説明

液晶装置および電子機器

【課題】ディスクリネーション等の表示不良を防止して良好なコントラスト特性を有し、且つコスト削減を可能とする液晶装置及び電子機器を提供する。
【解決手段】一対の基板と、一対の基板に挟持され初期配向状態が垂直配向を呈する液晶層30と、一対の基板のうち一方の基板10の液晶層30側に形成された第1の配向膜12と、一対の基板のうち他方の基板20の液晶層30側に形成された第2の配向膜22と、を備え、第1の配向膜12は、斜方蒸着にて形成され液晶層に接する上層膜12bと、上層膜12bが積層される下層膜12aと、を有し、配向膜のみかけ体積に対する配向膜の実体積の比を膜密度として、上層膜12bは、下層膜12aよりも低い膜密度であると共に、第2の配向膜22と下層膜12aとは、同様の膜密度であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プロジェクタ用の液晶装置の液晶配向方式として垂直配向方式が採用されつつある。しかし、垂直配向方式では液晶が基板表面に対して垂直に立っており、電圧印加時に倒れる方位方向での相互作用が弱い。そのため、電圧を印加すると電極端から発生する横電界により様々な方向に倒れてしまい、方位によっては表示に寄与しないので(クロスニコル下でいずれかの偏光板の透過軸に平行な液晶分子は位相差を生じないため)、透過率が平行配向のそれより低くなってしまうという問題が生じてしまう。
【0003】
そこで、特許文献1では、アクティブマトリクス基板側に斜方蒸着によって無機配向膜を形成して、対向基板側には従来の量産方式である印刷或いは塗布プロセスにより有機配向膜を形成する手法を用いて、液晶表示方式がTNモードで横電界による配向不良を抑制する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−296597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の無気配向膜は、SiOやAl等の無機分子を斜方蒸着方式等の真空プロセス等により電極表面に積層させていくことができる。この方法はラビング処理が不要であり、選択電圧印加時に画素電極端から発生する横電界を抑制しつつ液晶分子を一方向に倒すためのプレチルトを発現し易いなどの特徴を有している。一方で、斜方蒸着方式で用いる真空成膜装置は、高価であるため初期投資が大きく、従来の塗布方式の配向膜形成プロセスに比べて生産効率も低い、というコスト面でのデメリットも有している。
【0005】
特許文献1では、対向基板側の配向膜を従来の量産方式である印刷あるいは塗布プロセスによって形成しているため、設備投資を抑えることは可能である。ところが、塗布できる垂直配向用のポリイミドは、ラビングによって完全垂直から傾斜させることが困難であり、画素電極端部に生じる横電界や電極表面に設けた突起(表面形状)により電圧印加時のチルト(傾斜)する方位を決定する方式が採用されることが多い。
【0006】
ところがこの方法では、液晶分子のチルト(傾斜)する方位の制御が不十分となりやすく、画素内において液晶分子の対立に起因するディスクリネーションが発生しやすい。そのため、表示品位を低下させてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ディスクリネーション等の表示不良を防止して良好なコントラスト特性を有し、且つコスト削減を可能とする液晶装置及び電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、回路基板側にプレチルト角及び方位角などの配向規制力を有する無機配向膜を斜方蒸着で形成し、対向基板側に塗布プロセスで形成できる垂直配向膜を適用することによって真空成膜装置の導入台数を減らし、初期投資を大幅に削減するとともに生産効率の面からも優れた製造方法を既に提案している。
【0009】
しかしながら、両基板で異なる要素の配向膜を使用しているため、液晶装置を交流駆動させた場合、両基板間で電気的非対称性(LCcom変動)が生じていた。すなわち、液晶中に含まれるイオン性の不純物が、どちらか一方の配向膜に相対的に多く付着することで、イオン性の不純物に由来する電荷分だけ電気的に対称性がくずれ、LCcom変動の原因となっていた。このLCcom変動によって、通常の使用条件においても表示濃度不均一性や、長時間同じ表示をさせた場合に、表示状態を変更しても直前まで表示していた画像が薄く表示されてしまう「焼き付き」と呼ばれる不具合が発生し、表示品位を著しく低下させるという問題があった。
【0010】
図6は、不純物の付着しやすさが異なる配向膜を有する液晶装置100の模式図である。ここで、回路基板60側の配向膜62は、対向基板70側の配向膜72よりも不純物を吸着しやすいものとする。
【0011】
液晶装置100を交流駆動させると、例えば、回路基板60側は正極性(+)、対向基板70側は負極性(−)に印加される。すると、液晶層80中のイオン性不純物である陽イオン82、陰イオン84は、それぞれ逆の極性側の基板に引きつけられ、陽イオン82、陰イオン84は、それぞれ配向膜62,72表面に付着する(図6(a))。
【0012】
次に、基板に印加された極性が反転すると、対向基板70側では、配向膜62に付着した陽イオン82は配向膜表面から脱着する。対して回路基板60側では、配向膜62の表面から陰イオン84が脱着するものの、一部の陰イオン84aは配向膜62に吸着された状態を維持する(図6(b))。
【0013】
同様に、何度も極性が反転する駆動を継続すると、徐々に配向膜62表面に陰イオン84が蓄積する。その結果、陰イオン84の電荷の分だけLCcom変動を生じる(図6(c))。
【0014】
このような現象を詳細に調べ、不純物の付着のしやすさについて検討した結果、不純物の付着は、用いる配向膜の膜密度と密接な関係があることが分かった。ここで「膜密度」とは、配向膜のみかけ体積に対して、配向膜の形成材料自身の体積である実体積が占める比のことを指す。
【0015】
膜密度は、斜方蒸着により形成される蒸着膜において小さくなりやすい。なぜなら、斜方蒸着で形成された蒸着膜は、蒸着量や蒸着粒子の入射角等により先に蒸着され積層した膜の陰となる部分を生じるために、隙間の多い(ポーラスな)膜となりやすいからである。
【0016】
発明者は、そのような配向膜のポーラスな表面に対して液晶中の不純物が付着することで、LCcom変動を引き起こしていることを見出した。即ち、膜密度との関係に置き換えると、膜密度が低い配向膜ほど液晶中のイオン性不純物を多く付着させることが分かった。同時に、配向膜の膜密度を制御することでLCcom変動を抑制できることも見出した。
【0017】
そこで、上記のような課題を解決するため、本発明の液晶装置は、一対の基板と、前記一対の基板に挟持され初期配向状態が垂直配向を呈する液晶層と、前記一対の基板のうち一方の基板の前記液晶層側に形成された第1の配向膜と、前記一対の基板のうち他方の基板の前記液晶層側に形成された第2の配向膜と、を備え、前記第1の配向膜は、斜方蒸着にて形成され前記液晶層に接する上層膜と、前記上層膜が積層される下層膜と、を有し、前記配向膜のみかけ体積に対する前記配向膜の実体積の比を膜密度として、前記上層膜は、前記下層膜よりも低い膜密度であると共に、前記第2の配向膜と前記下層膜とは、同様の膜密度であることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第2の配向膜と下層膜との膜密度が等しいため、液晶層に含まれるイオン性不純物の付着しやすさが等しくなる。このとき斜方蒸着膜である上層膜は、液晶層が有する液晶分子に対する配向性付与を行うことができ、電圧印加時に所定の方位角方向へ液晶分子を傾けることができる。
【0019】
その結果、LCcom変動が抑えられ、表示上のちらつきがなくなり、また、長時間同じ表示をさせた場合でも焼きつきなどの表示不具合が発生し難くなり、表示品位に優れた垂直配向型の液晶装置を得ることができる。
【0020】
本発明においては、前記上層膜の膜密度は、前記第2の配向膜および前記下層膜の膜密度の81%以上95%以下であることが望ましい。
斜方蒸着では、蒸着源から蒸着箇所への入射角の違いにより膜密度を変えることができ、蒸着箇所への入射角が垂直に近づくほど膜密度を大きく、入射角が小さくなるほど膜密度を小さくすることが出来る。ここで、斜方蒸着で形成する上層膜の膜密度が、第2の配向膜および下層膜の膜密度の81%未満の場合、入射角が小さくなりすぎ、垂直配向膜として機能させることが可能な蒸着状態とならない。また、95%より大きい場合、入射角が略垂直となるため斜方蒸着膜として機能しない。そのため、いずれの場合であっても配向性を付与することができない。したがって、本発明の構成によれば、上層膜に対して良好に配向性を付与することができ、第2の配向膜を垂直配向膜として良好に機能させることができる。
【0021】
本発明においては、前記第2の配向膜と前記下層膜とは、異なる形成材料を用いて形成されることが望ましい。
この構成によれば、材料選択の自由度が高まり、好適な材料を選択してそれぞれ第1、第2の配向膜を形成することができる。例えば、斜方蒸着膜を形成する下地となる下層膜は、斜方蒸着のプロセスにおいて高温環境下に置かれるため、耐熱性の高い無機材料を用い、一方で、第2の配向膜は生産コストを下げ且つ生産性高く製造することを主眼として、塗布工程にて形成できる配向膜を用いる、といった材料の使い分けを行うことができる。
【0022】
本発明の電子機器は、上述の液晶装置を備えていることを特徴とする。
本発明によれば、表示品位の高い電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、図1〜図3を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る液晶装置について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の膜厚や寸法の比率などは適宜異ならせてある。
【0024】
図1は、液晶装置1の断面構造を模式的に示した概略断面図である。液晶装置1は、回路基板(一方の基板)10とこれに対向配置された対向基板(他方の基板)20との間に、誘電率異方性が負の液晶材料からなる液晶層30が挟持されており、初期配向状態が垂直配向となっている。本実施形態の液晶装置1は、スイッチング素子としてTFT(Thin-Film Transistor)素子を用いたアクティブマトリクス型の透過型液晶装置である。
【0025】
回路基板10は、ガラス等の透光性材料からなる基板本体10Aの内面に、インジウム錫酸化物(以下、ITO)等の透明導電性材料からなる矩形状の画素電極9が形成されている。また、回路基板10は、画素電極9への通電制御を行うためのスイッチング素子であるTFT素子、画像信号が供給されるデータ線、走査線(いずれも図示略)等を備えている。また、データ線や走査線は、遮光膜としての機能を有することもある。
【0026】
対向基板20には、ガラス等の透光性材料からなる基板本体20Aの内面側に、ITO等の透明導電膜からなる共通電極21が形成されている。この共通電極21は画素電極9に対応した分割はされておらず、基板本体20A上に全面ベタ状に形成されている。また、対向基板20はカラーフィルタや遮光膜を備えている。
【0027】
そして、回路基板10側には複数の画素電極9を覆うようにして、液晶分子に所定方向へのプレチルト角を付与する第1の配向膜12が形成され、対向基板20側には共通電極21を覆うようにして垂直配向能を有する第2の配向膜22が形成されている。第1の配向膜12および第2の配向膜22については、後に詳述する。
【0028】
回路基板10と対向基板20との間には、第1の配向膜12及び第2の配向膜22によって初期配向状態が垂直配向を呈する液晶層30が挟持されている。液晶層30は、液晶分子の初期配向状態(電圧無印加時の配向状態)が垂直配向を呈している。
【0029】
そして、回路基板10と対向基板20との外側には、一対の偏光板41,42がその偏光軸が液晶の方位角(基準0°)に対して略45°および略135°の角度をなしており、互いの偏光軸が略直交(クロスニコル)している。
【0030】
図2は、液晶装置1が有する配向膜を模式的に示した斜視図である。図では説明を容易にするために、基板構成を省略して示している。
【0031】
第2の配向膜22は、特定のチルト角を持たない、すなわち液晶分子に対してほぼ垂直配向を呈する配向膜である。第2の配向膜22の形成材料としては、一般的に垂直配向剤として用いられる垂直配向型ポリイミドのような有機材料の塗布膜や、SiOやSiONやSiNやAlなどの無機材料の垂直蒸着膜などが挙げられる。
【0032】
第1の配向膜12は、画素電極9側に設けられた下層膜12a上に上層膜12bが積層して形成されている。下層膜12aは、第2の配向膜22の形成材料と同じ形成材料を用いて同様の手法にて形成することができる。
【0033】
上層膜12bは、斜方蒸着法を用いて配向膜の形成材料を基板本体10A上に蒸着させることによって得られる。そのため上層膜12bは、複数の柱状の積層物を有しており、凹凸を備えたポーラスな表面となっている。複数の柱状積層物は、斜方蒸着時の入射角に対応する表面形状を有しており、この表面形状によって表面に接する液晶層の液晶分子にプレチルト角を付与し、液晶分子を駆動させる際の傾斜方向を規定している。上層膜12bの材料としては、SiOやSiONやSiNなどの無機材料が挙げられる。
【0034】
ここで、配向膜の状態を表す指標として、配向膜のみかけ体積に対して配向膜の形成材料自身の体積である実体積が占める比を「膜密度」として定義する。上層膜12bについては、柱状積層物の間隙の体積を含めた体積をみかけ体積(図中、符号Vで示す)として、みかけ体積に対して柱状積層物が占める比を膜密度とすることができる。膜密度をこのように定義すると、塗布や垂直蒸着などの手法により密に形成された第2の配向膜22や下層膜12aと比べ、上層膜12bは膜密度が小さいものとなる。
【0035】
斜方蒸着では、蒸着源から蒸着箇所への入射角の違いにより、形成される蒸着膜の膜密度が変わり、蒸着箇所への入射角が垂直に近づくほど膜密度を大きく、入射角が小さくなるほど膜密度を小さくなる。そのため、形成条件を制御することで、好適な膜密度を有する上層膜12bとすることができる。
【0036】
ここで上層膜12bの膜密度が、第2の配向膜22および下層膜12aの膜密度の81%未満となるような形成条件では、斜方蒸着時の入射角が小さくなりすぎる。即ち、液晶層30の液晶分子は初期状態で垂直配向を呈する必要があるが、膜密度が81%未満となるほどの入射角とすると、垂直配向膜として機能させることが可能な蒸着状態とならず不適である。
【0037】
また、上層膜12bの膜密度が、第2の配向膜22および下層膜12aの膜密度の95%より大きくなるような形成条件では、入射角が略垂直となるため斜方蒸着膜として機能しない。即ち、上層膜12bは、液晶分子のプレチルト角を規定するためにチルト角を有する必要があるが、膜密度が95%より大きくなるほどの入射角とすると、必要とするチルト角を備えることができない。
【0038】
したがって、上層膜12bは、第2の配向膜22および下層膜12aの膜密度の81%以上95%以下の膜密度を有することが好ましい。
【0039】
本実施形態では、第1の配向膜12および第2の配向膜22の形成材料として、いずれもSiOを用いて形成する。共通する形成材料であるため、配向膜のみかけ体積あたりの質量である密度の大小を比較することで膜密度の大小を比較することができる。そのため、配向膜の密度を配向膜の状態を表す指標として用いることができる。
【0040】
本実施形態では、下層膜12aおよび第2の配向膜22の密度が2.05g/cm〜2.20g/cmとなるように形成し、この密度を元に、上層膜12bの密度が1.80g/cm〜2.09g/cmとなるように形成する。このような密度で配向膜を形成することで、上層膜12bは良好に液晶分子にプレチルト角を設定することができる。
【0041】
図3は、本発明の配向膜を有する液晶装置1を交流駆動させた場合の、液晶層中の不純物の動きを示す説明図である。
【0042】
液晶層30には、液晶分子の他に、液晶分子の合成時に用いた触媒や反応試薬等の残渣が微量な不純物として含まれている。これらの不純物のうちイオン性のものとしては、例えば金属触媒が分解した金属イオンやアミン類が中和した陽イオン、カルボン酸やスルホン酸などの酸が中和した陰イオンなどが含まれる。液晶装置を駆動させると、これらイオン性不純物が液晶層中を泳動し、配向膜に付着する。
【0043】
まず、図3(a)に示すように、画素電極9を正極性(+)、共通電極21を負極性(−)に印加すると、液晶層30中のイオン性不純物である陽イオン32、陰イオン34は、それぞれ逆の極性側の基板に引きつけられ、陽イオン32、陰イオン34は、それぞれ第1の配向膜12,第2の配向膜22の表面に付着する。
【0044】
ここで、第1の配向膜12に引き寄せられる陰イオン34は、膜密度が小さく疎に形成されている上層膜12bに吸着される。不純物として含まれる陰イオンは、複数の原子が結合したものが多く、そのためイオン半径が大きいものが多い。従って、陰イオン34は密に形成されている下層膜12aにまでは至らず、主として上層膜12bで吸着される。
【0045】
また、陰イオン34を引きつけるクーロン力は画素電極9に近づくほど(正電荷に近づくほど)強くなる。しかし、上層膜12bは下層膜12aの厚さ分だけ離間しているため、下層膜12aが無い場合と比べて、陰イオン34を引きつける力が小さくなり、上層膜12bが有する柱状積層物の隙間の奥深くにまで引き込まれることが無い。更に、例え陰イオン34が下層膜12aに至るまで引き寄せられたとしても、下層膜12aは密に形成されているために、陰イオン34は下層膜12aの表面に留まることとなる。
【0046】
次に、図3(b)に示すように、基板に印加された極性が反転すると、共通電極21側では、第2の配向膜22に付着した陽イオン32は配向膜表面から脱着する。画素電極9側では、陰イオン34は、疎に形成されている上層膜12bに吸着されているため、容易に脱離する。
【0047】
したがって、長時間使用しても両基板間において電気的非対称性が発生し難くなる。また、上層膜12bが機能することで、液晶層30が有する液晶分子に対する配向性付与を行うことができ、電圧印加時に所定の方位角方向へ液晶分子を傾けることができる。したがって、長時間駆動におけるLCcom変動を抑えることが可能となり、表示品位を向上させることができる。
本実施形態の液晶装置1は、以上のような構成となっている。
【0048】
以上のような構成の液晶装置1によれば、LCcom変動が抑えられ、長時間同じ表示をさせた場合でも焼きつきなどの表示不具合のない、表示品位に優れた垂直配向型の液晶装置とすることができる。
【0049】
なお、本実施形態においては、第1の配向膜12と第2の配向膜22の形成材料として、同じSiOを用いることとしたが、異なる材料を用いることとしても構わない。その場合は、例えば、下層膜12aは、上層膜12bを形成する際の斜方蒸着のプロセスにおいて高温環境下に置かれるため、耐熱性の高い無機材料を用い、一方で、第2の配向膜22は生産コストを下げ且つ生産性高く製造することを主眼として、塗布工程にて成膜することができる材料を別途用いる、といった材料の使い分けを行うことができる。
【0050】
[電子機器]
次に、本発明の電子機器の実施形態について図を用いて説明する。図4(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図4(a)において、符号500は携帯電話本体を示し、符号501は上記実施形態の液晶装置を用いた液晶表示部を示している。
【0051】
図4(b)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図4(b)において、符号600は情報処理装置、符号601はキーボードなどの入力部、符号603は情報処理装置本体、符号602は上記実施形態の液晶装置を用いた液晶表示部を示している。
【0052】
図4(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図4(c)において、符号700は時計本体を示し、符号701は上記実施形態の液晶装置を用いた液晶表示部を示している。
【0053】
このように図4に示す電子機器は、表示部に上述の本発明の一例たる液晶装置を適用したものであるので、表示焼き付きを防ぎ表示特性に優れた表示装置を有する電子機器となる。
【0054】
上記各実施の形態の液晶装置は、上記の例に限らず、電子ブック、パーソナルコンピュータ、ディジタルスチルカメラ、テレビジョン受像機、ビューファインダ型あるいはモニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルを備えた機器等々の画像表示手段として好適に用いることができ、かかる構成とすることで、表示焼き付きを防ぎ表示特性に優れた表示部を備える電子機器を提供できる。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、配向膜の構成のみが異なる液晶装置を用意し、連続使用を行った際の最適なLCcomの値の変動を確認することで、本発明の効果を検証した。
【0057】
評価した液晶装置では、膜密度が小さい配向膜としてSiOの斜方蒸着膜を形成し、膜密度が大きい配向膜としてポリイミドの塗布膜を形成して、各液晶装置の配向膜の膜密度を制御した。評価した液晶装置と各々の配向膜の膜密度との関係は、下記の表1の通りである。表では、膜密度が小さい配向膜を「疎」、膜密度が大きい配向膜を「密」として表記している。
【0058】
また、ブランクサンプルとして、回路基板側および対向基板側の両配向膜を斜方蒸着膜とした液晶装置も合わせて評価した。ブランクサンプルは、配向膜を形成する要素が等しくLCcom変動が生じないが、両配向膜を斜方蒸着で形成しているため生産性が悪く、実生産には不向きという課題を有しているものである。
【0059】
【表1】

【0060】
評価の結果、図5に示すように、実施例の液晶装置は,ブランクサンプルと同様にエージング時間を長く取っても初期状態と比べて、ほぼLCcomの最適値が変動しなかった。対して、比較例の液晶装置ではいずれも、エージングを行うとLCcomの最適値が初期状態から変動した。
【0061】
この結果より、本発明の構成を備える配向膜によってLCcom変動が抑制できることが確認できた。また、実施例の液晶装置は、配向膜の一部を塗布工程で形成しているため、ブランクサンプルよりも生産性が高く、実生産に適している。これらのことから、本発明の構成が課題解決に有効であることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の液晶装置の断面構造を模式的に示した概略断面図である。
【図2】本発明の液晶装置が有する配向膜を模式的に示した斜視図である。
【図3】液晶装置を駆動させた場合における液晶層の不純物の動きを示す説明図である。
【図4】本発明に係る電子機器の例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の実施例の結果を示すグラフである。
【図6】不純物の付着しやすさが異なる配向膜を有する液晶装置の模式図である。
【符号の説明】
【0063】
10…回路基板(一方の基板)、12…第1の配向膜、12a…下層膜、12b…上層膜、20…対向基板(他方の基板)、22…第2の配向膜、30…液晶層、500…携帯電話(電子機器)、600…携帯型情報処理装置(電子機器)、700…腕時計型電子機器(電子機器)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の基板と、
前記一対の基板に挟持され初期配向状態が垂直配向を呈する液晶層と、
前記一対の基板のうち一方の基板の前記液晶層側に形成された第1の配向膜と、
前記一対の基板のうち他方の基板の前記液晶層側に形成された第2の配向膜と、を備え、
前記第1の配向膜は、斜方蒸着にて形成され前記液晶層に接する上層膜と、前記上層膜が積層される下層膜と、を有し、
前記配向膜のみかけ体積に対する前記配向膜の実体積の比を膜密度として、
前記上層膜は、前記下層膜よりも低い膜密度であると共に、前記第2の配向膜と前記下層膜とは、同様の膜密度であることを特徴とする液晶装置。
【請求項2】
前記上層膜の膜密度は、前記第2の配向膜および前記下層膜の膜密度の81%以上95%以下であることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置。
【請求項3】
前記第2の配向膜と前記下層膜とは、異なる形成材料を用いて形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の液晶装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶装置を備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−134180(P2010−134180A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309818(P2008−309818)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】