説明

液晶組成物、液晶素子、液晶表示素子、調光材料、及び表示方法

【課題】高い調光機能を有する、消費電力の小さな調光材料を提供する。
【解決手段】少なくとも1種以上の二周波駆動可能なスメクチック液晶と、少なくとも1種の高分子材料と、を含有する液晶組成物、該液晶組成物を含む液晶素子、該液晶素子を有する液晶表示素子及び調光材料、並びに表示方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶組成物、液晶素子、液晶表示素子、調光材料、及び表示方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
環境に対する関心の高まりにともなって、光の量を電気的に調節できる材料、いわゆる電気的な調光材料の重要性が高まっている。これまで、電気的な調光材料としては、酸化還元反応を利用したエレクトロクロミック方式、液晶とポリマーの複合系を利用した高分子分散型液晶(PDLC)方式などが提案されている。
しかしながら、エレクトロクロミック方式では電流駆動による大面積化が難く、またエレクトロクロミック色素の耐久性に課題が残されているなどの問題があり、更にPDLC方式に関しては、電圧印加を止めた後も前の状態を維持している性質、いわゆるメモリー性が乏しい場合が多く、消費電力という観点からは、メモリー性の付与が求められていた。
【0003】
このような状況下、メモリー性のある調光材料としてスメクチック液晶を用いたものが提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、当該方式では、電流駆動に基づいた動的散乱方式を利用しているため、調光ムラが発生しやすい、耐久性が低い懸念がある、調光切替え時の消費電力が大きい、大面積の調光が難しい、という課題が残されている。
【0004】
液晶表示素子についても同様の課題が残されており、上記非特許文献1に記載のスメクチック液晶を用いた液晶表示素子でも、表示ムラが発生しやすい、耐久性が低い懸念がある、書換え時の消費電力が大きい、大面積の表示が難しい、という課題が存在する。
【非特許文献1】SID Digest,第35巻,第1420頁,2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、メモリー性があり調光性能又は表示性能の高い液晶組成物、液晶素子、液晶表示素子、調光材料、及び表示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、鋭意研究を重ねた結果、特定のスメクチック液晶組成物と高分子材料とを組合せることで、メモリー性を有し、且つ非常に高い調光性能又は表示性能を呈する液晶組成物、液晶素子、液晶表示素子、調光材料、及び表示方法を実現できるという知見を得、この知見に基づいてさらに検討して本発明を完成するに至った。
【0007】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
【0008】
[1] 少なくとも1種以上の二周波駆動可能なスメクチック液晶と、少なくとも1種の高分子材料と、を含有する液晶組成物である。
【0009】
[2] 前記スメクチック液晶がスメクチックA相を呈することを特徴とする前記[1]に記載の液晶組成物である。
【0010】
[3] 前記スメクチック液晶が、少なくとも1種のネマチック液晶化合物を含有することを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の液晶組成物である。
【0011】
[4] 少なくとも1種以上のモノマーと少なくとも1種以上の二周波駆動可能なスメクチック液晶とを含有する液晶組成物中間体を重合してなることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の液晶組成物である。
【0012】
[5] 前記液晶組成物中間体が、更に重合開始剤を含有してなることを特徴とする前記[4]に記載の液晶組成物である。
【0013】
[6] 前記液晶組成物中間体が、更にネマチック液晶化合物を含有してなることを特徴とする前記[4]又は[5]に記載の液晶組成物である。
【0014】
[7] 更に、色材を含有してなることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれか1項に記載の液晶組成物である。
【0015】
[8] 前記色材が、二色性色素であることを特徴とする前記[7]に記載の液晶組成物である。
【0016】
[9] 前記スメクチック液晶が、下記一般式(1)で表されるスメクチック液晶化合物を含有することを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれか1項に記載の液晶組成物である。
【0017】
一般式(1):T1−{(D1e−L1m−(D2k−T2
【0018】
式中、D1及びD2は各々独立にアリーレン基、ヘテロアリーレン基または2価の環状脂肪族炭化水素基を表し、L1は2価の連結基を表し、T1及びT2は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子またはシアノ基を表し、eは各々0〜5の数を表し、mは1〜3の数を表し、kは1〜2の数を表し、D1とD2で表される基の総数が3〜5の数であり、e及びkが各々2以上の時、2以上のD1及びD2は各々同一でも異なっていてもよく、mが2以上の時、2以上の{(D1e−L1}は同一でも異なっていてもよい。
【0019】
[10] 電極と、該電極間に設けられた前記[1]〜[9]のいずれか1項の液晶組成物を含む液晶層と、を有する積層体であることを特徴とする液晶素子である。
【0020】
[11] 前記電極が、ITO(インジウムスズオキサイド)の透明電極であることを特徴とする前記[10]に記載の液晶素子である。
【0021】
[12] 前記[10]又は[11]に記載の液晶素子を、高周波と低周波の交流電圧で駆動させて表示を切り替えることを特徴とする表示方法である。
【0022】
[13] 一対の基体を備え、該基体間に前記[10]又は[11]の液晶素子を有してなり、入射光の反射光量を変化させることを特徴とする液晶表示素子である。
【0023】
[14] 前記基体における前記液晶素子を設けない面側に、着色層を有してなることを特徴とする前記[13]に記載の液晶表示素子である。
【0024】
[15] 前記基体が、ポリマーで形成されてなることを特徴とする前記[13]又は[14]に記載の液晶表示素子である。
【0025】
[16] 反射防止膜を有してなることを特徴とする前記[13]〜[15]のいずれか1項に記載の液晶表示素子である。
【0026】
[17] 前記反射防止膜が、前記支持体の表面に付設されてなることを特徴とする前記[16]に記載の液晶表示素子である。
【0027】
[18] 前記反射防止膜が、電極表面に付設されていることを特徴とする前記[16]に記載の液晶表示素子である。
【0028】
[19] 前記反射防止膜が、無機薄膜、有機薄膜、又は無機−有機複合膜であることを特徴とする前記[16]〜[18]のいずれか1項に記載の液晶表示素子である。
【0029】
[20] バリア層を有してなることを特徴とする前記[13]〜[19]のいずれか1項に記載の液晶表示素子である。
【0030】
[21] 紫外線吸収層を有してなることを特徴とする前記[13]〜[20]のいずれか1項に記載の液晶表示素子である。
【0031】
[22] 一対の基体を備え、該基体間に前記[10]又は[11]の液晶素子を有してなり、入射光の透過率を変化させることを特徴とする調光材料である。
【0032】
[23] 前記基体における前記液晶素子を設けない面側に、着色層を設けてなることを特徴とする前記[22]に記載の調光材料である。
【0033】
[24] 前記基体が、ポリマー支持体であることを特徴とする前記[22]又は[23]に記載の調光材料である。
【0034】
[25] 反射防止膜を有してなることを特徴とする前記[22]〜[24]のいずれか1項に記載の調光材料である。
【0035】
[26] 前記反射防止膜が、前記支持体の表面に付設されてなることを特徴とする前記[25]に記載の調光材料である。
【0036】
[27] 前記反射防止膜が、電極表面に付設されていることを特徴とする前記[25]に記載の調光材料である。
【0037】
[28] 前記反射防止膜が、無機薄膜、有機薄膜、又は無機−有機複合膜であることを特徴とする前記[25]〜[27]のいずれか1項に記載の調光材料である。
【0038】
[29] バリア層を有してなることを特徴とする前記[22]〜[28]のいずれか1項に記載の調光材料である。
【0039】
[30] 紫外線吸収層を有してなることを特徴とする前記[22]〜[29]のいずれか1項に記載の調光材料である。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、メモリー性を有し、高い表示性能又は調光性能を示す液晶組成物、液晶素子、液晶表示素子、調光材料、及び表示方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0042】
本発明の液晶組成物は、少なくとも1種以上の二周波駆動可能なスメクチック液晶と、少なくとも1種の高分子材料と、を含有する。
【0043】
本発明に使用可能なスメクチック液晶は、低周波数の電圧に対する誘電率異方性が正であり、かつ高周波数の電圧に対する誘電率異方性が負である、いわゆる二周波駆動性を示す。
二周波駆動液晶を用いることにより、周波数を変動させることによって配向を制御できるので、配向膜が不要となる。その結果、素子構成がシンプルとなり、製造プロセスが簡略化できる。また、配向膜が無い場合には、配向膜による光の吸収や反射がないため、表示性能が高くなる。したがって、反射型表示においては、高い反射率を与える。
【0044】
ここで、二周波駆動液晶を用いた駆動方法について説明する。二周波駆動液晶とは、低周波数の電圧に対する誘電率異方性が正であり、かつ高周波数の電圧に対する誘電率異方性が負である。まず、この液晶に低周波数の電圧を印加すると、液晶の誘電率異方性が正であるため、液晶分子は電界の方向に対して平行に配向する。すなわち、電極のついた基板に対して、垂直に液晶分子が配向することになる。次に、この液晶に高周波数の電圧を印加すると、液晶の誘電率異方性が負であるため、液晶分子は電界の方向に対して垂直に配向する。すなわち、電極のついた基板に対して、水平に液晶分子が配向することになる。よって、低周波数の電圧と高周波数の電圧とを切り替えることで液晶分子の配向状態を切り替えることが可能となる。
つまり、基板に対して、垂直な配向状態と平行な配向状態のいずれの状態においても、安定な配向状態を保つことができる。
【0045】
また、スメクチック液晶を用いることにより、液晶組成物、液晶素子、液晶表示素子、及び調光材料にメモリー性を付与することができる。
【0046】
更に、本発明の調光材料及び液晶表示素子に用いる液晶組成物は、少なくとも1つ以上の高分子材料を含む。このような本発明の調光材料及び液晶表示素子において、散乱状態と透明状態とを切り替える原理について説明する。
【0047】
まず、液晶分子の長軸方向の屈折率(n‖)が高分子材料の屈折率(np)とできるだけ一致するようにした場合、液晶分子を電極基板に対して垂直状態に配向させたときに、液晶組成物と高分子材料の間の屈折率差は小さくなり、光は散乱されることなく透過する。すなわち、透明状態となる。
屈折率異方性(Δn)とは、下記式で表されるように、液晶分子の長軸方向の屈折率(n‖)と液晶分子の短軸方向の屈折率(n⊥)との差として定義される。
Δn = n‖ − n⊥
【0048】
ここで、屈折率異方性を有する(すなわちΔnが0でない)ホスト液晶を用いて、ホスト液晶を水平状態に配向させた場合には、ホスト液晶の短軸方向の屈折率(n⊥)と高分子材料の屈折率(np)には差が生じるために、光が散乱される。すなわち、光の散乱を強くするためには、このn⊥とnpの差が大きいほうが好ましく、Δnの大きなホスト液晶を用いることが好ましい。ホスト液晶のΔnとしては、0.05以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.10以上、特に好ましくは、0.12以上である。このような大きな屈折率異方性を有する液晶とするには、液晶分子長軸に分極基(たとえば、シアノ基、フッ素原子など)を導入することで達成できる。
【0049】
本発明の調光材料及び液晶表示素子に用いる液晶組成物は、上記高分子材料を媒体として、当該高分子材料中に上記液晶を分散してなる。つまり本発明の液晶組成物は、図1に示すように、液晶がドロップレットの形状で高分子媒体中に分散されている。したがって、基板間に挟持された液晶層の場合と異なり、基板に配向膜を設けたとしても該配向膜によって液晶の配向を整えることができない。
しかし、本発明の液晶組成物は、液晶として二周波駆動可能なスメクチック液晶を用いるため、ドロップレットの液晶であっても周波数を変更することで垂直及び平行の配向状態を安定的に保つことができる。また、スメクチック液晶を用いるので、メモリー性を奏し、且つ低いしきい値と速い応答時間を達成することができる。特に、スメクチック液晶がスメクチックA相を呈する場合は、液晶粘度が低いため応答速度が速くなり、また垂直配向状態時の光軸が基板に対してほぼ90°であり、無色表示状態の吸収が小さいためにコントラスト比が高くなることから、好ましい態様である。
【0050】
以下、液晶組成物、液晶素子、液晶表示素子、調光材料、及び表示方法について、詳細に説明する。
【0051】
1.液晶組成物
本発明の液晶組成物は、少なくとも1種以上の二周波駆動可能なスメクチック液晶と、少なくとも1種の高分子材料と、を含有する。
【0052】
1−1 二周波駆動可能なスメクチック液晶
本発明に使用可能な二周波駆動可能なスメクチック液晶としては、(1)二周波駆動可能なスメクチック液晶化合物で構成される場合、(2)二周波駆動可能なネマチック液晶化合物とスメクチック液晶化合物とで構成される場合、そのいずれであってもよい。しかしながら、二周波駆動可能なスメクチック液晶化合物は室温で結晶であり、さらにしきい電圧が極めて高く、粘度も高いため応答速度が遅い傾向にあり、消費電力も多くなる。一方、二周波駆動可能なネマチック液晶化合物にスメクチック液晶化合物を混合すると、誘電特性および粘度を制御することが容易になり、しきい電圧を低下させ、応答時間を短くできる。したがって、上記(2)の二周波駆動可能なスメクチック液晶であることが好適である。
【0053】
上記(2)の場合のスメクチック液晶化合物と二周波駆動可能なネマチック液晶化合物との好適な含有比率は、いかなる割合であっても良いが、「二周波駆動可能なネマチック液晶化合物:スメクチック液晶化合物」が、20mol%:80mol%〜99mol%:1mol%であることが好ましく、50mol%:50mol%〜95mol%:5mol%がより好ましく、70mol%:30mol%〜90mol%:10mol%が更に好ましい。二周波駆動可能なネマチック液晶化合物20mol%に対してスメクチック液晶化合物の比率が80mol%よりも多い場合、室温で液晶相をとらなくなる、あるいは粘度が高くなり好ましくない。また、二周波駆動可能なネマチック液晶化合物99mol%に対してスメクチック液晶化合物の比率が1mol%よりも少ない場合、スメクチックA相が発現しなくなる場合が多くなり好ましくない。
【0054】
(1) 二周波駆動可能なネマチック液晶化合物
低周波数の電圧に対する誘電率異方性が正であり、かつ高周波数の電圧に対する誘電率異方性が負である、いわゆる二周波駆動可能なネマチック液晶化合物に関しては、日本学術振興会第142委員会編、液晶デバイスハンドブック、日刊工業新聞社、1989年、第189〜192頁に詳しい。その具体例として、イーストマン・コダック社の二周波駆動性ネマチック液晶化合物を下記に示す。
【0055】
【化1】

【0056】
この他にも、市販の二周波駆動液晶材料として、チッソ社製DF−02XX、DF−05XX、FX−1001、FX−1002、メルク社製MLC−2048などを挙げることができる。
【0057】
本発明において、特に好適な二周波駆動可能なネマチック液晶化合物としては、本発明に用いる二周波駆動可能なスメクチック液晶化合物と、近似の屈折率、クロスオーバー周波数、相転移温度、粘度を有する場合が好ましい。また、用いる高分子材料についても、本発明に用いる二周波駆動可能なスメクチック液晶化合物の屈折率、クロスオーバー周波数、相転移温度、粘度と近似する物性値を有することが好ましい。
【0058】
(2)二周波駆動可能なスメクチック液晶化合物
二周波駆動可能なスメクチック液晶化合物については、Mol. Cryst. Liq. Cryst., Vol.49, 83-87 (1978) に詳しい。本発明において、かかる記載を適宜適用できる。
【0059】
(3)スメクチック液晶化合物
二周波駆動可能なネマチック液晶化合物と併用し得るスメクチック液晶化合物については、スメクチック相を発現する液晶化合物であれば特に制限は無いが、スメクチックA相を呈するスメクチック液晶化合物は、液晶粘度が低いため応答速度が速くなり、また垂直配向状態時の光軸が基板に対してほぼ90°であり、無色表示状態の吸収が小さいためにコントラスト比が高くなる観点から好ましい。
【0060】
そのような液晶化合物として、下記一般式(1)で表される構造が特に好ましい。
一般式(1):T1−{(D1e−L1m−(D2k−T2
【0061】
一般式(1)中、D1及びD2は、各々独立にアリーレン基、ヘテロアリーレン基、又は2価の環状脂肪族炭化水素基を表し、いずれも置換基を有していてもいなくてもよい。
【0062】
1及びD2で表されるアリーレン基としては、好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜10のアリーレン基である。好ましいアリーレン基の具体例を挙げると、フェニレン基及びナフタレン基である。特に好ましくは、置換フェニレン基であり、更に好ましくは1,4−フェニレン基である。
【0063】
1及びD2で表されるヘテロアリーレン基としては、好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数2〜9のヘテロアリーレン基である。好ましいヘテロアリーレン基の具体例には、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、ピリミジン環、ピラジン環、チオフェン環、フラン環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環及びトリアゾール環からなる基、及びこれらが縮環して形成される縮環の2個の炭素原子から水素をそれぞれ1個ずつ除いて得られるヘテロアリーレン基が含まれる。
【0064】
1及びD2で表される2価の環状脂肪族炭化水素基としては、好ましくは炭素数3〜20、より好ましくは炭素数4〜10の2価の環状脂肪族炭化水素基である。好ましい2価の環状脂肪族炭化水素基の具体例は、シクロヘキサンジイル、シクロペンタンジイルであり、より好ましくはシクロヘキサン−1,2−ジイル基、シクロヘキサン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基、シクロペンタン−1,3−ジイル基であり、特に好ましくは、(E)−シクロヘキサン−1、4−ジイル基である。
【0065】
1及びD2の表す2価のアリーレン基、2価のヘテロアリーレン基及び2価の環状脂肪族炭化水素基は、置換基を有していても、無置換であってもよい。また、式(3)中、e、m又はkが、2以上の場合、複数のD1、D2は、各々独立に置換基を有していてもよく、同一の置換基を有していても、異なる置換基を有していても、或いは、無置換であってもよい。
これらの置換基としては、下記の置換基群Vが挙げられる。
【0066】
(置換基群V)
ハロゲン原子(例えば塩素、臭素、沃素、フッ素)、メルカプト基、シアノ基、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、ヒドロキシ基、炭素数1から10、好ましくは炭素数2から8、更に好ましくは炭素数2から5のカルバモイル基(例えばメチルカルバモイル、エチルカルバモイル、モルホリノカロボニル)、炭素数0から10、好ましくは炭素数2から8、更に好ましくは炭素数2から5のスルファモイル基(例えばメチルスルファモイル、エチルスルファモイル、ピペリジノスルフォニル)、ニトロ基、炭素数1から20、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から8のアルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−フェニルエトキシ)、炭素数6から20、好ましくは炭素数6から12、更に好ましくは炭素数6から10のアリールオキシ基(例えばフェノキシ、p−メチルフェノキシ、p−クロロフェノキシ、ナフトキシ)、炭素数1から20、好ましくは炭素数2から12、更に好ましくは炭素数2から8のアシル基(例えばアセチル、ベンゾイル、トリクロロアセチル)、炭素数1から20、好ましくは炭素数2から12、更に好ましくは炭素数2から8のアシルオキシ基(例えばアセチルオキシ、ベンゾイルオキシ)、炭素数1から20、好ましくは炭素数2から12、更に好ましくは炭素数2から8のアシルアミノ基(例えばアセチルアミノ)、炭素数1から20、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から8のスルホニル基(例えばメタンスルホニル、エタンスルホニル、ベンゼンスルホニル)、炭素数1から20、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から8のスルフィニル基(例えばメタンスルフィニル、エタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニル)、炭素数1から20、好ましくは炭素数1から12、更に好ましくは炭素数1から8の置換又は無置換のアミノ基(例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ベンジルアミノ、アニリノ、ジフェニルアミノ、4−メチルフェニルアミノ、4−エチルフェニルアミノ、3−n−プロピルフェニルアミノ、4−n−プロピルフェニルアミノ、3−n−ブチルフェニルアミノ、4−n−ブチルフェニルアミノ、3−n−ペンチルフェニルアミノ、4−n−ペンチルフェニルアミノ、3−トリフルオロメチルフェニルアミノ、4−トリフルオロメチルフェニルアミノ、2−ピリジルアミノ、3−ピリジルアミノ、2−チアゾリルアミノ、2−オキサゾリルアミノ、N,N−メチルフェニルアミノ、N,N−エチルフェニルアミノ)、炭素数0から15、好ましくは炭素数3から10、更に好ましくは炭素数3から6のアンモニウム基(例えばトリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム)、炭素数0から15、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から6のヒドラジノ基(例えばトリメチルヒドラジノ基)、炭素数1から15、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から6のウレイド基(例えばウレイド基、N,N−ジメチルウレイド基)、炭素数1から15、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から6のイミド基(例えばスクシンイミド基)、炭素数1から20、好ましくは炭素数1から12、更に好ましくは炭素数1から8のアルキルチオ基(例えばメチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ)、炭素数6から80、好ましくは炭素数6から40、更に好ましくは炭素数6から30のアリールチオ基(例えばフェニルチオ、p−メチルフェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、2−ピリジルチオ、1−ナフチルチオ、2−ナフチルチオ、4−プロピルシクロヘキシル−4’−ビフェニルチオ、4−ブチルシクロヘキシル−4’−ビフェニルチオ、4−ペンチルシクロヘキシル−4’−ビフェニルチオ、4−プロピルフェニル−2−エチニル−4’−ビフェニルチオ)、炭素数1から80、好ましくは炭素数1から40、更に好ましくは炭素数1から30のヘテロアリールチオ基(例えば2−ピリジルチオ、3−ピリジルチオ、4−ピリジルチオ、2−キノリルチオ、2−フリルチオ、2−ピロリルチオ)、炭素数2から20、好ましくは炭素数2から12、更に好ましくは炭素数2から8のアルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、2−ベンジルオキシカルボニル)、炭素数6から20、好ましくは炭素数6から12、更に好ましくは炭素数6から10のアリーロキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル)、炭素数1から18、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から5の無置換アルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル)、炭素数1から18、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から5の置換アルキル基{例えばヒドロキシメチル、トリフルオロメチル、ベンジル、カルボキシエチル、エトキシカルボニルメチル、アセチルアミノメチル、またここでは炭素数2から18、好ましくは炭素数3から10、更に好ましくは炭素数3から5の不飽和炭化水素基(例えばビニル基、エチニル基1−シクロヘキセニル基、ベンジリジン基、ベンジリデン基)も置換アルキル基に含まれる}、炭素数6から20、好ましくは炭素数6から15、更に好ましくは炭素数6から10の置換又は無置換のアリール基(例えばフェニル、ナフチル、p−カルボキシフェニル、p−ニトロフェニル、3,5−ジクロロフェニル、p−シアノフェニル、m−フルオロフェニル、p−トリル、4−プロピルシクロヘキシル−4’−ビフェニル、4−ブチルシクロヘキシル−4’−ビフェニル、4−ペンチルシクロヘキシル−4’−ビフェニル、4−プロピルフェニル−2−エチニル−4’−ビフェニル)、炭素数1から20、好ましくは炭素数2から10、更に好ましくは炭素数4から6の置換又は無置換のヘテロアリール基(例えばピリジル、5−メチルピリジル、チエニル、フリル、モルホリノ、テトラヒドロフルフリル)。
【0067】
これら置換基群Vは、ベンゼン環やナフタレン環が縮合した構造もとることができる。さらに、これらの置換基上にさらに此処までに説明したVの説明で示した置換基が置換していても良い。
【0068】
置換基群Vの中でも、D1及びD2の表す2価のアリーレン基、2価のヘテロアリーレン基及び2価の環状脂肪族炭化水素基の置換基として、好ましい置換基は、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基であり、更に好ましくは、アルキル基、ハロゲン原子、シアノ基である。
【0069】
一般式(1)中、L1は2価の連結基を表す。好ましくは、アルケニレン基、アルキニレン基、エーテル基、エステル基、カルボニル基、アゾ基、アゾキシ基、又はアルキレンオキシ基であり、より好ましくは、エステル基、又はアルキレンオキシ基である。
【0070】
一般式(1)中、L1で表されるアルケニレン基として、好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜10のアルケニレン基であり、例えば、エテニレン基をあげることができる。
一般式(1)中、L1で表されるアルキニレン基として、好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜10のアルキニレン基であり、例えば、エチニレン基をあげることができる。
【0071】
一般式(1)中、T1及びT2は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基を表す。
1及びT2はとして好ましくは、炭素数1〜30、より好ましくは炭素数4〜20、更に好ましくは炭素数6〜18のアルキル基、炭素数1〜30、より好ましくは炭素数4〜20、更に好ましくは炭素数6〜18のアルコキシ基、炭素数2〜30、より好ましくは炭素数5〜21、更に好ましくは炭素数7〜19のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜30、より好ましくは炭素数5〜21、更に好ましくは炭素数7〜19のアシル基、炭素数2〜30、より好ましくは炭素数5〜21、更に好ましくは炭素数7〜19のアシルオキシ基、ハロゲン原子、又はシアノ基である。
【0072】
一般式(1)中、T1及びT2で表されるアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、及びアシルオキシ基は、置換基を有していてもいなくてもよく、置換基としては、上記置換基群Vが挙げられる。
1及びT2で表されるアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、及びアシルオキシ基の置換基としては、置換基群Vのうち、ハロゲン原子(特に塩素原子、フッ素原子)、シアノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシル基であることが好ましい。
【0073】
一般式(1)中、T1及びT2で表されるアルキル基の具体例は、例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、オクタデシル基、4−シアノブチル基、トリフルオロメチル基、3−メトキシプロピル基を挙げることができる。
一般式(1)中、T1及びT2で表されるシクロアルキル基の具体例は、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基を挙げることができる。
1及びT2で表されるアルコキシ基の具体例は、例えば、オクチルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリフルオロメトキシ基、2−メトキシエトキシ基を挙げることができる。
1及びT2で表されるアルコキシカルボニル基の具体例は、例えば、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基を挙げることができる。
1及びT2で表されるアシル基の具体例は、例えば、オクチルカルボニル基、ドデシルカルボニル基を挙げることができる。
1及びT2で表されるアシルオキシ基の具体例は、例えば、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基を挙げることができる。
【0074】
一般式(1)中のT1及びT2は、特に好ましくはアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、シアノ基である。
【0075】
一般式(1)中、eは1〜3の整数を表し、好ましくは1または2である。が2又は3を表す場合、複数のD1はそれぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
一般式(1)中、mは1〜3の整数を表し、好ましくは1又は2である。mが2又は3を表す場合、複数のD1はそれぞれ同一であっても、異なっていてもよく、複数のL1はそれぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
一般式(1)中、kは1又は2である。kが2の場合、複数のD2はそれぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
【0076】
一般式(1)中、D1とD2で表される基の総数、すなわちe×m+kが3〜5の整数であり、より好ましくは3〜4の整数である。e及びkがそれぞれ2以上の時、2以上のD1及びD2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、mが2以上の時、2以上の((D1e−L1)は、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。
【0077】
特に好ましいe、m、kの組み合わせを以下に記す。
(i)e=1、m=2、k=1
(ii)e=2、m=1、k=1
(iii)e=2、m=1、k=2
【0078】
一般式(1)において、D1に置換するT1とL1はパラ位にあることが好ましく、D2に置換するL1とT2はパラ位にあることが好ましい。
一般式(1)で表されるスメクチック液晶化合物は、好ましくは下記一般式(2)で表される構造であることが好ましい。
【0079】
【化2】

【0080】
下記一般式(2)中、Rは上記置換基群Vで示したものと同義であり、T1及びT2はそれぞれ一般式(1)におけるT1及びT2と同義である。nは0〜4の整数を表す。
【0081】
以下に本発明に用いられるスメクチック液晶化合物の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0082】
【化3】

【0083】
【化4】

【0084】
【化5】

【0085】
本発明において、特に好適なスメクチック液晶化合物として、屈折率は、1.5〜2.0の場合、特に好ましくは、1.5〜1.8の範囲である。該液晶に印加される電場の周波数領域は、好ましくは0.1Hz〜10MHzの囲であり、より好ましくは1Hz〜1MHzである。ここで、低周波数領域として用いられるのは0.1Hz〜100kHzであり、好ましくは、1Hz〜10kHzであり、より好ましくは10Hz〜10kHzである。高周波数領域として用いられるのは100Hz〜10MHzであり、好ましくは、100Hz〜1MHzであり、より好ましくは1kHz〜1MHzである。
クロスオーバー周波数は、1Hz〜10kHzの範囲であることが好ましい。
【0086】
組み合わせる二周波駆動性ネマチック液晶化合物としては、適用するスメクチック液晶化合物と同じ液晶骨格を有することが好ましい。特に好ましくは、スメクチック液晶化合物が、一般式(2)で表される構造の場合であって、且つ、これに組み合わせる二周波駆動性ネマチック液晶化合物が、一般式(2)で表される構造を有する場合である。
【0087】
(4)その他の液晶化合物
本発明の二周波駆動可能なスメクチック液晶組成物は、印加される電場の低周波数領域と高周波数領域で誘電率異方性の符号が逆転しない、つまり二周波駆動ではないネマチック液晶化合物を含んでいてもよい。
【0088】
そのようなネマチック液晶化合物の具体例としては、アゾメチン化合物、シアノビフェニル化合物、シアノフェニルエステル、フッ素置換フェニルエステル、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、フッ素置換シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、シアノフェニルシクロヘキサン、フッ素置換フェニルシクロヘキサン、シアノ置換フェニルピリミジン、フッ素置換フェニルピリミジン、アルコキシ置換フェニルピリミジン、フッ素置換アルコキシ置換フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、トラン系化合物、フッ素置換トラン系化合物、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリルなどが挙げられる。
また、「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編、日刊工業新聞社、1989年)の第154〜192頁及び第715〜722頁に記載の液晶化合物を用いることができる。
更に、TFT駆動に適したフッ素置換されたホスト液晶を使用することもできる。例えば、Merck社の液晶(ZLI−4692、MLC−6267、6284、6287、6288、6406、6422、6423、6425、6435、6437、7700、7800、9000、9100、9200、9300、10000など)、チッソ社の液晶(LIXON5036xx、5037xx、5039xx、5040xx、5041xxなど)が挙げられる。
【0089】
(5)その他の添加物
本発明の液晶に、ホスト液晶の物性を変化させる目的(例えば,液晶相の温度範囲、誘電率異方性、屈折率異方性あるいはクロスオーバー周波数)で、液晶性を示さない化合物を添加してもよい。ここで、クロスオーバー周波数とは、二周波駆動液晶において、誘電率異方性が正から負へと変化する周波数のことを意味する。
また、本発明の液晶組成物には、種々の添加剤、例えば、カイラル剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを添加しても良い。これらの添加物については、例えば、「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編、日刊工業新聞社、1989年)の第199〜202頁に記載のTN、STN用カイラル剤が挙げられる。
【0090】
1−2 高分子材料
本発明の液晶組成物は、少なくとも1種以上の高分子材料を含む。
高分子材料を媒体として上記液晶を分散含有する高分子媒体層は、例えば、液晶組成物を分散したポリマー溶液を、基板上に塗設することにより形成することができる。ポリマー溶液中に液晶組成物を分散する方法としては、機械的攪拌、加熱、超音波、あるいはその組合せなどを利用して行うことができる。
【0091】
前記高分子媒体層において、高分子媒体中に分散された上記二周波駆動可能なスメクチック液晶と高分子材料との質量比は、1:10〜10:1が好ましく、1:1〜8:2がより好ましい。
【0092】
前記高分子媒体層を形成する過程で、液晶組成物をドロプレットとして析出させて、該ドロップレットを分散含有する高分子媒体層を形成する方法としては、例えば以下の(1)〜(5)の方法が挙げられる。
(1) 重合性のモノマーもしくはオリゴマーまたはそれらの混合物(以下、これらをまとめてプレポリマーという)に本発明にかかる二周波駆動可能なスメクチック液晶を溶解した溶液(液晶組成物中間体)を、基板上に塗設してプレポリマー層を形成し、該プレポリマー層を紫外線もしくは電子線の照射によるか又は熱による重合反応で硬化させて高分子媒体層を形成するとともに、高分子媒体層中にプレポリマーに溶解していた液晶成分をドロップレットとして析出させる方法。
(2) 二周波駆動可能なスメクチック液晶を加熱によりポリマーに溶解させた後、冷却して相溶性を低下させて液晶成分をドロップレットとして析出させる方法。この方法では、基板上への塗設はドロプレットの析出の前後、いずれのタイミングでもよい。
(3) 二周波駆動可能なスメクチック液晶とポリマーとを共通の溶媒に溶解した後、溶媒を蒸発させて液晶成分をドロップレットとして析出させる方法。この方法では、基板上への塗設はドロプレットの析出の前後、いずれの方法でもよい。
(4) 汎用溶剤中に二周波駆動可能なスメクチック液晶物及びポリマーを混入し、乳化状態とした後、溶媒を蒸発させ、液晶成分をドロップレットとして析出させる方法。
(5) 二周波駆動可能なスメクチック液晶を低温下で結晶化し、これを粉砕してポリマー媒体中に分散させた後、基板上へ塗設する方法。
【0093】
本発明の調光材料及び液晶表示素子としては、(1)の方法が強い散乱状態が形成できる観点から好ましい。また(1)の方法では、前記液晶組成物中間体に重合開始剤を用いることが、均一な散乱状態が形成できる点から好ましい。この重合開始剤は公知のものを適宜適用することができる。
【0094】
高分子材料中の液晶滴の平均粒径は、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましく、1〜5μmであることが更に好ましい。液晶滴の平均粒径が0.1μm未満の場合には、光の波長と液晶滴の平均粒径が同じサイズオーダーとなるため光の散乱が弱くなる場合があり、20μmを超える場合には、高分子と液晶との界面が占める割合が小さくなるため光の散乱が弱くなる場合がある。
【0095】
前記高分子媒体層に用いる高分子材料としては特に制限はない。メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレン、ポリビニルブチラール、ゼラチン等の水溶性高分子、ポリアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、酢酸ビニルやポリビニルブチラールに代表されるポリビニルアルコール誘導体類、トリアセチルセルロースのようなセルロース誘導体類、ポリウレタン類、スチレン類等の非水溶性高分子が用いられる。本発明の調光材料に用いる高分子としては、液晶と高分子の重合相分離により均一な高分子中に液晶が分散された状態を形成しやすい組合せという観点からポリアクリレート類、ポリメタクリレート類が好ましい。
【0096】
なお、高分子材料としては、上述のように、上記液晶の長軸方向の屈折率(n‖)に近い屈折率を有するものを用いることが好ましい。本発明に好適に用いられる液晶の長軸方向の屈折率(n‖)は1.5〜1.8程度であるため、高分子材料の屈折率(np)も1.5〜1.8程度であることが好ましい。このような屈折率(np)を有する高分子材料は、一般的にポリアクリレート類、ポリメタクリレート類である。また、高分子材料を低い屈折率の方向に調整するときはポリアクリレート類、ポリメタクリレート類のエステル部位の官能基として屈折率の低いパーツ(例えば、フッ素原子)を導入する。また、高分子材料を高い屈折率の方向に調整するときはポリアクリレート類、ポリメタクリレート類のエステル部位の官能基として屈折率の高いパーツ(例えば、シアノ基)を導入することで、屈折率を調節することができる。
【0097】
1−3.その他の添加剤
さらに、液晶組成物には、液晶の分散状態を安定化することを目的として、界面活性剤を用いることができる。本発明に適用できる界面活性剤に特に制限はないが、非イオン系界面活性剤が好ましく、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキエチレンアルキルエーテル類、フルオロアルキルエチレンオキシド類等が用いられる。
【0098】
さらに、液晶組成物を着色する目的で、色材を添加してもよい。色材としては、染料あるいは顔料が好適に用いられるが、染料のほうが好ましい。染料としては、特に、二色性を示す、いわゆる二色性色素が好ましい。二色性色素の発色団はいかなるものであってもよいが、例えば、アゾ色素、アントラキノン色素、ペリレン色素、メロシアニン色素、アゾメチン色素、フタロペリレン色素、インジゴ色素、アズレン色素、ジオキサジン色素、ポリチオフェン色素、フェノキサジン色素などが挙げられる。好ましくはアゾ色素、アントラキノン色素、フェノキサジン色素であり、特に好ましくはアントラキノン色素、フェノキサゾン色素(フェノキサジン−3−オン)である。
【0099】
アゾ色素はモノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素、テトラキスアゾ色素、ペンタキスアゾ色素などいかなるものであってもよいが、好ましくはモノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素である。
アゾ色素に含まれる環構造としては芳香族基(ベンゼン環、ナフタレン環など)のほかにも複素環(キノリン環、ピリジン環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリミジン環など)であってもよい。
【0100】
アントラキノン色素の置換基としては、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含むものが好ましく、例えば、アルコキシ、アリーロキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルアミノ、アリールアミノ基である。該置換基の置換数はいかなる数であってもよいが、ジ置換、トリ置換、テトラキス置換が好ましく、特に好ましくはジ置換、トリ置換である。該置換基の置換位置はいかなる場所であってもよいが、好ましくは1,4位ジ置換、1,5位ジ置換、1,4,5位トリ置換、1,2,4位トリ置換、1,2,5位トリ置換、1,2,4,5位テトラ置換、1,2,5,6位テトラ置換構造である。
【0101】
フェノキサゾン色素(フェノキサジン−3−オン)の置換基としては、酸素原子、硫黄原子又は窒素原子を含むものが好ましく、例えば、アルコキシ、アリーロキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アルキルアミノ、アリールアミノ基である。
【0102】
2.液晶素子
本発明の液晶素子は、電極と、上記説明の液晶組成物を含む液晶層と、を有する積層体であり、入射光の反射光量を変化させるものである。
【0103】
2−1.電極
本発明において、電極は、液晶素子に用いられる公知のものを適宜適用することができる。液晶素子を液晶表示素子として用いる場合には、少なくとも観察面側の電極は透明電極であることが好ましく、調光材料の場合には、両面の電極が透明電極であることが好ましい。
透明電極は、例えば、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ等から形成することができる。この中でも、低抵抗で高い透明性を有する点から酸化インジウムスズ(ITO)を用いることが好適である。
透明電極については、たとえば、「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編、日刊工業新聞社、1989年)の第232〜239頁に記載のものが用いられる。
【0104】
2−2.液晶層(高分子媒体層)
液晶素子における液晶層は、電極間に挟持される。具体的には、電極間にスペーサーなどを介して、1〜50μm間隔で対向させ、基板間に形成された空間に液晶組成物を配置することにより作製することができる。
前記スペーサーについては、例えば、「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編、日刊工業新聞社、1989年)の第257〜262頁に記載のものを用いることができる。なお、本発明の調光材料は、基板上に塗布あるいは印刷することにより基板間の空間に配置することができる。
なお、上記液晶組成物で説明した通り、本発明における液晶層は、高分子材料を媒体として液晶を分散含有する高分子媒体層である。本発明の調光材料及び液晶表示素子において、高分子媒体層の厚みは、1〜50μmであることが、高い散乱状態を維持したまま、低電圧駆動できる観点から好ましい。
【0105】
2−3.表示方法
本発明の液晶素子は、二周波駆動可能なスメクチック液晶を含むため、本発明の液晶素子の表示方法は、高周波と低周波の交流電圧で駆動させて表示を切り替えるものである。
【0106】
本発明における高分子媒体層の駆動について、図1を用いて説明する。
図1(A)は低周波数の電圧を印加したときの様子を示す図であり、図1(B)は、高周波数の電圧を印加したときの様子を示す図である。二周波駆動液晶は、低周波数の電圧に対する誘電率異方性が正であって、高周波数の電圧に対する誘電率異方性が負である。
【0107】
高分子媒体層10は、高分子材料12中に二周波駆動可能なスメクチック液晶14が分散されている。
まず、この高分子媒体層10に低周波数の電圧を印加すると、液晶14の誘電率異方性が正であるため、高分子媒体層10中の液晶分子は電界の方向に対して平行に配向する(図1(A))。すなわち、電極16に対して、垂直に液晶分子が配向することになる。したがって、この状態での液晶14の屈折率は、長軸方向の屈折率(n‖)となる。一方、高分子媒体層10中の高分子材料12は配向しないため、屈折率はそれ自身の屈折率(np)となる。ここで、液晶14の長軸方向の屈折率(n‖)と高分子材料12の屈折率(np)とが近い値である場合には、液晶14と高分子材料と12の境界において光の屈折が起こり難くなるため、光は散乱されることなく透過し、透明状態となる。
この状態で電圧の印加を止めても、スメクチック液晶を用いているのでメモリー性があり、透明状態を維持することができる。したがって、使用する電力量を節約することができる。
【0108】
次に、この高分子媒体層12に高周波数の電圧を印加すると、液晶14の誘電率異方性が負であるため、液晶分子は電界の方向に対して垂直に配向する(図1(B))。すなわち、電極16に対して、水平に液晶分子が配向することになる。よって、低周波数の電圧と高周波数の電圧とを切り替えることで液晶分子の配向状態を切り替えることが可能となる。
【0109】
ここで、屈折率異方性(Δn)が大きい液晶14を用いると、液晶分子の長軸方向の屈折率(n‖)と液晶分子の短軸方向の屈折率(n⊥)との差が大きくなる。既述のように高分子材料12の屈折率(np)は、液晶14の長軸方向の屈折率(n‖)に近くなるように設定されているため、屈折率異方性(Δn)の大きい液晶では、高分子材料12の屈折率(np)と液晶14の短軸方向の屈折率(n⊥)との差も大きくなる。屈折率の異なる異物質の境界では光が散乱されることから、高分子媒体層10全体では濁った状態となる。
なお、この状態で電圧の印加を止めても、スメクチック液晶を用いているのでメモリー性があり、透明状態を維持することができる。したがって、使用する電力量を節約することができる。
【0110】
このように、二周波駆動可能な液晶を用いることで、高分子材料中に分散された液晶の配向を制御することができる。また、スメクチック液晶を用いることで、メモリー性を発揮でき、電圧の印加を止めてもその表示状態を維持することができる。
その結果、この液晶素子を適用した調光材料及び液晶表示素子は、高い調光性能又は表示性能を示し、且つ消費電力を低減させることができる。
【0111】
なお、液晶に一般的な色材を含む場合には、着色透明状態と着色散乱状態とを切り替えることができ、色材が二色性色素の場合には、無色透明状態と着色散乱状態とを切り替えることができる。
【0112】
3.調光材料及び液晶表示素子
本発明の液晶表示素子は、一対の基体を備え、該基体間に上記液晶素子を有し、入射光の反射光量を変化させるものである。また、本発明の調光材料は、一対の基体を備え、該基体間に上記液晶素子を有し、入射光の透過率を変化させるものである。調光材料は、例えば、窓からの光の透過率を任意に調節するような調光ガラス等に適用するものである。したがって、調光材料は光が1度だけ調光材料を通過した状態を観測者が観測するのに対して、液晶表示素子の場合には外光が液晶表示素子を通過したあと、反射板等で反射され、再度液晶表示素子を通過した状態を観測者が観測するものである。
【0113】
3−1.基体
基体は、通常支持体として設けられ、その上に前記電極が備えられる。通常、ガラス又はプラスチックからなる基体を用いるが、曲げることができ、軽く、ロール製造が可能であるという観点から、好ましくはプラスチックの基体である。
プラスチック基体としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、PESあるいはPENなどが挙げられる。基体については、例えば、「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編、日刊工業新聞社、1989年)の第218〜231頁に記載のものを用いることができる。
また、調光材料の場合は、前述の通り、透過光を観察するため、基体が透明であることが好ましく、液晶表示素子の場合には、反射光を観察するため、少なくとも観察面側の基体は透明であることが好ましい。
【0114】
3−2.その他の部材
その他の部材としては、例えば、バリア膜、紫外線吸収層、反射防止層、ハードコート層、汚れ防止層、有機層間絶縁膜、金属反射板、位相差板、配向膜などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
(1)バリア層
本発明の調光材料及び液晶表示素子において、バリア層は、水もしくは酸素の浸入による部材の劣化を抑制するために設けられることが好ましい。
バリア層としては、有機ポリマー系、無機系、その複合系いずれで形成されてもよい。有機ポリマー系としてはエチレンービニルアルコール(EVOH)、ポリビニルアルコール(PVA/PVOH)、ナイロンMXD6(NーMXD)、ナノコンポジット系ナイロンなどが挙げられる。無機系としてはシリカ、アルミナ、ニ元系などが挙げられる。その詳細は、例えば「ハイバリア材料の開発、成膜技術とバリア性の測定・評価方法」(技術情報協会、2004年)に記載されている。
バリア層は、液晶層が設けられていない面側の前記基体の表面に設けられる。両方の基体にバリア層を設けても、一方の基体のみに設けてもよいが、好ましくは両方の基体にバリア層を設ける場合である。
【0116】
(2)紫外線吸収層
本発明の調光材料及び液晶表示素子において、紫外線吸収層は、素子の紫外線による劣化を防止するために設けることが好ましい。
紫外線吸収層としては、2,2−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ジ−t−ブチルフェノール等の酸化防止剤:2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、アルコキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤を含有することが好ましい。
【0117】
(3)反射防止膜
本発明の調光材料及び液晶表示素子において、反射防止膜は、入射する光が素子の表面で反射するのを抑え、光が充分素子に入射するよう設けることが好ましい。
反射防止膜は、無機材料又は有機材料を用いて形成され、膜構成としては、単層であってもよく、または多層であってもよい。さらにまた、無機材料の膜と有機材料の膜との多層構造(無機−有機複合膜)であってもよい。反射防止膜は、調光材料及び液晶表示素子の基体の一面側又は両面に設けることができる。両面に設ける場合、両面の反射防止膜は、同じ構成であっても別の構成であっても良い。例えば、一方の面の反射防止膜を多層構造とし、他方の面側の反射防止膜を簡略化して単層構造とすることも可能である。 また、透明電極上に直接反射防止膜を設けることができる。
【0118】
反射防止膜に用いる無機材料としては、SiO2、SiO、ZrO2、TiO2、TiO、Ti23、Ti25、Al23、Ta25、CeO2、MgO、Y23、SnO2、MgF2、WO3等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。これらの中でも、レンズがプラスチック製のレンズであるので、低温で真空蒸着が可能なSiO2、ZrO2、TiO2、Ta25が好ましい。
無機材料で形成される多層膜としては、レンズ側からZrO2層とSiO2層の合計光学的膜厚がλ/4、ZrO2層の光学的膜厚がλ/4、最表層のSiO2層の光学的膜厚がλ/4の、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に成膜する積層構造が例示される。ここで、λは設計波長であり、通常520nmが用いられる。最表層は、屈折率が低く、かつ反射防止膜に機械的強度を付与できることからSiO2とすることが好ましい。
無機材料で反射防止膜を形成する場合、成膜方法は例えば真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、飽和溶液中での化学反応により析出させる方法等を採用することができる。
【0119】
反射防止膜に用いる有機材料としては、例えばFFP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)等を挙げることができ、レンズ材料やハードコート膜(有する場合)の屈折率を考慮して選定される。成膜方法は、真空蒸着法の他、スピンコート法、ディップコート法などの量産性に優れた塗装方法で成膜することができる。
【0120】
(4)着色層
本発明の液晶表示素子及び調光材料の場合には、背面に着色層を設けることが好ましい。すなわち、上記高分子媒体層(液晶層)で光を散乱または透過させたとき、液晶表示素子の場合には、背面に設置した着色層により白色状態と着色透明状態とが切り換えられることになる。調光材料の場合には、背面の着色層を透過した光の状態を観測者が観測するため、背面に設置した着色層により着色散乱状態と着色透明状態とを切り替えることができる。
着色層としては、黒色であってもよいし、特定の波長のみを吸収するものであってもよい。黒色の場合には、カーボンブラックを分散させたバインダーを支持体上に付設させた構造が好適に用いられる。特定の波長を吸収する場合には、通常の顔料ならびに染料が好適に用いられる。好ましくは顔料である。
顔料としては、無機顔料あるいは有機顔料のいずれであってもよい。顔料としては、例えば、酸化チタン顔料、酸化鉄顔料、ブロンズ粉顔料、アルミナ顔料、沈降性硫酸バリウム顔料、亜鉛華顔料、チタンブラック顔料、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、スレン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジオキサジン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、インジゴ顔料、蛍光顔料、アニリンブラック顔料、カーボンブラック顔料などが挙げられる。
【0121】
着色層には、均一に層状に付設するためにバインダーを含有させることが好ましい。このようなバインダーとしては、例えば、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレン、ポリビニルブチラール、ゼラチン等の水溶性高分子、ポリアクリレート類、ポリメタクリレート類、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、酢酸ビニルやポリビニルブチラールに代表されるポリビニルアルコール誘導体類、トリアセチルセルロースのようなセルロース誘導体類、ポリウレタン類、スチレン類等の非水溶性高分子などが挙げられる。
【0122】
(5)反射板
液晶表示素子の場合には反射光を観察するため、反射板を設けることが好ましい。このような反射板としては、酸化チタンなどを含有する白色散乱層を挙げることができる。反射板は上記着色層の更に背面側に設置することが好ましい。
【0123】
(6)配向膜
本発明の液晶表示素子及び調光材料では、高分子媒体層における高分子材料が液晶性を有する場合に、高分子液晶の配向を制御する観点から、配向膜を設けてもよい。
配向膜としては、ポリイミド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール、ゼラチンなどを用いることが好ましく、ポリイミド、シランカップリング剤を用いることが、配向能力、耐久性、絶縁性、コストの観点から好ましい。
配向方法については、ラビング処理していても、していなくてもよい。配向状態に関しても、水平状態および垂直状態いずれであってもよい。
【0124】
なお、本発明の液晶表示素子及び調光材料は、上述の通り、液晶として二周波駆動可能なスメクチック液晶を用いるため、配向膜を備えなくとも配向状態を安定的に維持することができる。
【0125】
(7)その他の層
ハードコート層としては、公知の紫外線硬化もしくは電子線硬化のアクリル系もしくはエポキシ系の樹脂を用いることができる。汚れ防止膜としては、含フッ素有機重合体のような撥水撥油性材料を使用することができる。
また、液晶表示素子の場合には、反射光を観察するため、非表示面側に白色散乱層を設けることが好ましい。
【0126】
3−3.調光材料の駆動方法
全面に電極を設けた前記基体を対向させ、その間に前記液晶組成物を挟持する。液晶組成物に色材を含有させない場合、低周波で電圧を印加すると無色透明となり、高周波で電圧を印加すると白色となる。通常の色材を含有させた場合、低周波での電圧印加では着色透明となり、高周波での電圧印加では着色散乱となる。色材が二色性色素の場合には、低周波での電圧印加では無色透明であり、高周波での電圧印加では着色散乱となる。一方、着色層を設けると、低周波での電圧印加では着色透明であり、高周波での電圧印加では着色散乱となる。
【0127】
3−4.液晶表示素子の表示方法
本発明の液晶表示素子は、単純マトリックス駆動方式あるいは薄膜トランジスタ(TFT)などを用いたアクテイブマトリックス駆動方式を用いて駆動し、表示させることができる。駆動方式については、例えば、「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編、日刊工業新聞社、1989年)の第387〜460頁に詳細が記載され、本発明の液晶素子の駆動方法として利用できる。
2つの基体間には、液晶素子を挟持する。この液晶素子は1つ挟持しても、図2(A)に示すように積層させた複数層であってもよい。また、図2(B)に示すように並置してもよい。異なる色を呈する層を積層させたり並置したりした場合には、カラー表示を行うことができる。
呈色は、上記調光材料の駆動方法に示したものと同様である。しかし、着色層を設けた場合は、反射光を観察するため、低周波で電圧を印加したときは着色透明であるが、高周波で電圧を印加したときは白色となる。
【0128】
3−5.用途
本発明の調光材料及び液晶表示素子は、高い調光性能又は表示性能を示し、且つ消費電力を低減させることができ、調光、セキュリテイー、車載用途、インテリア、広告、情報表示板として好適に利用することができる。
【実施例】
【0129】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の主旨から逸脱しない限り適宜変更することができる従って本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0130】
[実施例1]
<調光材料の作製>
1.液晶の調整
下記スメクチック液晶(1)は、以下のスキームにしたがって合成した。
【0131】
【化6】

【0132】
前記具体例化合物のスメクチック液晶(1)40mg、Applied Physics Letters, Vol.25, 186-188(1974)記載の下記二周波駆動ネマチック液晶(H−1)200mg及びΔεが負の下記ネマチック液晶化合物(H−2)30mgの混合物を、180℃のホットプレート上で1時間加熱したあと、室温にまで冷却させて、液晶組成物−1を得た。
液晶組成物−1のしきい値電圧は、6V/μmであり、クロスオーバー周波数は、700Hzであった。なお、スメクチック液晶(1)は、偏光顕微鏡観察からスメクチックA相を呈する化合物であることが確認された。
【0133】
【化7】

【0134】
【化8】

【0135】
2.調光素子の調整
透明電極であるITO付きガラス基板(EHC社製)上に、ポリイミド水平配向膜(日産化学製)をスピンコート、焼成により付設した。次に、得られた水平配向膜付きガラス基板にラビング処理を施した。
上記液晶組成物0.10gと、ヒドロキシブチルアクリレート20mgと、2−エチルヘキシルアクリレート20mgと、光重合開始剤IRG−816(チバガイギー社製)極少量とを混合し溶解させて液晶組成物を得た。得られた液晶組成物に8μmの球状スペーサー(積水化学製)を少量混合し、上記のITO付きガラス基板を配向膜側が液晶層に接するように挟み、得られた積層体の全体を光硬化型シール剤(積水化学製)にて封止した。次に、UV照射(20mW/m2)を行い、光重合させてモノマーを高分子とし、高分子材料と液晶との相分離を行い、高分子媒体層を形成した。
得られた高分子媒体層中の液晶滴は、平均粒径が4μmであり、高分子材料の屈折率は1.5であった。
【0136】
3.評価
得られた本発明の調光材料は、電圧無印加時に散乱白色状態であり、UV/visスペクトル(島津製)にて550nmにおける透過率を測定したところ、10.0%であった。
次に、信号発生器(テクトロニクス株式会社製)を用いて、電圧(200V、60Hz)を印加した場合には、液晶層は透明状態となった。その場合における550nmにおける透過率は84%であった。
更に、電圧(200V、10kHz)を印加した場合には、液晶層は再び散乱白色状態となり、550nmにおける透過率は9.0%であった。
【0137】
また、各々の散乱白色状態と透明状態は、電圧印加を止めた後も、1時間以上維持されていた。すなわち、メモリー性が付与されていることが確認された。したがって、本発明の調光材料は、電気的に光の透過率を制御できる調光機能を有することが確認された。また、同時に電圧印加時に、調光材料に流れる電流量を評価したが、ほとんど電流は流れなかった。すなわち、本発明の調光材料は電流駆動による動的散乱に基づいた散乱状態を形成していないことが確認された。
【0138】
[比較例1]
モノマーであるヒドロキシブチルアクリレート20mg、2−エチルヘキシルアクリレート20mg及び光重合開始剤IRG−816(チバガイギー社製)を混合しない以外は実施例1と同様に調光材料を作製したところ、低周波交流電圧を印加した場合に散乱白色状態は形成せずに、透明状態のままであった。すなわち、調光材料として機能しないことが確認された。
【0139】
[実施例2]
<調光材料の調整>
1.プラスチック基板の作製
特開2000−105445号公報の実施例1の試料110の作製と同様にPEN(Dupont−Teijin Q65A)に対し下塗り層及びバック層を作製した。すなわち、ポリエチレン−2,6−ナフタレートポリマー100重量部と紫外線吸収剤としてTinuvin P.326(チバ・ガイギーCiba−Geigy社製)2重量部とを乾燥した後、300℃にて溶融後、T型ダイから押し出し、140℃で3.3倍の縦延伸を行ない、続いて130℃で3.3倍の横延伸を行い、さらに250℃で6秒間熱固定して厚さ90μmの本発明のプラスチック基板(PEN)を得た。
【0140】
2.透明電極層の作製
上記で得られたプラスチック基板の片面に、導電性のインジウム酸化スズ(ITO)をコーティングして、厚さ200nmの均一な薄膜の透明電極を積層した。面抵抗約20Ω/cm2、光透過率(500nm)85%であった。
次に、ITO表面上に反射防止膜としてSiO2薄膜(100nm)をスパッタにより付設した。光透過率(500nm)90%であった。
【0141】
2.液晶層の作製
上記プラスチック基板を用いた以外は実施例1と同様の操作にて、液晶層を作製した。
【0142】
3.バリア層の付設
(有機−無機ハイブリッド層の作製)
ソアノールD2908(日本合成化学工業(株)製、エチレン−ビニルアルコール共重合体)8gを1−プロパノール118.8g及び水73.2gの混合溶媒に80℃で溶解した。この溶液の10.72gに2N塩酸を2.4ml加えて混合した。この溶液を攪拌しながらテトラエトキシシラン1gを滴下して30分間攪拌を続けた。
次いで、得られた塗布液を前記プラスチック基板上にワイヤバーで塗布した。その後120℃で5分間乾燥することにより、調光材料に膜厚約1μmの有機−無機ハイブリッド層を形成した。
【0143】
4.紫外線吸収層の付設
水42g、シラノール変性ポリビニルアルコール(クラレ社製:商品名R2105)40g、紫外線フィルター用カプセル液13.5gを混合した後、50質量%の2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールの水溶液17g、20質量%のコロイダルシリカ分散液(日産化学社製:商品名スノーテックス0)65g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル(東邦化学社製 ネオスコアCM57)2.5gとポリエチレングリコールドデシルエーテル(花王社製 エマルゲン109P)2.5gを混合し、紫外線フィルター層用塗布液を得た。
次いで、得られた塗布液を前記バリア層上にワイヤバーで塗布した。その後120℃で5分間乾燥することにより、調光材料に膜厚約1μmの紫外線吸収層を形成した。
【0144】
<表示性能の評価>
得られた本発明の表示素子を実施例1と同様に評価したところ、コントラスト比の高い調光が可能であることが確認された。
また、1000回の散乱白色状態及び透明状態の切り替えの繰り返し評価を行ったところ、目視にて調光性能の劣化は観測されなかった。さらに、Xeランプ照射(10万ルクス、100時間)を行った場合にも、目視にて調光性能の劣化は観測されなかった。すなわち、本発明の調光材料は、繰り返し耐久性及び光耐久性ともに優れていることが確認された。
【0145】
[実施例3]
実施例1において、液晶組成物−1で用いた液晶化合物の代わりに下記液晶化合物に変更して液晶組成物−2を調製した点、水平配向膜をポリイミド垂直配向膜(日産化学製)に変更した点以外は、実施例1と同様にして本発明の調光材料を調製した。
得られた液晶組成物−2のしきい値電圧は、18V/μmであり、クロスオーバー周波数は、1kHzであった。また、液晶組成物−2は室温でスメクチックA相を示すことが確認された。
駆動電圧として225V交流電圧(60Hz及び100kHz)を印加し、実施例1と同様の評価を行ったところ、本発明の調光材料は高い調光機能を有することが確認された。
【0146】
【化9】

【0147】
[実施例4]
<液晶表示素子の調製>
ポリビニルアルコール(商品名:クラレポバール、クラレ製、屈折率np:1.60)5質量%水溶液中に、液晶組成物−1をホモジナイザー攪拌により分散させた。得られた液晶分散水溶液の液晶滴の平均粒径は3μmであった。
10μmの球状スペーサー(積水化学製)を少量混合し、得られた液晶分散水溶液を、ITO付きガラス基板上にワイヤーバーにて塗布し、80度にて2時間乾燥させた。次に、2枚のITO付きガラス基板を貼り合わせた後、実施例1と同様の方法で封止し、本発明の液晶表示素子を作製した。
なお、得られた液晶表示素子には、黒色吸収層を設けた。黒色吸収層は、表面処理により表面活性を失活させたカーボンブラックを、5質量%のカルボキシセルロースとともに分散して調製した塗布液を、非表示面側のガラス基板の液晶層側でない面に塗布して作製した。
【0148】
<表示性能の評価>
得られた本発明の液晶表示素子は、信号発生器(テクトロニクス株式会社製)を用いて、低周波電圧(125V、60Hz)を印加した場合、黒色となった。また、高周波電圧(125V、100kHz)を印加した場合、散乱白色となった。黒色状態と白色散乱状態を電気的に制御できる反射型液晶表示素子として機能することが確認された。
【0149】
[実施例5]
実施例1において、液晶組成物にさらに下記二色性色素1を1.0質量%添加した以外は、実施例1と同様にして本発明の調光材料を調製した。
実施例1と同様の評価を行ったところ、得られた本発明の調光材料は、電圧無印加時に散乱赤色状態であり、UV/visスペクトル(島津製)にて550nmにおける透過率を測定したところ、5.0%であった。次に、信号発生器(テクトロニクス株式会社製)を用いて、電圧(200V、60Hz)を印加した場合には、液晶層は無色透明状態となった。その場合における550nmにおける透過率は74%であった。さらに、電圧(200V、10kHz)を印加した場合には、液晶層は再び散乱赤色状態となり、550nmにおける透過率は4.0%であった。
また、各々の散乱赤色状態と透明状態は、電圧印加を止めた後も、1時間以上維持されていた。すなわち、メモリー性が付与されていることが確認された。
【0150】
【化10】

【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】高分子媒体層の駆動について説明した図である。図1(A)は低周波数の電圧を印加したときの様子を示す図であり、図1(B)は、高周波数の電圧を印加したときの様子を示す図である。
【図2】液晶表示素子の構成を示す図である。図2(A)は積層させた場合であり、図2(B)は並置させた場合である。
【符号の説明】
【0152】
10 高分子媒体層
12 高分子材料
14 液晶
16 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種以上の二周波駆動可能なスメクチック液晶と、少なくとも1種の高分子材料と、を含有する液晶組成物。
【請求項2】
前記スメクチック液晶がスメクチックA相を呈することを特徴とする請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
前記スメクチック液晶が、少なくとも1種のネマチック液晶化合物を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
少なくとも1種以上のモノマーと少なくとも1種以上の二周波駆動可能なスメクチック液晶とを含有する液晶組成物中間体を重合してなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項5】
前記液晶組成物中間体が、更に重合開始剤を含有してなることを特徴とする請求項4に記載の液晶組成物。
【請求項6】
前記液晶組成物中間体が、更にネマチック液晶化合物を含有してなることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の液晶組成物。
【請求項7】
更に、色材を含有してなることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項8】
前記色材が、二色性色素であることを特徴とする請求項7に記載の液晶組成物。
【請求項9】
前記スメクチック液晶が、下記一般式(1)で表されるスメクチック液晶化合物を含有することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の液晶組成物。
一般式(1):T1−{(D1e−L1m−(D2k−T2
[式中、D1及びD2は各々独立にアリーレン基、ヘテロアリーレン基または2価の環状脂肪族炭化水素基を表し、L1は2価の連結基を表し、T1及びT2は各々独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ハロゲン原子またはシアノ基を表し、eは各々0〜5の数を表し、mは1〜3の数を表し、kは1〜2の数を表し、D1とD2で表される基の総数が3〜5の数であり、e及びkが各々2以上の時、2以上のD1及びD2は各々同一でも異なっていてもよく、mが2以上の時、2以上の{(D1e−L1}は同一でも異なっていてもよい。]
【請求項10】
電極と、該電極間に設けられた請求項1〜請求項9のいずれか1項の液晶組成物を含む液晶層と、を有する積層体であることを特徴とする液晶素子。
【請求項11】
前記電極が、ITO(インジウムスズオキサイド)の透明電極であることを特徴とする請求項10に記載の液晶素子。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の液晶素子を、高周波と低周波の交流電圧で駆動させて表示を切り替えることを特徴とする表示方法。
【請求項13】
一対の基体を備え、該基体間に請求項10又は請求項11の液晶素子を有してなり、入射光の反射光量を変化させることを特徴とする液晶表示素子。
【請求項14】
前記基体における前記液晶素子を設けない面側に、着色層を有してなることを特徴とする請求項13に記載の液晶表示素子。
【請求項15】
前記基体が、ポリマーで形成されてなることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の液晶表示素子。
【請求項16】
反射防止膜を有してなることを特徴とする請求項13〜請求項15のいずれか1項に記載の液晶表示素子。
【請求項17】
前記反射防止膜が、無機薄膜、有機薄膜、又は無機−有機複合膜であることを特徴とする請求項16に記載の液晶表示素子。
【請求項18】
一対の基体を備え、該基体間に請求項10又は請求項11の液晶素子を有してなり、入射光の透過率を変化させることを特徴とする調光材料。
【請求項19】
前記基体における前記液晶素子を設けない面側に、着色層を設けてなることを特徴とする請求項18に記載の調光材料。
【請求項20】
前記基体が、ポリマー支持体であることを特徴とする請求項18又は請求項19に記載の調光材料。
【請求項21】
反射防止膜を有してなることを特徴とする請求項18〜請求項20のいずれか1項に記載の調光材料。
【請求項22】
前記反射防止膜が、無機薄膜、有機薄膜、又は無機−有機複合膜であることを特徴とする請求項21に記載の調光材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−197487(P2007−197487A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14291(P2006−14291)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】