説明

液晶ポリエステル樹脂組成物

【課題】優れた耐熱性を維持したまま、薄肉流動性に優れ、低反り性を有する成形体を製造し得る液晶ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】液晶ポリエステル樹脂100重量部に対し、繊維状無機充填材を10〜100重量部および板状無機充填材を10〜100重量部を配合してなる、所定の剪断速度および温度における見かけの溶融粘度が10〜100Pa・secである液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂が所定の繰り返し構造単位を少なくとも30モル%含み、流動温度が270℃〜400℃であり、繊維状無機充填材の平均繊維径が0.1〜10μmかつ数平均繊維長が1〜100μmであり、板状無機充填材の平均粒径が5〜20μmであり、繊維状無機充填材の配合量(F)と板状無機充填材の配合量(P)との比(F/P)が、0<F/P<0.5または1.6<F/P<10である液晶ポリエステル樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル樹脂組成物、およびそれを用いた成形体に関する。さらに詳しくは、本発明は、優れた耐熱性を維持したまま、薄肉流動特性に優れ、低反り性を有する成形体を製造し得る液晶ポリエステル樹脂組成物、およびそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、分子が剛直なため溶融状態でも絡み合いを起こさず液晶状態を有するポリドメインを形成し、成形時の剪断により分子鎖が樹脂の流動方向に著しく配向する挙動を示し、一般に溶融液晶型(サーモトロピック液晶)ポリマーと呼ばれている。液晶ポリエステルは、この特異な挙動のため溶融流動性に優れ、分子構造によっては高い荷重たわみ温度、連続使用温度を有し、260℃以上の溶融ハンダに浸漬しても変形や発泡が生じない。このため液晶ポリエステルに、ガラス繊維に代表される繊維状補強材やタルクに代表される無機充填材などを充填した樹脂組成物は、薄肉部あるいは複雑な形状の電気・電子部品に好適な材料である。
【0003】
しかしながら、近年、製品の小型化、薄肉化が進み、電気・電子部品、とりわけコネクター部品においては耐熱性、機械的特性や流動性を維持したまま、更なる低ソリ性が求められている。例えば、特許第3045065号公報には、液晶ポリエステル樹脂に数平均繊維長0.12〜0.25mmのガラス繊維を充填してなる液晶ポリエステル樹脂組成物が開示されているが、数平均繊維長が長いガラス繊維を使用しているため、0.2mm以下の薄肉部を有する成形体を製造する際には、流動性が悪く、反り量が大きくなるという問題があった。また、特開2000−178443号公報には、液晶ポリマーに繊維状充填材及び粒状充填材を配合してなる液晶ポリマー組成物が開示されているが、液晶ポリマー組成物の溶融粘度が高いため、成形時の残留応力によるソリが発生し、ソリ低減効果が不十分となる、という問題があった。さらに、特開平10−219085号公報には、液晶ポリエステルに繊維状及び板状の無機充填材を配合比(繊維状/板状)1.7で配合した液晶ポリエステル樹脂組成物が開示されているが、流動性および成形体とした場合の反り量については、なお改善の余地が残されていた。従って、優れた耐熱性を維持したまま、流動性に優れ、低反り性を有する成形体を製造し得る樹脂組成物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3045065号公報
【特許文献2】特開2000−178443号公報
【特許文献3】特開平10−219085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、優れた耐熱性を維持したまま、薄肉流動性に優れ、低反り性を有する成形体を製造し得る液晶ポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記したような問題点がない液晶ポリエステル樹脂組成物を見出すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の流動温度を有する液晶ポリエステル樹脂に、特定の繊維状および板状の無機充填材を、特定の重量比で配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物が、優れた耐熱性を維持したまま、薄肉流動性に優れ、低反り性を有する成形体を製造し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、液晶ポリエステル樹脂100重量部に対し、繊維状無機充填材を10〜100重量部および板状無機充填材を10〜100重量部を配合してなる、剪断速度が1000sec-1、かつ流動温度+40℃の温度における見かけの溶融粘度が10〜100Pa・secである液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂が下記A1式で表される繰り返し構造単位を少なくとも30モル%含み、流動温度が270℃〜400℃であり、繊維状無機充填材の平均繊維径が0.1〜10μmかつ数平均繊維長が1〜100μmであり、板状無機充填材の平均粒径が5〜20μmであり、繊維状無機充填材の配合量(F)と板状無機充填材の配合量(P)との比(F/P)が、0<F/P<0.5または1.6<F/P<10であることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いることにより、耐熱性を維持したまま、薄肉流動性に優れ、低反り性を有する成形体を得ることが可能となる。よって、従来よりも容易に0.2mm以下の薄肉部を持つ超薄肉成形品、とりわけコネクターを効率よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】コネクター金型の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で使用される液晶ポリエステル樹脂は、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、(1)1種または2種以上の芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるもの、(2)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせからなるもの、(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールの組み合わせからなるもの、(4)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの、等が挙げられ、400℃以下の温度で異方性溶融体を形成するものである。なお、これらの芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよび芳香族ヒドロキシカルボン酸の代わりに、それらのエステル形成性誘導体が使用されることもある。
【0011】
該液晶ポリエステルの繰り返し構造単位としては下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:
【0013】
【化1】

【0014】
芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:
【0015】
【化2】

【0016】
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
ここで、式中、X1はハロゲン原子、アルキル基を表し、X2はハロゲン原子、アルキル基、アリル基を表し、X3は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基などの直鎖脂肪族基、t-ブチル基などの分岐脂肪族基が挙げられる。アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が挙げられ、例えば、ベンゼン基、ナフタレン基などが挙げられる。
【0020】
耐熱性、機械的特性、加工性のバランスから、本発明発明で使用される液晶ポリエステルは、前記(A1)で表される繰り返し構造単位を少なくとも30モル%含むものである。具体的には、繰り返し構造単位の組み合わせとしては、下記(a)〜(f)のものが挙げられる。
(a):(A1)、(B1)、(C1)、または(A1)、(B1)と(B2)の混合物、(C1)。
(b):(A1)、(A2)。
(c):(a)の構造単位の組み合わせのものにおいて、A1の一部をA2で置きかえたもの。
(d):(a)の構造単位の組み合わせのものにおいて、B1の一部をB3で置きかえたもの。
(e):(a)の構造単位の組み合わせのものにおいて、C1の一部をC3で置きかえたもの。
(f):(b)の構造単位の組み合わせのものに、B1とC2の構造単位を加えたもの。
【0021】
本発明で用いる液晶ポリエステル樹脂の製造方法は、公知の方法を採用することができる。例えば、上記(a)、(b)の液晶ポリエステル樹脂の製造方法については、特公昭47−47870号公報、特公昭63−3888号公報等に記載されている。
【0022】
本発明で使用される液晶ポリエステル樹脂は、流動温度が270〜400℃である液晶ポリエステル樹脂であり、流動温度が280〜380℃である液晶ポリエステル樹脂であることが好ましい。液晶ポリエステルの流動温度が270℃未満である場合、耐熱性が不十分となる。また、流動温度が400℃より大きい場合、液晶ポリエステルの熱分解等により成形加工が困難となり良好な成形品を得ることができない。
【0023】
また、本発明で使用される液晶ポリエステル樹脂は、流動温度が310℃〜400℃である液晶ポリエステル樹脂(A)と、流動温度が270℃〜370℃である液晶ポリエステル樹脂(B)との混合物であってもよい。この場合、液晶ポリエステル樹脂(A)の流動温度は液晶ポリエステル樹脂(B)の流動温度よりも高く、液晶ポリエステル樹脂(A)の流動温度と液晶ポリエステル樹脂(B)の流動温度との差が10〜60℃が好ましく、20〜60℃であることがより好ましい。流動温度の差が10℃未満である場合、目的とする低ソリ性、薄肉流動性などの改良効果が得られない傾向がある。また、流動温度の差が60℃より大きい場合、液晶ポリエステル樹脂(B)の熱分解等により成形加工が困難となり良好な成形品を得ることができなくなる傾向がある。
【0024】
上述の液晶ポリエステル樹脂(A)と液晶ポリエステル樹脂(B)とを混合して用いる場合、液晶ポリエステル樹脂(A)および(B)が、それぞれ前記の構造単位(I)、(II)、(III)、および(IV)からなり、それぞれ(II)/(I)のモル比率が0.2以上1.0以下であることが好ましく、(III)+(IV)/(II)のモル比率が0.9以上1.1以下であることが好ましく、(IV)/(III)のモル比率が0より大きく1以下であることが好ましく、液晶ポリエステル(A)の(IV)/(III)のモル比率(α)と、液晶ポリエステル(B)の(IV)/(III)のモル比率(β)との比、モル比率(α)/モル比率(β)が0.1以上0.5以下であることが好ましい。
【0025】
上述の液晶ポリエステル樹脂(A)と液晶ポリエステル樹脂(B)とを混合して用いる場合、その配合比率は、液晶ポリエステル(A)100重量部に対し、液晶ポリエステル(B)10〜150重量部であることが好ましく、より好ましくは10〜100重量部である。液晶ポリエステル(B)の配合比率が10重量部未満の場合、目的とする低ソリ性、薄肉流動性などの改良効果が得られない傾向があり、また、液晶ポリエステル(B)の配合比率が150重量部よりも大きい場合、耐熱性が低下したり、機械物性が低下する傾向がある。
【0026】
本発明で用いられる繊維状の無機充填材は、平均繊維径が0.1〜10μmであり、好ましくは0.5〜10μmである。平均繊維径が0.1μm未満である場合、目的とする低反り性と耐熱性の向上効果が不十分となる。また、平均繊維径が10μmより大きい場合、流動性と低反り性の向上効果が不十分となる。また、数平均繊維長は1〜100μmであり、好ましくは5〜90μmである。数平均繊維長が1μm未満である場合、目的とする耐熱性、力学的強度の向上効果が不十分となる。また、平均繊維長が100μmより大きい場合、低ソリ性の向上効果が低下し、成形品の外観、成形品中での均一分散性が悪くなる。
【0027】
繊維状の無機充填材としては、例えば、ガラス繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中で、ガラス繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカが好ましく使用される。これらは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0028】
本発明で用いられる板状の無機充填材とは、化学結合によって平面層状の結晶構造を持ち、各層間は弱いファンデルワールス力で結合しているため、へき開が生じやすく、粉砕時に粒子が板状になる無機物である。ここで、板状とは、長径と厚みとの比が2以上であることを意味する。
【0029】
本発明で使用される板状の無機充填材の平均粒径は、5〜20μmであり、好ましくは10〜20μmである。平均粒径が5μm未満の場合、目的とする低反り性、耐熱性の向上効果が不十分となる。また、平均粒径が20μmより大きい場合、成形品の外観、成形品中での均一分散性などの問題が生じる。
【0030】
板状の無機充填材としては、例えば、タルク、マイカ、カオリンクレー、ドロマイトなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中で、タルク、マイカが好ましく使用される。これらは、単独で用いても、2種以上を同時に使用してもよい。
【0031】
繊維状の無機充填材の配合割合は、液晶ポリエステル樹脂100重量部に対し、10〜100重量部であり、好ましくは10〜70重量部である。また、板状の無機充填材の配合割合は、液晶ポリエステル100重量部に対し、10〜100重量部であり、好ましくは10〜70重量部である。繊維状または板状の無機充填材の配合割合が10重量部未満の場合、薄肉流動性の改良効果はあるものの、低反り性と耐熱性の向上効果が不十分となる。また、繊維状または板状の無機充填材の配合割合が100重量部よりも多い場合は、薄肉流動性の改良効果が不十分となるうえ、成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる。
【0032】
該繊維状無機充填材の配合量(F)と該板状無機充填材の配合量(P)との比(F/P)は0<F/P<0.5、もしくは1.6<F/P<10であり、好ましくは0.1<F/P<0.5、もしくは1.6<F/P<6である。該繊維状無機充填材の配合量(F)と該板状無機充填材の配合量(P)との比(F/P)が0.5≦F/P≦1.6である場合、およびF/P≧10である場合、低ソリ性と溶融粘度の安定性とのバランスが悪くなる。
【0033】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、下記に定義される流動温度+40℃の温度における剪断速度が1000sec-1の見かけの溶融粘度が10〜100Pa・secであり、10〜50Pa・secであることが好ましく、10〜30Pa・secであることがより好ましい。100Pa・secよりも見かけの溶融粘度が高い場合、薄肉流動性が悪くなり、ショートショット不良や金型内のコアピン破損のおそれがある。また、10Pa・secよりも見かけの溶融粘度が低い場合、バリ不良などの問題が生じる。ここで、流動温度は、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、100kg/cm2の荷重下において、4℃/分の昇温速度で加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・sを示す温度を意味する。
【0034】
なお、本発明で用いられる液晶ポリエステル樹脂組成物に対して、本発明の目的を損なわない範囲でガラスビーズなどの無機充填材;フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などの通常の添加剤を添加してもよい。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有するものを添加してもよい。
【0035】
さらに、少量の熱可塑性樹脂、たとえば、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミドなど、あるいは少量の熱硬化性樹脂、たとえば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などを添加してもよい。
【0036】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を得るための原料成分の配合手段は特に限定されない。液晶ポリエステル、繊維状および板状の無機充填材、さらに必要に応じて無機充填材、離型改良剤、熱安定剤などの各成分を各々別々に溶融混合機に供給するか、またはこれらの原料成分を乳鉢、ヘンシェルミキサー、ボールミル、リボンブレンダーなどを利用して予備混合してから溶融混合機に供給してもよい。また、液晶ポリエステルと繊維状無機充填材、液晶ポリエステルと板状無機充填材とを別個に溶融混合機に供給してペレット化し、ペレット状態で両者を混合して、所定の配合量とすることもできる。
【0037】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いることにより、優れた耐熱性を維持したまま、優れた薄肉流動性および低反り性を有する成形体を製造することが可能となり、従来より容易に肉厚が0.2mm以下の超薄肉成形品を製造することが可能となる。このようにして得られる超薄肉成形品は、反り量が0.05mm未満の低反り性を有する成形体である。
【0038】
よって、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、コネクター、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップ、発振子、プリント配線板、コンピュータ関連部品等の電気・電子部品;VTR、テレビ、アイロン、エアコン、ステレオ、掃除機、冷蔵庫、炊飯器、照明器具等の家庭電気製品部品;ランプリフレクター、ランプホルダー等の照明器具部品;コンパクトディスク、レーザーディスク、スピーカー等の音響製品部品;光ケーブル用フェルール、電話機部品、ファクシミリ部品、モデム等の通信機器部品;分離爪、ヒータホルダー等の複写機、印刷機関連部品;インペラー、ファン歯車、ギヤ、軸受け、モーター部品及びケース等の機械部品;自動車用機構部品、エンジン部品、エンジンルーム内部品、電装部品、内装部品等の自動車部品、マイクロ波調理用鍋、耐熱食器等の調理用器具;床材、壁材などの断熱、防音用材料、梁、柱などの支持材料、屋根材等の建築資材、または土木建築用材料;航空機、宇宙機、宇宙機器用部品;原子炉等の放射線施設部材、海洋施設部材、洗浄用治具、光学機器部品、バルブ類、パイプ類、ノズル類、フィルター類、膜、医療用機器部品及び医療用材料、センサー類部品、サニタリー備品、スポーツ用品、レジャー用品などに好適に用いられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明が実施例により限定されるものではないことは言うまでもない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0040】
(1)成形収縮率、異方性比
1辺がフィルムゲートで、各辺64mm、厚み3mmの平板試験片金型を用いて試験片を作成し、成形品の各辺の長さをマイクロメーターで測定した。この測定値と常温時の金型寸法との差を金型寸法で除することにより各辺の成形収縮率を求め、樹脂の流動方向の2辺についての平均値を流動方向の成形収縮率(MD)、樹脂の流動方向と直行する2辺についての平均値を直角方向の成形収縮率(TD)とした。また、流動方向の成形収縮率(MD)を直角方向の成形収縮率(TD)で除することにより異方性比(MD/TD)を求めた。ここで、異方性比は1に近いほど異方性が小さいことを示している。
【0041】
(2)引張強度
ASTM4号引張ダンベルを用いて、ASTM D638に準拠して測定した。
【0042】
(3)曲げ弾性率
幅12.7mm、長さ127mm、厚さ6.4mmの棒状試験片を用いて、ASTM D790に準拠して測定した。
【0043】
(4)荷重たわみ温度(TDUL)
幅6.4mm、長さ127mm、厚さ12.7mmの棒状試験片を用いて、ASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/minで測定した。
【0044】
(5)流動温度
内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータ(島津製作所製CFT−500型)を用い、測定サンプルを2g秤量して装置にセットし、100kg/cm2の荷重下において、4℃/分の昇温速度で280℃から昇温しながら溶融粘度を測定した。溶融粘度が4800Pa・sを示す温度を記録し流動温度とした。
【0045】
(6)溶融粘度
内径0.5mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータ(東洋精機製作所製キャピログラフ1B)を用い、所定の温度に設定後、測定サンプルを8g秤量して装置にセットし、剪断速度1000sec-1における溶融粘度を測定した。
【0046】
(7)反り量
図1に示すコネクター金型を用い(端子部肉厚0.15mm)、射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH−1000型)で射出速度200mm/sec、保持圧力50MPaの条件で試料を成形した。取り出した成形品を定盤において、ゲート側から反ゲート側まで1mmごとに定盤からの高さをマイクロメーターで測定、ゲート側の位置を基準面として、各測定値の基準面からの変位を求めた。これを、最小自乗法プログラムによりソリ形状を求め、その最大値を各成形品のソリ量とし、5個の成形品の平均値をもって反り量とした。
【0047】
実施例1
液晶ポリエステル樹脂として、パラヒドロキシ安息香酸:4,4’−ジヒドロキシジフェニル:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比が60:20:15:5であり、前述の方法で定義された流動温度が321℃であるLCP1と、パラヒドロキシ安息香酸:4,4’−ジヒドロキシジフェニル:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比が60:20:12:8であり、前述の方法で定義された流動温度が290℃であるLCP2とを60/40の比率で混合したものを用い、これに、繊維状無機充填材として、GF1(ガラス繊維:セントラル硝子(株)製EFDE50−01、数平均繊維長50μm、数平均繊維径6μm)、板状無機充填材として、タルク1(タルク:日本タルク(株)製X−50、平均粒径14.5μm)とを表1に示す組成でヘンシェルミキサーで混合後、二軸押し出し機(池貝鉄工(株)製PCM−30型)を用いて、シリンダー温度330℃で造粒し、液晶ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0048】
これらの液晶ポリエステル樹脂組成物を120℃で12時間乾燥後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製PS40E5ASE型)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃で64mm×64mm×3mm平板試験片、ASTM4号引張ダンベル、棒状試験片、JIS K7113(1/2)号試験片、およびコネクターを成形した。これらの試験片を用い、成形収縮率および異方性比、引張強度、曲げ弾性率、TDUL、およびソリ量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0049】
比較例1、2
液晶ポリエステルとしてLCP1、繊維状無機充填材としてGF3(ガラス繊維:セントラル硝子(株)製EFH75−01、数平均繊維長75μm、数平均繊維径11μm)、また板状無機充填材を含まない樹脂組成物(比較例1)、および液晶ポリエステルとしてLCP1、板状無機充填材にタルク1、また繊維状無機充填材を含まない樹脂組成物(比較例2)を用いた以外は実施例1と同様にして試験片を作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0050】
実施例2,3
繊維状無機充填材として、GF1に替えてウィスカ1(ホウ酸アルミニウムウィスカ:四国化成工業(株)製アルボレックスY、数平均繊維長20μm、数平均繊維径0.7μm)を用いたもの(実施例2)、繊維状無機充填材としてGF1に替えてGF2(ガラス繊維:セントラル硝子(株)製EFDE90−01、数平均繊維長90μm、数平均繊維径6μm)を用いたもの(実施例3)について、実施例1と同様にして試験片を作製し、測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
比較例3
液晶ポリエステル樹脂としてLCP1、繊維状無機充填材としてGF2、板状無機充填材をタルク2(タルク:日本タルク(株)製Sタルク、平均粒径10μm)に代えた(繊維状無機充填材/板状無機充填材との比=1.5)以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、測定を行なった。結果を表1に示す。
【0052】
比較例4
繊維状無機充填材としてGF4(ガラス繊維:旭ガラスファイバー(株)製CS03JAPX−1、数平均繊維長3mm、数平均繊維径10μm)、板状無機充填材としてタルク1を用いた以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、測定を行なった。結果を表1に示す。
【0053】
比較例5
液晶ポリエステル樹脂として、パラヒドロキシ安息香酸:4,4’−ジヒドロキシジフェニル:ハイドロキノン:テレフタル酸:イソフタル酸のモル比が40:6.9:23.1:16.4:13.6であり、前述の方法で定義された流動温度が308℃であるLCP3を用い、繊維状無機充填材としてGF2、板状無機充填材としてタルク1を用いた以外は、実施例1と同様にして試験片を作製し、測定を行なった。結果を表1に示す。
【0054】
実施例1は、比較例1と比較して、異方性が強い(異方性比が小さい)にもかかわらずソリ量が小さく、優れた力学特性、耐熱性を有することがわかる。一方、比較例1はソリ量が0.05mmとなり、実用に耐えない。また、比較例2は実施例1と同様、異方性を有するが、強度が低く、ソリ量測定のためのコネクターが成形できず、実用に耐えない。実施例2,3は、実施例1と同様、優れた低ソリ性、力学特性、耐熱性を有する。比較例3は、ソリ量が0.05mmとなり、実用に耐えない。比較例4は、ソリ量が0.06mmとなり、実用に耐えない。比較例5は、ソリ量が0.05mmとなり、実用に耐えない。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル樹脂100重量部に対し、繊維状無機充填材を10〜100重量部および板状無機充填材を10〜100重量部を配合してなる、剪断速度が1000sec-1、かつ流動温度+40℃の温度における見かけの溶融粘度が10〜100Pa・secである液晶ポリエステル樹脂組成物であって、液晶ポリエステル樹脂が下記A1式で表される繰り返し構造単位を少なくとも30モル%含み、流動温度が270℃〜400℃であり、繊維状無機充填材の平均繊維径が0.1〜10μmかつ数平均繊維長が1〜100μmであり、板状無機充填材の平均粒径が5〜20μmであり、繊維状無機充填材の配合量(F)と板状無機充填材の配合量(P)との比(F/P)が、0<F/P<0.5または1.6<F/P<10であることを特徴とする液晶ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
液晶ポリエステル樹脂が、液晶ポリエステル樹脂(A)100重量部および液晶ポリエステル樹脂(B)10〜150重量部からなり、液晶ポリエステル樹脂(A)の流動温度が310℃〜400℃であり、液晶ポリエステル樹脂(B)の流動温度が270℃〜370℃であり、かつ液晶ポリエステル樹脂(A)の流動温度は液晶ポリエステル樹脂(B)の流動温度より高く、その差が10〜60℃であることを特徴とする請求項1記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
液晶ポリエステル樹脂(A)および(B)が、それぞれ下記の構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)からなり、それぞれ(II)/(I)のモル比率が0.2以上1.0以下、(III)+(IV)/(II)のモル比率が0.9以上1.1以下、(IV)/(III)のモル比率が0より大きく1以下であって、液晶ポリエステル樹脂(A)の(IV)/(III)のモル比率(α)と、液晶ポリエステル樹脂(B)の(IV)/(III)のモル比率(β)との比である、モル比率(α)/モル比率(β)が0.1以上0.5以下であることを特徴とする請求項2記載の樹脂組成物。
【化2】

【請求項4】
繊維状無機充填材が、ガラス繊維、ウォラストナイト、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
板状無機充填材が、マイカ、タルクから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる最小肉厚が0.2mm以下である成形体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる最小肉厚が0.2mm以下であるコネクター。

【図1】
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【公開番号】特開2011−190461(P2011−190461A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128109(P2011−128109)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2001−92319(P2001−92319)の分割
【原出願日】平成13年3月28日(2001.3.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】