説明

液圧回転機

【課題】シリンダブロック5の回転中心軸αとセンタシャフト10の回転中心軸βとのずれを抑制して、シリンダ穴とピストンとの焼き付きリスクを低減し、液圧回転機の信頼性を高める。
【解決手段】シリンダブロック5の中心穴6とセンタシャフト10との嵌合部に、この嵌合部の隙間を埋める馴染み層21を設ける。該馴染み層21は、例えばシリンダブロック5の中心穴6の内壁に化成皮膜処理を施すことにより、リン酸マンガン皮膜等の皮膜として形成する。そして、馴染み層21により、シリンダブロック5の中心穴6とセンタシャフト10との嵌合部に生じる隙間を10μm以下にする。これにより、シリンダブロック5の回転中心軸αとセンタシャフト10の回転中心軸βとのずれを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば土木・建築機械、その他の一般機械に油圧ポンプ、モータ等として用いられる液圧回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル等の建設機械や一般機械に油圧ポンプや油圧モータとして用いられる液圧回転機として、例えば斜軸式(コンロッド駆動式)で定容量型あるいは可変容量型の液圧回転機が知られている。
【0003】
そして、例えば従来の斜軸式の液圧回転機は、ケーシングと、該ケーシング内に回転可能に設けられた回転軸と、該回転軸と共に回転するように前記ケーシング内に回転可能に設けられ周方向に離間して軸方向に延びる複数のシリンダ穴が形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ穴内に摺動可能に挿嵌され該シリンダブロックの回転に伴って各シリンダ穴内を往復動する複数(且つ奇数)のピストンと、前記シリンダブロックの回転軸中心に沿って形成された中心穴と、該シリンダブロックの中心穴に嵌合され該シリンダブロックのセンタリングを行うセンタシャフトと、前記ケーシングとシリンダブロックとの間に設けられ前記各シリンダ穴と連通する給排ポート(低圧ポート、高圧ポート)が形成された弁板と、前記センタシャフトと前記シリンダブロックとの間に設けられ前記シリンダブロックを前記弁板に向けて付勢するばねとにより大略構成されている。そして、前記回転軸の端部にはドライブディスクが一体的に設けられ、このドライブディスクには、シリンダブロックから突出した各ピストンの突出端部とセンタシャフトの突出端部とが摺動可能に連結している(例えば、特許文献1または2参照)。
【0004】
この種の斜軸式の液圧回転機を例えば油圧ポンプとして用いる場合には、エンジン等の原動機によって前記回転軸を回転駆動することにより、前記ケーシング内でシリンダブロックを回転させる。これにより、該シリンダブロックの各シリンダ穴内でピストンが往復動し、低圧ポート(吸入ポート)からシリンダ穴内に吸込んだ作動油をピストンによって加圧して高圧ポート(吐出ポート)に圧油として吐出するようになっている。
【0005】
一方、この種の斜軸式の液圧回転機を例えば油圧モータとして用いる場合には、高圧ポートを通じて外部からの圧油を各シリンダ穴内に順次供給し、前記各ピストンの突出端部をドライブディスクに順次押し付ける。そして、このときのシリンダ穴に作用するドライブディスクからの押し付け反力により、前記シリンダブロックと共に回転軸に回転力を与え、これをモータ出力として取り出す。
【0006】
ここで、油圧モータの回転駆動時には、前記各ピストンがシリンダ穴の内壁と開口周縁部とに接触することにより、シリンダブロックに回転力が伝達され、該シリンダブロックとドライブディスクとが同期して回転する。この場合に、各ピストンのうちの1本のピストンがシリンダ穴の内壁と開口周縁部とに接触する領域(接触領域)は、当該ピストンが挿通されたシリンダ穴が低圧ポートに連通するときの一定区間(低圧側の接触領域)と、高圧ポートに連通するときの一定区間(高圧側の接触領域)となる。即ち、シリンダブロックに設けられた各ピストンは、シリンダブロックが1回転する間に、低圧側の接触領域と高圧側の接触領域とにおいてシリンダ穴の内壁と開口周縁部とに接触し、シリンダブロックに回転力を伝達する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−101581号公報
【特許文献2】特開平4−174301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した従来技術では、シリンダブロックの中心穴とセンタシャフトとの嵌合部に隙間が存在するため、例えばシリンダブロックの回転中心軸とセンタシャフトの回転中心軸とにずれが生じることがある。この場合、シリンダブロックの回転中心軸とセンタシャフトの回転中心軸とにずれが無い理想的な回転状態では、高圧ポート側と低圧ポート側とにそれぞれ1箇所ずつ存在する各接触領域の円周方向に関する幅が互いに等しくなる。
【0009】
これに対して、シリンダブロックの回転中心軸とセンタシャフトの回転中心軸とにずれが生じた場合には、例えば高圧ポート側での接触領域と低圧ポート側での接触領域とに偏りが生じる。即ち、一方の接触領域の円周方向に関する幅が拡大するのに対して、他方の接触領域の円周方向に関する幅が縮小する。そして、このように高圧ポート側と低圧ポート側との接触領域に偏りが生じた場合には、接触領域が拡大した側に存在するシリンダ穴の開口周縁部とピストンとの摺動時間が増加することになり、シリンダブロックの1回転当たりの発熱量が増え、焼き付き等の損傷を生じるリスクが高まる可能性がある。
【0010】
なお、シリンダブロックの回転中心軸とセンタシャフトの回転中心軸とのずれを抑制すべく、前記中心穴の内周面やセンタシャフトの外周面の加工精度を確保し、これら中心穴とセンタシャフトとの嵌合部の隙間を10μm以下にすることが考えられる。
【0011】
しかし、単に機械加工に基づいて隙間を小さくすると、前記中心穴とセンタシャフトとの摺接に伴う熱の影響等に基づいて、該センタシャフトが中心穴の内壁面にスティックする可能性がある。この場合には、前記シリンダブロックを前記弁板に向けて付勢するばねの弾性力の伝達が妨げられ、該シリンダブロックが弁板から離隔する(剥がれる)可能性がある。
【0012】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、シリンダブロックの回転中心軸とセンタシャフトの回転中心軸とのずれを抑制して、焼き付き等のリスクを低減することができると共に、前記センタシャフトのスティックを抑制し、前記シリンダブロックと弁板との剥がれを抑制することができるようにした液圧回転機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明は、ケーシングと、該ケーシング内に回転可能に設けられ周方向に離間して軸方向に延びる複数のシリンダ穴が形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ穴内に摺動可能に挿嵌され該シリンダブロックの回転に伴って各シリンダ穴内を往復動する複数のピストンと、前記シリンダブロックの回転軸中心に沿って形成された中心穴と、該シリンダブロックの中心穴に嵌合され該シリンダブロックのセンタリングを行うセンタシャフトと、前記ケーシングとシリンダブロックとの間に設けられ前記各シリンダ穴と連通する給排ポートが形成された弁板と、前記センタシャフトと前記シリンダブロックとの間に設けられ前記シリンダブロックを前記弁板に向けて付勢するばねとを備えた液圧回転機に適用される。
【0014】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記シリンダブロックの中心穴と前記センタシャフトとの嵌合部に、この嵌合部の隙間を埋める馴染み層を設けたことにある。
【0015】
また、請求項2の発明は、前記馴染み層を、前記シリンダブロックの中心穴の内周面と前記センタシャフトの外周面とのうちの少なくとも一方に設けることにより、該シリンダブロックの中心穴と前記センタシャフトとの嵌合部の隙間を10μm以下としたことにある。
【0016】
また、請求項3の発明は、前記馴染み層を、化成皮膜処理によって設ける構成としたことにある。
【0017】
さらに、請求項4の発明は、前記中心穴の開口周縁部には、前記シリンダブロックの端面から軸方向に突出する延長部を設けたことにある。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、シリンダブロックの中心穴とセンタシャフトとの嵌合部の隙間を埋める馴染み層を設けているので、該馴染み層によって、シリンダブロックの回転中心軸とセンタシャフトの回転中心軸とのずれを抑制することができる。これにより、シリンダ穴の開口周縁部とピストンとが接触する高圧ポート側の接触領域と低圧ポート側の接触領域とのうちの一方の接触領域が増加すること、即ち、高圧ポート側と低圧ポート側とにそれぞれ1箇所ずつ存在する各接触領域の円周方向に関する幅が一方で拡大し他方で縮小することを抑制できる。従って、シリンダ穴の開口周縁部とピストンとの焼き付きのリスクを低減することにより、液圧回転機の信頼性を高めることができる。また、例えばシリンダブロックの中心穴の内周面、センタシャフトの外周面に対する機械加工によって、これら中心穴とセンタシャフトとの間の隙間を減少させる場合に比較し、熱の影響等によって前記センタシャフトにスティックが発生することを抑えることができる。従って、シリンダブロックをばねによって弁体に確実に押し付けておくことができ、シリンダブロックと弁板との剥がれを抑制することにより、液圧回転機を長期に亘って円滑に作動させることができる。
【0019】
また、請求項2の発明によれば、シリンダブロックの中心穴とセンタシャフトとの嵌合部の隙間を埋める馴染み層により、該隙間を10μm以下にしているので、シリンダブロックの回転中心軸とセンタシャフトの回転中心軸とをほぼ一致させることができる。このため、高圧ポート側における各ピストンの接触領域と低圧ポート側における各ピストンの接触領域とが互いに等しくなる理想的な駆動状態に近づける事ができ、シリンダ穴の開口周縁部とピストンとが焼き付くリスクを解消することができる。しかも、隙間を10μm以下にしても、シリンダブロックの中心穴とセンタシャフトとの間に馴染み層が介在することにより、シリンダブロックとセンタシャフトとが直接的に接触することがなく、センタシャフトにスティックが発生するのを抑制し、液圧回転機の寿命を延ばすことができる。
【0020】
また、請求項3の発明によれば、化成皮膜処理によって馴染み層を設ける構成としているので、例えば溶射皮膜処理と比較して、シリンダブロックの中心穴やセンタシャフトの形状、材料に囚われず、馴染み層となる皮膜を安定して形成することができる。また、シリンダブロックに化成皮膜処理を行えば、中心穴に限らずシリンダ穴の内周壁面にも潤滑性を有する皮膜を形成することができる。このため、センタシャフトと中心穴との間の摺接部に加えて、ピストンとシリンダ穴との間の摺接部も潤滑性を高めることができる。
【0021】
さらに、請求項4の発明によれば、シリンダブロックの中心穴の開口周縁部に延長部を設けているので、該中心穴の軸方向長さを確保して、該中心穴の内壁とセンタシャフトとの接触部位を延長することができる。このため、シリンダブロックの回転中心軸とセンタシャフトの回転中心軸との傾斜角を小さくすることができるから、これら回転中心軸同士を確実に一致させることができ、液圧回転機を一層円滑に作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態による斜軸式の液圧回転機を示す縦断面図である。
【図2】図1中のシリンダブロックとセンタシャフトとの一部を拡大すると共に、馴染み層の厚さを誇張して示す要部拡大の模式的な縦断面図である。
【図3】シリンダブロックとセンタシャフトと各ピストンとを、各ピストンとシリンダ穴との隙間を誇張した状態で示す、図1中の矢示III−III方向からみた模式的な横断面図である。
【図4】比較例によるシリンダブロックとセンタシャフトとを示す図2と同様な模式的な縦断面図である。
【図5】比較例によるシリンダブロック、センタシャフト、各ピストンを示す図3と同様な模式的な横断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態によるシリンダブロック、センタシャフト、馴染み層を示す図2と同様な模式的な縦断面図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態によるシリンダブロック、センタシャフト、馴染み層を示す図2と同様な模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態による液圧回転機を、斜軸式で定容量型の油圧モータに適用した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0024】
まず、図1ないし図3は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は油圧モータのケーシングを示し、該ケーシング1は略「く」字状に屈曲した筒形状をなすケーシング本体1Aと、該ケーシング本体1Aのヘッド側端面に固着されたヘッドケーシング1Bとからなっている。また、ケーシング本体1Aのうちヘッドケーシング1Bとは反対側の端部には、軸挿通孔1Cが形成されている。
【0025】
2はケーシング本体1A内に設けられた回転軸を示し、該回転軸2は、ケーシング本体1Aに対し軸受3を介して回転自在に軸支されている。そして、回転軸2の一端側は軸挿通孔1Cを通じてケーシング本体1Aの外部に突出し、油圧モータによって駆動される機器類(図示せず)に連結される。一方、ケーシング本体1A内に延びる回転軸2の他端側には後述のドライブディスク4が一体的に設けられている。
【0026】
4は回転軸2に一体的に設けられたドライブディスクで、該ドライブディスク4は、ケーシング本体1A内に配置されている。ここで、ドライブディスク4は、後述のシリンダブロック5側の端面に、後述の各ピストン9およびセンタシャフト10の端部をそれぞれ摺動可能に連結するための複数の凹球面部4Aを設けている。
【0027】
5はケーシング1内に回転可能に設けられたシリンダブロックを示し、該シリンダブロック5は、回転軸2と一体に回転するものである。ここで、シリンダブロック5は、肉厚な円筒状に形成され、その中心部には、後述のセンタシャフト10を嵌合するための中心穴6が回転中心軸αに沿って穿設されている。また、シリンダブロック5には、中心穴6を中心として周方向に一定の間隔をもって軸方向に延びる複数本(通常5本、7本等奇数本)のシリンダ穴7が穿設されている。一方、シリンダブロック5のうちヘッドケーシング1B側の端面は凹湾曲面状の摺動面8となり、各シリンダ穴7と摺動面8との間には該摺動面8に開口する複数のシリンダポート7A(1本のみ図示)が形成されている。
【0028】
9はシリンダブロック5の各シリンダ穴7内に往復動可能に挿嵌されたピストンを示し、該各ピストン9の一端側には球形部9Aが設けられ、該球形部9Aは、ドライブディスク4の側面の外径側に形成された凹球面部4Aに摺動可能に嵌合している。
【0029】
10はシリンダブロック5のセンタリングを行うために中心穴6に嵌合されたセンタシャフトを示し、該センタシャフト10の一端側は球形部10Aとなり、他端側には有底状の凹穴10Bが形成されている。そして、センタシャフト10の球形部10Aは、ドライブディスク4の側面の中心に形成された凹球面部4Aに摺動可能に嵌合している。また、センタシャフト10の凹穴10B内には後述のばね15が設けられている。
【0030】
11はケーシング1のヘッドケーシング1Bとシリンダブロック5との間に設けられた弁板を示している。ここで、弁板11のうちヘッドケーシング1B側の面は平坦面となり、該ヘッドケーシング1Bに固着されている。一方、弁板11のうちシリンダブロック5側の面は凸湾曲面状の切換面12となり、該切換面12に対して前記シリンダブロック5の摺動面8が摺接しつつ回転する構成となっている。
【0031】
また、図3に示すように、弁板11には、低圧側(吐き出し側)の給排ポートとなる低圧ポート13と高圧側(吸い込み側)の給排ポートとなる高圧ポート14とが眉形状をなして周方向に延びるように形成されている。そして、低圧ポート13と高圧ポート14とは、シリンダブロック5の回転に伴って各シリンダ穴7のシリンダポート7Aと間欠的に連通する。
【0032】
15はセンタシャフト10とシリンダブロック5との間に設けられたばねを示し、該ばね15は、センタシャフト10の凹穴10B内に配置され、シリンダブロック5を弁板11に向けて常時付勢している。これにより、シリンダブロック5は、その摺動面8を弁板11の切換面12に密着させた状態で弁板11に対して回転する構成となっている。
【0033】
次に、21はシリンダブロック5の中心穴6とセンタシャフト10との嵌合部に設けられた馴染み層を示し、該馴染み層21は、図2に拡大して示すように、中心穴6の内壁面とセンタシャフト10の外周面との間の嵌合部に生じる隙間を埋めるものである。ここで馴染み層21は、シリンダブロック5に形成された中心穴6の内壁に対して例えば化成皮膜処理を施すことにより、リン酸マンガン皮膜等の皮膜として形成されている。なお、図2中の馴染み層21は、その厚さを誇張して示している。そして、シリンダブロック5の中心穴6の内壁に馴染み層21を設けることにより、シリンダブロック5の中心穴6とセンタシャフト10との嵌合部に生じる隙間を10μm以下(例えば、1〜10μm程度の値)になるようにしている。
【0034】
本実施の形態による斜軸式の油圧モータは上述の如き構成を有するもので、以下、その作動について説明する。
【0035】
油圧ポンプ(図示せず)から吐出された圧油は、吸い込み側のポートとなる高圧ポート14を介して各シリンダ穴7内へ順次供給され、各ピストン9を順次伸長(突出)させてから、吐き出し側のポートとなる低圧ポート13を介して外部に排出される。このとき、シリンダ穴7内に吸い込まれた圧油の油圧力によって、各ピストン9がシリンダ穴7内を摺動すると共に、ドライブディスク4に油圧力が伝達され、該ドライブディスク4が回転駆動される。そして、ドライブディスク4の回転時に、図3中の高圧ポート14側の接触領域Aと低圧ポート13側の接触領域B内に存在するピストン9は、シリンダ穴7の内壁7Bと開口周縁部7Cとに接触する。これにより、ピストン9からシリンダブロック5への回転力の伝達が行われ、シリンダブロック5とドライブディスク4とが同期して回転する。
【0036】
このとき、本実施の形態では、シリンダブロック5の中心穴6の内壁に、リン酸マンガン皮膜等からなる馴染み層21を設けることにより、中心穴6とセンタシャフト10との嵌合部に生じる隙間を埋めることができ、図2に示すように、シリンダブロック5の回転中心軸αと、センタシャフト10の回転中心軸βとをほぼ一致させることができる。
【0037】
このため、図3に示すように、シリンダブロック5が1回転する間にピストン9がシリンダ穴7の内壁7Bと開口周縁部7Cとに接触する領域、即ち、高圧ポート14側の接触領域Aと低圧ポート13側の接触領域Bとの周方向に関する幅を、互いにほぼ等しくすることができる。この結果、高圧ポート14側の接触領域Aにおいてピストン9がシリンダ穴7の内壁7Bと開口周縁部7Cとに接触する時間と、低圧ポート13側の接触領域Bにおいてピストン9がシリンダ穴7の内壁7Bと開口周縁部7Cとに接触する時間とを均一化することができ、焼き付きの原因となるピストン9の発熱を抑制することができる。
【0038】
次に、ピストン9の発熱抑制の効果について、シリンダブロック5の中心穴6とセンタシャフト10との嵌合部に馴染み層21を設ける場合と、馴染み層を設けない場合とを比較しつつ具体的に説明する。
【0039】
まず、図4は比較例によるシリンダブロック5′とセンタシャフト10′とを示し、この比較例では、シリンダブロック5′の中心穴6′とセンタシャフト10′との嵌合部に馴染み層が設けられておらず、両者間には隙間Cが形成されている。これによりシリンダブロック5′の回転中心軸αとセンタシャフト10′の回転中心軸βとにズレが生じ、これら回転中心軸α,β同士が互いに傾斜する可能性がある。
【0040】
このような場合には、図5に示すように、高圧ポート14側の接触領域A′と低圧ポート13側の接触領域B′に偏りが生じる。即ち、一方の接触領域A′の円周方向に関する幅が拡大するのに対して、他方の接触領域B′の円周方向に関する幅が縮小する。この結果、例えば拡大した側の接触領域A′に存在するピストン9′がシリンダ穴7′の内壁と開口周縁部とに接触する時間が増加することになり、シリンダブロック5′の1回転当たりのピストン9′の発熱量が増え、ピストン9′に焼き付き等の損傷を生じる虞がある。
【0041】
また、上述のような回転中心軸α,β同士のずれを抑制すべく、前記中心穴6′の内面やセンタシャフト10′の外面の加工精度を高めて、これら中心穴6′とセンタシャフト10′との嵌合部の隙間を小さくした場合には、前記中心穴6′とセンタシャフト10′との摺接に伴う熱により、センタシャフト10′が中心穴6′の内壁面にスティックする虞がある。そして、この場合には、ばね15′によってシリンダブロック5′を弁板に向けて付勢することができず、該シリンダブロック5′が弁板から離隔する(剥がれる)可能性がある。
【0042】
これに対し、馴染み層21を設けた本実施の形態によれば、図2に示すようにシリンダブロック5の回転中心軸αとセンタシャフト10の回転中心軸βとをほぼ一致させることにより、これら回転中心軸α,β同士のずれを抑制することができる。これにより、高圧ポート14側と低圧ポート13側とにそれぞれ1箇所ずつ存在する各接触領域A,Bの円周方向に関する幅が、一方で拡大し他方で縮小することを抑制できる。この結果、ピストン9が焼き付き等によって損傷するのを確実に抑えることができ、油圧モータを長期に亘って円滑に作動させることができる。
【0043】
しかも、本実施の形態によれば、シリンダブロック5の中心穴6の内壁にリン酸マンガン皮膜等からなる馴染み層21を設けることにより、センタシャフト10が中心穴6の内壁にスティックするのを確実に防止することができる。従って、ばね15によってシリンダブロック5を弁板11に押し付けることにより、シリンダブロック5と弁板11との剥がれを確実に抑制することができ、油圧モータの信頼性を高めることができる。
【0044】
かくして、本実施の形態によれば、シリンダブロック5の中心穴6とセンタシャフト10との嵌合部に馴染み層21を設けることにより、中心穴6とセンタシャフト10との間の隙間を10μm以下にしているので、シリンダブロック5の回転中心軸αとセンタシャフト10の回転中心軸βとを、図2に示すようにほぼ一致させることができる。このため、図3に示すように、ピストン9がシリンダ穴7の内壁7Bと開口周縁部7Cとに接触する高圧ポート14側の接触領域Aと低圧ポート13側の接触領域Bとが互いに等しくなる理想的な駆動状態を得ることができ、ピストン9がシリンダ穴7の開口周縁部7C等に焼き付いて損傷するのを抑え、油圧モータを長期に亘って円滑に作動させることができる。しかも、馴染み層21によってシリンダブロック5の中心穴6とセンタシャフト10との隙間を10μm以下にしても、リン酸マンガン皮膜等からなる馴染み層21により、センタシャフト10の摺動性を高めることができ、センタシャフト10のスティックを確実に防止し、油圧モータの信頼性を高めることができる。
【0045】
さらに、本実施の形態によれば、化成皮膜処理によって馴染み層21を設ける構成としているので、溶射皮膜とは異なり、シリンダブロック5の中心穴6の形状や材料に囚われず、馴染み層21となるリン酸マンガン皮膜等を安定して形成することができる。しかも、シリンダブロック5に化成皮膜処理を行っているため、中心穴6に限らずシリンダ穴7の内周壁面にも潤滑性を有する皮膜を形成することができる。このため、センタシャフト10と中心穴6との間の摺接部に加えて、ピストン9とシリンダ穴7との間の摺接部も潤滑性を高めることができる。
【0046】
次に、図6は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、センタシャフトの外周面に馴染み層を設けたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0047】
図6において、31はシリンダブロック5の中心穴6とセンタシャフト10との嵌合部に設けられた馴染み層を示し、該馴染み層31は、第1の実施の形態による馴染み層21とは異なり、センタシャフト10の外面に形成されている。
【0048】
ここで馴染み層31は、センタシャフト10の外周面を含む外面全体に化成皮膜処理を施すことにより、リン酸マンガン皮膜等の皮膜として形成されている。なお、図6中の馴染み層31に関しても、その厚さを誇張して示している。そして、センタシャフト10の外面に馴染み層31を設けることにより、シリンダブロック5の中心穴6とセンタシャフト10との嵌合部に生じる隙間を10μm以下(例えば、1〜10μm程度の値)になるようにしている。
【0049】
本実施の形態による液圧回転機は、上述の如くセンタシャフト10の外面に馴染み層31を形成するもので、本実施の形態においても、上述した第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0050】
しかも、第2の実施の形態では、センタシャフト10の外面に馴染み層31を設けているため、該馴染み層31を設けるための皮膜処理に要する費用の低減を図れる。即ち、馴染み層31を設けるためには、この馴染み層31を設ける部材全体に皮膜処理を施すことが作業の簡略化の面からは好ましい。そして、この場合に、センタシャフト10はシリンダブロック5に比較して形状が小さく表面積も小さいため、馴染み層31に覆われる面積を小さくでき、皮膜処理に要する費用の低減を図れる。
【0051】
次に、図7は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、シリンダブロックの中心穴の開口周縁部に、シリンダブロックの端面から軸方向に突出する延長部を設けたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0052】
図7において、41は本実施の形態に用いるシリンダブロックを示し、該シリンダブロック41は、第1の実施の形態によるシリンダブロック5と同様に、厚肉な円筒状に形成され、図1に示すケーシング1内に回転可能に設けられるものである。ここで、シリンダブロック41には、その中心部にその回転中心軸αに沿って延びる中心穴42が形成されると共に、中心穴42を中心として周方向に一定の間隔をもって軸方向に延びる複数のシリンダ穴(図示せず)が形成されている。そして、シリンダブロック41のうち中心穴42の開口周縁部には、後述の延長部43が設けられている。
【0053】
43はシリンダブロック41のうち中心穴42の開口周縁部に設けられた延長部を示し、該延長部43は、シリンダブロック41の端面41Aから軸方向に突出する状態で形成されている。
【0054】
44はシリンダブロック41の中心穴42とセンタシャフト10との嵌合部に設けられた馴染み層で、該馴染み層44は、シリンダブロック41の中心穴42の内壁に、延長部43の内壁に対応する部分も含み、この中心穴42の軸方向全体に亘って形成されている。そして、馴染み層44により、中心穴42とセンタシャフト10との嵌合部に生じる隙間を10μm以下(例えば、1〜10μm程度の値)になるようにしている。
【0055】
本実施の形態による液圧回転機は、上述の如くシリンダブロック41の中心穴42の開口周縁部に、シリンダブロック41の端面41Aから軸方向に突出する延長部43を設けたもので、その基本的作用については、上述した第1の実施の形態によるものと格別差異はない。
【0056】
然るに、本実施の形態によれば、シリンダブロック41の中心穴42の開口周縁部に延長部43を設けているので、中心穴42の軸方向長さを確保して、中心穴42の内壁とセンタシャフト10との接触部位を延長することができる。このため、シリンダブロック41の回転中心軸αとセンタシャフト10の回転中心軸βとの傾斜角を小さくすることができるから、これら回転中心軸α,βを確実に一致させることができ、液圧回転機を一層円滑に作動させることができる。
【0057】
なお、前記各実施の形態では、液圧回転機として斜軸式で定容量型の油圧モータを用いた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば斜軸式で可変容量型の油圧モータに適用してもよい。さらには、斜軸式で定容量型または可変容量型の油圧ポンプに適用してもよい。この場合には、低圧ポートを吸入ポートとすると共に高圧ポートを吐出ポートとして用いる。
【0058】
また、前記各実施の形態では、ピストン9、センタシャフト10はそれぞれ一体的に形成するものとした。しかし、本発明はこれらに限らず、例えば特開平7−310644号公報に記載された液圧回転機と同様にコネクティングロッド部分とピストン部分とが別部材となった2ピースタイプのピストン、センタシャフトに適用してもよい。
【0059】
また、前記各実施の形態では、馴染み層を化成皮膜処理により形成するものとした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば馴染み層を溶射皮膜処理により形成する等、例えば摺動性を高められる皮膜を形成するための表面処理を施すことにより馴染み層を形成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ケーシング
5、41 シリンダブロック
6、42 中心穴
7 シリンダ穴
9 ピストン
10 センタシャフト
11 弁板
13 低圧ポート(給排ポート)
14 高圧ポート(給排ポート)
15 ばね
21、31、44 馴染み層
43 延長部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、該ケーシング内に回転可能に設けられ周方向に離間して軸方向に延びる複数のシリンダ穴が形成されたシリンダブロックと、該シリンダブロックの各シリンダ穴内に摺動可能に挿嵌され該シリンダブロックの回転に伴って各シリンダ穴内を往復動する複数のピストンと、前記シリンダブロックの回転軸中心に沿って形成された中心穴と、該シリンダブロックの中心穴に嵌合され該シリンダブロックのセンタリングを行うセンタシャフトと、前記ケーシングとシリンダブロックとの間に設けられ前記各シリンダ穴と連通する給排ポートが形成された弁板と、前記センタシャフトと前記シリンダブロックとの間に設けられ前記シリンダブロックを前記弁板に向けて付勢するばねとを備えた液圧回転機において、
前記シリンダブロックの中心穴と前記センタシャフトとの嵌合部に、この嵌合部の隙間を埋める馴染み層を設けたことを特徴とする液圧回転機。
【請求項2】
前記馴染み層を、前記シリンダブロックの中心穴の内周面と前記センタシャフトの外周面とのうちの少なくとも一方に設けることにより、該シリンダブロックの中心穴と前記センタシャフトとの嵌合部の隙間を10μm以下とした請求項1に記載の液圧回転機。
【請求項3】
前記馴染み層は、化成皮膜処理によって設ける構成としてなる請求項1または2に記載の液圧回転機。
【請求項4】
前記中心穴の開口周縁部には、前記シリンダブロックの端面から軸方向に突出する延長部を設けてなる請求項1,2または3に記載の液圧回転機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−163260(P2011−163260A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28760(P2010−28760)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】