説明

液体容器、および液体容器を備えた液体噴射装置

【課題】肉盗みがあるプリズムを用いて液体容器内の液体の残量を検出する場合において、肉盗みに起因する検出誤差を抑制する。
【解決手段】肉盗みが設けられたプリズムを液体収容室の底部に設けて、発光部から照射されてプリズムに入射した光を、液体収容室内の液体が所定量よりも減少すると、第1反射面の液面から露出した部分と、第2反射面の液面から露出した部分とに反射させる所定の反射光路(規定光路)で受光部に到達させる。そして、第1反射面あるいは第2反射面の少なくとも一方は、規定光路と交わる箇所よりも上方の部分を、プリズム内の光を散乱させる表面形状に形成しておく。こうすれば、肉盗みの内面と、第1反射面および第2反射面の規定光路に交わる箇所よりも上方の部分とに反射しながら進む意図しない光路で受光部に到達する光が減少するので、肉盗みに起因する液体残量の検出誤差を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射装置に装着されて、内部に液体を収容する液体容器
に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるインクジェットプリンターに代表されるように、インクなどの液体を噴射ヘッ
ドから噴射する液体噴射装置が知られている。噴射ヘッドから噴射する液体は、インクカ
ートリッジなどの専用の液体容器に収容されており、この液体容器から噴射ヘッドに液体
が供給される。また、液体容器は、内部の液体が無くなると新しい液体容器と交換するよ
うに、液体噴射装置に対して着脱可能に構成されているのが一般的である。
【0003】
こうした液体噴射装置では、液体容器内の液体が無くなって噴射ヘッドに液体が供給さ
れない状態で噴射動作が行われると、いわゆる空打ちとなって噴射ヘッドの破損の原因と
なる。そこで、液体容器の底部に設けた直角プリズムと、液体噴射装置の本体に設けられ
た発光部および受光部とを用いて液体容器内の液体の残量を光学的に検出する技術が提案
されている(例えば、特許文献1)。液体容器内に液体が十分にあり、プリズムの所定の
高さに設定された基準位置よりも液面が上にあると、発光部から照射されて液体容器の底
面側からプリズムに入射した光は、プリズムの斜面で反射することなく、液体容器内を透
過する。一方、液体容器内の液体が消費されて液面が基準位置よりも下がると、発光部か
ら照射されてプリズムに入射した光は、プリズムの2つの斜面の液面から露出した部分(
基準位置の高さの部分)で反射して受光部に到達する。従って、発光部からの光を受光部
が受けるか否かによって液体容器内の液体の残量(液面が基準位置よりも上か下か)を検
出している。
【0004】
また、こうしたプリズムを射出成形によってプラスチック材料で形成する場合には、プ
ラスチックが固まる際の収縮によってヒケが生じ易いことから、プリズムの斜面が歪んで
しまうことがある。そこで、このようなヒケを抑える対策として、プリズムには、「肉盗
み」と呼ばれる凹部がプリズムの底面から内部に向けて設けられることがある(特許文献
2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−71471号公報
【特許文献2】特開2000−127432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、こうした肉盗みがプリズムに設けられている場合には、意図しない光路で発光
部の光が受光部に届いてしまい、液体容器内の液体の残量を正しく検出できないことがあ
るという問題があった。すなわち、プリズムに肉盗みがあると、この肉盗みの内面と、プ
リズムの2つの斜面の基準位置よりも上方の部分とに反射しながら進む光路によって、液
体容器内の液面が基準位置よりも下がる前に発光部の光が受光部に到達することがある。
そして、このような肉盗みを介した言わば余計な光路で受光部に光が届くと、液面が基準
位置よりも上にある(液体が残っている)にもかかわらず、液体容器内の液体が無くなっ
たと判断されてしまう。
【0007】
この発明は、従来の技術が有する上述した課題を解決するためになされたものであり、
肉盗みが設けられたプリズムを用いて液体容器内の液体の残量を検出する場合において、
肉盗みに起因する検出誤差を抑制することが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題の少なくとも一部を解決するために、本発明の液体容器は次の構成を採用
した。すなわち、
発光部と受光部とが並設された液体噴射装置に装着されて、該液体噴射装置から噴射さ
れる液体を液体収容室内に収容し、該液体収容室の底部には樹脂成形によって形成された
プリズムを備えた液体容器であって、
前記プリズムは、
前記液体収容室内の前記液体に接して設けられ、該液体の液面から露出した部分では
該プリズム内の光を反射する第1反射面と、
前記液体収容室内の前記液体に接して設けられ、該液体の液面から露出した部分では
該プリズム内の光を反射する第2反射面と、
前記樹脂成形時の樹脂の収縮に起因した該プリズムの変形を軽減させる凹部である肉
盗みと
を備え、
前記第1反射面および前記第2反射面は、前記液体収容室内の液体が所定量よりも減少
すると、前記発光部から照射されて前記プリズムに入射した光を該第1反射面および該第
2反射面で反射して前記受光部に導く所定の反射光路を構成する反射面であり、
前記第1反射面あるいは前記第2反射面の少なくとも一方は、前記反射光路が該第1反
射面と交わる箇所よりも上方の部分、あるいは該反射光路が該第2反射面と交わる箇所よ
りも上方の部分が、前記プリズム内の光を散乱させる表面形状に形成されていることを要
旨とする。
【0009】
このような本発明の液体容器においては、第1反射面および第2反射面を有するプリズ
ムが液体収容室の底部に設けられており、発光部と受光部とが並設された液体噴射装置に
装着されると、発光部から照射された光がプリズムに入射する。このプリズムでは、液体
収容室内の液体が所定量よりも減少すると、入射した光が、第1反射面の液面から露出し
た部分と、第2反射面の液面から露出した部分とに反射する所定の反射光路(以下、規定
光路という)で受光部に到達するので、受光部が光を受けたことに基づいて、液体収容室
内の液体の残量(所定量よりも減少したこと)を検出できる。また、プリズムには、樹脂
成形時の樹脂の収縮に起因した変形を軽減させるための凹部である肉盗みが設けられてい
る。そして、本発明の液体容器では、プリズムの第1反射面あるいは第2反射面の少なく
とも一方は、規定光路と交わる箇所よりも上方の部分が、プリズム内の光を散乱させる表
面形状に形成されている。
【0010】
肉盗みが設けられたプリズムでは、肉盗みの内面と、第1反射面および第2反射面の規
定光路に交わる箇所よりも上方の部分とに反射する意図しない光路が生じて、液体収容室
内の液体が所定量よりも減少する前(第1反射面および第2反射面の規定光路と交わる箇
所が液面から露出する前)に受光部が光を受けてしまい、液体の残量を正しく検出できな
いことがある。そこで、第1反射面あるいは第2反射面の少なくとも一方は、規定光路と
交わる箇所よりも上方の部分を、プリズム内の光を散乱させる表面形状に形成しておけば
、規定光路とは異なる意図しない光路で進む光は、第1反射面あるいは第2反射面の規定
光路と交わる箇所よりも上方の部分に当たった際に散乱するので、意図しない光路で受光
部に到達する光を減少させることができる。その結果、プリズムに肉盗みがある場合でも
、肉盗みに起因する液体残量の検出誤差を抑制することができる。
【0011】
尚、プリズム内の光を散乱させる表面形状とは、プリズム内を一方向に透過する光が当
たると様々な方向に広がる形状であればよく、例えば、第1反射面あるいは第2反射面の
表面に複数の細い溝を刻んだり、複数の小さな突起を設けたり、あるいはシボ加工等によ
って梨地状にするなど表面に凹凸を有する形状を挙げることができる。
【0012】
上述した本発明の液体容器では、さらに肉盗みの内面の少なくとも一部を、プリズム内
の光を散乱させる形状に形成しておいてもよい。
【0013】
前述したように、規定光路とは異なる意図しない光路は、肉盗みの内面と、第1反射面
および第2反射面の規定光路に交わる箇所よりも上方の部分とで構成される。そこで、第
1反射面あるいは第2反射面の規定光路と交わる箇所よりも上方の部分に加えて、肉盗み
の内面で意図しない光路を構成する部分を、プリズム内の光を散乱させる形状に形成して
おけば、意図しない光路で受光部に到達する光を更に減少させることができる。その結果
、肉盗みがあるプリズムを用いて液体収容室内の液体の残量を検出する場合において、液
体残量の検出精度を向上させることができる。
【0014】
また、こうした本発明の液体容器は、液体噴射装置に装着されて、液体噴射装置から噴
射される液体を収容するものである。従って、本発明は、上述した本発明の液体容器を備
える液体噴射装置の態様で把握することも可能である。
【0015】
このような態様で把握される本発明の液体噴射装置では、肉盗みが設けられたプリズム
の第1反射面あるいは第2反射面の少なくとも一方は、規定光路と交わる箇所よりも上方
の部分が、プリズム内の光を散乱させる表面形状に形成されている。これにより、規定光
路とは異なる意図しない光路でプリズム内を進む光は、第1反射面あるいは第2反射面の
規定光路と交わる箇所よりも上方の部分に当たることによって散乱するので、意図しない
光路で受光部に到達する光を減少させることができる。その結果、肉盗みがあるプリズム
を用いて液体収容室内の液体の残量を検出する場合でも、肉盗みに起因する液体残量の検
出誤差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】インクカートリッジが装着されるインクジェットプリンターを例に液体噴射装置の大まかな構成を示した説明図である。
【図2】本実施例のインクカートリッジの大まかな構造を示した説明図である。
【図3】本実施例のインクカートリッジに設けられたプリズムの形状を示した説明図である。
【図4】プリズムを用いてインクカートリッジ内のインクの残量を検出する様子を示した説明図である。
【図5】第1反射面および第2反射面に凹凸面が形成されていないプリズムを用いた場合に、肉盗みに起因してインク残量の検出誤差が生じる様子を示した説明図である。
【図6】第1反射面および第2反射面に凹凸面が形成されたプリズムによって、肉盗みに起因するインク残量の検出誤差が抑制される様子を示した説明図である。
【図7】肉盗みの内面と、第1反射面および第2反射面の基準位置よりも下方の部分とに反射する光路で、発光部の光が受光部に到達する様子を示した説明図である。
【図8】変形例のプリズムを第1反射面および第2反射面に垂直な面で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、上述した本願発明の内容を明確にするために、次のような順序に従って実施
例を説明する。
A.インクジェットプリンターの構成:
B.インクカートリッジの構造:
C.インク残量の検出方法:
D.変形例:
【0018】
A.インクジェットプリンターの構成 :
図1は、インクカートリッジが装着されるインクジェットプリンターを例に液体噴射装
置の大まかな構成を示した説明図である。図示されているように、インクジェットプリン
ター10は、主走査方向に往復動しながら印刷媒体としての印刷用紙2上にインクドット
を形成するキャリッジ20と、キャリッジ20を往復動させる駆動機構30と、印刷用紙
2の紙送りを行うためのプラテンローラー40と、正常に印刷可能なようにメンテナンス
を行うメンテナンス機構50などから構成されている。キャリッジ20には、インクを収
容したインクカートリッジ100や、インクカートリッジ100が装着されるキャリッジ
ケース22や、キャリッジケース22の底面側(印刷用紙2に向いた側)に搭載された噴
射ヘッド24などが設けられている。この噴射ヘッド24にはインクを噴射する複数の噴
射ノズルが形成されており、インクカートリッジ100内のインクを噴射ヘッド24に供
給して、噴射ノズルから印刷用紙2に向かって正確な分量だけインクを噴射することによ
り、画像等が印刷される。
【0019】
本実施例のインクジェットプリンター10では、シアン色、マゼンタ色、イエロー色、
黒色の4種類のインクを用いてカラー画像を印刷することが可能であり、このことと対応
して、キャリッジ20に搭載された噴射ヘッド24には、インクの種類毎に噴射ノズルが
設けられている。また、インクカートリッジ100もインクの種類毎に設けられており、
それぞれの噴射ノズルに対して、対応する色のインクカートリッジ100からインクが供
給される。加えて、インクカートリッジ100は、内部のインクが無くなったら新しいイ
ンクカートリッジ100と交換するように、キャリッジケース22に対して着脱可能に構
成されている。尚、本実施例のインクカートリッジ100は、本発明の「液体容器」に相
当している。
【0020】
キャリッジ20を往復動させる駆動機構30は、主走査方向に延設されたガイドレール
38と、内側に複数の歯形が形成されたタイミングベルト32と、タイミングベルト32
の歯形と噛み合う駆動プーリ34と、駆動プーリ34を駆動するためのステップモーター
36などから構成されている。タイミングベルト32の一部はキャリッジケース22に固
定されており、タイミングベルト32を駆動することによって、ガイドレール38に沿っ
てキャリッジケース22が移動する。
【0021】
印刷用紙2の紙送りを行うプラテンローラー40は、図示しない駆動モーターやギア機
構によって駆動されて、印刷用紙2を副走査方向に所定量ずつ紙送りする。
【0022】
メンテナンス機構50は、印刷領域外のホームポジションと呼ばれる領域に設けられて
おり、キャップ52や、キャップ52よりも下方の位置に設けられた吸引ポンプ54など
から構成されている。キャップ52は、図示しない昇降機構によって上下方向に移動可能
となっており、インクジェットプリンター10が画像等を印刷していない間は、キャリッ
ジ20をホームポジションに移動させて、キャップ52を上昇させる。すると、キャップ
52が噴射ヘッド24の底面側に押し当てられて噴射ノズルを覆うように閉空間が形成さ
れるので、噴射ヘッド24内のインクが乾燥することを抑制する。また、キャップ52に
は、図示しない吸引チューブを介して吸引ポンプ54が接続されており、噴射ヘッド24
の底面側にキャップ52を押し当てた状態で吸引ポンプ54を作動させることで、噴射ヘ
ッド24内の劣化したインク(乾燥して増粘したインクなど)を吸い出す動作(いわゆる
クリーニング)を実行する。
【0023】
また、ホームポジションには、インクカートリッジ100内のインクの残量を光学的に
検出するためのセンサー200が、キャップ52の印刷領域側に隣接して設けられている
。詳しくは後述するが、センサー200の内部には、発光部および受光部が並設されてお
り、キャリッジ20の移動に伴ってインクカートリッジ100がセンサー200の上方を
通過する際に発光部から光を発して、その光を受光部が受けるか否かによってインクカー
トリッジ100内のインクの残量を検出している。
【0024】
更に、インクジェットプリンター10の背面側には、インクジェットプリンター10の
全体の動作を制御する制御部60が搭載されている。キャリッジ20を往復動させる動作
や、印刷用紙2を紙送りする動作や、噴射ノズルからインクを噴射する動作や、メンテナ
ンス機構50を駆動する動作や、インクカートリッジ100内のインクの残量を検出する
動作などは、全て制御部60によって制御されている。
【0025】
B.インクカートリッジの構造 :
図2は、本実施例のインクカートリッジ100の大まかな構造を示した斜視図である。
図示されているように、インクカートリッジ100は、硬質の樹脂材料で直方体形状に形
成された箱体であり、この箱体の内部が、インクを収容する液体収容室になっている。
【0026】
インクカートリッジ100の底面には、噴射ヘッド24にインクを供給するためのイン
ク供給口102が設けられている。インクカートリッジ100が装着されるキャリッジケ
ース22には、上方からインクカートリッジ100を装着するための図示しない凹部が設
けられており、この凹部の底面からは、図示しないインク取入針が上方に向けて立設され
ている。インクカートリッジ100をキャリッジケース22の凹部に装着すると、インク
取込針がインク供給口102に挿入されるので、インクカートリッジ100内のインクが
インク取込針に取り込まれて噴射ヘッド24に供給される。尚、インクカートリッジ10
0の上面には、図示しない大気開放孔が設けられており、インクカートリッジ100内の
インクの消費に伴って大気開放孔から空気が導入されるのでインクカートリッジ100の
内部が負圧になることはない。
【0027】
また、インクカートリッジ100内(液体収容室)には、光透過性のプラスチック材料
で形成されたプリズム104が底部に設けられており、プリズム104の底面がインクカ
ートリッジ100の底面の一部を構成している。インクカートリッジ100が装着される
キャリッジケース22の底面には、プリズム104に対応する位置に図示しない貫通穴が
設けられており、キャリッジ20の移動に伴ってインクカートリッジ100がセンサー2
00の上方を通過する際には、センサー200の発光部から照射される光が底面側からプ
リズム104に入射する。
【0028】
図3は、本実施例のインクカートリッジ100に設けられたプリズム104の形状を示
した説明図である。先ず、図3(a)は、プリズム104の形状を示した斜視図である。
本実施例のプリズム104は、いわゆる直角プリズムであり、互いに直交する第1反射面
106と第2反射面108とを有している。プリズム104は、これら第1反射面106
および第2反射面108がインクカートリッジ100内のインクに接するように、第1反
射面106と第2反射面108との交線104rに向かい合う面を底面110としてイン
クカートリッジ100の底部に設置されている。また、第1反射面106および第2反射
面108のそれぞれの上部の位置には、表面に複数の細い溝が刻まれた凹凸面106u,
108uが形成されている。さらに、プリズム104の底面110の中央には、「肉盗み
」と呼ばれる四角形の凹部112が設けられている。尚、プリズム104の表面は、凹凸
面106u,108uの部分を除いて透明(平滑)に形成されている。
【0029】
図3(b)は、第1反射面106および第2反射面108に直交する面でプリズム10
4を切断した断面図である。図示されているように、プリズム104は、底面110に対
して第1反射面106および第2反射面108がそれぞれ45度の角度に設けられた直角
二等辺三角形の断面形状をしている。そして、直角二等辺三角形の斜辺を構成する底面1
10の中央の位置から鉛直上方に向けて凹形の肉盗み112が設けられている。この肉盗
み112は、次のような理由から設けられている。前述したように、プリズム104はプ
ラスチック材料で形成されており、金型を用いた射出成形によってプリズム104を形成
する際には、プラスチックが固まるときの収縮によるヒケが生じ易く、プリズム104の
表面が歪んでしまうことがある。そこで、このようなヒケを軽減する対策として、プリズ
ム104には、底面110から内部に向けて肉盗み112が設けられている。
【0030】
また、本実施例のプリズム104には、インクカートリッジ100内のインクの残量を
検出する際の基準となる位置(基準位置)が底面110から所定の高さに設定されている
。尚、プリズム104の基準位置の高さは、インクカートリッジ100内のインクの残量
が所定量になったときのインクの液面(インク面)の高さに設定されている。そして、第
1反射面106および第2反射面108は、この基準位置よりも上方の部分が凹凸面10
6u,108uとなっている。第1反射面106および第2反射面108に形成された凹
凸面106u,108uの役割については、後ほど詳しく説明する。
【0031】
このようなプリズム104が底部に設けられた本実施例のインクカートリッジ100で
は、内部のインクの残量を以下のようにして検出する。
【0032】
C.インク残量の検出方法 :
図4は、プリズム104を用いてインクカートリッジ100内のインクの残量を検出す
る様子を示した説明図である。先ず、前述したように、インクカートリッジ100は、主
走査方向に往復動するキャリッジ20に装着される。装着状態において、インクカートリ
ッジ100内のプリズム104は、図4に示すように、第1反射面106と第2反射面1
08とが主走査方向に配置されている(第1反射面106と第2反射面108との交線1
04rが主走査方向に直交している)。また、キャリッジ20が主走査方向に移動する経
路の途中には、下方の位置にセンサー200が設けられており、センサー200の内部に
は、赤外発光ダイオードで構成された発光部202と、フォトトランジスタで構成された
受光部204とが主走査方向に並べて設けられている。これら発光部202および受光部
204は鉛直上方に向いており、光を透過しない部材で発光部202と受光部204との
間が仕切られているので、発光部202の光が直接的に受光部204に届くことはない。
そして、キャリッジ20の移動に伴ってインクカートリッジ100がセンサー200の上
方を通過する際には、発光部202から照射された光がプリズム104の底面110に垂
直に入射する。
【0033】
図4には、キャリッジ20の移動に伴ってインクカートリッジ100内のプリズム10
4の頂点(第1反射面106と第2反射面108との交線104r)がセンサー200の
中央(発光部202と受光部との中間)の鉛直上方に位置した状態が示されている。以下
では、このプリズム104の位置を「原点」と呼ぶことにする。プリズム104が原点位
置にあると、発光部202から鉛直上方に向けて照射されてプリズム104に入射した光
(入射光)は、プリズム104に設定された基準位置の高さに対応する部分で第1反射面
106に当たる。
【0034】
このとき、図4(a)に示すように、プリズム104の全体がインクカートリッジ10
0内のインクに浸かっており、インク面が基準位置よりも上方にあれば、第1反射面10
6の入射光が当たる部分(基準位置の高さに対応する部分)はインクに接している。する
と、図4(a)中に太い破線の矢印で示すように入射光は、第1反射面106に当たって
も反射せず、屈折してインクカートリッジ100内のインクを透過する。そのため、発光
部202の光は受光部204に届かない。
【0035】
一方、インクカートリッジ100内のインクが消費されて所定量よりも減少し、図4(
b)に示すように、インク面が基準位置よりも下がると、第1反射面106の入射光が当
たる部分はインクから露出する。このインクから露出した部分は空気に接しており、入射
光が当たると、図4(b)中に太い破線の矢印で示すように、水平方向に向けて反射する
。この反射した光は、基準位置の高さに対応する部分で第2反射面108に当たる。イン
ク面が基準位置よりも下がった状態では、第2反射面108は、第1反射面106に反射
した光が当たる部分がインクから露出して空気に接しており、第1反射面106からの反
射光が当たると、鉛直下方に向けて反射する。こうして第2反射面108に反射した光は
、発光部202と所定間隔で並設された受光部204に到達する。尚、発光部202と受
光部204との間隔は、プリズム104が原点位置にある状態で、発光部202から照射
された光が第1反射面106および第2反射面108で反射すると、受光部204に到達
する間隔に設定されている。また、本明細書中では、発光部202から照射された光が第
1反射面106および第2反射面108で反射して受光部204に到達する光路を「規定
光路」と呼ぶことがあるものとする。
【0036】
このように、インクカートリッジ100内のインク面がプリズム104の基準位置より
も上方にある(インクカートリッジ100内のインクが所定量以上ある)と、発光部20
2の光が受光部204に届かないのに対して、インク面が基準位置よりも下がる(インク
カートリッジ100内のインクが所定量より減少する)と、発光部202の光が規定光路
で受光部204に到達するようになる。
【0037】
前述したように、インクジェットプリンター10の全体の動作は制御部60が制御して
おり、キャリッジ20の移動に伴ってインクカートリッジ100がセンサー200の上方
を通過する際には、センサー200の発光部202から光を照射する。また、センサー2
00の受光部204が光を受けると、その旨を示す信号がセンサー200から制御部60
に入力されることから、制御部60は、インクカートリッジ100内のプリズム104が
原点位置にある状態で、受光部204が光を受けなければ、インクカートリッジ100内
に所定量以上のインクが残っていると判断する。一方、受光部204が光を受けると、イ
ンクカートリッジ100内のインクの残量が所定量以下である状態(以下、この状態を「
インクエンド」という)と判断して、図示しない液晶パネルにおいて、新しいインクカー
トリッジ100への交換を促す表示を行う。尚、前述したように、本実施例のインクジェ
ットプリンター10では、インクの種類(シアン色、マゼンタ色、イエロー色、黒色)毎
のインクカートリッジ100が主走査方向に並べてキャリッジケース22に装着されてお
り(図1参照)、キャリッジ20を移動させながら、各色のインクカートリッジ100に
ついてプリズム104の原点位置でインクの残量を検出する。
【0038】
ここで、前述したようにプリズム104には、製造時のヒケを抑制する対策として、底
面110から内部に向けて形成された凹部である肉盗み112が設けられる。その一方で
、プリズム104に肉盗み112があると、肉盗み112の内面と、第1反射面106お
よび第2反射面108とに反射する意図しない光路で発光部202の光が受光部204に
届いてしまい、インクカートリッジ100内のインクの残量を正しく検出できないことが
ある。そこで、本実施例のインクカートリッジ100に搭載されたプリズム104では、
第1反射面106および第2反射面108の基準位置よりも上方の部分に凹凸面106u
,108uを形成することによって、肉盗み112に起因する検出誤差を抑制している。
以下では、この点について詳しく説明するが、その準備として、先ずプリズム104の肉
盗み112に起因する検出誤差について簡単に説明する。
【0039】
図5は、凹凸面106u,108uが形成されていないプリズム104を用いた場合に
、肉盗み112に起因してインク残量の検出誤差が生じる様子を示した説明図である。図
5では、インクカートリッジ100内のインク面が、プリズム104の頂点よりも下がっ
ているものの、基準位置よりは上方にある状態を示している。この状態では、第1反射面
106および第2反射面108の基準位置の高さに対応する部分はインクに接しているの
で、図4(b)に示した規定光路では発光部202の光は受光部204に届かない。しか
し、規定光路とは異なる光路で発光部202の光が受光部204に届く場合がある。すな
わち、インクジェットプリンター10では、発光部202として指向角の広いものが用い
られることがあり、この場合には、発光部202からの光がプリズム104の底面110
に様々な角度で入射する。こうした入射光の中には、図5中に破線の矢印で示すように、
肉盗み112の内壁面に当たるものがある。肉盗み112の内壁面は空気に接しているの
で、入射光が当たると反射する。そして、図5に示した例では、肉盗み112の内壁面に
反射した光は、第1反射面106のインクから露出した部分(基準位置よりも上方の部分
)で反射し、さらに、第2反射面108のインクから露出した部分で反射して、受光部2
04に到達する。
【0040】
このように、プリズム104に肉盗み112があると、肉盗み112の内面と、第1反
射面106および第2反射面108の基準位置よりも上方の部分とに反射しながら進む意
図しない光路が生じて、インクカートリッジ100内のインク面が基準位置よりも下がる
前に発光部202の光が受光部204に到達してしまうことがある。そして、こうした規
定光路とは異なる余計な光路で発光部202の光が受光部204に到達すると、インク面
が基準位置よりも上方にある(インクカートリッジ100内に所定量以上のインクが残っ
ている)にもかかわらず、インクエンドである(インクカートリッジ100内のインクの
残量が所定量よりも減少した)と判断してしまう。そこで、本実施例のインクカートリッ
ジ100に搭載されたプリズム104では、このような肉盗み112に起因するインク残
量の検出誤差を抑制する対策として、第1反射面106および第2反射面108の基準位
置よりも上方の部分に凹凸面106u,108uが形成されている。
【0041】
図6は、第1反射面106および第2反射面108の基準位置よりも上方の部分に凹凸
面106u,108uが形成されたプリズム104によって、肉盗み112に起因するイ
ンク残量の検出誤差が抑制される様子を示した説明図である。図6では、図5と同様に、
インクカートリッジ100内のインク面が、プリズム104の頂点よりも下がっているが
、基準位置よりは上方にある状態を示している。この状態では、第1反射面106および
第2反射面108のインクから露出している部分は凹凸面106u,108uである。前
述したように、本実施例の凹凸面106u,108uは、第1反射面106および第2反
射面108の表面に複数の細い溝を刻むことで形成されており、肉盗み112の内壁面で
反射した入射光は、第1反射面106のインクから露出した部分に当たると、凹凸面10
6uの凹凸によって乱反射する。こうして散乱した光の中には、第2反射面108のイン
クから露出した部分に向けて進む光もあるが、凹凸面106uで乱反射する前の光(肉盗
み112の内壁面で反射した光)よりも当然ながら強度は減少する。
【0042】
また、第1反射面106の凹凸面106uで乱反射した光の一部が、第2反射面108
のインクから露出した部分に当たると、凹凸面108uの凹凸でさらに乱反射する。その
結果、最終的に受光部204に到達する光は、最初に肉盗み112の内壁面で反射した光
に比べて著しく強度が減少する。
【0043】
以上のように、本実施例のインクカートリッジ100に搭載されたプリズム104では
、第1反射面106および第2反射面108の基準位置よりも上方の部分に凹凸面106
u,108uが形成されており、プリズム104内の光が第1反射面106あるいは第2
反射面108の基準位置よりも上方の部分に当たると、その光を散乱させるようになって
いる。これにより、肉盗み112の内面と、第1反射面106および第2反射面108の
基準位置よりも上方の部分とに反射しながら進む意図しない光路で受光部204に向かう
光が減少するので、インクカートリッジ100内のインク面がプリズム104の基準位置
よりも下がる前に受光部204が発光部202の光を受けることを抑制できる。その結果
、プリズム104に肉盗み112がある場合でも、インク残量の検出精度を向上させるこ
とができる。
【0044】
ここで、プリズム104の第1反射面106および第2反射面108に形成される凹凸
面106u,108uは、プリズム104内の光が当たると散乱する表面形状になってい
ればよく、その態様は複数の細い溝に限られるわけではない。例えば、第1反射面106
および第2反射面108の表面に複数の小さな突起を設けたり、シボ加工等によって梨地
状に形成したりしてもよい。また、プリズム104を射出成形で形成する場合には、こう
した凹凸面106u,108uの形状に対応する形状を金型に彫り込んでおくことによっ
て、プリズム104の射出成形と同時に凹凸面106u,108uを形成することができ
る。
【0045】
また、本実施例のインクカートリッジ100に搭載されたプリズム104では、第1反
射面106および第2反射面108の基準位置の高さに対応する部分(規定光路が交わる
部分)だけでなく、それよりも下方の部分も透明(平滑)に形成されていることから、イ
ンクカートリッジ100内のインク面が基準位置よりも下がった場合には、受光部204
が受ける反射光の強度を高めることができる。すなわち、指向角が広い発光部202から
照射されてプリズム104に入射した光の中には、図7に示すように、第1反射面106
の基準位置よりも下方でインクから露出した部分に反射した後、肉盗み112の上面(凹
部の底面)に反射し、さらに、第2反射面108の基準位置よりも下方でインクから露出
した部分に反射して受光部204に到達するものがある。このような肉盗み112の内面
と、第1反射面106および第2反射面108の基準位置よりも下方の部分とに反射しな
がら進む光路では、インクカートリッジ100内のインク面が基準位置よりも上方にある
うちは、発光部202の光が受光部204に届くことはないため、この光路がインク残量
の検出誤差を生じさせる要因となることはない。その一方で、インク面が基準位置よりも
下がったときには、発光部202の光が受光部204に到達する光路が規定光路以外にも
生じるので、受光部204が受ける反射光の強度を高めることができる。
【0046】
D.変形例 :
以上に説明した実施例のプリズム104では、第1反射面106および第2反射面10
8の基準位置よりも上方の部分に、凹凸面106u,108uが形成されており、プリズ
ム104の表面のそれ以外の部分は、透明(平滑)に形成されていた。しかし、正規光路
とは異なる意図しない光路は、肉盗み112の内面と、第1反射面106および第2反射
面108の基準位置よりも上方の部分とによって構成されることから、肉盗み112の内
面にも凹凸面を形成しておいてもよい。以下では、第1反射面106および第2反射面1
08だけでなく、肉盗み112の内面にも凹凸面を形成した変形例について説明する。尚
、変形例の説明にあたっては、前述した実施例と同様の構成部分については、先に説明し
た実施例と同様の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0047】
図8は、変形例のプリズム104を第1反射面106および第2反射面108に垂直な
面で切断した断面図である。図示されているように、変形例のプリズム104では、第1
反射面106および第2反射面108の基準位置よりも上方の部分と同様に、肉盗み11
2の内壁面にも凹凸面112uが形成されている。尚、凹凸面112uの態様は、プリズ
ム104内の光を散乱させる表面形状になっていればよく、例えば、肉盗み112の内壁
面の表面に複数の細い溝を刻んだり、複数の小さな突起を設けたり、梨地状にシボ加工す
る等によって形成することができる。
【0048】
このような変形例のプリズム104では、図6を用いて前述したようにプリズム104
に入射した光が肉盗み112の内壁面に当たると、凹凸面112uの凹凸によって乱反射
する。これにより、第1反射面106の基準位置よりも上方の部分に向けて進む光は、肉
盗み112の内壁面に当たる前の光よりも強度が減少するので、規定光路とは異なる意図
しない光路(肉盗み112の内面と、第1反射面106および第2反射面108の基準位
置よりも上方の部分とに反射しながら進む光路)で受光部204に到達する光はさらに減
少する。これにより、インクカートリッジ100内のインク面がプリズム104の基準位
置よりも下がる前に受光部204が発光部202の光を受けることを一層抑制でき、その
結果、インクカートリッジ100内のインク残量の検出精度を向上させることができる。
【0049】
以上、各種の実施形態を説明したが、本発明は上記すべての実施形態に限られるもので
はなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。
【0050】
例えば、前述した実施例では、プリズム104の第1反射面106および第2反射面1
08のそれぞれに凹凸面106u,108uが形成されていた。しかし、凹凸面(106
u,108u)は、第1反射面106あるいは第2反射面108の少なくとも一方に形成
されていればよく、必ずしも両方に形成しておく必要はない。前述したように、規定光路
とは異なる意図しない光路は、肉盗み112の内面と、第1反射面106および第2反射
面108の基準位置よりも上方の部分で構成されることから、少なくとも第1反射面10
6あるいは第2反射面108の何れか一方に凹凸面(106u,108u)を形成してお
けば、プリズム104内の光を凹凸面で散乱させて、意図しない光路で受光部204に届
く光を減少させることができる。
【符号の説明】
【0051】
10…インクジェットプリンター、 20…キャリッジ、
22…キャリッジケース、 24…噴射ヘッド、 30…駆動機構、
40…プラテンローラー、 50…メンテナンス機構、 60…制御部、
100…インクカートリッジ、 104…プリズム、 106…第1反射面、
106u…凹凸面、 108…第2反射面、 108u…凹凸面、
112…肉盗み、 200…センサー、 202…発光部、
204…受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部と受光部とが並設された液体噴射装置に装着されて、該液体噴射装置から噴射さ
れる液体を液体収容室内に収容し、該液体収容室の底部には樹脂成形によって形成された
プリズムを備えた液体容器であって、
前記プリズムは、
前記液体収容室内の前記液体に接して設けられ、該液体の液面から露出した部分では
該プリズム内の光を反射する第1反射面と、
前記液体収容室内の前記液体に接して設けられ、該液体の液面から露出した部分では
該プリズム内の光を反射する第2反射面と、
前記樹脂成形時の樹脂の収縮に起因した該プリズムの変形を軽減させる凹部である肉
盗みと、
を備え、
前記第1反射面および前記第2反射面は、前記液体収容室内の液体が所定量よりも減少
すると、前記発光部から照射されて前記プリズムに入射した光を該第1反射面および該第
2反射面で反射して前記受光部に導く所定の反射光路を構成する反射面であり、
前記第1反射面あるいは前記第2反射面の少なくとも一方は、前記反射光路が該第1反
射面と交わる箇所よりも上方の部分、あるいは該反射光路が該第2反射面と交わる箇所よ
りも上方の部分が、前記プリズム内の光を散乱させる表面形状に形成されている液体容器

【請求項2】
請求項1に記載の液体容器であって、
前記肉盗みの内面の少なくとも一部が、前記プリズム内の光を散乱させる形状に形成さ
れている液体容器。
【請求項3】
請求項1または請求項2の何れか一項に記載の液体容器を備えた液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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