説明

液体金属漏洩検出装置及びその故障診断方法

【課題】検知回路の故障診断を確実に行うことができる液体金属漏洩検出装置及びその故障診断方法を提供する。
【解決手段】2本の電極3からなるセンサ2、センサ2の一方の電極に直流を印加する電源線5、及び他方の電極から信号を取り出す信号線7からなる検知回路1と、センサ2からの信号が信号線7を介して入力される演算処理部9と、電源線5に電流変換器を介して交流を注入する信号注入装置6と、信号線7から信号を抽出する電流変換器及び信号処理部からなる信号抽出処理装置8と、上位監視装置10とを備えた液体金属漏洩検出装置であって、信号処理部は、抽出した信号から所定周波数帯域の信号量を算出し、信号量が閾値以下の場合、検知回路1の配線の異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速増殖炉におけるナトリウムのような液体金属の漏洩を検出する液体金属漏洩検出装置、及びその故障診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速増殖炉において冷却材としてナトリウムが用いられているが、事故防止のために例えば配管系からのナトリウムの漏洩を監視することが行われている。液体金属であるナトリウムは導電性を有し、この性質を利用したCLD(接触型ナトリウム漏洩検出器)を所要個所に設置し、CLDの検出部先端にある2本の電極棒が漏洩したナトリウムに浸ったときに検知回路が導通して漏洩警報を発している(特許文献1参照)。このようなCLDを用いて、検知回路に対する故障診断機能を備えた液体金属漏洩検出装置が提案されている。
【0003】
図9は、従来の液体金属漏洩検出装置のシステム構成を示す図である。
漏洩個所を検知するための検知回路101において、センサ102(CLD)が複数設置され、センサ102の2本の電極棒103の一方がDC電源104に接続され直流が印加されている。バイパス用スイッチ106は、常時は開であり、ナトリウムが漏洩するとセンサ102の2本の電極棒103が接触し、信号が演算処理部107に入力される。演算処理部107からの漏洩個所の情報が上位監視装置108に監視データとして入力される。
【0004】
検知回路101の健全性確認として導通確認を定期的に行っており、現状はリレー回路を設けて実施している。すなわち、故障診断機能を動作させるときは、上位監視装置108からの故障診断指令が発生すると、リレー105によりバイパス用スイッチ106が閉になり短絡回路が構築される。回路配線に断線や絶縁不良のような異常がなければ、演算処理部107において信号が入力され、故障無しと判定され、異常があれば信号が入力されず、故障有りと判定され、診断結果が上位監視装置108に格納される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3-274435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の液体金属漏洩検出装置においては、バイパス回路を用いた診断のため、検知回路101に設置したリレー105の誤・不動作により誤警報が発生することがあり、検知回路101の故障診断の信頼性が十分ではなかった。また、センサ102の故障に対して診断することができないという課題があった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、検知回路の故障診断を確実に行うことができる液体金属漏洩検出装置及びその故障診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の液体金属漏洩検出装置は、2本の電極からなるセンサ、前記センサの一方の電極に直流を印加する電源線、及び他方の電極から信号を取り出す信号線からなる検知回路と、前記センサからの信号が前記信号線を介して入力される演算処理部と、前記電源線に電流変換器を介して交流を注入する信号注入装置と、前記信号線から信号を抽出する電流変換器及び信号処理部からなる信号抽出処理装置と、上位監視装置とを備えた液体金属漏洩検出装置であって、前記信号処理部は、抽出した信号から所定周波数帯域の信号量を算出し、前記信号量が閾値以下の場合、前記検知回路の配線の異常を判定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の液体金属漏洩検出装置は、2本の電極からなるセンサ、前記センサの一方の電極に直流を印加する電源線、及び他方の電極から信号を取り出す信号線からなる検知回路と、前記センサからの信号が前記信号線を介して入力される演算処理部と、前記電源線に電流変換器を介して交流を注入する信号注入装置と、前記信号線から信号を抽出する電流変換器及び信号処理部からなる信号抽出処理装置と、上位監視装置とを備えた液体金属漏洩検出装置であって、前記信号処理部は、抽出した信号から所定周波数帯域の信号量を算出し、前記信号量が閾値以上の場合、周波数毎の信号量の平均値を算出し、前記周波数毎の信号量の前記平均値に対する差分の総和を算出し、前記差分の総和が閾値以上のとき前記センサの異常を判定することを特徴とする。
【0010】
更に、本発明の液体金属漏洩検出装置の故障診断方法は、2本の電極からなるセンサの一方の電極に電源線により直流を印加し、他方の電極から信号線により信号を取り出す検知工程と、前記センサからの信号が前記信号線を介して入力される演算処理工程と、前記電源線に電流変換器を介して交流を注入する信号注入工程と、前記信号線から電流変換器を介して信号を抽出する信号抽出工程と、抽出した信号を処理する信号処理工程と、上位監視工程とを備えた液体金属漏洩検出装置の故障診断方法であって、前記信号処理工程は、抽出した信号から所定周波数帯域の信号量を算出し、前記信号量が閾値以下の場合、前記検知回路の配線の異常を判定する第1の工程と、前記信号量が閾値以上の場合、周波数毎の信号量の平均値を算出し、前記周波数毎の信号量の前記平均値に対する差分の総和を算出し、前記差分の総和が閾値以上のとき前記センサの異常を判定する第2の工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、液体金属漏洩検出装置における検知回路の配線の断線や絶縁不良、及びセンサの劣化に対する故障診断を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態1に係る液体金属漏洩検出装置のシステム構成を示す図。
【図2】信号注入装置の注入回路の例を示す図。
【図3】信号抽出処理装置の抽出回路の例を示す図。
【図4】信号抽出処理装置の信号抽出処理の概要を示す図。
【図5】抽出信号の帯域分布を示す図。
【図6】故障診断タイミングチャート。
【図7】故障診断フローを示す図。
【図8】実施形態2に係る可搬型による信号抽出処理装置を示す図。
【図9】従来の液体金属漏洩検出装置のシステム構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る液体金属漏洩検出装置及びその故障診断方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体金属漏洩検出装置のシステム構成を示す図である。
本実施形態において、始めに、従来の技術と共通する本来の漏洩検出機能について説明する。
【0015】
ナトリウムの存在のセンシング機能を有する2本の電極棒3からなるセンサ2は、複数設置されている。漏洩個所を検知するための検知回路1は、センサ2、センサ2の一方の電極にDC電源4から直流を印加する電源線5、及び他方の電極から信号を取り出す信号線7からなる。演算処理部9には、ナトリウムとの接触をセンサ2にて検知された場合に信号線7により信号が入力され、漏洩個所が判定される。演算処理部9からの漏洩個所の情報が上位監視装置10に監視データとして入力される。
【0016】
次に、本実施形態に特有の故障診断機能を説明する。
DC電源4からの配線である電源線5に対し電気的には絶縁され、CT(電流変換器)によって結合された交流信号を注入する信号注入装置6と、センサ2からの配線である信号線7に対し電気的には絶縁され、CTによって結合された信号抽出処理装置8が備えられている。信号抽出処理装置8、複数のセンサ毎に設けられている。
【0017】
上位監視装置10が信号注入装置6に故障診断実施の指令を発すると、指令を受けた信号注入装置6は、CTを介してセンサ診断用の信号を電源線5に注入する。一方、信号抽出処理装置8は、信号線7に生じた信号を抽出し故障診断を行い、診断結果の信号は多重伝送され、上位監視装置10に格納される。
【0018】
以下、信号注入装置6と信号抽出処理装置8の具体的構成、作用について説明する。
信号注入装置6と信号抽出処理装置8による診断信号の注入、抽出は、独立した別の回路で行われる。信号は、アナログ波形であり数十〜数MHz帯の高周波であって、帯域を有するものとする。
【0019】
図2は、信号注入装置の例を示す図である。
図2において、信号注入装置6は、電源線5に対し結合されるCT部6、共振部6、増幅部6を有する。CT部6の装置側と電源線5側の巻き線比を変更することによる注入量の調整、共振部6の共振回路の先鋭度を変更することによる周波数分布特性の調整、増幅部6による出力を変更することによる注入信号の強度の調整が可能となる。これらの調整により、適用する回路毎に異なる特性を持つ電源線5に対応した調整が可能となり、効率的な信号注入を行うことができる。
【0020】
図3は、信号抽出処理装置の例を示す図であり、図4は、信号抽出処理装置の信号抽出処理の概要を示す図である。
図3において、信号抽出処理装置8は、診断対象の信号線7に対し結合されるCT部8、共振部8、増幅部8を有し、CT部8の装置側と信号線7側の巻き線比を変更することにより取得信号の調整、共振部8の構成の調整により取得する信号特性を変更することが可能である。なお、共振部8として、図示したように直列共振又は並列共振回路を用いている。
【0021】
図4において、信号抽出処理装置8の信号処理部11は、信号線7から抽出して取得した信号を増幅した後にフィルタリングを行い、A/D変換の処理をした後、判定処理として抽出した信号から所定周波数帯域に含まれる全体の信号量を算出し、その信号量が閾値以上か以下によって信号の有無を判断し、検知回路1の配線の故障を判定する。
【0022】
この配線診断について説明すると、正常な配線の場合は、芯線が被覆されているため、一定の大地との間に絶縁が保たれている。被覆に亀裂等が発生すると、絶縁性能が劣化し、大地間とのループが形成され易くなる。これにより、回路に流れる信号は、大地に流れ、信号抽出処理装置8にて得られる信号量は低下する。この信号の大きさを診断することにより配線に絶縁劣化が発生しているかの判定が可能となる。配線が完全に切れた場合においても、信号が流れなくなり、信号量が零となることにより判定が可能となる。
【0023】
信号処理部11は、更に、上記の所定周波数帯域の信号量が閾値以上のとき、デジタル化した信号を周波数毎の信号量に変換する機能、例えば、ウェーブレット変換やFFT変換等の周波数解析機能を有する。これにより周波数解析の演算を行い帯域分布の結果が求められる。この結果から次のようなセンサ2の診断を行う。
【0024】
抽出信号の帯域分布を示す図5によりセンサの診断について説明する。
センサ2において、抵抗が増えると信号がなまることを利用している。図5(a)に示すように、周波数毎の信号量の変化が小さい場合、すなわち、周波数毎の信号量の平均値に対する差分の総和が小さい場合には、一定の抵抗成分があると見てセンサ2を正常と判定する。図5(b)に示すように、周波数毎の信号量の変化が大きい場合、すなわち、周波数毎の信号量の平均値に対する差分の総和が大きい場合には、短絡傾向にあると見てセンサ2を異常と判定する。これにより、センサ2の点検・補修あるいは交換を告知するのに有効である。
【0025】
図6は、故障診断タイミングチャートである。
図6において、電源線5には、直流成分に信号注入装置6から注入された診断用信号が重畳される。故障診断は、診断用信号が注入されている区間に判定実施を許可するイネーブル信号を立て、この間の信号解析を実施する。信号解析を実施する単位長は一定周期とし、定期的に信号を抽出する。この処理は、装置内に装備されたクロック信号によって行われる。信号抽出処理装置8では、クロック毎に所定周波数帯域の信号量が閾値以上か以下によって信号の有無を判断し、信号が無いと判断した場合には、配線異常を発信する。更に、信号量が一定以上で周波数分布に変化が有ると、周波数帯毎の信号量を見ることで、センサ2の診断を行う。
【0026】
図7は、故障診断フローを示す図である。
配線及びセンサの故障診断全体における各ステップのフローを示している。
【0027】
信号抽出処理装置8により信号を取得し(S1)、取得した所定周波数帯域の信号について信号量を求める(S2)。信号量が閾値以上か否か判定し(S3)、閾値以下であれば絶縁抵抗劣化と判断し(S4)、検知回路の配線異常を表示する(S5)。信号量が閾値以上であれば、周波数毎の平均信号量を算出し(S6)、周波数毎の信号量の平均値に対する差分を算出し(S7)、差分の総和を求める(S8)。差分の総和が閾値以上か否か判定し(S9)、閾値以上であれば抵抗減少と判断し(S10)、センサ異常を表示する(S11)。閾値以下であればセンサは正常と判定する。
【0028】
本実施形態では、信号抽出処理装置8で取得した信号の所定周波数帯域の信号量が閾値以上か以下を判断し、閾値以下の場合、検知回路1の配線の異常を判定し、閾値以上の場合、各周波数の解析によりセンサ2の診断を行うことにより、検知回路1の配線の診断とセンサ2の診断の切り分けを行うことが可能である。
【0029】
なお、信号抽出処理装置8内の信号処理部11が故障判定機能を有しているが、この故障判定機能を上位監視装置10に移してもよい。
【0030】
また、本液体金属漏洩検出装置の故障診断機能を連続的に使用するのではなく、間欠的に用いることにより、時間帯を分離して本来の漏洩検出との信号の混在を避けるように運用することができる。
【0031】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係る可搬型による信号抽出処理装置を示す図である。
本実施形態は、信号抽出処理装置を可搬型としたものである。実施形態1と共通する点については説明を省略する。
【0032】
信号抽出処理装置12は、分割可能なクランプ型CT13、及び診断結果表示機能を有する信号処理表示部14を持っている。
【0033】
信号処理表示部14において、クランプ型CT13により抽出した信号に対して、所定周波数帯域の信号量を算出し、信号量が閾値以上か以下によって信号の有無を判断して配線の故障を判定する。また、周波数解析の演算結果から、センサ2の劣化を診断して、それらの結果を表示する。信号抽出処理装置12を可搬型とすることにより、診断したいときに、検出回路1の任意の部位について点検を実施することが可能となり、故障個所の特定に効果を発揮する。
【符号の説明】
【0034】
1…検知回路、2…センサ、3…電極、4…DC電源、5…電源線、6…信号注入装置、6…CT部、6…共振部、6…増幅部、7…信号線、8…信号抽出処理装置、8…CT部、8…共振部、8…増幅部、9…演算処理部、10…上位監視装置、11…信号処理部、12…信号抽出処理装置、13…クランプ型CT、14…信号処理表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の電極からなるセンサ、前記センサの一方の電極に直流を印加する電源線、及び他方の電極から信号を取り出す信号線からなる検知回路と、前記センサからの信号が前記信号線を介して入力される演算処理部と、前記電源線に電流変換器を介して交流を注入する信号注入装置と、前記信号線から信号を抽出する電流変換器及び信号処理部からなる信号抽出処理装置と、上位監視装置とを備えた液体金属漏洩検出装置であって、
前記信号処理部は、抽出した信号から所定周波数帯域の信号量を算出し、前記信号量が閾値以下の場合、前記検知回路の配線の異常を判定することを特徴とする液体金属漏洩検出装置。
【請求項2】
2本の電極からなるセンサ、前記センサの一方の電極に直流を印加する電源線、及び他方の電極から信号を取り出す信号線からなる検知回路と、前記センサからの信号が前記信号線を介して入力される演算処理部と、前記電源線に電流変換器を介して交流を注入する信号注入装置と、前記信号線から信号を抽出する電流変換器及び信号処理部からなる信号抽出処理装置と、上位監視装置とを備えた液体金属漏洩検出装置であって、
前記信号処理部は、抽出した信号から所定周波数帯域の信号量を算出し、前記信号量が閾値以上の場合、周波数毎の信号量の平均値を算出し、前記周波数毎の信号量の前記平均値に対する差分の総和を算出し、前記差分の総和が閾値以上のとき前記センサの異常を判定することを特徴とする液体金属漏洩検出装置。
【請求項3】
前記センサを複数設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体金属漏洩検出装置。
【請求項4】
前記信号処理部の代わりに前記上位監視装置が前記センサの異常を判定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液体金属漏洩検出装置。
【請求項5】
前記信号抽出処理装置は、前記電流変換器をクランプ型とし、前記信号処理部が診断結果を表示する表示部を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液体金属漏洩検出装置。
【請求項6】
2本の電極からなるセンサの一方の電極に電源線により直流を印加し、他方の電極から信号線により信号を取り出す検知工程と、前記センサからの信号が前記信号線を介して入力される演算処理工程と、前記電源線に電流変換器を介して交流を注入する信号注入工程と、前記信号線から電流変換器を介して信号を抽出する信号抽出工程と、抽出した信号を処理する信号処理工程と、上位監視工程とを備えた液体金属漏洩検出装置の故障診断方法であって、
前記信号処理工程は、抽出した信号から所定周波数帯域の信号量を算出し、前記信号量が閾値以下の場合、前記検知回路の配線の異常を判定する第1の工程と、前記信号量が閾値以上の場合、周波数毎の信号量の平均値を算出し、前記周波数毎の信号量の前記平均値に対する差分の総和を算出し、前記差分の総和が閾値以上のとき前記センサの異常を判定する第2の工程を有することを特徴とする液体金属漏洩検出装置の故障診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−247770(P2011−247770A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121760(P2010−121760)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】