説明

液晶ポリエステルの製造方法

【課題】抜出口を有する反応器を用い、窒素原子を2個以上含む複素環状有機塩基化合物を触媒に用いて溶融重合を行うことにより、所定の液晶ポリエステルを製造する際、溶融重合物の固化物による抜出口の閉塞を防止する。
【解決手段】抜出口を有する反応器内で所定の原料モノマーを窒素原子を2個以上含む複素環式化合物の存在下に溶融重合させて、流動開始温度が220〜250℃である溶融重合物を得、この溶融重合物を抜出口から抜き出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融重合により液晶ポリエステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルを大量に製造する方法として、抜出口を有する反応器に原料モノマーを入れ、昇温しながら溶融重合させ、得られた溶融重合物を抜出口から抜き出した後、反応器を冷却し、次いで、これらの操作を繰り返す方法が知られている(例えば特許文献1参照)。また、耐衝撃性に優れる液晶ポリエステルを生産性良く製造する方法として、窒素原子を2個以上含む複素環式化合物を触媒に用いて溶融重合を行う方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−192403号公報
【特許文献2】特開2002−146003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐衝撃性に優れる液晶ポリエステルを生産性良く大量に得るべく、特許文献1に開示の如き抜出口を有する反応器を用いて回分式の溶融重合を繰り返す方法に、特許文献2に開示の如き窒素原子を2個以上含む複素環状有機塩基化合物を触媒に用いて溶融重合を行う方法を適用すると、特に、剛直性の高い液晶ポリエステルを得る場合、具体的には、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有し、全繰返し単位に占める主鎖に1,2−フェニレン骨格又は1,3−フェニレン骨格を含む繰返し単位の割合が0〜10モル%である液晶ポリエステルを得る場合、溶融重合物の流動性が低くなり易いため、抜出の際、溶融重合物が反応器内に残存し易くなる。そして、こうして反応器内に多く残存した溶融重合物は、続く冷却の際、徐々に抜出口に溜まりつつ固化し、さらに、次バッチの溶融重合における昇温の際、固化物が高分子量化して、もはや溶融し難くなるため、抜出口を閉塞し易くなる。その結果、次バッチの溶融重合物の抜出しが困難になり、すなわち、回分式の溶融重合を繰り返すことが困難になる。そこで、本発明の目的は、抜出口を有する反応器を用い、窒素原子を2個以上含む複素環状有機塩基化合物を触媒に用いて溶融重合を行うことにより、所定の液晶ポリエステルを製造する方法であって、溶融重合物の固化物による抜出口の閉塞を防止できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明は、抜出口を有する反応器内で原料モノマーを溶融重合させて、溶融重合物を得る工程(1)と、前記溶融重合物を前記抜出口から抜き出す工程(2)とを有する液晶ポリエステルの製造方法であって、前記原料モノマーが、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(1)と、芳香族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(2)と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(3)とを含むこと、前記原料モノマーに占める主鎖に1,2−フェニレン骨格又は1,3−フェニレン骨格を含む化合物(A)の割合が、0〜10モル%であること、前記溶融重合を、窒素原子を2個以上含む複素環式化合物の存在下に行うこと、及び前記溶融重合物の流動開始温度が、220〜250℃であることを特徴とする液晶ポリエステルの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、抜出口を有する反応器を用い、窒素原子を2個以上含む複素環状有機塩基化合物を触媒に用いて溶融重合を行うことにより、所定の液晶ポリエステルを製造する際、溶融重合物の固化物による抜出口の閉塞を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示すポリエステルであり、本発明では、液晶ポリエステルを製造するための原料モノマーとして、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合(重縮合)可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(1)と、芳香族ジカルボン酸及びその重合(重縮合)可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(2)と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの重合(重縮合)可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(3)とを用いる。これにより、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位とを有する液晶ポリエステルが得られる。
【0008】
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をエステル化(アルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換)してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロゲン化(ハロホルミル基に変換)してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシル化(アシルオキシカルボニル基に変換)してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化(アシルオキシル基に変換)してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化(アシルアミノ基に変換)してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0009】
化合物(1)としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸、及びそのヒドロキシル基をアシル化してなるものが好ましい。化合物(2)としては、芳香族ジカルボン酸が好ましい。化合物(3)としては、芳香族ジオール、及びその少なくとも1つのヒドロキシル基をアシル化してなるもの、芳香族ヒドロキシアミン、及びそのヒドロキシル基及び/又はアミノ基をアシル化してなるもの、並びに芳香族ジアミン、及びその少なくとも1つのアミノ基をアシル化してなるものが好ましい。
【0010】
また、化合物(1)〜(3)としては、それぞれ、下記式(1)〜(3)で表される化合物が好ましい。
【0011】
式(1):R11−O−Ar1−CO−R12
【0012】
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。R11は、水素原子又はアシル基を表す。R12は、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0013】
式(2):R21−CO−Ar2−CO−R22
【0014】
(Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。R21及びR22は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0015】
式(3):R31−X−Ar3−Y−R32
【0016】
(Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表す。Ar3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0017】
式(4):−Ar41−Z−Ar42
【0018】
(Ar41及びAr42は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0019】
11、R31又はR32で表されるアシルオキシル基の例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基及びベンゾイル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。R12、R21又はR22で表されるアルコキシル基の例としては、メトキシル基、エトキシル基、n−プロピルオキシル基、イソプロピルオキシル基、n−ブチルオキシル基、イソブチルオキシル基、s−ブチルオキシル基、t−ブチルオキシル基、n−ヘキシルオキシル基、2−エチルヘキシルオキシル基、n−オクチルオキシル基及びn−デシルオキシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。R12、R21又はR22で表されるアリールオキシル基の例としては、フェニルオキシル基、o−トリルオキシル基、m−トリルオキシル基、p−トリルオキシル基、1−ナフチルオキシル基及び2−ナフチルオキシル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。R12、R21又はR22で表されるアシルオキシル基の例としては、ホルミルオキシル基、アセチルオキシル基、プロピオニルオキシル基及びベンゾイルオキシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。R12、R21又はR22で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0020】
Zで表されるアルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0021】
Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子を置換してもよいハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子を置換してもよいアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子を置換してもよいアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0022】
化合物(1)としては、式(1)において、Ar1がp−フェニレン基であるもの、及びAr1が2,6−ナフチレン基であるものが好ましい。また、化合物(1)としては、式(1)において、R11及びR12がそれぞれヒドロキシル基であるもの、並びにR11がアシル基であり、R12がヒドロキシル基であるものが好ましい。
【0023】
化合物(2)としては、式(2)において、Ar2がp−フェニレン基であるもの、Ar2がm−フェニレン基であるもの、及びAr2が2,6−ナフチレン基であるものが好ましい。また、化合物(2)としては、式(2)において、R21及びR22がそれぞれヒドロキシル基であるものが好ましい。
【0024】
化合物(3)としては、式(3)において、Ar3がp−フェニレン基であるもの、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるものが好ましい。また、化合物(3)としては、式(3)において、X及びYがそれぞれ酸素原子であるもの、並びにXが酸素原子であり、Yがイミノ基であるものが好ましい。また、化合物(3)としては、式(3)において、R31及びR32がそれぞれ水素原子であるもの、R31が水素原子であり、R32がアシル基であるもの、R31がアシル基であり、R32が水素原子であるもの、並びにR31及びR32がそれぞれアシル基であるものが好ましい。
【0025】
化合物(1)の使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常30モル%以上、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%である。化合物(2)の使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。化合物(3)の使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常35モル%以下、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。化合物(1)の使用量が多いほど、液晶ポリエステルの溶融流動性や耐熱性や剛性が向上し易いが、あまり多いと、液晶ポリエステルの溶融温度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易く、また、液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0026】
化合物(2)の使用量と化合物(3)の使用量との割合は、[化合物(2)の使用量]/[化合物(3)の使用量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0027】
なお、化合物(1)〜(3)は、それぞれ独立に、2種以上用いられてもよい。また、原料モノマーとして、化合物(1)〜(3)以外の化合物を用いてもよいが、その使用量は、全原料モノマーの合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0028】
本発明では、全原料モノマーに占める主鎖に1,2−フェニレン骨格又は1,3−フェニレン骨格を含む化合物(A)の割合を0〜10モル%、好ましくは0〜8モル%、より好ましくは0〜6モル%とする。これにより、剛直性が高く、溶融流動性や耐熱性や剛性に優れる液晶ポリエステルを得ることができ、また、本発明による抜出口の閉塞防止効果が特に効果的に発揮される。なお、全原料モノマーに占める化合物(A)の割合は、液晶ポリエステルの溶融温度を低くして、成形に必要な温度を低くし、また、液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性を高くする観点からは、通常2モル%以上、好ましくは4モル%以上である。
【0029】
化合物(A)は、換言すれば、置換基や融合環を有していてもよい1,2−フェニレン基又は1,3−フェニレン基を含む化合物であり、化合物(1)である化合物(A)の例としては、下記式(1A)で示される化合物が挙げられ、化合物(2)で化合物(A)の例としては、下記式(2A)で示される化合物が挙げられ、化合物(3)である化合物位(A)の例としては、下記式(3A)で示される化合物が挙げられる。
【0030】
式(1A):R11−O−Ar1A−CO−R12
【0031】
(Ar1Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基又は2,3−ナフチレン基を表す。R11は、水素原子又はアシル基を表す。R12は、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1Aで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0032】
式(2A):R21−CO−Ar2A−CO−R22
【0033】
(Ar2Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基又は2,3−ナフチレン基を表す。R21及びR22は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1Aで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0034】
式(3A):R31−X−Ar3A−Y−R32
【0035】
(Ar3Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基又は2,3−ナフチレン基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表す。Ar3Aで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0036】
本発明では、触媒として窒素原子を2個以上含む複素環式化合物を用い、この化合物の存在下に原料モノマーを溶融重合させる(工程(1))。これにより、耐衝撃性に優れる液晶ポリエステルを生産性良く製造することができ、また、本発明による抜出口の閉塞防止効果が特に効果的に発揮される。
【0037】
窒素原子を2個以上含む複素環式化合物としては、例えば、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、ジアジン化合物、トリアジン化合物、ジピリジル化合物、フェナントロリン化合物、ジアザビシクロアルカン化合物、ジアザビシクロアルケン化合物、アミノピリジン化合物及びプリン化合物が挙げられ、それらの2種以上を用いてもよい。中でもイミダゾール化合物が好ましい。
【0038】
イミダゾール化合物の例としては、下記式(I)で示される化合物が挙げられる。
【0039】
【化1】

【0040】
(R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
【0041】
1〜R4のいずれかで表されるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10、好ましくは1〜4である。R1〜R4のいずれかで表されるアリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20、好ましくは6〜10である。R1〜R4のいずれかで表されるアラルキル基の例としては、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基及び3−フェニルプロピル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20、好ましくは6〜10である。
【0042】
イミダゾール化合物としては、式(I)において、R1がアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、R2〜R4がそれぞれ水素原子であるものが好ましく、R1がアルキル基であり、R2〜R4がそれぞれ水素原子であるものがより好ましい。
【0043】
トリアゾール化合物の例としては、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール及びベンゾトリアゾールが挙げられる。ジアジン化合物の例としては、ピリダジン(1,2−ジアジン)、ピリミジン(1,3−ジアジン)及びピラジン(1,4−ジアジン)が挙げられる。トリアジン化合物の例としては、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン及び1,3,5−トリアジンが挙げられる。ジピリジル化合物の例としては、2,2’−ジピリジル及び4,4’−ジピリジルが挙げられる。フェナントロリン化合物の例としては、1,7−フェナントロリン(1,5−ジアザフェナントレン)、1,10−フェナントロリン(1,5−ジアザフェナントレン)及び4,7−フェナントロリン(1,8−ジアザフェナントレン)が挙げられる。ジアザビシクロアルカン化合物の例としては、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが挙げられる。ジアザビシクロアルケン化合物の例としては、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが挙げられる。アミノピリジン化合物の例としては、N,N−ジメチルアミノピリジンの如きN,N−ジアルキルピリジンが挙げられる。プリン化合物の例としては、プリン及び7−メチルプリンの如き7−アルキルプリンが挙げられる。
【0044】
窒素原子を2個以上含む複素環式化合物の使用量は、全原料モノマーの合計に対して、通常0.002〜2モル%、好ましくは0.006〜1モル%、より好ましくは0.02〜0.6モル%である。この使用量があまり少ないと、液晶ポリエステルの耐衝撃性や生産性が不十分になり易く、あまり多いと、液晶ポリエステルが着色し易くなったり、重合を制御し難くなったりする。
【0045】
そして、本発明では、抜出口を有する反応器を用いて溶融重合を行い(工程(1))、溶融重合物の流動開始温度が220〜250℃、好ましくは230〜250℃となった時点で、溶融重合物を抜出口から抜き出す(工程(2))。これにより、反応器内に残存する溶融重合物の量を低減することができ、その固化物による抜出口の閉塞を防止することができる。抜き出される溶融重合物の流動開始温度があまり高いと、反応器内に残存する溶融重合物の量が多くなり易く、その固化物による抜出口の閉塞が起こり易くなり、あまり低いと、次いで固相重合を行っても、得られる液晶ポリエステルの耐熱性や剛性が不十分になり易い。
【0046】
抜き出される溶融重合物の流動開始温度の調整は、原料モノマーの組成や、窒素原子を2個以上含む複素環式化合物の種類や量、添加時期等に応じて、溶融重合の温度や時間を調節することにより行うことができる。抜き出される溶融重合物の流動開始温度が250℃を超える場合は、これを下げるべく、溶融重合の最高温度を下げたり、その最高温度における保持時間を短くしたりすればよく、抜き出される溶融重合物の流動開始温度が220℃に満たない場合は、これを上げるべく、溶融重合の最高温度を上げたり、その最高温度における保持時間を長くしたりすればよい。
【0047】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0048】
溶融重合物の抜出しは、必要により反応器内を加圧することにより行われ、その圧力は、ゲージ圧で表して、好ましくは0.005〜0.2MPa−G、より好ましくは0.007〜0.2MPa−Gである。
【0049】
こうして抜き出された溶融重合物は、冷却して固化させ、必要により粉砕した後、さらに固相重合させてもよく、これにより、耐熱性や剛性に優れる液晶ポリエステルを得ることができる。固相重合は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下、180〜280℃で5分〜30時間行うことが好ましい。固相重合温度は、より好ましくは180〜240℃、さらに好ましくは200〜240℃である。固相重合温度があまり低いと、重合が進み難く、あまり高いと、液晶ポリエステルが着色し易くなる。
【実施例】
【0050】
〔流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、試料約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、試料を溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を測定した。
【0051】
実施例1
(1バッチ目のアシル化)
攪拌機、窒素ガス導入装置、温度計及び還流冷却器を備えたアシル化反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸を60モル%、テレフタル酸を15モル%、イソフタル酸を5モル%、及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルを20モル%の割合で入れると共に、アシル化剤として無水酢酸を、p−ヒドロキシ安息香酸のヒドロキシル基及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルのヒドロキシル基の合計量に対し、1.1モル倍入れた。次いで、1−メチルイミダゾールを、p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルの合計量に対し、0.019モル%入れ、アシル化反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで30分かけて昇温し、145℃で1時間還流させることにより、1バッチ目のアシル化を行った。
【0052】
(1バッチ目の溶融重合と抜出し)
1バッチ目のアシル化で得られたアシル化反応混合物を、これにさらに1−メチルイミダゾールを、先に用いたp−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルの合計量に対し、0.187モル%入れ、抜出口を有する重合反応器に移送し、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から300℃まで4時間5分かけて昇温し、1バッチ目の溶融重合を行った。次いで、直ちに、重合反応器の抜出口から、内容物である溶融重合物を抜き出した。この溶融重合物の流動開始温度は、245℃であった。また、重合反応器の抜出口を目視で観察したところ、溶融重合物の固化物による抜出口の閉塞は見られなかった。
【0053】
(2バッチ目のアシル化)
1バッチ目の溶融重合の間に、1バッチ目のアシル化と同様に、2バッチ目のアシル化を行った。
【0054】
(2バッチ目の溶融重合と抜出し)
1バッチ目の抜出し終了後、重合反応器をそのジャケットに水を流すことにより150℃まで冷却し、1バッチ目の溶融重合と同様に、2バッチ目のアシル化反応混合物を用いて、2バッチ目の溶融重合を行った。次いで、直ちに、重合反応器の抜出口から、内容物である溶融重合物を抜き出した。この溶融重合物の流動開始温度は、248℃であった。また、重合反応器の抜出口を目視で観察したところ、溶融重合物の固化物による抜出口の閉塞は見られなかった。
【0055】
(3バッチ目のアシル化)
2バッチ目の溶融重合の間に、1バッチ目のアシル化と同様に、3バッチ目のアシル化を行った。
【0056】
(3バッチ目の溶融重合と抜出し)
2バッチ目の抜出し終了後、重合反応器をそのジャケットに水を流すことにより150℃まで冷却し、1バッチ目の溶融重合と同様に、3バッチ目のアシル化反応混合物を用いて、3バッチ目の溶融重合を行った。次いで、直ちに、重合反応器の抜出口から、内容物である溶融重合物を抜き出した。この溶融重合物の流動開始温度は、248℃であった。また、重合反応器の抜出口を目視で観察したところ、溶融重合物の固化物による抜出口の閉塞は見られなかった。
【0057】
比較例1
(1バッチ目のアシル化)
攪拌機、窒素ガス導入装置、温度計及び還流冷却器を備えたアシル化反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸を60モル%、テレフタル酸を15モル%、イソフタル酸を5モル%、及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルを20モル%の割合で入れると共に、アシル化剤として無水酢酸を、p−ヒドロキシ安息香酸のヒドロキシル基及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルのヒドロキシル基の合計量に対し、1.1モル倍入れた。次いで、1−メチルイミダゾールを、p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルの合計量に対し、0.019モル%入れ、アシル化反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで30分かけて昇温し、145℃で1時間還流させることにより、1バッチ目のアシル化を行った。
【0058】
(1バッチ目の溶融重合と抜出し)
1バッチ目のアシル化で得られたアシル化反応混合物を、これにさらに1−メチルイミダゾールを、先に用いたp−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸及び4,4’−ジヒドロキシビフェニルの合計量に対し、0.187モル%入れ、抜出口を有する重合反応器に移送し、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで4時間5分かけて昇温し、310℃で30分保持するすることにより、1バッチ目の溶融重合を行った。次いで、直ちに、重合反応器の抜出口から、内容物である溶融重合物を抜き出した。この溶融重合物の流動開始温度は、258℃であった。また、重合反応器の抜出口を目視で観察したところ、溶融重合物の固化物による抜出口の閉塞が見られた。
【0059】
なお、1バッチ目の溶融重合の間に、1バッチ目のアシル化と同様に、2バッチ目のアシル化を行ったが、1バッチ目の抜出しで、抜出口の閉塞が見られたため、2バッチ目の溶融重合は行わなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜出口を有する反応器内で原料モノマーを溶融重合させて、溶融重合物を得る工程(1)と、前記溶融重合物を前記抜出口から抜き出す工程(2)とを有する液晶ポリエステルの製造方法であって、前記原料モノマーが、芳香族ヒドロキシカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(1)と、芳香族ジカルボン酸及びその重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(2)と、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン及びそれらの重合可能な誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(3)とを含むこと、前記原料モノマーに占める主鎖に1,2−フェニレン骨格又は1,3−フェニレン骨格を含む化合物(A)の割合が、0〜10モル%であること、前記溶融重合を、窒素原子を2個以上含む複素環式化合物の存在下に行うこと、及び前記溶融重合物の流動開始温度が、220〜250℃であることを特徴とする液晶ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記化合物(1)が下記式(1)で表される化合物であり、前記化合物(2)が下記式(2)で表される化合物であり、前記化合物(3)が下記式(3)で表される化合物である請求項1に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
式(1):R11−O−Ar1−CO−R12
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。R11は、水素原子又はアシル基を表す。R12は、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(2):R21−CO−Ar2−CO−R22
(Ar2は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。R21及びR22は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(3):R31−X−Ar3−Y−R32
(Ar3は、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表す。Ar3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(4):−Ar41−Z−Ar42
(Ar41及びAr42は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項3】
前記化合物(A)が、下記式(1A)、(2A)又は(3A)で示される化合物である請求項1又は2に記載の液晶ポリエステルの製造方法。
式(1A):R11−O−Ar1A−CO−R12
(Ar1Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基又は2,3−ナフチレン基を表す。R11は、水素原子又はアシル基を表す。R12は、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1Aで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(2A):R21−CO−Ar2A−CO−R22
(Ar2Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基又は2,3−ナフチレン基を表す。R21及びR22は、それぞれ独立に、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、アシルオキシル基又はハロゲン原子を表す。Ar1Aで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
式(3A):R31−X−Ar3A−Y−R32
(Ar3Aは、o−フェニレン基、m−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基又は2,3−ナフチレン基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子又はアシル基を表す。Ar3Aで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項4】
前記複素環式化合物が、下記式(I)で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の液晶ポリエステルの製造方法。
【化1】

(R1〜R4は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)

【公開番号】特開2013−28700(P2013−28700A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165187(P2011−165187)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】