説明

液晶光学素子

【課題】耐衝撃性の高い液晶光学素子を得る。
【解決手段】液晶光学素子は、液晶と高分子とを含む電気光学機能層を、少なくとも一方が透明な一対の電極付基板間に挟持し、電圧の印加に応じて液晶の配向状態を変化させて光線透過状態と光線散乱状態とを呈するようにされた液晶光学素子であって、高分子は、複数の柱状樹脂から構成される柱状樹脂の集合体を複数形成し、柱状樹脂の集合体のそれぞれは、(i)電極付基板面の法線方向に略一致する軸心を持ち、(ii)電極付基板面に水平な方位面の電気光学機能層における柱状樹脂の占有面積が電極付基板面から離間するにつれて実質的に小さくなるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶と高分子とを含む電気光学機能層を一対の電極付基板間に挟持し、電圧の印加に応じて液晶の配向状態を変化させて光線透過状態と光線散乱状態とを呈するように構成された、液晶光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、透過−散乱型の動作モードを備えた液晶/高分子複合体液晶光学素子(Liquid Crystal Polymer Composite)が知られている。液晶/高分子複合体は、高分子と液晶間や液晶内部のドメインでの屈折率差によって光の制御を行なう。もっぱら、対向電極間に電圧を印加して光学特性を変化させることができる。高分子分散型液晶素子(PDLC)、あるいは、単に分散液晶とも呼ばれている。
【0003】
透過−散乱型の液晶光学素子はTN、STN液晶光学素子と異なり、原理的に偏光板が不要である。そのため、光透過率が基本的に高く、散乱特性と組み合わせ、調光ガラス、光シャッター、レーザー装置などに用いられている。
【0004】
液晶/高分子複合体層を備えた液晶光学素子の基本的な技術として以下のものがあげられる。まず、特許文献1に、液晶と重合性の液晶との混合液から液晶光学素子を形成するものが開示されている。混合液を液晶セル内で配向させた状態に置き、紫外線を照射して混合液からゲルを形成する。特許文献1では、特に、このゲルを異方性ゲルと呼んでいる。
【0005】
また、特許文献1に開示の液晶光学素子は、電圧非印加状態での液晶の屈折率と異方性ゲル(重合した高分子)の屈折率とが実質的に一致する。そのため視野方向によらず透明性の高い光学素子が得られる。さらに、電圧印加状態では液晶の誘電率異方性により液晶の配向が変化し、液晶の屈折率と異方性ゲルの屈折率とが異なる状態となり、光学素子として散乱状態を呈するようになる。
【0006】
特許文献2には、誘電率異方性が正であるカイラルネマチック液晶中に、微量の高分子を分散させたものが開示されている。基本的な構成は特許文献1と同様である。電圧非印加時に透明状態を呈し、電圧印加時に散乱状態を呈する。特許文献2の液晶光学素子はPSCT(ポリマー・スタビライズド・コレステリック・テクスチャー)と呼ばれている。
【0007】
さらに、特許文献3には、高分子と誘電率異方性が負の液晶との混合物を垂直配向膜に挟持させ、重合相分離によって液晶/高分子複合体を形成したものが開示されている。
【特許文献1】米国特許第5188760号明細書
【特許文献2】国際公開第WO92/19695号パンフレット
【特許文献3】欧州特許公開EP1154006号明細書(実施例7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1〜3に記載のようなリバースモードの分散型液晶光学素子、つまり、電圧非印加時に透明状態を呈するものは、あたかもガラス板であるかのように見える。よって、機能性を付加した高透明性のガラス製品として使用することができる。例えば、調光ガラス、ヘッドアップディスプレイ、ゲーム機の表示装置、公衆表示装置として用いることができる。
【0009】
このような用途においては、高い透明性を得るために、液晶光学素子の表面を保護せずに露出した状態で設置されることが多い。ところが、そのような設置状態では、液晶光学素子の表面に、人が直接触れたり、あるいは物がぶつかったりしやすい。かかる場合、液晶光学素子の表面、特に衝撃を受けた部分に透明状態に復帰しない白濁が生じることがある。
【0010】
この白濁の原因は、液晶光学素子の内部の高分子(モノマー等の重合体)の構造が破壊され変形を生ずることによると考えられる。さらに、高分子の形状が部分的に変形するだけでなく、その周辺の液晶の配向までが変化を生じるためと考えられる。
【0011】
このような白濁は、液晶光学素子に対して、その光学状態を変化させるだけの駆動電圧を印加しても、元の状態に復帰することがない。いわゆる安定な光学状態を可逆的にとることができなくなっているのである。よって、白濁が生じた部分では、表示機能が失われ、本来の所望の表示動作ができない。
【0012】
また、液晶光学素子の製造時や液晶表示素子を表示装置等へ組み込む際にも上記白濁の問題が生じ得る。例えば、製造工程中の液晶セルに、何らかの外的要因によって、衝撃が印加されることがある。すると、上記と同様の白濁が生じる。この場合、液晶光学素子を製造する全体の工程での歩留まりの低下につながる。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐衝撃性に優れる液晶光学素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は、液晶と高分子とを含む電気光学機能層を、少なくとも一方が透明な一対の電極付基板間に挟持し、電圧の印加に応じて該液晶の配向状態を変化させて光線透過状態と光線散乱状態とを呈するようにされた液晶光学素子であって、該高分子は、複数の柱状樹脂から構成される柱状樹脂の集合体を複数形成し、該柱状樹脂の集合体のそれぞれは、(i)該電極付基板面の法線方向に略一致する軸心を持ち、(ii)該電極付基板面に水平な方位面の該電気光学機能層における該柱状樹脂の占有面積が該電極付基板面から離間するにつれて実質的に小さくなるように形成されている、液晶光学素子である。
【0015】
本発明の第1の態様によれば、柱状樹脂の集合体を複数形成することにより、耐衝撃性に優れた液晶光学素子を得ることができる。これは、上記のような柱状樹脂の集合体を形成することにより、基板面の法線方向のみならず水平方向に対しても強い構造を実現できたためと考えている。その結果、衝撃が加わった際の高分子の変形や、その周辺の液晶の配向変化による白濁化現象を抑制し、耐衝撃性に優れた液晶光学素子を提供することができる。
【0016】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様の液晶光学素子において、上記柱状樹脂の集合体が連接し、該液晶のドメイン領域を形成していることを特徴とする液晶光学素子である。ここで、液晶ドメイン領域とは、液晶分子が占有している空間をいう。かかる構成により、耐衝撃性を向上させつつ、液晶ドメイン領域を十分に確保して、高分子の含有量が多くなる場合に懸念される駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、上記柱状樹脂の集合体は、さらに、(iii)該一対の電極付基板間の一方の基板から他方の基板まで延在され、(iv)該電極付基板面に近づくにつれて裾が広がるように形成され、(v)該電極付基板面の法線方向からチルトしている柱状樹脂が含まれている。また、上記電気光学機能層における該高分子の含有量が10wt%以上とする。このように液晶/高分子複合体層における高分子の含有量、高分子の形状及び高分子の配向性の条件を複合的に設計することにより、耐衝撃性に優れた液晶光学素子が得ることができる。これは、上記複合的条件を満たすことにより、基板面の法線方向のみならず水平方向に対しても強い構造を実現できたためと考えている。その結果、衝撃が加わった際の高分子の変形や、その周辺の液晶の配向変化による白濁化現象を抑制し、耐衝撃性に優れた液晶光学素子を提供することができる。なお、液晶/高分子複合体層5における高分子の含有量が10wt%未満では、散乱強度、耐衝撃性、耐電圧及び信頼性等の低下が懸念される。
【0018】
本発明の第4の態様は、上記柱状樹脂の少なくとも一部は枝分かれ部を備えていることを特徴とする液晶光学素子である。このように構成することにより液晶光学素子の耐衝撃性を効果的に向上させることができる。
【0019】
本発明の第5の態様は、上記枝分かれ部を有する柱状樹脂の少なくとも一部が、該枝分かれ部を介して異なる柱状樹脂と相互に連結していることを特徴とする液晶光学素子である。このように構成することにより、液晶光学素子の耐衝撃性をさらに向上させることができる。
【0020】
本発明の第6の態様は、上記柱状樹脂の短軸方向の直径は、0.05〜1μmであることを特徴とする液晶光学素子である。0.05μm未満では、耐衝撃性、耐電圧、信頼性等が低下する恐れがあり、1μmを超えると光線透過時における透明性の低下が懸念されるためである。
【0021】
本発明の第7の態様は、上記電気光学機能層における上記高分子の含有量が50wt%以下であることを特徴とする液晶光学素子である。50wt%を超えると、駆動電圧が上昇する恐れがある。
【0022】
本発明の第8の態様は、上記液晶の配向方向は、上記光線透過状態において、上記基板面の法線方向に略一致していることを特徴とする液晶光学素子である。
【0023】
本発明の第9の態様は、上記柱状樹脂のうち、上記チルトしている柱状樹脂の延在方向である長軸方向の上記一対の電極付基板の法線方向に対する平均チルト角が、15〜50°であることを特徴とする液晶光学素子である。
【0024】
本発明の第10の態様は、上記柱状樹脂の延在方向である長軸方向の上記電極付基板面への射影の方位は、マルチ方位であることを特徴とする液晶光学素子である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、耐衝撃性に優れた液晶光学素子を提供することができる。特に、機械的外力が印加されることが多い用途において、実使用に耐え得る液晶光学素子を提供することができるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明を適用可能な実施の形態の説明をする。以下の説明は、本発明の実施形態についてのものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0027】
本発明に係る液晶光学素子は、駆動電圧の印加に応じて光線透過状態と光線散乱状態とを可逆的に制御できるようになしたものである。光線透過状態及び光線散乱状態とは、通常可視光に対して適用される。一般的に、液晶光学素子の透過−散乱モードとしては、ノーマルモードとリバースモードとがある。ノーマルモードは、電圧印加時に光線透過状態、電圧非印加時に光線散乱状態をとるように構成されたものであり、リバースモードは、電圧印加時に光線散乱状態、電圧非印加時に光線透過状態をとるように構成されたものである。
【0028】
用途及び使用の目的によるが、一般的には、電圧非印加時を光線透過状態として、液晶光学素子の存在自体が利用者に目障りになったり、圧迫感を与えることがないようにすることが好ましい。そのため、本発明においては、リバースモードの液晶光学素子を例に取り説明する。無論、ノーマルモードの液晶光学素子に本発明を適用できることは言うまでもない。
【0029】
図1は、本発明に係る液晶光学素子の構成の一例を示す模式的断面図である。同図に示すように、本発明に係る液晶光学素子は、第1の基板1、第2の基板2、第1の電極3、第2の電極4、液晶/高分子複合体層5、スペーサ6、周辺シール7、第1の配向膜8、第2の配向膜9等を備えている。
【0030】
第1の基板1及び第2の基板2としては、透明なガラス基板、ポリエステルフィルム等のフィルム基板、これらの組み合わせからなる基板等を用いることができる。第1の基板1と第2の基板2とを同じ基板で構成する必要はなく、例えば、一対の基板の一方を、電極の機能も兼ね備えるアルミニウム板、銅版等からなる基板や誘電体多層膜の反対電極からなる基板としてもよい。第1の基板1と第2の基板2とは、図1に示すように所定の間隙を持って対向配置されている。第1の基板1及び第2の基板2は、必ずしも平面状である必要はなく曲面などの異形状でもよい。
【0031】
第1の基板1及び第2の基板2の、それぞれの主面のうち双方が対向する面上には、それぞれ第1の電極3、第2の電極4のパターンが形成されている。この第1の電極3及び第2の電極4としては、ITO(酸化インジウム−酸化スズ)や酸化スズなどの金属酸化物の膜等を用いることができる。例えば、第1の基板1及び第2の基板2にガラス基板を用い、第1の電極3及び第2の電極4としてITO(酸化インジウム−酸化スズ)や酸化スズなどの金属酸化物の膜を設けた、いわゆる透明導電膜付きガラスや、ポリエチレンテレフタレート(PET)にITO膜を設けた透明導電膜付きポリエステルフィルム、あるいは、透明導電膜付きPES等が使用される。また、一対の基板の一方にアルミニウム蒸着フィルム、金蒸着フィルムを設けたりしてもよい。
【0032】
第1の電極3及び第2の電極4上には、液晶/高分子複合体層5と接し、かつ液晶/高分子複合体層5中の液晶を配向せしめる第1の配向膜8、第2の配向膜9がそれぞれ設けられている。第1の配向膜8及び第2の配向膜9は、液晶を基板面に対して垂直の方向に配向せしめる役割を担う。配向能は、例えば薄膜にラビング処理を施すことにより付与することができる。なお、液晶を基板面に対して垂直配向に制御できれば必ずしも配向膜を備えていなくてもよい。例えば、第1の電極3又は第2の電極4の表面を直接研磨したものを用いたり、電極表面に液晶を配向させる機能を付与したものを用いてもよい。
第1の基板1と第2の基板2の間には、図1に示すように、電気光学機能層たる液晶/高分子複合体層5及びスペーサ6が挟持せしめられている。スペーサ6は、液晶セルの厚みを規定する役割を担う。すなわち、スペーサ6によって基板間に挟持される液晶/高分子複合体層5の厚みが規定される。スペーサ6の材料としては、例えば、ガラス粒子、樹脂粒子、アルミナ粒子、ガラスファイバー、フィルムを用いることができる。スペーサの形状としては、球状スペーサ、ファイバー型スペーサ、柱状のスペーサ等を用いることができる。
【0033】
液晶/高分子複合体層5の厚さは、通常、1〜50μmであり、より好ましくは5〜30μmである。間隔が小さすぎるとコントラストが低下し、逆に間隔が大きすぎると駆動電圧が上昇してしまうためである。
【0034】
液晶/高分子複合体層5に含有される高分子は、複数の柱状樹脂の集合体からなる。柱状樹脂は、その長軸方向が電極付基板面の法線方向に略一致しているものと、この法線方向からチルトしているものが混在している。液晶/高分子複合体層における高分子の含有量は、10wt%以上とする。
【0035】
なお、法線方向からチルトしている柱状樹脂とは、図2に示すように、基板面の法線(図中のz軸)を基準にして柱状樹脂の長軸方向nが傾いている場合をいう。同図に示すように、基板面の法線(図中のz軸)と柱状樹脂の長軸方向nの成す角度θをチルト角という。また、基板面上の任意の方向(例えば、図中のx軸)を基準として、柱状樹脂の長軸方向nの基板面への射影の方向cをチルト方位という。
【0036】
上述したとおり液晶光学素子に外部から衝撃が加わると、液晶光学素子の表面、特に衝撃を受けた部分に透明状態に復帰しない白濁が生じることがある。この白濁の原因は、液晶光学素子の内部の高分子の構造が破壊され変形を生ずることによると考えられる。さらに、高分子の形状が部分的に変形するだけでなく、その周辺の液晶の配向までが変化を生じるためと考えられる。このような白濁は、液晶光学素子に対して、その光学状態を変化させるだけの駆動電圧を印加しても、元の状態に復帰することがない。いわゆる安定な光学状態を可逆的にとることができなくなっているのである。よって、白濁が生じた部分では、表示機能が失われ、本来の所望の表示動作ができなくなってしまう。
【0037】
この第1の実施形態によれば、液晶/高分子複合体層における高分子の含有量、高分子の形状及び高分子の配向性の条件を複合的に設計することにより、高い耐衝撃性が得られることを見出した。これは、上記複合的条件を満たすことにより、基板面の法線方向のみならず水平方向に対しても強い構造を実現できたためと考えている。その結果、衝撃が加わった際の高分子の変形や、その周辺の液晶の配向変化による白濁化現象を抑制し、耐衝撃性の高い液晶光学素子を提供することができる。
【0038】
なお、液晶/高分子複合体層5における高分子の含有量が10wt%未満では、耐衝撃性、耐電圧、又は信頼性等が低下する恐れがある。駆動電圧の上昇を抑制する観点からは、液晶/高分子複合体層5における高分子の含有量を50wt%以下とすることがより好ましい。液晶/高分子複合体層における高分子の質量のより好ましい範囲は12〜35wt%であり、さらに好ましくは13〜18wt%である。
【0039】
柱状樹脂のうちチルト配向しているものの平均チルト角は、15〜50°とすることが好ましい。ここでいう平均チルト角とは、基板面の法線方向と、チルト配向している柱状樹脂の長軸方向との成す角度の平均をいう。平均チルト角が50°を越えると、液晶のドメインが不均一となり、駆動電圧の上昇や散乱特性の低下が生じる恐れがある。また、平均チルト角が15°未満では、衝撃が加わった際の基板変形に伴って生じる液晶の流動によって高分子の不可逆的な変形が生じてしまう恐れがある。そして、高分子の不可逆的な変形が生じた場合、配向ムラによる白濁が発生する恐れがある。耐衝撃性、駆動電圧等の種々の特性を満足させる観点から、平均チルト角のより好ましい範囲は、20〜30°である。
【0040】
柱状樹脂のうちチルト配向しているもののチルト方位は、特に限定されないが、耐衝撃性を向上させる観点から、電極付基板面に対して特定の方位に配向されているよりあらゆる方位に配向されているほうが好ましい。
【0041】
柱状樹脂は、柱状樹脂の少なくとも一部が枝分かれ部を備えていてもよい。また、枝分れ部を介して相互に異なる柱状樹脂と連結するように構成していてもよい。このように構成することにより、液晶光学素子の耐衝撃性をさらに向上させることができる。
【0042】
柱状樹脂の短軸方向の直径は、0.05〜1μmとすることが好ましい。0.05μm未満では、耐衝撃性や耐電圧の低下、信頼性の低下が懸念され、1μmを超えると光線透過時における透明性が低下する恐れがあるためである。柱状樹脂の短軸方向における直径のより好ましい値は、0.1〜0.5μmであり、さらに好ましくは0.2〜0.3μmである。
【0043】
電極付基板面に水平な方位面の液晶/高分子複合体層5における柱状樹脂の占有面積は、基板近傍から離間するにつれて小さくなるようにしている。このようにすることにより、液晶ドメイン領域を一対の基板間の中央部領域に効率的に形成することができる。その結果、駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0044】
液晶/高分子複合体層5における高分子は、柱状樹脂の集合体を複数形成し、この柱状樹脂の集合体のそれぞれが、電極付基板面の法線方向に略一致する軸心を持ち、かつ電極付基板から離間するにつれて電極付基板面に水平な方位面の電気光学機能層における柱状樹脂の占有面積が小さくなるように形成することが好ましい。このように構成することにより、耐衝撃性に優れた液晶光学素子を得ることができる。これは、上記のような柱状樹脂の集合体を形成することにより、基板面の法線方向のみならず水平方向に対しても強い構造を実現できたためと考えている。その結果、衝撃が加わった際の高分子の変形や、その周辺の液晶の配向変化による白濁化現象を抑制し、耐衝撃性に優れた液晶光学素子を提供することができる。
【0045】
柱状樹脂の集合体が連接するようにし、液晶のドメイン領域を形成させることが好ましい。ここで、液晶ドメイン領域とは、液晶分子が占有している空間をいう。かかる構成により、耐衝撃性を向上させつつ、液晶ドメイン領域を十分に確保して、高分子の含有量が多くなる場合に懸念される駆動電圧の上昇を抑制することができる。
【0046】
なお、柱状樹脂は、配向膜等で形成される基板表面と化学的又は物理的に接着していてもよいし、接着していなくてもよい。
【0047】
液晶/高分子複合体層5中の液晶は、光線透過状態における液晶の配向方向が、基板面の法線方向に略一致するようにする。液晶を垂直配向にすることにより、液晶光学素子の光線透過状態をより良好に保つことができる。本発明においては、リバースモードを採用しているので、第1の電極3及び第2の電極に電圧を印加していないときには、液晶が配向して光線透過状態となる。
【0048】
一方、第1の電極3及び第4の電極4に電圧を印加すると電極間の電界により液晶がランダムに配向し、光線散乱状態となる。このように電圧の印加、非印加によって光線散乱状態と光線透過状態とを制御することができるので、第1の電極3、及び第2の電極4の形成パターンに応じて所望の画像を表示することができる。
【0049】
液晶の種類としては、ネマチック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶及び強誘電性液晶などを用いることができる。中でも、ネマチック液晶を用いることが好ましい。ネマチック液晶は、他の液晶に比して液晶温度範囲が広く、粘性が小さいため、液晶素子の動作温度範囲を広く、かつ動作速度を大きくすることができるからである。液晶の誘電率異方性は負とした場合は、液晶の配向性を垂直配向として用いる。
【0050】
液晶化合物としては、一般的な表示材料として、あるいは電界駆動型表示素子の材料として使用される種々のものを使用可能である。具体的には、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、シクロヘキシルベンゼン系、アゾキシベンゼン系、アゾベンゼン系、アゾメチン系、ターフェニル系、ビフェニルベンゾエート系、シクロヘキシルビフェニル系、フェニルピリジン系、シクロヘキシルピリミジン系、コレステロール系等を挙げることができる。
【0051】
液晶化合物は、一般的に使用されている場合と同様に、単独で使用する必要はなく、二種類以上の液晶化合物を組み合わせて使用してもよい。また、電界による表示を目的とする場合は、上記の液晶化合物の中でも誘電率異方性が負のものを用いるのが好ましい。また駆動電圧を低下させるためには、誘電率異方性の絶対値が大きいものを用いるのが好ましい。誘電率異方性の絶対値が大きい液晶化合物としてはシアノ基やフッ素や塩素などのハロゲン原子を置換基として有する化合物が化学的安定性から用いられる。駆動電圧の低下を重視する場合にはシアノ基を置換基として有する化合物、信頼性を重視する場合にはフッ素原子を置換基として有する化合物が用いられる。
【0052】
液晶/高分子複合体層5は、コントラスト比や安定性の向上を目的として、種々の化合物が添加されていてもよい。例えば、コントラストの向上を目的として、アントラキノン系、スチリル系、アゾメチン系、アゾ系等の各種二色性色素を使用できる。その場合、二色性色素は、基本的に液晶化合物と相溶し、高分子化合物とは不相溶であることが好ましい。このほか、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種可塑剤も、安定性や耐久性向上の点から好ましく使用される。
【0053】
本発明に係る液晶光学素子においては、上述したとおり液晶/高分子複合体層5が光学的機能を発現する上での主構成要素となる。液晶/高分子複合体層5は、液晶/高分子複合体層の前駆体の混合液(以下、単に「混合液」とも言う)から形成される。この混合液の状態から、相分離のプロセスを経て、光学的に機能し得る良好な液晶/高分子複合体層5を形成することが重要である。相分離が十分でない場合は、液晶を動作させるための駆動電圧が上昇したり、液晶光学素子として動作しなくなる等の不具合を生じる。なお、相分離構造とは、相分離プロセスを経て形成され、電気光学的特性・機能を発現することができる液晶セル内部の構造を意味している。
【0054】
液晶/高分子複合体の相分離構造の微細形状は、液晶/高分子複合体層5の前駆体の混合液を構成する化合物の種類、性質、混合比等によって種々変えることができる。用いる材料の組み合わせや混合比は、透過−散乱特性等の光学特性や、駆動電圧の大きさ、電子光学素子として求められる信頼性の程度を考慮して決定する。液晶/高分子複合体層5の前駆体の混合液としては、上述した液晶/高分子複合体層5が得られるものであれば特に限定されないが、液晶化合物と重合性化合物が含有されたものから形成される。透過−散乱の電気光学特性が均一な高品位な液晶/高分子複合体層5を得るために、配合物の種類及び混合比を適宜選択して、前駆体の混合液が均一な液晶層を示すようにすることが好ましい。
【0055】
好ましい液晶/高分子複合体層5の前駆体の混合液としては、例えば、液晶化合物<C>と、第1の重合性化合物<A>と、第2の重合性化合物<B>、適宜、重合開始剤を加えたものからなるものを用いることができる。第1の重合性化合物<A>としては、これと液晶化合物<C>、重合開始剤との組成物を、後述する方法により上記基板間に注入して重合を行った場合に、その重合された高分子が基板面の法線方向に略垂直となる柱状樹脂を形成するものを選定する。第2の重合性化合物<B>としては、これと液晶化合物<C>、重合開始剤との組成物を後述する方法により上記基板間に注入して重合を行った場合に、ランダム状の柱状樹脂を形成するものを選定する。
【0056】
上記液晶化合物<C>は、非重合性の液晶化合物であることが好ましい。第1の重合性化合物<A>と、第2の重合性化合物<B>の種類はそれぞれ一種類ずつでもよいし、複数種類のものを用いてもよい。重合された高分子は、ランダム共重合体、交互共重合体等の共重合体でもよいし、それぞれ単独の重合体であってもよい。液晶/高分子複合体層5中の高分子の均一性を考慮すると共重合体であることが好ましい。第1の重合性化合物<A>及び第2の重合性化合物<B>を用いることにより、基板面の法線方向に略一致した柱状樹脂とチルト配向した柱状樹脂が混在したものを得ることができる。
【0057】
次に、本発明の第1の実施形態に係る液晶光学素子の製造方法の一例について説明する。なお、以下に説明する製造方法は典型的な一例であり、本発明の趣旨に合致する限り他の製造方法を採用することができることは言うまでもない。
【0058】
第1の基板1及び第2の基板2がフィルム基板の場合、連続で供給される電極付き第1の基板1及び第2の基板2を2本のゴムロール等で挟み、その間に、混合液にスペーサを分散させた液を供給し、挟み込み、その後連続で重合させることができるので生産性が高い。
【0059】
第1の基板1及び第2の基板2がガラス基板の場合、その面内に微量のスペーサを散布し、対向させた基板の四辺をエポキシ樹脂等のシール剤で封止セルとし、二カ所以上設けたシールの切り欠きの一方を混合液に浸し、他方より吸引することで液晶セル内に混合液を満たし、重合すればよい。
【0060】
まず、第1の基板1及び第2の基板2にそれぞれ第1の電極3及び第2の電極4、第1の配向膜8、第2の配向膜9等を形成する。配向膜の焼成を行った後、必要に応じてラビングなどの配向処理を行う。その後、第1の基板1の配向膜形成面側に散布機を用いてスペーサ6を散布する。第2の基板2には、シール材7を塗布する。第1の基板1と第2の基板2とは、アライメントマークなどを用い位置合わせを行った後、加熱圧着する。圧着後の基板間は、スペーサ6によって保持される。
【0061】
次に、液晶/高分子複合体層5の前駆体となる混合液を基板間に注入して封止する。封止方法としては、公知の方法を利用することができる。液晶/高分子複合体層の前駆体となる混合液としては、下記のものを用いることができる。すなわち、化学式(1)で表される二官能重合性化合物(A)の一種以上、化学式(2)で表される二官能重合性化合物(B)の一種以上及び非重合性の液晶性組成物(C)を含有する液晶性混合物(D)を用いることができる。
【化1】


ただし、
、A、A、Aは、それぞれ独立に、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルエーテル基、ビニル基又はグリシジルエーテル基である。Q、Q、Q、Qは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、1,4−フェニレン基、1,4−シクロヘキシレン基又はピリミジン−2,5−ジイル基である。また、X、Xは、それぞれ独立に、単結合、酸素原子又はエステル結合である。また、R、Rは、それぞれ独立に、単結合又は炭素原子間に一個又は複数個のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖又は分枝状炭素数1〜20のアルキレン基である。さらに、Z、Z、Zは、それぞれ独立に、単結合、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−CH−CH−、−C≡C−、−CH−O−、−O−CH−、−CH=N−、又はN=CH−である。Rは、炭素原子間に一個又は複数個のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖又は分枝状炭素数1〜50のアルキレン基である。p、qは、それぞれ独立に、0又は1である。
【0062】
その後、液晶/高分子複合体層5の前駆体の混合液に外部刺激を加え、液晶/高分子複合体層5を形成する。外部刺激としては、可視光線、紫外線、電子線等の光線照射や、熱等を挙げることができる。中でも、重合時の温度を容易に制御することができる観点から、光照射とすることが好ましい。光照射のうちでも、取り扱い性、製造容易性等の観点から、紫外線を用いることがより好ましい。
【0063】
光重合により液晶/高分子複合体層5の前駆体の混合液を相分離させて液晶/高分子複合体層5を得る、いわゆる光重合相分離法の場合には、光源として高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を使用することができる。
【0064】
光照射により液晶/高分子複合体層5の前駆体の混合液を重合せしめる場合の光照射条件は、重合性モノマーの種類に応じて設定する。混合液に直接照射する際の照射光の強度としては、1〜400mW/cmとすることが好ましい。1mW/cm未満では、相分離速度が遅くなって散乱強度が低下し、400mW/cmを超えると、光反応により分解反応が起こって保持率の低下が起こるためである。
【0065】
光照射時の温度は、混合液が液晶相を示すことができる温度範囲とすることが好ましい。混合液が相溶状態を示す相溶温度以下で重合した場合は、光重合の前に相分離が起こり、液晶が不均一な状態の液晶/高分子複合体となってしまう恐れがあるためである。また、混合液の温度が高すぎると、混合液が液晶相から等方相に相転移し、液晶光学素子の散乱−透過の電気光学特性を確保することができない恐れがあるためである。混合液が液晶相を示すことができる液晶温度範囲の好ましい範囲は、10〜60℃、より好ましくは30〜50℃である。重合時は、液晶光学素子10の全面を均一な条件(光照射及び重合温度)の下に重合させるために、恒温槽等を用いて一定の環境下で行うことが好ましい。
【0066】
重合開始剤としては、公知の重合触媒から適宜選択できるが、光重合の場合は、ベンゾインエーテル系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系などの一般に光重合に用いられる光重合開始剤を使用できる。熱重合の場合は、重合部位の種類に応じて、パーオキサイド系、チオール系、アミン系、酸無水物系などの熱重合開始剤を使用でき、また、必要に応じてアミン類などの硬化助剤も使用できる。
【0067】
重合開始剤の含有量は、重合性モノマーの合計量100重量部に対して、通常、0.1〜20重量部であり、0.1〜10重量部以下が好ましい。重合後の高分子(重合体)において、高い分子量や高い比抵抗が要求される場合、0.1〜5重量部とすることがさらに好ましい。重合開始剤の含有量が20重量部を超えると、混合液の相溶性を阻害するので好ましくない。
【0068】
また、重合開始剤の含有量が0.1重量部未満の場合、混合溶液に含まれる重合性モノマーを重合させても、重合性モノマーが十分に重合することができない。所望の相分離構造を形成できないことになる。よって、上記の範囲を満足することが好ましい。また、電界印加/非印加時の液晶光学素子のコントラスト比を向上させるために、混合溶液に公知のカイラル剤を添加することもできる。
【0069】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。用いる材料の選択と組み合わせにより、所望の機械的特性を発現させるものである。
【0070】
第2の実施形態の液晶光学素子においては、液晶と高分子とが相分離して形成された液晶/高分子複合体層が、光学的機能を発現するうえでの主構成要素となる。混合物の状態から、相分離のプロセスを経て、光学的に機能し得る良好な構造が形成されることが重要である。相分離が十分でない場合は、液晶を動作させるための駆動電圧が上昇したり、液晶光学素子として動作しなくなる等の不具合を生じる。
【0071】
液晶/高分子複合体の相分離構造の微細形状は、使用する液晶化合物と重合性化合物、及び非重合性化合物の種類、性質、混合比等によって種々変えることができる。用いる材料の組み合わせや混合比は、透過−散乱特性等の光学特性や、駆動電圧の大きさ、電子光学素子として求められる信頼性の程度を考慮して決定する。相分離構造とは、相分離プロセスを経て形成され、電気光学的特性・機能を発現することができる液晶セル内部の構造を意味している。
【0072】
また、透過−散乱の電気光学特性が均一な高品位の液晶/高分子複合体を得るためには、液晶化合物と重合性モノマーとを少なくとも含有する上記の混合物は、混合後、均質な溶液であることが好ましい。
【0073】
混合物を配合する場合において、重合性モノマーの含有量が大きいと混合液が分離してしまう。そのため、良好な相分離構造を得ることが難しい。よって、液晶光学素子として使用することができない。また、重合性モノマーの含有量が大きいと、混合物(一般的に混合液の状態を示す。)が相溶せず、2相分離する温度が上がる。かつ、液晶相から等方相に相転移する温度が下がる。そのため、混合物が液晶相を示すことができる温度範囲が狭くなり、好ましくない。このように、混合物が均一な液晶相を示すように、各配合物の種類及び混合比を適宜選択することが好ましい。
【0074】
本発明において、液晶性混合物(D)を液晶状態で配向膜間に保持すると、混合物(D)は配向膜の種類(配向能)に応じて、水平配向、ツイスト配向、ハイブリッド配向、垂直配向などの配向状態をとる。この配向状態で、混合物(D)中の重合性化合物を重合して高分子を形成する。
【0075】
このような方法をとることで、高分子と液晶性組成物(C)とが相分離し、液晶/高分子複合体を形成できる。この際に、高分子内の分子配列は重合前の配向を維持できるように二官能重合性化合物(A)を選択する。重合相分離のプロセスの前後において、配向を維持するためには、液晶性組成物(C)と二官能重合性化合物(A)の相溶性がよいことが好ましい。
【0076】
一方、重合後に形成される高分子が、液晶性組成物(C)から良好に相分離するためには、二官能重合性化合物(A)は液晶性を有さない方が好ましい。配向状態としては上記の配向状態のいずれも用いることができる。完成した液晶光学素子として、電圧非印加時の透明性を向上させるためには垂直配向を用いることが好ましい。垂直配向の場合、スペーサに起因する配向欠陥を少なくすることができる。液晶光学素子の透明性がより向上するからである。本発明の液晶光学素子を製造するうえで、液晶組成物の誘電率異方性の極性としては、正でも負でもよいが、垂直配向の場合は負が好ましい。それ以外の場合は正が好ましい。
【0077】
本発明の液晶光学素子は、液晶/高分子複合体を形成する高分子化合物が、少なくとも前記二官能重合性化合物(A)の一種以上、前記二官能重合性化合物(B)の一種以上及び非重合性の液晶性組成物(C)を含む混合物に由来する重合体である。前記二官能重合性化合物(A)は、高分子化合物のなかで、剛直性を有する主骨格成分を形成する。また、前記二官能重合性化合物(A)は液晶性組成物(C)との相分離に際して、化合物(A)の骨格部分Q、Q、Q、Qが液晶性化合物(C)の骨格部分と方向を維持したまま相分離する特性を持つため、形成される柱状の樹脂構造を形成される効果をもつ。一方、前記二官能重合性化合物(B)は、高分子化合物のなかで、衝撃吸収の役割を果たすことができる柔軟成分を形成する。
【0078】
また、前記二官能重合性化合物(B)は骨格部分Q、Q、Q、Qを保有しないため、液晶性組成物(C)との相分離に方向性をもたないため、形成される樹脂構造を枝分かれさせたり傾けたりする効果をもつ。このような物性の異なる化合物を組み合わせることによって、電子光学素子として良好な耐衝撃性を備えた液晶/高分子複合体を形成できる。
【0079】
以下、本発明で用いる前記二官能重合性化合物(B)について、さらに説明をする。前記二官能重合性化合物(B)は、化学式(2)の化合物であれば格別制限されない。例えば、下記条件を満たす化合物である。
、Aが、それぞれ独立に、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基又はビニルエーテル基である。Rが、−R−又は(R−O)−R−である。
ただし、Rは炭素数2〜20の直鎖又は分枝状アルキレン基であり、Rは炭素数2〜8の直鎖又は分枝状アルキレン基であり、nは1〜10の整数である。又は、Rが炭素数2〜20の直鎖アルキレン基であり、Rが−(CH2)r−、−CH−CH(CH3)−、−CH−CH−CH(CH3)−又はCH−CH−C(CH3−であり(ただし、rは2〜5の整数)、nが1〜6の整数である、化合物である。
【0080】
これらの二官能重合性化合物(B)を使用した液晶光学素子は、耐衝撃性が高く、好ましい。前記二官能重合性化合物(B)は、単独で使用することもできるし、あるいは二種類以上組み合わせて使用することもできる。下記化学式(3)〜(7)に具体例を示す。
【化2】


【化3】


【化4】


【化5】


【化6】

【0081】
二官能重合性化合物(B)は重合性基A,Aを有し、重合性基間を連結するRを有する。Rとしては原子間に単結合を有し分子内回転の自由度の高い基から選択して用いる。このように構成することで、重合された高分子の柔軟性を向上させることができる。また、重合相分離の反応性を高めることにも寄与する。
【0082】
,A間の炭素原子数、エーテル性酸素原子数が多いほど柔軟性は向上する。一方、液晶性組成物(C)との相溶性は原子数が多いほど低下する傾向がある。そのため、原子数を適切に選択する。また、炭素原子数は、混合液を液晶セル内に真空注入する製造方法を採用する場合には、混合液からの揮発性成分の飛散を考慮して8以上、好ましくは11以上とする。エーテル性酸素原子は含まれていても含まれていなくてもよい。エーテル性酸素原子を含んでいる場合は、高分子の柔軟性が向上するので、好ましい。
【0083】
二官能重合性化合物(B)は分子内にQのような基を含まないためRに含まれる炭素原子数を増やすことが比較的容易である。この構造の採用により、高分子の柔軟性の向上に大きく寄与する。
【0084】
次に、前記二官能重合性化合物(A)について説明する。前記二官能重合性化合物(A)は化学式(1)の条件を満たす化合物であれば、格別に制限はない。このような化合物としてはメソゲンモノマーや液晶モノマー、重合性液晶などといった名称で呼ばれることがあるが、必ずしもそのような化合物に限定されることはなく、非重合性の液晶性組成物(C)への溶解性が良好であるものを選択して用いることができる。
【0085】
例えば、特開平4−227684号公報などに記載されている公知の化合物を適宜選択して使用できる。このような構造を有していると、液晶組成物(C)への溶解性が向上するからである。さらに二官能重合性化合物(A)は以下のような構造であることが好ましい。
【0086】
化学式(1)で表される二官能重合性化合物(A)が下記条件を満たす化合物であることが好ましい。
、Aが、それぞれ独立に、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基又はビニルエーテル基である。Q、Q、Q、Qが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、1,4−フェニレン基又は1,4−シクロヘキシレン基である。X、Xが、それぞれ独立に、単結合、酸素原子又はエステル結合である。R、Rが、それぞれ独立に、単結合又は炭素原子間に一個又は複数個のエーテル性酸素原子を有していてもよい直鎖又は分枝状炭素数2〜20のアルキレン基である。Z、Z、Zが、それぞれ独立に、単結合、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−CH−CH−、−C≡C−、−CH−O−、−O−CH−である。p、qが、いずれも0であるか又は一方が0で他方が1である。
【0087】
また、化学式(1)で表される二官能重合性化合物(A)が下記条件を満たす化合物であることが好ましい。
、Aが、それぞれ独立に、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基である。Q、Qがいずれも置換基を有していてもよい、1,4−フェニレン基であり、Q、Qが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、1,4−フェニレン基又は1,4−シクロヘキシレン基である。Z、Z、Zが、それぞれ独立に、単結合、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−CH−CH−又はC≡C−である。p、qが、いずれも0であるか又は一方が0で他方が1である。
【0088】
また、化学式(1)で表される二官能重合性化合物(A)が下記条件を満たす化合物であることが好ましい。
、Aがいずれもアクリロイルオキシ基である。Q、Qがいずれも置換基を有していてもよい、1,4−フェニレン基であり、Q、Qが、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、1,4−フェニレン基又は1,4−シクロヘキシレン基である。R、Rが、それぞれ独立に、直鎖又は分枝状炭素数2〜20のアルキレン基である。Zが、単結合、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−CH−CH−又はC≡C−であり、Z、Zがいずれも単結合である。p、qが、いずれも0であるか又は一方が0で他方が1である。
【0089】
本発明の液晶光学素子で用いる液晶/高分子複合体を形成するための、前記二官能重合性化合物(A)の具体例としては、下記化学式(8)〜(11)の化合物を例示することができる。
【化7】


【化8】


【化9】


【化10】

【0090】
前記二官能重合性化合物(A)は、その性質から液晶性を有する化合物と液晶性を有しない化合物に分けられる。本発明においては、混合液を安定した液晶相に置くことが好ましく、その液晶相の状態からの相分離によって液晶/高分子複合体を形成する。この相分離のプロセスを起こしやすくするために、非液晶性の前記二官能重合性化合物(A)を液晶相を示す混合物のなかに含んだ状態で用いることが好ましい。非液晶性の前記二官能重合性化合物(A)として、上記化学式(8)〜(11)の化合物を挙げることができる。混合液の相溶性が良好な化合物は、化学式(8)及び化学式(10)のアクリレート化合物が挙げられる。
【0091】
以上説明したように、前記二官能重合性化合物(A)は、単独で使用することもできるし、あるいは二種類以上組み合わせて使用してもよい。液晶性を有する二官能重合性化合物(A)は相分離のプロセスの観点では、相分離を起こしにくい材料であるが、混合物の状態を制御する観点では、液晶相の温度範囲を広くするため、混合物の取り扱いを容易にすることができる。そのような条件を満足する具体的な化合物として、下記化学式(12)、(13)を挙げることができる。
【化11】


【化12】

【0092】
本発明において、液晶性を有する二官能重合性化合物(A)を混合物の一成分として使用することができる。つまり、液晶性を有しない二官能重合性化合物(A)のみを用いる場合以外に、液晶性を有しない二官能重合性化合物(A)と液晶性を有する二官能重合性化合物(A)を組み合わせて用いたり、液晶性を有する二官能重合性化合物(A)を単独で用いることができる。
【0093】
また、二官能重合性化合物Aは、骨格としてQ,Q,Q,Qが連結基Z,Z,Zで結合された有機基を有する。上記の有機基は、二官能重合性化合物(A)と液晶性組成物(C)との相溶性を向上し、液晶性混合物(D)が液晶性を示す温度範囲(以下、液晶温度範囲という。)を広げることに役立つ。
【0094】
また、p、qはそれぞれ独立に0又は1であるが、共に0であると液晶性混合物(D)を調整する際に、混合する温度を下げることができ、A,A,A,Aで示される重合性部位が不必要に重合してしまうことを軽減できるので好ましい。
【0095】
また、上記有機基は0.01以上の光学異方性を有する。置換基を有していてもよい、1,4−フェニレン基又はピリミジン−2,5−ジイル基を用いる場合、光学異方性は高くなる。1,4−シクロヘキシレン基を用いる場合、光学異方性は小さくなる。また連結基Z,Z,Zが−C≡C−であると、特に光学異方性を高くすることができる。
【0096】
また、光学異方性は二官能重合性化合物(A)の分子内に占める骨格以外の部分、すなわちA,A,R,R,X,Xの大きさが大きいほど、低下する傾向がある。上記のように光学異方性を制御することができる。しかし、その大きさは組み合わせる液晶組成物(C)の光学異方性の大きさにより決定する。例えば、液晶組成物(C)の光学異方性が大きい場合は、二官能重合性化合物(A)の光学異方性を大きくする。逆に、液晶組成物(C)の光学異方性が小さい場合には、二官能重合性化合物(A)の光学異方性を小さくする。
【0097】
このようにすると、電圧非印加時の液晶光学素子の透明性が向上するからである。また、二官能重合性化合物(B)は上記の有機基を有さない化合物であるため、二官能重合性化合物(A)の光学異方性を低下させる効果を有する。そのため、二官能重合性化合物(B)の添加量に応じて、二官能重合性化合物(A)の光学異方性を考慮して化合物を選択する。
【0098】
また、連結基R,R,X,Xは、重合性基A,Aと上記有機基を連結する役割を担う。連結基は原子間に単結合を有し分子内回転の自由度の高い基から選択する。このようにすると、分子間の重合性基A,A,A,A間の衝突確率が増し反応性が高まり信頼性の高い高分子を形成することができるからである。
【0099】
また、R,R,X,Xの炭素数やエーテル性酸素原子数を増すことで二官能重合性化合物の柔軟性を向上させることができる。しかし、分子量の増加に伴い化合物の合成、純度の高い精製や単離が困難になるため限界がある。
【0100】
以上説明したように、二官能重合性化合物(A)は液晶性組成物(C)との相溶性を向上し、液晶/高分子複合体の光学特性を調整する。その一方で二官能重合性化合物(A)から形成される高分子は柔軟性が低く、形成された液晶/高分子複合体は柱状構造であるため衝撃に対して弱くなる傾向を示す。
【0101】
本発明に用いることのできる液晶化合物としては、ネマチック液晶、コレステリック液晶、スメクチック液晶及び強誘電性液晶など、一般的な表示材料として、あるいは電界駆動型表示素子の材料として使用される種々の液晶化合物が使用可能である。具体的には、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、シクロヘキシルベンゼン系、アゾキシベンゼン系、アゾベンゼン系、アゾメチン系、ターフェニル系、ビフェニルベンゾエート系、シクロヘキシルビフェニル系、フェニルピリジン系、シクロヘキシルピリミジン系、コレステロール系等の各種液晶化合物を挙げることができる。
【0102】
これらの液晶化合物は、一般的に使用されている液晶化合物と同様に、単独で使用される必要はなく、二種類以上の液晶化合物を組み合わせて使用してもよい。また、電界による表示を目的とする場合は、上記の液晶化合物の中でも誘電率異方性が負のものを用いるのが好ましい。また駆動電圧を低下させるためには、誘電率異方性の絶対値が大きいほうが好ましい。誘電率異方性の絶対値が大きい液晶化合物としてはシアノ基やフッ素や塩素などのハロゲン原子を置換基として有する化合物が化学的安定性から用いられる。駆動電圧の低下を重視する場合にはシアノ基を置換基として有する化合物、信頼性を重視する場合にはフッ素原子を置換基として有する化合物が用いられる。
【0103】
本発明において、前記二官能重合性化合物(A)、前記二官能重合性化合物(B)及び上記液晶性組成物(C)の配合比は、液晶性組成物(C)が50〜94.5%、前記二官能重合性化合物(A)が5〜45%、前記二官能重合性化合物(B)が0.5〜15%である、ことが好ましい。さらに好ましくは液晶性組成物(C)が75〜90%、前記二官能重合性化合物(A)が5〜15%、前記二官能重合性化合物(B)が0.5〜10%である。前記二官能重合性化合物(A)と前記二官能重合性化合物(B)との合計量が少なすぎると散乱強度、耐衝撃性、耐電圧性、信頼性の低下が懸念される。
【0104】
前記二官能重合性化合物(A)と前記二官能重合性化合物(B)との合計量が多すぎると透明性の低下、駆動電圧の上昇が懸念される。前記二官能重合性化合物(B)の量が少なすぎると柔軟性や樹脂構造が適切でないため耐衝撃性が低下する。前記二官能重合性化合物(B)の量が多すぎると透明性の低下を招いたり、前記液晶性混合物(D)の均一状態を保てなくなるため好ましくない。
【0105】
このような配合によって、混合物を製造過程で安定した液晶相として制御しやすくなる。上記の範囲よりも、重合性モノマーの相対分量が多いと、液晶性組成物と重合性モノマーとが二相分離しやすい傾向を示す。よって、上記の範囲を満たすことが好ましい。
【0106】
また、重合性モノマーの相対分量が多いと、混合物が二相分離する温度が上がり、液晶相から等方相に相転移する温度が下がる。そのため、混合物が液晶相を示すことができる液晶温度範囲が狭くなる。よって、上記の範囲を満たすことが好ましい。
【0107】
液晶性化合物と重合性モノマーとを含有する上記の混合物は、混合後、均質な混合溶液であることが好ましい。その混合溶液が液晶相を示すようにするためには、上記の各化合物又は組成物の種類及び混合比を適宜選択すればよい。混合溶液は、少なくとも相分離の工程で、重合性化合物を重合するときに、混合溶液全体として液晶相を示していればよい。
【0108】
本発明において、重合性モノマーを重合させるためには、重合開始剤を使用することが好ましい。このような重合開始剤としては、公知の重合触媒から適宜選択できるが、光重合相分離法を用いる場合は、ベンゾインエーテル系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系などの一般に光重合に用いられる光重合開始剤を使用できる。
【0109】
熱重合の場合は、重合部位の種類に応じて、パーオキサイド系、チオール系、アミン系、酸無水物系などの熱重合開始剤を使用でき、また、必要に応じてアミン類などの硬化助剤も使用できる。
【0110】
重合開始剤の含有量は、重合性モノマーの合計量100重量部に対して、通常、0.1〜20重量部であり、0.1〜10重量部以下が好ましい。重合後の高分子(重合体)において、高い分子量や高い比抵抗が要求される場合、0.1〜5重量部とすることがさらに好ましい。重合開始剤の含有量が20重量部を超えると、混合液の相溶性を阻害するので好ましくない。また、重合開始剤の含有量が0.1重量部未満の場合、混合溶液に含まれる重合性モノマーを重合させても、重合性モノマーが十分に重合することができない。
所望の相分離構造を形成できないことになる。よって、上記の範囲を満足することが好ましい。また、電界印加/非印加時の液晶光学素子のコントラスト比を向上させるために、混合溶液に公知のカイラル剤を添加することもできる。
【0111】
本発明による液晶光学素子は、液晶/高分子複合体を必須として備える。この液晶/高分子複合体は、上記の液晶化合物と前記二官能重合性化合物(A)と前記二官能重合性化合物(B)との3成分のみで構成される場合でも、表示装置や光変調装置として用いることができる。
【0112】
さらに、コントラスト比や安定性の向上を目的として、種々の化合物を添加することもできる。例えば、コントラストの向上を目的として、アントラキノン系、スチリル系、アゾメチン系、アゾ系等の各種の二色性色素を使用することができる。その場合、二色性色素は、基本的に液晶化合物と相溶し、高分子化合物とは不相溶であることが好ましい。このほかに、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種可塑剤も、安定性や耐久性向上の点から好ましく使用できる。
【0113】
次に、第2の実施形態に係る液晶光学素子について説明する。第2の実施形態に係る液晶光学素子は、基本的な構成は第1の実施形態に係る液晶光学素子(図1参照)と同様である。
【0114】
液晶組成物(C)の誘電率異方性が正の場合は、液晶の配向方向は水平配向が好ましい。誘電率異方性が負の場合は垂直配向が好ましい。水平配向の場合はラビングをすることで配向むらを低減することができる。垂直配向の場合はラビングしなくても配向むらは小さいがラビングしてもよい。ラビングする場合のラビング角の組み合わせとしては、平行、直交、いずれでもよく、混合液を基板間に挟持した際のむらが最小となるよう角度を設定すればよい。
【0115】
第1の電極3、第2の電極4間にある液晶/高分子複合体層5の厚さは、スペーサで保持することが好ましい。用いることができるスペーサの材料、スペーサの形状、液晶/高分子複合体層5の厚さは、上記第1の実施形態で説明したとおりである。
【0116】
以下に、本発明にかかる液晶光学素子の製造方法について説明する。予め、前記二官能重合性化合物(A)及び前記二官能重合性化合物(B)を含む重合性モノマーと液晶化合物と重合開始剤とを混合し混合溶液(以下、単に「混合液」ともいう。)を形成する。次いで、混合液の温度を上げて、等方相として混合液を均一に混合した状態とする。この後、混合液の温度を下げて、混合液が液晶相となったことを確認して、混合液を調整する。
【0117】
次いで、上記の混合液を一対の電極付きの第1の基板1及び第2の基板2に挟持させる。挟持させる方法としては、例えば、混合液を一方の電極付き基板(例えば第2の電極4が付いた第2の基板2)上に一定の厚みに塗布して他方の電極付き基板(例えば第1の電極3が付いた第1の基板1)を第1の電極3が混合液の表面に接するように重ね合わせる方法がある。あるいは、二枚の電極付きの第1の基板1,第2の基板2間に、例えば、真空注入法などを用いて注入して、挟持させる。
【0118】
その後、恒温槽などを使用して恒温状態のもとに、加熱又は、光あるいは電子線を照射して、混合液を重合する。なかでも、重合時の温度を容易に制御することができることから、紫外光や可視光などの光を照射する光重合相分離法を用いることが好ましい。
【0119】
液晶/高分子複合体を混合液からの光重合相分離法で形成する場合、所定の重合相分離が生じるように光照射を行なえばよく、その条件は特別限定されることがない。通常の製造条件下において、400nm以下の波長の光を含む光源が好ましい。例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が使用できる。
【0120】
光照射条件は、重合性モノマーの種類に応じて設定することが好ましい。混合液に直接照射する際の照射光の強度として、1〜400mW/cm(365nmの波長で測定)が好ましい。1mW/cm未満では、相分離速度が遅くなり、散乱強度が低下する。また400mW/cmを超えると、光反応により分解反応が起こり、保持率の低下が起こる。
【0121】
照射時の温度は、混合液の液晶温度範囲のなかから適宜選択し設定するようにする。混合液が液晶相を示すことができる液晶温度範囲は、混合液の各配合物の種類や配合比によって異なる。例えば、本発明を実施するにあたり、10〜60℃が好ましい。さらには、30〜50℃であることが好ましい。混合物が相溶状態を示す相溶温度以下では、光重合の前に相分離が起こり、液晶が不均一な状態の液晶/高分子複合体となってしまう。逆に温度が高すぎると、混合液が液晶相から等方相に相転移し、液晶光学素子の散乱−透過の電気光学特性を確保することができない。
【0122】
露光して混合液を重合させる場合、液晶光学素子10の全面を均一な条件(光照射及び重合温度)の下に重合させるために、空気中露光、窒素中露光、水中露光などの方法を用いることが好ましい。
【0123】
(実施例1)
以下に本実施形態を実施例などにより具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されない。なお、本実施例中の「部」は重量部を意味する。
【0124】
実施例1に係る液晶/高分子複合体層に用いる前駆体の混合液として、
<1>誘電率異方性が負であるネマチック液晶(T=102℃、Δε=−2.8、Δn=0.21)を85部、
<2>上記化学式(8)の重合性化合物13部、
<3>上記化学式(7)の重合性化合物2部、及び
<4>光重合開始剤としてベンゾインイソプロピルエーテルを用いた。光重合開始剤の量は、上記<2>及び<3>の重合性化合物の総量を100部とした場合に、3部となるように混合した。
【0125】
次いで、この混合液を攪拌しながら90℃に加温して等方相にして混合液を均一にした後に、温度を60℃に下げた。その後、混合液が液晶相となったことを確認して、液晶相を形成する温度に保持した。
【0126】
液晶セルは以下のようにして作製した。まず、透明電極上に垂直配向用ポリイミド薄膜を形成した一対の基板を準備した。次いで、基板面に形成されたポリイミド薄膜が対向するように、一対の基板を張り合わせて液晶セルを形成した。具体的には、微量の樹脂ビーズ(直径6μm)を散布し、基板の四辺に幅約1mmで印刷したエポキシ樹脂(周辺シール)を張り合わせることにより液晶セルを形成した。次いで、上記混合液を液晶セル中に注入した。
【0127】
その後、液晶セルを33℃に保持した状態で、主波長が約365nmのHgXeランプにより、一対の基板の一方の基板面側より10mW/cm、他の基板面側より同じく、約10mW/cmの条件下、紫外線を10分間照射した。以上のようにして、混合液から重合相分離プロセスを経て液晶/高分子複合体層を形成した。そして、リバースモードの透過−散乱特性を有する液晶光学素子を得た。
【0128】
(比較例A)
比較例Aにおいては、液晶/高分子複合体層に用いる前駆体の混合液として、上記<1>である誘電率異方性が負であるネマチック液晶を80部、上記<2>である上記化学式(8)の重合性化合物を20部、上記<4>である光重合開始剤を用いた。光重合開始剤の量は、上記<2>の重合性化合物の総量を100部とした場合に、3部となるように混合した。
【0129】
続いて、この混合液を攪拌しながら90℃に加温して等方相にして混合液を均一にした後に、温度を60℃に下げた。その後、混合液が液晶相となったことを確認し、液晶相を形成する温度に保持した。液晶セルは、上記と同様にして作成した。
【0130】
比較例Aに係る混合液を注入した液晶セルを、40℃に保持した状態で、主波長が約365nmのHgXeランプにより、一対の基板の一方の基板面側より1mW/cm、他の基板面側より同じく約1mW/cmの紫外線を10分間照射した。これ以外の条件は実施例と同様にして光重合相分離プロセスを経て液晶/高分子複合体層を形成し、リバースモードの光学特性を示す液晶光学素子を製造した。
【0131】
(SEM写真)
図3(a)は、上記実施例1に係る液晶光学素子の高分子形状を示す断面図、図3(b)は同じく実施例に係る液晶光学素子の高分子形状を示す斜視図である。また、図4(a)は、比較例Aに係る液晶光学素子の高分子形状を示す断面図、図4(b)は比較例に係る液晶光学素子の高分子形状を示す斜視図である。
【0132】
図3及び図4の写真撮影に用いたサンプルの作成方法について説明する。図3(a)、図4(a)は以下の通りである。まず、セルの基板(第1の基板及び第2の基板)の外表面に傷を設け、セルを1cm刻みで碁盤目状に小さく切断し(約1cm×1cmのサイズ)、そのなかで外周部のシールが片側に残っている切断サンプルを選び、それをヘキサンに約二日間浸し、さらに約半日乾燥した後に、その切断面を撮影したものである。
【0133】
図3(b)、図4(b)は以下の通りである。セルを碁盤目状に細かく切断し、外側の四方が切断面である切断サンプルを選び、上記と同様にセル内の液晶を置換した後、一方の基板を引き剥がし、基板面の上方斜め方向(30°)から撮影したものである。
【0134】
この際、柱状樹脂は二つの基板にほぼ均等に分かれるので(柱状樹脂はその根元から分離しやすい。)、一方の基板に約1/2の柱状樹脂が残ることになる。ただし、図3(b)及び図4(b)は、柱状樹脂が本来の密度である部分を撮影したものである。この際、図3(b)、図4(b)において、柱状樹脂の形状はほぼ保持されていると考えられる。
【0135】
上記実施例は重合性化合物として、オリゴマーを含まず、重合性モノマーのみを用いている。そのため重合によって形成された高分子がヘキサンに膨潤しにくく、液晶セルから液晶を除去した後の「高分子の構造」を再現性よく観察することができる。
【0136】
実施例1に係る液晶光学素子中の高分子は、図3(a)に示すように、複数の柱状樹脂の集合体からなる。そして、この柱状樹脂は、基板面の法線方向に略一致するものと、チルト配向するものとが含まれている。同図から明らかなように、柱状樹脂は、枝分かれ構造を有している。柱状樹脂のうちチルト配向しているものの平均チルト角は、約25°であった。また、チルト方位は、異方性を有さずあらゆる方位に配設されている。さらに、基板面に水平な方位面の液晶/高分子複合体層5における柱状樹脂の占有面積は、基板近傍から離間するにつれて小さくなるように形成されている。なお、得られた柱状樹脂の直径は、約0.2μm程度であった。
【0137】
また、実施例1に係る液晶光学素子中の高分子は、図3(b)に示すように、基板面の法線方向に略一致する軸心を持ち、基板から離間するにつれて基板面に水平な方位面の液晶/高分子複合体層における占有面積が小さくなる柱状樹脂の集合体を複数形成している。そして、この柱状樹脂の集合体を連接させて、集合体同士の間に液晶ドメイン領域が形成されている。
【0138】
比較例Aに係る液晶光学素子中の高分子は、図4(a)及び図4(b)に示すように、複数の柱状樹脂の集合体からなる。そして、この柱状樹脂は、基板面の法線方向に略一致する。
【0139】
(評価試験1)
次に、液晶光学素子の耐衝撃性に関する評価試験について説明する。図5は、液晶光学素子の耐衝撃性を評価するための評価装置の概略断面図、図6は、この評価装置の概略平面図である。図5及び図6中の、符号201は縦横約10cm四方の液晶光学素子である。204は液晶光学素子201に自由落下による衝撃を加えるための鉄球であり、202及び203は落下した鉄球204からの衝撃を人の手で叩いたときに近い衝撃波形とするためのゴムシートであり、205は液晶光学素子201とゴムシート203とを固定するための試験台である。
【0140】
評価方法として、まず、液晶光学素子201を、実使用上の設置状態にほぼ等しくするため、金属製の試験台205に固定し、ゴムシート203の上に設置する。液晶光学素子201の中央部に厚さ約1mmのゴムシート202を置き、直径約1cmの鉄球(例えば、パチンコ玉)204をゴムシート202の中央に落下するように、自由落下させる。
【0141】
自由落下した鉄球204は、ゴムシート202に衝突して衝撃を加え、衝撃はゴムシート202を介して、人の手で叩いたときに近い衝撃波形として液晶光学素子201に伝わる。このときの衝撃力が、液晶光学素子201が有する耐衝撃量を超えていると、液晶光学素子201の液晶/高分子複合体層5を構成する高分子の変形や、液晶の配向変化が起こり白濁が発生する。従って、この液晶光学素子201の白濁の有無により液晶光学素子201の耐衝撃性を評価した。
【0142】
鉄球204による衝撃力の大きさは、鉄球204の落下する高さを調節することにより制御する。発生する衝撃力の大きさは、加速度ピックアップ(図示せず)を用いて計測し、加速度として定量化する。上記の実施例と比較例の液晶光学素子について評価した結果を表1に示す。
【表1】

【0143】
表1の結果から、実施例に係る液晶光学素子は良好な耐衝撃性を示した。すなわち、本実施例に係る液晶光学素子は、高さ70cmの高さから自由落下した鉄球204の衝突によっても、表示部に白濁を生じなかった。一方、比較例に係る液晶光学素子は、高さ50cmからの衝撃で白濁を生じた。また、本発明の実施例について、1000Gの加速度に相当する場合(約100cmの自由落下距離)、×の結果が得られた。
【0144】
なお、鉄球204を50cmの高さから自由落下させた際に、被試験物である液晶光学素子201が受ける衝撃力は、人がこぶしで液晶光学素子を叩いたときの衝撃力とほぼ同程度である。
【0145】
以上から、実施例1に係る液晶光学素子は、比較例に係る液晶光学素子よりも耐衝撃性に優れていることがわかる。本実施例に係る液晶光学素子は、その表示部を人がこぶしで叩いても白濁を生じないほどの耐衝撃性を有する。
【0146】
(実施例2)
本発明の実施例においては、誘電異方性が負であるネマチック液晶(T=98℃、Δε=−5.6、Δn=0.220)85部と、前記二官能重合性化合物(A)に含まれる上記化学式(8)の化合物12.5部と、前記二官能重合性化合物(B)に含まれる上記化学式(7)の化合物2.5部及び光重合開始剤としてのベンゾインイソプロピルエーテルを重合性モノマーの総量(化学式(8)の化合物及び化学式(7)の化合物)を100部とした場合に、3部となるように混合した。
【0147】
この混合液を液晶相にするため、攪拌しながら90℃に加温し、等方相にして混合液を均一にした後、温度を60℃に下げた。この後、混合液が液晶相となったことを確認して、混合液を調製した。
【0148】
液晶セルは以下のようにして作製した。透明電極上に垂直配向用ポリイミド薄膜を形成した一対の基板を準備した。そのポリイミド薄膜が対向するように、散布した微量の樹脂ビーズ(直径6μm)を介して、四辺に幅約1mmで印刷したエポキシ樹脂(周辺シール)により張り合わせ、液晶セルを形成した。次いで、上記の混合液を液晶セルのなかに注入した。
【0149】
この液晶セルを、33℃に保持した状態で、主波長が約365nmのHgXeランプにより、上側より10mW/cm、下側より同じく約10mW/cmの紫外線を10分間、照射し重合相分離法により液晶/高分子複合体層を基板間に形成し、リバースモードの透過−散乱特性を有する液晶光学素子を得た。
【0150】
(比較例B)
上記実施例と比較される比較例においては、前記二官能重合性化合物(B)を添加せず、誘電異方性が負であるネマチック液晶80部、上記の化学式(7)で示される前記二官能重合性化合物(A)20部とし、前記二官能重合性化合物(化学式(7)の化合物)を100部とした場合に、重合開始剤を1部混合した。そして、重合温度を40℃及び紫外線の照射時間を10分間、照度1mW/cm(上側)、1mW/cm(下側)に設定した以外は実施例と同様に光重合相分離を行い、液晶/高分子複合体層を形成し、リバースモードの光学特性を示す液晶光学素子を製造した。
【0151】
(評価試験2)
上記の実施例1と同様に試験を行ったところ、実施例1と同様の結果が得られた。
【0152】
本発明に係る液晶光学素子は、透過−散乱の二つの光学状態を可逆的に切り替えることができるものであり、液晶シャッター、プライバシーガラス、間仕切り、高速光シャッター、計測装置、スクリーン、光通信、光束の制御装置、タッチ式表示装置、自動車のインパネ表示装置等に好適に用いることができる。
【0153】
また、自動車のヘッドアップディスプレイ、ショーウインドウなどの店頭の演出用の表示装置、オフィスや工場、展示場などの受付の近くに設置される情報表示装置、コンビニエンスストアのレジスターの近くに設置される情報表示装置、アーケードゲーム機の表示装置等としても使用できる。特に耐衝撃性が要求される車載に搭載される液晶光学素子にも好適に利用することができる。また、本実施形態に係る液晶光学素子は、表示装置のほか、照明装置などとしても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明に係る液晶光学素子の構成の一例を示す断面模式図。
【図2】本発明に係る柱状樹脂のチルト配向、チルト方位を説明するための説明図。
【図3】(a)は実施例1に係る液晶/高分子複合体層の高分子形状を示す断面図、(b)は実施例1に係る液晶/高分子複合体層の高分子形状を示す斜視図。
【図4】(a)は比較例Aに係る液晶/高分子複合体層の高分子形状を示す上面図、(b)は比較例に係る液晶/高分子複合体層の高分子形状を示す斜視図。
【図5】本発明の液晶光学素子の耐衝撃性を評価するための評価装置の概略断面図。
【図6】本発明の液晶光学素子の耐衝撃性を評価するための評価装置の概略平面図。
【符号の説明】
【0155】
1、2 :基板
3、4 :電極
5 :液晶/高分子複合体層
6 :スペーサ
7 :周辺シール
8、9 :配向膜
10、201 :液晶光学素子
200 :評価装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶と高分子とを含む電気光学機能層を、少なくとも一方が透明な一対の電極付基板間に挟持し、電圧の印加に応じて該液晶の配向状態を変化させて光線透過状態と光線散乱状態とを呈するようにされた液晶光学素子であって、
該高分子は、複数の柱状樹脂から構成される柱状樹脂の集合体を複数形成し、
該柱状樹脂の集合体は、
(i)該電極付基板面の法線方向に略一致する軸心を持ち、
(ii)該電極付基板面に水平な方位面の該電気光学機能層における該柱状樹脂の占有面積が該電極付基板面から離間するにつれて実質的に小さくなるように形成されている、
液晶光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶光学素子において、
上記柱状樹脂の集合体が連接し、該液晶のドメイン領域が形成されていることを特徴とする液晶光学素子。
【請求項3】
上記柱状樹脂の集合体は、さらに、
(iii)上記一対の電極付基板間の一方の基板から他方の基板まで延在され、
(iv)該電極付基板面に近づくにつれて裾が広がるように形成され、
(v)該電極付基板面の法線方向からチルトしている柱状樹脂が含まれており、
上記電気光学機能層における上記高分子の含有量が10wt%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の液晶光学素子。
【請求項4】
上記柱状樹脂の少なくとも一部は、枝分かれ部を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶光学素子。
【請求項5】
上記枝分かれ部を有する柱状樹脂の少なくとも一部は、該枝分かれ部を介して異なる柱状樹脂と相互に連結していることを特徴とする請求項4に記載の液晶光学素子。
【請求項6】
上記柱状樹脂の延在方向である長軸方向に垂直な断面の直径は、0.05〜1μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶光学素子。
【請求項7】
上記電気光学機能層における上記高分子の含有量が50wt%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶光学素子。
【請求項8】
上記液晶の配向方向は、上記光線透過状態において、上記基板面の法線方向に略一致していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の液晶光学素子。
【請求項9】
上記柱状樹脂のうち、上記チルトしている柱状樹脂の延在方向である長軸方向の上記一対の電極付基板の法線方向に対する平均チルト角が、15〜50°であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の液晶光学素子。
【請求項10】
上記柱状樹脂の延在方向である長軸方向の上記電極付基板面への射影の方位は、マルチ方位であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の液晶光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−154388(P2011−154388A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60150(P2011−60150)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【分割の表示】特願2004−367513(P2004−367513)の分割
【原出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】