説明

液体噴射装置

【課題】液体噴射装置において噴射ヘッドよりも上流側で生じる液体の圧力変動が噴射ノ
ズルにまで伝わることを抑制する。
【解決手段】液体収容容器内の液体を液体取込口から取り込んで、液体通路によって噴射
ヘッドに供給することにより、噴射ノズルから液体を噴射する。液体通路には、内部にフ
ィルターを備えたフィルター室を設けておき、フィルター室のフィルターよりも上流側に
接続口を設ける。そして、この接続口からフィルター室内に空気を供給可能にする。こう
すれば、接続口からフィルター室内に供給した空気を、液体通路の上流側から伝わる液体
の圧力変動を吸収するダンパーとして利用することができるので、噴射ノズルにまで液体
の圧力変動が伝わることを抑制することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンターに代表されるように、噴射ヘッドに設けられた微細
な噴射ノズルから液体を噴射する液体噴射装置が知られている。この液体噴射装置では、
噴射しようとするインクなどの液体を、インクカートリッジといった専用容器に収容して
おき、この専用容器から液体通路を介して噴射ヘッドに液体を供給することによって液体
を噴射している。
【0003】
こうしたカートリッジは、内部の液体がなくなるとカートリッジごと新しいものに交換
するように、液体噴射装置に対して着脱可能に構成されている(例えば、特許文献1)。
カートリッジを装着すると、液体通路と連通する液体取込針がカートリッジの液体供給口
に挿入されて、カートリッジ内の液体が液体通路に取り込まれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−216563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、こうしたカートリッジ方式を採用した液体噴射装置では、カートリッジを交換
した直後に、噴射ノズルから液体が適切に噴射されない不具合(いわゆるノズル抜け)が
生じることがあるという問題があった。これは、液体取込針をカートリッジの液体供給口
に挿入する際に、液体供給口の容積が変化(減少)するのに伴って液体に圧力変動(圧力
の増加)が生じ、その圧力変動が液体通路を介して噴射ノズルまで伝わることにより、噴
射ノズルで液体表面が形成しているメニスカスを破壊してしまうことに起因する。
【0006】
また、こうした噴射ヘッドの上流側で生じる液体の圧力変動は、液体取込針を液体供給
口に挿入するときだけでなく、複数のカートリッジの何れかを交換する作業で隣のカート
リッジに触れたり、液体噴射装置を移動中に落としたりしたときの衝撃でカートリッジと
液体取込針との相対的な位置が変化した場合にも生じる。さらには、カートリッジ内の液
体を、液体供給チューブを介して噴射ヘッドに供給するタイプの液体噴射装置では、カー
トリッジに対して噴射ヘッドが移動するのに伴って液体供給チューブが揺れると、いわゆ
るポンピング効果により液体供給チューブ内に液体の圧力変動が生じる。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、
噴射ヘッドの上流側で生じる液体の圧力変動が噴射ノズルにまで伝わることを抑制するこ
とが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体噴射装置は次の構成を
採用した。すなわち、液体収容容器に収容された液体を噴射ヘッドに供給して、該噴射ヘ
ッドに設けられた噴射ノズルから該液体を噴射する液体噴射装置であって、前記液体収容
容器内の液体を取り込む液体取込口と、前記液体取込口から取り込まれた液体を前記噴射
ヘッドに導く液体通路と、前記液体通路に設けられて、該液体通路を流れる前記液体中の
異物を除去するためのフィルターが内部に設けられたフィルター室と、前記フィルター室
の前記フィルターよりも上流側に設けられた接続口から、該フィルター室内に空気を供給
する空気供給手段とを備えることを要旨とする。
【0009】
このような本発明の液体噴射装置においては、噴射しようとする液体が液体収容容器内
に収容されており、液体取込口から取り込まれた液体は、液体通路を通って噴射ヘッドに
供給され、噴射ヘッドに設けられた噴射ノズルから噴射される。液体通路には、内部にフ
ィルターを有するフィルター室が設けられており、液体がフィルターを通過する際に異物
が除去される。そして、本発明の液体噴射装置では、フィルター室のフィルターよりも上
流側に接続口が設けられており、この接続口からフィルター室内に空気を供給することが
可能となっている。
【0010】
ここで、フィルター室内に空気を供給する構成としては、例えば、噴射ノズルからの液
体の噴射に伴って、噴射された分の液体が噴射ヘッドに引き込まれることでフィルター室
内が負圧になる場合には、接続口に接続された開閉弁を備えることとして、この開閉弁を
開弁することにより、外気をフィルター室内に導入してもよい。また、接続口に接続され
たポンプを備えることとして、ポンプでフィルター室内に空気を圧送してもよい。
【0011】
上述した構成を有する本発明の液体噴射装置では、接続口からフィルター室内に供給し
た空気を、フィルター室よりも上流側で生じる液体の圧力変動を吸収するダンパーとして
利用することができる。すなわち、液体の圧力変動が液体通路を伝わって、フィルター室
内の液体の圧力が増加する場合には、フィルター室内の空気(気泡)が収縮することによ
って、急激な圧力増加を抑制する働きをし、逆に液体の圧力が減少する場合には、空気(
気泡)が膨張することによって、急激な圧力減少を抑制する働きをする。このようにフィ
ルター室内に空気を取り入れておくことによって、液体通路の上流側から伝わる液体の圧
力変動を吸収する(緩和する)ことができるので、下流の噴射ヘッドに設けられた噴射ノ
ズルにまで液体の圧力変動が伝わることを抑制することが可能となる。結果として、液体
の圧力変動に起因して噴射ノズルから液体が適切に噴射されない不具合(ノズル抜け)を
防止することができる。
【0012】
また、液体取込口から空気が入ったり、液体に溶け込んでいた空気が気泡化したりする
ことによってフィルター室内に空気が混入することはあるものの、その量は一定ではない
ことから、フィルター室内の空気が少なすぎる場合には、液体の圧力変動を充分に吸収す
ることができない。そこで、フィルター室に設けた接続口から空気を供給可能にしておけ
ば、フィルター室内に意図的に空気を供給することができるので、液体の圧力変動を吸収
するのに充分な量の空気をフィルター室内に確保しておくことが可能となる。その結果、
液体の圧力変動が噴射ノズルにまで伝わることをより確実に抑制できる。
【0013】
さらに、本発明の液体噴射装置では、フィルター室のフィルターよりも上流側に空気を
供給することから、空気が液体の流れに乗って下流の噴射ヘッドに流れることを抑制する
ことができる。すなわち、仮にフィルターよりも下流側に空気を供給した場合には、空気
が下流へ流れて噴射ヘッドに供給されることで、噴射ノズルから液体が適切に噴射されな
くなってしまう。これに対して、フィルターよりも上流側に空気を供給すれば、液体の流
れに乗ってフィルターまで到達した空気は、フィルターに捕捉されて下流へ流れることが
妨げられるので、空気が噴射ヘッドに流れることを抑制することができる。
【0014】
上述した本発明の液体噴射装置では、接続口に接続されたポンプを備えることとして、
ポンプで負圧を発生させることによってフィルター室内の空気を吸引可能としてもよい。
【0015】
フィルター室内の空気は、液体取込口から空気が入ったり、液体に溶け込んでいた空気
が気泡化するなどによって増加することがある。そこで、接続口からフィルター室内の空
気を吸引可能としておけば、フィルター室に所定量(液体の圧力変動を吸収するのに必要
な量)以上の空気が溜まった場合には、不要な分の空気を抜き取ることができるので、フ
ィルター室内の空気の量を適正に保つことが可能となる。結果として、空気が下流の噴射
ヘッドに流れる可能性を低くすることができる。
【0016】
また一般に、液体通路やフィルター室に混入した空気は、噴射ノズルから吸引する(い
わゆるクリーニング動作)などによって、大量の液体とともに排出するようになっている
。これに対して、フィルター室に設けた接続口から空気を直接的に吸引することとすれば
、液体を無駄にすることなく、フィルター室内の空気を排出することができる。
【0017】
また、上述した本発明の液体噴射装置では、噴射ノズルからの液体の噴射を終了する際
には、フィルター室内に空気を供給するとともに、噴射ノズルからの液体の噴射を開始す
る際には、フィルター室内の空気を吸引するようにしてもよい。
【0018】
このように、噴射ノズルから液体を噴射しているか否かに応じてフィルター室に空気を
出し入れするようにすれば、次のような理由から、液体の圧力変動を空気によって吸収す
ることと、空気が下流の噴射ヘッドの流れないようにすることとを、より効果的に両立す
ることができる。先ず、液体通路の上流側で生じる液体の圧力変動が、液体収容容器を交
換する際や、液体噴射装置を移動中に落とした際などに発生することに着目すると、液体
を噴射しているときに比べて、液体を噴射していないときに液体の圧力変動が生じ易い。
また、液体通路内およびフィルター室内の液体の流れは、液体を噴射しているときに比べ
て、液体を噴射していないときには弱まる傾向にある。そこで、液体を噴射していないと
き(液体の圧力変動が生じ易く、液体通路内の液体の流れが弱いとき)には、フィルター
室内に空気を取り入れておくことで、空気によるダンパー効果を得て、液体の圧力変動が
噴射ノズルまで伝わることを抑制できる。一方、液体を噴射しているとき(液体の圧力変
動が生じ難く、液体通路内の液体の流れが強いとき)には、フィルター室内の空気を抜き
取っておくことで、空気が下流の噴射ヘッドに流れる可能性をより低くすることができる

【0019】
また、こうした本発明の液体噴射装置では、次のようにしてもよい。先ず、フィルター
室内に、液体の流れに乗ってフィルター室に混入した空気が浮力で浮き上がることによっ
て溜まる空気貯留部を、フィルターよりも上流側に設ける。そして、この空気貯留部に接
続口を設ける。
【0020】
このようにすれば、フィルター室内に空気を供給する際には、空気を液体の流れに乗せ
ることなく、空気が溜まる箇所(空気が流され難い箇所)に直接的に空気を供給できるの
で、空気が下流の噴射ヘッドに流れることを抑制できる。一方、フィルター室内の空気を
吸引する際には、空気が溜まっている箇所から容易に空気を吸引できるので、空気ととも
に排出される液体を少なくすることができる。
【0021】
また、上述した本発明の液体噴射装置では、次のようにしてもよい。先ず、フィルター
室に、下方に向けて断面積が拡幅する拡幅部を設けるとともに、この拡幅部の下端にフィ
ルターを設ける。そして、拡幅部の壁面に開口する空気貯留部の天井の位置を、拡幅部の
上端よりも高い位置に設定する。
【0022】
このような構成によれば、液体の流れに乗って空気が拡幅部に移動すると、拡幅部では
液体の流れが遅くなるので、流されていた空気は浮力によって浮き上がる。このとき、浮
き上がった空気が、拡幅部の壁面に開口する空気貯留部に入ることで、空気貯留部の天井
に空気が溜まることになる。この空気貯留部の天井は、拡幅部の上端よりも高い位置に設
定されていることから、空気貯留部の天井付近は、液体の流れから外れた(液体の流れが
入り込むことのない)よどみ領域となっている。そのため、空気貯留部の天井に溜まった
空気が液体の流れに乗って下流の噴射ヘッドに流れることはなく、空気貯留部内に空気を
安定して溜めておくことができる。
【0023】
さらに、上述した本発明の液体噴射装置では、空気貯留部の天井に複数の突起を設けて
おくこととして、浮力によって浮き上がる空気を点接触または線接触によって複数箇所で
支えるようにしてもよい。
【0024】
空気(気泡)の表面で液体の圧力変動を直接的に吸収可能なのは、空気と液体との接触
面であることから、空気を利用して液体の圧力変動を吸収する上で、空気と液体との接触
面積を広くしておけば、液体の圧力変動を素早く吸収することができる。従って、空気貯
留部の天井に設けた複数の突起によって、空気を点接触または線接触によって複数箇所で
支えておくこととすれば、空気貯留部の天井に空気が直接的に接する(面接触する)場合
に比べて、空気と液体との接触面積を広く確保することができる。その結果、液体通路の
上流側から伝わる液体の圧力変動を空気貯留部内の空気によって素早く吸収することが可
能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】インクジェットプリンターを例に用いて本実施例の液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】キャリッジケースにインクカートリッジを装着する様子を示した説明図である。
【図3】インクカートリッジに設けられたインク供給口の構成を示した断面図である。
【図4】本実施例のインク取込針の構成を示した説明図である。
【図5】本実施例のインクジェットプリンターで実行される空気管理処理の流れを示したフローチャートである。
【図6】本実施例のインクジェットプリンターに搭載されたチューブポンプの構造を示した説明図である。
【図7】第1変形例の空気貯留室の構成を示した断面図である。
【図8】第2変形例のインクジェットプリンターで空気貯留室に空気を出し入れするための構成を示した説明図である。
【図9】第3変形例のインクジェットプリンターの構成を示した説明図である。
【図10】インク取込針の拡幅部に対して誘導部を偏心して設けた例を示した説明図である。
【図11】インク取込針の拡幅部に設ける空気貯留室を、誘導部に対して両側に配置した例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.装置構成:
A−1.液体噴射装置の構成:
A−2.インク取込針の構成:
B.本実施例の空気管理処理:
C.変形例:
C−1.第1変形例:
C−2.第2変形例:
C−3.第3変形例:
【0027】
A.装置構成 :
A−1.液体噴射装置の構成 :
図1は、いわゆるインクジェットプリンターを例に用いて本実施例の液体噴射装置の大
まかな構成を示した説明図である。図示されているように、インクジェットプリンター1
0は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体としての印刷用紙2上にインクドットを形成
するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷用紙2の紙
送りを行うためのプラテンローラー40と、正常に印刷可能なようにメンテナンスを行う
メンテナンス機構50などから構成されている。キャリッジ20には、インクを収容した
インクカートリッジ26や、インクカートリッジ26が装着されるキャリッジケース22
や、キャリッジケース22の底面側(印刷用紙2に向いた側)に搭載された噴射ヘッド2
4などが設けられている。この噴射ヘッド24にはインクを噴射する複数の噴射ノズルが
形成されており、インクカートリッジ26内のインクを噴射ヘッド24に導いて、噴射ノ
ズルから印刷用紙2に向かって正確な分量だけインクを噴射することによって、画像等が
印刷されるようになっている。
【0028】
尚、本実施例のインクジェットプリンター10では、シアン色、マゼンタ色、イエロー
色、黒色の4種類のインクを用いてカラー画像を印刷することが可能であり、このことと
対応して、キャリッジ20に搭載された噴射ヘッド24には、インクの種類毎に噴射ノズ
ルが設けられている。また、インクカートリッジ26もインクの種類毎に設けられており
、それぞれの噴射ノズルに対して、対応する色のインクカートリッジ26からインクが供
給されるようになっている。加えて、インクカートリッジ26は、キャリッジケース22
に対して着脱可能に構成されており、インクカートリッジ26内のインクがなくなると、
新しいインクカートリッジ26に交換するようになっている。また、本実施例のインクカ
ートリッジ26は、本発明の「液体収容容器」に相当している。
【0029】
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向に延設されたガイドレール
38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミングベルト32
の歯形と噛み合う駆動プーリ34と、駆動プーリ34を駆動するためのステップモーター
36などから構成されている。タイミングベルト32の一部はキャリッジケース22に固
定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレール38に沿っ
てキャリッジケース22を移動させることができる。また、タイミングベルト32と駆動
プーリ34とは歯形によって互いに噛み合っているので、ステップモーター36で駆動プ
ーリ34を駆動すると、駆動量に応じて精度良くキャリッジケース22を移動させること
が可能となっている。
【0030】
印刷用紙2の紙送りを行うプラテンローラー40は、図示しない駆動モーターやギア機
構によって駆動されて、印刷用紙2を副走査方向に所定量ずつ紙送りすることが可能であ
る。
【0031】
また、メンテナンス機構50は、印刷領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設け
られており、キャップ52や、キャップ52の下方の位置に設けられた吸引ポンプ54や
、更にその下方に設けられた廃液タンク56などから構成されている。キャップ52は、
図示しない昇降機構によって上下方向に移動可能となっており、インクジェットプリンタ
ー10が画像等を印刷していない間は、キャリッジ20をホームポジションに移動させて
、キャップ52を上昇させる。すると、キャップ52が噴射ヘッド24の底面側に押し当
てられて噴射ノズルを覆うように閉空間が形成されるので、噴射ヘッド24内のインクが
乾燥することを防止可能となっている。また、キャップ52には、図示しない吸引チュー
ブを介して吸引ポンプ54が接続されており、噴射ヘッド24の底面側にキャップ52を
押し当てた状態で吸引ポンプ54を作動させることで、噴射ヘッド24内の劣化したイン
ク(乾燥して増粘したインクなど)を吸い出して廃液タンク56に排出すること(いわゆ
るクリーニング)も可能となっている。
【0032】
更に、インクジェットプリンター10の背面側には、インクジェットプリンター10の
全体の動作を制御する制御部60が搭載されている。キャリッジ20を往復動させる動作
や、印刷用紙2を紙送りする動作や、噴射ノズルからインクを噴射する動作や、正常に印
刷可能なようにメンテナンス機構50を駆動させる動作などは、全て制御部60によって
制御されている。
【0033】
図2は、キャリッジケース22にインクカートリッジ26を装着する様子を示した説明
図である。図示されているように、キャリッジケース22には、上方からインクカートリ
ッジ26を装着するための凹部23が設けられており、この凹部23の底面には、インク
カートリッジ26からインクを取り込むためのインク取込針100がインクカートリッジ
26毎に立設されている。また、インクカートリッジ26の底部には、インク供給口70
が設けられており、インクカートリッジ26をキャリッジケース22に装着する際には、
インクカートリッジ26に設けられたインク供給口70を、キャリッジケース22に設け
られたインク取込針100の位置に合わせて、インクカートリッジ26を下方に押し下げ
るように装着する。すると、インク取込針100がインク供給口70に挿入されて、イン
クカートリッジ26内のインクをインク取込針100に取り込むことが可能となる。
【0034】
図3は、インクカートリッジ26に設けられたインク供給口70の構成を示した断面図
である。図3では、インク供給口70にインク取込針100が挿入された状態が示されて
いる。図示されているように、インク供給口70の内部には、封止弁74や、封止弁74
をインク供給口70の開口部側(図中の下側)に向けて押えるバネ76などが設けられて
いる。インク供給口70にインク取込針100が挿入されていないときには、バネ76の
力によって封止弁74が押し下げられて、インク供給口70の開口部を塞いだ状態となっ
ている。そして、インク供給口70にインク取込針100が挿入されると、図3に示した
ように、バネ76の力に抗してインク取込針100の先端が封止弁74を押し上げること
により、インク供給口70の開口部が開いた状態となり、挿入されたインク取込針100
の先端付近に設けられたインク取込口102を通ってインクがインク取込針100に取り
込まれる。
【0035】
また、インク供給口70の開口部には、内壁に沿ってゴム製のシール部材72が設けら
れており、インク供給口70にインク取込針100が挿入されると、このシール部材72
がインク取込針100の外側面に密着することによって、インクが漏れ出ることを防いで
いる。
【0036】
ここで、インクカートリッジ26をキャリッジケース22に装着する際には、上述のよ
うにインク供給口70にインク取込針100が挿入される関係上、インク供給口70の容
積が変化(減少)し、それに伴ってインク供給口70内のインクに圧力変動(圧力の増加
)が生じる。また、このような圧力変動は、インクカートリッジ26をキャリッジケース
22に装着するときだけでなく、インクカートリッジ26を交換する際に隣のインクカー
トリッジ26に触れたり、インクジェットプリンター10を移動中に落としたりした場合
の衝撃によってインクカートリッジ26とキャリッジケース22との相対的な位置が変化
したときにも生じる。そして、こうした圧力変動がインク取込針100を介して噴射ヘッ
ド24の噴射ノズルまで伝わると、噴射ノズルのインク表面が形成しているメニスカスが
破壊され、その結果、噴射ノズルからインクが適切に噴射されない印刷不良(いわゆるノ
ズル抜け)が発生する。そこで、本実施例のインクジェットプリンター10では、インク
の圧力変動が噴射ノズルにまで伝わることを抑制するために、以下のような構成のインク
取込針100を採用している。
【0037】
A−2.インク取込針の構成 :
図4は、本実施例のインク取込針100の構成を示した説明図である。先ず、図4(a
)は、インク取込針100の外観を示した斜視図である。図示されているようにインク取
込針100は、上段部が円筒形状に形成されているとともに、下段部が円錐形状に形成さ
れており、上段部の先端を尖らせた部分には、インクを取り込む複数のインク取込口10
2が開口している。また、下段部には、空気貯留室112が突設されており、詳しくは後
述するが、インク取込針100内に混入した空気(気泡)を、この空気貯留室112に溜
めておくことが可能となっている。
【0038】
図4(b)は、インク取込針100の先端および空気貯留室112の中央を通る鉛直な
面でインク取込針100を切断したときの断面図である。図示されているように、インク
取込針100内には、インク取込口102から取り込まれたインクが流入する流入通路1
04が設けられており、この流入通路104の下流側の端部には、インクに含まれる異物
を除去するためのフィルター110が設けられている。また、流入通路104は、断面積
が変化しない誘導部106と、下流側(図中の下方)に向かって断面積が拡幅する拡幅部
108とから構成されている。フィルター110には、噴射ノズルや噴射ノズルまでの微
細な通路を詰らせるような異物を除去できるように目の細かいものが用いられることから
、フィルター110によってインクが流れ難くなる(流路抵抗が増加する)ところ、拡幅
部108を設けて断面積を広げることでフィルター110を通過するインクの流量を確保
することできる。そして、フィルター110を通過したインクは、キャリッジケース22
内に設けられた供給通路28を通って、噴射ヘッド24に供給される。尚、本実施例のイ
ンク取込口102は、本発明の「液体取込口」に相当しており、インク取込口102から
取り込まれたインクを噴射ヘッド24に導く本実施例の流入通路104および供給通路2
8は、本発明の「液体通路」に相当している。また、下流側の端部にフィルター110が
設けられた本実施例の拡幅部108は、本発明の「フィルター室」に相当している。
【0039】
さらに、前述したように、本実施例のインク取込針100には、流入通路104内に混
入した空気(気泡)を溜めておくための空気貯留室112が設けられている。図示されて
いるように、空気貯留室112は、底部が拡幅部108の壁面に開口しているとともに、
その天井(空気貯留室112の上端側を構成する面)が拡幅部108の上端よりも高い位
置に設定されている。尚、本実施例の空気貯留室112は、本発明の「空気貯留部」に相
当している。
【0040】
流入通路104への空気の混入は、インク供給口70にインク取込針100を挿入する
際にインク取込口102から空気が入ったり、インクに溶け込んでいた空気が気泡化した
りすることによって発生する。こうした流入通路104内の空気は、インクの流れに乗っ
て下流側の拡幅部108に移動する。拡幅部108ではインクの流れが遅くなるので、流
されていた空気は浮力によって浮き上がる。このとき、浮き上がった空気が、拡幅部10
8の壁面に開口する空気貯留室112に入ることで、空気貯留室112の天井に空気が溜
まることになる。また、空気貯留室112の天井は、拡幅部108の上端よりも高い位置
となるように設けられていることから、インクの流れ(流線)から外れたよどみ領域とな
っている。従って、空気貯留室112の天井に溜まった空気がインクの流れに乗ることは
なく、空気貯留室112からの空気の流出を抑制できる。
【0041】
以上のように、本実施例のインクジェットプリンター10では、流入通路104の拡幅
部108に空気貯留室112が設けられており、この空気貯留室112に空気を溜めてお
くことで、溜めた空気がダンパーとして機能するので、流入通路104の上流側で生じる
インクの圧力変動が噴射ノズルにまで伝わることを抑制することができる。すなわち、イ
ンクの圧力変動が流入通路104を伝わって、拡幅部108および空気貯留室112内の
インクの圧力が増加する場合には、空気貯留室112内の空気(気泡)が収縮することに
よって、圧力増加を抑制する働きをし、逆に拡幅部108内のインクの圧力が減少する場
合には、空気貯留室112内の空気が膨張することによって、圧力減少を抑制する働きを
する。このように空気貯留室112内の空気をダンパーに利用して、流入通路104の上
流側から拡幅部108に伝わるインクの圧力変動を吸収する(緩和する)ことができるの
で、下流側の噴射ノズルにまでインクの圧力変動が伝わることを抑制することが可能とな
る。
【0042】
尚、空気貯留室112の空気が多い(気泡が大きい)ほど、より大きな圧力変動を吸収
することが可能となる(ボイルの法則)。しかし、前述したようにインク取込針100は
、キャリッジケース22に搭載されるものであり、空気を溜めておくための空気貯留室1
12の容積も限られる。噴射ノズルのインク表面が形成するメニスカスは、約4kPa以
上の圧力がかかると破壊される傾向にあることから、インクの圧力変動をこれより小さく
すれば、ノズル抜けを防止できる。一例として、容積が77mmのインク取込針100
に対して16mm以上の空気を溜めておけば、インクカートリッジ26をキャリッジケ
ース22に装着する際に発生するインクの圧力変動を吸収して、ノズル抜けを防止できる
という実験結果が得られている。従って、この場合は、16mm程度の空気を溜めてお
くことが可能な空気貯留室112を設けておけばよい。
【0043】
ここで、インク供給口70にインク取込針100を挿入する際にインク取込口102か
ら入る空気の量や、インクに溶け込んでいた空気が気泡化する量は一定ではないので、空
気貯留室112に溜まっている空気(気泡)が少なすぎる場合には、インクの圧力変動を
充分に吸収しきれないことがある。また逆に、空気(気泡)が多すぎる場合は、空気貯留
室112から食み出した空気が下流側に流れて噴射ヘッド24に供給されてしまうことで
、噴射ノズルからインクが適切に噴射されなくなってしまう。
【0044】
こうした点に鑑み、本実施例のインクジェットプリンター10では、空気貯留室112
の天井に接続口114が設けられており、この接続口114から空気貯留室112に空気
を供給したり、逆に空気貯留室112内の空気を吸引したりすることが可能となっている
。詳しくは後述するが、本実施例のインクジェットプリンター10では、接続口114に
接続チューブ116を介してチューブポンプが接続されており、このチューブポンプを駆
動することで空気貯留室112に対して空気を出し入れ可能となっている。また、本実施
例のインクジェットプリンター10では、以下のような空気管理処理を行って、空気貯留
室112内の空気を管理するようになっている。
【0045】
B.本実施例の空気管理処理 :
図5は、本実施例のインクジェットプリンター10で行われる空気管理処理の流れを示
したフローチャートである。この処理は、インクジェットプリンター10の電源がONに
されると、制御部60によって実行される。
【0046】
図示されているように空気管理処理では、先ず初めに、インクジェットプリンター10
が印刷を開始するか否かを判断する(ステップS100)。前述したように、制御部60
は、インクジェットプリンター10の全体の動作を制御していることから、印刷を開始す
るタイミングを判断することができる。尚、前述したように、印刷を行っていないときに
は、キャリッジ20はホームポジションにあり、キャリッジ20を印刷領域に移動させて
印刷を開始することから、キャリッジ20を印刷領域に移動させる際に、印刷を開始する
と判断してもよい。そして、印刷を開始しない場合は(ステップS100:no)、ステ
ップS100の判断を繰り返して、印刷の開始を監視している状態となる。
【0047】
一方、印刷を開始する場合は(ステップS100:yes)、接続チューブ116を介
して空気貯留室112の接続口114と接続されたチューブポンプを吸引方向に駆動する
ことで、空気貯留室112内の空気(気泡)を吸引する(ステップS102)。前述した
ように、流入通路104の上流側で生じるインクの圧力変動は、インクカートリッジ26
を交換するときや、インクジェットプリンター10を移動時に落としたときなど、主に印
刷を行っていないときに生じ易い。換言すれば、印刷中は、こうしたインクの圧力変動が
生じ難いので、印刷していないときに比べて、インクの圧力変動を吸収するために空気貯
留室112に空気を溜めておく必要性は低い。また、万が一印刷中に空気が下流側に流れ
て噴射ヘッド24に供給されると、噴射ノズルからインクが適切に噴射されず、印刷不良
が生じてしまう。そこで、本実施例のインクジェットプリンター10では、印刷を開始す
るに際して、空気貯留室112内の空気を吸引して排出するようになっている。
【0048】
ここで、空気貯留室112の接続口114と接続された本実施例のチューブポンプの構
造について簡単に説明する。図6は、本実施例のインクジェットプリンター10に搭載さ
れたチューブポンプ150の構造を示した説明図である。図示されているように、チュー
ブポンプ150は、円筒形状に形成されたハウジング152内に、接続チューブ116と
連結されるチューブ154の一部が、ハウジング152の内壁に沿って円弧状に収容され
た構造となっている。また、ハウジング152の内部には、回転円板156が設けられて
おり、この回転円板156には、ローラー158が回転可能な状態でガイド溝160に軸
支されている。ガイド溝160は、一端側が回転円板156の外周に近付くのに対して、
他端側が回転円板156の外周から遠ざかるように形成されている。
【0049】
このような構造のチューブポンプ150は次のように動作する。先ず、図示しないモー
ターを作動させて回転円板156を吸引方向(図中に矢印で示した方向)に回転させると
、ローラー158は、ガイド溝160の一端側に移動して、図6に示したように回転円板
156の外周から大きく突出した状態となるので、ローラー158とハウジング152の
内壁との間でチューブ154を押し潰す(閉塞する)ようになる。この状態で、回転円板
156を吸引方向に回転させ、ローラー158をチューブ154に沿って移動させると、
チューブ154の閉塞部分も移動していくので、チューブ154内の流体(空気やインク
など)が順次押し出されて下流へと移送される。また、ローラー158が通過した後、チ
ューブ154の閉塞部分はチューブの復元力によって元の形状に戻ろうとするので、その
際にチューブ154内には負圧が発生して、上流から流体を吸引することができる。一方
、回転円板156をリリース方向(吸引方向とは逆の方向)に回転させると、ローラー1
58はガイド溝160の他端側に移動して回転円板156の外周から離れるので、チュー
ブ154は、閉塞が解除されて、開放状態(連通した状態)となる。
【0050】
図5に示した空気管理処理のステップS102では、チューブポンプ150を吸引方向
に駆動させて、接続チューブ116内を負圧にすることよって、空気貯留室112内の空
気を吸引する(抜き取る)ことができる。本実施例のインクジェットプリンター10では
、空気貯留室112内の空気を検出するための図示しない空気検出センサーが設けられて
おり、空気貯留室112内の空気が排出されると、チューブポンプ150を停止する(ス
テップS104)。尚、本実施例では、空気検出センサーを用いて空気の排出を検出して
いるが、これに限られるわけではなく、空気貯留室112の容積分の流体(空気およびイ
ンク)を排出するのに要する時間(排出時間)を予め求めておき、排出時間が経過したら
、チューブポンプ150を停止することとしてもよい。この場合は、空気貯留室112内
の空気とともに、その周囲のインクも含めて排出される。
【0051】
こうして空気貯留室112内の空気を排出したら、続いて、印刷を終了するか否かを判
断する(ステップS106)。インクジェットプリンター10の全体の動作を制御する制
御部60は、印刷の開始と同様に、印刷を終了するタイミングを判断することができる。
尚、前述したように、印刷を行っていないときには、キャリッジ20をホームポジション
に移動させることから、キャリッジ20をホームポジションに移動させる際に、印刷を終
了すると判断してもよい。そして、未だ印刷を継続している場合は(ステップS106:
no)、ステップS106の判断を繰り返して、印刷の終了を監視している状態となる。
【0052】
一方、印刷を終了する場合は(ステップS106:yes)、チューブポンプ150を
リリース方向に駆動することで開放状態とする(ステップS108)。前述したように、
印刷を行っていないときには、インクカートリッジ26の交換や、インクジェットプリン
ター10の移動の際の落下などによって、流入通路104の上流側でインクの圧力変動が
生じることがあるので、本実施例のインクジェットプリンター10では、印刷を終了する
に際して、こうしたインクの圧力変動を吸収するための空気を空気貯留室112に溜めて
おくようになっている。図6を用いて前述したように、チューブポンプ150をリリース
方向に駆動すると、チューブポンプ150内のチューブ154の閉塞が解除されるので、
空気貯留室112が大気に開放された状態となる。印刷中は、噴射ヘッド24の噴射ノズ
ルからインクが噴射されるのに伴って、噴射された分のインクが噴射ヘッド24に引き込
まれるので、流入通路104内や、空気貯留室112内は負圧になっている。従って、印
刷を終了する際にチューブポンプ150を開放状態にすることで、空気貯留室112に空
気が導入される。
【0053】
尚、本実施例のインクジェットプリンター10では、空気貯留室112に空気を供給す
る際に、チューブポンプ150をリリース方向に駆動することとしているが、これに限ら
れるわけではなく、例えば、接続口114に開閉弁を接続しておくこととして、チューブ
ポンプ150をリリース方向に駆動する代わりに、この開閉弁を開弁することによって、
空気貯留室に空気を供給するようにしてもよい。
【0054】
そして、インクの圧力変動を吸収するための所定量の空気が空気貯留室112に取り入
れられると、チューブポンプ150を吸引方向に駆動してチューブ154を閉塞させるこ
とで、閉鎖状態とする(ステップS110)。尚、本実施例では、空気貯留室112内の
空気が所定量に達したことを空気検出センサーで検出して、チューブポンプ150を閉鎖
することとしているが、これに限られず、空気貯留室112に所定量の空気を取り入れる
のに要する時間(取入時間)を予め求めておき、取入時間が経過したら、チューブポンプ
150を閉鎖するようにしてもよい。
【0055】
こうして空気貯留室112に所定量の空気を取り入れると、空気管理処理の先頭に戻っ
て、再び印刷を開始するまで待機し(ステップS100)、印刷を開始する際には、チュ
ーブポンプ150を吸引方向に駆動して空気貯留室112内の空気を吸引する(ステップ
S102)。
【0056】
以上に説明したように、本実施例のインクジェットプリンター10では、インク取込針
100に空気貯留室112が流入通路104と連通させて設けられている。この空気貯留
室112は、流入通路104の拡幅部108の上方の位置に、底部を拡幅部108の壁面
に開口させて設けられている。拡幅部108ではインクの流れが遅くなるので、拡幅部1
08まで流された空気は浮力によって浮き上がり、このとき、浮き上がった空気が空気貯
留室112に入ることで、空気貯留室112の天井に空気が溜まることになる。こうして
空気貯留室112に溜まった空気は、流入通路104の上流側で生じたインクの圧力変動
を吸収するダンパーとして機能するので、下流の噴射ヘッド24の噴射ノズルまでインク
の圧力変動が伝わることを抑制することができる。
【0057】
また、こうした空気(気泡)は、インクの圧力変動を吸収する上では有効であるものの
、下流側に流れて噴射ヘッド24に供給されると、噴射ノズルからインクが適切に噴射さ
れず、印刷不良が発生してしまう。本実施例のインクジェットプリンター10では、空気
貯留室112の天井が、拡幅部108の上端よりも高い位置に設定されていることから、
空気貯留室112の上部(天井付近)は、インクの流れが入り込むことのないよどみ領域
となっている。このため、空気貯留室112の天井に溜まった空気がインクの流れに乗っ
て移動することはなく、空気が下流の噴射ヘッド24に流れることを抑制することができ
る。
【0058】
加えて、本実施例のインクジェットプリンター10では、空気貯留室112の天井に接
続口114が設けられており、この接続口114から空気貯留室112に空気を供給する
(取り入れる)ことが可能となっている。これにより、空気貯留室112内の空気(気泡
)によるダンパー効果を充分に得ることができるので、流入通路104の上流側で生じた
インクの圧力変動が噴射ノズルにまで伝わることを、より確実に抑制することができる。
すなわち、インクカートリッジ26の交換時にインク取込針100のインク取込口102
から空気が入ったり、インクに溶け込んでいた空気が気泡化したりすることで流入通路1
04内に空気が混入するものの、その量は一定ではなく、空気が少なすぎる場合にはイン
クの圧力変動を充分に吸収しきれないことがある。そこで、空気貯留室112に設けた接
続口114から空気を供給可能としておけば、積極的に空気を供給することで、インクの
圧力変動を吸収可能な量の空気を確保することができる。その結果、噴射ノズルにインク
の圧力変動が伝わることをより確実に抑制できる。
【0059】
また、本実施例のインクジェットプリンター10では、空気貯留室112に設けた接続
口114から空気貯留室112内の空気を吸引する(抜き取る)ことも可能となっている
。このため、流入通路104に所定量(ダンパー効果を得るのに必要な量)以上の空気が
混入した場合には、空気貯留室112の接続口114から空気を吸引することによって、
空気貯留室112内の空気を適切な量に保つことができ、その結果、空気が下流の噴射ヘ
ッド24へ流れる可能性を低減することができる。加えて、空気貯留室112の接続口1
14から空気を排出可能とすれば、前述したクリーニング動作などを行って大量のインク
とともに空気を噴射ノズルから排出する場合とは異なり、インクを無駄にすることなく、
空気を排出することができる。
【0060】
さらに、本実施例のインクジェットプリンター10では、流入通路104の上流側で生
じるインクの圧力変動が、印刷中に比べて印刷していないときに生じ易いことに着目して
、印刷中か否かに応じて空気貯留室112に対して空気を出し入れするようになっている
。これにより、印刷を行っていないときには、空気貯留室112に空気を溜めておくこと
で、空気のダンパー効果が得られるので、インクの圧力変動が噴射ノズルまで伝わること
を抑制できる。一方、印刷していないときに比べてインクの圧力変動が生じ難い印刷中は
、空気貯留室112内の空気を抜き取っておくことで、空気が下流の噴射ヘッド24に流
れる可能性をより低くすることができる。
【0061】
C.変形例 :
以上に説明した本実施例のインクジェットプリンター10には、幾つかの変形例が存在
している。以下では、これら変形例について説明する。尚、変形例の説明にあたっては、
前述した実施例と同様の構成部分については、先に説明した実施例と同様の符号を付し、
その詳細な説明を省略する。
【0062】
C−1.第1変形例 :
上述したように空気貯留室112に溜めた空気を利用してインクの圧力変動を吸収する
上で、空気とインクとの接触面積を広くしおけば、インクの圧力変動を素早く吸収するこ
とができる。そこで、第1変形例のインクジェットプリンター10では、空気とインクと
の接触面積を広くするために、以下のような構成の空気貯留室112を採用している。
【0063】
図7は、第1変形例の空気貯留室112の構成を示した断面図である。図7(a)に示
すように、第1変形例の空気貯留室112の天井には、複数のリブ118が突設されてい
る。空気貯留室112内の空気(気泡)は、浮力で浮き上がると、リブ118の先端との
線接触によって複数箇所で支えられるので、空気貯留室112の天井にリブ118が設け
られていない場合に比べて、空気が空気貯留室112の天井と接する面積を小さくするこ
とができる。
【0064】
図7(b)には、比較のために、リブ118が設けられていない空気貯留室112に空
気が溜まっている様子が示されている。この場合は、浮き上がった空気が直接的に空気貯
留室112の天井と接する(面接触する)ことになる。従って、空気の表面でインクの圧
力変動を吸収可能な部分は、空気貯留室112の天井に接していない部分、すなわちイン
クと接している下側の部分に限られる。尚、図7中の矢印は、空気がインクの圧力増加を
吸収する様子を模式的に表している。
【0065】
これに対して、図7(a)に示したように、複数のリブ118の先端で空気を支えて、
空気が空気貯留室112の天井と接する面積を小さくしておけば、その分だけ、空気とイ
ンクとの接触面積が広く確保されるので、空気の下側だけでなく上側でもインクの圧力変
動を吸収可能となる。その結果、急激なインクの圧力変動を空気貯留室112内の空気に
よって素早く吸収することができる。
【0066】
尚、上述した第1変形例では、空気貯留室112の天井に複数のリブ118を設けて、
線接触によって複数箇所で空気を支えるようになっていたが、リブ118の代わりに複数
の小突起を設けて、点接触によって複数箇所で空気を支えるようにしてもよい。このよう
に点接触で空気を支える場合も、面接触の場合に比べて、空気とインクのとの接触面積を
広く確保することができる。
【0067】
C−2.第2変形例 :
前述した実施例では、空気貯留室112への空気の出し入れを、チューブポンプ150
を用いて行うようになっていた。しかし、空気を出し入れする構成は、これに限られるわ
けではない。以下では、前述した実施例とは異なる構成で空気貯留室112に対して空気
の出し入れを行う第2変形例について説明する。
【0068】
図8は、第2変形例のインクジェットプリンター10で空気貯留室112に空気を出し
入れするための構成を示した説明図である。図示されているように、第2変形例のインク
ジェットプリンター10では、接続チューブ116を介して空気貯留室112の接続口1
14にシリンダー170が接続されている。シリンダー170内には、ピストン172が
往復動可能に設けられており、このピストン172は、図示しないアクチュエーターと連
結竿174を介して接続されている。
【0069】
このような構成によれば、アクチュエーターを作動させてピストン172を空気貯留室
112側(図中の左側)に移動させると、シリンダー170内の空気を圧送して、空気貯
留室112に供給することができる。一方、アクチュエーターを逆方向に作動させてピス
トン172をアクチュエーター側(図中の右側)に移動させると、シリンダー170内が
負圧になるので、空気貯留室112内の空気を吸引する(抜き取る)ことができる。
【0070】
以上のように、第2変形例のインクジェットプリンター10においても、空気貯留室1
12の接続口114と接続されたシリンダー170内のピストン172を往復動させるこ
とで、前述した実施例と同様に、空気貯留室112に対して空気を出し入れすることがで
きる。そのため、空気貯留室112に積極的に空気を供給することで、インクの圧力変動
を吸収可能な量の空気を確保することができる。また、空気貯留室112内の空気が多す
ぎるときや、空気を溜めておく必要性が低いときには、空気貯留室112内の空気を吸引
する(抜き取る)ことで、空気が下流の噴射ヘッド24に流れることを抑制できる。
【0071】
C−3.第3変形例 :
前述した実施例では、印刷中か否かに応じて空気貯留室112に対して空気を出し入れ
するようになっていた。しかし、印刷中に噴射ヘッド24よりも上流側でインクの圧力変
動が生じる場合があることから、印刷中も空気貯留室112から空気を抜き取ることなく
、空気を溜めたままにしておいてもよい。
【0072】
図9は、第3変形例のインクジェットプリンター10の構成を示した説明図である。先
ず、図9(a)には、インクジェットプリンター10の大まかな内部構造が示されている
。前述した実施例では、インクカートリッジ26がキャリッジ20に搭載されていたのに
対して(図1参照)、図9(a)に示すように、第3変形例のインクジェットプリンター
10では、キャリッジ20とは別の位置に設けられたカートリッジホルダー80にインク
カートリッジ26が装着され、インクカートリッジ26からカートリッジホルダー80に
取り込まれたインクは、供給チューブ82を介してキャリッジ20の噴射ヘッド24に供
給されるようになっている。
【0073】
このように、インクカートリッジ26がキャリッジ20とは別の位置に搭載されたイン
クジェットプリンター10では、印刷中にキャリッジ20がガイドレール38に沿って往
復動するのに伴って供給チューブ82が揺れることから、いわゆるポンピング効果により
供給チューブ82内にインクの圧力変動が生じる。そして、こうした圧力変動が噴射ヘッ
ド24の噴射ノズルまで伝わると、噴射されるインクの量に影響するので、印刷不良が発
生することがある。第3変形例のインクジェットプリンター10では、インクの圧力変動
が噴射ノズルにまで伝わることを抑制するために、以下のような構成のキャリッジ20を
採用している。
【0074】
図9(b)には、第3変形例のインクジェットプリンター10に搭載されたキャリッジ
20の構成が示されている。図示されているように、キャリッジ20の内部には、インク
に含まれる異物を除去するためのフィルター86を備えたフィルター室84が設けられて
いる。このフィルター室84の側面には、供給チューブ82が接続されており、フィルタ
ー室84に流入したインクは、フィルター86を通過した後、フィルター室84の底部に
接続された供給通路28を通って噴射ヘッド24に供給される。
【0075】
また、フィルター室84の上面には、空気貯留室112の底部が開口している。液体の
流れに乗ってフィルター室84に混入した空気は、浮力で浮き上がることによってフィル
ター室84の上面に到達する。フィルター室84の上面は、空気貯留室112に向けて上
り傾斜が付けられているので、浮力で浮き上がった空気は、空気貯留室112の天井に溜
まることになる。第3変形例の空気貯留室112にも、前述した実施例と同様に接続口1
14が設けられており、接続チューブ116を介してチューブポンプ150が接続されて
いるので、チューブポンプ150を駆動することで空気貯留室112に対して空気を出し
入れ可能となっている。
【0076】
このような第3変形例のインクジェットプリンター10では、前述したように、印刷中
にキャリッジ20の往復動に伴って供給チューブ82が揺れることにより、インクの圧力
変動が生じる。そこで、印刷中も空気貯留室112から空気を抜き取ることなく、空気を
溜めたままにしておけば、空気のダンパー効果を得て、インクの圧力変動が噴射ノズルま
で伝わることを抑制し、その結果、印刷不良を防止することができる。この場合も、空気
貯留室112内の空気が少ないときには、空気貯留室112の接続口114から空気を供
給することによって、インクの圧力変動を吸収可能な量の空気を確保することができる。
また、インクに溶け込んでいた空気が気泡化するなどによって、空気貯留室112内の空
気は徐々に増加することがある。そこで、空気貯留室112内に所定量以上の空気が溜ま
った場合には、接続口114から空気貯留室112内の空気を吸引する(抜き取る)こと
によって、空気貯留室112内の空気の量を適正に保つことができ、その結果、空気が下
流の噴射ヘッド24へ流れることを抑制できる。
【0077】
以上、各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるもので
はなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0078】
例えば、インク取込針100の誘導部106は、拡幅部108の中央ではなく、偏心し
て設けておいてもよい。図10は、拡幅部108に対して誘導部106を偏心して設けた
インク取込針100を示した説明図である。図10(a)には、インク取込針100の平
面図が示されている。尚、図10(a)中のハッチングを付した部分は空気貯留室112
の上面を表している。また、図10(b)には、インク取込針100の先端および空気貯
留室112の中央を通る鉛直平面でインク取込針100を切断した断面図が示されている
。図10に示した例では、拡幅部108が正円の円錐形状ではなく、小判形(長円形)に
形成されており、この拡幅部108に対して、誘導部106が長手方向に偏心して設けら
れている。このようにすれば、誘導部106を偏心させた側とは反対側に空気貯留室11
2を設けることによって、空気貯留室112のスペースを広く確保することができるので
、より多くの空気を溜めておくことが可能となる。その結果、インクの圧力変動が噴射ノ
ズルに伝わることを一層確実に抑制できる。
【0079】
また、インク取込針100の拡幅部108に設ける空気貯留室112は、誘導部106
に対して片側に限られるわけではなく、図11に示すように、両側に設けることとしても
よい。尚、この場合は、2つの空気貯留室112の上部を連結通路120によって接続し
ておいてもよい。このように、空気貯留室112を分散させておけば、インクの流れに乗
って拡幅部108に移動した空気が浮力によって浮き上がる際に、空気貯留室112に入
り易くすることができる。
【符号の説明】
【0080】
10…インクジェットプリンター、 20…キャリッジ、
22…キャリッジケース、 24…噴射ヘッド、 26…インクカートリッジ、
70…インク供給口、 100…インク取込針、 102…インク取込口、
104…流入通路、 106…誘導部、 108…拡幅部、
110…フィルター、 112…空気貯留室、 114…接続口、
116…接続チューブ、 150…チューブポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体収容容器に収容された液体を噴射ヘッドに供給して、該噴射ヘッドに設けられた噴
射ノズルから該液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記液体収容容器内の液体を取り込む液体取込口と、
前記液体取込口から取り込まれた液体を前記噴射ヘッドに導く液体通路と、
前記液体通路に設けられて、該液体通路を流れる前記液体中の異物を除去するためのフ
ィルターが内部に設けられたフィルター室と、
前記フィルター室の前記フィルターよりも上流側に設けられた接続口から、該フィルタ
ー室内に空気を供給する空気供給手段と
を備える液体噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射装置であって、
前記空気供給手段は、前記接続口に接続されたポンプを備え、該ポンプで負圧を発生さ
せることによって前記フィルター室内の空気を吸引することも可能な手段である液体噴射
装置。
【請求項3】
請求項2に記載の液体噴射装置であって、
前記空気供給手段は、
前記噴射ノズルからの前記液体の噴射が終了する際には、前記フィルター室内に空気
を供給し、
前記噴射ノズルからの前記液体の噴射が開始される際には、前記フィルター室内の空
気を吸引する手段である液体噴射装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の液体噴射装置であって、
前記フィルター室内には、前記液体の流れに乗って該フィルター室に混入した空気が浮
力で浮き上がることによって溜まる空気貯留部が、前記フィルターよりも上流側に設けら
れており、
前記接続口は、前記空気貯留部に設けられている液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−101460(P2012−101460A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252560(P2010−252560)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】