説明

液晶材料、化合物、ピエゾクロミック発光材料、液晶材料膜、コーティング材、及び、液晶材料膜製造方法

【課題】 有用な機能性液晶材料などを提供する。
【解決手段】 本発明の第1の側面は、発光部位であるコアと、前記コアに結合されたデンドロン骨格とを備え、外部刺激に応じて、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示すことを特徴とする液晶材料にある。本構成によれば、液晶状態で発光色を元に戻すことができる有用な機能性液晶材料が得られる。本発明の第2の側面は、前記デンドロン骨格の外縁部に結合し、分岐したアルキル基をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の液晶材料にある。本構成によれば、液晶状態のままでより安定する液晶材料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶材料、化合物、ピエゾクロミック発光材料、液晶材料膜、コーティング材、及び、液晶材料膜製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メモリーやセンサなどへの応用を目指して、圧力や機械的せん断に応答して分子の集合構造が変化し、その発光色が変化する刺激応答性発光材料としてピエゾクロミック発光材料が注目を集めている。これまで、このような材料は、主に有機結晶や色素をポリマーに分散させた系などで報告されてきた(例えば非特許文献6)。
【0003】
ここで、これまでに報告されているピエゾクロミック発光材料について例示しながら説明する。ただし、発光色の変化が分子骨格自体の変化ではなく、分子集合構造の変化に起因している化合物に絞って説明する。結晶単独や色素をポリマー中に分散させた例も含め、ピエゾクロミック発光材料自体の報告例は非常に少ない。また、液晶に限れば、以下で説明する本発明者らの報告が最初となる。
【0004】
なお、化合物の分子骨格自体が機械的刺激により変化して発光色が変化する化合物も数例存在している。しかし、分子骨格自体が変化する化合物は結合が切れてラジカルになるなどするため、分子集合構造の変化に起因して発光色が変化する材料の方が繰り返し耐久性に優れていると言える。
【0005】
【非特許文献1】dyes and pigments, 1993, 23, 73-78
【0006】
本発明者らが知る限り、下記の化合物が有機材料でピエゾクロミック発光特性を示した最初の例である(分子集合構造の変化に起因して発光色が変化する材料に限る)。
【化C】

【0007】
【非特許文献2】Adv. Mater. 2002. 14. 1625-1629
【0008】
図16に示すのは、C. Wederのグループの研究である。ポリマーに色素を混ぜて、延伸や温度で発光色を変化させている最初の論文である。この論文以降、図中の化合物1や化合物2のようなシアノ基を持つオリゴフェニレンビニレン(OPV)で延々と研究が現在まで行われている。
【0009】
【非特許文献3】Chem. Mater. 2003, 15, 4717-4724
【0010】
これは、C. Wederのグループの研究である。上述の話の少し拡大したものになる。ただし、ポリマーに色素を混ぜた系であることに変わりはない。この後もポリマーに色素を混ぜる系で論文を数報出している。
【0011】
【非特許文献4】Chem. Mater. 2005, 17, 50-56
【0012】
図17に示すのは、独立行政法人産業技術総合研究所のグループの研究である。右の化合物がこすることで結晶構造が変化して発光色が変化するという報告例である。
【0013】
【非特許文献5】J. Mater. Chem., 2007, 17, 783-790
【0014】
図18に示すのは、C. Wederのグループではないが、ポリマーに色素を混ぜた系である。図のように引き伸ばした部分だけ発光色が変化している。
【0015】
【非特許文献6】J. AM. CHEM. SOC. 2007, 129, 1520-1521
【0016】
図19に示すのは、東京大学生産技術研究所の荒木研究室による研究である。テトラフェニルピレン誘導体は、乳鉢などでこする前は紫外光照射下、青色の発光を示すが、こすった後は青緑色の発光を示す。こすることによって、水素結合支配の安定な集合状態が水素結合の乱れた準安定な集合状態に変化する。この準安定な状態は、加熱することで、もとの安定な状態に戻すことができ、青色の発光が回復する。
【0017】
【非特許文献7】Adv. Mater. 2008, 20, 119-122
【0018】
図20に示すのは、C. Wederのグループがポリマーを使うことなく化合物単品で始めた例である。ポリマーに混ぜていたオリゴフェニレンビニレン誘導体がこすることで発光色が変化する。高温領域で液晶性を示すようだが、その温度領域でこする記述はない。
【0019】
【非特許文献8】Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 5175 -5178
【0020】
図21に示すのは、本発明者らの報告例である。液晶では初めてのピエゾクロミック発光材料である。しかし、元の色に戻すのに200℃という高温処理が必要になることなどの欠点があった。
【0021】
この文献について詳細に説明する。この文献では、本発明者らは、せん断に応じてキュービック相−カラムナー相相転移を示し、発光色が黄色から青緑に変化する(図中a→c)液晶性ピレン誘導体を報告している。液晶は、秩序性と動的な特性を兼ね備えた機能性ソフトマテリアルであり、大面積で塗布可能であるなど、有機結晶にない利点を数多くあわせ持つ。しかし、既報のピレン誘導体では、せん断の印加によりいったん発光色が青緑色になると黄色の発光色に戻すのに200 ℃近くまで加熱し、等方相を経る必要があった(図中c→b→a)。メモリーやセンサなど実用的な材料を志向した場合、粘性の高い液晶状態で可逆的に発光色の変化が達成されることが望ましい。また、このピレン誘導体は高温領域(160 ℃ 以上)では化合物の分解が確認され、量子収率が目に見えて落ちてしまうという現象も確認された。
【0022】
【非特許文献9】Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 6286 -6289
【0023】
下記に示すように、金属を含む発光液晶の報告例であるが、論文の後半にこすると発光色が変化するという記述がある。液晶性のピエゾクロミック発光材料の報告例としては本発明者らに次いで二番目と思われる。しかし、発光の変化の要因がどのような分子集合構造変化に基づいているのか、についての記述が乏しく、論文のメインテーマも「単に金属を含む剛直な部位を用いて光る液晶を作った」ことが主体になっている。
【化D】

【0024】
【非特許文献10】J. AM. CHEM. SOC. 2008, 130, 10044-10045
【0025】
図22に示すのは、日本の北海道大学のグループの研究である。Auを含む化合物でのピエゾクロミック発光材料の報告例である。下記の化合物をこすることで発光色が青色から黄色に変化している。また、溶媒にさらすことで元の発光色が回復している。他に、Auを含む有機金属錯体などでこすると発光色が変化する報告例があるという記述が、本文又は引用されている文献中でされていたと考えるが、ほぼ間違いなく、液晶ではなく結晶粉末の話と思われる。
【化E】

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、上述の背景技術に鑑みてなされたものであり、有用な機能性液晶材料などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
この発明によれば、上述の目的を達成するために、特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用している。以下、この発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明の第1の側面は、
発光部位であるコアと、
前記コアに結合されたデンドロン骨格と
を備え、
外部刺激に応じて、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示すことを特徴とする液晶材料。
にある。
【0029】
本構成によれば、液晶状態で発光色を元に戻すことができる有用な機能性液晶材料が得られる。
【0030】
本発明の第2の側面は、
前記デンドロン骨格の外縁部に結合し、分岐したアルキル基をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の液晶材料。
にある。
【0031】
本構成によれば、液晶状態のままでより安定する液晶材料が得られる。
【0032】
本発明の第3の側面は、
前記分岐したアルキル基は、下記の化学式で表されるアルキル基のいずれかであることを特徴とする請求項2記載の液晶材料。
【化1】

にある。
【0033】
本構成によれば、液晶状態のままでさらに安定する液晶材料が得られる。
【0034】
本発明の第4の側面は、
前記コアは、ピレン、アントラセン、ナフタレン、ペリレン、コロネン、トリフェニレン、テトラセン、ペンタセン、カルバゾール、フルオレノン、フェナントレン、アズレン、オリゴフェニレンビニレン、オリゴフェニレンエチニレン、ポルフィリン、フタロシアニン、ローダミン、クマリン、フルオレッセイン、シアニン系色素、又は、これらの誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の液晶材料。
にある。
【0035】
本構成によれば、エキシマー形成によって安定して発光する液晶材料が得られる。
【0036】
本発明の第5の側面は、
前記デンドロン骨格は、poly(aryl ether)型又はpoly(aryl ester)型のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の液晶材料。
にある。
【0037】
本構成によれば、より発光しやすい液晶材料が得られる。
【0038】
本発明の第6の側面は、
式1、式2、式3又は式4で表されるいずれかの化合物。
【化2】

にある。
【0039】
本構成によれば、外部刺激に応じて液晶状態で可逆的な発光色変化を示す化合物が得られる。
【0040】
本発明の第7の側面は、
式1、式2、式3又は式4で表されるいずれかの化合物。
【化3】

にある。
【0041】
本構成によれば、外部刺激に応じて液晶状態で可逆的な発光色変化を示す化合物が得られる。
【0042】
本発明の第8の側面は、
式1で表される化合物を含有するピエゾクロミック発光材料であって、
せん断の印加によって、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示すことを特徴とするピエゾクロミック発光材料。
【化4】

にある。
【0043】
本発明の第9の側面は、
発光部位であるコアと、
前記コアに結合されたデンドロン骨格と
を備える液晶材料を含有し、
外部刺激に応じて、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示すことを特徴とする液晶材料膜。
にある。
【0044】
本構成によれば、発光色を元に戻すことができる有用な機能性液晶材料膜が得られる。
【0045】
本発明の第10の側面は、
発光部位であるコアと、
前記コアに結合されたデンドロン骨格と
を備える液晶材料を含有し、
外部刺激に応じて、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示すことを特徴とするコーティング材。
にある。
【0046】
本構成によれば、発光色を元に戻すことができる有用なコーティング材が得られる。
【0047】
本発明の第11の側面は、
発光部位であるコアと、前記コアに結合されたデンドロン骨格とを備え、外部刺激に応じて、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示す液晶材料を溶質とする溶液を形成する工程と、
前記溶液を基板上に塗布し、液晶材料膜を形成する工程と
を備えることを特徴とする液晶材料膜製造方法。
にある。
【0048】
本構成によれば、シンプルな方法で発光色を元に戻すことができる有用な液晶材料膜が得られる。
【0049】
なお、ここでは、側鎖の結合部位を明確にするため点線で示している。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、有用な機能性液晶材料などが得られる。
【0051】
本発明のさらに他の目的、特徴又は利点は、後述する本発明の実施の形態や添付する図面に基づく詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0053】
[はじめに]
【0054】
機械的刺激(圧力やせん断応力など)に応じて発光色が変化する材料はピエゾクロミックルミネッセント材料といわれ、発光は簡便に検知できるため、センシングデバイスやメモリー等への応用例が期待されるが、いまだに報告例が少ない。特に液晶材料では、適切な側鎖導入することで溶媒に可溶化でき大面積に塗布でき、フレキシブルであるなどといった利点があるにもかかわらず、ほぼ報告例は無い。
【0055】
このピエゾクロミックルミネッセンスという現象は準安定状態をうまく作り出すことが重要であり、ある程度水素結合やπ-πスタック、側鎖の立体障害などの分子間相互作用が競合することで発現していることに本発明者らは着目した。
【0056】
図1は、刺激に応答して発光色が変化する液晶材料を示す図である。本発明者らは、既報の文献(Angew. Chem. Int. Ed., 2008, 47, 5175)でキュービック相が準安定であり、せん断を印加して発現したカラムナー相が最安定な液晶相であることを報告した。
【化a】

【0057】
しかし、上述のように、この系では、せん断の印加によりいったん発光色が青緑色になると黄色の発光色に戻すのに200 ℃近くまで加熱すること、等方相を経ることが必要であった。
【0058】
[概要]
【0059】
本発明者らは、側鎖に分岐鎖を多数導入した化合物に室温でせん断を印加すると、キュービック相から別の中間相に相転移し、発光色が黄色から緑色に変化することを見出した。また、この緑色を示す中間相を80℃で30秒程度加熱することで、溶融工程を経ることなく元の黄色の発光に戻せることがわかった。
【0060】
以下では、例えば、室温でせん断に応答して発光色(photoluminescence)が変化し、80℃という比較的温和な加熱を短時間行うことにより元の発光色に戻すことができる可逆的な機能性液晶材料について説明する。このような液晶材料は、刺激に応答して発光色が変化するため、外部刺激のセンシングや記録材料に用いることができる非常に実用性の高い材料である。
【0061】
図2は、可逆的な発光色変化を示す液晶性ピレン誘導体とその応用例を示す図である。上記の化合物はアルカン系の有機溶媒に均一に分散させることができ、ガラス基板上に塗布することができる。この基板をこすれば発光色が黄色から緑に変化し、加熱することで元の黄色の発光色に戻すことができる。
【0062】
本実施形態の化合物の側鎖には分岐したアルキル基等が導入されていて、側鎖がよりかさ高くなることで、キュービック相が安定化したと考えられる。そのため、高温領域ではキュービック相がせん断を印加して発現した中間相よりも安定になり、中間相からキュービック相に戻り、等方相を経ることなくバルク状態で可逆な発光色の変化が達成できたと考えられる。
【0063】
次に、他の化合物、発光色が変化する原因、分子設計、発光色変化を誘起するための外部刺激の条件、コーティング剤として用いる場合などについて説明する。
【0064】
[他の化合物]
【0065】
上述の概要では以下の化合物1について説明したが、コアにアントラセン骨格やナフタレン骨格を持つ化合物2、化合物3、化合物4の3種類の化合物でも、可逆的な発光色変化を示す刺激応答性液晶材料として使用できる。これらの化合物は化合物1同様、室温でせん断を印加することで紫外光照射時の発光色が変化し、加熱することで等方相を経ることなく元の発光色に戻すことができる。図3は、各化合物の発光色の変化を示す図である。
【化b】

【0066】
[発光色が変化する原因について]
【0067】
図4は、化合物1のせん断印加前後の偏光顕微鏡観察を示す図である。それぞれの化合物は、室温で光学的に等方な(複屈折を示さない)ミセルキュービック相を示す。これに室温でせん断を印加することで、複屈折を示す別の中間相に転移する。たとえば、図に示すように、化合物1について偏光顕微鏡観察を行うと明らかに暗い状態から明るい(複屈折がある、つまり光学的に異方性がある)状態に変化することがわかる。つまり、せん断により液晶相-液晶相相転移が起きている。
【0068】
図5は、エキシマー発光の概念を示す図である。発光色の変化の原因はそれぞれの液晶相中での分子の集合状態の変化に起因し、せん断によりエキシマー形成が阻害されたことが原因である。エキシマーとは、励起状態にある分子が基底状態にある分子と会合体を形成した状態であり、このエキシマーが基底状態に戻る際の発光は、単分子による発光色と大きく異なる。
【0069】
図6は、液晶相中での分子の集合状態を示す図である。上図に示すように、ミセルキュービック相中では発光部位が重なった状態で分子が集合しており、このためエキシマーに起因する発光色が観察される。一方、下図に示すように、せん断を印加すると、分子は水素結合を形成しているものの(IR測定により確認)、エキシマー形成はできない集合状態を形成することになり発光色が変化することになる。
【0070】
[分子設計について]
【0071】
今回新しく開発した化合物がすべてせん断により発光色の変化を起こした。したがって、ピレンやアントラセンやナフタレン骨格に限らず、エキシマー形成する発光部位であれば、分子のコアに導入することで類似の現象が達成できると考えられる。
【0072】
また、側鎖に関しても、準安定な液晶相を形成するようにある程度かさ高く、液晶性を誘起する側鎖であれば、同様なピエゾクロミックルミネッセンスは達成されると考えている。おそらく、側鎖の分岐を増やしてもよく、アルキル鎖を長くしてもよい。ただし、かさ高過ぎるとキュービック相が完全に安定化され、せん断を印加しても相転移せずにキュービック相のままであると考えられる。また、逆にあまりかさ高くないとキュービック相が発現せずにカラムナー相などの液晶相のみが発現すると考えられる。
【0073】
[発光色変化を誘起するための外部刺激]
【0074】
<せん断の印加>
キュービック相から中間相に転移させる際の外部刺激は圧力よりもせん断が望ましい。ただ上から液晶をプレスするなどの操作では相転移しないことが予想される。さらに、キュービック相中のひとつのミセル状の集合体あたりにかかるせん断応力は基板に塗布した膜厚に反比例するので、塗ったサンプルの厚さが厚いと強くこすっても転移しない。しかし、実際にセンシング材料として用いる際には、蛍光はきわめて簡便に検知でき、基板に塗布する塗膜は薄くてよく、厚みに関してなんら問題は無い。
【0075】
<加熱処理>
せん断印加後のサンプルにある程度の加熱処理を行うことで元の発光色が回復する。分子骨格によって準安定と最安定な液晶相のバランスが変化するため、発光色が回復する温度は分子に依存する。例えば、上述の化合物1及び化合物2は80℃で30秒程度の加熱処理で元の発光色が回復したが、化合物4は120℃程度で30秒加熱しないと元の発光色に戻らなかった。
【0076】
[コーティング剤として用いる場合]
【0077】
図7は、本実施形態の液晶性化合物を用いたコーティング剤を示す図である。ミセルキュービック相を発現している化合物をヘキサンに溶解させるとエキシマー発光に起因する発光を示す溶液が得られた。図に示すとおり、この溶液をガラス基板に滴下し、スパチュラなどで延ばし、そのまま室温大気下の条件で自然乾燥させることで簡便に薄膜が作成できた。
【0078】
<溶媒の種類>
ここではヘキサンを用いたが、ミセルを形成するための水素結合さえ切断しなければ、別の溶媒、たとえばペンタンやオクタンなどのアルカン系の溶媒などにもミセル状の集合体を維持したまま溶解できると考えている。逆にクロロホルムやトルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールなどの溶媒は分子間の水素結合を切断し、分子が溶液中でミセル状の集合体を形成しないので使用することが難しくなる。また、常温常圧下では、メタノールやエタノールなどのアルコールにはこの化合物は溶解しなかった。
【0079】
<濃度条件>
ここでは、濃度は約10-3以上10-5以下の濃度でコーティング剤を作成したが、濃度はこの範囲でなくてもよいと思われる。ただ濃度が薄すぎると、ある程度の膜厚を稼ぐためには溶媒の乾燥に時間がかかると思われる。
【0080】
<基板の条件>
ここではガラス基板を用いた。しかし、用いる溶媒となじみがよければどのような基板でも問題は無いと考えている。
【0081】
<塗布の条件>
ここでは、ガラス基板に滴下して延ばして塗膜を作成したが、スピンコートでも塗膜の作成は可能である。
【0082】
[発光部位]
【0083】
合成した化合物は発光部位としてピレン・アントラセン・ナフタレン骨格を持つが、着目したいことはエキシマーを形成するか否かである。また、一般に分子集合体の発光特性はその集合構造に大きく依存し、エキシマー形成以外にも励起子相互作用や分子骨格自体のコンフォメーションの変化に起因して発光特性が変化するので、例えば、エキシマー形成しないような平面性の低い分子が導入されていても、せん断を印加することにより励起子相互作用や分子骨格自体のコンフォメーションの変化に起因して材料の発光色が変化する可能性がある。そのため、デンドロンタイプの側鎖を大体反対方向に二箇所導入できる合成ルートが確立でき、ある程度の大きさの発光部位であれば、何でもよいことになる。
【0084】
次に、エキシマー形成しそうな分子から単に光る(ある程度の量子収率を持つ)分子まで2つのグループに分けて順に分子を列挙する。
【0085】
1)エキシマー形成しそうな発光分子(上述の化合物と同様の現象が起きると考えられる。)
ピレン、アントラセン、ナフタレン、ペリレン、コロネン、トリフェニレン、テトラセン、ペンタセン、カルバゾール、フルオレノン、フェナントレン、アズレン、オリゴフェニレンビニレン、オリゴフェニレンエチニレン、ポルフィリン、フタロシアニンなどの平面π共役分子の誘導体。また、蛍光プローブやレーザー色素等でよく使われている、ローダミン、クマリン、フルオレッセイン、シアニン系色素などの誘導体。
【0086】
2)エキシマー形成しないが、導入すれば何かしら発光特性の変化が誘起できそうな分子
(発光色の変化は励起子相互作用や発光部位の分子骨格のコンフォメーションの変化による)
ルブレン、フルオレン、チオフェン、ビピリジン、テルピリジン、BODIPY系色素など、平面性の低い発光分子の誘導体。
【0087】
[側鎖]
【0088】
図8は、本実施形態に適用できる化合物の側鎖についての概念図である。実際に導入した側鎖を例にとって説明すると、およそ次のようになる。本実施形態に適用できる化合物の側鎖は、例えば、ある程度かさ高い側鎖の根元に水素結合のためのアミド基を導入した構造であればよく、また、側鎖の外縁部には液晶性を誘起するためのある程度の長さを持つアルキル鎖を導入してもよい。
【0089】
例えば、本発明者らが実際に化合物に導入した側鎖は、かさ高くもないが、ある程度のかさ高さを持っている。側鎖がかさ高過ぎるとキュービック相しか発現せず、また、全くかさ高くなければカラムナー相のみが発現すると考えられる。つまり、絶妙なかさ高さを持ち、ある程度柔軟性の低い(簡単に扇の厚みが薄い構造にならないような)側鎖を導入した場合には、準安定な液晶相が発現し、こすることで安定な液晶相に相転移し、発光色が変化することになる。
【0090】
また、液晶性を誘起させるためには、例えば、ある程度長いアルキル鎖が導入されることが望ましい。
【0091】
本現象が起きる可能性がある具体的な分子骨格を例示列挙する。例えば、以下に例示した導入するアルキル基又はアルコキシ基とデンドロン骨格とを適切に選択して扇状側鎖を合成すれば、本現象が発現し得る。
【0092】
まずは外縁部に導入するアルキル鎖から例示する。
○直鎖アルキル基(例えばCの数は8以上18以下が望ましい。)
○直鎖アルコキシ基(例えばCの数は8以上18以下が望ましい。)
【0093】
なお、すでに論文(Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 5175.5178)で報告した分子骨格には炭素数12のアルコキシ鎖が導入されており、元の発光色に戻すのに200℃という高温が必要だったが、分子骨格によっては直鎖のアルコキシ基でも、ある程度の加熱で発光色の変化が達成できると考えられる。
【0094】
○以下のような分岐アルキル基(例えばCの数は6以上18以下が望ましい。)
【化c】

【0095】
他の分岐アルキル鎖であっても、ある程度の長さであればよいと考えられる。特に、分岐アルキル鎖の場合には、合成済み化合物から、化合物を液晶状態で可逆的に相転移させやすいことが判明した。
【0096】
○以下のような分岐アルコキシ基(例えばCの数は6以上18以下が望ましい。)
【化d】

【0097】
他の分岐アルコキシ基であってもよいと考えられる。
【0098】
さらに、下記のような側鎖であってもよい。
【化d1】

例えば、長いほうの炭素鎖の炭素数は6以上18以下である。
【化d2】

例えば、長いほうの炭素鎖の炭素数は6以上18以下である。
【化d3】

Rは水素でもアルキル鎖でもよく、さらに場所によってそれぞれ炭素数が違っていてもよい。
【0099】
次にアルキル基を導入するデンドロン骨格を例示する。
【0100】
こちらはある程度本現象を発現しやすいと考えられる順に示していく。以下に載せてある分子骨格のうち、後半は主にデンドリマーを扱ったJ. M. J. Frechetらのレビュー論文(Chem. Rev. 2001, 101, 3819-3867)からの抜粋である。そのため、外縁部にアルキル鎖がない分子構造もあるが、原則としてはアルキル鎖を外側に導入する。
【0101】
○poly(aryl ether)型
上述で説明した化合物のデンドロン骨格はこのタイプである。この骨格自体はJ. M. J. Frechetらによって報告されており、外縁部にアルキル鎖を導入し、液晶性を発現させた研究をV. Percecらがこれまでに大量に報告されている(例えば、J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 1302-1315)。ただし、いろいろな構造のデンドロン骨格を合成して、液晶性を調べただけで、せん断などの機械的刺激を与え、液晶相-液晶相相転移を観察しているわけでもなく、さらに発光色の変化などは全く関与していない。枝分かれ構造や外縁部に導入するアルキル鎖の本数を変更することで多様なデンドロン構造(例えば文献J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 1302-1315記載のもの)が構築できる。
【化e】

【0102】
○ poly(aryl ester)型
上述のpoly(aryl ether)型と似た構造を持つので、このタイプが次に本現象を誘起しやすい構造であると言える。さきほどと同様に、置換位置の変更により、様々な細かいデンドロン構造の変更が考えられる。
【化f】

【0103】
○ poly(phenylene)型、poly(aryl alkyne)型、poly(aryl alkene)型
上の二つのタイプと同様、様々な細かいデンドロン構造の変更が考えられ、構造によっては本現象が発現し得ると考えられる。
【化g】

【0104】
○ poly(alkyl ether)型、poly(alkyl ester)型
外縁部分に導入するアルキル鎖によっては適用できる可能性がある。このタイプも、もちろん様々な細かいデンドロン構造の変更を考えることができる。
【化h】

【0105】
他にも様々なタイプのデンドロン骨格があるが、上述のタイプのうち、poly(aryl ether)型、poly(aryl ester)型と似た分子骨格を持っていれば、本現象が発現する上で特に好ましい。
【0106】
[化合物の合成]
【0107】
以下、合成スキームについて説明する。ここでは例として下記の化合物1、化合物2、化合物3、化合物4を取り上げる。
【化b】

【0108】
<側鎖の合成>
3,7,11-trimethyl-dodecane-1-olは例えば参考文献1記載の方法で合成できる。
【化i】

【化j】

【0109】
<発光部位(コア部分)の合成>
側鎖をつける前の発光コアのうち、1,6-diethynylpyrene, 1,5-diethynylnaphtharene, 9,10-diethynylanthraceneは例えば参考文献2、3又は4記載の方法で合成できる。
【化k】

【0110】
<最終化合物の合成>
【化l】

【0111】
以下、詳細な合成法、及び同定データである。試薬等は、アルドリッチ、東京化成又は和光から購入した(会社名は商標又は登録商標である。)。必要があれば、精製して反応に用いた。シリカゲルカラムクロマトグラフィーは関東化学のsilica gel 60(spherical, 40-50μm)を用いた。
【0112】
【化m】

3,7,11-Trimethyldodecyl bromide (5): 500 mlのナスフラスコに磁気攪拌子、3,7,11-trimethyl-dodecane-1-ol (8.90 g, 39.0 mmnol)、triphenylphosphine (12.3 g, 46.8 mmol)、塩化メチレン150 ml を加え、アルゴン雰囲気下氷浴に浸した。この溶液を攪拌しながら20 mlの塩化メチレンに溶解させたNBS(N-Bromosuccinimide)(8.32 g, 46.8 mmol)をゆっくり滴下し、その後氷浴を外し、室温で1時間攪拌した。その後、溶媒を、ロータリーエバポレーターを用いて減圧留去し、その残渣をヘキサンに分散させ、フラッシュシリカカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色透明な液体5 (10.2 g, 35.0 mmol; 収率90 %)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ = 0.84-0.90 (m, 12H), 1.01-1.38 (m, 13H), 1.48-1.58 (m, 1H), 1.59-1.73 (m, 2H), 1.82-1.93 (m, 1H), 3.37-3.50 (m, 2H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 18.93, 18.99, 19.65, 19.72, 22.62, 22.72, 24.21, 24.79, 24.80, 27.97, 31.62, 31.66, 32.22, 32.72, 32.75, 36.76, 36.82, 37.21, 37.24, 37.26, 37.34, 39.33, 40.02, 40.10.
Elemental analysis: Calcd.(%) for C15H31Br: C, 61.84; H, 10.73. Found: C, 61.67; H, 10.74.
【0113】
【化n】

4-(3,7,11-Trimethyldodecyloxy)benzoic acid methyl ester (6): 500 mlのナスフラスコに磁気攪拌子、5 (10.2 g, 35.0 mmol)、 4-hydroxybenzoic acid methyl ester (5.86 g, 38.5 mmol)、 K2CO3 (14.5 g, 105 mmol)、 DMF 50 ml を加え、70 ℃で12時間攪拌する。反応溶液を室温まで冷却した後、水とクロロホルムを150mlずつ加え、有機層を抽出する。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で3回洗浄した後、飽和食塩水で1回洗う。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をフラッシュシリカカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色透明な液体6 (12.0 g, 33.1 mmol; 収率94 %)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.88 (m, 9H), 0.94-0.95 (d, J = 6.4 Hz, 3H), 1.05-1.41 (m, 12H), 1.47-1.72 (m, 4H), 1.80-1.87 (m, 1H), 3.88 (s, 3H), 4.00-4.08 (m, 2H), 6.90 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.98 (d, J = 8.8 Hz, 2H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.59, 19.65, 19.71, 22.60, 22.69, 24.30, 24.77, 24.79, 27.95, 29.77, 29.78, 32.75, 35.95, 36.03, 37.23, 37.25, 37.29, 37.33, 39.32, 51.78, 66.48, 114.02, 122.25, 131.53, 162.90, 166.87.
MS (MALDI): m/z: 363.30 (calcd [M]+ = 362.28).
Elemental analysis: Calcd.(%) for C23H38O3: C, 76.20; H, 10.56. Found: C, 75.90; H, 10.69.
【0114】
【化o】

4-(3,7,11-Trimethyldodecyloxy)benzyl alcohol (7): 500 mlのナスフラスコに磁気攪拌子、LiAlH4 (1.88g, 49.6 mmol)、THF (100 ml) を加え、氷浴につけ攪拌する。この溶液に6 (12.0 g, 33.1 mmol)のTHF溶液 30 mlをゆっくり滴下する。滴下終了後、氷浴を外し、室温でさらに2時間攪拌する。反応溶液に水1 mlを加え、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、残渣に5%塩酸、クロロホルムを150mlずつ加え、有機層を抽出する。その後、有機層を水と飽和食塩水で1回ずつ洗う。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、無色透明な液体7 (10.6 g, 31.7 mmol; 収率96 %)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.87 (m, 9H), 0.94 (d, J = 6.0 Hz, 3H), 1.05-1.37 (m, 12H), 1.47-1.71 (m, 4H), 1.78-1.86 (m, 1H), 3.94-4.03 (m, 2H), 4.45 (s, 2H), 6.87 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.26 (d, J = 8.0 Hz, 2H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.62, 19.66, 19.68, 19.73, 22.62, 22.71, 24.32, 24.79, 24.80, 27.96, 29.82, 32.77, 36.15, 36.23, 37.25, 37.29, 37.33, 37.35, 37.39, 39.33, 66.32, 71.44, 114.36, 129.39, 130.21, 158.71.
【0115】
【化p】

4-(3,7,11-Trimethyldodecyloxy)benzyl chloride (8): 500 mlのナスフラスコに磁気攪拌子、7 (10.61g, 31.7 mmol)、CH2Cl2(100 ml) を加え、氷浴につけ攪拌する。この溶液にSOCl2 (4.53 g, 38.1 mmol)をゆっくり滴下し、氷浴を外し、室温でさらに30分間攪拌する。その後、この反応溶液を攪拌しながら飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100 mlをゆっくり加える。有機層を水、飽和食塩水でそれぞれ一回ずつ洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥、ろ過し、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、8を含む残渣を得て、これ以上の精製は行わずに次の反応に用いた。
【0116】
【化q】

3,4,5-Tris[4-(3,7,11-trimethyldodecyloxy)benzyloxy] benzoic acid methyl ester (9): 500 mlのナスフラスコに磁気攪拌子、8 (11.2 g, 31.7 mmol)、3,4,5-trihydroxybenzoic acid methyl ester (1.67 g, 9.06 mmol)、K2CO3(14.5 g, 105 mmol)、DMF 50 ml を加え、70 ℃で12時間攪拌する。反応溶液を室温まで冷却した後、水とクロロホルムを150mlずつ加え、有機層を抽出する。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で3回洗浄した後、飽和食塩水で1回洗う。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をフラッシュシリカカラムクロマトグラフィーによって精製し、白色ろう状の9 (6.70 g, 5.91 mmol; 収率65%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.87 (m, 27H), 0.93-0.95 (m, 9H), 1.01-1.37 (m, 36H), 1.47-1.70 (m, 12H), 1.79-1.86 (m, 3H), 3.89 (s, 3H), 3.93-4.05 (m, 6H), 5.01 (s, 2H), 5.04 (s, 4H), 6.76 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.90 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 7.25 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.33 (d, J = 8.8 Hz, 4H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.62, 19.66, 19.74, 22.62, 22.71, 24.34, 24.81, 27.97, 29.86, 32.78, 36.18, 36.26, 37.25, 37.31, 37.34, 37.36, 37.39, 37.43, 39.34, 52.17, 66.25, 66.33, 71.06, 74.64, 109.14, 114.06, 114.44, 124.97, 128.53, 129.24, 129.40, 130.24, 142.40, 152.62, 158.96, 159.00, 166.72.
MS (MALDI): m/z: 1156.01 (calcd [M + Na]+ = 1155.87).
Elemental analysis: Calcd.(%) for C74H116O8: C, 78.40; H, 10.31. Found: C, 78.19; H, 10.41.
【0117】
【化r】

3,4,5-Tris[4-(3,7,11-trimethyldodecyloxy)benzyloxy]benzyl alcohol (10):500 mlのナスフラスコに磁気攪拌子、LiAlH4(326 mg, 8.60 mmol)、THF (100 ml)を加え、氷浴につけ攪拌する。この溶液に9(6.50 g, 5.73 mmol)のTHF溶液30 mlをゆっくり滴下する。滴下終了後、氷浴を外し、室温でさらに2時間攪拌する。反応溶液に水1 mlを加え、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、残渣に5%塩酸、クロロホルムを150mlずつ加え、有機層を抽出する。有機層を水と飽和食塩水で1回ずつ洗う。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、白色ろう状の10(5.7 g, 5.16 mmol; 収率90%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.87 (m, 27H), 0.93-0.95 (m, 9H), 1.03-1.41 (m, 36H), 1.47-1.72 (m, 12H), 1.78-1.88 (m, 3H), 3.91-4.04 (m, 6H), 4.58 (d, J = 6.0 Hz, 2H), 4.94 (s, 2H), 5.02 (s, 4H), 6.66 (s, 2H), 6.77 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 6.89 (d, J = 8.8 Hz, 4H), 7.29 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.33 (d, J = 8.8 Hz, 4H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.62, 19.66, 19.74, 22.62, 22.71, 24.34, 24.81, 27.96, 29.86, 32.78, 36.18, 36.27, 37.26, 37.36, 37.40, 37.43, 39.34, 65.47, 66.27, 66.34, 71.05, 74.76, 106.60, 114.07, 114.41, 128.98, 129.09, 129.85, 130.26, 136.36, 137.82, 153.05, 158.86, 158.89.
MS (MALDI): m/z: 1128.26 (calcd [M + Na]+ = 1127.87).
Elemental analysis: Calcd.(%) for C73H116O7: C, 79.30; H, 10.57. Found: C, 79.03; H, 10.70.
【0118】
【化s】

3,4,5-Tris[4-(3,7,11-Trimethyldodecyloxy)benzyloxy] benzyl chloride (11): 500 mlのナスフラスコに磁気攪拌子、10 (5.50 g, 4.97 mmol)、2,6-di-tert-buthyl-4-methylpyridine (2.24 g, 10.9 mmol)、CH2Cl2(100 ml) を加え、氷浴につけ攪拌する。この溶液にSOCl2(651 mg, 5.47 mmol)をゆっくり滴下し、氷浴を外し、室温でさらに30分間攪拌する。反応終了を確認後、この反応溶液を攪拌しながら飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100 mlをゆっくり加える。有機層を水、飽和食塩水でそれぞれ一回ずつ洗浄し、硫酸マグネシウムを加えて乾燥、ろ過し、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、11を含む残渣を得て、これ以上の精製は行わずに次の反応に用いた。
【0119】
【化t】

3,5-Bis{3’,4’,5’-tris[4-(3,7,11-Trimethyldodecyloxy)benzyloxy]benzyloxy}benzoic acid methyl ester (12): 500 mlのナスフラスコに磁気攪拌子、11 (5.58 g, 4.97 mmol)、 3,5-dihydroxybenzoic acid methyl ester (411 mg, 2.26 mmol)、K2CO3 (1.56 g, 11.3 mmol)、DMF 50 ml を加え、70 ℃で12時間攪拌する。反応溶液を室温まで冷却した後、水とクロロホルムを150 mlずつ加え、有機層を抽出する。有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で3回洗浄した後、飽和食塩水で1回洗う。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をフラッシュシリカカラムクロマトグラフィーによって精製し、無色ろう状の12 (3.30 g, 1.41 mmol; 収率62%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.87 (m, 54H), 0.94 (d, J = 6.4 Hz, 18H), 1.03-1.40 (m, 72H), 1.47-1.71 (m, 24H), 1.80-1.86 (m, 6H), 3.92 (s, 3H), 3.94-4.02 (m, 12H), 4.93 (s, 4H), 4.96 (s, 4H), 5.02 (s, 8H), 6.73 (s, 4H), 6.77 (d, J = 8.8 Hz, 4H), 6.80 (t, J = 2.4 Hz, 1H), 6.88 (d, J = 8.8 Hz, 8H), 7.27-7.33 (m, 14H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.61, 19.66, 19.73, 22.62, 22.71, 24.34, 24.79, 27.96, 29.86, 32.77, 36.19, 36.28, 37.25, 37.32, 37.36, 37.42, 37.44, 39.34, 52.29, 66.26, 66.32, 70.45, 71.14, 74.79, 107.16, 107.40, 108.36, 114.08, 114.40, 128.86, 129.16, 129.83, 130.23, 131.69, 132.01, 138.34, 153.14, 158.87, 158.92, 159.70, 166.72.
MS (MALDI): m/z: 2381.60 (calcd [M + K]+ = 2380.77).
Elemental analysis: Calcd.(%) for C154H236O16: C, 78.93; H, 10.15. Found: C, 78.74; H, 10.27.
【0120】
【化u】

3,5-Bis{3’,4’,5’-tris[4-(3,7,11-trimethyldodecyloxy)benzyloxy]benzyloxy}benzoic acid (13):500 mlのナスフラスコに磁気攪拌子、12(3.10 g, 1.32 mmol)、KOH (222 mg, 3.97 mmol)、エタノール100 ml、THF 50 mlを加え、水2 mlを加え、アルゴン雰囲気下70 ℃で6時間還流する。溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去した後、5%塩酸とクロロホルムを加える。ついで、有機層を飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、媒をロータリーエバポレーターで減圧留去し、無色ろう状の13(2.90 g, 1.24 mmol; 収率95%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.87 (m, 54H), 0.94 (d, J = 6.4 Hz, 18H), 1.01-1.40 (m, 72H), 1.47-1.70 (m, 24H), 1.79-1.86 (m, 6H), 3.95-4.01 (m, 12H), 4.93 (s, 4H), 4.96 (s, 4H), 5.02 (s, 8H), 6.73 (s, 4H), 6.77 (d, J = 8.8 Hz, 4H), 6.83 (t, J = 2.4 Hz, 1H), 6.88 (d, J = 8.8 Hz, 8H), 7.27-7.33 (m, 14H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.61, 19.66, 19.73, 22.62, 22.72, 24.35, 27.96, 29.86, 32.77, 36.19, 36.28, 37.25, 37.32, 37.37, 37.43, 37.45, 39.34, 66.27, 66.33, 70.52, 71.17, 74.81, 107.45, 107.95, 108.88, 114.09, 114.41, 128.85, 129.17, 129.83, 130.23, 130.99, 131.58, 138.41, 153.17, 158.87, 158.94, 159.78, 164.84.
MS (MALDI): m/z: 2351.17 (calcd [M + Na]+ = 2350.75).
Elemental analysis: Calcd.(%) for C153H234O16: C, 78.89; H, 10.12. Found: C, 78.62; H, 10.27.
【0121】
【化v】

N-4-Iodophenyl 3,5-bis{3’,4’,5’-tris[4-(3,7,11-trimethyldodecyloxy)]benzyloxy}benzamide (14): 100 ml のナスフラスコに磁気攪拌子、13 (2.70 g, 1.16 mmol)、4-iodoaniline (254 mg, 1.16 mmol)、DMAP (28.4 mg, 0.232 mmol)、EDC (445 mg, 2.32 mmol)、CH2Cl2 50 mlを加え、室温で12時間攪拌する。その後、反応溶液にクロロホルムを100ml加え、水で3回洗浄したのち、飽和食塩水で一回洗浄して硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をフラッシュシリカカラムクロマトグラフィーによって精製し、白色ろう状の14 (1.50 g, 0.593 mmol; 収率51%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.87 (m, 54H), 0.94 (d, J = 6.4 Hz, 18H), 1.03-1.37 (m, 72H), 1.47-1.71 (m, 24H), 1.78-1.85 (m, 6H), 3.91-4.03 (m, 12H), 4.94 (s, 4H), 4.97 (s, 4H), 5.02 (s, 8H), 6.71 (s, 4H), 6.74 (t, J = 2.0 Hz, 1H), 6.77 (d, J = 8.0 Hz, 4H), 6.87 (d, J = 8.0 Hz, 8H), 7.00 (d, J = 2.4 Hz, 2H), 7.26-7.32 (m, 12H), 7.42 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.65 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 7.74 (s, 1H),.
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ= 19.60, 19.66, 19.73, 22.62, 22.71, 24.35, 24.79, 24.80, 27.96, 29.86, 32.77, 36.19, 36.28, 37.25, 37.36, 37.42, 37.45, 39.33, 66.26, 66.35, 70.50, 71.14, 74.81, 87.73, 105.37, 106.14, 107.35, 114.08, 114.40, 121.78, 128.81, 129.12, 129.77, 130.23, 131.54, 136.90, 137.67, 138.00,
138.38, 153.15, 158.89, 160.02, 165.35.
MS (MALDI): m/z: 2552.41 (calcd [M + Na]+ = 2551.69).
Elemental analysis: Calcd.(%) for C159H238INO15: C, 75.47; H, 9.48; N, 0.55. Found: C, 75.27; H, 9.42; N, 0.61.
【0122】
【化w】

2,6-Bis(trimethylsilylethynyl)anthracene (15). 100 ml シュレンク管に2,6-dibromoanthracene (400 mg, 1.19 mmol)、toluene (70 mL)、蒸留精製したジエチルアミン(15 mL)、trimethylsilylacetylene (257 mg, 2.62 mmol)を加え脱気する。この混合物にPd(PPh3)4 (138 mg, 0.119 mmol) と CuI (22.7 mg, 0.119 mmol)を加え、75 ℃で12時間加熱攪拌する。その後、反応溶液を室温まで冷ました後、5%塩酸とクロロホルムを加え、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水でそれぞれ一回洗浄する。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をヘキサンから再結晶し、黄色フレーク状の結晶15 (297 mg, 0.801 mmol; 収率67%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ = 0.30 (s, 18H), 7.46 (dd, J = 8.8, 1.6 Hz, 2H), 7.91 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 8.15 (s, 2H), 8.30 (s, 2H). 13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 0.00, 95.63, 105.48, 120.33, 126.29, 128.10, 128.22, 131.08, 131.43, 132.41. MS (MALDI): m/z: 369.99 (calcd [M] = 370.16). Elemental analysis: Calcd.(%) for C24H26Si2: C, 77.77; H, 7.07. Found: C, 77.51; H, 7.08.
【0123】
【化x】

2,6-Diethynylanthracene (16). 100 mlのナスフラスコに15 (297 mg, 0.801 mmol)、メタノール60 ml、THF 15 ml、KOH (181 mg, 0.801 mmol)を加え、室温で2時間攪拌する。溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去した後、5%塩酸とクロロホルムを加え、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水でそれぞれ一回洗浄する。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をヘキサンから再結晶し、黄色結晶16 (146 mg, 0.646 mmol 収率81%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): δ= 3.22 (s, 2H), 7.49 (dd, J= 8.8, 1.2 Hz, 2H), 7.95 (d, J
= 8.8 Hz, 2H), 8.19 (s, 2H), 8.35 (s, 2H). MS (MALDI): m/z: 226.34 (calcd [M] = 226.08). Elemental analysis: Calcd.(%) for C18H10: C, 95.55; H, 4.45. Found: C, 95.28; H, 4.64.
【0124】
【化y】

1,6-Bis[p-(3,5-bis{3,4,5-tris[4-(3,7,11-trimethyldodecyloxy)benzyloxy]benzyloxy}benzamido)phenylethynyl]pyrene (1): 50 ml シュレンク管に14 (500 mg, 0.198 mmol)、1,6-diethynylpyrene (19.8 mg, 7.90 × 10-2 mmol)、THF 30 ml、蒸留したEt2NH 5 mlを加え脱気する。この混合物にCuI (1.50 mg, 7.90 × 10-3 mmol) とPd(PPh3)4 (9.13 mg, 7.90 × 10-3 mmol)を加え、60 ℃で20時間加熱攪拌する。その後、溶媒をロータリーエバポレーターである程度減圧留去した後、5%塩酸とクロロホルムを加え、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水でそれぞれ一回洗浄する。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をフラッシュシリカカラムクロマトグラフィー及びGPCを用いて精製し、黄色ろう状の1 (250 mg, 4.95 × 10-2 mmol; 収率63%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.87 (m, 108H), 0.93 (d, J = 6.4 Hz, 36H), 1.02-1.40 (m, 144H), 1.46-1.71 (m, 48H), 1.78-1.87 (m, 12H), 3.92-4.03 (m, 24H), 4.95 (s, 8H), 5.00 (s, 8H), 5.04 (s, 16H), 6.74 (s, 8H), 6.77-6.79 (m, 10H), 6.88 (d, J = 8.8 Hz, 16H), 7.06 (d, J = 2.0 Hz, 4H), 7.26-7.33 (m, 24H), 7.74 (s, 8H), 7.88 (s, 2H), 8.17-8.24 (m, 6H), 8.70 (d, J = 8.8 Hz, 2H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.61, 19.67, 19.74, 22.63, 22.73, 24.36, 24.80, 24.81, 27.97, 29.88, 32.79, 36.21, 36.30, 37.27, 37.37, 37.44, 37.47, 39.34, 66.29, 66.38, 70.55, 71.17, 74.83, 88.48, 95.32, 105.42, 106.20, 107.38, 114.11, 114.43, 118.50, 119.35, 119.77, 124.24, 125.15, 126.26, 128.13, 128.85, 129.15, 129.81, 129.90, 130.25, 131.11, 131.58, 131.97, 132.64, 137.02, 138.11, 138.42, 153.19, 158.92, 160.08, 165.37.
Elemental analysis: Calcd.(%) for C338H484N2O30: C, 80.30; H, 9.65; N, 0.55. Found: C, 80.10; H, 9.70; N, 0.59.
【0125】
【化z】

2,6-Bis[p-(3,5-bis{3,4,5-tris[4-(3,7,11-trimethyldodecyloxy)benzyloxy]benzyloxy}benzamido)phenylethynyl]anthracene (2): 50 ml シュレンク管に14 (500 mg, 0.198 mmol)、2,6-diethynylanthracene (17.9 mg, 7.90 × 10-2 mmol)、THF 30 ml、蒸留したEt2NH 5 mlを加え脱気する。この混合物にCuI (1.50 mg, 7.90 × 10-3 mmol) とPd(PPh3)4 (9.13 mg, 7.90 × 10-3 mmol)を加え、60 ℃で20時間加熱攪拌する。その後、溶媒をロータリーエバポレーターである程度減圧留去した後、5%塩酸とクロロホルムを加え、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水でそれぞれ一回洗浄する。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をフラッシュシリカカラムクロマトグラフィー及びGPCを用いて精製し、黄色ろう状の2 (150 mg, 2.98 × 10-2 mmol; 収率38%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.87 (m, 108H), 0.94 (d, J = 6.0 Hz, 36H), 1.03-1.40 (m, 144H), 1.47-1.71 (m, 48H), 1.79-1.86 (m, 12H), 3.94-4.04 (m, 24H), 4.95 (s, 8H), 4.99 (s, 8H), 5.04 (s, 16H), 6.73 (s, 8H), 6.76-6.79 (m, 10H), 6.88 (d, J = 8.8 Hz, 16H), 7.05 (d, J = 2.0 Hz, 4H), 7.26-7.33 (m, 24H), 7.55 (d, J = 9.6 Hz, 2H), 7.60 (d, J = 8.4 Hz, 4H), 7.69 (d, J = 8.8 Hz, 4H), 7.86 (s, 2H), 7.98 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 8.21 (s, 2H), 8.37 (s, 2H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.60, 19.66, 19.73, 22.62, 22.71, 24.35, 24.79, 24.80, 27.96, 29.87, 32.77, 36.19, 36.28, 37.25, 37.36, 37.43, 37.45, 39.33, 66.27, 66.37, 70.53, 71.16, 89.90, 90.45, 105.37, 106.16, 107.37, 114.09, 114.41, 119.11, 119.64, 120.49, 126.26, 128.02, 128.35, 128.84, 129.13, 129.79, 130.23, 131.06, 131.54, 131.68, 132.62, 137.02, 138.02, 138.40, 153.17, 158.90, 160.06, 165.31.
Elemental analysis: Calcd.(%) for C336H484N2O30: C, 80.21; H, 9.70; N, 0.56. Found: C, 80.05; H, 9.71; N, 0.56.
【0126】
【化A】

1,5-Bis[p-(3,5-bis{3,4,5-tris[4-(3,7,11-trimethyldodecyloxy)benzyloxy]benzyloxy}benzamido)phenylethynyl]naphthalene (3): 50 ml シュレンク管に14 (500 mg, 0.198 mmol)、1,5-diethynylnaphthalene (16.6 mg, 9.41 × 10-2 mmol)、THF 30 ml、蒸留したEt2NH 5 mlを加え脱気する。この混合物にCuI (1.79 mg, 9.41 × 10-3 mmol)とPd(PPh3)4(10.9 mg, 9.41 × 10-3 mmol)を加え、60 ℃で20時間加熱攪拌する。その後、溶媒をロータリーエバポレーターである程度減圧留去した後、5%塩酸とクロロホルムを加え、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水でそれぞれ一回洗浄する。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をフラッシュシリカカラムクロマトグラフィー及びGPCを用いて精製し、無色ろう状の3 (230 mg, 4.62 × 10-2 mmol; 収率49%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.84-0.87 (m, 108H), 0.94 (d, J = 6.8 Hz, 36H), 1.03-1.36 (m, 144H), 1.48-1.67 (m, 48H), 1.81-1.84 (m, 12H), 3.91-4.03 (m, 24H), 4.95 (s, 8H), 4.99 (s, 8H), 5.04 (s, 16H), 6.73 (s, 8H), 6.77-6.79 (m, 10H), 6.88 (d, J = 8.8 Hz, 16H), 7.06 (d, J = 1.6 Hz, 4H), 7.26-7.33 (m, 24H), 7.58 (t, J = 8.0 Hz, 2H), 7.65 (d, J = 8.8 Hz, 4H), 7.72 (d, J = 8.8 Hz, 4H), 7.81 (d, J = 6.8 Hz, 2H), 7.90 (s, 2H), 8.45 (d, J = 9.2 Hz, 2H).
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.60, 19.66, 19.73, 22.62, 22.71, 24.35, 24.79, 24.80, 27.96, 29.86, 32.77, 36.19, 36.28, 37.25, 37.32, 37.36, 37.42, 37.45, 39.33, 66.27, 66.36, 70.53, 71.16, 74.81, 87.23, 94.43, 105.36, 106.17, 107.38, 114.09, 114.41, 119.16, 119.67, 121.42, 126.15, 126.96, 128.83, 129.13, 129.78, 130.24, 130.86, 131.54, 132.59, 133.09, 137.00, 138.10, 138.40, 153.17, 158.90, 160.07, 165.32.
Elemental analysis: Calcd.(%) for C332H482N2O30: C, 80.05; H, 9.75; N, 0.56. Found: C, 79.81; H, 9.78; N, 0.59.
【0127】
【化B】

9,10-Bis[p-(3,5-bis{3,4,5-tris[4-(3,7,11-trimethyldodecyloxy)benzyloxy]benzyloxy}benzamido)phenylethynyl]anthracene (4): 50 ml シュレンク管に14 (750 mg, 0.296 mmol)、9,10-diethynylanthracene (33.5 mg, 0.148 mmol)、THF 30 ml、蒸留したEt2NH 5 mlを加え脱気する。この混合物にCuI (2.82 mg, 1.48 × 10-2 mmol) とPd(PPh3)4 (17.1 mg, 1.48 × 10-2 mmol)を加え、60 ℃で20時間加熱攪拌する。その後、溶媒をロータリーエバポレーターである程度減圧留去した後、5%塩酸とクロロホルムを加え、有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水でそれぞれ一回洗浄する。ついで硫酸マグネシウムを加え、乾燥・ろ過したのち、溶媒をロータリーエバポレーターで減圧留去する。残渣をフラッシュシリカカラムクロマトグラフィー及びGPCを用いて精製し、赤色ろう状の4 (490 mg, 9.73 × 10-2 mmol; 収率66%)を得た。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz): 0.83-0.87 (m, 108H), 0.94 (d, J = 6.4 Hz, 36H), 1.02-1.36 (m, 144H), 1.46-1.78 (m, 48H), 1.80-1.87 (m, 12H), 3.93-4.03 (m, 24H), 4.96 (s, 8H), 5.00 (s, 8H), 5.04 (s, 16H), 6.74 (s, 8H), 6.77-6.79 (m, 10H), 6.88 (d, J = 8.4 Hz, 16H), 7.07 (d, J = 2.0 Hz, 4H), 7.26-7.33 (m, 24H), 7.64-7.66 (m, 4H), 7.78 (s, 8H), 7.95 (s, 2H), 8.68-8.71 (m, 4H),.
13C NMR (CDCl3, 100 MHz): δ = 19.60, 19.66, 19.73, 22.62, 22.72, 24.35, 24.79, 27.96, 29.87, 32.77, 36.19, 36.28, 37.25, 37.36, 37.43, 37.45, 39.34, 66.27, 66.37, 70.55, 71.17, 74.82, 86.52, 102.24, 105.41, 106.20, 107.39, 114.10, 114.41, 118.40, 119.11, 119.33, 119.78, 126.80, 127.27, 128.84, 129.14, 129.80, 130.24, 131.56, 131.56, 132.03, 132.62, 136.98, 138.29, 138.42, 153.18, 158.91, 160.09, 165.35.
Elemental analysis: Calcd.(%) for C336H484N2O30: C, 80.21; H, 9.70; N, 0.56. Found: C, 79.98; H, 9.74; N, 0.58.
【0128】
合成にあたっての参考文献は下記のとおりである。
【0129】
[1] C. J. Bennett, S. T. Caldwell, D. B. McPhail, P. C. Morrice, G. G. Duthie, R. C. Hartley, Bioorg. Med. Chem. 2004, 12, 2079-2098.
[2] S. Leroy-Lhez, F. Fages, Eur. J. Org. Chem. 2005, 2684-2688.
[3] J. G. Rodriguez, J. L. Tejedor, J. Org. Chem. 2002, 67, 7631.
[4] M. S. Khan, M. R. A. Al-Mandhary, M. K. Al-Suti, F. R. Al-Battashi, S. Al-Saadi, B. Ahrens, J. K. Bjernemose, M. F. Mahon, P. R. Raithby, M. Younus, N. Chawdhury, A. Kohler, E. A. Marseglia, E. Tedesco, N. Feeder, S. J. Teat, Dalton Trans., 2004, 2377-2385.
【0130】
なお、図9、図10、図11、図12はそれぞれ下記の化合物1, 2, 3, 4の1H-NMRの生データである。
【0131】
[液晶相中での水素結合形成について]
【0132】
図13、図14はそれぞれ化合物1のせん断印加前、せん断印加後のIRスペクトルの生データである。測定は室温で行い、サンプルは液晶相であった。また、図15は化合物1の等方相でのIRスペクトルの生データである。測定は200℃で行った。なお、化合物2, 3, 4についても同様の結果が得られている。
【化b】

【0133】
せん断印加前後の液晶相(室温)ではC=O、N-H伸縮振動由来のピークがそれぞれ1650、3280cm-1あたりに観察されているが、等方相(200℃)ではC=O伸縮振動由来のピークが1685cm-1に観察される(3430 cm-1あたりにN-H伸縮振動由来のピークらしきものも観察できる)。以上の結果から、等方相では水素結合は形成されておらず、せん断印加前後の液晶相では水素結合が形成されていることがわかる。
【0134】
[用途]
【0135】
本実施形態の化合物は様々な用途に適用できる。例としては、コーティング材、セキュリティ、磨耗センサ、センシングデバイス、インク、塗料、紫外線で読むことができる用紙、指紋センサ、足跡センサ、個人認証、コート材料、塗料、人工皮膚、人工発光皮膚、人工発光毛髪、各種発光素子、ディスプレイ装置、人工発光皮膚、発光ボディー、発光布地、人工皮膚、各種ロボット(仕事ロボット、娯楽ロボット、癒しロボットなど)のパーツ、各種オーディオ機器(スピーカーを含む)、テレビ、ビデオ、パソコンなどの家庭電器製品のボディー、圧力インジケータ、圧力センサ、温度センサ、染料、電界紡糸工程によるミクロ及びナノ繊維への配合などがある。また、ガードレールに塗布すれば事故の有無を確認することなどにも応用できる。
【0136】
[まとめ]
【0137】
上述のように、本実施形態によれば、例えば、室温においてせん断の印加により液晶相相転移を示して発光色が変化し、80 ℃まで加熱することで発光色を元に戻すことができる可逆的な機能性液晶材料などが提供される。また、本実施形態は、せん断に応答して相転移する液晶を利用し、機能性材料を作製する際の有用なアプローチを提供することもできる。
【0138】
特に、本実施形態によれば、例えば、せん断と熱という外部刺激によりバルク状態で発光色の可逆的な変化を示す機能性液晶材料が開発されることになる。高温での溶融工程を経ず発光色を元に戻せるので既報の化合物に比べて格段に実用性が向上しており、化合物が分解することがないようにすることも可能である。また、有機溶媒に分散させることができるため、刺激応答性を有する塗布剤として用いることができる。
【0139】
[権利解釈など]
【0140】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0141】
また、この発明の説明用の実施形態が上述の目的を達成することは明らかであるが、多くの変更や他の実施例を当業者が行うことができることも理解されるところである。特許請求の範囲、明細書、図面及び説明用の各実施形態のエレメント又はコンポーネントを他の1つまたは組み合わせとともに採用してもよい。特許請求の範囲は、かかる変更や他の実施形態をも範囲に含むことを意図されており、これらは、この発明の技術思想および技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】刺激に応答して発光色が変化する液晶材料を示す図である。
【図2】可逆的な発光色変化を示す液晶性ピレン誘導体とその応用例を示す図である。
【図3】各化合物の発光色の変化を示す図である。
【図4】化合物1のせん断印加前後の偏光顕微鏡観察を示す図である。
【図5】エキシマー発光の概念を示す図である。
【図6】液晶相中での分子の集合状態を示す図である。
【図7】本実施形態の液晶性化合物を用いたコーティング剤を示す図である。
【図8】本実施形態に適用できる化合物の側鎖についての概念図である。
【図9】化合物1の1H-NMRの生データである。
【図10】化合物2の1H-NMRの生データである。
【図11】化合物3の1H-NMRの生データである。
【図12】化合物4の1H-NMRの生データである。
【図13】化合物1のせん断印加前のIRスペクトルの生データである。
【図14】化合物1のせん断印加後のIRスペクトルの生データである。
【図15】化合物1の等方相でのIRスペクトルの生データである。
【図16】発光色が変化する材料の一例を示す図である。
【図17】発光色が変化する材料の一例を示す図である。
【図18】発光色が変化する材料の一例を示す図である。
【図19】発光色が変化する材料の一例を示す図である。
【図20】発光色が変化する材料の一例を示す図である。
【図21】発光色が変化する材料の一例を示す図である。
【図22】発光色が変化する材料の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部位であるコアと、
前記コアに結合されたデンドロン骨格と
を備え、
外部刺激に応じて、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示すことを特徴とする液晶材料。
【請求項2】
前記デンドロン骨格の外縁部に結合し、分岐したアルキル基をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の液晶材料。
【請求項3】
前記分岐したアルキル基は、下記の化学式で表されるアルキル基のいずれかであることを特徴とする請求項2記載の液晶材料。
【化1】

(Rは、水素でもアルキル鎖でもよく、さらに場所によってそれぞれ炭素数が違っていてもよい。)
【請求項4】
前記コアは、ピレン、アントラセン、ナフタレン、ペリレン、コロネン、トリフェニレン、テトラセン、ペンタセン、カルバゾール、フルオレノン、フェナントレン、アズレン、オリゴフェニレンビニレン、オリゴフェニレンエチニレン、ポルフィリン、フタロシアニン、ローダミン、クマリン、フルオレッセイン、シアニン系色素、又は、これらの誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の液晶材料。
【請求項5】
前記デンドロン骨格は、poly(aryl ether)型又はpoly(aryl ester)型のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の液晶材料。
【請求項6】
式1、式2、式3又は式4で表されるいずれかの化合物。
【化2】

【請求項7】
式1、式2、式3又は式4で表されるいずれかの化合物。
【化3】

【請求項8】
式1で表される化合物を含有するピエゾクロミック発光材料であって、
せん断の印加によって、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示すことを特徴とするピエゾクロミック発光材料。
【化4】

【請求項9】
発光部位であるコアと、
前記コアに結合されたデンドロン骨格と
を備える液晶材料を含有し、
外部刺激に応じて、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示すことを特徴とする液晶材料膜。
【請求項10】
発光部位であるコアと、
前記コアに結合されたデンドロン骨格と
を備える液晶材料を含有し、
外部刺激に応じて、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示すことを特徴とするコーティング材。
【請求項11】
発光部位であるコアと、前記コアに結合されたデンドロン骨格とを備え、外部刺激に応じて、液晶状態で2つの相の間を直接的に相互に相転移することによって発光色変化を示す液晶材料を溶質とする溶液を形成する工程と、
前記溶液を基板上に塗布し、液晶材料膜を形成する工程と
を備えることを特徴とする液晶材料膜製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−106084(P2010−106084A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277498(P2008−277498)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】