説明

液晶性化合物、及び液晶表示装置

【課題】高コントラスト化、及び低電圧駆動を達成し得るバナナ形状の液晶性化合物を提供する。
【解決手段】本発明に係るバナナ形状の液晶性化合物は、自発分極を発現するとともに、スメクチック相を呈するものであり、少なくとも芳香族化合物ユニットを備えるセントラルコア部1と、セントラルコア部1から延在された2つのサイドウイング部2a,2bと、2つのサイドウイング部2a,2bと其々連結されて、末端に位置し、柔軟性基として機能する2つのテイル部3a、3bとを備える。そして、芳香族化合物ユニットは、2つのサイドウイング部2a、2bと直接又はスペーサを介して接続され、芳香族化合物ユニットにおけるサイドウイング部若しくはスペーサとの2つの接続ボンドの互いの成す角度は概略60°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性化合物、及び前記液晶性化合物を含む液晶層を備える液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型、軽量、低消費電力を特徴とする液晶表示装置(LCD(Liquid Crystal Display))は、モバイル機器の表示部に多く利用されている。最近では、液晶表示装置の大画面化や動画対応の技術も高まり、据置型の大画面液晶テレビにも適用されてきている。広視野角を達成できる観点から、IPS(In Plain Switching)モード等の横電界方式が注目を集めている。
【0003】
特許文献1においては、バナナ形状のネマチック液晶の液晶層が設けられた横電界方式の液晶表示装置が提案されている。同文献のネマチック液晶の液晶層は、基板表面に概ね平行な自発分極を発生するものである。また、特許文献2においては、バナナ形状のスメクチック相を呈する液晶層が設けられた横電界方式の液晶表示装置が提案されている。
【特許文献1】特許3460527号公報
【特許文献2】WO2007/083784号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶表示装置においては、高コントラスト化を実現すること、低電圧駆動を実現することは極めて重要な課題である。バナナ形状の液晶性化合物において、バナナ形状分子の屈曲角度(以降、「ベント角」とも云う)を小さくすることにより、複屈折率Δnを高め、高コントラスト化を実現することが期待できる。また、ベント角を小さくすることにより、自発分極をより高め、低電圧駆動を実現することが期待できる。
【0005】
上記特許文献2の横電界方式の液晶表示装置においては、バナナ形状分子のベント角を60〜165°、好ましくは90〜150°、さらに好ましくは110〜130°とし、屈曲形構造を、いわゆる「く」の字状とすることが好適であることが記載されている。
【0006】
しかしながら、これまで、バナナ形状の液晶性化合物は、ベント角が概略120°のものが主として報告されてきており、屈曲角度が概略60°のバナナ形状の液晶性化合物であって、かつ電界によりスイッチングが可能な報告例はなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第1の態様のバナナ形状の液晶性化合物は、少なくとも芳香族化合物ユニットを備えるセントラルコア部と、前記セントラルコア部から延在された2つのサイドウイング部と、前記2つのサイドウイング部と其々連結されて、末端に位置し、柔軟性基として機能する2つのテイル部と、を備えるものである。そして、前記セントラルコア部の前記芳香族化合物ユニットは、前記2つのサイドウイング部と直接又はスペーサを介して接続され、当該芳香族化合物ユニットにおける前記サイドウイング部若しくは前記スペーサとの2つの接続ボンドの互いの成す角度を概略60°とし、自発分極を発現するとともに、スメクチック相を呈するものである。
【0008】
本発明に係る第2の態様のバナナ形状の液晶性化合物は、下記一般式(9)で表わされるものである。
【化1】

但し、式中のZ及びZは、下記一般式(8)で示される化合物であり、Rは、其々独立にH,ハロゲン、メチル基、エチル基、ニトロ基、水酸基を示し、Rは、其々独立にH,ハロゲン、メチル基、エチル基、ニトロ基、水酸基を示す。
【化2】

但し、式中のnは1〜12の整数を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基を示す。
【0009】
本発明に係る液晶表示装置は、一対の基板と、前記一対の基板に挟持され、スメクチック相を呈する液晶層と、前記一対の基板の少なくとも一方の基板上に形成され、当該基板表面に概ね平行な成分を有する横電界を発生させる電極とを備えるものである。そして、前記液晶層は、上記態様のバナナ形状の液晶性化合物を成分として含み、当該液晶性化合物の平均的な分子の方向である配向方向が、前記スメクチック相の層法線と概ね平行であり、かつ、前記自発分極の方向が、前記基板表面に概ね平行であり、前記横電界により、前記バナナ形状の液晶性化合物の自発分極の方向が前記基板表面に対して概ね平行に当該基板面内で回転するものである。
【0010】
本発明に係るバナナ形状の液晶性化合物を用いた液晶表示装置によれば、ベント角が60°であるため、類似構造のベント角が120°のバナナ形状の液晶性化合物に比して、複屈折率Δnを高めることができる。これは、いわゆる「く」の字状の横方向の長さを長くすることができるためである。このため、高コントラスト化の実現が可能である。また、ベント角を60°とすることにより、類似構造のベント角が120°のものに比して、自発分極を高めることができる。その結果、低電圧駆動を実現することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高コントラスト化、及び低電圧駆動を実現可能な液晶表示装置、及び当該液晶表示装置の液晶層の成分として好適なバナナ形状の液晶性化合物を提供することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる。
【0013】
本発明に係る液晶表示装置は、横電界方式の一例としてIPS方式の液晶表示装置について説明する。図1(a)に、電圧無印加時の液晶表示装置100の模式的断面図を、図1(b)に、電圧印加時の液晶表示装置100の模式的断面図を示す。
【0014】
液晶表示装置100は、図1に示すように、薄膜トランジスタ(以下「TFT(Thin Film Transistor)」と云う)アレイ基板10、対向基板20を備える。そして、この一対の基板は、シール材を用いて形成されたシールパターン31を介して貼り合わされ、これらによって形成される空間に液晶層30が充填されている。液晶層30を構成する液晶性化合物を、説明の便宜上符号50として模式的に図示する。
【0015】
TFTアレイ基板10は、ガラス、ポリカーボネート等の基板からなる絶縁基板11上にスイッチング素子として機能するTFT、絶縁膜、櫛型電極である画素電極15、同じく櫛型電極である共通電極16等が形成されている。画素電極15は、TFTアレイ基板10の液晶側の各画素領域に形成され、映像信号線(不図示)を介して選択された映像信号が供給される。画素電極15と離間して配置された共通電極16には、共通信号線(不図示)を介して共通信号が供給される。そして、これらの電極や配線等の上には、第1配向膜12等が形成されている。第1配向膜12は、液晶性化合物50を配向させる役割を、櫛型電極は、基板に平行な電圧を印加して、液晶性化合物50の配向方向を変える役割を担う。
【0016】
TFTアレイ基板10の外側主面には、第1偏光板13が配設されている。なお、本実施形態においては、画素電極15、及び共通電極16ともに櫛型電極となるIPSモードについて説明したが、共通電極又は画素電極の一方を櫛型電極とし、もう一方を別の層で全面配置する電極等のFFSモード等に適用することもできる。また、これらの電極を対向基板20側に設けてもよく、TFTアレイ基板10と対向基板20の両者に設けてもよい。
【0017】
対向基板20は、絶縁基板21、遮光層、色材層として機能するカラーフィルタ層、第2配向膜22等を備えている。絶縁基板は、ガラス、ポリカーボネート等の基板により構成することができる。対向基板20の外側主面には、第2偏光板23が配設されている。第1偏光板13と第2偏光板23とは、互いの透過軸が直交するように配置されている。
【0018】
液晶表示装置100は、その他、駆動信号を発生する制御基板(不図示)、光源となるバックライト部6等も備えている。バックライト部6は、液晶表示パネル5の反視認側に配置されており、液晶表示パネル5を介して視認側へ光を照射するように構成されている。
【0019】
液晶層30は、スメクチック相を呈するものであり、自発分極を発生し、形状がバナナ形状の屈曲構造を有する液晶性化合物50を成分として含む。本実施形態においては、液晶層30が液晶性化合物50のみにより構成されている例について説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、他の液晶性化合物や非液晶性化合物を含んでいてもよい。例えば、液晶性化合物50をホスト分子、若しくはゲスト分子として他の分子とのブレンドとすることも可能である。例えば、ベント角が概略120°の液晶性化合物とのブレンドとしてもよいし、通常のスメクチック相を呈する液晶性化合物とのブレンドとしてもよい。
【0020】
図2に、本発明に係るベント角が概略60°のバナナ形状の液晶性化合物(以下、単に「液晶性化合物」とも云う)50の模式的説明図を示す。液晶性化合物50は、少なくとも芳香族化合物ユニットを有するセントラルコア部1と、当該セントラルコア部1から延在された2つのサイドウイング部2a、2bと、当該2つのサイドウイング部2a、2bと其々連結されて、末端に位置する2つのテイル部3a、3bと、を備える。これら全体として、屈曲形状であるバナナ形状分子を構成しており、概略「く」の字状の形状となっている。
【0021】
液晶性化合物50の平均的な分子の方向である配向方向nは、スメクチック相の層法線と概ね平行となるものを用いる。ここで、「平均的な分子の方向である配向方向」とは、液晶性化合物50を「く」の字と見立てた際の上下方向(図2中の矢印nの方向)を云うものとする。また、液晶性化合物50を「く」の字と見立てた際の横方向の最大長さを投影長L1とし、その方向を投影方向D1とする。
【0022】
液晶性化合物50は、TFTアレイ基板10の表面に概ね平行な方向に自発分極を発生する。自発分極の方向をD2とする。本実施形態においては、便宜上、投影方向D1と自発分極の方向D2は、同一方向であるとして説明するが、異なる方向であってもよい。
【0023】
セントラルコア部1は、少なくとも芳香族化合物ユニットを有する。芳香族化合物ユニットは、単環の他、縮合環やヘテロ環であってもよい。また、複数の芳香族化合物が直接、若しくは接続基を介して結合していてもよい。接続基としては、脂環式化合物やアセチレン基のような官能性基を適用することが可能である。但し、上述したように概略「く」の字状の骨格を保持できる構造のものを選定する。換言すると、分子の回転運動により「く」の字状の状態が保持されないものは除外する。
【0024】
セントラルコア部1は、芳香族化合物ユニットの他、サイドウイング部2との間にスペーサを含んでいてもよい。無論、スペーサを介さずに芳香族化合物ユニットとサイドウイング部2が直接結合していてもよい。2つのサイドウイング部と直接又はスペーサを介して接続する芳香族化合物ユニットにおける接続ボンドは、互いの成す角度が概略60°となる位置とする。例えば、ナフタレン誘導体の場合には、1,2−位、2,3−位、若しくは1,7−位に接続ボンドが配置されるようにする。
【0025】
芳香族化合物ユニットの好ましい例としては、1,2−ナフタレン誘導体、2,3−ナフタレン誘導体、1,7−ナフタレン誘導体の他、1,2−ベンゼン誘導体、3,10−アントラセン導体、2,3−アントラセン誘導体、3,5−フェナントレン誘導体、9,10−フェナントレン誘導体、2、3−トリフェニレン誘導体等を挙げることができる。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の位置に任意の置換基を有していてもよい。
【0026】
具体例としては、以下の式(3)の例を挙げることができる。
【化3】

上記例において、説明の便宜上、芳香族化合物ユニットの接続ボンドの位置を図示し、置換基を図示していないが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意の位置に、任意の置換基を有していてもよい。
【0027】
セントラルコア部1のスペーサの具体例として、以下の式(4)を挙げることができる。
【化4】

セントラルコア部1の芳香族化合物ユニットとサイドウイング部2a、2bは、上記式のスペーサにおける左端、右端の結合手のどちらと結合してもよい。無論、これに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々のスペーサを適用することができる。2つのスペーサは、異なる化合物であっても、同一の化合物であってもよい。また、2つの接続ボンドに対して、一方のみにスペーサを設け、他にスペーサを設けない態様とすることも可能である。合成の簡便性、「く」の字状分子を容易に設計する観点からは、スペーサを2つ備え、かつ同一構造とすることが好ましい。
【0028】
セントラルコア部1の芳香族化合物ユニットの環構造は、2つ以上備えることが好ましく、さらに、2つのサイドウイング部2に延在される芳香族化合物ユニットにおける接続ボンドは、異なる環に配置されていることが特に好ましい。
【0029】
サイドウイング部2a、2bは、前記接続ボンドから其々延在された部分であり、主たる骨格は、剛直な棒状とする。換言すると、骨格部が、概ね直線状の骨格となっている。サイドウイング部2a、2bは、セントラルコア部1と共同して液晶性を示すのに必須な骨格部分を形成する。セントラルコア部1と2つのサイドウイング部2a,2bの概略骨格は、「ハ」の字状の上端を結んだ3辺骨格のような形状となる。
【0030】
2つのサイドウイング部2a、2bは、同一構造であっても、異なる構造であってもよい。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、置換基等を有していてもよい。サイドウイング部2a,2bの具体例としては、下記式(10)を挙げることができる。
【化5】

セントラルコア部1とテイル部3a、3bは、上記式の左端、右端の結合手のどちらと結合してもよい。
【0031】
サイドウイング部2a,2bの構造としては、3つ以上の芳香族化合物が其々、連結基を介して結合されている構造であることがより好ましい。
【0032】
テイル部3a、3bは、サイドウイング部2a、2bと連結され、分子の末端に位置する柔軟性基として機能する部位である。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の基を取ることができる。
【0033】
特に好ましい液晶性化合物としては、下記一般式(2)を挙げることができる。
【化6】

ここで、式中のXは、セントラルコア部1の芳香族化合物ユニットであり、上記式(3)で示した化合物のいずれかから選ばれるものが好ましい例として挙げられる。芳香族化合物ユニットは、任意の位置に置換基を有していてもよい。また、式中のS及びSは、スペーサであり、上記式(4)で示した化合物のいずれかから選らばれたものとすることが好ましい。また、式中のAr〜Arは、サイドウイング部2a、2bの芳香族化合物であり、下記式(5)から選ばれるものであることが好ましい。さらに、式中のY〜Yは、サイドウイング部2a、2bの連結基であり、下記式(6)若しくは(7)のいずれかとすることが好ましい。下記式(7)は、隣接するサイドウイング部2a、2bの芳香族化合物と環構造を形成するものの例示である。また、式中のZ及びZはテイル部であり、下記式(8)のいずれかから選らばれるものとすることが好ましい。
【0034】
【化7】

これらは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の位置に任意の置換基を導入することが可能である。
【0035】
【化8】

隣接するサイドウイング部2a、2b内の芳香族化合物間において、上記式の左端、右端の結合手のどちらと結合してもよい。
【化9】

上記式(7)中の点線の芳香族化合物は、説明の便宜上の例示であり、これに限定されるものではない。
【0036】
【化10】

上記式中のRは、炭素数1〜18のアルキル基であり、任意の位置にメチル基、メトキシ基、エチル基、ハロゲン、ニトロ基、水酸基等の任意の置換基を有していてもよい。また、式中のnは、1〜12の整数である。なお、上記式(8)は、例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の基を採用することができることは言うまでもない。
【0037】
液晶性化合物50の特に好適な例としては、下記一般式(9)を挙げることができる。
【化11】

但し、式中のZ及びZは、上記一般式(8)で示される化合物とすることが好ましく、Rは、其々独立にH,ハロゲン、メチル基、エチル基、ニトロ基、又は水酸基などを示し、Rは、其々独立にH,ハロゲン、メチル基、エチル基、ニトロ基、又は水酸基などを示す。
【0038】
図3(a)に、電圧無印加時の液晶表示装置100の模式的な部分拡大平面図を、図3(b)に、電圧印加時の液晶表示装置100の模式的な部分拡大平面図を示す。同図において、第1偏光板13の透過軸をA1とし、第2偏光板23の透過軸をA2としてその方向を矢印で示す。
【0039】
液晶層30を構成する液晶性化合物50の配向方向nは、スメクチック相の層法線と略一致している。換言すると、TFTアレイ基板10の法線方向と略一致している。また、液晶性化合物50のTFTアレイ基板10面に対する投影方向D1が、一定の規則性を有するように配向処理せしめられている。換言すると、液晶性化合物の自発分極の方向D2も、所定の規則性を有することになる。配向処理方法としては、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、表面にポリイミド膜を塗布し、ラビング処理を行うことにより配向制御することができる。
【0040】
TFTアレイ基板10の外側主面に貼り付けた第1偏光板13は、電圧無印加時において、その透過軸A1が液晶性化合物50の投影方向D1と概ね一致するように配置する(図3(a)参照)。一方、対向基板20側の第2偏光板23は、その透過軸A2が液晶性化合物50の投影方向D1と概ね垂直となるように配置する。これにより、第1偏光板11を透過した直線偏光の光軸と液晶性化合物の投影方向D1とが略一致するため、液晶層30による複屈折は生じず、直線偏光は対向基板20に貼り付けた第2偏光板23に到達し遮断される。
【0041】
液晶表示装置100は、制御基板(不図示)から電気信号が入力されると、画素電極15及び共通電極16に駆動電圧が加わり、液晶性化合物50の自発分極の方向が変わる(図1(b)参照)。液晶性化合物の自発分極の方向と一定の角度を成し、かつ基板表面に概ね平行な方向に電界を印加した場合、液晶性化合物50の自発分極のために、液晶性化合物50の双極子モーメントが電気力線と平行になるように基板表面と平行な面内で回転する。その結果、TFTアレイ基板10側に貼着せしめられた第1偏光板13を通過した直線偏光の光軸と、液晶性化合物50の投影方向D1とがずれる。その結果、楕円偏光が生じ、光軸が変化して第2偏光板23から光が出射する。電圧をオフとすると、基板のアンカリング効果により液晶性化合物50の投影方向D1が透過軸A1と概ね一致する方向に戻る。
【0042】
上記のように、電圧の印加の有無に応じて、自発分極の方向を変化させることにより、液晶性化合物50の投影方向D1をTFTアレイ基板10表面に概ね平行に回転させる。これにより、クロスニコル間で明暗を表示する。液晶性化合物50を基板面内で回転させる方式を採用しているので、広視野角化を実現することができる。このため、大画面化の液晶表示装置に特に好適に適用することができる。
【0043】
なお、本発明において、スメクチック相を構成する液晶性化合物50の方向は、図4(a)の模式的断面図に示すように、層間において、同一方向に「く」の字が配列している強誘電構造でもよく、図4(b)のように、層ごとに「く」の字の方向が反転した半強誘電構造でもよい。また、配向方向は、必ずしも一方向である必要はなく、ドメイン毎に配向方向が異なっているマルチドメイン構造であってもよい。スイッチング方式としては、上述した方法の他、強誘電性液晶特有の双安定性によるメモリー効果を利用してもよい。例えば、TFTアレイ基板10の櫛型電極に加え、この櫛型電極に対して45°長軸方向がずれている櫛型電極を対向基板20側に設け、2つの櫛型電極のオン、オフを制御することにより、スイッチングを行うことができる。この方法によれば、ラビングフリーとすることができる。
【0044】
本発明によれば、液晶分子の誘電率異方性Δεによって配向変化を誘起するのではなく、自発分極によって配向変化を誘起している。このため、液晶分子の応答速度が前者に比して著しく早いという特徴を有する。
【0045】
また、本発明によれば、スメクチック相の層が基板と平行であり、かつ、ベント角が概略60°であるため、従来のベント角が概略120°の類似構造のものに比して、複屈折率Δnを大きくすることができる。これは、ベント角が概略120°のものに比して概略60°のものの方が、投影長Lが長くなるためである。その結果、高コントラスト化に有利である。
【0046】
さらに、ベント角を概略60°とすることにより、従来のベント角が概略120°の類似構造のバナナ形状の液晶性化合物に比して、ベント角が狭いが故に自発分極を大きくすることができる。このため、より優れた応答性が期待できる。また、低電圧駆動とすることも可能である。
【0047】
なお、本実施形態においては、透過型液晶表示装置を例にとり説明したが、反射型、半透過型の液晶表示装置にも適用できることは言うまでもない。また、一対の偏光板の透過軸の方向と、バナナ形状の液晶性化合物50の投影方向の初期配向方向は、ディスプレイにおいてノーマリホワイトとするかノーマリブラックとするか等に応じて適宜を決定することができる。また、上記実施形態においては、液晶性化合物50の投影方向D1と自発分極の方向D2とが一致した例について説明したが、これは説明の便宜上のものであって、投影方向D1と自発分極の方向D2は、異なる方向のものであってもよいことは言うまでもない。
【0048】
また、対向基板20にカラーフィルタ層を用いる例について述べたが、本発明に係る液晶層30は、高速応答性を特徴とするので、カラーフィルタ層を設けず、いわゆるフィールド・シーケンシャル方式を採用した液晶表示装置にも好適に適用することができる。カラーフィルタが不要となれば、光透過率を高めることが可能となり、高コントラスト化を達成できる。また、同じ透過率の場合には、消費電力の削減にもつながる。
【0049】
[実施例]
以下、本発明を具体的実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において、偏光顕微鏡観察は、オリンパス製BX-50により行った。また、相系列の同定は、Perkin Elmer製DSC-7により転移温度を測定し、Rigaku-Rint-2000によるX線回折から液晶構造を解析した。また、電気光学的スイッチング挙動は、高速電圧増幅器(FLC エレクトロニクス、F20A)により解析した。分極反転電流は、三角波電圧によって測定した。
【0050】
試薬は、東京化成工業から購入し、特に断らない限りは精製せずにそのまま用いた。溶媒は、溶媒は通常の方法で精製し,無水条件下で取り扱った。カラムクロマトグラフィーは、シリカゲル(メルク製、230−400メッシュ)を用いて行った。H−NMR、13C−NMRは、JEOL FT−NMRAl400(400MHz)を用いた。
【0051】
<ジアルデヒド化合物の合成>
下記式(11)に示すスキームに従って、ジアルデヒド化合物を合成した。
【化12】

まず、1、7−ジヒドロキシナフタレン0.50g(3.12mmol)のジクロロメタン(20ml)溶液に、1,3−ジクロロヘキシルカルボジイミド(DCC)1.61g(7.80mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.95g(7.80mmol),及び4−ホルミル安息香酸1.03g(6.86mmol)を加えた。そして、混合物を室温で2日間攪拌した。その後、濾過によって沈殿物を取出し、シリカゲルにてクロマトグラフィー精製(CHCl)し、ジクロロメタン/エタノールにより再結晶した。そして、白色固体0.95g(収率72%)を得た。
【0052】
得られた化合物の1H-NMRの測定結果を示す。この結果から、上記式(11)のジアルデヒド化合物が得られたことを確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ7.42-8.07(m,6H),8.36(d,J=8.4Hz,4H),8.48(d,J=8.4Hz,4H),10.13(s,1H),10.15(s,1H).
【0053】
< ((4−ドデシルオキシ)ベンゾイル)オキシ−4−ニトロベンゼンの合成>
下記式(12)に示すスキームに従って、 ((4−ドデシルオキシ)ベンゾイル)オキシ−4−ニトロベンゼンを合成した。
【化13】

ジクロロメタン(CHCl)80ml中に、4−(ドデシルオキシ)安息香酸6.09g(19.9mmol)、4−ニトロフェノール2.76g(19.9mmol)、DCC4.10g(19.9mmol),及びDMAP0.24g(1.99mmol)を混合し、室温で1日攪拌した。反応混合物をろ過した後、溶媒を留去した。得られた化合物をHO/エタノールを用いて再結晶することにより白色固体6.10g(収率72%)を得た。
【0054】
得られた化合物の1H-NMRの測定結果を示す。この結果から、上記式(12)の化合物が得られたことを確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3) δ0.89(t,J=6.8Hz,3H),1.30-1.86(m,20H),4.05(t,J=6.8Hz,2H),6.99(d,J=8.4Hz,2H),
7.40(d,J=9.6Hz,2H),8.13(d,J=8.4Hz,2H),8.32(d,J=9.6Hz,2H).
【0055】
<((4−ドデシルオキシ)−ベンゾイルオキシ)−4−アニリンの合成>
下記式(13)に示すスキームに従って、 ((4−ドデシルオキシ)ベンゾイル)オキシ−4−ニトロアニリンを合成した。
【化14】

上記式(13)の4−ドデシルオキシベンゾイルオキシ−4−ニトロベンゼン5.77g(13.5mmol)のエタノール(100ml)溶液に、塩化スズ2水和物(SnCl・2HO)15.2g(67.3mmol)を加え、6時間加熱還流させた。その後、室温まで冷却し、氷に注いだ。水酸化ナトリウムを用いてpHを8に調整したのち、有機相を酢酸エチルにより抽出し、無水MgSOにより乾燥させた。粗生成物を、HO/エタノールを用いて再結晶することにより、白色固体2.30g(収率43%)を得た。
【0056】
得られた化合物の1H-NMRの測定結果を示す。この結果から、上記式(13)の化合物が得られたことを確認した。
1H-NMR (400 MHz, CDCl3) δ 0.88 (t, J=6.8 Hz, 3H), 1.27-1.85 (m, 20H), 3.64 (s, 2H), 4.03 (t, J=6.8 Hz, 2H), 6.71 (d, J =9.6 Hz, 2H), 6.95 (d, J=8.4 Hz, 2H), 6.98 (d, J=9.6 Hz, 2H), 8.12 (d, J=8.4 Hz, 2H).
【0057】
(液晶性化合物の合成)
下記式(14)に示すスキームに従って、液晶性化合物を合成した。
【化15】

エタノール50ml中に、上記式(13)で得た化合物1.30g(2.59mmol)と上記式(11)で得たビスアルデヒド化合物0.50g(1.18mmol)を加え、2日間、加熱還流した。得られた生成物をろ過し、ジクロロメタン/エタノールにより再結晶した。そして、黄色結晶である最終化合物0.90g(収率64%)を得た。
【0058】
得られた化合物の1H-NMRの測定結果を示す。この結果から、下記式(14)の化合物が得られたことを確認した。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ0.88(t,J=7.2Hz,6H),1.27-1.84(m,40H),4.04(t,J=6.8Hz,4H),
6.96-8.10(m,22H),8.31(d,J=8.4Hz,4H),8.43(d,J=8.4Hz,4H),8.56(s,1H),8.59(s,1H).
13C-NMR(400MHz,CDCl3)δ14.1,22.6,25.9,29.0,29.3,29.53,29.57,29.6,
31.9,68.3,114.3,121.3,121.9,122.5,127.5,128.8,128.9,130.6,130.7,132.2,132.8,
140.6,140.9,146.5,148.7,149.2,149.7,158.7,158.8,163.5,164.5,164.7,164.9.
【0059】
上記式(14)の液晶性化合物の相挙動の変化についてDSCや偏光顕微鏡等を用いて検討したところ、Iso−N−SmA−Polar SmA−B4−Glassとなった。具体的には、Iso(等方液体)相−N(ネマチック)相の相転移温度が251.5℃、N相−SmA(スメクチックA)相の相転移温度が244.7℃、SmA相−SmAP(ノンチルト−極性スメクチックA)相の相転移温度が240.1℃、SmAP相−B4(バナナ4)相の相転移温度が205.6℃であった。
【0060】
次に、ITO(Indium Tin Oxide)を透明電極として蒸着された2枚のガラス基板を用い、公知の方法により基板間に液晶を注入することにより液晶セルを得た。基板間の厚みは、5.0μmとした。
【0061】
本実施例に係る上記式(14)の液晶性化合物は、図4(b)に示すように、層毎に「く」の字の配向方向が反転している半強誘電構造となっていることを確認した。そして、+V、−V印加すると、図5に示すように、すべての分子が同一方向に変化することを確認した。この状態変化は、半強誘電性液晶の状態変化に対応するものであり、電圧印加により自発分極の方向を制御できることを示している。
【0062】
図6は、上記式(14)の液晶性化合物に周波数を40Hzとし、Vpp180の三角波の電圧を印加した際の、分極反転電流の時間変化プロファイルを示したものである。同図より、強誘電性に特有のプロファイルを示すことがわかる。そして、そこから計算される自発分極は、およそ800nC/cmであった。自発分極の値は、従来のベント角が概略120°のものに比して、かなり大きな値である。強誘電性の場合、正から負への電場で分子の分極は+Pから−P方向に向きを変えるので、交流の半周期に1つの分極によるピークが観測される。
【0063】
本実施例によれば、不斉炭素を有していないが、ボンドキラリティーを有し、強誘電性液晶材料特有のスイッチングが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a)は電圧無印加時の液晶表示装置の模式的断面図であり、(b)は電圧印加時の液晶表示装置の模式的断面図。
【図2】本実施形態に係る液晶性化合物の模式的説明図。
【図3】(a)は電圧無印加時の液晶表示装置の模式的平面図であり、(b)は電圧印加時の液晶表示装置の模式的平面図。
【図4】(a)(b)は、本実施形態に係るスメクチック相の層構造の模式的説明図。
【図5】実施例に係る液晶性化合物の電圧印加時の分子配向を説明する説明図。
【図6】実施例に係る液晶セルに三角波の電圧を印加した際の、分極反転電流の時間変化プロファイルを示す図。
【符号の説明】
【0065】
1 セントラルコア部
2 サイドウイング部
3 テイル部
5 液晶表示パネル
6 バックライトユニット部
10 TFTアレイ基板
11 絶縁基板
12 第1配向膜
13 第1偏光板
15 画素電極
16 共通電極
20 対向基板
21 絶縁基板
22 第2配向膜
23 第2偏光板
30 液晶層
31 シールパターン
50 液晶性化合物
100 液晶表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも芳香族化合物ユニットを備えるセントラルコア部と、
前記セントラルコア部から延在された2つのサイドウイング部と、
前記2つのサイドウイング部と其々連結されて、末端に位置し、柔軟性基として機能する2つのテイル部と、を備え、
前記セントラルコア部の前記芳香族化合物ユニットは、前記2つのサイドウイング部と直接又はスペーサを介して接続され、当該芳香族化合物ユニットにおける前記サイドウイング部若しくは前記スペーサとの2つの接続ボンドの互いの成す角度を、概略60°とし、
自発分極を発現するとともに、スメクチック相を呈するバナナ形状の液晶性化合物。
【請求項2】
前記セントラルコア部の前記芳香族化合物ユニットは、2つ以上の環構造を備え、
前記2つのサイドウイング部に延在される前記2つの接続ボンドは、其々異なる環と結合されていることを特徴とする請求項1に記載のバナナ形状の液晶性化合物。
【請求項3】
前記セントラルコア部の前記芳香族化合物ユニットは、前記サイドウイング部と、下記式(1)のいずれかのスペーサを介して結合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のバナナ形状の液晶性化合物。
【化1】

【請求項4】
前記サイドウイング部の其々は、3つ以上の芳香族化合物が其々連結基を介して結合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のバナナ形状の液晶性化合物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のバナナ形状の液晶性化合物において、
前記セントラルコア部の前記芳香族化合物ユニットは、前記サイドウイング部と直接、若しくはスペーサを介して結合され、
前記サイドウイング部の其々は、3つ以上の芳香族化合物がそれぞれ連結基を介して結合されたものであり、
前記セントラルコア部の前記芳香族化合物ユニットをX,前記スペーサをS及びSとし、
前記サイドウイング部の前記芳香族化合物をAr〜Ar、前記連結基をY〜Yとし、
前記テイル部をZ及びZとしたときに、下記一般式(2)で表わされる化合物であり、
前記Xは、任意の位置に置換基を有していてもよい下記式(3)のいずれかであり、
前記S及びSは、其々独立に下記式(4)のいずれかであり、
前記Ar〜Arは、其々独立に任意の位置に置換基を有していてもよい下記式(5)のいずれかであり、
前記Y〜Yは、其々独立に下記式(6)若しくは(7)のいずれかであり、
前記Z及びZは、其々独立に下記式(8)のいずれかであることを特徴とするバナナ形状の液晶性化合物。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

(但し、式中のnは1〜12の整数を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基を示す。)
【請求項6】
下記一般式(9)で表わされるバナナ形状の液晶性化合物。
【化9】

(但し、式中のZ及びZは、下記一般式(8)で示される化合物であり、Rは、其々独立にH,ハロゲン、メチル基、エチル基、ニトロ基、水酸基を示し、Rは、其々独立にH,ハロゲン、メチル基、エチル基、ニトロ基、水酸基を示す。)
【化10】

(但し、式中のnは1〜12の整数を示し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜18のアルキル基を示す。)
【請求項7】
一対の基板と、
前記一対の基板に挟持され、スメクチック相を呈する液晶層と、
前記一対の基板の少なくとも一方の基板上に形成され、当該基板表面に概ね平行な成分を有する横電界を発生させる電極と、
を備え、
前記液晶層は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のバナナ形状の液晶性化合物を成分として含み、
当該液晶性化合物の平均的な分子の方向である配向方向が、前記スメクチック相の層法線と概ね平行であり、かつ、前記自発分極の方向が、前記基板表面に概ね平行であり、
前記横電界により、前記バナナ形状の液晶性化合物の自発分極の方向が前記基板表面に対して概ね平行に当該基板面内で回転する液晶表示装置。
【請求項8】
前記一対の基板の前記液晶層側の表面には、前記バナナ形状の液晶性化合物の前記基板面に対する投影方向の向きに一定の規則性を持って配向させるための配向手段が施されていることを特徴とする請求項7に記載の液晶表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−47672(P2010−47672A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212029(P2008−212029)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】