説明

液式鉛蓄電池

【構成】
液式鉛蓄電池の負極活物質が、0.4質量%以上7.5質量%以下のカーボンブラックと鉛粉とを主成分とする内層と、カーボンブラック含有量が0.3質量%以下で鉛粉を主成分とする表層とから成る。
【効果】 カーボンブラックが電解液を汚染せず液面の視認性が高い。またカーボンブラックにより充電受入性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は液式鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者は、密閉式鉛蓄電池の負極活物質に0.4質量%以上7.5質量%以下のカーボンを添加することを提案した(特許文献1:特許3185508)。前記特許文献1には、カーボンは負極の分極を小さくして、負極の充電反応が酸素ガスの還元よりも優先して起こるようにし、また硫酸鉛の還元を容易にすると記載されている。カーボンとしては例えばアセチレンブラックを用いるが、特許文献1の蓄電池はカーボンが電解液を汚染するので液式の鉛蓄電池には適さない。
【0003】
しかしながら、アイドリングストップ車等の用途では、負極のサルフェーションを解決するための手段として、液式鉛蓄電池の負極活物質に多量のカーボンブラックを添加することが考えられる。このためには液式鉛蓄電池の負極活物質からの、カーボンブラックの流出を防止する必要があり、発明者は、負極活物質の表面にカーボンブラックを含まない、もしくは少量しか含まない表層を設けることにより、カーボンブラックの流出を防止できることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3185508
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の基本的課題は、充電受入性が高く、かつカーボンブラックによる電解液の汚染が僅かな液式鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、負極格子骨部に負極活物質を支持させた負極と、正極格子骨部に正極活物質を支持させた正極と、負極と正極とを浸す電解液とが、合成樹脂製の電槽に収容された液式鉛蓄電池であって、
前記負極活物質では、0.4質量%以上7.5質量%以下のカーボンブラックと鉛粉とを主成分とする内層が、カーボンブラック含有量が0.3質量%以下で鉛粉を主成分とする表層により被覆されていることを特徴とする。
なお液式鉛蓄電池とは、セパレータと極板の外部で自由に流動できる遊離の電解液が存在する鉛蓄電池である。内層でのカーボンブラックの含有量は、カーボンブラックの流出をより確実に防止することと、カーボンブラック自体は蓄電池の容量に寄与しないことを加味し、好ましくは0.4質量%以上で5質量%以下とし、特に好ましくは0.4質量%以上で3質量%以下とする。
【0007】
この発明では、負極活物質の内層が0.4質量以上で7.5質量%以下のカーボンブラックを含有するため、充電受入性が向上する。例えば、図2は、カーボンブラック含有量を変えた際の、試作蓄電池での充放電サイクル寿命の例を示す。カーボンブラック含有量が0.2質量%以下では、5時間率電流(0.2CA)での放電持続時間が100サイクル程度で急激に低下する。これに対し、カーボンブラック含有量が0.4質量%以上7.5質量%以下では、例えば300サイクル程度まで放電持続時間を長く維持できる。これはカーボンブラックが充電受入性を向上させたためで、この発明の蓄電池はサルフェーションが起こりにくいため、アイドリングストップ車用等に適している。
【0008】
0.4質量%以上のカーボンブラックを含む負極活物質で表層を設けない場合、カーボンブラックの流出が生じ、電解液を汚染して液面の視認性を低下させる。本発明では、内層をカーボンブラック含有量が0.3質量%以下で鉛粉を主成分とする表層により被覆するので、内層から流出したカーボンブラックは表層でトラップされ、電解液の汚染がほとんど生じない。従って液面の視認性が低下するおそれを解消できる。
【0009】
電槽はポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂製である。本願発明ではカーボンブラックによる電解液の汚染が僅かで、電解液の液面の視認性が高まるので、電槽は好ましくは白色電槽である。
本発明での負極活物質の表層は充電受入性が低い層であり、内層からのカーボンブラックの流出を防止するだけの厚さが有ればよい。発明者は経験的にこの厚さが20μmであることを見出した。厚すぎる表層は好ましくないので、表層の厚さは200μm以下であることが好ましく、全体として表層の平均厚さは20μm以上で200μm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例での負極の要部断面図
【図2】負極活物質へのカーボン添加量と、充放電サイクル寿命試験中の放電持続時間との関係を示す、実施例の特性図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0012】
鉛蓄電池の製造
試作品の鉛蓄電池(公称電圧2V、5時間率容量は20Ah)を製造した。正極格子は0.07質量%のカルシウムと1.5質量%の錫と不可避不純物とを含み残余が鉛の、鉛−カルシウム−錫系合金を用いたが、これ以外にも任意の材質の正極格子が使用できる。負極格子は0.05質量%のカルシウムと0.5質量%の錫と不可避不純物とを含み残余が鉛の、鉛−カルシウム−錫系合金を用いたが、これ以外にも任意の材質の負極格子が使用できる。各格子は、スリット状の孔を多数備えた格子骨部と、上下の縁部、及び耳部とから成り、エキスパンド格子であるが、鋳造格子や打抜格子でも良く、サイズは正、負極共に高さが115mm、幅が108mm、厚さは正極が1.5mm、負極が1.0mmである。
【0013】
正極活物質原料として、ボールミル法の鉛粉99.9質量%に0.1質量%のアクリル繊維を加え、合計を100質量%とした。この混合物100質量%に、水13質量%と20℃で比重が1.40の希硫酸10質量%とを混合し、正極活物質ペーストとした。アクリル繊維は他の繊維に代えても良く、あるいは加えなくても良い。鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良く、通常の鉛粉ではなく、鉛丹あるいは鉛丹と鉛粉との混合物を用いても良い。
【0014】
負極活物質は、アセチレンブラックを0.4質量%以上で7.5質量%以下含む内層と、アセチレンブラック等のカーボンブラックの含有量が0.3質量%以下、実施例では0質量%の表層とから成り、内層と表層はアセチレンブラック含有量以外の点は例えば同一組成である。ボールミル法の鉛粉99.25質量%に、リグニン0.15質量%、硫酸バリウム0.5質量%、及びアクリル繊維0.1質量%を加え、鉛粉との合計を100質量%とした。内層では、上記の組成物100質量%に対して、アセチレンブラックを0.38質量%以上、7.09質量%以下含有させることにより、化成済みの負極活物質でのアセチレンブラック含有量を0.4質量%以上で7.5質量%以下とした。従来例として、負極活物質が単層から成り、かつカーボンブラック含有量が0.2質量%以下のものを作製した。さらに表層材料を用いず、内層材料のみで負極活物質を構成した蓄電池を、比較例として作製した。
【0015】
カーボンブラックの種類はアセチレンブラックに限らず、ファーネスブラック、サーマルブラック等でも良い。また用いたアセチレンブラックは、アグリゲートのサイズが0.5mm程度、アグリゲート内の1次粒子の平均粒径が20nm程度である。なお内層、表層とも、リグニン、硫酸バリウム、アクリル繊維等の有無と含有量は任意である。鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良い。
【0016】
表層では、上記の組成物をそのまま活物質の原料とし、カーボンブラックを含有させないことが好ましい。しかし化成済みの段階で0.3質量%以下、好ましくは0.2質量%以下のカーボンブラックを含有しても良い。表層の役割は内層から流出したカーボンブラックをトラップすることであり、その強度を高めるために、例えばカーボン繊維、あるいはアクリル繊維、PTFE繊維等の合成樹脂繊維を、例えば0.05質量%以上0.5質量%以下、表層に含有させても良い。内層、表層とも、上記の材料100質量%に水12質量%と20℃で比重1.40の希硫酸10質量%とを混合し、負極活物質ペーストとした。なお、水の量を12質量%としたのは、カーボンブラックを上記した質量%だけ含有させた場合であり、その含有量を多くすると、水の量は増加させる必要があることは言うまでもない。
【0017】
正極板に1枚当たり65gの正極活物質ペーストを充填し、50℃相対湿度50%で48時間熟成し、次いで50℃の乾燥雰囲気で24時間乾燥させた。負極板では、負極活物質内層ペーストを例えば40〜45g充填した後に、内層ペーストの表裏両面に負極活物質表層ペーストを合計で10〜5g充填し、正極板と同様に熟成と乾燥とを行った。なお負極板に負極活物質内層ペーストを充填した後に、負極活物質表層ペーストに相当するスラリー等に浸す等により表層を形成しても良い。
【0018】
微孔性のポリエチレンシートを2つ折りにして両側端をメカニカルシールした袋からなるセパレータに、負極板を収容した。セパレータは、ポリエチレン以外に、ポリプロピレン、フッ素化樹脂等の他の微孔性の合成樹脂フィルムでも良く、またアクリロニトリル、ポリアミド等の合成繊維の不織布のシートでも良い。さらにガラス繊維シートをセパレータとしても良い。セパレータは、耐酸性、耐酸化性、絶縁性でかつ多孔質であり、シート状の素材の袋である。ストラップで互いに接続した例えば5枚の負極の間に、同様にストラップで互いに接続した4枚の正極を挟み込むようにして極板群とした。得られた極板群を、ポリプロピレンの白色電槽に収納し、20℃で比重が1.200の希硫酸からなる電解液を注入し、25℃の水槽内で電槽化成を行って、公称電圧2V、5時間率容量が20Ahの鉛蓄電池とした。
【0019】
図1に、負極2の断面を示し、4は負極格子骨部で、前記の鉛−カルシウム−錫系合金から成り、骨部4,4間のスリットに負極活物質が充填され、6は負極活物質内層、8は負極活物質表層で、内層6の両表面を表層8,8が被覆している。負極活物質全体の厚さは平均値で例えば1mmで、より一般的には0.95mm以上、1.05mm以下であり、左右の表層8,8の厚さは平均値で各々20μm以上200μm以下が好ましく、スラリーを含浸させる場合は平均値で各々20μm以上100μm以下とすると、カーボンブラックによる電解液の汚染が認められず、実施例では平均値で50μmとした。また表層8,8を充填機で充填する場合は平均値で各々50μm以上200μm以下とすると、電解液の汚染が認められず、実施例では平均値で100μmとした。
【0020】
試験法
各鉛蓄電池に対し、充放電サイクル寿命試験を行い、この間にカーボンブラックによる電解液の汚染の有無を、白色電槽の外部から目視で観察した。充放電サイクル寿命試験では5時間率電流(0.2CA)の4.0Aで3.5時間放電した後に、同じ4.0Aで放電量の105%相当の3.675時間充電した。この試験の100サイクル毎に、4.0Aの放電電流で電池の端子電圧が1.75Vへ低下するまでの放電持続時間(時間と分単位)を求め、図2に結果を示す。従来例はカーボンブラック含有量が0.0質量%(従来例1),0.1質量%(従来例2),0.2質量%(従来例3),0.4質量%(従来例4)の4種類で、表層/内層の区別はない。実施例は内層のカーボンブラック含有量が0.4質量%(実施例1),1.0質量%(実施例2),3.0質量%(実施例3),5.0質量%(実施例4),7.5質量%(実施例5)の5種類である。実施例では表層材料を充填機で充填しても、スラリーに浸して表層を形成しても、結果は同様であったので、充填機で充填した際の結果を示す。他に内層が9.0質量%のカーボンブラックを含有する比較例1を試験した。
【0021】
また電解液の汚染の有無を検査するため、表層/内層の区別が無い単層で、カーボンブラック含有量が0.0質量%(従来例1),0.1質量%(従来例2),0.2質量%(従来例3),0.4質量%(従来例4)の蓄電池を試験した。さらに内層のカーボンブラック含有量が0.4質量%(実施例1),1.0質量%(実施例2),3.0質量%(実施例3),5.0質量%(実施例4),7.5質量%(実施例5)の蓄電池に対し、表層を充填機で作製するか、スラリーの含浸で作製するかと、表層の厚さとを変えて、同様の試験を行い、300サイクルまで電解液の汚染の有無を目視で観察した。これらの従来例、実施例の作製条件は、カーボンブラック以外の点は比較例1と同様である。試料数は各3で、結果は平均値で示す。
【0022】
結果
図2から明らかなように、カーボンブラック含有量が0.0質量%(従来例1),0.1質量%(従来例2),0.2質量%(従来例3)では、100サイクル程度で放電持続時間が初期値の50%程度に低下した。100サイクルで寿命に達したものと判断し、蓄電池を解体したところ、劣化の原因は負極活物質でのサルフェーションであった。またカーボンブラック含有量が0.2質量%以下(従来例1〜3)の場合、単層の負極活物質でも電解液がカーボンブラックで汚染されることはなかったが、カーボンブラック含有量が0.4質量%の従来例4では電解液の汚染が観察された。
【0023】
表層と内層とを備え、内層のカーボンブラック含有量が0.4質量%(実施例1),1.0質量%(実施例2),3.0質量%(実施例3),5.0質量%(実施例4),7.5質量%(実施例5)の蓄電池では、300サイクル経過しても初期値の60%以上の放電持続時間が保たれている。実施例1と従来例4は、充放電サイクル寿命特性が同じであったので、図2では実施例1として示した。また300サイクル経過の段階で、何れの蓄電池でも電解液の汚染は観察されなかった。さらに表層をスラリーから設けた場合、左右の表層が各20μm以上の厚さで電解液の汚染は検出されず、表層を充填機で設けた場合、左右の表層が各50μm以上の厚さで電解液の汚染は検出されなかった。実施例の電池を、300サイクル経過後に解体したところ、負極のサルフェーションの進行は遅く、正極腐食が進行していた。従ってアイドリングストップ車等での使用では、蓄電池の寿命要因は正極腐食になるものと想像される。なお内層のカーボンブラック含有量が9.0質量%(比較例1)の蓄電池では、電槽化成が終了した時点で負極活物質が負極格子から脱落しており、放電持続時間の初期値は0分であった。
【0024】
以上のことから、カーボンブラック含有量が僅かな表層と、カーボンブラックを多量に含有する内層とを設けることにより、蓄電池の充電受入性を向上させて、サルフェーション等を抑制することができる。また表層により、カーボンブラックの流出を防止し、電解液の汚染を防止できる。
【0025】
実施例では試作用の小形蓄電池を示したが、これに限るものではない。また正極活物質の組成、電解液の組成等は任意で、負極活物質の内層は0.4質量%以上で7.5質量%以下、好ましくは0.4質量%以上で5質量%以下、特に好ましくは0.4質量%以上で3質量%以下のカーボンを含む鉛粉を主成分とするものであれば良く、アンチモン、錫その他の添加物の有無は任意である。

【符号の説明】
【0026】
2 負極
4 負極格子骨部
6 負極活物質内層
8 負極活物質表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極格子骨部に負極活物質を支持させた負極と、正極格子骨部に正極活物質を支持させた正極と、負極と正極とを浸す電解液とが、合成樹脂製の電槽に収容された液式鉛蓄電池であって、
前記負極活物質では、0.4質量%以上7.5質量%以下のカーボンブラックと鉛粉とを主成分とする内層が、カーボンブラック含有量が0.3質量%以下で鉛粉を主成分とする表層により被覆されていることを特徴とする、液式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記電槽が白色であることを特徴とする、請求項1の液式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記表層の厚さの平均値が20μm以上で200μm以下であることを特徴とする、請求項1または2の液式鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−209084(P2012−209084A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72958(P2011−72958)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】