説明

液晶レンズ光学体及び光学的情報読取装置

【課題】高速応答が可能な液晶レンズ光学体を提供する。
【解決手段】液晶レンズ光学体30は、液晶層32Aが電極33A、34Aによって挟まれ、電極への入力信号に従って液晶分子の配向状態が制御されて光学パワーが変えられる第1の液晶レンズ31Aと、液晶層32Bが電極33B、34Bによって挟まれ、電極への入力信号に従って液晶分子の配向状態が制御されて光学パワーが変えられる第2の液晶レンズ31Bが、光軸上に設けられる。各液晶レンズは、入力信号に対して、光学パワーが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答特性と、光学パワーが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答特性が異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変焦点機能を有した液晶レンズ光学体、及び、この液晶レンズ光学体を備え、主にバーコード、2次元コード等のコード記号、風景や物品の画像を読み取ることを目的とした光学的情報読取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商品管理、在庫管理等を目的として1次元のコード情報であるバーコード、また、より情報密度の高いコードとして2次元コードが知られている。2次元コードを読み取る装置として、CMOSイメージセンサやCCDイメージセンサ等の固体撮像素子でコード情報を撮影し、その画像に様々な処理を施した上で2値化し、デコードする方法が知られている。
【0003】
このようなコード情報を読み取る装置に使用されるCMOSイメージセンサは、デジタルカメラ等に搭載されているものと機能的に何ら変わらないことから、普通に物体や風景などを撮影する写真機としての機能を併せ持つことが求められる。例えば、在庫管理等の場合、対象物品と共にその物品が格納されている位置を撮像し、コード情報と共にデータベースに記憶する場合に使用されるものである。
【0004】
また、携帯電話機には、上述したCMOSイメージセンサを使用した小型カメラが搭載さている。携帯電話機のカメラ機能には、通常のデジタルカメラのように、風景や人物を撮像する他に、バーコード/2次元コードスキャナ及びOCR(光学式文字読取装置)を内蔵しているものが大半である。即ち、コード記号撮像デコード機能を備えたデジタルカメラが広く求められている(例えば、特許文献1)。
【0005】
さらに、上述した商品管理、在庫管理等の現場では、物品に貼付されたコード記号を次々に走査していく必要がある。その際に、オートフォーカス機能があるものが望ましく、オートフォーカスと撮像処理は高速である必要がある。
【0006】
一般的には、レンズが光軸に沿って移動するように配置され、コード記号にフォーカスが合う距離を算出し、その距離に適した位置までレンズを移動させる方法がよく用いられる(例えば、特許文献2参照)。また、定位置の他に近距離と遠距離との二段階程度のレンズ位置をメモリに記憶し、撮像に失敗した際、近距離方向あるいは遠距離方向にレンズを移動させるという簡易オートフォーカスもよく用いられる(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
また、さらに効果的な方法として液体レンズを使用する方法が実現されている(例えば特許文献4)。液体レンズは、導電性の高い水溶液と絶縁体の油性流体とを、光を透過する容器に封じ込めて構成される。水溶液と油性流体は混和せず、境界面を持つ。容器の両端には電極を備え、電極に印加することによってエレクトロウエッティング現象を利用して、水溶液と油性流体との境界面の形状を平面から凸状、あるいは凹状に変化させることができる。
【0008】
この動作により、レンズの屈曲率が変化し、フォーカス調整することが可能となる。レンズを機械的に駆動するのではなく、レンズ内でフォーカス調整をすることから可変焦点レンズとも呼ばれている。
【0009】
可変焦点レンズは、機械駆動する領域を必要としないので、コードスキャナや携帯電話など、撮像機能領域が小さい装置に大変適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−197393号公報
【特許文献2】特開2002−56348号公報
【特許文献3】特開2005−182117号公報
【特許文献4】特許4473337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
機械駆動フォーカス機構より、可変焦点レンズは、コードスキャナや携帯電話のカメラ部分に適している。しかしながら、より精度の高い撮像を行うには、液体レンズや固体レンズを複数用いねばならず、小型コードスキャナや携帯電話では、さらに小さいレンズ機構が求められている。また、大量のデータ処理を行うコードスキャナにおいては、液体レンズの応答速度は必ずしも満足いくものではなかった。
【0012】
本発明は、高速応答を保つことができる液晶レンズ光学体、及び、コードスキャナやカメラにおいて、精度の高い撮像を可能として、大量データ処理に対応できる高速応答を保ち、さらに小さい領域にでも設置できる小型オートフォーカス機構を備えた光学的情報読取装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明は、液晶層が電極によって挟まれ、電極への入力信号に従って液晶分子の配向状態が制御されて光学パワーが変えられる液晶レンズを、光軸上に複数備え、複数の液晶レンズは、入力信号に対して、光学パワーが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答特性と、光学パワーが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答特性が異ならせた液晶レンズ光学体である。
【0014】
また、本発明は、焦点位置を調整する可変焦点レンズと、可変焦点レンズで結像される対象物を撮像する撮像手段と、撮像対象物との距離を測定する測距手段と、測距手段を用いて対象物までの距離を算出し、算出された距離情報に基づき可変焦点レンズを制御して、対象物を撮像手段に結像させ、対象物の撮像を行う制御手段とを備え、可変焦点レンズは、液晶層が電極によって挟まれ、電極への入力信号に従って液晶分子の配向状態が制御されて光学パワーが変えられる液晶レンズを、光軸上に複数備え、複数の液晶レンズは、入力信号に対して、光学パワーが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答特性と、光学パワーが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答特性が異ならせた光学的情報読取装置である。
【0015】
本発明では、各液晶レンズで入力信号に対する光学パワーの遷移が速い側の応答で、焦点を合わせるオートフォーカス動作が行われる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、可変焦点レンズとして液晶レンズを用いることで、レンズ機構全体が小型化できる。また、液晶レンズを用いることで、撮像の向きによらずフォーカス精度が高く、精度の高い撮像ができる。そして、複数の液晶レンズの組み合わせで応答速度の早い遷移を選択しているので、フォーカス調整が高速で可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態の光学的情報読取装置の一例を示す機能ブロック図である。
【図2】CMOSイメージセンサの一例を示す機能ブロック図である。
【図3】液晶レンズ光学体の一例を示す構成図である。
【図4】入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフである。
【図5】入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフである。
【図6】入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフである。
【図7】光学パワーをレンズの模式的な形状で示す動作説明図である。
【図8】光学パワーをレンズの模式的な形状で示す動作説明図である。
【図9】光学パワーをレンズの模式的な形状で示す動作説明図である。
【図10】光学パワーをレンズの模式的な形状で示す動作説明図である。
【図11】光学パワーをレンズの模式的な形状で示す動作説明図である。
【図12】光学パワーをレンズの模式的な形状で示す動作説明図である。
【図13】光学パワーが負領域で遷移する液晶レンズを備えた液晶レンズ光学体の一例を示す構成図である。
【図14】光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示すグラフである。
【図15】入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフである。
【図16】入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフである。
【図17】光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示すグラフである。
【図18】動作時の光学パワーの遷移量の算出方法を示すフローチャートである。
【図19】非動作時の光学パワーの遷移量の算出方法を示すフローチャートである。
【図20】光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示すグラフである。
【図21】光学的情報読取装置で実行される読み取り処理の一例を示すフローチャートである。
【図22】読取対象物までの距離の算出に必要なパラメータの説明図である。
【図23】イメージエリアに写る反射光の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の液晶レンズ光学体及び光学的情報読取装置の実施の形態について説明する。
【0019】
<本実施の形態の光学的情報読取装置の構成例>
図1は、本実施の形態の光学的情報読取装置の一例を示す機能ブロック図である。本実施の形態の光学的情報読取装置1Aは、読取対象物であるコード記号100を撮像する光学部10と、光学部10で行われる撮像、フォーカス調整、デコード、データ転送等の制御を行うデコーダ200を備える。光学的情報読取装置1Aはコードスキャナと称され、例えば図示しない筐体に光学部10とデコーダ200等の構成要素が実装され、使用者が手に持ってコード記号100の撮像が可能な構成である。
【0020】
光学部10は、読取対象物であるコード記号100の検知と、読取対象物までの距離の測距のために、読取対象物へのレーザ光の照射とその反射光の検出を行うと共に、コード記号100を含む読取対象物の撮像を行うモジュールである。光学部10は、マスタレンズ2と、可変焦点レンズ3と、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサ12と、マーカLED(発光ダイオード)13と、レーザ光発生器14を備える。
【0021】
マスタレンズ2と可変焦点レンズ3は、CMOSイメージセンサ12上にコード記号100を含む読取対象物からの反射光を結像させるためのレンズ群である。この反射光には、レーザ光発生器14が照射したレーザ光やマーカLED13が照射した照明光の反射光が含まれる。
【0022】
マスタレンズ2は、本例では、ガラス製若しくはプラスチック製のレンズが使用される。また、可変焦点レンズ3は、印加電圧によって焦点距離を調整可能な液晶レンズが使用される。液晶レンズの詳細については後述する。
【0023】
CMOSイメージセンサ12は撮像手段の一例で、可変焦点レンズ3及びマスタレンズ2を通して入射する光を撮像素子により検出し、その各撮像素子による検出信号をデジタル画像データとしてデコーダ200へ出力することにより、読取対象物の画像を撮像する。
【0024】
マーカLED13は照明手段の一例で、デコーダ200からの制御により読取対象物に照明光13aを照射して照明する。照明光13aの照射は、CMOSイメージセンサ12の撮像フレームに同期したパルス光の照射によって行われ、照射時間を調整することによって、1フレームの撮像期間内に読取対象物からの反射光によりCMOSイメージセンサ12の各フォトダイオードに蓄積される電荷量を調整することができる。すなわち、照明時間を長くすれば、CMOSイメージセンサ12が撮像により得る画像は明るい画像となるし、短くすれば、暗い画像となる。
【0025】
レーザ光発生器14はレーザ出力手段の一例で、読取対象物であるコード記号100の検知及び読取対象物までの距離の測距に用いるレーザ光14aを出力する。レーザ光発生器14は、読取対象物が光学的情報読取装置1Aによるコード記号100の読み取りが可能と考えられる位置にある場合に、その読取対象物からの反射光をCMOSイメージセンサ12に入射させられるような位置及び角度で配置される。
【0026】
レーザ光として可視光を用いると、レーザ光によるスポットを視認できるため、レーザ光を、測距だけでなく、コード記号100と光学的情報読取装置1Aの読取範囲との位置合わせにも用いることができる。また、不可視光を用いると、レーザ光によるスポットが視認されないため、パルス点灯させておいても周囲の人を不快にさせることがない。従って、光学的情報読取装置1Aを、レーザ光を常時パルス点灯させておき、レーザ光を点灯させるための動作や操作なしに速やかに読み取りを開始できるような構成とすることができる。
【0027】
なお、可視光と不可視光の双方のレーザ光を出力可能な2波長レーザ光発生器を用い、2種のレーザ光を状況に応じて自動的に又は手動で切り換えて出力できるようにすることも考えられる。
【0028】
次に、デコーダ200について説明すると、デコーダ200は、CPU210と、CPU210が実行するプログラムとテーブルを記憶したROM220と、CPU210が各種の処理を実行する際の作業領域として使用するRAM230を備えている。
【0029】
CPU21としては、例えば、エーシック(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)を用いることができる。また、ROM220としては、フラッシュロム(FROM)を用いることができ、RAM230としては、SDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)を用いることができる。
【0030】
CPU210は、RAM230を作業領域としてROM220に記憶されたプログラムを実行することにより、光学的情報読取装置1A全体の動作を制御すると共に、CMOSイメージセンサ12が撮像したデジタル画像データに基づく、読取対象物の検知、読取対象物までの距離の測距、求めた距離に基づく合焦点制御、コード記号100のデコード、デコード結果の外部への出力あるいは蓄積等に必要な処理を行う。
【0031】
<CMOSイメージセンサの構成例>
図2は、CMOSイメージセンサの一例を示す機能ブロック図であり、次に、図2を参照しながらCMOSイメージセンサ12について詳細に説明する。CMOSイメージセンサ12に設けられたイメージエリア120は、画素部121の各画素が、フォトダイオードと、FD(flouting diffusion:フロー浮遊拡散)領域と、フォトダイオードからFD領域に電荷を転送するための転送トランジスタと、FD領域を所定の電位にリセットするためのリセットトランジスタとを有し、複数の画素がマトリックス状に形成される。
【0032】
イメージエリア120は、画素がマトリックス状に形成された画素マトリックスの側部に、垂直信号の制御をする垂直シフトレジスタ122が配置され、画素マトリックスの下部に、水平信号の制御をする水平シフトレジスタ123が配置されている。
【0033】
垂直シフトレジスタ122と水平シフトレジスタ123は、画素駆動に必要な電圧を発生させるアナログ回路である。垂直シフトレジスタ122と水平シフトレジスタ123からの信号は、アナログプロセッサ124、A/Dコンバータ125、デジタルプロセッサ126を順次経由して外部へ出力される。
【0034】
またアナログプロセッサ124は、電圧増幅、ゲイン調整等の機能を含み、所定のアナログ信号処理を行う。A/Dコンバータ125は、アナログプロセッサ124のアナログ画像信号をデジタル画像信号に変換する。デジタルプロセッサ126は、ノイズキャンセル、データ圧縮等の機能を含み、A/Dコンバータ125からのデジタル画像信号に対してデジタル処理を施し、処理後のデジタル画像信号を外部へ出力する。
【0035】
コントロールレジスタ127は、外部の信号を入出力させ、タイミングコントローラ128によってアナログプロセッサ124及びデジタルプロセッサ126のクロックタイミングを合わせて、画素部121の各画素からの信号を所定の順番で画像データを出力させる。
【0036】
更に、CMOSイメージセンサ12においては、各画素における受光量に応じた電荷の蓄積開始及び蓄積停止を全画素において略同時に制御するグローバルシャッタが採用される。そのために、各画素における蓄積電荷に相当する値を共通の基準値と個別に比較する複数の比較器、それらの出力信号の論理和信号を出力するための端子等を備えている。画素部121の複数の比較器の出力の少なくとも1つが、基準値より蓄積電荷が大きくなったことを示したときに、グローバルシャッタを制御して各画素における電荷の蓄積停止を実行する。
【0037】
<本実施の形態の液晶レンズ光学体の構成例>
図3は、可変焦点レンズの実施の形態としての液晶レンズ光学体の一例を示す構成図で、次に、本実施の形態の液晶レンズ光学体について詳細に説明する。
【0038】
本実施の形態の液晶レンズ光学体30は、複数層の液晶レンズ、本例では、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bの2層の液晶レンズで構成され、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bが、光軸上に配置される。第1の液晶レンズ31Aは、液晶層32Aが電極33Aと電極34Aとによって挟み込まれるように構成される。第2の液晶レンズ31Bは、液晶層32Bが電極33Bと電極34Bとによって挟み込まれるように構成される。各電極33A,33B、34A,34Bは、インジウム・スズ系の酸化物(ITO)からなる透明物質で構成される。
【0039】
第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bは、ガラス35が挿入されて積層される。また、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bは、ガラス36とガラス37との間に挟み込まれる。
【0040】
第1の液晶レンズ31Aは、電極33Aと電極34Aに電圧が印加され、第2の液晶レンズ31Bは、電極33Bと電極34Bに電圧が印加されることで、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bでは、別々に電圧が制御される。
【0041】
液晶レンズでは、液晶における電気光学効果を利用することで、液晶分子の配向状態が、電極に印加される電圧の変化に従って変わり、レンズの屈折率(光学パワー)を連続的に可変させることができる。このように、液晶レンズ光学体30は、電圧の調整によって焦点距離を変えるオートフォーカス機能を有する。本例では、2層の液晶レンズが用いられるので、各レンズの光学パワーを独立して制御することが可能で、一方を正の光学パワー、他方を負の光学パワーとする制御も可能である。
【0042】
<液晶レンズの高速応答性>
次に、液晶レンズの応答性を向上させる構成について説明する。液晶レンズ光学体30は、入力信号、本例では電圧の入力に対して、光学パワーが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答特性と、光学パワーが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答特性が異なる複数の液晶レンズを組み合わせて構成される。
【0043】
一般的に、液晶レンズは、光学パワーが大きい状態へ遷移する際の応答速度と光学パワーが小さい状態へ遷移する際の応答速度が異なり、電圧の入力に対して目標とする遷移量に到達するまでの時間が、光学パワーが大きくなる方向と小さくなる方向で異なる。
【0044】
そこで、本例では、液晶レンズ光学体30は、電圧の入力に対して光学パワーが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答特性と、光学パワーが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答特性が逆の関係を持つ第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bを組み合わせて構成される。
【0045】
図4は、入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフであり、図4(a)は、第1の液晶レンズ31Aの応答特性を示し、図4(b)は、第2の液晶レンズ31Bの応答特性を示す。以下の例では、入力電圧を上げると、光学パワーが大きい状態へ遷移し、入力電圧を下げると、光学パワーが小さい状態へ遷移するものとする。また、遷移直線40A、40Bで示すように、入力電圧の増減に比例して、光学パワーが増減するものとする。
【0046】
第1の液晶レンズ31Aは、図4(a)に示すように、電圧VAの入力と、電圧VAの入力で液晶の配向が制御されることによる光学パワーPAの遷移の関係が、光学パワーPAの大きい状態から光学パワーPAの小さい状態への遷移NA1が速く、光学パワーPAが小さい状態から光学パワーPAが大きい状態への遷移NA2が遅い応答特性を持つ。
【0047】
第2の液晶レンズ31Bは、図4(b)に示すように、第1の液晶レンズ31Aと反対の応答特性、すなわち、電圧VBの入力に対し、光学パワーPBの小さい状態から光学パワーPBの大きい状態への遷移NB2が速く、光学パワーPBが大きい状態から光学パワーPBが小さい状態への遷移NB1が遅い応答特性を持つ。
【0048】
液晶レンズ光学体30では、第1の液晶レンズ31Aで光学パワーPAが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答時間TFAが、第2の液晶レンズ31Bで光学パワーPBが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答時間TFBより短い。
【0049】
一方、第2の液晶レンズ31Bで光学パワーPBが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答時間TNBが、第1の液晶レンズ31Aで光学パワーPAが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答時間TNAより短い。
【0050】
読取対象物までの距離に基づき、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを大きい状態に遷移させる、または、光学パワーPTを小さい状態に遷移させることで、焦点を合わせるオートフォーカス動作を行う際には、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bにおいて、電圧の入力に対して光学パワーの遷移が速い側の応答でオートフォーカス動作を行う。
【0051】
本例では、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを大きい状態から小さい状態へ遷移させる場合は、第1の液晶レンズ31Aを作動させて、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPAを大きい状態から小さい状態へ遷移させる。また、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを小さい状態から大きい状態へ遷移させる場合は、第2の液晶レンズ31Bを作動させて、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを小さい状態から大きい状態へ遷移させる。
【0052】
<液晶レンズのオートフォーカス動作>
図5及び図6は、入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフで、一点鎖線で示される遷移直線40A上におけるマーク41Aの位置で、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーを示し、二点鎖線で示される遷移直線40B上におけるマーク41Bの位置で、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーを示す。
【0053】
ここで、図5(a)及び図6(a)は、液晶レンズ光学体30の基本状態を示す。図5(b)は、液晶レンズ光学体30の基本状態から、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPAを小さい状態へ遷移させる過程を示し、図5(c)は、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPAを小さい状態へ遷移させて、液晶レンズ光学体30の光学パワーを最小とした状態を示す。
【0054】
また、図6(b)は、液晶レンズ光学体30の基本状態から、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを大きい状態へ遷移させる過程を示し、図6(c)は、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを大きい状態へ遷移させて、液晶レンズ光学体30の光学パワーを最大とした状態を示す。
【0055】
図7及び図8は、光学パワーをレンズの模式的な形状で示す動作説明図であり、光学パワーが正の状態を凸レンズの形状で示し、光学パワーが負の状態を凹レンズの形状で示す。また、光学パワーの大小を、凸状あるいは凹状の大きさで示す。
【0056】
ここで、図7(a)は図5(a)に対応し、図8(a)は図6(a)に対応して、液晶レンズ光学体30の基本状態を示す。図7(b)は図5(b)に対応し、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPAを小さい状態へ遷移させる過程を示し、図7(c)は図5(c)に対応し、液晶レンズ光学体30の光学パワーを最小とした状態を示す。
【0057】
また、図8(b)は図6(b)に対応し、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを大きい状態へ遷移させる過程を示し、図8(c)は図6(c)に対応し、液晶レンズ光学体30の光学パワーを最大とした状態を示す。
【0058】
本例では、図5(a)及び図6(a)に示すように、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPAを最大とし、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを最小にした状態を、液晶レンズ光学体30の基本状態とする。例えば、液晶レンズ光学体30で、L1(mm)〜∞まで焦点が変えられるとすると、液晶レンズ光学体30の基本状態では、距離L1と無限遠との間の所定の距離L2(mm)に焦点が合う。
【0059】
基本状態にある液晶レンズ光学体30に対して、読取対象物までの距離がL2より遠い場合は、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを小さい状態へ遷移させる必要がある。上述したように、第1の液晶レンズ31Aで光学パワーPAが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答時間TFAが、第2の液晶レンズ31Bで光学パワーPBが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答時間TFBより短い。
【0060】
そこで、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを小さい状態へ遷移させる場合は、図5(b)及び図7(b)に示すように、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPAを大きい状態から小さい状態へ遷移させる。これにより、第2の液晶レンズ31Bを作動させる場合と比較して短い応答時間TFAで、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを小さい状態へ遷移させて、オートフォーカス動作が行われる。
【0061】
そして、図5(c)及び図7(c)に示すように、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPAを小さい状態へ遷移させて、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPAを最小にすることで、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTが最小となり、無限遠に焦点が合わせられる。
【0062】
一方、基本状態にある液晶レンズ光学体30に対して、読取対象物までの距離がL2より近い場合は、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを大きい状態へ遷移させる必要がある。上述したように、第2の液晶レンズ31Bで光学パワーPBが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答時間TNBが、第1の液晶レンズ31Aで光学パワーPAが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答時間TNAより短い。
【0063】
そこで、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを大きい状態へ遷移させる場合は、図6(b)及び図8(b)に示すように、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを小さい状態から大きい状態へ遷移させる。これにより、第1の液晶レンズ31Aを作動させる場合と比較して短い応答時間TNBで、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを大きい状態へ遷移させて、オートフォーカス動作が行われる。
【0064】
そして、図6(c)及び図8(c)に示すように、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを大きい状態へ遷移させて、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを最大にすることで、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTが最大となり、合焦点可能とした最も近い距離L1に焦点が合わせられる。
【0065】
<液晶レンズの復帰動作>
図9は、入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフで、図9(a)は、液晶レンズ光学体30の光学パワーを最小とした状態を示し、図9(b)は、液晶レンズ光学体30の光学パワーを最小とした状態からのオートフォーカス動作を示し、図9(c)は、オートフォーカス後の復帰動作を示す。
【0066】
また、図10は、光学パワーをレンズの模式的な形状で示す動作説明図であり、図10(a)は図9(a)に対応し、液晶レンズ光学体30の光学パワーを最小とした状態を示し、図10(b)は図9(b)に対応し、液晶レンズ光学体30の光学パワーを最小とした状態からのオートフォーカス動作を示し、図10(c)は図9(c)に対応し、オートフォーカス後の復帰動作を示す。
【0067】
本例では、図9(a)及び図10(a)に示すように、第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPA及び第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを最小にすることで、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTが最小となった状態からのオートフォーカス動作及びオートフォーカス動作後の復帰動作を考える。
【0068】
光学パワーPTが最小状態にある液晶レンズ光学体30に対して、任意の距離にある読取対象物に焦点を合わせる場合は、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを大きい状態へ遷移させる必要がある。上述したように、第2の液晶レンズ31Bで光学パワーPBが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答時間TNBが、第1の液晶レンズ31Aで光学パワーPAが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答時間TNAより短い。
【0069】
そこで、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを大きい状態へ遷移させる場合は、図9(b)及び図10(b)に示すように、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを小さい状態から大きい状態へ遷移させる。これにより、第1の液晶レンズ31Aを作動させる場合と比較して短い応答時間TNBで、液晶レンズ光学体30の光学パワーPTを大きい状態へ遷移させて、オートフォーカス動作が行われる。
【0070】
オートフォーカス動作及び撮影を行っていない非動作には、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bにおいて光学パワーの遷移が遅い側の応答で、液晶レンズ光学体30の全体の光学パワーPTを変えないように復帰動作を行う。
【0071】
本例では、図9(c)及び図10(c)に示すように、復帰動作で第1の液晶レンズ31Aの光学パワーPAを小さい状態から大きい状態へ遷移させると共に、第2の液晶レンズ31Bの光学パワーPBを大きい状態から小さい状態へ遷移させて、液晶レンズ光学体30の全体の光学パワーPTを変えないようにピントを固定した状態で光学パワーを変換する。
【0072】
これにより、第2の液晶レンズ31Bは、光学パワーPBが最小の状態に復帰し、第1の液晶レンズ31Aは、オートフォーカス時の読取対象部までの距離に応じて、光学パワーPAが大きい状態へ遷移し、液晶レンズ光学体30が基本状態に近づけられる。従って、更に基本状態へ復帰する場合には、基本状態へ向かう復帰遷移を行った分だけ、応答時間が短縮される。
【0073】
<液晶レンズ光学体の基本状態の選択>
図11は、入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフで、図11(a)は、光学パワーPBが正領域で遷移する第2の液晶レンズ31B1を使用した状態を示し、図11(b)は、光学パワーPBが負領域で遷移する第2の液晶レンズ31B2を使用した状態を示す。
【0074】
また、図12は、光学パワーをレンズの模式的な形状で示す動作説明図であり、図12(a)は図11(a)に対応し、光学パワーPBが正領域で遷移する第2の液晶レンズ31B1を使用した状態を示し、図12(b)は図11(b)に対応し、光学パワーPBが負領域で遷移する第2の液晶レンズ31B2を使用した状態を示す。
【0075】
液晶レンズ光学体30は、電圧の入力に対して、光学パワーが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答時間と、光学パワーが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答時間が逆転した特性を持つ液晶レンズを組み合わせて構成されていれば良く、レンズのパワーレンジは任意で良い。
【0076】
すなわち、一方の液晶レンズとして、図11(a)及び図12(a)に示すように、光学パワーPBが正領域で遷移する第2の液晶レンズ31B1を使用した液晶レンズ光学体でも、図11(b)及び図12(b)に示すように、光学パワーPBが負領域で遷移する第2の液晶レンズ31B2を使用した液晶レンズ光学体でも良い。また、光学パワーが正領域と負領域に跨って遷移するものでも良い。
【0077】
液晶レンズとして、光学パワーが正の領域または負の領域、あるいは正負の領域で遷移するものの何れを使用するかは、液晶レンズ光学体30の基本状態の選択によって決められる。
【0078】
例えば、光学パワーPAが正領域で遷移する第1の液晶レンズ31Aと、光学パワーPBが正領域で遷移する第2の液晶レンズ31B1を組み合わせた液晶レンズ光学体では、基本状態を図11(a)及び図12(a)に示す状態とすれば、液晶レンズ光学体の基本状態は凸レンズとなる。光学パワーが正領域で遷移する液晶レンズは、例えば、液晶レンズにおいて液晶分子の配向方向を制御する配向膜制御で実現できる。
【0079】
また、光学パワーPAが正領域で遷移する第1の液晶レンズ31Aと、光学パワーPBが負領域で遷移する第2の液晶レンズ31B2を組み合わせた液晶レンズ光学体では、基本状態を図11(b)及び図12(b)に示す状態とすれば、液晶レンズ光学体の基本状態は平板と同等となる。
【0080】
図13は、光学パワーが負領域で遷移する液晶レンズを備えた液晶レンズ光学体の一例を示す構成図である。液晶レンズ光学体30Aは、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bの2層の液晶レンズで構成され、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bが、光軸上に配置される。
【0081】
第1の液晶レンズ31Aは、液晶層32Aと誘電体層38Aが電極33Aと電極34Aとによって挟み込まれるように構成される。第2の液晶レンズ31Bは、液晶層32Bと誘電体層38Bが電極33Bと電極34Bとによって挟み込まれるように構成される。各電極33A,33B、34A,34Bは、インジウム・スズ系の酸化物(ITO)からなる透明物質で構成される。
【0082】
第1の液晶レンズ31Aの誘電体層38Aは、誘電率が異なる第1の誘電体39aと第2の誘電体39bで、第1の誘電体39aが凹レンズ状に構成され、第2の誘電体39bが凸レンズ状に構成される。第1の誘電体39aは、例えば水とグリセリンの混合材料で、誘電率はε1である。また、第2の誘電体39bは、例えばガラスで、誘電率はε2である。また、第2の液晶レンズ31Bの誘電体層38Bは、第1の誘電体39aが凸レンズ状に構成され、第2の誘電体39bが凹レンズ状に構成される。
【0083】
第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bは、ガラス35が挿入されて積層される。また、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bは、ガラス36とガラス37との間に挟み込まれる。
【0084】
第1の液晶レンズ31Aは、電極33Aと電極34Aに電圧が印加され、第2の液晶レンズ31Bは、電極33Bと電極34Bに電圧が印加されることで、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bでは、別々に電圧が制御される。
【0085】
第1の液晶レンズ31Aは、誘電体層38Aにおける第1の誘電体39aと第2の誘電体39bの界面の形状から、電界の分布が凸状となり、光学パワーが正領域で遷移する凸レンズが構成される。一方、第2の液晶レンズ31Bは、誘電体層38Bにおける第1の誘電体39aと第2の誘電体39bの界面の形状から、電界の分布が凹状となり、光学パワーが負領域で遷移する凹レンズが構成される。
【0086】
<液晶レンズ光学体の最適化動作>
以上の説明では、オートフォーカス動作を行う際には、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bにおいて、電圧の入力に対して光学パワーの遷移が速い側の応答でオートフォーカス動作を行うことで、応答の高速化を図ることとした。これに対し、一方の液晶レンズのみを作動させるのではなく、読取対象物までの距離に応じた光学パワーの遷移量を、複数の液晶レンズにおける光学パワーの遷移量の合計で実現することで、オートフォーカス動作の最適化を測る。
【0087】
図14は、光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示すグラフであり、一点鎖線で示される遷移曲線42Aは、第1の液晶レンズ31Aにおける光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示し、二点鎖線で示される遷移曲線42Bは、第2の液晶レンズ31Bにおける光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示す。
【0088】
また、遷移曲線42A上におけるマーク43Aの位置で、第1の液晶レンズ31Aを作動させて光学パワーを遷移させた場合に、目標とする遷移量に到達するまでの応答時間を示し、遷移曲線42B上におけるマーク43Bの位置で、第2の液晶レンズ31Bを作動させて光学パワーを遷移させた場合に、目標とする遷移量に到達するまでの応答時間を示す。
【0089】
目標遷移量をΔPtとしたとき、第1の液晶レンズ31Aだけの光学パワーを遷移させた場合に、目標遷移量ΔPtに到達するまでの応答時間をtAとする。また、第2の液晶レンズ31Bだけの光学パワーを遷移させた場合に、目標遷移量ΔPtに到達するまでの応答時間をtBとする。更に、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ1Bを組み合わせて光学パワーを遷移させた場合に、目標遷移量ΔPtに到達するまでの応答時間をtabとする。
【0090】
第1の液晶レンズ31Aは、上述したように、目標とする遷移量に到達するまでの応答時間が、光学パワーが小さくなる方向で速く、光学パワーが大きくなる方向で遅い特性を持つ。また、第2の液晶レンズ31Bは、目標とする遷移量に到達するまでの応答時間が、光学パワーが大きくなる方向で速く、光学パワーが小さくなる方向で遅い特性を持つ。
【0091】
例えば、液晶レンズ光学体の光学パワーを大きい状態へ遷移させる場合、光学パワーが大きくなる方向での遷移が速い第2の液晶レンズ31Bだけで光学パワーを遷移させて、目標遷移量ΔPtに到達するまでの応答時間tBより、第1の液晶レンズ31Aでの光学パワーの遷移量と、第2の液晶レンズ31Bでの光学パワーの遷移量の合計で、目標遷移量ΔPtに到達するまでの応答時間tabの方が短い場合がある。
【0092】
<光学パワーの遷移量と応答時間の数値例>
図15及び図16は、入力電圧と光学パワーの遷移の関係を示すグラフであり、図15(a)は、第1の液晶レンズ31Aの応答特性を示し、図15(b)は、第2の液晶レンズ31Bの応答特性を示す。また、図16は、比較例として、第1の液晶レンズ31Aのみの応答特性を示す。
【0093】
以下の表1に、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bを組み合わせた場合における目標遷移量と応答時間を示し、表2に、比較例として、第1の液晶レンズ31Aのみにおける目標遷移量と応答時間を示す。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
ここで、1つの液晶レンズと2つの液晶レンズの組み合わせを比較すると、それぞれ光学パワーの遷移量と応答時間は比例する。また、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bを組み合わせる場合、目標遷移量は各液晶レンズの光学パワーの遷移量の合計となるので、単体での第1の液晶レンズ31Aと、第2の液晶レンズ31Bと組み合わせられる第1の液晶レンズ31Aでは、応答特性は同じで、光学パワーの最大値は半分となる。更に、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bは、応答時間と遷移量の関係が逆である。
【0097】
<光学パワーの遷移量の算出例>
図17は、光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示すグラフ、図18は、動作時の光学パワーの遷移量の算出方法を示すフローチャートで、次に、オートフォーカス動作時における光学パワーの遷移量の算出方法について説明する。
【0098】
以下の説明で、ΔPTは目標遷移量、ΔPAminは、第1の液晶レンズ31Aの最小遷移可能量、ΔPBmaxは、第2の液晶レンズ31Bの最大遷移可能量である。また、ΔPAは、算出対象である第1の液晶レンズ31Aの遷移量、ΔPBは、算出対象である第2の液晶レンズ31Bの遷移量である。更に、aは、第1の液晶レンズ31Aの遷移量と応答時間を結ぶ比例定数、bは、第2の液晶レンズ31Bの遷移量と応答時間を結ぶ比例定数である。
【0099】
図17において、第1の液晶レンズ31Aにおける光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示す遷移直線44Aは、以下の(1)式で表され、第1の液晶レンズ31Aにおける光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示す遷移直線44Bは、以下の(2)式で表される。
【0100】
【数1】

【0101】
図18において、ステップSA1で目標遷移量ΔPTが0より大きいか判断し、目標遷移量ΔPTが0より大きいと判断すると、ステップSA2で、目標遷移量ΔPTが、第2の液晶レンズ31Bの最大遷移可能量ΔPBmaxより小さいか判断する。
【0102】
目標遷移量ΔPTが、第2の液晶レンズ31Bの最大遷移可能量ΔPBmaxより小さいと判断すると、ステップSA3で、以下の(3)式及び(4)式により、第1の液晶レンズ31Aの遷移量ΔPAと、第2の液晶レンズ31Bの遷移量ΔPBを求める。
【0103】
目標遷移量ΔPTが、第2の液晶レンズ31Bの最大遷移可能量ΔPBmax以上である判断すると、ステップSA4で、以下の(5)式及び(6)式により、第1の液晶レンズ31Aの遷移量ΔPAと、第2の液晶レンズ31Bの遷移量ΔPBを求める。
【0104】
【数2】

【0105】
ステップSA1で、目標遷移量ΔPTが0より小さいと判断すると、ステップSA5で、目標遷移量ΔPTが、第1の液晶レンズ31Aの最小遷移可能量ΔPAminより大きいか判断する。
【0106】
目標遷移量ΔPTが、第1の液晶レンズ31Aの最小遷移可能量ΔPAminより大きいと判断すると、ステップSA6で、以下の(7)式及び(8)式により、第1の液晶レンズ31Aの遷移量ΔPAと、第2の液晶レンズ31Bの遷移量ΔPBを求める。
【0107】
目標遷移量ΔPTが、第1の液晶レンズ31Aの最小遷移可能量ΔPAmin以下である判断すると、ステップSA7で、以下の(9)式及び(10)式により、第1の液晶レンズ31Aの遷移量ΔPAと、第2の液晶レンズ31Bの遷移量ΔPBを求める。
【0108】
【数3】

【0109】
図19は、非動作時の光学パワーの遷移量の算出方法を示すフローチャートで、次に、ピントを固定した非動作時における光学パワーの遷移量の算出方法について説明する。
【0110】
以下の説明で、ΔPAmaxは、第1の液晶レンズ31Aの最大遷移可能量、ΔPBminは、第2の液晶レンズ31Bの最小遷移可能量である。また、ΔPRは、両液晶レンズが基本状態へ復帰できる遷移量min(s,t)のsとtのうちの小さい方である。
【0111】
図19において、ステップSB1で第1の液晶レンズ31Aの最大遷移可能量ΔPAmaxが0ではなく、かつ、第2の液晶レンズ31Bの最小遷移可能量ΔPBminが0ではないか判断する。SB1の条件を満たすと、SB2で、以下の(11)式により、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bが基本状態へ復帰できる遷移量ΔPRを求め、遷移量ΔPRから、(12)式〜(13)式により、第1の液晶レンズ31Aの遷移量ΔPAと、第2の液晶レンズ31Bの遷移量ΔPBを求める。なお、SB1の条件を満たさない場合は、復帰動作を行わない。
【0112】
【数4】

【0113】
<比較結果>
上述した図15及び図16と、表1及び表2で示した応答特性を持つ液晶レンズを用いた場合に、目標遷移量となるための各液晶レンズの遷移量を図18及び図19のフローチャートで算出し、目標遷移量となるための応答時間を以下の表3に示す。
【0114】
また、図20は、光学パワーの遷移量と応答時間の関係を示すグラフで、実線で示す遷移直線45は、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bを組み合わせた場合における目標遷移量と応答時間の関係示し、破線で示す遷移直線46は、比較例として、第1の液晶レンズ31Aのみにおける目標遷移量と応答時間の関係を示す。
【0115】
【表3】

【0116】
表3において、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bを組み合わせた場合における応答時間と、第1の液晶レンズ31Aのみにおける応答時間を比較すると、第1の液晶レンズ31Aと第2の液晶レンズ31Bによる光学パワーの遷移を組み合わせた方が、全体的に応答時間が短く、オートフォーカス時のボトルネックとなる最大応答時間は小さい。
【0117】
なお、液晶レンズの最大遷移量を用いるようなオートフォーカス動作では、1つの液晶レンズのみを作動させる方が応答時間が短くなる場合もあるが、実際の運用では、液晶レンズにおける光学パワーの最大遷移量を用いるようなフォーカスより少ない遷移を多用するので、読取対象物までの距離に応じた光学パワーの遷移量を、複数の液晶レンズにおける光学パワーの遷移量の合計で実現してオートフォーカス動作の最適化を図ることは、効果が大きいことが判る。
【0118】
なお、以上の説明では、液晶レンズ光学体は、2個の液晶レンズが備えられる構成としたが、2個以上の液晶レンズが備えられる構成でも良く、2個以上の液晶レンズを備える構成とすれば、より高速応答が可能になる。
【0119】
<撮像デコードのアルゴリズム>
図21は、光学的情報読取装置で実行される読み取り処理の一例を示すフローチャートで、次に、光学的情報読取装置1Aにおけるコード記号100の読み取り処理について説明する。
【0120】
まずステップSC1でCMOSイメージセンサ12に定期的な撮像を開始させる。この際のシャッタ速度は、周囲の環境光はほとんど検出せず、環境光と比べて光量の大きい、レーザ光発生器14が出力したレーザ光の反射光を選択的に検出できるようなシャッタ速度とする。
【0121】
次のステップSC2では、CPU210は、レーザ光発生器14に適当な制御信号を供給し、CMOSイメージセンサ12のシャッタを開く(フォトダイオードによる電荷蓄積を開始させる)タイミングと同期して、レーザ光発生器14にレーザ光14aを発光させる。
【0122】
そして、ステップSC3で、CMOSイメージセンサ12が出力する画像データを解析して、CMOSイメージセンサ12のイメージエリア120にレーザ光の反射光が入射したか否か、すなわち画像データ中に反射光のスポットが現れているか否かを判断する。
【0123】
ここで反射光が入射していなければ、読取対象物が光学的情報読取装置1Aによる読み取り可能な位置にないと考えられるため、以下の読取条件調整及び読み取り用の撮像の処理には進まず、ステップSC2に戻って処理を繰り返す。所定期間繰り返しても読取対象物の検出がない場合には、一旦CMOSイメージセンサ12のフレーム速度を遅く(フレーム期間を長く)してもよい。
【0124】
また、ステップSC3で反射光が入射していた場合、光学的情報読取装置1Aによりコード記号100の読み取りが可能と考えられる位置に何らかの物体(読取対象物と想定できる)が存在していることがわかる。すなわち、読取対象物の存在を検知できる。
【0125】
<測距>
次に、読取対象物(物体)までの距離の算出方法について説明する。図22は、読取対象物までの距離の算出に必要なパラメータの説明図、図23は、イメージエリアに写る反射光の例を示す説明図である。
【0126】
読取対象物までの距離xについては、図22中の次のパラメータと以下の(14)式とに基づいて算出することができる。
【0127】
x:撮像光学系レンズの主点Pから読取対象物までの距離
a:CMOSイメージセンサ12のイメージエリアに平行な向きに測った場合の撮像光学系レンズの主点Pからレーザ光14a(の中心)までの距離
θ:撮像光学系レンズの主点Pからレーザ光14aの方向に広がる、視野角θ0の1/2の角度
N:撮像光学系レンズの主点Pからレーザ光14aに向かう方向に数えた場合のCMOSイメージセンサ12におけるピクセル数の1/2
n:CMOSイメージセンサ12における中心位置(撮像光学系レンズの主点Pと対応する位置)から反射光14bのスポットの中心位置までのピクセル数
φ:レーザ光14aと撮像光学系レンズの光軸qとがなす角
【0128】
【数5】

【0129】
なお、図22で読取対象物の上側に示したレーザ光15aは、角φについて説明するためのものである。
【0130】
イメージエリア120にレーザ光の反射光が入射している場合、図23(a)に示すように、読取対象物が近くにある場合にはスポットSが撮像した画像中の横軸方向の端部に現れ、遠くにある場合には図23(c)に示すように中央付近に現れる。そこで、ステップSC4に進み、CMOSイメージセンサ12から検知した読取対象物までの距離を、画像中の反射光のスポットの位置に基づいて算出する。
【0131】
次のステップSC5では、CPU210は、ステップSC4で算出した距離をもとに、ROM220に予め記憶させたフォーカステーブルを検索してフォーカス制御パラメータの値を取得し、そのフォーカス制御パラメータの値に基づいて液晶レンズ光学体30を制御することにより、上述したオートフォーカス動作で、ステップSC4で算出した距離付近にピントが合うようにフォーカスの調整を行う。
【0132】
次のステップSC6では、CPU210は、CMOSイメージセンサ12のシャッタを開くタイミングと同期してステップSC6で設定した点灯時間だけマーカLED13を点灯させて照明を行うことにより、ステップSC3で検知した読取対象物の画像を撮像し、その結果得られた画像データから、読取対象物に付されていると想定されるコード記号100のデコードを試みる。
【0133】
そして、ステップSC7でこのデコードが成功したか否か判断し、成功していれば、ステップSC9でデコードにより得られたデータを所定の外部装置や内部のデータ処理手段等に出力し、ステップSC10でフォーカスを基本状態に戻して、読取完了としてステップSC1へ戻る。
【0134】
また、デコード失敗の場合には、ステップSC10で予め設定した読取有効時間(フレーム数で規定してもよい)を超えたか否か判断し、超えてなければステップSC6に戻って再度撮像とデコードを試みる。
【0135】
ステップSC7でのデコードが失敗する原因としては、そもそも検出した読取対象物にコード記号が付されていない場合の他、コード記号100がCMOSイメージセンサ12の撮像範囲に収まっていない、ステップSC5及びSC6の調整が適正に行われていない、など種々の原因が考えられる。そして、調整の応答に必要な時間が経過したり、読取対象物が移動されたりするとこれらが改善する場合もあるので、リトライするようにしたものである。
【0136】
そして、ステップSC10で読取有効時間を超えた場合には、これ以上続けても正常にデコードできる見込みがないと判断し、読み取りを一旦中止し、ステップSC10でフォーカスを基本状態に戻してステップSC1へ戻る。このように、読み取り成功の場合も中止の場合も、ステップSC1に戻って直ちに次の読取対象物検出の処理を開始する。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、バーコードリーダや二次元コードリーダ等に利用することができ、小型の装置でオートフォーカスを実現できる。
【符号の説明】
【0138】
1A・・・光学的情報読取装置、2・・・マスタレンズ、3・・・可変焦点レンズ、12・・・CMOSイメージセンサ、13・・・マーカLED、14・・・レーザ光発光器、30・・・液晶レンズ光学体、31A・・・第1の液晶レンズ、31B・・・第2の液晶レンズ、200・・・デコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶層が電極によって挟まれ、前記電極への入力信号に従って液晶分子の配向状態が制御されて光学パワーが変えられる液晶レンズを、光軸上に複数備え、
前記複数の液晶レンズは、入力信号に対して、光学パワーが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答特性と、光学パワーが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答特性が異ならせた
ことを特徴とする液晶レンズ光学体。
【請求項2】
前記複数の液晶レンズは、光学パワーの大きい状態から光学パワーの小さい状態への遷移が速く、光学パワーが小さい状態から光学パワーが大きい状態への遷移が遅い応答特性を持つ第1の液晶レンズと、
光学パワーの小さい状態から光学パワーの大きい状態への遷移が速く、光学パワーが大きい状態から光学パワーが小さい状態への遷移が遅い応答特性を持つ第2の液晶レンズが組み合わせられ、
前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズで入力信号に対する光学パワーの遷移が速い側の応答で、焦点を合わせるオートフォーカス動作を行う
ことを特徴とする請求項1記載の液晶レンズ光学体。
【請求項3】
対象物までの距離に基づき設定される光学パワーの目標遷移量が、前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズの光学パワーの遷移量の合計で、応答時間が短くなる組み合わせで設定される
ことを特徴とする請求項2記載の液晶レンズ光学体。
【請求項4】
オートフォーカス動作の非動作に、前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズにおける光学パワーの遷移が遅い側の応答で、前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズの組み合わせによる光学パワーを変えずに、前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズの光学パワーを入れ換える
ことを特徴とする請求項2または3記載の液晶レンズ光学体。
【請求項5】
焦点位置を調整する可変焦点レンズと、
前記可変焦点レンズで結像される対象物を撮像する撮像手段と、
撮像対象物との距離を測定する測距手段と、
前記測距手段を用いて対象物までの距離を算出し、算出された距離情報に基づき前記可変焦点レンズを制御して、対象物を前記撮像手段に結像させ、対象物の撮像を行う制御手段とを備え、
前記可変焦点レンズは、液晶層が電極によって挟まれ、前記電極への入力信号に従って液晶分子の配向状態が制御されて光学パワーが変えられる液晶レンズを、光軸上に複数備え、
前記複数の液晶レンズは、入力信号に対して、光学パワーが大きい状態から小さい状態へ遷移する際の応答特性と、光学パワーが小さい状態から大きい状態へ遷移する際の応答特性が異ならせた
ことを特徴とする光学的情報読取装置。
【請求項6】
前記複数の液晶レンズは、光学パワーの大きい状態から光学パワーの小さい状態への遷移が速く、光学パワーが小さい状態から光学パワーが大きい状態への遷移が遅い応答特性を持つ第1の液晶レンズと、
光学パワーの小さい状態から光学パワーの大きい状態への遷移が速く、光学パワーが大きい状態から光学パワーが小さい状態への遷移が遅い応答特性を持つ第2の液晶レンズが組み合わせられ、
前記制御手段は、前記測距手段で算出した対象物までの距離に基づき。前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズで入力信号に対する光学パワーの遷移が速い側の応答で、焦点を合わせるオートフォーカス動作を行う
ことを特徴とする請求項5記載の光学的情報読取装置。
【請求項7】
対象物までの距離に基づき設定される光学パワーの目標遷移量が、前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズの光学パワーの遷移量の合計で、応答時間が短くなる組み合わせで設定される
ことを特徴とする請求項6記載の光学的情報読取装置。
【請求項8】
オートフォーカス動作の非動作に、前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズにおける光学パワーの遷移が遅い側の応答で、前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズの組み合わせによる光学パワーを変えずに、前記第1の液晶レンズと前記第2の液晶レンズの光学パワーを入れ換える
ことを特徴とする請求項6または7記載の光学的情報読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−141450(P2012−141450A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294156(P2010−294156)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(391062872)株式会社オプトエレクトロニクス (70)
【Fターム(参考)】