液圧発生装置
【課題】電動モータの失陥時にも制動機能を維持できる液圧発生装置において、無効ストロークの管理を容易にする。
【解決手段】ブレーキペダル20のストロークに基づき、コントローラCにより電動モータ22の作動を制御して、ベルト伝動機構23及びボールねじ機構24を介してプライマリピストン7を推進してマスタシリンダ2でブレーキ液圧を発生させる。このとき、プライマリ室6Aのブレーキ液圧を小径のサブピストンによってブレーキペダル20にフィードバックすることにより、一定の倍力比を得る。電動モータ22の失陥時には、ブレーキペダル20により、入力ロッド21を介して、受圧面積の小さいサブピストン9を直接推進してブレーキ液圧を発生させる。サブピストン9は、プライマリピストン7に当接することにより、後退位置が規定される。
【解決手段】ブレーキペダル20のストロークに基づき、コントローラCにより電動モータ22の作動を制御して、ベルト伝動機構23及びボールねじ機構24を介してプライマリピストン7を推進してマスタシリンダ2でブレーキ液圧を発生させる。このとき、プライマリ室6Aのブレーキ液圧を小径のサブピストンによってブレーキペダル20にフィードバックすることにより、一定の倍力比を得る。電動モータ22の失陥時には、ブレーキペダル20により、入力ロッド21を介して、受圧面積の小さいサブピストン9を直接推進してブレーキ液圧を発生させる。サブピストン9は、プライマリピストン7に当接することにより、後退位置が規定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の液圧式ブレーキ装置に組込まれ、電動モータによって液圧の制御を行う液圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、自動車の液圧式ブレーキ装置において、運転者によるブレーキ操作等の入力に対して、電動モータを作動させてサーボ力を付与することにより、マスタシリンダで発生する液圧を制御する液圧発生装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−138909号公報
【0004】
上記特許文献1に記載された液圧発生装置は、ブレーキペダルに連結された主ピストン(受圧面積小)と、内周部に入力ピストンが嵌合されて外周部がマスタシリンダに嵌合する円筒状のブーストピストン(受圧面積大)と、ブーストピストンにボールねじ機構(回転−直動変換機構)を介して連結された電動モータとを備えている。そして、運転者のブレーキペダル等の操作に応じて、電動モータを作動させてブーストピストンに推力(サーボ力)を付与してマスタシリンダを加圧する。このとき、加圧されたマスタシリンダの液圧の一部を主ピストンを介してブレーキペダルにフィードバックすることにより、一定の倍力比を得ている。また、電気系統の故障等により、万一、電動モータが作動不能になった場合には、ブレーキペダルに連結された主ピストンの推進により、直接、マスタシリンダ内のブレーキ液を加圧することにより、制動機能を維持するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものでは、次のような問題がある。液圧発生装置の主ピストンの後退位置が、ブレーキペダル側で規定されることになっているため、主ピストンが非制動位置から移動してマスタシリンダのリザーバポートを閉じてブレーキ液圧が発生し始めるまでの、いわゆる、無効ストロークの管理が煩雑である。
【0006】
本発明は、無効ストロークの管理が容易となる液圧発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る液圧発生装置は、有低筒状のシリンダ本体と、前記シリンダ本体に摺動可能に配置され、前記シリンダ本体の底部に対向する対向面を有するピストンと、前記シリンダ本体にリザーバポートを介して接続されるリザーバと、ブレーキペダルの操作に基づいて作動して前記ピストンを前記シリンダ本体内で移動させるアクチュエータと、前記ピストンに摺動可能に配置されて該ピストンの対向面に当接するサブピストンと、前記ブレーキペダルと前記サブピストンとの間に介装されて前記ブレーキペダルの操作力によって前記サブピストンを移動させるための入力ロッドと、前記サブピストンを前記ピストンの対向面に付勢する付勢部材と、前記ピストン又は前記サブピストンが非制動位置から前進したとき、前記リザーバポートを遮断するポート開閉手段と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る液圧発生装置によれば、無効ストロークの管理を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す液圧発生装置の通常の倍力作動状態を示す縦断面図である。
【図3】図1に示す液圧発生装置の失陥時の作動状態を示す縦断面図である。
【図4】図1に示す液圧発生装置の入出力特性を示すグラフ図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る変形例1の液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦部分断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る変形例2の液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦部分断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦断面図である。
【図8】図7に示す液圧発生装置の失陥時の作動状態を示す縦断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦断面図である。
【図10】図9に示す液圧発生装置の通常の倍力作動状態を示す縦断面図である。
【図11】図9に示す液圧発生装置の失陥時の作動状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態について、図1乃至図4を参照して説明する。
本実施形態に係る液圧発生装置が組込まれた自動車のブレーキシステムの概略構成を図1に示す。図1に示すように、ブレーキシステム1は、ブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ2と、マスタシリンダ2に一体に結合されて当該マスタシリンダとともに液圧発生装置を構成する電動倍力装置3と、マスタシリンダ2に接続されてブレーキ液圧の供給によって各車輪に制動力を発生させる液圧式のホイールシリンダ4と、マスタシリンダ2と各ホイールシリンダ4との間に介装される液圧制御ユニット5と、電動倍力装置3及び液圧制御ユニット5の作動を制御するコントローラCとを備えている。
【0011】
マスタシリンダ2は、タンデム型であり、有低筒状に形成されたシリンダ本体2Aの内部のシリンダボア6内に、有底円筒状のプライマリピストン7(ピストン)及びセカンダリピストン8が直列に配置されて構成されている。シリンダボア6内において、プライマリピストン7とセカンダリピストン8との間にはプライマリ室6Aが形成され、セカンダリピストン8とシリンダ本体2Aの底部2Bとの間には、セカンダリ室6Bが形成されている。プラマリピストン7の円筒部7Aには、サブピストン9が摺動可能に挿入されている。サブピストン9は、前端部に円筒部9Aが形成され、後端部に小径円筒部9Bが形成された段付形状であり、円筒部9Aと小径円筒部9Bとの間に段部9Cが形成されている。上記小径円筒部9Bは、プライマリピストン7の底部を貫通する貫通孔7Bを通って後方に延びている。上記段部9Cは、プライマリピストン7に形成された、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面である内底面部7Cに当接する。
【0012】
シリンダ本体2Aの側壁の鉛直方向上部には、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bにそれぞれ連通するリザーバポート10、11が設けられている。これらのリザーバポート10、11には、ブレーキ液を貯留するリザーバ12が接続されている。シリンダボア6の内周部には、各リザーバポート10、11を挟むように一対のピストンシール13A、13B及び14A、14Bが装着されている。ピストンシール13A、13B及び14A、14Bは、シリンダボア6とプライマリ及びセカンダリピストン7、8との間をシールしている。プライマリ及びセカンダリピストン7、8のそれぞれの円筒部7A、8Aには、その径方向に貫通するピストンポート15、16が形成されている。プライマリピストン7の内周部には、ピストンポート15を挟むように一対のピストンシール17A、17Bが装着されて、サブピストン9との間をシールしている。サブピストン9の円筒部9Aには、その径方向に沿って貫通するピストンポート18が形成されている。プライマリ室6A内には、一端がセカンダリピストン8に当接し、他端がサブピストン9に当接する付勢部材となる圧縮コイルバネである戻しバネ19Aが配置されている。戻しバネ19Aは、そのバネ力により、プライマリピストン7及びサブピストン9を、図1に示す非制動位置となるように付勢しており、サブピストン9の段部9Cをプライマリピストン7の内底面部7Cに当接させている。また、セカンダリ室6Bには、一端がシリンダ本体2Aの底部2Bに当接し、他端がセカンダリピストン8に当接する戻しバネ19Bが配置されている。戻しバネ19Bは、そのバネ力により、セカンダリピストン8を、図1に示す非制動位置となるように付勢している。ここで、ピストンシール13A17A及びピストンポート15、18は、プライマリピストン7やサブピストン9が非制動位置から前進したときにリザーバポート10、11を遮断する、本実施形態におけるポート開閉手段を構成している。
【0013】
そして、プライマリ及びセカンダリピストン7、8並びにサブピストン9が図1に示す非制動位置にあるとき、プライマリピストン7のピストンポート15は一対のピストンシール13A、13Bの間に配置され、また、サブピストン9のピストンポート18は一対のピストンシール17A、17Bの間に配置される。このことにより、リザーバ12とプライマリ室6Aとがリザーバポート10及びピストンポート15、18を介して連通されている。また、セカンダリピストン8のピストンポート16は一対のピストンシール14A、14Bの間に配置されている。このことにより、リザーバ12とセカンダリ室6Bとがリザーバポート11及びピストンポート16を介して連通される。したがって、ブレーキパッドの摩耗等に応じてリザーバ12からプライマリ室6A及びセカンダリ室6Bを介して各ホイールシリンダ4に適宜ブレーキ液が補充される。
【0014】
図2に示すように、プライマリ及びセカンダリピストン7、8が前進して、ピストンポート15、16がそれぞれピストンシール13A、14Aを越えて移動すると、リザーバポート10、11とピストンポート15、16との間が、それぞれピストンシール13A、14Aによって遮断される。これにより、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bは、リザーバ12から遮断されて、プライマリ及びセカンダリピストン7、8の前進に応じて、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bが加圧される。
【0015】
また、図3に示すように、プライマリピストン7が非制動位置にあり、サブピストン9のみが前進して、サブピストン9のピストンポート18が一方のピストンシール17Aを越えて移動すると、プライマリピストン7及びサブピストン9のピストンポート15、18間がピストンシール17Aによって遮断される。これにより、プライマリ室6Aがリザーバ12から遮断されて、サブピストン9の前進に応じて、プライマリ室6Aが加圧される。
【0016】
プライマリ室6A、セカンダリ室6Bは、それぞれ液圧ポート2C、2Dから同じブレーキ液圧を液圧ユニット5の2系統の液圧回路を介して各車輪のホイールシリンダ4に供給する。これにより、万一、2系統の液圧回路の一方が失陥した場合でも、他方に液圧が供給されるので、制動機能を維持することができる。
【0017】
ホイールシリンダ4は、各車輪に装着されてブレーキ液圧の供給によって制動力を発生する制動装置であり、例えば公知のディスクブレーキ又はドラムブレーキとすることができる。
【0018】
液圧制御ユニット5は、マスタシリンダ2の2つの液圧ポート8A、8Bに接続される2系統の液圧回路からなり、液圧回路は、液圧源である電動ポンプ、アキュムレータ、液圧センサ、及び、増圧弁、減圧弁等の電磁制御弁を備えている。そして、コントローラCにより各車輪のホイールシリンダ4に供給する液圧を減圧する減圧モード、保持する保持モード及び増圧する増圧モードを適宜実行して以下の制御を行う。
(1)各車輪の制動力を制御することにより、制動時に接地荷重等に応じて各車輪に適切に制動力を配分する制動力配分制御。
(2)制動時に各車輪の制動力を自動的に調整して車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御。
(3)走行中の車輪の横滑りを検知して各車輪に適宜自動的に制動力を付与することにより、アンダーステア及びオーバステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定性制御。
(4)坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御。
(5)発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御。
(6)先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御。
(7)障害物との衝突を回避する障害物回避制御。
【0019】
電動倍力装置3は、ブレーキペダル20に連結される入力ロッド21と、マスタシリンダ2のピストン7を移動させるためのアクチュエータである電動モータ22と、減速機構を兼ねたベルト伝動機構23と、電動モータ22によってベルト伝動機構23を介して駆動される回転−直動変換機構であるボールねじ機構24と、これらが組込まれてマスタシリンダ2に結合されるハウジング25とを備えている。ここで、本実施形態においては、マスタシリンダ2のピストン7を移動させるためのアクチュエータを、電動モータ22、ベルト伝動機構23及びボールねじ機構24により構成している。上記アクチュエータは、このような電動モータ22によりピストン7を推進するものの他、液圧ポンプを用いたものやエンジン負圧によりピストン7を推進するものとしてもよい。
【0020】
ボールねじ機構24は、プライマリピストン7と同軸上に配置された円筒状の直動部材26と、直動部材26が挿入された円筒状の回転部材27と、これらの間に形成された螺旋状のネジ溝28に装填された複数の転動体であるボール29(鋼球)とを備えている。直動部材26は、筒状に形成され、ハウジング25内で軸方向に沿って移動可能、かつ、軸回りに回転しないように支持されている。回転部材27は、ハウジング25内でベアリング30によって軸回りに回転可能かつ軸方向に移動しないように支持されている。そして、回転部材27を回転させることにより、ネジ溝28内をボール29が転動して直動部材26が軸方向に移動する。
【0021】
直動部材26は、前端部26Aがプライマリピストン7の後端部7Dに当接し、その内孔26B内にプライマリピストン7の後端部から後方に延出されたサブピストン9の小径円筒部9Bが配置されている。ハウジング25に結合されたシリンダ本体2Aの後端部と、直動部材26の前面部26Cとの間に戻しバネ31が介装されている。戻しバネ31は、直動部材26をブレーキペダル20側、すなわち、図1に示す非制動位置へ常時付勢している。直動部材26の後端部26Dは、ハウジング25に設けられた規制部25Bにより軸方向移動の機械的後退端が規定されているとともに、回転が規制されるようになっている。
【0022】
回転部材27の後端部側の外周部には、プーリ32が取付けられている。このプーリ32と、ハウジング25の外側側面部に固定された電動モータ22の出力軸に取付けられたプーリ33との間にベルト34が巻装されている。これらにより、ベルト伝動機構23が構成され、電動モータ22によって回転部材27が所定の減速比で回転駆動される。なお、ベルト伝動機構23の代りに、歯車伝動機構、チェーン伝動機構等の他の公知の伝動機構を用いることができ、あるいは、伝達機構を介さずに電動モータ22によって回転部材23を直接駆動するようにしてもよい。また、ベルト伝動機構23に、歯車減速機構等の減速機構を組み合わせて設けて減速比を調整するようにしてもよい。さらに、ベルト伝動機構23に、歯車減速機構等の減速機構を併設して設け、この減速機構をベルト34が切断した際のバックアップとして用いてもよい。
【0023】
電動モータ22は、例えば公知のDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等とすることができるが、制御性、静粛性、耐久性等の観点から本実施形態ではDCブラシレスモータを採用している。
【0024】
入力ロッド21は、直動部材26に挿通されて、一端部がサブピストン9の小径円筒部9Bに当接し、他端部がブレーキペダル20に連結されるようになっている。入力ロッド21は、その他端部に取付けられたバネ受35とハウジング25の後端部との間に介装された圧縮コイルバネであるシミュレータバネ36により、図1に示す非制動位置へ付勢されている。電動倍力装置3は、車体前部のエンジンルーム内に配置され、ハウジング25がダッシュパネルDに固定され、直動部材26の後端部と共に入力ロッド21がダッシュパネルDを貫通して車室内に延ばされてブレーキペダル20に連結されている。
【0025】
電動倍力装置3には、ブレーキペダル20の操作量を検出するストロークセンサ37、電動モータ22の回転角(モータ回転位置)を検出する回転位置センサ(図示せず)、電動モータ22に流れる電流(モータ電流)を計測する電流センサ(図示せず)及びマスタシリンダ2のブレーキ液圧を検出する液圧センサを含む各種センサが接続される。コントローラCは、上述の各種センサの検出に基づき、車両電源からの電力供給を受けて電動モータ22を制御する。ストロークセンサ37は、ブレーキペダル20や入力ロッド21の直動、若しくは、ブレーキペダル20の回動を検出するセンサとすることができ、ポテンショメータやエンコーダ等のセンサを用いることができる。モータ回転位置を検出する回転位置センサは、レゾルバ、エンコーダ等を使用することができる。また、液圧センサは、必ずしも液圧制御ユニット5に設けられている必要はなく、マスタシリンダ2のプライマリ室6A、セカンダリ室6Bのいずれか一方に設けるようにしてもよい。
【0026】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
コントローラCは、車両のイグニッションオンやイグニッションオフ状態でのブレーキペダル20の操作、車両CANからの起動信号等により、システムオン状態となり、上記センサ類の原点調整等を行った後、電動モータを駆動して直動部材25を若干前進させてプライマリピストン7及びサブピストン9を入力ロッド21から離間させた待機位置に保持する。
【0027】
そして、車両電源、コントローラCや電動モータ22が失陥していない通常の制動時には、運転者により、ブレーキペダル20が操作されると、コントローラCには、その操作量をストロークセンサ37によって検出し、ブレーキペダル20の操作量に基づき、回転位置センサ、電流センサ及び液圧センサの検出に応じて電動モータ22を制御する。すなわち、電動モータ22によってベルト伝動機構23を介してボールねじ機構24を駆動し、戻しバネ31のバネ力に抗して待機位置にある直動部材26を前進させて、プライマリピストン7を押圧する。これにより、プライマリ及びセカンダリピストン7、8が戻しバネ19A、19Bのバネ力に抗して前進し、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bをリザーバ12から遮断して加圧し、ブレーキ液圧を発生させ、液圧制御ユニット5を介して各車輪のホイールシリンダ4に供給して制動力を発生させる。
【0028】
このとき、入力ロッド21は、プライマリピストン7及びサブピストン9と離間状態を保って移動することになり、ブレーキペダル20にフィードバックされる反力は、シミュレータバネ36により生じることになる。すなわち、電動モータ22は、ブレーキバイワイヤ制御されることになる。このようなブレーキバイワイヤ制御により、ブレーキペダル20の操作に対する発生液圧値を可変にすることができ、種々のブレーキ特性を得ることが可能となる。
【0029】
万一、電動モータ22、コントローラCあるいはボールねじ機構16等の故障により、電動モータ22による制御が不可能になった場合、いわゆる失陥状態となった場合には、運転者がブレーキペダル20を操作しても、電動モータ22が作動せず、ボールねじ機構24の直動部材26が前進しない。この場合、直動部材25は待機位置ではなく、図3に示すように、ブレーキペダル20の操作力が入力ロッド21を介して伝達されてサブピストン9のみが前進することになる。サブピストン9の前進により、ピストンポート15、18間が一対のピストンシール17Aによって遮断されてプライマリ室6Aが加圧される。また、プライマリ室6Aの加圧により、セカンダリピストン8が前進し、リザーバポート11とピストンポート16との間が一対のピストンシール13A、13Bによって遮断されてセカンダリ室6Bが加圧される。このようにして、本実施形態の液圧発生装置は、ブレーキペダル20の操作力によって、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bを直接加圧することができる、これにより、ブレーキ液圧を発生させて各車輪のホイールシリンダ4に供給することができ、電気系統などが故障した失陥時でも制動機能を維持することができる。このとき、受圧面積の小さいサブピストン9によってプライマリ室6Aを加圧するので、ブレーキペダル20の操作力を軽減することができ、失陥時における運転者の負担を軽減することができる。
【0030】
ここで、本実施形態におけるマスタシリンダ2と電動倍力装置3とを備えた液圧発生装置のブレーキペダル20の踏力FとストロークSとマスタシリンダ2のブレーキ液圧Pとの関係を図4に示す。図4において、実線(A)は、本実施形態における通常の制動時の特性を表している。また、点線(B)は、本実施形態において電動モータ22による駆動力を付与せず、ブレーキペダル20によって直接、プライマリピストン7を推進した場合の特性を表している。そして、破線(C)は、失陥時にプライマリピストン7をブレーキペダル20によって直接、推進した場合の特性を表しており、点線(B)の特性との比較のために図示しているものである。図4に示されるように、電動モータ22等が作動不能になって直動部材25が推進されない失陥時に、点線(C)の特性に示されるように受圧面積の小さいサブピストン9を用いてブレーキ液圧を発生させることにより、破線(C)のように、直接、プライマリピストン7を推進する場合に比して、ブレーキペダル20の踏力Fを大幅に軽減することができる。ちなみに、本実施形態の液圧発生装置においては、失陥時に、通常時と同様の液圧を発生させようとすると、ブレーキペダル20の操作ストロークは、増大することになる。
【0031】
本実施形態では、サブピストン9の後退位置すなわち非制動位置は、サブピストン9の段部9Cがプライマリピストン7の内底面部7Cに当接して規定される。すなわち、プラマリピストン7によって規定され、プライマリピストン7の後退位置は、その後端部がボールねじ機構24の直動部材26に当接することにより規定される。したがって、サブピストン9が非制動位置から前進して、プライマリ室6Aをリザーバ12から遮断してブレーキ液圧が発生するまでの無効ストロークをブレーキペダル20の位置によらず、電動倍力装置3、すなわち液圧発生装置の内部で規定することができる。その結果、無効ストロークの管理を容易に行うことができる。
【0032】
また、本実施形態では、付勢部材である戻しバネ19Aが、プライマリピストン7及びサブピストン9を同時に付勢しており、サブピストン9の段部9Cをプライマリピストン7の内底面部7Cに当接させている。このように、本実施形態においては、プライマリピストン7用の戻しばねとサブピストン9用の戻しばねとを別個に設ける必要がなく、構造が簡易になり、液圧発生装置の製造効率が向上する。
【0033】
なお、上実施形態において、通常の制動時に、入力ロッド21とサブピストン9との間に隙間を設けてバイワイヤ制御するようにしているが、これに限らず、通常の制動時に、入力ロッド21とサブピストン9と当接状態にしてプライマリ室6Aのブレーキ液圧を入力ロッド21を介してブレーキペダル20に伝達するようにしてもよい。この場合、コントローラCは、ブレーキペダル20の操作量に対して直動部材25のストロークを少なく制御(遅れ制御)して、サブピストン9の段部9Cとプライマリピストン7の内底面部7Cとが離間するように制御することで、ブレーキペダル20に液圧反力が作用し続けることになる。また、この場合、プライマリピストン7(受圧面積大)と入力ピストン9(受圧面積小)の受圧面積比が倍力比となる。さらに、この場合、シミュレータバネ36は、単なる戻しばねとして作用する。
【0034】
ここで、上記第1実施形態においては、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面として、プライマリピストン7の内底面部7Cを、その径方向に沿って、すなわち、シリンダ本体2Aの軸線に対して直角を成すように形成している。しかし、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面として、図5の部分断面図に示す変形例1のように、シリンダ本体2Aの軸線に対して斜めに交わるテーパ面、立体的には截頭円錐面で、プライマリピストン7’の内底面部7C’を形成するようにしてもよい。この場合、サブピストン9’の段部9C’もテーパ面、立体的には截頭円錐面で形成されることになる。このように、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面は、シリンダボア6の底面と平行となる面ではなく、シリンダボア6の底面、すなわち、シリンダ本体2Aの底部2B側に面するような面で形成すればよい。
【0035】
また、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面は、プライマリピストン7の内底面側だけでなく、図6の部分断面図に示す変形例2のように、プライマリピストン7”の先端面7C”に形成するようにしてもよい。
【0036】
次に、本発明の第2実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0037】
図7に示すように、本実施形態に係るブレーキシステム101の液圧発生装置40では、サブピストン49は、より小径化されて受圧面積が小さくなっており、段部を省略して後部の円筒部49Bの端部49Cがプライマリピストン47の内底面部47C(対向面)に当接するようになっている。また、他のピストンとなるセカンダリピストン48の後端部には、サブピストン9に対向して、サブピストン49の円筒部49Aの前部を収容可能な凹部41が形成されている。
【0038】
これにより、図8に示すように、失陥時には、サブピストン49をより小径化し受圧面積を小さくしたことにより、プライマリ室6Aのブレーキ液圧によってブレーキペダル20に作用する反力を小さくして運転者の負担を軽減することができる。このとき、受圧面積を小さくした分だけサブピストン49のストロークを大きくする必要があるが、前進したサブピストン49の前端部がセカンダリピストン48の凹部41に挿入されていくので、サブピストン49を充分にストロークさせることができる。
【0039】
次に、本発明の第3実施形態について、図9乃至図11を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0040】
図9に示すように、本実施形態に係るブレーキシステム201の液圧発生装置50では、サブピストン69のピストンポート18及びプライマリピストン67に装着される一方のピストンシール17Aが省略されて、プライマリピストン67のピストンポート15の内側は、プライマリ室6Aに常時連通している。そして、サブピストン69と入力ロッド21との間及びプライマリピストン67と直動部材66との間に、プライマリピストン67やサブピストン69が非制動位置から前進したときに、リザーバポート10遮断するためのポート開閉手段としてポート開閉機構51が設けられている。
【0041】
ポート開閉機構51について次に説明する。
直動部材66は、案内ボア52を有する略有底円筒状に形成され、案内ボア52内に、筒状の押圧部材53が軸方向に沿って移動可能に挿入されている。押圧部材53は、一端部がプライマリピストン67の後端部に当接する。押圧部材53の他端の開口部には、大径部54が形成され、大径部54の端部は、押圧部材53の中心軸線に対して所定の角度で傾斜するテーパ部55が形成されている。押圧部材53の大径部54内には、直動部材66の底部の内側に形成された円筒部56が摺動可能に挿入されて円筒部56の先端部がテーパ部55に当接するようになっている。押圧部材53の内径と直動部材66の円筒部56の内径とは略同径に形成されており、押圧部材53と直動部材66とは相対移動可能になっている。
【0042】
サブピストン69と入力ロッド21との間には、それぞれが小径部57A、58A及び円筒状の大径部57B、58Bを有する段付形状の第1入力部材57及び第2入力部材58が介装されている。第2入力部材58の肩部、すなわち、小径部58Aと大径部58Bとの間には、第2入力部材58の中心軸線に対して所定角度で傾斜するテーパ状肩部58Cが形成されている。第1入力部材57は、先端の小径部57Aがサブピストン69の後部の円筒部69Bに挿入され、大径部57Bが押圧部材53内に軸方向に沿って摺動可能に案内されている。第2入力部材58は、先端の小径部58Aが第1入力部材57の円筒状の大径部57B内に軸方向に沿って摺動可能に挿入され、第1入力部材57と相対移動可能になっている。第2入力部材58の円筒状の大径部58B内には、入力ロッド21の先端部が挿入されている。第1入力部材57の後端部57Dと第2入力部材58のテーパ状肩部58Cとの間には、ボール溝59が形成され、このボール溝59には、直動部材66の円筒部56の内周面との間に複数のボール60(鋼球)が装填されている。第1入力部材57の大径部57Bの底部と、大径部57B内に挿入された第2入力部材58の小径部58Aの先端部との間に圧縮コイルバネである戻しバネ61が介装されている。
【0043】
このように構成したことにより、非制動時には、図9に示すように、サブピストン69は、段部69Cがプライマリピストン67の底部に当接して、プライマリピストン67に対して最も後退した位置にあり、ボール60は、直動部材66の円筒部56の内周面によって径方向に拘束されてボール溝59内で保持されている。このとき、プライマリ室6Aは、リザーバポート10及びピストンポート15を介してリザーバ12に連通し、セカンダリ室6Bは、リザーバポート11及びピストンポート16を介してリザーバ12に連通している。これにより、ブレーキパッドの摩耗等に応じてリザーバ12からプライマリ室6A及びセカンダリ室6Bを介して各ホイールシリンダ4に適宜ブレーキ液が補充される。
【0044】
通常の制動時には、図10に示すように、運転者によるブレーキペダル20の操作量に応じてコントローラCにより電動モータ22の作動を制御し、ボールねじ機構24の直動部材66を前進させて、押圧部材53を介して、プライマリピストン67を押圧する。これにより、プライマリ及びセカンダリピストン67、8が戻しバネ19A、19Bのバネ力に抗して前進し、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bをリザーバポート10、11から遮断して加圧し、ブレーキ液圧を発生させる。
【0045】
このとき、ポート開閉機構51では、ブレーキペダル20の操作により入力ロッド21と共に移動する第1及び第2入力部材57、58に対して、直動部材26の円筒部56が追従して移動する、このため、ボール60は、円筒部56によって径方向に拘束されてボール溝59内で保持されるようになっている。
【0046】
万一、故障により、電動モータ22による制御が不可能になるような失陥時の場合、運転者がブレーキペダル20を操作しても、電動モータ22が作動せず、ボールねじ機構24の直動部材66が前進しない。この場合、図11に示すように、直動部材66に対して第1及び第2入力部材57、58が前進する。そして、ボール溝59に装填されたボール60は、第1及び第2入力部材57、58と共に移動して、直動部材26の円筒部56の先端部に達すると、第2入力部材58のテーパ状肩部58Cによって径方向外側に押出される。このとき、ボール60は、押圧部材53のテーパ面59を押圧するため、押圧部材53を前進させる。これにより、押圧部材53は、プライマリピストン67を一定距離だけ前進させて、リザーバポート10とピストンポート15との間をピストンシール13Aによって遮断する。その後、ボール60は、第2入力部材58の大径部58Bの外周面によって径方向に拘束されてプライマリピストン67の位置を保持する。第2入力部材のテーパ状肩部58Cは、ボール60をボール溝59から押出した後、第1入力部材57の大径部57Bの端部に当接し、第1入力部材57を押圧する。これにより、サブピストン69が前進してプライマリ室6Aを加圧して、ブレーキ液圧を発生させて制動機能を維持する。
【0047】
ブレーキペダル20の操作を解除すると、入力ロッド21と共に第1及び第2入力部材57、58が図9に示す非制動位置まで後退する際、ボール60が押圧部材53のテーパ部59に押圧されてボール溝59内に押込まれ、非制動時に位置に戻るようになっている。
【0048】
このようにして、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0049】
2…マスタシリンダ、3…電動倍力装置(液圧発生装置)、7、7’、7”、47、67…プライマリピストン(ピストン)、7C、7C’、47C、67C…内底面部(対向面)、7C”…先端面(対向面)、9、9’、9”、49、69…サブピストン、10、11…リザーバポート、12…リザーバ、13A、13B、14A、14B、17A、17B…ピストンシール(ポート開閉手段)、19A、19B…戻しバネ(付勢部材)、20…ブレーキペダル、21…入力ロッド、22…電動モータ(アクチュエータ)、23…ベルト伝動機構(アクチュエータ)、24…ボールねじ機構(アクチュエータ)、41…凹部、48…セカンダリピストン(他のピストン)、
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の液圧式ブレーキ装置に組込まれ、電動モータによって液圧の制御を行う液圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、自動車の液圧式ブレーキ装置において、運転者によるブレーキ操作等の入力に対して、電動モータを作動させてサーボ力を付与することにより、マスタシリンダで発生する液圧を制御する液圧発生装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−138909号公報
【0004】
上記特許文献1に記載された液圧発生装置は、ブレーキペダルに連結された主ピストン(受圧面積小)と、内周部に入力ピストンが嵌合されて外周部がマスタシリンダに嵌合する円筒状のブーストピストン(受圧面積大)と、ブーストピストンにボールねじ機構(回転−直動変換機構)を介して連結された電動モータとを備えている。そして、運転者のブレーキペダル等の操作に応じて、電動モータを作動させてブーストピストンに推力(サーボ力)を付与してマスタシリンダを加圧する。このとき、加圧されたマスタシリンダの液圧の一部を主ピストンを介してブレーキペダルにフィードバックすることにより、一定の倍力比を得ている。また、電気系統の故障等により、万一、電動モータが作動不能になった場合には、ブレーキペダルに連結された主ピストンの推進により、直接、マスタシリンダ内のブレーキ液を加圧することにより、制動機能を維持するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたものでは、次のような問題がある。液圧発生装置の主ピストンの後退位置が、ブレーキペダル側で規定されることになっているため、主ピストンが非制動位置から移動してマスタシリンダのリザーバポートを閉じてブレーキ液圧が発生し始めるまでの、いわゆる、無効ストロークの管理が煩雑である。
【0006】
本発明は、無効ストロークの管理が容易となる液圧発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係る液圧発生装置は、有低筒状のシリンダ本体と、前記シリンダ本体に摺動可能に配置され、前記シリンダ本体の底部に対向する対向面を有するピストンと、前記シリンダ本体にリザーバポートを介して接続されるリザーバと、ブレーキペダルの操作に基づいて作動して前記ピストンを前記シリンダ本体内で移動させるアクチュエータと、前記ピストンに摺動可能に配置されて該ピストンの対向面に当接するサブピストンと、前記ブレーキペダルと前記サブピストンとの間に介装されて前記ブレーキペダルの操作力によって前記サブピストンを移動させるための入力ロッドと、前記サブピストンを前記ピストンの対向面に付勢する付勢部材と、前記ピストン又は前記サブピストンが非制動位置から前進したとき、前記リザーバポートを遮断するポート開閉手段と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る液圧発生装置によれば、無効ストロークの管理を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す液圧発生装置の通常の倍力作動状態を示す縦断面図である。
【図3】図1に示す液圧発生装置の失陥時の作動状態を示す縦断面図である。
【図4】図1に示す液圧発生装置の入出力特性を示すグラフ図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る変形例1の液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦部分断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る変形例2の液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦部分断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦断面図である。
【図8】図7に示す液圧発生装置の失陥時の作動状態を示す縦断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態に係る液圧発生装置の非制動状態における概略構成を示す縦断面図である。
【図10】図9に示す液圧発生装置の通常の倍力作動状態を示す縦断面図である。
【図11】図9に示す液圧発生装置の失陥時の作動状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1実施形態について、図1乃至図4を参照して説明する。
本実施形態に係る液圧発生装置が組込まれた自動車のブレーキシステムの概略構成を図1に示す。図1に示すように、ブレーキシステム1は、ブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダ2と、マスタシリンダ2に一体に結合されて当該マスタシリンダとともに液圧発生装置を構成する電動倍力装置3と、マスタシリンダ2に接続されてブレーキ液圧の供給によって各車輪に制動力を発生させる液圧式のホイールシリンダ4と、マスタシリンダ2と各ホイールシリンダ4との間に介装される液圧制御ユニット5と、電動倍力装置3及び液圧制御ユニット5の作動を制御するコントローラCとを備えている。
【0011】
マスタシリンダ2は、タンデム型であり、有低筒状に形成されたシリンダ本体2Aの内部のシリンダボア6内に、有底円筒状のプライマリピストン7(ピストン)及びセカンダリピストン8が直列に配置されて構成されている。シリンダボア6内において、プライマリピストン7とセカンダリピストン8との間にはプライマリ室6Aが形成され、セカンダリピストン8とシリンダ本体2Aの底部2Bとの間には、セカンダリ室6Bが形成されている。プラマリピストン7の円筒部7Aには、サブピストン9が摺動可能に挿入されている。サブピストン9は、前端部に円筒部9Aが形成され、後端部に小径円筒部9Bが形成された段付形状であり、円筒部9Aと小径円筒部9Bとの間に段部9Cが形成されている。上記小径円筒部9Bは、プライマリピストン7の底部を貫通する貫通孔7Bを通って後方に延びている。上記段部9Cは、プライマリピストン7に形成された、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面である内底面部7Cに当接する。
【0012】
シリンダ本体2Aの側壁の鉛直方向上部には、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bにそれぞれ連通するリザーバポート10、11が設けられている。これらのリザーバポート10、11には、ブレーキ液を貯留するリザーバ12が接続されている。シリンダボア6の内周部には、各リザーバポート10、11を挟むように一対のピストンシール13A、13B及び14A、14Bが装着されている。ピストンシール13A、13B及び14A、14Bは、シリンダボア6とプライマリ及びセカンダリピストン7、8との間をシールしている。プライマリ及びセカンダリピストン7、8のそれぞれの円筒部7A、8Aには、その径方向に貫通するピストンポート15、16が形成されている。プライマリピストン7の内周部には、ピストンポート15を挟むように一対のピストンシール17A、17Bが装着されて、サブピストン9との間をシールしている。サブピストン9の円筒部9Aには、その径方向に沿って貫通するピストンポート18が形成されている。プライマリ室6A内には、一端がセカンダリピストン8に当接し、他端がサブピストン9に当接する付勢部材となる圧縮コイルバネである戻しバネ19Aが配置されている。戻しバネ19Aは、そのバネ力により、プライマリピストン7及びサブピストン9を、図1に示す非制動位置となるように付勢しており、サブピストン9の段部9Cをプライマリピストン7の内底面部7Cに当接させている。また、セカンダリ室6Bには、一端がシリンダ本体2Aの底部2Bに当接し、他端がセカンダリピストン8に当接する戻しバネ19Bが配置されている。戻しバネ19Bは、そのバネ力により、セカンダリピストン8を、図1に示す非制動位置となるように付勢している。ここで、ピストンシール13A17A及びピストンポート15、18は、プライマリピストン7やサブピストン9が非制動位置から前進したときにリザーバポート10、11を遮断する、本実施形態におけるポート開閉手段を構成している。
【0013】
そして、プライマリ及びセカンダリピストン7、8並びにサブピストン9が図1に示す非制動位置にあるとき、プライマリピストン7のピストンポート15は一対のピストンシール13A、13Bの間に配置され、また、サブピストン9のピストンポート18は一対のピストンシール17A、17Bの間に配置される。このことにより、リザーバ12とプライマリ室6Aとがリザーバポート10及びピストンポート15、18を介して連通されている。また、セカンダリピストン8のピストンポート16は一対のピストンシール14A、14Bの間に配置されている。このことにより、リザーバ12とセカンダリ室6Bとがリザーバポート11及びピストンポート16を介して連通される。したがって、ブレーキパッドの摩耗等に応じてリザーバ12からプライマリ室6A及びセカンダリ室6Bを介して各ホイールシリンダ4に適宜ブレーキ液が補充される。
【0014】
図2に示すように、プライマリ及びセカンダリピストン7、8が前進して、ピストンポート15、16がそれぞれピストンシール13A、14Aを越えて移動すると、リザーバポート10、11とピストンポート15、16との間が、それぞれピストンシール13A、14Aによって遮断される。これにより、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bは、リザーバ12から遮断されて、プライマリ及びセカンダリピストン7、8の前進に応じて、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bが加圧される。
【0015】
また、図3に示すように、プライマリピストン7が非制動位置にあり、サブピストン9のみが前進して、サブピストン9のピストンポート18が一方のピストンシール17Aを越えて移動すると、プライマリピストン7及びサブピストン9のピストンポート15、18間がピストンシール17Aによって遮断される。これにより、プライマリ室6Aがリザーバ12から遮断されて、サブピストン9の前進に応じて、プライマリ室6Aが加圧される。
【0016】
プライマリ室6A、セカンダリ室6Bは、それぞれ液圧ポート2C、2Dから同じブレーキ液圧を液圧ユニット5の2系統の液圧回路を介して各車輪のホイールシリンダ4に供給する。これにより、万一、2系統の液圧回路の一方が失陥した場合でも、他方に液圧が供給されるので、制動機能を維持することができる。
【0017】
ホイールシリンダ4は、各車輪に装着されてブレーキ液圧の供給によって制動力を発生する制動装置であり、例えば公知のディスクブレーキ又はドラムブレーキとすることができる。
【0018】
液圧制御ユニット5は、マスタシリンダ2の2つの液圧ポート8A、8Bに接続される2系統の液圧回路からなり、液圧回路は、液圧源である電動ポンプ、アキュムレータ、液圧センサ、及び、増圧弁、減圧弁等の電磁制御弁を備えている。そして、コントローラCにより各車輪のホイールシリンダ4に供給する液圧を減圧する減圧モード、保持する保持モード及び増圧する増圧モードを適宜実行して以下の制御を行う。
(1)各車輪の制動力を制御することにより、制動時に接地荷重等に応じて各車輪に適切に制動力を配分する制動力配分制御。
(2)制動時に各車輪の制動力を自動的に調整して車輪のロックを防止するアンチロックブレーキ制御。
(3)走行中の車輪の横滑りを検知して各車輪に適宜自動的に制動力を付与することにより、アンダーステア及びオーバステアを抑制して車両の挙動を安定させる車両安定性制御。
(4)坂道(特に上り坂)において制動状態を保持して発進を補助する坂道発進補助制御。
(5)発進時等において車輪の空転を防止するトラクション制御。
(6)先行車両に対して一定の車間を保持する車両追従制御、走行車線を保持する車線逸脱回避制御。
(7)障害物との衝突を回避する障害物回避制御。
【0019】
電動倍力装置3は、ブレーキペダル20に連結される入力ロッド21と、マスタシリンダ2のピストン7を移動させるためのアクチュエータである電動モータ22と、減速機構を兼ねたベルト伝動機構23と、電動モータ22によってベルト伝動機構23を介して駆動される回転−直動変換機構であるボールねじ機構24と、これらが組込まれてマスタシリンダ2に結合されるハウジング25とを備えている。ここで、本実施形態においては、マスタシリンダ2のピストン7を移動させるためのアクチュエータを、電動モータ22、ベルト伝動機構23及びボールねじ機構24により構成している。上記アクチュエータは、このような電動モータ22によりピストン7を推進するものの他、液圧ポンプを用いたものやエンジン負圧によりピストン7を推進するものとしてもよい。
【0020】
ボールねじ機構24は、プライマリピストン7と同軸上に配置された円筒状の直動部材26と、直動部材26が挿入された円筒状の回転部材27と、これらの間に形成された螺旋状のネジ溝28に装填された複数の転動体であるボール29(鋼球)とを備えている。直動部材26は、筒状に形成され、ハウジング25内で軸方向に沿って移動可能、かつ、軸回りに回転しないように支持されている。回転部材27は、ハウジング25内でベアリング30によって軸回りに回転可能かつ軸方向に移動しないように支持されている。そして、回転部材27を回転させることにより、ネジ溝28内をボール29が転動して直動部材26が軸方向に移動する。
【0021】
直動部材26は、前端部26Aがプライマリピストン7の後端部7Dに当接し、その内孔26B内にプライマリピストン7の後端部から後方に延出されたサブピストン9の小径円筒部9Bが配置されている。ハウジング25に結合されたシリンダ本体2Aの後端部と、直動部材26の前面部26Cとの間に戻しバネ31が介装されている。戻しバネ31は、直動部材26をブレーキペダル20側、すなわち、図1に示す非制動位置へ常時付勢している。直動部材26の後端部26Dは、ハウジング25に設けられた規制部25Bにより軸方向移動の機械的後退端が規定されているとともに、回転が規制されるようになっている。
【0022】
回転部材27の後端部側の外周部には、プーリ32が取付けられている。このプーリ32と、ハウジング25の外側側面部に固定された電動モータ22の出力軸に取付けられたプーリ33との間にベルト34が巻装されている。これらにより、ベルト伝動機構23が構成され、電動モータ22によって回転部材27が所定の減速比で回転駆動される。なお、ベルト伝動機構23の代りに、歯車伝動機構、チェーン伝動機構等の他の公知の伝動機構を用いることができ、あるいは、伝達機構を介さずに電動モータ22によって回転部材23を直接駆動するようにしてもよい。また、ベルト伝動機構23に、歯車減速機構等の減速機構を組み合わせて設けて減速比を調整するようにしてもよい。さらに、ベルト伝動機構23に、歯車減速機構等の減速機構を併設して設け、この減速機構をベルト34が切断した際のバックアップとして用いてもよい。
【0023】
電動モータ22は、例えば公知のDCモータ、DCブラシレスモータ、ACモータ等とすることができるが、制御性、静粛性、耐久性等の観点から本実施形態ではDCブラシレスモータを採用している。
【0024】
入力ロッド21は、直動部材26に挿通されて、一端部がサブピストン9の小径円筒部9Bに当接し、他端部がブレーキペダル20に連結されるようになっている。入力ロッド21は、その他端部に取付けられたバネ受35とハウジング25の後端部との間に介装された圧縮コイルバネであるシミュレータバネ36により、図1に示す非制動位置へ付勢されている。電動倍力装置3は、車体前部のエンジンルーム内に配置され、ハウジング25がダッシュパネルDに固定され、直動部材26の後端部と共に入力ロッド21がダッシュパネルDを貫通して車室内に延ばされてブレーキペダル20に連結されている。
【0025】
電動倍力装置3には、ブレーキペダル20の操作量を検出するストロークセンサ37、電動モータ22の回転角(モータ回転位置)を検出する回転位置センサ(図示せず)、電動モータ22に流れる電流(モータ電流)を計測する電流センサ(図示せず)及びマスタシリンダ2のブレーキ液圧を検出する液圧センサを含む各種センサが接続される。コントローラCは、上述の各種センサの検出に基づき、車両電源からの電力供給を受けて電動モータ22を制御する。ストロークセンサ37は、ブレーキペダル20や入力ロッド21の直動、若しくは、ブレーキペダル20の回動を検出するセンサとすることができ、ポテンショメータやエンコーダ等のセンサを用いることができる。モータ回転位置を検出する回転位置センサは、レゾルバ、エンコーダ等を使用することができる。また、液圧センサは、必ずしも液圧制御ユニット5に設けられている必要はなく、マスタシリンダ2のプライマリ室6A、セカンダリ室6Bのいずれか一方に設けるようにしてもよい。
【0026】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
コントローラCは、車両のイグニッションオンやイグニッションオフ状態でのブレーキペダル20の操作、車両CANからの起動信号等により、システムオン状態となり、上記センサ類の原点調整等を行った後、電動モータを駆動して直動部材25を若干前進させてプライマリピストン7及びサブピストン9を入力ロッド21から離間させた待機位置に保持する。
【0027】
そして、車両電源、コントローラCや電動モータ22が失陥していない通常の制動時には、運転者により、ブレーキペダル20が操作されると、コントローラCには、その操作量をストロークセンサ37によって検出し、ブレーキペダル20の操作量に基づき、回転位置センサ、電流センサ及び液圧センサの検出に応じて電動モータ22を制御する。すなわち、電動モータ22によってベルト伝動機構23を介してボールねじ機構24を駆動し、戻しバネ31のバネ力に抗して待機位置にある直動部材26を前進させて、プライマリピストン7を押圧する。これにより、プライマリ及びセカンダリピストン7、8が戻しバネ19A、19Bのバネ力に抗して前進し、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bをリザーバ12から遮断して加圧し、ブレーキ液圧を発生させ、液圧制御ユニット5を介して各車輪のホイールシリンダ4に供給して制動力を発生させる。
【0028】
このとき、入力ロッド21は、プライマリピストン7及びサブピストン9と離間状態を保って移動することになり、ブレーキペダル20にフィードバックされる反力は、シミュレータバネ36により生じることになる。すなわち、電動モータ22は、ブレーキバイワイヤ制御されることになる。このようなブレーキバイワイヤ制御により、ブレーキペダル20の操作に対する発生液圧値を可変にすることができ、種々のブレーキ特性を得ることが可能となる。
【0029】
万一、電動モータ22、コントローラCあるいはボールねじ機構16等の故障により、電動モータ22による制御が不可能になった場合、いわゆる失陥状態となった場合には、運転者がブレーキペダル20を操作しても、電動モータ22が作動せず、ボールねじ機構24の直動部材26が前進しない。この場合、直動部材25は待機位置ではなく、図3に示すように、ブレーキペダル20の操作力が入力ロッド21を介して伝達されてサブピストン9のみが前進することになる。サブピストン9の前進により、ピストンポート15、18間が一対のピストンシール17Aによって遮断されてプライマリ室6Aが加圧される。また、プライマリ室6Aの加圧により、セカンダリピストン8が前進し、リザーバポート11とピストンポート16との間が一対のピストンシール13A、13Bによって遮断されてセカンダリ室6Bが加圧される。このようにして、本実施形態の液圧発生装置は、ブレーキペダル20の操作力によって、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bを直接加圧することができる、これにより、ブレーキ液圧を発生させて各車輪のホイールシリンダ4に供給することができ、電気系統などが故障した失陥時でも制動機能を維持することができる。このとき、受圧面積の小さいサブピストン9によってプライマリ室6Aを加圧するので、ブレーキペダル20の操作力を軽減することができ、失陥時における運転者の負担を軽減することができる。
【0030】
ここで、本実施形態におけるマスタシリンダ2と電動倍力装置3とを備えた液圧発生装置のブレーキペダル20の踏力FとストロークSとマスタシリンダ2のブレーキ液圧Pとの関係を図4に示す。図4において、実線(A)は、本実施形態における通常の制動時の特性を表している。また、点線(B)は、本実施形態において電動モータ22による駆動力を付与せず、ブレーキペダル20によって直接、プライマリピストン7を推進した場合の特性を表している。そして、破線(C)は、失陥時にプライマリピストン7をブレーキペダル20によって直接、推進した場合の特性を表しており、点線(B)の特性との比較のために図示しているものである。図4に示されるように、電動モータ22等が作動不能になって直動部材25が推進されない失陥時に、点線(C)の特性に示されるように受圧面積の小さいサブピストン9を用いてブレーキ液圧を発生させることにより、破線(C)のように、直接、プライマリピストン7を推進する場合に比して、ブレーキペダル20の踏力Fを大幅に軽減することができる。ちなみに、本実施形態の液圧発生装置においては、失陥時に、通常時と同様の液圧を発生させようとすると、ブレーキペダル20の操作ストロークは、増大することになる。
【0031】
本実施形態では、サブピストン9の後退位置すなわち非制動位置は、サブピストン9の段部9Cがプライマリピストン7の内底面部7Cに当接して規定される。すなわち、プラマリピストン7によって規定され、プライマリピストン7の後退位置は、その後端部がボールねじ機構24の直動部材26に当接することにより規定される。したがって、サブピストン9が非制動位置から前進して、プライマリ室6Aをリザーバ12から遮断してブレーキ液圧が発生するまでの無効ストロークをブレーキペダル20の位置によらず、電動倍力装置3、すなわち液圧発生装置の内部で規定することができる。その結果、無効ストロークの管理を容易に行うことができる。
【0032】
また、本実施形態では、付勢部材である戻しバネ19Aが、プライマリピストン7及びサブピストン9を同時に付勢しており、サブピストン9の段部9Cをプライマリピストン7の内底面部7Cに当接させている。このように、本実施形態においては、プライマリピストン7用の戻しばねとサブピストン9用の戻しばねとを別個に設ける必要がなく、構造が簡易になり、液圧発生装置の製造効率が向上する。
【0033】
なお、上実施形態において、通常の制動時に、入力ロッド21とサブピストン9との間に隙間を設けてバイワイヤ制御するようにしているが、これに限らず、通常の制動時に、入力ロッド21とサブピストン9と当接状態にしてプライマリ室6Aのブレーキ液圧を入力ロッド21を介してブレーキペダル20に伝達するようにしてもよい。この場合、コントローラCは、ブレーキペダル20の操作量に対して直動部材25のストロークを少なく制御(遅れ制御)して、サブピストン9の段部9Cとプライマリピストン7の内底面部7Cとが離間するように制御することで、ブレーキペダル20に液圧反力が作用し続けることになる。また、この場合、プライマリピストン7(受圧面積大)と入力ピストン9(受圧面積小)の受圧面積比が倍力比となる。さらに、この場合、シミュレータバネ36は、単なる戻しばねとして作用する。
【0034】
ここで、上記第1実施形態においては、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面として、プライマリピストン7の内底面部7Cを、その径方向に沿って、すなわち、シリンダ本体2Aの軸線に対して直角を成すように形成している。しかし、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面として、図5の部分断面図に示す変形例1のように、シリンダ本体2Aの軸線に対して斜めに交わるテーパ面、立体的には截頭円錐面で、プライマリピストン7’の内底面部7C’を形成するようにしてもよい。この場合、サブピストン9’の段部9C’もテーパ面、立体的には截頭円錐面で形成されることになる。このように、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面は、シリンダボア6の底面と平行となる面ではなく、シリンダボア6の底面、すなわち、シリンダ本体2Aの底部2B側に面するような面で形成すればよい。
【0035】
また、シリンダ本体2Aの底部2Bに対向する対向面は、プライマリピストン7の内底面側だけでなく、図6の部分断面図に示す変形例2のように、プライマリピストン7”の先端面7C”に形成するようにしてもよい。
【0036】
次に、本発明の第2実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0037】
図7に示すように、本実施形態に係るブレーキシステム101の液圧発生装置40では、サブピストン49は、より小径化されて受圧面積が小さくなっており、段部を省略して後部の円筒部49Bの端部49Cがプライマリピストン47の内底面部47C(対向面)に当接するようになっている。また、他のピストンとなるセカンダリピストン48の後端部には、サブピストン9に対向して、サブピストン49の円筒部49Aの前部を収容可能な凹部41が形成されている。
【0038】
これにより、図8に示すように、失陥時には、サブピストン49をより小径化し受圧面積を小さくしたことにより、プライマリ室6Aのブレーキ液圧によってブレーキペダル20に作用する反力を小さくして運転者の負担を軽減することができる。このとき、受圧面積を小さくした分だけサブピストン49のストロークを大きくする必要があるが、前進したサブピストン49の前端部がセカンダリピストン48の凹部41に挿入されていくので、サブピストン49を充分にストロークさせることができる。
【0039】
次に、本発明の第3実施形態について、図9乃至図11を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0040】
図9に示すように、本実施形態に係るブレーキシステム201の液圧発生装置50では、サブピストン69のピストンポート18及びプライマリピストン67に装着される一方のピストンシール17Aが省略されて、プライマリピストン67のピストンポート15の内側は、プライマリ室6Aに常時連通している。そして、サブピストン69と入力ロッド21との間及びプライマリピストン67と直動部材66との間に、プライマリピストン67やサブピストン69が非制動位置から前進したときに、リザーバポート10遮断するためのポート開閉手段としてポート開閉機構51が設けられている。
【0041】
ポート開閉機構51について次に説明する。
直動部材66は、案内ボア52を有する略有底円筒状に形成され、案内ボア52内に、筒状の押圧部材53が軸方向に沿って移動可能に挿入されている。押圧部材53は、一端部がプライマリピストン67の後端部に当接する。押圧部材53の他端の開口部には、大径部54が形成され、大径部54の端部は、押圧部材53の中心軸線に対して所定の角度で傾斜するテーパ部55が形成されている。押圧部材53の大径部54内には、直動部材66の底部の内側に形成された円筒部56が摺動可能に挿入されて円筒部56の先端部がテーパ部55に当接するようになっている。押圧部材53の内径と直動部材66の円筒部56の内径とは略同径に形成されており、押圧部材53と直動部材66とは相対移動可能になっている。
【0042】
サブピストン69と入力ロッド21との間には、それぞれが小径部57A、58A及び円筒状の大径部57B、58Bを有する段付形状の第1入力部材57及び第2入力部材58が介装されている。第2入力部材58の肩部、すなわち、小径部58Aと大径部58Bとの間には、第2入力部材58の中心軸線に対して所定角度で傾斜するテーパ状肩部58Cが形成されている。第1入力部材57は、先端の小径部57Aがサブピストン69の後部の円筒部69Bに挿入され、大径部57Bが押圧部材53内に軸方向に沿って摺動可能に案内されている。第2入力部材58は、先端の小径部58Aが第1入力部材57の円筒状の大径部57B内に軸方向に沿って摺動可能に挿入され、第1入力部材57と相対移動可能になっている。第2入力部材58の円筒状の大径部58B内には、入力ロッド21の先端部が挿入されている。第1入力部材57の後端部57Dと第2入力部材58のテーパ状肩部58Cとの間には、ボール溝59が形成され、このボール溝59には、直動部材66の円筒部56の内周面との間に複数のボール60(鋼球)が装填されている。第1入力部材57の大径部57Bの底部と、大径部57B内に挿入された第2入力部材58の小径部58Aの先端部との間に圧縮コイルバネである戻しバネ61が介装されている。
【0043】
このように構成したことにより、非制動時には、図9に示すように、サブピストン69は、段部69Cがプライマリピストン67の底部に当接して、プライマリピストン67に対して最も後退した位置にあり、ボール60は、直動部材66の円筒部56の内周面によって径方向に拘束されてボール溝59内で保持されている。このとき、プライマリ室6Aは、リザーバポート10及びピストンポート15を介してリザーバ12に連通し、セカンダリ室6Bは、リザーバポート11及びピストンポート16を介してリザーバ12に連通している。これにより、ブレーキパッドの摩耗等に応じてリザーバ12からプライマリ室6A及びセカンダリ室6Bを介して各ホイールシリンダ4に適宜ブレーキ液が補充される。
【0044】
通常の制動時には、図10に示すように、運転者によるブレーキペダル20の操作量に応じてコントローラCにより電動モータ22の作動を制御し、ボールねじ機構24の直動部材66を前進させて、押圧部材53を介して、プライマリピストン67を押圧する。これにより、プライマリ及びセカンダリピストン67、8が戻しバネ19A、19Bのバネ力に抗して前進し、プライマリ室6A及びセカンダリ室6Bをリザーバポート10、11から遮断して加圧し、ブレーキ液圧を発生させる。
【0045】
このとき、ポート開閉機構51では、ブレーキペダル20の操作により入力ロッド21と共に移動する第1及び第2入力部材57、58に対して、直動部材26の円筒部56が追従して移動する、このため、ボール60は、円筒部56によって径方向に拘束されてボール溝59内で保持されるようになっている。
【0046】
万一、故障により、電動モータ22による制御が不可能になるような失陥時の場合、運転者がブレーキペダル20を操作しても、電動モータ22が作動せず、ボールねじ機構24の直動部材66が前進しない。この場合、図11に示すように、直動部材66に対して第1及び第2入力部材57、58が前進する。そして、ボール溝59に装填されたボール60は、第1及び第2入力部材57、58と共に移動して、直動部材26の円筒部56の先端部に達すると、第2入力部材58のテーパ状肩部58Cによって径方向外側に押出される。このとき、ボール60は、押圧部材53のテーパ面59を押圧するため、押圧部材53を前進させる。これにより、押圧部材53は、プライマリピストン67を一定距離だけ前進させて、リザーバポート10とピストンポート15との間をピストンシール13Aによって遮断する。その後、ボール60は、第2入力部材58の大径部58Bの外周面によって径方向に拘束されてプライマリピストン67の位置を保持する。第2入力部材のテーパ状肩部58Cは、ボール60をボール溝59から押出した後、第1入力部材57の大径部57Bの端部に当接し、第1入力部材57を押圧する。これにより、サブピストン69が前進してプライマリ室6Aを加圧して、ブレーキ液圧を発生させて制動機能を維持する。
【0047】
ブレーキペダル20の操作を解除すると、入力ロッド21と共に第1及び第2入力部材57、58が図9に示す非制動位置まで後退する際、ボール60が押圧部材53のテーパ部59に押圧されてボール溝59内に押込まれ、非制動時に位置に戻るようになっている。
【0048】
このようにして、上記第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0049】
2…マスタシリンダ、3…電動倍力装置(液圧発生装置)、7、7’、7”、47、67…プライマリピストン(ピストン)、7C、7C’、47C、67C…内底面部(対向面)、7C”…先端面(対向面)、9、9’、9”、49、69…サブピストン、10、11…リザーバポート、12…リザーバ、13A、13B、14A、14B、17A、17B…ピストンシール(ポート開閉手段)、19A、19B…戻しバネ(付勢部材)、20…ブレーキペダル、21…入力ロッド、22…電動モータ(アクチュエータ)、23…ベルト伝動機構(アクチュエータ)、24…ボールねじ機構(アクチュエータ)、41…凹部、48…セカンダリピストン(他のピストン)、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有低筒状のシリンダ本体と、
前記シリンダ本体に摺動可能に配置され、前記シリンダ本体の底部に対向する対向面を有するピストンと、
前記シリンダ本体にリザーバポートを介して接続されるリザーバと、
ブレーキペダルの操作に基づいて作動して前記ピストンを前記シリンダ本体内で移動させるアクチュエータと、
前記ピストンに摺動可能に配置されて該ピストンの対向面に当接するサブピストンと、
前記ブレーキペダルと前記サブピストンとの間に介装されて前記ブレーキペダルの操作力によって前記サブピストンを移動させるための入力ロッドと、
前記サブピストンを前記ピストンの対向面に付勢する付勢部材と、
前記ピストン又は前記サブピストンが非制動位置から前進したとき、前記リザーバポートを遮断するポート開閉手段と、を備えていることを特徴とする液圧発生装置。
【請求項2】
前記付勢部材は、前記サブピストンとともに前記ピストンを前記入力ロッドに近接させる方向に付勢することを特徴とする請求項1に記載の液圧発生装置。
【請求項3】
前記サブピストンは、前記ピストンの内部を摺動可能に配置され、
前記ポート開閉手段は、前記ピストンの径方向に貫通して形成される第1のポートと、前記ピストンの外周側となる前記シリンダ本体の内周に設けられた第1のシール手段と、前記サブピストンの径方向に貫通して形成される第2のポートと、前記サブピストンの外周側となる前記ピストンの内周に設けられた第2のシール手段と、を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の液圧発生装置。
【請求項4】
前記シリンダ本体には、前記ピストンと直列に配置された他のピストンが配置され、該他のピストンには、前記サブピストンの先端部に対向して該サブピストンの先端部を収容可能な凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液圧発生装置。
【請求項1】
有低筒状のシリンダ本体と、
前記シリンダ本体に摺動可能に配置され、前記シリンダ本体の底部に対向する対向面を有するピストンと、
前記シリンダ本体にリザーバポートを介して接続されるリザーバと、
ブレーキペダルの操作に基づいて作動して前記ピストンを前記シリンダ本体内で移動させるアクチュエータと、
前記ピストンに摺動可能に配置されて該ピストンの対向面に当接するサブピストンと、
前記ブレーキペダルと前記サブピストンとの間に介装されて前記ブレーキペダルの操作力によって前記サブピストンを移動させるための入力ロッドと、
前記サブピストンを前記ピストンの対向面に付勢する付勢部材と、
前記ピストン又は前記サブピストンが非制動位置から前進したとき、前記リザーバポートを遮断するポート開閉手段と、を備えていることを特徴とする液圧発生装置。
【請求項2】
前記付勢部材は、前記サブピストンとともに前記ピストンを前記入力ロッドに近接させる方向に付勢することを特徴とする請求項1に記載の液圧発生装置。
【請求項3】
前記サブピストンは、前記ピストンの内部を摺動可能に配置され、
前記ポート開閉手段は、前記ピストンの径方向に貫通して形成される第1のポートと、前記ピストンの外周側となる前記シリンダ本体の内周に設けられた第1のシール手段と、前記サブピストンの径方向に貫通して形成される第2のポートと、前記サブピストンの外周側となる前記ピストンの内周に設けられた第2のシール手段と、を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の液圧発生装置。
【請求項4】
前記シリンダ本体には、前記ピストンと直列に配置された他のピストンが配置され、該他のピストンには、前記サブピストンの先端部に対向して該サブピストンの先端部を収容可能な凹部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液圧発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−95290(P2013−95290A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240335(P2011−240335)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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