説明

液体噴射装置

【課題】潤滑剤がガイド面の端に取り残されてしまうのを極力防止する。
【解決手段】インクジェットヘッドのキャリッジ3には、走査方向に沿って延在したガイドレール11のガイド面21aと潤滑剤30を介して摺動可能に接触する2つの摺動部材27、28が設けられている。2つの摺動部材27、28のうち走査方向一方端に位置する第1摺動部材27は、ガイド面21aの接触領域21bと接触する第1摺動面27aを有している。そして、第1摺動面27aには、走査方向全長にわたって延在した第1の溝29が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射装置及び潤滑材の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液体噴射装置の一例として、インクジェットヘッドをキャリッジに搭載し、キャリッジの往復移動により、インクジェットヘッドを所定の走査方向に沿って往復移動させて記録用紙にインクを噴射するインクジェットプリンタについて開示されている、この特許文献1に記載のインクジェットプリンタにおいては、走査方向に沿って延在した2本のガイド部材が、走査方向と直交する、被噴射媒体の搬送方向に並んでおり、これら2本のガイド部材の間にキャリッジが配置されている。そして、キャリッジには、搬送方向下流側のガイド部材のガイド面と潤滑剤を介して接触した摺動面を有する摺動部材(摺動凸部)が、ガイド面の延在方向(走査方向)に並んで、キャリッジの両側にそれぞれ設けられている。そして、キャリッジの走査方向両側に設けられた摺動部材の摺動面には、ガイド面に塗布された潤滑剤を保持するための溝が搬送方向に沿って複数本形成されている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−246933号公報(図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、特許文献1には明記されていないが、例えば製品組み立て時などにおいて、ガイド部材のガイド面と複数の摺動部材の摺動面との間に潤滑剤を塗り広げようとしたときには、ガイド面のキャリッジよりも走査方向のいずれか一方に潤滑剤を塗布する。そして、キャリッジをガイド面の潤滑剤が塗布された走査方向の前記一方に移動させた後、走査方向の前記一方と反対の他方に移動させるという、往復移動を繰り返すことで、ガイド面と複数の摺動面との間に潤滑剤を塗り広げている。
【0005】
このとき、キャリッジがガイド面の走査方向の前記一方側に最初に移動したときに、複数の摺動部材のうち走査方向の前記一方端に位置し、最初に潤滑剤と接触する摺動部材の摺動面とガイド面との間に入り込めなかった余剰な潤滑剤については、この摺動部材の走査方向の前記一方側の側面に接触して、ガイド面の端に押し出されて戻すことができないため無駄になってしまう。
【0006】
そこで、本発明の目的は、潤滑剤がガイド面の端に取り残されてしまうのを極力防止する液体噴射装置及び潤滑材の塗布方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の液体噴射装置は、液体を噴射する液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドが搭載され、所定の走査方向に沿って往復移動可能なキャリッジと、前記走査方向に沿って延在し、且つ、前記キャリッジの前記走査方向への移動をガイドするガイド面、を有するガイド部材と、前記キャリッジに前記走査方向に並べて設けられ、潤滑剤が塗布された前記ガイド面を前記キャリッジの移動時に摺動する複数の摺動部材と、を備え、前記ガイド面は、前記キャリッジの移動時に摺動する、前記複数の摺動部材のうち少なくとも1つの摺動部材と前記潤滑剤を介して接触する接触領域を有し、前記複数の摺動部材のうち少なくとも前記走査方向の一方端に位置する第1摺動部材は、前記ガイド面の前記接触領域と接触する少なくとも第1摺動面を有し、前記第1摺動面は、前記走査方向全長にわたって、前記走査方向と直交する幅方向の長さの合計が前記接触領域の前記幅方向の長さよりも小さい。
【0008】
本発明における液体噴射装置によると、走査方向の前記一方端に位置する第1摺動面の幅方向の長さの合計が、走査方向全長にわたって、接触領域の幅方向の長さよりも小さくなっており、ガイド面の接触領域内には、第1摺動面の走査方向の前記一方側と前記一方側と反対の他方側とを繋ぐ逃がし通路が設けられることになる。このような構成において、上述したように例えば製品組み立て時などに、ガイド面のキャリッジよりも走査方向一方側に潤滑剤を塗布した後、キャリッジの往復移動を繰り返して、複数の摺動面とガイド面との間に潤滑剤を塗り広げるという動作を行う場合、最初にキャリッジを走査方向の前記一方に移動させると、先頭の第1摺動部材の第1摺動面とガイド面との間に潤滑剤が塗り広げられる。そして、一部の余剰な潤滑剤については逃がし通路に寄せられることになる。
【0009】
その後、キャリッジをさらに走査方向の前記一方に移動させることで、逃がし通路を介してガイド面の接触領域内における第1摺動部材よりも走査方向の前記一方側と反対の他方側に多くの潤滑剤が残されることになる。そして、このガイド面の接触領域内における逃がし通路は、第1摺動部材の第1摺動面とは接触しないが、第1摺動部材よりも走査方向他方側の摺動部材の摺動面とは接触する部分である。そのため、キャリッジをさらに走査方向の前記一方に移動させることで、第1摺動部材よりも走査方向の前記他方側の摺動部材の摺動面とガイド面との間にも多くの潤滑剤が塗り広げられる。このように、ガイド面の摺動部材と接触する接触領域内に潤滑剤の逃がし通路を設けて、潤滑剤がガイド面の端に取り残されてしまうのを極力防止することで、ガイド面に塗布する潤滑剤の量を減らしつつ、複数の摺動部材の摺動面とガイド面との間に潤滑剤を塗り広げることができる。
【0010】
また、前記複数の摺動部材のうち前記第1摺動部材よりも前記走査方向の前記一方と反対の他方側に位置する第2摺動部材は、前記ガイド面の前記接触領域と接触する第2摺動面を有し、前記第2摺動部材には、第2摺動面から凹み、前記走査方向の前記一方端が開口した凹部が形成されており、前記凹部の縁は、前記走査方向に対して傾斜し、前記走査方向の前記一方端に向かって幅が広がった傾斜面となっていてもよい。
【0011】
これによると、第2摺動部材の凹部の縁が、走査方向の前記一方端に向かって幅が広がった傾斜面となっていることで、第1摺動部材よりも走査方向の前記他方側に送られた潤滑剤をより多く凹部に集めて保持することができる。したがって、第1摺動部材よりも走査方向の前記他方側に残された潤滑剤を、第2摺動部材の走査方向の前記一方側の側面に接触して接触領域の外側に押し出されることなく、第2摺動面とガイド面との間により塗り広げることができる。
【0012】
そして、前記第1摺動部材には、前記第1摺動面から凹み、前記走査方向の全長にわたって延在する、第1の溝が形成されていることが好ましい。
【0013】
これによると、第1の溝を挟んで第1摺動面が存在しており、第1の溝からはみだした潤滑剤を第1摺動面とガイド面との間に塗り広げることができる。
【0014】
このとき、前記第1の溝の縁は、前記走査方向に対して傾斜し、前記走査方向の前記一方端に向かって幅が広がった傾斜面となっていることが好ましい。
【0015】
これによると、第1の溝の縁の幅が走査方向の前記一方端に向かって幅が広がった傾斜面となっていることで、ガイド面のキャリッジ(第1摺動部材)よりも走査方向の前記一方側に塗布された潤滑剤を第1の溝により多く集めて、第1摺動部材よりも走査方向の前記他方側により多くの潤滑剤を残すことができる。
【0016】
また、前記第2摺動部材の前記凹部は、前記走査方向の全長にわたって延在する、第2の溝を形成していてもよい。
【0017】
これによると、キャリッジを走査方向の前記一方に移動させることで、第2の溝を介して第2摺動部材よりも走査方向の前記他方側に一部の余剰な潤滑剤を残して、その後に、キャリッジを走査方向の前記他方に移動させるときに、この余剰な潤滑剤を第2摺動部材の第2摺動面とガイド面との間に塗り広げることができる。
【0018】
また、前記第1摺動部材には、前記第1摺動面から凹み、前記走査方向の全長にわたって延在する、第1の溝が形成されており、前記複数の摺動部材のうち前記第1摺動部材よりも前記走査方向の前記一方と反対の他方側に位置する第2摺動部材は、前記ガイド面の前記接触領域と接触する第2摺動面を有し、前記第2摺動部材には、第2摺動面から凹み、前記走査方向の全長にわたって延在する、第2の溝が形成されており、前記第1の溝の前記走査方向の前記他方端と、前記第2の溝の前記走査方向の前記一方端とは、前記幅方向に関してずれて配置されてもよい。
【0019】
これによると、第1摺動部材の第1の溝から出て、第1摺動部材よりも走査方向の前記他方側に送られた潤滑剤が、第2摺動部材の第2の溝に直接入り込まずに、第2摺動部材の第2摺動面とガイド面との間に入り込むことになる。したがって、第2摺動部材の第2摺動面とガイド面との間に潤滑剤を塗り広げることができる。
【0020】
このとき、前記第1の溝は、前記走査方向に対して交差する方向に延在しており、前記第2の溝は、前記第1の溝と平行に延在しており、前記第1摺動部材と前記第2摺動部材は同じ部材であることが好ましい。
【0021】
これによると、第1摺動部材と第2摺動部材を同じ部材で構成することで、コストを低減することができる。
【0022】
さらに、前記第1摺動部材の前記第1摺動面は、前記走査方向全長にわたって、前記幅方向に関して途切れなく連続した一平面となっており、前記第1摺動面の前記幅方向の長さは、前記走査方向全長にわたって、前記ガイド面の前記幅方向の長さよりも小さくてもよい。
【0023】
これによると、第1摺動部材に溝を形成することなく、ガイド面の接触領域内において第1摺動面と接触せず、潤滑剤を寄せる逃がし通路を設けることができる。また、第1摺動部材の、ガイド面に対する幅方向の位置を変えれば、逃がし通路の幅方向に関する位置や幅を自由に変更することができる。
【0024】
本発明における潤滑剤の塗布方法は、上述したいずれかの液体噴射装置における前記摺動部材の前記摺動面への潤滑剤の塗布方法であって、前記キャリッジを、前記ガイド面の、前記走査方向の前記一方と反対の他方端に移動させる第1移動工程と、前記第1移動工程後に、前記ガイド面の、前記第1摺動部材よりも前記走査方向の前記一方側に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布工程と、前記潤滑剤塗布工程後に、前記キャリッジを、前記走査方向に往復移動させる第2移動工程と、を備えている。
【0025】
本発明における潤滑剤の塗布方法によると、第1移動工程において、キャリッジを走査方向の端に移動させた後、潤滑材塗布工程において、ガイド面の、キャリッジよりも内側に潤滑剤を塗布している。そして、第2移動工程において、まず、キャリッジを走査方向の前記一方側に移動させたときに、先頭の第1摺動部材の第1摺動面とガイド面との間に潤滑材が塗り広げられる。そして、一部の余剰な潤滑剤については、ガイド面の接触領域における第1摺動面と対向していない逃がし通路に寄せられて、第1摺動部材よりも走査方向の他方側に多くの潤滑剤が残されることになる。そして、このガイド面の接触領域内における逃がし通路は、第1摺動部材の第1摺動面とは接触しないが、第1摺動部材よりも走査方向他方側の摺動部材の摺動面とは接触する部分である。そのため、キャリッジをさらに走査方向の前記一方に移動させることで、第1摺動部材よりも走査方向の前記他方側の摺動部材の摺動面とガイド面との間にも潤滑剤が塗り広げられる。このように、ガイド面の摺動部材と接触する接触領域内に潤滑剤の逃がし通路を設けて、潤滑剤がガイド面の端に取り残されてしまうのを極力防止することで、ガイド面に塗布する潤滑剤の量を減らしつつ、複数の摺動部材の摺動面とガイド面との間に潤滑剤を塗り広げることができる。
【発明の効果】
【0026】
ガイド面の摺動部材と接触する接触領域内に潤滑剤の逃がし通路を設けて、潤滑剤がガイド面の端に取り残されてしまうのを極力防止することで、ガイド面に塗布する潤滑剤の量を減らしつつ、複数の摺動部材の摺動面とガイド面との間に潤滑剤を塗り広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】図1のキャリッジを下方から見た平面図である。
【図3】第1摺動部材の斜視図である。
【図4】(a)は図3の第1摺動部材の摺動面の正面図であり、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図5】第2摺動部材の摺動面の正面図である。
【図6】潤滑剤を塗り広げる工程について説明する図である。
【図7】変形例1における第1、第2摺動部材の摺動面の正面図である。
【図8】変形例2における第1、第2摺動部材の摺動面の正面図である。
【図9】変形例3における第2摺動部材の摺動面の正面図である。
【図10】変形例4における第2摺動部材の摺動面の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施形態について説明する。本実施形態においては、記録用紙にインクを噴射して文字や画像などを記録するインクジェットプリンタを例に挙げて説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【0029】
図1に示すように、インクジェットプリンタ1(液体噴射装置)は、記録用紙Pが載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、このキャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4と、記録用紙Pを走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5などを有している。
【0030】
プラテン2の上面には、図示しない給紙機構から供給された記録用紙Pが載置される。また、プラテン2の上方には、図1の左右方向(走査方向)に沿って平行に延びる2本のガイドレール10、11が設けられ、キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10、11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。
【0031】
また、キャリッジ3には、2つのプーリ12、13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されており、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されると、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行にともなって走査方向に往復移動するようになっている。
【0032】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に搭載されており、プラテン2の上面と上下方向に間隔をあけて平行となった、インクジェットヘッド4の下面が、複数のノズル6が開口するインク噴射面4a(図2参照)となっている。複数のノズルは、搬送方向に並んでノズル列を形成しているとともに、このノズル列が走査方向に4列並んで配置されている。そして、このインク噴射面4aに形成された複数のノズル6は、図示しない圧電式のアクチュエータにより駆動されて、左方のノズル列から順に、それぞれブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクをプラテン2に載置された記録用紙Pに対して噴射する。
【0033】
搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18、19を有し、これら2つの搬送ローラ18、19によって、プラテン2に載置された記録用紙Pを搬送方向(図1の下方)に搬送する。
【0034】
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置された記録用紙Pに対して、キャリッジ3とともに走査方向(図1の左右方向)に往復移動するインクジェットヘッド4からインクを噴射させるとともに、2つの搬送ローラ18、19によって記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送することにより、記録用紙Pに所望の文字や画像などを記録する。
【0035】
次に、キャリッジ3及びキャリッジ3をガイドするガイドレール10、11について説明する。図2は、図1のキャリッジを下方から見た平面図である。図1に示すように、ガイドレール10は、走査方向に長尺な矩形状の板部材であり、その上面における搬送方向下流側の略半分の領域がキャリッジ3の下面と対向して配置されている。そして、キャリッジの下部に設けられた図示しないスライド部材が自重によりガイドレール10の上面に接触して、走査方向に沿って摺動可能となっている。なお、ガイドレール10の上面とスライド部材の下面との間には、例えばグリスなどの潤滑剤が介在しており、スムーズな摺動を可能としている。
【0036】
また、図1、図2に示すように、ガイドレール11は、ガイドレール10と同じく、走査方向に長尺な矩形状の板部材である。そして、ガイドレール11には、その搬送方向両端において、走査方向の全長にわたって延在し、上方に立設したガイド壁20、21が形成されている。そして、ガイド壁21の搬送方向上流側の面が、ガイド壁20と対向したガイド面21aとなっている。また、ガイド面21aは、後述する2つの摺動部材27、28のうち少なくとも一方と潤滑剤30を介して接触する接触領域21bを有している。
【0037】
キャリッジ3には、上述したようにインクジェットヘッド4が搭載されているとともに、走査方向に並んだ2つのスライダ部材22、23と、2つのスライダ部材22、23よりも搬送方向下流側において、走査方向に並んだ2つの付勢機構24、25とが設けられている。
【0038】
2つのスライダ部材22、23は、キャリッジ3の下部において、走査方向両側の搬送方向略中央に設けられており、キャリッジ3に対して固定的に設けられている。スライダ部材22、23は、ガイド壁20を搬送方向両側から挟んでおり、ガイド壁20を走査方向に沿って摺動可能となっている。なお、2つのスライダ部材22、23とガイド壁20との間には、潤滑剤が介在しており、スムーズな摺動を可能としている。
【0039】
2つの付勢機構24、25は、キャリッジ3の下部において、走査方向両側の搬送方向下流端に設けられており、キャリッジ3とガイドレール11のガイド壁21との間に介在している。そして、2つの付勢機構24、25は、キャリッジ3の搬送方向下流側端面に一端が接続されて、搬送方向に伸び縮みする圧縮バネ26と、圧縮バネ26の他端に接続され、ガイド壁21のガイド面21aに押し付けられ、且つ、走査方向に沿って摺動可能な2つの摺動部材27、28とを有している。なお、2つの摺動部材27、28とガイド壁21のガイド面21aとの間にも、潤滑剤30(図4(b)参照)が介在しており、スムーズな摺動を可能としている。
【0040】
そして、キャリッジ3は、圧縮バネ26によって搬送方向上流側に付勢されることで、2つのスライダ部材22、23がガイド壁20に押し付けられて、ノズル列方向と搬送方向とが平行な状態で、走査方向に沿って往復移動可能となっている。
【0041】
次に、2つの摺動部材27、28について詳細に説明する。なお、以下の説明においては、必要に応じて、2つの摺動部材27、28のうち、図2の左方の摺動部材27を第1摺動部材とし、図2の右方の摺動部材28を第2摺動部材と称す。また、走査方向に並んだ2つの摺動部材27、28のうち第1摺動部材27(図1の右方)側を右方とし、第2摺動部材28(図1の左方)側を左方とする。そして、本実施形態における右方が本発明における走査方向一方に相当し、また、本実施形態における左方が本発明における走査方向他方に相当する。
【0042】
図3は、第1摺動部材の斜視図である。図4(a)は第1摺動部材の摺動面の正面図であり、図4(b)は図4(a)のA−A線断面図である。図5は、第2摺動部材の摺動面の正面図である。図3、図4に示すように、第1摺動部材27は、略直方体形状をしており、搬送方向上流側の側面にガイド面21aの接触領域21bと接触する第1摺動面27aが形成されている。第1摺動面27aは、上下方向に関して接触領域21bの幅とほぼ同じになっている。
【0043】
また、第1摺動面27aには、上下方向の略中央よりも若干上方において、走査方向に沿って延在した第1の溝29が形成されている。このように、第1摺動面27aには、第1の溝29が形成されていることで、接触領域21bと全幅は同じであるが、第1摺動面27aの走査方向全長にわたって、幅方向の合計長さは、接触領域21bの幅方向両端間の長さよりも小さくなっている。そして、図4(b)に示すように、第1摺動面27aとガイド面21aとの間には潤滑剤30が介在しており、第1の溝29にも潤滑剤30が入り込んでいる。また、第1の溝29の縁は、右方に向かって幅の広がった傾斜面29aとなっている。
【0044】
図5に示すように、第2摺動部材28は、第1摺動部材27と溝の位置及び形状以外は全て同じ構成である。第2摺動部材28は、略直方体形状をしており、搬送方向上流側の側面にガイド面21aの接触領域21bと接触する第2摺動面28aが形成されている。第2摺動面28aは、上下方向に関して接触領域21bの幅とほぼ同じになっている。
【0045】
また、第2摺動面28aには、上下方向の略中央よりも若干下方において、走査方向に沿って延在した第2の溝31が形成されている。このように、第2摺動面28aには、第2の溝31が形成されていることで、接触領域21bと全幅は同じであるが、第2摺動面28aの走査方向全長にわたって、幅方向の合計長さは、接触領域21bの幅方向両端間の長さよりも小さくなっている。
【0046】
そして、第2の溝31の縁は、第1の溝29の側面と同様に、右方に向かって幅の広がった傾斜面31aとなっている。ただし、図4(a)、図5に示すように、第2の溝31の幅方向中心を通る軸31bと第1の溝29の幅方向中心を通る軸29bとは、高さ位置が異なっている。また、第2の溝31の最も幅の広い右方端部は、第1の溝29の最も幅の広い右方端部よりも幅が広くなっている。そして、第2の溝31の傾斜面31aの一部は、第1の溝29の左方端部と走査方向に沿った同一線上に位置している。そして、図示はしていないが、第2摺動面28aとガイド面21aとの間にも潤滑剤が介在しており、第2の溝31にも潤滑剤が入り込んでいる。
【0047】
次に、製品組み立て時において、2つの第1、第2摺動部材27、28の2つの第1、第2摺動面27a、28aとガイド面21aの接触領域21bとの間に潤滑剤30を塗り広げる工程について説明する。図6は、潤滑剤を塗り広げる工程について説明する図である。なお、図6においては、キャリッジ3に設けられた2つの第1、第2摺動部材27、28とガイド壁21のみを概略的に示している。
【0048】
図6(a)に示すように、まず、キャリッジ3をガイド面21aの左方端部に配置させる。そして、ガイド面21aのキャリッジ3よりも右方に潤滑剤30を塗布する。潤滑剤30は、ガイド面21aの接触領域21bに対して、第1摺動部材27の第1の溝29の軸29bを通るように走査方向に沿って間隔をあけてドット状に複数塗布される。
【0049】
そして、図6(b)に示すように、キャリッジ3を走査方向に沿って右方に移動させる。すると、ガイド面21aの接触領域21bに塗布された潤滑剤30は、最も右方端にある第1摺動部材27の第1摺動面27aに塗り広げられる。そして、一部の余剰な潤滑剤30については、第1摺動部材27の幅方向外側に多少押し出されつつも、その大半は傾斜面29aからなる幅広の口を有する第1の溝29に寄せられる。
【0050】
そして、キャリッジ3をさらに右方に移動させることで、第1の溝29に寄せられた潤滑剤30を接触領域21b内における第1摺動部材27よりも左方に残すことができる。このように、第1摺動面27aに第1の溝29を形成していることで、ガイド面21aの接触領域21bにおいて第1摺動部材27よりも左方に多くの潤滑剤30を残すことができる。そして、この第1の溝29を介して送られた潤滑剤30は、第2摺動部材28の第2の溝31とは上下方向に関する位置がずれており、第2摺動部材28の第2摺動面28aと接触可能な位置にある。
【0051】
そのため、図6(c)に示すように、キャリッジ3をさらに右方に移動させることで、第1摺動部材27よりも左方に送られた潤滑剤30は、第2摺動部材28の第2摺動面28aに塗り広げられる。そして、一部の余剰な潤滑剤30については、傾斜面31aからなる幅広の口を有する第2の溝31に寄せられる。そして、キャリッジ3をさらに右方に移動させることで、第2の溝31に寄せられた潤滑剤30を第2摺動部材28よりも左方に残すことができる。これにより、図6(d)に示すように、キャリッジ3を右方端から左方に移動させるときに、第2摺動部材28よりも左方に送られた余剰な潤滑剤30を第2摺動部材28の第2摺動面28aとガイド面21aとの間に塗り広げることができる。
【0052】
したがって、仮に、本実施形態のように、第1摺動部材27に第1の溝29が形成されていなければ、第2摺動部材28の第2摺動面28aとガイド面21aとの間に潤滑材を十分に塗り広げることは困難であったが、第1摺動部材27に第1の溝29を形成することで、潤滑剤30がガイド面21aの端に取り残されてしまうのを極力防止して、ガイド面21aに塗布する潤滑剤30の量を減らしつつ、2つの第1、第2摺動部材27、28の2つの第1、第2摺動面27a、28aとガイド面21aとの間に潤滑剤30を塗り広げることができ、全ての摺動部材27、28の摩耗を低減して、インクジェットプリンタ1の製品寿命を延ばすことができる。
【0053】
また、第2摺動部材28に形成された第2の溝31が、右方に向かうにつれて幅が広がった傾斜面31aとなっていることで、第1摺動部材27よりも左方に送られた潤滑剤30をより多く第2の溝31に集めて保持することができ、第2摺動面28aとガイド面21aとの間に塗り広げることができる。
【0054】
さらに、第1の溝29を挟んで第1摺動面27aが存在していることで、第1の溝29からはみだした潤滑剤30を第1摺動面27aとガイド面21aとの間に塗り広げることができる。
【0055】
加えて、第1の溝29の幅が右方に向かうにつれて幅が広がった傾斜面29aとなっていることで、ガイド面21aのキャリッジ3(第1摺動部材27)よりも右方に塗布された潤滑剤30を第1の溝29により多く寄せ集めて、第1摺動部材27よりも左方により多くの潤滑剤30を送ることができる。なお、第1、第2の溝29、31について、幅が広いほど左方により多くの潤滑剤30を送ることができるが、幅を広くすれば、第1、第2摺動面27a、28aの摺動面積が狭くなってしまう。そこで、第1、第2摺動面27a、28aの摺動面積を十分に確保しつつ、左方により多くの潤滑剤30を送ろうとすれば、第1、第2の溝29、31の縁を傾斜面29a、31aとすることが好ましい。
【0056】
また、第1摺動部材27の第1の溝29の軸29bと、第2摺動部材28の第2の溝31の軸31bとは、上下方向に関する位置がずれている。これにより、第1摺動部材27の第1の溝29から出て、第1摺動部材27よりも左方に送られた潤滑剤30が、第2摺動部材28の第2の溝31に直接入り込まずに、第2摺動部材28の第2摺動面28aとガイド面21aとの間に入り込むことになる。したがって、第2摺動部材28の第2摺動面28aとガイド面21aとの間に塗り広げることができる。
【0057】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、上述した実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0058】
本実施形態においては、2つの第1、第2摺動部材27、28の2つの第1、第2の溝29、31は、走査方向に沿って延在していたが、図7に示すように、2つの第1、第2摺動部材127、128の2つの第1、第2の溝129、131は、走査方向に対して斜めに延在していてもよい(変形例1)。そして、2つの第1、第2摺動部材127は、同じ部材からなり、2つの第1、第2の溝129、131は互いに平行に延在していてもよい。このように、第1、第2の溝129、131が、互いに平行に、走査方向に対して交差する方向に延在していることで、第1摺動部材127に形成された第1の溝129の左方端部と第2摺動部材128に形成された第2の溝131の右方端部との、上下方向に関する位置がずれる。すると、第1摺動部材127の第1の溝129から出て、第1摺動部材127よりも左方に送られた潤滑剤30が、第2摺動部材128の第2の溝131に入り込みにくくなり、第2摺動部材128とガイド面21aとの間に塗り広げることができる。また、第1、第2摺動部材127、128を同じ部材で構成することで、コストを低減することができる。
【0059】
また、本実施形態においては、第1摺動部材27に第1の溝29を形成して、一部の余剰な潤滑剤30を第1の溝29を介して第1摺動部材27よりも左方に送っていたが、第1摺動面27aの上下方向両端間の全幅が、走査方向の全長にわたって、ガイド面21aの接触領域21bの上下方向両端間の全幅よりも小さければ、第1の溝29は形成されずに、走査方向全長にわたって、上下方向に関して途切れなく連続した一平面となっていてもよい。例えば、図8に示すように、第1摺動部材227の上下方向の全幅は、ガイド面21aの全幅よりも小さくなっている。そして、第1摺動部材227は、その上端が接触領域21bの上端と一致するように配置し、第2摺動部材228は、その下端が接触領域21bの下端と一致するように配置してもよい(変形例2)。そして、2つの第1、第2摺動部材227、228は、同じ部材で構成する。これにより、ガイド面21aの接触領域21b内において第1摺動部材227よりも下側に、接触領域21bの全幅と第1摺動部材227の全幅との差の幅を有する隙間250が形成される。また、ガイド面21aの接触領域21b内において第2摺動部材228よりも上側に、接触領域21bの全幅と第2摺動部材228の全幅との差の幅を有する隙間251が形成される。そして、隙間250は、走査方向に沿って第2摺動部材228の第2摺動面228aと重なっている。また、隙間251は、走査方向に沿って第1摺動部材227の第1摺動面227aと重なっている。これによっても、本発明と同様の効果を奏することができる。また、第1、第2摺動部材227、228を同じ部材で構成することで、コストを低減することができる。
【0060】
また、本実施形態においては、第2摺動部材28には、走査方向の全長にわたって溝が形成されていたが、走査方向に関する第1摺動部材27側端部が最も幅が広くなるように凹部が形成されていればよい。例えば、図9に示すように、第2摺動部材328には、右方(走査方向に関する第1摺動部材27側)端部が最も幅が広く、左方に向かうにつれて上下方向中央に向かって収束した凹部350が形成されていてもよい(変形例3)。また、図10に示すように、第2摺動部材428には、第2摺動面428aの幅が右方端部に向かうにつれて幅が狭くなって幅方向中央に収束するように、切りかかれた形状の凹部450が形成されていてもよい(変形例4)。
【0061】
さらに、本実施形態においては、走査方向に並んだ2つの摺動部材27、28について本発明を適用したが、摺動部材の数は2つに限らず、3つ以上であってもよい。この場合、走査方向の一方端の摺動部材が本実施形態における第1摺動部材に相当し、この第1摺動部材と隣接し、走査方向の他方端には位置していない摺動部材が本実施形態における第2摺動部材に相当する。また、走査方向の一方端の摺動部材に加えて、他の摺動部材も本実施形態における第1摺動部材として構成してもよい。
【0062】
加えて、第1、第2摺動部材27、28の第1、第2の溝29、31の幅は、走査方向の全長にわたって同じ幅であってもよい。
【0063】
また、第2摺動部材28の第2摺動面28aには、第2の溝31が形成されていなくてもよい。
【0064】
さらに、本実施形態においては、ガイド面21aの上下方向両端間の幅と接触領域21bの上下方向両端間の幅は同じであったが、ガイド面21aの一部が接触領域21bとなっていてもよい。
【0065】
また、以上説明した実施形態及びその変更形態は、記録用紙にインクを噴射して文字や画像などを記録するインクジェットプリンタに本発明を適用した一例であるが、本発明の適用対象は、このような用途に使用されるものに限られない。すなわち、インク以外のさまざまな種類の液体をその用途に応じて対象に噴射する、種々の液体噴射装置に本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェットプリンタ
3 キャリッジ
4 インクジェットヘッド
11 ガイドレール
21 ガイド壁
21a ガイド面
27、28 摺動部材
27a、28a 摺動面
30 潤滑剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドが搭載され、所定の走査方向に沿って往復移動可能なキャリッジと、
前記走査方向に沿って延在し、且つ、前記キャリッジの前記走査方向への移動をガイドするガイド面、を有するガイド部材と、
前記キャリッジに前記走査方向に並べて設けられ、潤滑剤が塗布された前記ガイド面を前記キャリッジの移動時に摺動する複数の摺動部材と、を備え、
前記ガイド面は、前記キャリッジの移動時に摺動する、前記複数の摺動部材のうち少なくとも1つの摺動部材と前記潤滑剤を介して接触する接触領域を有し、
前記複数の摺動部材のうち少なくとも前記走査方向の一方端に位置する第1摺動部材は、前記ガイド面の前記接触領域と接触する少なくとも第1摺動面を有し、
前記第1摺動面は、前記走査方向全長にわたって、前記走査方向と直交する幅方向の長さの合計が前記接触領域の前記幅方向の長さよりも小さいことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記複数の摺動部材のうち前記第1摺動部材よりも前記走査方向の前記一方と反対の他方側に位置する第2摺動部材は、前記ガイド面の前記接触領域と接触する第2摺動面を有し、
前記第2摺動部材には、第2摺動面から凹み、前記走査方向の前記一方端が開口した凹部が形成されており、
前記凹部の縁は、前記走査方向に対して傾斜し、前記走査方向の前記一方端に向かって幅が広がった傾斜面となっていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記第1摺動部材には、前記第1摺動面から凹み、前記走査方向の全長にわたって延在する、第1の溝が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記第1の溝の縁は、前記走査方向に対して傾斜し、前記走査方向の前記一方端に向かって幅が広がった傾斜面となっていることを特徴とする請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記第2摺動部材の前記凹部は、前記走査方向の全長にわたって延在する、第2の溝を形成していることを特徴とする請求項3または4に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記第1摺動部材には、前記第1摺動面から凹み、前記走査方向の全長にわたって延在する、第1の溝が形成されており、
前記複数の摺動部材のうち前記第1摺動部材よりも前記走査方向の前記一方と反対の他方側に位置する第2摺動部材は、前記ガイド面の前記接触領域と接触する第2摺動面を有し、
前記第2摺動部材には、第2摺動面から凹み、前記走査方向の全長にわたって延在する、第2の溝が形成されており、
前記第1の溝の前記走査方向の前記他方端と、前記第2の溝の前記走査方向の前記一方端とは、前記幅方向に関してずれて配置されていることを特徴とする請求項1項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記第1の溝は、前記走査方向に対して交差する方向に延在しており、
前記第2の溝は、前記第1の溝と平行に延在しており、
前記第1摺動部材と前記第2摺動部材は同じ部材であることを特徴とする請求項6に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
前記第1摺動部材の前記第1摺動面は、前記走査方向全長にわたって、前記幅方向に関して途切れなく連続した一平面となっており、
前記第1摺動面の前記幅方向の長さは、前記走査方向全長にわたって、前記ガイド面の前記幅方向の長さよりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の液体噴射装置における前記摺動部材の前記摺動面への潤滑剤の塗布方法であって、
前記キャリッジを、前記ガイド面の、前記走査方向の前記一方と反対の他方端に移動させる第1移動工程と、
前記第1移動工程後に、前記ガイド面の、前記第1摺動部材よりも前記走査方向の前記一方側に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布工程と、
前記潤滑剤塗布工程後に、前記キャリッジを、前記走査方向に往復移動させる第2移動工程と、を備えていることを特徴とする潤滑剤の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−46972(P2013−46972A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185986(P2011−185986)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】