説明

液化物を用いた含油物質の脱油方法

【課題】本発明は、含有する油分の種類、組成、含有量の多少を問わず、様々な含油物質に適用でき、かつ、油分除去を効率良く行うことのできる脱油方法および脱油システムを提供することを目的とする。
【解決手段】常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含油物質に接触させ、該液化物に該含油物質中の油分を溶解させて油分高含有の液化物を得る工程(1)、および、該油分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として油分から分離する工程(2)を含むことを特徴とする液化物を用いた含油物質の脱油方法、及び上記気体を加圧する圧縮機と、加圧された前記気体を液化物とする凝縮器と、前記液化物を含油物質と接触させ該物質中の油分を溶解させ油高含有の液化物とする氷除去器と、該氷高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させる蒸発器と、気体と氷とを分離する分離器とが直列に連結して構成されることを特徴とする脱油システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化物を用いた含油物質の脱油方法に関するものであり、さらに詳しくは、外気温度に近い操作温度で、かつ少ない所要動力で油分を効率よく除去でき、しかも油分含量や種類を問わず幅広い分野の含油物質に適用可能な脱油方法並びに脱油システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油が水、土等に流出し、環境保全の面で問題が生じた場合には、油を速やかに回収する必要がある。この場合の一般的な回収手段としては、水や洗剤で洗い流す方法、バクテリアや凝集沈殿等を利用する方法、加熱、加圧ろ過、液性調整、遠心分離、電気的処理などを組み合わせる方法、砂、土、油吸収材に吸着させる方法のほか、容器に人力で回収する方法、バキューム装置で吸い取る方法がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら上記回収手段は、回収率が低く、特に油が混在して容易に分離しないエマルジョンを形成している場合等は適用が困難であった。また、回収に長時間を要するため、タンカーや運搬車からの流出事故等においては被害の拡大を招くおそれがあった。更に、バクテリア、凝集沈殿等を利用する方法や加熱、加圧ろ過等を利用する方法は、処理条件の設定が煩雑であり、工程が複雑であり、更に高価な処理装置を用意する必要がある点で現実には難しいという問題もあった。
【0004】
また、特に水、洗剤、油吸収剤を用いる方法は、対象物から油を分離することはできるものの、水や吸収剤を油を含む状態で回収することになる。資源有効活用の観点から純粋な物質への分離が望ましいが、これらの方法では結局排水や廃棄物を生じることとなり、脱油方法としては不十分である。
一方、油は、その化学構造に起因する様々な特性を生かして重油、絶縁油、塗料、溶剤、潤滑油、燃料、石鹸、食品等の各種工業用、家庭用製品の原材料として用いられているが、これらの製品を廃棄する際にも、地球環境維持のためのリサイクルの観点から、油のみを効率よく抽出し分離回収する手段が嘱望されている。
【0005】
従って、本発明は、従来の問題点を解消し、含有する油分の種類、含有量の多少を問わず、様々な含油物質に適用でき、かつ、油分除去を短時間でかつ高回収率にて効率良く行うことのできる脱油方法および脱油システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた。本発明者らは、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物の液化、気化現象を利用することにより、オイルソーベントのような油吸収剤からも高確率で油を回収することが可能であることを見出した。そして、更に様々な含油物質からの脱油が可能であることを確認し、本発明に到達した。
【0007】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
〔1〕 常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含油物質に接触させ、該液化物に該含油物質中の油分を溶解させて油分高含有の液化物を得る工程(1)、および、該油分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として油分から分離する工程(2)を含むことを特徴とする液化物を用いた含油物質の脱油方法。
〔2〕 前記工程(2)において気化され分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を回収し、該気体を液化させて液化物を得る工程(3)をさらに含み、該工程(3)で得られる液化物を前記工程(1)において再び使用することを特徴とする〔1〕に記載の脱油方法。
〔3〕 常温常圧の条件下で気体である物質は、25℃および1気圧において気体である物質であることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の脱油方法。
〔4〕 常温常圧の条件下で気体である物質は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒド、プロパン、ブタン、およびLPGから選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれか一つに記載の脱油方法。
〔5〕 含油物質が、油吸収材、金属、硝子、セラミックス、紙又は土壌であることを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれか一つに記載の脱油方法。
〔6〕 前記工程(1)における接触は、前記液化物と前記含油物質とが向流接触させるようにして行うことを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれか一つに記載の脱油方法。
〔7〕 一連の脱油操作を、−10℃〜50℃の温度範囲で行うことを特徴とする〔1〕〜〔6〕のいずれか一つに記載の脱油方法。
〔8〕 〔1〕〜〔7〕のいずれか一つに記載の脱油方法により得られる油分が除去された物質。
〔9〕 常温常圧の条件下で気体である物質の気体を加圧する圧縮機と、加圧された前記気体を凝縮して液化物とする凝縮器と、前記液化物を含油物質と接触させ該含油物質中の油分を溶解させ油分高含有の液化物とする脱油器と、該油分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させる蒸発器と、気化した前記物質の気体と油分とを分離する分離器とが、直列に連結して構成されることを特徴とする含油物質の脱油システム。
〔10〕 前記凝縮器と前記蒸発器とが、熱交換器で接続されて構成されることを特徴とする〔9〕に記載の脱油システム。
〔11〕 さらに、前記気化した常温常圧の条件下で気体である物質の気体を膨張させる膨張機が前記圧縮機に直列に連結して構成され、該膨張機の外界に行う仕事が回収され、該仕事が前記圧縮機の動力の一部として投入されるように構成されていることを特徴とする〔9〕または〔10〕に記載の脱油システム。
〔12〕 前記圧縮機、凝縮器、脱油器、蒸発器および膨張機は回路を形成し、該回路を、常温常圧の条件下で気体である物質が循環するように構成されることを特徴とする〔9〕〜〔11〕のいずれか一つに記載の脱油システム。
〔13〕 前記分離器で分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を脱気し回収するための脱気塔が前記分離器に連結され、脱気された気体を回収し回路に戻されるように構成されていることを特徴とする〔9〕〜〔12〕のいずれか一つに記載の脱油システム。
〔14〕 前記脱油器は、前記液化物と前記含油物質とを向流接触させることを特徴とする〔9〕〜〔13〕のいずれか一つに記載の脱油システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、含有する油分の種類、組成、含有量の多少を問わず、様々な含油物質に適用でき、しかも効率よく油分を除去することができ、含油物質の再利用や廃棄を促進し資源保護のために有用な脱油方法、ならびに、該方法を効率良く実施するための脱油システムが提供される。
本発明の脱油方法においては、油分除去の媒体として、常温常圧で気体である物質、すなわち、油分との相互溶解性が高く、かつ、大気圧下、外気温度に近い温度で気体である物質の液化物を用いるので、油分との接触および油分との分離に際し過酷な条件を必要とせず、従来の技術に比して、外気温度に近い操作温度で脱油ができる。また、油分と液化物の分離の際、油分側を蒸発させる必要がなく、油分の蒸発潜熱の回収が全く不要であり、省エネルギーでの油分除去が可能である。
【0009】
さらに、油分から分離された常温常圧で気体である物質の気体は、回収も容易である。回収された気体は、再び液化することにより循環して使用することができるので、エネルギー効率の点でも優れている。そして、分離された排油を脱気処理することにより、液化物が簡単に取り除かれ、環境への負荷も軽減できる。
【0010】
さらに、本発明の脱油システムによれば、常温常圧で気体である物質を用いた油分除去をより効率よく進めることができる。
また、熱交換器を接続することにより、蒸発潜熱を回収し有効利用することができる。さらに、膨張機において、膨張による仕事を回収することにより、さらなる省エネルギーが達成できる。
【0011】
従って、本発明は、物質の脱油処理に広く応用することができる。例えば、エアコンなどのオイルミストフィルター、食器、重油タンクや配管内の有機系スケールの洗浄のための手段、低油含量の食品製造のための手段に応用することができる。また、油汚染された油吸収剤、土壌、砂、紙、木片等に適用することにより、これらの再利用が容易となり、一方、除去した分減量され廃棄が容易となることから、資源保護の点で好ましい。更に、PCBを含む変圧器(トランス)、コンデンサー用油の処理への応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、含油物質の脱油に関するものであり、最大の特徴は、常温常圧で気体である物質の気液相転移現象を利用して、油の溶解度を著しく変化させることに特徴がある。即ち、常温常圧で気体である物質に加圧、冷却等の処理を施して液体状態とし、得られる液化物に、該含油物質中の油分を溶解させた後、温度と圧力を僅かに変化させると、溶剤だけが選択的に蒸発し、油と溶剤の気体が容易に分離されるのである。
【0013】
このような本発明の対象となる含油物質としては、油分を含有する物質であれば特に制限はない。
ここで「油」とは、難水溶性の有機化合物を意味する。油の性質は、油の種類により相違するが、通常は水に溶けず可燃性を示す。本発明においては、油を構成する元素組成は限定されず、また、天然物由来か合成物由来かも問わず、更に工業、家庭用等の用途や、単一組成油、混合組成油の区別も特に問わない。常温で液体のものと固体のものとあるが、本発明においては常温で液体のものが好ましい。また、油に揮発性の物質などの油以外の物質が混入していても構わない。
【0014】
「含有する」とは、上述の油を一成分として含むことを意味する。油分を含有する物質は、サイズ、成分共に特に限定されないが、含油物質として固体やスラリー状の形態を取るものであることが好ましい。また、油を本来一構成成分として含有する物質(例えば、生物など)でも良いし、その一方で、本来は油を含有しないが、その物質の用途上油が吸収、添加されることにより油を含有する物質になったもの(例えば、油吸収材、金属、硝子、セラミックス、紙、木片、砂、土壌など)であっても良い。
「含有する」とは、含油物質中における油分の存在態様を特定するものではなく、外表面に付着するものの他、内部に油分を結合、包接するもの、固体粒子間、場合によっては固体粒子の内側にある細孔に存在するものであっても良い。そして、含油物質中における油分の含有割合についても限定されない。
【0015】
このような含油物質としては、具体的には例えば、油吸収剤(オイルソーベント、オイルミストフィルターなど)、金属(重油の付着した重油タンクや有機系スケールの付着した配管など)、生物、食品、使用後の食器、木片、残飯、生ごみ等の廃棄物、陶磁器、ほうろう、耐火材料、ファインセラミックス等のセラミックス、紙、砂、土壌、変圧器、コンデンサー等を挙げることができる。
【0016】
以下に、本発明の脱油方法、および脱油システムについて説明する。
A.本発明の脱油方法
本発明の液化物を用いた含油物質の脱油方法は、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含油物質に接触させて、該液化物に該含油物質中の油分を溶解させて油分高含有の液化物を得る工程(1)、および、該油分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として油分から分離する工程(2)を含むことを特徴とする。以下、工程(1)および(2)について説明する。
【0017】
まず、工程(1)では、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含油物質に接触させて、該液化物に該含油物質中の油分を溶解させて油分高含有の液化物を得る。
【0018】
常温常圧の条件下で気体である物質とは、常温かつ常圧の範囲内に含まれる任意の温度および圧力条件下において少なくとも気体状態で存在する物質を意味する。すなわち、常温かつ常圧の範囲内に含まれる温度Aおよび圧力Bの条件下において気体状態を示す物質であれば、常温常圧の条件下で含まれる温度A以外の温度および圧力B以外の圧力においては気体状態を示さないものであっても良い。
【0019】
本発明において、常温とは外気温に近い温度を意味し、一般には−10〜50℃、特に0〜40℃の範囲を意味する。また、常圧とは外気圧に近い圧力を意味し、一般に1気圧前後の範囲を意味する。
常温常圧の条件下で気体である物質としては、具体的には、25℃および1気圧の条件下で気体である物質、0℃および1気圧の条件下で気体である物質が好ましく、特に、25℃および1気圧の条件下で気体状態であり、かつ0℃および1気圧の条件下でも気体である物質がもっとも好ましい。
【0020】
常温常圧の条件下で気体である物質は、少ない所要エネルギーでの脱油を可能とする観点から、沸点が常温付近またはそれ以下である物質であることが好ましい。特に沸点が25℃以下、中でも10℃以下、さらに−5℃以下が好ましい。沸点が常温を超える物質であると、後述の工程(2)において該物質を気化させるために高温のエネルギー源が必要となり、脱油に要するエネルギーが増大することが予想されるので、好ましくない。
【0021】
常温常圧の条件下で気体である物質として、具体的には、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒド、イソブタン、ノルマルブタン、プロパン、LPGなどが挙げられる。これらは1種で用いても、または2種以上混合して用いてもよい。中でも好ましいのは、ジメチルエーテル単独、およびジメチルエーテルと具体例として上述した他の物質との混合物である。
ジメチルエーテルは、1気圧における沸点が−24.8℃であり、−10℃〜50℃の大気圧において気体である。高効率なジメチルエーテルの製造方法および製造装置は、例えば特開平11−130714号公報、特開平10−195009号公報、特開平10−195008号公報、特開平10−182535号〜特開平10−182527号の各公報、特開平09−309850号〜特開平09−309852号の各公報、特開平09−286754号公報、特開平09−173863号公報、特開平09−173848号公報、特開平09−173845号公報などに開示されており、これらに開示された技術に従い容易に得ることができる。
一方、本発明において、液化物とは、後述する液化により気体から得られる液体を意味する。すなわち、本発明においては、上述した常温常圧の条件下で気体である物質を液体状態にて利用する。
【0022】
本工程(1)では、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含油物質に接触させて該液化物に該含油物質中の油分を溶解させて油分高含有の液化物を得る。
すなわち、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含油物質に含まれる油分、すなわち、含油物質の外表面や内部に存在する油分に接触させることにより、含油物質中の油分を液化物に溶解させ、油分を高濃度で含有する液化物とさせる。
ここで、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を、含油物質に接触させるには、該物質を液体状態のまま維持する必要がある。液化状態のまま維持するための方法は、特に限定されないが、液化物を飽和蒸気圧で維持することが望ましい。特に、工程(1)の温度条件は、−10℃〜50℃、中でも0〜40℃の範囲で適宜設定することが望ましい。
【0023】
含油物質に対する常温常圧の条件下で気体である物質の液化物の接触方式、液化物の接触量、接触時間等の温度及び圧力以外の条件は、含油物質中の油分が該液化物に溶解するような条件を適宜設定することができる。
接触方式は、含油物質を液化物に浸漬する、含油物質に液化物を流通させるなど通常の脱油法で採られるどのような方法でもよいが、向流接触とすることが望ましい。すなわち、含油物質に対し、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を向流的に接触させることが好ましい。また、向流接触後、含油物質を液化物に浸漬してから、再び向流接触を行なうなど、向流接触を他の接触方式と適宜組み合わせて実施することも可能である。
【0024】
接触時間(脱油時間)は、含油物質や液化物の種類や量、接触方式等の条件に左右され、一義的に規定することは困難であるが、含油物質中の油分が液化物に十分に溶解する時間を適宜設定することができる。
【0025】
向流接触の場合の一般的な条件を示すと、液化物の流速を10L/時間以上、好ましくは30L/時間以上、更に好ましくは50L/時間以上とすることができ、また、接触時間は、5分以上、好ましくは8分以上、より好ましくは10分〜5時間とすることができる。
また、浸漬接触の場合の一般的な条件を示すと、含油物質85gに対し、液化物10Lを1〜3時間接触させることができる。
【0026】
このようにして、工程(1)では、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含油物質に接触させて、該液化物に該含油物質中の油分を溶解させて油分高含有の液化物を得ることができ、同時に、含油物質中に含まれていた油分は除去される。
【0027】
次に、工程(2)においては、前記(1)で得られる油分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として油分から分離する。すなわち、工程(1)で得られる油分高含有の液化物は、常温常圧の条件下で気体である物質の液化物と含油物質に由来する油分とが混合した状態にあるが、その中から常温常圧の条件下で気体である物質の液化物のみを選択的に気化させることにより、含油物質に由来する油分から分離することができる。
【0028】
気化とは、液体(液化物)を気体に変化させることを意味する。油分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質の気化は、温度条件および/または圧力条件を、工程(1)における各条件よりも上昇させることにより行うことができる。
温度条件を上げる場合は、常温常圧の条件下で気体である物質の沸点を超える温度まで上昇させることが好ましいが、本発明では、常温常圧の条件下で気体である物質を利用するので、通常は、常温付近、すなわち外気温に近い温度条件で気化することができる。つまり、加熱よりむしろ工程(1)の冷却状態から常温状態に戻すだけで気化することが可能である。気化の温度条件としては、使用する液化物や圧力条件にもよるが、常温状態、−10℃〜50℃、特に0〜40℃とすることが好ましい。工程(2)において圧力条件を低下させる場合、その条件は飽和蒸気圧未満であり、温度条件に応じて適宜定めることができる。
【0029】
このようにして、工程(2)においては常温常圧の条件下で気体である物質を過酷な条件とすることなく、容易に気化して液体(液化物)から気体へと変換させることができ、同時に、この気体を含油物質に由来する油分から容易に分離することができる。
【0030】
以上説明したように、本発明の脱油方法では、上記工程(1)および(2)により、含油物質から油分を除去することができるが、さらに、工程(2)において気化され分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を回収し、該気体を液化させて液化物を得る工程(3)を含めることもできる。
【0031】
液化は、常温常圧の条件下で気体である物質の気体を液体に変換することを意味する。常温常圧の条件下で気体である物質の液化は、加圧および/または冷却、すなわち、加圧、または冷却、あるいは加圧と冷却との併用により行うことができ、具体的な実施条件は、使用する物質の標準沸点などを考慮して、適宜有利な条件を選択することができる。特に冷却を採用する場合は、冷却温度は、標準沸点に留めることが好ましく、また、脱油を簡便に行う観点から、常温、すなわち外気温の範囲、例えば−10〜50℃、特に0〜40℃の範囲で設定することが好ましい。
また、1気圧での沸点が0℃を超える物質を用いる場合は、沸点以上での冷却により液化を行うことが好ましい。これは、標準沸点以下では物質の飽和蒸気圧が1気圧未満であり、これが原因で装置の内部圧力が1気圧未満となるため、装置の製造コストの増大や、ハンドリングが困難になるためである。
加圧の条件については、一般化することは困難であるが、加圧下の沸点が常温、すなわち外気温の範囲、例えば−10〜50℃、特に0〜40℃の範囲で設定することが好ましい。冷却と併用する場合には冷却温度に応じて、定めることができる。
【0032】
このような工程(3)において得られる液化物は、前記工程(1)において再び使用することにより、本発明の脱油方法において追加すべきDME量を減少すると同時に廃棄量を減らすことができるので、資源保護の点で好ましい。
【0033】
本発明の脱油方法では、脱油の媒体として液体を使用するので、液化物への油分の飽和溶解度と、液化物中の油分濃度の差が脱油のドライビングフォースとなる。そして、液化物中に溶解しうる油分量の理論最大値は、油分の飽和溶解度・油分の密度・液化物の体積に比例する。これを、従来石炭の脱油に用いられていた乾燥不活性気体中に蒸発しうる油分量の理論最大値と比較すると、例えば油分は20℃近辺で液化ジメチルエーテルと完全に混合し、同温度での空気中の油蒸気の飽和蒸気圧分圧(およそ1%未満)に対して非常に高い。このような極めて高い混合比率は気体では不可能であるとともに、液体を脱油の媒体として用いる特色がここにある。
【0034】
一方、乾燥不活性気体で脱油する場合、この気体中に混合した油蒸気は希釈されるため、蒸発潜熱の密度が小さくなり、蒸発潜熱を回収することが困難になる。
これに対し、本発明の脱油方法のように、脱油の媒体として液体を用いると、油分を蒸発させることなく除去可能となり、蒸発潜熱の回収自体が全く不要となる。また、液体として、常温常圧、すなわち、外気条件で気体の物質の液化物を用いるので、外気条件、すなわち、−10℃〜50℃位の温度範囲で、必要に応じて1気圧前後で調整することにより一連の脱油操作をすることができ、省エネルギーでの脱油が可能である。
【0035】
本発明の脱油方法により物質の油分を効率よく除去し、物質の洗浄が可能である。例えば、エアコンなどのオイルミストフィルター、食器、重油タンク、配管内の有機系スケールの洗浄のための手段、低油含量の食品製造のための手段に応用することができる。
また、例えば、油汚染された油吸収剤、土壌、砂、紙、木片、硝子、セラミックス等に適用することにより、これらの素材としての再利用が容易となり、一方、除去した分減量され廃棄が容易となることから資源保護の点で好ましい。更に、PCBを含む変圧器、コンデンサー用油の処理への応用が期待される。
【0036】
B.本発明の脱油システム
本発明は、液化物を用いた脱油システムをも提供するものである。
本発明の脱油システムは、常温常圧の条件下で気体である物質の気体を加圧する圧縮機と、加圧された前記気体を凝縮して液化物とする凝縮器と、前記液化物を含油物質と接触させ該含油物質中の油分を溶解させ油分高含有の液化物とする脱油器と、該油分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させる蒸発器と、気化した前記物質の気体と油分とを分離する分離器とが、直列に連結して構成されることを特徴とする。
このような本発明の脱油システムは、上記(A)にて説明した本発明の脱油方法を実践するのに適しており、本システムを利用することにより、上記本発明の脱油方法を効率よく進めることができる。
【0037】
本発明の脱油システムの構成の一例の概略を、図1に示す。
本例では、常温常圧の条件下で気体である物質としてジメチルエーテルを用いた場合を想定しているが、本発明のシステムはこれに限定されるものではない。ジメチルエーテルは、前記(A)にて説明したように、1気圧における沸点がおよそ−25℃であり、0℃〜50℃の大気圧において気体であることから、液体状態のジメチルエーテル(ジメチルエーテルの液化物)を常温にて得るためには、加圧下での操作が必要である。
【0038】
図1に示す脱油システムは、ジメチルエーテル蒸気を加圧するための圧縮機1、1’、加圧された蒸気を液化するための凝縮器2、液化されたジメチルエーテル(液化ジメチルエーテル)を含油物質と接触させ、油分を溶解させ油分高含有の液化物(油分を含有した液化ジメチルエーテル)とすることによって脱油を行う脱油器3、および、脱油の結果得られた油分を含有した液化ジメチルエーテルからジメチルエーテルを選択的に気化させる蒸発器4が、この順序で配管により直列に連結されたものである。このうち、凝縮器2と蒸発器4は、熱交換器5で接続されている。
【0039】
図1に示すシステムにおいては、さらに蒸発器4において気化されて得られたジメチルエーテル蒸気と油分とを分離する分離器(気液分離器)6、および、分離器6で分離されたジメチルエーテル蒸気を断熱膨張させる膨張機7が、この順序で、蒸発器4に隣接して配管により直列に連結されている。膨張機7は、更に圧縮機1に連結され、システム全体として閉回路(循環路)を形成している。この回路を、ジメチルエーテルが、気体−液体の状態変化をしながら循環し、油分との分離及び接触を繰り返している。
また、冷却器4’およびは減圧弁4”が、脱油器3に隣接して直列に連結されている。これらは、液化ジメチルエーテルを気化させる際の温度、圧力を調整するものであり、蒸発器1の一部と位置づけられ得る。
【0040】
さらに図1に示すシステムにおいては、脱気塔8が分離器6に連結されている。脱気塔8は、分離器6でジメチルエーテルから分離された油分に溶存するジメチルエーテルを脱気するためのものであり、具体的には、保圧弁8’で脱気塔内部の圧力を下げ、ジメチルエーテルを気化させ回収している。気液分離器6の内部の圧力を大気圧よりも高圧とした場合、気液分離器6で分離した油分にはジメチルエーテルガスが溶存する。よって、この油分をそのまま排出すると環境への負荷が大きく、さらにジメチルエーテルの損失量を大きくする。そこで、脱気塔8においては、油分に溶存するジメチルエーテルを回収し、環境への負荷並びにジメチルエーテルの損失量を最小限にするものである。
脱気塔8は、前記の回路に連結されており、塔内で脱気され回収されたジメチルエーテルは、図示していない配管により再び回路に戻される。
なお、脱気塔8の下部には、油分を加熱するための加熱缶8aを設けることにより、油分からのジメチルエーテルの分離を促進し、ジメチルエーテルの回収率を向上させることもできる。
【0041】
膨張機7においては、ここで外界に行う仕事が回収され、この仕事は、ジメチルエーテルを加圧する圧縮機1の動力の一部として投入され利用される。また、圧縮機1は、第1圧縮機1および第2圧縮機1”の2段とし、第1圧縮機1には膨張機7と連結し、膨張機7で行われた仕事が回収され、第1圧縮機1の動力として利用される。膨張機7において外界に行う仕事とは、ジメチルエーテルガスが体積膨張に伴って行うものを主に指す。また、蒸発機4を出たジメチルエーテルの過熱ガスには、過熱ガスの流れに巻き込まれた飛沫の混入があり得ることから、膨張機7では、混入した飛沫の気化による仕事が得られる場合もあり、これも外界に行う仕事として含まれる。
また、凝縮器2と蒸発器4は熱交換器5で接続されているので、液化ジメチルエーテルの蒸発潜熱が回収され有効利用されている。
一方、第2圧縮機1’は、電動機9により動力を供給されており、外部から仕事の投入はこの第2圧縮機1’に対してのみ行われることとなる。
【0042】
また、図1のシステムには、冷却器10が設置されている。冷却器10は、膨張機7から出た気体温度を圧縮機1の入口の最適温度に調整するものであり、液化ジメチルエーテルの利用条件等により必要に応じて設置されるものである。
【0043】
図1のシステムには、含油物質、該物質に含まれる油分、および液化ジメチルエーテルの3つが関与する。各物質に着目して、本システムのフローを説明する。
まず、含油物質は、図1中に点線で示されている通り、脱油器3に充填され、液化ジメチルエーテルと接触することにより脱油された後、容器から取り出されて処理を終了する。
【0044】
次に、図1のシステムにおける含油物質に含まれる油分のフローについて、以下説明する。図1において、含油物質に含まれる油分のフローは、二重線で示されている。
油分は、含油物質に含有される油分として、脱油器3からシステムに供給される。まず、脱油器3で含油物質から液化ジメチルエーテル中に溶出した後、液化ジメチルエーテル中に溶存する形態で蒸発器4に到達する。蒸発器4で大部分の液化ジメチルエーテルが気化し、液化ジメチルエーテル中に溶存していた油分が分離され、気液分離器6に到達する。さらに、気液分離器6において、ジメチルエーテル蒸気と油分に分けられ、油分は排油として残る。
続いて、油分は脱気塔8に導入される。脱気塔8に油分が導入されると、入口の保圧弁8’により脱気塔8の内部の圧力が低下し、ジメチルエーテルが回収され、気液分離器6で分離された油分をそのまま排出することによる環境への負荷並びにジメチルエーテルの損失を最小限にすることができる。なお、脱気塔8の下部に設けた加熱缶8aで油分を加熱することにより、ジメチルエーテルの回収率を向上させることもできる。
脱気された油分は、缶出液として排出されるが、この排油から気液分離機6において分離されたジメチルエーテル蒸気は、再び、脱油システムの回路内に戻し使用することができる。
【0045】
次に、図1のシステムにおけるジメチルエーテルのフローについて、説明する。図1において、ジメチルエーテルのフローは実線で示されている。
ジメチルエーテルガスは圧縮機1、1’で加圧されて過熱ガスになった後、凝縮器2で過冷却液になる。液化ジメチルエーテルの過冷却液は脱油器3に供給されて含油物質と接触し、その油分を溶解し、蒸発器4へと向かう。蒸発器4で液化ジメチルエーテルは油分と分離され再び過熱ガスとなる。この際、凝縮器2と蒸発器4は熱交換器5で連結されているので、液化ジメチルエーテルの蒸発潜熱が回収され有効利用される。蒸発器4を出たジメチルエーテルの過熱ガスは膨張機7にて仕事をし、圧縮機動力の一部として回収される。膨張機7を出たジメチルエーテルガスは再び圧縮機1へと送られ、システム内を循環する。
【0046】
図2に、本発明のシステムの1例における、ジメチルエーテルを用いた場合の相状態、圧力、温度、飽和温度の設定例を示す。圧力と温度の設計を簡便化するため、油からのジメチルエーテルガスの脱気塔8を省略し、気液分離器6で油とジメチルエーテルとが完全に分離できると仮定した。また、脱油器3で処理された含油物質はジメチルエーテルを含まないと仮定した。さらに、含油物質は、油分として常温で液体の油のみを含むと仮定した。
【0047】
まず、第1圧縮機1の入口での温度を起点として、温度、圧力条件を設定した。第1圧縮機1入口(1)での温度が25℃で、飽和温度より5℃過熱された時、圧力は0.51MPaとなる。過熱度が小さいほど第1圧縮機1での圧力が上がるため、圧縮機1の動力が減少するが、その反面、圧縮機入口より前の段階で、外気によってジメチルエーテルガスが冷やされて凝縮する危険性が増す。また、ジメチルエーテルの熱容量比は1.11と小さいので、断熱圧縮時に温度が上昇しにくい。このため、第1圧縮機1および第2圧縮機1’でのそれぞれの圧縮機出口(2)、(3)における過熱度は、圧縮機入口の過熱度よりも小さくなる。本システムにおいては、圧縮機入口の過熱度を決める際には、圧縮機出口における過熱度にも注意する必要がある。
【0048】
第2圧縮機1’の出口(3)の圧力は、蒸発器4の手前の冷却器4’に用いられる冷却水の温度から決まる。ここで、外気温を25℃とし、冷却水の温度が外気温に等しいとする。冷却器4’でのアプローチ温度を5℃とすると、冷却器4’の出口(蒸発器入口)(6)での液化ジメチルエーテルの温度は30℃となる。さらに凝縮器2と蒸発器4とのアプローチ温度を5℃とすると、凝縮器2の出口(4)での温度は35℃となる。脱油器3内でジメチルエーテルが飽和温度の液体として存在すると仮定すると、凝縮器2の操作圧力(圧縮機出口の圧力)が決まる。この場合、飽和温度が35℃なので、凝縮器2の出口(4)および圧縮機1’の出口(凝縮器入口)(3)は0.78MPaとなる。また、断熱圧縮を仮定すると、第2圧縮機1’の出口(3)の温度は38℃となり、圧縮機出口でジメチルエーテルの飽和温度を上回る過熱ガスとなる。
【0049】
蒸発器4の飽和温度は30℃であるので、蒸発器4の入口(6)で30℃における飽和圧力まで減圧する必要がある。油の飽和蒸気圧は油の種類に依存するが、ここで飽和蒸気圧が低い油を想定すると、油と液化ジメチルエーテルの混合液の飽和圧力は、ほぼ液化ジメチルエーテルの飽和圧力に等しいと見なせ、その値は0.68MPaである。また、凝縮器2と蒸発器4の温度差が5℃であるので、蒸発器4の出口(膨張機入口)(7)の温度は33℃である。ここでの過熱度は3℃であるので、ジメチルエーテルガスを3℃加熱するのに要するエネルギーの範囲内での熱損失を第2圧縮機1’の出口以降、膨張機7の入口手前の範囲で許容できる。
【0050】
気液分離器6でジメチルエーテルガスを油から分離した後、膨張機7で断熱膨張する。膨張機7の出口(8)の圧力は、第1圧縮機1入口での圧力に等しい。断熱膨張によりジメチルエーテルガスは23℃に冷却される。第1圧縮機1の入口に比して2℃温度が低いため、若干の加熱が必要である。膨張機7ではエネルギーが回収されて、第1圧縮機の動力として用いられる。膨張機7と第1圧縮機1における断熱効率を80%と仮定すると、第1圧縮機出口の温度は31℃、圧力は0.61MPaと定まる。
【0051】
さらに、すでに定めた温度圧力設定に従い、膨張機7と2つの圧縮機1,1’における機械的な効率を0.8と仮定して、第2圧縮機1’における所要動力を計算する。
まず、2つの圧縮機1,1’が必要とする仕事の合計は(2つの圧縮機1,1’が要する理論仕事)÷0.8である。一方、膨張機7が回収し、第1圧縮機1の動力として投入される仕事は、(膨張が行う理論仕事)×0.8である。従って、第2圧縮機1’に要する仕事は、(2つの圧縮機1,1’が要する理論仕事)÷0.8−膨張が行う理論仕事)×0.8である。更に、この仕事は動力の形で導入する必要があるので、その変換効率を0.35とすると、第2圧縮機1’が必要とする仕事)÷0.35が第2圧縮機1’が必要とする総エネルギーとなる。なお、この変換率は、油中改質法の動力推算で用いられた、水蒸気の潜熱回収のための圧縮動力の変換効率と同じ値である。
【0052】
ここでジメチルエーテルを理想気体と近似し、断熱圧縮を仮定するとともに、油を除去するために、油の重量の10倍の重量のジメチルエーテルが必要であると仮定すると、本システムの所要動力は476kJ/kg−油となる。
この推算結果から、本発明の脱油システムによれば、少ない所要エネルギーで脱油が達成できることを理論的に確認できた。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づき、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1(オイルソーベントの脱油試験)
オイルソーベント(スリーエムヘルスケア社製、主成分ポリプロピレン・ポリエステル、1枚あたり乾燥重量85g)4枚、計340gを使用して、真空ポンプオイル(マコトフックス社製、品名レノリンDTA100)を1枚あたり650g、計2600g染み込ませ、これを1バッチとして試験に供した。
【0055】
上記のようにして調製された含油状態のオイルソーベントを、図1に示す脱油システムの試作機により純度99%以上の液化ジメチルエーテル(DME)を用いて脱油した。
すなわち、含油状態のオイルソーベントを、図1の脱油器3に相当する容器に充填し、容器込みの重量の重量をバッチごとの合計として測定し、オイルソーベント自体の重量を算出した。図1の凝縮器2と脱油器3の間に位置に設けたステンレス容器に飽和蒸気圧の液化DMEを充填し、これを送液ポンプを用いて、脱油器3(容器)に流通させた。そして、脱油器3と冷却器4’の間に配置した液化DMEを溜める空の密閉容器で液化DMEを回収した。
なお、試作機は、試験物10Lを1回のバッチ処理にて液体除去する処理能力を有し、その際の脱油時間は、確実性の観点から15分〜1時間の範囲で設定可能である。
【0056】
実験は室温下で行い、液化DMEの流通速度および流通時間(脱油時間)は表1及び表2に示す通りバッチごとに様々な組み合わせとした。
脱油処理終了後、オイルソーベントの脱油前重量および脱油後重量、脱油処理前後で減少した分の重量(減少量重量)、並びに排油の重量を測定した。表1及び表2に、結果を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1及び表2から明らかなように、いずれのバッチにおいても、処理後のオイルソーベントの重量は処理前に比べて著しく減少し、また、排油重量から、吸油させた真空ポンプオイルの大部分が排出されたことが分かる。なお、減少量の重量を排油量が上回る場合があるが、これは、処理後のオイルソーベントや排油の中にDMEが含まれるからと推測される。
また、処理後のオイルソーベント4枚に、再び真空ポンプオイルを1枚あたり650g、計2600g染み込ませたところ、油を含む能力を保持していることが確認できた。
このことから、本発明によれば、油を含んだ状態のオイルソーベントから、短時間に、外気温に近い条件で容易に多量の油を除去できることが確認できた。
【0060】
実施例2(金属の脱油試験)
ステンレス片(重量17.3259g)1個に、絶縁油を0.0239g付着させて試験に供した。
脱油処理の条件は、オイルソーベントの代わりにステンレス片を用い、かつ、流通速度100L/時間、脱油時間1時間とした他は、実施例1と同様に行った。
その結果、ステンレス片の重量を、0.0224g減少させることができ、当初付着させた量の大部分が脱油されたことが分かった。
このことから、本発明によれば、油が付着した状態のステンレス片から、短時間で容易に、油を効率よく除去できることが確認できた。
【0061】
実施例3(硝子の脱油試験)
200cc硝子製ビーカー(重量107.8837g)1個に、絶縁油を0.1538g付着させて試験に供した。
脱油処理の条件は、オイルソーベントの代わりに硝子製ビーカーを用い、かつ、流通速度100L/時間、脱油時間1時間とした他は、実施例1と同様に行った。
その結果、ステンレス片の重量を、0.1566g減少させることができ、当初付着させた量の大部分が脱油されたことが分かった。
このことから、本発明によれば、油が付着した状態の硝子から、短時間で容易に、油を効率よく除去できることが確認できた。
【0062】
実施例4(紙の脱油試験)
A6サイズのコピー用再生紙20枚(総重量21.7010g)に、絶縁油を計6.2222g染み込ませて試験に供した。
脱油処理の条件は、オイルソーベントの代わりに再生紙を用い、かつ、流通速度100L/時間、脱油時間1時間とした他は、実施例1と同様に行った。
その結果、再生紙の重量を、6.6936g減少させることができ、当初染み込ませた量の大部分が脱油されたことが分かった。
このことから、本発明によれば、油が染み込んだ状態の紙から、短時間で容易に、油を効率よく除去できることが確認できた。
【0063】
実施例5(木片の脱油試験)
木片(重量8.2142g)に、絶縁油を6.5310g染み込ませて試験に供した。
脱油処理の条件は、オイルソーベントの代わりに木片を用い、かつ、流通速度100L/時間、脱油時間1時間とした他は、実施例1と同様に行った。
その結果、木片の重量を、6.0370g減少させることができ、当初付着させた量の大部分が脱油されたことが分かった。
さらに、脱油処理を1回繰り返すと、木片の重量を、さらに0.4816g(通算6.5186g)減少させることができ、当初付着させた量の大部分が脱油されたことが分かった。
このことから、本発明によれば、油が付着した状態の木片から、短時間で容易に、油を効率よく除去できることが確認できた。
【0064】
実施例6(土の脱油試験)
土(重量3.630kg)に、A重油を0.1150kg染み込ませて試験に供した。
脱油処理の条件は、オイルソーベントの代わりに土を用い、かつ、流通速度100L/時間、脱油時間1時間とした他は、実施例1と同様に行った。
その結果、土の重量を、0.1900kg減少させることができた。染み込ませたA重油の重量よりも、土の減量が大きいのは、A重油だけではなく、土の水分も除去されたためだと考えられる。
このことから、本発明によれば、油が付着した状態の土から、短時間で容易に、油を効率よく除去できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明にかかる含油物質中の脱油方法は、多様な含油物質に適用でき、どのような含油物質であっても、低動力で短時間に簡便に油分を除去することができる。
従って、本発明は、様々な含油物質から油分を除去することにより軽量化を図り、廃棄物としての処理、再利用、バイオマスとしての資源利用、環境浄化等を容易にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の脱油システムの構成の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の脱油システムの一例の温度圧力条件を示す概略図である。
【符号の説明】
【0067】
1、1’ 圧縮機
2 凝縮器
3 脱油器
4 蒸発器
4’ 冷却器
4” 減圧弁
5 熱交換器
6 分離器
7 膨張機
8 脱気塔
8’ 保圧弁
8a 加熱缶
9 電動機
10 冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温常圧の条件下で気体である物質の液化物を含油物質に接触させ、該液化物に該含油物質中の油分を溶解させて油分高含有の液化物を得る工程(1)、および、該油分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させることにより気体として油分から分離する工程(2)を含むことを特徴とする液化物を用いた含油物質の脱油方法。
【請求項2】
前記工程(2)において気化され分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を回収し、該気体を液化させて液化物を得る工程(3)をさらに含み、該工程(3)で得られる液化物を前記工程(1)において再び使用することを特徴とする請求項1に記載の脱油方法。
【請求項3】
常温常圧の条件下で気体である物質は、25℃および1気圧において気体である物質であることを特徴とする請求項1または2に記載の脱油方法。
【請求項4】
常温常圧の条件下で気体である物質は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ホルムアルデヒド、ケテン、アセトアルデヒド、プロパン、ブタン、およびLPGから選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の脱油方法。
【請求項5】
含油物質が、油吸収材、金属、硝子、セラミックス、紙又は土壌であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の脱油方法。
【請求項6】
前記工程(1)における接触は、前記液化物と前記含油物質とが向流接触させるようにして行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の脱油方法。
【請求項7】
一連の脱油操作を、−10℃〜50℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の脱油方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つに記載の脱油方法により得られる油分が除去された物質。
【請求項9】
常温常圧の条件下で気体である物質の気体を加圧する圧縮機と、加圧された前記気体を凝縮して液化物とする凝縮器と、前記液化物を含油物質と接触させ該含油物質中の油分を溶解させ油分高含有の液化物とする脱油器と、該油分高含有の液化物中の常温常圧の条件下で気体である物質を気化させる蒸発器と、気化した前記物質の気体と油分とを分離する分離器とが、直列に連結して構成されることを特徴とする含油物質の脱油システム。
【請求項10】
前記凝縮器と前記蒸発器とが、熱交換器で接続されて構成されることを特徴とする請求項9に記載の脱油システム。
【請求項11】
さらに、前記気化した常温常圧の条件下で気体である物質の気体を膨張させる膨張機が前記圧縮機に直列に連結して構成され、該膨張機の外界に行う仕事が回収され、該仕事が前記圧縮機の動力の一部として投入されるように構成されていることを特徴とする請求項
9または10に記載の脱油システム。
【請求項12】
前記圧縮機、凝縮器、脱油器、蒸発器および膨張機は回路を形成し、該回路を、常温常圧の条件下で気体である物質が循環するように構成されることを特徴とする請求項9〜11のいずれか一つに記載の脱油システム。
【請求項13】
前記分離器で分離された常温常圧の条件下で気体である物質の気体を脱気し回収するための脱気塔が前記分離器に連結され、脱気された気体を回収し回路に戻されるように構成されていることを特徴とする請求項9〜12のいずれか一つに記載の脱油システム。
【請求項14】
前記脱油器は、前記液化物と前記含油物質とを向流接触させることを特徴とする請求項9〜13のいずれか一つに記載の脱油システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−237129(P2007−237129A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66521(P2006−66521)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】