説明

液状試料中のPCB濃度定量方法及び装置

【課題】柱上変圧器の絶縁油を含むトランス油等の液状試料中のPCB濃度を簡便かつ迅速に測定することができるPCB濃度定量方法及び装置を提供する。
【解決手段】PCBを含むハロゲン化合物を含有すると思われる液状試料中のPCB濃度を定量する方法において、液状試料中のハロゲンの濃度を測定し、ハロゲンの濃度とPCB濃度の相関関係に基づいて、測定されたハロゲンの濃度からPCB濃度を算出する。PCB濃度定量装置は、液状試料中のハロゲンの濃度を測定する手段の試料導入手段に、液状試料を噴霧状にする噴霧化手段を付設して、液状試料を迅速にかつ連続的に供給できるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般には、PCBを含むハロゲン化合物を含有すると思われる液状試料中のPCB濃度を定量する方法と装置に係り、より詳細には、液状試料中のハロゲン濃度を測定することにより間接的にPCB濃度を定量する方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCBは、その物理的化学的に優れた特性のため、様々な目的で多くの工業部品に使われてきたが、PCBの残留性や生態への影響が問題となって以来、PCBを無害化処理する必要性が生じている。特に、主な用途としてトランス油に使用されていたことから、依然として100万〜1000万台の変圧器(トランス)やコンデンサにPCBが含まれている可能性があり、その油中に含まれているPCB濃度の実態を早急に把握することが重要な課題となっている。
【0003】
また、ストックホルム条約により、PCBの意図的製造及び使用に伴う排出制限又は廃絶が採択され、日本はこの条約を批准した。国内においても、2001年6月に「ポリ塩化ビフェニール廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特別措置法)が施行され、PCB保管状況をさらに強化して監視することに加えて15年以内にPCBを適正に処分することが義務付けられた。
【0004】
これを受けて国内に保存されているPCB含有油(トランス油等)、容器及び部材等を対象として無害化処理が急速に進み始めた。これに係わり処理の要否や導入する処理技術を判定するために、対象物中のPCB濃度の測定が急務となった。
【0005】
加えて2002年環境省調査「変圧器(トランス)などの重電機器からの微量のPCBの検出について」によると、微量のPCBを含むトランスが新たに存在することがみつかった。このようなPCB混入油の事例から調査すべき対象の油が増加しており、多数の試料を短時間に処理する必要性が生じてきている。
【0006】
かかる状況下、現在行われている油中のPCB測定方法としては、卒業基準の検定方法として、油除去の前処理操作を行った後に高分解能ガスクロマトグラフ−高分解能質量分析計を使う分析方法(HRGC−HRMS法)が指定されている(非特許文献1)。その実施には、通常2週間以上の分析期間と高度な専門技術を有する分析技術者及び高額な高性能測定装置が必要とされている。卒業基準値は0.5mg/kgである。
【0007】
上記のHRGC−HRMS法は油中に混入したPCBの分析法であり、PCB分解処理油を対象とした公定法である。具体的には、DMSOによる分配操作を数回繰り返し行う前処理により、油の主成分とPCBを予め分離する。分離したPCBを含む成分をヘキサンへ転溶して多層シリカゲルクロマトグラフィーによる精製操作を行い、ついでキャピラリーカラムを装着したガスクロマトグラフと分解能10,000以上の性能を常時維持できる質量分析計(通称HRGC−HRMS)を測定装置として使用する。内部基準物質を用いる同位体希釈法で、塩素置換数1〜10個までのPCBを個別に定量することが可能であり、各塩素数別同族体はそれぞれ0.005mg/kg、PCB総量は0.05mg/kgを十分に測定できるものである(特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物に係る基準の検定法 平成4年7月3日号外厚生省公示第192号 最終改正 平成12年12月厚生省公示第634号 別表第2の方法)。
【0008】
また、電子捕獲型検出器を備えたGC−ECDを測定装置として用いる方法があり、PCB総量として0.05mg/kgを十分に測定できるが、分析には長い時間を要する。
【0009】
一方、PCB除去処理前の油(廃油、保管油等)中のPCB分析方法は公定法化されていないが、PCBを迅速に分析するための方法が各方面で検討されている。その中には、PCBを直接に分析するGC−MS/NCI法(中部電力)(非特許文献2)、塩素や生体反応を使用する間接的な方法であるPCB Teter法(Dexsil社製、EPA Method 9027)、及びバイオモニタリング法(国環研)がある。
【0010】
これらの分析方法は、多くの情報が得られる等の特徴を有するが、迅速性や適用可能なPCB濃度の範囲等に改良の余地を残している。
【0011】
更に、廃プラスチック熱分解油の塩素分析試験方法としてはTRZ0015があり、この方法は油中の塩素濃度20ppm程度を測定する方法である(非特許文献3)。
【非特許文献1】「TOX計を用いた油中PCB濃度の簡易迅速分析法の開発」(株)島津テクノリサーチ
【非特許文献2】「ガスクロマトグラフィー/負化学イオン化質量分析による絶縁油中の迅速分析」環境化学 Vol.13,No.4,pp.959−971,2003
【非特許文献3】「廃プラスチック熱分解油−第1部:ボイラ用 TR Z 0015」日本工業標準調査会環境・リサイクル部会 審議会(日本規格発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、主たる目的は、PCBが混入する可能性のあるトランスに存在するトランス油等の液状試料中のPCB濃度を簡便かつ迅速に測定することができるPCB濃度定量方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、トランス油等の液状試料中の全ハロゲン濃度を測定することにより、間接的にPCB濃度を定量するための簡便かつ迅速な方法を提供することにある。
【0013】
本発明の更なる目的は、上述のPCB濃度定量方法を実施するのに好適な装置を提供することにある。
特に、上述のPCB濃度定量方法を実施のために、液状試料中の全ハロゲン濃度を測定するためには、塩素分析装置へ十分量の試料を供給する必要があるが、従来のハロゲン分析装置に付属する加熱燃焼装置に液状試料を注入すると、試料自身の難燃性に伴う不完全燃焼の恐れがあること、及び物理的に粘性を有することから、加熱燃焼炉に多量かつ連続的に試料を注入することが困難であった。また、従来の試料の注入方法は、ガスタイト式注射筒のステンレス製の針を通して試料を一定量吸引し、加熱燃焼装置にはその注射筒を除々に移動させることで針先に試料の油滴を生成させ、その成長に伴いそれを自然落下させて加熱燃焼装置に導入していたために、試料の注入に時間を要し、連続性にも欠けていた。本発明の一目的は、このような従来の塩素分析装置を利用する際の不具合を部分的もしくは全体的に解消した装置を提供することにある。
【0014】
本発明の更なる目的は、PCBを含むハロゲン化合物を含有すると思われる液状試料を前処理すること無しに、簡便かつ迅速に全ハロゲン濃度を測定し、それによってPCB濃度を定量することができる装置を提供することにある。
本発明の更なる目的又は課題は、以下の発明の詳細な説明を参酌すれば、当業者であれば容易に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題等について鋭意検討した結果、液状試料中の全ハロゲンを特定のハロゲン分析装置により測定し、予め作成した相関式に基づくハロゲンの濃度とPCB濃度の相関関係に基づいてPCB濃度を算出することによって、上記目的のPCB濃度定量方法が得られることを見出した。
特に、柱上変圧器(配電柱の柱上に装備される変圧器)に使用されているPCBが混入した鉱油系絶縁油においては、PCBとそれ以外の有機ハロゲン化合物の混合比がほぼ一定値になることを見出し、さらに、全有機ハロゲン中に占めるPCBとクロロベンゼンの割合が50%以上であることを見出し、本発明をするに至った。
したがって、本発明によれば、PCBを含むハロゲン化合物を含有すると思われる液状試料中のハロゲン濃度を定量する方法において、(a)液状試料中のハロゲンの濃度を測定する工程と、(b)ハロゲンの濃度とPCBの濃度の相関関係に基づいて、測定されたハロゲンの濃度からPCBの濃度を算出する工程を具備することを特徴とする、PCB濃度定量方法が提供される。
【0016】
前記ハロゲンの濃度を測定する工程(a)では、好ましくは、液状試料を加熱燃焼させて、ハロゲン化合物から遊離したハロゲンガスを溶液に吸収させた後、該溶液中のハロゲンの濃度を電量滴定法により測定する。また、前記PCB濃度を算出する工程(b)では、好ましくは、液状試料中に含まれる1種以上のハロゲン化合物及び単体ハロゲンのモル比に基づいてハロゲン濃度からPCB濃度を算出する。また、前記PCB濃度を算出する工程(b)において測定されたハロゲンが全てPCBに由来するとの仮定に基づいて、ハロゲン濃度からPCB濃度を算出することもできる。
好適には、前記液状試料中に含まれる1種以上のハロゲン化合物及び単体ハロゲンのモル比は、試料のサンプルに含まれるハロゲン化合物および単体ハロゲンのモル比を同位体毎に求めたものであり、液状試料はトランス油である。
【0017】
また、本発明によれば、PCBを含有すると思われる液状試料中のPCB濃度を定量する装置において、液状試料中のハロゲンの濃度を測定する手段と、ハロゲンの濃度とPCB濃度の相関関係に基づいて測定されたハロゲンの濃度からPCB濃度を算出する手段とを具備することを特徴とする、PCB濃度定量装置が提供される。
好適には、上記ハロゲン濃度測定手段は、液状試料を加熱燃焼させる燃焼装置と、該燃焼装置に液状試料を導入する試料導入手段と、上記燃焼装置に付設されて、燃焼によりPCBから遊離したハロゲンガスを溶液に吸収させる溶液吸収手段と、該溶液吸収手段に付設されて、溶液中のハロゲンを定量する電量滴定手段とを具備する。
【0018】
また好適には、上記試料導入手段は、終端が加熱燃焼装置に連通されて液状試料を加熱燃焼装置に導く導入路を具備し、該導入路には、該導入路に導入される液状試料を噴霧状にする噴霧化手段が付設されてなる。上記噴霧化手段は、好ましくは、上記導入路に端部が臨まされて配設されて、導入路内に液状試料を液滴の状態で落下させる試料注入管と、上記導入路に連設されて、導入路内の上記液状試料の落下部近傍に向けてキャリヤーガスを移送するキャリヤーガス移送管とを具備してなり、試料注入管から注入される液滴がキャリヤーガスにより微粒子化せしめられて加熱燃焼装置内に導かれるように構成される。更に好ましくは、上記試料注入管の近傍には、試料注入管流出方向に向けてパージガスを移送するパージガス供給路が設けられ、試料注入管から流出せしめられた液状試料がパージガスにより微小液滴の状態で落下せしめられるように構成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るPCB濃度定量方法によれば、PCBが混入する可能性のあるトランスに存在するトランス油等の液状試料中のPCB濃度を簡便かつ迅速に測定することができる。また本発明に係るPCB濃度定量装置によれば、トランス油等の液状試料を前処理すること無しにそのまま装置に注入し、簡便かつ迅速に全ハロゲン濃度を測定し、PCB濃度を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面等を参酌しながら具体的に説明する。
本発明のPCB濃度定量方法及び装置が対象とする液状試料は、PCBを含むハロゲン化合物を含有すると思われる液状試料であれば如何なるものでもよいが、具体的には、変圧器(トランス)のトランス油、コンデンサの絶縁油等、PCBの混入が考えられる重電機器に使用される油類等が挙げられる。
【0021】
本発明の方法又は装置は、上記液状試料中のハロゲンの濃度を測定する工程又は手段と、ハロゲンの濃度とPCB濃度の相関関係に基づいて、測定されたハロゲンの濃度からPCB濃度を算出する工程又は手段を具備する。
前記ハロゲンの濃度を測定する工程では、液状試料を加熱燃焼させて、ハロゲン化合物から遊離したハロゲンガスを溶液に吸収させた後、該溶液中のハロゲンの濃度を電量滴定法により測定する。この測定手段は、従来から知られている電量滴定法によるハロゲン分析装置を用いることができるが、本発明の液状試料を特に対象とするために装置の改良が施されている。
【0022】
すなわち、ハロゲン濃度測定手段は、液状試料を加熱燃焼させる燃焼装置と、該燃焼装置に液状試料を導入する試料導入手段と、上記燃焼装置に付設されて、燃焼によりPCBから遊離したハロゲンガスを溶液に吸収させる溶液吸収手段と、該溶液吸収手段に付設されて、溶液中のハロゲンを定量する電量滴定手段とを具備してなるが、上記試料導入手段に改良が施されている。
【0023】
この改良部分を、図1を参照しながら説明すると、試料導入手段1は、加熱燃焼炉(加熱燃焼装置)2に接続された導入路3を具備し、該導入路3には噴霧化手段4が付設されている。上記導入路3は一端から他端に向けて横断面積が徐々に増大するテーパー状の石英製の管体又はスリーブが略水平状態で配設されてなるもので、他端の拡径端はL字状に折曲せしめられて、加熱燃焼炉2の上部に接続され、その一端側には、試料注入管5と、キャリヤーガス移送管6が配設されている。上記試料注入管5はステンレス製の針体で、鉛直に配され、その下方端が上記導入路3の一端の開口部に臨まされており、試料注入管5から送られてくる液滴はその下方端から導入路3中に落下せしめられるようになっている。上記キャリヤーガス移送管6は、先細となった先端部が上記導入路3の一端側に連通せしめられて接続された管体で、導入路3と同軸状に水平に配設され、導入路3内の液状試料の落下部近傍に向けてキャリヤーガスCを移送するようになっている。また、上記試料注入管5には、該注入管5を囲むパージガス供給管7が、下方端を上記導入路3の一端に連通せしめて配設されており、該パージガス供給管7を通してパージガスPが、試料注入管5から注入される液滴近傍に向けて送られるようになっている。そして、上記キャリヤーガス移送管6が、導入路3に導入される液状試料の液滴Lを微粒子化した液滴Dにする噴霧化手段4を構成しており、試料注入管5から注入される液状試料は、パージガス供給管7からのパージガスPの作用により液滴Lの状態で落下せしめられると共に、キャリヤーガスCにより霧状に微粒子化せしめられ、加熱燃焼炉2内に導かれるようになっている。
【0024】
加熱燃焼炉2以降の構成は、従来の装置と同様であるので、詳細な説明は省略するが、加熱燃焼炉2に導入された微粒子化液状試料は、酸素と不活性ガス気流中で燃焼され、生成したハロゲン化水素ガスは溶液吸収手段にて電解液に吸収されてハロゲン化イオンとなる。ついで、電量滴定手段において該ハロゲン化イオンを電量的に発生させた銀イオンで滴定し、この際に消費された電気量からハロゲン濃度が求められる。従来の電解セルを具備する電量滴定装置が、上記溶液吸収手段と電量滴定手段を構成しうる。
上記構成のハロゲン濃度測定手段では、トランス油等の粘性の高い液状試料でも、多量の試料を短い時間で連続的に加熱燃焼炉に注入できるという効果を奏する。
【0025】
上記PCB濃度を算出する手段(図示せず)は、ハロゲンの濃度とPCB濃度の相関関係に基づいて、測定されたハロゲンの濃度からPCB濃度を算出するコンピュータ等の機器からなる。ここで、ハロゲン濃度とPCB濃度の測定感度を以下のようにして確認した。
すなわち、PCBを含まないトランス油中にPCBを溶解させ、上記の手段によって有機ハロゲン濃度を測定し、有機ハロゲンは全てPCBに由来するものである事実に基づいてPCB濃度を算出した。その結果、上記の条件において、0ppm〜10ppmの濃度範囲で0.5ppmの測定感度でPCB濃度を測定可能であることが確認された。
【0026】
上記液状試料には、PCB以外のハロゲン化合物が多数含まれることが考えられる。本発明では、液状試料中に含まれる全ハロゲン化合物濃度とPCB濃度の間に良好な相関関係があることが前提であり、そのためには、液状試料中の全ハロゲン化合物濃度に占めるPCB濃度の割合が一定であることが好ましい。そこで、後記する実施例に詳細に示すように、30試料のPCB含有トランス油中の物質について当該相関関係について確認を行った。その結果、電量滴定法で測定した全有機ハロゲン化合物のうちPCBが主成分であり、ついでTrCBzが多く存在し、PCBとTrCBzの存在比率は70:30であることが確認された。この両物質の合計は平均して74%を占め、残りの26%は未知の物質であった。この測定結果は、液状試料中の全ハロゲン化合物濃度とPCB濃度との間には非常に高い相関が存在することを示しており、全有機ハロゲン濃度を測定することでPCB濃度を算出することに妥当性があることを示すものであった(図2)。
【0027】
前述のように、液状試料中に含まれる全ハロゲン化合物濃度とPCB濃度の間に良好な相関関係があるので、液状試料中のハロゲン濃度を測定し、その測定結果と、ここで明らかにした相関関係式とを用いて、コンピュータ等からなるPCB濃度算出手段によってPCB濃度を算出する。
ここで、前述のようにトランス油の場合は、トランス油に含まれるハロゲン化合物の大部分がPCBとTrCBzであるため、相関関係式から係数を乗じてPCB濃度を求めることができる。トランス油以外の媒体の場合でも、混入しているPCBの種類が分かっている場合は、同等のPCBを標準品に使い、不純物が少ないことを確かめておけば、係数は1とすることができる。また全ハロゲン化合物濃度とPCB濃度との関係が不明な場合でも、全ハロゲンをPCBに由来すると仮定して、最も安全側の(高い)濃度を見積もることが可能である。さらに、PCBの種類に関して、例えば、PCB標準品としてKC−300を用いて液状試料を測定し、仮に10ppmの標準溶液と同じレスポンスがあった場合、含まれているPCBがKC−300であるならば10ppmであるが、他の種類のKC−600が含まれていた場合は7.2ppmであると換算することができる(10ppmx43/60)。KC−300とKC−600が含まれているが、両者の比率が不明であるような場合には、KC−300を標準品に使用して係数を1としておけば、最大見積もり濃度を得ることができる。
【0028】
以上のように、本発明の方法及び装置によれば、HRGC−HRMS法を用いる場合の前処理工程の煩雑さと高度な機器操作技術、1週間程度の分析所要時間から解放され、廃油PCB基準である0.5mg/kgまでの判定を迅速かつ簡易に実施することができる。また、本発明の方法及び装置を利用すれば、オンサイト分析や車搭載型の分析が可能になる。更に、HRGC−HRMS分析のための事前スクリーニングに有効である。
また、本発明の方法及び装置は、配電柱に装備される柱上変圧器の絶縁油において特に良くPCB濃度を評定することができる。これは上記絶縁油に混入している有機ハロゲン化合物におけるPCBの比率がほぼ一定値を示すからである。本実施例においては、PCBとPCB以外の有機ハロゲン化合物であるトリクロロベンゼンの比はほぼ70対30である。
【実施例】
【0029】
次に、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
(実施例1)
本発明のPCB濃度定量装置のハロゲン濃度測定手段によりハロゲン濃度が測定されるが、それをPCB濃度に換算することの妥当性を吟味するために、PCBを含有するトランス油(柱状変圧器の絶縁油)の30試料について、その全有機ハロゲン化合物の成分同定等を行った。測定の結果を図2に示す。この結果から、電量滴定法で測定される全有機ハロゲン化合物のうちPCB、ついでTrCBzが多く存在しており、PCBとTrCBzの存在比率は70:30であって、この両化合物で平均してトランス油中の74%を占め、残りの26%は未知の物質であった。この結果は、全有機ハロゲン濃度を測定することでPCB濃度を算出することに妥当性があることを示している。
【0030】
(実施例2)
PCBを含有するトランス油の30試料について、ハロゲン濃度を、加熱燃焼型ハロゲン測定装置(TS−300、三菱化学社製)によって定量し、本発明のPCB濃度定量装置のハロゲン濃度測定手段により測定されるハロゲン濃度xとした。また同試料中のPCB濃度を、HRGC−HRMS法によって測定しyとした。このyとxの間には、
y=0.54x−0.28(R=0.98)
という関係式が成り立つことが分かった。
10ppmを境にPCB濃度を分別すると、yとxの間には以下の関係が成り立った。
・10ppm以下の場合
y=0.47x−0.11 (R=0.89)
・10ppm以上の場合
y=0.69x−6.67 (R=0.86)
という相関関係式が得られた。
【0031】
また、原点を通過する回帰式を示すと、以下のようになる。
・全資料についての関係式
y=0.53x(R=0.98)
・トランス油中のPCB濃度が10ppm以下の場合
y=0.50x(R=0.89)
・トランス油中のPCB濃度が10ppm以上の場合
y=0.53x(R=0.81)
【0032】
上記の関係式及び相関係数が示すように、ハロゲン濃度とPCB濃度との間には非常に高い相関関係が存在することが分かる。さらに、両者の関係を統計的に最も精度良く示す関係式は原点を通らない直線であるが、原点を通る直線によっても同様に非常に高い精度で近似され得ることが分かる。また、ハロゲン濃度またはPCB濃度が一定値以下の場合と一定値を超える場合のように、領域によって異なる近似式を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るPCB濃度定量装置の要部を示す概略図。
【図2】トランス油に含まれる有機ハロゲン物質の存在割合を示す。
【符号の説明】
【0034】
1 試料導入手段
2 加熱燃焼炉(加熱燃焼装置)
3 導入路
4 噴霧化手段
5 試料注入管
6 キャリヤーガス移送管
7 パージガス供給管(パージガス供給路)
C キャリヤーガス
D 液状試料Lを微粒子化した液滴
L 試料注入管5から注入される液滴
P パージガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PCBを含むハロゲン化合物を含有すると思われる液状試料中のPCB濃度を定量する方法において、(a)液状試料中のハロゲンの濃度を測定する工程と、(b)ハロゲンの濃度とPCB濃度の相関関係に基づいて、測定されたハロゲンの濃度からPCB濃度を算出する工程を具備することを特徴とする、PCB濃度定量方法。
【請求項2】
前記ハロゲンの濃度を測定する工程(a)が、液状試料を加熱燃焼させて、ハロゲン化合物から遊離したハロゲンガスを溶液に吸収させた後、該溶液中のハロゲンの濃度を電量滴定法により測定するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PCB濃度を算出する工程(b)においては、測定されたハロゲンが全てPCBに由来するとの仮定に基づいてハロゲン濃度からPCB濃度を算出する請求項1または2の何れか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記PCB濃度を算出する工程(b)においては、液状試料中に含まれる1種以上のハロゲン化合物及び単体ハロゲンのモル比に基づいてハロゲン濃度からPCB濃度を算出する請求項1または2の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記液状試料中に含まれる1種以上のハロゲン化合物及び単体ハロゲンのモル比は、試料のサンプルに含まれるハロゲン化合物および単体ハロゲンのモル比を同位体毎に求めたものである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記液状試料が柱上変圧器の絶縁油である、請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
PCBを含有すると思われる液状試料中のPCB濃度を定量する装置において、液状試料中のハロゲンの濃度を測定する手段と、ハロゲンの濃度とPCB濃度の相関関係に基づいて、測定されたハロゲンの濃度からPCB濃度を算出する手段とを具備することを特徴とする、PCB濃度定量装置。
【請求項8】
上記ハロゲン濃度測定手段が、液状試料を加熱燃焼させる燃焼装置と、該燃焼装置に液状試料を導入する試料導入手段と、上記燃焼装置に付設されて、燃焼によりPCBから遊離したハロゲンガスを溶液に吸収させる溶液吸収手段と、該溶液吸収手段に付設されて、溶液中のハロゲンを定量する電量滴定手段とを具備する、請求項7に記載のPCB濃度定量装置。
【請求項9】
上記試料導入手段は、終端が加熱燃焼装置に連通されて液状試料を加熱燃焼装置に導く導入路を具備し、該導入路には、該導入路に導入される液状試料を噴霧状にする噴霧化手段が付設されてなる、請求項8に記載のPCB濃度定量装置。
【請求項10】
上記噴霧化手段が、上記導入路に端部が臨まされて配設されて、導入路内に液状試料を液滴の状態で落下させる試料注入管と、上記導入路に連設されて、導入路内の上記液状試料の落下部近傍に向けてキャリヤーガスを移送するキャリヤーガス移送管とを具備してなり、試料注入管から注入される液滴がキャリヤーガスにより微粒子化せしめられて加熱燃焼装置内に導かれるように構成された、請求項9に記載のPCB濃度定量装置。
【請求項11】
上記試料注入管の近傍には、試料注入管流出方向に向けてパージガスを移送するパージガス供給路が設けられ、試料注入管から流出せしめられた液状試料がパージガスにより微小液滴の状態で落下せしめられるように構成された、請求項10に記載のPCB濃度定量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−30176(P2006−30176A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177478(P2005−177478)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(502235315)株式会社島津テクノリサーチ (2)
【Fターム(参考)】