説明

液体噴射装置

【課題】装置内の支持部材等の汚染を防止することが可能な液体噴射装置を提供する。
【解決手段】記録媒体を支持するプラテン5は、インクの噴射動作を行う際の記録ヘッドのノズル形成面に対向する本体部13と、当該本体部に複数突設された支持突起14と、を有し、支持突起は、帯電列において、駆動信号の極性と同極性側の順位にある材料から作製される一方、本体部における少なくとも一部は、帯電列において支持突起よりも駆動信号の極性とは反対極性側の順位にある材料から作製された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に関し、特に、圧力発生手段の駆動により圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記のプリンター等で使用される記録ヘッドでは、近年、画像向上等の要求に応えるため、ノズルから噴射されるインクの液量を小さくする傾向がある。このような微量の液滴を記録媒体に対して確実に着弾させるために、液滴の初速が比較的高く設定される。これにより、ノズルから噴射された液滴は、飛翔中に引き伸ばされて、先頭のメイン液滴(主液滴)とそれよりも後のサテライト液滴(副液滴)に分離する。このサテライト液滴の一部又は全部は、空気の粘性抵抗により速度が急激に低下し、記録媒体に到達することなくミスト化してしまうことがある。このことより、ミスト化したサテライト液滴(インクミスト)は、装置内を汚染し、記録ヘッドや電気回路等の帯電しやすい部材への付着によって動作不良を発生させたりする問題があった。例えば、記録動作中の記録紙を支持するプラテンの支持部(リブ)にインクが付着した場合、記録紙の背面(画像等が記録される側とは反対側の面)にインクが移って汚染してしまう問題がある。
【0004】
このような不具合を防止すべく、記録ヘッドを搭載したキャリッジが移動する際に、当該キャリッジとの摺接によりキャリッジの表面に静電気を帯電させる静電気発生部材が設けられた構成のプリンターが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この構成は、キャリッジの表面を帯電させることにより、キャリッジの表面にミストを静電気力により吸着させて回収するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−205434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記構成では、静電気発生部材を設けるための設置スペースが別途必要となる問題があった。
【0007】
なお、このような問題は、上記のプリンターに限らず、駆動電圧の印加により圧力発生手段を駆動させることで圧力室内の液体に圧力変動を生じさせてノズルから液体を噴射させる他の液体噴射装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体の噴射時に生じるミストによる支持部材等の汚染を簡単且つより確実に防止することが可能な液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射するノズル、当該ノズルに連通する圧力室、および、駆動信号の印加により駆動して前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生手段を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、を備え、
前記支持手段は、噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対向する本体部と、当該本体部に突設された支持部と、を有し、
前記支持部は、帯電列において、前記駆動信号の極性と同極性側の順位にある材料から作製される一方、前記本体部の少なくとも一部は、帯電列において前記支持部よりも前記駆動信号の極性とは反対極性側の順位にある材料から作製されたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、液体噴射ヘッドの移動時や着弾対象の搬送時に生じる気流や他の部材との摩擦により、支持部は駆動信号の極性と同極性に帯電する一方、本体部における少なくとも一部は駆動信号の極性とは反対極性に帯電する。また、液体噴射ヘッドのノズルから噴射された液体は、静電誘導により駆動信号の極性と同極性に帯電する。さらに、この液体の噴射に伴って生じるミストも駆動信号の極性と同極性に帯電する。これにより、支持部については、ミストとの間に斥力が作用するため、当該支持部に対するミストの付着が防止される。その結果、着弾対象に対するミストの汚染が抑制される。また、ミストは、本体部における少なくとも一部に静電気力によって捕集される。これにより、浮遊ミストが低減される。その結果、支持部や、装置内の他の構成部品(例えば、駆動モーター、駆動ベルト、リニアスケールなど)にミストが付着することがより確実に低減される。また、支持部等を帯電させるための部材を別途設ける必要がないため、省スペース化に寄与することができる。
【0011】
上記構成において、前記本体部の前記ノズル形成面に対向する側の面を構成する部分が、液体を吸収する吸収材である構成を採用する構成を採用することが望ましい。
【0012】
当該構成によれば、ミストが吸収材に吸収・保持されるので、回収されたミストの流れ出しが抑制される。その結果、支持部や装置内部のその他の構成部品へのミストの付着がさらに確実に防止される。
【0013】
上記構成において、前記支持部が、帯電列で前記着弾対象よりも前記駆動信号の極性と同極性側の順位にある材料から作製された構成を採用することが望ましい。
【0014】
当該構成によれば、簡単な構成でより確実に支持部を駆動信号の極性と同極性に帯電させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】プラテンの構成を説明する図である。
【図3】記録ヘッドの要部断面図である。
【図4】圧電振動子の構成を説明する断面図である。
【図5】記録ヘッドの電気的構成を説明するブロック図である。
【図6】駆動信号の噴射駆動パルスの構成を説明する波形図である。
【図7】ミストの捕集について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5と、キャリッジ4を記録紙6(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する搬送機構8と、を備えている。
【0018】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)が、プリンター1のプリンターコントローラー51(図5参照)に送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスを、主走査方向における位置情報として出力する。
【0019】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート24:図3参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する。
【0020】
図2は、プラテン5の構成を説明する図であり、(a)は部分平面図、(b)は長手方向の部分断面図である。主走査方向に長尺な板状の本体部13と、当該本体部13の上面(記録動作時における記録ヘッド2のノズル形成面に対向する側の面)の長手方向に沿って所定の間隔で突設された複数の支持突起14(本発明における支持部に相当)と、を備えている。
【0021】
各支持突起14は、リブ状の突起である。各支持突起14の上面は記録紙6を支える当接面となり、記録紙6の背面(インクが着弾する側の面とは反対側の面)を部分的に支える。また、各支持突起14は、圧電振動子46の駆動電極(後述する個別外部電極43)に印加される駆動信号(噴射駆動パルスDP(図6参照))と同極性に帯電しやすい材料から成る。本実施形態においては、駆動信号の噴射駆動パルスがプラス極性の電圧であるため、支持突起14は、帯電列でよりプラス側に帯電しやすい材料から作製されている。プラス側に帯電しやすい材料としては、ナイロン系樹脂やABS樹脂等が挙げられる。ABS樹脂は、帯電列で記録紙6よりもプラス側の順位であるため、各支持突起14は、記録紙6との摩擦によりプラスに帯電しやすくなっている。
【0022】
本実施形態における本体部13の上面であって、各支持突起14から外れた部分には、インク吸収材13a(本発明における吸収材の一種)が配設されている。このインク吸収材13aは、例えばフェルトやスポンジ等で作製された吸液性を有する多孔質部材から成り、記録動作時の記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート24)に対向する面を構成する。そして、インク吸収材13aは、帯電列で支持突起14よりもマイナス側の順位にある材料から作製されている。マイナス側に帯電しやすい材料としては、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。ポリウレタン系樹脂は、帯電列で記録紙6よりもマイナス側の順位である。なお、樹脂材料は、ベースとなる樹脂に加えて必要とする機能(プラテン5に関わる機能としては帯電列や表面抵抗率、或いは耐摩耗性や耐熱性など)を満たすべく添加剤を加える事が多く、これによって樹脂材料の機能・性質は容易に変わる。このため、支持突起14と本体部13の材料の組み合わせは例示したものには限られない。要するに、帯電列で相対的に支持突起14がプラス側8(駆動信号と同極性側)の順位、インク吸収材13aがマイナス側(駆動信号と反対極性側)の順位であれば、任意の組み合わせを採用することができる。なお、この構成によるミストの回収については後述する。
【0023】
搬送機構8は、モーターによって回転駆動される給送駆動ローラー8aと、この給送駆動ローラー8aに圧接して従動回転する給送従動ローラー8bと、を備えている(図7参照)。図示しない給紙トレイから搬送機構8に到達した記録紙6は、給送駆動ローラー8aと給送従動ローラー8bとによって挟持(ニップ)された状態で給送駆動ローラー8aが回転することによりプラテン5側へと搬送される。記録面に画像等が記録された記録紙6は、図示しない排紙トレイ側に排出される。
【0024】
図3は、記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド2は、ケース15と、このケース15内に収納される振動子ユニット16と、ケース15の底面(先端面)に接合される流路ユニット17と、カバー部材45等を備えている。上記のケース15は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット16を収納するための収納空部18が形成されている。振動子ユニット16は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子20と、この圧電振動子20が接合される固定板21と、圧電振動子20に駆動信号を供給するフレキシブルケーブル22とを備えている。
【0025】
図4は、振動子ユニット16の構成を説明する素子長手方向の断面図である。同図に示すように、この圧電振動子20は、共通内部電極39と個別内部電極40とで、圧電体41を挟んで交互に積層して形成された積層型の圧電振動子である。ここで、共通内部電極39は、全ての圧電振動子20に共通な電極であり、接地電位に設定される。また、個別内部電極40は、印加される駆動信号の噴射駆動パルス(図6参照。)に応じて電位が変動する電極である。そして、本実施形態では、圧電振動子20における振動子先端から振動子長手方向(積層方向とは直交する方向)の半分程度まで若しくは3分の2程度までの部分が自由端部20aとなっている。また、圧電振動子20における残りの部分、即ち、自由端部20aの基端から振動子基端までの部分が基端部20bとなっている。
【0026】
自由端部20aには、共通内部電極39と個別内部電極40とが重なり合った活性領域(オーバーラップ部分)Aが形成されている。これらの内部電極39,40に電位差を与えると、活性領域Aの圧電体41が作動して変形し、自由端部20aが振動子長手方向に変位して伸縮する。そして、共通内部電極39の基端は、圧電振動子20の基端面部で共通外部電極42に導通している。一方、個別内部電極40の先端は、圧電振動子20の先端面部で個別外部電極43に導通している。なお、共通内部電極39の先端は圧電振動子20の先端面部よりも少し手前(基端面側)に位置しており、個別内部電極40の基端は自由端部20aと基端部20bの境界に位置している。
【0027】
個別外部電極43(本発明における駆動電極に相当)は、圧電振動子20の先端面部と、圧電振動子20における積層方向の一側面である配線接続面(図4における上側の面)とに一連に形成された電極であり、配線部材としてのフレキシブルケーブル22の配線パターンと各個別内部電極40とを導通する。そして、この個別外部電極43の配線接続面側の部分は、基端部20b上から先端側に向けて連続的に形成されている。共通外部電極42は、圧電振動子20の基端面部と、上記の配線接続面と、圧電振動子20における積層方向の他側面である固定板取付面(図4における下側の面)とに一連に形成された電極であり、フレキシブルケーブル22の配線パターンと各共通内部電極39との間を導通する。そして、この共通外部電極42における配線接続面側の部分は個別外部電極43の端部よりも少し手前から基端面部側に向けて連続的に形成されており、固定部取付面側の部分は振動子の先端面部よりも少し手前の位置から基端側に向けて連続的に形成されている。
【0028】
上記の基端部20bは、活性領域Aの圧電体41の作動時においても伸縮しない非作動部である。この基端部20bの配線接続面側にはフレキシブルケーブル18が配置されており、基端部20b上で個別外部電極43及び共通外部電極42とフレキシブルケーブル22とが電気的に接続される。そして、このフレキシブルケーブル22を通して駆動信号が各個別外部電極43に印加される。
【0029】
流路ユニット17は、流路形成基板23の一方の面にノズルプレート24を、流路形成基板23の他方の面に振動板25をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット17には、リザーバー26(共通液室)と、インク供給口27と、圧力室28と、ノズル連通口29と、ノズル30とが設けられている。そして、インク供給口27から圧力室28及びノズル連通口29を経てノズル30に至る一連のインク流路が、各ノズル30に対応して形成されている。
【0030】
上記ノズルプレート24は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル30が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズルプレート24には、ノズル30を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル30によって構成される。このノズルプレート24のノズル30からインクが噴射される側の面が、本発明におけるノズル形成面に相当する。
【0031】
上記振動板25は、支持板31の表面に弾性体膜32を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板31とし、この支持板31の表面に樹脂フィルムを弾性体膜32としてラミネートした複合板材を用いて振動板25を作製している。この振動板25には、圧力室28の容積を変化させるダイヤフラム部33が設けられている。また、この振動板25には、リザーバー26の一部を封止するコンプライアンス部34が設けられている。
【0032】
上記のダイヤフラム部33は、エッチング加工等によって支持板31を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部33は、圧電振動子20の自由端部20aの先端面が接合される島部35と、この島部35を囲む薄肉弾性部36とからなる。上記のコンプライアンス部34は、リザーバー26の開口面に対向する領域の支持板31を、ダイヤフラム部33と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー26に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0033】
そして、上記の島部35には圧電振動子20の先端面が接合されているので、この圧電振動子20の自由端部20aを伸縮させることで圧力室28の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室28内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル30からインクを噴射させるようになっている。
【0034】
カバー部材45は、流路ユニット17の側面やヘッドケース41の側面を保護する部材であり、ステンレス鋼等の導電性を有する板材から作製されている。本実施形態におけるカバー部材45の一部は、ノズルプレート24のノズル30を露出させた状態でノズル形成面の周縁部に当接しており、当該ノズルプレート24に対して電気的に導通している。カバー部材45は接地されており、ノズルプレート24に接触して導通することで、例えば、記録紙6等から発生した静電気がノズルプレート24を通じて伝達することによる駆動IC等の損傷やノズルプレート24の帯電を防止するようになっている。
【0035】
次に、プリンター1の電気的構成を説明する。
図5は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置50は、例えばコンピューターやデジタルカメラなどの画像を取り扱う電子機器である。この外部装置50は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1において記録紙等の記録媒体に画像やテキストを印刷させるため、その画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0036】
本実施形態におけるプリンター1は、搬送機構8、キャリッジ移動機構7、リニアエンコーダー10、記録ヘッド2、及び、プリンターコントローラー51を有する。
【0037】
プリンターコントローラー51は、プリンターの各部の制御を行うための制御ユニットである。プリンターコントローラー51は、インターフェース(I/F)部54と、CPU55と、記憶部56と、駆動信号生成部57と、を有する。インターフェース部54は、外部装置50からプリンター1へ印刷データや印刷命令を送ったり、外部装置50がプリンター1の状態情報を受け取ったりする等プリンターの状態データの送受信を行う。CPU55は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。記憶部56は、CPU55のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。CPU55は、記憶部56に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。
【0038】
CPU55は、リニアエンコーダー10から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成するタイミングパルス生成手段として機能する。そして、CPU55は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号生成部57による駆動信号COMの生成等を制御する。また、CPU55は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2のヘッド制御部53に出力する。ヘッド制御部53は、プリンターコントローラー51からのヘッド制御信号(印刷データおよびタイミング信号)に基づき、記録ヘッド2の圧電振動子20に対する駆動信号COMの噴射駆動パルスDP(図6参照)の印加制御等を行う。
【0039】
駆動信号生成部57は、駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。また、駆動信号生成部57は、上記の電圧信号を増幅して駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、記録媒体に対する印刷処理(記録処理或いは噴射処理)時に記録ヘッド2の圧力発生部である圧電振動子20に印加されるものであり、繰り返し周期である単位期間内に、例えば図6に示す噴射駆動パルスDPを少なくとも1つ以上含む一連の信号である。ここで、噴射駆動パルスDPとは、記録ヘッド2のノズル30から液滴状のインクを噴射させるために、圧電振動子20に所定の動作を行わせるものである。
【0040】
図6は、駆動信号COMに含まれる噴射駆動パルスDPの構成の一例を示す波形図である。なお、図6において、縦軸は電位であり、横軸は時間である。また、噴射駆動パルスDPは、基準電位(中間電位)Vbから最大電位(最大電圧)Vmaxまでプラス側に電位が変化して圧力室28を膨張させる膨張要素p1と、最大電位Vmaxを一定時間維持する膨張維持要素p2と、最大電位Vmaxから基準電位Vbよりも低い最小電位(最小電圧)Vminまでマイナス側に電位が変化して圧力室28を急激に収縮させる収縮要素p3と、最小電位Vminを一定時間維持する収縮維持(制振ホールド)要素p4と、最小電位Vminから基準電位Vbまで電位が復帰する復帰要素p5と、を含んでいる。
【0041】
噴射駆動パルスDPが圧電振動子20に印加されると次のように作用する。まず、膨張要素p1により圧電振動子20が収縮し、これに伴って圧力室28が基準電位Vbに対応する基準容積から最大電位Vmaxに対応する最大容積まで膨張する。これにより、ノズル30内で露出しているメニスカスが圧力室側に引き込まれる。この圧力室28の膨張状態は、膨張維持要素p2の印加期間中に亘って一定に維持される。膨張維持要素p2の後に続いて収縮要素p3が圧電振動子20に印加されると、当該圧電振動子20が伸長し、これにより、圧力室28が上記最大容積から最小電位Vminに対応する最小容積まで急激に収縮する。この圧力室28の急激な収縮によって圧力室28内のインクが加圧され、これにより、ノズル30からは数pl〜数十plのインクが噴射される。この圧力室28の収縮状態は、収縮維持要素p4の印加期間に亘って短時間維持され、その後、制振要素p5が圧電振動子20に印加されて、圧力室28が最小電位Vminに対応する容積から基準電位Vbに対応する基準容積まで復帰する。
【0042】
ここで、本発明に係るプリンター1は、記録ヘッド2のノズル56から噴射されるインクが、圧電振動子46の駆動電極(個別外部電極43)に印加される駆動電圧(噴射駆動パルスDP)と同極性に帯電することを利用して、プラテン5の支持突起14にミストが付着することを抑制すると共に、インク吸収材13aに当該ミストを回収する点に特徴を有している。
【0043】
図7は、ミストの捕集について説明する模式図であり、(a)は、プラテン5上の記録紙6に対して記録ヘッド2のノズル30からインクを噴射している状態(印刷処理が実行されている状態)、(b)は、記録紙6がプラテン5を通過した後、記録ヘッド2の近傍に浮遊していたミストがプラテン5に捕集される状態、をそれぞれ示している。
本実施形態において、図7(a)に示すように、プラテン5上に記録紙6が搬送されて、当該記録紙6と支持突起14とが摩擦することで、支持突起14がプラスに帯電する。一方、インク吸収材13aは、記録紙6の搬送時や記録ヘッド2(キャリッジ4)の移動時に生じる気流との摩擦によりマイナスに帯電する。
【0044】
記録ヘッド2のノズル30からインクが噴射される際、圧電振動子20の個別外部電極43に対して駆動信号COMの駆動パルスDP、即ち、プラスの電圧が入力されたとき、圧電振動子20と圧力室28との間は振動板25の弾性体膜32により絶縁されているので、圧力室28内のインクにおける圧電振動子20の近傍には、静電誘導によりマイナスの電荷が誘導される。また、これとは反対側となるノズル30の近傍のインクには、プラスの電荷が誘導される。このプラス電荷はノズルプレート24側に移動するが、ノズル30から噴射されたインクにも僅かにプラス電荷が残る。ノズル30から噴射されたインクは、記録紙6に向けて飛翔している間、レナード効果によりプラスの帯電が強まる。
【0045】
ノズル30から噴射されたインク滴は、記録紙6に着弾するまでの間、先頭のメイン液滴(主液滴)Mdとそれよりも後のサテライト液滴(副液滴)Sdに分離する。このサテライト液滴の一部又は全部は、空気の粘性抵抗により速度が低下し、記録紙6に到達することなくミスト化する。メイン液滴Mdから分離したサテライト液滴SdやミストMsもプラスに帯電する。記録紙6に着弾しなかったミストMsは、記録ヘッド2のノズルプレート24の近傍で浮遊する。
【0046】
上述したように、支持突起14がプラスに帯電し、インク吸収材13aがマイナスに帯電する。プラスに帯電した支持突起14に関しては、同じくプラスに帯電したミストとの間に斥力が作用するため、当該ミストの付着が抑制される。その結果、記録紙6の裏面にインクが付着することが防止される。一方、当該ミストMsは、図2(b)および図7(b)に示すように、マイナスに帯電したインク吸収材13aに静電気力によって吸着されて回収されて保持される。これにより、浮遊ミストが低減されると共に、回収されたミストの流れ出しが抑制される。その結果、支持突起14やプリンター1の内部のその他の構成部品へのミストの付着がより確実に防止される。また、支持突起14やインク吸収材13aを帯電させるための部材を別途設ける必要がないため、省スペース化に寄与することができる。
【0047】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0048】
例えば、上記第1の実施形態では、プラテン5において、インク吸収材13aを、記録ヘッド2のノズル形成面に対向する側の面とした構成を例示したが、これには限られない。例えば、インク吸収材13aを設けることなく、プラテン5の本体部13の少なくとも一部を、帯電列で支持突起14よりもマイナス側の順位にある材料から作製する構成を採用することもできる。当該構成においても、ミストは支持突起14を避けて本体部13に付着するので、支持突起14に対するインクの汚染を防止することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、インクが噴射される際に生じるミストがプラスに帯電する構成を例示したが、これには限られない。例えば、圧電振動子に印加される駆動信号(噴射駆動パルスDP)の極性がマイナスの構成では、条件によってはミストがマイナスに帯電する場合も考えられる。この場合、支持突起14をマイナスに帯電しやすい材料で構成し、本体部13の少なくとも一部をプラスに帯電しやすい材料で構成することもできる。この構成においても、ミストが支持突起14に付着することが抑制される。
【0050】
さらに、上記各実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子20を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、図6に例示した駆動信号(噴射駆動パルス)の波形に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。その他、圧力発生手段としては、発熱によりインクを突沸させることで圧力変動を生じさせる発熱素子や、静電気力により圧力室の区画壁を変位させることで圧力変動を生じさせる静電アクチュエーターなど、電圧の印加により駆動される圧力発生手段を採用する構成においても本発明を適用することが可能である。
【0051】
そして、本発明は、圧力発生手段を用いて液体の噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0052】
1…プリンター,2…記録ヘッド,5…プラテン,6…記録紙,8…搬送機構,13…本体部,13a…インク吸収材,13…支持突起,8a…給送駆動ローラー,20…圧電振動子,24…ノズルプレート,28…圧力室,30…ノズル,42…共通外部電極,43…個別外部電極,57…駆動信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル、当該ノズルに連通する圧力室、および、駆動信号の印加により駆動して前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
前記圧力発生手段を駆動する駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、を備え、
前記支持手段は、噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対向する本体部と、当該本体部に突設された支持部と、を有し、
前記支持部は、帯電列において、前記駆動信号の極性と同極性側の順位にある材料から作製される一方、前記本体部の少なくとも一部は、帯電列において前記支持部よりも前記駆動信号の極性とは反対極性側の順位にある材料から作製されたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記本体部の前記ノズル形成面に対向する側の面を構成する部分は、液体を吸収する吸収材であることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記支持部は、帯電列において、前記着弾対象よりも前記駆動信号の極性と同極性側の順位にある材料から作製されたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−240256(P2012−240256A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110956(P2011−110956)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】