説明

液晶装置、液晶装置の製造方法、及び電子機器

【課題】紫外線吸収剤を液晶に添加することなく耐光性を向上させる。
【解決手段】液晶分子の配向方向を規制する有機性配向膜16,22が形成された一対の基板10,20と、上記一対の基板10,20間に狭持して配置されるとともに上記有機性配向膜16,22によって液晶分子の配向方向が規制される液晶50とを備える液晶装置であって、上記有機性配向膜16,22は、少なくとも表層部がフッ化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置、液晶装置の製造方法、及び電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクタ等の投射型表示装置の光変調手段として用いられる液晶装置は、一対の基板間の周縁部にシール材が配設され、その中央部に液晶が封止されて構成されている。その一対の基板の内面側には液晶に電圧を印加する電極が形成され、これら電極の内面側には非選択電圧印加時において液晶分子の配向を制御する配向膜が形成されている。このような構成によって液晶装置は、非選択電圧印加時と選択電圧印加時との液晶分子の配向変化に基づいて光源光を変調し、画像光を作製するようになっている。
【0003】
ところで、前述した配向膜としては、側鎖アルキル基を付加したポリイミド等からなる高分子膜の表面に、ラビング処理を施した有機性配向膜が一般に用いられている。ラビング処理とは、柔らかい布からなるローラで高分子膜の表面を所定方向に擦ることにより、高分子を所定方向に配向させるものである。その配向性高分子と液晶分子との分子間相互作用により、配向性高分子に沿って液晶分子が配置されるので、非選択電圧印加時の液晶分子を所定方向に配向させることができるようになっている。また、側鎖アルキル基により、液晶分子にプレチルトを与えることができるようになっている。
【0004】
しかしながら、このような有機配向膜を備えた液晶装置をプロジェクタの光変調手段として採用した場合、光源から照射される強い光によって液晶や配向膜が劣化される虞がある。
より詳細には、光源から照射される強い光によって液晶分子に含まれているフッ素イオンがフッ素ラジカルになり、有機性配向膜に含まれる水素または配向膜表面の付着水と反応してフッ化水素となる。そして、当該フッ化水素によって液晶や配向膜が劣化する。
【0005】
これに対して特許文献1には、液晶中に紫外線吸収剤を添加することによって、液晶装置の耐光性を向上させる技術が提案されている。
【特許文献1】特開平8−176549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、液晶中に紫外線吸収剤を添加した場合には、イオン不純物が液晶中に混合され、焼きつき、ライフサイクルコミッショニング変動が悪化するという問題が生じる。
また、紫外線吸収剤による液晶分子の性能変化によって、液晶の応答速度やプレチルト角に影響を与える虞がある。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、紫外線吸収剤を液晶に添加することなく耐光性を向上させることによって液晶装置の信頼性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の液晶装置は、液晶分子の配向方向を規制する有機性配向膜が形成された一対の基板と、上記一対の基板間に狭持して配置されるとともに上記有機性配向膜によって液晶分子の配向方向が規制される液晶とを備える液晶装置であって、上記有機性配向膜が、少なくとも表層部がフッ化されていることを特徴とする。
【0009】
このような特徴を有する本発明の液晶装置によれば、有機性配向膜の少なくとも表層部がフッ化されている。すなわち、有機性配向膜の液晶と接触する部位が少なくともフッ化されている。
フッ化された有機性配向膜は、フッ化される前の有機性配向膜と比較して含む水素量が少ない。つまり、本発明の液晶装置が備える有機性配向膜は、従来の液晶装置が備える有機性配向膜と比較して、液晶分子に含まれるフッ素イオンが光に照射されることによって生じるフッ素ラジカルと反応する水素量が少ない。したがって、光が照射された場合のフッ化水素の生成量が減少する。
よって、本発明の液晶装置によれば、紫外線吸収剤を液晶に添加することなく耐光性を向上させることができ、これによって信頼性が向上する。
また、フッ化された有機性配向膜は、フッ化される前の有機性配向膜と比較して撥水性が高い。このため、本発明の液晶装置によれば、上述の耐光性に加え耐湿性も向上する。
【0010】
また、本発明の液晶装置においては、上記有機性配向膜のフッ化された部位の一般式が下記一般式(1)によって表されるという構成を採用する。
【0011】
【化1】

【0012】
フッ化される前の有機性配向膜の一般式は、下記一般式(2)によって表される。
【0013】
【化2】

【0014】
一般式(1)と一般式(2)とを比較すると、フッ化される前の有機性配向膜が含むCH基がCF基と置換されている。すなわち、本発明の液晶装置が備える有機性配向膜は、従来の液晶装置が備える有機性配向膜と比較して、液晶分子に含まれるフッ素イオンが光に照射されることによって生じるフッ素ラジカルと反応する水素量が少ない。
したがって、本発明の液晶装置によれば、耐光性が向上される。
【0015】
次に、本発明の液晶装置の製造方法は、液晶分子の配向方向を規制する有機性配向膜が形成された一対の基板と、上記一対の基板間に狭持して配置されるとともに上記有機性配向膜によって液晶分子の配向方向が規制される液晶とを備える液晶装置の製造方法であって、上記基板上に有機性配向膜を形成する配向膜形成工程と、上記配向膜形成工程にて形成された上記有機性配向膜に対してフッ化処理を行うフッ化処理工程と、上記有機性配向膜に対してラビング処理を行うラビング処理工程と、上記フッ化処理工程及び上記ラビング処理工程後に上記一対の基板を貼り合せるとともに上記基板間に液晶を封入する工程とを有することを特徴とする。
【0016】
このような特徴を有する本発明の液晶装置によれば、フッ化処理工程において、有機性配向膜がフッ化処理される。フッ化処理された有機性配向膜は、フッ化される前の有機性配向膜と比較して含む水素量が少ない。つまり、本発明の液晶装置の製造方法によってフッ化処理された有機性配向膜は、従来の液晶装置が備える有機性配向膜と比較して、液晶分子に含まれるフッ素イオンが光に照射されることによって生じるフッ素ラジカルと反応する水素量が少ない。したがって、光が照射された場合のフッ化水素の生成量が減少する。
よって、本発明の液晶装置の製造方法によれば、紫外線吸収剤を液晶に添加することなく耐光性を向上させることができ、これによって信頼性が向上された液晶装置を製造することができる。
また、フッ化された有機性配向膜は、フッ化される前の有機性配向膜と比較して撥水性が高い。このため、本発明の液晶装置の製造方法によれば、上述の耐光性に加え耐湿性が向上された液晶装置を製造することができる。
【0017】
また、本発明の液晶装置の製造方法においては、上記フッ化処理工程が、大気プラズマ処理によって上記有機性配向膜に対してフッ化処理を行う工程であるという構成を採用する。
このような構成を採用することによって、一般式(2)において表される有機性配向膜の少なくとも表層部が、大気プラズマによって一般式(1)において表されるものとなる。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
一般式(1)と一般式(2)とを比較すると、フッ化される前の有機性配向膜が含むCH基がCF基と置換されている。すなわち、本発明の液晶装置の製造方法によって形成されるフッ化処理された有機性配向膜は、従来の液晶装置が備える有機性配向膜と比較して、液晶分子に含まれるフッ素イオンが光に照射されることによって生じるフッ素ラジカルと反応する水素量が少ない。
したがって、本発明の液晶装置の製造方法によれば、耐光性が向上された液晶装置を製造することができる。
【0021】
また、本発明の液晶装置の製造方法においては、上記ラビング処理工程が、上記フッ化処理工程の後に行うという構成を採用することができる。
ラビング処理後の有機性配向膜をフッ化処理した場合には、ラビング処理による液晶分子の配向規制力に影響が出る虞がある。
これに対して本構成は、ラビング処理工程が、フッ化処理工程の後に行われるため、所望の配向規制力を発揮させることが可能となる。
【0022】
次に、本発明の電子機器は、本発明の液晶装置を備えることを特徴とする。
本発明の液晶装置は、耐光性及び耐湿性に優れ、信頼性が高いものである。このため、本発明の電子機器も信頼性が高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る液晶装置、液晶装置の製造方法、及び電子機器の一実施形態について説明する。なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0024】
(液晶装置)
以下、本発明を詳しく説明する。まず、本発明における液晶装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態となる液晶装置60の概略構成を説明するためのTFTアレイ基板の平面図、図2は、液晶装置60の等価回路図、図3は、液晶装置の画素構成を示す説明図、図4は、液晶装置の断面構造の説明図であり、図3のA−A’線における矢視側断面図である。また、図5は、液晶装置60の一製造工程を示す説明図である。
【0025】
図4に示すように本実施形態の液晶装置60は、互いに対向する一対の基板10、20間に液晶50を挟持してなるもので、一対の基板10、20の内面側(液晶層側)に有機性配向膜16、22が設けられたものである。そして、特にこれら有機性配向膜16、22の表層部がフッ化されていることを特徴としている。
【0026】
液晶装置60の概略構成を説明すると、図1に示すように一対の基板10、20のうちの一方であるTFTアレイ基板(基板)10の中央には、画像作製領域101が形成されている。この画像作製領域101の周縁部にはシール材19が配設されており、これによって画像作製領域101には液晶50(図4参照)が封入されている。この液晶50は、TFTアレイ基板10上に液晶が直接塗布されて形成されたもので、シール材19には液晶の注入口が設けられていない、いわゆる封口レス構造となっているが、注入口を設けたシール材19を採用してもよい。このシール材19の外側には、後述する走査線に走査信号を供給する走査線駆動素子110と、後述するデータ線に画像信号を供給するデータ線駆動素子120とが実装されている。これら駆動素子110、120から、TFTアレイ基板10の端部の接続端子79にかけて、配線76が引き廻されている。
【0027】
一方、TFTアレイ基板10に貼り合わされる対向基板20(図4参照)には、共通電極21(図4参照)が形成されている。この共通電極21は、画像作製領域101のほぼ全域に形成されたもので、その四隅には基板間導通部70が設けられている。この基板間導通部70からは、接続端子79にかけて配線78が引き廻されている。
そして、外部から入力された各種信号が、接続端子79を介して画像作製領域101に供給されることにより、液晶装置が駆動されるようになっている。
【0028】
液晶装置の上記画像作製領域101には、図2の等価回路図に示すように、これを構成すべく複数のドットがマトリクス状に配置されており、これら各ドットには、それぞれ画素電極9が形成されている。また、その画素電極9には、該画素電極9への通電制御を行うためのスイッチング素子であるTFT素子30が接続されている。また、このTFT素子30のソースにはデータ線6aが接続されている。各データ線6aには、前述したデータ線駆動素子から画像信号S1、S2、…、Snが供給されるようになっている。
【0029】
また、TFT素子30のゲートには走査線3aが接続されている。走査線3aには、前述した走査線駆動素子から所定のタイミングでパルス的に走査信号G1、G2、…、Gmが供給される。一方、TFT素子30のドレインには画素電極9が接続されている。そして、走査線3aから供給された走査信号G1、G2、…、Gmにより、スイッチング素子であるTFT素子30を一定期間だけオンにすると、データ線6aから供給された画像信号S1、S2、…、Snが、画素電極9を介して各ドットの液晶に所定のタイミングで書き込まれるようになっている。
【0030】
液晶に書き込まれた所定レベルの画像信号S1、S2、…、Snは、画素電極9と後述する共通電極との間に形成される液晶容量で一定期間保持される。なお、保持された画像信号S1、S2、…、Snがリークするのを防止するため、画素電極9と容量線3bとの間に蓄積容量17が形成され、液晶容量と並列に配置されている。このように、液晶に電圧信号が印加されると、印加された電圧レベルにより液晶分子の配向状態が変化する。これにより、液晶に入射した光源光が変調されて、画像光が作製されるようになっている。
【0031】
また、本実施形態の液晶装置では、図3の画素構成説明図に示すように、TFTアレイ基板上に、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide、以下ITOという)等の透明導電性材料からなる矩形状の画素電極9(破線9aによりその輪郭を示す)が、マトリクス状に配列形成されている。さらに、画素電極9の縦横の境界に沿って、データ線6a、走査線3aおよび容量線3bが設けられている。本実施形態では、各画素電極9の形成された矩形領域がドットであり、マトリクス状に配置されたドットごとに表示を行うことが可能な構造になっている。
【0032】
TFT素子30は、ポリシリコン膜等からなる半導体層1aを中心として形成されている。半導体層1aのソース領域(後述)には、コンタクトホール5を介して、データ線6aが接続されている。また、半導体層1aのドレイン領域(後述)には、コンタクトホール8を介して、画素電極9が接続されている。一方、半導体層1aにおける走査線3aとの対向部分には、チャネル領域1a’が形成されている。
【0033】
また、この液晶装置は、図4の断面構造説明図に示すように、TFTアレイ基板10と、これに対向配置された対向基板20と、これらの間に挟持された液晶50とを主体として構成されている。TFTアレイ基板10は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体10A、およびその内側に形成されたTFT素子30や画素電極9、配向膜16などを主体として構成されている。一方の対向基板20は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体20A、およびその内側に形成された共通電極21や配向膜22などを主体として構成されている。
【0034】
TFTアレイ基板10の表面には、第1遮光膜11aおよび第1層間絶縁膜12が形成されている。そして、第1層間絶縁膜12の表面に半導体層1aが形成され、この半導体層1aを中心としてTFT素子30が形成されている。半導体層1aにおける走査線3aとの対向部分にはチャネル領域1a’が形成され、その両側にソース領域およびドレイン領域が形成されている。このTFT素子30はLDD(Lightly Doped Drain)構造を採用しているため、ソース領域およびドレイン領域に、それぞれ不純物濃度が相対的に高い高濃度領域と、相対的に低い低濃度領域(LDD領域)とが形成されている。すなわち、ソース領域には低濃度ソース領域1bと高濃度ソース領域1dとが形成され、ドレイン領域には低濃度ドレイン領域1cと高濃度ドレイン領域1eとが形成されている。
【0035】
半導体層1aの表面には、ゲート絶縁膜2が形成されている。そして、ゲート絶縁膜2の表面に走査線3aが形成されて、チャネル領域1a’との対向部分がゲート電極を構成している。また、ゲート絶縁膜2および走査線3aの表面には、第2層間絶縁膜4が形成されている。そして、第2層間絶縁膜4の表面にデータ線6aが形成され、第2層間絶縁膜4に形成されたコンタクトホール5を介して、そのデータ線6aが高濃度ソース領域1dに接続されている。さらに、第2層間絶縁膜4およびデータ線6aの表面には、第3層間絶縁膜7が形成されている。そして、第3層間絶縁膜7の表面に画素電極9が形成され、第2層間絶縁膜4および第3層間絶縁膜7に形成されたコンタクトホール8を介して、その画素電極9が高濃度ドレイン領域1eに接続されている。さらに、画素電極9を覆うように有機性配向膜16が形成され、非選択電圧印加時における液晶分子の配向が規制されるようになっている。
【0036】
なお、本実施形態では、半導体層1aを延設して第1蓄積容量電極1fが形成されている。また、ゲート絶縁膜2を延設して誘電体膜が形成され、その表面に容量線3bが配置されて第2蓄積容量電極が形成されている。これらにより、前述した蓄積容量17が構成されている。また、TFT素子30の形成領域に対応する基板本体10Aの表面に、第1遮光膜11aが形成されている。第1遮光膜11aは、液晶装置に入射した光が、半導体層1aのチャネル領域1a’、低濃度ソース領域1bおよび低濃度ドレイン領域1cに侵入することを防止するものである。
【0037】
一方、対向基板20における基板本体20Aの表面には、第2遮光膜23が形成されている。第2遮光膜23は、液晶装置に入射した光が半導体層1aのチャネル領域1a’や低濃度ソース領域1b、低濃度ドレイン領域1c等に侵入するのを防止するものであり、平面視において半導体層1aと重なる領域に設けられている。また対向基板20の表面には、ほぼ全面にわたってITO等の導電体からなる共通電極21が形成されている。さらに、共通電極21の表面には有機性配向膜22が形成され、非選択電圧印加時における液晶分子の配向が規制されるようになっている。
【0038】
ここで、TFTアレイ基板10側の有機性配向膜16、及び対向基板20側の有機性配向膜22は、共に本発明の特徴的な構成要素となっている。すなわち、本発明においてこれら有機性配向膜16、22は、前述したようにその表層部がフッ化されている。この有機性配向膜16,22の具体的構成について、有機性配向膜16,22の断面構成が模式的に示された図5を参照しつつ説明する。なお、有機性配向膜16と有機性配向膜22との構成は略同一であるため、図5及び以下の説明において、有機性配向膜22に対応する符合をカッコ書きにて示す。
【0039】
図5に示すように、有機性配向膜16(22)は、配線や素子(図示略)等を形成した基板本体10A(20A)上に配設された電極9(21)上に形成されている。ここで、有機性配向膜16(22)は、フッ化された表層部16a(22a)とフッ化されていない底層部16b(22b)から構成されている。
より詳細には、底層部16bは、一般式(2)にて表されるポリイミドによって構成されている。これに対して、表層部16a(22a)は、一般式(1)にて表されるフッ化されたポリイミドによって構成されている。
【0040】
【化5】

【0041】
【化6】

【0042】
図4に戻り、両基板10、20の外側には、ポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素をドープした材料等からなる偏光板18、28が配置されている。なお、各偏光板18、28は、サファイヤガラスや水晶等の高熱伝導率材料からなる支持基板上に装着して、液晶装置60から離間配置することもできる。各偏光板18、28は、その吸収軸方向の直線偏光を吸収し、透過軸方向の直線偏光を透過する機能を有する。TFTアレイ基板10側の偏光板18は、その透過軸が配向膜16の配向規制方向と略一致するように配置され、対向基板20側の偏光板28は、その透過軸が配向膜22の配向規制方向と略一致するように配置されている。
【0043】
このように構成された液晶装置60は、対向基板20を光源側に向けて配置される。その光源光のうち偏光板28の透過軸と一致する直線偏光のみが偏光板28を透過して液晶装置60に入射する。
非選択電圧印加時の液晶装置60では、基板に対して水平配向した液晶分子が液晶50の厚さ方向に約90°ねじれたらせん状に積層配置されている。そのため、液晶装置60に入射した直線偏光は、約90°旋光されて液晶装置60から出射する。この直線偏光は、偏光板18の透過軸と一致するため、偏光板18を透過する。したがって、非選択電圧印加時の液晶装置60では白表示が行われるようになっている(ノーマリーホワイトモード)。
【0044】
また、選択電圧印加時の液晶装置60では、液晶分子が基板に対して垂直配向している。そのため、液晶装置60に入射した直線偏光は、旋光されることなく液晶装置60から出射する。この直線偏光は、偏光板18の透過軸と直交するため、偏光板18を透過しない。したがって、選択電圧印加時の液晶装置60では黒表示が行われるようになっている。
【0045】
以上のような本実施形態の液晶装置60によれば、有機性配向膜16(22)の表層部16a(16b)がフッ化されている。すなわち、有機性配向膜16(22)の液晶50と接触する部位がフッ化されている。
フッ化された有機性配向膜16a(16b)は、フッ化される前の有機性配向膜と比較して含む水素量が少ない。つまり、本実施形態の液晶装置60が備える有機性配向膜16(22)の表層部16a(16b)は、従来の液晶装置が備える有機性配向膜と比較して、液晶分子に含まれるフッ素イオンが光に照射されることによって生じるフッ素ラジカルと反応する水素量が少ない。したがって、光が照射された場合のフッ化水素の生成量が減少する。
よって、本実施形態の液晶装置60によれば、紫外線吸収剤を液晶に添加することなく耐光性を向上させることができ、これによって信頼性が向上する。
また、フッ化された有機性配向膜16a(22a)は、フッ化される前の有機性配向膜と比較して撥水性が高い。このため、本実施形態の液晶装置60によれば、上述の耐光性に加え耐湿性も向上する。
【0046】
次に、液晶装置60の製造方法について図6を参照しつつ説明する。ただし、当該製造方法は配向膜16(22)の形成方法に特徴があるため、その他の素子や電極の形成方法は詳細な説明を省略する場合があるものとする。なお、図5は液晶装置60の製造工程のうちの基板作成工程を示す説明図、図6は配向膜の形成装置及び形成方法について模式的に示す説明図である。
【0047】
まず、TFTアレイ基板10を作成する。
ここでは、ガラス等からなる透光性の基板本体10Aを用意し、これに第1遮光膜11a、第1層間絶縁膜12、半導体層1a、各種配線3a,3b,6a、絶縁膜4,7等を公知の方法で形成する。続いて、該半導体層1aや各種配線3a、絶縁膜7等を含む基板本体10A上に、スパッタ法若しくは蒸着法によりITOを成膜し、続いてマスクエッチングにより当該ITO膜をマトリクス状にパターニングして画素電極9とする。
【0048】
その後、画素電極9上に配向膜16を形成する。ここでは、まずポリイミドを溶媒に溶解ないし分散させた液状組成物を作成し、この液状組成物をスピンコート法や液滴吐出法によって基板本体10A(20A)上に塗布し、この塗布された液状組成物を乾燥させることによって図6(a)に示すように、ポリイミドからなる有機性配向膜16c(22c)を形成する(配向膜形成工程)。
【0049】
次に、図6(b)に示すように、基板本体10A(20A)に形成された有機性配向膜16cに対して、大気プラズマ処理によってフッ化処理を行う(フッ化処理工程)。
大気プラズマ処理としては、大気雰囲気中でテトラフルオロメタンを処理ガスとするプラズマ処理法(CFプラズマ処理法)を採用することができる。なお、処理ガスとしては、テトラフルオロメタン(四フッ化炭素)に限らず、他のフルオロカーボン系のガスを用いることもできる。より詳細には、例えば、10〜50slmのテトラフルオロメタンガスと、50〜100sccmの不活性ガス(例えば、ヘリウムガスやアルゴンガス)とを供給し、基板温度を20〜50℃とし、基板本体10A(20A)を1〜10mm/sec(210パルス)の搬送速度を有する搬送ステージ装置によって搬送しながら、パワー300〜400Wの大気プラズマ処理を行う。
このような大気プラズマ処理を行うことによって、有機性配向膜16c(22c)の表層部においてCH基がCF基と置換され、この結果、有機性配向膜16c(22c)の表層部がフッ化される。そして、このように有機性配向膜16c(22c)の表層部がフッ化されることによって、表層部16a(22a)と底層部16b(22b)とが形成される。
【0050】
次に、図6(c)に示すように、表層部16a(22a)に対してラビング処理を行う(ラビング処理工程)。具体的には、ラビング布58をローラに巻きつけたラビング処理装置により、上記表層部16a(22a)に対してラビング処理を施す。
【0051】
以上の工程を経て、TFTアレイ基板10(対向基板20)が作成される。
【0052】
そして、上述したTFTアレイ基板10に矩形枠状のシール材19を描画するとともに、当該シール材19で囲まれた領域の内側に液晶を滴下させ、さらに上記作成した対向基板20をシール材19を介して貼り合わせることによって液晶を封入し、所定の配線等を接続して本実施形態の液晶装置60を得るものとしている。
【0053】
このような本実施形態の液晶装置の製造方法によれば、有機性配向膜16(22)の表層部16a(22a)がフッ化された上述の液晶装置60を製造することができる。
また、本実施形態の液晶装置の製造方法によれば、ラビング処理工程が、フッ化処理工程の後に行われる。このため、フッ化処理によってラビング処理による液晶分子の配向規制力に影響がでることを防止し、有機性配向膜16(22)に所望の配向規制力を発揮させることができる。
【0054】
なお、本実施形態の有機性配向膜16(22)の表層部16a(22a)がフッ化された液晶装置と、フッ化されていない有機性配向膜を備える従来の液晶装置とを、波長430nm以上、光量80mWの条件で光照射した結果、本実施形態の液晶装置は、従来の液晶装置が200時間光照射された場合と同程度の劣化となるまでに、410時間かかった。したがって、本実施形態の液晶装置によれば、従来の液晶装置に対して耐光性が約2倍向上した。
【0055】
(プロジェクタ)
次に、本発明の電子機器の一実施形態としてのプロジェクタについて、図7を用いて説明する。図7は、プロジェクタの要部を示す概略構成図である。このプロジェクタは、上記実施形態に係る液晶装置を光変調手段として備えたものである。
【0056】
図7において、810は光源、813、814はダイクロイックミラー、815、816、817は反射ミラー、818は入射レンズ、819はリレーレンズ、820は出射レンズ、822、823、824は本発明の液晶装置からなる光変調手段、825はクロスダイクロイックプリズム、826は投射レンズである。光源810は、メタルハライド等のランプ811とランプの光を反射するリフレクタ812とからなる。
【0057】
ダイクロイックミラー813は、光源810からの白色光に含まれる赤色光を透過させるとともに、青色光と緑色光とを反射する。透過した赤色光は反射ミラー817で反射されて、赤色光用光変調手段822に入射される。また、ダイクロイックミラー813で反射された緑色光は、ダイクロイックミラー814によって反射され、緑色光用光変調手段823に入射される。さらに、ダイクロイックミラー813で反射された青色光は、ダイクロイックミラー814を透過する。青色光に対しては、長い光路による光損失を防ぐため、入射レンズ818、リレーレンズ819および出射レンズ820を含むリレーレンズ系からなる導光手段821が設けられている。この導光手段821を介して、青色光が青色光用光変調手段824に入射される。
【0058】
各光変調手段822、823、824により変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム825に入射する。このクロスダイクロイックプリズム825は4つの直角プリズムを貼り合わせたものであり、その界面には赤光を反射する誘電体多層膜と青光を反射する誘電体多層膜とがX字状に形成されている。これらの誘電体多層膜により3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ826によってスクリーン827上に投影され、画像が拡大されて表示される。
【0059】
このような構成からなるプロジェクタは、上記の液晶装置を光変調手段として備えている。この液晶装置は、前述したように耐光性および耐熱性に優れたものであるため、光源から照射される強い光により劣化することが抑制される。また、このプロジェクタは、吸湿に起因する品質低下が確実に防止された液晶装置を備えているので、この電子機器自体も吸湿に起因する品質低下が防止されたものとなる。
【0060】
なお、本発明の技術的範囲は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、前述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。例えば、上記実施形態においては、有機性配向膜16,22の表層部16a,22aのみがフッ化された構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、有機性配向膜16,22全体がフッ化されていても良い。
【0061】
また、上記実施形態ではスイッチング素子としてTFTを備えた液晶装置を例にして説明したが、スイッチング素子として薄膜ダイオード(Thin Film Diode)等の二端子型素子を備えた液晶装置に本発明を適用することも可能である。
また、上記実施形態では透過型液晶装置を例にして説明したが、反射型液晶装置に本発明を適用することも可能である。
また、上記実施形態ではTN(Twisted Nematic)モードで機能する液晶装置を例にして説明したが、VA(Vertical Alignment)モードで機能する液晶装置に本発明を適用することも可能である。また、実施形態では3板式の投射型表示装置(プロジェクタ)を例にして説明したが、単板式の投射型表示装置や直視型表示装置に本発明を適用することも可能である。
【0062】
また、本発明の液晶装置を、プロジェクタ以外の電子機器に適用することも可能である。その具体例として、携帯電話を挙げることができる。この携帯電話は、前述した各実施形態またはその変形例に係る液晶装置を表示部に備えたものである。また、その他の電子機器としては、例えばICカード、ビデオカメラ、パーソナルコンピュータ、ヘッドマウントディスプレイ、さらに表示機能付きファックス装置、デジタルカメラのファインダ、携帯型TV、DSP装置、PDA、電子手帳、電光掲示盤、宣伝公告用ディスプレイ等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態である液晶装置のTFTアレイ基板を示す平面図である。
【図2】本発明の一実施形態である液晶装置の等価回路図である。
【図3】本発明の一実施形態である液晶装置が備える画素構成を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態である液晶装置の断面構造を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態である液晶装置が備える有機性配向膜の断面を模式的に示した図である。
【図6】本発明の一実施形態である液晶装置が備える有機性配向膜の製造工程を示す説明図である。
【図7】プロジェクタの要部を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0064】
16,22……有機性配向膜、16a,22a……表層部、10……TFTアレイ基板(基板)、20……対向基板(基板)、60……液晶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶分子の配向方向を規制する有機性配向膜が形成された一対の基板と、前記一対の基板間に狭持して配置されるとともに前記有機性配向膜によって液晶分子の配向方向が規制される液晶とを備える液晶装置であって、
前記有機性配向膜は、少なくとも表層部がフッ化されていることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記有機性配向膜のフッ化された部位の一般式が下記一般式(1)によって表されることを特徴とする請求項1記載の液晶装置。
【化1】

【請求項3】
液晶分子の配向方向を規制する有機性配向膜が形成された一対の基板と、前記一対の基板間に狭持して配置されるとともに前記有機性配向膜によって液晶分子の配向方向が規制される液晶とを備える液晶装置の製造方法であって、
前記基板上に有機性配向膜を形成する配向膜形成工程と、
前記配向膜形成工程にて形成された前記有機性配向膜に対してフッ化処理を行うフッ化処理工程と、
前記有機性配向膜に対してラビング処理を行うラビング処理工程と、
前記フッ化処理工程及び前記ラビング処理工程後に前記一対の基板を貼り合せるとともに前記基板間に液晶を封入する工程と
を有することを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項4】
前記フッ化処理工程は、大気プラズマ処理によって前記有機性配向膜に対してフッ化処理を行う工程であることを特徴とする請求項3記載の液晶装置。
【請求項5】
前記ラビング処理工程は、前記フッ化処理工程の後に行うことを特徴とする請求項3または4記載の液晶装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の液晶装置を備えることを特徴とする電子機器。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−145937(P2008−145937A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335785(P2006−335785)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】