液晶表示装置
【課題】従来よりも視野角特性を向上させることが可能な液晶表示装置を提供する。
【解決手段】色度点補正部17において、視野角αに対応する視野角情報I1と所定の色変化量情報I2とを用いて、映像信号D1における色度点を適応的に補正する。この色変化量情報I2は、視野角αとそれに応じた表示光における色変化量(カラーシフト量)とを、(色差Δu’,v’)により対応づけてなるものである。そして、このような補正後の映像信号D2に基づいて、映像表示を行う。これにより、光学フィルムを用いる従来と比べ、視野角に応じた色変化現象(カラーシフト)が効果的に抑えられる。
【解決手段】色度点補正部17において、視野角αに対応する視野角情報I1と所定の色変化量情報I2とを用いて、映像信号D1における色度点を適応的に補正する。この色変化量情報I2は、視野角αとそれに応じた表示光における色変化量(カラーシフト量)とを、(色差Δu’,v’)により対応づけてなるものである。そして、このような補正後の映像信号D2に基づいて、映像表示を行う。これにより、光学フィルムを用いる従来と比べ、視野角に応じた色変化現象(カラーシフト)が効果的に抑えられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視野角特性を改善しつつ映像表示を行う液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、バックライトからの光を液晶によるシャッター作用によって変調することにより、映像表示を行っている。したがって、液晶表示装置では、ユーザが見るときの角度(視野角)を正面方向から斜め方向に移すのに従って、輝度やコントラスト、色域などが変化してくる。これは、斜め方向になると、液晶パネルから光が漏れてくるためである。
【0003】
そこで、この対策方法として、液晶の表示モード(例えば、IPS(In-Plane-Switching)モードやVA(Vertical Alignment;垂直配向)モード)によって改善する方法がある。また、他の方法として、位相差フィルムに代表される視野角補償フィルム(例えば、特許文献1参照)によって光学的に補正する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3724335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した位相差フィルムは、液晶ポリマーの配向による複屈折性の違いによって光の透過性を補正している。ところが、全ての角度に対応させるのは難しく、特定の角度になると光が透過しにくくなったりする場合(前者)や、特定の波長成分の光のみが透過してしまう場合(後者)もある。
【0006】
ここで、前者の場合、輝度全体が低下してしまう。一方、後者の場合、色のバランスが崩れて、色変化現象(カラーシフト)が生じてしまう。このように、液晶の表示モードや光学フィルム(位相差フィルム等)による補正だけでは限界があり、更なる視野角特性の改善が望まれていた。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、従来よりも視野角特性を向上させることが可能な液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液晶表示装置は、ユーザが表示映像を見る際の視認方向を示す視認方向情報を取得する取得部と、この取得部により取得された視認方向情報と、上記視認方向とそれに応じた表示光における色変化量とを色差により対応づけてなる色変化量情報と、を用いて、映像信号における色度点を適応的に補正する補正部と、この補正部による補正後の映像信号に基づいて映像表示を行う液晶表示部とを備えたものである。ここで、「視認方向」とは、例えば液晶表示部の正面方向(法線方向)を基準としたときの、ユーザが表示映像を視認する方向(角度)のことをいう。
【0009】
本発明の液晶表示装置では、上記視認方向を示す視認方向情報が取得され、この視認方向情報と上記色変化量情報とを用いて、映像信号における色度点が適応的に補正される。そして、このような補正後の映像信号に基づいて映像表示が行われる。これにより、視認方向(視認角)に応じて発生する色変化現象(カラーシフト)が、予め用意された上記色変化量情報を用いて、適応的に抑えられる。したがって、従来の視野角補償フィルム等の光学フィルムを用いた場合と比べ、視認方向に応じた色変化現象が効果的に抑えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶表示装置によれば、視認方向を示す視認角情報と上記色変化量情報とを用いて、映像信号における色度点を適応的に補正すると共に、このような補正後の映像信号に基づいて映像表示を行うようにしたので、光学フィルムを用いた場合と比べ、視認方向に応じた色変化現象を効果的に抑えることができる。よって、従来よりも視野角特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る液晶表示装置の適用例を表す斜視図である。
【図2】実施の形態に係る液晶表示装置の構成例を表すブロック図である。
【図3】各種方式の表示装置における視野角特性の一例を表す特性図である。
【図4】液晶表示装置の各画質モードにおける視野角と色変化量との関係の一例を表す特性図である。
【図5】白色表示時の液晶表示装置の各画質モードにおける波長とスペクトル強度との関係および色度点をそれぞれ視野角との関係の一例で表す特性図である。
【図6】液晶表示装置のシネマモードにおける波長と視野角に応じたスペクトル強度比との関係の一例を各色表示ごとに表す特性図である。
【図7】実施の形態に係る視野角に応じた色度点補正処理の概要を説明するための図である。
【図8】図7に示した色度点補正処理の際の演算処理例の概要を表す図である。
【図9】図8に示した演算処理を用いた色度点補正処理の一例を表す図である。
【図10】図8に示した演算処理を用いた色度点補正処理の他の例を表す図である。
【図11】本発明の変形例に係る視野角情報の取得手法について説明するための図である。
【図12】本発明の他の変形例に係る視野角情報の取得手法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(視野角に応じた色度点補正処理を行う液晶表示装置の例)
2.変形例
【0013】
<1.実施の形態>
[液晶表示装置の全体構成例]
図1は、本発明の一実施の形態に係る液晶表示装置(液晶表示装置1)の適用例を表すものであり、図2は、液晶表示装置1の機能ブロック構成を表すものである。この液晶表示装置1は、図1に示したように、ユーザ2が視聴する際の視認方向を示す視認方向情報としての視野角α(図中の法線方向P1に対してなす角度)に応じて、後述する色補正処理(色度点補正処理)を行うものである。このような液晶表示装置としては、例えば、液晶TV、PC用液晶モニターまたはモバイル用液晶ディスプレイなどが挙げられる。
【0014】
液晶表示装置1は、図2に示したように、Y系信号処理部11と、C系信号処理部12と、YCC/RGB変換部13と、De−γ変換部14と、受信部15と、色変化量保持部16と、色度点補正部17と、パネルγ補正部18と、液晶表示部19とを備える。
【0015】
Y系信号処理部11は、YCC規格の映像信号Dinに対して、Y(輝度)系の信号処理を行うものである。このような信号処理としては、例えば、コントラスト改善処理やエッジ改善処理などが挙げられる。
【0016】
C系信号処理部12は、YCC規格の映像信号Dinに対して、C(クロマ;色)系の信号処理を行うものである。このような信号処理としては、例えば、色信号の補完によるアップサンプリング処理や、色相調整処理などが挙げられる。
【0017】
YCC/RGB変換部13は、Y系信号処理部11およびC系信号処理部12による信号処理後の映像信号(YCC規格)を、RGB規格の映像信号に変換する処理を行うものである。
【0018】
De−γ変換部14は、YCC/RGB変換部により供給されるRGB規格の映像信号に対して、逆ガンマ変換処理を行うものである。この逆ガンマ(De−γ)変換処理とは、以下のような変換処理のことをいう。すなわち、映像信号が同じ信号の場合であっても、表示デバイス(CRT(Cathode Ray Tube)や液晶など)によって、人間に見える色は異なってくる。そのような色の違いを極力少なくするため、一般に、表示デバイスに合ったガンマ補正(γ補正)が行われるようになっている。したがって、例えば既にCRT向けにガンマ補正された映像信号を液晶画面に表示させたいときには、一旦CRT向けのガンマ補正を元に戻してから、液晶画面向けにガンマ補正を掛ける必要がある。そのようにしてガンマ補正を元に戻すことを、逆ガンマ補正(逆ガンマ変換処理)という。なお、このような逆ガンマ変換処理後の映像信号は、映像信号D1として色度点補正部17へ出力されるようになっている。
【0019】
受信部15は、図1に示したような、ユーザ2が視聴する際の視野角αに対応する視野角情報I1を取得し、色度点補正部17へ出力するものである。このような視野角情報I1の取得は、ここでは、ユーザ2の操作に応じた所定のTV用等のリモコン21(リモートコントロール装置)からの制御信号S1を受信する(検知する)ことにより実現している。すなわち、例えばTVの電源スイッチを入れたり、音量やチャンネルを変更する際に発信される、リモコン21からの赤外線の発信方向に応じて、視野角αを検知するようになっている。なお、このようなリモコン21を用いた視野角情報I1の取得方法としては、この他にも、例えばジャイロセンサなどの角度センサをリモコン21に内蔵させる方法なども挙げられる。
【0020】
色変化量情報保持部16は、視野角αとそれに応じた表示光における色変化量(カラーシフト量)とを色差により対応づけてなる色変化量情報I2を、例えば所定のメモリ等に保持するものである。このような色変化量情報I2は、後述する液晶表示パネル2における視野角特性に応じて予め用意されたものであり、表示光を構成する複数の色光ごとに色変化量が設定されるようになっている。なお、この色変化量情報I1の詳細については、後述する。
【0021】
色度点補正部17は、受信部15により取得された視野角情報I1と、色変化量保持部16において保持されている色変化量情報I2とを用いて、De−γ変換部14から供給される映像信号D1における色度点を適応的に補正するものである。このような色度点補正後の映像信号は、映像信号D2としてパネルγ補正部18へ出力されるようになっている。なお、この色度点補正部17による補正処理の詳細については、後述する。
【0022】
パネルγ補正部18は、色度点補正部17から供給される映像信号D1に対して、液晶表示部19におけるγ特性に対応したγ補正処理を行うものである。
【0023】
表示部19は、パネルγ補正部18から供給される映像信号に基づいて映像表示を行うものであり、液晶表示パネルを用いて構成されている。
【0024】
ここで、受信部15が本発明における「取得部」の一具体例に対応し、色度点補正部17が本発明における「補正部」の一具体例に対応する。
【0025】
[表示装置における視野角特性の例]
次に、図3〜図6を参照して、表示装置における視野角特性(具体的には、視野角に応じた色変化(カラーシフト))について説明する。
【0026】
最初に、図3は、各種方式の表示装置における視野角特性の一例を表すものであり、(A)は照度が0lx(ルクス)の照明下でのものを、(B)は照度が200lxの照明下でのものを、それぞれ表している。また、図中の「VA1,VA2」はそれぞれ、VAモードの液晶を用いた液晶表示装置の特性を表している。また、「IPS1〜IPS3」はそれぞれ、IPSモードの液晶を用いた液晶表示装置の特性を表している。また、「PDP」は、PDP(Plasma Display Panel)方式の表示装置の特性を表している。
【0027】
図3(A),(B)により、PDP方式の表示装置およびIPSモードの液晶表示装置では、VAモードの液晶表示装置と比べ、色域の変化量(色変化量)が少ないことが分かる。また、照明環境による違いでは、照度=200lxでは、PDP方式の表示装置での特性が悪くなった。これは、表面反射による外光の影響が大きいと考えられる。
【0028】
ここで、色域変化(色変化)がどのような波長領域の光(どのような色の色光)で起こっているかを調べるため、色光別の色差を測定した。ここで、色差は、以下の(1)式により規定される(Δu’,v’)を用いた。なお、本来であればΔEを用いるのが一般的であるが、このΔEは輝度成分の変化もが勘案されているため、ここでは純粋に色の変化のみを見るという目的により、(Δu’,v’)を用いている。
【0029】
【数1】
【0030】
図4は、液晶表示装置(VAモードのもの。以下同様。)の各画質モードにおける視野角αと色変化量(色差Δu’,v’)との関係の一例を表すものである。ここで、(A)はCinema(シネマ)モードにおける特性を、(B)はStandard(スタンダード)モードにおける特性を、(C)はDynamic(ダイナミック)モードにおける特性を、それぞれ表している。また、図中の「Red」,「Green」,「Blue」,「White」はそれぞれ、赤色表示時、緑色表示時、青色表示時、白色表示時における特性を、それぞれ表している。
【0031】
なお、測定角度(視野角αに対応)については、正面方向(0°)を中心に±75°度まで測定している。また、照明環境については、外部環境の影響を除くため、真っ暗の中(照度=0lx)で行っている。また、後述する色度点補正の際の補正の可否の基準としても用いられる色変化量(色差Δu’,v’)の基準値は、ここでは0.015としている。この0.015という値は、50%以上の人間が違和感のある色と認識する値であり、主観評価実験を行った結果より求められたものである(IDW‘08発表予稿集、P2147、タイトル「Measurement of Color Viewing Angle for Display」参照)。なお、図中において、この基準値を超えた部分については、○印で示している。
【0032】
図4(A)〜(C)により、画質モード別でいうと、シネマモードでは、視野角αの絶対値が所定の角度以上となると、赤色表示時および緑色表示時の場合で、基準値の0.015を超えている。同様に、スタンダードモードおよびダイナミックモードにおいても、視野角αの絶対値が大きくなると、白色表示時および緑色表示時の場合に、基準値を超えている。
【0033】
次に、分光スペクトル測定を行うことにより、色変化の際のどの波長成分の光が漏れているのかを特定した。図5は、白色表示時の液晶表示装置の各画質モードにおける、波長とスペクトル強度との関係および色度点をそれぞれ、視野角αとの関係の一例で表すものである。ここで、(A),(D)はシネマモードにおける特性を、(B),(E)はスタンダードモードにおける特性を、(C),(F)はダイナミックモードにおける特性を、それぞれ表している。また、(A)〜(C)はそれぞれ、波長と表示光のスペクトル強度との関係を表したものであり、視野角α=0°(正面方向),75°の特性と、視野角α=75°でのスペクトル強度を視野角α=0°でのスペクトル強度に正規化したものとを示している。また、(C)〜(F)はそれぞれ、視野角α=0°,75°のときの色域をCIE(Commission Internationale d'Eclairage)色域と共に、色度図(u’−v’色度図)上で表したものである。なお、図中の「W0」は、視野角α=0°のときの白色光の色度点を、「W75」は、視野角α=75°のときの白色光の色度点を、それぞれ表している。
【0034】
図5(A)〜(F)により、白色表示時には、スタンダードモードおよびダイナミックモードにおいて、図中の○印および矢印で示したように、青色成分が減少していることがわかる。つまり、視野角α=75°では、青色成分の光がフィルタリングされてしまって色バランスがずれてしまうために、色度図中の矢印で示すように、白色光の色度点が変化したものと予想される。
【0035】
なお、図示してはいないが、赤色表示時には、シネマモードにおいてスペクトル変化が見られた。つまり、青色成分から緑色成分の波長領域においてピークが現れるため、これが赤色成分と混色した結果、赤色光の色度点がシフトしてしまっている。なお、スタンダードモードおよびダイナミックモードでは、このような変化は現れなかった。
【0036】
また、同様に図示してはいないが、緑色表示時には、全ての画質モードにおいて、600nm付近の波長領域に存在する赤色成分のピーク成分が増加し、これが緑色成分と混色した結果、緑色光の色度点がシフトしてしまっている。
【0037】
また、同様に図示してはいないが、青色表示時には、シネマモードにおいて若干緑色成分の増加が見られたが、他の色の表示時と比べて大きな変化はなかった。
【0038】
次に、図6は、シネマモードにおける、これら各色表示時での波長と視野角αに応じたスペクトル強度比(α=75°のときの分光成分/α=0°のときの分光成分)との関係をまとめたものである。
【0039】
図6中に示した符号P2R,P2G,P2Bにより、全ての色の表示時において、基準値(=1.00)から外れてしまっている不純成分のスペクトルが存在していることがわかる。
【0040】
以上のことから、波長ごとのスペクトル変化が、色変化現象(カラーシフト)に起因したものであることがわかり、これらの強度変化量(比)は、定量的に求められることが分かった。具体的には、例えば図7(B),(C)に示したように、視野角α=0°,75°のときの各色表示光の色度点の値の違いにより、色変化量を定量的に求めることができる。そして、このような視野角に応じた色度点の値の違いにより、例えば図7(A)中の矢印P3R,P3Gにそれぞれ示したような色変化現象が生じることになる。
【0041】
このようにして、本実施の形態では、前述の色変化量情報I2は、(色差Δu’,v’)により規定される色変化量と、表示光の分光スペクトルとの関係を示す測定結果に基づいて、予め表示装置ごとに作成され用意されたものである。具体的には、上記したように、視野角αに応じたスペクトル強度の増減傾向およびその際の波長領域を特定することにより作成されたものである。そして、この色変化量情報I2では、表示光を構成する複数の色光ごとに、(色差Δu’,v’)により規定される色変化量が設定されるようになっている。
【0042】
[色度点補正処理の例]
そこで、本実施の形態の液晶表示装置1では、前述の色度点補正部17において、色変化量情報I2を用いて、分光スペクトルの増減分を角度ごとに調整する補正を行っている。これにより、例えば図7(A)中の矢印P4R,P4Gにそれぞれ示したように、変化した色度点を元に戻し、色変化現象を改善することができるからである。
【0043】
具体的には、色度点補正部17は、例えば図8中の(2)式で示したように、入力した映像信号D1に対するCSC(Color Space Converter)の際の係数により構成される色変化量情報I2を用いて、映像信号D1に対する補正を行っている。すなわち、色差信号をRGB信号に変換する際マトリクス演算に用いるCSC(カラースペースコンバーター)の係数を、分光スペクトルの増減を相殺できるように調整している。
【0044】
このCSCは、一般的には、γ特性やパネル色度点に合わせるために行われるものである。すなわち、まず、最近では、HD(high Definition)放送信号の色域(BT709)以上の色域を有する広色域パネルを用いたTVが市販されている。このような広色域化の手法としては、バックライトの光源を、広色域のCCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)やLED(Light Emitting Diode)により構成することで実現している。したがって、現状の信号波をより広色域のTVで見るには、パネルの色度点を従来のBT709の色度点に合わせてやる必要がある。そして、このような処理を上記したCSCのマトリクス計算によって行うようになっている。そこで、本実施の形態では、視野角αによって色度点が変化する現象(色変化現象)においても、このようなCSCの係数を用いて同様に補正するようにしている。なお、このCSCの係数においては、視野角αの角度(例えば、5°間隔)ごとに、スペクトルの増減に合わせて値を設定しておくのが望ましい。
【0045】
具体的には、(2)式において、任意の視野角αの絶対値|α|でのRGB信号を求めるためのマトリクスM(|α|)は、この絶対値|α|によって変化する色域テーブルI2(|α|)(色変化量情報I2に対応;変数)と、基本となるBT709の色域ステーブル(定数)との乗算により規定される。ここで、変数項には、正面方向(|α|=0°)の場合、液晶表示パネルの最大色域が使用されるため、その液晶表示パネルの最大色度点が用いられる。一方、角度別の値(|α|>0°のときの値)には、その視野角αに応じて色度点から求めた変数項を用いるようにする。なお、この角度別の色度点はあらかじめ測定しておき、XYZの三刺激値として求め、例えば3×3のマトリクスによってRGB信号に変換するようにする。
【0046】
[液晶表示装置1の動作例]
次に、本実施の形態の液晶表示装置1の動作について説明する。
【0047】
この液晶表示装置1では、映像信号Dinが、Y系信号処理部11およびC系信号処理部12によってそれぞれY系およびC系の信号処理がなされ、YCC/RGB変換部13によって、YCC規格からRGB規格の映像信号に変換される。次に、変換された映像信号は、De−γ変換部14によって所定の変換処理がなされ、映像信号D1として色度点補正部17へ入力する。この色度点変換部17では、以下説明する色度点補正処理がなされ、補正後の映像信号D2としてパネルγ補正部18へ入力する。そして、この映像信号D2がパネルγ補正部18によって補正され、補正後の映像信号に基づいて液晶表示部19において映像表示が行われる。
【0048】
この際、ユーザ2の操作に応じたリモコン21からの制御信号S1が受信部15によって受信されると、このユーザ2の視野角αの情報(視野角情報I1)が受信部15により得られる。
【0049】
すると、色度点補正部17では、この視野角情報I1と、色変化量情報保持部16において保持されている色変化量情報I2とを用いて、映像信号D1における色度点を適応的に補正し、映像信号D2を生成する。
【0050】
具体的には、色度点補正部17では、前述の図8中の(2)式を用いて、映像信号D1に対する補正を行う。
【0051】
すなわち、|α|=0°のときには、例えば図9中の(3)式で示したようなCSCの係数を用いたマトリクス演算となり、|α|=75°のときには、例えば図10中の(4)式で示したようなCSCの係数を用いたマトリクス演算となる。
【0052】
このようにして、本実施の形態では、視野角情報I1と上記色変化量情報I2とを用いて、映像信号D1における色度点が適応的に補正され、補正後の映像信号D2に基づいて映像表示が行われる。これにより、従来の視野角補償フィルム等の光学フィルムを用いた場合と比べ、視野角に応じて発生する色変化現象が適応的に抑えられる。
【0053】
以上のように本実施の形態では、色度点補正部17において、視野角αに対応する視野角情報I1と上記色変化量情報I2とを用いて、映像信号D1における色度点を適応的に補正すると共に、このような補正後の映像信号D2に基づいて映像表示を行うようにしたので、光学フィルムを用いた場合と比べ、視野角に応じた色変化現象を効果的に抑えることができる。よって、従来よりも視野角特性を向上させることが可能となる。
【0054】
これにより、ユーザ2がどのような位置にいる場合でも、色変化の少ない映像を見ることができる。
【0055】
また、光学フィルムによる視野角改善効果では補えない部分を信号処理によって行うことができると共に、演算処理の係数を変えるだけでよいので、光学フィルムのように高価な材料費がかからない。
【0056】
さらに、ユーザ2の操作に応じたリモコン21からの制御信号S1に基づいて視野角情報I2を取得するようにしたので、従来より用いているリモコンを使用して簡単な操作により実現することができる。
【0057】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0058】
例えば、上記実施の形態では、ユーザ2がある視野角にいたときに、自動的にその角度に対応した設定値で色変化の調整を行うようにした場合について説明したが、例えば、ある視野角において色変化量が所定の閾値以上となった場合に補正するようにしてもよい。すなわち、色変化量の上限を決め(例えば、前述の0.015)、その上限以上の値になった場合に補正するようにしてもよい。
【0059】
また、上記実施の形態では、ユーザ2の操作に応じたリモコン21からの制御信号S1を受信することによって視野角情報I1を取得する場合について説明したが、視野角情報I1の取得方法はこの場合には限られない。具体的には、例えば図11に示したように、液晶表示装置1側にカメラ151やIR(赤外線)センサ152、RF(無線)センサ(図示せず)等を内蔵させることによって、視野角情報I1を取得するようにしてもよい。また、これらの機能を組み合わせるようにしてもよい。
【0060】
さらに、一般的に、TV等の液晶表示装置1の設置場所は、例えば図12(A),(B)に示したように、部屋のコーナーや壁31側となっている。そして、ユーザはそれに対してソファ32などが置かれている環境で視聴している。したがって、図に示すように、液晶表示装置1の設置場所やソファ32に座る位置によって、視野角が大きく異なってくる(図中のユーザ2A,2Bおよび視野角α,α21,α22参照)。したがって、不特定多数のユーザ(例えば、2人のユーザ2A,2B)が存在する場合には、上記したように、液晶表示装置1側にカメラ151やIRセンサ152等を内蔵させることによって、視野角情報I1を取得する方法が考えられる。
【0061】
加えて、上記実施の形態では、いわゆる直視型の液晶表示装置について説明したが、本発明は、例えば、いわゆる前面投射型あるいは背面放射型の液晶表示装置(液晶プロジェクタ)においても適用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…液晶表示装置、11…Y系信号処理部、12…C系信号処理部、13…YCC/RGB変換部、14…De−γ変換部、15…受信部、151…カメラ、152…IRセンサ、16…色変化量情報保持部、17…色度点補正部、18…パネルγ補正部、19…表示部、2,2A,2B…ユーザ、21…リモコン(リモートコントロール装置)、31…壁、32…ソファ、S1…制御信号、α,α11,α12,α21,α22…視野角(視認方向)、Din,D1,D2…映像信号、I1…視野角情報、I2(|α|)…色変化量情報(色域テーブル)、M(|α|)…CSCマトリクス。
【技術分野】
【0001】
本発明は、視野角特性を改善しつつ映像表示を行う液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、バックライトからの光を液晶によるシャッター作用によって変調することにより、映像表示を行っている。したがって、液晶表示装置では、ユーザが見るときの角度(視野角)を正面方向から斜め方向に移すのに従って、輝度やコントラスト、色域などが変化してくる。これは、斜め方向になると、液晶パネルから光が漏れてくるためである。
【0003】
そこで、この対策方法として、液晶の表示モード(例えば、IPS(In-Plane-Switching)モードやVA(Vertical Alignment;垂直配向)モード)によって改善する方法がある。また、他の方法として、位相差フィルムに代表される視野角補償フィルム(例えば、特許文献1参照)によって光学的に補正する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3724335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した位相差フィルムは、液晶ポリマーの配向による複屈折性の違いによって光の透過性を補正している。ところが、全ての角度に対応させるのは難しく、特定の角度になると光が透過しにくくなったりする場合(前者)や、特定の波長成分の光のみが透過してしまう場合(後者)もある。
【0006】
ここで、前者の場合、輝度全体が低下してしまう。一方、後者の場合、色のバランスが崩れて、色変化現象(カラーシフト)が生じてしまう。このように、液晶の表示モードや光学フィルム(位相差フィルム等)による補正だけでは限界があり、更なる視野角特性の改善が望まれていた。
【0007】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、従来よりも視野角特性を向上させることが可能な液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液晶表示装置は、ユーザが表示映像を見る際の視認方向を示す視認方向情報を取得する取得部と、この取得部により取得された視認方向情報と、上記視認方向とそれに応じた表示光における色変化量とを色差により対応づけてなる色変化量情報と、を用いて、映像信号における色度点を適応的に補正する補正部と、この補正部による補正後の映像信号に基づいて映像表示を行う液晶表示部とを備えたものである。ここで、「視認方向」とは、例えば液晶表示部の正面方向(法線方向)を基準としたときの、ユーザが表示映像を視認する方向(角度)のことをいう。
【0009】
本発明の液晶表示装置では、上記視認方向を示す視認方向情報が取得され、この視認方向情報と上記色変化量情報とを用いて、映像信号における色度点が適応的に補正される。そして、このような補正後の映像信号に基づいて映像表示が行われる。これにより、視認方向(視認角)に応じて発生する色変化現象(カラーシフト)が、予め用意された上記色変化量情報を用いて、適応的に抑えられる。したがって、従来の視野角補償フィルム等の光学フィルムを用いた場合と比べ、視認方向に応じた色変化現象が効果的に抑えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶表示装置によれば、視認方向を示す視認角情報と上記色変化量情報とを用いて、映像信号における色度点を適応的に補正すると共に、このような補正後の映像信号に基づいて映像表示を行うようにしたので、光学フィルムを用いた場合と比べ、視認方向に応じた色変化現象を効果的に抑えることができる。よって、従来よりも視野角特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る液晶表示装置の適用例を表す斜視図である。
【図2】実施の形態に係る液晶表示装置の構成例を表すブロック図である。
【図3】各種方式の表示装置における視野角特性の一例を表す特性図である。
【図4】液晶表示装置の各画質モードにおける視野角と色変化量との関係の一例を表す特性図である。
【図5】白色表示時の液晶表示装置の各画質モードにおける波長とスペクトル強度との関係および色度点をそれぞれ視野角との関係の一例で表す特性図である。
【図6】液晶表示装置のシネマモードにおける波長と視野角に応じたスペクトル強度比との関係の一例を各色表示ごとに表す特性図である。
【図7】実施の形態に係る視野角に応じた色度点補正処理の概要を説明するための図である。
【図8】図7に示した色度点補正処理の際の演算処理例の概要を表す図である。
【図9】図8に示した演算処理を用いた色度点補正処理の一例を表す図である。
【図10】図8に示した演算処理を用いた色度点補正処理の他の例を表す図である。
【図11】本発明の変形例に係る視野角情報の取得手法について説明するための図である。
【図12】本発明の他の変形例に係る視野角情報の取得手法について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(視野角に応じた色度点補正処理を行う液晶表示装置の例)
2.変形例
【0013】
<1.実施の形態>
[液晶表示装置の全体構成例]
図1は、本発明の一実施の形態に係る液晶表示装置(液晶表示装置1)の適用例を表すものであり、図2は、液晶表示装置1の機能ブロック構成を表すものである。この液晶表示装置1は、図1に示したように、ユーザ2が視聴する際の視認方向を示す視認方向情報としての視野角α(図中の法線方向P1に対してなす角度)に応じて、後述する色補正処理(色度点補正処理)を行うものである。このような液晶表示装置としては、例えば、液晶TV、PC用液晶モニターまたはモバイル用液晶ディスプレイなどが挙げられる。
【0014】
液晶表示装置1は、図2に示したように、Y系信号処理部11と、C系信号処理部12と、YCC/RGB変換部13と、De−γ変換部14と、受信部15と、色変化量保持部16と、色度点補正部17と、パネルγ補正部18と、液晶表示部19とを備える。
【0015】
Y系信号処理部11は、YCC規格の映像信号Dinに対して、Y(輝度)系の信号処理を行うものである。このような信号処理としては、例えば、コントラスト改善処理やエッジ改善処理などが挙げられる。
【0016】
C系信号処理部12は、YCC規格の映像信号Dinに対して、C(クロマ;色)系の信号処理を行うものである。このような信号処理としては、例えば、色信号の補完によるアップサンプリング処理や、色相調整処理などが挙げられる。
【0017】
YCC/RGB変換部13は、Y系信号処理部11およびC系信号処理部12による信号処理後の映像信号(YCC規格)を、RGB規格の映像信号に変換する処理を行うものである。
【0018】
De−γ変換部14は、YCC/RGB変換部により供給されるRGB規格の映像信号に対して、逆ガンマ変換処理を行うものである。この逆ガンマ(De−γ)変換処理とは、以下のような変換処理のことをいう。すなわち、映像信号が同じ信号の場合であっても、表示デバイス(CRT(Cathode Ray Tube)や液晶など)によって、人間に見える色は異なってくる。そのような色の違いを極力少なくするため、一般に、表示デバイスに合ったガンマ補正(γ補正)が行われるようになっている。したがって、例えば既にCRT向けにガンマ補正された映像信号を液晶画面に表示させたいときには、一旦CRT向けのガンマ補正を元に戻してから、液晶画面向けにガンマ補正を掛ける必要がある。そのようにしてガンマ補正を元に戻すことを、逆ガンマ補正(逆ガンマ変換処理)という。なお、このような逆ガンマ変換処理後の映像信号は、映像信号D1として色度点補正部17へ出力されるようになっている。
【0019】
受信部15は、図1に示したような、ユーザ2が視聴する際の視野角αに対応する視野角情報I1を取得し、色度点補正部17へ出力するものである。このような視野角情報I1の取得は、ここでは、ユーザ2の操作に応じた所定のTV用等のリモコン21(リモートコントロール装置)からの制御信号S1を受信する(検知する)ことにより実現している。すなわち、例えばTVの電源スイッチを入れたり、音量やチャンネルを変更する際に発信される、リモコン21からの赤外線の発信方向に応じて、視野角αを検知するようになっている。なお、このようなリモコン21を用いた視野角情報I1の取得方法としては、この他にも、例えばジャイロセンサなどの角度センサをリモコン21に内蔵させる方法なども挙げられる。
【0020】
色変化量情報保持部16は、視野角αとそれに応じた表示光における色変化量(カラーシフト量)とを色差により対応づけてなる色変化量情報I2を、例えば所定のメモリ等に保持するものである。このような色変化量情報I2は、後述する液晶表示パネル2における視野角特性に応じて予め用意されたものであり、表示光を構成する複数の色光ごとに色変化量が設定されるようになっている。なお、この色変化量情報I1の詳細については、後述する。
【0021】
色度点補正部17は、受信部15により取得された視野角情報I1と、色変化量保持部16において保持されている色変化量情報I2とを用いて、De−γ変換部14から供給される映像信号D1における色度点を適応的に補正するものである。このような色度点補正後の映像信号は、映像信号D2としてパネルγ補正部18へ出力されるようになっている。なお、この色度点補正部17による補正処理の詳細については、後述する。
【0022】
パネルγ補正部18は、色度点補正部17から供給される映像信号D1に対して、液晶表示部19におけるγ特性に対応したγ補正処理を行うものである。
【0023】
表示部19は、パネルγ補正部18から供給される映像信号に基づいて映像表示を行うものであり、液晶表示パネルを用いて構成されている。
【0024】
ここで、受信部15が本発明における「取得部」の一具体例に対応し、色度点補正部17が本発明における「補正部」の一具体例に対応する。
【0025】
[表示装置における視野角特性の例]
次に、図3〜図6を参照して、表示装置における視野角特性(具体的には、視野角に応じた色変化(カラーシフト))について説明する。
【0026】
最初に、図3は、各種方式の表示装置における視野角特性の一例を表すものであり、(A)は照度が0lx(ルクス)の照明下でのものを、(B)は照度が200lxの照明下でのものを、それぞれ表している。また、図中の「VA1,VA2」はそれぞれ、VAモードの液晶を用いた液晶表示装置の特性を表している。また、「IPS1〜IPS3」はそれぞれ、IPSモードの液晶を用いた液晶表示装置の特性を表している。また、「PDP」は、PDP(Plasma Display Panel)方式の表示装置の特性を表している。
【0027】
図3(A),(B)により、PDP方式の表示装置およびIPSモードの液晶表示装置では、VAモードの液晶表示装置と比べ、色域の変化量(色変化量)が少ないことが分かる。また、照明環境による違いでは、照度=200lxでは、PDP方式の表示装置での特性が悪くなった。これは、表面反射による外光の影響が大きいと考えられる。
【0028】
ここで、色域変化(色変化)がどのような波長領域の光(どのような色の色光)で起こっているかを調べるため、色光別の色差を測定した。ここで、色差は、以下の(1)式により規定される(Δu’,v’)を用いた。なお、本来であればΔEを用いるのが一般的であるが、このΔEは輝度成分の変化もが勘案されているため、ここでは純粋に色の変化のみを見るという目的により、(Δu’,v’)を用いている。
【0029】
【数1】
【0030】
図4は、液晶表示装置(VAモードのもの。以下同様。)の各画質モードにおける視野角αと色変化量(色差Δu’,v’)との関係の一例を表すものである。ここで、(A)はCinema(シネマ)モードにおける特性を、(B)はStandard(スタンダード)モードにおける特性を、(C)はDynamic(ダイナミック)モードにおける特性を、それぞれ表している。また、図中の「Red」,「Green」,「Blue」,「White」はそれぞれ、赤色表示時、緑色表示時、青色表示時、白色表示時における特性を、それぞれ表している。
【0031】
なお、測定角度(視野角αに対応)については、正面方向(0°)を中心に±75°度まで測定している。また、照明環境については、外部環境の影響を除くため、真っ暗の中(照度=0lx)で行っている。また、後述する色度点補正の際の補正の可否の基準としても用いられる色変化量(色差Δu’,v’)の基準値は、ここでは0.015としている。この0.015という値は、50%以上の人間が違和感のある色と認識する値であり、主観評価実験を行った結果より求められたものである(IDW‘08発表予稿集、P2147、タイトル「Measurement of Color Viewing Angle for Display」参照)。なお、図中において、この基準値を超えた部分については、○印で示している。
【0032】
図4(A)〜(C)により、画質モード別でいうと、シネマモードでは、視野角αの絶対値が所定の角度以上となると、赤色表示時および緑色表示時の場合で、基準値の0.015を超えている。同様に、スタンダードモードおよびダイナミックモードにおいても、視野角αの絶対値が大きくなると、白色表示時および緑色表示時の場合に、基準値を超えている。
【0033】
次に、分光スペクトル測定を行うことにより、色変化の際のどの波長成分の光が漏れているのかを特定した。図5は、白色表示時の液晶表示装置の各画質モードにおける、波長とスペクトル強度との関係および色度点をそれぞれ、視野角αとの関係の一例で表すものである。ここで、(A),(D)はシネマモードにおける特性を、(B),(E)はスタンダードモードにおける特性を、(C),(F)はダイナミックモードにおける特性を、それぞれ表している。また、(A)〜(C)はそれぞれ、波長と表示光のスペクトル強度との関係を表したものであり、視野角α=0°(正面方向),75°の特性と、視野角α=75°でのスペクトル強度を視野角α=0°でのスペクトル強度に正規化したものとを示している。また、(C)〜(F)はそれぞれ、視野角α=0°,75°のときの色域をCIE(Commission Internationale d'Eclairage)色域と共に、色度図(u’−v’色度図)上で表したものである。なお、図中の「W0」は、視野角α=0°のときの白色光の色度点を、「W75」は、視野角α=75°のときの白色光の色度点を、それぞれ表している。
【0034】
図5(A)〜(F)により、白色表示時には、スタンダードモードおよびダイナミックモードにおいて、図中の○印および矢印で示したように、青色成分が減少していることがわかる。つまり、視野角α=75°では、青色成分の光がフィルタリングされてしまって色バランスがずれてしまうために、色度図中の矢印で示すように、白色光の色度点が変化したものと予想される。
【0035】
なお、図示してはいないが、赤色表示時には、シネマモードにおいてスペクトル変化が見られた。つまり、青色成分から緑色成分の波長領域においてピークが現れるため、これが赤色成分と混色した結果、赤色光の色度点がシフトしてしまっている。なお、スタンダードモードおよびダイナミックモードでは、このような変化は現れなかった。
【0036】
また、同様に図示してはいないが、緑色表示時には、全ての画質モードにおいて、600nm付近の波長領域に存在する赤色成分のピーク成分が増加し、これが緑色成分と混色した結果、緑色光の色度点がシフトしてしまっている。
【0037】
また、同様に図示してはいないが、青色表示時には、シネマモードにおいて若干緑色成分の増加が見られたが、他の色の表示時と比べて大きな変化はなかった。
【0038】
次に、図6は、シネマモードにおける、これら各色表示時での波長と視野角αに応じたスペクトル強度比(α=75°のときの分光成分/α=0°のときの分光成分)との関係をまとめたものである。
【0039】
図6中に示した符号P2R,P2G,P2Bにより、全ての色の表示時において、基準値(=1.00)から外れてしまっている不純成分のスペクトルが存在していることがわかる。
【0040】
以上のことから、波長ごとのスペクトル変化が、色変化現象(カラーシフト)に起因したものであることがわかり、これらの強度変化量(比)は、定量的に求められることが分かった。具体的には、例えば図7(B),(C)に示したように、視野角α=0°,75°のときの各色表示光の色度点の値の違いにより、色変化量を定量的に求めることができる。そして、このような視野角に応じた色度点の値の違いにより、例えば図7(A)中の矢印P3R,P3Gにそれぞれ示したような色変化現象が生じることになる。
【0041】
このようにして、本実施の形態では、前述の色変化量情報I2は、(色差Δu’,v’)により規定される色変化量と、表示光の分光スペクトルとの関係を示す測定結果に基づいて、予め表示装置ごとに作成され用意されたものである。具体的には、上記したように、視野角αに応じたスペクトル強度の増減傾向およびその際の波長領域を特定することにより作成されたものである。そして、この色変化量情報I2では、表示光を構成する複数の色光ごとに、(色差Δu’,v’)により規定される色変化量が設定されるようになっている。
【0042】
[色度点補正処理の例]
そこで、本実施の形態の液晶表示装置1では、前述の色度点補正部17において、色変化量情報I2を用いて、分光スペクトルの増減分を角度ごとに調整する補正を行っている。これにより、例えば図7(A)中の矢印P4R,P4Gにそれぞれ示したように、変化した色度点を元に戻し、色変化現象を改善することができるからである。
【0043】
具体的には、色度点補正部17は、例えば図8中の(2)式で示したように、入力した映像信号D1に対するCSC(Color Space Converter)の際の係数により構成される色変化量情報I2を用いて、映像信号D1に対する補正を行っている。すなわち、色差信号をRGB信号に変換する際マトリクス演算に用いるCSC(カラースペースコンバーター)の係数を、分光スペクトルの増減を相殺できるように調整している。
【0044】
このCSCは、一般的には、γ特性やパネル色度点に合わせるために行われるものである。すなわち、まず、最近では、HD(high Definition)放送信号の色域(BT709)以上の色域を有する広色域パネルを用いたTVが市販されている。このような広色域化の手法としては、バックライトの光源を、広色域のCCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)やLED(Light Emitting Diode)により構成することで実現している。したがって、現状の信号波をより広色域のTVで見るには、パネルの色度点を従来のBT709の色度点に合わせてやる必要がある。そして、このような処理を上記したCSCのマトリクス計算によって行うようになっている。そこで、本実施の形態では、視野角αによって色度点が変化する現象(色変化現象)においても、このようなCSCの係数を用いて同様に補正するようにしている。なお、このCSCの係数においては、視野角αの角度(例えば、5°間隔)ごとに、スペクトルの増減に合わせて値を設定しておくのが望ましい。
【0045】
具体的には、(2)式において、任意の視野角αの絶対値|α|でのRGB信号を求めるためのマトリクスM(|α|)は、この絶対値|α|によって変化する色域テーブルI2(|α|)(色変化量情報I2に対応;変数)と、基本となるBT709の色域ステーブル(定数)との乗算により規定される。ここで、変数項には、正面方向(|α|=0°)の場合、液晶表示パネルの最大色域が使用されるため、その液晶表示パネルの最大色度点が用いられる。一方、角度別の値(|α|>0°のときの値)には、その視野角αに応じて色度点から求めた変数項を用いるようにする。なお、この角度別の色度点はあらかじめ測定しておき、XYZの三刺激値として求め、例えば3×3のマトリクスによってRGB信号に変換するようにする。
【0046】
[液晶表示装置1の動作例]
次に、本実施の形態の液晶表示装置1の動作について説明する。
【0047】
この液晶表示装置1では、映像信号Dinが、Y系信号処理部11およびC系信号処理部12によってそれぞれY系およびC系の信号処理がなされ、YCC/RGB変換部13によって、YCC規格からRGB規格の映像信号に変換される。次に、変換された映像信号は、De−γ変換部14によって所定の変換処理がなされ、映像信号D1として色度点補正部17へ入力する。この色度点変換部17では、以下説明する色度点補正処理がなされ、補正後の映像信号D2としてパネルγ補正部18へ入力する。そして、この映像信号D2がパネルγ補正部18によって補正され、補正後の映像信号に基づいて液晶表示部19において映像表示が行われる。
【0048】
この際、ユーザ2の操作に応じたリモコン21からの制御信号S1が受信部15によって受信されると、このユーザ2の視野角αの情報(視野角情報I1)が受信部15により得られる。
【0049】
すると、色度点補正部17では、この視野角情報I1と、色変化量情報保持部16において保持されている色変化量情報I2とを用いて、映像信号D1における色度点を適応的に補正し、映像信号D2を生成する。
【0050】
具体的には、色度点補正部17では、前述の図8中の(2)式を用いて、映像信号D1に対する補正を行う。
【0051】
すなわち、|α|=0°のときには、例えば図9中の(3)式で示したようなCSCの係数を用いたマトリクス演算となり、|α|=75°のときには、例えば図10中の(4)式で示したようなCSCの係数を用いたマトリクス演算となる。
【0052】
このようにして、本実施の形態では、視野角情報I1と上記色変化量情報I2とを用いて、映像信号D1における色度点が適応的に補正され、補正後の映像信号D2に基づいて映像表示が行われる。これにより、従来の視野角補償フィルム等の光学フィルムを用いた場合と比べ、視野角に応じて発生する色変化現象が適応的に抑えられる。
【0053】
以上のように本実施の形態では、色度点補正部17において、視野角αに対応する視野角情報I1と上記色変化量情報I2とを用いて、映像信号D1における色度点を適応的に補正すると共に、このような補正後の映像信号D2に基づいて映像表示を行うようにしたので、光学フィルムを用いた場合と比べ、視野角に応じた色変化現象を効果的に抑えることができる。よって、従来よりも視野角特性を向上させることが可能となる。
【0054】
これにより、ユーザ2がどのような位置にいる場合でも、色変化の少ない映像を見ることができる。
【0055】
また、光学フィルムによる視野角改善効果では補えない部分を信号処理によって行うことができると共に、演算処理の係数を変えるだけでよいので、光学フィルムのように高価な材料費がかからない。
【0056】
さらに、ユーザ2の操作に応じたリモコン21からの制御信号S1に基づいて視野角情報I2を取得するようにしたので、従来より用いているリモコンを使用して簡単な操作により実現することができる。
【0057】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0058】
例えば、上記実施の形態では、ユーザ2がある視野角にいたときに、自動的にその角度に対応した設定値で色変化の調整を行うようにした場合について説明したが、例えば、ある視野角において色変化量が所定の閾値以上となった場合に補正するようにしてもよい。すなわち、色変化量の上限を決め(例えば、前述の0.015)、その上限以上の値になった場合に補正するようにしてもよい。
【0059】
また、上記実施の形態では、ユーザ2の操作に応じたリモコン21からの制御信号S1を受信することによって視野角情報I1を取得する場合について説明したが、視野角情報I1の取得方法はこの場合には限られない。具体的には、例えば図11に示したように、液晶表示装置1側にカメラ151やIR(赤外線)センサ152、RF(無線)センサ(図示せず)等を内蔵させることによって、視野角情報I1を取得するようにしてもよい。また、これらの機能を組み合わせるようにしてもよい。
【0060】
さらに、一般的に、TV等の液晶表示装置1の設置場所は、例えば図12(A),(B)に示したように、部屋のコーナーや壁31側となっている。そして、ユーザはそれに対してソファ32などが置かれている環境で視聴している。したがって、図に示すように、液晶表示装置1の設置場所やソファ32に座る位置によって、視野角が大きく異なってくる(図中のユーザ2A,2Bおよび視野角α,α21,α22参照)。したがって、不特定多数のユーザ(例えば、2人のユーザ2A,2B)が存在する場合には、上記したように、液晶表示装置1側にカメラ151やIRセンサ152等を内蔵させることによって、視野角情報I1を取得する方法が考えられる。
【0061】
加えて、上記実施の形態では、いわゆる直視型の液晶表示装置について説明したが、本発明は、例えば、いわゆる前面投射型あるいは背面放射型の液晶表示装置(液晶プロジェクタ)においても適用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…液晶表示装置、11…Y系信号処理部、12…C系信号処理部、13…YCC/RGB変換部、14…De−γ変換部、15…受信部、151…カメラ、152…IRセンサ、16…色変化量情報保持部、17…色度点補正部、18…パネルγ補正部、19…表示部、2,2A,2B…ユーザ、21…リモコン(リモートコントロール装置)、31…壁、32…ソファ、S1…制御信号、α,α11,α12,α21,α22…視野角(視認方向)、Din,D1,D2…映像信号、I1…視野角情報、I2(|α|)…色変化量情報(色域テーブル)、M(|α|)…CSCマトリクス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが表示映像を見る際の視認方向を示す視認方向情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得された視認方向情報と、前記視認方向とそれに応じた表示光における色変化量とを色差により対応づけてなる色変化量情報と、を用いて、映像信号における色度点を適応的に補正する補正部と、
前記補正部による補正後の映像信号に基づいて映像表示を行う液晶表示部と
を備えた液晶表示装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記視認方向情報に対応する視認方向において、前記色変化量が所定の閾値以上となった場合に、前記色度点を補正する
請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記色変化量情報において、前記表示光を構成する複数の色光ごとに、前記色変化量が設定されている
請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記色変化量情報は、前記映像信号に対するCSC(Color Space Converter)の際の係数を用いて構成されている
請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記色変化量情報は、前記色変化量と前記表示光の分光スペクトルとの関係を示す測定結果において、前記視認方向に応じたスペクトル強度の増減傾向およびその際の波長領域を特定することにより、作成されたものである
請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記取得部は、ユーザの操作に応じた所定のリモートコントロール装置からの信号を検知することにより、前記視認方向情報を取得する
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【請求項1】
ユーザが表示映像を見る際の視認方向を示す視認方向情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得された視認方向情報と、前記視認方向とそれに応じた表示光における色変化量とを色差により対応づけてなる色変化量情報と、を用いて、映像信号における色度点を適応的に補正する補正部と、
前記補正部による補正後の映像信号に基づいて映像表示を行う液晶表示部と
を備えた液晶表示装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記視認方向情報に対応する視認方向において、前記色変化量が所定の閾値以上となった場合に、前記色度点を補正する
請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項3】
前記色変化量情報において、前記表示光を構成する複数の色光ごとに、前記色変化量が設定されている
請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項4】
前記色変化量情報は、前記映像信号に対するCSC(Color Space Converter)の際の係数を用いて構成されている
請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項5】
前記色変化量情報は、前記色変化量と前記表示光の分光スペクトルとの関係を示す測定結果において、前記視認方向に応じたスペクトル強度の増減傾向およびその際の波長領域を特定することにより、作成されたものである
請求項1に記載の液晶表示装置。
【請求項6】
前記取得部は、ユーザの操作に応じた所定のリモートコントロール装置からの信号を検知することにより、前記視認方向情報を取得する
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−169868(P2010−169868A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11927(P2009−11927)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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