説明

液晶組成物及び液晶組成物の製造方法、並びに、液晶素子及び液晶素子の製造方法

【課題】より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶素子を得ることが可能な液晶組成物を提供する。
【解決手段】液晶組成物は、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を含む液晶組成物において、該重合性物質は、該第一の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物を含むと共に、当該液晶組成物中の重合性物質の重合前において、該ネマティック液晶が、該第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される方向のらせんの向きを示すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶組成物及び液晶組成物の製造方法、並びに、液晶素子及び液晶素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電界により液晶分子の配列を制御して、光散乱状態を変化させる液晶光学素子のような、様々な液晶素子が提案されている。
【0003】
例えば、米国特許第5437811号明細書(特許文献1)には、液晶及び重合体を含む液晶複合体を有すると共に電圧非印加時に光散乱状態を示し、電圧印加で透明状態となる液晶光学素子として、可視光線を選択反射する螺旋ピッチを有するカイラルネマティック液晶に微量の重合性化合物を添加して得られる液晶組成物を用いて、カイラルネマティック液晶のフォーカルコニック配向を安定化させ、電圧非印加時に散乱状態としたPSCT(Polymer Stabilized Cholesteric Texture)が開示されている。
【0004】
しかしながら、米国特許第5437811号明細書に開示されるPSCTでは、液晶組成物に電圧を印加しながら重合性化合物を重合させる必要があった。そのため、特に大型の液晶光学素子では、全体を均一に製造することが困難であり、生産性に劣る問題があった。
【特許文献1】米国特許第5437811号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第一の目的は、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶素子を得ることが可能な液晶組成物を提供することである。
【0006】
本発明の第二の目的は、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶素子を得ることが可能な液晶組成物の製造方法を提供することである。
【0007】
本発明の第三の目的は、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶素子を提供することである。
【0008】
本発明の第四の目的は、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を含む液晶組成物において、該重合性物質は、該第一の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物を含むと共に、当該液晶組成物中の重合性物質の重合前において、該ネマティック液晶が、該第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される方向のらせんの向きを示すことを特徴とする、液晶組成物である。
【0010】
本発明の第二の態様は、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を含む液晶組成物を製造する、液晶組成物の製造方法において、該重合性物質は、該第一の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物を含むと共に、該液晶組成物中の、該重合性物質を重合させる前において、該ネマティック液晶が、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される方向のらせんの向きを示すように、該第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を混合することを特徴とする、液晶組成物の製造方法である。
【0011】
本発明の第三の態様は、少なくとも一方が透明である一対の絶縁基板と、前記絶縁基板の各内面に形成された電極と、前記絶縁基板の内面間に挟持された液晶及び重合体を含む液晶複合体とを含む液晶素子において、前記液晶複合体は、本発明の第一の態様である液晶組成物が前記絶縁基板の内面間に挟持されかつ液晶が配向された状態で該液晶組成物中の重合性物質を重合させることによって得られることを特徴とする液晶素子である。
【0012】
本発明の第四の態様は、液晶及び重合体を含む液晶複合体を製造する、液晶素子の製造方法において、少なくとも一方が透明である一対の絶縁基板と、前記絶縁基板の各内面に電極を形成する工程と、本発明の第一の態様である液晶組成物を介し、前記絶縁基板の内面同士を対向させて当該基板を貼り合わせる工程と、前記液晶組成物が前記絶縁基板の内面間に挟持されかつ液晶が配向された状態で当該液晶組成物中に含まれる前記重合性物質を重合させることを含むことを特徴とする、液晶素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第一の態様によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶素子を得ることが可能な液晶組成物を提供することができる。
【0014】
本発明の第二の態様によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶素子を得ることが可能な液晶組成物の製造方法を提供することができる。
【0015】
本発明の第三の態様によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶素子を提供することができる。
【0016】
本発明の第四の態様によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載および図は、適宜、簡略化されている。
【0018】
本発明の第一の実施形態は、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を含む液晶組成物において、該重合性物質は、該第一の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物を含むと共に、当該液晶組成物中の重合性物質の重合前において、該ネマティック液晶が、該第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される方向のらせんの向きを示すことを特徴とする、液晶組成物である。
【0019】
ここで、旋光性の向きは、いわゆる右旋性(dextro−rotatory)又は左旋性(levo−rotatory)であることを意味する。また、第一の向きと反対の第二の向きの旋光性とは、第一の向きの旋光性が、右旋性である場合には、第二の向きの旋光性が、左旋性であり、第一の向きの旋光性が、左旋性である場合には、第二の向きの旋光性が、右旋性であることを意味する。なお、旋光性を備えた物質は、光学活性物質とも呼ばれることがあり、また、旋光性を示さない物質は、光学不活性な物質と呼ばれることがある。
【0020】
また、重合性物質又は重合性化合物は、それぞれ、単数又は複数の重合性官能基を有する物質又は化合物を意味する。ここで、重合性官能基としては、例えば、炭素−炭素二重結合のようなラジカル重合性官能基が挙げられる。一方、非重合性化合物は、重合性官能基を含まない化合物を意味する。
【0021】
さらに、液晶組成物は旋光性を備える化合物を含むことにより、らせんを巻いた状態をとる。本発明では、第一の向きの旋光性を備えた化合物により誘起されるらせんの方向を第一のらせんの方向といい、該第一の旋光性の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた化合物によって誘起されるらせんの方向を第二のらせんの方向という。
【0022】
液晶組成物において第二のらせんの方向を示すとは、液晶組成物が第二の旋光性を備えた化合物によって液晶組成物がカイラルネマティック(コレステリック)相を示すことを意味する。本発明のように、第一の旋光性を示す化合物と、第二の旋光性を示す化合物との両方を含みながら、全体として第二のらせんの方向を示す液晶組成物を得るためには、液晶組成物における、液晶組成物における第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される螺旋ピッチが、第一の向きの旋光性を備えた化合物によって誘起される液晶の螺旋ピッチ(螺旋構造の周期)よりも小さくなるように、液晶組成物における第一の向きの旋光性を備えた化合物の濃度及び液晶組成物における第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物の濃度の比を適宜調整すればよい。
【0023】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物は、重合性物質を重合させる前において、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物によって誘起される第一のらせんの方向と反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される第二のらせんの方向を示すが、重合性物質を重合させると、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物もまた重合して、この重合性化合物の第二の向きの旋光性の一部又は全部が失われる。その結果、液晶組成物に含まれる重合性物質を重合させることによって得られる液晶複合体は、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物及びネマティック液晶を含むカイラルネマティック液晶並びに重合性物質を重合させることによって得られる重合体を含むこととなり、重合性化合物の第二の向きの旋光性が、非重合性化合物の第一の向きの旋光性に相殺されることによって、液晶組成物は、第一のらせんの方向を示すこととなる。なお、液晶複合体においては、カイラルネマティック液晶は重合体によって複数のドメイン構造(領域)に分断された構成を有する。
【0024】
このようにして、第二のらせんの方向を示す液晶組成物から第二のらせんの方向と反対の第一のらせんの方向を示す液晶複合体が形成される。このとき、第二のらせんの方向を示す液晶組成物は、みかけ上らせんの方向を示さないネマティック相の状態を経由して、第一のらせんの方向を示す液晶複合体に変化することになる。そして、このようなネマティック相は、一軸性の配向性を有するため、液晶分子が比較的均一に配向させられる状態が一時的に形成されると考えられる。その結果、カイラルネマティック液晶のドメイン構造が、重合体に、より均一に形成されると考えられる。すなわち、本発明の第一の実施形態によれば、より均一な液晶のドメイン構造を有する液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を提供することが可能となる。また、それに応じて、より適切な性能を有する液晶素子を得ることも可能となる。
【0025】
例えば、本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物を用いて、電圧を印加しないとき光を散乱し、且つ、電圧を印加したとき光を透過させる性能が向上させられた液晶光学素子を得ることが可能となる。より詳しくは、液晶光学素子に電圧を印加しないときには、液晶組成物から得られる液晶複合体においては、重合体によって分断されたカイラルネマティック液晶のドメイン内において、液晶は安定なフォーカルコニック散乱様態をとるので、液晶複合体に入射する光は効果的に散乱されると考えられる。
【0026】
一方、液晶光学素子に電圧を印加したときには、液晶組成物から得られる液晶複合体において、重合体により均一に形成されたカイラルネマティック液晶の分子が、ホメオトロピック配向を有することになるため、液晶光学素子の液晶複合体に入射する光が、液晶光学素子の液晶複合体を透過することになると考えられる。
【0027】
なお、本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物は、好ましくは、配向膜に提供される。この場合には、第二のらせんの方向を示す液晶組成物から第一のらせんの方向を示す液晶複合体を形成する際に経由するみかけ上らせんの方向を示さないネマティック相の一軸性の配向を、配向膜によってより容易に調整することが可能となる。
【0028】
また、配向膜は、好ましくは、約60〜90°のプレチルト角を備えた(大きいプレチルト角を有する)配向膜(垂直配向膜)である。この場合には、配向膜のラビング処理を行うことなく、みかけ上らせんの方向を示さないネマティック相の一軸性の配向を、より容易に調整することが可能となる。よって、電圧を印加しないとき、より均一に光を散乱させ、且つ、電圧を印加したとき、より小さいヘイズ値で光を透過させる(すなわち、より大きい透過−散乱のコントラストを有する)液晶光学素子を得るためには、約90°のプレチルト角の配向膜(垂直配向膜)を用いて、液晶を配向膜に対して垂直に配向させることが好ましく、且つ、正の誘電率異方性を有する液晶を用いることが好ましい。
【0029】
また、本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物に含まれる重合性物質を重合させて液晶複合体を得る際に、液晶組成物に電圧を印加する必要がない。言い換えれば、本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物に電圧を印加することなく、より容易に液晶複合体を得ることができる。例えば、重合性物質が、光重合性物質である場合には、光重合性物質に所定の光を照射するだけで、液晶複合体を得ることができる。また、液晶複合体に含まれる重合体の含有率は、より低いため、液晶複合体に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶複合体を得ることが可能となる。それに応じて、より低いヘイズ値を示し且つ重合体に液晶のより均一なドメイン構造を有する大面積の液晶光学素子を製造することも可能となる。
【0030】
本発明の第一の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を提供することができる。また、本発明の第一の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示すことに加えて、電圧を印加しないとき、より低い透過率を示す液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を提供することができることもある。
【0031】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物は、ネマティック液晶、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、及び第一の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物を含む。
【0032】
よって、第二のらせんの方向を示す液晶組成物を得るためには、液晶組成物における第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物の螺旋ピッチ(螺旋構造の周期)p1(μm)及び液晶組成物における第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物の螺旋ピッチp2(μm)が、p1>p2となるように、液晶組成物における第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物の濃度c1(質量%)及び液晶組成物における第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物の濃度c2(質量%)の比を適宜調整すればよい。なお、液晶組成物における第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物の螺旋ピッチp1(μm)、濃度c1及び螺旋誘起力(Helical Twisting Power;HTP)HTP1(μm−1)並びに液晶組成物における第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物の螺旋ピッチp2(μm)、濃度c2(質量%)、及び螺旋誘起力HTP2(μm−1)は、それぞれ、p1=1/(c1×HTP1)及びp2=1/(c2×HTP2)の関係を有する。実際には、まず、p1=p2を満たすように、すなわち、c1×HTP1=c2×HTP2の関係を満たすように、c1及びc2の比を決定した後、p1>p2となるように、c1及びc2を調整してもよい。
【0033】
より詳しくは、ネマティック液晶及び第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物を含む場合には、ネマティック液晶が、螺旋構造を有する第一のらせんの方向を備えたカイラルネマティック液晶(コレステリック液晶)に相変化する。
【0034】
ここで、ネマティック液晶はとしては、例えば、メルク社製の商品番号:BL−002(透明点Tc=72℃)、BL−023(透明点Tc=105℃)等が例示される。なお、一種類のネマティック液晶であってもよく、複数種類のネマティック液晶の混合物であてもよい。
【0035】
また、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物(非重合性のカイラル剤)としては、例えば、メルク社製のS−811、S−1011、S−2011等が例示される。これらのカイラル剤は、左旋性(levo−rotatory)のカイラル剤である。この場合、同時に含まれる第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物(重合性のカイラル剤)としては、例えば、BASF社製のPaliocolor LC756のような右旋性(dextro−rotatory)のカイラル剤が好適である。もちろん、非重合性のカイラル剤として、右旋性のカイラル剤を使用し、重合性のカイラル剤として、左旋性のカイラル剤を使用してもよい。自然界に存在する旋光性物質を原料にして旋光性化合物を準備すると比較的安価に右旋性の化合物を提供することができる。さらに、非重合性のカイラル剤として、左旋性のカイラル剤と右旋性のカイラル剤の両方を用いてもよく、同様に重合性のカイラル剤もまた、左旋性のカイラル剤と右旋性のカイラル剤の両方を用いてもよい。
【0036】
ここで、ネマティック液晶の液晶性及び第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物の旋光性の両方をより容易に調整することが可能である。すなわち、液晶組成物又は液晶組成物から得られる液晶複合体に含まれるカイラルネマティック液晶の液晶性及びらせんの方向の両方をより容易に調整することが可能となる。それに応じて、液晶複合体を含む液晶素子の性能をより容易に調整することが可能となる。
【0037】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物において、好ましくは、重合性物質は、旋光性を示さない重合性化合物をさらに含む。
【0038】
この場合には、液晶組成物における旋光性を示さない重合性化合物の配合比を調整することによって、液晶組成物のらせんの方向に顕著な影響を及ぼすことなく、重合性物質を重合させることによって得られる重合体の弾性率を調整することが可能となる。また、液晶組成物に含まれる第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物及び第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物の配合比に顕著な影響を及ぼすことなく、重合性物質を重合させることによって得られる重合体の弾性率を調整することが可能となる。その結果、弾性率が調整された重合体によって、より安定化された液晶相を有する液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を提供することができる。また、それに応じて、より安定した性能を有する液晶素子を得ることも可能となる。例えば、液晶光学素子の透過−散乱特性を向上することが可能となる。
【0039】
また、本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物において、好ましくは、旋光性を示さない重合性化合物は、メソゲン構造を含まない旋光性を示さない重合性化合物を含む。
【0040】
この場合には、第一のらせんの方向を備えたカイラルネマティック液晶の液晶性に顕著な影響を及ぼすことなく、重合性物質を重合させることによって得られる重合体の弾性率を調整することが可能となる。その結果、弾性率が調整された重合体によって、より安定化された液晶相を有する液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を提供することができる。また、それに応じて、より安定した性能を有する液晶素子を得ることも可能となる。
【0041】
例えば、正の誘電率異方性を有する液晶にメソゲン構造を含まない重合性化合物が含まれていると、得られる液晶相の散乱状態を安定化することができ、大面積においても均一な液晶光学素子を提供することが可能となる。
【0042】
特に、メソゲン構造を含まない旋光性を示さない重合性化合物としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキレンジアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエーテルジアクリレート、ポリエーテル系ウレタンアクリレート等が例示される。
【0043】
一方、メソゲン構造を含む旋光性を示さない重合性化合物としては、例えば、以下の式(1)及び式(2)で表される重合性化合物が例示される。
【0044】
【化1】

【0045】
【化2】

なお、液晶組成物における旋光性を示さない重合性化合物の含有率が、大き過ぎると、液晶組成物から得られる液晶複合体に電圧を印加したとき、液晶複合体のヘイズ値が大きくなるおそれがある。また、斜め方向から見た際のヘイズ値が上昇することから、視野角が小さくなるおそれがある。従って、液晶組成物における重合性物質の合計の含有率は、通常、液晶組成物全体の20質量%以下であり、特に好ましくは、10質量%以下である。
【0046】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物は、好ましくは、一対の基板の内面間に挟持された際に、基板内面間距離以上の大きさの螺旋ピッチを有する。
【0047】
言い換えれば、液晶組成物のらせんの螺旋ピッチp及び液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際の基板内面間距離dは、好ましくは、p≧dの関係を満たす。液晶組成物のらせんの螺旋ピッチp及び液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際の基板内面間距離dは、より好ましくは、p≧1.5dの関係を満たし、さらに好ましくは、p≧2dの関係を満たす。このことにより、本発明の液晶組成物は、らせんを巻いた状態でありながら、擬似的なネマティック相を示す。通常のカイラルネマティック液晶は、プレナー配向やフォーカルコニック配向、またはその混合配向などで複数の安定配向を示すことにより、一方向の均一な液晶配向を、電界を印加しない状態で実現することは困難であった。一方、ネマテッィク相を示す液晶組成物は、配向膜により、一方向の液晶配向を容易に実現することができる。特に、プレチルト角が大きい、いわゆる垂直配向膜を用いた場合は、ラビング処理を行うことなく、液晶組成物を透明電極付き基板に対して垂直方向に均一に配向させることが容易に可能となる。
【0048】
ここで、液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際の基板内面間距離dは、例えば、セルギャップとも呼ばれ、セルギャップは、好ましくは、4μm以上20μm以下であり、より好ましくは、6μm以上16μm以下である。
【0049】
また、液晶組成物の螺旋ピッチp及び液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際の基板内面間距離dが、p≧a×d(a=定数)の関係を満たす場合、液晶組成物について測定されたツイスト角θは、θ≦360°/aであること意味する。この液晶組成物のツイスト角は、例えば、少なくとも片方の基板の内面にラビング処理を施したプレチルト角が10°以下となる配向膜を備えた一対の透明基板間に液晶組成物を挟持して、偏光顕微鏡観察において偏光板を回転させながら透過光を観察することで測定できる。また、くさび形状のセルに液晶組成物を挟持して、その回折線間の距離の観察によって求めることができる。
【0050】
本発明の液晶組成物中の、第一の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物(重合性のカイラル剤)は、液晶組成物を電極付き基板に挟持した後に、重合性化合物を硬化させることにより液晶相に複数のドメインを形成する。同時に、重合により高分子化することでカイラル剤としての旋光機能の一部または全部を喪失する。そのため、残った第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物(非重合性のカイラル剤)により、重合性化合物の重合の過程でネマティック液晶がカイラルネマティック液晶に相変化する。
【0051】
非硬化性のカイラル剤として、左旋性のものと右旋性のものを共に用いてもよく、同様に硬化性のカイラル剤も左旋性のものと右旋性のものを共に用いてもよい。重合性化合物が重合する前の液晶組成物が実質的にネマティック相を示し、重合性化合物が重合した後の液晶相がカイラルネマティック相を形成するように構成すれば、左旋性と右旋性の組合せはいずれの場合でも本発明の効果を発現させることができる。
【0052】
本発明の液晶組成物から重合性化合物を硬化して得られる液晶は、重合物の影響を除いて、本発明の液晶組成物から重合性化合物(重合性のカイラル剤以外の重合性化合物も含む)を除いた混合物の液晶物性とほぼ等しいカイラルネマティック液晶と考えられる。従って、この混合物は液晶複合体に要求されるカイラルネマティック液晶としての液晶物性を満たす混合物とする。この混合物に添加される重合性のカイラル剤の旋光性の程度やその添加量は、この混合物のカイラルネマティック性を失わせてネマティック性とすることができるものである必要がある。この限りにおいて、重合性のカイラル剤の旋光性の程度や液晶組成物中の量は、非重合性のカイラル剤の(逆方向の)旋光性の程度や液晶組成物中の量に制約を受けるものではない。
【0053】
本発明の液晶組成物は、擬似的なネマティック相を示すことにより、特許文献1に記載のPSCTと異なり、液晶複合体形成の過程で液晶組成物の重合時に電圧を印加する必要がなく、電圧非印加の状態で重合性化合物を重合させるのみでよい。すなわち、重合性化合物が光重合性化合物であれば、光照射のみで液晶素子が得られる。また、液晶を重合性化合物に溶解させて全体を等方相とした後に、重合相分離方式によって液晶複合体を得る場合とは異なり、高い相転移温度Tcの液晶相が要求される場合であっても液晶組成物からの液晶相の析出を防止するために加熱する必要もない。さらに、本発明の液晶組成物から得られる液晶複合体は、重合物の含有率が低いため、大面積の液晶素子とした場合においても透過状態でのヘイズ値は低く、素子を観察する角度により透明性が良好である。
【0054】
さらに、本発明の液晶組成物は、重合性物質の重合前において、該ネマティック液晶が、該第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される方向のらせんの向きを示す。そして、重合性物質の重合過程において、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物はカイラル剤としての機能を失う。よって、重合後の液晶複合体においてカイラル剤としての機能を発現するのは、第二の向きと反対の第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物である。すなわち、液晶複合体に含まれる液晶は、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物によって誘起されるらせんの方向を示す。すなわち、本発明の液晶組成物を用いることにより、重合性化合物の重合前後において、液晶のらせんの向きが逆転する。
【0055】
前記のように、本発明の液晶組成物を用いると、重合性化合物の重合前後において、液晶のらせんの向きが逆転する。このことによって、液晶が、第二のらせんの向きの示す液晶組成物から第二のらせんの向きと反対の第一のらせんの向きを示す液晶複合体を形成する際における、見かけ上のネマティック相からカイラルネマティック相への相変化が緩やかになるものと考えられる。その結果、重合性化合物の重合前後で液晶のらせんの向きが変わらない場合(たとえば、擬似ネマティック相の性質を有する、第一のらせんの向きを示す液晶組成物から重合性化合物を重合させて、第一のらせんの向きを示すカイラルネマティック液晶を得る場合)に比べて、より均一な液晶のドメイン構造を有する液晶複合体をより容易に得ることが可能となる。また、それに応じて、より適切な性能を有する液晶素子をより容易に得ることも可能となる。
【0056】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物は、好ましくは、一対の基板の内面間に挟持された際に、基板内面間距離の20倍以下の螺旋ピッチを有する。
【0057】
言い換えれば、液晶組成物の螺旋ピッチp及び液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際の基板内面間距離dは、好ましくは、p≦20dの関係を満たす。液晶組成物の螺旋ピッチp及び液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際の基板内面間距離dは、より好ましくは、p≦10dの関係を満たす。
【0058】
この場合には、液晶が、第二のらせんの向きの示す液晶組成物から第二のらせんの向きと反対の第一のらせんの向きを示す液晶複合体を形成する際における、見かけ上のネマティック相からカイラルネマティック相への相変化が、より確実に緩やかになるものと考えられる。その結果、重合性化合物の重合前後で液晶のらせんの向きが変わらない場合(たとえば、擬似ネマティック相の性質を有する、第一のらせんの向きを示す液晶組成物から重合性化合物を重合させて、第一のらせんの向きを示すカイラルネマティック液晶を得る場合)に比べて、より均一な液晶のドメイン構造を有する液晶複合体をより容易に得ることが可能となる。また、それに応じて、より適切な性能を有する液晶素子をより容易に得ることも可能となる。
【0059】
なお、上述したように、液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際の基板内面間距離dは、例えば、セルギャップと呼ばれる。
【0060】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物において、好ましくは、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物は、第二の向きの旋光性を備えた且つ複数の重合性官能基を有する化合物を含む。
【0061】
この場合には、第二の向きの旋光性を備えた且つ複数の重合性官能基を有する化合物を重合させることによって、架橋構造を有する重合体を提供することが可能となる。その結果、架橋構造を有する重合体によって、より安定化された液晶相を有する液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を提供することができる。また、それに応じて、より安定した性能を有する液晶素子を得ることも可能となる。例えば、液晶光学素子の透過−散乱特性を向上することが可能となる。
【0062】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物において、好ましくは、液晶組成物における重合性物質の含有率は、0.1質量%以上20質量%以下である。この場合には、より適切な含有率の重合性物質を重合させることによって、より適切な液晶のドメイン構造を有する液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を提供することができる。また、それに応じて、より適切な性能を有する液晶素子を得ることも可能となる。例えば、液晶光学素子の透過−散乱特性を向上することが可能となる。
【0063】
液晶組成物における重合性物質の含有率が、0.1質量%未満である場合には、液晶複合体において、液晶を重合体によって効果的な形状のドメイン構造に分割することが困難であることがある。その結果、所望の透過−散乱特性を有する液晶光学素子を得ることが困難であることがある。一方、液晶組成物における重合性物質の含有率が、20質量%を越えると、液晶複合体に電圧を印加したとき、液晶複合体のヘイズ値が増大することがある。
【0064】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物において、より好ましくは、液晶組成物における重合性物質の含有率は、0.5質量%以上10質量%以下である。この場合には、液晶複合体に電圧を印加しないとき、液晶複合体の散乱強度を高く、液晶複合体の透過−散乱の状態を切り替える電圧値を低くすることが可能となる。
【0065】
ただし、メソゲン構造を含む旋光性を示さない重合性化合物を使用する場合、該重合性化合物を使用することによって液晶複合体の機械的強度が向上する場合があるので、ヘイズ値が大きくなりすぎない程度に、メソゲン構造を含む重合性化合物の含有率を10質量%超としてもよい場合がある。従って、メソゲン構造を含む旋光性を示さない重合性化合物を含む液晶組成物における重合性物質の合計の含有率は、通常、20質量%であり、好ましくは15質量%である。
【0066】
より詳しくは、液晶組成物における第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物の含有率は、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物のHTPに依存して、0.1質量%以上20質量%以下の範囲内において適宜選択される。例えば、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物のHTPが、大きい(30〜60程度)場合は、液晶組成物における第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物の含有率は、好ましくは、0.5質量%以上5質量%以下である。一方、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物のHTPが、30よりも小さい場合は、好ましくは、0.5質量%以上10質量%以下である。
【0067】
同様に、液晶組成物における第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物の含有率は、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物のHTPに依存して、適宜決定される。例えば、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物のHTPが、大きい(20〜50程度)場合は、液晶組成物における第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物の含有率は、好ましくは、0.5質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは、1質量%以上5質量%以下である。
【0068】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物において、好ましくは、液晶組成物が、プレチルト角10°以下の一対の配向膜の間に挟持された場合、液晶組成物のツイスト角は、360°以下である。この場合には、重合性物質を重合させる前における第二のらせんの方向を示す液晶組成物が、ネマティック相により近い相を示すため、第二のらせんの方向を示す液晶組成物から、第一のらせんの方向を示すカイラルネマティック液晶を含む液晶複合体を、より容易に得ることが可能となる。また、重合性物質を重合させることによって得られる重合体に、カイラルネマティック液晶のドメイン構造を、より均一に得ることが可能となる。すなわち、より均一な液晶のドメイン構造を有する液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を提供することができる。また、それに応じて、より適切な性能を有する液晶素子を得ることも可能となる。
【0069】
なお、配向膜のプレチルト角は、10°以下に限定されず、60°以上であってもよい。さらに、配向膜にラビング処理を行ってもよい。
【0070】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物は、好ましくは、正の誘電率異方性を有する。液晶組成物の誘電率異方性(Δε)の極性は、正であってもよく負であってもよい。しかしながら、液晶複合体に電圧を印加しないときに光を散乱させ且つ液晶複合体に電圧を印加したときに光を透過させる液晶複合体を得るためには、液晶組成物は、正の誘電率異方性を有することが好ましい。また、液晶素子の駆動電圧を低減するためには、液晶組成物の誘電率異方性が大きい方が好ましい。ただし、誘電率異方性が大き過ぎると液晶組成物の電気絶縁性(比抵抗値)が低下するおそれがある。また、液晶複合体に電圧を印加しないときの液晶複合体の散乱強度を向上させて、液晶複合体の透過及び散乱のコントラストを向上させるためには、液晶組成物の屈折率異方性(Δn)を大きくすることが好ましい。ただし、屈折率異方性が大き過ぎると、紫外線に対する耐久性が低下するおそれがある。
【0071】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物は、重合性物質の重合を開始させる重合開始剤及び/又は重合性物質の重合を促進するための重合促進剤(重合触媒など)を含むこともある。特に、重合性組成物が、重合性物質の重合を開始させる重合開始剤を含むことが好ましい。例えば、重合性物質の光重合反応を用いる場合、ベンゾインエーテル系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系などの一般的な光重合開始剤を用いることができる。重合開始剤及び/又は重合促進剤を使用する場合、重合開始剤及び/又は重合促進剤の量は、好ましくは、液晶組成物中の重合性物質の総量に対して5質量%以下であり、より好ましくは、3質量%以下である。
【0072】
本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物には、好ましくは、液晶複合体の透過及び散乱のコントラスト及び/又は液晶複合体の安定性の向上を目的とする種々の化合物を添加することもできる。例えば、液晶複合体の透過及び散乱のコントラストの向上を目的として、アントラキノン系、スチリル系、アゾメチン系、アゾ系等のような二色性色素を用いることができる。その場合、二色性色素は、基本的に液晶化合物との相溶性を有し、重合性物質と不相溶性であることが好ましい。この他に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、各種可塑剤等の添加剤を、液晶複合体の安定性や耐久性向上の観点から、液晶組成物に添加してもよい。これらの化合物(二色性色素及び/又は各種の添加剤)を液晶組成物に添加する場合、液晶組成物におけるそれら化合物の含有率は、液晶組成物に対して、好ましくは、20質量%以下であり、より好ましくは、10質量%以下である。
【0073】
本発明の第二の実施形態は、液晶及び重合体を含む液晶複合体であって、本発明の第一の実施形態である液晶組成物に含まれる前記重合性物質を重合させることによって得られる、液晶複合体である。
【0074】
本発明の第二の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶複合体を提供することができる。また、本発明の第二の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示すことに加えて、電圧を印加しないとき、より低い透過率を示す液晶複合体を提供することができることもある。
【0075】
本発明の第二の実施形態に係る液晶複合体は、好ましくは、重合性物質に電圧を印加することなく、重合性物質を重合させることによって得られる。
【0076】
この場合には、第一のらせんの方向を示すカイラルネマティック液晶をより均一に配向させることが可能となり、電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶複合体を提供することが可能となる。
【0077】
本発明の第三の実施形態は、液晶及び重合体を含む液晶複合体並びに該液晶複合体に電圧を印加する手段を含む液晶素子であって、液晶複合体は、本発明の第二の実施形態である液晶複合体を含む、液晶素子である。
【0078】
ここで、液晶素子は、例えば、液晶に電圧を印加することによって、液晶分子の配列を制御して、入射する光の散乱状態を変化させる液晶光学素子であってもよい。また、液晶複合体に電圧を印加する手段は、例えば、液晶複合体を間に挟む互いに対向する一対の電極であってもよい。
【0079】
本発明の第三の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶複合体を含む液晶素子を提供することができる。また、本発明の第三の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示すことに加えて、電圧を印加しないとき、より低い透過率を示す液晶複合体を含む液晶素子を提供することができることもある。
【0080】
例えば、少なくとも一方が透明である一対の絶縁基板と、絶縁基板の各内面に形成された電極と、絶縁基板の内面間に挟持された液晶及び重合体を含む液晶複合体とを備えた液晶光学素子であって、液晶複合体は、本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物が絶縁基板の内面間に挟持されかつ液晶が配向された状態で液晶組成物中の重合性化合物を重合させることにより得られる液晶光学素子が提供される。これにより、一対の電極に電圧を印加したとき、すなわち、透過状態においてヘイズ値が低く、かつ、生産性に優れる液晶光学素子が得られる。ここで、液晶光学素子は、電極に電圧を印加しない状態で重合性化合物を重合させることによって得ることができる。さらに、液晶光学素子は、絶縁基板の少なくとも一方に、プレチルト角60°以上の配向膜が備えられていることもあり、この場合には、ラビング処理を省略することができる。
【0081】
図1は、本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子の構成の一例を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子1は、第1の透明基板11、第1の透明電極12、第1の絶縁膜13、第1の配向膜14、第2の透明基板21、第2の透明電極22、第2の絶縁膜23、第2の配向膜24、シール材30、スペーサ40および液晶複合体層50を備えている。
【0082】
具体的には、液晶光学素子1は、第1の透明基板11と第2の透明基板21とが互いに対向し、第1および第2の透明基板11、21の間で液晶複合体層50を挟持して構成されている。
【0083】
第1および第2の透明基板11、21は絶縁基板であり、例えば、ガラス基板や、ポリカーボネート、アクリル樹脂などからなる樹脂基板または樹脂フィルム基板等が用いられる。ただし、本実施の形態では、第1および第2の透明基板11、21としたが、必ずしも両方の基板が透明である必要はなく、一方のみが透明であってもよい。
【0084】
また、これらの絶縁基板の形状は平板でもよく、全面または一部に曲率を有していてもよい。絶縁基板の厚さは適宜選択され、一般には0.4〜10mmが好ましい。
【0085】
第1の透明基板11の内面上には、複数の第1の透明電極12がストライプ状に形成されている。一方、第2の透明基板21の内面上には、複数の第2の透明電極22がストライプ状に形成されている。なお。複数の第2の透明電極22は、複数の第1の透明電極12に対して略直交して交差するように形成されている。第1および第2の透明電極12、22は、例えば、ITO(酸化スズインジウム;Indium Tin Oxide)からなる。第1および第2の透明電極12、22のうち、いずれか一方は、Alや誘電体多層膜の反射電極であってもよい。もちろん、電極の形状は直交するストライプ状のものに限られることはなく、基板面全体が一つの電極であったり、特定のマークやキャラクターを表示できるものでもよい。
【0086】
第1および第2の絶縁膜13、23は、各々第1および第2の透明電極12、22を覆うように形成されている。第1および第2の絶縁膜13、23は、電気絶縁性を向上させるためのものであり、SiO、TiO、Al等の金属酸化物やその他の絶縁性物質からなる。なお、第1および第2の絶縁膜13、23はなくてもよい。
【0087】
第1および第2の絶縁膜13、23上には各々第1および第2の配向膜14、24が形成されている。配向膜14、24は、液晶複合体層50内の液晶を所定の方向に配向させるため、液晶と接するように形成されている。ここで、透明基板11、21のそれぞれに形成された配向膜のうち、少なくとも一方は、液晶を透明基板11、21の内面に垂直に配向させることが好ましい。具体的には、プレチルト角60°以上の配向膜とすることが好ましく、プレチルト角80°以上の配向膜がより好ましく、プレチルト角85°以上の配向膜が特に好ましい。これにより、ラビング処理を行わなくても、全体としてネマティック相を示す液晶組成物を均一に配向させることができる。これにより、重合後の液晶光学素子の光学特性を、大面積の場合であっても均一にすることができる。
【0088】
シール材30は、第1および第2の透明基板11、21の間において、第1および第2の透明基板11、21の周縁に沿って形成されている。第1および第2の透明基板11、21は、シール材30により接合されている。シール材30の材料には、例えば、紫外線硬化樹脂や熱硬化性樹脂が用いられる。第1および第2の透明基板11、21の内面間距離すなわち液晶複合体層50の厚さ(セルギャップ)は一定であり、シール材30の高さは、第1および第2の透明基板11、21の内面間の距離と等しくなっている。
【0089】
図1の液晶光学素子1はフラットな形状であるが、本発明の液晶光学素子はフラットな形状に限られず、用途によっては一部または全部に曲率を有していてもよい。すなわち、3次元の形状であってもよい。ただし、この場合においても、第1および第2の透明基板11、12の内面間距離すなわち液晶複合体層50の厚さ(セルギャップ)は一定である。
【0090】
スペーサ40は、第1および第2の透明基板11、21とシール材30に囲われた空間内に、均一に散布されている。スペーサ40は、セルギャップを制御する。セルギャップすなわちスペーサ40の直径は2〜50μmが好ましく、4〜30μmがさらに好ましい。セルギャップが小さすぎると透過状態と散乱状態のコントラストが低下し、大き過ぎると駆動電圧が上昇する。スペーサ40は、例えば、ガラス粒子、シリカ粒子、架橋したアクリル粒子等の硬質な材料からなる。なお、球状でなく、リブ状のスペーサを一方の基板に形成したものでもよい。
【0091】
液晶複合体層50は、第1および第2の透明基板11、21とシール材30に囲われた空間(以下、セル空間ともいう)内に封入されている。液晶複合体層50は、セル空間内に本発明の液晶組成物を充填し、セル空間内に液晶組成物が充填され、かつ液晶が配向された状態でその液晶組成物中の重合性化合物を重合により硬化して得られる、液晶複合体からなる。
【0092】
次に、誘電率異方性が正の液晶組成物を、電極付き基板に垂直方向に配向させて重合性化合物を重合させることにより得られる液晶光学素子1の動作について説明する。第1および第2の透明電極12、22の間に電圧を印加すると、電極間の電界により正の誘電率異方性を有する液晶が垂直配向して、液晶複合体層50は透過状態となる。一方、第1および第2の透明電極12、22の間に電圧を印加していないときは、上述の通り、重合反応の過程で出現するカイラルネマティック液晶が電極間でランダム配向しているため、液晶複合体層50は散乱状態となると推察される。このように電圧の印加、非印加により、散乱状態と透明状態が変化するため、所望の画像などを表示することができる。なお、負の誘電率異方性を有する液晶組成物を、電極付き基板に垂直方向に配向させて重合性化合物を重合させることにより得られる液晶光学素子1では、電圧印加時に散乱状態、電圧非印加時に透過状態となる液晶光学素子とすることもできる。
【0093】
本発明の第三の実施形態にかかる液晶素子に該当する液晶光学素子は、自動車のサンルーフに特に好適であるが、この他の用途にも利用することができる。例えば、窓(自動車用(サイドウインドウ、ドアガラス、リアクウォータ等)、建築用、航空機用、船舶用、鉄道車両用等)、天窓、間仕切り、扉等の建築の内装・外装の材料、サインボード、広告商用媒体、大型の間仕切り装置、投射型表示装置と組み合わせた投射用のスクリーン、カメラやデジタルカメラのファインダー等に適用することができる。冷蔵庫の扉に用いることによって、冷蔵庫の扉を開けることなく、内部に収容されている食品を確認することができる。さらに、図形やパターンを組み合わせて表示しあるいは文字などを表示させて、利用者に情報を提供することができる。また、透明板に必要に応じて、文字等の装飾を施してもよい。
【0094】
本発明の第四の実施形態は、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を含む液晶組成物を製造する、液晶組成物の製造方法であって、重合性物質は、第一の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物を含むと共に、液晶組成物が、重合性物質を重合させる前において、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される第二のらせんの方向を示すように、第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を混合することを含む、液晶組成物の製造方法である。
【0095】
本発明の第四の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物の製造方法を提供することができる。また、本発明の第四の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示すことに加えて、電圧を印加しないとき、より低い透過率を示す液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物の製造方法を提供することができることもある。
【0096】
また、ネマティック液晶の液晶性及び第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物の旋光性の両方をより容易に調整することが可能である。すなわち、液晶組成物又は液晶組成物から得られる液晶複合体に含まれるカイラルネマティック液晶の液晶性及びらせんの方向の両方をより容易に調整することが可能となる。それに応じて、液晶複合体を含む液晶素子の性能をより容易に調整することが可能となる。
【0097】
本発明の第四の実施形態に係る液晶組成物の製造方法において、好ましくは、重合性物質は、旋光性を示さない重合性化合物をさらに含む。
【0098】
この場合には、液晶組成物における旋光性を示さない重合性化合物の配合比を調整することによって、液晶組成物のらせんの方向に顕著な影響を及ぼすことなく、重合性物質を重合させることによって得られる重合体の弾性率を調整することが可能となる。また、液晶組成物に含まれる第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物及び第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物の配合比に顕著な影響を及ぼすことなく、重合性物質を重合させることによって得られる重合体の弾性率を調整することが可能となる。その結果、弾性率が調整された重合体によって、より安定化された液晶相を有する液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を製造することができる。また、それに応じて、より安定した性能を有する液晶素子を得ることも可能となる。例えば、液晶光学素子の透過−散乱特性を向上することが可能となる。
【0099】
また、本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物において、好ましくは、旋光性を示さない重合性化合物は、メソゲン構造を含まない旋光性を示さない重合性化合物を含む。
【0100】
この場合には、第一の向きの旋光性を備えたカイラルネマティック液晶の液晶性に顕著な影響を及ぼすことなく、重合性物質を重合させることによって得られる重合体の弾性率を調整することが可能となる。その結果、弾性率が調整された重合体によって、より安定化された液晶相を有する液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を製造することができる。また、それに応じて、より安定した性能を有する液晶素子を得ることも可能となる。
【0101】
本発明の第四の実施形態に係る液晶組成物の製造方法において、好ましくは、液晶組成物の螺旋ピッチは、前記液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際の基板内面間距離以上である。
【0102】
この場合には、本発明の液晶組成物は、らせんを巻いた状態でありながら、擬似的なネマティック相を示す。また、液晶が、第二のらせんの向きの示す液晶組成物から第二のらせんの向きと反対の第一のらせんの向きを示す液晶複合体を形成する際における、見かけ上のネマティック相からカイラルネマティック相への相変化が緩やかになるものと考えられる。その結果、より均一な液晶のドメイン構造を有する液晶複合体をより容易に得ることが可能となる。また、それに応じて、より適切な性能を有する液晶素子をより容易に得ることも可能となる。
【0103】
本発明の第四の実施形態に係る液晶組成物の製造方法において、好ましくは、液晶組成物の螺旋ピッチは、前記液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際の基板内面間距離の厚さの20倍以下である。
【0104】
この場合には、液晶が、第二のらせんの向きの示す液晶組成物から第二のらせんの向きと反対の第一のらせんの向きを示す液晶複合体を形成する際における、見かけ上のネマティック相からカイラルネマティック相への相変化が、より確実に緩やかになるものと考えられる。その結果、重合性化合物の重合前後で液晶のらせんの向きが変わらない場合(たとえば、擬似ネマティック相の性質を有する、第一のらせんの向きを示す液晶組成物から重合性化合物を重合させて、第一のらせんの向きを示すカイラルネマティック液晶を得る場合)に比べて、より均一な液晶のドメイン構造を有する液晶複合体をより容易に得ることが可能となる。また、それに応じて、より適切な性能を有する液晶素子をより容易に得ることも可能となる。
【0105】
本発明の第四の実施形態に係る液晶組成物の製造方法において、好ましくは、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物は、第二の向きの旋光性を備えた且つ複数の重合性官能基を有する化合物を含む。
【0106】
この場合には、第二の向きの旋光性を備えた且つ複数の重合性官能基を有する化合物を重合させることによって、架橋構造を有する重合体を提供することが可能となる。その結果、架橋構造を有する重合体によって、より安定化された液晶相を有する液晶複合体を得ることが可能な液晶組成物を提供することができる。また、それに応じて、より安定した性能を有する液晶素子を得ることも可能となる。例えば、液晶光学素子の透過−散乱特性を向上することが可能となる。
【0107】
本発明の第五の実施形態は、液晶及び重合体を含む液晶複合体を製造する、液晶複合体の製造方法であって、本発明の第一の実施形態である液晶組成物に含まれる重合性物質を重合させることを含む、液晶複合体の製造方法である。
【0108】
本発明の第五の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶複合体の製造方法を提供することができる。また、本発明の第五の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示すことに加えて、電圧を印加しないとき、より低い透過率を示す液晶複合体の製造方法を提供することができることもある。
【0109】
本発明の第五の実施形態に係る液晶複合体の製造方法は、好ましくは、重合性物質に電圧を印加することなく、重合性物質を重合させる。この場合には、第一のらせんの方向を備えたカイラルネマティック液晶をより均一に配向させることが可能となり、電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶複合体の製造方法を提供することが可能となる。
【0110】
本発明の第六の実施形態は、液晶及び重合体を含む液晶複合体並びに液晶複合体に電圧を印加する手段を含む液晶素子を製造する、液晶素子の製造方法であって、液晶複合体を、本発明の第五の実施形態である液晶複合体の製造方法を用いて、製造する、液晶素子の製造方法である。
【0111】
ここで、液晶素子は、例えば、液晶に電圧を印加することによって、液晶分子の配列を制御して、入射する光の散乱状態を変化させる液晶光学素子であってもよい。また、液晶複合体に電圧を印加する手段は、例えば、液晶複合体を間に挟む互いに対向する一対の電極であってもよい。
【0112】
本発明の第六の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示す液晶複合体を含む液晶素子の製造方法を提供することができる。また、本発明の第六の実施形態によれば、より高い生産性を有すると共に電圧を印加したとき、より低いヘイズ値を示すことに加えて、電圧を印加しないとき、より低い透過率を示す液晶複合体を含む液晶素子の製造方法を提供することができることもある。
【0113】
例えば、液晶及び重合体を含む液晶複合体を備えた液晶光学素子の製造方法であって、少なくとも一方が透明である一対の絶縁基板の各内面に電極を形成する工程と、本発明の第一の実施形態に係る液晶組成物を介し、絶縁基板の内面同士を対向させて絶縁基板を貼り合わせる工程と、液晶組成物が絶縁基板の内面間に挟持されかつ液晶が配向された状態で液晶組成物中の重合性化合物を重合させることにより液晶複合体を形成する工程とを備える液晶光学素子の製造方法が提供される。これにより、一対の電極に電圧を印加したとき、すなわち、透過状態においてヘイズ値が低く、かつ、生産性に優れる液晶光学素子が得られる。ここで、重合性化合物の重合を、電極に電圧を印加しない状態で行うことができる。さらに、絶縁基板の少なくとも一方に、プレチルト角60°以上の配向膜を形成する工程を備えるものであってもよく、この場合には、ラビング処理を省略することができる。
【0114】
次に、図1に示す液晶光学素子1の製造方法について説明する。図2は、本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子の製造フローの一例を示す図である。図2に示すように、本製造フローはST201〜ST207までの7ステップからなる。
【0115】
まず、第1および第2の透明基板11、21の内面上に第1および第2の透明電極12、22を形成するための透明電極膜を、スパッタリング法、真空蒸着法等により形成する(ST201)。透明電極膜としては、上述の通り、ITOが好適である。この透明電極膜を、例えば、フォトリソグラフィ法により所望の文字や模様の形状にパターニングして、第1および第2の透明電極12、22を形成する。
【0116】
次に、第1および第2の絶縁膜13、23を、ゾルゲル法、スパッタリング法、真空蒸着法等により、各々第1および第2の透明電極12、22を覆うように形成する(ST202)。
【0117】
次に、第1および第2の絶縁膜13、23上に、各々第1および第2の配向膜14、24を形成する(ST203)。第1および第2の配向膜14、24は、ネマティック相を示す液晶組成物を一対の電極付き基板間で所定の方向に配向させるため、液晶と接するように形成する。上述の通り、透明基板11、21のそれぞれに形成された配向膜14、24のうち、少なくとも一方を、液晶を透明基板11、21の内面に垂直に配向させるように形成する。具体的には、プレチルト角60°以上の配向膜を形成することが好ましい。プレチルト角が小さい、具体的には10°以下の配向膜を使用することもできるが、液晶組成物を均一に配向させるためにはラビング処理が必要になる。
【0118】
次に、第1または第2の透明基板11、21の内面上に、散布機を用いてスペーサ40の粒子を散布する(ST204)。
【0119】
次に、第1または第2の透明基板11、21の内面上に、当該第1または第2の透明基板11、21の周縁に沿って、シール材30を塗布する(ST205)。ここで、シール材30には、紫外線硬化樹脂、熱硬化性樹脂等を用いることができる。なお、シール材30がスペーサを含んでいてもよい。
【0120】
次に、上記第1または第2の透明基板11、21を貼り合わせ、これにより形成されたセル内に液晶組成物を充填する(ST206)。ここで、2カ所以上に設けたシール材の切り欠きの一方を液晶組成物に浸し、他方より吸引する(吸引法)。また、シール材の切り欠きを1カ所以上設けたセルを真空中で液晶組成物の入った容器に切り欠き部を浸漬した状態で大気圧に戻し、セルの内圧と大気圧の差圧にてセル中に液晶組成物を充填させることもできる(真空注入法)。さらに、ODF(one−drop−fill)法(液晶滴下法、真空滴下法などとも呼ばれる。)を用いて、第1または第2の透明基板11、21の内面に、所定量の液晶組成物を滴下し、減圧下で、第1および第2の透明基板11、21の間をシール材30により貼り合わせてもよい。このODF法は、真空装置を要するが、上記吸引法や真空注入法に比べ、短時間で、液晶組成物を充填でき、大型液晶光学素子の製造に効果的である。
【0121】
このように、上記の方法によって透明基板の内面間に液晶組成物を挟持することができる。透明基板の内面間に液晶組成物が挟持された状態において、液晶組成物はネマティック相を示すので、配向膜によって液晶を容易に一方向へ配向させることができる。
【0122】
なお、液晶組成物を介して第1または第2の透明基板11、21を貼り合わせる工程は、上記以外の方法を用いてもよい。
【0123】
次に、液晶組成物中の重合性化合物を重合させる(ST207)。すなわち、液晶組成物が透明基板の内面間に挟持され、かつ、液晶が配向した状態において重合性化合物を重合させる。重合体の重合前において液晶は一方向に配向しているため、電極間に電圧を印加しない状態で重合性化合物を重合させることができる。
【0124】
重合性化合物が光重合性化合物の場合には、紫外線光源などにより露光し、重合させる。露光により、光重合性化合物が重合し、液晶複合体層50が形成される。また、上述のODF法の場合にシール材30として光硬化性のシール材を使用した場合、同時にシール材を硬化させることもできる。なお、シール材30に光硬化性樹脂を用いない場合、シール材の硬化は別途行う必要がある。
【0125】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。ヘイズ値は、直読ヘーズコンピューター(スガ試験機社製、HGM−2)を用いて測定した。また、以下の実施例を含む例において、光重合開始剤としてはベンゾインイソプロピルエーテルを用いた。
【実施例1】
【0126】
[例1]
正の誘電率異方性を示すネマティック液晶(メルク社製、商品番号:BL−002、Tc=72℃、Δn=0.246、Δε=16)に、液晶組成物に含まれる光重合性化合物に対し約1質量%の光重合開始剤を加え、さらに左旋性の光学活性物質(メルク社製、商品番号:S−1011、前記ネマティック液晶中でのHTPが37)を、ネマティック液晶と左旋性の光学活性物質との合計量に対して2.3質量%添加し、ピッチが約1.2μmであり、液晶の螺旋の向きが左回りであるカイラルネマティック液晶Aを調製した。
【0127】
次に、右旋性の光学活性物質(BASF社製、商品名:Paliocolor LC756、前記ネマティック液晶中のHTPは56)(15mg)と前記カイラルネマティック液晶A(1g)とを混合し、カイラルネマティック液晶Aの量を調整することにより、表1に示す螺旋の方向とピッチ長を示す液晶組成物A1〜A6を得た。この際、計算上理想的なネマティック相を示す質量比(BL−002/S−1011/LC756=96.3/2.2/1.5)を基準にして、カイラルネマティック液晶Aの量を調整した。なお、前記右旋性の光学活性物質は光重合性化合物である。
【0128】
表1に、液晶組成物A1〜A6の螺旋の方向とピッチの値を示す。
【0129】
【表1】

表中のRは液晶の螺旋の方向が右回りであることを示し、Lは液晶の螺旋の方向が左回りであることを示す(以下の表においても同様)。液晶組成物のピッチは、傾きψがtanψ=0.027の楔セル(E.H.C社製、商品番号:KCRS−07X)に液晶組成物を充填し、セル内の液晶組成物の干渉縞の間隔を測定した値から計算にて求めた。
【0130】
ここで、表1に示すように、カイラルネマティック液晶Aの左回りの螺旋の方向Lと反対の右回りの螺旋の方向Rを示す液晶組成物A1〜A3が、本発明の実施例に該当し、カイラルネマティック液晶Aの左回りの螺旋の方向Lと同じの左回りの螺旋の方向Lを示す液晶組成物A4〜A6が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。
【0131】
次に、透明電極としてITO薄膜(インジウム錫酸化物)を内面に設けた一対のガラス基板のITO電極上に、絶縁層としてSiO−TiO系の金属酸化物薄膜を、セイミケミカル社製の「MIC−55」を用いて、約50nmの厚みに形成した。さらにその上にプレチルト角が約90°となるポリイミド薄膜からなる配向膜を形成した。一対のこのガラス基板を、直径10μmの樹脂ビーズからなるスペーサを介して対向させ、液晶組成物を注入するための孔以外をエポキシ樹脂により封止して10μmのセルギャップを持つセルを作製した。このセル内に前記液晶組成物A1〜A6を室温にて真空注入法により充填した後、注入孔を室温硬化性の封着材にて封止した。
【0132】
注入孔を封止した後にセルを観察したところ、セルはヘイズが小さい透明状態を示した。次に、室温にて、中心波長が365nmで照射強度が30W/mの紫外線をセルの両面から10分間照射して、重合性化合物を重合させることにより液晶光学素子A11〜A61を得た。なお、本発明の実施例に該当する液晶組成物A1〜A3を用いて製造された液晶光学素子A11〜A31が、本発明の実施例に該当し、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶組成物A4〜A6を用いて製造された液晶光学素子A41〜A61が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。また、液晶光学素子A11〜A61は、それぞれ、液晶組成物A1〜A6に電圧を印加することなく、得られたものである。
【0133】
紫外線照射後、液晶光学素子A11〜A61は白濁した状態を呈した。次に、前記一対のITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子A11〜A61は、均一に透明な状態またはややヘイズのある透明状態を示した。すなわち、電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子A11〜A61を得た。
【0134】
液晶光学素子A11〜A61の光学特性(Toff、V90、ヘイズ値)を表2に示す。
【0135】
【表2】

表2におけるToffとは電圧非印加時において集光角5°のシュリーレン光学系で測定した際の透過率を示す。電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子については、Toffの値は、小さいことが好ましい。V90とは、電圧非印加時の液晶光学素子の透過率と、電圧を印加していった際に透過率が最大となる点での透過率との間で、透過率の変化率が90%となった点の印加電圧を示す。電圧印加時に透過状態、電圧非印加時に散乱状態となる液晶光学素子いついては、V90の値は、小さいことが好ましい。ヘイズ値は、セルの表面に対して90°の入射角で光を入射し、且つ、液晶光学素子に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加した時の測定値である。電圧印加時に透過状態となる液晶光学素子については、ヘイズ値は、小さいことが好ましい。
【0136】
表2に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A11〜A31のToffの値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A41〜A61のToffの値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。また、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A11〜A31のV90の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A41〜A61のV90の値以下である傾向にあることを確認することができた。さらに、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A11〜A31のヘイズ値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A41〜A61のヘイズ値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。
【0137】
図3は液晶光学素子A11〜A61の光学特性を示すグラフである。グラフの横軸は液晶組成物A1〜A6のピッチの逆数の100倍の値を示す。また、グラフの縦軸はToffとヘイズ値との積の逆数の100倍の値であり、この値が大きいほど優れた光学特性を有する液晶光学液晶素子であることを示す。なお、液晶組成物中の重合性化合物の重合反応の前後で液晶の螺旋の方向に変化がない例を横軸の正の領域にプロットし、螺旋の方向が逆になる例を横軸の負の領域にプロットした。
【0138】
図3に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A11〜A31のToffとヘイズ値との積の逆数の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A41〜A61のToffとヘイズ値との積の逆数の値よりも大きい傾向にあることを確認することができた。
【実施例2】
【0139】
[例2]
直径13μmのスペーサを用い、セルギャップを13μmとした以外は例1と同様にして、液晶組成物A1〜A6をセルに注入し、注入孔を封止した。これらのセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。例1と同様にして、これらのセルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子A12〜A62を得た。なお、本発明の実施例に該当する液晶組成物A1〜A3を用いて製造された液晶光学素子A12〜A32が、本発明の実施例に該当し、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶組成物A4〜A6を用いて製造された液晶光学素子A42〜A62が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。また、液晶光学素子A12〜A62は、それぞれ、液晶組成物A1〜A6に電圧を印加することなく、得られたものである。
【0140】
紫外線照射後、液晶光学素子A12〜A62は白濁した状態を呈した。次に、前記一対のITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は均一な透明状態またはヘイズのある透明状態を示した。液晶光学素子A12〜A62の光学特性を表3および図4に示す。
【0141】
【表3】

表3に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A12〜A32のToffの値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A42〜A62のToffの値以下である傾向にあることを確認することができた。また、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A12〜A32のV90の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A42〜A62のV90の値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。さらに、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A12〜A32のヘイズ値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A42〜A62のヘイズ値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。
【0142】
図4に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A12〜A32のToffとヘイズ値との積の逆数の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A42〜A62のToffとヘイズ値との積の逆数の値よりも大きい傾向にあることを確認することができた。
【実施例3】
【0143】
[例3]
直径16μmのスペーサを用い、セルギャップを16μmとした以外は例1と同様にして、液晶組成物A1〜A6をセルに注入し、注入孔を封止した。これらのセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。例1と同様にして、これらのセルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子A13〜A63を得た。なお、本発明の実施例に該当する液晶組成物A1〜A3を用いて製造された液晶光学素子A13〜A33が、本発明の実施例に該当し、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶組成物A4〜A6を用いて製造された液晶光学素子A43〜A63が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。また、液晶光学素子A13〜A63は、それぞれ、液晶組成物A1〜A6に電圧を印加することなく、得られたものである。
【0144】
紫外線照射後、液晶光学素子A13〜A63は白濁した状態を呈した。次に、前記一対のITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は均一な透明状態またはヘイズのある透明状態を示した。液晶光学素子A13〜A63の光学特性を表4および図5に示す。
【0145】
【表4】

表4に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A23及びA33のToffの値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A43及びA53のToffの値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。また、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A23及びA33のV90の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A43及びA53のV90の値以下である傾向にあることを確認することができた。さらに、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A23及びA33のヘイズ値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A43及びA53のヘイズ値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。なお、液晶光学素子A13及びA63のToffの値、V90の値及びヘイズ値は、測定されていない。
【0146】
図5に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子A23及びA33のToffとヘイズ値との積の逆数の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子A43及びA53のToffとヘイズ値との積の逆数の値よりも大きい傾向にあることを確認することができた。
【実施例4】
【0147】
[例4]
(化合物(3)の合成)
ナスフラスコ中にてイソソルビド(0.5g,3.4mmol)、4−(6−アクリロイルオキシ−ヘキシルオキシ)安息香酸(2.0g,6.8mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1.3g,10.2mmol)、4−ジメチルアミノピリジン(0.03g)をジクロロメタン(100mL)に溶解させた。窒素雰囲気下において、約2時間室温で撹拌操作を行ったのち、40℃に加熱したオイルバス中にて約8時間加熱還流操作を行った。固形物をろ別した後、有機層をpH4程度のイオン交換水、重曹水、イオン交換水の順で洗浄し、抽出操作を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ別し、ロータリーエバポレータにてジクロロメタンを留去した。得られた残渣を、カラムクロマトグラフィーにて精製操作を行った(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=2:1)。得られた白色固形物を更にエタノールで再結晶し、目的化合物を得た。収量は0.62gであり、収率は26%であった。
【0148】
【化3】

正の誘電率異方性を示すネマティック液晶(メルク社製:品名BL−023、Tc=105℃、Δn=0.23、Δε=16)に、液晶組成物に含まれる光重合性化合物の総量に対し1質量%の光重合開始剤を加え、さらに左旋性の光学活性物質(メルク社製:S−1011、前記ネマティック液晶中のHTPが37)を、ネマティック液晶と左旋性の光学活性物質との合計量に対して2.3質量%添加し、ピッチが約1.2μmであり、液晶の螺旋の向きが左回りであるカイラルネマティック液晶Bを調製した。
【0149】
つぎに、下式(4)で表される光学不活性物質である重合性化合物を、カイラルネマティック液晶B及び化合物(4)の混合物である液晶組成物に対して1.6質量%となるように添加した。下記化合物(4)は光学不活性な物質であるので、該化合物を添加した後においても、カイラルネマチック液晶Bのピッチは変化しない。
【0150】
【化4】

さらに、合成例で得た式(3)で表される右旋性の光学活性物質(前記ネマティック液晶中のHTPが42)(2.0mg)とカイラルネマティック液晶B(1g)とを混合し、カイラルネマティック液晶Bの量を調整することにより、表5に示す螺旋の方向とピッチ長を示す液晶組成物B1〜B7を得た。この際、計算上理想的なネマティック相を示す質量比(BL−002/S−1011/化合物(3)/化合物(4)=94.3/2.2/1.9/1.6)を基準にして、カイラルネマティック液晶Bの量を調整した。なお、式(3)で表される右旋性の光学活性物質は光重合性化合物である。
【0151】
【表5】

ここで、表5に示すように、カイラルネマティック液晶Bの左回りの螺旋の方向Lと反対の右回りの螺旋の方向Rを示す液晶組成物B1〜B4が、本発明の実施例に該当し、カイラルネマティック液晶Bの左回りの螺旋の方向Lと同じの左回りの螺旋の方向Lを示す液晶組成物B5〜B7が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。
【0152】
次に、例1と同様にして、直径10μmのスペーサを用いてセルギャップが10μmのセルを作製した。このセルに液晶組成物B1〜B7を真空注入法にて注入し、注入孔を封止した。これらのセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。例1と同様にして、これらのセルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子B11〜B71を得た。なお、本発明の実施例に該当する液晶組成物B1〜B4を用いて製造された液晶光学素子B11〜B41が、本発明の実施例に該当し、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶組成物B5〜B7を用いて製造された液晶光学素子B51〜B71が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。また、液晶光学素子B11〜B71は、それぞれ、液晶組成物B1〜B7に電圧を印加することなく、得られたものである。
【0153】
紫外線照射後、液晶光学素子B11〜B71は白濁した状態を呈した。次に、前記一対のITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は均一な透明状態またはヘイズのある透明状態を示した。液晶光学素子B11〜B71の光学特性を表6および図6に示す。
【0154】
【表6】

表6に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B11〜B41のToffの値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B51〜B71のToffの値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。また、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B11〜B41のV90の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B51〜B71のV90の値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。さらに、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B11〜B41のヘイズ値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B51〜B71のヘイズ値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。
【0155】
図6に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B11〜B41のToffとヘイズ値との積の逆数の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B51〜B71のToffとヘイズ値との積の逆数の値よりも大きい傾向にあることを確認することができた。
【実施例5】
【0156】
[例5]
直径13μmのスペーサを用い、セルギャップを13μmとした以外は、例4と同様にして、液晶組成物B1〜B7をセルに注入し、注入孔を封止した。これらのセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。例1と同様にして、これらのセルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子B12〜B72を得た。なお、本発明の実施例に該当する液晶組成物B1〜B4を用いて製造された液晶光学素子B12〜B42が、本発明の実施例に該当し、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶組成物B5〜B7を用いて製造された液晶光学素子B52〜B72が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。また、液晶光学素子B12〜A72は、それぞれ、液晶組成物B1〜B7に電圧を印加することなく、得られたものである。
【0157】
紫外線照射後、液晶光学素子B12〜B72は白濁した状態を呈した。次に、前記一対のITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は均一な透明状態またはヘイズのある透明状態を示した。液晶光学素子B12〜B72の光学特性を表7及び図7に示す。
【0158】
【表7】

表7に示すように、本発明の実施例に該当する(液晶光学素子B12を除く)液晶光学素子B22〜B42のToffの値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B52〜B72のToffの値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。また、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B12〜B42のV90の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B52〜B72のV90の値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。さらに、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B12〜B42のヘイズ値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B52〜B72のヘイズ値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。
【0159】
図7に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B12〜B42のToffとヘイズ値との積の逆数の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B52〜B72のToffとヘイズ値との積の逆数の値よりも大きい傾向にあることを確認することができた。
【実施例6】
【0160】
[例6]
直径16μmのスペーサを用い、セルギャップを16μmとした以外は例4と同様にして、液晶組成物B1〜B7をセルに注入し、注入孔を封止した。これらのセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。例1と同様にして、これらのセルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子B13〜B73を得た。なお、本発明の実施例に該当する液晶組成物B1〜B4を用いて製造された液晶光学素子B13〜B43が、本発明の実施例に該当し、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶組成物B5〜B7を用いて製造された液晶光学素子B53〜B73が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。また、液晶光学素子B13〜A73は、それぞれ、液晶組成物B1〜B7に電圧を印加することなく、得られたものである。
【0161】
紫外線照射後、液晶光学素子B13〜B73は白濁した状態を呈した。次に、前記一対のITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は均一な透明状態またはヘイズのある透明状態を示した。液晶光学素子B13〜B73の光学特性を表8および図8に示す。
【0162】
表8に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B23〜B43のToffの値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B53及びB63のToffの値と同等であることが確認された。しかしながら、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B23〜B43のV90の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B53及びB63のV90の値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。さらに、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B23〜B43のヘイズ値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B53及びB63のヘイズ値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。なお、液晶光学素子B13及びB73のToffの値、V90の値及びヘイズ値は、測定されていない。
【0163】
図8に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子B23〜B43のToffとヘイズ値との積の逆数の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子B53及びB63のToffとヘイズ値との積の逆数の値と同等以上である傾向にあることを確認することができた。
【0164】
【表8】

【実施例7】
【0165】
[例7]
正の誘電率異方性を示すネマティック液晶(メルク社製:品名BL−023、Tc=105℃、Δn=0.23、Δε=16)に、液晶組成物に含まれる光重合性化合物に対し、1質量%の光重合開始剤を添加し、さらに右旋性の光学活性物質(メルク社製:R−1011、前記ネマティック液晶中のHTPが34.5)を、ネマティック液晶と右旋性の光学活性物質との合計量に対して1.8質量%添加し、ピッチが約1.5μmであり、液晶の螺旋の方向が右回りであるカイラルネマティック液晶Cを調製した。
【0166】
次に、下式(5)で表される左旋性の光学活性物質(前記ネマティック液晶中でのHTPが6)(11.2mg)とカイラルネマティック液晶C(1g)とを混合して、カイラルネマティック液晶Cの量を調整することにより、表9に示す螺旋の方向とピッチ長を示す液晶組成物C1〜C6を得た。この際、計算上理想的なネマティック相を示す質量比(BL−002/化合物(5)/R−1011=88.3/10.1/1.6)を基準にしてカイラルネマティック液晶Cの量を調整した。なお、下記化合物(5)は、重合性の光学活性物質である。
【0167】
【化5】

【0168】
【表9】

ここで、表9に示すように、カイラルネマティック液晶Cの右回りの螺旋の方向Rと反対の左回りの螺旋の方向Lを示す液晶組成物C1〜C3が、本発明の実施例に該当し、カイラルネマティック液晶Cの右回りの螺旋の方向Rと同じの右回りの螺旋の方向Rを示す液晶組成物C4〜C6が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。
【0169】
次に、例1と同様にして、直径13μmのスペーサを用いてセルギャップが13μmのセルを作製した。このセルに液晶組成物C1〜C6を真空注入法にて注入し、注入孔を封止した。これらのセルは均一なヘイズの小さい透明状態を示した。例1と同様にして、これらのセルの両基板面より紫外線を照射して液晶光学素子C11〜C61を得た。なお、本発明の実施例に該当する液晶組成物C1〜C3を用いて製造された液晶光学素子C11〜C31が、本発明の実施例に該当し、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶組成物C4〜C6を用いて製造された液晶光学素子C41〜C61が、本発明の実施例に対する参考例に該当する。また、液晶光学素子C11〜C61は、それぞれ、液晶組成物C1〜C6に電圧を印加することなく、得られたものである。
【0170】
紫外線照射後、液晶光学素子C11〜C61は白濁した状態を呈した。次に、前記一対のITO電極間に200Hz、60Vの矩形波電圧を印加したところ、液晶光学素子は均一な透明状態またはヘイズのある透明状態を示した。液晶光学素子C11〜C61の光学特性を表10および図9に示す。
【0171】
【表10】

表10に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子C11〜C31のToffの値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子C41〜C61のToffの値よりも小さい傾向にあることを確認することができた。また、本発明の実施例に該当する液晶光学素子C11〜C31のV90の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子C41〜C61のV90の値以下である傾向にあることを確認することができた。さらに、本発明の実施例に該当する液晶光学素子C11〜C31のヘイズ値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子C41〜C61のヘイズ値以下である傾向にあることを確認することができた。
【0172】
図9に示すように、本発明の実施例に該当する液晶光学素子C11〜C31のToffとヘイズ値との積の逆数の値は、おおむね、本発明の実施例に対する参考例に該当する液晶光学素子C41〜C61のToffとヘイズ値との積の逆数の値よりも大きい傾向にあることを確認することができた。
【0173】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を具体的に説明してきたが、本発明は、これらの実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、これら本発明の実施の形態及び実施例を、本発明の主旨及び範囲を逸脱することなく、変更又は変形することができる。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明を、液晶組成物及び液晶組成物の製造方法、並びに、液晶素子及び液晶素子の製造方法に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子の構成の一例を模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態にかかる液晶光学素子の製造フローの一例を示す図である。
【図3】図3は、液晶光学素子A11〜A61の光学特性を示す図である。
【図4】図4は、液晶光学素子A12〜A62の光学特性を示す図である。
【図5】図5は、液晶光学素子A13〜A63の光学特性を示す図である。
【図6】図6は、液晶光学素子B11〜B71の光学特性を示す図である。
【図7】図7は、液晶光学素子B12〜B72の光学特性を示す図である。
【図8】図8は、液晶光学素子B13〜B73の光学特性を示す図である。
【図9】図9は、液晶光学素子C11〜C61の光学特性を示す図である。
【符号の説明】
【0176】
1 液晶光学素子
11 第1の透明基板
12 第1の透明電極
13 第1の絶縁膜
14 第1の配向膜
21 第2の透明基板
22 第2の透明電極
23 第2の絶縁膜
24 第2の配向膜
30 シール材
40 スペーサ
50 液晶複合体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を含む液晶組成物において、
該重合性物質は、該第一の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物を含むと共に、
当該液晶組成物中の重合性物質の重合前において、該ネマティック液晶が、該第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される方向のらせんの向きを示すことを特徴とする、液晶組成物。
【請求項2】
前記重合性物質は、旋光性を示さない重合性化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の液晶組成物。
【請求項3】
前記液晶組成物は、一対の基板の内面間に挟持された際に、基板内面間距離以上の大きさの螺旋ピッチを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の液晶組成物。
【請求項4】
前記液晶組成物は、一対の基板の内面間に挟持された際に、基板内面間距離の20倍以下の大きさの螺旋ピッチを有することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の液晶組成物。
【請求項5】
前記第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物は、前記第二の向きの旋光性を備え且つ複数の重合性官能基を有する化合物を含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の液晶組成物。
【請求項6】
第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を含む液晶組成物を製造する、液晶組成物の製造方法において、
該重合性物質は、該第一の向きと反対の第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物を含むと共に、
該液晶組成物中の、該重合性物質を重合させる前において、該ネマティック液晶が、第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物によって誘起される方向のらせんの向きを示すように、該第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を混合することを特徴とする、液晶組成物の製造方法。
【請求項7】
前記重合性物質は、旋光性を示さない重合性化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項6に記載の液晶組成物の製造方法。
【請求項8】
前記液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際に、基板内面間距離以上の大きさの螺旋ピッチを示すように、該第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を混合することを特徴とする、請求項6または7に記載の液晶組成物の製造方法。
【請求項9】
前記液晶組成物が一対の基板の内面間に挟持された際に、基板内面間距離の20倍以下の大きさの螺旋ピッチを示すように、該第一の向きの旋光性を備えた非重合性化合物、ネマティック液晶及び重合性物質を混合することを特徴とする、請求項6乃至8のいずれかに記載の液晶組成物の製造方法。
【請求項10】
前記第二の向きの旋光性を備えた重合性化合物は、前記第二の向きの旋光性を備え且つ複数の重合性官能基を有する化合物を含むことを特徴とする、請求項6乃至9のいずれかに記載の液晶組成物の製造方法。
【請求項11】
少なくとも一方が透明である一対の絶縁基板と、前記絶縁基板の各内面に形成された電極と、前記絶縁基板の内面間に挟持された液晶及び重合体を含む液晶複合体とを含む液晶素子において、
前記液晶複合体は、請求項1〜5のいずれかに記載の液晶組成物が前記絶縁基板の内面間に挟持されかつ液晶が配向された状態で該液晶組成物中の重合性物質を重合させることによって得られることを特徴とする液晶素子。
【請求項12】
前記液晶組成物に電圧を印加することなく、前記液晶組成物中の前記重合性物質を重合させることによって得られることを特徴とする、請求項11に記載の液晶素子。
【請求項13】
液晶及び重合体を含む液晶複合体を製造する、液晶素子の製造方法において、
少なくとも一方が透明である一対の絶縁基板と、前記絶縁基板の各内面に電極を形成する工程と、請求項1乃至5のいずれかに記載の液晶組成物を介し、前記絶縁基板の内面同士を対向させて当該基板を貼り合わせる工程と、
前記液晶組成物が前記絶縁基板の内面間に挟持されかつ液晶が配向された状態で当該液晶組成物中に含まれる前記重合性物質を重合させることを含むことを特徴とする、液晶素子の製造方法。
【請求項14】
前記液晶組成物に電圧を印加することなく、前記液晶組成物中の重合性物質を重合させることを特徴とする、請求項13に記載の液晶素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−155471(P2009−155471A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335114(P2007−335114)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】