液晶素子、液晶表示装置
【課題】2つの配向状態間の遷移を利用する新規な反射型液晶素子を提供する。
【解決手段】液晶素子は、配向処理が施された第1基板51及び第2基板54と液晶層60と少なくとも第1基板51の外側に配置された偏光手段61と第2基板54の一面側又は第2基板54の外側のいずれかに配置された反射板65と偏光手段61と第1基板51の間又は第2基板54と反射板65の間のいずれかに配置された光拡散手段64と液晶層に電圧を印加するための電圧印加手段を備える。第1基板51と第2基板54は、液晶層60の液晶分子を第1方向へ捻れさせるように配向処理の方向を配置されており、液晶層60は、液晶分子を第1方向とは逆の第2方向に捻れさせる性質のカイラル材を含有する。電圧印加手段は、第1基板51に設けられた第1電極52、第2基板54に設けられた第2電極55及び第2電極55に絶縁層56を介して形成される櫛歯状の第3電極58を有する。
【解決手段】液晶素子は、配向処理が施された第1基板51及び第2基板54と液晶層60と少なくとも第1基板51の外側に配置された偏光手段61と第2基板54の一面側又は第2基板54の外側のいずれかに配置された反射板65と偏光手段61と第1基板51の間又は第2基板54と反射板65の間のいずれかに配置された光拡散手段64と液晶層に電圧を印加するための電圧印加手段を備える。第1基板51と第2基板54は、液晶層60の液晶分子を第1方向へ捻れさせるように配向処理の方向を配置されており、液晶層60は、液晶分子を第1方向とは逆の第2方向に捻れさせる性質のカイラル材を含有する。電圧印加手段は、第1基板51に設けられた第1電極52、第2基板54に設けられた第2電極55及び第2電極55に絶縁層56を介して形成される櫛歯状の第3電極58を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子及び液晶表示装置における電気光学特性の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第2510150号公報(特許文献1)には、対向配置された一対の基板のそれぞれに施された配向処理の方向の組み合わせで規制される旋回方向とは逆の旋回方向に液晶分子を捻れ配向させることにより、電気光学特性を向上させた液晶表示装置が開示されている(先行例1)。
【0003】
また、特開2007−293278号公報(特許文献2)には、対向配置された一対の基板のそれぞれに施された配向処理の方向の組み合わせで規制される旋回方向(第1旋回方向)とは逆の旋回方向(第2旋回方向)に捻れるカイラル剤を添加しながらも、液晶分子を上述の第1旋回方向にねじれ配向させることによって液晶層内の歪みを増加させ、それによりしきい値電圧を低下させて低電圧駆動を可能とする液晶素子が開示されている(先行例2)。
【0004】
また、特開2010−186045号公報(特許文献3)には、初期状態ではスプレイツイスト配向であるが縦電界を1回印加するとリバースツイスト配向で安定するリバースTN(Reverse Twisted Nematic)型の液晶素子に関する技術が開示されている(先行例3)。
【0005】
ところで、上記した先行例1の液晶表示装置は、逆ねじれの配向状態が不安定であり、液晶層に対して比較的高い電圧を印加することにより逆ねじれの配向状態を得ることは可能であるものの、時間経過とともに順ねじれの配向状態に遷移してしまうという不都合がある。また、先行例2の液晶素子は、上記したようにしきい値電圧を低下させるメリットがあるが、電圧をオフにするとすぐに(例えば数秒程度)順ねじれの配向状態に遷移してしまい、逆にしきい値電圧を高くしてしまうという不都合がある。また、いずれの先行例においても、順ねじれと逆ねじれの2つの配向状態を表示等の用途として積極的に利用することについては想定されていかなった。すなわち、双安定性を積極利用するために必要な構成、駆動方法等の技術思想についての開示、示唆は、ともに全く存在しなかった。特に、通常最も電力を消費するバックライトあるいはフロントライトを使用せずにすむ反射型の液晶素子において上記の双安定性を活用することは考えられていなかった。これについて本願発明者らが検討したところ、単に液晶セルの背面側に反射板を配置しただけでは反射率やコントラストの高い表示を得られないという不都合が見いだされた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2510150号公報
【特許文献2】特開2007−293278号公報
【特許文献3】特開2010−186045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明に係る具体的態様は、2つの配向状態間の遷移を利用する新規な反射型の液晶素子を提供することを目的の1つとする。
また、本発明に係る具体的態様は、新規な反射型の液晶素子を用い、低消費電力駆動が可能な液晶表示装置を提供することを他の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様の液晶素子は、(a)各々の一面に配向処理が施された第1基板及び第2基板と、(b)前記第1基板の一面と前記第2基板の一面の間に設けられた液晶層と、(c)少なくとも前記第1基板の外側に配置された偏光手段と、(d)前記第2基板の一面側又は前記第2基板の外側のいずれかに配置された反射板と、(e)前記偏光手段と前記第1基板の間又は前記第2基板と前記反射板の間のいずれかに配置された光拡散手段と、(g)前記液晶層に電圧を印加するための電圧印加手段と、を含み、(h)前記第1基板及び前記第2基板は、前記液晶層の液晶分子を第1方向へ捻れさせるように前記配向処理の方向を配置されており、(i)前記液晶層は、前記液晶分子を前記第1方向とは逆の第2方向に捻れさせる性質のカイラル材を含有しており、(j)前記電圧印加手段は、前記第1基板に設けられた第1電極、前記第2基板に設けられ、前記第1電極と対向する第2電極、及び前記第2基板の前記第2電極の上側に絶縁層を介して設けられた櫛歯状の第3電極を有する、ことを特徴とする液晶素子である。
【0009】
上記構成によれば、配向処理の方向の設定により定まる配向状態とカイラル材の作用によって生じる配向状態の遷移を利用し、反射率やコントラストなどの特性に優れ、かつ消費電力の極めて低い反射型の液晶素子が実現される。
【0010】
上記の液晶素子においては、配向処理により生じるプレチルト角が20°以上であることが好ましい。
【0011】
上記の液晶素子においては、配向処理により決定される前記液晶層における液晶分子のツイスト角が45°以上110°以下であることが好ましく、70°±5°であることがさらに好ましい。
【0012】
上記の液晶素子において、カイラル材は、液晶層の層厚とカイラルピッチの比が0.1以上0.25未満となる量を添加されていることが好ましい。
【0013】
上記の液晶素子における光拡散手段は、例えば、重ねて配置された複数の拡散板を有することも好ましい。また、この光拡散手段は、偏光手段と第1基板の間に配置されることがより好ましい。
【0014】
上記の液晶素子において、偏光手段は、例えば偏光板又は円偏光板である。
【0015】
上記の液晶素子においては、例えば、反射板が第2基板の一面側に配置され、かつ第2電極を兼ねてもよい。
【0016】
本発明に係る一態様の液晶表示装置は、複数の画素部を備え、当該複数の画素部のそれぞれが上記した本発明に係る液晶素子を用いて構成された、液晶表示装置である。
【0017】
上記の構成によれば、液晶素子の双安定性(メモリー性)を利用することにより表示書き換え時以外には基本的に電力を必要せず、かつバックライトやフロントライトも基本的には必要としないので、低消費電力駆動が可能な液晶表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】リバースTN型液晶素子の動作を概略的に示す模式図である。
【図2】リバースTN型液晶素子の構成例を示す断面図である。
【図3】液晶層に対して各電極を用いて与えることが可能な電界について説明する模式的な断面図である。
【図4】ラビング方向と横電界の方向との関係を説明するための模式図である。
【図5】液晶表示装置の構成例を模式的に示す図である。
【図6】ラビング時の条件とプレチルト角との関係を示す図である。
【図7】実施例1の液晶素子の観察像を示す図である。
【図8】実施例1の液晶素子の光学特性(反射特性)の測定方法を示す図である。
【図9】実施例1の液晶素子の光学特性(反射特性)の測定時における偏光板などの配置状態を示す図である。
【図10】実施例1の液晶素子の反射特性の測定結果を示す図である。
【図11】実施例2の液晶素子の反射特性を測定した結果をまとめた図である。
【図12】実施例3の液晶素子の反射率およびコントラスト比とツイスト角との関係を示す図である。
【図13】実施例3の液晶素子の反射率およびコントラスト比とツイスト角との関係を示す図である。
【図14】実施例3の液晶素子の反射率およびコントラスト比とツイスト角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、リバースTN型液晶素子の動作を概略的に示す模式図である。リバースTN型液晶素子は、対向配置された上側基板1および下側基板2と、それらの間に設けられた液晶層3を基本的な構成として備える。上側基板1と下側基板2のそれぞれの表面にはラビング処理などの配向処理が施される。これらの配向処理の方向(図中に矢印で示す)が90°前後の角度で互いに交差するようにして上側基板1と下側基板2とが相対的に配置される。液晶層3は、ネマチック液晶材料を上側基板1と下側基板2の間の注入することによって形成される。この液晶層3には、液晶分子をその方位角方向において特定の方向(図1の例では右旋回方向)にねじれさせる作用を生じるカイラル材が添加された液晶材料が用いられる。上側基板1と下側基板2の相互間隔(セル厚)をd、カイラル材のカイラルピッチをpとすると、これらの比d/pの値は、例えば0.4程度に設定される。このようなリバースTN型液晶素子は、カイラル材の作用により、初期状態においては液晶層3がスプレイ配向しながら捻れるスプレイツイスト状態となる。このスプレイツイスト状態の液晶層3に飽和電圧を超える電圧を印加すると、液晶分子が左旋回方向に捻れるリバースツイスト状態(ユニフォームツイスト状態)に遷移する。このようなリバースツイスト状態の液晶層3にあってはバルク中の液晶分子が傾いているため、液晶素子の駆動電圧を低減する効果が現れる。
【0021】
図2は、リバースTN型液晶素子の構成例を示す断面図である。図2(A)に示す液晶素子は、第1基板(上側基板)51と第2基板(下側基板)54の間に液晶層60を介在させた基本構成を有する。第1基板51の外側には第1偏光板61、1/4波長板63および散乱板64が配置され、第2基板54の外側には第2偏光板62および反射板65が配置されている。以下、さらに詳細に液晶素子の構造を説明する。なお、液晶層60の周囲を封止するシール材等の部材については図示および説明を省略する。
【0022】
第1基板51および第2基板54は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。図示のように、第1基板51と第2基板54とは、互いの一面が対向するようにして、所定の間隙(例えば数μm)を設けて貼り合わされている。なお、特段の図示を省略するが、いずれかの基板上に薄膜トランジスタ等のスイッチング素子が形成されていてもよい。
【0023】
第1電極52は、第1基板51の一面側に設けられている。また、第2電極55は、第2基板54の一面側に設けられている。第1電極52および第2電極55は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0024】
絶縁膜(絶縁層)56は、第2基板54上に第2電極55を覆うようにして設けられている。この絶縁膜56は、例えば酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸化窒化珪素膜あるいはこれらの積層膜などの無機絶縁膜、または有機絶縁膜(例えばアクリル系有機絶縁膜)である。
【0025】
第3電極58、第4電極59は、それぞれ、第2基板54上の前述した絶縁膜56上に設けられている。本実施形態における第3電極58および第4電極59は、それぞれ複数の電極枝を有する櫛歯状電極であり、互いの電極枝が交互に並ぶようにして配置されている(後述の図4参照)。第3電極58および第4電極59は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。第3電極58、第4電極59のそれぞれの電極枝は、例えば20μm幅であり、電極間隔を20μmに設定して配置される。
【0026】
配向膜53は、第1基板51の一面側に、第1電極52を覆うようにして設けられている。また、配向膜57は、第2基板54の一面側に、第3電極58および第4電極59を覆うようにして設けられている。各配向膜53、57には所定の配向処理(例えばラビング処理)が施されており、各々の配向処理の方向のなす角度が例えば90°前後に設定される。
【0027】
液晶層60は、第1基板51と第2基板54の相互間に設けられている。液晶層60を構成する液晶材料の誘電率異方性Δεは正(Δε>0)である。液晶層60に図示された太線は、液晶層60に電圧が印加されていない初期状態における液晶分子の配向方位を模式的に示したものである。
【0028】
第1偏光板61は、第1基板51の外側に配置されている。本実施形態ではこの第1偏光板61側から利用者によって視認される。第2偏光板62は、第2基板54の外側に配置されている。これらの第1偏光板61と第2偏光板62は、例えば互いの透過軸を略直交させて配置される(クロスニコル配置)。なお、第2偏光板62は省略される場合もある。
【0029】
1/4波長板(位相差板)63は、第1偏光板61と第1基板51との間に配置されている。この1/4波長板63と第1偏光板61を組み合わせることにより全体として円偏光板として機能する。なお、1/4波長板63は省略される場合もある。
【0030】
散乱板(拡散板)64は、液晶素子に入射する光を均一にするためのものである。図2(A)に示す構成の液晶素子においては、散乱板64は、第1偏光板61と第1基板51の間であって、1/4波長板63よりも第1基板51に近い側に配置されている。また、図2(B)に示すように、散乱板64は第2基板54の外側に配置されていてもよい。図示の例では、散乱板64は、第2偏光板62を挟んで第2基板54の外側に配置されている。なお、散乱板64は、複数枚の散乱板を重ねて構成されていてもよい。
【0031】
反射板65は、第2偏光板62を挟んで第2基板54の外側に配置されている。散乱板64が第2基板54側に設けられる場合には、反射板65はこの散乱板64と第2偏光板62を挟んで第2基板54の外側に配置される。
【0032】
図3は、液晶層に対して各電極を用いて与えることが可能な電界について説明する模式的な断面図である。図3(A)は、第1〜第4電極の配置を平面視において示した模式図である。図3(B)〜図3(D)は、第1〜第4電極の配置を断面で示した模式図である。図示のように、第1電極52と第2電極55は互いに対向配置されており、両者の重畳する領域内に、第3電極58と第4電極59が配置されている。また、第3電極58の複数の電極枝と第4電極59の複数の電極枝とは、1つずつ交互に繰り返すように配置されている。
【0033】
図3(B)に示すように、第1電極52と第2電極55の間に電圧を印加することにより、両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板54の厚さ方向(セル厚方向)に沿った電界となる。この電界を以後「縦電界」と称する場合もある。
【0034】
また、図3(C)に示すように、第3電極58と第4電極59の間に電圧を印加することにより、両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板54の各一面にほぼ平行な方向の電界となる。この電界を以後「横電界」と称する場合もある。以後、このような電界を用いるモードを「IPSモード」と称する場合もある。
【0035】
また、図3(D)に示すように、絶縁膜56を挟んで対向配置された第2電極55と第3電極58および第4電極59との間に電圧を印加することにより、両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板54の各一面にほぼ平行な方向に沿った電界となる。この電界を以後「横電界」と称する場合もある。以後、このような電界を用いるモードを「FFSモード」と称する場合もある。
【0036】
液晶素子は、初期状態において液晶層60の液晶分子がスプレイツイスト状態に配向する。これに対して、上記したように第1電極52と第2電極55を用いて縦電界を発生させると、液晶層60の配向状態がリバースツイスト状態へ遷移する。その後、第3電極58と第4電極59を用いて横電界を発生させると(IPSモード)、液晶層60の配向状態がスプレイツイスト状態へ遷移する。また、第2電極55、第3電極58、第4電極59を用いて横電界を発生させた場合(FFSモード)でも同様に、液晶層60の配向状態がリバースツイスト状態からスプレイツイスト状態へ遷移する。IPSモードとの比較では、FFSモードのほうが液晶層60の配向状態をより均一に遷移させることができる。これは、第3電極58、第4電極59の各電極上にも横電界が印加されるためである。したがって、開口率(透過率、コントラスト比)の面からはFFSモードが適しているといえる。
【0037】
配向状態のスイッチングが可能となった理由は以下のように考察される。スプレイツイスト状態では液晶層60の層厚方向の略中央における液晶分子が横に寝ているが、縦電界によってリバースツイスト状態になり、当該略中央における液晶分子が垂直方向に傾く。この後、IPSモードあるいはFFSモードの横電界によって、リバースツイスト状態における液晶層60の層厚方向の略中央における液晶分子に横電界がかかり、スプレイツイスト状態における液晶層60の当該略中央における液晶分子があるべきダイレクタ方向に向いたため、再び初期状態であるスプレイツイスト状態へ遷移する。以上により、縦電界と横電界を活用してスプレイツイスト状態とリバースツイスト状態を切り替えられるようになったものと考えられる。
【0038】
図4は、ラビング方向と横電界の方向との関係を説明するための模式図である。各図中には、液晶素子の第3電極58および第4電極59、あるいはこれらと第2電極55を組み合わせて発生させる電界の方向と、第1基板51および第2基板54のそれぞれにおけるラビング方向との対応関係が示されている。図4(A)、図4(B)は、電界方向とラビング方向とが略45°に交差する場合を示している。図4(C)、図4(D)は、電界方向に対して一方のラビング方向が略直交、他方のラビング方向が略平行となる場合を示している。
【0039】
次に、液晶素子の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0040】
ITO膜付きガラス基板のITO膜をパターニングすることにより、第1電極52を有する第1基板51を作製する。ここでは一般的なフォトリソグラフィ技術によってITO膜のパターニングを行った。ITOエッチング方法としてはウェットエッチング(第二塩化鉄)を用いる。ここでの第1電極52の形状パターンは、取り出し電極部分と表示の画素にあたる部分にITO膜が残るようにする。同様にして、ITO膜付きガラス基板のITO膜をパターニングすることにより、第2電極55を有する第2基板54を作製する。
【0041】
次いで、第2基板54の第2電極55上に絶縁膜56を形成する。その際、取り出し電極部分には絶縁膜56が形成されないよう工夫する必要がある。その方法としては、あらかじめ取り出し電極部分にレジストを形成しておいて絶縁膜56の形成後にリフトオフする方法や、メタルマスクなどにより取り出し電極部分を隠した状態でスパッタ法などにより絶縁膜56を形成する方法などが挙げられる。また、絶縁膜56としては、有機絶縁膜、あるいは酸化珪素膜や窒化珪素膜等の無機絶縁膜及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。ここでは、アクリル系有機絶縁膜と酸化珪素膜(SiO2膜)の積層膜を絶縁膜56として用いる。
【0042】
取り出し電極部分(端子部分)には耐熱性のフィルム(ポリイミドテープ)を貼り、その状態で有機絶縁膜の材料液をスピンコートする。例えば、2000rpmにて30秒間スピンさせる条件で、膜厚1μmを得る。これをクリーンオーブンにて焼成する(例えば、220℃、1時間)。耐熱性のフィルムを貼ったままでSiO2膜をスパッタ法(交流放電)により成膜する。例えば、80℃に基板加熱し、1000Å形成する。ここで耐熱性のフィルムを剥がすと、有機絶縁膜、SiO2膜ともきれいに剥がすことができる。その後、クリーンオーブンにて焼成する(例えば、220℃、1時間)。これは、SiO2膜の絶縁性と透明性を上げるためである。SiO2膜を形成する必要性は必ずしも無いが形成によりその上に形成するITO膜の密着性及びパターニング性が向上するため、形成することが望ましい。また、絶縁性も向上する。一方、有機絶縁膜を形成せずにSiO2膜のみで絶縁性をとる方法が考えられるが、その場合にはSiO2膜は多孔質になりやすいため膜厚を4000〜8000Å程度確保することが望ましい。また、SiNxとの積層膜にしてもよい。なお、無機絶縁膜の形成方法としてスパッタ法を述べたが、真空蒸着法、イオンビーム法、CVD法(化学気相堆積法)などの形成方法を用いてもよい。
【0043】
次いで、絶縁膜56上に第3電極58および第4電極59を形成する。具体的には、まず絶縁膜56上にITO膜をスパッタ法(交流放電)にて形成する。これを、例えば100℃に基板加熱し、約1200Å程度のITO膜を全面に形成する。このITO膜を一般的なフォトリソグラフィ技術によってパターニングする。このときのフォトマスクとしては、上記した図4に示したような櫛歯状電極に対応する遮光部分を有するものを用いる。櫛歯状の電極として、電極枝の幅を20μmまたは30μmの2種類、電極間隔20μm、30μm、50μm、100μm、200μmの5種類を用いる。なお、上記の取り出し電極部分にもパターンが無いとエッチングにより下側のITO膜も除去されるので、取り出し電極部分にもパターンが形成されているフォトマスクを用いる。
【0044】
上記のようにして作製した第1基板51および第2基板54を洗浄する。具体的には、まず水洗(ブラシ洗浄もしくはスプレー洗浄、純水洗浄)をし、水切り後にUV洗浄をし、最後にIR乾燥を行う。
【0045】
次いで、第1基板51、第2基板54のそれぞれに配向膜53、57を形成する。配向膜53、57として、通常は垂直配向膜として用いられる材料の側鎖密度を低くしたポリイミド膜を用いる。配向膜の材料液(配向材)を第1基板51、第2基板54のそれぞれの一面に塗布し、これらをクリーンオーブンにて焼成する(例えば180℃で1時間)。配向膜の材料液の塗布方法としてはフレキソ印刷、インクジェット印刷、もしくはスピンコートが用いられる。ここではスピンコートを用いるが、他の方式を用いても結果は同様である。配向膜53、57の膜厚は、例えば500〜800Åとなるようにする。次いで、各配向膜53、57に対し、配向処理としてのラビング処理を行う。ラビング時の押し込み量は、例えば0.4〜0.8mmに設定する。
【0046】
次いで、第1基板51と第2基板54を貼り合わせる。第1基板51上にはあらかじめスペーサー材を散布し、さらにシール材を印刷する。スペーサー材としては、例えば粒径4μmのものを用いる。第1基板51と第2基板54の貼り合わせを行う時には、各基板に対するラビング処理の方向が互いに45°〜110°程度の範囲の角度で交差するようにする。また、液晶材料としては、例えばメルク株式会社製のZLI−2293を用いる。この液晶材料にはカイラル材としてCB15が添加される。カイラル材の添加量はセル厚dとカイラルピッチpの比d/pが0.1以上0.25未満となるように設定する。
【0047】
その後、第1偏光板61、第2偏光板62、1/4波長板63、散乱板64、反射板65のそれぞれを取り付ける。第1偏光板61と第2偏光板62は、各々の透過軸をラビング方向と平行もしくは直交するように配置し、かつ両者がクロスニコル配置となるようにする。以上により、本実施形態の液晶素子が完成する。
【0048】
次に、上記の液晶素子の有するメモリー性を利用した低消費電力駆動が可能な液晶表示装置の構成例について説明する。
【0049】
図5は、液晶表示装置の構成例を模式的に示す図である。図5に示す液晶表示装置は、複数の画素部74をマトリクス状に配列して構成される単純マトリクス型の液晶表示装置であり、各画素部74として上記した液晶素子が用いられている。具体的には、液晶表示装置は、X方向に延びるm本の制御線B1〜Bmと、これらの制御線B1〜Bmに対して制御信号を与えるドライバー71と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線A1〜Anと、これらの制御線A1〜Anに対して制御信号を与えるドライバー72と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線C1〜CnおよびD1〜Dnと、これらの制御線C1〜CnおよびD1〜Dnに対して制御信号を与えるドライバー73と、制御線B1〜Bmと制御線A1〜Anとの各交点に設けられた画素部74と、を含んで構成されている。
【0050】
各制御線B1〜Bm、A1〜An、C1〜CnおよびD1〜Dnは、例えば、ストライプ状に形成されたITO等の透明導電膜からなる。制御線B1〜BmとA1〜Anとが交差する部分が上記した第1電極52および第2電極55として機能する(図3参照)。また、制御線C1〜Cnについては、各画素部74に相当する領域に設けられ第3電極58としての櫛歯状の電極枝(図5においては図示省略)と接続されている。同様に、制御線D1〜Dnについては、各画素部74に相当する領域に設けられ第4電極59としての櫛歯状の電極枝(図5においては図示省略)と接続されている。
【0051】
図5に示す構成の液晶表示装置の駆動法としては種々の方法が考えられる。例えば、制御線B1、B2、B3・・・とライン毎に表示書き換えを行う方法(線順次駆動法)について説明する。この場合には、相対的に明るい表示としたい画素部74には縦電界を印加し、相対的に暗い表示としたい画素部74には横電界を印加すればよい。
【0052】
例えば、制御線B1には配向状態の遷移が生じない程度の矩形波電圧(例えば5V程度で150Hz)を印加し、制御線A1〜An、C1〜CnおよびD1〜Dnにはそれと同期し、もしくは半周期ずれた閾値電圧程度の矩形波電圧(例えば5V程度で150Hz)を印加する。
【0053】
詳細には、制御線A1〜Anのうち、明るい表示としたい画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線C1〜CnおよびD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、画素部74の液晶素子には実効的に10V程度の電圧(縦電界)が印加される状態となる。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層60に配向状態の遷移を生じさせ、当該画素部74の光透過率を変化させることができる。一方、制御線A1〜Anのうち、表示を変化させる必要がない画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線C1〜CnおよびD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、当該画素部74では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって、液晶層60には配向状態の遷移が生じず、光透過率が変化しない。
【0054】
また、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、明るい表示としたい画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、画素部74の液晶素子には実効的に10V程度の電圧(横電界)が印加される状態となる。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層60に配向状態の遷移を生じさせ、当該画素部74の光透過率を変化させることができる。一方、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、表示を変化させる必要がない画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、当該画素部74では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって、液晶層60には配向状態の遷移が生じず、光透過率が変化しない。
【0055】
以上のような駆動を制御線B2、B3・・・と順次に実行していくことによりドットマトリクス表示が可能となる。このような駆動により書き換えられた表示状態は半永久的に保持することが可能である。この表示を書き換えるには再び制御線B1から上記の制御を実行すればよい。なお、ここではいわゆる単純マトリクス型の液晶表示装置について本発明を適用した例を示したが、薄膜トランジスタ等を用いたアクティブマトリクス型の液晶表示装置について本発明を適用することも可能である。アクティブマトリクス型の液晶表示装置の場合には制御線B1等のライン毎に書き換える必要がなくなるので書き換え時間を短縮できる。また、しきい値に対して2倍以上の電圧の印加も可能になるので更に高速に書き換えが可能になる。ただし、片側の基板に横電界用と縦電界用の電極があるため、1画素あたり2つの薄膜トランジスタ等が必要になる。
【0056】
次に、いくつかの実施例を説明する。
【0057】
(実施例1)
液晶素子の光学特性のプレチルト角への依存性を検証した。図6にラビング時の条件とプレチルト角(Pretilt angle)との関係を示す。液晶素子の作製方法は基本的に上記した通りであり、配向膜形成時の焼成温度(Annealing temp)とラビング時の押し込み量(Clearance in rubbing treatment)を可変パラメータとした。焼成温度は180℃または200℃とし、ラビング時の押し込み量は0.4mmまたは0.8mmとした(図中では押し込み量0.4mmを「−0.4」と表記し、押し込み量0.8mmを「−0.8」と表記している)。焼成温度を200℃、押し込み量を0.8mmとした場合には10°のプレチルト角が得られた。また、焼成温度を180℃、押し込み量を0.8mmとした場合には35°のプレチルト角が得られ、焼成温度を180℃、押し込み量を0.4mmとした場合には62°のプレチルト角が得られた。第1基板51と第2基板54のそれぞれへのラビング処理の方向がなす角(ツイスト角φ)は70°または90°に設定した。ここでいう「ツイスト角」とは、スプレイツイスト状態における捻れ角をいい、リバースツイスト状態における実質的なツイスト角は(180°−φ)となる(以下の実施例でも同様)。カイラル材の添加量は、d/p=0.182となる量(φ=90°の場合)、またはd/p=0.143(φ=70°の場合)となる量にした。ツイスト角φが90°の場合、第1偏光板61と第2偏光板62は、それぞれの透過軸がラビング方向と略平行となるように配置し、かつ両者がクロスニコル配置となるようにした。ツイスト角φが70°の場合、第1偏光板61と第2偏光板62は、それぞれの透過軸がラビング方向から10°ずらした位置となるようにし、かつ両者がクロスニコル配置となるようにした。
【0058】
図7は、実施例1の液晶素子の観察像を示す図である。図7(A)は図6における高プレチルト(62°)の条件で作製された液晶素子の観察像である。この液晶素子は、初期状態(スプレイツイスト状態)でも見た目に暗い状態であった。ラビング時の押し込み量が小さく、高プレチルト角になったため、液晶層60の配向状態が垂直配向に近い状態になっているのではないかと考えられる。図7(B)は図6に示す中プレチルト(35°)の条件で作製された液晶素子の観察像である。この液晶素子は、リバースツイスト状態で非常に暗い黒表示が見られた。図7(C)は図6に示す低プレチルト(10°)の条件で作製された液晶素子の観察像である。スプレイツイスト状態とリバースツイスト状態の間で大きな透過率の差は見られなかった。
【0059】
図7(B)に示した中プレチルトの液晶素子についてさらに検討を進めた結果、配向膜の形成条件として焼成条件が150℃から180℃で押し込み量が0.4〜0.8mmの場合にこのような黒表示を示すことがわかった。このとき、プレチルト角を測定してみると23°〜35°程度のプレチルト角を示していることがわかった。一方、比較的暗い黒表示を示すに至らず、水色の表示を示す条件(低プレチルトの条件)の液晶素子についてさらに検討を進めた結果、プレチルト角は8°〜15°程度であることがわかった。したがって、リバースツイスト配向におけるオフ状態で比較的暗い黒表示を示すためにはプレチルト角を20°以上とすることが望ましいといえる。他方、高プレチルトの液晶素子では配向欠陥が出やすい傾向がある。このため、あまりプレチルト角を高くしすぎるのは望ましくないといえる。
【0060】
上記のような特性を示す理由については完全には解明できていないが、リバースTN型の液晶素子では、立ち下がり時(リバースツイスト状態)のしきい値が立ち上がり時(スプレイツイスト配向)より低くなる性質を持っており、特殊な条件によりしきい値が0Vより低くなったことに起因するものと考えられる。一般に、リバースツイスト状態では液晶層内部に界面のプレチルト角の関係とカイラル材によるねじれ力により大きな歪みが生じていると考えられる。この歪みにより電圧オフ状態においても液晶層の層厚方向の略中央付近の液晶分子は基板平面に対して傾いた状態になる。一般に、リバースツイスト状態では界面のプレチルト角よりもバルクでの傾斜角の方が高くなる。このことは連続対理論に基づいた液晶分子配向シミュレーションでも確認されている。本実施例の液晶素子では、プレチルト角を非常に高くすることにより液晶層の中央付近の液晶分子の傾き角を比較的高くしたことによる、垂直配向に近い状態まで液晶分子が立ち上がっているのではないかと推察される。このことにより電圧オフ状態においても比較的暗い黒表示を得られるものと考えられる。
【0061】
図8は、液晶素子の光学特性(反射特性)の測定方法を示す図である。図8(A)に示すように、反射特性の視角依存性を測定する際には、液晶素子の正面(観測側)から見て12時方向を基準(0°)とし、反時計回りに回転角を定めた。また、図8(B)に示すように、液晶素子の基板面の法線方向を基準(0°)とし、30°傾けた方向から光源による光照射を行い、法線方向(または法線から傾いた方向)から反射光を受光した。
【0062】
図9は、実施例1の液晶素子の光学特性(反射特性)の測定時における偏光板などの配置状態を示す図である。光学特性の測定時には、第1基板51、第2基板54および液晶層60からなる液晶セル(LC Cell)の前面側に1/4波長板(λ/4 Plate)、散乱板(Scattering plate)および偏光板(Polarizer)を配置し、液晶セルの背面側に反射板(Reflecter)を配置した。ここでの反射板は銀フィルム、散乱板はヘイズ値43−45%のもの、位相差板は位相差が約137nmのものをそれぞれ用いた。光源(Light source)は基板面法線から30°の位置に配置し、受光素子(Photo detector)は基板面法線方向に配置した。なお、1/4波長板や散乱板の配置は一例であり、これに限らない。
【0063】
図10は、実施例1の液晶素子の反射特性の測定結果を示す図である。図示のように、プレチルト角(Pretilt Angle)が上がるにつれてコントラスト比(Contrast ratio)も向上する傾向が見られた。なお、反射率そのもの(絶対値)の比較では中プレチルト条件の液晶素子が良い値を示す。高プレチルト条件の液晶素子は上記のように配向欠陥(ラビング筋)が観察されてしまうため、好ましくないと判断した。
【0064】
(実施例2)
次に、液晶素子の光学特性と散乱板の位置との関係を検証した。液晶素子の作製方法は基本的に上記した通りであり、配向膜形成時の焼成温度(Annealing temp)とラビング時の押し込み量(Clearance in rubbing treatment)については上記した実施例1における中プレチルト角の条件とした。ツイスト角φは90°と70°の2種類に設定した。カイラル材の添加量はツイスト角に応じて変えた。具体的には、ツイスト角をφ=90°とする場合にはd/pが0.15となるようにし、ツイスト角をφ=70°とする場合にはd/pが0.125となるようにした。
【0065】
図11は、実施例2の液晶素子の反射特性を測定した結果をまとめた図である。図11(A)は散乱板の枚数(2〜4枚)と反射率およびコントラスト比の関係を示す。図示のように散乱板の枚数により反射率およびコントラスト比に差が生じる。反射率の観点では散乱板の枚数が多いほど反射率が上昇する傾向が見られた。また、図示のようにコントラスト比については、今回の条件では散乱板を3枚としたときが最もよい値を示した。図11(B)は散乱板の位置と反射特性との関係を示す。今回の条件では、散乱板を上(第1基板側に配置:図2(A)参照)に配置した場合には視角依存性が少ないがコントラストが低くなり、反対に、散乱板を下(第2基板側に配置:図2(B)参照)に配置した場合には視角依存性が大きいがコントラスト比が高くなる傾向が見られた。したがって、液晶素子に求める製品特性等を考慮し、適宜、散乱板の枚数や位置を決めればよい。
【0066】
(実施例3)
上記した実施例1、2を踏まえ、今回検証した条件の中において良好な光学特性が得られる条件で液晶素子を作製した。具体的には、プレチルト角については中プレチルトの条件を採用し(実施例1参照)、散乱板については3枚を用いて配置は上側とした(実施例2参照)。なお、ツイスト角φは45°〜110°とした。
【0067】
図12は、反射率およびコントラスト比のツイスト角依存性を示す図である。なお、ここでの液晶素子は、Δn=0.13の液晶材料を用い、散乱板を上側に3枚配置し、1/4波長板を用いず、偏光板は上下にそれぞれ配置した。図12に示すように、リバースツイスト状態における反射率(図中「R−t」と表記)はツイスト角による依存性が強く、図12におけるツイスト角が70°を超えたあたりから(実質的なリバースツイスト状態におけるツイスト角でいうと110°を下回ったあたりから)反射率が高くなる傾向が見られた。これに対して、スプレイツイスト状態における反射率(図中「S−t」と表記)はツイスト角に対する依存性が弱い。このため、コントラスト比もツイスト角に対する依存性がみられ、ツイスト角が70°±5°の付近でコントラスト比が最もよい値を示している。
【0068】
図13は、反射率およびコントラスト比のツイスト角依存性を示す図である。なお、ここでの液晶素子は、Δn=0.066の液晶材料を用い、散乱板を上側に3枚配置し、偏光板は上のみに配置し、かつ当該偏光板に隣接して1/4波長板を配置した(すなわち円偏光板として機能するようにした)。図13に示すように、リバースツイスト状態における反射率(図中「R−t」と表記)とスプレイツイスト状態における反射率(図中「S−t」と表記)の間には反射率の値に十分な差がある。ツイスト角依存性の結果より、図13におけるツイスト角70°のときにコントラスト比が最も高く、スプレイツイスト状態(白表示)の反射率も高く、明るくくっきりした反射表示を実現できることがわかる。Δnが0.066の場合でも、構成の最適化(散乱板、偏光板の条件)により優れた反射表示が可能になる。
【0069】
図14は、反射率およびコントラスト比のツイスト角依存性を示す図である。なお、ここでの液晶素子は、Δn=0.080の液晶材料を用い、散乱板を上側に3枚配置し、偏光板は上のみに配置し、かつ当該偏光板に隣接して1/4波長板を配置した(すなわち円偏光板として機能するようにした)。図14に示すように、リバースツイスト状態における反射率(図中「R−t」と表記)はツイスト角に対する依存性が強く、図14におけるツイスト角の上昇(実質的なリバースツイスト状態におけるツイスト角は小さくなる)とともに反射率が高くなる傾向が見られた。これに対して、スプレイツイスト状態における反射率(図中「S−t」と表記)はツイスト角に対する依存性が弱い。このため、コントラスト比はツイスト角に対する依存性がみられ、ツイスト角が60°〜65°の付近でコントラスト比が最もよい値を示している。
【0070】
以上のように、本実施形態並びに各実施例によれば、明表示の反射率が高くコントラストも高い反射型の双安定性リバースTN型の液晶素子を実現することができる。特に暗表示が暗くはっきりとした表示を行いやすい利点がある。また、明表示と暗表示を切り替えるとき以外は電力を必要としないので、極めて低い消費電力での駆動が可能である。
【0071】
また、メモリー性を利用した駆動方法(線順次書き換え法等)の適用が可能になるため、TFT等のスイッチング素子を用いることなく単純マトリクス表示により大容量のドットマトリクス表示が可能である。従って低コストで大容量表示が可能になる。
【0072】
また、このような双安定性リバースTN型の液晶素子の製造工程は、基本的には一般的なTN型液晶素子の製造工程と共通しているため、コストアップの要因は少なく、一般的なTN型液晶素子と同様に安価に製造が可能である。
【0073】
なお、本発明は上述した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、反射板は第2電極と兼用してもよい。この場合には、アルミニウム膜などの金属膜によって第2電極を構成すればよい。この場合、偏光板は第1基板側の第1偏光板のみとして第2偏光板を省略し、かつ散乱板も第1基板側へ配置すればよい。この構成であれば反射表示の視差が少なくなるというメリットもある。また、上記した実施形態等では特段に言及しなかったが、夜間表示用にはフロントライトを組み合わせてもよい。もしくは、反射板を半透過型の反射板としてバックライトを配置してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1:上側基板
2:下側基板
3:液晶層
51:第1基板
52:第1電極
53、57:配向膜
54:第2基板
55:第2電極
56:絶縁膜
60:液晶層
61:第1偏光板
62:第2偏光板
63:1/4波長板
64:散乱板
65:反射板
71、72、73:ドライバー
74:画素部
A1〜An、B1〜Bm、C1〜Cn、D1〜Dn:制御線
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶素子及び液晶表示装置における電気光学特性の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第2510150号公報(特許文献1)には、対向配置された一対の基板のそれぞれに施された配向処理の方向の組み合わせで規制される旋回方向とは逆の旋回方向に液晶分子を捻れ配向させることにより、電気光学特性を向上させた液晶表示装置が開示されている(先行例1)。
【0003】
また、特開2007−293278号公報(特許文献2)には、対向配置された一対の基板のそれぞれに施された配向処理の方向の組み合わせで規制される旋回方向(第1旋回方向)とは逆の旋回方向(第2旋回方向)に捻れるカイラル剤を添加しながらも、液晶分子を上述の第1旋回方向にねじれ配向させることによって液晶層内の歪みを増加させ、それによりしきい値電圧を低下させて低電圧駆動を可能とする液晶素子が開示されている(先行例2)。
【0004】
また、特開2010−186045号公報(特許文献3)には、初期状態ではスプレイツイスト配向であるが縦電界を1回印加するとリバースツイスト配向で安定するリバースTN(Reverse Twisted Nematic)型の液晶素子に関する技術が開示されている(先行例3)。
【0005】
ところで、上記した先行例1の液晶表示装置は、逆ねじれの配向状態が不安定であり、液晶層に対して比較的高い電圧を印加することにより逆ねじれの配向状態を得ることは可能であるものの、時間経過とともに順ねじれの配向状態に遷移してしまうという不都合がある。また、先行例2の液晶素子は、上記したようにしきい値電圧を低下させるメリットがあるが、電圧をオフにするとすぐに(例えば数秒程度)順ねじれの配向状態に遷移してしまい、逆にしきい値電圧を高くしてしまうという不都合がある。また、いずれの先行例においても、順ねじれと逆ねじれの2つの配向状態を表示等の用途として積極的に利用することについては想定されていかなった。すなわち、双安定性を積極利用するために必要な構成、駆動方法等の技術思想についての開示、示唆は、ともに全く存在しなかった。特に、通常最も電力を消費するバックライトあるいはフロントライトを使用せずにすむ反射型の液晶素子において上記の双安定性を活用することは考えられていなかった。これについて本願発明者らが検討したところ、単に液晶セルの背面側に反射板を配置しただけでは反射率やコントラストの高い表示を得られないという不都合が見いだされた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2510150号公報
【特許文献2】特開2007−293278号公報
【特許文献3】特開2010−186045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明に係る具体的態様は、2つの配向状態間の遷移を利用する新規な反射型の液晶素子を提供することを目的の1つとする。
また、本発明に係る具体的態様は、新規な反射型の液晶素子を用い、低消費電力駆動が可能な液晶表示装置を提供することを他の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様の液晶素子は、(a)各々の一面に配向処理が施された第1基板及び第2基板と、(b)前記第1基板の一面と前記第2基板の一面の間に設けられた液晶層と、(c)少なくとも前記第1基板の外側に配置された偏光手段と、(d)前記第2基板の一面側又は前記第2基板の外側のいずれかに配置された反射板と、(e)前記偏光手段と前記第1基板の間又は前記第2基板と前記反射板の間のいずれかに配置された光拡散手段と、(g)前記液晶層に電圧を印加するための電圧印加手段と、を含み、(h)前記第1基板及び前記第2基板は、前記液晶層の液晶分子を第1方向へ捻れさせるように前記配向処理の方向を配置されており、(i)前記液晶層は、前記液晶分子を前記第1方向とは逆の第2方向に捻れさせる性質のカイラル材を含有しており、(j)前記電圧印加手段は、前記第1基板に設けられた第1電極、前記第2基板に設けられ、前記第1電極と対向する第2電極、及び前記第2基板の前記第2電極の上側に絶縁層を介して設けられた櫛歯状の第3電極を有する、ことを特徴とする液晶素子である。
【0009】
上記構成によれば、配向処理の方向の設定により定まる配向状態とカイラル材の作用によって生じる配向状態の遷移を利用し、反射率やコントラストなどの特性に優れ、かつ消費電力の極めて低い反射型の液晶素子が実現される。
【0010】
上記の液晶素子においては、配向処理により生じるプレチルト角が20°以上であることが好ましい。
【0011】
上記の液晶素子においては、配向処理により決定される前記液晶層における液晶分子のツイスト角が45°以上110°以下であることが好ましく、70°±5°であることがさらに好ましい。
【0012】
上記の液晶素子において、カイラル材は、液晶層の層厚とカイラルピッチの比が0.1以上0.25未満となる量を添加されていることが好ましい。
【0013】
上記の液晶素子における光拡散手段は、例えば、重ねて配置された複数の拡散板を有することも好ましい。また、この光拡散手段は、偏光手段と第1基板の間に配置されることがより好ましい。
【0014】
上記の液晶素子において、偏光手段は、例えば偏光板又は円偏光板である。
【0015】
上記の液晶素子においては、例えば、反射板が第2基板の一面側に配置され、かつ第2電極を兼ねてもよい。
【0016】
本発明に係る一態様の液晶表示装置は、複数の画素部を備え、当該複数の画素部のそれぞれが上記した本発明に係る液晶素子を用いて構成された、液晶表示装置である。
【0017】
上記の構成によれば、液晶素子の双安定性(メモリー性)を利用することにより表示書き換え時以外には基本的に電力を必要せず、かつバックライトやフロントライトも基本的には必要としないので、低消費電力駆動が可能な液晶表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】リバースTN型液晶素子の動作を概略的に示す模式図である。
【図2】リバースTN型液晶素子の構成例を示す断面図である。
【図3】液晶層に対して各電極を用いて与えることが可能な電界について説明する模式的な断面図である。
【図4】ラビング方向と横電界の方向との関係を説明するための模式図である。
【図5】液晶表示装置の構成例を模式的に示す図である。
【図6】ラビング時の条件とプレチルト角との関係を示す図である。
【図7】実施例1の液晶素子の観察像を示す図である。
【図8】実施例1の液晶素子の光学特性(反射特性)の測定方法を示す図である。
【図9】実施例1の液晶素子の光学特性(反射特性)の測定時における偏光板などの配置状態を示す図である。
【図10】実施例1の液晶素子の反射特性の測定結果を示す図である。
【図11】実施例2の液晶素子の反射特性を測定した結果をまとめた図である。
【図12】実施例3の液晶素子の反射率およびコントラスト比とツイスト角との関係を示す図である。
【図13】実施例3の液晶素子の反射率およびコントラスト比とツイスト角との関係を示す図である。
【図14】実施例3の液晶素子の反射率およびコントラスト比とツイスト角との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、リバースTN型液晶素子の動作を概略的に示す模式図である。リバースTN型液晶素子は、対向配置された上側基板1および下側基板2と、それらの間に設けられた液晶層3を基本的な構成として備える。上側基板1と下側基板2のそれぞれの表面にはラビング処理などの配向処理が施される。これらの配向処理の方向(図中に矢印で示す)が90°前後の角度で互いに交差するようにして上側基板1と下側基板2とが相対的に配置される。液晶層3は、ネマチック液晶材料を上側基板1と下側基板2の間の注入することによって形成される。この液晶層3には、液晶分子をその方位角方向において特定の方向(図1の例では右旋回方向)にねじれさせる作用を生じるカイラル材が添加された液晶材料が用いられる。上側基板1と下側基板2の相互間隔(セル厚)をd、カイラル材のカイラルピッチをpとすると、これらの比d/pの値は、例えば0.4程度に設定される。このようなリバースTN型液晶素子は、カイラル材の作用により、初期状態においては液晶層3がスプレイ配向しながら捻れるスプレイツイスト状態となる。このスプレイツイスト状態の液晶層3に飽和電圧を超える電圧を印加すると、液晶分子が左旋回方向に捻れるリバースツイスト状態(ユニフォームツイスト状態)に遷移する。このようなリバースツイスト状態の液晶層3にあってはバルク中の液晶分子が傾いているため、液晶素子の駆動電圧を低減する効果が現れる。
【0021】
図2は、リバースTN型液晶素子の構成例を示す断面図である。図2(A)に示す液晶素子は、第1基板(上側基板)51と第2基板(下側基板)54の間に液晶層60を介在させた基本構成を有する。第1基板51の外側には第1偏光板61、1/4波長板63および散乱板64が配置され、第2基板54の外側には第2偏光板62および反射板65が配置されている。以下、さらに詳細に液晶素子の構造を説明する。なお、液晶層60の周囲を封止するシール材等の部材については図示および説明を省略する。
【0022】
第1基板51および第2基板54は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。図示のように、第1基板51と第2基板54とは、互いの一面が対向するようにして、所定の間隙(例えば数μm)を設けて貼り合わされている。なお、特段の図示を省略するが、いずれかの基板上に薄膜トランジスタ等のスイッチング素子が形成されていてもよい。
【0023】
第1電極52は、第1基板51の一面側に設けられている。また、第2電極55は、第2基板54の一面側に設けられている。第1電極52および第2電極55は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0024】
絶縁膜(絶縁層)56は、第2基板54上に第2電極55を覆うようにして設けられている。この絶縁膜56は、例えば酸化珪素膜、窒化珪素膜、酸化窒化珪素膜あるいはこれらの積層膜などの無機絶縁膜、または有機絶縁膜(例えばアクリル系有機絶縁膜)である。
【0025】
第3電極58、第4電極59は、それぞれ、第2基板54上の前述した絶縁膜56上に設けられている。本実施形態における第3電極58および第4電極59は、それぞれ複数の電極枝を有する櫛歯状電極であり、互いの電極枝が交互に並ぶようにして配置されている(後述の図4参照)。第3電極58および第4電極59は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。第3電極58、第4電極59のそれぞれの電極枝は、例えば20μm幅であり、電極間隔を20μmに設定して配置される。
【0026】
配向膜53は、第1基板51の一面側に、第1電極52を覆うようにして設けられている。また、配向膜57は、第2基板54の一面側に、第3電極58および第4電極59を覆うようにして設けられている。各配向膜53、57には所定の配向処理(例えばラビング処理)が施されており、各々の配向処理の方向のなす角度が例えば90°前後に設定される。
【0027】
液晶層60は、第1基板51と第2基板54の相互間に設けられている。液晶層60を構成する液晶材料の誘電率異方性Δεは正(Δε>0)である。液晶層60に図示された太線は、液晶層60に電圧が印加されていない初期状態における液晶分子の配向方位を模式的に示したものである。
【0028】
第1偏光板61は、第1基板51の外側に配置されている。本実施形態ではこの第1偏光板61側から利用者によって視認される。第2偏光板62は、第2基板54の外側に配置されている。これらの第1偏光板61と第2偏光板62は、例えば互いの透過軸を略直交させて配置される(クロスニコル配置)。なお、第2偏光板62は省略される場合もある。
【0029】
1/4波長板(位相差板)63は、第1偏光板61と第1基板51との間に配置されている。この1/4波長板63と第1偏光板61を組み合わせることにより全体として円偏光板として機能する。なお、1/4波長板63は省略される場合もある。
【0030】
散乱板(拡散板)64は、液晶素子に入射する光を均一にするためのものである。図2(A)に示す構成の液晶素子においては、散乱板64は、第1偏光板61と第1基板51の間であって、1/4波長板63よりも第1基板51に近い側に配置されている。また、図2(B)に示すように、散乱板64は第2基板54の外側に配置されていてもよい。図示の例では、散乱板64は、第2偏光板62を挟んで第2基板54の外側に配置されている。なお、散乱板64は、複数枚の散乱板を重ねて構成されていてもよい。
【0031】
反射板65は、第2偏光板62を挟んで第2基板54の外側に配置されている。散乱板64が第2基板54側に設けられる場合には、反射板65はこの散乱板64と第2偏光板62を挟んで第2基板54の外側に配置される。
【0032】
図3は、液晶層に対して各電極を用いて与えることが可能な電界について説明する模式的な断面図である。図3(A)は、第1〜第4電極の配置を平面視において示した模式図である。図3(B)〜図3(D)は、第1〜第4電極の配置を断面で示した模式図である。図示のように、第1電極52と第2電極55は互いに対向配置されており、両者の重畳する領域内に、第3電極58と第4電極59が配置されている。また、第3電極58の複数の電極枝と第4電極59の複数の電極枝とは、1つずつ交互に繰り返すように配置されている。
【0033】
図3(B)に示すように、第1電極52と第2電極55の間に電圧を印加することにより、両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板54の厚さ方向(セル厚方向)に沿った電界となる。この電界を以後「縦電界」と称する場合もある。
【0034】
また、図3(C)に示すように、第3電極58と第4電極59の間に電圧を印加することにより、両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板54の各一面にほぼ平行な方向の電界となる。この電界を以後「横電界」と称する場合もある。以後、このような電界を用いるモードを「IPSモード」と称する場合もある。
【0035】
また、図3(D)に示すように、絶縁膜56を挟んで対向配置された第2電極55と第3電極58および第4電極59との間に電圧を印加することにより、両電極間に電界を発生させることができる。この場合の電界は、図示のように第1基板51および第2基板54の各一面にほぼ平行な方向に沿った電界となる。この電界を以後「横電界」と称する場合もある。以後、このような電界を用いるモードを「FFSモード」と称する場合もある。
【0036】
液晶素子は、初期状態において液晶層60の液晶分子がスプレイツイスト状態に配向する。これに対して、上記したように第1電極52と第2電極55を用いて縦電界を発生させると、液晶層60の配向状態がリバースツイスト状態へ遷移する。その後、第3電極58と第4電極59を用いて横電界を発生させると(IPSモード)、液晶層60の配向状態がスプレイツイスト状態へ遷移する。また、第2電極55、第3電極58、第4電極59を用いて横電界を発生させた場合(FFSモード)でも同様に、液晶層60の配向状態がリバースツイスト状態からスプレイツイスト状態へ遷移する。IPSモードとの比較では、FFSモードのほうが液晶層60の配向状態をより均一に遷移させることができる。これは、第3電極58、第4電極59の各電極上にも横電界が印加されるためである。したがって、開口率(透過率、コントラスト比)の面からはFFSモードが適しているといえる。
【0037】
配向状態のスイッチングが可能となった理由は以下のように考察される。スプレイツイスト状態では液晶層60の層厚方向の略中央における液晶分子が横に寝ているが、縦電界によってリバースツイスト状態になり、当該略中央における液晶分子が垂直方向に傾く。この後、IPSモードあるいはFFSモードの横電界によって、リバースツイスト状態における液晶層60の層厚方向の略中央における液晶分子に横電界がかかり、スプレイツイスト状態における液晶層60の当該略中央における液晶分子があるべきダイレクタ方向に向いたため、再び初期状態であるスプレイツイスト状態へ遷移する。以上により、縦電界と横電界を活用してスプレイツイスト状態とリバースツイスト状態を切り替えられるようになったものと考えられる。
【0038】
図4は、ラビング方向と横電界の方向との関係を説明するための模式図である。各図中には、液晶素子の第3電極58および第4電極59、あるいはこれらと第2電極55を組み合わせて発生させる電界の方向と、第1基板51および第2基板54のそれぞれにおけるラビング方向との対応関係が示されている。図4(A)、図4(B)は、電界方向とラビング方向とが略45°に交差する場合を示している。図4(C)、図4(D)は、電界方向に対して一方のラビング方向が略直交、他方のラビング方向が略平行となる場合を示している。
【0039】
次に、液晶素子の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0040】
ITO膜付きガラス基板のITO膜をパターニングすることにより、第1電極52を有する第1基板51を作製する。ここでは一般的なフォトリソグラフィ技術によってITO膜のパターニングを行った。ITOエッチング方法としてはウェットエッチング(第二塩化鉄)を用いる。ここでの第1電極52の形状パターンは、取り出し電極部分と表示の画素にあたる部分にITO膜が残るようにする。同様にして、ITO膜付きガラス基板のITO膜をパターニングすることにより、第2電極55を有する第2基板54を作製する。
【0041】
次いで、第2基板54の第2電極55上に絶縁膜56を形成する。その際、取り出し電極部分には絶縁膜56が形成されないよう工夫する必要がある。その方法としては、あらかじめ取り出し電極部分にレジストを形成しておいて絶縁膜56の形成後にリフトオフする方法や、メタルマスクなどにより取り出し電極部分を隠した状態でスパッタ法などにより絶縁膜56を形成する方法などが挙げられる。また、絶縁膜56としては、有機絶縁膜、あるいは酸化珪素膜や窒化珪素膜等の無機絶縁膜及びそれらの組み合わせ等が挙げられる。ここでは、アクリル系有機絶縁膜と酸化珪素膜(SiO2膜)の積層膜を絶縁膜56として用いる。
【0042】
取り出し電極部分(端子部分)には耐熱性のフィルム(ポリイミドテープ)を貼り、その状態で有機絶縁膜の材料液をスピンコートする。例えば、2000rpmにて30秒間スピンさせる条件で、膜厚1μmを得る。これをクリーンオーブンにて焼成する(例えば、220℃、1時間)。耐熱性のフィルムを貼ったままでSiO2膜をスパッタ法(交流放電)により成膜する。例えば、80℃に基板加熱し、1000Å形成する。ここで耐熱性のフィルムを剥がすと、有機絶縁膜、SiO2膜ともきれいに剥がすことができる。その後、クリーンオーブンにて焼成する(例えば、220℃、1時間)。これは、SiO2膜の絶縁性と透明性を上げるためである。SiO2膜を形成する必要性は必ずしも無いが形成によりその上に形成するITO膜の密着性及びパターニング性が向上するため、形成することが望ましい。また、絶縁性も向上する。一方、有機絶縁膜を形成せずにSiO2膜のみで絶縁性をとる方法が考えられるが、その場合にはSiO2膜は多孔質になりやすいため膜厚を4000〜8000Å程度確保することが望ましい。また、SiNxとの積層膜にしてもよい。なお、無機絶縁膜の形成方法としてスパッタ法を述べたが、真空蒸着法、イオンビーム法、CVD法(化学気相堆積法)などの形成方法を用いてもよい。
【0043】
次いで、絶縁膜56上に第3電極58および第4電極59を形成する。具体的には、まず絶縁膜56上にITO膜をスパッタ法(交流放電)にて形成する。これを、例えば100℃に基板加熱し、約1200Å程度のITO膜を全面に形成する。このITO膜を一般的なフォトリソグラフィ技術によってパターニングする。このときのフォトマスクとしては、上記した図4に示したような櫛歯状電極に対応する遮光部分を有するものを用いる。櫛歯状の電極として、電極枝の幅を20μmまたは30μmの2種類、電極間隔20μm、30μm、50μm、100μm、200μmの5種類を用いる。なお、上記の取り出し電極部分にもパターンが無いとエッチングにより下側のITO膜も除去されるので、取り出し電極部分にもパターンが形成されているフォトマスクを用いる。
【0044】
上記のようにして作製した第1基板51および第2基板54を洗浄する。具体的には、まず水洗(ブラシ洗浄もしくはスプレー洗浄、純水洗浄)をし、水切り後にUV洗浄をし、最後にIR乾燥を行う。
【0045】
次いで、第1基板51、第2基板54のそれぞれに配向膜53、57を形成する。配向膜53、57として、通常は垂直配向膜として用いられる材料の側鎖密度を低くしたポリイミド膜を用いる。配向膜の材料液(配向材)を第1基板51、第2基板54のそれぞれの一面に塗布し、これらをクリーンオーブンにて焼成する(例えば180℃で1時間)。配向膜の材料液の塗布方法としてはフレキソ印刷、インクジェット印刷、もしくはスピンコートが用いられる。ここではスピンコートを用いるが、他の方式を用いても結果は同様である。配向膜53、57の膜厚は、例えば500〜800Åとなるようにする。次いで、各配向膜53、57に対し、配向処理としてのラビング処理を行う。ラビング時の押し込み量は、例えば0.4〜0.8mmに設定する。
【0046】
次いで、第1基板51と第2基板54を貼り合わせる。第1基板51上にはあらかじめスペーサー材を散布し、さらにシール材を印刷する。スペーサー材としては、例えば粒径4μmのものを用いる。第1基板51と第2基板54の貼り合わせを行う時には、各基板に対するラビング処理の方向が互いに45°〜110°程度の範囲の角度で交差するようにする。また、液晶材料としては、例えばメルク株式会社製のZLI−2293を用いる。この液晶材料にはカイラル材としてCB15が添加される。カイラル材の添加量はセル厚dとカイラルピッチpの比d/pが0.1以上0.25未満となるように設定する。
【0047】
その後、第1偏光板61、第2偏光板62、1/4波長板63、散乱板64、反射板65のそれぞれを取り付ける。第1偏光板61と第2偏光板62は、各々の透過軸をラビング方向と平行もしくは直交するように配置し、かつ両者がクロスニコル配置となるようにする。以上により、本実施形態の液晶素子が完成する。
【0048】
次に、上記の液晶素子の有するメモリー性を利用した低消費電力駆動が可能な液晶表示装置の構成例について説明する。
【0049】
図5は、液晶表示装置の構成例を模式的に示す図である。図5に示す液晶表示装置は、複数の画素部74をマトリクス状に配列して構成される単純マトリクス型の液晶表示装置であり、各画素部74として上記した液晶素子が用いられている。具体的には、液晶表示装置は、X方向に延びるm本の制御線B1〜Bmと、これらの制御線B1〜Bmに対して制御信号を与えるドライバー71と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線A1〜Anと、これらの制御線A1〜Anに対して制御信号を与えるドライバー72と、各々が制御線B1〜Bmと交差してY方向に延びるn本の制御線C1〜CnおよびD1〜Dnと、これらの制御線C1〜CnおよびD1〜Dnに対して制御信号を与えるドライバー73と、制御線B1〜Bmと制御線A1〜Anとの各交点に設けられた画素部74と、を含んで構成されている。
【0050】
各制御線B1〜Bm、A1〜An、C1〜CnおよびD1〜Dnは、例えば、ストライプ状に形成されたITO等の透明導電膜からなる。制御線B1〜BmとA1〜Anとが交差する部分が上記した第1電極52および第2電極55として機能する(図3参照)。また、制御線C1〜Cnについては、各画素部74に相当する領域に設けられ第3電極58としての櫛歯状の電極枝(図5においては図示省略)と接続されている。同様に、制御線D1〜Dnについては、各画素部74に相当する領域に設けられ第4電極59としての櫛歯状の電極枝(図5においては図示省略)と接続されている。
【0051】
図5に示す構成の液晶表示装置の駆動法としては種々の方法が考えられる。例えば、制御線B1、B2、B3・・・とライン毎に表示書き換えを行う方法(線順次駆動法)について説明する。この場合には、相対的に明るい表示としたい画素部74には縦電界を印加し、相対的に暗い表示としたい画素部74には横電界を印加すればよい。
【0052】
例えば、制御線B1には配向状態の遷移が生じない程度の矩形波電圧(例えば5V程度で150Hz)を印加し、制御線A1〜An、C1〜CnおよびD1〜Dnにはそれと同期し、もしくは半周期ずれた閾値電圧程度の矩形波電圧(例えば5V程度で150Hz)を印加する。
【0053】
詳細には、制御線A1〜Anのうち、明るい表示としたい画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線C1〜CnおよびD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、画素部74の液晶素子には実効的に10V程度の電圧(縦電界)が印加される状態となる。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層60に配向状態の遷移を生じさせ、当該画素部74の光透過率を変化させることができる。一方、制御線A1〜Anのうち、表示を変化させる必要がない画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線C1〜CnおよびD1〜Dnには電圧を印加しない。それにより、当該画素部74では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって、液晶層60には配向状態の遷移が生じず、光透過率が変化しない。
【0054】
また、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、明るい表示としたい画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加した矩形波電圧と半周期ずれた矩形波電圧を印加する。このとき制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、画素部74の液晶素子には実効的に10V程度の電圧(横電界)が印加される状態となる。この電圧が飽和電圧以上であるとすれば、液晶層60に配向状態の遷移を生じさせ、当該画素部74の光透過率を変化させることができる。一方、制御線C1〜CnおよびD1〜Dnのうち、表示を変化させる必要がない画素部74に対応する制御線には、制御線B1に印加される矩形波電圧と同期した矩形波電圧を印加する。このときも制御線A1〜Anには電圧を印加しない。それにより、当該画素部74では実効的に電圧が印加されていない状態となる。したがって、液晶層60には配向状態の遷移が生じず、光透過率が変化しない。
【0055】
以上のような駆動を制御線B2、B3・・・と順次に実行していくことによりドットマトリクス表示が可能となる。このような駆動により書き換えられた表示状態は半永久的に保持することが可能である。この表示を書き換えるには再び制御線B1から上記の制御を実行すればよい。なお、ここではいわゆる単純マトリクス型の液晶表示装置について本発明を適用した例を示したが、薄膜トランジスタ等を用いたアクティブマトリクス型の液晶表示装置について本発明を適用することも可能である。アクティブマトリクス型の液晶表示装置の場合には制御線B1等のライン毎に書き換える必要がなくなるので書き換え時間を短縮できる。また、しきい値に対して2倍以上の電圧の印加も可能になるので更に高速に書き換えが可能になる。ただし、片側の基板に横電界用と縦電界用の電極があるため、1画素あたり2つの薄膜トランジスタ等が必要になる。
【0056】
次に、いくつかの実施例を説明する。
【0057】
(実施例1)
液晶素子の光学特性のプレチルト角への依存性を検証した。図6にラビング時の条件とプレチルト角(Pretilt angle)との関係を示す。液晶素子の作製方法は基本的に上記した通りであり、配向膜形成時の焼成温度(Annealing temp)とラビング時の押し込み量(Clearance in rubbing treatment)を可変パラメータとした。焼成温度は180℃または200℃とし、ラビング時の押し込み量は0.4mmまたは0.8mmとした(図中では押し込み量0.4mmを「−0.4」と表記し、押し込み量0.8mmを「−0.8」と表記している)。焼成温度を200℃、押し込み量を0.8mmとした場合には10°のプレチルト角が得られた。また、焼成温度を180℃、押し込み量を0.8mmとした場合には35°のプレチルト角が得られ、焼成温度を180℃、押し込み量を0.4mmとした場合には62°のプレチルト角が得られた。第1基板51と第2基板54のそれぞれへのラビング処理の方向がなす角(ツイスト角φ)は70°または90°に設定した。ここでいう「ツイスト角」とは、スプレイツイスト状態における捻れ角をいい、リバースツイスト状態における実質的なツイスト角は(180°−φ)となる(以下の実施例でも同様)。カイラル材の添加量は、d/p=0.182となる量(φ=90°の場合)、またはd/p=0.143(φ=70°の場合)となる量にした。ツイスト角φが90°の場合、第1偏光板61と第2偏光板62は、それぞれの透過軸がラビング方向と略平行となるように配置し、かつ両者がクロスニコル配置となるようにした。ツイスト角φが70°の場合、第1偏光板61と第2偏光板62は、それぞれの透過軸がラビング方向から10°ずらした位置となるようにし、かつ両者がクロスニコル配置となるようにした。
【0058】
図7は、実施例1の液晶素子の観察像を示す図である。図7(A)は図6における高プレチルト(62°)の条件で作製された液晶素子の観察像である。この液晶素子は、初期状態(スプレイツイスト状態)でも見た目に暗い状態であった。ラビング時の押し込み量が小さく、高プレチルト角になったため、液晶層60の配向状態が垂直配向に近い状態になっているのではないかと考えられる。図7(B)は図6に示す中プレチルト(35°)の条件で作製された液晶素子の観察像である。この液晶素子は、リバースツイスト状態で非常に暗い黒表示が見られた。図7(C)は図6に示す低プレチルト(10°)の条件で作製された液晶素子の観察像である。スプレイツイスト状態とリバースツイスト状態の間で大きな透過率の差は見られなかった。
【0059】
図7(B)に示した中プレチルトの液晶素子についてさらに検討を進めた結果、配向膜の形成条件として焼成条件が150℃から180℃で押し込み量が0.4〜0.8mmの場合にこのような黒表示を示すことがわかった。このとき、プレチルト角を測定してみると23°〜35°程度のプレチルト角を示していることがわかった。一方、比較的暗い黒表示を示すに至らず、水色の表示を示す条件(低プレチルトの条件)の液晶素子についてさらに検討を進めた結果、プレチルト角は8°〜15°程度であることがわかった。したがって、リバースツイスト配向におけるオフ状態で比較的暗い黒表示を示すためにはプレチルト角を20°以上とすることが望ましいといえる。他方、高プレチルトの液晶素子では配向欠陥が出やすい傾向がある。このため、あまりプレチルト角を高くしすぎるのは望ましくないといえる。
【0060】
上記のような特性を示す理由については完全には解明できていないが、リバースTN型の液晶素子では、立ち下がり時(リバースツイスト状態)のしきい値が立ち上がり時(スプレイツイスト配向)より低くなる性質を持っており、特殊な条件によりしきい値が0Vより低くなったことに起因するものと考えられる。一般に、リバースツイスト状態では液晶層内部に界面のプレチルト角の関係とカイラル材によるねじれ力により大きな歪みが生じていると考えられる。この歪みにより電圧オフ状態においても液晶層の層厚方向の略中央付近の液晶分子は基板平面に対して傾いた状態になる。一般に、リバースツイスト状態では界面のプレチルト角よりもバルクでの傾斜角の方が高くなる。このことは連続対理論に基づいた液晶分子配向シミュレーションでも確認されている。本実施例の液晶素子では、プレチルト角を非常に高くすることにより液晶層の中央付近の液晶分子の傾き角を比較的高くしたことによる、垂直配向に近い状態まで液晶分子が立ち上がっているのではないかと推察される。このことにより電圧オフ状態においても比較的暗い黒表示を得られるものと考えられる。
【0061】
図8は、液晶素子の光学特性(反射特性)の測定方法を示す図である。図8(A)に示すように、反射特性の視角依存性を測定する際には、液晶素子の正面(観測側)から見て12時方向を基準(0°)とし、反時計回りに回転角を定めた。また、図8(B)に示すように、液晶素子の基板面の法線方向を基準(0°)とし、30°傾けた方向から光源による光照射を行い、法線方向(または法線から傾いた方向)から反射光を受光した。
【0062】
図9は、実施例1の液晶素子の光学特性(反射特性)の測定時における偏光板などの配置状態を示す図である。光学特性の測定時には、第1基板51、第2基板54および液晶層60からなる液晶セル(LC Cell)の前面側に1/4波長板(λ/4 Plate)、散乱板(Scattering plate)および偏光板(Polarizer)を配置し、液晶セルの背面側に反射板(Reflecter)を配置した。ここでの反射板は銀フィルム、散乱板はヘイズ値43−45%のもの、位相差板は位相差が約137nmのものをそれぞれ用いた。光源(Light source)は基板面法線から30°の位置に配置し、受光素子(Photo detector)は基板面法線方向に配置した。なお、1/4波長板や散乱板の配置は一例であり、これに限らない。
【0063】
図10は、実施例1の液晶素子の反射特性の測定結果を示す図である。図示のように、プレチルト角(Pretilt Angle)が上がるにつれてコントラスト比(Contrast ratio)も向上する傾向が見られた。なお、反射率そのもの(絶対値)の比較では中プレチルト条件の液晶素子が良い値を示す。高プレチルト条件の液晶素子は上記のように配向欠陥(ラビング筋)が観察されてしまうため、好ましくないと判断した。
【0064】
(実施例2)
次に、液晶素子の光学特性と散乱板の位置との関係を検証した。液晶素子の作製方法は基本的に上記した通りであり、配向膜形成時の焼成温度(Annealing temp)とラビング時の押し込み量(Clearance in rubbing treatment)については上記した実施例1における中プレチルト角の条件とした。ツイスト角φは90°と70°の2種類に設定した。カイラル材の添加量はツイスト角に応じて変えた。具体的には、ツイスト角をφ=90°とする場合にはd/pが0.15となるようにし、ツイスト角をφ=70°とする場合にはd/pが0.125となるようにした。
【0065】
図11は、実施例2の液晶素子の反射特性を測定した結果をまとめた図である。図11(A)は散乱板の枚数(2〜4枚)と反射率およびコントラスト比の関係を示す。図示のように散乱板の枚数により反射率およびコントラスト比に差が生じる。反射率の観点では散乱板の枚数が多いほど反射率が上昇する傾向が見られた。また、図示のようにコントラスト比については、今回の条件では散乱板を3枚としたときが最もよい値を示した。図11(B)は散乱板の位置と反射特性との関係を示す。今回の条件では、散乱板を上(第1基板側に配置:図2(A)参照)に配置した場合には視角依存性が少ないがコントラストが低くなり、反対に、散乱板を下(第2基板側に配置:図2(B)参照)に配置した場合には視角依存性が大きいがコントラスト比が高くなる傾向が見られた。したがって、液晶素子に求める製品特性等を考慮し、適宜、散乱板の枚数や位置を決めればよい。
【0066】
(実施例3)
上記した実施例1、2を踏まえ、今回検証した条件の中において良好な光学特性が得られる条件で液晶素子を作製した。具体的には、プレチルト角については中プレチルトの条件を採用し(実施例1参照)、散乱板については3枚を用いて配置は上側とした(実施例2参照)。なお、ツイスト角φは45°〜110°とした。
【0067】
図12は、反射率およびコントラスト比のツイスト角依存性を示す図である。なお、ここでの液晶素子は、Δn=0.13の液晶材料を用い、散乱板を上側に3枚配置し、1/4波長板を用いず、偏光板は上下にそれぞれ配置した。図12に示すように、リバースツイスト状態における反射率(図中「R−t」と表記)はツイスト角による依存性が強く、図12におけるツイスト角が70°を超えたあたりから(実質的なリバースツイスト状態におけるツイスト角でいうと110°を下回ったあたりから)反射率が高くなる傾向が見られた。これに対して、スプレイツイスト状態における反射率(図中「S−t」と表記)はツイスト角に対する依存性が弱い。このため、コントラスト比もツイスト角に対する依存性がみられ、ツイスト角が70°±5°の付近でコントラスト比が最もよい値を示している。
【0068】
図13は、反射率およびコントラスト比のツイスト角依存性を示す図である。なお、ここでの液晶素子は、Δn=0.066の液晶材料を用い、散乱板を上側に3枚配置し、偏光板は上のみに配置し、かつ当該偏光板に隣接して1/4波長板を配置した(すなわち円偏光板として機能するようにした)。図13に示すように、リバースツイスト状態における反射率(図中「R−t」と表記)とスプレイツイスト状態における反射率(図中「S−t」と表記)の間には反射率の値に十分な差がある。ツイスト角依存性の結果より、図13におけるツイスト角70°のときにコントラスト比が最も高く、スプレイツイスト状態(白表示)の反射率も高く、明るくくっきりした反射表示を実現できることがわかる。Δnが0.066の場合でも、構成の最適化(散乱板、偏光板の条件)により優れた反射表示が可能になる。
【0069】
図14は、反射率およびコントラスト比のツイスト角依存性を示す図である。なお、ここでの液晶素子は、Δn=0.080の液晶材料を用い、散乱板を上側に3枚配置し、偏光板は上のみに配置し、かつ当該偏光板に隣接して1/4波長板を配置した(すなわち円偏光板として機能するようにした)。図14に示すように、リバースツイスト状態における反射率(図中「R−t」と表記)はツイスト角に対する依存性が強く、図14におけるツイスト角の上昇(実質的なリバースツイスト状態におけるツイスト角は小さくなる)とともに反射率が高くなる傾向が見られた。これに対して、スプレイツイスト状態における反射率(図中「S−t」と表記)はツイスト角に対する依存性が弱い。このため、コントラスト比はツイスト角に対する依存性がみられ、ツイスト角が60°〜65°の付近でコントラスト比が最もよい値を示している。
【0070】
以上のように、本実施形態並びに各実施例によれば、明表示の反射率が高くコントラストも高い反射型の双安定性リバースTN型の液晶素子を実現することができる。特に暗表示が暗くはっきりとした表示を行いやすい利点がある。また、明表示と暗表示を切り替えるとき以外は電力を必要としないので、極めて低い消費電力での駆動が可能である。
【0071】
また、メモリー性を利用した駆動方法(線順次書き換え法等)の適用が可能になるため、TFT等のスイッチング素子を用いることなく単純マトリクス表示により大容量のドットマトリクス表示が可能である。従って低コストで大容量表示が可能になる。
【0072】
また、このような双安定性リバースTN型の液晶素子の製造工程は、基本的には一般的なTN型液晶素子の製造工程と共通しているため、コストアップの要因は少なく、一般的なTN型液晶素子と同様に安価に製造が可能である。
【0073】
なお、本発明は上述した内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、反射板は第2電極と兼用してもよい。この場合には、アルミニウム膜などの金属膜によって第2電極を構成すればよい。この場合、偏光板は第1基板側の第1偏光板のみとして第2偏光板を省略し、かつ散乱板も第1基板側へ配置すればよい。この構成であれば反射表示の視差が少なくなるというメリットもある。また、上記した実施形態等では特段に言及しなかったが、夜間表示用にはフロントライトを組み合わせてもよい。もしくは、反射板を半透過型の反射板としてバックライトを配置してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1:上側基板
2:下側基板
3:液晶層
51:第1基板
52:第1電極
53、57:配向膜
54:第2基板
55:第2電極
56:絶縁膜
60:液晶層
61:第1偏光板
62:第2偏光板
63:1/4波長板
64:散乱板
65:反射板
71、72、73:ドライバー
74:画素部
A1〜An、B1〜Bm、C1〜Cn、D1〜Dn:制御線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々の一面に配向処理が施された第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の一面と前記第2基板の一面の間に設けられた液晶層と、
少なくとも前記第1基板の外側に配置された偏光手段と、
前記第2基板の一面側又は前記第2基板の外側のいずれかに配置された反射板と、
前記偏光手段と前記第1基板の間又は前記第2基板と前記反射板の間のいずれかに配置された光拡散手段と、
前記液晶層に電圧を印加するための電圧印加手段と、
を含み、
前記第1基板及び前記第2基板は、前記液晶層の液晶分子を第1方向へ捻れさせるように前記配向処理の方向を配置されており、
前記液晶層は、前記液晶分子を前記第1方向とは逆の第2方向に捻れさせる性質のカイラル材を含有しており、
前記電圧印加手段は、前記第1基板に設けられた第1電極、前記第2基板に設けられ、前記第1電極と対向する第2電極、及び前記第2基板の前記第2電極の上側に絶縁層を介して設けられた櫛歯状の第3電極を有する、
液晶素子。
【請求項2】
前記配向処理により生じるプレチルト角が20°以上である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記配向処理により決定される前記液晶層における液晶分子のツイスト角が45°以上110°以下である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項4】
前記カイラル材は、前記液晶層の層厚とカイラルピッチの比が0.1以上0.25未満となる量を添加された、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項5】
前記光拡散手段が重ねて配置された複数の拡散板を有する、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項6】
前記光拡散手段が前記偏光手段と前記第1基板の間に配置された、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項7】
前記偏光手段が偏光板又は円偏光板である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項8】
前記反射板が前記第2基板の一面側に配置され、かつ前記第2電極を兼ねる、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項9】
複数の画素部を備え、当該複数の画素部の各々が請求項1〜8の何れか1項に記載の液晶素子を用いて構成された、液晶表示装置。
【請求項1】
各々の一面に配向処理が施された第1基板及び第2基板と、
前記第1基板の一面と前記第2基板の一面の間に設けられた液晶層と、
少なくとも前記第1基板の外側に配置された偏光手段と、
前記第2基板の一面側又は前記第2基板の外側のいずれかに配置された反射板と、
前記偏光手段と前記第1基板の間又は前記第2基板と前記反射板の間のいずれかに配置された光拡散手段と、
前記液晶層に電圧を印加するための電圧印加手段と、
を含み、
前記第1基板及び前記第2基板は、前記液晶層の液晶分子を第1方向へ捻れさせるように前記配向処理の方向を配置されており、
前記液晶層は、前記液晶分子を前記第1方向とは逆の第2方向に捻れさせる性質のカイラル材を含有しており、
前記電圧印加手段は、前記第1基板に設けられた第1電極、前記第2基板に設けられ、前記第1電極と対向する第2電極、及び前記第2基板の前記第2電極の上側に絶縁層を介して設けられた櫛歯状の第3電極を有する、
液晶素子。
【請求項2】
前記配向処理により生じるプレチルト角が20°以上である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記配向処理により決定される前記液晶層における液晶分子のツイスト角が45°以上110°以下である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項4】
前記カイラル材は、前記液晶層の層厚とカイラルピッチの比が0.1以上0.25未満となる量を添加された、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項5】
前記光拡散手段が重ねて配置された複数の拡散板を有する、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項6】
前記光拡散手段が前記偏光手段と前記第1基板の間に配置された、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項7】
前記偏光手段が偏光板又は円偏光板である、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項8】
前記反射板が前記第2基板の一面側に配置され、かつ前記第2電極を兼ねる、
請求項1に記載の液晶素子。
【請求項9】
複数の画素部を備え、当該複数の画素部の各々が請求項1〜8の何れか1項に記載の液晶素子を用いて構成された、液晶表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−118144(P2012−118144A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265814(P2010−265814)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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