子電極端子群よりも端子列設方向外側に位置する個別素子電極端子48を意味する。或いは、後述する第2の実施形態のように、中央部個別素子電極端子48A以外の(端子列設方向の中央に電極端子が形成されていない場合は端子列設方向の中間地点よりも端子列設方向外側に位置する)個別素子電極端子48を、端部側個別素子電極端子48Bとする場合もある。
【0035】
即ち、両ノズル列の各別素子電極端子48は、全体で見て、他方のノズル列側に偏った位置に設定された仮想原点(図5中に符号Oで示す)を中心(目安)とした放射線状に配置されている。この個別素子電極端子48の長尺方向の寸法は、隣の共通素子電極46に接触しない程度の長さに設定されている。また、個別素子電極端子48の幅方向(短尺方向)の寸法は、個別素子電極47の幅と同程度に揃えられている。そして、一方(図において上側)のノズル列に対応する個別素子電極端子48aと、他方(図において省略された下側)のノズル列に対応する個別素子電極端子48bとは、ノズル列方向において互い違いとなるように一定のピッチで列状に配置されている。これらの個別素子電極端子48は、フレキシブルケーブル39の一端側個別電極配線端子53(図6参照)と電気的に接続される部分である。
【0036】
また、ノズル列に対応する各共通素子電極46のノズル列方向両側には、平面視短冊状の共通素子電極端子49(共通電極端子の一種)がそれぞれ端子列設方向Xの線上に形成されている。より具体的には、共通素子電極端子49の根元部分は端子列設方向Xに直交する方向に沿って延び、その途中から中央部個別素子電極端子48Aに対して傾斜するように屈曲し、その屈曲部分から先端までが端子列設方向Xに交差する方向に沿って斜めに延びている。より具体的には、一方のノズル列に対応する共通素子電極端子49aは、根元部分よりも先端部分が中央部個別素子電極端子48Aに近づくように内側に向けて傾斜し、他方のノズル列に対応する共通素子電極端子49bは、根元部分よりも先端部分が中央部個別素子電極端子48Aから遠ざかるように外側に向けて傾斜している。
そして、一方(図において上側)のノズル列に対応する共通素子電極端子49aと、他方(図において省略された下側)のノズル列に対応する共通素子電極端子49bとは、互いの間隔を開けて対となるように端部側個別素子電極端子48Bよりも端子列設方向Xの外側に配置されている。これらの共通素子電極端子49は、フレキシブルケーブル39の一端側共通電極配線端子55(図6参照)と電気的に接続される部分である。
【0037】
さらに、本実施形態においては、弾性膜30上に、個別素子電極端子48を含む個別素子電極47及び共通素子電極端子49を含む共通素子電極46それぞれとは電気的に独立した状態で金属層50が形成されている。金属層50は、共通素子電極46とは一定の隙間を開けた状態で、共通素子電極46よりも外側の弾性板30上を覆うように設けられている。ノズル列に対応する各金属層50のノズル列方向一側(図において左側)には、平面視短冊状の金属層電極端子51が個別素子電極端子よりも端子列設方向Xの外側に設けられている。より具体的には、金属層電極端子51の根元部分が端子列設方向Xに直交する方向に沿って延び、その途中から中央部個別素子電極端子48Aに対して傾斜するように屈曲し、その屈曲部分から先端までが端子列設方向Xに交差する方向に沿って斜めに延びている。即ち、金属層電極端子51は、金属層50とは反対側の屈曲部分が中央部個別素子電極端子48Aに対して傾斜した状態で配置されている。そして、金属層電極端子51は、フレキシブルケーブル39の一端側金属層配線端子57(図6参照)と電気的に接続される部分である。
【0038】
図6は、フレキシブルケーブル(本発明における配線部材に相当)及びアクチュエーターユニット45の構成を説明する斜視図である。
フレキシブルケーブル39は、ポリイミド等の矩形状のベースフィルムの一方の面(表面)に圧電素子35への駆動電圧の印加を制御するための制御IC52が実装されると共に、この制御IC52に接続される個別電極配線と共通電極配線と金属層配線のパターン(何れも図示せず)が形成されている。また、フレキシブルケーブル39の一端部(図6における下側の端部)には、アクチュエーターユニット45の各個別素子電極端子48(48a,48b)に対応して、一端側個別電極配線端子53(本発明における個別電極配線端子の一種)が、複数列設されている。また、この一端部において、一端側個別電極配線端子53群の列設方向外側には、アクチュエーターユニット45の各共通素子電極端子49(49a,49b)に対応して、一端側共通電極配線端子55(本発明における共通電極配線端子の一種)が個別素子電極端子48を避けた位置に複数列設されている。さらに、この一端部において、一端側共通電極配線端子55よりも一端側個別電極配線端子53群の列設方向外側には、アクチュエーターユニット45の各金属層電極端子51に対応して、一端側金属層配線端子57(本発明における金属層配線端子の一種)が設けられている。
【0039】
フレキシブルケーブル39の他端部(図6における上側の端部)の表面側には、プリンター本体側からの信号を中継する基板(図示せず)の基板端子部に接続される他端側個別電極配線端子54が複数列設されている。また、この他端部には、上記基板の基板端子部に接続される他端側共通電極配線端子58が、他端側個別電極配線端子54群の列設方向両側にそれぞれ形成されている。さらに、この他端部には、上記基板の基板端子部に接続される他端側金属層配線端子58が、他端側共通電極配線端子58よりも他端側個別電極配線端子54群の列設方向外側に形成されている。そして、フレキシブルケーブル39は、配線端子(個別電極配線端子53,54と共通電極配線端子55,56と金属層配線端子55)以外の配線パターンや制御IC52をレジストで覆われている。
【0040】
アクチュエーターユニット45への配線(接合)作業時において、フレキシブルケーブル39の一端部は、配線端子形成領域と配線パターン形成領域との間で配線パターン等形成面側とは反対側に向けて略直角に屈曲された状態とされる(図3,4及び6参照)。この状態では、各配線端子53,55,57が形成された部分が、アクチュエーターユニット45への取り付け時にアクチュエーターユニット45側の各電極端子48,49,51に対向する。この接合時において、本実施形態では、図5に示すように、一端側個別電極配線端子53のうち、中央部個別素子電極端子48Aに接合される一端側個別電極配線端子53Aは、端子列設方向Xに直交する方向に沿って延びている。その一方、端部側個別素子電極端子48Bに接合される一端側個別電極配線端子53Bは、中央部個別素子電極端子48Aに対して傾斜した状態で配置されている。また、共通素子電極端子49に接合される一端側共通電極配線端子55及び金属層電極端子51に接合される一端側金属層配線端子57は、中央部個別素子電極端子48Aに対して傾斜した状態で配置されている。これらの配線端子53B,55,57の傾斜方向は、アクチュエーターユニット側の対応する端子の傾斜方向に合わせられている。
【0041】
そして、各配線端子53,55,57には、予めハンダメッキが施されており、これらの配線端子53,55,57がアクチュエーターユニット45側の対応する電極端子48,49,51にハンダ付けされることによって電気的に接続され、フレキシブルケーブル39がアクチュエーターユニット45に取り付けられる。即ち、フレキシブルケーブル39の各一端側個別電極配線端子53は、アクチュエーターユニット45側の対応する個別素子電極端子48にそれぞれ接続され、フレキシブルケーブル39の一端側共通電極配線端子55は、アクチュエーターユニット45側の対応する共通素子電極端子49a,49bにそれぞれ接続される。また、各配線端子54,56,58は、上記基板の対応する基板端子にハンダ付けされることによって電気的に接続される。
【0042】
次に、圧電素子35側への接合時に、フレキシブルケーブル39が膨張した場合について説明する。
図7は、フレキシブルケーブル39とアクチュエーターユニット45との接合時のアライメントを説明する模式図である。
フレキシブルケーブル39は、上記したようにポリイミド等のベースフィルムから構成されており、ハンダ付けなどによる圧電素子35側への接合時の加熱や吸湿によって、このベースフィルムが、特に端子を列設させて長尺となる端子列設方向Xに膨張して、ベースフィルム上に形成された各配線端子54,56,58同士の間隔が広がる。これにより各電極端子48,49,51に対する各配線端子54,56,58の接合位置が、端子列設方向Xに位置ずれする(図7中に破線で示す)。このように接合位置がずれた後に、画像処理などにより端子の接合位置を検出しつつ、端子列設方向Xに直交した方向であって仮想原点Oから離れる向きに、フレキシブルケーブル39を圧電素子35に対して相対的に移動(スライド)させることで(移動方向を図中に符号Pで示す)、各電極端子48,49,51と各配線端子54,56,58との位置合わせをすることができる。なお、フレキシブルケーブル39が、温度低下や湿度低下によって収縮した場合には、移動方向Pとは反対側に、フレキシブルケーブル39を圧電素子35に対して相対的に移動させても良い。
【0043】
このように、本実施形態の記録ヘッド3は、圧電素子35側の端部側個別素子電極端子48B,共通素子電極端子49及び金属層電極端子51と、これらに接合されるフレキシブルケーブル39の一端側個別電極配線端子53B,一端側共通電極配線端子55及び一端側金属層配線端子57とが、端子列設方向Xに沿って列設されると共に、中央部個別素子電極端子48Aに対して端子列設方向Aの傾斜した状態で配置されているので、フレキシブルケーブル39の配線端子53,55,57を圧電素子35側の電極端子48,49,51に接合する際に、接合時の加熱や吸湿によってフレキシブルケーブル39が端子列設方向Xに膨張して、配線端子53,55,57間の間隔が広がったとしても、フレキシブルケーブル39を圧電素子35に対して端子列設方向Xとは直交した方向であって仮想原点Oから離れる向きである移動方向Pに相対的に移動させることで、配線端子53,55,57と電極端子48,49,51との接合位置を位置合わせすることができる。これにより、配線端子53,55,57と電極端子48,49,51とを位置合わせして接合面積を確保した状態で接合することができ、接合時の接続信頼性を維持しつつ、記録ヘッド3の小型化が可能となる。
【0044】
また、弾性体膜30上に、個別素子電極47及び共通素子電極46とは電気的に独立した状態で金属層50が形成され、金属層50は、端子列設方向Xの端部側に位置する端部側個別素子電極端子48Bよりも端子列設方向Xの外側に、フレキシブルケーブル39の一端側金属層配線端子57と接合される金属層電極端子51を有し、金属層電極端子51と、一端側金属層配線端子57との少なくとも一方が、端子列設方向Xの中央部に位置する中央部個別素子電極端子48Aに対して端子列設方向Xの傾斜した状態で配置されているので、共通素子電極46及び金属層50と圧力室31内のインクとの導通検査をすることで、接続不良の発生位置及びその原因、具体的には、弾性体膜30に発生した亀裂(クラック)であるか、端子の接合不良であるのかを特定することができる。
【0045】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0046】
上記実施形態では、中央部個別素子電極端子48Aに対して傾斜させた端子の角度が、一定であったが、本発明では、端子の傾斜角度を、端子列設方向Xの中央部に位置する中央部個別素子電極端子48Aから離れる程、大きくなるように設定しても良い(第2の実施形態)。これにより、配線端子53,55,57と電極端子48,49,51との接合位置をより正確に位置合わせすることができ、互いを位置合わせした状態で接合することができる。
【0047】
例えば、上記実施形態においては、圧力発生手段として、所謂撓み振動モードの圧電素子35を例示したが、これには限られない。例えば、所謂縦振動モードの圧電素子や発熱素子を用いる場合にも本発明を適用することが可能である。
【0048】
そして、本発明は、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…プリンター,3…記録ヘッド,16…ヘッドユニット,23…流路基板,27…ノズル,30…弾性体膜,31…圧力室,35…圧電素子,39…フレキシブルケーブル,46…共通素子電極,47…個別素子電極,48…個別素子電極端子,49…共通素子電極端子,50…金属層,51…金属層電極端子,53…一端側個別電極配線端子,55…一端側共通電極配線端子,57…一端側金属層配線端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルに連通する圧力室が列設された流路形成基板と、
前記流路形成基板に振動板を介して配置されて前記圧力室内の液体に圧力変動を与える圧力発生素子と、
前記圧力発生素子の一部を構成する個別電極に導通する個別電極端子と、
前記圧力発生素子の一部を構成する共通電極に導通する共通電極端子と、
可撓性を有する絶縁部材に配線が施されて構成され、前記個別電極端子及び共通電極端子のそれぞれに接合される配線端子を有する配線部材と、を備え、
前記個別電極端子及び当該個別電極端子に接合される配線部材の個別配線端子それぞれが、各圧力室の列設方向に沿って列設され、
前記端子列設方向の端部側に位置する個別電極端子と、当該個別電極端子に接合される個別配線端子との少なくとも一方が、前記端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子に対して傾斜した状態で配置されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記共通電極端子が、前記端子列設方向の線上に配置され、
前記共通電極端子と、当該共通電極端子に接合される共通配線端子との少なくとも一方が、前記端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子に対して傾斜した状態で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記振動板上に、前記個別電極及び共通電極とは電気的に独立した状態で金属層が形成され、
前記金属層は、前記端子列設方向の端部側に位置する個別電極端子よりも前記端子列設方向の外側に、前記配線部材の金属層配線端子と接合される金属層電極端子を有し、
前記金属層電極端子と、前記金属層配線端子との少なくとも一方が、前記端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子に対して傾斜した状態で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記端子の傾斜角度が、前記端子列設方向の中央部に位置する個別電極端子から離れる程、大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−167964(P2011−167964A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34705(P2010−34705)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】