説明

液晶ポリエステル、液晶ポリエステル溶液、液晶ポリエステルの溶解性向上方法並びに液晶ポリエステルフィルム及びその製造方法。

【課題】 溶媒に対する溶解性が十分に大きい液晶ポリエステルを提供すること。
【解決手段】式(a1)のモノマー単位A1と、式(a2)のモノマー単位A2と、式(b)のモノマー単位Bと、式(c1)のモノマー単位C1とを有し、モノマー単位A1及びモノマー単位A2の合計量の比率が30〜50モル%、モノマー単位Bの比率が25〜35モル%、モノマー単位C1の比率が25〜35モル%である、液晶ポリエステル。
【化1】


【化2】


【化3】


[式中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基を示し、Arは置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示し、Ar及びArは1,4−フェニレン基等を示し、Xは−O−又は−NH−を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル、液晶ポリエステル溶液、液晶ポリエステルの溶解性向上方法並びに液晶ポリエステルフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、優れた高周波特性、低吸湿性を示すことから、エレクトロニクス基板等のフィルム材料としての応用が検討されている。
【0003】
液晶ポリエステルを押出成形によりフィルム状に成形すると、一般に、押出方向に分子が配向する結果、フィルムの異方性が大きくなってフィルムの機械強度が低下する等の問題が生じる。
【0004】
そこで、等方性の液晶ポリエステルフィルムを得る方法として、液晶ポリエステルフィルムを溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液を支持基板上に流延してから溶媒を除去する、いわゆる溶液流延法による成形方法が検討されている。例えば、本発明者らは既に、液晶ポリエステルフィルムの製造方法として、(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸由来のモノマー単位と、(2)芳香族ジカルボン酸由来のモノマー単位と、(3)芳香族ジアミン及び水酸基を有する芳香族アミンから選ばれる芳香族アミン由来のモノマー単位とを有する液晶ポリエステルを、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液組成物を支持基板上に流延してから溶媒を除去する方法を提案している(例えば、特許文献1。)。
【特許文献1】特開2004−315678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の液晶ポリエステルは、腐食性の低い非プロトン性溶媒に対する溶解性が必ずしも未だ十分に大きいものではなかった。そのため、液晶ポリエステルを非プロトン性溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液においてその濃度を高めることができず、例えば、肉厚のフィルムを製造する場合には、支持基板の上に溶液を流延し乾燥するという工程を場合によっては2回以上繰り返す必要があり、フィルムの生産性が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶媒に対する溶解性が十分に大きい液晶ポリエステルを提供することを目的とする。また、本発明は、異方性が十分に小さいフィルムを高い生産効率で製造することが可能な液晶ポリエステルフィルムの製造方法、及びこの製造方法に好適に用いられる液晶ポリエステル溶液を提供することを目的とする。更に、本発明は、液晶ポリエステルフィルム溶液を用いた液晶ポリエステルフィルムの製造においてその生産効率の向上を可能とする、液晶ポリエステルの溶解性の向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、液晶ポリエステルの組成について鋭意検討を重ねた結果、液晶ポリエステルを、特定のモノマー単位を特定の比率で有するものとすることによって、溶媒に対する溶解性が著しく向上することを見出した。そして、この知見を基に更なる検討を加えた結果、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(a1)で表されるモノマー単位A1と、下記一般式(a2)で表されるモノマー単位A2と、下記一般式(b)で表されるモノマー単位Bと、下記一般式(c1)で表されるモノマー単位C1と、を有し、モノマー単位全体に対して、モノマー単位A1及びモノマー単位A2の合計量の比率が30〜50モル%、モノマー単位Bの比率が25〜35モル%、モノマー単位Cの比率が25〜35モル%である、液晶ポリエステルである。
【0009】
【化1】


[式(a1)及び式(a2)中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基を示し、Arは置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示す。]
【0010】
【化2】


[式(b)中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、置換基を有していてもよい1,3−フェニレン基又は置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示す。]
【0011】
【化3】


[式(c1)中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、置換基を有していてもよい1,3−フェニレン基又は置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示し、Xは−O−又は−NH−を示す。]
【0012】
本発明の液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来するモノマー単位としてモノマー単位A1及びモノマー単位A2を併有するとともに、上記特定構造のモノマー単位の比率を上記特定範囲としたことにより、溶媒に対する溶解性が十分に大きなものとなった。
【0013】
本発明の液晶ポリエステルにおいては、モノマー単位A1の数をn、モノマー単位A2の数をnとしたときに、n及びnが下記式(1)を満たすことが好ましい。
0<n/(n+n)<0.95 ・・・(1)
【0014】
このように、フェニレン基を有するモノマー単位A1とナフタレン基を有するモノマー単位A2との比率を、上記式(1)を満たすような特定範囲とすることにより、溶解性が更に向上する。
【0015】
本発明の液晶ポリエステルは、下記一般式(c2)で表されるモノマー単位C2を更に有し、モノマー単位全体に対してモノマー単位C1及びモノマー単位C2の合計量の比率が25〜35モル%であることが好ましい。
【0016】
【化4】


[式(c2)中、Arは置換基を有していてもよいアリーレン基を示す。]
【0017】
これにより、液晶ポリエステルが固相重合で高分子量化されるときに溶融しにくくなるため、固相重合による高分子量化が容易となる。
【0018】
本発明の液晶ポリエステル溶液は、液晶ポリエステルフィルムの生産効率向上の点から、液晶ポリエステルを、溶媒100重量部に対して0.01〜100重量部含有することが好ましい。
【0019】
非プロトン性溶媒は、ハロゲン原子を有しないものであることが好ましい。また、液晶ポリエステルの溶解性をより顕著に向上させるため、非プロトン性溶媒の双極子モーメントは3以上5以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の液晶ポリエステル溶液は、上記本発明の液晶ポリエステルを非プロトン性溶媒を含む溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液である。この液晶ポリエステル溶液は、液晶ポリエステルの濃度を高めることにより、肉厚の液晶ポリエステルフィルムの製造に用いられたときに、高い生産効率で液晶ポリエステルフィルムを製造することが可能である。また、溶媒として非プロトン性溶媒を用いていることにより、腐食性が低く、取り扱い性にも優れる。
【0021】
本発明は、また、液晶ポリエステルを、上記一般式(a1)で表されるモノマー単位A1と、上記一般式(a2)で表されるモノマー単位A2と、上記一般式(b)で表されるモノマー単位Bと、上記一般式(c1)で表されるモノマー単位C1と、を有し、モノマー単位全体に対して、モノマー単位A1及びモノマー単位A2の合計量の比率が30〜50モル%、モノマー単位Bの比率が25〜35モル%、モノマー単位Cの比率が25〜35モル%であるものとする、液晶ポリエステルの溶解性向上方法である。
【0022】
このように、液晶ポリエステルを、特定のモノマー単位を特定の比率で有するものとすることによって、液晶ポリエステルの溶解性が著しく向上する。この場合においても、モノマー単位A1の数をn、モノマー単位A2の数をnとしたときに、n及びnが上記式(1)を満たすようにすることが好ましい。また、液晶ポリエステルは、上記一般式(c2)で表されるモノマー単位C2を更に有し、モノマー単位全体に対してモノマー単位C1及びモノマー単位C2の合計量の比率が25〜35モル%であることがより好ましい。
【0023】
本発明の液晶ポリエステルフィルムの製造方法においては、上記本発明の液晶ポリエステル溶液からなる溶液層を支持基板上に形成し、該溶液層から溶媒を除去して、支持基板上に液晶ポリエステルフィルムを形成する。また、本発明の液晶ポリエステルフィルムは、この製造方法によって得られるものである。
【0024】
このような製造方法によれば、液晶ポリエステル溶液の濃度を高めることにより、等方性の液晶ポリエステルフィルムを高い生産効率で製造することができる。また、この製造方法によれば、十分な機械強度を有する液晶ポリエステルフィルムを得ることが可能である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の液晶ポリエステルは、溶媒に対して十分に大きい溶解性を有する。また、本発明の液晶ポリエステルフィルムの製造方法によれば、液晶ポリエステルフィルムを高い生産効率で製造することが可能である。
【0026】
本発明の液晶ポリエステル溶液は、上記製造方法に好適に用いられるものであり、本発明の液晶ポリエステルの溶解性向上方法によれば、液晶ポリエステル溶液における液晶ポリエステルの濃度が十分に高められて、液晶ポリエステルフィルムの製造においてその生産効率の向上を可能とする。
【0027】
更に、本発明の液晶ポリエステルフィルムは、十分な機械強度を有するものとすることが可能であり、また、高周波特性、低吸水性などの性能にも優れており、プリント配線板などの電子部品用フィルム用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
本発明の液晶ポリエステルは、上記一般式(a1)で表されるモノマー単位A1と、上記一般式(a2)で表されるモノマー単位A2と、上記一般式(b)で表されるモノマー単位Bと、上記一般式(c1)で表されるモノマー単位C1とを有する。
【0030】
液晶ポリエステルが有するモノマー単位全体に対して、モノマー単位A1及びモノマー単位A2の合計量の比率が30〜50モル%、モノマー単位Bの比率が25〜35モル%、モノマー単位C1の比率が25〜35モル%である。溶解性を更に顕著に向上させるため、モノマー単位A1及びモノマー単位A2の合計量の比率が35〜45モル%、モノマー単位Bの比率が27.5〜32.5モル%、モノマー単位Cの比率が27.5〜32.5モル%であることが、より好ましい。モノマー単位A1及びモノマー単位A2の合計量の比率が30モル%未満であると、得られる液晶ポリエステルの液晶性が低下する傾向にあり、50モル%を超えると溶解性が低下する。
【0031】
モノマー単位B及びモノマー単位C1の比率がそれぞれ25モル%未満であると、得られる液晶ポリエステルの溶解性が低下し、35モル%を超えると、得られる液晶ポリエステルの液晶性が低下する傾向にある。また、モノマー単位Bとモノマー単位C1とは、実質的に等モルであることが好ましい。ただし、液晶ポリエステルの重合度を制御すること等を目的として、モノマー単位Bの量を、好ましくはモノマー単位Cの量±10モル%の範囲内で調整することもできる。
【0032】
液晶ポリエステルの溶解性をより顕著に向上させるためには、モノマー単位A1の数をn、モノマー単位A2の数をnとしたときに、n及びnが上記式(1)を満たすことが好ましい。
【0033】
ところで、一般に、液晶ポリエステルは、モノマーの混合物を溶融重合して製造される。そして、溶融重合のみでは液晶ポリエステルが十分に高分子量化されない場合には、いわゆる固相重合によって液晶ポリエステルを更に高分子量化することが可能である。固相重合は、例えば、溶融重合後の固形物を粉砕して粉末状とし、粉末状の固形物を加熱することによって行われる。液晶ポリエステルを高分子量化することによって、十分に大きな機械強度を有する液晶ポリエステルフィルムが得られる。
【0034】
しかしながら、従来の液晶性ポリエステルは、溶融重合の後に固相重合を施すと、樹脂が再び溶融して板状で固化してしまう為、十分に高分子量化するためには、板状となった樹脂を粉砕して粉末状にし、再度固相重合を施す必要があった。
【0035】
これに対して、本発明による液晶ポリエステルの場合、n及びnが下記式(2)、より好ましくは下記式(3)を満たすようにすることにより、1回の固相重合であっても液晶ポリエステルが効率的に高分子量化されることが可能となる。高分子量化が容易となる点及び溶解性向上の点から、n/(n+n)は0.1以上であることがより好ましい。
0<n/(n+n)<0.25 ・・・(2)
0<n/(n+n)<0.20 ・・・(3)
【0036】
モノマー単位A1において、Arはハロゲン原子、アルキル基、アリール基等の置換基を有していてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子が好ましく、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等で代表される炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等で代表される炭素数6〜20のアリール基が好ましい。モノマー単位A1としては、特に、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する、下記化学式(a1−1)で表されるモノマー単位が好ましい。
【0037】
【化5】

【0038】
モノマー単位A2において、Arはハロゲン原子、アルキル基、アリール基等の置換基を有していてもよい。ハロゲン原子、アルキル基、アリール基としては、Arについての説明において既に挙げたものが好ましい。モノマー単位A2としては、特に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する、下記化学式(a2−1)で表されるモノマー単位が好ましい。
【0039】
【化6】

【0040】
モノマー単位Bは、テレフタル酸、イソフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来するモノマー単位であることが好ましい。これらの中でも、液晶ポリエステルの溶解性の点から、イソフタル酸に由来する、Arが1,3−フェニレン基であるものが好ましい。
【0041】
モノマー単位C1は、芳香族ジアミン、アミノフェノール又はこれらの誘導体に由来するモノマー単位である。式(c1)におけるAr4は、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基等の置換基を有していてもよい。ハロゲン原子、アルキル基、アリール基としては、Arについての説明において既に挙げたものが好ましい。モノマー単位C1としては、例えば、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン又は1,3−フェニレンジアミンに由来するモノマー単位が挙げられる。これらの中でも、4−アミノフェノールに由来する、Arが1,4−フェニレン基であるモノマー単位が好ましい。
【0042】
本発明の液晶ポリエステルは、芳香族ジオールに由来するモノマー単位C2を更に有することが好ましい。この場合、モノマー単位C1及びモノマー単位C2の合計量の比率を、モノマー単位全体に対して25〜35モル%とする。すなわち、モノマー単位C2は、モノマー単位C1の一部を置き換える形で導入される。
【0043】
式(c2)におけるAr5は、置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、置換基を有していてもよい1,3−フェニレン基又は置換基を有していてもよい4,4’−ビフェニレン基であることが好ましい。Arにおける置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基等が挙げられる。ハロゲン原子、アルキル基、アリール基としては、Arについての説明において既に挙げたものが好ましい。これらの中でも、モノマー単位C2としては、ハイドロキノンに由来する、Arが1,4−フェニレン基であるモノマー単位が特に好ましい。
【0044】
本発明の液晶ポリエステルは、各モノマー単位に対応したモノマー、すなわち、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族アミン、アミノフェノール、芳香族ジオール又はこれらのエステル形成性誘導体、アミド形成性誘導体を、通常の方法(例えば、特開2002−220444号公報、特開2002−146003号公報に記載の方法)に準拠して重合することにより、製造できる。
【0045】
より具体的には、本発明の液晶ポリエステルは、下記一般式(a11)で表されるモノマーA1、下記一般式(a12)で表されるモノマーA2、下記一般式(b10)で表されるモノマーB及び下記一般式(c11)で表されるモノマーC1を含有するモノマー混合物を加熱して固形物を得る工程と、当該固形物を粒子状に加工する工程と、粒子状の固形物を加熱して液晶ポリエステルを得る工程と、を備え、モノマー混合物全体に対して、モノマーA1及びモノマーA2の合計量の比率が30〜50モル%、モノマーBの比率が25〜35モル%、モノマーCの比率が25〜35モル%である製造方法によって好適に得ることができる。
【0046】
【化7】

【0047】
式(a11)、(a12)、(b10)、(c11)中、Ar、Ar、Ar、Ar及びXは、上記式(a1)、(a2)、(b)、(c1)におけるAr、Ar、Ar、Ar及びXと、その好ましい態様も含めて同義のものである。
【0048】
また、これらの式において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)を示す。より具体的には、R、R、R及びRは、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であることが好ましく、この中でもメチル基が特に好ましい。式(a11)中のR、式(a12)中のR並びに式(b10)中のR及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルカノイルオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシ基、ハロゲン原子又は水酸基を示し、特に、水酸基であることが好ましい。
【0049】
上記製造方法においては、モノマーA1の数をn、モノマーA2の数をnとしたときに、n及びnが上記式(1)を満たすことが好ましく、上記式(2)を満たすことがより好ましく、上記式(3)を満たすことが更に好ましい。ここで、モノマー混合物におけるモノマーA1、モノマーA2、モノマーB及びモノマーC1の比率が、得られる液晶ポリエステルにおけるモノマー単位A1、モノマー単位A2、モノマー単位B及びモノマー単位C1の比率と実質的に同一となることはいうまでもない。
【0050】
上記モノマー混合物は、下記一般式(c12)で表されるモノマーC2を更に含有し、モノマー混合物全体に対して、モノマーC1及びモノマーC2の合計量の比率が25〜35モル%であることが好ましい。
【0051】
【化8】

【0052】
式(c12)中、Arは、上記式(c2)におけるArと、その好適な態様も含めて同義である。R及びR10は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のアルキル基)を示す。より具体的には、R及びR10としては、メチル基、エチル基、プロピル基又はイソプロピル基であることが好ましく、この中でもメチル基が特に好ましい。
【0053】
以下に、上記製造方法の好適な代表例として、R、R、R及びRが置換基を有していてもよいアルキル基であり、R、R、R及びRが水酸基である場合、言い換えると、モノマーA1及びモノマーA2が芳香族ヒドロキシカルボン酸におけるフェノール性水酸基をアシル化したものであり、モノマーBが芳香族ジカルボン酸であり、モノマーC1が芳香族ジアミン又はアミノフェノールにおけるアミノ基又はフェノール性水酸基をアシル化したものである場合の好適な実施形態について、より具体的に説明する。
【0054】
モノマーA1、モノマーA2及びモノマーC1は、それぞれ、下記一般式(a21)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸、下記一般式(a22)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸及び下記一般式(c21)で表される芳香族ジアミン又はアミノフェノールを、酸無水物との反応等によりアシル化することにより、得られる。アシル化反応は、それぞれの化合物単独で行ってもよいし、これら化合物を混合した状態で行ってもよい。これらの式において、Ar、Ar、Ar及びXは、上記式(a1)、(a2)、(c1)におけるAr、Ar、Ar及びXと、その好ましい態様も含めて同義のものである。
【0055】
【化9】

【0056】
上記アシル化反応において、酸無水物を加える量は、フェノール性水酸基及びアミノ基の合計量に対して、通常1.0〜1.2倍当量であり、好ましくは1.05〜1.1倍当量である。酸無水物の量が1.0倍当量未満であると、重縮合時にアシル化物や原料モノマーなどが昇華して、反応系が閉塞し易くなる傾向があり、1.2倍当量を超えると、得られる液晶ポリエステルが着色する傾向がある。
【0057】
アシル化反応は、上記化合物及び酸無水物を混合した混合物を、通常は130〜180℃で5分〜10時間、好ましくは140〜160℃で10分〜3時間加熱することにより、十分に進行させることができる。
【0058】
アシル化反応に用いられる酸無水物としては、脂肪酸無水物が好ましい。脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸が挙げられ、これらは2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、価格と取り扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく、更にこの中でも、無水酢酸が好ましい。
【0059】
モノマー混合物は、予めそれぞれ単独で準備した各モノマーを混合したものであってもよいし、各モノマーの前駆体等を混合した状態でアシル化反応を行って、アシル化反応後の混合物をそのままモノマー混合物として用いてもよい。モノマー混合物においては、カルボキシル基の量が、アシル基及びアミド基の総量に対して0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0060】
モノマー混合物を加熱する溶融重合により、エステル交換反応、アミド交換反応等の重合反応(重縮合反応)が進行して、ある程度高分子量化した液晶ポリエステルが生成する。生成した液晶ポリエステルを溶融重合の反応容器から取り出して室温まで冷却することにより、液晶ポリエステルの固形物が得られる。溶融重合は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行なうことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行なうことがより好ましい。この際、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸及び未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0061】
なお、アシル化反応及び重合反応は、触媒の存在下で行なってもよい。触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のもの、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N―メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを用いることができる。これらの触媒の中でも、N,N−ジメチルアミノピリジン、N―メチルイミダゾール等の、窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される。
【0062】
続いて、溶融重合後の固形物を粉砕する等して、パウダー状、フレーク状等の粒子状に加工する。
【0063】
粒子状の固形物を加熱することにより、重合反応が進行して、液晶ポリエステルを更に高分子量化する(固相重合)。固相重合により重合度が大きくなることは、例えば、液晶ポリエステルの流動開始温度(FT)が高くなることによって、確認できる。固相重合は、液晶ポリエステルの流動開始温度が270℃以上(好ましくは280〜340℃)となるまで行うことが好ましい。
【0064】
固相重合は公知の方法により行うことができるが、具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、180〜350℃で、1〜30時間、固相状態で加熱する方法などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながら行ってもよいし、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお、適当な攪拌機構を採用すれば、溶融重合と固相重合とを同一の反応容器中で行うこともできる。固相重合後、得られた液晶性ポリエステルは、粒子状のままで、又はペレット化等してから、成形品を得るために用いられる。
【0065】
本発明の液晶性ポリエステルは、本発明の目的を損なわない範囲で、フィラー、添加剤等と混合した状態で用いてもよい。
【0066】
フィラーとしては、例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、スチレン樹脂などの有機系フィラー、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムなどの無機フィラーなどが挙げられる。
【0067】
添加剤としては、公知のカップリング剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。
【0068】
液晶性ポリエステルは、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテル及びその変性物及びポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂や、グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体などのエラストマーと混合した状態で用いてもよい。
【0069】
本発明の液晶ポリエステル溶液は、上記のような液晶ポリエステルを、非プロトン性溶媒を含む溶媒(好ましくは非プロトン性溶媒からなる溶媒)に溶解したものであり、両者を混合することにより製造できる。
【0070】
液晶性ポリエステルの含有量は、溶媒100重量部に対して0.01〜100重量部であることが好ましい。0.01重量部未満であると溶液粘度が低くなりすぎて均一な塗工が困難となる傾向にあり、100重量部を超えると、高粘度化して均一な塗工が困難となる傾向にある。作業性や経済性の観点から、液晶ポリエステルの含有量は、1〜50重量部であることがより好ましく、2〜40重量部であることがさらに好ましい。
【0071】
非プロトン性溶媒としては、例えば、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ―ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などのリン酸系溶媒が好適に用いられる。
【0072】
これらの中では、ハロゲン原子を含まない溶媒が環境への影響面から好ましく使用され、また双極子モーメントが3以上5以下の溶媒が溶解性の観点から好ましく使用される。具体的には、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、γ―ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒等がより好ましく使用され、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンがさらに好ましく使用される。
【0073】
本発明の液晶ポリエステルフィルムの製造方法においては、上記液晶ポリエステル溶液からなる溶液層を支持基板上に形成し、該溶液層から溶媒を除去して、支持基板上に液晶ポリエステルフィルムを形成する。このような、いわゆる溶液流延法によれば、押出成形等の方法による場合と比較して、異方性が少なく、良好な機械強度を有する液晶ポリエステルフィルムが容易に得られる。
【0074】
溶液層は、液晶ポリエステル溶液を支持基材上に流延することにより、形成される。表面が平坦で且つ均一に流延することが可能な方法としては、例えば、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。流延の前に、必要に応じて、フィルターなどによってろ過することにより、液晶ポリエステル溶液中に含まれる微細な異物を除去することが好ましい。
【0075】
支持基材としては、得られる液晶ポリエステルフィルムの用途等に応じて適宜選択されるシート状のものが用いられる。具体的には、例えば、銅箔、アルミ箔、金箔、銀箔等の金属箔(好ましくは銅箔)や、ガラス基板(例えば、厚さ1mm程度のガラス板)等を支持基材として用いることができる。
【0076】
溶液層から溶媒を除去する方法は、特に限定されないが、溶媒の蒸発により行うことが好ましい。溶媒を蒸発する方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられるが、中でも生産効率、取り扱い性の点から加熱して蒸発せしめることが好ましく、通風しつつ加熱して蒸発せしめることがより好ましい。このときの加熱条件としては、60〜200℃で10分〜2時間予備乾燥を行う工程と、200〜400℃で30分〜5時間熱処理を行う工程とを含むことが好ましい。
【0077】
液晶ポリエステルフィルムの厚みは、特に限定されることはないが、製膜性や機械特性の観点から、0.5〜500μmであることが好ましく、取り扱い性の観点から1〜200μmであることがより好ましい。本発明の液晶ポリエステルフィルムの製造方法は、例えば5〜50μmのような、比較的肉厚のフィルムの製造の場合に特に有用である。
【0078】
本発明による液晶ポリエステルフィルムは、機械強度に優れるのみならず、高周波特性、低吸湿性などの優れた特性を示す。したがって、近年注目されているビルドアップ工法などによる半導体パッケージやマザーボード用の多層プリント基板、フレキシブルプリント配線板、テープオートメーテッドボンディング用フィルム、その他8ミリビデオテープの基材、業務用デジタルビデオテープの基材、透明導電性(ITO)フィルムの基材、偏光フィルムの基材、各種調理食品用、電子レンジ加熱用の包装フィルム、電磁波シールド用フィルム、抗菌性フィルム、気体分離用フィルム等に、好適に用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0080】
以下の実施例及び比較例においては、液晶ポリエステルの流動開始温度及びNMPへの溶解性と、液晶ポリエステルフィルムの強度を以下のような方法で評価した。
(流動開始温度)
内径1mm、長さ10mmの毛細管レオメーターを用い、100kg/cmの荷重下において昇温速度4℃/分で加熱溶融体をノズルから押出したときに、溶融粘度が48000ポイズを示す温度を、流動開始温度とした。
(NMPへの溶解性)
所定量の液晶ポリエステルが溶媒に完全に溶解したかどうかを目視で確認し、完全に溶解した量(濃度)の最大値をNMPへの溶解性のデータとした。
(フィルム強度)
液晶ポリエステルフィルムを巾1.5cm、長尺方向10cmの短冊状に成形した試験片を、MIT耐疲労試験機(東洋精機製作所製)を用いてコーナーR=0.38にて折り曲げることにより、耐屈曲性を評価した。耐屈曲性は、以下の基準で判定した。
A:折り曲げ回数50000回以上でも破断しない
B:折り曲げ回数10〜50回で破断
C:フィルムの自重で破れる(折り曲げ試験の評価に至らない)
【0081】
(実施例1)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシー6−ナフトエ酸(以下、「HNA」という。)94.1g(0.5モル)、p−ヒドロキシ安息香酸(以下、「PHB」という。)69.1g(0.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド(以下、「APAP」という。)75.6g(0.5モル)及びイソフタル酸(以下、「IPA」という。)83.1g(0.5モル)及び無水酢酸173.6g(1.7モル)を出発原料として入れた。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
【0082】
その後、副生する酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなした(溶融重合)。反応終了後、取り出した固形分を室温まで冷却して粗粉砕機で粉砕して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルは、偏光顕微鏡観察により、200℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示すことが確認された。
更に、粉末状の液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下240℃で3時間加熱することにより固相重合を進行させて、流動開始温度242℃の液晶ポリエステルを得た。
【0083】
得られた液晶ポリエステルを、N−メチルピロリドン(以下「NMP」という)に所定量を加えて、140℃に加熱したところ、液晶ポリエステルの濃度が10質量%以下においては、液晶ポリエステルが完全に溶解して、透明な液晶ポリエステル溶液が得られた。
【0084】
(実施例2)
HNA150.5g(0.8モル)、PHB27.6g(0.2モル)、APAP75.6g(0.5モル)、IPA83.1g(0.5モル)及び無水酢酸173.6g(1.7モル)を出発原料として用いた他は実施例1と同様に溶融重合して粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルは、偏光顕微鏡観察により、200℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示すことが確認された。
更に、粉末状の液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下240℃で3時間加熱することにより固相重合を進行させて、流動開始温度240℃の液晶ポリエステルを得た。
【0085】
得られた液晶ポリエステルを、NMPに所定量を加えて、140℃に加熱したところ、液晶ポリエステルの濃度が12質量%以下においては、液晶ポリエステルが完全に溶解して、透明な液晶ポリエステル溶液が得られた。
【0086】
(実施例3)
HNA11.3g(0.06モル)、PHB102.2g(0.74モル)、APAP90.7g(0.6モル)、IPA99.7g(0.6モル)及び無水酢酸163.3g(1.6モル)を出発原料として用いた他は実施例1と同様に溶融重合して粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルは、偏光顕微鏡観察により、200℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示すことが確認された。
更に、粉末状の液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下240℃で3時間加熱することにより固相重合を進行させて、流動開始温度320℃の液晶ポリエステルを得た。
【0087】
得られた液晶ポリエステルを、NMPに所定量を加えて、140℃に加熱したところ、液晶ポリエステルの濃度が16質量%以下においては、液晶ポリエステルが完全に溶解して、透明な液晶ポリエステル溶液が得られた。
【0088】
(実施例4)
HNA37.6g(0.2モル)、PHB193.4g(1.4モル)、APAP181.4g(1.2モル)及びIPA199.4g(1.2モル)及び無水酢酸326.7g(3.2モル)を出発原料として用いた他は実施例1と同様に溶融重合して粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルは、偏光顕微鏡観察により、200℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示すことが確認された。
更に、粉末状の液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下240℃で3時間加熱することにより固相重合を進行させて、流動開始温度320℃の液晶ポリエステルを得た。
【0089】
得られた液晶ポリエステルを、NMPに所定量を加えて、140℃に加熱したところ、液晶ポリエステルの濃度が16質量%以下においては、液晶ポリエステルが完全に溶解して、透明な液晶ポリエステル溶液が得られた。
【0090】
(実施例5)
HNA26.3g(0.14モル)、PHB91.2g(0.66モル)、APAP90.7g(0.6モル)、IPA99.7g(0.6モル)及び無水酢酸163.3g(1.6モル)を出発原料として用いた他は実施例1と同様に溶融重合して粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルは、偏光顕微鏡観察により、200℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示すことが確認された。
更に、粉末状の液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下240℃で3時間加熱することにより固相重合を進行させて、流動開始温度320℃の液晶ポリエステルを得た。
【0091】
得られた液晶ポリエステルを、NMPに所定量を加えて、140℃に加熱したところ、液晶ポリエステルの濃度が16質量%以下においては、液晶ポリエステルが完全に溶解して、透明な液晶ポリエステル溶液が得られた。
【0092】
(実施例6)
HNA131.7g(0.7モル)、PHB13.8g(0.1モル)、APAP90.7g(0.6モル)、IPA99.7g(0.6モル)及び無水酢酸163.3g(1.6モル)を出発原料として用いた他は実施例1と同様に溶融重合して粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルは、偏光顕微鏡観察により、200℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示すことが確認された。
更に、粉末状の液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下240℃で3時間加熱することにより固相重合を進行させて、流動開始温度240〜250℃の液晶ポリエステルを得た。
【0093】
得られた液晶ポリエステルを、NMPに所定量を加えて、140℃に加熱したところ、液晶ポリエステルの濃度が16質量%以下においては、液晶ポリエステルが完全に溶解して、透明な液晶ポリエステル溶液が得られた。
【0094】
(比較例1)
PHB138.1g(1モル)、APAP75.6g(0.5モル)、IPA83.1g(0.5モル)及び無水酢酸173.6g(1.7モル)を出発原料として用いた他は実施例1と同様に溶融重合して粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルは、偏光顕微鏡観察により、200℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示すことが確認された。
更に、粉末状の液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下240℃で3時間加熱することにより固相重合を進行させて、流動開始温度320℃の液晶ポリエステルを得た。
【0095】
得られた液晶ポリエステルを、NMPに所定量を加えて、140℃に加熱したところ、液晶ポリエステルの濃度が8質量%であっても、不溶物が残存して、透明な溶液を得ることができなかった。
【0096】
(比較例2)
HNA188.2g(1モル)、APAP75.6g(0.5モル)、IPA83.1g(0.5モル)及び無水酢酸173.6g(1.7モル)を出発原料として用いた他は実施例1と同様に溶融重合して粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルは、偏光顕微鏡観察により、200℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示すことが確認された。
更に、粉末状の液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下240℃で3時間加熱することにより固相重合を進行させた。しかし、得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は240℃であった。
【0097】
得られた液晶ポリエステルを、NMPに所定量を加えて、140℃に加熱したところ、液晶ポリエステルの濃度が8質量%以下においては、液晶ポリエステルが完全に溶解して、透明な液晶ポリエステル溶液が得られたが、これ以上の濃度の場合には、透明な溶液が得られなかった。
【0098】
(比較例3)
PHB221.0g(1.6モル)、APAP181.4g(1.2モル)、IPA199.4g(1.2モル)及び無水酢酸326.7g(3.2モル)を出発原料として用いた他は実施例1と同様に溶融重合して粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルは、偏光顕微鏡観察により、200℃で液晶相特有のシュリーレン模様を示すことが確認された。
更に、粉末状の液晶ポリエステルを、窒素雰囲気下240℃で3時間加熱することにより固相重合を進行させて、流動開始温度320℃の液晶ポリエステルを得た。
【0099】
得られた液晶ポリエステルを、NMPに所定量を加えて、140℃に加熱したところ、液晶ポリエステルの濃度が8質量%であっても、不溶物が残存して、透明な溶液を得ることができなかった。
【0100】
【表1】

【0101】
表1に示すように、HNA及びPHBを併用し、且つ各モノマーの比率を特定範囲内とした実施例1〜6によれば、十分に大きな溶解性を有する液晶ポリエステルが得られることが確認された。特に、HNAの比率を、上述のn/(n+n)の値が0.25未満となるような範囲内とした実施例3、4、5によれば、1回の固相重合で十分に高分子量化されて、流動開始温度の高い液晶ポリエステルが得られた。これに対して、HNA及びPHBを併用しなかった比較例1〜3は溶解性が十分なものではなかった。
【0102】
(液晶ポリエステルフィルムの製造)
実施例1〜6及び比較例1〜3で得た液晶ポリエステルを、それぞれ、NMPに溶解した透明な液晶ポリエステル溶液を攪拌及び脱泡した後、銅箔上に厚み300μmでバーコートにより塗布して、銅箔上に溶液層を形成させた。そして、ホットプレート上にて、80℃で1時間、さらに120℃で1時間の加熱して溶液層中の溶媒を除去した後、更に窒素雰囲気下、300℃で1時間熱処理した。次いで、銅箔をエッチングにより除去して、膜厚み25μmの液晶ポリエステルフィルムを得た。
【0103】
得られた液晶ポリエステルフィルムについて、上記の方法によりフィルム強度を評価したところ、実施例1〜6の液晶ポリエステルフィルムは良好なフィルム強度を示した。なかでも、HNAの比率を上述のn/(n+n)の値が0.25未満となるような範囲内とした実施例3、4、5の液晶ポリエステルフィルムは、特に優れたフィルム強度を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a1)で表されるモノマー単位A1と、
下記一般式(a2)で表されるモノマー単位A2と、
下記一般式(b)で表されるモノマー単位Bと、
下記一般式(c1)で表されるモノマー単位C1と、を有し、
モノマー単位全体に対して、前記モノマー単位A1及び前記モノマー単位A2の合計量の比率が30〜50モル%、前記モノマー単位Bの比率が25〜35モル%、前記モノマー単位C1の比率が25〜35モル%である、液晶ポリエステル。
【化1】


[式(a1)及び式(a2)中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基を示し、Arは置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示す。]
【化2】


[式(b)中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、置換基を有していてもよい1,3−フェニレン基又は置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示す。]
【化3】


[式(c1)中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、置換基を有していてもよい1,3−フェニレン基又は置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示し、Xは−O−又は−NH−を示す。]
【請求項2】
前記モノマー単位A1の数をn、前記モノマー単位A2の数をnとしたときに、n及びnが下記式(1)を満たす、請求項1記載の液晶ポリエステル。
0<n/(n+n)<0.95 ・・・(1)
【請求項3】
下記一般式(c2)で表されるモノマー単位C2を更に有し、モノマー単位全体に対して前記モノマー単位C1及び前記モノマー単位C2の合計量の比率が25〜35モル%である、請求項1又は2記載の液晶ポリエステル。
【化4】


[式(c2)中、Arは置換基を有していてもよいアリーレン基を示す。]
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の液晶ポリエステルを非プロトン性溶媒を含む溶媒に溶解した液晶ポリエステル溶液。
【請求項5】
前記液晶ポリエステルを、前記溶媒100重量部に対して0.01〜100重量部含有する、請求項4記載の液晶ポリエステル溶液。
【請求項6】
前記非プロトン性溶媒が、ハロゲン原子を有しない非プロトン性溶媒である、請求項4又は5記載の液晶ポリエステル溶液。
【請求項7】
前記非プロトン性溶媒の双極子モーメントが3以上5以下である、請求項4〜6の何れか一項に記載の液晶ポリエステル溶液。
【請求項8】
液晶ポリエステルを、
下記一般式(a1)で表されるモノマー単位A1と、
下記一般式(a2)で表されるモノマー単位A2と、
下記一般式(b)で表されるモノマー単位Bと、
下記一般式(c1)で表されるモノマー単位C1と、を有し、
モノマー単位全体に対して、前記モノマー単位A1及び前記モノマー単位A2の合計量の比率が30〜50モル%、前記モノマー単位Bの比率が25〜35モル%、前記モノマー単位C1の比率が25〜35モル%であるものとする、液晶ポリエステルの溶解性向上方法。
【化5】


[式(a1)及び式(a2)中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基を示し、Arは置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示す。]
【化6】


[式(b)中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、置換基を有していてもよい1,3−フェニレン基又は置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示す。]
【化7】


[式(c1)中、Arは置換基を有していてもよい1,4−フェニレン基、置換基を有していてもよい1,3−フェニレン基又は置換基を有していてもよい2,6−ナフタレン基を示し、Xは−O−又は−NH−を示す。]
【請求項9】
液晶ポリエステルを、前記モノマー単位A1の数をn、前記モノマー単位A2の数をnとしたときに、n及びnが下記式(1)を満たすようにする、請求項8記載の液晶ポリエステルの溶解性向上方法。
0<n/(n+n)<0.95 ・・・(1)
【請求項10】
液晶ポリエステルを、下記一般式(c2)で表されるモノマー単位C2を更に有し、モノマー単位全体に対して前記モノマー単位C1及び前記モノマー単位C2の合計量の比率が25〜35モル%であるものとする、請求項8又は9記載の液晶ポリエステルの溶解性向上方法。
【化8】


[式(c2)中、Arは置換基を有していてもよいアリーレン基を示す。]
【請求項11】
請求項4〜7の何れか一項に記載の液晶ポリエステル溶液からなる溶液層を支持基板上に形成し、該溶液層から溶媒を除去して、前記支持基板上に液晶ポリエステルフィルムを形成する、液晶ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項12】
請求項11記載の液晶ポリエステルフィルムの製造方法によって得られる、液晶ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−335813(P2006−335813A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159810(P2005−159810)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】