説明

液体噴射装置、および、液体噴射装置の制御方法

【課題】駆動頻度に関わらず圧電振動子の特性を揃えることが可能な液体噴射装置、および、その制御方法を提供する。
【解決手段】 プリンター内部の温度を検出する温度センサーと、圧電振動子の変位量の測定処理、および、測定された変位量に応じて圧電振動子を駆動させてエージング処理を実行するプリンターコントローラーと、を備え、プリンターコントローラーは、温度センサーによって検出された温度に応じて、圧電振動子の変位量の測定処理および圧電振動子のエージング処理を実行するタイミングを変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置、および、液体噴射装置の制御方法に関し、特に、駆動信号に含まれる駆動波形を圧力発生手段に印加することにより当該圧力発生手段を駆動させ、ノズルに連通する圧力室内の液体に圧力変動を生じさせることでノズルから液体を噴射させる液体噴射装置、および、液体噴射装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射(吐出)する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記の液体噴射ヘッドとしては、駆動波形を圧電振動子等の圧力発生手段に印加して当該圧力発生手段を駆動させることで、圧力室内の機能性液体に圧力変動を生じさせ、この圧力変動を利用してノズルから液体を噴射するように構成されたものがある。このような液体噴射方式を採用する液体噴射ヘッドでは、駆動回数が増加するにつれて変位量等の特性が変化していくことが判っている。例えば、圧力発生手段の一種である圧電振動子は、繰り返し駆動することにより分極特性が変化して変位量が低下する傾向にある。分極特性の変化は、駆動の繰り返しによって圧電体が印加電界と異なる方向に分極してしまうために生じる。このような特性の変化(劣化)が生じた場合、上記の駆動波形を初期の設定のまま用いて圧力発生手段を駆動した場合、ノズルから噴射されるインクの量や飛翔速度(噴射特性)も低下してしまうという問題があった。そして、ノズルの使用状況によっては、特性の変化度合いにばらつきが生じるため、例えば、記録画像等にムラやスジが発生する虞があった。
【0004】
上記の不具合に鑑み、ノズル列毎の圧力発生手段の駆動状況に応じて駆動電圧を補正することで、噴射特性の低下を防止した構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2009−066948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の構成では、特性の劣化が進むほど駆動電圧が高められるため、使用率が比較的高いノズルに対応する圧力発生手段の劣化がさらに進んでしまい、特性のバラツキをさらに拡大させてしまう虞があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、駆動頻度に関わらず圧力発生手段の特性を揃えることが可能な液体噴射装置、および、その制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズルに連通する圧力室に圧力変動を生じさせる圧電振動子を有し、当該圧電振動子の駆動により前記ノズルから記録媒体に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
液体噴射装置内の温度を検出する温度検出手段と、
前記圧電振動子の変位量の測定処理、および、測定された変位量に応じて前記圧電振動子を駆動させてエージング処理を実行する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段によって検出された温度に応じてエージング処理を実行するタイミングを変更することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、測定された変位量に応じて圧電振動子を駆動させてエージング処理が行われるので、すなわち、各圧力発生手段の劣化の度合いに応じて適切にエージング処理が行われるので、各圧力発生手段の特性のばらつきを低減することが可能となる。その結果、各ノズルの噴射特性を可及的に揃えることが可能となる。また、温度検出手段によって検出された温度に応じて変位量測定処理およびエージング処理を実行するタイミングを変更するので、過不足なくエージング処理を行うことができる。
【0010】
上記構成において、前記制御手段は、前記温度検出手段によって検出された温度が第1の温度のときは、第1のタイミングで変位量測定処理およびエージング処理を実行し、前記温度検出手段によって検出された温度が第1の温度より高い第2の温度のときは、第1のタイミングより早い第2のタイミングで変位量測定処理およびエージング処理を実行する構成を採用することが望ましい。
【0011】
上記構成において、前記記録媒体を加熱するヒーターを備える構成を採用することができる。
この構成において、前記ヒーターは、前記液体噴射ヘッドによって液体の噴射が行われている状態の記録媒体を加熱するメインヒーターと、前記液体噴射ヘッドによる液体噴射が行われる前の記録媒体を加熱するプレヒーターと、前記液体噴射ヘッドによる液体噴射後の記録媒体を加熱するポストヒーターと、を含み、
前記制御手段は、各ヒーターのオン又はオフの状況に応じて、変位量測定処理およびエージング処理を実行するタイミングを変更する構成を採用することが望ましい。
【0012】
この構成によれば、各ヒーターのオン又はオフの状況に応じて、変位量測定処理およびエージング処理を実行するタイミングを変更するので、過不足なくエージング処理を行うことができる。
【0013】
また、本発明の液体噴射装置の制御方法は、ノズルに連通する圧力室に圧力変動を生じさせる圧電振動子を有し、当該圧電振動子の駆動により前記ノズルから記録媒体に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
液体噴射装置内の温度を検出する温度検出手段と、
前記圧電振動子の変位量の測定、および、測定された変位量に応じて前記圧電振動子を駆動させてエージング処理を行う制御手段と、
を備える液体噴射装置の制御方法であって、
前記温度検出手段によって検出された温度に応じてエージング処理を実行するタイミングを変更することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する斜視図である。
【図3】ノズルプレートの構成を説明する平面図である。
【図4】プリンターの電気的構成を説明するブロック図である。
【図5】駆動信号の構成を説明する波形図である。
【図6】本発明が適用されていない場合における圧電振動子の変位量の変化について説明するグラフである。
【図7】本発明が適用された場合における圧電振動子の変位量の変化について説明するグラフである。
【図8】プリンターの動作を説明するフローチャートである。
【図9】第2実施形態におけるプリンターの構成を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0016】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。例示したプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2から、記録紙6、布、フィルム等の記録媒体(液体の着弾対象)に向けて、液体の一種であるインクを噴射する。このプリンター1は、記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する紙送り機構8と、を備えている。
【0017】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)がプリンターコントローラー36のCPU38(図4参照)に送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスを、主走査方向における位置情報として出力する。このため、CPU38は、受信したエンコーダーパルスに基づいてキャリッジ4に搭載された記録ヘッド2の走査位置を認識できる。即ち、例えば、受信したエンコーダーパルスをカウントすることで、キャリッジ4の位置を認識することができる。これにより、CPU38はこのリニアエンコーダー10からのエンコーダーパルスに基づいてキャリッジ4(記録ヘッド2)の走査位置を認識しながら、記録ヘッド2による記録動作を制御する。
【0018】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート29:図3参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する双方向記録を行う。
【0019】
図2は、記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。本実施形態における記録ヘッド2は、圧力発生ユニット15と流路ユニット16とから構成されており、これらを重ね合わせて一体化されている。圧力発生ユニット15は、圧力室17を区画する圧力室プレート18、供給側連通口22及び第1連通口24aを開設した連通口プレート19、及び、圧電振動子20を実装した振動板21と、を積層し、焼成等により一体化することで構成されている。また、流路ユニット16は、供給口23や第2連通口24bを形成した供給口プレート25、リザーバー26や第3連通口24cを形成したリザーバープレート27、及び、ノズル28が形成されたノズルプレート29からなるプレート部材を積層状態で接着することで構成されている。
【0020】
図3は、ノズルプレート29の構成を説明する図である。本実施例におけるノズルプレート29は、インクを噴射するノズル28が、記録紙2の搬送方向と平行に360個が並ぶノズル列33(ノズル群の一種)を構成している。本実施形態におけるノズル列33は、例えば360dpiの形成ピッチで開設されたノズル28から成り、ノズルプレート29に合計4列(33a〜33d)形成されている。上記ノズル列33を用いたバンド記録の詳細については後述する。なお、1つのノズル列33を構成するノズル28の数や、ノズル列33の本数に関しては例示したものには限られない。
【0021】
圧力室17とは反対側となる振動板21の外側表面には、圧力室17毎に対応して圧電振動子20が配設される。例示した圧電振動子20は、所謂撓み振動モードの圧電振動子であり、駆動電極20aと共通電極20bとによって圧電体20cを挟んで構成されている。そして、圧電振動子20の駆動電極に駆動信号(駆動パルス)が印加されると、駆動電極20aと共通電極20bとの間には電位差に応じた電場が発生する。この電場は圧電体20cに付与され、圧電体20cが付与された電場の強さに応じて変形する。即ち、駆動電極20aの電位を高くする程、圧電体層20cの幅方向(ノズル列方向)の中央部が圧力室17の内側(ノズルプレート29に近づく側)に撓み、圧力室17の容積を減少させるように振動板21を変形させる。一方、駆動電極20aの電位を低くする程(接地電位に近づける程)、圧電体層20cの短尺方向の中央部が圧力室17の外側(ノズルプレート29から離れる側)に撓み、圧力室17の容積を増加させるように振動板21を変形させる。
【0022】
次に、プリンター1の電気的構成を説明する。
図4は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置35は、例えばコンピューターやデジタルカメラなどの画像を取り扱う電子機器である。この外部装置35は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1において記録紙等の記録媒体に画像やテキストを印刷させるため、その画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0023】
本実施形態におけるプリンター1は、紙送り機構8、キャリッジ移動機構7、リニアエンコーダー10、温度センサー41、記録ヘッド2、及び、プリンターコントローラー36を有する。温度センサー41は、サーミスタ及びA/D変換器などで構成される。この温度センサー41は、本発明における温度検出手段として機能し、プリンター1の内部(特に記録ヘッド周辺)の環境温度を検出し、検出した温度に比例した大きさの信号をプリンターコントローラー36に出力する。
【0024】
プリンターコントローラー36は、本発明における制御手段の一種であり、プリンターの各部の制御を行う制御ユニットである。プリンターコントローラー36は、インターフェース(I/F)部37と、CPU38と、記憶部39と、駆動信号生成部40と、を有する。インターフェース部37は、外部装置35からプリンター1へ印刷データや印刷命令を送ったり、外部装置35がプリンター1の状態情報を受け取ったりする等プリンターの状態データの送受信を行う。CPU38は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。記憶部39は、CPU38のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。CPU38は、記憶部39に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。
【0025】
駆動信号生成部40は、駆動波形発生手段として機能する部分であり、駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。また、駆動信号生成部40は、上記の電圧信号を増幅して駆動信号COMを生成する。本実施形態におけるプリンター1は、液量の異なるインク滴を噴射することで、大きさの異なるドットを記録紙6に形成する多階調記録が可能であり、本実施形態においては、大ドット、中ドット、小ドット、及び非噴射(微振動)の4階調での記録動作が可能に構成されている。そして、駆動信号生成部40は、例えば、図5(a)に示す第1噴射駆動パルスDP1、第2噴射駆動パルスDP2、第3噴射駆動パルスDP3、第4噴射駆動パルスDP4、及び、非噴射のノズル28のメニスカスを微振動させる印字内微振動パルスVP1(何れも、本発明における駆動波形の一種。)を含んで構成される第1駆動信号COM1を発生する。この第1駆動信号COM1は、記録媒体(記録紙6)に対してインクを噴射して画像やテキスト等を記録(印刷)する際に用いられる駆動信号であり、記録ヘッド2が記録紙6上における記録領域(1回のパス(主走査)において記録(ドットの形成)が行われる領域。)内で定速移動しているとき(以下、単に定速移動時という)に、この第1駆動信号COM1の駆動パルスのうち何れかが選択的に圧電振動子20に印加される。
【0026】
噴射駆動パルスDP1〜DP4は、ノズル28からインクを噴射させるべく駆動電圧(駆動パルスの最低電位から最高電位までの電位差)や波形等が定められた駆動パルスである。そして、駆動信号COM1に含まれる各噴射駆動パルスの選択数に応じて、記録媒体に対して記録するドットの大きさが変わる。具体的には、噴射駆動パルスDP1〜DP4の4つの噴射駆動パルス全てが選択されて圧電振動子20に印加されると、ノズル28からインクが4回連続して噴射される。これらのインクが記録媒体における所定の画素領域に着弾すると大ドットが形成される。同様に、各噴射駆動パルスのうちの2つ、例えば、第1噴射駆動パルスDP1および第3噴射駆動パルスDP3が選択されて圧電振動子20に印加されると、ノズル28からインクが2回連続して噴射され、記録媒体上には中ドットが形成される。また、各噴射駆動パルスのうちの1つ、例えば、第2噴射駆動パルスDP2が選択されて圧電振動子20に印加されると、ノズル28からインクが1回噴射され、記録媒体上には小ドットが形成される。なお、ドットの大きさを示す大・中・小は相対的なものであり、実際のドットの大きさや液量についてはプリンター1の仕様に応じて定められる。また、印字内微振動パルスVP1は、記録動作中のノズル28におけるインクの増粘を抑制するべく、ノズル28からインクが噴射されない程度にメニスカスを微振動させ得る駆動電圧や波形に設定された駆動パルスである。なお、噴射駆動パルスDP1〜DP4、および、印字内微振動パルスVP1の構成およびその作用は周知であるため、これらの詳細な説明は省略する。
【0027】
本実施形態における駆動信号生成部40は、図5(b)に示すように、後述するエージング処理で使用される第2駆動信号COM2を発生するように構成されている。この第2駆動信号COM2には、圧電振動子20を駆動して当該圧電振動子20の特性劣化を促進させるためのエージング駆動パルスAP(非噴射駆動波形の一種)が含まれる。このエージング駆動パルスAPは、最高電位VHaから最低電位VLaまでマイナス側(第2の極性側、若しくは接地電位(GND)側)に電位を変化させる第1電位変化部p21と、最低電位VLaを所定時間維持する電位維持部p22と、最低電位VLaから電位をプラス側(第1の極性側)に変化させて最高電位VHaまで変化させる第2電位変化部p23とにより構成されている。
【0028】
このエージング駆動パルスAPの駆動電圧(エージング駆動パルスAPの駆動パラメーターの一種。)、すなわち、最高電位VHaから最低電位VLaまでの電位差VDaは、圧電振動子20を最大限(或いはその近傍まで)に変形させ得る値に設定されている。また、第1電位変化部p21の単位時間あたりの電位変化率(エージング駆動パルスAPの駆動パラメーターの一種。以下、単に電位変化率という。)VDa/Ta1は、ノズル28からインクが噴射されない程度の値に設定されている。同様に、第2電位変化部p23の電位変化率VDa/Ta2についても、ノズル28からインクが噴射されない程度の値に設定されている。このように、第1電位変化部p21および第2電位変化部p23の電位変化率をインクが噴射されない値に設定することで、エージング処理時にインクが噴射されないので、インクの無駄な消費を抑えることができる。ただし、電位変化率VDa/Ta1およびVDa/Ta2はノズル28からインクが噴射される値であっても良い。
【0029】
本実施形態における駆動信号COM2の基準電位は、最高電位VHaとなっている。このため、エージング処理では、圧電振動子20が圧力室17の内側(ノズル28側)に彎曲する状態に最大限(或いはその近傍)まで撓んで、圧力室17が膨張した状態が基準状態となる。そして、エージング駆動パルスAPが圧電振動子20に供給されると、第1電位変化部p21により、圧電振動子20が圧力室17の外側に彎曲して、最大限またはその近傍まで撓む。これに伴い、圧力室17が膨張する。そして、電位維持部p22により圧力室17の膨張状態が所定時間維持される。このとき、その後、第2電位変化部p23が供給されることにより、圧電振動子20が元の状態(最高電位VHaに対応する状態)まで圧力室17の内側に向けて撓む。これにより、圧力室17が基準容積に復帰する。この一連の駆動により当該圧電振動子20がインクを噴射する際の動作よりも大きく変位するので、圧電特性の劣化が促進される。このエージング駆動パルスAPを用いたエージング処理については後述する。
【0030】
プリンターコントローラー36のCPU38は、リニアエンコーダー10から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成するタイミングパルス生成手段として機能する。そして、CPU38は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号生成部40による駆動信号の生成等を制御する。また、CPU38は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2のヘッド制御部53に出力する。ヘッド制御部53は、プリンターコントローラー36からのヘッド制御信号(印刷データおよびタイミング信号)に基づき、記録ヘッド2の圧電振動子20に対する駆動信号COMに含まれる噴射駆動パルスやエージング駆動パルスの印加制御等を行う。
【0031】
次に、この種の記録ヘッドに用いられる圧電振動子の特性劣化について説明する。
図6は、本発明を適用していない場合における圧電振動子の特性劣化、具体的には、変位量の変化について説明するグラフであり、横軸は総ショット数(記録ヘッドにおける全てのノズルのインク噴射回数の総数)、縦軸は圧電振動子の変位量である。同図において、Aは最も噴射頻度が少ないノズルに対応する圧電振動子の変位量変化を示し、Bは最も噴射頻度が多いノズルに対応する圧電振動子の変位量変化を示している。また、IVは、圧電振動子の変位量の初期値を示している。圧電振動子は、駆動を繰り返していくうちに特性が劣化して変位量が次第に低下していく。そして、例えば、バーコードなどの特定の画像を繰り返し印刷する用途に用いられるプリンター(所謂ラベルプリンター)などでは、ノズル毎にインクの噴射頻度が大きく異なるケースがあるため、この場合、総ショット数が増加するに連れて圧電振動子の変位量の差が大きくなる傾向にある。これにより、何らかの対策を講じない場合、ノズル間でインクの噴射特性に差が生じ、記録媒体に記録された記録画像に色ムラやスジなどが生じ、画質の低下に繋がる虞がある。
【0032】
上記の点に鑑み、本発明に係るプリンター1では、所定の期間が経過した場合(工場出荷後からの経過時間、或いは、前回のエージング処理からの経過時間など)、記録ヘッド2の総ショット数が所定の値に達した場合、或いは、記録を行った記録媒体の数が所定数に達した場合など、特定の条件が成立した場合に圧電振動子20の変位量の測定を行い、測定結果に応じてエージング処理を実行し、各ノズル28に対応する圧電振動子20の特性を可及的に揃えるようにしている。ここで、圧電振動子20の劣化の進行度合いは、温度に依存していることが判っている。具体的には、環境温度が高いほど圧電振動子20の劣化の進行が早くなる一方、環境温度が低いほど圧電振動子20の劣化の進行が遅くなる傾向にある。したがって、温度が比較的高い環境下では、変位量の測定およびエージング処理(以下、適宜、変位量測定等と略記する。)をより頻繁に実行することが望ましい。その一方で、変位量測定等を頻繁に実行すると、その分プリンター1のスループットが低下するため、温度が比較的低い環境下では、変位量測定等を実行する頻度を少なくする方が望ましい。そこで、上記プリンター1では、圧電振動子20の劣化度合いの温度依存を考慮して、環境温度に応じて変位量測定等を実行するタイミングを変更する。以下、この点について説明する。
【0033】
図8は、プリンター1の動作を説明するフローチャートである。
まず、プリンター1の電源が投入されると、プリンターコントローラー36は、ステップS1において温度センサー41を監視し、当該温度センサー41からプリンター1内の温度を取得する。続いて、ステップS2でプリンターコントローラー36は、取得した温度が、予め定められた基準範囲より高いか否かを判定する。基準範囲は、例えば、基準温度を25℃とし、その前後10℃の範囲、すなわち、15℃〜35℃の範囲を基準範囲とする。なお、この基準範囲はプリンター1の仕様等に応じて任意に定められる。
【0034】
そして、ステップS2において取得温度(第1の温度)が基準範囲よりも高い(Yes)、と判定した場合、ステップS3に進み、プリンターコントローラー36は、変位量測定等を実行するタイミングを基準よりも早める(第1のタイミング)。この基準は、例えば、記録ヘッド2の総ショット数が所定値に達したことを条件として変位量測定等を実行する場合、当該ショット数についての基準値である。この基準値としては、温度が基準範囲内である場合での最適値が、予め実験等に基づいて定められる。タイミングを基準よりも早めるときは、変位量測定等の実行条件となる総ショット数(閾値)を基準値よりも削減する。その後、ステップS7に進む。
【0035】
一方、ステップS2において取得温度が基準範囲よりも高くない(No)、と判定した場合、ステップS4に進み、プリンターコントローラー36は、取得した温度が基準範囲より低いか否かを判定する。取得温度(第2の温度)が基準範囲よりも低い(Yes)、と判定された場合、ステップS5に進み、変位量測定等を実行するタイミングを基準よりも遅くする(第2のタイミング)。タイミングを基準よりも遅くするときは、変位量測定等の実行条件となる総ショット数(閾値)を基準値よりも増加する。その後、ステップS7に進む。
【0036】
また、ステップS4において取得温度が基準範囲よりも低くない(No)、すなわち、取得温度が基準範囲内と判定した場合、ステップS6に進み、プリンターコントローラー36は、変位量測定等を実行するタイミングを上記の基準に設定する。つまり、変位量測定等の実行条件となる総ショット数を基準値に設定する。その後、ステップS7に進む。
【0037】
ステップS7では、プリンターコントローラー36は、変位量測定等の実行タイミングが到来したか否かを判定する。すなわち、記録ヘッド2の総ショット数が所定値(閾値)に達したか否かを判定する。実行タイミングが到来していない(総ショット数が閾値に達していない)と判定した場合、ステップS1に戻り、以降の処理を繰り返す。一方、実行タイミングが到来した(総ショット数が閾値以上となった)と判定した場合、ステップS8に進み、プリンターコントローラー36は、本発明における制御手段(変位量測定手段)として機能し、記録ヘッド2の各圧電振動子20の変位量の測定処理を実行する。圧電振動子20の変位量の測定は、周知の種々の方法を採用することができる。例えば、記録ヘッド2のノズルプレート29(この場合、電極としても機能)と、キャッピング部材に設けられた電極部材との間に電界を形成した状態で、帯電させたインクを両電極間で飛翔させたときの電圧変化を検出し、この電圧の大きさに基づいて圧電振動子20の変位量を推定する方法がある。また、例えば、圧電振動子20を駆動したときに生じる逆起電力を測定し、当該逆起電力の大きさから圧電振動子20の変位量を推定する方法もある。要は、圧電振動子20の変位量が測定可能であれば、どのような方法を用いても良い。
【0038】
圧電振動子20の変位量を測定したならば、ステップS9に進み、プリンターコントローラー36は、本発明における制御手段(エージング処理手段)として機能し、上記第2駆動信号COM2に含まれるエージング駆動パルスAPを用いて各ノズル28に対応する圧電振動子20に対してエージング処理を実行する。この際、ステップS8で測定された変位量に応じて圧電振動子20に印加するエージング駆動パルスAPの印加回数が定められることで、圧電振動子20毎にエージング強度(特性劣化を促進させる度合い)が異なるようにエージング処理が行われる。すなわち、圧電振動子20の変位量が大きいほど、エージング駆動パルスAPの印加回数がより多く設定され、圧電振動子20の変位量が小さいほど、エージング駆動パルスAPの印加回数がより少なく設定される。
【0039】
したがって、使用率が比較的多く、劣化が進んでいる(変位量が初期値からより大きく低下している)圧電振動子20に対しては、比較的弱いエージング強度でエージングが行われる一方、使用率が比較的少なく、劣化があまり進んでいない(変位量が初期値により近い)圧電振動子20に対しては、比較的強いエージング強度でエージングが行われる。これにより、劣化があまり進んでいない圧電振動子20に対するエージングが促進されるので、図7のグラフに示すように、当該圧電振動子20の変位量を、劣化が比較的進んでいる圧電振動子20の変位量に近づけることができ、特性差を低減することができる。これにより、同一ノズル列33を構成する各ノズル28にそれぞれ対応する各圧電振動子20の特性のばらつきを低減することが可能となる。その結果、各ノズル28の噴射特性を可及的に揃えることが可能となり、記録画像における色ムラやスジ等を低減することができる。また、環境温度に応じて変位量の測定およびエージング処理を実行するタイミング(頻度)を変更するため、過不足なくエージング処理を行うことができる。なお、最も使用率が多い圧電振動子20に対してはエージング処理を行わないようにすることも可能である。
【0040】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0041】
エージング駆動パルスAPに関し、上記実施形態で例示したものには限られない。例えば、図5(b)で例示したエージング駆動パルスAPの上下(極性)を反転したものを使用することも可能である。また、圧電振動子20の劣化を促進することが可能なものであれば、直流電圧や三角波などをエージング駆動パルスとして採用することもできる。なお、直流電圧の場合、測定された変位量に応じて圧電振動子20への印加時間を変えることでエージング強度を変えることができる。
【0042】
図9は、第2実施形態におけるプリンター1の内部構成を説明する模式図(側方図)である。本実施形態におけるプリンター1のプラテン5は、記録紙6の搬送方向(副走査方向)に互いに独立した3つの部分に分かれている。具体的には、記録紙6に対してインクを噴射する際の記録ヘッド2のノズル形成面に対向する位置に配置されたメインプラテン5aと、メインプラテン5aよりも副走査方向の上流側(給紙側)に配置された上流側プラテン5bと、メインプラテン5aよりも副走査方向の下流側(排紙側)に配置された下流側プラテン5c、により構成されている。そして、メインプラテン5aの内部には、メインヒーター44aが設けられている。また、上流側プラテン5bの内部には、プレヒーター44bが設けられており、下流側プラテン5cの内部には、ポストヒーター44cが設けられている。これらのヒーター44a〜44cは、記録媒体を加熱してインク等の定着・乾燥を促進する加熱手段である。各ヒーター44a〜44cは、記録媒体の種類や記録モードに応じて個別にオン又はオフが制御されるようになっている。
【0043】
そして、第1実施形態では、温度センサー41によって検出される環境温度に応じて変位量の測定およびエージング処理を実行するタイミング・頻度を変更する構成であるのに対し、第2実施形態では、ヒーター44a〜44cのオン・オフの状況に応じて変位量の測定およびエージング処理を実行するタイミング・頻度を変更する点で相違している。具体的には、例えば、全てのヒーター44a〜44cがオンである場合、記録ヘッド2の周囲が最も高温になりやすい。このため、変位量測定等の実行条件となる総ショット数の閾値を基準値よりも削減することで変位量測定等の実行タイミングを早める。これにより、当該変位量測定等をより頻繁に実行するようにする。また、例えば、全てのヒーター44a〜44cがオフである場合、記録ヘッド2の周囲が最も高温になりにくい。このため、変位量測定等の実行条件となる総ショット数の閾値を最も多く設定して、当該変位量測定等の実行頻度を少なくするようにする。同様に、ヒーター44a〜44cがオンとなる数に応じて変位量測定等の実行条件となる総ショット数の閾値を増減して、変位量測定等の実行タイミング(頻度)がより最適となるようにする。つまり、全てのヒーター44a〜44cがオフのときに設定される実行条件としての総ショット数をS1、ヒーター44a〜44cのうちの1つがオンのときに設定される総ショット数をS2、ヒーター44a〜44cのうちの2つがオンのときに設定される総ショット数をS3、全てのヒーター44a〜44cがオンのときに設定される総ショット数をS4とすると、S4<S3<S2<S1となる。なお、その他の構成については、上記第1実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0044】
また、上記実施形態では、所謂撓み振動型の圧電振動子20を例示したが、これには限られず、例えば、所謂縦振動型の圧電振動子にも本発明を適用することも可能である。
【0045】
そして、本発明は、駆動波形の印加により圧電振動子を駆動して液体の噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0046】
1…プリンター,2…記録ヘッド,6…記録紙,7…キャリッジ移動機構,8…紙送り機構,17…圧電振動子,21…ノズルプレート,25…圧力室,27…ノズル,36…プリンターコントローラー,38…CPU,40…駆動信号生成部,41…温度センサー,44…プラテンヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルに連通する圧力室に圧力変動を生じさせる圧電振動子を有し、当該圧電振動子の駆動により前記ノズルから記録媒体に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
液体噴射装置内の温度を検出する温度検出手段と、
前記圧電振動子の変位量の測定処理、および、測定された変位量に応じて前記圧電振動子を駆動させてエージング処理を実行する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記温度検出手段によって検出された温度に応じて、変位量測定処理およびエージング処理を実行するタイミングを変更することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記温度検出手段によって検出された温度が第1の温度のときは、第1のタイミングで変位量測定処理およびエージング処理を実行し、前記温度検出手段によって検出された温度が第1の温度より高い第2の温度のときは、第1のタイミングより早い第2のタイミングで変位量測定処理およびエージング処理を実行することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記記録媒体を加熱するヒーターを備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記ヒーターは、前記液体噴射ヘッドによって液体の噴射が行われている状態の記録媒体を加熱するメインヒーターと、前記液体噴射ヘッドによる液体噴射が行われる前の記録媒体を加熱するプレヒーターと、前記液体噴射ヘッドによる液体噴射後の記録媒体を加熱するポストヒーターと、を含み、
前記制御手段は、各ヒーターのオン又はオフの状況に応じて、変位量測定処理およびエージング処理を実行するタイミングを変更することを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
ノズルに連通する圧力室に圧力変動を生じさせる圧電振動子を有し、当該圧電振動子の駆動により前記ノズルから記録媒体に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
液体噴射装置内の温度を検出する温度検出手段と、
前記圧電振動子の変位量の測定、および、測定された変位量に応じて前記圧電振動子を駆動させてエージング処理を行う制御手段と、
を備える液体噴射装置の制御方法であって、
前記温度検出手段によって検出された温度に応じてエージング処理を実行するタイミングを変更することを特徴とする液体噴射装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−82155(P2013−82155A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224589(P2011−224589)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】