説明

液化水素貯蔵供給設備

【課題】加圧蒸発ラインの戻り管内を流通する過熱状態の水素ガスを液化水素貯槽内の液化水素で冷却することにより、液化水素貯槽内の水素ガスの過熱度を小さくして、液化水素貯槽内への液化水素充填時に液化水素貯槽内の圧力の上昇を小さくした液化水素貯蔵供給設備に関する技術である。
【解決手段】液化水素貯蔵供給設備1の加圧蒸発ライン4における液化水素貯槽2への戻り管4cを、液化水素貯槽2の下部から液化水素貯槽2内を上方に垂直に立設して液化水素貯槽2内の上方位置における液化水素のガス相に開口することにより、戻り管4c内を流通する過熱水素ガスを液化水素で冷却し、液化水素貯槽2内の水素ガスの過熱度を小さくして、液化水素貯槽2内への液化水素充填時に液化水素貯槽2内の圧力の上昇を小さくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化水素貯蔵供給設備に係り、加圧蒸発ラインにおける液化水素貯槽への戻り管を、液化水素貯槽内の下方位置の液化水素の液相を通って液化水素貯槽内の上方位置における液化水素のガス相に開口することにより、液化水素貯槽内の水素ガスの過熱度を小さくして、液化水素貯槽内への液化水素充填時に槽内圧力の上昇を小さくするようにした液化水素貯蔵供給設備に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、図3に示す低温液化ガス貯蔵供給設備が知られている(例えば、特許文献1参照)。
図3において、21は天然ガス等の低温液化ガスを貯蔵するとともに使用ポイントに供給するようにした液化ガス貯槽であり、液化ガス貯槽21の底部に液化ガスを供給する液化ガス供給ライン22が接続されている。
【0003】
液化ガス供給ライン22には、供給用開閉弁23及び低温液化ガスを蒸発させる供給用蒸発器24を設けて、液化ガス貯槽21内に貯蔵されている低温液化ガスを供給用蒸発器24で蒸発させて使用ポイントに供給するようにしている。
液化ガス供給ライン22から液化ガス貯槽21内の液化ガスが供給されることにより、液化ガス貯槽21内の液化ガスの液面が下降する。
【0004】
液化ガス貯槽21内の液化ガスの液面が下降したときに液化ガス貯槽21内の圧力が低下しないように補償し、液化ガス貯槽21内の圧力を所定値に保持するために、加圧蒸発器25及び加圧調節弁26を介設した加圧蒸発ライン27を備えている。
加圧蒸発ライン27は、液化ガス貯槽21の底部に一端を接続し途中に外気を熱源とする加圧蒸発器25及び加圧調節弁26を介設するとともに液化ガス貯槽21内の上方位置におけるガス相に他端を開口することにより構成している。
【0005】
加圧蒸発ライン27の加圧調節弁26は加圧調節弁26の出口側の圧力が設定値となるように弁開度を調節することにより、液化ガス貯槽21内の液化ガスの液面が低下したときに液化ガス貯槽21内にガスを押し込むことにより液化ガス貯槽21内の圧力を所定値に保持して、液化ガス供給ライン22から供給する使用ポイントにおけるガス圧が一定となるようにしている。
なお、図3において、28は圧力逃し弁28aを設けた圧力逃しライン、29は開閉弁29aを設けた液化ガスを液化ガス貯槽21内に充填する充填ラインである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−252994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された従来技術について、低温液化ガスの一例を液化水素としてその課題を以下に説明する。
水素ガスは、ガスのなかで最も軽く、拡散性、還元性に優れ、有機化合物の不飽和結合部分に浸透して飽和させる性質を持っていることから、これらの性質を活かして、電子、化学、油脂、金属、硝子、食品など広汎な分野に使用され、さらに、クリーンエネルギーとして企業、研究機関で研究活動が活発に行われている。
【0008】
このように、水素ガスの需要は増大しているが、水素ガスは密度が小さいため、液化水素にして貯蔵や輸送されている。
そして、図3に示すように、使用ポイントにおいて、水素ガスを使用するときには、液化ガス貯槽21内の圧力を所定値に保持するために、液化ガス貯槽21内の液化水素を加圧蒸発ライン27の加圧蒸発器25で外気と熱交換して蒸発させ水素ガスとして、加圧調節弁26の開度調節により液化ガス貯槽21に押し込むのである。
【0009】
加圧蒸発ライン27を流通する液化水素流量は、加圧蒸発ライン27を流通する際の圧力損失と液化ガス貯槽21内の液化水素ヘッドとが等しくなる値であり、液化ガス貯槽21内の圧力を所定値に保持するために加圧蒸発ライン27を流通する液化水素流量を加圧調節弁26の開度調節による圧力損失の調節で行っているのである。
また、液化ガス貯槽21内の圧力を所定値に保持するために加圧蒸発ライン27を流通する液化水素流量と液化ガス供給ライン22から供給される液化水素流量とは、下記(1)式で示す関係がある。
M=Wρg/(ρl−ρg) …(1)
ここで、
M:加圧蒸発ライン27の液化水素流量(kg/s)
W:液化ガス供給ライン22の液化水素流量(kg/s)
ρl:液化水素の密度(kg/m3
ρg:水素ガスの密度(kg/m3
なお、上記(1)式は下記のようにして導くことができる。
液化ガス供給ライン22の液化水素流量W(kg/s)と、W(kg/s)に起因する液化ガス貯槽21内の液化水素容積の減少量V1(m3/s)とは、下記(2)式で示す関係がある。
1=W/ρl …(2)
液化ガス貯槽21内の液化水素容積の減少量V1(m3/s)と、V1(m3/s)を補充するために必要な水素ガス量N1(kg/s)とは、下記(3)式で示す関係がある。
1=ρg1=Wρg/ρl …(3)
水素ガス量N1(kg/s)に起因する液化ガス貯槽21内の液化水素容積の減少量V2(m3/s)は下記(4)式で表わされる。
2=N1/ρl=Wρg/ρl2 …(4)
液化ガス貯槽21内の液化水素容積の減少量V2(m3/s)と、V2(m3/s)を補充するために必要な水素ガス量N2(kg/s)とは、下記(5)式で示す関係がある。
2=ρg2=Wρg2/ρl2 …(5)
上記(3)〜(5)式と同様にして、加圧蒸発ライン27の液化水素流量M(kg/s)と、液化ガス供給ライン22の液化水素流量W(kg/s)とは、下記(6)式で表わされる。
M=N1+N2+N3+・・・+Nn+・・・=(Wρg/ρl)(1+ρg/ρl+(ρg/ρl2+・・・(ρg/ρl(n-1)+・・・)=(Wρg/ρl)(1/(1−ρg/ρl)=Wρg/(ρl−ρg) …(6)
【0010】
そして、加圧蒸発ライン27における液化水素流量M(kg/s)は、上記(1)式((6)式)で示されるように、液化ガス供給ライン22の液化水素流量W(kg/s)と、液化水素の密度ρl(kg/m3)と、水素ガスの密度ρg(kg/m3)とで定まるのであり、外気を熱源とする加圧蒸発器25で蒸発した水素ガスは、例えば0℃(273K)程度の過熱(スーパーヒート)状態となって、液化ガス貯槽21内に押し込まれるのである。
また、供給用蒸発器24からユーザーの使用ポイントまでの配管による圧力損失を考慮して、液化ガス貯槽21内を例えば0.7MPaGに保持するように加圧蒸発ライン27の加圧調節弁26が設定されてその開度調節を行うようになっている。
【0011】
液化水素の大気圧における飽和液温度は20.3Kであり、上記液化ガス貯槽21内が0.7MPaGである場合の液化水素の飽和温度は約30Kであるから、加圧蒸発ライン27から液化ガス貯槽21の上部に押し込まれる水素ガスの密度と、液化ガス貯槽21の液面近くの水素ガスの密度とは、上部の過熱水素ガスの密度が下部の飽和水素ガスの密度の十数分の一と、非常に小さい(軽い)のである。
したがって、液化ガス貯槽21内の液化水素が使用ポイントで使用されて液化水素の液面が低下すると、液化水素供給用のタンクローリーから液化水素を充填するのであるが、液化ガス貯槽21内の水素ガスの温度は上方が高く、下方が低いという大きな温度勾配、すなわち、水素ガスの密度は上方が小さく、下方が大きいという密度勾配がついており、水素ガスの対流が生じ難い状態である。
【0012】
液化ガス貯槽21に液化水素をタンクローリーから充填するには、充填ライン29に液化水素供給用のタンクローリーの充填ホース(図示せず)を接続し、充填ホース内の空気を水素ガスに置換した後に開閉弁29aを開いて液化水素を液化ガス貯槽21内に充填するのである。
この充填の初期に、液化水素を充填するため液化水素の充填容積に起因する液化ガス貯槽21内の圧力上昇要因と、充填ホースが外気温度であり、タンクローリーからの液化水素が蒸発すること、液化ガス貯槽21内の水素ガスの温度が高いことによる充填液化水素の蒸発などにより、液化ガス貯槽21内の圧力が上昇して圧力逃しライン28の圧力逃し弁28aの設定圧以上となり、圧力逃し弁28aが開いて水素ガスを大気に放出することが生ずるのである。
【0013】
また、液化ガス貯槽21の下部より液化水素を充填することもあるが、充填の初期に、液化ガス貯槽21の上部より液化水素を充填する場合と同様に、液化水素を充填するため液化水素の充填容積に起因する液化ガス貯槽21内の圧力上昇要因と、液化ガス貯槽21内の水素ガスの温度が高いこと、タンクローリーから送られた液化水素が充填ホース等で気化し、高温になった水素ガスが液化水素と混合して液化水素が沸騰することなどにより、液化ガス貯槽21内の圧力が圧力逃し弁28aの設定圧力以上となり、圧力逃し弁28aが開いて水素ガスを大気に放出することが生ずるのである。
このため、特許文献1に記載の従来の低温液化ガス供給設備においては、製造に費用のかかった水素ガスを大気に放出するという大きな損失が生じるという課題があり、また、水素は可燃性であるため、大気に放出することは好ましくないなどの課題があったのである。
【0014】
本発明は、このような従来の構成が有していた課題を解決しようとするものであり、液化水素貯蔵供給設備の加圧蒸発ラインにおける液化水素貯槽への戻り管を、液化水素貯槽内の下方位置の液化水素の液相を通って液化水素貯槽内の上方位置における液化水素のガス相に開口して戻り管内を流通する過熱水素ガスを液化水素で冷却することにより、液化水素貯槽内の水素ガスの過熱度を小さくして、液化水素貯槽内への液化水素充填時に槽内圧力の上昇を小さくすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る本発明の液化水素貯蔵供給設備は、液化水素を貯蔵するとともに使用ポイントに供給するようにした液化水素貯槽と、前記液化水素貯槽の下部に接続した液化水素を使用ポイントに供給する液化水素供給ラインと、前記液化水素貯槽の下部に一端を接続し途中に外気を熱源とする加圧蒸発器及び加圧調節弁を設けるとともに前記液化水素貯槽内の上方位置における液化水素のガス相に他端を開口した加圧蒸発ラインと、前記液化水素貯槽の上部に接続し圧力逃し弁を設けた圧力逃しラインとを備えた液化水素貯蔵供給設備において、
前記加圧蒸発ラインにおける前記液化水素貯槽への戻り管を、前記液化水素貯槽内の下方位置の液化水素の液相を通って前記ガス相に開口したものである。
【0016】
請求項2に係る本発明の液化水素貯蔵供給設備は、請求項1に係る本発明の構成に加え、前記加圧蒸発ラインにおける前記液化水素貯槽への戻り管は、前記液化水素貯槽の下部から液化水素貯槽内を上方に垂直に立設して液化水素のガス相に開口したものである。
【0017】
請求項3に係る本発明の液化水素貯蔵供給設備は、請求項1に係る本発明の構成に加え、前記加圧蒸発ラインにおける前記液化水素貯槽への戻り管は、前記液化水素貯槽の上部から液化水素貯槽内にU字状に配設して液化水素のガス相に開口したものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る本発明の液化水素貯蔵供給設備は、加圧蒸発ラインにおける液化水素貯槽への戻り管を、液化水素貯槽内の下方位置の液化水素の液相を通って液化水素貯槽内の上方位置における液化水素のガス相に開口し、戻り管内を流通する過熱水素ガスを液化水素で冷却することにより、液化水素貯槽内の水素ガスの過熱度を小さくすることができるのである。
したがって、液化水素供給用のタンクローリーや移動式の液化水素供給用のコンテナから、液化水素貯槽内に液化水素を充填する際に、液化水素貯槽内の水素ガスの温度が例えば100Kであるから、液化水素の充填に伴う液化水素貯槽内の圧力上昇が圧力逃し弁の設定圧力を超えることがないようにしたり、あるいは、充填初期に少量の水素ガスを放出する程度の圧力上昇としたりすることができ、液化水素貯蔵供給設備の液化水素貯槽に液化水素を充填する際に、水素ガスの放出を無くしたり、あるいは、少なくしたりすることができ、その結果、可燃性の水素ガスを大気に放出するという危険性の低減及び経済的損失の回避ができるのである。
【0019】
請求項2に係る本発明の液化水素貯蔵供給設備は、請求項1に係る本発明の効果に加え、加圧蒸発ラインにおける前記液化水素貯槽への戻り管は、前記液化水素貯槽の下部から液化水素貯槽内を上方に垂直に立設して液化水素のガス相に開口したから、簡単な構成で戻り管内を流通する水素ガスを液化水素で冷却することができるのである。
【0020】
請求項3に係る本発明の液化水素貯蔵供給設備は、加圧蒸発ラインにおける前記液化水素貯槽への戻り管は、前記液化水素貯槽の上部から液化水素貯槽内にU字状に配設して液化水素のガス相に開口したから、液化水素供給ラインから使用ポイントに供給する液化水素の流量が多い場合に、戻り管内を流通する水素ガスの流量が多くなるが、戻り管の熱交換面積、特に、液化水素貯槽内の液化水素の液相と熱交換する戻り管の熱交換面積を大きくして、多い流量の過熱水素ガスを液化水素で確実に冷却することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係る液化水素貯蔵供給設備の概略図である。
【図2】本発明の第二の実施の形態に係る液化水素貯蔵供給設備の概略図である。
【図3】従来の低温液化ガス貯蔵供給設備の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付した図面により詳細に説明する。
図1は、本発明の第一の実施の形態に係る液化水素貯蔵供給設備の配管系統などを示す概略図である。
図1において、1は、液化水素貯蔵供給設備であり、液化水素貯槽2と、液化水素供給ライン3と、加圧蒸発ライン4とを備えている。
【0023】
前記液化水素貯槽2は、内部に液化水素を貯蔵するとともに液化水素を使用ポイントに供給する内槽2aと断熱用真空を保持する外槽2bとから形成した二重殻断熱構造としており、図示しないが、前記内槽2aは低熱伝導率で高強度のFRPからなるバンド状荷重支持体を用いて前記外槽2bの中央部に支持するとともに前記内槽2aの外周部を断熱層により囲繞している。
前記液化水素供給ライン3は前記液化水素貯槽2の内槽2aの下部(底部)に接続して供給用開閉弁3a及び外気を熱源とする供給用蒸発器3bを介設し水素ガスの使用ポイントに延びている。
【0024】
前記加圧蒸発ライン4は、一端を前記液化水素貯槽2の内槽2aの下部(底部)に接続し途中に外気を熱源とする加圧蒸発器4a及び加圧調節弁4bを設けるとともに、他端を前記液化水素貯槽2の内槽2a内の上方位置における液化水素のガス相に開口するのである。
そして、前記加圧蒸発ライン4における前記液化水素貯槽2の内槽2aへの戻り管4cは、前記液化水素貯槽2内の内槽2aの下部(底部)から内槽2a内を上方に垂直に立設して液化水素のガス相に開口することにより、簡単な構成で戻り管4c内を流通する過熱水素ガスを内槽2a内の液相の液化水素で冷却することができるのである。
【0025】
また、前記加圧蒸発ライン4における前記加圧蒸発器4aの入口側に第一開閉弁4dを設けている。
前記加圧蒸発ライン4の第一開閉弁4dの入口側には第二開閉弁4eを設け、前記加圧調節弁4bの出口側には第三開閉弁4f及び第四開閉弁4gを設け、前記第一開閉弁4dの入口側から分岐して液化水素を前記液化水素貯槽2の内槽2aに充填する充填ライン5を設けている。
【0026】
前記充填ライン5の端部には、液化水素充填用の第五開閉弁5aを設け、前記第一開閉弁4dと前記第二開閉弁4eとの中間と、前記第三開閉弁4fと前記第四開閉弁4gとの中間とを結ぶ液化水素の充填ライン5bに液化水素充填用の第六開閉弁5cを設けている。
前記第一開閉弁4d、前記第二開閉弁4e、前記第三開閉弁4f、前記第四開閉弁4g、前記第五開閉弁5a及び前記第六開閉弁5cは、纏めて前記液化水素貯槽2の外槽2bの下方に配設するのであるが、図示の関係から、一点鎖線6で示す枠内に拡大して示している。
【0027】
前記充填ライン5の端部に設けた前記第五開閉弁5aには、充填ホース5dを接続して液化水素供給用のタンクローリー7からの液化水素を前記液化水素貯槽2の内槽2a内に充填するようにしている。
また、前記液化水素貯槽2の内槽2aの上部(頂部)に、圧力逃し弁8を介設した圧力逃しライン8aと、内槽安全弁8bを介設した安全弁ライン8cとを接続している。
【0028】
前記圧力逃し弁8の弁体が開く設定圧力を前記内槽安全弁8bの吹出圧力よりも低く、かつ、前記液化水素貯槽2の内槽2a内の圧力よりも高くしており、前記圧力逃し弁8の弁体が開いたときの水素ガス吹出量は前記内槽安全弁8bの弁体が開いたときの水素ガス吹出量よりも非常に少ない値としており、仮に、圧力逃し弁8が作動しても前記内槽2a内の圧力の急激な低下が生じないようにしている。
前記圧力逃し弁8を設けているので、連休等の長期間にわたり前記液化水素貯槽2の内槽2a内の液化水素を使用ポイントで使用しない場合でも、前記内槽2a内の圧力が侵入熱により上昇して前記圧力逃し弁8の弁体が開く設定圧力となれば自動的に弁体が開いて前記内槽2a内の圧力上昇を防いで、安全性を確保しているのである。
【0029】
前記内槽安全弁8bは、通常作動することはないのであるが、前記圧力逃し弁8の万一の作動不良があっても、この内槽安全弁8bが作動して前記内槽2aの破壊を防止している。
なお、9a、9b及び9cはコンクリート製の床であり、床9cは図1において床10a、10bよりも下方に位置しているが、これら床9a、9b、9cは面一である。
【0030】
次に、上記のように構成した液化水素貯蔵供給設備1の作用について説明する。
液化水素貯槽2の内槽2a内の液化水素は、液化水素供給ライン3から出て供給用蒸発器3bに入り外気で加熱されて蒸発し、水素ガスの状態で使用ポイントに供給されるのである。
【0031】
液化水素貯槽2の内槽2a内の液化水素が使用ポイントに供給されるに伴い、液化水素貯槽2の内槽2a内の圧力を所定の圧力に保つために、「発明が解決しようとする課題」の欄で説明した(1)式に示す流量関係で、加圧蒸発ライン4を液化水素が流れるのである。
使用ポイントにおいて水素ガスを使用中は、液化水素供給ライン3の供給用開閉弁3aを開き、加圧蒸発ライン4の第一開閉弁4d、第二開閉弁4e、第三開閉弁4f及び第四開閉弁4gを開くのである。
【0032】
そして、加圧蒸発ライン4を流通する液化水素は、液化水素貯槽2の内槽2aから第二開閉弁4e、第一開閉弁4dを通って加圧蒸発器4aで外気により加熱され、200Kから300Kの過熱状態の水素ガスとなり、加圧調節弁4b、第三開閉弁4f及び第四開閉弁4gを通って、液化水素貯槽2の内槽2aの下部(底部)から内槽2a内を上方に垂直に立設された戻り管4c内を通って内槽2a内の上方位置におけるガス相に噴出するのである。
液化水素貯槽2の内槽2aに戻った過熱水素ガスは、戻り管4c内で液化水素の液相で冷却されて、例えば100Kとなるのである。
【0033】
また、液化水素貯槽2の内槽2a内の圧力は、加圧調節弁4cの弁開度が自動的に所定の圧力、例えば0.7MPaGとなるように調節されて、使用ポイントでの水素ガスの必要圧力を確保するようにしている。
使用ポイントでの水素ガスの利用により、液化水素貯槽2の内槽2a内の液化水素の液面が低下してくるが、液化水素貯蔵供給設備1の監視者又はオペレータにより、液化水素の液面が所定位置まで低下すると、液化水素の販売者に液化水素の充填の要求がなされる。
【0034】
液化水素の販売者は、液化水素の充填要求を受けると、水素液化装置を設置した液化水素の製造所において液化水素供給用のタンクローリー7に液化水素を充填した後に、タンクローリー7を液化水素貯蔵供給設備1の設置場所に走行させる。
液化水素貯蔵供給設備1の設置場所においては、充填ホース5dを第五開閉弁5aに接続し、充填ホース5d内を水素ガスで置換する。
【0035】
液化水素貯槽2の内槽2a内の圧力が例えば0.7MPaGの場合、内槽2a内の水素ガスによりタンクローリー7の液化水素供給槽内の圧力を0.7MPaGに昇圧し、さらに、タンクローリー7の加圧蒸発ラインに介設した開閉弁の操作により、タンクローリー7の液化水素供給槽内の圧力を0.95MPaGに保持するのである。
第六開閉弁5cを開、第二開閉弁4eを閉、第五開閉弁5aを開にすると、タンクローリー7の液化水素は液化水素貯槽2の内槽2aに充填される。
【0036】
液化水素の充填が始まると、液化水素貯槽2の内槽2aのガス相の圧力は0.7MPaGよりも高くなるため、加圧調節弁4bは自動的に閉になり、加圧蒸発ライン4への液化水素の流れは止まる。しかし液化水素貯槽2の内槽2aのガス相の圧力は0.7MPaGよりも高いため、液化水素供給ライン3への液化水素の供給は停止しない。すなわち、使用ポイントでの水素ガスの利用には支障はない。
タンクローリー7から液化水素貯槽2の内槽2aに液化水素を充填するときに、内槽2a内の水素ガスの温度は、例えば100Kにしているため、液化水素の充填に伴う液化水素貯槽2の内槽2a内の圧力上昇が圧力逃し弁9の設定圧力を超えることがない状態、あるいは、充填初期に少量の水素ガスを放出する程度の圧力上昇の状態にでき、液化水素貯槽2の内槽2aに液化水素を充填する際に、水素ガスの放出を無くしたり、あるいは、少なくしたりすることができるのである。
【0037】
以上の第一の実施の形態では、液化水素供給ライン3に供給用蒸発器3bを設けているが、使用ポイントにおいて液化水素を利用する場合には供給用蒸発器3bを無くして直接液化水素を使用ポイントに供給するようにするのである。
また、第一の実施の形態では、液化水素貯蔵供給設備1への液化水素の充填を液化水素供給用のタンクローリー7により行ったが、液化水素供給用のコンテナにより行ってもよい。
【0038】
次に、本発明の第二の実施の形態に係る液化水素貯蔵供給設備について、図2に基づき説明する。
第二の実施の形態は、第一の実施の形態における液化水素貯槽への戻り管の構成を垂直に立設していたものに替えて、U字状に配設したものである。
【0039】
以下、第一の実施の形態と同様な構成については、同一の符号を付して説明を省略ないし簡略にして説明する。
図2は、本発明の第二の実施の形態に係る液化水素貯蔵供給設備の配管系統などを示す概略図である。
【0040】
図2において、11は、加圧蒸発ライン4における液化水素貯槽2の内槽2aへの戻り管である。
戻り管11は、前記液化水素貯槽2内の内槽2aの上部(頂部)から内槽2a内を下方に垂直に下降する下降部11aと、内槽2a内の下方位置の液化水素の液相において水平に延びる水平部11bと、上方に垂直に上昇するとともに上端が内槽2a内の上方位置における液化水素のガス相に開口する上昇部11cとから形成しており、これら下降部11a、水平部11b及び上昇部11cは、内槽2内にU字状に配設している。
【0041】
そして、液化水素貯槽2の内槽2aにおける戻り管11内の過熱水素ガスは、戻り管11の下降部11a内を下降し、水平部11b内を通って、上昇部11c内を上昇して上端の開口部から内槽2a内の上方位置における液化水素のガス相に噴出されるのである。
この実施の形態では、戻り管11をU字状に内槽2a内に配設しているので、内槽2a内の液化水素の液面が低下した際に、水平部11b並びに水平部11b近傍の下降部11a及び上昇部11cを過熱水素ガスが流通するときに液化水素の液相で冷却されて、液化水素の液面低下による過熱水素ガスの冷却能力低下を少なくすることができるのである。
【0042】
以上の第一の実施の形態及び第二の実施の形態の技術上の差異は、第一の実施の形態が簡単な戻り管の構成であり使用ポイントにおける水素ガスの使用量が少ない場合に適するのであり、第二の実施の形態がU字状にして過熱水素ガスの冷却面積を大きくして使用ポイントにおける水素ガスの使用量が多い場合に適するのである。
また、以上の第一の実施の形態及び第二の実施の形態において、液化水素貯槽2の内槽2a内の下方位置における液化水素の液相内に、環状又は渦巻状の水平部を設けてもよく、このようにすれば、内槽2a内の液面低下による冷却能力の低下を軽減できるのである。
【符号の説明】
【0043】
1 液化水素貯蔵供給設備
2 液化水素貯槽
2a 内槽
3 液化水素供給ライン
3a 供給用開閉弁
3b 供給用蒸発器
4 加圧蒸発ライン
4a 加圧蒸発器
4b 加圧調節弁
4c 戻り管
8 圧力逃し弁
8a 圧力逃しライン
11 戻り管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化水素を貯蔵するとともに使用ポイントに供給するようにした液化水素貯槽と、前記液化水素貯槽の下部に接続した液化水素を使用ポイントに供給する液化水素供給ラインと、前記液化水素貯槽の下部に一端を接続し途中に外気を熱源とする加圧蒸発器及び加圧調節弁を設けるとともに前記液化水素貯槽内の上方位置における液化水素のガス相に他端を開口した加圧蒸発ラインと、前記液化水素貯槽の上部に接続し圧力逃し弁を設けた圧力逃しラインとを備えた液化水素貯蔵供給設備において、
前記加圧蒸発ラインにおける前記液化水素貯槽への戻り管を、前記液化水素貯槽内の下方位置の液化水素の液相を通って前記ガス相に開口したことを特徴とする液化水素貯蔵供給設備。
【請求項2】
前記加圧蒸発ラインにおける前記液化水素貯槽への戻り管は、前記液化水素貯槽の下部から液化水素貯槽内を上方に垂直に立設して液化水素のガス相に開口したことを特徴とする請求項1に記載の液化水素貯蔵供給設備。
【請求項3】
前記加圧蒸発ラインにおける前記液化水素貯槽への戻り管は、前記液化水素貯槽の上部から液化水素貯槽内にU字状に配設して液化水素のガス相に開口したことを特徴とする請求項1に記載の液化水素貯蔵供給設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−1993(P2011−1993A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144259(P2009−144259)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】