説明

液体噴射装置に装着される液体収容容器

【課題】インクカートリッジ内に設けた撹拌部材の揺動に伴って発生する騒音を抑制する

【解決手段】撹拌部材に規制部材を設けて、撹拌部材の下端側が揺動すると、規制部材が
液体収容室の内壁に当接することで、撹拌部材の下端が液体収容室の内壁に衝突しないよ
うに撹拌部材の揺動範囲を規制する。この規制部材は、撹拌部材の揺動によって液体収容
容器から生じる音の音圧が、キャリッジの動作音の音圧と等しくなる位置よりも撹拌部材
の取付位置に近い側に設けておく。こうすれば、規制部材の当接位置が撹拌部材の取付位
置に近くなることで、当接の速度が低下する。すると、撹拌部材の揺動によって生じる音
(当接音)の音圧が低減されることから、撹拌部材の揺動に伴って発生する騒音をキャリ
ッジの動作音よりも抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクなどの液体を噴射する液体噴射装置に適用されて、内部に液体を収容
する液体収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷媒体上にインクを噴射して画像を印刷するインクジェットプリンター(液体噴射装
置)が広く使用されている。このインクジェットプリンターでは、噴射ヘッドが設けられ
たキャリッジを印刷媒体上で往復動させながら、噴射ヘッドからインクを噴射することに
よって画像を印刷する。また、噴射されるインクは、インクカートリッジと呼ばれる専用
の収容容器に収容されて、キャリッジに搭載されている。
【0003】
インクカートリッジに収容するインク中に、溶媒よりも比重の大きなインク成分(顔料
など)が含まれる場合、こうしたインク成分は時間の経過とともに重力によって沈降する
。そこで、インクを撹拌するための撹拌部材をインクカートリッジのインク収容室内に設
けたインクカートリッジが提案されている(特許文献1)。この撹拌部材は、インク収容
室内を揺動可能な状態で、上端側が支持部材によって支持されている。インクカートリッ
ジがキャリッジに搭載されると、キャリッジが往復動する動きによって、撹拌部材は上端
側を支点として下端側が揺動することから、インク収容室内のインクを撹拌することがで
きる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−230189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した撹拌部材を備えたインクカートリッジでは、インク収容室内で撹拌部
材が揺動することによって、大きな騒音が発生することがあるという問題があった。すな
わち、揺動する撹拌部材の下端がインク収容室の内壁に衝突することによって、衝突音が
発生する。また、その衝突の衝撃に基づいて、撹拌部材を支持する支持部材からの振動音
が発生する。そして、これら衝突音や振動音は、キャリッジが往復動する際の動作音より
も大きくなることがあるため、インクジェットプリンターの使用者にとって耳障りな騒音
となる。
【0006】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題の少なくとも一部を解決するためになさ
れたものであり、インクカートリッジ内に設けた撹拌部材の揺動に伴って発生する騒音を
抑制可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体収容容器は次の構成を
採用した。すなわち、
噴射ヘッドが設けられたキャリッジを往復動させながら該噴射ヘッドから液体を噴射す
る液体噴射装置の該キャリッジに装着されて、該噴射ヘッドに供給される液体を収容する
液体収容容器であって、
前記液体を内部に収容する液体収容室と、
前記キャリッジが往復動する動きによって下端側が揺動可能な態様で前記液体収容室内
に取り付けられた撹拌部材と、
前記撹拌部材または前記液体収容室の内壁の何れか一方に設けられて、該撹拌部材また
は該液体収容室の内壁の何れか他方に当接することにより、該撹拌部材の下端が該液体収
容室の内壁に衝突しないように該撹拌部材の揺動範囲を規制する規制部材と
を備え、
前記液体収容容器を装着せずに前記キャリッジを往復動させた時の動作音の音圧の大き
さをA、前記規制部材を設けない前記液体収容容器を装着して前記キャリッジを往復動さ
せた時に該液体収容容器から生じる音の音圧の大きさをB、前記撹拌部材の取付位置から
該撹拌部材の下端までの長さをLとしたときに、前記規制部材は、該撹拌部材の取付位置
から下端に向かって(A/B)L以内の位置で、該撹拌部材の揺動範囲を規制する部材で
あることを要旨とする。
【0008】
このような本発明の液体収容容器では、液体を内部に収容する液体収容室内に撹拌部材
が下端側を揺動可能な態様で取り付けられており、液体収容容器をキャリッジに装着する
と、キャリッジの往復動によって撹拌部材が揺動して、液体収容室内の液体を撹拌するこ
とができる。また、撹拌部材または液体収容室の内壁の何れか一方には規制部材が設けら
れており、撹拌部材の下端側が揺動すると、規制部材が撹拌部材または液体収容室の内壁
の何れか他方に当接することで、撹拌部材の下端が液体収容室の内壁に衝突しないように
撹拌部材の揺動範囲が規制される。そして、本実施例の液体収容容器では、液体収容容器
を装着せずにキャリッジを往復動させた時の動作音の音圧の大きさをA、規制部材を設け
ない液体収容容器を装着してキャリッジを往復動させた時に液体収容容器から生じる音の
音圧の大きさをB、撹拌部材の取付位置から撹拌部材の下端までの長さをLとしたときに
、規制部材は、撹拌部材の取付位置から下端に向かって(A/B)L以内の位置で、撹拌
部材の揺動範囲を規制するようになっている。尚、ここでの音圧の大きさAおよびBは、
デシベル(dB)で表示される音圧レベルではなく、圧力の単位(Paなど)で表示され
るものであるとする。
【0009】
規制部材を設けていない液体収容容器では、液体収容室内で撹拌部材が揺動すると、撹
拌部材の下端が液体収容室の内壁に衝突することによって液体収容容器から音が発生する
。こうして発生する音の音圧Bが、キャリッジのみの動作音の音圧Aよりも大きいと(B
>A)、液体噴射装置の使用者にとって耳障りな騒音となる。また、詳しくは後述するが
、撹拌部材の衝突によって発生する音の音圧は、衝突の速度に線形依存し、衝突の速度は
、撹拌部材の取付位置(揺動の支点)から衝突箇所までの距離に比例する。従って、撹拌
部材の取付位置から規制部材の当接箇所までの距離Mが、撹拌部材の取付位置から撹拌部
材の下端までの長さLよりも小さくなる(M<L)位置に、規制部材を配置すれば(すな
わち、撹拌部材の下端よりも撹拌部材の取付位置に近い側で規制部材を当接させれば)、
規制部材を設けずに撹拌部材の下端が衝突する場合に比べて、衝突(当接)の速度を小さ
くすることができ、その結果、撹拌部材の揺動に伴って液体収容容器から発生する騒音の
音圧を低減することが可能となる。
【0010】
特に、撹拌部材の取付位置からの距離Mが(A/B)Lとなる位置で当接するように、
規制部材の配置を設定することによって、撹拌部材の揺動(規制部材の当接)に伴って液
体収容容器から発生する音の音圧は、キャリッジの動作音の音圧Aと同程度の大きさにま
で低減される。従って、この位置よりも更に撹拌部材の取付位置に近い側(撹拌部材の取
付位置から(A/B)L以内の位置)で当接するように規制部材を配置すれば、キャリッ
ジの動作音よりも大きな音圧の音が撹拌部材の揺動に伴って液体収容容器から発生するこ
とはなく、液体収容容器内に撹拌部材を設けることで発生する騒音を効果的に抑制するこ
とができる。
【0011】
上述した本発明の液体収容容器では、規制部材に当接時の衝撃を緩衝する緩衝部を設け
ておいてもよい。
【0012】
このような構成によれば、撹拌部材に設けられた規制部材が液体収容室の内壁に当接す
る(あるいは、液体収容室の内壁に設けられた規制部材に撹拌部材が当接する)と、その
当接の衝撃が緩衝部によってやわらげられるので、当接の衝撃に基づいて発生する音の音
圧を低減することができる。その結果、撹拌部材の揺動によって液体収容容器から発生す
る騒音をより一層抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】インクカートリッジが搭載されるインクジェットプリンターを例に液体噴射装置の大まかな構成を示した斜視図である。
【図2】インクカートリッジの構造を示した分解斜視図である。
【図3】インクカートリッジの表面側から見た内部構造を示した説明図である。
【図4】本実施例のインクカートリッジのインク室の内部に設けられた撹拌板がインクを撹拌する動作を示した説明図である。
【図5】凸部を設けていない撹拌板の揺動によってインクカートリッジから騒音が発生する様子を示した説明図である。
【図6】撹拌板に凸部を設けることによって、撹拌板の揺動に伴ってインクカートリッジから発生する騒音が抑制される様子を示した説明図である。
【図7】変形例のインクカートリッジにおける第2インク室の内部構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.インクジェットプリンターの構成:
B.インクカートリッジの構造:
C.撹拌板の撹拌動作:
D.変形例:
【0015】
A.インクジェットプリンターの構成 :
図1は、インクカートリッジが搭載されるインクジェットプリンターを例に液体噴射装
置の大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、インクジェットプリン
ター10は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体としての印刷用紙2上にインクドット
を形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷用紙
2の紙送りを行うためのプラテンローラー40と、正常に印刷可能なようにメンテナンス
を行うメンテナンス機構50などから構成されている。キャリッジ20には、インクを収
容したインクカートリッジ100や、インクカートリッジ100が装着されるキャリッジ
ケース22や、キャリッジケース22の底面側(印刷用紙2に向いた側)に搭載された噴
射ヘッド24などが設けられている。この噴射ヘッド24にはインクを噴射する複数の噴
射ノズルが形成されており、インクカートリッジ100内のインクを噴射ヘッド24に供
給して、噴射ノズルから印刷用紙2に向かって正確な分量だけインクを噴射することによ
って、画像等が印刷されるようになっている。
【0016】
尚、本実施例のインクジェットプリンター10では、シアン色、マゼンタ色、イエロー
色、黒色の4種類のインクを用いてカラー画像を印刷することが可能であり、このことと
対応して、キャリッジ20に搭載された噴射ヘッド24には、インクの種類毎に噴射ノズ
ルが設けられている。また、インクカートリッジ100もインクの種類毎に設けられてお
り、それぞれの噴射ノズルに対して、対応する色のインクカートリッジ100からインク
が供給されるようになっている。加えて、インクカートリッジ100は、キャリッジケー
ス22に対して着脱可能に構成されており、インクカートリッジ100内のインクがなく
なると、新しいインクカートリッジ100に交換するようになっている。尚、本実施例の
インクカートリッジ100は、本発明の「液体収容容器」に相当している。
【0017】
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向に延設されたガイドレール
38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミングベルト32
の歯形と噛み合う駆動プーリ34と、駆動プーリ34を駆動するためのステップモーター
36などから構成されている。タイミングベルト32の一部はキャリッジケース22に固
定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレール38に沿っ
てキャリッジケース22を移動させることができる。
【0018】
印刷用紙2の紙送りを行うプラテンローラー40は、図示しない駆動モーターやギア機
構によって駆動されて、印刷用紙2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能であ
る。
【0019】
また、メンテナンス機構50は、印刷領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設け
られており、キャップ52や、キャップ52の下方の位置に設けられた吸引ポンプ54な
どから構成されている。キャップ52は、図示しない昇降機構によって上下方向に移動可
能となっており、インクジェットプリンター10が画像等を印刷していない間は、キャリ
ッジ20をホームポジションに移動させて、キャップ52を上昇させる。すると、キャッ
プ52が噴射ヘッド24の底面側に押し当てられて噴射ノズルを覆うように閉空間が形成
されるので、噴射ヘッド24内のインクが乾燥することを防止可能となっている。また、
キャップ52には、図示しない吸引チューブを介して吸引ポンプ54が接続されており、
噴射ヘッド24の底面側にキャップ52を押し当てた状態で吸引ポンプ54を作動させる
ことで、噴射ヘッド24内の劣化したインク(乾燥して増粘したインクなど)を吸い出す
こと(いわゆるクリーニング)も可能となっている。
【0020】
更に、インクジェットプリンター10の背面側には、インクジェットプリンター10の
全体の動作を制御する制御部60が搭載されている。キャリッジ20を往復動させる動作
や、印刷用紙2を紙送りする動作や、噴射ノズルからインクを噴射する動作や、メンテナ
ンス機構50を駆動する動作などは、全て制御部60によって制御されている。
【0021】
B.インクカートリッジの構造 :
図2は、インクカートリッジ100の構造を示した分解斜視図である。図示されている
ように、インクカートリッジ100は、大まかには硬質の樹脂材料で形成された本体ケー
ス102と、本体ケース102の一方の側面を覆う第1フィルム150と、本体ケース1
02の他方の側面を覆う第2フィルム152とから構成されている。尚、本明細書では、
第1フィルム150で覆われる側の側面を「表面」と呼び、第2フィルム152で覆われ
る側の側面を「裏面」と呼ぶこととする。
【0022】
本体ケース102の表面側には、凹部102cが設けられており、この凹部102cは
、縦横に設けられた複数のリブ102rによって、複数の領域に区切られている。そして
、本体ケース102の表面に第1フィルム150を貼り付けて凹部102cを封止するこ
とによって、インクカートリッジ100内に複数の小部屋が形成される。また、本体ケー
ス102の裏面には、複数の溝が設けられており、本体ケース102の裏面に第2フィル
ム152を貼り付けることによって、複数の通路が形成される。この裏面側の複数の通路
を介して、表面側の複数の小部屋は接続されている。尚、インクカートリッジ100の内
部構造の詳細については、後ほど別図を用いて説明する。
【0023】
加えて、本体ケース102の底面には、キャリッジ20の噴射ヘッド24に向けてイン
クを供給するためのインク供給口104が設けられている。インクカートリッジ100が
装着されるキャリッジケース22には、噴射ヘッド24と接続された図示しないインク取
込針がインクカートリッジ100毎に立設されている。インクカートリッジ100をキャ
リッジケース22に装着すると、インク取込針がインク供給口104に挿入されてインク
カートリッジ100内のインクをインク取込針に取り込むことが可能となる。また、同じ
く本体ケース102の底面には、インクカートリッジ100内のインクの消費に伴ってイ
ンクカートリッジ100の内部に空気を導入するための大気開放孔106が設けられてい
る。
【0024】
図3は、インクカートリッジ100の表面側から見た内部構造を示した説明図である。
図示されているように、インクカートリッジ100の表面側は、リブ102rによって、
大きくは5つの小部屋に区切られている。先ず、インクカートリッジ100の内部で図中
の右側には、インクを収容する第1インク室110が設けられており、その左側の上方に
は、同じくインクを収容する第2インク室114が設けられている。これら第1インク室
110および第2インク室114は、インクカートリッジ100の裏面側に形成された第
1連絡通路112によって接続されている。また、第2インク室114の左下方には、セ
ンサー室118が設けられており、第2インク室114とセンサー室118とは、裏面側
に形成された第2連絡通路116によって接続されている。このセンサー室118には、
インクカートリッジ100内のインクの有無を検出する図示しないセンサーが設けられて
おり、インクカートリッジ100内のインクの消費に伴ってセンサー室118内に空気が
導入されると、インクが無くなくなったことをセンサーが検出するようになっている。尚
、本実施例の第1インク室110および第2インク室114は、本発明の「液体収容室」
に相当している。
【0025】
センサー室118は、第2インク室114の下方に設けられたバッファー室122と、
インクカートリッジ100の裏面側に形成された第3連結通路120によって接続されて
おり、更に、バッファー室122は、裏面側に形成された圧力調整室124と接続されて
いる。圧力調整室124は、図示しない膜弁やバネなどを内蔵しており、インク供給口1
04から供給するインクの圧力を調整する機能を有している。
【0026】
このような構造のインクカートリッジ100では、第1インク室110に収容されたイ
ンクは、第2インク室114、センサー室118、バッファー室122を経由して、圧力
調整室124で圧力を調整された後、インク供給口104からキャリッジ20の噴射ヘッ
ド24に供給されるようになっている。
【0027】
尚、本実施例のインクカートリッジ100に収容するインクは、溶媒よりも比重の大き
な顔料などのインク成分を含んだインク(顔料インク)であり、こうしたインク成分は時
間の経過とともに重力によって沈降する。そこで、第1インク室110および第2インク
室114の内部には、インクを撹拌するためのステンレス製の撹拌板(130,132)
がそれぞれ設けられている。尚、これら撹拌板130,132によるインクの撹拌動作の
詳細については後述する。また、本実施例の撹拌板(130,132)は、本発明の「撹
拌部材」に相当している。
【0028】
さらに、図3に示すように、バッファー室122の下方には、空気室108が設けられ
ている。空気室108は、前述した大気開放孔106と、インクカートリッジ100の裏
面側に形成された図示しない空気通路を介して接続されている。また、空気室108は、
図示しない連絡通路によって第1インク室110と接続されており、インク供給口104
からキャリッジ20の噴射ヘッド24にインクが供給されるのに伴って、大気開放孔10
6から空気室108を経由して第1インク室110に空気が導入される。このような空気
室108は、周囲の温度変化によってインクカートリッジ100内の空気が膨張したり、
インクカートリッジ100の姿勢が変化したりするなどして、第1インク室110から大
気開放孔106に向けてインクが逆流した場合に、空気室108の内部にインクをトラッ
プしてインクが外部に漏れ出ることを防止している。
【0029】
C.撹拌板の撹拌動作 :
図4は、本実施例のインクカートリッジ100の第2インク室114の内部に設けられ
た撹拌板132がインクを撹拌する動作を示した説明図である。図4では、図3中のA−
Aの位置でインクカートリッジ100の断面を取ることによって、第2インク室114の
内部の様子を示している。尚、前述したように、本実施例のインクカートリッジ100に
は、第1インク室110および第2インク室114のそれぞれに撹拌板(130,132
)が設けられているが、何れのインク室においても撹拌板の撹拌動作は同様であるため、
ここでは第2インク室114を例に説明する。
【0030】
第2インク室114の内部に撹拌板132を設けることでインクカートリッジ100が
製造し難くなってしまうことを回避する要請から、第2インク室114の撹拌板132は
、以下のように取り付けられている。先ず、図4に示すように撹拌板132には、上部に
貫通孔132hが設けられており、また、第2インク室114の第1フィルム150と向
き合う内壁(本体ケース102の凹部102cの底面)には、撹拌板132の貫通孔13
2hと対応する位置に突起134が立設されている。そして、撹拌板132の貫通孔13
2hに第2インク室114の突起134を通して突起134の先端を潰すことにより、撹
拌板132の下端側が揺動し得る状態で抜け留めされている。このような貫通孔132h
と突起134との係合は2組設けられており(図3を参照)、その2ヶ所の支持点で撹拌
板132は第2インク室114内に支持されて取り付けられている。尚、以下では、撹拌
板132の貫通孔132hと第2インク室114の突起134との係合による支持点を「
支持点134a」と呼ぶことがあるものとする。また、本実施例の支持点134aは、本
発明の「取付位置」に相当している。
【0031】
このように撹拌板132が設けられたインクカートリッジ100をキャリッジケース2
2に装着すると、キャリッジ20の往復動に伴って撹拌板132が揺動することによって
、第2インク室114内のインクが撹拌される。すなわち、撹拌板132はインクよりも
比重の大きい材料(本実施例ではステンレス材料)で形成されているとともに、インクカ
ートリッジ100をキャリッジケース22に装着した状態では、撹拌板132はキャリッ
ジ20の往復動方向に対してほぼ垂直に設けられている。また、キャリッジ20が往復動
すると、インクカートリッジ100はインクカートリッジ100の表面方向、または裏面
方向に向かって移動する(図1を参照)。この際、インクカートリッジ100が裏面方向
に移動している状態から、移動する方向が表面方向に切り替わると、慣性力によって撹拌
板132が裏面側に移動しようとする。一方、インクカートリッジ100が表面方向に移
動している状態から裏面方向に移動方向が切り替わると、慣性力によって撹拌板132が
表面側に移動しようとする。従って、キャリッジ20の往復動に伴って、図4中に破線で
示したように撹拌板132は、前述した上部の2ヶ所の支持点134aを支点として下端
側がインクカートリッジ100の表面側と裏面側との間で揺動する。その結果、第2イン
ク室114内のインクを撹拌することができる。
【0032】
ここで、図4に示すように、撹拌板132の両面には、それぞれインクカートリッジ1
00の表面あるいは裏面に向かって凸部136が立設されている。そして、第2インク室
114内で撹拌板132が揺動すると、この凸部136が撹拌板132の下端よりも上部
の支持点134aに近い側で第2インク室114の内壁に衝突することから、撹拌板13
2の揺動に伴ってインクカートリッジ100から発生する騒音を抑制することが可能とな
っている。以下では、この点について詳しく説明するが、その前提として、先ず撹拌板1
32に凸部136を設けていない場合に、撹拌板132が揺動することによってインクカ
ートリッジ100から発生する騒音について説明する。尚、本実施例の凸部136は、本
発明の「規制部材」に相当している。
【0033】
図5は、凸部136を設けていない撹拌板132の揺動によってインクカートリッジ1
00から騒音が発生する様子を示した説明図である。図示されているように、キャリッジ
20の往復動に伴って第2インク室114内で揺動する撹拌板132がインクカートリッ
ジ100の裏面方向に移動すると、撹拌板132の下端が第2インク室114の内壁(本
体ケース102の凹部102cの底面)に衝突することによって、衝突音が発生する。ま
た、その衝突の衝撃によって撹拌板132に上下方向の振動が生じることから、前述した
撹拌板132の貫通孔132hと第2インク室114の突起134との係合による支持点
134aから振動音が発生する。尚、第2インク室114内で揺動する撹拌板132がイ
ンクカートリッジ100の表面方向に移動する際にも同様に、撹拌板132の下端が第2
インク室114の内壁(第1フィルム150)に衝突することによって、衝突音や振動音
が発生する。
【0034】
このように発生する衝突音や振動音のエネルギーは、撹拌板132が第2インク室11
4の内壁に衝突する衝撃が大きいほど大きくなるので、衝突時の運動エネルギーに比例す
る。また、こうした音のエネルギーは、音圧の2乗と比例関係にある。一方、衝突時の運
動エネルギーは、衝突の速度の2乗に比例する。従って、衝突音や振動音の音圧は、衝突
の速度に線形依存することになり、撹拌板132の下端が第2インク室114の内壁に衝
突する速度が大きくなれば、インクカートリッジ100から発生する騒音の音圧も大きく
なる。こうした点に鑑み、本実施例のインクカートリッジ100では、次のような凸部1
36を撹拌板132に設けることによって、インクカートリッジ100から発生する騒音
を抑制している。
【0035】
図6は、撹拌板132に凸部136を設けることによって、撹拌板132の揺動に伴っ
てインクカートリッジ100から発生する騒音が抑制される様子を示した説明図である。
図示されているように、撹拌板132の両面には凸部136が立設されており、この凸部
136は、撹拌板132の下端よりも上部の支持点134aに近い側に設けられている。
尚、本実施例の凸部136は、撹拌板132と同じ材料(ステンレス材料)で形成されて
、撹拌板132に固着されている。そして、第2インク室114内で揺動する撹拌板13
2がインクカートリッジ100の裏面方向に移動すると、撹拌板132の下端が第2イン
ク室114の内壁(本体ケース102の凹部102cの底面)に衝突するよりも前に、凸
部136が第2インク室114の内壁に衝突する。また、撹拌板132がインクカートリ
ッジ100の表面方向に移動する場合にも、撹拌板132の下端が第2インク室の内壁(
第1フィルム150)に衝突するよりも前に、凸部136が第2インク室114の内壁に
衝突する。このように撹拌板132の下端よりも先に凸部136が第2インク室114の
内壁に衝突することによって、撹拌板132の下端が第2インク室114の内壁に衝突し
ないように撹拌板132の揺動範囲が規制される。
【0036】
もちろん、撹拌板132に設けた凸部136が第2インク室114の内壁に衝突した際
にも、前述した衝突音や振動音が発生する。しかし、前述したように、衝突に伴って発生
する衝突音や振動音の音圧は、衝突の速度に線形依存する。そして、上部の支持点134
aを支点として揺動する撹拌板132の角速度が同じであれば、支点からの距離が近くな
ると、衝突の速度は小さくなる。従って、凸部136を、撹拌板132の下端よりも上部
の支持点134aに(揺動の支点)に近い側で第2インク室114の内壁に衝突する位置
に設けておけば、撹拌板132の下端で衝突する場合に比べて、衝突の速度が小さくなる
ので、インクカートリッジ100から発生する衝突音や振動音の音圧を低減することがで
きる。
【0037】
また、本実施例のインクカートリッジ100では、撹拌板132の凸部136が、単に
撹拌板132の下端よりも上部の支持点134aに近い側に設けられているだけでなく、
次のような位置を選択して配置されている。先ず、インクカートリッジ100が搭載され
るインクジェットプリンター10の動作中(印刷中)は、前述したように駆動機構30の
ステップモーター36を駆動してキャリッジ20を往復動させたり、プラテンローラー4
0の図示しない駆動モーターを駆動して紙送りさせたりすることによって動作音が発生す
る。そして、これらの可動機構が発する動作音の音圧よりも、撹拌板132の揺動によっ
てインクカートリッジ100から発生する音(衝突音や振動音)の音圧が大きいと、イン
クジェットプリンター10の使用者にとって耳障りな騒音となる。そこで、本実施例のイ
ンクカートリッジ100における撹拌板132の凸部136の配置は、撹拌板132の揺
動によってインクカートリッジ100から発生する音の音圧がインクジェットプリンター
10の動作音の音圧と等しくなる位置よりも上部の支持点134aに近い側に設定されて
いる。
【0038】
一例として、インクカートリッジ100を装着せずにキャリッジ20を往復動させた場
合に発生する動作音の音圧レベルが50dBであり、凸部136を設けていない撹拌板1
32が揺動する(撹拌板132の下端が第2インク室114の内壁に衝突する)ことによ
ってインクカートリッジ100から発生する音の音圧レベルが55dBであるとする。音
圧レベルは、基準の音に対する音圧の比の常用対数をとって、これを20倍したものなの
で、この5dBの差は、音圧の比に換算すると1.78倍に相当する。また、前述したよ
うに、衝突に伴って発生する音の音圧は、衝突の速度に線形依存し、衝突の速度は、揺動
の支点からの距離に比例する。従って、撹拌板132の貫通孔132hと第2インク室1
14の突起134との係合による支持点134aから撹拌板132の下端までの距離が2
0.9mmである場合には、支持点134aから撹拌板132の下端に向かって11.8
(=20.9/1.78)mmの位置に凸部136を配置しておけば、衝突に伴って発生
する音の音圧は、凸部136を設けずに撹拌板132の下端が衝突する場合の1/1.7
8に減少し、キャリッジ20を往復動させる動作音の音圧と同程度となる。そして、本実
施例のインクカートリッジ100では、この位置よりも更に支持点134aに近い側に凸
部136が配置されていることから、撹拌板132の揺動によってインクカートリッジ1
00から発生する音の音圧を、キャリッジ20の動作音の音圧よりも小さくすることがで
きる。
【0039】
以上に説明したように、本実施例のインクカートリッジ100では、第2インク室11
4内に撹拌板132が設けられており、この撹拌板132は、キャリッジ20の往復動に
伴って、上部の支持点134aを支点として下端側が揺動することから、第2インク室1
14内のインクを撹拌することができる。このような撹拌板132には、揺動した際に下
端よりも上部の支持点134aに近い側で第2インク室114の内壁に衝突する凸部13
6が設けられていることから、撹拌板132の揺動によってインクカートリッジ100か
ら発生する騒音を抑制することが可能である。すなわち、揺動する撹拌板132が第2イ
ンク室114の内壁に衝突することによって衝突音や振動音が発生し、こうした音の音圧
は、衝突の速度に線形依存する。また、衝突の速度は、揺動する撹拌板132の支点(上
部の支持点134a)から衝突箇所までの距離に比例する。そこで、撹拌板132に凸部
136を設けて、撹拌板132の下端よりも上部の支持点134aに近い側で第2インク
室114の内壁に衝突させれば、凸部136を設けずに撹拌板132の下端が衝突する場
合に比べて、衝突の速度を小さくすることができ、その結果、撹拌板132の揺動によっ
てインクカートリッジ100から発生する騒音の音圧を低減することが可能となる。
【0040】
また、本実施例のインクカートリッジ100では、インクカートリッジ100を装着せ
ずにキャリッジ20を往復動させた場合の動作音の音圧をA、凸部136を設けていない
撹拌板132が揺動することによってインクカートリッジ100から発生する音の音圧を
B、撹拌板132の上部の支持点134a(揺動の支点)から下端までの距離をLとして
、撹拌板132の凸部136は、撹拌板132の上部の支持点134aから下端に向かっ
て距離が(A/B)L以内の位置に配置されている。この上部の支持点134aからの距
離が(A/B)Lの位置は、撹拌板132の凸部136が第2インク室114の内壁に衝
突するのに伴ってインクカートリッジ100から発生する音の音圧が、キャリッジを往復
動させる動作音の音圧とちょうど等しくなる位置に相当している。そのため、この位置よ
りも上部の支持点134aに近い側に凸部136を配置しておけば、キャリッジ20の動
作音よりも大きな音圧の音がインクカートリッジ100から発生することはなく、インク
カートリッジ100の第2インク室114内に撹拌板132を設けることで発生する騒音
を効果的に抑制することができる。
【0041】
D.変形例 :
以上に説明した実施例では、第2インク室114内で撹拌板132が揺動すると、撹拌
板132に設けた凸部136が第2インク室114の内壁に衝突するようになっていた。
しかし、これとは逆に、第2インク室114の内壁の側に凸部136を設けておき、この
凸部136に撹拌板132が衝突するようにしてもよい。以下では、第2インク室114
の内壁に凸部136を設けた変形例について説明する。尚、変形例の説明にあたっては、
前述した実施例と同様の構成部分については、先に説明した実施例と同様の符号を付し、
その詳細な説明を省略する。
【0042】
図7は、変形例のインクカートリッジ100における第2インク室114の内部構造を
示した断面図である。先ず、図7(a)に示したように、変形例のインクカートリッジ1
00では、前述した実施例とは異なり、第2インク室114の撹拌板132に凸部136
が設けられておらず、代わりに、第2インク室114の内壁を構成する第1フィルム15
0、および本体ケース102の凹部102cの底面からそれぞれ凸部136が立設されて
おり、2つの凸部136の間に撹拌板132が位置している。尚、変形例の凸部136は
、硬質の樹脂材料で形成されて、第2インク室114の内壁に固着されている。
【0043】
このような変形例のインクカートリッジ100では、図7(b)に示したように、第2
インク室114内で撹拌板132が上部の支持点134aを支点として揺動すると、撹拌
板132の下端が第2インク室114の内壁に衝突するよりも前に、第2インク室114
の内壁から立設された凸部136に撹拌板132が衝突する。この凸部136と撹拌板1
32との衝突箇所は、撹拌板132の下端よりも上部の支持点134aに近い側に設定さ
れていることから、凸部136を設けずに撹拌板132の下端が第2インク室114の内
壁に衝突する場合に比べて、衝突の速度は小さくなり、その結果、衝突に伴ってインクカ
ートリッジ100から発生する衝突音や振動音の音圧を低減することができる。
【0044】
また、変形例のインクカートリッジ100では、インクカートリッジ100を装着せず
にキャリッジ20を往復動させた場合の動作音の音圧をA、凸部136を設けていない第
2インク室114で撹拌板132が揺動することによってインクカートリッジ100から
発生する音の音圧をB、撹拌板132の上部の支持点134a(揺動の支点)から下端ま
での距離をLとして、凸部136と撹拌板132との衝突箇所は、撹拌板132の上部の
支持点134aから下端に向かって距離が(A/B)L以内の位置に設定されている。そ
のため、前述した実施例と同様に、撹拌板132が揺動することによってキャリッジ20
の動作音よりも大きな音圧の音がインクカートリッジ100から発生することはなく、イ
ンクカートリッジ100の第2インク室114内に撹拌板132を設けることで発生する
騒音を効果的に抑制することができる。
【0045】
また、このように凸部136を第2インク室114の内壁の側に設けることによって、
撹拌板132の側には他に部材を追加する必要がないので、撹拌板132の側に凸部13
6を設ける場合に比べて、撹拌板132が揺動する動きに及ぼす影響を少なくすることが
できる。そのため、撹拌板132が揺動する動きに高い精度が要求される場合でも、第2
インク室114内で撹拌板132を安定して揺動させながら、撹拌板132の揺動に伴っ
て発生する騒音を抑制することが可能となる。
【0046】
以上、各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるもので
はなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0047】
例えば、前述した実施例では、撹拌板132に設けられた凸部136は、撹拌板132
と同じ材料(ステンレス材料)で形成されていたが、凸部136の材質は、特に限定され
るわけではない。例えば、撹拌板132の凸部136を、インクよりも比重の大きい材料
で形成しておけば、撹拌板132を揺動させるための錘としても利用することができる。
また、凸部136の少なくとも一部を、ゴムなどの弾性材料で形成しておけば、衝突時の
衝撃を吸収することができるので、撹拌板132の揺動によってインクカートリッジ10
0から発生する騒音をより一層抑制することが可能となる。尚、この場合、弾性材料で形
成された部分は、本発明の「緩衝部」に相当している。
【0048】
また、前述した実施例では、撹拌板132は、撹拌板132の貫通孔132hと第2イ
ンク室114の突起134との係合による支持点134aで第2インク室114内に支持
されていた。しかし、撹拌板132の支持の態様は、撹拌板132の下端側が揺動可能で
あれば、これに限定されるわけではなく、例えば、撹拌板132の上端側を軸支してもよ
い。
【符号の説明】
【0049】
10…インクジェットプリンター、 20…キャリッジ、
22…キャリッジケース、 24…噴射ヘッド、 30…駆動機構、
60…制御部、 100…インクカートリッジ、 102…本体ケース、
104…インク供給口、 106…大気開放孔、 108…空気室、
110…第1インク室、 114…第2インク室、 118…センサー室、
122…バッファー室、 124…圧力調整室、 130,132…撹拌板、
136…凸部、 150…第1フィルム、 152…第2フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ヘッドが設けられたキャリッジを往復動させながら該噴射ヘッドから液体を噴射す
る液体噴射装置の該キャリッジに装着されて、該噴射ヘッドに供給される液体を収容する
液体収容容器であって、
前記液体を内部に収容する液体収容室と、
前記キャリッジが往復動する動きによって下端側が揺動可能な態様で前記液体収容室内
に取り付けられた撹拌部材と、
前記撹拌部材または前記液体収容室の内壁の何れか一方に設けられて、該撹拌部材また
は該液体収容室の内壁の何れか他方に当接することにより、該撹拌部材の下端が該液体収
容室の内壁に衝突しないように該撹拌部材の揺動範囲を規制する規制部材と
を備え、
前記液体収容容器を装着せずに前記キャリッジを往復動させた時の動作音の音圧の大き
さをA、前記規制部材を設けない前記液体収容容器を装着して前記キャリッジを往復動さ
せた時に該液体収容容器から生じる音の音圧の大きさをB、前記撹拌部材の取付位置から
該撹拌部材の下端までの長さをLとしたときに、前記規制部材は、該撹拌部材の取付位置
から下端に向かって(A/B)L以内の位置で、該撹拌部材の揺動範囲を規制する部材で
ある液体収容容器。
【請求項2】
請求項1に記載の液体収容容器であって、
前記規制部材には、当接時の衝撃を緩衝する緩衝部が設けられている液体収容容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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