説明

液滴操作によるリアルタイム核酸増幅法

【課題】本発明は、完全密閉系において液滴中で実施される核酸増幅法において得られる蛍光を高速且つ高精度に検出することができるリアルタイム核酸増幅法を提供する。
【解決手段】容器中に存在する液滴中で核酸増幅反応を行う核酸増幅反応方法であって、液滴が、増幅すべき核酸と磁性体粒子とを含む核酸増幅反応液からなり、容器が、液滴を形成する核酸増幅反応液と混ざり合わない液滴封入媒体が保持され、温度勾配が設けられた搬送面を有するものであり、核酸増幅反応の開始時において、液滴及び液滴封入媒体のうち少なくとも液滴封入媒体に蛍光色素が含まれ、核酸増幅反応の開始及び維持において、磁場印加手段によって磁場を発生させて磁性体粒子と共に液滴を搬送すると共に、搬送面上の核酸合成反能の開始及び維持を達成する温度地点に液滴を配置することによって反応液の温度制御をする、リアルタイム核酸増幅反応方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床診断での遺伝子検査、特に病原体検査やSNPs検査において用いられるリアルタイム核酸増幅法に関する。本発明は、密封系において実施される核酸増幅法より得られる蛍光を高速かつ高精度に検出できるリアルタイム核酸増幅法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCR法は、熱変性、プライマーとのアニーリング及びポリメラーゼ伸長反応からなる増幅サイクルを連続的に行うことによって、DNA等を数十万倍にも増幅させることができる方法である。
リアルタイムPCR法は、蛍光物質を用い、試料中で増幅反応が進行する際に励起光を照射し、蛍光信号をリアルタイムにて検出することによって、PCR増幅産物をリアルタイムでモニタリングできる方法である。例えば、SYBR(登録商標) GREEN I等の蛍光色素が二本鎖DNAに特異的に結合することを利用したインターカレーター法が汎用的かつ簡便である。
リアルタイムPCR法は、特に微量DNAの解析を行う場合に有用である。リアルタイムPCR法は、化学反応を含め、医療現場や遺伝子解析の研究に用いられるゲノムDNAの観測を行う検出手段として使用することができる。
【0003】
そして、リアルタイムPCR法では、PCR増幅産物をリアルタイムでモニタリングするために、反応液温度を連続的に変化させることができるサーマルサイクラーと分光蛍光光度計とを一体化した専用の装置等を用いることができる。特開2003−298068号公報(特許文献1)や特開2004−025426号公報(特許文献2)には、増幅反応時の温度制御等に関する技術が開示されている。
【0004】
リアルタイムPCRは、遺伝子の検出において密封系で行われるためクロスコンタミネーションの危険性を低減し定量性に優れるといった特徴を有する。しかし、この方法において利用されるサーマルサイクラーの原理は、PCR反応液を入れたチューブをアルミ等の金属性ブロックに挿入し、そのブロックの温度を制御することでチューブ内の反応液の温度制御を行うものである。このため、高速で反応温度を切り替えることが困難であり、反応完了まで1時間以上を要する。
【0005】
そこで、特開2008−012490号公報(特許文献3)記載の微量化学反応方法を用いることでPCRの反応時間を数分から十数分に大幅に短縮することができる。当該方法は水より比重の小さいシリコーン油等の非水溶性液体で満たした容器に、磁性粒子を伴ったPCR反応液を沈め、容器の下から磁石で液滴を熱源または熱源の近くに移動させることと遠ざけることとを繰り返すことで、PCRに必要なサーマルサイクラー機能を実現している。PCR反応液の温度は熱源からの距離で瞬時に決まるため非常に高速なPCRが実現でき、かつ容器外から磁力で制御するため遺伝子検出精度を乱すクロスコンタミネーションを極限まで小さくできる完全密封系遺伝子増幅デバイスを形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−298068号公報
【特許文献2】特開2004−025426号公報
【特許文献3】特開2008−12490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
完全密閉系において液滴中で実施されるPCRを開示する特開2008−12490号公報の方法においては、疎水性の高い油中での液滴の移動操作により、蛍光色素がPCR反応液中から油中へ拡散してしまうことが問題となる。よりこの具体的には、蛍光色素として例えばSYBR(登録商標)GREEN Iを用いた場合、SYBR(登録商標)GREEN I分子が、自身の疎水性部分と油との疎水的相互作用によって液滴界面から油中へ逃げてしまう。その結果、PCRにより大量に二本鎖DNAが合成されたとしても、それに結合する蛍光色素の濃度が大幅に低くなるため、PCR産物の蛍光検出が困難となる。それに対処するために、反応液に添加する蛍光色素の濃度を上げたとしても、今度はPCR反応自体が色素により阻害を受けるため、PCR自体が成立しなくなる。
【0008】
そこで、本発明は、完全密閉系において液滴中で実施される核酸増幅法において得られる増幅産物に基づく蛍光を高精度に検出することができるリアルタイム核酸増幅法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、完全密閉系において液滴中で実施されるPCRにおいて、液滴から油中へ拡散する分子数に見合う量の蛍光色素分子が油から液滴中へ移動するように、蛍光色素を油中に添加することによって、上記本発明の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下の発明を含む。
(1)
容器中に存在する液滴中で核酸増幅反応を実施する核酸増幅反応方法であって、
前記液滴が、増幅すべき核酸と磁性体粒子とを含む核酸増幅反応液からなるものであり、
前記容器が、液滴封入媒体が保持され、且つ、温度勾配が設けられた搬送面を有するものであり、
前記液滴封入媒体が、前記核酸増幅反応液に不溶性又は難溶性であるものであり、
核酸増幅反応の開始時において、前記液滴及び前記液滴封入媒体のうち少なくとも前記液滴封入媒体に蛍光色素が含まれ、
核酸増幅反応の開始及び維持において、磁場印加手段によって磁場を発生させて前記磁性体粒子と共に前記液滴を搬送すると共に、前記搬送面上の前記核酸合成反能の開始及び維持を達成する温度地点に前記液滴を配置することによって前記核酸増幅反応液の温度制御をする、リアルタイム核酸増幅反応方法。
【0011】
核酸増幅反応液に不溶性又は難溶性であるとは、25℃における核酸増幅反応液に対する溶解度が概ね100ppm以下であることを意味する。
本発明においては、前記蛍光色素に基づく増幅核酸の測定が行われる。増幅核酸の測定は、前記核酸増幅反応を維持する間だけでなく、前記核酸増幅反応終了時においても行われうる。
【0012】
(2)
前記液滴封入媒体に含まれる前記蛍光色素の量が0.01〜0.5μMである、(1)に記載の方法。
(3)
前記液滴に0〜20μMの前記蛍光色素が含まれる、(1)又は(2)に記載の方法。
【0013】
(4)
前記液滴封入媒体が、前記核酸増幅反応開始温度及び維持温度より低い温度にゲル−ゾル転移点を有するものであり、
前記核酸増幅反応開始前において前記液滴が存在する前記温度地点において、前記液滴封入媒体がゲル状態であり、
前記核酸増幅反応の開始及び維持において前記液滴が存在する前記温度地点において、前記液滴封入媒体がゾル状態である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0014】
上記(4)においては、前記ゲル状態の液滴封入媒体が液滴を固定し、前記ゾル状態の液滴封入媒体が液滴の搬送を可能にする。
【0015】
(5)
前記液滴封入媒体が、前記増幅反応開始温度及び維持温度より低い温度に融解温度を有するものであり、
前記核酸増幅反応開始前において、前記液滴封入媒体が固形状態であり、
前記核酸反応開始及び維持において、前記液滴封入媒体が溶融状態である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
【0016】
上記(5)においては、前記固形状態の液滴封入媒体が液滴を固定し、前記溶融状態の液滴封入媒体が液滴の搬送を可能にする。
【0017】
(6)
前記増幅すべき核酸と前記磁性体粒子とが、前記核酸増幅反応の開始前において、前記容器中の前記核酸増幅反応液からなる液滴とは異なる位置に存在する核酸抽出用液からなる液滴内で、磁性粒子の共存下、核酸含有試料と前記核酸抽出用液とを接触させることにより抽出された核酸が前記磁性粒子に吸着したものであり、
前記磁性粒子及び前記抽出された核酸が、前記核酸抽出用液中から前記核酸増幅反応液中へ、前記磁性体粒子の移動によって搬送される、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0018】
(7)
前記磁性粒子及び前記抽出された核酸が、前記容器中の前記核酸増幅反応液からなる液滴及び前記核酸抽出用液からなる液滴とは異なる位置に存在する洗浄液からなる液滴内で洗浄され、前記洗浄液からなる液滴から前記核酸増幅反応液中へ、前記磁性体の移動によって搬送される、(6)に記載の方法。
【0019】
(8)
前記磁性粒子及び前記抽出された核酸が、前記容器中の前記核酸増幅反応液からなる液滴及び前記核酸抽出用液からなる液滴とは異なる位置に存在する核酸遊離液からなる液滴内に供され、前記核酸遊離液からなる液滴から前記核酸増幅反応液中へ、前記磁性体の移動によって搬送される、(6)又は(7)に記載の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、完全密閉系において液滴中で実施される核酸増幅法において得られる増幅産物に基づく蛍光を高精度に検出することができるリアルタイム核酸増幅法を提供することができる。従って、本発明によると、臨床診断での遺伝子検査(特に病原体検査やSNPs検査)において迅速かつ高精度な解析を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】液滴封入媒体31が充填された容器の斜視図であって、液滴封入媒体31中に液滴(それぞれ核酸抽出液14、洗浄液13及びPCR反応液12からなるもの)が封入され、磁性体粒子が分散した核酸含有試料からなる液滴2が液滴封入媒体31上に載せられているもの(a)、及び(a)の容器に蓋45と基板(セラミック板)43とヒーター5とが設けられ、温度勾配を生じさせたものの断面図(b)である。
【図2】図1の容器において、磁石61による操作によって、磁性体粒子が分散した核酸含有試料からなる液滴2から核酸含有試料を磁性体粒子8とともに採取し(a)及び移動させ(b)、核酸抽出を行い(c)、抽出された核酸を含む試料を磁性体粒子とともに移動させ(d)、洗浄したのち、核酸及び磁性体粒子を核酸増幅反応液12と合体させ(e)(f)、核酸増幅に必要な温度地点へ反応液を動かす(g)ことによって核酸増幅反応を行う態様を模式的に示したものである。
【図3】実施例1において、シリコーンオイルに蛍光色素を添加した場合(a−1)、と添加しなかった場合(b−1)、のPCR反応終了後の蛍光を紫外線照射で観察した画像である。
【図4】液滴封入媒体3で満たされた容器4内に封入された、磁性粒子8を含んだPCR反応液からなる液滴11を磁石61で移動させることによってPCRを実施し、PCR中にリアルタイムでPCR産物を蛍光検出するための機器構成の概略図である。
【図5】液滴封入の態様の他の例を示したものである。
【符号の説明】
【0022】
1 封入液滴
3 液滴封入媒体
4 容器
41 搬送面
5 加熱源
61 磁場印加手段
8 磁性体粒子
【発明を実施するための形態】
【0023】
[1.液滴]
本発明にかかる液滴とは、液滴を形成する液体の内外の圧力差と、液滴を構成する液体の分子間力によって発生する表面張力との釣合いで定まる形状(略球状又はその変形形状)を有する液体塊をいう。
本発明において液滴を形成する液体としては、後述の液滴封入媒体に不溶性、又は難溶性である水系液体であれば良く、水、水溶液及び水懸濁液の態様で供されうる。水系液体の構成成分としては、本発明に適用することができる核酸増幅反応及び核酸増幅反応に関連して行われる処理に供されるいかなるものも含まれる。核酸増幅反応に関連して行われる処理としては、前処理、分取(分離)処理、溶解処理、混合処理、希釈処理、撹拌処理温度調節(加熱及び冷却)処理などの処理が挙げられる。
本発明において液滴を形成する液体のより具体的な例としては、核酸増幅反応を行うための核酸増幅反応液、増幅すべき核酸が含まれる試料、核酸を抽出するための核酸抽出液、核酸を洗浄するための磁性体粒子洗浄液、及び核酸を遊離するための核酸遊離液が挙げられる。
【0024】
[1−1.核酸増幅反応液]
本発明における核酸増幅反応液は、通常核酸増幅反応に用いられる種々の要素が含まれるものであり、本発明においては、この核酸増幅反応液に、少なくとも増幅すべき核酸及び磁性体粒子が含まれる。
【0025】
[1−1−1.増幅反応に用いられる種々の要素]
後述するように核酸増幅反応は特に限定されるものではないため、核酸増幅反応に用いられる種々の要素は、後述で例示する公知の核酸増幅法などに基づいて、当業者が適宜決定することができる。通常、MgCl2、KCl等の塩類、プライマー、デオキシリボヌクレオチド類、核酸合成酵素及びpH緩衝液が含まれる。また、上記の塩類は適宜他の塩類に変更して使用されうる。また、ジメチルスルホキシド等の非特異的なプライミングを減少させるための物質がさらに添加される場合がある。
【0026】
[1−1−2.増幅すべき核酸]
増幅すべき核酸の由来元は特に限定されない。また、別途用意された核酸を含む試料から適宜前処理を行って調製されることができる。当該前処理としては、例えば核酸を含む試料から核酸の抽出を行う処理、核酸を吸着した磁性体粒子の洗浄を行う処理、及び磁性体粒子からの核酸の遊離を行う処理など、封入媒体に含まれる蛍光色素の影響を受けない処理が挙げられる。
増幅すべき核酸を含む試料としては、特に限定されず、例えば、動植物組織、体液、排泄物等の生体由来試料、細胞、原虫、真菌、細菌、ウィルス等の核酸包含体を挙げることができる。体液には血液、髄液、唾液、乳が含まれ、排泄物には糞便、尿、汗が含まれ、これらの組合せでもよい。細胞には血液中の白血球、血小板や、口腔細胞その他の粘膜細胞などの剥離細胞が含まれ、これらの組合せでもよい。また、核酸を含む試料は、例えば細胞懸濁液、ホモジネート、細胞溶解液との混合物などの態様で調製されてもよい。
なお、本発明においては、核酸を含む試料の一態様や、核酸を含む試料が前処理を経て得られた試料を、核酸を含む液体と記載することがある。
【0027】
[1−1−3.磁性体粒子]
本発明においては、磁場の変動による液滴の移動を可能にするため、磁性体粒子を液滴に含ませる。磁性体粒子は、通常その表面に親水性基を有する。
磁性体粒子は、磁気に応答する粒子であれば特に限定されず、例えば、マグネタイト、γ−酸化鉄、マンガン亜鉛フェライト等の磁性体を有する粒子が挙げられる。また、磁性体粒子は、核酸と特異的に結合する化学構造、例えばアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、アビジン、ビオチン、ジゴキシゲニン、プロテインA、プロテインG、錯体化した金属イオン、或いは抗体を備えた表面を有してよく、静電気力、ファンデルワールス力により高分子と特異的に結合する様態を呈した表面を有してもよい。これによって、核酸成分を選択的に表面へ吸着させることができる。
磁性体粒子が表面に有する親水性基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0028】
磁性体粒子は、上記の他に当業者によって適宜選択される種々の要素をさらに含んで構成されることができる。例えば、表面に親水性基を有する磁性体粒子の具体的な態様として、磁性体とシリカ及び/又は陰イオン交換樹脂との混合物からなる粒子、シリカ及び/又は陰イオン交換樹脂で表面を覆われた磁性体粒子、メルカプト基を介して親水性基を有する金で表面が覆われた磁性体粒子、磁性体を含有し表面にメルカプト基を介して親水性基を持つ金粒子などが好ましく挙げられる。
【0029】
表面に親水性基を有する磁性体粒子の大きさとしては、平均粒径が0.1μm〜500μm程度でありうる。平均粒径が小さいと、磁性体粒子は液滴中に分散した状態で存在しやすくなる。
磁性体粒子として市販されているものの例としては、東洋紡から販売されているPlasmid DNA Purification Kit MagExtractor−Plasmid-の構成試薬であるMagnetic Beadsが挙げられる。このようにキットの構成試薬として販売されている場合、磁性体粒子が懸濁した製品原液を純水(例えば10倍量程度)で再懸濁させることによって洗浄することが好ましい。この洗浄においては、純粋で懸濁した後、遠心操作によって上清を除去することによって行うことができ、また懸濁及び上清除去を繰り返し行うことができる。洗浄した磁性体粒子は、純水に分散させた状態で本発明に使用することができる。
【0030】
このような磁性体粒子は、液滴内に取り込まれ、さらに磁場を変動させることによって、当該液滴と共に磁場手段の移動方向へ移動することが可能である。これによって、液滴は、液滴状態を保ちながら移動することが可能になる。
【0031】
[1−1−4.ブロッキング剤]
本発明における核酸増幅反応液には、上記成分の他に、ブロッキング剤を含ませることができる。ブロッキング剤は、核酸重合酵素の、反応容器の内壁や磁性体粒子表面などへの吸着による失活を防止する目的で用いられうる。
ブロッキング剤の具体例としては、牛血清アルブミン(すなわちBSA)その他のアルブミン、ゼラチン(すなわち変性コラーゲン)、カゼイン及びポリリジンなどのタンパク質や、ペプチド(いずれも天然及び合成を問わない)が挙げられる。
【0032】
[1−1−5.核酸増幅反応]
本発明にかかる核酸増幅反応としては特に限定されず、例えば、PCR法(米国特許第4683195号明細書、同4683202号公報、同4800159号公報、同4965188号公報)、LCR法(米国特許第5494810号公報)、Qβ法(米国特許第4786600号公報)、NASBA法(米国特許第5409818号公報)LAMP法(米国特許第3313358号公報)、SDA法(米国特許第5455166号公報)、RCA法(米国特許第5354688号公報)、ICAN法(特許第3433929号公報)、TAS法(特許第2843586号公報)等を用いることができる。
これらの核酸増幅反応に必要な反応液の組成、並びに反応温度は、当業者が適宜選択することができる。
【0033】
リアルタイム核酸増幅方法においては、二本鎖DNAを染色することができる蛍光色素で増幅産物を標識することによって、その二本鎖DNAを加熱することで蛍光色素の変化を観察することができる。
リアルタイム核酸増幅法における検出法としては、下記の方法が挙げられる。
【0034】
例えば、特異性の高いプライマーにより目的のターゲットのみを増幅可能である場合には、SYBR(登録商標) GREEN Iなどを用いるインターカレーター法が用いられる。
二本鎖DNAに結合することで蛍光を発するインターカレーターは、核酸増幅反応によって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を検出することにより、増幅産物の生成量をモニターすることができる。この方法は、ターゲットに特異的な蛍光標識プローブを設計・合成する必要がなく、簡便にさまざまなターゲットの測定に利用できる。
【0035】
また、よく似た配列を区別して検出する必要がある場合や、SNPsのタイピングを行う場合は、プローブ法を用いる。一例として、5´末端を蛍光物質で修飾し、3´末端をクエンチャー物質で修飾したオリゴヌクレオチドをプローブとして用いるTaqMan(登録商標)プローブ法がある。
TaqManプローブは、アニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光発光は抑制される。伸長反応ステップでは、TaqDNAポリメラーゼのもつ5´→3´エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型にハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる抑制が解除されて蛍光が発光される。この蛍光強度を測定することで、増幅産物の生成量をモニターすることができる。
【0036】
このような方法によって、DNAをリアルタイムPCRで定量する原理を以下に述べる。まず、段階希釈した濃度既知の標準サンプルを鋳型として使用してPCRを行う。そして、一定の増幅産物量に達するサイクル数(threshold cycle;Ct値)を求める。このCt値を横軸に、初発のDNA量を縦軸にプロットして、検量線を作成する。
未知濃度のサンプルについても、同じ条件下でPCR反応を行ってCt値を求める。この値と前述した検量線とから、サンプル中の目的のDNA量が測定できることになる。
【0037】
さらに、熱変性からアニーリングまで励起光の照射を行うと、増幅産物の融解曲線を得ることもできる。
核酸増幅反応で生じた二本鎖DNAは、DNAの長さ及びその塩基配列により固有のTm値を持つ。つまり、蛍光色素が結合したDNAを含む液滴の温度を徐々に上昇させると、急激に蛍光強度が減少する温度が観測される。蛍光強度の変化量を調べると、その温度ピークは塩基配列と長さによって規定されるTm値とほぼ一致している。このことによって、目的遺伝子ではなく例えばプライマーダイマーが生じて観測されたデータなど(すなわち偽陽性データ)を陽性データから除外することができる。遺伝子検査では、試料中の夾雑物により非特異反応が起こることも多いため、このような偽陽性を排除することは重要である。これにより、生成した増幅産物が、標的遺伝子固有のものであるかどうかの判定を行うこともできる。
【0038】
[1−2.核酸抽出液]
核酸の抽出を行うために用いられる核酸抽出用液としては、カオトロピック物質、EDTA、トリス塩酸などを含有する緩衝液が挙げられる。カオトロピック物質としては、グアニジン塩酸塩、グアニジンイソチアン酸塩、ヨウ化カリウム、尿素などが挙げられる。
【0039】
核酸を含む試料からの核酸抽出の具体的方法は、当業者が適宜決定することができる。本発明においては液滴封入媒体内における核酸の運搬に磁性体粒子を用いるため、核酸抽出方法も磁性体粒子を用いた方法を採用することが好ましい。例えば、特開平2−289596号公報を参考に、核酸を含む試料からの磁性体粒子を用いた核酸の抽出、精製方法を実施することができる。
【0040】
[1−3.洗浄液]
洗浄用液としては、核酸が磁性体粒子表面に吸着したまま、核酸含有試料に含まれる核酸以外の成分(例えば蛋白質、糖質など)や、核酸抽出など予め行われた他の処理に用いられた試薬その他の成分を融解できる溶液であればよい。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム等の高塩濃度水溶液、エタノール、イソプロパノール等のアルコール水溶液などが挙げられる。
核酸が吸着した磁性体粒子を洗浄する具体的方法も、当業者が適宜決定することができる。また、核酸が吸着した磁性体粒子の洗浄の回数は、核酸増幅反応の際に不所望の阻害が生じない程度に当業者が適宜選択することができる。また、同様の観点で洗浄工程を省略することも可能である。
洗浄液からなる液滴は、少なくとも洗浄する回数と同じ個数だけ調製することができる。
【0041】
[1−4.核酸遊離液]
核酸遊離液としては、水又は低濃度の塩を含む緩衝液を用いることができる。具体的には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、蒸留水などを用いることができる。
核酸が吸着した磁性体粒子から核酸を遊離させる具体的方法も、当業者が適宜決定することができる。
【0042】
[1−5.液滴の量]
封入媒体に完全に封入される液滴の量としては、例えば0.1μL〜10μL或いは0.01μL〜1000μL程度とすることができる。
【0043】
[2.液滴封入媒体]
液滴封入媒体としては、液滴を構成する液体に不溶性又は難溶性である化学的に不活性な物質が用いられる。化学的に不活性な物質とは、液滴の分取(分離)、混合、溶解、希釈、撹拌、加熱、冷却などの種々の操作において液滴を構成する液体に化学的な影響を及ぼさない物質を指す。本発明においては通常、液滴封入媒体として、非水溶液又は水難溶性である物質が用いられる。
【0044】
例えば、アルカン等の炭化水素類、パーフルオロアルカン類、アルカンの水素原子の少なくとも一部がフッ素に置換されたフッ化アルカン、ミネラルオイル、シリコーンオイル、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸ケトン、脂肪酸アミン類、水と不溶あるいは難溶の液体物質が挙げられる。これらの物質の中でも、比重が1より小さい物質を用いることが好ましい。比重が1より小さい物質を用いることにより、液滴が液滴封入媒体中に沈むため、磁場の変動による液滴の操作性が良い。
【0045】
また、核酸増幅反応において耐熱性酵素が用いられうるため、耐熱性酵素の至適温度が比較的高温である場合、揮発性の低い物質を液滴封入媒体として用いることが好ましい。具体的には、沸点が200℃以下の物質を用いることが好ましい。具体例としては、ミネラルオイル、シリコーンオイル(通常ジメチルシリコーン)、脂肪酸エステル、油脂などが好ましく用いられる。
また、使用する蛍光物質を溶解することができるものを当業者が適宜選択することができる。例えば、ある程度分子内極性を持つ構成要素としてフェニル基などを有する物質が好ましい場合がある。具体的には、ジフェニルジメチコンなどのフェニル基含有シリコーンオイルを液滴封入媒体の材料として用いることができる。
【0046】
本発明においては、液滴封入媒体として、液滴中での処理(核酸増幅反応及びその他の処理)を行わない際に液滴を固定しておくことができる物質を使用することができる。これは、封入媒体中に液滴が封じ込まれた容器の、保管時や輸送時における取扱いの容易性及び安全性を確保することができる点で好ましい。このような態様を実現するためには、液滴中での処理を行う際には液滴の移動を許す流動性を有し、液滴中での処理を行わない場合にはそのような流動性を有しない液滴封入媒体を用いることができる。
【0047】
[2−1.反応温度より低い融点を有する液滴封入媒体]
液滴封入媒体として、核酸増幅反応温度より低い融点を有するものを用いることができる。この場合、核酸増幅反応の開始前は、液滴封入媒体を、液滴の移動を許す流動性がない状態(すなわち固体状態)とすることによって液滴を任意の位置に固定し、液滴が予期せぬ方向に移動することを防ぐことができる。一方、核酸増幅反応を開始するためには、液滴封入媒体を加温などにより流動性がある状態(すなわち溶融状態)とすることによって、当該液滴を移動可能にすることができる。
【0048】
例えば、融点が常温(20℃±15℃)にある物質を液滴封入媒体として用いることができる。このことによって、一般的な冷蔵温度での固化が可能となり、反応容器又は反応基板の保管が容易となる。このような物質としては、炭素数16〜23程度の直鎖アルカンが挙げられる。より具体的には、炭素鎖数17のアルカンであるオクタデカン(28〜30℃付近に融点を持つ直鎖アルカン)が挙げられる。
【0049】
さらに、液滴の移動を許す流動性は、液滴封入媒体として、融点以下で、5mm/sから100mm/s(25℃)の動粘度を有するものを用いることにより実現することができる。特に、100℃近い高温条件を要する核酸増幅反応を行う場合には、このような動粘度を有するものを用いることが好ましい。5mm/sを下回ると、高温においても液滴封入媒体が揮発しやすくなる傾向にあり、また、100mm/sを上回ると、磁場の変動による液滴の移動が妨げられやすくなる傾向にある。このような液滴封入媒体として好ましい物質の一種として、シリコーンオイルが挙げられる。
【0050】
[2−2.反応温度より低いゲル−ゾル転移点を有する液滴封入媒体]
液体封入媒体として、核酸増幅反応温度より低いゲル−ゾル転移点を有するものを用いることができる。この場合における液滴封入媒体として用いられる物質は、少なくとも液滴操作前においてゲル状態であり、当該ゲル状態である場合、及びゲル−ゾル転移点を越えてゾル状態となった場合の両方においても、液滴を構成する核酸増幅反応液に不溶性又は難溶性である。本発明においては通常、非水溶性又は水難溶性である液体物質にゲル化剤を添加してゲル化され得るものが用いられる。
【0051】
[2−2−1.ゲル−ゾル転移点]
液滴封入媒体をゲル−ゾル転移点より低い温度に供すると、液滴封入媒体に封入された液滴の移動を許す流動性のない状態(すなわちゲル状態)となる。このことによって、液滴を任意の位置に固定し、これによって、封入された液滴が予期せぬ方向へ移動することを防ぐことができる。さらに、封入された液滴をそのように固定しつつ、液滴の中に含まれる磁性体粒子及びその吸着物(具体的には磁性体表面に吸着した、反応又は処理に供される核酸や液体)を容易に移動させることができる。従って、互いに近接した位置に封入液滴を配置する場合であっても、封入液滴同士は混ざり合わないため、磁性体粒子及びその吸着物はそれらの封入液滴間を容易に移動することが可能である。
一方、核酸増幅反応を開始するためには、液滴封入媒体を加熱によってゲル−ゾル転移点より高い温度に供し、流動性のある状態(すなわちゾル状態)とする。このことによって、当該封入された液滴の移動を可能にすることができる。液滴の容積が磁性体粒子全体に比べて比較的大きい場合であってもそのような液滴全体の移動を可能にすることができる。
このような液滴封入媒体は、後述の温度変化領域に晒されることによって、図1(b)に示すように、同一容器内で流動性のないゲル31の相と流動性のないゾル32の相との両方の共存状態を簡単に実現することができる。
【0052】
ゾル−ゲル転移点は、40〜60℃となるように設定することができる。
ゾル−ゲル転移点は、オイルの種類、ゲル化剤の種類、及びゲル化剤の添加量などの条件によって変動しうる。従って、当該各条件は、所望のゾル−ゲル転移点を達成できるよう、当業者によって適宜選択される。
【0053】
[2−2−2.非水溶性或いは水難溶性である液体物質]
核酸増幅反応より低い温度にゲル−ゾル転移点を有する液滴封入媒体を用いる態様においては、液滴封入媒体として、非水溶性或いは水難溶性である液体物質に、ゲル化剤を添加したものが用いられる。
この態様で用いられる非水溶性或いは水に難溶性である液体物質としては、25℃における水に対する溶解度が概ね100ppm以下であり、常温(20℃±15℃)において液体状であるオイルが用いられる。例えば、液体油脂、エステル油、炭化水素油、及びシリコーン油からなる群から1種又は2種以上が組み合わされて用いられうる。
【0054】
液体油脂としては、アマニ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、トウモロコシ油、ミンク油、オリーブ油、アボカド油、サザンカ油、ヒマシ油、サフラワー油、キョウニン油、シナモン油、ホホバ油、ブドウ油、ヒマワリ油、アルモンド油、ナタネ油、ゴマ油、小麦胚芽油、米胚芽油、米ヌカ油、綿実油、大豆油、落花生油、茶実油、月見草油、卵黄油、肝油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等が挙げられる。
【0055】
エステル油としては、オクタン酸セチル等のオクタン酸エステル、ラウリン酸ヘキシル等のラウリン酸エステル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル等のミリスチン酸エステル、パルミチン酸オクチル等のパルミチン酸エステル、ステアリン酸イソセチル等のステアリン酸エステル、イソステアリン酸イソプロピル等のイソステアリン酸エステル、イソパルミチン酸オクチル等のイソパルミチン酸エステル、オレイン酸イソデシル等のオレイン酸エステル、アジピン酸イソプロピル等のアジピン酸エステル、セバシン酸エチル等のセバシン酸エステル、リンゴ酸イソステアリル等のリンゴ酸エステル、トリオクタン酸グリセリン、トリイソパルミチン酸グリセリン等が挙げられる。
【0056】
炭化水素油としては、ペンタデカン、ヘキサデカン、オクタデカン、ミネラルオイル、流動パラフィン等が挙げられる。
シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンその他のフェニル基含有シリコーン油、メチルハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられる。
【0057】
[2−2−3.ゲル化剤]
ゲル化剤としては、ヒドロキシ脂肪酸、デキストリン脂肪酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる油ゲル化剤が1種又は2種以上組み合わされて用いられうる。
【0058】
ヒドロキシ脂肪酸としては、ヒドロキシル基を有する脂肪酸であれば、特に制限はない。具体的には、例えば、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ジヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシマルガリン酸、リシノレイン酸、リシネライジン酸、リノレン酸等が挙げられる。これらの中でも特に、ヒドロキシステアリン酸、ジヒドロキシステアリン酸、リシノレイン酸が好ましい。これらのヒドロキシ脂肪酸は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの混合物である動植物油脂肪酸(例えば、ヒマシ油脂肪酸、水添ヒマシ油脂肪酸等)も前記ヒドロキシ脂肪酸として使用することができる。
【0059】
デキストリン脂肪酸エステルとしては、例えば、ミリスチン酸デキストリン〔商品名「レオパールMKL」、千葉製粉株式会社製〕、パルミチン酸デキストリン〔商品名「レオパールKL」、「レオパールTL」、いずれも千葉製粉株式会社製〕、(パルミチン酸/2−エチルヘキサン酸)デキストリン〔商品名「レオパールTT」、千葉製粉株式会社製〕等が挙げられる。
【0060】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、ベヘン酸グリセリル、オクタステアリン酸グリセリル、エイコ酸グリセリル等が挙げられ、これらを1種以上組み合わせて使用してもよい。具体的には、20%ベヘン酸グリセリル、20%オクタステアリン酸グリセリル及び60%硬化パーム油を含む商品名「TAISET 26」〔太陽化学株式会社製〕、50%ベヘン酸グリセリル及び50%オクタステアリン酸グリセリルを含む商品名「TAISET 50」〔太陽化学株式会社製〕等を挙げることができる。
【0061】
非水溶性又は難水溶性である液体物質中に添加されるゲル化剤の含有量は、当該液体物質の全重量の例えば0.1〜0.5重量%、0.5〜2重量%、或いは1〜5重量%に相当する量のゲル化剤を用いることができる。しかしながらこれに限定されることなく、所望のゲル及びゾル状態を達成することができる程度の量を、当業者が適宜決定することができる。
【0062】
ゲル化の方法は当業者が適宜決定する事ができる。具体的には、非水溶性又は難水溶性である液体物質を加熱し、加熱された当該液体物質にゲル化剤を添加し、ゲル化剤を完全に溶解させた後、冷却することができる。加熱温度としては、用いる液体物質及びゲル化剤の物性を考慮して適宜決定すればよい。例えば、60〜70℃程度とすることが好ましい場合がある。ゲル化剤の溶解は、穏やかに混和しながら行うと良い。冷却はゆっくり行うことが好ましい。例えば、1〜2時間程度の時間をかけて冷却することができる。例えば常温(20℃±15℃)以下、好ましくは4℃以下まで温度が下がれば冷却を完了することができる。上記ゲル化の方法の好ましい態様が適用される一態様として、例えば上述のTAISET 26〔太陽化学株式会社製〕を用いる態様が挙げられる。
【0063】
[2−2−4.液滴封入媒体の態様]
所望のゲル及びゾル状態の一例として、前述のゾル−ゲル転移点を実現する程度であることが挙げられる。
所望のゲル及びゾル状態の他の一例として、完全に封入された液滴を、好ましく固定することができるゲル状態を実現することができる程度であることが挙げられる。好ましい固定状態としては、少なくとも重力程度の外力により封入液滴が移動しない程度であることが挙げられる。移動しないとは、容器底面における液滴の接触部分の位置がほぼ変化しない程度であることが好ましい。
【0064】
所望のゲル及びゾル状態の他の一例として、次のものが挙げられる。すなわち、図1(b)に示すように、ゲル状の液滴封入媒体31の上に、10〜1000μg程度の磁性体粒子を含む0.05〜5μL程度の液滴2(水溶液又は懸濁液の態様)を載せ、図2(a)に示すように、容器底面側から磁石61によって磁場をかけた場合に、当該液滴2に含まれる磁性体粒子8が磁場に反応して、その吸着物とともに容器底面に沈降していくことができるものであることが挙げられる。
【0065】
所望のゲル及びゾル状態の他の一例として、ゾル状態の液滴封入媒体が、5mm/s〜100mm/s、好ましくは5mm/s〜50mm/s、例えば20mm/s程度(25℃)の動粘度を有する程度であることが挙げられる。特に、100℃近い高温条件を要する核酸増幅反応を行う場合には、このような動粘度を有するものを用いることが好ましい。5mm/sを下回ると、高温においても液滴封入媒体が揮発しやすくなる傾向にあり、また、100mm/sを上回ると、磁場の変動による液滴の移動が妨げられやすくなる傾向にある。このような液滴封入媒体として好ましい物質の一種として、シリコーンオイルにゲル化剤を添加したものが挙げられる。
【0066】
ゲル状態の液滴封入媒体の物性は、動的粘弾性のうち貯蔵粘弾性E’が好ましくは常温(20℃±15℃)下で10〜100kPa、より好ましくは20〜50kPaである。
【0067】
[2−3.封入媒体の量]
液滴封入媒体の使用量については、液滴を完全に封入することができる十分量を特に限定することなく決定することができる。本発明においては、従来法(すなわち、核酸増幅反応開始時において、液滴のみに蛍光物質を添加する方法)において増幅産物の十分な検出を不可能にしていた程度の量であっても許容される。
具体的には、液滴の容量の1,000〜100,000倍、或いは3,000〜10,000倍の液滴封入媒体を用いることができる。上記範囲とすることは、液滴を操作性良く搬送することができる点で好ましい。上記範囲を上回ると、PCR開始に適した温度環境を形成させるための時間を多く要し、分析開始までに時間がかかる傾向にある。或いは、上記範囲を下回ると、液滴内の蛍光色素が過多となり蛍光検出時のバックグラウンド上昇によるS/N比が低下する傾向にある。上記範囲を上回ると、液滴内から蛍光色素が散逸し、検出感度が低下する傾向にある。
【0068】
液滴封入媒体は、容器中に保持され、具体的には図1(b)に示すように、搬送面41に接して充填される。この場合において、容器中の液滴封入媒体の充填高さH3(充填厚さ)については、液滴を完全に封入することができる十分量を特に限定することなく決定する事ができる。通常、充填高さH3は、封入された液滴の高さH1以上とすることができる。
また本発明における液滴封入媒体は液滴の封入性に優れるため、以下のような態様も許容される。すなわち、図5(a)に示すように、容器中における液滴1が存在しない領域における充填高さH3が、封入された液滴(容器中に封入されている中で最も容積が大きいもの)の高さH1より低くなる部分が生じる態様も許容される。
【0069】
[3.蛍光物質]
蛍光物質は、少なくとも液滴封入媒体に含まれる。蛍光物質は、遅くとも核酸増幅反応開始時において、少なくとも液滴封入媒体に含まれるようにする。なお、核酸増幅反応の前処理も同じ液滴封入媒体内の別の液滴内で行われる場合、前処理の段階から当該液滴封入媒体に蛍光物質が含まれていたとしても、蛍光物質が前処理に影響しないことが本発明者らによって確認されている。
【0070】
蛍光物質としては特に限定されず、核酸増幅反応において核酸検出に用いられるものを当業者が適宜決定する事ができる。具体的には、SYBR(登録商標) GREEN I、臭化エチジウム、SYTO(登録商標)−13、SYTO(登録商標)−16、SYTO(登録商標)−60、SYTO(登録商標)−62、SYTO(登録商標)−64、SYTO(登録商標)−82、POPO(登録商標)−3、TOTO(登録商標)−3、BOBO(登録商標)−3、TO−PRO(登録商標)−3、YO−PRO(登録商標)−1、SYTOX Orange(登録商標)等が挙げられる。
【0071】
もし、核酸増幅反応の開始時点で、液滴中にのみ蛍光色素分子が含まれていると、液滴から液滴封入媒体へ蛍光色素分子が拡散し、増幅産物の検出が困難となる。本発明においては、拡散すると見込まれる蛍光色素分子を補う目的で、蛍光色素分子を液滴封入媒体側に含ませておく。
【0072】
蛍光色素分子は、核酸増幅反応開始時に、液滴封入媒体のみに含ませることができる。この場合、最初に液滴封入媒体側に含まれていた蛍光色素分子が、まず液滴内に浸透することによって、核酸検出が可能になる。
【0073】
また、蛍光色素分子は、核酸合成開始時に、液滴と液滴封入媒体との両方に含ませておくことができる。具体的な液滴中の蛍光分子濃度と液滴封入媒体中の蛍光分子濃度とは特に限定されない。例えば、液滴封入媒体中の蛍光分子濃度より、液滴中の蛍光分子濃度の方が高くなるように濃度を調整することが好ましい場合がある。なぜなら、液滴封入媒体中の蛍光色素の液滴への浸透圧が高いため、液滴封入媒体側の蛍光色素濃度を低めに設定することで液滴内の蛍光色素濃度は一定化するからである。
【0074】
以上のように、蛍光色素分子を少なくとも液滴封入媒体側に含ませることによって、核酸増幅反応を維持する間に安定して増幅産物の検出を行うことができる程度に液滴内の蛍光色素濃度を保つことが可能になる。このように本発明の方法においては液滴内の蛍光色素濃度を適切に保つことが出来るため、核酸増幅反応の終了時点であっても増幅産物を有効に検出することができる。
【0075】
具体的には、液滴封入媒体に含まれる蛍光色素の濃度を、0.01〜0.5μMとすることができる。当該濃度範囲の上限は、さらに0.2μM、0.1μM、0.05μM、又は0.02μMとすることもできる。また、当該濃度範囲の下限は、さらに0.02μM、0.05μM、0.1μM又は0.2μMとすることもできる。
一方、液滴に含まれる蛍光色素の濃度は、0〜20Mとすることができる。当該濃度範囲の上限は、さらに10μM、5μM、2μM、1μMまたは0.5μMとすることもできる。また、当該濃度範囲の下限は、さらに0.5μM、1μM、2μM、5μM又は10μMとすることもできる。上記範囲とすることは、反応を維持する間に安定して増幅産物の検出を行うことが容易となる点で好ましい。
本発明においては、例えば、液滴封入媒体における蛍光色素の濃度が0.05〜0.1μM、液滴における蛍光色素の濃度が0.5μM〜2μMであることが好ましい場合がある。
【0076】
[4.容器]
容器は、液滴封入媒体を保持することができるものであればよい。また、容器は、その内壁に液滴を移動させる(すなわち液滴が直接触れる)搬送面を有していればよく、その形状は特に限定されるものではない、例えば、図5(a)に示すような搬送面41を有する基板43、或いは図1(b)に示すような基板(セラミック板)43上に接するように設けられた底材42であって搬送面41を有する底材42と、当該搬送面41を取り囲む壁44とを有するものが挙げられる。
また、図1(b)に示すように、当該壁44で囲まれた空間を覆う蓋45をさらに有することによって、当該空間を閉鎖することができるものであっても良い。当該蓋45は、その全体又は一部が開閉可能となっていて、核酸増幅反応などの処理を行うための試薬や、試料を含む液滴を容器内に投入できるようになっていてもよい。
【0077】
反応容器は、搬送面を有する基板又は底材と壁、或いは、搬送面を有する基板又は底材と壁と蓋とが一体成型されたものであれば、完全閉鎖系を構築することができる点で好ましい。完全閉鎖系が構築可能であることは、処理中における外部からのコンタミネーションを防ぐことができるため非常に有効である。
【0078】
[4−1.材質]
基板又は底材であって、搬送面を有するものの材質としては特に限定されないが、液滴の移動の際の移動抵抗を下げるために、搬送面が撥水性であるものが好ましい。そのような性質を与える材質として、例えばポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネートなどの樹脂素材が挙げられる。一方、基板上に搬送面を有する底材を設けた容器を用いる場合における基板としては、上述の素材のほか、セラミック、ガラス、シリコーン、金属等なども用いられうる。
【0079】
本発明においては、基板又は底材の素材として、樹脂、特にポリプロピレンを用いることが好ましい。底材として用いる場合には、フィルム状であることが好ましい。具体的には、厚さが例えば3μm以下の極薄フィルムとすることができる。さらに、核酸増幅反応時に求められる耐熱性、液滴移動時に求められる撥水性、接着性、加工性、安価性などを鑑みると、極薄ポリプロピレンフィルムを底材として用いることが好ましい。
【0080】
また、液滴及び液滴封入媒体に接する搬送面は、その一部に、液滴に対して親和的な物性を有する部分を有してもよい。例えば、当該部分において撥水性を相対的に弱めたり、親水性を相対的に高めたり、表面粗さを相対的に高めたりする処理を施しておくことができる。このような部分に液滴が配置されると、液滴封入媒体が流動性を有する場合であっても、封入された液滴の不用意な移動を防ぐことが可能になる。
【0081】
[4−2.物性]
基板及び底材は、反応容器外部又は反応基板裏面等から液滴の吸光度、蛍光、化学発光、生物発光、屈折率の変化等の測定を行う場合に、光学的な検出などができるようにするために光透過性を有するものであることが好ましい。
また、核酸増幅反応が行われうる高温においても液滴との高い接触角を保つことのできる表面を有するものを用いることが好ましい。具体的には、ポリプロピレン又はポリプロピレンやそれ以上の接触角を有する樹脂を用いることが好ましい。基板表面上における液滴の接触角は、95°〜135°程度(25℃)であることが好ましい。
【0082】
液滴及び液滴封入媒体に接する搬送面は、液滴を移動させるため、平滑面であることが好ましく、特に、表面粗さが、Ra=0.1μm以下であることが好ましい。例えば、永久磁石を容器の底側から基板に近づけ磁場の変動により液滴が移動する際に、磁性体粒子が基板表面に押し付けられながら移動するが、Ra=0.1μm以下の表面粗さを有することで、永久磁石の移動への磁性体粒子の追従性を十分備えることができる。
【0083】
[4−3.温度変化領域]
液滴を移動させる搬送面には、温度変化領域が設けられる。温度変化領域は、搬送面上の液滴搬送経路に沿って連続して温度が変化するように、温度勾配が設けられたものである。温度勾配は、例えば容器の底面又は図1(b)に記載するような容器の底面に接する基板43の一部に加熱源5を接触させ、一定温度で発熱させることによって形成する。これによって、基板表面又は底材表面上に、熱源真上の地点が最も高温であり熱源から離れるに従って温度が下降するといった温度勾配を有した温度変化領域を形成することができる。
【0084】
磁場を変動させることによって、当該温度変化領域内の、実施する処理に必要な温度地点に、液滴を移動・配置することができる。また、液滴を移動させるだけで、液滴中の液体の温度を、その地点での温度に速やかに調節することが可能となる。このため、核酸増幅反応のように、実施する反応が温度変化を必要とする場合であっても、液滴の移動のみで液滴の温度を迅速且つ容易に昇温及び降温することができる。
【0085】
加熱源は、実施する反応に必要な温度のうち最高温度以上に設定する。また、加熱源が接触している側を高温側として形成される温度勾配の低温側には、放熱板、あるいは冷却ファン等の冷却源を設けてもよい。冷却源を設けることによって、温度変化領域内で形成される温度勾配を大きくすることが可能となる。
また、基板又は底材の素材として樹脂のように熱伝導性が低いものを用いることによっても、同様に温度変化領域内に形成される温度勾配を大きくすることができるため、狭い領域での局所的な温度調節が可能になる。
このように濃度勾配を大きくすると、実施する処理に、二種以上の比較的差が大きい温度条件が求められる場合であっても、液滴の移動距離が短くて済む。このことは、効率のよい処理を可能にし、また、反応容器の小型化も可能にする。
【0086】
[5.磁場印加手段]
液滴を移動させるための磁場の変動をもたらす磁場印加手段や磁場移動機構については特に限定されない。磁場印加手段としては、永久磁石(例えばフェライト磁石やネオジム磁石)や電磁石などの磁力源を用いることができる。磁力源は、容器内に存在する液滴中に分散していた磁性体粒子を搬送面側で凝集させることができる状態で、容器の外側に配置することができる。これによって、磁力源が容器の搬送面を介して磁性体粒子に対して磁場を生じさせ、磁性体粒子群及びそれが含まれる液滴を捕捉することができる。
【0087】
磁場移動機構としては、例えば、磁性体粒子の凝集形態を保つことができる状態で、磁場を搬送面方向に移動させることができる機構を用いることができる。
例えば、図4に示すように、磁力源(例えば磁石61)自体を搬送面41に略平行に機械的移動させることのできる機構62を用いることができる。磁力源61によって容器の底面を介して捕捉された磁性体粒子群8及びそれが含まれる液滴11は、磁力源の移動に追随して搬送面41上を移動することができる。これによって、封入液滴の移動、封入液滴を母液滴とした子液滴の分離、及び封入液滴と封入液滴との合体を可能にする。
【0088】
また、磁場移動機構として、磁性体粒子への磁場を遮断又は減弱することができる機構も備えていることが好ましい。磁場の遮断又は減弱の程度は、凝集していた磁性体粒子群が液滴中で分散することができる程度でよい。
例えば、通電制御手段を用いることができる。また例えば、搬送面を介して容器の外側に配置した磁石を、当該搬送面に略垂直方向に移動することができる機構を用いることができる。この磁石を搬送面から遠ざけることによって、磁場を遮断又は減弱することができる。これによって、封入液滴中において磁性体粒子群を分散させ、磁性体粒子に吸着した成分を、封入液滴を構成する液滴に十分に晒すことが可能になる。
【0089】
さらに、磁場の変動を制御することができる手段も備えてよい。例えば磁力源を振幅運動させることができる機能を備えることによって、スターラーの代用とすることができる。これによって、液滴同士の混合や撹拌が容易になる。
【0090】
また、磁場を搬送面方向に移動させることができる機構であって上記のような磁力源自体の機械的移動を伴わない例として、搬送面に略平行に1次元又は2次元で配置された電磁石アレイ及び通電制御手段を用いてもよい。電磁石へ通電すれば液滴の補足が可能であり、電磁石への通電を止めれば磁場の遮断により液滴の移動や磁性体粒子の分散が可能であり、電磁石への通電制御によって磁場の変動制御が可能である。このような磁力源の機械的移動を伴わない態様は、特開2008−12490号公報を参照して当業者が適宜実施することが可能である。
【0091】
[6.蛍光検出手段]
蛍光検出手段は特に限定されるものではなく、当業者であれば容易に選択可能である。一例を挙げると、図4に示すように、光発生部73、カメラ(CCDカメラ)72、同軸落射系74及びパーソナルコンピューター(PC)71で構成された手段を用い、光発生部73から光ケーブル74によってCCDカメラ72に取り付けた同軸落射系75への入射を行い、同軸落射系75のレンズ群を通して反応容器内4の液滴11への照射を行うことができる。CCDカメラによって検出された電気的シグナルをPCにリアルタイムで送信し、液滴の蛍光強度の変化を追尾することができる。
【0092】
光発生部としてはLED、レーザー、ランプ等を用いることができる。また検出においては安価なフォトダイオードから、より高感度を目指した光電子倍増管などまで、種々の受光素子を特に限定することなく利用することができる。例えばSYBR(登録商標) GREEN Iを例に挙げると当該色素は二本鎖DNAに特異的に結合し525nm付近に蛍光を生じるため、CCDカメラは目的波長以外の光をフィルターでカットし、CCD素子受光面で光を検出する。
液滴の蛍光観測は、DNAポリメラーゼによる伸長反応(通常68〜74℃程度)を行う温度地点に励起光を照射し、当該地点に液滴を停止させた状態で暗室内にて行うことができる。さらに、励起光の照射範囲を、熱変性を行う温度地点からアニーリングを行う温度地点まで拡大すると、液滴を移動させると共に増幅産物の融解曲線を得ることもできる。
【0093】
[7.液滴及び磁性体粒子の操作]
[7−1.液滴の封入]
[7−1−1.液滴の添加による封入法]
上記2−1に記載の反応温度より低い融点を有する液滴封入媒体を用いる場合、液滴の封入は、液滴反応操作前において、容器に収容された液体物質中に、液滴を形成すべき溶液を滴下などによって添加することによって行うことができる。当該液体物質を融点以下に供すると、封入した液滴の固定を行うこともできる。
【0094】
上記2−2に記載の反応温度より低いゲル−ゾル転移点を有する液滴封入媒体を用いる場合、液滴の封入は、液滴操作開始前において、容器に収容された液体物質にゲル化剤を溶解させた混合液を調製した後、液滴を形成すべき溶液を滴下などによって添加し、その後、当該混合液を冷却してゲル化させることによって行うことができる。
液滴の封入は、液滴操作開始前において、ゾル状の液滴封入媒体中に液滴を滴下した後、ゾル−ゲル転移点以下の温度に供することによって液滴封入媒体をゲル化させることによって行うこともできる。また、ゲル状態の液滴封入媒体中に穿刺によって水系液体を直接注入することによって行うこともできる。
【0095】
以上の方法によって、液滴封入媒体中での液滴の完全封入や固定化が行われ、また、固定化された場合には保存も容易になる。例えば図1(a)に示すように、封入された液滴12、13及び14は搬送経路上に位置しており、容器4の内壁の搬送面41に接するように配置されうる。
【0096】
液滴の封入においては、次の工夫をしてもよい。例えば図5(b)に示すように、多穴ウェルなどの多穴デバイス9の上に薄い底材42を敷き、液滴封入媒体3を充填すると、封入媒体3の重さによって当該穴の上に敷かれた底材が下にたわみ、窪んだ部分ができる。この窪んだ部分に液滴1を配置することによって、未だ液滴封入媒体3が流動性を有している場合であっても、敵下された液滴1が不用意に動くことを阻止することができる。さらに、複数の液滴を封入する場合には、液滴同士の間隔を狭めることができるため、容器を小型化することも可能になる。
【0097】
[7−1−2.封入媒体上の液滴と封入液滴との合体による封入法]
反応系又は処理系を構築するために必要な要素の一方を含む水系液体を上記方法により搬送経路上に配置し、当該他方を含む水系液体をゲル化した状態の液滴封入媒体上に液滴状態で載せておく場合、以下のようにして両要素を混合させる。
流動性のない液滴封入媒体(すなわち、融点以下の温度条件下における液体状の液滴封入媒体又はゾル−ゲル転移点以下の温度条件下におけるゲル状の液滴封入媒体)上に、液体を液滴状態で載せる際、例えば図1(b)に示すように、液滴封入媒体31の上面の一部に押圧や削去などによりくぼみを設け、そのくぼみに液体2を載せることができる。このようなくぼみを形成することによって、液滴封入媒体31に載せる液体2が不用意に広がることや移動することを防ぐことができる。くぼみの深さD2は特に限定されない。例えば、くぼみの最も深いところが搬送面41に到達しない程度の浅さであることが好ましい。或いは、既に搬送面に接して封入されている液滴の高さに到達しない程度の浅さであってよい。具体的には、くぼみの深さD2は、約1mm前後でがあれば十分である場合がある。
【0098】
液滴封入媒体をゾル−ゲル転移点以上の温度に供することによって、液滴封入媒体がゾル化して流動性を呈し、当該他方の要素を含む液滴は、液滴封入媒体の中を容器底面まで沈降する。沈降した液滴は、既に封入されていた一方の要素を含む液滴と合体することによって、一方の要素と他方の要素とが混合され、一つの封入液滴中に共存することによって、反応又は処理に供することができる状態となる。
【0099】
他方の要素を含む液滴と、一方の要素を含む液滴とを合体させるには、一方の要素を含む液滴が封入されていた位置の真上に、他方の要素を含む液滴を載せることができる。或いは、一方の他方の要素を含む液滴と他方の要素を含む液滴とのうち少なくともいずれかに磁性体粒子が含まれていれば、容器底面における、一方の要素を含む液滴が封入されていた位置と異なる位置に他方の要素を含む液滴を沈降させ、磁場の変動を与えて磁性体粒子を含む液滴を移動させることによって両液滴を合体させることができる。
【0100】
また、液滴封入媒体がゲル状態を呈している場合、図2(a)に示すように、液滴封入媒体31がゲル状態のまま、磁力源(磁石)61を容器4に近づけ、搬送面41側から液滴封入媒体31上の液滴2の方向へ磁場を発生させることによって、当該液滴2を液滴封入媒体31の上に載せたまま磁性体粒子8を搬送面41方向へ分離することができる。このとき、分離される磁性体粒子8は磁力により集合体となり、集合体となった磁性体粒子群は、それに吸着した物質及び若干の液体をその周囲に引き連れる。言い換えれば、図1(a)に示す液滴2を母液滴として、図21(b)に示す磁性体粒子を含む子液滴11bが分離される。分離された子液滴11bは、磁場の誘導に従い、ゲルの三次構造を崩しながら液滴封入媒体31の中を通り、容器搬送面41まで沈降させることができる(図2(b))。
この態様の具体例として、液滴封入媒体の上に載せられる液滴が、磁性体粒子とともに増幅すべき核酸を含む試料からなる液体であってよい。この場合、子液滴は、磁性体粒子及びそれに吸着した核酸を含む試料からなる液体を含んだ状態で得られる。
沈降した子液滴11bは、既に封入されていた一方の要素を含む液滴14と合体することによって、一方の要素と他方の要素とが混合され、一つの封入液滴11c中に共存することによって、核酸増幅反応又はその前処理に供することができる状態となる。
【0101】
[7−2.封入された液滴の移動]
[7−2−1.流動性を有する液滴封入媒体中における液滴の移動]
流動性を有する液滴封入媒体(すなわち融点以上の温度条件下における固体状の液滴封入媒体又はゾル−ゲル転移点以上の温度条件下におけるゾル状の液滴封入媒体)中に封入された磁性体粒子含有液滴が、液滴搬送経路を移動する原理は、以下のとおりである。すなわち、図2(g)及び(h)に示すように、磁性体粒子を含む液滴11gは、容器の搬送面41から容器内部の方向へ磁石61を近づけるなどして磁場を生じさせ、磁場を容器の搬送面41に略平行に移動させることによって磁場を変動させると、液滴内で磁性体粒子が移動方向の側に集中し、液滴全体を当該移動方向へ動かそうとする力が働く。本発明で用いられる磁性体粒子表面の親水性により、磁性体粒子が液滴搬送経路を移動する際に、液滴を形成する水に牽引力が伝達し、且つ、基板上の液滴の接触角が十分に大きく、搬送面の表面粗さが十分に小さく、液滴封入媒体の動粘度や磁場の移動の初速度が適切であれば、磁性体粒子が液滴の表面張力に打ち勝って、液滴から飛び出すことなく液滴全体を移動させることができる。
【0102】
例えば、搬送面上の液滴の接触角が105°(25℃)、搬送面の表面粗さRa=0.1μm、液滴封入媒体の動粘度が15mm/s(25℃)である場合、例えば粒径1μm、500μgの量の磁性体粒子を水中に含む磁性体粒子分散液3μLを液滴封入媒体中に封入し、ネオジム製永久磁石を容器外側から近づけた場合、10cm/秒以下の初速度で磁石を移動させれば、磁性体粒子が液滴の表面張力に打ち勝って、液滴から飛び出すことなく液滴全体を移動させることができる。この場合、最高速度100cm/秒で液滴全体を移動させることができる。
【0103】
磁性体粒子を含む液滴を移動させる条件は、液滴を形成する水系液体の組成、磁性体粒子の粒子径や使用量、搬送面上の液滴の接触角、搬送面の表面粗さ、液滴封入媒体の動粘度、磁場の強度、磁場の変動速度などのパラメータを設定することによって再現性よく実施することができる。当業者であれば液滴に含まれる磁性体粒子の挙動を確認しながら、各パラメータを調整し実施することができる。
なお、この態様において移動させることができる液滴の容積は、当業者が適宜決定する事ができるが、例えば磁性体粒子を10〜1000μg用いる場合、0.05μL〜5μLとすることができる。
【0104】
[7−2−2.ゲル状態の液滴封入媒体中における液滴の移動]
ゲル状態の液滴封入媒体は、ゲル独特の特性を有するため、それ自身は流動性を有しない状態のまま、封入する液滴を移動させることができる。ゲル状態の液滴封入媒体中に封入された磁性体粒子含有液滴は、液滴封入媒体であるゲルの三次構造を崩しながら液滴搬送経路を移動することができる。
【0105】
例えば、ゾル状態における搬送面上の液滴の接触角が105°(25℃)、搬送面の表面粗さRa=0.1μm、ゲル状の液滴封入媒体の動粘度が15mm/s(25℃)である場合、例えば粒径3μm、500μgの量の磁性体粒子を水中に含む磁性体粒子分散液3μLを液滴封入媒体中に封入し、フェライト製永久磁石を容器外側から近づけた場合、10cm/秒以下の初速度で磁石を移動させれば、磁性体粒子が液滴から飛び出すことなく液滴全体を移動させることができる。この場合、最高速度100cm/秒で液滴全体を移動させることができる。
【0106】
ゲル状態の液滴封入媒体中で液滴を移動させる態様においては、磁性体粒子が運ぶ液滴の容積は、磁性体粒子の周囲に付着する程度のわずかな量である場合が多い。例えば、磁性体粒子を100〜500μg用いる場合、1μL〜5μL程度に過ぎない。この態様は、磁性体粒子によって運ばれることを目的とする成分が、磁性体粒子表面に吸着する成分のみである場合など、磁性体粒子が引き連れる液滴量が少ないほど好ましい場合に好適である。
【0107】
[7−2−3.温度変化領域上を移動する場合]
このように封入液滴自体を移動させる態様は、封入液滴の液温を変化させる必要がある場合に好ましく用いられる。液滴搬送経路に温度勾配が設けられることによって搬送面が温度変化領域を有する場合、封入液滴を構成する溶液内で行われうる処理に必要な温度地点へ封入液滴自身を移動させることによって、液温を迅速且つ容易に調整することが可能である。
【0108】
従って本発明は、例えば、二種以上の比較的差が大きい温度条件が求められる核酸増幅反応を行う場合に有用である。例えば、上述の核酸増幅反応のうち、PCR法、LCR法、TAS法等においては、二から三の比較的差が大きい温度条件からなる温度サイクルを複数回繰り返す必要がある。本発明の方法を用いると、図2(g)及び(h)に示すように、上述した親水性表面を有する磁性体粒子、増幅の目的とする核酸、蛍光色素、核酸増幅反応に必要な物質を含む核酸増幅反応液からなる封入液滴11gに、磁場の変動を与え、核酸増幅反応の各工程に必要な温度地点へ液滴を移動し、それぞれの温度地点で必要な時間配置することにより、核酸増幅反応の複雑な温度条件を簡単に実現することができる。また、蛍光色素を少なくとも液滴封入媒体に含ませれば増幅産物を良好に検出することができるため、液滴内での核酸増幅反応をリアルタイムで観測すること(リアルタイム核酸増幅)も可能である。
【0109】
また、本発明は、ユーザーが採用する可能性のある反応又は処理に必要とされる温度が多岐にわたるものであっても、柔軟に対応することができる、例えば、SDA法、Qβ法、NASBA法、ICAN法、ICAT法、RCA法等は、37度から65度程度の範囲内にある一の温度条件で行われる等温増幅反応であるが、増幅対象によって至適温度が異なる。本発明の方法においてこれらの核酸増幅方法を用いる場合、増幅対象に応じた至適温度に液滴の温度が制御される地点に液滴を配置することのみの簡単な操作によって、いずれの方法を用いた場合であっても好ましい増幅効率を実現することができる。
【0110】
[7−3.封入された母液滴からの磁性体粒子及びそれに付随する子液滴の分離]
[7−3−1.流動性を有する液滴封入媒体中における子液滴の分離]
流動性を有する液滴封入媒体中の上記移動態様の変形態様として、移動する封入液滴が、別の液滴を母液滴として分離された子液滴である態様が挙げられる。
当該別の液滴は、同一容器内で液滴封入媒体中に封入されているものである。この態様においては、封入された当該別の液滴に含まれる磁性体粒子に対して磁場を生じさせ搬送経路を移動させることによって、封入された母液滴全体を移動させることなく、磁性体粒子群が引き抜かれて分離される。このとき、分離される磁性体粒子群は、それに吸着した物質及び多少の液滴由来の液体(子液滴)をその周囲に引き連れる。
【0111】
例えば、上記移動を可能にする諸条件に比べて、磁性体粒子の含有量が母液滴に対し相対的に少ない、搬送面上の液滴の接触角が相対的に小さい、搬送面の表面粗さが相対的に大きい、液滴封入媒体の動粘度が相対的に高い、或いは磁場の変動の初速度が相対的に速いなどの条件の変動によって、磁性体粒子を含む母液滴から、磁性体粒子及びそれに付随する子液滴の分離が可能になる。上記例示の条件の変動の幅を大きくすることなどによって、磁性体粒子に付随する子液滴の容積を大きくすることができる。子液滴の分離に関しても、上述の液滴の移動と同様、当業者であれば液滴に含まれる磁性体粒子の挙動を確認しながら、各パラメータを調整し実施することができる。
【0112】
この態様においては、液滴封入媒体が流動性を有しているため、封入された母液滴自体は固定されていない。このため、上記諸条件が、液滴自体の移動の条件に近いほど、液滴封入媒体の中を動きやすく、母液滴から磁性体粒子及びそれに付随する子液滴の分離が困難になる傾向がある。このような場合は、例えば、搬送面上の搬送経路の一部に、液滴に対して親和的な物性を有するスポットを設けることができる。例えば、当該スポットにおいて撥水性を相対的に弱めたり、親水性を相対的に高めたり、表面粗さを相対的に高めたりする処理を施しておくことによって、そのスポット上に配置された母液滴が不用意に動くことを防ぐことができる。また、基板上の所望の場所において、封入された母液滴に対して下から動かない磁場を別途与えるなどの電場制御を行うことによっても、同様の効果を得ることができる。
【0113】
[7−3−2.ゲル状態の液滴封入媒体中における子液滴の分離]
一方、図2(c)〜(e)に示すように、ゲル状の液滴封入媒体31中に封入された、磁性体粒子を含む母液滴11cからも、液滴封入媒体31が流動性を有しないゲル状態のまま、磁性体粒子及びそれに付随する子液滴11eを分離することができる。この態様は、図2(a)〜(b)に示す、液滴封入媒体31の上に載せられた磁性体粒子を含む母液滴2から磁性体粒子及びそれに付随する子液滴11bを分離する態様と同様の原理による。
【0114】
すなわち、分離される磁性体粒子は磁力により集合体となり、集合体となった磁性体粒子群は、それに吸着した物質及び若干の液体を引き連れる(図2(e))。言い換えれば、封入された液滴11cを母液滴として、磁性体粒子を含む子液滴11eが分離される。分離された子液滴11eは、磁場の誘導に従い液滴封入媒体31であるゲルの三次構造を崩しながら搬送経路を移動することができる。一方、磁性体粒子群に比べてある程度容量の大きな封入液滴(すなわち母液滴11c)は、ゲル状封入媒体により固定されるため磁性体粒子群と共に移動することができない。このため、磁性体粒子8はそれに付随する子液滴11eとともに分離され、母液滴は元の位置にとどまる(図2(d)、(e))。従って、上述の流動性を有する液滴封入媒体を用いた場合に行われうるような、封入液滴が不用意に動くことを防ぐための方法(電場制御など)を採用することなく、母液滴から磁性体粒子を含む子液滴を非常に容易に分離することが可能になる。このため、ゲル状態の液滴封入媒体は、液滴を配置する自由度が非常に高い。それに伴って、液滴搬送経路も自由度高く決定することができる。
【0115】
また、既に述べたように、ゲル状態の液滴封入媒体中で液滴を移動させる態様においては、磁性体粒子が運ぶ液滴の容積は、磁性体粒子の周囲に付着する程度のわずかな量である場合が多い。このため、磁性体粒子によって運ばれることを目的とする成分が、磁性体粒子表面に吸着する成分のみである場合、ゲル状態の液滴封入媒体中で母液滴から子液滴を分離する態様は、余分な液体成分の追随を最小限にとどめ、磁性体粒子に吸着する成分の分離を精度よく行うことができる点で好ましい。
【0116】
[7−4.磁性体粒子を含む封入液滴と別の磁性体粒子との合体]
磁性体粒子を含む液滴は、同一容器内の別の封入液滴からなる液体に供されることにより、封入液滴同士が合体することができる。当該別の封入液滴を封入している液滴封入媒体は、流動性の有無を問わない。液滴同士の合体によって、液滴を構成する成分の混合、溶解、希釈などを行うことができる。
【0117】
本発明においては、核酸と磁性体粒子とを含む液体からなる封入液滴を母液滴として、磁場の変動を与えることによって分離した子液滴を、核酸増幅反応をはじめとする処理が行われる液体からなる別の封入液滴と合体させることができる。別の封入液滴としては、核酸抽出処理液からなる液体、洗浄液からなる液体、核酸遊離処理液からなる液体などが挙げられる。
【0118】
核酸抽出処理を行う場合を例に挙げると、図2(b)に示すように、液滴封入媒体31中、磁性体粒子及びそれに付随する核酸及びその他の成分を含む小液滴11bを移動させ、核酸抽出液からなる別の封入液滴14と合体させる(図2(c))ことによって、小液滴11bに含まれていた核酸成分の抽出を行うことができる。さらに磁場の変動を与えることによって、図2(d)及び(e)に示すように、小液滴11bと合体した核酸抽出液からなる封入液滴11c中から、抽出された核酸が小液滴11eとともに磁性体粒子に付随して分離し、液滴封入媒体31中へ移動する。
【0119】
洗浄処理を行う場合も同様に、封入媒体中、磁性体粒子及びそれに付随する核酸を含む別の小液滴を移動させ、洗浄液からなる別の封入液滴と合体させることによって、磁性体粒子の洗浄を行うことができる。磁性体粒子の洗浄を行うことによって、磁性体粒子に吸着する核酸の洗浄を行うことができる。さらに磁場の変動を与えることによって、洗浄液からなる封入液滴中から、洗浄された核酸が、小液滴とともに磁性体粒子に付随して分離し、封入媒体中へ移動する。核酸遊離処理を行う場合も同様である。
【0120】
核酸含有試料、又は必要に応じて上記核酸抽出処理、洗浄処理及び/又は核酸遊離処理を経た小液滴は、核酸増幅反応液からなる液滴と合体させる(図2(f)、(g))。これによって、増幅すべき核酸と磁性体粒子とを含む核酸増幅反応液からなる液滴11gを得ることができる。得られた液滴11gを、温度変化領域における核酸増幅反応開始温度の地点に移動させる(図2(h))ことによって、核酸増幅反応を開始することができる。
上述のように、核酸増幅反応及びそれに関わる前処理を含む一連の処理が、完全密閉系でわれる。さらに、磁性体粒子を、封入液滴内に含ませて分散させることと、移動のために凝集させることと、ゲル内における各液滴間及び所望の温度地点間を移動させることとによって、これらの処理を簡便に行うことができる。
【実施例】
【0121】
[実施例1]
親水性表面を持つ磁性体粒子として、東洋紡から販売されているPlasmid DNA Purification Kit MagExtractor-Genome-キットの構成試薬であるMagnetic Beads(以下、単に、磁性シリカビーズという)を使用した。上記キット内の磁性シリカビーズは、予め、原液を10倍容量の純水に懸濁させ、500×g、1分間の遠心操作により上清を除去する操作を5回繰り返すことによって洗浄した。そして、磁性シリカビーズを純粋中に懸濁させ、純粋中の磁性シリカビーズの含有量が、同ビーズ乾燥重量換算で100mg(dry)/mLとなるように調整した。
【0122】
PCR反応液の組成は、50mM塩化カリウム、10mMトリス塩酸緩衝液(pH9.5)、5mM塩化マグネシウム、0.6μMベータアクチン検出用PCRプライマー(Forward)(アプライドバイオシステムズ社製)、0.6μMベータアクチン検出用PCRプライマー(Reverse)(アプライドバイオシステムズ社製)、及び0.75U 耐熱性DNAポリメラーゼ(宝酒造製Ex Taq DNA Polymerase)である。さらにDNAポリメラーゼの基板表面、磁性体粒子、オイル界面等への吸着による失活を防止するため、0.1(wt)%牛血清アルブミンを添加した。当該PCR反応液に、3ngヒト標準ゲノムDNA精製品(ロシュ社製)、及び、磁性シリカビーズを乾燥重量換算で10μg/μLの濃度となるようにPCR反応液に含ませた。
【0123】
反応容器の底材には厚さ2.8μmのポリプロピレンフィルム(王子特殊紙アルファンEM−501K)を用い、シリコーンオイル(信越化学性KF−56)を充填した。
インビトロジェン社製SYBR(登録商標)GREEN Iを、PCR反応溶液からなる液滴に、製品原液の一万倍希釈濃度となるように添加した。また、SYBR(登録商標)GREEN Iを、シリコーンオイルに、製品原液に対し5万倍希釈濃度となるように添加した。
【0124】
遺伝子増幅産物が精製すると、それに伴って蛍光色素が二本鎖DNAに結合した時に生じる蛍光が観察されることになる。本実施例によってPCR反応を行った結果を図3に示す。図3の(a−1)はシリコーンオイルに蛍光色素を添加した場合、(b−1)はシリコーンオイルに蛍光色素を添加しなかった場合のPCR終了後のSYBR(登録商標)GREEN Iの蛍光を紫外線照射で観察した画像である。ポリプロピレン製チューブに回収した液滴は、紫外線照射により、シリコーンオイルに蛍光色素を添加した場合(a−1)のみにおいてシグナルが観察された。このシグナルは、SYBR(登録商標)GREEN Iに由来する波長472nmの黄緑色蛍光として観察された。一方(b−1)でも遺伝子増幅が起こったが、蛍光がほとんど観察されなかった。
【0125】
なお、(a−1)及び(b−1)それぞれの場合における遺伝子増幅物のアガロースゲル電気泳動結果を(a−2)及び(b−2)に示す。(a−2)及び(b−2)が示すように、いずれの場合においても、遺伝子増幅は正常に反応が完結していた。
【0126】
[実施例2]
SYBR-Green I、YO PRO-1及びSYTO-13(いずれもInvitrogen社製)の蛍光色素をそれぞれ用い、蛍光色素の液滴側濃度とオイル側濃度とをそれぞれ変えてPCRを行ったことを除いては、上記実施例1と同様の操作を行った。液滴をPCR開始に供する前の蛍光強度と、PCR開始に供した後の蛍光強度との差を表1〜3に表す。表1はSYBR-Green Iを用いた場合、表2はYO PRO-1を用いた場合、及び表3はSYTO-13を用いた場合の結果を示す。
【0127】
なお、液滴容量はすべて3μLとし、反応液組成は25mM Tris-HCl(pH8.3)、8 mM MgCl2、0.2%(w/v)牛血清アルブミン、0.125U/μL Ex Taq DNAポリメラーゼ(タカラバイオ製)、250μM dNTP、各1μM ヒトβ-アクチン遺伝子検出用プライマーである。
ヒトβ-アクチン遺伝子検出用プライマーの配列は、5’-CATCGAGCACGGCATCGTCACCAA-3’(配列番号1)及び5’-GCGGGCCACTCACCTGGGTCATCT-3’(配列番号2)である。
【0128】
磁気ビーズ(東洋紡MagExtractor (R) -Plasmid-)510μgを液滴3μLに添加した。液滴封入媒体としては、信越化学製シリコーンオイルKF-56を用いた。PCR反応工程は、T. Ohashi, H. Kuyama, N. Hanafusa and Y. Togawa : Biomed. Microdevices, 9, 695 (2007)に記載された条件に従って行った。すなわち、PCRサイクルは熱変性(95℃、0.5秒)、アニーリング(60℃、1秒)及び伸長反応(72℃、5秒)を1サイクルとし、計40サイクル行った。磁気ビーズを含む上記反応液からなる液滴を、当該液滴の真下、容器外に設置した磁石を毎秒1.1cmの速度で、温度勾配による95℃から60℃の地点間を移動させることによって、上記PCRサイクルを実現した。
【0129】
液滴の蛍光強度測定は、冷却CCDカメラ(SBIG社製 ST-402ME)を用い、オイル中の液滴の真上から最高感度で5秒間露光撮影することにより行った。励起光源は470nm青色LED、励起光側バンドパスフィルターは475nm/40nm、及び検出側バンドパスフィルターは535nm/45nmを使用した。データは画像解析ソフト ImageJを使用し、液滴全体の蛍光量を相対蛍光強度として算出し、PCR後の蛍光強度からPCR前の蛍光強度(すなわちバックグラウンド分)を差し引いた値をデータ値とした。本実施例においては、各色素とも、液滴側濃度は0.5〜2μM、オイル側濃度は0.05〜0.1μM付近に至適条件があることが分かった。また、予めオイル側に色素を添加しなかった場合、有意な蛍光強度の上昇はみられなかった。一方、予め少なくともオイル側に色素が存在すれば、液滴側に蛍光色素を添加しなくとも増幅核酸の蛍光検出が可能であることが分かった。
【0130】
【表1】

【0131】
【表2】

【0132】
【表3】

【配列表フリーテキスト】
【0133】
配列番号1は、合成プライマーである。
配列番号2は、合成プライマーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器中に存在する液滴中で核酸増幅反応を実施する核酸増幅反応方法であって、
前記液滴が、増幅すべき核酸と磁性体粒子とを含む核酸増幅反応液からなるものであり、
前記容器が、液滴封入媒体が保持され、且つ、温度勾配が設けられた搬送面を有するものであり、
前記液滴封入媒体が、前記核酸増幅反応液に不溶性又は難溶性であるものであり、
核酸増幅反応の開始時において、前記液滴及び前記液滴封入媒体のうち少なくとも前記液滴封入媒体に蛍光色素が含まれ、
核酸増幅反応の開始及び維持において、磁場印加手段によって磁場を発生させて前記磁性体粒子と共に前記液滴を搬送すると共に、前記搬送面上の前記核酸合成反能の開始及び維持を達成する温度地点に前記液滴を配置することによって前記核酸増幅反応液の温度制御をする、リアルタイム核酸増幅反応方法。
【請求項2】
前記液滴封入媒体に含まれる前記蛍光色素の量が0.01〜0.5μMである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液滴に0〜20μMの前記蛍光色素が含まれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記液滴封入媒体が、前記核酸増幅反応開始温度及び維持温度より低い温度にゲル−ゾル転移点を有するものであり、
前記核酸増幅反応開始前において前記液滴が存在する前記温度地点において、前記液滴封入媒体がゲル状態であり、
前記核酸増幅反応の開始及び維持において前記液滴が存在する前記温度地点において、前記液滴封入媒体がゾル状態である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記液滴封入媒体が、前記増幅反応開始温度及び維持温度より低い温度に融解温度を有するものであり、
前記核酸増幅反応開始前において、前記液滴封入媒体が固形状態であり、
前記核酸反応開始及び維持において、前記液滴封入媒体が溶融状態である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記増幅すべき核酸と前記磁性体粒子とが、前記核酸増幅反応の開始前において、前記容器中の前記核酸増幅反応液からなる液滴とは異なる位置に存在する核酸抽出用液からなる液滴内で、磁性粒子の共存下、核酸含有試料と前記核酸抽出用液とを接触させることにより抽出された核酸が前記磁性粒子に吸着したものであり、
前記磁性粒子及び前記抽出された核酸が、前記核酸抽出用液中から前記核酸増幅反応液中へ、前記磁性体粒子の移動によって搬送される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記磁性粒子及び前記抽出された核酸が、前記容器中の前記核酸増幅反応液からなる液滴及び前記核酸抽出用液からなる液滴とは異なる位置に存在する洗浄液からなる液滴内で洗浄され、前記洗浄液からなる液滴から前記核酸増幅反応液中へ、前記磁性体の移動によって搬送される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記磁性粒子及び前記抽出された核酸が、前記容器中の前記核酸増幅反応液からなる液滴及び前記核酸抽出用液からなる液滴とは異なる位置に存在する核酸遊離液からなる液滴内に供され、前記核酸遊離液からなる液滴から前記核酸増幅反応液中へ、前記磁性体の移動によって搬送される、請求項6又は7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−229488(P2011−229488A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104580(P2010−104580)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】