説明

液滴射出装置及び液滴射出装置の駆動方法

【課題】記録ヘッドの記録動作待機時に熱の発生を回避した効率的なインク撹拌を実現し乾燥増粘性の高いインクの場合でも優れた射出安定性を得ることができる液滴射出装置の提供。
【解決手段】駆動信号生成手段と駆動信号に基づいてチャネルの容積を変化させるアクチュエータを駆動することにより複数のチャネルに対応して設けられたノズルから記録媒体に向けて液滴を射出させる記録ヘッドとを有する液滴射出装置であって、駆動信号生成手段が液滴を射出させる射出パルスとノズル内のメニスカスをノズルから液滴を射出させない程度に微振動させる微振動パルスとを生成し、微振動パルスはチャネル容積を変化させた後に元の容積に戻すパルス幅が1AL(ALはチャネルの音響的共振周波数の1/2)の矩形波を含み、矩形波のパルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成され、記録ヘッドの記録動作待機時に微振動パルスを印加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液滴射出装置及び液滴射出装置の駆動方法に関し、詳しくは、記録動作待機時にノズル内のメニスカスをノズルから液滴を射出させない程度に微振動させることにより、乾燥性の高いインクを安定して射出することができる液滴射出装置及び液滴射出装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドのノズルからインク滴を射出することにより記録媒体上に画像記録を行うインクジェット記録装置では、プリントの生産性を高めるため、従来から印画速度を速める努力がなされている。印画速度を速めるには、印画された画像の乾燥速度を速める必要があるため、揮発性及び乾燥性が高いインクを使用することが多い。
【0003】
また、産業用途のインクジェットインクとして塩ビシートなどの非吸収性メディアに直接印字できる水性インクジェットインクの開発が行われている。これらのインクの多くはバインダー樹脂としてインクに溶解してない樹脂微粒子が添加してあり、インクを乾燥増粘させることによってメディアに定着させている。
【0004】
しかし、このように乾燥増粘性の高いインクを使用する液滴射出装置では、メニスカスの乾燥も早くなるため、記録動作待機時など、比較的長時間インク液滴を射出しない場合において、液滴の射出速度低下やノズル詰まりなどが発生し、安定な射出が実現されにくい。
【0005】
メニスカスの乾燥増粘を抑えるためには、従来からメニスカスを微振動させ、ノズル表面の増粘したインクをチャネル内のインクと撹拌する方法が知られている。
【0006】
特許文献1には、インク不吐出状態が所定時間継続したとき、あるいは記録ヘッドがメンテナンス位置に移動してから所定時間経過したときに、チャネルの容積を拡大させ、チャネル内圧力が負→正→負となった時にチャネルの容積を元に戻すことにより残留圧力振動をキャンセルできるようにした微振動パルスを、不吐出状態が発生しない所定時間よりも短い時間間隔で与える方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、画像記録中の非射出ノズルには微振動を与え、記録ヘッドが記録動作待機時であるホームポジションに位置しているときには、インク受けに向けて増粘したインクを強制的に吐き捨てる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−230144号公報
【特許文献2】特開2004−262237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
乾燥増粘によって定着を行うインクを使用する液滴射出装置では、通常のインクに比べてメニスカスの増粘が早いため、僅かな射出休止時にも頻繁にインク撹拌を行わなければならない。特に、記録ヘッドがホームポジションに位置している時のような記録動作待機時には、比較的長時間の射出休止状態となるため、頻繁にインク攪拌を行わなくてはならない状況にある。
【0010】
しかし、一方で、記録ヘッドの発熱量は微振動パルスの印加回数と電圧に依存するので、頻繁なインク撹拌は記録ヘッドの発熱を招き、かえってインク増粘の原因となる。そのため、乾燥増粘性の高いインクを撹拌する際には、少ないパルスで効率良くインクを撹拌し、熱の発生を回避する必要がある。
【0011】
特許文献1に開示される方法では、ある程度の出射安定性は得られるが、チャネル内圧力が負から正を経て再び負になった時に元に戻す微振動パルスであるため、1つの微振動パルスの印加時間が比較的長く、より乾燥増粘性の高いインクを射出する場合、効率的なノズル攪拌を行うことができない問題がある。
【0012】
特に、記録ヘッドが、隣接するチャネル間で駆動壁を共通とし、駆動壁両面に密着形成された駆動電極に電圧を印加することで、駆動壁をくの字状にせん断変形させてチャネル内のインクに射出のための圧力を付与するせん断モードタイプの記録ヘッドである場合、隣接するチャネルには同一の微振動パルスを同時に印加することはできない。このとき、特許文献1に開示のような微振動パルスを使用しても、隣接の微振動パルスを効率的に利用することができないため、乾燥増粘性の高いインクでは攪拌が追いつかない場合が生じてしまい、効率的なノズル攪拌を行うことができない問題は依然として解決できない。
【0013】
また、特許文献2に開示される方法では、記録動作待機時には微振動パルスを印加せず、吐き出しによる増粘防止という別の手法をとっている。しかし、これはインクを強制的に射出するものであるため、乾燥増粘性の高いインクの場合は、メニスカス内のインクが乾燥しない程度の短い時間間隔でインクを吐き捨て続けなくてはならず、インクの無駄が多く発生してしまう問題がある。
【0014】
本発明は、以上の事情からなされたものであって、記録ヘッドの記録動作待機時に、熱の発生を回避した効率的なインク撹拌を実現し、乾燥増粘性の高いインクの場合でも優れた射出安定性を得ることができる液滴射出装置及び液滴射出装置の駆動方法を提供することを課題とする。
【0015】
本発明の他の課題は、以下の記載から明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0017】
請求項1記載の発明は、駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記駆動信号に基づいてチャネルの容積を変化させるアクチュエータを駆動することにより、複数の前記チャネルに対応して設けられたノズルから記録媒体に向けて液滴を射出させる記録ヘッドとを有する液滴射出装置であって、
前記駆動信号生成手段が、液滴を射出させる射出パルスと、前記ノズル内のメニスカスをノズルから液滴を射出させない程度に微振動させる微振動パルスとを生成し、
前記微振動パルスは、チャネル容積を変化させた後に元の容積に戻すパルス幅が1AL(ALはチャネルの音響的共振周波数の1/2)の矩形波を含み、前記矩形波のパルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成され、
前記記録ヘッドの記録動作待機時に、前記微振動パルスを印加することを特徴とする液滴射出装置である。
【0018】
請求項2記載の発明は、前記射出パルスは、チャネルの容積を膨張させ、1AL後に元の容積に戻す矩形波からなる第1のパルスと、チャネルの容積を収縮させ一定時間後に元の容積に戻す矩形波からなる第2のパルスとを含み、第1のパルスの電圧をVon、第2のパルスの電圧をVoffとしたとき、|Von|≧|Voff|であり、前記微振動パルスの電圧をVsとしたとき、|Vs|≦|Voff|であることを特徴とする請求項1記載の液滴射出装置である。
【0019】
請求項3記載の発明は、前記駆動信号生成手段は、前記記録ヘッドの複数の前記チャネルのうち、互いに1本以上の前記チャネルを挟んで離れている前記チャネルをまとめて1つの組として、複数の前記チャネルを2つ以上の組に分割し、前記記録ヘッドの記録動作待機時に、前記微振動パルスを各組毎に時分割で順次印加することを特徴とする請求項1又は2記載の液滴射出装置である。
【0020】
請求項4記載の発明は、前記記録ヘッドは、前記記録媒体の幅方向に亘って走査移動する過程で液滴を射出することにより記録を行うシャトル型の記録ヘッドであり、
前記記録ヘッドの記録動作待機時は、前記記録媒体の幅方向の外側であって、前記記録ヘッドの走査移動停止時であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の液滴射出装置である。
【0021】
請求項5記載の発明は、前記記録ヘッドは、前記記録媒体の幅方向に亘って架け渡され、一定方向に搬送される前記記録媒体に向けて液滴を射出することにより記録を行うライン型の記録ヘッドであり、
前記記録ヘッドの記録動作待機時は、前記記録媒体の搬送停止時であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の液滴射出装置である。
【0022】
請求項6記載の発明は、駆動信号生成手段によって生成される駆動信号に基づいてチャネルの容積を変化させるアクチュエータを駆動することにより、複数の前記チャネルに対応して設けられたノズルから記録媒体に向けて液滴を射出させる記録ヘッドとを有する液滴射出装置の駆動方法であって、
前記駆動信号生成手段によって生成されるパルスとして、液滴を射出させる射出パルスと、前記ノズル内のメニスカスをノズルから液滴を射出させない程度に微振動させる微振動パルスとを生成し、
前記微振動パルスは、チャネル容積を変化させた後に元の容積に戻すパルス幅が1AL(ALはチャネルの音響的共振周波数の1/2)の矩形波を含み、前記矩形波のパルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成され、
前記記録ヘッドの記録動作待機時に、前記微振動パルスを印加することを特徴とする液滴射出装置の駆動方法である。
【0023】
請求項7記載の発明は、前記射出パルスは、チャネルの容積を膨張させ、1AL後に元の容積に戻す矩形波からなる第1のパルスと、チャネルの容積を収縮させ一定時間後に元の容積に戻す矩形波からなる第2のパルスとを含み、第1のパルスの電圧をVon、第2のパルスの電圧をVoffとしたとき、|Von|≧|Voff|であり、前記微振動パルスの電圧をVsとしたとき、|Vs|≦|Voff|であることを特徴とする請求項6記載の液滴射出装置の駆動方法である。
【0024】
請求項8記載の発明は、前記記録ヘッドの複数の前記チャネルのうち、互いに1本以上の前記チャネルを挟んで離れている前記チャネルをまとめて1つの組として、複数の前記チャネルを2つ以上の組に分割し、前記記録ヘッドの記録動作待機時に、前記微振動パルスを各組毎に時分割で順次印加することを特徴とする請求項6又は7記載の液滴射出装置の駆動方法である。
【0025】
請求項9記載の発明は、前記記録ヘッドは、前記記録媒体の幅方向に亘って走査移動する過程で液滴を射出することにより記録を行うシャトル型の記録ヘッドであり、
前記記録ヘッドの記録動作待機時は、前記記録媒体の幅方向の外側であって、前記記録ヘッドの走査移動停止時であることを特徴とする請求項6、7又は8記載の液滴射出装置の駆動方法である。
【0026】
請求項10記載の発明は、前記記録ヘッドは、前記記録媒体の幅方向に亘って架け渡され、一定方向に搬送される前記記録媒体に向けて液滴を射出することにより記録を行うライン型の記録ヘッドであり、
前記記録ヘッドの記録動作待機時は、前記記録媒体の搬送停止時であることを特徴とする請求項6、7又は8記載の液滴射出装置の駆動方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、記録ヘッドの記録動作待機時に、熱の発生を回避した効率的なインク撹拌を実現し、乾燥増粘性の高いインクの場合でも優れた射出安定性を得ることができる液滴射出装置及び液滴射出装置の駆動方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る液滴射出装置の一例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す図
【図2】記録ヘッドの一例を示す図であり、(a)は概観斜視図、(b)は断面図
【図3】図2に示す記録ヘッドのインク射出時の作動を示す図
【図4】図2に示す記録ヘッドの3サイクル吐出動作を説明する図
【図5】記録ヘッドの射出パルスの一例を示す図
【図6】記録ヘッドの射出パルスの他の一例を示す図
【図7】微振動パルスの一例を示す図
【図8】微振動パルスとチャネル内の圧力との関係を説明する図
【図9】微振動パルスの他の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明に係る液滴射出装置の一例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【0030】
インクジェット記録装置1において、記録媒体Pは、搬送機構3の搬送ローラ対32に挟持され、更に、搬送モータ33によって回転駆動される搬送ローラ31により図示Y方向に搬送されるようになっている。
【0031】
搬送ローラ31と搬送ローラ対32の間には、記録媒体Pの記録面PSと対向するように記録ヘッド2が設けられている。この記録ヘッド2は、記録媒体Pの幅方向に亘って掛け渡されたガイドレール4に沿って、不図示の駆動手段によって、上記記録媒体Pの搬送方向(副走査方向)と略直交する図示X−X’方向(主走査方向)に沿って往復移動可能に設けられたキャリッジ5に、ノズル面側が記録媒体Pの記録面PSと対向するように配置されて搭載されており、フレキシブルケーブル6を介して、後述する射出パルスや微振動パルスを生成するための回路が設けられる駆動信号発生部100(図3参照)に電気的に接続されている。
【0032】
かかる記録ヘッド2は、キャリッジ5の主走査方向の移動に伴って記録媒体Pの記録面PSを図示X−X’方向に走査移動し、この走査移動の過程でノズルからインク滴を射出することによって所望のインクジェット画像を記録するようになっている。
【0033】
なお、このインクジェット記録装置1では、後述するように、記録ヘッド2が画像記録待機位置にある時、ノズル開口で増粘したインクを微振動させるようになっている。記録ヘッド2がこの画像記録待機位置において長期間作動停止している時は、図示しないが、記録ヘッド2のノズル面にキャップを被せることにより保護するようになっている。
【0034】
また、本発明において記録動作待機時とは、記録ヘッドの全てのノズルが画像データ等の液滴射出用データに基づく液滴射出を休止している状態下にあることをいう。例えば本実施形態のように記録媒体Pの幅方向に亘って走査移動する過程で液滴を射出することにより画像記録を行うシャトル型の記録ヘッド2の場合、記録ヘッド2が記録媒体P上に位置せず、記録媒体Pの幅方向の外側であって、記録ヘッド2の走査移動が停止している時である。具体的には記録ヘッド2がホームポジションまたはメンテナンスポジションに停止している時が例示できる。
【0035】
図示しないが、本発明は、記録ヘッドが記録媒体の幅方向に亘って長尺に架け渡され、一定方向に搬送される記録媒体に向けて液滴を射出することにより1パスで記録動作を行うライン型の記録ヘッドを有する液滴射出装置にも適用できる。このようなライン型の記録ヘッドの場合、記録動作待機時とは、記録媒体の搬送が停止している時である。具体的には記録ヘッドや搬送機構が作動停止したメンテナンス状態にある時が例示できる。
【0036】
図2、図3は、記録ヘッド2の一例を示す図であり、図2(a)は概観斜視図、(b)は断面図、図3はインク射出時の作動を示す図である。
【0037】
同図において、21はインクチューブ、22はノズル形成部材、23はノズル、24はカバープレート、25はインク供給口、26は基板、27は隔壁である。そして、チャネル28が隔壁27、カバープレート24及び基板26によって形成されている。
【0038】
記録ヘッド2は、ここでは図3に示すように、カバープレート24と基板26の間に、電気・機械変換手段であるPZT等の圧電材料からなる複数の隔壁27A、27B、27C、27Dで隔てられたチャネル28が多数並設されたせん断モード(シェアモード)タイプの記録ヘッドを示している。この記録ヘッド2は、隔壁がアクチュエータとして機能する。
【0039】
図3では多数のチャネル28の一部である3本(28A、28B、28C)が示されている。チャネル28の一端(以下、これをノズル端という場合がある)はノズル形成部材22に形成されたノズル23につながり、他端(以下、これをマニホールド端という場合がある)はインク供給口25を経て、インクチューブ21によって図示されていないインクタンクに接続されている。そして、各チャネル28内の隔壁27表面には両隔壁27の上方から基板26の底面に亘って繋がる電極29A、29B、29Cが密着形成され、各電極29A、29B、29Cは駆動信号発生部100に電気的に接続している。
【0040】
この駆動信号発生部100は、本発明の駆動信号生成手段であり、複数の駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生回路と、各チャネル毎に前記駆動信号発生回路から供給された駆動信号の中から各画素のデータに応じて駆動パルスを選択して各チャネルに供給する駆動パルス選択回路とからなり、各画素のデータに応じて電気・機械変換手段としての隔壁27を駆動するための駆動パルスを供給する。この駆動信号発生部100で生成される駆動パルスには、このような射出パルスの他に、ノズル攪拌を行うためにノズル内のメニスカスをノズルから液滴を射出させない程度に微振動させる微振動パルスも含んでいる。
【0041】
記録ヘッド2において、各隔壁27は、ここでは図3の矢印で示すように分極方向が異なる2枚の圧電材料27a、27bによって構成されているが、圧電材料は例えば符号27aの部分のみであってもよく、隔壁27の少なくとも一部にあればよい。
【0042】
各隔壁27表面に密着形成された電極29A、29B、29Cに駆動信号発生部100の制御により射出パルスが印加されると、以下に例示する動作によってインク滴をノズル23から射出する。なお、図3ではノズルは省略してある。
【0043】
まず、電極29A、29B、29Cのいずれにも射出パルスが印加されない時は、隔壁27A、27B、27Cのいずれも変形しない。図3(a)に示す状態において、電極29A及び29Cを接地すると共に電極29Bに射出パルスを印加すると、隔壁27B、27Cを構成する圧電材料の分極方向に直角な方向の電界が生じる。これにより、各隔壁27B、27C共に、それぞれ隔壁27a、27bの接合面にズリ変形を生じ、図3(b)に示すように隔壁27B、27Cは互いに外側に向けて変形し、チャネル28Bの容積を拡大してチャネル28B内に負の圧力が生じてインクが流れ込む(Draw)。
【0044】
また、この状態から電位を0に戻すと、隔壁27B、27Cは図3(b)に示す膨張位置から図3(a)に示す中立位置に戻り、チャネル28B内のインクに高い圧力が掛かる(Release)。
【0045】
次いで、図3(c)に示すように、隔壁27B、27Cを互いに逆方向に変形するように射出パルスを印加して、チャネル28Bの容積を縮小すると、チャネル28B内に正の圧力が生じる(Reinforce)。
【0046】
これによりチャネル28Bを満たしているインクの一部によるノズル内のインクメニスカスがノズルから押し出される方向に変化する。この正の圧力がインク滴をノズルから射出する程に大きくなると、インク滴はノズルから射出する。他の各チャネルも射出パルスの印加によって上記と同様に動作する。このようなインク滴の射出法をDRR駆動法と呼び、シェアモードタイプの記録ヘッドの代表的な駆動法である。
【0047】
このように少なくとも一部が圧電材料で構成された隔壁27によって隔てられた複数のチャネル28を有する記録ヘッド2を駆動する場合、一つのチャネルの隔壁が射出の動作をすると、隣のチャネルが影響を受けるため、通常、複数のチャネル28のうち、互いに1本以上のチャネル28を挟んで離れているチャネル28をまとめて1つの組となすようにして、複数のチャネルを2つ以上の組に分割し、各組毎にインク滴の射出動作を時分割で順次行うように駆動制御される。例えば、全チャネル28を駆動してベタ画像を出力する場合には、チャネル28を2チャネルおきに選んで3相に分けて射出する、いわゆる3サイクル射出法が行われる。
【0048】
かかる3サイクル射出動作について図4を用いて更に説明する。図4に示す例では、記録ヘッドはチャネルがA1、B1、C1、A2、B2、C2、A3、B3、C3の9つのチャネル28で構成されているとして説明する。また、このときのA、B、Cの各組のチャネル28に印加されるパルス波形のタイミングチャートを図5に示す。
【0049】
インク滴の射出時には、まずA組(A1、A2、A3)の各チャネルの電極に電圧を掛け、その両隣のチャネルの電極を接地する。例えばA組のチャネルに1AL幅の正電圧+Vonの矩形波からなる射出パルスを掛けると、射出したいA組のチャネルの隔壁が外側に変形し、そのチャネル28内に負圧が発生する。この負圧により、インクタンクからA組のチャネル28にインクが流れ込む(Draw)。
【0050】
この状態を1AL間保つと、圧力が正圧に反転するので、このタイミングで電極を接地すると、隔壁の変形が元に戻り、高い圧力がA組のチャネル28内のインクに掛かる(Release)。更に、同じタイミングでA組の各チャネルの 電極に負電圧−Voffの矩形波を掛けると、隔壁が内側に変形し、更に高い圧力がインクに掛かり(Reinforce)、ノズルからインク柱が押し出される。1AL後、圧力が反転してチャネル28内が負圧になり、更に1AL経過すると、チャネル28内の圧力が反転して正圧になるので、このタイミング(2AL経過後)で電極を接地すると、隔壁の変形が元に戻り、残留する圧力波をキャンセルできる。
【0051】
ここで、この射出パルスの電圧は、|Von|≧|Voff|である。
【0052】
続いてB組(B1、B2、B3)の各チャネル28、更に続いてC組(C1、C2、C3)の各チャネル28へと上記同様に動作する。
【0053】
なお、AL(Acoustic Length)とは、上述したように、チャネルの音響的共振周期の1/2である。このALは、電気・機械変換手段である隔壁27に矩形波の電圧パルスを印加して吐出するインク滴の速度を測定し、矩形波の電圧値を一定にして矩形波のパルス幅を変化させたときに、インク滴の飛翔速度が最大になるパルス幅として求められる。また、パルスとは、一定電圧波高値の矩形波であり、0Vを0%、波高値電圧を100%とした場合に、パルス幅とは、電圧の0Vからの立ち上がり10%と波高値電圧からの立ち下がり10%との間の時間として定義する。更に、ここで矩形波とは、電圧の10%と90%との間の立ち上がり時間、立ち下がり時間のいずれもがALの1/2以内、好ましくは1/4以内であるような波形を指す。
【0054】
かかるせん断モードタイプの記録ヘッドでは、隔壁の変形は壁の両側に設けられる電極に掛かる電圧差で起こるので、インク滴の射出を行うチャネルの電極に負電圧を掛ける代わりに、図6に示すように、インク滴の射出を行うチャネルの電極を接地して、その両隣のチャネルの電極に正電圧を掛けるようにしても同様に動作させることができる。この後者の方法によれば、正電圧だけで駆動させることができるために好ましい態様である。
【0055】
次に、図7を用いて、かかるシェアモードタイプの記録ヘッド2において、記録ヘッド2が画像記録待機位置にある時に、メニスカスに微振動を与える動作について説明する。
【0056】
このメニスカスに微振動を与える動作も、インク滴の射出動作と同様に、記録ヘッド2の複数のチャネルのうち、互いに1本以上のチャネルを挟んで離れているチャネルをまとめて1つの組となすようにして、複数のチャネルを2つ以上の組に分割し、記録ヘッド2の記録動作待機時に、微振動パルスを各組毎に時分割で順次印加することによって行うことができる。ここでも上記同様にチャネルをA〜Cの3つの組に分けて3サイクル動作を行うものについて説明する。また、ここでは、駆動波形電圧に正電圧のみを使用し、A組→B組→C組の順に微振動パルスを印加するものとする。
【0057】
図7に示す例では、記録ヘッド2の記録動作待機時において、初めにA組のチャネルの電極に1AL幅の正電圧の矩形波からなる微振動パルスを印加する。この微振動パルスの電圧|Vs|は、射出パルス電圧の|Voff|以下の電圧である。これにより、A組のチャネルは容積が拡大して負圧となり、1AL後に正圧に転ずる。この1AL経過後にB組及びC組のチャネルの電極を接地してA組のチャネルの容積を元に戻すが、パルス電圧|Vs|は射出パルス電圧の|Voff|以下であるため、ノズルからインク滴が射出することはない。
【0058】
その後、(n+0.5)ALの間、A組〜C組の全てのチャネルの電極を接地している(nは1以上の整数)。これによりA組のチャネルのノズル内のメニスカスは、ノズルからインク滴を射出させない程度に押し出させるように微振動が与えられ、B組及びC組の各チャネルは片側の隔壁のみが変位して、A組のチャネルの半分の強度の微振動が与えられる。
【0059】
A組のチャネルへの微振動パルスの印加が終了して、(n+0.5)AL後にB組への微振動パルスの印加を行う場合も同様に、B組のチャネルの電極に1AL幅の正電圧の矩形波からなる微振動パルスを射出パルス電圧の|Voff|以下の電圧で印加し、A組、C組のチャネル電極をそれぞれ接地し、その後、(n+0.5)ALの間、全てのチャネルの電極を接地する。C組のチャネルの微振動パルスの印加も同様に行われる。
【0060】
本発明において、このようにノズルからインク滴を射出させない程度に微振動させる微振動パルスは、射出パルスを印加する場合と同様、図3に示す駆動信号発生部100において生成される。本発明における微振動パルスは矩形波からなり、パルス幅が1ALの矩形波を含み、パルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成されていることを特徴としている。本実施形態のように隣接するチャネルで隔壁を共通にする記録ヘッド2の場合では、この微振動パルスは、隣接するチャネル間で(n+0.5)×ALずらして印加される。
【0061】
本発明では、微振動パルスとして、射出パルスと同様にパルス幅が1ALである矩形波を利用することにより、低電圧(|Voff|以下)でメニスカスを大きく揺らすことが可能である。
【0062】
また、微振動パルスのパルス間隔を(n+0.5)×ALとすることは、チャネル内に発生した圧力波の向きが変化するタイミングに次の微振動パルスを印加することを意味している。これにより、前に印加された微振動パルスの残響の影響を最小限に抑え、次の微振動パルスを印加することが可能である。
【0063】
これにより、微振動パルス自体で圧力波のキャンセルを行う必要がないので、少ないパルス数で効率的にメニスカスを揺らすことができる。このため、発熱を防ぐことができ、かつ、微振動パルスを印加し続けた際に圧力波の強め合いを繰り返し、不意にインク液の射出が発生してしまう現象を防ぐことができる。
【0064】
しかも、A〜Cの各組のチャネルに対し、微振動パルスを時分割で順次印加するので、例えばA組のチャネルに微振動パルスを印加すると、B組及びC組の各チャネルにもA組のチャネルの半分の強度ではあるが微振動を与えることができ、この微振動を利用して、結果として全てのチャネルのメニスカスを効率的に揺らす効果を得ることができる。しかも、B組及びC組の各チャネル自身には微振動パルスが印加されないため、記録ヘッド2の発熱を抑えることができる。
【0065】
図8は、3サイクル駆動でパルス間隔を(n+0.5)×ALとした際のチャネル内の圧力波を示している。1ALの矩形波からなる微振動パルスを(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)の間隔で印加することにより、チャネル内の圧力波の向きが変化するタイミングに次の微振動パルスが印加され、微振動パルスの残響の影響が抑えられていることが示されている。
【0066】
nの値は好ましくは3〜8である。この範囲の整数値で最も効率的にメニスカスを振動させ、かつ発熱を抑制することができる。また、本発明者は実験により、整数値から±0.05程度の誤差があっても概ね同等の効果を得ることができることを確認している。
【0067】
図8においては、n=6、すなわち各々の微振動パルス間の間隔は6.5ALで均一である例が示されている。しかしながら、各々の微振動パルス間の間隔は均一でなくともよい。例えば次の式において、m=6とすると、A−cycleの微振動パルスとそれに続くB−cycleの微振動パルスとのパルス間隔は、(m+1+0.5)×AL(=7.5AL)、そして、該B−cycleの微振動パルスとそれに続くC−cycleの微振動パルスとのパルス間隔は、(m−1+0.5)×AL(=5.5AL)、更に該C−cycleの微振動パルスとそれに続くA−cycleの微振動パルスとのパルス間隔は、(m+0.5)×AL(=6.5AL)のように、パルス間隔が(自然数+0.5)×ALの長さであれば同様の作用を示し、チャネル内の圧力波の向きが変化するタイミングに次の微振動パルスが印加され、微振動パルスの残響の影響が抑えられる。
【0068】
また、(n+0.5)×ALのパルス間隔では、前の微振動パルスの影響を受けないため、パルス間隔を変化(nの値を変化)させても、メニスカスの押出量は変化しない。そのため、電圧の調整によって微振動の大きさを容易に制御可能で、インクによって異なる最適なパルス間隔に設定し易い利点がある。
【0069】
微振動パルスの電圧|Vs|は、不意なインク滴の射出を生じることのないように、射出パルスが|Von|≧|Voff|となるときに、|Vs|≦|Voff|となるものであることが好ましいが、|Voff|に対して低すぎるとインクによってはノズル攪拌が不十分となる場合がある。より効率的なノズル攪拌を可能にする観点から、インクの物性とヘッドのディメンジョンによって最適値を設定することが好ましい。
【0070】
本発明における微振動パルスの印加は、上述した3サイクル駆動に限らず、例えば、図9に示すように、奇数ノズルと偶数ノズルに分けた駆動(2サイクル駆動)を行うことも可能である。この駆動は、より乾燥増粘し易いインクに適用することが好ましいが、時間当たりのパルス数が増えるので、パルス間隔を長めに設定する(nの値を大きめに設定する)などの調整が必要である。発熱の観点から、いずれの駆動においても、可能なかぎりパルス間隔は長めに設定し、駆動電圧は低めに設定することが望ましい。
【0071】
本発明は、乾燥増粘性の高い液体を液滴としてノズルから射出する場合に特に好ましく適用できる。乾燥増粘性の高い液体としては、液滴の射出後に20秒放置(休止)した後に同一ノズルから再度射出を行うと、液滴の速度が50%程度低下するものが挙げられる。
【0072】
このような乾燥増粘性の高い液体は、本発明において特に限定されるものではないが、下記a〜dの4種類の成分を少なくとも含有する液体(インク)が例示できる。
a.水不溶性の樹脂で皮膜された顔料
b.固形分として2%以上10%以下のインク溶解性樹脂
c.グリコールエーテルもしくは1,2−アルカンジオールから選ばれる水溶性有機溶剤
d.シリコーン系もしくはフッ素系の界面活性剤
【0073】
以下、各成分について説明する。
【0074】
(a.水不溶性の樹脂で被覆された顔料)
水不溶性樹脂とは、弱酸性ないし弱塩基性の範囲の水に対して不溶な樹脂であり、好ましくは、pH4ないし10の水溶液に対する溶解度が2%未満の樹脂である。
【0075】
このような樹脂としては、アクリル系、スチレン−アクリル系、アクリロニトリル−アクリル系、酢酸ビニル系、酢酸ビニル−アクリル系、酢酸ビニル−塩化ビニル系、ポリウレタン系、シリコン−アクリル系、アクリルシリコン系、ポリエステル系、エポキシ系の各樹脂を挙げることができる。また、樹脂として疎水性モノマーと親水性モノマーを含有する樹脂を用いることができる。
【0076】
疎水性モノマーとしては、アクリル酸エステル(アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジルなど)、スチレンなどが挙げられる。
【0077】
親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミドなどが挙げられ、アクリル酸のような酸性基を有するものは、重合後に塩基で中和したものを好ましく用いることができる。
【0078】
顔料としては、有機及び無機顔料が使用できる。例えばアゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料や、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられる。
【0079】
具体的な有機顔料を以下に例示する。
【0080】
マゼンタまたはレッド用の顔料としては、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド6、C.I.ピグメントレッド7、C.I.ピグメントレッド15、C.I.ピグメントレッド16、C.I.ピグメントレッド48:1、C.I.ピグメントレッド53:1、C.I.ピグメントレッド57:1、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド123、C.I.ピグメントレッド139、C.I.ピグメントレッド144、C.I.ピグメントレッド149、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド177、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド222等が挙げられる。
【0081】
オレンジまたはイエロー用の顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138等が挙げられる。
【0082】
グリーンまたはシアン用の顔料としては、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー16、C.I.ピグメントブルー60、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
【0083】
(b.インク溶解性樹脂)
インク溶解性樹脂は、インク中に固形分として2%以上10%以下含有される。インク溶解性樹脂とは、少なくともインクベヒクルに対して10%程度の溶解性を有する樹脂である。
【0084】
このような樹脂としては、アクリル系、スチレン−アクリル系、アクリロニトリル−アクリル系、酢酸ビニル−アクリル系、ポリウレタン系、ポリエステル系の各樹脂を挙げることができる。
【0085】
インク溶解性樹脂として疎水性モノマーと親水性モノマーを含有する樹脂を用いることができる。
【0086】
疎水性モノマーとしては、アクリル酸エステル(アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジルなど)、スチレンなどが挙げられる。
【0087】
親水性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミドなどが挙げられ、アクリル酸のような酸性基を有するものは、重合後に塩基で中和したものを好ましく用いることができる。
【0088】
(c.水溶性有機溶剤)
インク中には少なくともグリコールエーテルもしくは1,2−アルカンジオールから選ばれる水溶性有機溶剤を含有する。
【0089】
具体的には、グリコールエーテルとしてはエチレングリコールモノエチル、エチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノブチル、トリエチレングリコールモノブチル、プロピレングリコールモノプロピル、ジプロピレングリコールモノメチル、トリプロピレングリコールモノメチル等が挙げられる。
【0090】
また、1,2−アルカンジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオールなどが挙げられる。
【0091】
このようなインクには、グリコールエーテルもしくは1,2−アルカンジオール以外にも溶剤を添加することができる。
【0092】
具体的には、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0093】
(d.界面活性剤)
界面活性剤には、シリコーン系もしくはフッ素系の界面活性剤が用いられる。フッ素系の界面活性剤のうち、ある種のものは大日本インキ化学工業社からメガファック(Megafac)Fなる商品名で、旭硝子社からサーフロン(Surflon)なる商品名で、ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー社からフルオラッド(Fluorad)FCなる商品名で、インペリアル・ケミカル・インダストリー社からモンフロール(Monflor)なる商品名で、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社からゾニルス(Zonyls)なる商品名で、又、ファルベベルケ・ヘキスト社からリコベット(Licowet)VPFなる商品名で、それぞれ市販されている。また、非イオン性フッ素系界面活性剤としては、例えば、大日本インキ社製のメガファックス144D、旭硝子社製のサーフロンS−141、同145等を挙げることができ、また、両性フッ素系界面活性剤としては、例えば、旭硝子社製のサーフロンS−131、同132等を挙げることができる。
【0094】
以上の説明した液滴射出装置では、記録ヘッドのアクチュエータが、隣接するチャネル間の圧電材料からなる隔壁に電界を印加することにより、該隔壁をせん断モードで変形させるものを例示したが、記録ヘッドのチャネルの容積を変化させる機能を与えるものであればどのような構成であってもよい。本実施形態において示したように、せん断モードで変形する圧電材料により構成される場合には、上記した矩形波をより効果的に利用することができ、駆動電圧を低下させ、より効率的な駆動が可能となるために好ましい。
【0095】
また、以上の説明では、液滴射出装置としてインクジェット記録装置の適用例を示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、チャネル内の液体を液滴としてノズルから射出させる液滴射出装置及び液滴射出装置の駆動方法として広く適用可能である。
【実施例】
【0096】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて例証する。
【0097】
(水不溶性樹脂の作製)
滴下ロート、窒素導入管、還流冷却管、温度計および攪拌装置を備えたフラスコにメチルエチルケトン50gを加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。そこへ、メタクリル酸n−ブチル80g、アクリル酸ブチル5g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5g、アクリル酸10gとメチルエチルケトン50g、開始剤(AIBN)500mgの混合物を滴下ロートより3時間かけ滴下した。滴下後さらに6時間、加熱還流した。放冷後、揮発した分のメチルエチルケトンを加え、固形分濃度50質量%の水不溶性樹脂Dの溶液を得た。
【0098】
(水不溶性樹脂で被覆された顔料(以後、顔料分散体という。)の作製)
合成した水不溶性樹脂Dのメチルエチルケトン50%溶液、100gに中和剤として20%水酸化ナトリウム水溶液を所定量加えて塩生成基を100%中和し、そこへ攪拌しながらC.I.ピグメントブルー15:3、50gを少しずつ加えた後、ビーズミルで2時間混練した。得られた混練物にイオン交換水400gを加え攪拌後、減圧下で加温し、メチルエチルケトンを留去した。さらに、イオン交換水を加え、固形分濃度15%の顔料分散体Pを得た。
【0099】
(インク溶解性樹脂の作製)
滴下ロート、窒素導入管、還流冷却管、温度計および攪拌装置を備えたフラスコにメチルエチルケトン50gを加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。そこへ、メタクリル酸n−ブチル80g、アクリル酸ブチル5g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5g、アクリル酸10gとメチルエチルケトン50g、開始剤(AIBN)500mgの混合物を滴下ロートより3時間かけ滴下した。滴下後さらに6時間、加熱還流した。放冷後、減圧下加熱しメチルエチルケトンを除去した。イオン交換水450mlに対して、モノマーとして添加したアクリル酸の1.05倍モル相当のジメチルアミノエタノールを溶解し、そこへ上記重合物残渣を溶解した。イオン交換水で調製し、固形分濃度20%のインク溶解性樹脂Rの水溶液を得た。
【0100】
(水性インクジェットインクの作製)
顔料分散体Pを4質量部、インク溶解性樹脂Rを4質量部、溶剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルとジエチレングリコールをそれぞれ10質量部、界面活性剤として信越化学工業製のKF−351Aを0.5質量部と71.5質量部のイオン交換水を加え混合し、調製後、5μmフィルターにてろ過し、水性インクジェットインクCを得た。
【0101】
この水性インクジェットインクCは、射出後に20秒間放置した後再度同一ノズルから射出すると、液滴の速度が50%に低下した。
【0102】
(発明効果の評価)
図1に示すシェアモードタイプの記録ヘッド(ノズル数256、AL:5.0μs)の各チャネルに水性インクジェットインクCを満たし、各チャネルを3群に分け、図7に示したように矩形波からなる微振動パルス信号を用いて3サイクルで各チャネルのメニスカスに順次微振動を与えた。
【0103】
微振動パルスのパルス幅、パルス間隔を表1のように様々に異ならせ、それぞれ3分間微振動を与えた際のヘッドの温度変化と、その後に図6に示すDRR波形で液滴を射出駆動した際の初速の変化を観測し、デキャップ(射出速度低下・ノズル詰まり)の改善効果を検証した。液滴の速度はKEYENCE社のデジタルマイクロスコープ「VH−100」を用いてストロボ同期により測定した。
【0104】
条件
インク:水性インクジェットインクC(粘度:10cp、表面張力:26mN/m、25℃)
印加電圧:射出パルス:Von=+16V、Voff=+8V
微振動パルス:Vs=+8V
【0105】
評価
(温度上昇)
微振動パルスを3分間印加した後にヘッドの温度変化を測定し、以下の基準により評価した。
◎:温度上昇が0.5℃未満
○:温度上昇が0.5℃以上、1℃未満
△:温度上昇が1℃以上、1.5℃未満
×:温度上昇が1.5℃以上、2.0℃未満
××:温度上昇が2.0℃以上
【0106】
(デキャップ特性の改善効果)
微振動パルスを3分間印加した後に、DRR波形の射出パルスにより射出を行い、初発液滴の速度を測定した。同一条件で、リフレッシュ後間もなく射出した際の初発の液滴速度と速度の比較を行い、以下の基準により、初発液滴の速度低下率によって評価した。
◎:低下率10%未満
○:低下率10%以上、20%未満
△:低下率20%以上、50%未満
×:低下率50%以上
−:誤吐出により未評価
【表1】

【0107】
表1に示すように、微振動パルスのパルス間隔を偶数ALにすると(比較例1、3、5、7)、微振動の圧力波が強め合ってしまい、液滴の誤射出が発生してしまう。一方、パルス間隔を奇数ALにすると、圧力波はキャンセルされるため、デキャップ改善効果が低下してしまう(比較例4、6、8)か、ある程度のデキャップ改善効果が見られたとしても、発熱が大きくなってしまう(比較例2)。パルス間隔は長くすると発熱は改善される傾向にあるが、デキャップ改善効果は低下する傾向にある。
【0108】
しかし、微振動パルスのパルス間隔を(n+0.5)×ALに設定した本発明(実施例1〜6)では、圧力波の影響なく短い間隔のタイミングで微振動パルスを印加できるため、液滴を誤射出させることなくデキャップ改善効果を高めることが可能であり、しかも発熱もほとんど問題とならない。
【0109】
なお、微振動パルスのパルス幅を2ALとした場合(比較例9)、パルス間隔が(n+0.5)×ALを満たすように設定しても(n=3)、目立ったデキャップ改善効果は得られず、しかも、発熱の問題も改善できなかった。
【符号の説明】
【0110】
1:インクジェット記録装置
2:記録ヘッド
21:インクチューブ
22:ノズル形成部材
23:ノズル
24:カバープレート
25:インク供給口
26:基板
27、24A、27B、27C:隔壁
27a、27b:圧電材料
28、28A、28B、28C:チャネル
29A、29B、29C:電極
3:搬送機構
31:搬送ローラ
32:搬送ローラ対
33:搬送モータ
4:ガイドレール
5:キャリッジ
6:フレキシケーブル
100:駆動信号発生部
P:記録媒体
PS:記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動信号を生成する駆動信号生成手段と、
前記駆動信号に基づいてチャネルの容積を変化させるアクチュエータを駆動することにより、複数の前記チャネルに対応して設けられたノズルから記録媒体に向けて液滴を射出させる記録ヘッドとを有する液滴射出装置であって、
前記駆動信号生成手段が、液滴を射出させる射出パルスと、前記ノズル内のメニスカスをノズルから液滴を射出させない程度に微振動させる微振動パルスとを生成し、
前記微振動パルスは、チャネル容積を変化させた後に元の容積に戻すパルス幅が1AL(ALはチャネルの音響的共振周波数の1/2)の矩形波を含み、前記矩形波のパルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成され、
前記記録ヘッドの記録動作待機時に、前記微振動パルスを印加することを特徴とする液滴射出装置。
【請求項2】
前記射出パルスは、チャネルの容積を膨張させ、1AL後に元の容積に戻す矩形波からなる第1のパルスと、チャネルの容積を収縮させ一定時間後に元の容積に戻す矩形波からなる第2のパルスとを含み、第1のパルスの電圧をVon、第2のパルスの電圧をVoffとしたとき、|Von|≧|Voff|であり、前記微振動パルスの電圧をVsとしたとき、|Vs|≦|Voff|であることを特徴とする請求項1記載の液滴射出装置。
【請求項3】
前記駆動信号生成手段は、前記記録ヘッドの複数の前記チャネルのうち、互いに1本以上の前記チャネルを挟んで離れている前記チャネルをまとめて1つの組として、複数の前記チャネルを2つ以上の組に分割し、前記記録ヘッドの記録動作待機時に、前記微振動パルスを各組毎に時分割で順次印加することを特徴とする請求項1又は2記載の液滴射出装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドは、前記記録媒体の幅方向に亘って走査移動する過程で液滴を射出することにより記録を行うシャトル型の記録ヘッドであり、
前記記録ヘッドの記録動作待機時は、前記記録媒体の幅方向の外側であって、前記記録ヘッドの走査移動停止時であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の液滴射出装置。
【請求項5】
前記記録ヘッドは、前記記録媒体の幅方向に亘って架け渡され、一定方向に搬送される前記記録媒体に向けて液滴を射出することにより記録を行うライン型の記録ヘッドであり、
前記記録ヘッドの記録動作待機時は、前記記録媒体の搬送停止時であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の液滴射出装置。
【請求項6】
駆動信号生成手段によって生成される駆動信号に基づいてチャネルの容積を変化させるアクチュエータを駆動することにより、複数の前記チャネルに対応して設けられたノズルから記録媒体に向けて液滴を射出させる記録ヘッドとを有する液滴射出装置の駆動方法であって、
前記駆動信号生成手段によって生成されるパルスとして、液滴を射出させる射出パルスと、前記ノズル内のメニスカスをノズルから液滴を射出させない程度に微振動させる微振動パルスとを生成し、
前記微振動パルスは、チャネル容積を変化させた後に元の容積に戻すパルス幅が1AL(ALはチャネルの音響的共振周波数の1/2)の矩形波を含み、前記矩形波のパルス間隔が(n+0.5)×AL(nは1以上の整数)である複数のパルスから構成され、
前記記録ヘッドの記録動作待機時に、前記微振動パルスを印加することを特徴とする液滴射出装置の駆動方法。
【請求項7】
前記射出パルスは、チャネルの容積を膨張させ、1AL後に元の容積に戻す矩形波からなる第1のパルスと、チャネルの容積を収縮させ一定時間後に元の容積に戻す矩形波からなる第2のパルスとを含み、第1のパルスの電圧をVon、第2のパルスの電圧をVoffとしたとき、|Von|≧|Voff|であり、前記微振動パルスの電圧をVsとしたとき、|Vs|≦|Voff|であることを特徴とする請求項6記載の液滴射出装置の駆動方法。
【請求項8】
前記記録ヘッドの複数の前記チャネルのうち、互いに1本以上の前記チャネルを挟んで離れている前記チャネルをまとめて1つの組として、複数の前記チャネルを2つ以上の組に分割し、前記記録ヘッドの記録動作待機時に、前記微振動パルスを各組毎に時分割で順次印加することを特徴とする請求項6又は7記載の液滴射出装置の駆動方法。
【請求項9】
前記記録ヘッドは、前記記録媒体の幅方向に亘って走査移動する過程で液滴を射出することにより記録を行うシャトル型の記録ヘッドであり、
前記記録ヘッドの記録動作待機時は、前記記録媒体の幅方向の外側であって、前記記録ヘッドの走査移動停止時であることを特徴とする請求項6、7又は8記載の液滴射出装置の駆動方法。
【請求項10】
前記記録ヘッドは、前記記録媒体の幅方向に亘って架け渡され、一定方向に搬送される前記記録媒体に向けて液滴を射出することにより記録を行うライン型の記録ヘッドであり、
前記記録ヘッドの記録動作待機時は、前記記録媒体の搬送停止時であることを特徴とする請求項6、7又は8記載の液滴射出装置の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−224004(P2012−224004A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94547(P2011−94547)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】