説明

液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、および液滴吐出装置

【課題】液滴吐出ヘッドの液滴吐出装置への位置決め精度を向上させ、画像品質を向上させるとともに、液滴吐出ヘッドの製造コストを低減させる。
【解決手段】複数のノズル吐出口を有するノズル板と、ノズル吐出口に液滴を供給する複数の個別液室が形成され、個別液室内の液滴を加圧する電気機械変換素子を有する個別流路基板と、個別流路基板に液滴を供給する共通流路基板と、インクジェット記録装置の所定位置に係合し、インクジェット記録装置に対してノズル吐出口の開口面に沿う方向の位置決めをする金属製の位置基準面30a、30bを有するベースプレート30と、インクジェット記録装置に対して開口面と交差する方向の位置決めをする位置基準面40aを有する樹脂製のハウジング40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル孔から液滴を吐出させ、記録用紙に画像を形成する液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、および液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置などの液滴吐出装置の液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)は、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する圧力室(インク流路、加圧液室、加圧室、吐出室、液室等とも称される)と、圧力室内のインクを加圧する圧電素子などの電気機械変換素子(あるいはヒータなどの電気熱変換素子)と、を備え、電気機械変換素子に電圧を印加することによって発生したエネルギーを用いて振動板を変位させ、圧力室内のインクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させ、記録用紙上に画像を形成するものである。
【0003】
上述のようなインクジェット記録装置には、記録用紙に印字を行う1個あるいは複数個のインクジェットヘッドが、記録用紙の搬送方向と直交する方向に往復駆動されるキャリッジに搭載されている。このインクジェット記録装置には、インクジェットヘッドがキャリッジに対して着脱可能な構造になっているものがある。インクジェット記録装置におけるキャリッジの所定部位に対してインクジェットヘッドを自在に着脱可能とすることは、製造時における組立性の向上によるコストの低減および利用者によるインクジェットヘッド交換時におけるアプライアンス性の向上に利点がある。
【0004】
このようなインクジェット記録装置において、印刷品質を確保する、すなわちインク滴を記録用紙に高い位置精度で着弾させるためには、精度を向上させた位置基準面を具備するベースプレートを備えたインクジェットヘッドを、インクジェット記録装置の所定位置に対して係合させる必要があった。さらに、近年における画像の高解像度化への要求に伴って、ノズル孔および素子を高密度に配置する必要が生じ、インクジェット記録装置に対するインクジェットヘッドの位置決め精度を向上する必要があった。
【0005】
そこで、樹脂を用いてインクジェットヘッドのインクジェット記録装置への装着位置の基準面となる位置基準面を形成し、インクジェット記録装置の所定位置へ係合させることで、インクジェット記録装置に対するインクジェットヘッドの装着精度を高めるインクジェット記録ヘッドが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、位置基準面(基準面)を備えた支持部材を形成する樹脂に、80wt%以上のフィラーを含有したPPS(Poly Phenylene Sulfide)、PPE(Poly Phenylene Ether)等の熱可塑性樹脂を用いることで、位置基準面の剛性を高めるインクジェット記録ヘッドが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、基準面を設けたベースプレートをアルミニウムなどの金属で形成し、カートリッジと記録ヘッドの記録部との位置決めを該ベースプレートのみに対して行うことで、高精度の位置決めを行うインクタンク一体型記録ヘッドカートリッジが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のインクジェット記録ヘッドのように、樹脂を用いてインクジェットヘッドの位置基準面を形成した場合、剛性が不足して位置基準面が変形したり、輸送環境等による温度環境の変化により部材の熱変形の影響を受けて位置基準面の寸法精度が低下し、インクジェット記録装置に対するインクジェットヘッドの位置決め精度が低下してしまう。その結果、インクジェットヘッドから記録用紙に吐出するインク滴の着地位置の精度が低下してしまい、インクジェット記録装置の画像品質が低下するという問題があった。
【0009】
また、特許文献2のインクジェット記録ヘッドのように、樹脂に80wt%という多量のフィラーを含有させた場合、モールド成型時の金型の磨耗によって製造コストが増加してしまう。また、ベースプレートからのフィラーの発塵によって、インクジェットヘッドの吐出性能が低下し、画像品質が低下するという問題もあった。
【0010】
また、特許文献3のインクタンク一体型記録ヘッドカートリッジのように、複数の位置基準面が金属のベースプレートにのみ設けられている場合、ベースプレートの形状が複雑化するため、カートリッジと記録ヘッドの記録部との位置決め精度が低下してしまったり、製造コストが増加するという問題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、液滴吐出ヘッドを液滴吐出装置に装着する際に液滴吐出ヘッドの液滴吐出装置への位置決め精度を向上させ、画像品質を向上させるとともに、液滴吐出ヘッドの製造コストを低減させる液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、および液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、液滴吐出装置に着脱可能な液滴吐出ヘッドにおいて、液滴を吐出する複数のノズル孔を有するノズル板と、前記ノズル孔に液滴を供給する複数の個別液室が形成され、前記個別液室内の液滴を加圧する圧力発生部を有する個別流路基板と、前記個別流路基板に液滴を供給する共通流路基板と、前記液滴吐出装置の所定位置に係合し、前記液滴吐出装置に対して前記ノズル板の前記ノズル孔の開口面に沿う方向の位置決めをする第1位置決め部を有する金属製のベースプレートと、前記液滴吐出装置に対して前記開口面と交差する方向の位置決めをする第2位置決め部を有する樹脂製のハウジングと、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、液滴吐出装置に着脱可能な液滴吐出ヘッドの製造方法において、前記液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する複数のノズル孔を有するノズル板と、前記ノズル孔に液滴を供給する複数の個別液室が形成され、前記個別液室内の液滴を加圧する圧力発生部を有する個別流路基板と、前記個別流路基板に液滴を供給する共通流路基板と、前記液滴吐出装置の所定位置に係合し、前記液滴吐出装置に対して前記ノズル板の前記ノズル孔の開口面に沿う方向の位置決めをする第1位置決め部を有する金属製のベースプレートと、前記液滴吐出装置に対して前記開口面と交差する方向の位置決めをする第2位置決め部を有する樹脂製のハウジングと、を備え、前記ノズル板と前記個別流路基板とを光学的にアライメントして接合することで第1ヘッド構造体を製造する第1の工程と、前記共通流路基板と前記ベースプレートとに設けられた開口部を用いて、前記共通流路基板と前記ベースプレートとをアライメントして接合することで第2ヘッド構造体を製造する第2の工程と、前記第1ヘッド構造体と前記第2ヘッド構造体とを光学的にアライメントして接合する第3の工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、着脱可能な液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置において、前記液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する複数のノズル孔を有するノズル板と、前記ノズル孔に液滴を供給する複数の個別液室が形成され、前記個別液室内の液滴を加圧する圧力発生部を有する個別流路基板と、前記個別流路基板に液滴を供給する共通流路基板と、前記液滴吐出装置の所定位置に係合し、前記液滴吐出装置に対して前記ノズル板の前記ノズル孔の開口面に沿う方向の位置決めをする第1位置決め部を有する金属製のベースプレートと、前記液滴吐出装置に対して前記開口面と交差する方向の位置決めをする第2位置決め部を有する樹脂製のハウジングと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液滴吐出ヘッドを液滴吐出装置に装着する際に液滴吐出ヘッドの液滴吐出装置への位置決め精度を向上させ、画像品質を向上させるとともに、液滴吐出ヘッドの製造コストを低減させるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施の形態にかかるインクジェットヘッドを示す斜視図である。
【図2】図2は、インクジェットヘッドの構成部材を示す分解斜視図である。
【図3−1】図3−1は、実施の形態にかかるインクジェットヘッドの製造工程を模式的に表す分解斜視図である。
【図3−2】図3−2は、実施の形態にかかるインクジェットヘッドの製造工程を模式的に表す分解斜視図である。
【図3−3】図3−3は、実施の形態にかかるインクジェットヘッドの製造工程を模式的に表す分解斜視図である。
【図3−4】図3−4は、実施の形態にかかるインクジェットヘッドの製造工程を模式的に表す分解斜視図である。
【図4】図4は、インクジェット装置の斜視図である。
【図5】図5は、インクジェット装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法、および液滴吐出装置の最良な実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
図1は、実施の形態にかかるインクジェットヘッドを示す斜視図である。図2は、インクジェットヘッドの構成部材を示す分解斜視図である。
【0019】
本実施の形態にかかるインクジェットヘッド10は、インクジェットヘッドチップ20と、ベースプレート30と、ハウジング40と、コネクタ基板42と、FPC(Flexible Printed Circuits)41とが主に積層されて構成されている。
【0020】
インクジェットヘッドチップ20は、インク滴を吐出して記録用紙に画像を形成するものであり、図2に示すように、ノズル板21と、個別流路基板22と、共通流路基板23、24、25と、ダンパ部材26、27とを備えている。
【0021】
ノズル板21は、インク滴を吐出する複数のインク吐出口(ノズル孔)が形成されたノズル列が4列形成されている。
【0022】
個別流路基板22は、インク吐出口にインクを供給する複数の個別液室が形成され、各個別液室を加圧する振動板上に下部電極、圧電体、上部電極から構成される電気機械変換素子を備えている。
【0023】
共通流路基板は23〜25は、各個別液室にインクを供給する複数の共通流路と共通液室とが形成されている。本実施の形態では、複数の共通流路基板により共通流路と共通液室とが形成されているが、一つの共通流路基板によって共通流路と共通液室とを形成する構成としてもよい。
【0024】
ダンパ部材26、27は、共通液室内の流体残留振動を抑制するものである。
【0025】
インクジェットヘッドチップ20は、ノズル板21の各ノズル列に対応した圧力発生部である電気機械変換素子と、インクの供給経路とを備えているので、1つのチップで4色分のインク滴を吐出できる構成となっている。また、本実施の形態の電気機械変換素子は、ゾルゲル法を用いた成膜方式および半導体プロセスによって形成されているため、素子の高密度化を容易に行うことができる。
【0026】
ここで、ゾルゲル法とは、金属アルコキシド等の金属有機化合物を溶液系で加水分解、重縮合させて金属、酸素、金属結合を成長させ、最終的に焼結することにより完成させる無機酸化物の作製方法である。このゾルゲル法により成膜される圧電体材料として具体的には、酢酸鉛、イソプロポキシドジルコニウム、イソプロポキシドチタンを出発材料にし、これらの出発材料を、共通溶媒としてのメトキシエタノールに溶解させたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料を用いることができる。
【0027】
ベースプレート30は、金属で形成されており、インクジェット記録装置の所定部位に対して着脱自在に係合されるものである。また、ベースプレート30は、インクジェット記録装置に対してノズル板21のノズル吐出口が開口された開口面21aに沿う方向の位置決めをする位置決め部を有している。本実施の形態では、ベースプレート30は、ノズル板21の開口面21aと平行な方向の位置決めをする位置基準面30a、30bが形成されている。
【0028】
また、位置基準面30a、30bは、ノズル板21に形成されたノズル列と交差する方向に、ベースプレート30におけるノズル列に沿う方向の縁部から突出した突出部に設けられている。本実施の形態では、位置基準面30a、30bは、ノズル板21に形成されたノズル列と直交する方向に、ベースプレート30におけるノズル列と平行な方向の両縁部から突出した突出部30cに形成されている。そして、ベースプレート30は、インクジェットヘッド10がインクジェット記録装置に装着される際に、側面、すなわちノズル板21の開口面21aと垂直な面がインクジェット記録装置の所定位置に係合する。なお、本実施の形態の位置基準面30a、30bは、ノズル列と直交する方向に形成されているが、これに限定されることなく、ノズル列と直交していなくとも交差する方向に形成する構成としてもよい。
【0029】
このように、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド10では、高精度が要求されるノズル板21の開口面21aと平行な方向の位置決めをする位置基準面30a、30bがインク吐出口に近接したベースプレート30に設けられ、ベースプレート30が金属で形成されているので、インクジェット記録装置のキャリッジに対するインクジェットヘッド10の位置決め精度を向上させることができる。
【0030】
ハウジング40は、樹脂で形成されており、ベースプレート30とインクタンク(図示せず)とを保持している。そして、ハウジング40は、インクジェット記録装置に対してノズル板21の開口面21aと交差する方向の位置決めをする位置決め部を有している。本実施の形態では、ハウジング40は、インクジェット記録装置に対してノズル板21の開口面21aと垂直な方向(高さ方向)の位置決めをする位置基準面40aを有している。図1に示すように、位置基準面40aは、ハウジング40の上面から突出した突起部の面である。なお、本実施の形態の位置基準面40aは、ノズル板21の開口面21aと垂直な方向の位置決めを行っているが、これに限定されることなく、開口面21aと垂直でなくとも交差する方向の位置決めを行うよう構成してもよい。
【0031】
このように、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド10は、ノズル板21の開口面21aと平行な方向よりも比較的位置決め精度を必要としないノズル板21の開口面21aと垂直な方向の位置決めをする位置基準面40aを有するハウジング40を樹脂で形成することにより、インクジェットヘッド10の製造コストを低減させることができる。
【0032】
コネクタ基板42は、インクジェット記録装置側のコネクタ(図示せず)と電気的に接続されており、記録画像に応じた電気信号を伝達する複数の電気パッドを備えている。
【0033】
FPC41は、インクジェットヘッドチップ20のパッド部(不図示)とコネクタ基板42とを電気的に接続するものである。
【0034】
インクジェットヘッド10は、上記のような構成としたため、インクジェット記録装置のキャリッジにおける所定位置(位置基準面)に、金属で形成された位置基準面30a、30bが係合されるため、記録用紙の搬送方向に対して位置決め精度を向上させることができる。
【0035】
そして、インクジェットヘッド10がインクジェット記録装置に装着され、印刷が行われると、インクジェット記録装置から記録画像に応じた電気信号が伝達され、該電気信号がコネクタ基板42、FPC41を介して電気機械変換素子に供給され、電子機械変換素子によって変換された機械振動が振動板を介して個別液室内のインクを加圧し、ノズル吐出口から記録用紙にインクを吐出する。このとき、上述したようにインクジェットヘッド10が装着される場合の位置決め精度が向上されると、ノズル吐出口から記録用紙へのインクの吐出も精度が向上し、画像品質を向上させることができる。
【0036】
次に、インクジェットヘッド10の製造方法について説明する。図3−1、図3−2、図3−3、図3−4は、実施の形態にかかるインクジェットヘッドの製造工程を模式的に表す分解斜視図である。
【0037】
以下では、インクジェットヘッド10を、第1ヘッド構造体61と、第2ヘッド構造体62と、第3ヘッド構造体63とに分けて説明する。第1ヘッド構造体61は、ノズル板21と、圧力発生部を具備した個別流路基板22と、個別流路基板22上のパッド部(不図示)に接続されたFPC41とから構成されている。第2ヘッド構造体62は、複数の共通流路基板23〜25と、ダンパ部材26〜27と、ベースプレート30とから構成されている。そして、第3ヘッド構造体63は、ハウジング40と、シール部材44と、コネクタ基板42とから構成されている。まず、それぞれのヘッド構造体と、その製造方法について以下に説明する。
【0038】
ノズル板21は、SUS、Ni、あるいはFe−Ni合金などの金属材料から形成されている。個別流路基板22は、半導体プロセスを用いてSi基板上に個別流路と、振動板と、電気機械変換素子とが形成されている。そして、図3−1に示すように、第1ヘッド構造体61は、ノズル板21に形成されたアライメント開口部を介して、個別流路基板22上のアライメントパターンを光学的に観察することによってアライメントが実施され、予め個別流路基板22表面に塗布された接着剤を介して加圧加熱を行うことによって接合が成されている。
【0039】
接着剤としては、インクジェット記録装置に使用されるインクに対して耐溶剤性の高い接着剤を用いることができ、具体的には、例えばエポキシ樹脂を主成分とする熱硬化型接着剤(エポキシ接着剤)を好適に用いることができる。
【0040】
次に、第2ヘッド構造体62について説明する。第2ヘッド構造体62の共通流路基板23〜25と、ダンパ部材26、27と、ベースプレート30とは、SUS、あるいはFe−Ni合金などの金属材料を用いて平板形状に形成されており、プレス加工方式(プレス成型)によって、外形とピンアライメント孔部とが形成されている。また、共通流路基板23〜25は、プレス加工方式により共通流路が形成されている。
【0041】
そして、図3−2に示すように、第2ヘッド構造体62は、共通流路基板23〜25とダンパ部材26、27とベースプレート30の表面に予め塗布されたエポキシ接着剤を介して、共通流路基板23〜25をピンが挿入された接合治具(図示せず)上に順次積層して加圧加熱を行うことによって接合が成されている。本実施の形態の第2ヘッド構造体62は、上述したように、同一種の金属材料を用いて平板形状に形成されているので、成型が容易であり、また一体化接合における加熱処理を行っても熱膨張差による反りを生じることなく、高い寸法精度を得ることができる。
【0042】
次に、第3ヘッド構造体63について説明する。ハウジング40は、モールド成型方式を用いて形成されている。そして、図3−4に示すように、コネクタ基板42は、ハウジング40に接着して固定されており、シール部材44は、ハウジング40のインク供給口に挿入されて、第3ヘッド構造体63が製造される。このシール部材44としては、インクジェット記録装置にて使用されるインクに対して耐溶剤性の高い弾性体を用いることができ、具体的には、例えば、シリコーンゴムやEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム:Ethylene Propylene Rubber)を好適に用いることができる。
【0043】
次に、それぞれのヘッド構造体の積層方法について以下に説明する。まず、図3−3に示すように、第1ヘッド構造体61と第2ヘッド構造体62は、ノズル板21の表面に設けられたアライメント開口部と、ベースプレート30が光学的にアライメントされ、接合面に塗布された接着剤を介して加圧加熱が行われことによって接合されている。ここで、接合後における第1ヘッド構造体61と第2ヘッド構造体62とによる構造体を第4ヘッド構造体64とする。
【0044】
このように、本実施の形態に係る第4ヘッド構造体64は位置基準面30a、30bを具備するベースプレート30と、ノズル板21を具備する第1ヘッド構造体61とが近接した位置関係にあるため、精度を向上させた光学的なアライメントを容易に行うことができる。
【0045】
また、図3−4に示すように、第4ヘッド構造体64と第3ヘッド構造体63とは、シール部材44を介して締結部43を用いて結合されている。このような締結部43による結合は接着剤を使用しないため、加熱処理を行う必要がない。従って、樹脂で形成されたハウジング40と金属で形成されたベースプレート30との接合において、熱膨張差に起因する位置決め精度の悪化を回避でき、簡便に組み立てることが可能である。
【0046】
本実施の形態にかかるインクジェットヘッドの製造方法は、上述のようにアライメントの精度を向上させることができるともに、各構造体を並列した製造設備を用いて形成できるので、製造に要する時間が短縮され、製造コストを低減することができる。
【0047】
次に、本実施の形態のインクジェットヘッド10を搭載したインクジェット記録装置の一例について、図4および図5を参照して説明する。図4は、インクジェット記録装置の斜視図である。図5は、インクジェット記録装置の断面図である。
【0048】
図4および図5に示すように、インクジェット記録装置50は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載し、上述したインクジェットヘッド10からなる記録ヘッド94、記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。記録装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ87に排紙する。
【0049】
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する、上述した薄膜形成で形成された液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド94を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ93には記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
【0050】
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0051】
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
【0052】
一方、給紙カセット84にセットした用紙83を記録ヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0053】
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ87に送り出す排紙ローラ113及び114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
【0054】
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0055】
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャッピング手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0056】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(図示しない)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0057】
このように、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド10は、ノズル板21の開口面21aと平行な方向の位置決めをする位置基準面30a、30bを備えたベースプレート30を金属で形成したため、インクジェットヘッド10のインクジェット記録装置50への位置決め精度を向上させることができる。また、ノズル板21の開口面21aと垂直な方向の位置決めをする位置基準面40aを備えたハウジング40を樹脂で形成したため、インクジェットヘッド10の製造コストを低減させることができる。また、このようなインクジェットヘッド10をインクジェット記録装置50に装着する際にインクジェットヘッド10のインクジェット記録装置50への位置決め精度を向上させることができるため、その結果、記録用紙へ記録される画像品質を向上させることができる。
【符号の説明】
【0058】
10 インクジェットヘッド
20 インクジェットヘッドチップ
21 ノズル板
22 個別流路基板
23、24、25 共通流路基板
26、27 ダンパ部材
30 ベースプレート
30a 位置基準面
31 ピンアライメント孔部
40 ハウジング
40a 位置基準面
42 コネクタ基板
43 締結部
44 シール部材
50 インクジェット記録装置
61 第1ヘッド構造体
62 第2ヘッド構造体
63 第3ヘッド構造体
64 第4ヘッド構造体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0059】
【特許文献1】特許第3495938号
【特許文献2】特開2010−280096号公報
【特許文献3】特許第2698638号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出装置に着脱可能な液滴吐出ヘッドにおいて、
液滴を吐出する複数のノズル孔を有するノズル板と、
前記ノズル孔に液滴を供給する複数の個別液室が形成され、前記個別液室内の液滴を加圧する圧力発生部を有する個別流路基板と、
前記個別流路基板に液滴を供給する共通流路基板と、
前記液滴吐出装置の所定位置に係合し、前記液滴吐出装置に対して前記ノズル板の前記ノズル孔の開口面に沿う方向の位置決めをする第1位置決め部を有する金属製のベースプレートと、
前記液滴吐出装置に対して前記開口面と交差する方向の位置決めをする第2位置決め部を有する樹脂製のハウジングと、を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1位置決め部は、前記ノズル板に前記複数のノズル孔が形成されたノズル列と交差する方向に、前記ベースプレートにおける前記ノズル列に沿う方向の縁部から突出した突出部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記ベースプレートは、前記液滴吐出ヘッドが前記液滴吐出装置に装着される際に、側面が前記液滴吐出装置の所定位置に係合することを特徴とする請求項1または2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ベースプレートと前記共通流路基板は、プレス成型によって形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記圧力発生部は、下部電極と、圧電体と、上部電極とを含む電気機械変換素子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
液滴吐出装置に着脱可能な液滴吐出ヘッドの製造方法において、
前記液滴吐出ヘッドは、
液滴を吐出する複数のノズル孔を有するノズル板と、
前記ノズル孔に液滴を供給する複数の個別液室が形成され、前記個別液室内の液滴を加圧する圧力発生部を有する個別流路基板と、
前記個別流路基板に液滴を供給する共通流路基板と、
前記液滴吐出装置の所定位置に係合し、前記液滴吐出装置に対して前記ノズル板の前記ノズル孔の開口面に沿う方向の位置決めをする第1位置決め部を有する金属製のベースプレートと、
前記液滴吐出装置に対して前記開口面と交差する方向の位置決めをする第2位置決め部を有する樹脂製のハウジングと、
を備え、
前記ノズル板と前記個別流路基板とを光学的にアライメントして接合することで第1ヘッド構造体を製造する第1の工程と、
前記共通流路基板と前記ベースプレートとに設けられた開口部を用いて、前記共通流路基板と前記ベースプレートとをアライメントして接合することで第2ヘッド構造体を製造する第2の工程と、
前記第1ヘッド構造体と前記第2ヘッド構造体とを光学的にアライメントして接合する第3の工程と、
を含むことを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項7】
着脱可能な液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置において、
前記液滴吐出ヘッドは、
液滴を吐出する複数のノズル孔を有するノズル板と、
前記ノズル孔に液滴を供給する複数の個別液室が形成され、前記個別液室内の液滴を加圧する圧力発生部を有する個別流路基板と、
前記個別流路基板に液滴を供給する共通流路基板と、
前記液滴吐出装置の所定位置に係合し、前記液滴吐出装置に対して前記ノズル板の前記ノズル孔の開口面に沿う方向の位置決めをする第1位置決め部を有する金属製のベースプレートと、
前記液滴吐出装置に対して前記開口面と交差する方向の位置決めをする第2位置決め部を有する樹脂製のハウジングと、を備えることを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−22848(P2013−22848A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160185(P2011−160185)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】