液滴吐出装置
【課題】搬送ベルトが静電気力によってインクジェット記録ヘッド側へ引き寄せられることを抑制すると共に、搬送ベルトと用紙との吸着力を確保する。
【解決手段】帯電ロール36の軸方向両端部に、絶縁性のスペーサ60が設けられており、帯電ロール36が搬送ベルト28に非接触とされ、帯電ロール36と搬送ベルト28とのギャップが、用紙の厚み未満にされている。
【解決手段】帯電ロール36の軸方向両端部に、絶縁性のスペーサ60が設けられており、帯電ロール36が搬送ベルト28に非接触とされ、帯電ロール36と搬送ベルト28とのギャップが、用紙の厚み未満にされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、記録媒体を保持し液滴吐出ヘッドに対向させて搬送する搬送ベルトと、記録媒体を搬送ベルトに静電吸着させる帯電ロールと、を備える液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置としてのインクジェットプリンタでは、帯電ロールによって用紙Pを搬送ベルトや搬送ドラム等の搬送部材に押圧すると共に帯電することで、用紙と搬送部材との間に静電吸着力を発生させ、用紙を搬送部材に吸着させる。そして、この状態で用紙を記録ヘッドのインク滴の吐出領域を通過させて、用紙に画像を記録させる(例えば、特許文献1、2参照)。これによって、用紙と記録ヘッドのノズル面との距離(以下、TD:Throw Distanceという)の均一性が高くなり、用紙上におけるインク滴の着弾位置の精度が向上し、画質が向上する。
【0003】
また、近年は、更なる用紙上におけるインク滴の着弾位置の精度向上、即ち、更なる高画質化を目的として、用紙と記録ヘッドのノズル面との距離を、1〜2mmと狭くすることが行われている。一方、TDの均一性を高めるためには、用紙と搬送部材との静電吸着力を強くすることが要求され、また、温湿度等の環境の変化や用紙の種類の違いによってTDの均一性が低下しないようにするためには、用紙と搬送部材との静電吸着力をさらに強くすることが要求される。
【0004】
このため、図10に示すように、記録ヘッド32と搬送ベルト28との間に発生する静電吸着力が強くなり、搬送ベルト28が浮上って記録ヘッド32に接触するトラブルが発生する場合があった。搬送ベルト28が記録ヘッド32に接触すると、搬送ベルト28がインクで汚れたり、搬送ベルト28を介して一の記録ヘッド32から他の記録ヘッド32へインクが移って混色が起こったり、搬送ベルト28に付着した異物がノズルから記録ヘッド32内へ混入したりする問題が発生する。特に、主に画質の向上が目的で、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のインクと混ざり合って凝集反応を生じさせる透明インク(反応液)を用いるシステム(所謂2液システム)や、例えばKとY等、異なる色のインクを混ぜ合わせて反応させるシステム(所謂インク間反応システム)では、記録ヘッド32でインクの凝集や変色が起こってしまい、回復不可能となる。
【0005】
ここで、図11に示すように、通常状態では、帯電ロール36と搬送ベルト28との接触部分が高抵抗となるので、帯電ロール36と搬送ベルト28との間の電荷の移動は、帯電ロール36と搬送ベルト28との間の微小なギャップの領域における放電によるものとなる。しかし、帯電ロール36と搬送ベルト28との接触部分に水滴やインク滴等が付着している場合には低抵抗となり、この部分において電荷の移動が行われる。このため、図12のグラフに示すように、異常状態における搬送ベルト28上の表面電位は、通常状態と比較して上昇する。
【0006】
なお、帯電ロールを被帯電部材と非接触とすることで、被帯電部材の表面電位の異常な上昇を防止することができる(例えば、特許文献3、4参照)。しかし、帯電ロールを搬送ベルトから非接触とし、用紙を搬送ベルトに押圧しない場合には、用紙と搬送ベルトとの間に十分な吸着力を与えることができなかった。
【特許文献1】特開平10−193585号公報
【特許文献2】特開2003−103857号公報
【特許文献3】特開平7−301973号公報
【特許文献4】特開2001−194868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、搬送ベルトが静電気力によって液滴吐出ヘッド側へ引き寄せられることを抑制すると共に、搬送ベルトと記録媒体との吸着力を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の液滴吐出装置は、液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、記録媒体を保持し前記液滴吐出ヘッドに対向させて搬送する搬送ベルトと、記録媒体を前記搬送ベルトに静電吸着させる帯電ロールと、を備える液滴吐出装置であって、前記帯電ロールを前記搬送ベルトに非接触とし、前記帯電ロールと前記搬送ベルトとのギャップを記録媒体の厚み未満としたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の液滴吐出装置では、記録媒体が、搬送ベルトに保持され液滴吐出ヘッドに対向されて搬送され、液滴吐出ヘッドが液滴を吐出する。この際、記録媒体は帯電ロールによって搬送ベルトに静電吸着されているので、液滴吐出ヘッドと記録媒体との距離の均一性が高くなり、記録媒体上における液滴の着弾位置の精度が高くなる。
【0010】
ここで、帯電ロールは、搬送ベルトに非接触となっている。このため、帯電ロールと搬送ベルトとの間での電荷の移動が、全て放電によるものとなるので、搬送ベルト上における表面電位の異常な上昇を防止でき、搬送ベルトが液滴吐出ヘッド側へ静電気力によって引き寄せられることを抑制できる。
【0011】
また、帯電ロールと搬送ベルトとのギャップが、記録媒体の厚み未満となっている。このため、記録媒体が帯電ロールによって搬送ベルトに押圧されるので、搬送ベルトと記録媒体との間の静電吸着力を効率良く高めることができ、搬送ベルトと記録媒体との吸着力を確保できる。
【0012】
請求項2に記載の液滴吐出装置は、請求項1に記載の液滴吐出装置であって、前記帯電ロールよりも大径で前記搬送ベルトに当接する円周面を備えるスペーサ部材を前記帯電ロールの軸方向両端部に設けることで、前記ギャップを形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の液滴吐出装置では、帯電ロールの軸方向両端部に帯電ロールよりも大径の円周面を備えるスペーサ部材が設けられており、このスペーサ部材が搬送ベルトに当接することで、帯電ロールと搬送ベルトとのギャップが形成されている。
【0014】
ここで、スペーサ部材は絶縁性を有し、搬送ベルトとスペーサ部材との接触部においては電荷の移動が無く、帯電ロール側から搬送ベルトへの電荷の移動が全て放電によるものとなるので、搬送ベルト上における表面電位の異常な上昇を防止できる。
【0015】
請求項3に記載の液滴吐出装置は、請求項1に記載の液滴吐出装置であって、前記帯電ロールを前記搬送ベルトから離して支持する支持手段を設けることで、前記ギャップを形成したことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の液滴吐出装置では、帯電ロールが支持手段によって搬送ベルトから離して支持されることで、帯電ロールと搬送ベルトとのギャップが形成されている。このため、請求項2のスペーサ部材のように直接搬送ベルトに接触する部材が帯電ロールの周囲に存在しないので、搬送ベルトの磨耗劣化、搬送負荷を低減できる。
【0017】
請求項4に記載の液滴吐出装置は、請求項3に記載の液滴吐出装置であって、前記支持手段に、前記帯電ロールを前記搬送ベルトに対して遠近可能に支持させ、記録媒体の厚みに応じて前記帯電ロールを前記搬送ベルトに対して遠近させて前記ギャップを増減させるギャップ増減手段を設けたことを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の液滴吐出装置では、帯電ロールが、支持手段によって搬送ベルトに対して遠近可能に支持されており、ギャップ増減手段によって記録媒体の厚みに応じて搬送ベルトに対して遠近され、帯電ロールと搬送ベルトとのギャップが増減される。
【0019】
これによって、記録媒体の厚みの差によって生じる、帯電ロールによる記録媒体を搬送ベルトへ押圧する力の差異を抑制できるので、記録媒体の厚みの違いに関わらず、記録媒体を搬送ベルトに安定して吸着させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記構成にしたので、搬送ベルトが静電気力によって液滴吐出ヘッド側へ引き寄せられることを抑制できると共に、搬送ベルトと記録媒体との吸着力を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0022】
図1には、本実施形態のインクジェット記録装置12が示されている。インクジェット記録装置12の筐体14内の下部には給紙トレイ16が備えられており、給紙トレイ16内に積層された用紙Pをピックアップロール18で1枚ずつ取り出すことができる。取り出された用紙Pは、所定の搬送経路22を構成する複数の搬送ローラ対20で搬送される。
【0023】
給紙トレイ16の上方には、無端状の搬送ベルト28が、駆動ロール24及び従動ロール26に張架されている。搬送ベルト28の上方には記録ヘッドアレイ30が配置されており、搬送ベルト28の平坦部分28Fに対向している。この対向した領域が、記録ヘッドアレイ30からインク滴が吐出される吐出領域SEとなっている。搬送経路22を搬送された用紙Pは、搬送ベルト28で保持されてこの吐出領域SEに至り、記録ヘッドアレイ30に対向した状態で、記録ヘッドアレイ30から画像情報に応じたインク滴が付着される。
【0024】
記録ヘッドアレイ30は、本実施形態では、有効な記録領域が用紙Pの幅(搬送方向と直交する方向の長さ)以上とされた長尺状とされ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、サイアン(C)、及びブラック(K)の4色それぞれに対応した4つのインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)32が搬送方向に沿って配置されており、フルカラーの画像を記録可能になっている。
【0025】
各記録ヘッド32は、ヘッド駆動回路(図示省略)によって駆動される。ヘッド駆動回路は、たとえば、画像情報に応じてインク滴の吐出タイミングや使用するインク吐出口(ノズル)を決め、駆動信号を記録ヘッド32に送る構成である。
【0026】
また、記録ヘッドアレイ30は、搬送方向と直交する方向に不動とされていてもよいが、必要に応じて移動するように構成しておくと、マルチパスによる画像記録で、より解像度の高い画像を記録したり、記録ヘッド32の不具合を記録結果に反映させないようにしたりできる。
【0027】
記録ヘッドアレイ30の両側には、それぞれの記録ヘッド32に対応した4つのメンテナンスユニット34が配置されている。図2に示すように、記録ヘッド32に対してメンテナンスを行う場合には、記録ヘッドアレイ30が上方へ移動され、搬送ベルト28との間に構成された間隙にメンテナンスユニット34が移動して入り込む。そして、ノズル面に対向した状態で、所定のメンテナンス動作(吸引、ワイピング、キャッピング等)を行う。
【0028】
図3に示すように、記録ヘッドアレイ30の上流側には、電源38が接続された帯電ロール36が配置されている。帯電ロール36は、従動ロール26との間で搬送ベルト28及び用紙Pを挟みつつ従動し、用紙Pを搬送ベルト28に押圧する。この際、接地された従動ロール26との間に所定の電位差が生じるため、用紙Pに電荷を与えて搬送ベルト28に静電吸着させることができる。
【0029】
記録ヘッドアレイ30の下流側には、剥離プレート40が配置されており、用紙Pを搬送ベルト28から剥離させる。剥離された用紙Pは、剥離プレート40の下流側で排出経路44を構成する複数の排出ローラ対42で搬送され、筐体14の上部に設けられた排紙トレイ46に排出される。
【0030】
また、図1、図2に示すように、記録ヘッドアレイ30の上方には、各色のインクを貯留するインクタンク35が配置されている。各インクタンク35には、各記録ヘッド32が接続されている。
【0031】
ここで、帯電ロール36を備える帯電ロールユニットの第1実施例について説明する。
【0032】
図4、図5に示すように、帯電ロールユニット50は、帯電ロール36と、帯電ロール36を支持する支持機構52とを備えている。支持機構52は、フレーム54と一対の軸受56と一対の付勢部材としての圧縮コイルバネ58とを備えている。
【0033】
フレーム54は、帯電ロール36の上側でインクジェット記録装置12のフレーム(図示省略)に支持され、帯電ロール36の軸方向へ長手に延び、長手方向両端部を搬送ベルト28側へ略直角に折り曲げられている。このフレーム54には、長手方向両端部から折曲部へ向けて延びるU字状の長穴54Aが空けられている。また、各軸受56は、各長穴54Aに、各長孔54Aの長手方向に沿ってスライド可能に嵌められており、帯電ロール36の回転軸36Aの軸方向一端部又は他端部を回転可能に支持している。
【0034】
また、長孔54Aの最深部には、開口部側へ延びるボス54Bが形成され、また、軸受56には、ボス54Bと対向するボス56Aが形成されており、圧縮コイルバネ58の両端部が、ボス54Bとボス56Aとに嵌られている。このため、帯電ロール36は、圧縮コイルバネ58によって搬送ベルト28側へ付勢されている。また、フレーム54の長手方向両端部には、長孔54Aの開口部を塞いで軸受56の長孔54Aからの抜け出しを防止するストッパ59が設けられている。
【0035】
ここで、帯電ロール36のロール部36Bの軸方向両端部には、ロール部36Bよりも大径の円環状の部材であるスペーサ60が取付けられている。このスペーサ60は、絶縁性と、押圧により変形しない高剛性を有する部材で、POM、PMMA、PET等の樹脂又は絶縁処理した金属又はセラミック等で形成されている。このため、圧縮コイルバネ58の付勢力によってスペーサ60のみが搬送ベルト28に圧接され、帯電ロール36のロール部36Bと搬送ベルト28とは非接触になる。また、スペーサ60から搬送ベルト28へ電流が流れないようになっている。
【0036】
このため、図6に示すように、ロール部36Bと搬送ベルト28との間における電荷の移動が全て放電によるものとなり、搬送ベルト28の表面電位が安定する。即ち、搬送ベルト28の表面電位が異常に上昇することを防止できるので、搬送ベルト28と記録ヘッド32との間の静電気力が異常に上昇することを防止できる。
【0037】
これによって、搬送ベルト28が記録ヘッド32側へ浮上ることを抑制でき、記録ヘッド32と搬送ベルト28とのクリアランスをより狭くできるので、用紙P上におけるインク滴の着弾位置の精度を向上できる。また、帯電ロール36に印加する電圧の範囲を高い方へ広げることができ、用紙Pと搬送ベルト28との吸着力を向上できるので、上記TDの均一性を向上できるので、同じく、用紙P上におけるインク滴の着弾位置の精度を向上できる。
【0038】
また、搬送ベルト28の浮上りを防止するために搬送ベルト28にかけるテンションを強くする必要が無いので、搬送ベルト28に発生するしわを抑制でき、搬送ベルト28による用紙Pの搬送性能を向上できる。また、帯電ロール36は、従動回転しており、ロール部36Bの放電箇所が常に移動しているので、放電劣化が少ない。また、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップが、スペーサ60によって、搬送ベルト28の厚みの変動に関わらずに一定とされるので、搬送ベルト28の表面電位が安定する。さらに、帯電ロール36を搬送ベルト28に非接触にし、用紙Pにのみ接触するようにしたことで、帯電ロール36の磨耗劣化を低減できる。
【0039】
ここで、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップは、用紙Pの厚み未満(好ましくは用紙Pの厚み×0.6以下)となっており、用紙Pが帯電ロール36のロール部36Bによって搬送ベルト28に圧接されるようになっている。これによって、用紙Pと搬送ベルト28との静電吸着力を効率良く高めることができ、搬送ベルト28と用紙Pとの吸着力を確保できる。
【0040】
なお、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップは、搬送ベルト28上に付着しているインクによるロール部36Bの汚染を考慮して5μm以上が必要で、帯電ロールユニット50の各構成要素部品の加工精度を考慮して20μm以上とすることが好ましい。
【0041】
次に、帯電ロール36を備える帯電ロールユニットの第2実施例について説明する。
【0042】
図7、図8に示すように、帯電ロールユニット70は、帯電ロール36と、帯電ロール36を支持する支持機構72と、帯電ロール36を搬送ベルト28に対して遠近させるリンク機構80とを備えている。支持機構72は、フレーム74と一対の軸受76と一対の付勢部材としての圧縮コイルバネ78とを備えている。
【0043】
フレーム74は、帯電ロール36の上側でインクジェット記録装置12のフレーム(図示省略)に支持され、帯電ロール36の軸方向へ長手に延び、長手方向両端部を搬送ベルト28側へ略直角に折り曲げられている。このフレーム74には、長手方向両端部から折曲部へ向けて延びるU字状の長穴74Aが空けられている。また、各軸受76は、各長穴74Aに、長孔74Aの長手方向に沿ってスライド可能に嵌められており、帯電ロール36の回転軸36Aの軸方向一端部又は他端部を回転可能に支持している。
【0044】
また、長孔74Aの最深部には、開口部側へ延びるボス74Bが形成され、また、軸受76には、ボス74Bと対向するボス76Aが形成されており、圧縮コイルバネ78の両端部が、ボス74Bとボス76Aとに嵌られている。このため、帯電ロール36は、圧縮コイルバネ78によって搬送ベルト28側へ付勢されている。
【0045】
また、フレーム74の長手方向両端部には、搬送方向上流側へ延びるリンク機構支持片74Cが一体で形成されている。このリンク機構支持片74Cは、搬送方向上流側へ略水平且つ長手に延びるロール支持部74Dと、このロール支持部74Dの長手方向中央部から下方へ略鉛直且つ長手に延びるリンク支持部74Eとで構成されている。
【0046】
また、リンク機構80は、リンク支持部74Eの先端部に長手方向中央部を回動可能に支持されたアーム82と、アーム82の長手方向一端部に回転可能に支持されたロール84と、ロール支持部74Dの先端部に回転可能に支持されたロール86と、で構成されている。
【0047】
ここで、アーム82は、長手方向一端部にロール86を支持しているので、長手方向他端部が上がる方向(図中反時計回り方向)へ回動しようとするが、アーム82の長手方向他端部は、軸受76の下側に形成されたR形状部に当接可能となっており、アーム82の回動が止まるようになっている。また、アーム82は、軸受76を介して圧縮コイルバネ78の付勢力を受けており、長手方向他端部が下がる方向(図中時計回り方向)へ回動しようとするが、ロール84は、ロール86に当接可能となっており、アーム82の回動が止まるようになっている。
【0048】
この状態で、帯電ロール36のロール部36Bが、搬送ベルト28に非接触となり、ロール84とロール86とのニップ部が、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップの高さに位置するように、各部が設定されている。この状態での、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップは、第1実施形態と同様、5μm以上が必要で、20μm以上が好ましい。
【0049】
そして、図9に示すように、用紙Pがロール84とロール86とのニップ部へ搬送されると、用紙Pによってロール84が用紙Pの厚み分だけ押し下げられてアーム82が図中反時計回り方向へ回動する。これによって、軸受76が押し上げられて帯電ロール36が上昇する。この際のロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップが用紙Pの厚み未満(好ましくは用紙Pの厚み×0.6以下)となるように、各部が設定されている。
【0050】
即ち、用紙Pの厚みに応じて、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップが変化するようになっている。このため、用紙Pの厚みの差によって生じる、帯電ロール36による用紙Pを搬送ベルト28へ押圧する力の差異を抑制できるので、用紙Pの厚みの違いに関わらず、用紙Pを搬送ベルト28に安定して吸着させることができる。
【0051】
また、ロール部36Bは、用紙Pが帯電ロール36と搬送ベルト28との間を通過している時のみ、搬送される用紙Pに接触し、それ以外の時は、あらゆるものに対して非接触となるので、磨耗劣化が少ない。
【0052】
また、第1実施形態のスペーサ60のように直接搬送ベルト28に接触する部材が帯電ロール36の周囲に存在しないので、搬送ベルト28の磨耗劣化、搬送負荷を低減できる。
【0053】
なお、本実施形態では、用紙Pの厚み分だけ変位するリンク機構80を用いて、帯電ロール36を用紙Pの厚みに応じて上下動させたが、帯電ロール36を変位させる機構としてモータやソレノイド等を用い、用紙Pの厚みをセンサによって検知し、検知した用紙Pの厚みに応じてモータやソレノイド等を駆動することで、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップを増減しても良い。この場合、用紙Pが無い状態では、帯電ロール36へのインクやゴミの付着を防止するべく帯電ロール36と搬送ベルト28とのギャップを大きくしておき、用紙Pが来た時に所望のギャップまで小さくするのが好ましい。
【0054】
また、印刷実行時のソフトウェアの用紙選択と同期してギャップ調整を行うようにしても良い。また、帯電ロール36を変位させる機構として手動の機構を用い、ユーザが手動でギャップ調整を行うようにしても良い。
【0055】
さらに、帯電ロール36が自重で用紙Pを搬送ベルト28に押圧するように構成しても良い。この場合、帯電ロール36を、薄紙に当接可能な位置に懸架し、それよりも厚い用紙によって上に移動されるように構成すれば良く、用紙Pの厚みの差によって生じる、帯電ロール36による用紙Pを搬送ベルト28へ押圧する力の差異を抑制できる。なお、帯電ロール36による押圧力は、帯電ロール36の回転軸36Aの材質、長さ、径を替えることで調整可能である。
【0056】
なお、第1、第2実施形態では、インクジェット記録装置を例に取って本発明を説明したが、本発明は、インクジェット記録装置に限らず、高分子フィルム上に着色インクを吐出して行うディスプレイ用のカラーフィルターの作製、有機EL溶液を基板上に吐出させて行うELディスプレイパネルの形成など、様々な工業的用途を対象とした液滴吐出装置一般に対して、適用可能である。
【0057】
また、本発明の液滴吐出装置において画像記録の対象となる「記録媒体」には、液滴吐出ヘッドが液滴を吐出する対象物であれば広く含まれる。したがって、記録媒体には、記録用紙やOHPシートなどが含まれるのはもちろんであるが、これら以外にも、たとえば、高分子フィルムなどが含まれる。
【0058】
さらに、第1、第2実施形態では、用紙Pの幅よりも短尺のインクジェット記録ヘッドを用紙Pの幅方向に複数配列してユニット化した構成を例に取って本発明を説明したが、これに限らず、例えば、用紙Pの幅よりも短尺のインクジェット記録ヘッドを用紙Pの幅方向に移動させる構成等にも本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の概略を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の概略を示す側面図である。
【図3】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の印字部の概略を示す側面図である。
【図4】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットの第1実施例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットの第1実施例を示す正面図である。
【図6】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールと搬送ベルトとの間の放電の様子を模式的に示す側面図である。
【図7】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットを示す斜視図である。
【図8】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットの第2実施例を示す側面図である。
【図9】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットの第2実施例を示す側面図である。
【図10】従来のインクジェット記録装置における記録ヘッドと搬送ベルトとを模式的に示す側面図である。
【図11】従来のインクジェット記録装置における帯電ロールと搬送ベルトとの間の放電の様子を模式的に示す側面図である。
【図12】従来のインクジェット記録装置における帯電ロールに印加する電圧と搬送ベルト上の表面電位との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
12 インクジェット記録装置(液滴吐出装置)
28 搬送ベルト
32 インクジェット記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)
36 帯電ロール
52 支持機構(支持手段)
72 支持機構(支持手段)
80 リンク機構(ギャップ増減手段)
P 用紙(記録媒体)
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、記録媒体を保持し液滴吐出ヘッドに対向させて搬送する搬送ベルトと、記録媒体を搬送ベルトに静電吸着させる帯電ロールと、を備える液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置としてのインクジェットプリンタでは、帯電ロールによって用紙Pを搬送ベルトや搬送ドラム等の搬送部材に押圧すると共に帯電することで、用紙と搬送部材との間に静電吸着力を発生させ、用紙を搬送部材に吸着させる。そして、この状態で用紙を記録ヘッドのインク滴の吐出領域を通過させて、用紙に画像を記録させる(例えば、特許文献1、2参照)。これによって、用紙と記録ヘッドのノズル面との距離(以下、TD:Throw Distanceという)の均一性が高くなり、用紙上におけるインク滴の着弾位置の精度が向上し、画質が向上する。
【0003】
また、近年は、更なる用紙上におけるインク滴の着弾位置の精度向上、即ち、更なる高画質化を目的として、用紙と記録ヘッドのノズル面との距離を、1〜2mmと狭くすることが行われている。一方、TDの均一性を高めるためには、用紙と搬送部材との静電吸着力を強くすることが要求され、また、温湿度等の環境の変化や用紙の種類の違いによってTDの均一性が低下しないようにするためには、用紙と搬送部材との静電吸着力をさらに強くすることが要求される。
【0004】
このため、図10に示すように、記録ヘッド32と搬送ベルト28との間に発生する静電吸着力が強くなり、搬送ベルト28が浮上って記録ヘッド32に接触するトラブルが発生する場合があった。搬送ベルト28が記録ヘッド32に接触すると、搬送ベルト28がインクで汚れたり、搬送ベルト28を介して一の記録ヘッド32から他の記録ヘッド32へインクが移って混色が起こったり、搬送ベルト28に付着した異物がノズルから記録ヘッド32内へ混入したりする問題が発生する。特に、主に画質の向上が目的で、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のインクと混ざり合って凝集反応を生じさせる透明インク(反応液)を用いるシステム(所謂2液システム)や、例えばKとY等、異なる色のインクを混ぜ合わせて反応させるシステム(所謂インク間反応システム)では、記録ヘッド32でインクの凝集や変色が起こってしまい、回復不可能となる。
【0005】
ここで、図11に示すように、通常状態では、帯電ロール36と搬送ベルト28との接触部分が高抵抗となるので、帯電ロール36と搬送ベルト28との間の電荷の移動は、帯電ロール36と搬送ベルト28との間の微小なギャップの領域における放電によるものとなる。しかし、帯電ロール36と搬送ベルト28との接触部分に水滴やインク滴等が付着している場合には低抵抗となり、この部分において電荷の移動が行われる。このため、図12のグラフに示すように、異常状態における搬送ベルト28上の表面電位は、通常状態と比較して上昇する。
【0006】
なお、帯電ロールを被帯電部材と非接触とすることで、被帯電部材の表面電位の異常な上昇を防止することができる(例えば、特許文献3、4参照)。しかし、帯電ロールを搬送ベルトから非接触とし、用紙を搬送ベルトに押圧しない場合には、用紙と搬送ベルトとの間に十分な吸着力を与えることができなかった。
【特許文献1】特開平10−193585号公報
【特許文献2】特開2003−103857号公報
【特許文献3】特開平7−301973号公報
【特許文献4】特開2001−194868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、搬送ベルトが静電気力によって液滴吐出ヘッド側へ引き寄せられることを抑制すると共に、搬送ベルトと記録媒体との吸着力を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の液滴吐出装置は、液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、記録媒体を保持し前記液滴吐出ヘッドに対向させて搬送する搬送ベルトと、記録媒体を前記搬送ベルトに静電吸着させる帯電ロールと、を備える液滴吐出装置であって、前記帯電ロールを前記搬送ベルトに非接触とし、前記帯電ロールと前記搬送ベルトとのギャップを記録媒体の厚み未満としたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の液滴吐出装置では、記録媒体が、搬送ベルトに保持され液滴吐出ヘッドに対向されて搬送され、液滴吐出ヘッドが液滴を吐出する。この際、記録媒体は帯電ロールによって搬送ベルトに静電吸着されているので、液滴吐出ヘッドと記録媒体との距離の均一性が高くなり、記録媒体上における液滴の着弾位置の精度が高くなる。
【0010】
ここで、帯電ロールは、搬送ベルトに非接触となっている。このため、帯電ロールと搬送ベルトとの間での電荷の移動が、全て放電によるものとなるので、搬送ベルト上における表面電位の異常な上昇を防止でき、搬送ベルトが液滴吐出ヘッド側へ静電気力によって引き寄せられることを抑制できる。
【0011】
また、帯電ロールと搬送ベルトとのギャップが、記録媒体の厚み未満となっている。このため、記録媒体が帯電ロールによって搬送ベルトに押圧されるので、搬送ベルトと記録媒体との間の静電吸着力を効率良く高めることができ、搬送ベルトと記録媒体との吸着力を確保できる。
【0012】
請求項2に記載の液滴吐出装置は、請求項1に記載の液滴吐出装置であって、前記帯電ロールよりも大径で前記搬送ベルトに当接する円周面を備えるスペーサ部材を前記帯電ロールの軸方向両端部に設けることで、前記ギャップを形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の液滴吐出装置では、帯電ロールの軸方向両端部に帯電ロールよりも大径の円周面を備えるスペーサ部材が設けられており、このスペーサ部材が搬送ベルトに当接することで、帯電ロールと搬送ベルトとのギャップが形成されている。
【0014】
ここで、スペーサ部材は絶縁性を有し、搬送ベルトとスペーサ部材との接触部においては電荷の移動が無く、帯電ロール側から搬送ベルトへの電荷の移動が全て放電によるものとなるので、搬送ベルト上における表面電位の異常な上昇を防止できる。
【0015】
請求項3に記載の液滴吐出装置は、請求項1に記載の液滴吐出装置であって、前記帯電ロールを前記搬送ベルトから離して支持する支持手段を設けることで、前記ギャップを形成したことを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の液滴吐出装置では、帯電ロールが支持手段によって搬送ベルトから離して支持されることで、帯電ロールと搬送ベルトとのギャップが形成されている。このため、請求項2のスペーサ部材のように直接搬送ベルトに接触する部材が帯電ロールの周囲に存在しないので、搬送ベルトの磨耗劣化、搬送負荷を低減できる。
【0017】
請求項4に記載の液滴吐出装置は、請求項3に記載の液滴吐出装置であって、前記支持手段に、前記帯電ロールを前記搬送ベルトに対して遠近可能に支持させ、記録媒体の厚みに応じて前記帯電ロールを前記搬送ベルトに対して遠近させて前記ギャップを増減させるギャップ増減手段を設けたことを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の液滴吐出装置では、帯電ロールが、支持手段によって搬送ベルトに対して遠近可能に支持されており、ギャップ増減手段によって記録媒体の厚みに応じて搬送ベルトに対して遠近され、帯電ロールと搬送ベルトとのギャップが増減される。
【0019】
これによって、記録媒体の厚みの差によって生じる、帯電ロールによる記録媒体を搬送ベルトへ押圧する力の差異を抑制できるので、記録媒体の厚みの違いに関わらず、記録媒体を搬送ベルトに安定して吸着させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記構成にしたので、搬送ベルトが静電気力によって液滴吐出ヘッド側へ引き寄せられることを抑制できると共に、搬送ベルトと記録媒体との吸着力を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0022】
図1には、本実施形態のインクジェット記録装置12が示されている。インクジェット記録装置12の筐体14内の下部には給紙トレイ16が備えられており、給紙トレイ16内に積層された用紙Pをピックアップロール18で1枚ずつ取り出すことができる。取り出された用紙Pは、所定の搬送経路22を構成する複数の搬送ローラ対20で搬送される。
【0023】
給紙トレイ16の上方には、無端状の搬送ベルト28が、駆動ロール24及び従動ロール26に張架されている。搬送ベルト28の上方には記録ヘッドアレイ30が配置されており、搬送ベルト28の平坦部分28Fに対向している。この対向した領域が、記録ヘッドアレイ30からインク滴が吐出される吐出領域SEとなっている。搬送経路22を搬送された用紙Pは、搬送ベルト28で保持されてこの吐出領域SEに至り、記録ヘッドアレイ30に対向した状態で、記録ヘッドアレイ30から画像情報に応じたインク滴が付着される。
【0024】
記録ヘッドアレイ30は、本実施形態では、有効な記録領域が用紙Pの幅(搬送方向と直交する方向の長さ)以上とされた長尺状とされ、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、サイアン(C)、及びブラック(K)の4色それぞれに対応した4つのインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッドという)32が搬送方向に沿って配置されており、フルカラーの画像を記録可能になっている。
【0025】
各記録ヘッド32は、ヘッド駆動回路(図示省略)によって駆動される。ヘッド駆動回路は、たとえば、画像情報に応じてインク滴の吐出タイミングや使用するインク吐出口(ノズル)を決め、駆動信号を記録ヘッド32に送る構成である。
【0026】
また、記録ヘッドアレイ30は、搬送方向と直交する方向に不動とされていてもよいが、必要に応じて移動するように構成しておくと、マルチパスによる画像記録で、より解像度の高い画像を記録したり、記録ヘッド32の不具合を記録結果に反映させないようにしたりできる。
【0027】
記録ヘッドアレイ30の両側には、それぞれの記録ヘッド32に対応した4つのメンテナンスユニット34が配置されている。図2に示すように、記録ヘッド32に対してメンテナンスを行う場合には、記録ヘッドアレイ30が上方へ移動され、搬送ベルト28との間に構成された間隙にメンテナンスユニット34が移動して入り込む。そして、ノズル面に対向した状態で、所定のメンテナンス動作(吸引、ワイピング、キャッピング等)を行う。
【0028】
図3に示すように、記録ヘッドアレイ30の上流側には、電源38が接続された帯電ロール36が配置されている。帯電ロール36は、従動ロール26との間で搬送ベルト28及び用紙Pを挟みつつ従動し、用紙Pを搬送ベルト28に押圧する。この際、接地された従動ロール26との間に所定の電位差が生じるため、用紙Pに電荷を与えて搬送ベルト28に静電吸着させることができる。
【0029】
記録ヘッドアレイ30の下流側には、剥離プレート40が配置されており、用紙Pを搬送ベルト28から剥離させる。剥離された用紙Pは、剥離プレート40の下流側で排出経路44を構成する複数の排出ローラ対42で搬送され、筐体14の上部に設けられた排紙トレイ46に排出される。
【0030】
また、図1、図2に示すように、記録ヘッドアレイ30の上方には、各色のインクを貯留するインクタンク35が配置されている。各インクタンク35には、各記録ヘッド32が接続されている。
【0031】
ここで、帯電ロール36を備える帯電ロールユニットの第1実施例について説明する。
【0032】
図4、図5に示すように、帯電ロールユニット50は、帯電ロール36と、帯電ロール36を支持する支持機構52とを備えている。支持機構52は、フレーム54と一対の軸受56と一対の付勢部材としての圧縮コイルバネ58とを備えている。
【0033】
フレーム54は、帯電ロール36の上側でインクジェット記録装置12のフレーム(図示省略)に支持され、帯電ロール36の軸方向へ長手に延び、長手方向両端部を搬送ベルト28側へ略直角に折り曲げられている。このフレーム54には、長手方向両端部から折曲部へ向けて延びるU字状の長穴54Aが空けられている。また、各軸受56は、各長穴54Aに、各長孔54Aの長手方向に沿ってスライド可能に嵌められており、帯電ロール36の回転軸36Aの軸方向一端部又は他端部を回転可能に支持している。
【0034】
また、長孔54Aの最深部には、開口部側へ延びるボス54Bが形成され、また、軸受56には、ボス54Bと対向するボス56Aが形成されており、圧縮コイルバネ58の両端部が、ボス54Bとボス56Aとに嵌られている。このため、帯電ロール36は、圧縮コイルバネ58によって搬送ベルト28側へ付勢されている。また、フレーム54の長手方向両端部には、長孔54Aの開口部を塞いで軸受56の長孔54Aからの抜け出しを防止するストッパ59が設けられている。
【0035】
ここで、帯電ロール36のロール部36Bの軸方向両端部には、ロール部36Bよりも大径の円環状の部材であるスペーサ60が取付けられている。このスペーサ60は、絶縁性と、押圧により変形しない高剛性を有する部材で、POM、PMMA、PET等の樹脂又は絶縁処理した金属又はセラミック等で形成されている。このため、圧縮コイルバネ58の付勢力によってスペーサ60のみが搬送ベルト28に圧接され、帯電ロール36のロール部36Bと搬送ベルト28とは非接触になる。また、スペーサ60から搬送ベルト28へ電流が流れないようになっている。
【0036】
このため、図6に示すように、ロール部36Bと搬送ベルト28との間における電荷の移動が全て放電によるものとなり、搬送ベルト28の表面電位が安定する。即ち、搬送ベルト28の表面電位が異常に上昇することを防止できるので、搬送ベルト28と記録ヘッド32との間の静電気力が異常に上昇することを防止できる。
【0037】
これによって、搬送ベルト28が記録ヘッド32側へ浮上ることを抑制でき、記録ヘッド32と搬送ベルト28とのクリアランスをより狭くできるので、用紙P上におけるインク滴の着弾位置の精度を向上できる。また、帯電ロール36に印加する電圧の範囲を高い方へ広げることができ、用紙Pと搬送ベルト28との吸着力を向上できるので、上記TDの均一性を向上できるので、同じく、用紙P上におけるインク滴の着弾位置の精度を向上できる。
【0038】
また、搬送ベルト28の浮上りを防止するために搬送ベルト28にかけるテンションを強くする必要が無いので、搬送ベルト28に発生するしわを抑制でき、搬送ベルト28による用紙Pの搬送性能を向上できる。また、帯電ロール36は、従動回転しており、ロール部36Bの放電箇所が常に移動しているので、放電劣化が少ない。また、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップが、スペーサ60によって、搬送ベルト28の厚みの変動に関わらずに一定とされるので、搬送ベルト28の表面電位が安定する。さらに、帯電ロール36を搬送ベルト28に非接触にし、用紙Pにのみ接触するようにしたことで、帯電ロール36の磨耗劣化を低減できる。
【0039】
ここで、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップは、用紙Pの厚み未満(好ましくは用紙Pの厚み×0.6以下)となっており、用紙Pが帯電ロール36のロール部36Bによって搬送ベルト28に圧接されるようになっている。これによって、用紙Pと搬送ベルト28との静電吸着力を効率良く高めることができ、搬送ベルト28と用紙Pとの吸着力を確保できる。
【0040】
なお、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップは、搬送ベルト28上に付着しているインクによるロール部36Bの汚染を考慮して5μm以上が必要で、帯電ロールユニット50の各構成要素部品の加工精度を考慮して20μm以上とすることが好ましい。
【0041】
次に、帯電ロール36を備える帯電ロールユニットの第2実施例について説明する。
【0042】
図7、図8に示すように、帯電ロールユニット70は、帯電ロール36と、帯電ロール36を支持する支持機構72と、帯電ロール36を搬送ベルト28に対して遠近させるリンク機構80とを備えている。支持機構72は、フレーム74と一対の軸受76と一対の付勢部材としての圧縮コイルバネ78とを備えている。
【0043】
フレーム74は、帯電ロール36の上側でインクジェット記録装置12のフレーム(図示省略)に支持され、帯電ロール36の軸方向へ長手に延び、長手方向両端部を搬送ベルト28側へ略直角に折り曲げられている。このフレーム74には、長手方向両端部から折曲部へ向けて延びるU字状の長穴74Aが空けられている。また、各軸受76は、各長穴74Aに、長孔74Aの長手方向に沿ってスライド可能に嵌められており、帯電ロール36の回転軸36Aの軸方向一端部又は他端部を回転可能に支持している。
【0044】
また、長孔74Aの最深部には、開口部側へ延びるボス74Bが形成され、また、軸受76には、ボス74Bと対向するボス76Aが形成されており、圧縮コイルバネ78の両端部が、ボス74Bとボス76Aとに嵌られている。このため、帯電ロール36は、圧縮コイルバネ78によって搬送ベルト28側へ付勢されている。
【0045】
また、フレーム74の長手方向両端部には、搬送方向上流側へ延びるリンク機構支持片74Cが一体で形成されている。このリンク機構支持片74Cは、搬送方向上流側へ略水平且つ長手に延びるロール支持部74Dと、このロール支持部74Dの長手方向中央部から下方へ略鉛直且つ長手に延びるリンク支持部74Eとで構成されている。
【0046】
また、リンク機構80は、リンク支持部74Eの先端部に長手方向中央部を回動可能に支持されたアーム82と、アーム82の長手方向一端部に回転可能に支持されたロール84と、ロール支持部74Dの先端部に回転可能に支持されたロール86と、で構成されている。
【0047】
ここで、アーム82は、長手方向一端部にロール86を支持しているので、長手方向他端部が上がる方向(図中反時計回り方向)へ回動しようとするが、アーム82の長手方向他端部は、軸受76の下側に形成されたR形状部に当接可能となっており、アーム82の回動が止まるようになっている。また、アーム82は、軸受76を介して圧縮コイルバネ78の付勢力を受けており、長手方向他端部が下がる方向(図中時計回り方向)へ回動しようとするが、ロール84は、ロール86に当接可能となっており、アーム82の回動が止まるようになっている。
【0048】
この状態で、帯電ロール36のロール部36Bが、搬送ベルト28に非接触となり、ロール84とロール86とのニップ部が、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップの高さに位置するように、各部が設定されている。この状態での、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップは、第1実施形態と同様、5μm以上が必要で、20μm以上が好ましい。
【0049】
そして、図9に示すように、用紙Pがロール84とロール86とのニップ部へ搬送されると、用紙Pによってロール84が用紙Pの厚み分だけ押し下げられてアーム82が図中反時計回り方向へ回動する。これによって、軸受76が押し上げられて帯電ロール36が上昇する。この際のロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップが用紙Pの厚み未満(好ましくは用紙Pの厚み×0.6以下)となるように、各部が設定されている。
【0050】
即ち、用紙Pの厚みに応じて、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップが変化するようになっている。このため、用紙Pの厚みの差によって生じる、帯電ロール36による用紙Pを搬送ベルト28へ押圧する力の差異を抑制できるので、用紙Pの厚みの違いに関わらず、用紙Pを搬送ベルト28に安定して吸着させることができる。
【0051】
また、ロール部36Bは、用紙Pが帯電ロール36と搬送ベルト28との間を通過している時のみ、搬送される用紙Pに接触し、それ以外の時は、あらゆるものに対して非接触となるので、磨耗劣化が少ない。
【0052】
また、第1実施形態のスペーサ60のように直接搬送ベルト28に接触する部材が帯電ロール36の周囲に存在しないので、搬送ベルト28の磨耗劣化、搬送負荷を低減できる。
【0053】
なお、本実施形態では、用紙Pの厚み分だけ変位するリンク機構80を用いて、帯電ロール36を用紙Pの厚みに応じて上下動させたが、帯電ロール36を変位させる機構としてモータやソレノイド等を用い、用紙Pの厚みをセンサによって検知し、検知した用紙Pの厚みに応じてモータやソレノイド等を駆動することで、ロール部36Bと搬送ベルト28とのギャップを増減しても良い。この場合、用紙Pが無い状態では、帯電ロール36へのインクやゴミの付着を防止するべく帯電ロール36と搬送ベルト28とのギャップを大きくしておき、用紙Pが来た時に所望のギャップまで小さくするのが好ましい。
【0054】
また、印刷実行時のソフトウェアの用紙選択と同期してギャップ調整を行うようにしても良い。また、帯電ロール36を変位させる機構として手動の機構を用い、ユーザが手動でギャップ調整を行うようにしても良い。
【0055】
さらに、帯電ロール36が自重で用紙Pを搬送ベルト28に押圧するように構成しても良い。この場合、帯電ロール36を、薄紙に当接可能な位置に懸架し、それよりも厚い用紙によって上に移動されるように構成すれば良く、用紙Pの厚みの差によって生じる、帯電ロール36による用紙Pを搬送ベルト28へ押圧する力の差異を抑制できる。なお、帯電ロール36による押圧力は、帯電ロール36の回転軸36Aの材質、長さ、径を替えることで調整可能である。
【0056】
なお、第1、第2実施形態では、インクジェット記録装置を例に取って本発明を説明したが、本発明は、インクジェット記録装置に限らず、高分子フィルム上に着色インクを吐出して行うディスプレイ用のカラーフィルターの作製、有機EL溶液を基板上に吐出させて行うELディスプレイパネルの形成など、様々な工業的用途を対象とした液滴吐出装置一般に対して、適用可能である。
【0057】
また、本発明の液滴吐出装置において画像記録の対象となる「記録媒体」には、液滴吐出ヘッドが液滴を吐出する対象物であれば広く含まれる。したがって、記録媒体には、記録用紙やOHPシートなどが含まれるのはもちろんであるが、これら以外にも、たとえば、高分子フィルムなどが含まれる。
【0058】
さらに、第1、第2実施形態では、用紙Pの幅よりも短尺のインクジェット記録ヘッドを用紙Pの幅方向に複数配列してユニット化した構成を例に取って本発明を説明したが、これに限らず、例えば、用紙Pの幅よりも短尺のインクジェット記録ヘッドを用紙Pの幅方向に移動させる構成等にも本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の概略を示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の概略を示す側面図である。
【図3】本発明の実施形態のインクジェット記録装置の印字部の概略を示す側面図である。
【図4】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットの第1実施例を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットの第1実施例を示す正面図である。
【図6】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールと搬送ベルトとの間の放電の様子を模式的に示す側面図である。
【図7】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットを示す斜視図である。
【図8】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットの第2実施例を示す側面図である。
【図9】本発明の実施形態のインクジェット記録装置に備えられた帯電ロールユニットの第2実施例を示す側面図である。
【図10】従来のインクジェット記録装置における記録ヘッドと搬送ベルトとを模式的に示す側面図である。
【図11】従来のインクジェット記録装置における帯電ロールと搬送ベルトとの間の放電の様子を模式的に示す側面図である。
【図12】従来のインクジェット記録装置における帯電ロールに印加する電圧と搬送ベルト上の表面電位との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
12 インクジェット記録装置(液滴吐出装置)
28 搬送ベルト
32 インクジェット記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)
36 帯電ロール
52 支持機構(支持手段)
72 支持機構(支持手段)
80 リンク機構(ギャップ増減手段)
P 用紙(記録媒体)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、
記録媒体を保持し前記液滴吐出ヘッドに対向させて搬送する搬送ベルトと、
記録媒体を前記搬送ベルトに静電吸着させる帯電ロールと、を備える液滴吐出装置であって、
前記帯電ロールを前記搬送ベルトに非接触とし、前記帯電ロールと前記搬送ベルトとのギャップを記録媒体の厚み未満としたことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記帯電ロールよりも大径で前記搬送ベルトに当接する円周面を備えるスペーサ部材を前記帯電ロールの軸方向両端部に設けることで、前記ギャップを形成したことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記帯電ロールを前記搬送ベルトから離して支持する支持手段を設けることで、前記ギャップを形成したことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記支持手段に、前記帯電ロールを前記搬送ベルトに対して遠近可能に支持させ、
記録媒体の厚みに応じて前記帯電ロールを前記搬送ベルトに対して遠近させて前記ギャップを増減させるギャップ増減手段を設けたことを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出装置。
【請求項1】
液滴を吐出する液滴吐出ヘッドと、
記録媒体を保持し前記液滴吐出ヘッドに対向させて搬送する搬送ベルトと、
記録媒体を前記搬送ベルトに静電吸着させる帯電ロールと、を備える液滴吐出装置であって、
前記帯電ロールを前記搬送ベルトに非接触とし、前記帯電ロールと前記搬送ベルトとのギャップを記録媒体の厚み未満としたことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記帯電ロールよりも大径で前記搬送ベルトに当接する円周面を備えるスペーサ部材を前記帯電ロールの軸方向両端部に設けることで、前記ギャップを形成したことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記帯電ロールを前記搬送ベルトから離して支持する支持手段を設けることで、前記ギャップを形成したことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記支持手段に、前記帯電ロールを前記搬送ベルトに対して遠近可能に支持させ、
記録媒体の厚みに応じて前記帯電ロールを前記搬送ベルトに対して遠近させて前記ギャップを増減させるギャップ増減手段を設けたことを特徴とする請求項3に記載の液滴吐出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−130975(P2007−130975A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328761(P2005−328761)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
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