説明

液体移送装置

【課題】 弾性表面波による液体移送装置であって、より低電圧で液体を移送できる液体移送装置を提供する。
【解決手段】 圧電性基板23表面上の液体13を弾性表面波によって移送する液体移送装置1に、液体13が移送される液体移送部12と、液体移送部12に存在する液体13を移送するために液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を圧電性基板23表面に励振する一方向性弾性表面波励振部32と、圧電性基板23表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換し、該変換した電気エネルギーを用いて圧電性基板23表面に液体移送部12に存在する液体13を移送するために液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を励振させてエネルギーを還流するエネルギー還流部30とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波によって液体を移送する液体移送装置であって、特に液体をより低電圧で移送するための液体移送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性表面波によって液滴もしくは液体を移送する装置として、図6に示されるような液体移送装置が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。流路90内に弾性表面波励振部(この場合はすだれ状電極92)を設け、この弾性表面波励振部で励振された弾性表面波によって液体の流れを制御している。
【0003】
弾性表面波による吐出圧(液体流動の圧力)は、弾性表面波伝搬面(弾性体)94の表面で液体と弾性表面波が接触した位置において、下記の算出式、
P=1/2×ρ0(1+α2)A2ω2
(ρ0:液体の密度、α:液体中への漏れ弾性表面波の吸収係数、ω:駆動角周波数、A:弾性表面波による振動変位)
で与えられることが知られている(非特許文献1参照。)。この式中のAは弾性表面波による振動変位であり、この振動変位を大きくすることによって、高い吐出圧を得ることができる。振動変位Aは電圧に概ね比例するため、高い吐出圧を得るためには電圧を上げなければならない。
【0004】
一方、弾性表面波で物体を直接移動できるリニアモーターが知られている(例えば、特許文献3参照。)。このリニアモータでは、物体は弾性表面波の進行方向と反対方向に超音波モーターと同様の原理で移動する。また、超音波モーターを低電圧駆動するために、エネルギー還流機能を有する駆動装置が提案されている(特許文献4参照。)。この駆動装置では、電力の供給は還流の間に失われたエネルギー分のみで良く、低い電圧で所望の振動振幅を得ることができる。
【特許文献1】実開平03−116782号公報
【特許文献2】特開昭56−014881号公報
【特許文献3】特開平7−231685号公報
【特許文献4】特開平11−146665号公報
【非特許文献1】塩川祥子、「SAWストリーミング現象の解明」、電子情報学会論文誌US89-51、1989年、p.41-46
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の液体移送装置により、弾性表面波を利用して液滴や液体を移送することは可能ではあるが、従来の構造でさらに高い吐出圧を獲得するためには、上述したように、弾性表面波による振動変位を大きくしなければならず、より高い電圧を印加するか、すだれ状電極の数を増やす必要があった。
【0006】
しかしながら、すだれ状電極を増やすことは動作周波数の帯域を狭めることになる、という問題が発生する。この結果、温度、湿度などの環境変化や液体の接触の有無によって最適な動作周波数か変化してしまい、すだれ状電極の数を増やすことでは効率の高い送液を安定して行うことが難しかった。従って、従来の液体移送装置では高い電圧を印加するしか方法が無く、エネルギー効率が悪かった。
【0007】
また、上記従来のエネルギー還流機能を有する駆動装置では、その機能を弾性表面波のエネルギーを吸収してしまうに十分な量の液体を移送する液体移送装置に適用する点については全く考慮されていない。
【0008】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、弾性表面波による液体移送装置において、より低電圧で液体を移送できる液体移送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の液体移送装置は、圧電性基板表面上の液体を弾性表面波によって移送する液体移送装置であって、液体が移送される液体移送部と、前記液体移送部に存在する液体を移送するための液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を前記圧電性基板表面に励振する一方向性弾性表面波励振部と、前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換し、該変換した電気エネルギーを用いて前記液体移送部に存在する液体を移送するための液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を前記圧電性基板表面に励振させてエネルギーを還流するエネルギー還流部と、を有する。
【0010】
本発明の液体移送装置には、液体が移送される液体移送部が備えられる。この液体移送部に存在する液体は、圧電性基板表面に液体移送方向と同方向に進行するように励振された弾性表面波により移送される。一方向性弾性表面波励振部は、この弾性表面波を励振する。更に、本液体移送装置には、エネルギー還流部が備えられる。エネルギー還流部は、圧電性基板表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換し、該変換した電気エネルギーを用いて液体移送部に存在する液体を移送するための液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を圧電性基板表面に励振させてエネルギーを還流する。
【0011】
これにより、大きな振動振幅の弾性表面波を少ない電気エネルギーの入力で発生させることができる。
【0012】
すなわち、この液体移送装置によれば、圧電性基板表面に励振された弾性表面波のうち液体の駆動に消費されないエネルギーを電気エネルギーに変換し、再度、弾性表面波として利用することができるため、従来、駆動に利用されずに無駄となってしまっていたエネルギーを有効活用して、より低電圧で液体を移送することができる。
【0013】
前記エネルギー還流部は、前記一方向性弾性表面波励振部より前記弾性表面波の進行方向下流側に配置され前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換する変換電極と、該変換電極で変換された電気エネルギーを用いて前記液体移送部に存在する液体を移送するための液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を前記圧電性基板表面に励振する励振電極とを含んで構成することができる。
【0014】
このように、エネルギー還流部を変換電極及び励振電極を含んで構成するようにしたため、エネルギー還流部の励振電極で励振された弾性表面波が一方向性弾性表面波励振部で励振された弾性表面波と結合され、大きな振動振幅の弾性表面波を少ない電気エネルギーの入力で発生させることができると共に、変換電極及び励振電極を、弾性エネルギーを還流するために好適な位置に配置して、効率的に弾性エネルギーを還流することができる。
【0015】
また、前記エネルギー還流部は、前記一方向性弾性表面波励振部より前記弾性表面波の進行方向下流側に配置され前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換する変換電極を含んで構成され、該変換電極で変換された電気エネルギーを前記一方向性弾性表面波励振部に供給することにより前記一方向性弾性表面波励振部で前記液体移送部に存在する液体を移送するための液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を励振させてエネルギーを還流することができる。
【0016】
通常、一方向性弾性表面波励振部には、還流された電気エネルギーとは別に、弾性表面波を励振させるための電圧(電気エネルギー)を供給するための電圧源が設けられるが、上記のように弾性表面波の一部を変換した電気エネルギーを一方向性弾性表面波励振部に供給するように構成されたエネルギー還流部を設けることによって、一方向性弾性表面波励振部には、エネルギー還流部で変換された電気エネルギーと該電圧源からの電気エネルギーとが結合されて供給されるため、大きな振動振幅の弾性表面波を少ない電気エネルギーの入力(電圧源からの入力)で発生させることができる。
【0017】
なお、このような構成の場合、変換電極で変換した電気エネルギーを一方向性弾性表面波励振部に直接供給することもできるが、インピーダンスの整合のとれた最大の電気エネルギーを供給するために、位相調整を行う回路や増幅を行う回路を介して一方向性弾性表面波励振部に供給することもできる。
【0018】
前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波の前記液体による減衰の大きさが所定値以内となるように前記変換電極と前記一方向性弾性表面波励振部とを近づけて配置することができる。
【0019】
液体と弾性表面波が接触する部分では顕著なエネルギーの減衰が生じる。このため、一方向性弾性表面波励振部と弾性表面波の振動を受ける変換電極との距離が短くなるように(近づけて)配置すれば、弾性表面波が液体に接触することにより大きく減衰する前に変換電極が弾性表面波の振動を受けることができるため、効率的に弾性エネルギーを還流することができる。
【0020】
なお、減衰の大きさの許容範囲は、液体移送装置の用途等により異なるため、減衰の大きさが用途に応じた許容範囲(所定値)以内となるように変換電極と一方向性弾性表面波励振部とを近づけて配置すればよい。
【0021】
また、前記変換電極を、前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波が前記液体により減衰しない領域に配置することができる。
【0022】
このような構成により、弾性表面波が液体により減衰する領域のエネルギー還流は行われないため、効率的にエネルギー還流を行うことができる。
【0023】
このような配置にする場合には、前記変換電極と前記液体移送部とを、液体移送方向に対して並列に配置することができる。
【0024】
これにより、液体移送部に伝搬した弾性表面波のエネルギーの還流は行われず、液体移送部の周囲(変換電極が配置された領域)に伝搬した弾性表面波のエネルギーの還流のみが行われる。すなわち、減衰が著しい領域のエネルギー還流は行わないため、効率的にエネルギー還流を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように本発明によれば、弾性表面波によって液体を移送する液体移送装置において、励振された弾性表面波の一部を還流して利用するようにしたため、液体の移送を低電圧で行うことができる、という効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明の一実施の形態に係る液体移送装置の構成を図1に示す。
【0028】
この液体移送装置1は、弾性表面波を励振することによって液体13を移送する装置であって、電圧を印加すると振動する圧電性基板23上に、液体移送方向(図中の矢印方向)と同方向に進行する弾性表面波を励振する一方向性弾性表面波励振部32が配設されている。圧電性基板23端部には、弾性表面波による進行波が乱れるのを防ぐための吸音材22a、22bが設けられており、余分な振動成分を押さえている。
【0029】
また、液体移送装置1は、圧電性基板23表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換し、該電気エネルギーを再度、弾性表面波を励振するために用いて、弾性エネルギーを還流するエネルギー還流部30を備えている。エネルギー還流部30のエネルギー還流機構は、弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換し、再度、弾性表面波に変換できればどのようなものであってもよいが、例えば、特開平11−146665号公報に示されているエネルギー還流機構を利用することができる。図示されるエネルギー還流部30は、このエネルギー還流機構を利用して構成されたものであり、圧電性基板23表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換する変換電極33、変換電極33で変換された電気エネルギーを用いて液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を励振する励振電極34、インダクタンス36、及び各電極とインダクタンス36とを接続する配線37を備えている。
【0030】
一方向性弾性表面波励振部32と変換電極33との間には、液体(液滴)13が移送される液体移送部12が存在している。
【0031】
変換電極33は、一方向性弾性表面波励振部32より弾性表面波の進行方向下流側に配置され、励振電極34は、一方向性弾性表面波励振部32より弾性表面波の進行方向上流側に配置されている。
【0032】
一方向性弾性表面波励振部32で励振された弾性表面波は、液体移送方向と同方向に進行する。この弾性表面波が変換電極33に伝搬すると、変換電極33は、該弾性表面波の振動の一部(液体の移送に利用されず、液体で吸収されなかったエネルギー)を電気エネルギーに変換し、励振電極34では、該変換された電気エネルギーを新たな弾性表面波の駆動エネルギーとして用いて、圧電性基板23表面に液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を励振する。一方、一方向性弾性表面波励振部32では、該エネルギー還流部30での還流動作とは別に弾性表面波を励振し続け、励振電極34で励振された弾性表面波は、この一方向性弾性表面波励振部32で励振される弾性表面波に結合される。このとき、インダクタンス36は、双方の弾性表面波の位相ズレを調整する(インピーダンスの整合をとる)ために外部から制御される。これにより、液体移送部12には高い振幅を有する弾性表面波が伝搬される。
【0033】
以下、上記各構成部について、より具体的に説明する。
【0034】
圧電性基板23はニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、水晶、ランガサイト、Li2BO7、Bi12GeO20などのレーリーモードの弾性表面波もしくは擬似弾性波を発生する圧電体結晶が好ましいが、縦波を含む弾性表面波を発生できる材料であれば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電セラミクスや酸化亜鉛などの圧電性薄膜をガラス上に全面もしくは部分的に積層した構造であってもよい。圧電性基板23の表面は疎水性もしくは親水性に全面もしくは部分的に処理されていてもかまわない。
【0035】
液体移送部12は、上述したように圧電性基板23上に形成される。特に表面に処理を施さなくてもよいが、表面部分の親水化処理や表面に流路を設置するなどの方法により、液体の流れをガイドする構造を設けてもよい。
【0036】
一方向性弾性表面波励振部32は、ここでは、すだれ状電極(IDT)を複数組み合わせることにより作製されている。例えば、複数の独立なすだれ状電極を組み合わせたものであってもよいし、グループ化したものであってもよい。すだれ状電極は、Al、Au、Cu、Cr、Ti、Ptなどの金属もしくはこれらの金属の合金を圧電性基板23上にフォトリソグラフィーを用いて形成することができる。一方向性弾性表面波励振部32の駆動には、位相の異なる複数の電圧源が必要となる。印加する電圧は、すだれ状電極の共振周波数に等しい周波数の正弦波もしくは矩形波であり、連続もしくはパルス変調して駆動する。
【0037】
エネルギー還流部30を構成する変換電極33及び励振電極34は、すだれ状電極で形成されている。インダクタンス36は、可変もしくは固定のインダクタンスで取り出し電力が最大になるように(位相が合うように)調整される。
【0038】
なお、本実施の形態では、変換電極33を一方向性弾性表面波励振部32より弾性表面波の進行方向下流側に配置し、励振電極34を一方向性弾性表面波励振部32より弾性表面波の進行方向上流側に配置したが、励振電極34の位置は、液体移送部12の液体13を液体移送方向に移送するための弾性表面波を励振して伝搬できる位置であれば特に限定されない。しかしながら、最も簡易な構造で効率よくエネルギーを還流させるためには、一方向性弾性表面波励振部32よりも弾性表面波の進行方向上流側に配置することが好ましい。
【0039】
また、変換電極33や励振電極34の弾性表面波の伝搬が不要な側、例えば図1では、変換電極33の吸音材22b側や励振電極34の吸音材33a側に反射器を設置すればなお好ましい。反射器を設置することにより、弾性表面波のより高効率な結合を促すことができる。
【0040】
以上説明したように、液体移送装置にエネルギー還流部を設けたため、従来、駆動に利用されずに無駄となってしまっていたエネルギーを再利用することが可能になり、小さい電圧で高い吐出圧が得られるため、弾性表面波による液体移送装置において、より小さな電圧で液体を移送できる。
【0041】
なお、上記液体移送装置1で液体を移送する場合には、一方向性弾性表面波励振部32と還流用の変換電極33との間に存在する液体13によって弾性表面波による振動が吸収されてしまい、液量によっては弾性表面波を電力に変換する還流用の変換電極33まで弾性エネルギーが到達しない可能性がある。
【0042】
そこで、図2に示されるように、一方向性弾性表面波励振部32の端部と変換電極33の端部とを近づけて配置すれば、弾性表面波が液体に接触することにより大きく減衰する前に変換電極33が弾性表面波の振動を受けることができ、効率的に弾性エネルギーを還流することができる。
【0043】
ここで、液体に吸収されてしまう漏れ弾性表面波の減衰例を純水の場合でシミュレートした結果を図3に示す。縦軸は、規格化された弾性表面波粒子の変位を示し、横軸は、液体と弾性表面波の接触距離の弾性表面波の波長に対する大きさを示している。
【0044】
この図から、液体と弾性表面波の接触距離が弾性表面波の波長の10倍程度の距離になると、弾性表面波振幅が30%以下になってしまうことがわかる。例えば、液体移送装置用の圧電性基板としてLiNbO3を用い10MHz程度で駆動する場合には、弾性表面波の波長はおよそ400umとなるので、液体と弾性表面波の接触距離がその10倍程度の約4mmで30%以下にまで弾性表面波の振幅が減衰してしまうことを意味する。さらに、液体が接触することによって弾性表面波の速度も変化して最適な駆動周波数までもが変化してしまう可能性があるため、弾性表面波振幅の減衰率を70%以内に収めたい場合には、液体と弾性表面波の接触距離は少なくとも弾性表面波の波長の10倍以下であることが好ましく、5倍以下であることがより好ましい。
【0045】
このことから、弾性表面波を励振する一方向性弾性表面波励振部32の変換電極33に最も近い端部と、弾性表面波の振動を受ける変換電極33の一方向性弾性表面波励振部32に最も近い端部との距離を、上記液体と弾性表面波の接触距離として考えて、弾性表面波の減衰の大きさが、許容される弾性表面波の減衰の大きさ以下となるように、その距離を短くして一方向性弾性表面波励振部32と変換電極33とを配置すればよい。なお、用途に応じて、許容される減衰の大きさは異なるため、減衰の大きさが用途に応じて定められる許容値以下となるように適宜その距離を求めて配置すればよい。
【0046】
また、弾性表面波の波長は、電源の励振周波数とその周波数における圧電性基板23上の弾性表面波の音速によって決定され、別途、実験により求められる。この波長を用いて、一方向性弾性表面波励振部32の端部と変換電極33の端部との距離を調整するが、通常のすだれ状電極においては弾性表面波の波長は概ねすだれ状電極の一周期に一致する。
【0047】
なお、図1や図2では、液体移送部12の一部が変換電極33の一部に重なり、変換電極33と液体13とが接してしまう部分があるが、液体移送部12を液体13が変換電極33や他の電極に接しないように配置するほうが、最適な動作周波数が変化しにくくなるためより好ましい。
【0048】
また、変換電極33を、一方向性弾性表面波励振部32より弾性表面波の進行方向上流側であって、液体により弾性表面波が減衰しない領域に配置してもよい。例えば、図4に示されるように、エネルギー還流部30を、2つのエネルギー還流構造24に分離して構成し、各エネルギー還流構造24を構成する変換電極33a、33bと液体移送部12とが液体移送方向に対して並列に配置されるようにしてもよい。このような構成により、液体移送部12に伝搬した弾性表面波のエネルギーの還流は行われず、液体移送部12の周囲に伝搬した弾性表面波のエネルギーの還流のみが行われる。すなわち、減衰が著しい領域のエネルギー還流は行わないため、効率的にエネルギー還流を行うことができる。さらに、図4に示した液体移送装置20では、液体13が変換電極33や他の電極に接しないように移送できるため好適である。
【0049】
なお、前述したように、変換電極33a、33bや励振電極34の弾性表面波の伝搬が不要な側(図4では、変換電極33a、33bの吸音材22b側や励振電極34の吸音材33a側)に反射器を設置すればなお好ましい。上述したように、反射器を設置することにより、弾性表面波の高効率な結合を促すことができる、また、図4に示した構成では、反射器を液体移送部12に並列に配置することができるため、反射器の位置に拘わらず液体13を移送できる。
【0050】
また、図示は省略するが、図1、図2、及び図4に示した液体移送装置を、励振電極34を設けずに、変換電極33で変換した電気エネルギーを一方向性弾性表面波励振部32に直接供給するような構成にしてもよい。これにより、電気的にエネルギー還流を行うことができる。
【0051】
この場合、一方向性弾性表面波励振部は、ひとつの電圧源とその電圧源によって弾性表面波を励振する弾性表面波励振部と、弾性表面波励振部で与えられた弾性表面波に一方向性を与える反射器から構成される。従って、変換電極33で変換した電気エネルギーを一方向性弾性表面波励振部に供給することによって、一方向性弾性表面波励振部には、一方向性弾性表面波を励振するひとつの電圧源からの電気エネルギーと変換電極33で変換した電気エネルギーとが結合されて供給されることとなるため、大きな振動振幅の弾性表面波を少ない電気エネルギーの入力(電圧源からの入力)で発生させることができる。
【0052】
なお、このように電気的にエネルギー還流を行う場合に、一方向性弾性表面波励振部に対して、直接ではなく、位相調整を行う回路や増幅を行う回路を介して、変換電極34で変換された電気エネルギーを供給することもできる。これにより、インピーダンスの整合のとれた最大の電気エネルギーを供給することができる。
【0053】
以下、さらに具体的な実施例、比較例をあげて説明する。
【0054】
(実施例1)
図2は第1の実施例となる液体移送装置10の構造を示している。なお図2において、図1と同一もしくは同等の部分には同じ記号を付す。一方向性弾性表面波励振部32は、128度Y-cut LiNbO3基板(圧電性基板)23上にX方向に弾性表面波が伝搬するように電極幅106um、IDT周期424umで30対のすだれ状電極2つをフォトリソグラフィーにより作製した。両電極に位相の異なる2つの電圧を印加することにより、液体を流したい方向に弾性表面波を励振する。また、エネルギー還流部30の変換電極33をすだれ状電極15対から構成し、その端部が一方向性弾性表面波励振部32の端部から0.2mm離れるように設置した。これはIDT周期の0.5倍である。圧電性基板23の端部には吸音材22a、22bを設置した。各すだれ状電極の交差幅は2mmである。液体13として純水2ulを液体移送部12に滴下して、一方向性弾性表面波励振部32のすだれ状電極の共振周波数である9.1MHz、15Vp-p(ピーク・ピーク電圧値)で駆動すると、液体13は弾性表面波の進行方向に移送された。
【0055】
(実施例2)
図4は第2の実施例となる液体移送装置20の構造を示している。なお図4において、図1と同一もしくは同等の部分には同じ記号を付す。一方向性弾性表面波励振部32は、128度Y-cut LiNbO3基板(圧電性基板)23上にX方向に弾性表面波が伝搬するように電極幅106um、IDT周期424umで30対のすだれ状電極2つをフォトリソグラフィーにより作製した。両電極に位相の異なる2つの電圧を印加することにより、液体を流したい方向に弾性表面波を励振する。
【0056】
また、エネルギー還流部30を構成する2つのエネルギー還流構造24の変換電極33a、33bは、すだれ状電極15対が対称に設置されたものであり、その端部が一方向性弾性表面波励振部32の端部から0.2mm離れるように設置した。これはIDT周期の0.5倍である。なお、ここでは、1つのすだれ状電極が、変換電極33a、33bの双方に対応する励振電極34として設けられている。圧電性基板23の端部には吸音材22a、22bを設置した。一方向性弾性表面波励振部32の電極の交差幅は6mmであるが、変換電極33a、33bの交差幅は1.5mmで、この2つの変換電極33a、33bの間に液体移送部12を配置した。これにより、圧電性基板23表面に励振された弾性表面波の進行方向に対して、変換電極33a、33bと液体移送部12とが並列に配置される。液体13として純水2ulを液体移送部12に滴下して、一方向性弾性表面波励振部32のすだれ状電極の共振周波数である9.1MHz、15Vp-pで駆動すると、液体13は弾性表面波の進行方向に移送された。
【0057】
(比較例)
次に比較例について具体的に説明する。図5は第1の比較例となる液体移送装置50の構造を示している。なお、図5において、図1と同一もしくは同等の部分には同じ記号を付す。弾性表面波励振部31は、128度Y-cut LiNbO3基板(圧電性基板)23上にX方向に弾性表面波が伝搬するように電極幅106um、IDT周期424umで30対のすだれ状電極をフォトリソグラフィーにより作製した。圧電性基板23の端部には吸音材22a、22bを設置した。すだれ状電極の交差幅は2mmである。液体13として純水2ulを、液体移送部12に滴下して、すだれ状電極の共振周波数である9.1MHz、15Vp-pで駆動したが、液体13は移送できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施の形態の液体移送装置の構造を示した斜視図である。
【図2】実施例1に係る液体移送装置の構造を示した斜視図である。
【図3】液体に吸収されてしまう漏れ弾性表面波の減衰例を純水の場合でシミュレートした結果をグラフ化したものである。
【図4】実施例2に係る液体移送装置の構造を示した斜視図である。
【図5】比較例に係る液体制御装置の構造を示した斜視図である。
【図6】従来の液体制御装置の構造を示した図である。
【符号の説明】
【0059】
1、10、20 液体移送装置
12 液体移送部
13 液体
23 圧電性基板
30 エネルギー還流部
32 一方向性弾性表面波励振部
33、33a、33b 変換電極
34 励振電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性基板表面上の液体を弾性表面波によって移送する液体移送装置であって、
液体が移送される液体移送部と、
前記液体移送部に存在する液体を移送するための液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を前記圧電性基板表面に励振する一方向性弾性表面波励振部と、
前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換し、該変換した電気エネルギーを用いて前記液体移送部に存在する液体を移送するための液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を前記圧電性基板表面に励振させてエネルギーを還流するエネルギー還流部と、
を有する液体移送装置。
【請求項2】
前記エネルギー還流部は、前記一方向性弾性表面波励振部より前記弾性表面波の進行方向下流側に配置され前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換する変換電極と、該変換電極で変換された電気エネルギーを用いて前記液体移送部に存在する液体を移送するための液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を前記圧電性基板表面に励振する励振電極とを含んで構成された請求項1記載の液体移送装置。
【請求項3】
前記エネルギー還流部は、前記一方向性弾性表面波励振部より前記弾性表面波の進行方向下流側に配置され前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波の一部を電気エネルギーに変換する変換電極を含んで構成され、該変換電極で変換された電気エネルギーを前記一方向性弾性表面波励振部に供給することにより前記一方向性弾性表面波励振部で前記液体移送部に存在する液体を移送するための液体移送方向と同方向に進行する弾性表面波を励振させてエネルギーを還流する請求項1記載の液体移送装置。
【請求項4】
前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波の前記液体による減衰の大きさが所定値以内となるように前記変換電極と前記一方向性弾性表面波励振部とを近づけて配置した請求項2または請求項3記載の液体移送装置。
【請求項5】
前記変換電極を、前記圧電性基板表面に励振された弾性表面波が前記液体により減衰しない領域に配置した請求項2または請求項3記載の液体移送装置。
【請求項6】
前記変換電極と前記液体移送部とを、液体移送方向に対して並列に配置した請求項5記載の液体移送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−22663(P2006−22663A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199224(P2004−199224)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】