説明

液状化抑止システム及び液状化抑止方法

【課題】 常に地下水を汲み上げて地下水位を下げる必要が無く、揚水設備にかかる手間やコストを削減することを可能にする。
【解決手段】 液状化抑止システム10は、既設構造物11付近の地盤に溝12又は地下空間を形成し、既設構造物11下方の地下水位WL以下の地盤に集排水管13を敷設して溝12まで延長し、溝12における集排水管13の開口端に開閉弁14を設け、この開閉弁14を開閉制御するための制御装置15を設置し、緊急地震速報システム16及び地震計17の少なくとも一方を制御装置15に接続したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地震時に既設構造物の下部地盤に生じる液状化を抑止するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砂地盤等の軟弱な地盤では、地震時に発生する過剰間隙水圧により液状化を起こすおそれがあり、このような軟弱地盤に石油タンク等の既設構造物が建っている場合には、その直下地盤にドレーン管等の排水材を設けることにより、この地盤の液状化を抑制する方法が提案されている。
【0003】
このような液状化抑制工法として、例えば、特許文献1には、既設構造物の外周に複数の立坑を対向形成し、対向する一対の立坑間に、既設構造物の下方を通過するようにして集排水材をそれぞれ設置した後に、立坑内に貯水槽を設ける工法が記載されている。
特許文献1の液状化抑制工法では、集排水材が地盤中の地下水位よりも上方に配置されており、地盤に過剰間隙水圧が発生して液状化した場合には、間隙水は地盤中を上昇し、集排水材を介して貯水槽内に流入し、これにより間隙水圧は消散する。
【0004】
しかしながら、地下水位が比較的高い地盤においては、集排水材を地下水位よりも上方に配置することは困難であり、集排水材は常に水で満たされてしまうため、排水抵抗が増加し、充分な排水効果が発揮できない虞がある。これを防ぐためには、地下水をポンプ等の揚水設備で常に汲み上げて地下水位を下げることが考えられるが、この場合、揚水設備の運転コストが大きくなるという欠点がある。
【特許文献1】特開平9−95954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、常に地下水を汲み上げて地下水位を下げる必要が無く、揚水設備にかかる手間やコストを削減することが可能な既設構造物の下部地盤の液状化抑止構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、既設構造物付近の地盤に形成した溝又は地下空間と、既設構造物下方の地下水位以下の地盤から前記溝又は地下空間まで延設された集排水管と、溝又は地下空間における前記集排水管の開口端に設けられた開閉弁と、地震感知手段からの地震情報に基づいて前記開閉弁を開閉制御する制御手段とを備える液状化抑止システムが提供される。
【0007】
また本発明では、既設構造物下方の地下水位以下の地盤から地上まで延設された集排水管と、集排水管内の少なくとも既設構造物の直下区間を塞ぐように、気体が充填されて膨らんだ袋状体と、袋状体内の気体を保持又は排出するための開閉弁と、地震感知手段からの地震情報に基づいて前記開閉弁を開閉制御する制御手段とを備える液状化抑止システムが提供される。
【0008】
さらに本発明では、既設構造物付近の地盤に溝又は地下空間を形成し、既設構造物下方の地下水位以下の地盤中から前記溝又は地下空間まで延長するように集排水管を敷設し、溝又は地下空間における前記集排水管の開口端に開閉弁を設け、地震感知手段からの地震情報に基づいて前記開閉弁を開閉制御する制御手段を設け、地震時には、制御手段で液状化の可能性を判断して前記開閉弁を開放し、集排水管を介して地盤の過剰間隙水圧を前記溝又は地下空間まで伝えることにより、間隙水圧の上昇を抑制して地盤の液状化を抑止する方法が提供される。
【0009】
本発明では、既設構造物下方の地下水位以下の地盤から地上まで延長するように集排水管を敷設し、集排水管内の少なくとも既設構造物の直下区間に袋状体を挿入し、袋状体には気体を充填して集排水管内で膨張させ、袋状体内の気体を保持又は排出するための開閉弁を設け、地震時には、制御手段で液状化の可能性を判断して前記開閉弁を開放することにより袋状体から気体を排出して減圧し、地盤の過剰間隙水圧を集排水管内に吸収することにより、間隙水圧の上昇を抑制して地盤の液状化を抑止する方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
請求項1にかかる本発明の液状化抑止システムでは、集排水管は地下水位以下の地盤に設けられ、地震時以外の平常時には開閉弁が閉鎖されているため、集排水管内は地下水で満たされている。そして、地震が発生すると、液状化の可能性を制御手段が判断し、この可能性が高い場合には制御手段で開閉弁を開放するので、集排水管内は、地盤の過剰間隙水圧を溝又は地下空間まで伝え得るようになる。つまり、開閉弁の開放により、集排水管内の水圧は急激に低下するため、集排水管内には間隙水や地下水が侵入し、周辺地盤の間隙水圧の上昇は抑制される。このように地震時の過剰間隙水圧の発生を防止できるので、地盤の液状化を抑止することが可能になる。なお、請求項3にかかる本発明の液状化抑止方法においても、同様な効果が得られる。
【0011】
請求項2にかかる本発明の液状化抑止システムにおいても、集排水管は地下水位以下の地盤に設けられているが、地震時以外の平常時には、集排水管内に挿入された袋状体に気体が満たされ、この袋状体の膨らんだ状態が開閉弁の閉鎖により保持され、集排水管内における袋状体が設けられた空間からは地下水が排除されている。そして、地震が発生すると、液状化の可能性を制御手段が判断し、この可能性が高い場合には制御手段で開閉弁が開放される。これにより袋状体から気体が排出され、集排水管の水圧は急激に低下するため、集排水管内には周辺地盤の間隙水や地下水が流入し、間隙水圧の上昇は抑制される。このように地震時の過剰間隙水圧の発生を防止できるので、地盤の液状化を抑止することが可能になる。なお、請求項4にかかる本発明の液状化抑止方法においても、同様な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
<第一の実施形態>
本発明の液状化抑止システム10は、図1に示したように、既設構造物11付近の地盤に溝12を形成し、既設構造物11下方の地下水位WL以下の地盤に集排水管13を敷設して溝12まで延長し、溝12における集排水管13の開口端に開閉弁14を設け、この開閉弁14を開閉制御するためのコンピュータ等の制御装置15を設置し、緊急地震速報システム16及び地震計17の少なくとも一方を制御装置15に接続したものである。
【0014】
<集排水管>
前記集排水管13は圧縮力に対する耐力が比較的大きく、地中に埋設しても潰れず、管体内部空間を維持することが可能であり、既設構造物11の下方地盤に埋設されたときに、管内空洞部に地下水が侵入し易く、且つ泥や土砂が侵入し難いように形成されたものを使用する。集排水管13は、例えば、図示はしないが、高密度ポリエチレンからなるメッシュ状割繊維で管体が形成され、その外周に補強リブが螺旋状に突設されたものを使用することが可能である。また合成樹脂材料以外にも、複数の孔が形成された金属製管体や、管体がメッシュ状或いはスクリーン状に形成された金属製管体を集排水管13として使用することが可能である。
また集排水管13には、図1に示したように、端部区間13aに溝12へ向かう下がり勾配を付けることが好ましい。
なお、図1では、集排水管13の一端が開口端として溝12まで延長し、他端13bは閉じた状態で地盤内に埋設されているが、これ以外にも、集排水管の両端を開口端とするべく、この両端開口が連通するように、両側に溝又は地下空間を設けることも可能である。また集排水管13の敷設本数や、既設構造物11の下方地盤における平面配置は、この下方地盤に生じる過剰間隙水圧を充分に管内に吸収することが可能なように適宜定め得るものである。
【0015】
<開閉弁>
前記開閉弁14は、溝12における集排水管13の開口端に設けられるものであり、制御装置15からの制御信号を受けて開閉制御され得るものを使用する。この開閉弁14と、集排水管13の開口端とは、開閉弁14が閉ざされているときに、管内空洞部に浸透した地下水が溝12に流れ込まないように構成し、逆に、開閉弁14を開いたときには、管内空洞部に浸透した地下水が溝12に流れ込むように構成する。
なお、図1では、制御装置15から開閉弁14をケーブル18により接続しているが、これ以外にも、無線による制御信号の送受信とすることも可能である。
【0016】
<溝又は地下空間>
前記溝12又は地下空間(図示せず)は、一時的に水を溜めることができるように地盤を掘削して形成したものであれば良く、ピット、トレンチ、トンネル、穴あるいは凹みをも含むものである。ここでは、既設構造物11付近の地盤を掘削し、ここに貯水槽を設けて形成する。貯水槽は、地震時以外の平常時には空の状態に保たれる。貯水槽の地上開口は蓋などにより閉鎖する。この溝12又は地下空間には、配水管(図示せず)や排水ポンプ(図示せず)等を設けることにより、適宜、排水可能なように構成する。なお、溝12又は地下空間の個数、容量及び平面配置は、下方地盤に生じる過剰間隙水圧が、集排水管13を介して溝12又は地下空間まで伝わるように適宜定め得るものである。
【0017】
<制御装置、緊急地震速報システム及び地震計>
前記制御装置15には、緊急地震速報システム16及び地震計17の少なくとも一方から地震情報を受信可能なように接続されている。
ここで、緊急地震速報システム16は、例えば、特定非営利活動法人リアルタイム地震情報利用協議会が提供している地震速報システムを利用することが可能である。また地震計17としては、地盤の振動を検知する振動計を使用することが可能であり、既設構造物11の下部地盤及びその周辺地盤に所定個数を設置する。
制御装置15には制御プログラムが搭載されており、この制御プログラムは、緊急地震速報システム16から提供された地震速報を受信し、この地震速報を演算処理し、既設構造物11の下部地盤が液状化する可能性について判断する。そして、液状化の可能性が高い場合には開閉弁14を開放する制御信号を開閉弁14に送り、液状化の可能性が低い場合には開閉弁14に閉じた状態を維持させるものである。また制御プログラムの他の機能としては、地震計17から入力される測定データを演算処理し、同様に、下部地盤の液状化の可能性を判断し、その可能性に応じて開閉弁14の開閉制御を行うものである。
【0018】
<液状化抑止方法>
次に、液状化抑止システム10により液状化を抑止する方法について説明すると共にその作用についても言及する。
液状化抑止システム10では、集排水管13は地下水位WL以下の地盤に設けられており、地震時以外の平常時には開閉弁14が閉鎖されているため、集排水管13内は地下水で満たされている。また溝12内は平常時に空の状態に保たれている。そして、地震が発生すると、制御装置15が緊急地震速報システム16及び地震計17の少なくとも一方から地震情報を受信し、この地震情報に基づいて既設構造物11の下部地盤が液状化する可能性について判断する。このとき、制御装置15が、液状化の可能性が低いと判断した場合には、開閉弁14は閉鎖状態が維持される。
逆に、液状化の可能性が高いと判断した場合には、制御装置15が制御信号を発信して開閉弁14を開放する。これにより、集排水管13内からは地下水が溝12に流れ得るようになり、集排水管13内の水圧は急激に低下し、既設構造物の下方地盤における過剰間隙水圧が集排水管13内に吸収されるため、地盤の液状化を抑止することが可能になる。溝12に流入した地下水は、適宜、配水管や排水ポンプ等により排水する。
【0019】
<第二の実施形態>
次に、図2を参照して、本発明にかかる第二の実施形態について説明する。
図2において、液状化抑止システム30は、既設構造物11下方の地下水位WL以下の地盤に集排水管31を埋設して地上まで延ばし、この集排水管31内の少なくとも既設構造物11の直下区間に袋状体32を挿入し、袋状体32に接続された給排気管33を集排水管31の地上開口まで延長し、給排気管33の地上端には開閉弁14を取り付け、この開閉弁14を開閉制御するためのコンピュータ等の制御装置15を設置し、緊急地震速報システム16及び地震計17の少なくとも一方を制御装置15に接続したものである。
なお、第二の実施形態において、第一の実施形態と同じ構成については、図1と同じ符号を付けて更なる説明は省略する。
【0020】
<集排水管>
前記集排水管31は、既設構造物11の直下区間でほぼ水平方向に敷設し、一端は地上まで延長し、他端31bは閉じた状態で地盤内に埋設するか、あるいは地上まで延長しても良い。また集排水管31の地上開口端には、必要に応じて、メッシュ鋼等からなる蓋を設けたり、配水管や排水ポンプ等の排水設備を連設しても良い。
なお、集排水管31は、第一の実施形態における集排水管13と同様な材質の管体から構成することが可能であり、集排水管31の敷設本数や、地盤中における平面配置は第一の実施形態と同様に適宜定め得るものである。
【0021】
<袋状体>
前記袋状体32は、給排気管33を介して気体が充填されたときに、集排水管31の内周面に圧着可能に形成されたものであり、且つ、開閉弁14が開かれたときに地下水圧を受けて比較的速やかに気体を排出することが可能なものを使用すれば良く、好ましくは、ゴム等の弾性膜材料から形成されたものを使用する。袋状体32は、地震時以外の平常時には、内部に気体が充填されており、これにより集排水管31内における袋状体が設けられた空間からは地下水が排除されている。
【0022】
<給排気管、開閉弁等>
給排気管33の地上端には開閉弁14が取り付けられ、この開閉弁14と地上端は、必要に応じて、給排気可能なようにカバー或いは保護ボックス等により被われる。また開閉弁14は、地震時及び袋状体32への気体充填時以外の平常時には、閉鎖されている。
例えば、袋状体32に気体を充填するときには、給排気管33の地上端に給気装置(図示せず)を接続し、開閉弁14を開いてから、給排気管33を介して給気装置で気体を袋状体32に圧入する。気体の圧入が終了したら、開閉弁14を閉じて給気装置が取り外される。また地震時には開閉弁14が開かれて、給排気管33を介して袋状体32内の気体が排出される。
【0023】
<液状化抑止方法>
次に、液状化抑止システム30により液状化を抑止する方法について説明すると共にその作用についても言及する。
液状化抑止システム30において、平常時には、集排水管31に挿設した袋状体32に気体を充填し、開閉弁14の閉鎖により袋状体32の膨らんだ状態を保持する。これにより、地下水位WL以下の地盤に敷設された集排水管31内において、袋状体32が設けられた空間から地下水を排除する。
地震が発生した場合には、制御装置15が緊急地震速報システム16及び地震計17の少なくとも一方から地震情報を受信し、この地震情報に基づいて既設構造物11の下部地盤が液状化する可能性について判断する。制御装置15が、液状化の可能性が低いと判断した場合には、開閉弁14は閉鎖状態が維持される。
逆に、液状化の可能性が高いと判断した場合には、制御装置15が制御信号を発信して開閉弁14を開放する。袋状体32は常に周辺地盤の間隙水や地下水の圧力を受けているため、開閉弁14を開放することにより、袋状体32内からは気体が排出され、集排水管31の水圧は急激に低下する。そして、既設構造物の下方地盤における過剰間隙水圧は集排水管31内に吸収され、間隙水圧の上昇は抑制される。このように過剰間隙水圧の発生が防止され、地盤の液状化は抑止される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一の実施形態にかかる簡略図である。
【図2】本発明の第二の実施形態にかかる簡略図である。
【符号の説明】
【0025】
10 液状化抑止システム
11 既設構造物
12 溝
13 集排水管
14 開閉弁
15 制御装置
16 緊急地震速報システム
17 地震計
30 液状化抑止システム
31 集排水管
32 袋状体
33 給排気管
WL 地下水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物付近の地盤に形成した溝又は地下空間と、既設構造物下方の地下水位以下の地盤から前記溝又は地下空間まで延設された集排水管と、溝又は地下空間における前記集排水管の開口端に設けられた開閉弁と、地震感知手段からの地震情報に基づいて前記開閉弁を開閉制御する制御手段とを備える液状化抑止システム。
【請求項2】
既設構造物下方の地下水位以下の地盤から地上まで延設された集排水管と、集排水管内の少なくとも既設構造物の直下区間を塞ぐように、気体が充填されて膨らんだ袋状体と、袋状体内の気体を保持又は排出するための開閉弁と、地震感知手段からの地震情報に基づいて前記開閉弁を開閉制御する制御手段とを備える液状化抑止システム。
【請求項3】
既設構造物付近の地盤に溝又は地下空間を形成し、既設構造物下方の地下水位以下の地盤中から前記溝又は地下空間まで延長するように集排水管を敷設し、溝又は地下空間における前記集排水管の開口端に開閉弁を設け、地震感知手段からの地震情報に基づいて前記開閉弁を開閉制御する制御手段を設け、地震時には、制御手段で液状化の可能性を判断して前記開閉弁を開放し、集排水管を介して地盤の過剰間隙水圧を前記溝又は地下空間まで伝えることにより、間隙水圧の上昇を抑制して地盤の液状化を抑止する方法。
【請求項4】
既設構造物下方の地下水位以下の地盤から地上まで延長するように集排水管を敷設し、集排水管内の少なくとも既設構造物の直下区間には袋状体を挿入し、袋状体には気体を充填して集排水管内で膨張させ、袋状体内の気体を保持又は排出するための開閉弁を設け、地震時には、制御手段で液状化の可能性を判断して前記開閉弁を開放することにより袋状体から気体を排出して減圧し、地盤の過剰間隙水圧を集排水管内に吸収することにより、間隙水圧の上昇を抑制して地盤の液状化を抑止する方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−224583(P2007−224583A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46344(P2006−46344)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【Fターム(参考)】