説明

液晶可変焦点レンズとその製造方法

【課題】液晶を均一に配向させて所望のレンズ特性を得ることを可能とする液晶可変焦点レンズとその製造方法を提供する。
【解決手段】液晶可変焦点レンズ1は、透明電極17、18が形成された2枚の対抗する透明基板11、12によって、液晶層13が挟持された構造を有している。透明基板11、12の間には、周縁部にシール10が設けられており、液晶の漏れを防止するとともに、液晶層13を所定の厚さに保っている。さらに、各透明基板11、12の向かい合う面にはそれぞれ、透明のフレネルレンズ面14、15が形成されている。各フレネルレンズ面14、15の表面には、液晶を所定の方向に配向させるための配向層18、19が設けられている。この配向層18、19は、型の転写により、フレネルレンズ面14、15を形成する形成材に直接形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明基板上のフレネルレンズ面に配向層を有する液晶可変焦点レンズとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶を用いた光学素子として、印加する電圧により焦点距離を制御することが出来る液晶レンズが知られている。液晶レンズの方式には、ガラスなどの透明基板に平凸レンズや平凹レンズのレンズ形状を持たせ、液晶の屈折率変化を利用して可変焦点を実現するものや、透明基板にフレネルレンズのレンズ形状を持たせ、同様に液晶の屈折率変化を利用して可変焦点を実現するものがある。
【0003】
図9は、透明基板に上にフレネルレンズのレンズ形状が形成された従来の液晶レンズの構成を示す説明図である。図9に示すように、従来の液晶レンズ2は、透明電極28、29がそれぞれ形成された2枚の透明基板21、22がシール23を介して貼り合わされ、シール23の内側領域に液晶層24が配された構成を有する。透明基板22上にはフレネルレンズ25が形成されている。また、透明基板21の表面と、透明基板22に形成されたフレネルレンズ25の表面にはそれぞれ、液晶を所定の方向に配向させるための配向層26、27が設けられている。
【0004】
液晶を配向させるための配向層を形成する方法としては、透明基板上に有機材料などの膜(配向膜)を塗布し、塗布した配向膜を綿布等でこする処理(ラビング処理)を行う方法が知られている。また、このようなラビング処理により、フレネルレンズ面上に配向層を形成する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載されたフレネルレンズ面上へのラビング処理の方法では、フレネルレンズ面上に配向膜を塗布し、透明基板または綿布等を回転させながら、フレネルレンズ面と綿布等とを互いにこすり合わせる。これにより、フレネルレンズ面の溝に沿って同心円状のラビング処理がなされる。
【特許文献1】特開平4−345124号公報(第3頁−第4頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来のフレネルレンズ面上に配向層を形成する方法では、次のような問題がある。特許文献1記載の液晶を配向させる方法では、透明基板または綿布等を回転させながら、フレネルレンズ面と綿布等とを互いにこすり合わせるため、フレネルレンズ面の全領域で所望の方向に精度よくラビング処理することが出来ない。特に、フレネルレンズの直径が小さい場合は、精度よくラビング処理を行うことがより困難になる。このため、液晶の配向が不良となる領域が発生し、所望のレンズ特性を得ることが出来ない問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、液晶を均一に配向させて所望のレンズ特性を得ることを可能とする液晶可変焦点レンズとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る液晶可変焦点レンズとその製造方法は、下記記載の構成要件を採用するものである。
本発明に係る液晶可変焦点レンズは、フレネルレンズ面を有する第1の透明基板と、第
2の透明基板とで、液晶を挟持する液晶可変焦点レンズにおいて、前記フレネルレンズ面は、型の転写により形成された配向層を有することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明に係る液晶可変焦点レンズは、第1の透明基板上のフレネルレンズ面は、配向層を形成する型と同じ型の転写により形成されたことを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明に係る液晶可変焦点レンズは、配向層は、配向材料を型の表面または第1の透明基板の表面に塗布した上で、型の転写を行うことで形成されたことを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本発明に係る液晶可変焦点レンズは、配向層は、型の転写により、フレネルレンズ面の形成材に直接形成されたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係る液晶可変焦点レンズの製造方法は、フレネルレンズ面を有する第1の透明基板と、第2の透明基板とで、液晶を挟持する液晶可変焦点レンズの製造方法において、第1の透明基板の表面にフレネルレンズ面を形成する基板形成工程と、フレネルレンズ面に型の転写により配向層を形成する配向層形成工程と、を有することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係る液晶可変焦点レンズの製造方法は、基板形成工程において、配向層形成工程において配向層を形成する型と同じ型の転写により、フレネルレンズ面を形成することを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明に係る液晶可変焦点レンズの製造方法は、配向層形成工程において、配向材料を型の表面または第1の透明基板の表面に塗布した上で、型の転写を行い、配向層を形成することを特徴とするものである。
【0015】
さらに、本発明に係る液晶可変焦点レンズの製造方法は、配向層形成工程において、型の転写により、フレネルレンズ面の形成材に直接配向層を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透明基板に設けられたフレネルレンズ面上の配向層が、型の転写により形成される。これにより、フレネルレンズ面上の配向層が均一に形成されるため、液晶を均一に配向させて所望のレンズ特性を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
[構成の説明]
まず、本発明にかかる実施例1の液晶可変焦点レンズの構成について説明する。図1は実施例1の液晶可変焦点レンズ1の構成を示す説明図である。図1(a)は、液晶可変焦点レンズ1の断面形状の模式図であり、図1(b)は、図1(a)のAで示す箇所の拡大図である。
図1に示すように、実施例1の液晶可変焦点レンズ1は、透明電極16、17がそれぞれ形成された2枚の対抗する透明基板11、12によって、液晶層13が挟持された構造を有している。ここで透明基板11、12の材質として、例えば、ガラスやポリカーボネートなどが用いられる。液晶として、例えば、ホモジニアス配向型または垂直配向型の液晶が用いられる。
【0019】
透明基板11、12の間には、周縁部にシール10が設けられており、液晶の漏れを防止するとともに、液晶層13を所定の厚さに保っている。さらに、各透明基板11、12の向かい合う面にはそれぞれ、透明のフレネルレンズ面14、15が形成されている。フレネルレンズ面14、15は、例えば、ポリカーボネートやアクリルなどの光学材料または、環状オレフィン系などの透明樹脂により形成されることが望ましい。このフレネルレンズ面14、15における段差をなくし、表面を接続した連続面は、単純な球面でも良いが、収差の低減の観点からは、非球面形状をしていることが望ましい。
【0020】
各フレネルレンズ面14、15の表面には、液晶を所定の方向に配向させるための配向層18、19が設けられている。液晶可変焦点レンズ1では、図1(b)に示すように、フレネルレンズ面14、15の形成材に直接、配向層18、19が形成されている。この配向層18、19の作製方法については、後述する。
【0021】
次に、液晶可変焦点レンズ1の動作について説明する。液晶可変焦点レンズ1は、例えばフレネルレンズ面14、15と液晶層13の屈折率をガラスと同じにすればレンズ効果のない素ガラスと同じ働きをし、液晶層13がフレネルレンズ面14、15と異なる屈折率を持っている場合は、フレネルレンズ面14、15の形状に応じて、凸レンズや凹レンズとして機能する。透明電極16、17へ電圧を印加すると液晶の屈折率が変わるので、レンズのパワーを変化させることができる。透明電極16、17へ印加される駆動電圧は、例えばパルス高さ変調(PHM)またはパルス幅変調(PWM)された交流電圧である。
[製造方法の説明]
【0022】
次に、実施例1の液晶可変焦点レンズ1の製造方法例について説明する。まず、配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する方法について説明する。
<フレネルレンズ面および配向層の第1の作製方法>
【0023】
まず、配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する第1の作製方法について説明する。図2は、フレネルレンズ面および配向層の第1の作製方法で用いられる型(モールド4)の説明図である。図2(a)は、モールド4を示す断面形状の模式図であり、図2(b)は、図2(a)のBで示す箇所の拡大図である。
モールド4はフレネルパターン42を有する。モールド4のフレネルパターン42の表面には、図2(b)のように、フレネルレンズ面の配向層を形成するための微細な配向パターン41が設けられている。
【0024】
モールド4は、ニッケル、ニッケル−リン、無酸素銅、WC(炭化タングステン)等の超硬材料、ステンレスなどの材料を用いて作製される。フレネルパターン42および配向パターン41の形状は、切削、研削、集束イオンビーム加工(FIB加工)などにより加工される。また、モールド材に石英を使う場合は、エッチングの手法によって、フレネルパターン42および配向パターン41の形状の加工を行うことができる。
ここで、図2(a)に示すように、フレネルパターン42の周囲に平面部44を有する形状である場合、平面部44に対して鏡面加工を施すことが望ましい。平面部44に対して鏡面加工を施すことにより、後述する透明基板上へフレネルレンズ面を作製する工程において、フレネルレンズ面作製の精度を上げる、離型後の樹脂の付着を防ぐなどの効果がある。
【0025】
また、上述した材料、加工方法により、フレネルレンズ面14(15)および配向層18(19)の形状を有するモールドを作製し、このモールドの電鋳品をおこして、電鋳品をモールド4として使うことも出来る。これにより、再び上記のような加工を行うこと無
しにモールド4を複製することが可能である。また、電鋳品のモールド4を作製する場合、上記材料以外で作製したパターンにおいても同様に電鋳をとることができる。加工性がよい材料でパターンを作製し電鋳を取ることによって、同様に精度のよい電鋳品のモールド4を作製することが出来る。
【0026】
また、上述した各方法により作製したモールド4には、表面に離型処理を施しておく。離型処理としては、フッ素系の離型剤をディップコートまたはスピンコートなどにより塗布する。
【0027】
次に、図3を用いて、透明基板上に、配向層が形成されたフレネルレンズ面を作製する方法について説明する。図3は、フレネルレンズ面および配向層の第1の作製方法におけるフレネルレンズ面および配向層の作製方法を示す断面形状の模式図である。
【0028】
図3(a)は透明電極17(16)が形成された透明基板12(11)上に樹脂20を塗布した状態を示す。例えば、樹脂20はスピンコートやディップコートによって透明基板12(11)上に塗布される。ここで、透明基板12(11)と樹脂20との密着性が悪い場合は、透明基板12(11)と樹脂20の材料に応じたプライマ剤を用いることで、透明基板12(11)と樹脂20との密着力を向上させることができる。
【0029】
以下では、異なる特徴をもつ、代表的な2種類の樹脂について、分けて説明する。
【0030】
まず、樹脂20が光硬化する樹脂である場合について説明する。図3(a)に示すように、透明基板12(11)に光硬化する樹脂20を塗布する。その後、図2で説明したモールド4を、図3(b)の状態から図3(c)の状態まで、樹脂20に接触させる。図3(c)の状態になったのち、紫外線(UV)を当て樹脂を硬化させる。モールド4が石英など透明な素材であれば、モールド4側からの樹脂2にUVを照射することが可能である。透明基板12(11)側からUVを照射する場合は、透明基板12(11)は、UVの吸収がない、もしくはUVの吸収が少ない基板であることが好ましい。
樹脂20にUVを照射し、樹脂20が十分硬化したのち、図3(d)に示すように、モールド4を樹脂20から離型する。これにより、フレネルレンズ面15(14)と配向層19(18)とが同時に転写されて形成される。
【0031】
次に、樹脂20が熱可塑性の樹脂である場合について説明する。図3(a)に示すように、透明基板12(11)に熱可塑性の樹脂20を塗布する。その後、図2で説明したモールド4と一緒に樹脂20を樹脂20のガラス転移温度以上まで加熱する。
その後、モールド4を、図3(b)の状態から図3(c)の状態まで、樹脂20に接触させる。図3(c)の状態のまま所定の温度に下がるまで保持した後、図3(d)に示すように、モールド4を樹脂から離型する。これにより、フレネルレンズ面15(14)と配向層19(18)とが同時に転写され、透明電極17(16)が形成された透明基板12(11)上に、フレネルレンズ面15(14)及び配向層19(18)が作製される。
図3では、モールド4が透明基板12(11)に対して上側に位置して、フレネルレンズ面15(14)及び配向層19(18)が作製される例を示しているが、透明基板12(11)が、モールド4に対して上側に位置しても、フレネルレンズ面15(14)及び配向層19(18)の作製は可能である。
【0032】
図3に示すフレネルレンズ面15(14)および配向層19(18)の第1の作製方法では、1つのモールド4の転写により、フレネルレンズ面15(14)および配向層19(18)が一度に作製される。このため、フレネルレンズ面15(14)上への配向層19(18)作製工程にかかる時間を短縮できる。
<フレネルレンズ面および配向層の第2の作製方法>
次に、配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する第2の作製方法について説明する。フレネルレンズ面および配向層の第2の作製方法は、透明基板11、12上にフレネルレンズ面14、15を作製したのち、フレネルレンズ面14、15上に配向層18、19を作製する方法である。フレネルレンズ面および配向層の第2の作製方法では、フレネルレンズ面14(15)および配向層18(19)を形成する樹脂として、熱可塑性の樹脂を用いる。
【0033】
図4はフレネルレンズ面の作製方法の一例を示した模式図である。図4(a)のモールド3は、フレネルパターン31を有するが、図2で示したモールド4のような配向パターンは形成されていない。また、モールド3は、例えば図2で説明したモールド4と同様の材料、加工方法により作製される。フレネルパターン31の形状は、フレネルレンズに近似している形状を有するものであってもよい。
図4(a)に示すように、透明基板12(11)に熱可塑性の樹脂20を塗布する。その後、モールド3と一緒に樹脂20を樹脂20のガラス転移温度以上まで加熱する。その後、モールド3を、図4(a)の状態から図4(b)の状態まで、樹脂20に接触させる。図4(b)の状態のまま所定の温度に下がるまで保持した後、図4(c)に示すように、モールド3を樹脂から離型する。これにより、透明基板12(11)上に、フレネルレンズ面15(14)が転写される。
ここで形成されるフレネルレンズ面15(14)は、フレネルレンズに近似している形状であってもよい。
【0034】
図5は、フレネルレンズ面に配向層を形成する方法の模式図である。図5(a)に示すように、透明基板12(11)上にフレネルレンズ面15(14)を熱可塑性樹脂で作製した後、加熱してフレネルレンズ面15(14)を軟化させ、図5(b)から図5(c)に示すように、配向パターン41が形成されたモールド4を、フレネルレンズ面15(14)に接触させる。図5(c)の状態のまま所定の温度に下がるまで保持した後、図5(d)に示すように、モールド4をフレネルレンズ面15(14)から離型する。これにより、フレネルレンズ面15(14)上に配向層19(18)が転写される。
ここで、加熱しすぎるとフレネルレンズ面15(14)の表面形状が崩れてしまい、また加熱が足りないと配向層19(18)の均一な転写が行われない。このため、フレネルレンズ面15(14)の表面に配向層19(18)を均一に形成するためには、最適な温度でフレネルレンズ面15(14)およびモールド4を加熱する必要がある。
【0035】
上述した、配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する第1および第2の方法では、フレネルレンズ面を形成する樹脂に配向層を形成する方法であるため、配向層を形成するための配向材料を別途塗布する方法と比較して、配向層を形成する材料の残膜がなく作製できる。これにより、後述する方法により液晶可変焦点レンズを作製した際に、光学的な不具合の発生を抑え、所望のレンズ特性を得ることができる。
【0036】
図6は、フレネルレンズ面14、15上に形成される配向パターンの例を示す説明図である。図6(a)は同心円状の配向パターンを示し、図6(b)は放射状の配向パターンを示し、図6(c)はフレネルレンズ面全体で一方向に形成された配向パターンを示す。
上述した配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する第1および第2の方法では、モールド4に設けられた配向パターンの転写により、フレネルレンズ面14、15上に、配向層18、19が形成される。このため、フレネルレンズ面14、15の形状によらず図6(a)から図6(c)に示すような様々な配向パターンを、フレネルレンズ面14,15上に形成することが可能である。
また、モールド4の表面の異なる領域に、複数の配向パターンを作製しておけば、複数の配向パターンを持つ液晶可変焦点レンズ1を作製することも可能である。
【0037】
上述した第1または第2の作製方法により作製したフレネルレンズ面を有する透明基板11または透明基板12に、スクリーン印刷などの方法によりシール10を塗布した後、透明基板11と透明基板12とをシール10を介して貼り合わせる。これにより、透明基板11、透明基板12及びシール10で構成される空セル構造が作製される。
その後、スクライブブレイク法などにより、一列に並んだ空セル構造毎に切断して、短冊状の空セル構造を形成した後に、シール10に設けられた注入口から各セル構造に液晶を注入し、注入口を封止材で封止する。その後、ダイシング法などによりセル構造ごとに切断して、図1に示すような液晶可変焦点レンズを作製する。
【0038】
上記のように、本発明の実施例1の液晶可変焦点レンズの製造方法によれば、モールド4の転写によりフレネルレンズ面15(14)上に配向層19(18)が均一に形成される。これにより、液晶層を均一に配向させて、所望のレンズ特性を持った液晶可変焦点レンズを得ることができる。
【実施例2】
【0039】
[構成の説明]
次に、本発明にかかる実施例2の液晶可変焦点レンズ5の構成について説明する。図7は実施例2の液晶可変焦点レンズ5の構成を示す説明図である。図7(a)は、液晶可変焦点レンズ5を示す断面形状の模式図であり、図7(b)は、図7(a)のCで示す箇所の拡大図である。
図7に示すように、実施例2の液晶可変焦点レンズ5は、実施例1と同様に、透明電極50、51が形成された2枚の対抗する透明基板52、53によって、液晶層54が挟持された構造を有している。
【0040】
透明基板52、53の間には、周縁部にシール55が設けられており、液晶の漏れを防止するとともに、液晶層54を所定の厚さに保っている。さらに、各透明基板52、53の向かい合う面にはそれぞれ、透明のフレネルレンズ面56、57が形成されている。
このフレネルレンズ面56、57における段差をなくし、表面を接続した連続面は、単純な球面でも良いが、収差の低減の観点からは、非球面形状をしていることが望ましい。
【0041】
各フレネルレンズ面56、57の表面には、液晶を所定の方向に配向させるための配向層58、59が設けられている。液晶可変焦点レンズ5では、図7(b)に示すように、配向層58は、フレネルレンズ面56を形成する形成材とは別の配向材料で形成されている。この配向層58、59の作製方法については、後述する。
【0042】
実施例2の液晶可変焦点レンズ5は、実施例1の液晶可変焦点レンズ1と同様に、透明電極50、51への印加電圧を切り替えて液晶層54の屈折率を変化させることで、レンズ効果の無い状態と、レンズ効果を有する状態との間で切り替えられる。
[製造方法の説明]
【0043】
次に、実施例2の液晶可変焦点レンズ5の製造方法例について説明する。まず、配向層が形成されたフレネルレンズ面を、透明基板上に作製する方法について説明する。図8はあらかじめ作製したフレネルレンズ面上へ配向材料の膜を塗布した後、配向層を作製する方法の一例の模式図である。
【0044】
まず、透明基板52(53)上に、図4で説明した熱可塑性の樹脂を用いた方法の他、熱硬化性樹脂を用いた方法、射出成型などの方法により、フレネルレンズ面56(57)を形成する。その後、図8(a)に示すように、フレネルレンズ面56(57)上へ、プライマ剤60を塗布する。プライマ剤60はフレネルレンズ面56(57)を形成してい
る樹脂と、後述する配向層を形成するための配向材料である樹脂61との密着性を向上させるために塗布する。プライマ剤60は、はフレネルレンズ面56(57)を形成している樹脂と、配向材料である樹脂61の材料に応じて選択される。フレネルレンズ面56(57)を形成している樹脂と、配向材料である樹脂61との密着性がよい場合は、プライマ剤60の塗布工程は省略できる。
【0045】
その後、図8(b)に示すように、配向層を形成するための配向材料である樹脂61を塗布する。このとき、後述する工程での配向層58(59)の転写性と、モールド4の離型時の残膜とを考慮した量の樹脂61を塗布する。
樹脂61の塗布後、図8(c)から図8(d)に示すように、モールド4をフレネルレンズ面56(57)に押し付けて樹脂61を硬化させた後、図8(e)に示すようにモールド4を離型する。これにより、フレネルレンズ面56(57)上に配向層58(59)を転写して形成する。
【0046】
図8では、モールド4が透明基板52(53)に対して上側に位置して、配向層58(59)が作製される例を示しているが、透明基板52(53)が、モールド4に対して上側に位置しても、配向層58(59)の作製は可能である。また、上述した方法では、フレネルレンズ面56(57)に配向材料である樹脂61を塗布するとしたが、モールド4に樹脂61を塗布して配向層58(59)を作製してもよい。
また、フレネルレンズ面56(57)を近似球面の形状とし、樹脂61で非球面形状のフレネルレンズ面と配向層58(59)とを作製することも可能である。
【0047】
上述した方法により作製したフレネルレンズ面を有する透明基板52、53を用いて、実施例1の液晶可変焦点レンズと同様に、シールを介した透明基板の貼り合わせ、透明基板の切断、液晶の注入および注入口の封止の各工程を行うことで、図7に示すような液晶可変焦点レンズ5を作製する。
【0048】
上述したように、実施例2の液晶可変焦点レンズ5の製造方法例では、実施例1と異なり、フレネルレンズ面を形成する樹脂と、配向層を形成するための配向材料である樹脂とを、異なる種類の樹脂とすることができる。これにより、フレネルレンズ面を形成する樹脂と、配向層を形成する樹脂のそれぞれを、光学特性、配向特性などを考慮して最適な材料を選択することが可能となる。
【0049】
また、本発明の実施例2の液晶可変焦点レンズの製造方法によれば、実施例1と同様に、モールド4の転写によりフレネルレンズ面56(57)上に配向層58(59)が均一に形成される。これにより、液晶層を均一に配向させて、所望のレンズ特性を持った液晶可変焦点レンズを得ることができる。
【0050】
上述した各実施例の液晶可変焦点レンズでは、両方の透明基板にフレネルレンズ面を備える構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、何れか一方の透明基板にフレネルレンズ面を備え、フレネルレンズ面上に型の転写で形成された配向層を備える構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1の液晶可変焦点レンズの構成を示す説明図である。
【図2】モールドの構成を示す説明図である。
【図3】実施例1のフレネルレンズ面および配向層の作製方法を示す説明図である。
【図4】実施例1のフレネルレンズ面の作製方法を示す説明図である。
【図5】実施例1のフレネルレンズ面および配向層の作製方法を示す説明図である。
【図6】配向パターンの例を示す説明図である。
【図7】実施例2の液晶可変焦点レンズの構成を示す説明図である。
【図8】実施例2のフレネルレンズ面および配向層の作製方法を示す説明図である。
【図9】従来の液晶可変焦点レンズの構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1、5 液晶可変焦点レンズ
3、4 モールド
10、55 シール材
11、12、52、53 透明基板
13、54 液晶層
14、15、56、57 フレネルレンズ面
16、17、50、51 透明電極
18、19、58、59 配向層
20 樹脂
31 フレネルパターン
41 配向パターン
42 フレネルパターン
60 プライマ剤
61 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレネルレンズ面を有する第1の透明基板と、第2の透明基板とで、液晶を挟持する液晶可変焦点レンズにおいて、
前記フレネルレンズ面は、型の転写により形成された配向層を有する
ことを特徴とする液晶可変焦点レンズ。
【請求項2】
前記第1の透明基板上の前記フレネルレンズ面は、前記配向層を形成する型と同じ型の転写により形成された
ことを特徴とする請求項1に記載の液晶可変焦点レンズ。
【請求項3】
前記配向層は、配向材料を前記型の表面または前記第1の透明基板の表面に塗布した上で、前記型の転写を行うことで形成された
ことを特徴とする請求項1に記載の液晶可変焦点レンズ。
【請求項4】
前記配向層は、前記型の転写により、前記フレネルレンズ面の形成材に直接形成された
ことを特徴とする請求項1または2に記載の液晶可変焦点レンズ。
【請求項5】
フレネルレンズ面を有する第1の透明基板と、第2の透明基板とで、液晶を挟持する液晶可変焦点レンズの製造方法において、
前記第1の透明基板の表面に前記フレネルレンズ面を形成する基板形成工程と、
前記フレネルレンズ面に型の転写により配向層を形成する配向層形成工程と、を有する
ことを特徴とする液晶可変焦点レンズの製造方法。
【請求項6】
前記基板形成工程において、前記配向層形成工程において前記配向層を形成する型と同じ型の転写により、前記フレネルレンズ面を形成する
ことを特徴とする請求項5に記載の液晶可変焦点レンズの製造方法。
【請求項7】
前記配向層形成工程において、配向材料を前記型の表面または前記第1の透明基板の表面に塗布した上で、前記型の転写を行い、前記配向層を形成する
ことを特徴とする請求項5に記載の液晶可変焦点レンズの製造方法。
【請求項8】
前記配向層形成工程において、前記型の転写により、前記フレネルレンズ面の形成材に直接配向層を形成する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の液晶可変焦点レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−80152(P2009−80152A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247165(P2007−247165)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】