説明

液晶光変調素子の駆動装置および駆動方法

【課題】液晶の変調特性の温度依存性を補正しながら液晶光変調素子を駆動すること。小規模で、低消費電力で液晶光変調素子を駆動すること。
【解決手段】ガラスまたはシリコン上の対向する電極間に液晶が封止された液晶光変調素子10を駆動データに基づいて駆動する駆動装置20であって、定電流駆動手段4により液晶光変調素子10に定電流を流して液晶の充電または放電を行い、その充電または放電の過渡期間中に、液晶に印加される電圧の変化率を計測手段6により計測する。電圧の変化率の計測値に基づいて、補正手段2により駆動データを補正し、その補正データに基づいて、駆動手段3は、液晶に供給する駆動信号のパルス高またはパルス幅などを変調する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶光変調素子の駆動装置および駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信などの分野では、変調データに基づいて光の強度を変調するために、種々の変調素子が用いられている。そのうち、優れた変調特性を有する液晶を用いた光変調素子(以下、液晶光変調素子とする)が注目されている。これは、液晶が優れた変調特性を備えているだけでなく、低消費電力で動作し、駆動電圧も低く、集積化による小型化が可能であるという利点を有するからである。
【0003】
液晶光変調素子の駆動装置は、変調データを駆動信号として電圧に変換し、その電圧を液晶に印加する。液晶光変調素子では、その印加電圧に応じて液晶分子の方向が変わり、それに伴って光の透過率、反射率または位相などが変化する。それによって、液晶を透過する光または液晶で反射する光の強度が変調される。しかし、液晶に印加される電圧と液晶分子の方向の特性には温度依存性があるため、安定した変調特性を得るには、温度変化に応じた制御が必要となる。
【0004】
ところで、液晶の変調特性と液晶の誘電率の間には、温度によらず常に一定の関係がある。この関係を利用した液晶可変波長フィルタの駆動電源装置が公知である(例えば、特許文献1参照。)。この駆動電源装置は、可変交流電源に基準コンデンサと液晶フィルタとの直列体を接続し、この基準コンデンサおよび液晶フィルタに印加する電圧の測定器(電圧計)を備え、この電圧計それぞれの電圧を用いて液晶フィルタの容量に比例する数値を得る演算回路を備えた構成となっている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−5694号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された駆動電源装置では、電圧計、基準コンデンサおよび演算回路が必要であるため、規模が大きくなってしまう。そのため、集積化して小型化することができたり、低消費電力で駆動することができるという液晶の利点を生かすことができないという欠点がある。液晶光変調素子の駆動装置を小型化するためには、駆動装置を、シリコン上などに形成可能なデバイスを用い、簡素な構成にしてシリコン上などに集積する必要がある。また、上記特許文献1に開示された駆動電源装置には、液晶に直流成分が印加されるという欠点もある。
【0007】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、液晶の変調特性の温度依存性を補正しながら液晶を駆動することができる液晶光変調素子の駆動装置および駆動方法を提供することを目的とする。また、本発明は、小規模で、低消費電力で液晶を駆動する液晶光変調素子の駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
短時間においては、液晶はコンデンサとして作用し、液晶に定電流を流して充電または放電している間、液晶に印加される電圧の変化率は一定となる。これは、その短時間において画素容量の誘電率εが一定であるからである。従って、その短時間において、液晶に定電流を流して充電または放電を行い、液晶に印加される電圧の変化率を求めることによって、そのときの温度における液晶の誘電率εを知ることができる。換言すれば、そのときの温度における液晶の誘電率εを知るには、液晶に定電流を流して充電または放電を行っているときの液晶に印加される電圧の変化率を求めればよい。
【0009】
また、液晶分子の方向は液晶の誘電率εにより決まるので、誘電率εを、予め種々の変調データに応じて設定されている所定の温度における基準値に保つことによって、そのときの温度によらずに、液晶分子の方向を、変調データに応じた誘電率εの基準値に対応した方向に保つことができる。上述したように、液晶の誘電率εと、短時間で定電流により液晶を充放電する際の液晶の印加電圧の変化率との間には一定の関係があるので、誘電率εの代わりに、その電圧の変化率を用いることができる。
【0010】
所定の温度における誘電率εの基準値に対応する電圧の変化率の基準値については、誘電率εの基準値と同様、液晶光変調素子の製造時に知ることができる。従って、液晶に定電流を流して電圧の変化率を計測し、この電圧の変化率の計測値が変調データに応じた電圧の変化率の基準値に一致するように、フィードバック制御により液晶の駆動電圧を補正することによって、液晶の変調特性の温度依存性をなくすことができる。本発明は、このような考察に基づいてなされたものである。
【0011】
本発明にかかる液晶光変調素子の駆動装置は、ガラスまたはシリコン上の対向する電極間に液晶が封止された液晶光変調素子を駆動データに基づいて駆動する駆動装置であって、液晶光変調素子に定電流を流して液晶の充電または放電を行う定電流駆動手段と、前記定電流駆動手段による液晶の充電または放電の過渡期間中に、液晶に印加される電圧の変化率を計測する計測手段と、前記計測手段により計測された電圧の変化率に基づいて駆動データを補正する補正手段と、前記補正手段により補正された補正データに基づいて、液晶に供給する駆動信号を変調する駆動手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、前記駆動手段は、前記補正データに基づいて、液晶に供給するパルスの高さを変調することを特徴とする。また、前記駆動手段は、前記補正データに基づいて、液晶に供給するパルスの幅を変調することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる液晶光変調素子の駆動装置は、ガラスまたはシリコン上の対向する電極間に液晶が封止された液晶光変調素子を駆動データに基づいて駆動する駆動装置であって、液晶光変調素子に定電流を流して液晶の充電または放電を行う定電流駆動手段と、前記定電流駆動手段による液晶の充電または放電の過渡期間中に、液晶に印加される電圧の変化率を計測する計測手段と、前記計測手段により計測された電圧の変化率に基づいて駆動データを補正する補正手段と、を備え、前記定電流駆動手段は、前記補正手段により補正された補正データに基づいて液晶の充電または放電の過渡期間を制御することを特徴とする。
【0014】
また、前記計測手段は、液晶に印加される電圧が基準電圧値に達するまでに要する時間を計測し、その所要時間に基づいて電圧の変化率を求めることを特徴とする。また、前記補正手段は、種々の駆動データに対応する電圧の変化率の基準値を有しており、前記計測手段により計測された電圧の変化率と、そのときの駆動データに対応する電圧の変化率の基準値を比較し、電圧の変化率の計測値が電圧の変化率の基準値よりも小さい場合には、液晶に印加される電圧が低くなるように駆動データを補正し、一方、電圧の変化率の計測値が電圧の変化率の基準値よりも大きい場合には、液晶に印加される電圧が高くなるように駆動データを補正することを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる液晶光変調素子の駆動方法は、ガラスまたはシリコン上の対向する電極間に液晶が封止された液晶光変調素子を駆動するにあたって、液晶光変調素子に定電流を流して液晶を充電または放電する第1の期間と、前記第1の期間中の液晶が充電または放電されている過渡期間中に、液晶に印加される電圧の変化率を計測する第2の期間と、前記第2の期間で計測された電圧の変化率に基づいて液晶の駆動信号を補正し、その補正された駆動信号で液晶を駆動する第3の期間と、を含むことを特徴とする。
【0016】
また、前記第3の期間では、液晶の駆動信号のパルス高を変調する方式により液晶を駆動し、そのパルス高を、前記第2の期間で計測された電圧の変化率に基づいて補正することを特徴とする。また、前記第3の期間では、液晶の駆動信号のパルス幅を変調する方式により液晶を駆動し、そのパルス幅を、前記第2の期間で計測された電圧の変化率に基づいて補正することを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる液晶光変調素子の駆動方法は、ガラスまたはシリコン上の対向する電極間に液晶が封止された液晶光変調素子を駆動するにあたって、液晶光変調素子に定電流を流して液晶を充電または放電する第1の期間と、前記第1の期間中の液晶が充電または放電されている過渡期間中に、液晶に印加される電圧の変化率を計測する第2の期間と、液晶の充電または放電後に液晶に印加される電圧を保持する第3の期間と、を含み、前記第1の期間の長さを、前記第2の期間で計測された電圧の変化率に基づいて補正することを特徴とする。
【0018】
また、前記第3の期間で液晶に印加される電圧が一方の極性になるときの前記第1の期間の開始電圧と、前記第3の期間で液晶に印加される電圧が他方の極性になるときの前記第1の期間の開始電圧は、絶対値が同じで、かつ極性が異なることを特徴とする。また、前記第2の期間は、前記第3の期間で液晶に印加される電圧が一方の極性になるときと、前記第3の期間で液晶に印加される電圧が他方の極性になるときとで、それぞれ複数回に1回ずつ、均等な回数だけ設けられていることを特徴とする。
【0019】
上記の発明によれば、液晶に定電流を流して電圧の変化率を計測し、この電圧の変化率の計測値が、予め設定された所定温度における基準値になるように、フィードバック制御により液晶の駆動電圧を補正することによって、液晶の変調特性の温度依存性を補正することができる。また、駆動装置を、シリコン上などに形成可能なデバイスを用いた簡素な構成とすることができるので、シリコン上などに集積することによって小型化、低消費電力化を図ることができる。なお、静電容量には、画素容量以外にも隣接画素間容量や出力トランジスタのドレイン容量や保護回路素子容量などがあるが、これらの容量は画素容量に比べて十分小さいか、または温度依存性を有していない。従って、本発明では、静電容量として画素容量を考えればよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる液晶光変調素子の駆動装置および駆動方法によれば、液晶の変調特性の温度依存性を補正しながら液晶を駆動することができるという効果を奏する。また、小規模で、低消費電力で液晶を駆動する駆動装置が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる液晶光変調素子の駆動装置および駆動方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる駆動装置の一例を示すブロック図である。図1において、符号10は液晶光変調素子であり、符号20は、液晶光変調素子10を駆動する駆動装置である。図1に示すように、駆動装置20は、変換手段1、補正手段2、駆動手段3、定電流駆動手段4、選択手段5および計測手段6を備えている。特に変調方式を限定しないが、便宜上、パルス高変調(PHM)方式を例にして説明する。
【0023】
定電流駆動手段4は、選択手段5を介して、液晶光変調素子10に定電流を流して、液晶光変調素子10の液晶の充電または放電を行う。計測手段6は、定電流駆動手段4によって液晶が充電または放電する際の過渡期間中に、液晶に印加される電圧(図1のノードaの電圧)の変化率を計測する。特に限定しないが、計測手段6は、電圧コンパレータとカウンタで構成されている。
【0024】
電圧コンパレータは、液晶の充電または放電の過渡期間中に、液晶に印加される電圧(図1のノードaの電圧)と、予め設定された基準電圧値を比較する。カウンタは、液晶に印加される電圧(図1のノードaの電圧)が基準電圧値に達するまでに要する時間を計測する。計測手段6は、その所要時間に基づいて電圧の変化率を計測する。カウンタは、例えば外部からスタート信号が供給されるとカウントを開始し、外部からエンド信号が供給されるとカウントを停止して、初期値にリセットされる。電圧コンパレータは、基準電圧値を変更することができる構成でもよい。
【0025】
駆動装置20には、変調データが外部から供給される。変調データは、例えば液晶光変調素子10を光減衰器として用いる場合に、光の強度をどのくらい減衰するかということを表すデータである。変換手段1は、変調データを液晶光変調素子10の液晶の特性に合わせた駆動データに変換する。この駆動データは、パルスの高さを決めるデータである。液晶は、液晶に印加される電圧に対して非線形な特性を有するので、ダイナミックレンジと分解能を維持するために、このようなデータ変換が必要となる。
【0026】
予め、所定温度での種々の駆動データに対応する電圧の変化率の基準値が求められており、補正手段2は、その電圧の変化率の基準値を規定したテーブルを備えている。そして、補正手段2は、計測手段6により計測された電圧の変化率(以下、電圧の変化率の計測値とする)と、そのときの駆動データに対応する電圧の変化率の基準値を比較し、その比較結果に基づいて、変換手段1から出力された駆動データを補正する。
【0027】
電圧の変化率の計測値が電圧の変化率の基準値よりも小さい場合には、液晶に印加される電圧が低くなるように、駆動データが補正される。一方、電圧の変化率の計測値が電圧の変化率の基準値よりも大きい場合には、液晶に印加される電圧が高くなるように、駆動データが補正される。補正手段2により補正された駆動データを補正データとする。
【0028】
駆動手段3は、補正手段2から出力された補正データに基づいて、液晶をパルス高変調方式で駆動するために、液晶に供給する駆動信号のパルスの高さを変調する。選択手段5は、例えば外部からスタート信号が供給されると定電流駆動手段4を選択し、外部からエンド信号が供給されると駆動手段3を選択する。液晶は、選択手段5により選択された駆動手段3により駆動される。すなわち、選択手段5が定電流駆動手段4を選択している期間では、液晶に定電流が流れ、液晶は充電または放電される。一方、選択手段5が駆動手段3を選択している期間では、液晶はパルス高変調方式で駆動される。
【0029】
駆動装置20は、シリコン上などに形成可能なデバイスを用いて簡素に構成されており、シリコン上などに集積されている。特に図示しないが、液晶光変調素子10は、ガラスまたはシリコンでできた一対の基板の、相対峙する面にそれぞれ電極を設け、かつそれぞれの反対側の面に偏光板を設け、その一対の基板とシール材により封止された空間に液晶を封入した構成となっている。図1に示す例では、液晶の一方の電極は設置されており、他方の電極が選択手段5に接続されている。この選択手段5と液晶の他方の電極との接続ノードをノードaとする。
【0030】
次に、図1の駆動装置20による液晶光変調素子10の駆動方法について説明する。図2は、その駆動方法の一例を示す波形図であり、図1のノードaの電圧波形を表している。図2において、Aで示す期間は、定電流駆動手段4により液晶に定電流が流れて、液晶が充電または放電されている期間(以下、定電流駆動期間Aとする)である。Bで示す期間は、定電流駆動期間Aに含まれており、定電流による液晶の充電または放電によりノードaの電圧が予め設定された基準電圧値(図2に破線で示す)に達するまでの期間である。すなわち、計測手段6が電圧の変化率を計測している期間(以下、計測期間Bとする)である。Cで示す期間は、駆動手段3により液晶がパルス高変調方式で駆動されている期間(以下、PHM駆動期間Cとする)である。
【0031】
計測期間Bにおいて計測手段6が電圧の変化率を計測し、その電圧の変化率の計測値に基づいて補正手段2により駆動データが補正される。その補正された駆動データ(補正データ)に基づいてPHM駆動期間Cにおけるパルスの高さが決まり、PHM駆動期間Cでは、そのパルス高に応じた電圧が液晶に印加される。具体的には、液晶光変調素子10の使用環境の温度変化によって計測期間Bが長くなる、つまり電圧の変化率が小さ過ぎる場合には、PHM駆動期間Cでのパルス高が高くなるように補正され、一方、計測期間Bが短くなる、つまり電圧の変化率が大き過ぎる場合には、PHM駆動期間Cでのパルス高が低くなるように補正される。
【0032】
図3は、駆動方法の他の例を示す波形図であり、図1のノードaの電圧波形を表している。図3に示す波形図は、液晶をパルス幅変調(PWM)方式で駆動する場合の波形図である。この場合、上述した実施の形態1の説明において、駆動手段3は、補正手段2から出力された補正データに基づいて、液晶をパルス幅変調方式で駆動する。図3において、AおよびBで示す期間は、それぞれ定電流駆動期間Aおよび計測期間Bである。Dで示す期間は、駆動手段3により液晶がパルス幅変調方式で駆動されている期間(以下、PWM駆動期間Dとする)である。
【0033】
計測期間Bにおいて計測手段6が電圧の変化率を計測し、その電圧の変化率の計測値に基づいて補正手段2により駆動データが補正される。その補正された駆動データ(補正データ)に基づいてPWM駆動期間Dにおけるパルスの幅が決まり、PWM駆動期間Dでは、そのパルス幅に応じた電圧が液晶に印加される。具体的には、液晶光変調素子10の使用環境の温度変化によって計測期間Bが長くなる(電圧の変化率が小さ過ぎる)場合には、PWM駆動期間Dでのパルス幅が広くなるように補正され、一方、計測期間Bが短くなる(電圧の変化率が大き過ぎる)場合には、PWM駆動期間Dでのパルス幅が狭くなるように補正される。
【0034】
図4は、本発明の実施の形態1にかかる駆動装置の他の例を示すブロック図である。図4に示す駆動装置21は、定電流駆動手段4による液晶の駆動開始から予め設定された時間が経過した時点で、液晶に印加される電圧(図4のノードaの電圧)を、アナログ/ディジタル変換器(ADC)7で構成された計測手段によりディジタル信号に変換することによって、電圧の変化率を計測する。つまり、図4に示す駆動装置21では、計測期間Bは一定である。このような構成にしても、パルス高変調方式で液晶を駆動する場合のPHM駆動期間Cにおけるパルス高、またはパルス幅変調方式で液晶を駆動する場合のPWM駆動期間Dにおけるパルス幅を補正することができる。
【0035】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2にかかる駆動装置の一例を示すブロック図である。実施の形態2の駆動装置22は、液晶の駆動を定電流駆動手段4のみで行う構成としたものである。従って、図5に示すように、実施の形態2の駆動装置22は、図1に示す駆動装置20から駆動手段3と選択手段5を省略した構成となっている。液晶の充電または放電の過渡期間においては、定電流駆動手段4により液晶に定電流が流れる。液晶の充電または放電が終わった定常状態では、液晶に流れる電流はゼロとなる。実施の形態2では、定電流駆動手段4は、補正手段2により補正された補正データに基づいて液晶の充電または放電の過渡期間、すなわち液晶に定電流を流す期間を制御する。
【0036】
図6は、図5の駆動装置22による液晶光変調素子10の駆動方法の一例を示す波形図であり、図5のノードaの電圧波形を表している。実施の形態1と同様に、定電流駆動期間Aでは、定電流駆動手段4により液晶に定電流が流れて、液晶が充電または放電される。また、計測期間Bは定電流駆動期間Aに含まれている。ただし、図6に示す波形図では、計測期間Bにおいてノードaの電圧値と比較される基準電圧値は、ゼロVである。
【0037】
図6において、Eで示す期間は、定電流駆動手段4による液晶の充電または放電が終わり、それ以上液晶に電流が流れないため、液晶に流れる電流がゼロとなり、液晶に印加されている電圧を保持している期間(以下、保持期間Eとする)である。この保持期間Eでは、液晶のコンデンサの効果により保持電圧が一定となり、図6に示すように台形状の電圧波形となる。
【0038】
計測期間Bにおいて計測手段6が電圧の変化率を計測し、その電圧の変化率の計測値に基づいて補正手段2により駆動データが補正される。その補正された駆動データ(補正データ)に基づいて定電流駆動期間Aの長さが補正される。定電流駆動期間Aの長さが変わると、液晶に印加される電圧値が変化する。
【0039】
図7は、実施の形態2の駆動方法の他の例を示す波形図であり、図5のノードaの電圧波形を表している。図7に示す波形図は、図5のノードaの電圧がプラス極性になるときの定電流駆動期間Aの開始電圧と、図5のノードaの電圧がマイナス極性になるときの定電流駆動期間Aの開始電圧を、絶対値が同じで、かつ極性が異なる電圧値としたものである。
【0040】
このようにすれば、定電流駆動期間Aと保持期間Eを一定に保つことにより、プラス側の電圧とマイナス側の電圧が同じになり、直流成分が液晶に印加されるのを回避することができる。なお、図7には、定電流駆動期間Aの開始電圧の絶対値がゼロでない例が示されているが、開始電圧をゼロVにしてもよい。
【0041】
以上説明したように、各実施の形態によれば、液晶に定電流を流して液晶に印加される電圧の変化率を計測し、この電圧の変化率の計測値が、予め設定された所定温度における基準値になるように、フィードバック制御により液晶の駆動電圧を補正するので、液晶の変調特性の温度依存性を補正することができる。また、駆動装置をシリコン上などに集積した構成とすることによって、駆動装置の小型化および低消費電力化を図ることができる。
【0042】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、種々変更可能である。例えば、液晶に定電流を流したときの液晶に印加される電圧の変化率の計測値に基づいて、フィードバック制御により液晶の駆動電圧を補正する構成であれば、液晶の駆動方式は、パルス高変調方式、パルス幅変調方式または定電流駆動方式に限らない。
【0043】
また、すべての定電流駆動期間Aに計測期間Bを設けずに、ノードaの電圧がプラス極性になるときの定電流駆動期間Aの複数回に1回ずつと、ノードaの電圧がマイナス極性になるときの定電流駆動期間Aの複数回に1回ずつ、計測期間Bを設けてもよい。その際、全体としては、ノードaの電圧がプラス極性になるときに設けられる計測期間Bの回数と、ノードaの電圧がマイナス極性になるときに設けられる計測期間Bの回数が均等になるのがよい。このようにすれば、消費電力が増大するのを回避することができるとともに、フィードバックループによる発振を防ぐことができるので、低消費電力で安定して液晶光変調素子を駆動することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかる液晶光変調素子の駆動装置および駆動方法は、光減衰器等の液晶光変調素子の駆動に有用であり、特に、シリコン上に液晶光変調素子とともにその駆動装置を集積した小型の装置に適している。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる駆動装置の一例を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる駆動方法の一例を示す波形図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる駆動方法の他の例を示す波形図である。
【図4】本発明の実施の形態1にかかる駆動装置の他の例を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態2にかかる駆動装置の一例を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態2にかかる駆動方法の一例を示す波形図である。
【図7】本発明の実施の形態2にかかる駆動方法の他の例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0046】
A 定電流駆動期間(第1の期間)
B 計測期間(第2の期間)
C PHM駆動期間(第3の期間)
D PWM駆動期間(第3の期間)
E 保持期間(第3の期間)
2 補正手段
3 駆動手段
4 定電流駆動手段
6,7 計測手段
10 液晶光変調素子
20,21,22 駆動装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスまたはシリコン上の対向する電極間に液晶が封止された液晶光変調素子を駆動データに基づいて駆動する駆動装置であって、
液晶光変調素子に定電流を流して液晶の充電または放電を行う定電流駆動手段と、
前記定電流駆動手段による液晶の充電または放電の過渡期間中に、液晶に印加される電圧の変化率を計測する計測手段と、
前記計測手段により計測された電圧の変化率に基づいて駆動データを補正する補正手段と、
前記補正手段により補正された補正データに基づいて、液晶に供給する駆動信号を変調する駆動手段と、
を備えることを特徴とする液晶光変調素子の駆動装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記補正データに基づいて、液晶に供給するパルスの高さを変調することを特徴とする請求項1に記載の液晶光変調素子の駆動装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記補正データに基づいて、液晶に供給するパルスの幅を変調することを特徴とする請求項1に記載の液晶光変調素子の駆動装置。
【請求項4】
ガラスまたはシリコン上の対向する電極間に液晶が封止された液晶光変調素子を駆動データに基づいて駆動する駆動装置であって、
液晶光変調素子に定電流を流して液晶の充電または放電を行う定電流駆動手段と、
前記定電流駆動手段による液晶の充電または放電の過渡期間中に、液晶に印加される電圧の変化率を計測する計測手段と、
前記計測手段により計測された電圧の変化率に基づいて駆動データを補正する補正手段と、を備え、
前記定電流駆動手段は、前記補正手段により補正された補正データに基づいて液晶の充電または放電の過渡期間を制御することを特徴とする液晶光変調素子の駆動装置。
【請求項5】
前記計測手段は、液晶に印加される電圧が基準電圧値に達するまでに要する時間を計測し、その所要時間に基づいて電圧の変化率を求めることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液晶光変調素子の駆動装置。
【請求項6】
前記補正手段は、種々の駆動データに対応する電圧の変化率の基準値を有しており、前記計測手段により計測された電圧の変化率と、そのときの駆動データに対応する電圧の変化率の基準値を比較し、電圧の変化率の計測値が電圧の変化率の基準値よりも小さい場合には、液晶に印加される電圧が低くなるように駆動データを補正し、一方、電圧の変化率の計測値が電圧の変化率の基準値よりも大きい場合には、液晶に印加される電圧が高くなるように駆動データを補正することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の液晶光変調素子の駆動装置。
【請求項7】
ガラスまたはシリコン上の対向する電極間に液晶が封止された液晶光変調素子を駆動するにあたって、
液晶光変調素子に定電流を流して液晶を充電または放電する第1の期間と、
前記第1の期間中の液晶が充電または放電されている過渡期間中に、液晶に印加される電圧の変化率を計測する第2の期間と、
前記第2の期間で計測された電圧の変化率に基づいて液晶の駆動信号を補正し、その補正された駆動信号で液晶を駆動する第3の期間と、
を含むことを特徴とする液晶光変調素子の駆動方法。
【請求項8】
前記第3の期間では、液晶の駆動信号のパルス高を変調する方式により液晶を駆動し、そのパルス高を、前記第2の期間で計測された電圧の変化率に基づいて補正することを特徴とする請求項7に記載の液晶光変調素子の駆動方法。
【請求項9】
前記第3の期間では、液晶の駆動信号のパルス幅を変調する方式により液晶を駆動し、そのパルス幅を、前記第2の期間で計測された電圧の変化率に基づいて補正することを特徴とする請求項7に記載の液晶光変調素子の駆動方法。
【請求項10】
ガラスまたはシリコン上の対向する電極間に液晶が封止された液晶光変調素子を駆動するにあたって、
液晶光変調素子に定電流を流して液晶を充電または放電する第1の期間と、
前記第1の期間中の液晶が充電または放電されている過渡期間中に、液晶に印加される電圧の変化率を計測する第2の期間と、
液晶の充電または放電後に液晶に印加される電圧を保持する第3の期間と、を含み、
前記第1の期間の長さを、前記第2の期間で計測された電圧の変化率に基づいて補正することを特徴とする液晶光変調素子の駆動方法。
【請求項11】
前記第3の期間で液晶に印加される電圧が一方の極性になるときの前記第1の期間の開始電圧と、前記第3の期間で液晶に印加される電圧が他方の極性になるときの前記第1の期間の開始電圧は、絶対値が同じで、かつ極性が異なることを特徴とする請求項10に記載の液晶光変調素子の駆動方法。
【請求項12】
前記第2の期間は、前記第3の期間で液晶に印加される電圧が一方の極性になるときと、前記第3の期間で液晶に印加される電圧が他方の極性になるときとで、それぞれ複数回に1回ずつ、均等な回数だけ設けられていることを特徴とする請求項10または11に記載の液晶光変調素子の駆動方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−301116(P2006−301116A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120105(P2005−120105)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000001960)シチズン時計株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】