説明

液相での芳香族アミンの製造方法

本発明は、直列接続された少なくとも2つの反応室において、対応する芳香族ニトロ化合物を触媒水素化して、液相で芳香族アミンを製造する方法であって、少なくとも1つの反応室は等温的に運転し、その下流に接続された少なくとも1つの反応室は断熱的に運転し、好ましい態様では、反応を制御するために急激な断熱的温度変化を利用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列接続された少なくとも2つの反応空間において、対応する芳香族ニトロ化合物を触媒水素化して、液相で芳香族アミンを製造する方法であって、少なくとも1つの反応空間は等温的に運転し、その下流に接続された少なくとも1つの反応空間は断熱的に運転し、好ましい態様では、反応を制御するために急激な断熱的温度変化を利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばトルイレンジアミン(TDA、ジアミノトルエン)のような芳香族ジアミンを、対応する芳香族ジニトロ化合物の触媒水素化により調製できることは、例えばEP 0 223 035 A1から知られている。水素化は、反応混合物中に分散させた変性ラネーニッケル触媒を用いて実施し、触媒は、後に、濾過または沈降により分離し、場合により工程に返送する。同公開公報は、変性ラネーニッケル触媒の使用を対象としている。同公開公報は、複数の直列接続された、様々に(一部は等温的、一部は断熱的に)運転される反応空間を開示していない。EP 0 223 035 A1に記載されている水素化反応は、非常に強く発熱する。従って、例えばジニトロトルエン(DNT)のトルイレンジアミン(TDA)への水素化における不変の課題は、この熱の放散である。例えばWO 96/11052 A1は、有用な蒸気を生成するために反応熱を利用してスラッジ相水素化を実施するための反応装置を記載している。同文献もまた、複数の直列接続された、様々に(一部は等温的、一部は断熱的に)運転される反応空間の使用を開示していない。
【0003】
DE−OS−2 044 657は、ニッケルまたはルテニウムを含有する固定床水素化触媒が充填され、直列接続された1つまたは2つの反応器、好ましくは高圧管における高温高圧下での、ジニトロトルエンの水素化によるトルイレンジアミンの製造方法を記載している。2つの水素化反応器を使用する場合、最初に約90%の転化が起こる。これらの反応器を等温的に運転するのか、または断熱的に運転するのかは明記されておらず、両方の反応器において、同じ条件を維持することだけが記載されている。同方法の記載されている利点は、触媒の連続分離が不要なことである。同方法の欠点は、得られる大量の反応混合物を、再利用のために生成物混合物から取り出さなければならないこと、水を蒸留により除去しなければならないこと、それにより得られた無水の粗水素化混合物を反応に返送しなければならないことである。
【0004】
US 3 761 521は、内蔵冷却コイルを備えた撹拌容器内で水素化を実施する、芳香族ニトロ化合物の水素化方法を記載している。この反応器は、沈降による触媒の分離と組み合わされている。密度差の結果として、完全に反応した反応混合物は、反応器から沈降容器に循環し、そこで、触媒を含有する流れと触媒をほぼ含有しない流れとに分離される。前者は反応器に返送され、後者は後処理に送られる。反応が十分迅速に進行するならば、出発物質の完全な反応には1つの反応器/沈降容器で十分である。より緩慢な反応系については、2つ以上のそのような装置を直列接続することが推奨されており、これには装置に関して大きな費用を要する。同明細書もまた、複数の直列接続された、様々に(一部は等温的、一部は断熱的に)運転される反応空間の使用を開示していない。
【0005】
DE 198 44 901 C1は、オリフィスを備えた環状管を介して芳香族ニトロ化合物を反応器に供給する、半固相法による芳香族アミンの製造方法を記載している。過熱、従って芳香族ニトロ化合物の熱分解の危険性を排除するため、環状管は、外部伝熱媒体により冷却してもよい。同方法では、反応混合物において芳香族ニトロ化合物が特に良好に分布する。適当な反応器として、例えばループ型反応器、気泡塔、好ましくは撹拌槽が記載されている。同明細書もまた、複数の直列接続された、様々に(一部は等温的、一部は断熱的に)運転される反応空間の使用を開示していない。
【0006】
ループ型反応器は、EP 0 634 391 A1に記載されている。触媒とDNTとの混合物、既に生成した反応生成物、および水素を、反応が起こるように、イジェクターを用いて容器内で混合する。重要な別の要素は、循環ポンプ、反応熱を放散させるための循環流における熱交換器、および生成物流を分離して懸濁触媒を保持するための濾過装置である。同公開公報もまた、複数の直列接続された、様々に(一部は等温的、一部は断熱的に)運転される反応空間の使用を開示していない。
【0007】
ループ型反応器を使用する別の方法は、WO 00/35852 A1に記載されている。反応熱を放散させるために、熱交換器を反応器に組み込むことが好ましい。ループ型反応器に加えて、外部回路が記載されている。反応混合物を、ループ型反応器の下部から取り出し、供給部材を用いて反応器の上部に再び供給することが好ましい。外部回路は、更なる熱交換器を有してもよく、例えば重力分離装置、クロスフローフィルターまたは遠心分離器を用いて触媒を保持しながら生成物を取り出すために外部回路を使用してもよい。反応手順は完全に等温的であることが記載されている。また、反応を完遂させるために、外部回路に後反応器を備えてもよい。可能なタイプの後反応器は一般に、主反応器と同じタイプ、撹拌槽または流管であることが記載されている。必要な後反応を、反応条件に関してどのように認識しまたは実施するのかという記載は存在しない。WO 00/35852は、ジニトロトルエンのトルイレンジアミンへの反応を、主反応器において実質的に定量的に実施し、外部ループ流は実質的に、純トルイレンジアミン、水、並びに場合により溶媒および触媒を含むことを教示している。トルイレンジアミンは、外部ループ流から取り出し、更なる後処理に送る。WO 00/35852は、断熱的に運転する後反応器の使用、および急激な断熱的温度変化のモニタリングによる反応のモニタリングを教示していない。
【0008】
しかしながら、WO 00/35852に記載されているような反応装置における未反応ニトロ化合物の発現の可能性は、DE 102 06 214 A1に記載されている。DE 102 06 214 A1は、出発物質の供給(上流の反応混合物における水素および/または芳香族ニトロ化合物の少なくとも一部の流れ方向)を変化させることによって、芳香族ニトロ化合物の反応を、より完全に実施することを教示している。これは特にDNTの水素化にあてはまる。DE 102 06 214 A1の方法でも、反応熱は、その発生場所で放散させている。同公開公報もまた、断熱的に運転する後反応器の使用、および急激な断熱的温度変化のモニタリングによる反応のモニタリングを教示していない。
【0009】
これらの方法の全ては、得られる反応混合物が、目的生成物である芳香族アミン、共生成物である水、および既知の二次反応(例えば、環水素化または水素化分解)から得られる化合物または高分子量タール状生成物に加えて、出発材料として使用した芳香族ニトロ化合物や、芳香族ニトロソ化合物のような反応の中間段階の化合物も含有するという欠点を有する。そのような化合物は、特にアミンの存在下および高温で、あまり安定ではなく、爆発的に分解する場合があることが知られている。従って、完全に反応させることを確実にしなければならない。従って通常は、反応をモニターする。これは、例えば、WO 03/066571 A1に記載されているような、ガスクロマトグラフィーによる生成物流の分析によって実施することができる。別の方法は、DE 102 06 214 A1に記載されているような、反応させる物質の流れをモニタリングする方法である。
【0010】
DE 10 2005 008 613 A1は、反応生成物中のニトロ化合物およびニトロソ化合物の含量をUV−VIS吸収により測定する、芳香族アミンの製造方法を記載している。DE 10 2005 008 613 A1は、芳香族ニトロ化合物の触媒水素化において、時間とともに触媒が失活することを教示している。触媒の活性が低下するほど、アミンに転化する出発物質の割合が減少するので、反応器内に残留する未反応芳香族ニトロ化合物の割合が増加する。従って、特に十分な量の未使用触媒を反応器に供給するために、触媒活性のモニタリングが必要である。芳香族ニトロ化合物および新しい触媒を反応装置に計量供給する方法を採用することもできる。この方法の欠点は、ニトロ/ニトロソ化合物含有TDA/水混合物とニトロ/ニトロソ化合物不含有TDA/水混合物のスペクトルが僅かしか異ならず、複雑な校正を要することである。また、測定セル上の被膜は測定信号を変化させるので、校正を定期的に確認しなければならない。気泡または触媒粒子も測定を妨げるので、複雑な試料調製が必要とされるが、これは、その影響の発生と検出の間に失われる時間に加えて、高いコストだけでなく装置全体の低い信頼性をも意味する。
【0011】
WO 02/062729 A2は、例えば対応するニトロ化合物からの芳香族アミンの調製のような不均一触媒水素化反応における物質交換法の改良に関する。水素化に使用する水素中の特定不活性ガス含量によって、反応器内の液相の高い水素飽和状態を達成し、これにより、水素化触媒の進行した劣化および反応の不十分な選択を防ぐ。同公開公報の狙いは最終的に、水素化反応器におけるニトロ化合物のアミンへの反応を可能な限り完了することを確実にすることでもある。同公開公報は、水素化の質のモニタリング、即ち触媒劣化の影響または不十分な選択性の影響、或いはそのような状況への対処法を取り上げていない。
【0012】
先に記載した方法における基本的な概念は、反応熱をその発生場所で熱交換器によって放散させること、または許容できないほどの高温を回避するように十分多量の生成物流において熱を吸収して熱交換器により別の場所で放散させることである。従って、先に記載した方法の狙いは通常、熱の放散に使用する熱交換器への流量の増加、および反応空間における温度差が可能な限り小さくなるほどの、反応に使用する装置における十分な混合である。また、迅速な水素化には、反応空間に十分な量の水素が存在することが重要である。これには、反応空間への気泡の導入が必要とされ、例えば発泡撹拌機、循環ガス圧縮機またはループ型反応器によって達成することができる。この発泡もまた、反応空間の強い十分な混合をもたらす。これらの方法の結果として、滞留時間分布が、理想的に十分混合される撹拌槽の滞留時間分布に接近することは明らかであるが、このことは、生成物流における出発物質の発現に都合がよく、従って、先に記載したように好ましくない。
【0013】
EP 1 524 259 A1(好ましくは出発物質としてニトロベンゼンを使用)およびGE 1 452 466(出発物質としてニトロベンゼンのみを使用)は、芳香族ニトロ化合物の気相水素化における、固定床触媒を有し、直列接続された、等温的および断熱的に運転する反応器の使用に関する。防爆の問題は、(特に芳香族ジニトロ化合物の)液相水素化について先に記載したような程度には、気相水素化においてこれまでのところ生じていない。従って、2つの明細書のいずれも、芳香族ニトロ化合物または芳香族ニトロソ化合物の転化をモニタリングするための、断熱的に運転する反応空間における急激な温度変化の利用の可能性を教示していない。EP 1 524 259 A1は、主反応器の反応性を抑制するために触媒床の希釈を伴った、モノリス触媒を有する下流の断熱的に運転する反応器による、等温的に運転する主反応器(管束反応器)の運転時間の延長のみに関する(第4頁第32〜33行および第40行)。同発明にとって、モノリス触媒の使用は、許容できない高い差圧を回避するために必須である。最後に、GE 1 452 466では、等温的処理と断熱的処理の組み合わせにより、良好な温度モニタリングの目的が達成されている(第3頁第86〜94行)。空時収量および耐用年数の増大が、同方法の利点であることが記載されている。気相水素化の製造工程由来の課題は、液相水素化の製造工程由来の課題とは全く異なるので、これら2つの方法を比較することは、ほとんどまたは全く不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】EP 0 223 035 A1
【特許文献2】WO 96/11052 A1
【特許文献3】DE−OS−2 044 657
【特許文献4】US 3 761 521
【特許文献5】DE 198 44 901 C1
【特許文献6】EP 0 634 391 A1
【特許文献7】WO 00/35852 A1
【特許文献8】DE 102 06 214 A1
【特許文献9】WO 03/066571 A1
【特許文献10】DE 10 2005 008 613 A1
【特許文献11】WO 02/062729 A2
【特許文献12】EP 1 524 259 A1
【特許文献13】GE 1 452 466
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の課題は、液相での、芳香族ニトロ化合物(特に芳香族ジニトロ化合物)を水素化して対応する芳香族アミン(特にジアミン)を得る方法であって、得られる粗生成物混合物中の芳香族ニトロ化合物(即ち、出発芳香族ニトロ化合物、出発物質がジニトロ化合物の場合は、中間生成物として生成する芳香族モノニトロ−モノアミン化合物も)および適切な場合には中間化合物として生成する芳香族ニトロソ化合物(即ち、少なくとも1個のニトロソ基を含有する中間段階の化合物の全て)の残留含量が最小限に抑えられ、反応の進行(芳香族ニトロソ化合物の芳香族アミンへの反応の完全性)を簡単かつ確実にモニタリングできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、本発明は、1つの反応器または複数の反応器に配置され、直列接続された少なくとも2つの反応空間において、液相で、式:
【化1】

[式中、R2およびR3は、相互に独立に、水素、メチルまたはエチルを示し、R3は更に、NOを示してよい]
で示される芳香族ニトロ化合物を、触媒の存在下で水素化することにより、式:
【化2】

[式中、R1およびR2は、相互に独立に、水素、メチルまたはエチルを示し、R1は更に、NHを示してよい]
で示される芳香族アミンを製造する方法であって、少なくとも1つの反応空間は等温的に運転し、その下流に接続された少なくとも1つの反応空間は断熱的に運転する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、熱交換器を内蔵し、等温的に運転する反応空間を有する反応器A、断熱的に運転する反応空間を有する反応器B、およびフリット(C)を伴った循環ポンプ(D)からなる触媒分離用機器からなる本発明の試験装置の一態様を示す。
【図2】図2は、断熱的に運転する反応空間を有する反応器Bと触媒分離器Cの機能が1つの装置Eに組み込まれている態様を示す。
【図3】図3は、ポンプDを外して、断熱的に運転する反応空間と触媒分離用機器とを有する装置Eから、等温的に運転する反応室を有する反応器Aへの、濃厚反応混合物の返送を、液相の密度差によって実施する、本発明の態様を示す。
【図4】図4は、等温的に運転する反応空間A1を有する反応器A’が、適当な流れ管理の結果として断熱的に運転する反応空間A2も付加的に有する態様を示す。
【図5】図5は、DNTの水素化の急激な断熱温度変化と、断熱的に運転する反応空間の入口流に少なくとも存在するニトロトルイジンの濃度の量的関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
芳香族ニトロ化合物の対応するアミンへの水素化は、水素化剤として、水素、または水素と不活性ガスとの混合物を用いて実施する。適当な触媒は、触媒水素化に通例の触媒の全てである。Pt、Pd、Rh、Ruのような貴金属、Ni、CoまたはCuのような非鉄金属、或いはそれらの混合物を含有する触媒を使用することが好ましい。Pt、Pd、NiまたはCuを含有する触媒を、水中懸濁液状で使用することが特に好ましい。貴金属触媒の場合は、例えば活性炭、SiOまたはAlのような担体に貴金属触媒を担持する。Ni触媒の場合は、ラネーニッケルを使用してもよい。反応空間における触媒の濃度は、反応空間における反応混合物の総重量に基づいて、好ましくは0.01重量%〜20重量%、より好ましくは0.5重量%〜10重量%である。水素と不活性ガスとの混合物を使用するならば、好ましい不活性ガスは、アンモニア、希ガスおよび/または窒素である。水素、または水素と不活性ガスとの混合物は、反応空間において一定の圧力が確立されるように、即ち、新しい水素化剤の供給量が反応の進行(従って水素の消費)に伴って増加するように供給することが好ましい。水素と不活性ガスとの混合物を水素化剤として使用する場合、供給する水素化剤における水素の不活性ガスに対する比は、反応器の内容物が水素枯渇状態にならないように、徐々に増加させることが好ましい。
【0019】
「反応空間」とは、所望の芳香族アミンを生成するための、芳香族ニトロ化合物(または中間生成物)と水素との液相での反応に関する要件を満たす空間であると理解される。反応空間は、化学反応を実施する技術的機器である反応器内に位置する。その構造に依存して、反応空間と反応器は同一の場合もある(例えば気泡塔反応器の場合)。反応空間は、反応器の一部だけを占める場合もある。例えば、反応器の下部にしか液相が存在しない場合は、芳香族ニトロ化合物の蒸気圧の故に(下部の)芳香族ニトロ化合物が気相に移って気相で反応する可能性があるという事実とは関係なく、液相上方に位置する気相は本発明の反応空間には属さない。1つの反応器が複数の反応空間を有してもよい。反応空間は、1つの反応器内または別個の反応器内に存在してよい。本発明の方法に好ましい反応器は、撹拌槽、ループ型反応器、流管、気泡塔反応器またはジェットリアクターである。
【0020】
本発明の方法では、反応空間は直列に接続されている。即ち、1つの反応空間からの生成物混合物は、続く反応空間に出発物質混合物として導入される。更に、新しい水素、または水素と不活性ガスとの混合物、および場合により新しい触媒を下流の反応空間に添加することも可能であるが、必須ではない。本発明の方法では、新しい芳香族ニトロ化合物は、1つの反応空間にしか添加しない。この反応空間を、「芳香族ニトロ化合物の流れ方向において第一の反応空間」と称し、好ましくは等温的に運転する。続く反応空間の全てには、上流にある反応空間において反応しなかった芳香族ニトロ化合物しか添加されない。従って、芳香族ニトロ化合物の流れ方向において第一の反応空間で完全転化が起こった場合、続く反応空間には、芳香族ニトロ化合物は全く添加されない。
【0021】
3つ以上の反応空間の直列接続、即ち、例えば「等温的−断熱的−断熱的(図4参照)」、「等温的−等温的−断熱的−断熱的」またはその他の組み合わせのような直列接続も考えられる。好ましくは10個以下、特に好ましくは5個以下、最も好ましくは3個以下、とりわけ好ましくは2個以下の反応空間を直列接続する。好ましくは、芳香族ニトロ化合物の流れ方向において直列の第一の反応空間は等温的に運転し、その直列の最後の反応空間は断熱的に運転する。以下では、2つの反応空間を直列接続した態様を用いて、本発明をより詳細に説明する。この情報を、必要に応じて3つ以上の反応空間を有する装置に応用することは、当業者にとって簡単なことである。
【0022】
本発明において、「等温的」とは、反応により放出される熱の少なくともほとんどを技術的機器によって放散することを意味する。技術的機器によって反応熱を完全に放散することが好ましい。そのような機器は、管束熱交換器、コイル管、平板熱交換器、フィールドチューブ(Fieldrohre)、U字形熱交換器であってよい。等温的に運転する反応空間に、このような機器を適用することが好ましい。別の態様として、十分大量の循環流によって反応空間における適切な等温性(即ち、あるとしても無視できる程度の温度上昇)が確保されるのであれば、等温的に運転する反応空間の外に、このような機器を配置してもよい。
【0023】
対応して、本発明において「断熱的」とは、断熱的に運転する反応空間において反応熱を技術的機器によって放散しないことを意味する。断熱的運転では、反応空間は、特に熱損失に抗するように遮断されてよい。熱損失がごく僅かな場合、反応エンタルピーは、入口流と出口流の温度差に反映される。
【0024】
「液相での反応」とは、芳香族ニトロ化合物、中間生成物および芳香族アミンが液体状態になるような物理的条件(特に圧力条件および温度条件)下で反応を実施することを意味する。好ましくは6bar〜101bar、より好ましくは10bar〜30barの絶対圧力、および好ましくは50℃〜250℃、より好ましくは100℃〜200℃、特に好ましくは120℃〜195℃の温度を、反応空間の全てにおいて維持する。個々の反応空間における圧力および温度は、これらの範囲内で異なっていてよい。
【0025】
断熱的に運転する反応空間における圧力は、その上流にある等温的に運転する反応空間における圧力と等しいことが好ましい。圧力は好ましくは、反応器の頂部領域で測定する。従って、本発明の方法のある態様では、圧力測定部は、実際の反応空間の外(例えば、反応空間を構成する液相上方の気相)に位置する。そのように測定した圧力は、反応空間自体における圧力と必ずしも一致しないが、常にその特性は示しているので、種々の反応空間における圧力の相対比較に適した基準項目といえる。断熱的に運転する反応空間における圧力は、等温的に運転する反応空間における圧力より僅かに低くてもよい。しかしながら、断熱的に運転する反応空間における圧力が、等温的に運転する反応空間における圧力より著しく低い場合は、断熱的に運転する反応空間への供給物質中の反応混合物がフラッシュ蒸発し、液相に溶解および/または分散する水素の量が著しく低下する。従って、本発明の方法では、断熱的に運転する反応空間における圧力の、その上流にある等温的に運転する反応空間における圧力に対する比は、0.5超、好ましくは0.7超、特に好ましくは0.9超である。
【0026】
熱の放散に適した機器によって、等温的に運転する反応空間において確立される温度は、その下流に接続された断熱的に運転する反応空間の入口温度に相当することが好ましい。
【0027】
反応条件下で不活性な溶媒を場合により使用してよく、その例は、メタノール、プロパノール、イソプロパノールのようなアルコール、またはジオキサン、テトラヒドロフランのようなエーテルである。方法の経済性を高めるために、低い溶媒濃度が一般に有利である。溶媒濃度は、液相の総重量に基づいて、通常1重量%〜50重量%未満、好ましくは20重量%〜35重量%未満である。
【0028】
触媒がまだ新しく高活性であるとき、水素化開始の時点で、芳香族ニトロ化合物の流れ方向において第一の反応空間における、芳香族ニトロ化合物の転化率、および適切な場合には中間化合物として生成する芳香族ニトロソ化合物の転化率は、100%であることが好ましい。触媒の失活に伴って、対策をとらなければ、この反応空間における転化率は低下する。本発明の方法では、断熱的に運転する反応空間において、芳香族ニトロ化合物および適切な場合には芳香族ニトロソ化合物の未反応物を、好ましくは更に、特に好ましくは完全に反応させる。
【0029】
本発明の方法は、DNT(式IIにおいて、R2=メチル、およびR3=NO)のTDA(式Iにおいて、R1=NH、およびR2=メチル)への水素化に特に適している。工業的方法では異性体の全てが生成するが、主なものは2,4−TDAおよび2,6−TDAである。
【0030】
本発明の方法は、連続的に実施することが好ましい。しかしながら、不連続法も除外されない。
【0031】
本発明の好ましい態様では、断熱的に運転する反応空間を、等温的に運転する反応空間の下流に接続する。等温的に運転する反応空間から得られ、懸濁触媒を含有する生成物混合物を、断熱的に運転する反応空間に導入し、更なる(好ましくは完全な)反応の後、2つの流れに分ける。その流れのうちの1つは、可能な限り触媒を含有せず、別の後処理に送る。重力分離装置(例えば沈澱器)および濾過器(例えばクロスフローフィルター)が、触媒の分離に適している。このようにして得た触媒は、場合により後処理の後、等温的に運転する反応空間に返送してもよい。場合により、新しい触媒を供給してもよい。もう一方の触媒を含有する流れは、等温的に運転する反応空間に返送する。この返送流から反応水を分離することも可能であるが、好ましくはない。
【0032】
等温的に運転する反応空間から断熱的に運転する反応空間への反応混合物の輸送は、この態様における様々な方法で、例えば、ポンプ輸送によって、或いはオーバーフローまたは密度差により重力の影響下で、実施してよい。同じことは、触媒含有流の返送にもあてはまる。
【0033】
別の態様では、反応器は、適当な流れ管理によって2つの反応空間に分けられる(図4参照)。芳香族ニトロ化合物の流れ方向において第一の反応空間は、熱を放散させるための機器を備えており(「等温的反応空間」)、第二の反応空間は備えていない(「断熱的反応空間」)。水素、または水素と不活性ガスとの混合物は、「等温的反応空間」のみに導入する。
【0034】
本発明の、等温的に運転する反応空間と断熱的に運転する反応空間の直列接続は、両方の処理の利点を活用しており、従ってはっきりと先行技術から区別される。出発芳香族ニトロ化合物および生成し得る中間生成物の転化のほとんど(好ましくは95%超、特に好ましくは98%超、最も好ましくは99%超)は、穏やかな条件下で等温的に運転する反応空間において起こり、これにより、非常に高い安全性が確保される。残留芳香族ニトロ化合物の反応および断熱的条件下で生成し得る残留中間生成物の反応は、一方では、断熱的に運転する反応空間におけるより高い温度(放熱なし)の結果として、(出発芳香族ニトロ化合物および生成し得る中間生成物のほんの一部しか反応しないので危険を伴わずに可能となる)より高い転化率が可能になるという事実を利用しており、他方では、断熱的に運転する反応空間において実施される水素化の部分の特徴を示す適当なパラメーターをモニタリングすることによる、反応の進行の(特に芳香族ニトロ化合物の芳香族アミンへの水素化反応の完全性の)簡単なモニタリングという利点を付加的にもたらす。適当なパラメーターはとりわけ、色、温度、ニトロ基およびニトロソ基含有化合物の濃度であってよく、化学分析(好ましくはガスクロマトグラフィー)または分光分析(好ましくはUV−VIS分光法)によって測定する。複数の断熱的に運転する反応空間を使用するならば、この適当なパラメーターのモニタリングは、断熱的に運転する反応空間の1つについて、複数について、または全てについて実施してよい。3つ以上の反応空間を含む直列接続において、好ましくは、少なくとも最後の反応空間は断熱的に運転し、少なくともその反応空間について特性パラメーターをモニターする。基本的に、幾つかのパラメーター(例えば、温度と色)をモニターすることも可能である。
【0035】
後に詳細に記載するように、予備試験によって、各パラメーターについての臨界値、例えば温度の場合は超えるべきではない臨界温度を計算することが好ましい。そのパラメーターが、予め規定した臨界値に達するかまたは超えるならば、後に詳細に説明するように、パラメーターが再び臨界値未満となるように(少なくとも)1つの工程パラメーターを変化させてよい。ニトロ基およびニトロソ基含有化合物の濃度の臨界値は、製造プラントの具体的な境界条件(例えば、温度、圧力、水素化する芳香族ニトロ化合物の性質、および使用する触媒の性質)に大きく依存する。この臨界値は、例えば、各々の場合に断熱的に運転する反応空間の生成物出口流の総重量に基づいて、好ましくは5.0重量%未満、特に好ましくは2.0重量%未満、最も好ましくは0.5重量%未満までの値であってよい。
【0036】
好ましい態様では、本発明の方法により、断熱的に運転する反応空間の入口および/または出口での芳香族ニトロ化合物/芳香族ニトロソ化合物含量と特定のパラメーターとの少なくとも量的な、好ましくは量的な関係を、実験室試験または工学的計算によって得ることが可能となる。実際の製造では、転化率を再び高めるために少なくとも1つの工程パラメーターを変化させなければならないとき、これらのパラメーターの1つ以上をモニタリングすることによって得ることができる。本発明では、後に詳細に記載するように、特に温度が、選択されるパラメーターである。パラメーターである色は、簡単な定量的記載ができない。しかしながら、熟練したプラント技術者は、(例えば、断熱的に運転する反応空間からの生成物出口流の中に設置した試料採取部での)色の観察に基づいて少なくとも反応の進行について定性的に結論を下すことができる。
【0037】
断熱的に運転する反応空間の入口および/または出口における芳香族ニトロ化合物/芳香族ニトロソ化合物の含量と特定の適当なパラメーターとの関係を定量化するために、様々な範囲での圧力と温度についての検量線(場合によっては複数の検量線)を作成することが有利な場合もある。参照パラメーターとして、断熱的に運転する反応空間の入口における芳香族ニトロ化合物/芳香族ニトロソ化合物の含量を選択するならば、断熱的に運転する反応空間に導入する芳香族ニトロ化合物/芳香族ニトロソ化合物の量が可能な限り完全に反応できることを確実にするために、断熱的に運転する反応空間の効率に従って、ちょうどいいときに少なくとも1つの工程パラメーターを変化させる。
【0038】
例えば、断熱的に運転する反応空間においてまたは断熱的に運転する反応空間からの生成物出口において測定される温度Tadiabaticが、適当なパラメーターであってよい。パラメーターTadiabaticの臨界値Tadiabatic, crit.は、他の工程条件および水素化する芳香族ニトロ化合物の性質に依存して、好ましくは200℃〜250℃の値を有する。
【0039】
本発明の方法では、特に、断熱的に運転する反応空間の少なくとも1つと、その上流にある等温的に運転する反応空間との温度差ΔTadiabatic(急激な断熱的温度変化)を測定することにより、反応の進行(芳香族ニトロ化合物の芳香族アミンへの水素化反応の完全性)のモニターが可能になる。純粋に等温的な処理の場合は不可能であるこのタイプの反応モニタリングが、特に好ましい。
【0040】
温度差ΔTadiabaticは、好ましくは、断熱的に運転する反応空間からの生成物出口においてまたは断熱的に運転する反応空間自体において温度Tadiabaticを測定し、その上流にある等温的に運転する反応空間においてまたは断熱的に運転する反応空間への入口において温度Tisothermalを測定し、その後、その差を以下のように求めることによって得る。
【数1】

【0041】
断熱的に運転する反応空間からの生成物出口における温度を、Tadiabaticを得るために使用する場合、その測定は、断熱的に運転する反応空間から出た直後に必ずしも実施する必要はない。温度測定部は、例えば触媒分離の下流に位置してもよい。ただ、測定部が、断熱的に運転する反応空間における熱の発生についての確かな情報を与えることは確実でなければならない。
【0042】
直列の反応空間が3つ以上の断熱的に運転する反応空間を含むならば、好ましくはないが、複数のそのような急激な断熱的温度変化を測定することができる。例えば、「等温的(1)−断熱的(1)−等温的(2)−断熱的(2)」タイプの直列の反応空間では、2つの温度差:
【数2】

および
【数3】

を測定することができる。2つの断熱的に運転する反応空間が直列に直接接続されているならば、即ち例えば「等温的−断熱的(1)−断熱的(2)」であるならば、温度差:
【数4】

を測定することが好ましい。この場合、「上流にある」等温的に運転する反応空間は、すぐ上流にある反応空間ではない(すぐ上流にある反応空間も、断熱的に運転する)。
【0043】
温度測定は、当業者に既知の機器、例えば、熱電対または抵抗、半導体または赤外線放射温度計を用いて実施する。等温的に運転する反応空間における適当なTisothermalの測定部は、例えば撹拌反応器の場合、撹拌機近傍の領域、または好ましくは撹拌機周辺の反応器壁の領域である。等温的に運転する反応空間内でそのように測定した温度は一般に、(僅かな回避できなかった熱損失を無視するならば)断熱的に運転する反応空間の入口温度と一致する。断熱的に運転する反応空間における適当なTadiabaticの測定部は、断熱的に運転する反応空間の出口領域における反応器壁近傍である。断熱的に運転する反応空間の生成物出口における温度は一般に、断熱的に運転する反応空間における熱の発生の結果として到達される平均絶対温度(=急激な断熱的温度変化;急激な断熱的温度変化ΔTadiabaticとは区別される)と一致する。断熱的に運転する反応空間における平均の急激な断熱的温度変化、および等温的に運転する反応空間における平均温度の典型となるように、測定部を選択することが重要である。
【0044】
実験室試験によって、ΔTadiabaticと、断熱的に運転する反応空間の生成物出口における芳香族ニトロ化合物および適切な場合には中間化合物として生成する芳香族ニトロソ化合物の和の含量との量的関係を得ることが好ましい。例えば、数回の試験によって、関数:
【数5】

[c=濃度(好ましくは重量%)]
を表す検量線を作成することができる。
【0045】
また、ΔTadiabaticは必然的に、有効である特定の絶対温度および圧力に依存する。
【0046】
以下においてΔTadiabatic, max.で示される、最大許容温度差を測定することも好ましい。これは、品質および防爆の両方の観点から許容可能な、断熱的に運転する反応空間の生成物出口における、芳香族ニトロ化合物および適切な場合には中間生成物として生成する芳香族ニトロソ化合物の和の含量に対応する温度差である。そのような最大許容含量は、各々の場合に生成物出口流の総重量に基づいて、好ましくは5.0重量%まで、特に好ましくは2.0重量%まで、最も好ましくは0.5重量%までの値を有する。少なくとも1つの工程パラメーターを変化させることによってΔTadiabatic, max.への到達をちょうどいいときに防ぐことができる、ΔTadiabatic, max.より十分低いΔTadiabaticの値を更に計算することが好ましい。この値は、パラメーターであるΔTadiabaticの臨界値であり、ΔTadiabatic, crit.で示される。
【0047】
ΔTadiabatic, max.およびΔTadiabatic, crit.は、一方では、断熱的に運転する反応空間への供給物質中に十分な量の出発物質が存在する試験によって、他方では、断熱的に運転する反応空間における温度特性の工学的計算によって得ることができる。次いで、通常の製造運転中に測定した温度差ΔTadiabaticを、このようにして得た最大温度差ΔTadiabatic, max.および/またはΔTadiabatic, crit.と比較する。
【0048】
ΔTadiabatic=0、そして熱損失を無視できるという条件であれば、等温的に運転する反応空間において反応は完全に起こる。即ち、等温的に運転する反応空間における、芳香族ニトロ化合物の転化率、および適切な場合には中間化合物として生成する芳香族ニトロソ化合物の転化率は100%である。ΔTadiabatic<0は、不十分な断熱の結果としての熱損失を示す。ΔTadiabatic>0は、等温的に運転する反応空間における不完全な転化を示す。
【0049】
個々の場合に少なくとも1つの工程パラメーターの変更が必要とされる際(即ち、ΔTadiabaticがΔTadiabatic, crit.と等しくなるとき)のΔTadiabaticの値は、多くの因子に依存する。ΔTadiabaticがΔTadiabatic, crit.と等しくなる範囲は一般に、−10K〜+8K、好ましくは−8K〜+5K、特に好ましくは−5K〜+3Kの値をとってよい。
【0050】
等温的に運転する反応空間において完全に転化する場合にΔTadiabaticが実質的に0となるように、製造プラントが非常に良好に断熱されているならば、ΔTadiabatic≦0の値は、断熱的に運転する反応空間において水素化反応が起こらないことを確かに示している。そのような場合、ゼロより僅かに大きい値にすぎないΔTadiabaticの値は一般に、まだ臨界値ではない。特に好ましい態様では、ΔTadiabaticの臨界値(ΔTadiabatic, crit.)は+3Kである。
【0051】
一方、不十分に断熱された製造プラントの場合は、ΔTadiabatic≦0の値は、断熱的に運転する反応空間において反応が起こらないことを誤って示している。そのような場合、ΔTadiabatic≦0の値であっても、ある状況下では、少なくとも1つの工程パラメーターを変化させなければならない。従って、特に好ましい態様では、ΔTadiabatic≧−5K(即ちΔTadiabatic, crit.は−5Kである)の値で、少なくとも1つの工程パラメーターを変化させる。
【0052】
断熱的に運転する反応空間において実施される水素化の部分の先に記載した適当なパラメーター特性の1つ以上のモニタリングが、等温的に運転する反応空間における不完全な転化を示すならば、複数の選択肢が存在する。
a)(例えば、ΔTadiabatic=ΔTadiabatic, max.で)対象パラメーターが最大許容値に達するときに反応を停止する(アラームを鳴らすおよび/または自動的に電源を切る)まで、一定条件下で反応を継続する。
b)適当なパラメーターとなるように、少なくとも1つの工程パラメーターを変化させる。可能な変更は例えば以下である:
ba)新しい触媒の供給;
bb)使用済み触媒の返送量の増加;
bc)新しい芳香族ニトロ化合物の供給量の段階的削減;
bd)反応空間の少なくとも1つにおける圧力の増大;
be)反応空間の少なくとも1つにおける温度の上昇。
【0053】
可能ならば、断熱的に運転する反応空間への供給物質中の溶解および/または分散した水素の量を、著しく低下させないことが好ましい。本発明において、「分散した水素」とは、気泡中に含まれた水素であると理解される。好ましくは、一定の圧力が確立されるように十分な付加的水素を反応空間に供給し、等温的反応空間および断熱的反応空間の気相から少量の気流を取り出し、場合により、この気流の組成を(例えばガスクロマトグラフィーによって)分析する。このようにして、反応した水素を補い、蓄積する不活性ガスまたは気体状反応生成物を排出する。
【0054】
本発明の方法にとって、断熱的に運転する反応空間において水素化反応を完了できることは重要である。これには、断熱的に運転する反応空間への供給物質中の分散および溶解水素の量が反応に必要とされる量を超える必要がある。溶解する水素の量が反応混合物の組成、断熱的に運転する反応空間における圧力および温度、並びに反応空間における気相の組成に依存することは当業者に知られている。分散および溶解する水素の含量にとって重要なことは、とりわけ、反応空間における発泡、並びに液相および気相の相対速度である。気相の組成は、液相中の成分の分圧およびそれらの互いの相互作用、気体状二次生成物(例えばアンモニア)の生成、並びに供給する水素中の不純物の存在、および反応器におけるそれらの蓄積によって決まる。
【0055】
断熱的に運転する反応空間における液相が、残留物を反応させるのに十分長い滞留時間を有することも重要である。本発明の方法においては、断熱的に運転する反応空間は、等温的に運転する反応空間の液相の滞留時間の少なくとも10%である液相の滞留時間を有し、少なくとも20%〜最大300%が好ましい。
【0056】
本発明の方法は、進行する触媒の失活によってもたらされる、典型的ではあるが必ずしもそうではないような、高い反応速度状態からの、予想される段階的かつ緩慢な反応速度の低下の場合に特に適している。等温的に運転する反応空間の下流に接続された断熱的に運転する反応空間では、より高い温度(放熱なし)の故に、より高い転化率が可能となり、その結果として、触媒の失活が少なくとも部分的に補償される。しかしながら、そのためには、反応を更に継続するための他の要件(例えば、十分な水素および触媒)を当然満たさなければならない。従って、水素および触媒は、場合により独立して、断熱的に運転する反応空間に計量添加してよい。
【0057】
触媒不含有生成物混合物の後処理はまず、当業者に知られているような蒸留分離による、ニトロ基の水素化において生成した反応水の分離を含む。次いで、二次生成物(例えば、部分的または完全な環水素化および/または脱アミノ化および/または脱メチル化芳香族ニトロ化合物、アンモニア(脱アミノ化生成物)、場合により(溶媒が完全には不活性でないのであれば)溶媒の反応生成物、アゾキシ化合物など)を分離する。高沸点不純物(残渣)から、所望の芳香族アミンを分離し、必要であれば異性体ごとに分離する。これらの分離操作は、好ましくは、当業者に既知の蒸留によって実施する。
【0058】
図1は、本発明の1つの態様を示す。流れ1は、水素化する出発物質混合物(芳香族ニトロ化合物、および場合により不活性溶媒)を表す。芳香族ニトロ化合物および触媒は、好ましくは別に添加する。触媒を添加する正確な位置(図1には示されていない)は、本発明にとって重要ではない。流れ2は、水素を表し、Aは、等温的に運転する反応空間を有する反応器を表し、流れ3は、断熱的に運転する反応空間を有する反応器Bに流入する反応混合物を表す。流れ4は、濾過器C(ここではクロスフローフィルター)に流入する完全反応混合物を表し、流れ5は、反応器に返送される反応生成物と触媒の濃厚混合物を表し、流れ6は、後処理に送られる反応生成物を表し、流れ7は、不活性ガスの排出のために使用する気流を表す。ポンプDは、循環を維持する。反応の完全性のモニタリングは、例えば、流れ3と流れ5、流れ3と流れ4、または流れ3と流れ6の温度差ΔTadiabaticを測定することにより実施できる。
【0059】
図2は、断熱的に運転する反応空間を有する反応器Bと触媒分離器Cの機能が1つの装置Eに組み込まれている態様を示す。
【0060】
図3は、ポンプDを外して、断熱的に運転する反応空間と触媒分離用機器(ここでは重力分離装置)とを有する装置Eから、等温的に運転する反応室を有する反応器Aへの、濃厚反応混合物の返送を、液相の密度差によって実施する、本発明の態様を示す。
【0061】
図4は、等温的に運転する反応空間A1を有する反応器A’が、適当な流れ管理の結果として断熱的に運転する反応空間A2も付加的に有する態様を示す。2つの反応空間は、内蔵構成要素G(例えば、篩板、ガイドプレート、熱交換器など)によって分離されてよい。反応器の下部の流れは乱流であり、特にGの下流で、頂部に向かって次第に安定する。この装置において、全体で断熱的に運転する反応空間は、2つの個々の断熱的に運転する反応空間、即ち、装置Eの液体反応器内容物と、強く発泡処理される反応器A’の容積の一部(特にA2)の液体反応器内容物からなる。この装置の利点は、第一の断熱的に運転する反応空間(A2)への気体供給量が特に多く、それによって、より多量の芳香族ニトロ化合物(例えばジニトロトルエン)の反応が可能となり、従って、EとA1の断熱的温度差ΔTadiabaticがより大きくなり、これによって、測定操作が更に容易になることである。A1に導入された気泡は、断熱的に運転する反応空間A2の中を移動するので、E単独の場合より、実質的により多くのニトロ基およびニトロソ基を水素化することができる。この装置において、ΔTadiabaticは、撹拌機A1近傍の温度および装置Eから出る生成物流5の温度を測定することにより得ることができる。
【0062】
図5は、DNTの水素化の急激な断熱温度変化と、断熱的に運転する反応空間の入口流に少なくとも存在するニトロトルイジンの濃度の量的関係を示す(実施例2参照)。
【実施例】
【0063】
実施例1(本発明)
熱交換器を内蔵し、等温的に運転する反応空間を有する反応器A(反応容積1L)、断熱的に運転する反応空間を有する反応器B(容積1L)、およびフリット(C)を伴った循環ポンプ(D)からなる触媒分離用機器からなる図1に示した試験装置において、ジニトロトルエン(2,4−DNT、2,6−DNT、2,3−DNT、3,4−DNT、2,5−DNTの異性体混合物)を水素化した。2.5L/hの循環流5により、装置Cにおいて流れ6から分離された触媒を反応器Aに返送した。2つの反応空間のそれぞれにおいて25barの絶対圧力が得られるように、水素流2を調節した。不純物および気体状二次生成物を排出するために、流れ7によって、供給した水素の約4容積%を排出した。完全反応混合物流6を、ガスクロマトグラフィーによって分析した。熱交換器を介して冷却水を供給した。Aの反応空間において120℃の温度が確保されるように、冷却水の量を調節した。合計40gの水中懸濁ラネーニッケルを、水素化触媒として添加した。流れ4の温度および撹拌機近傍の反応空間の温度を測定し、その差を計算して記録した。400g/hのジニトロトルエン流(1)を供給することにより、反応を開始した。温度差:
【数6】

を得た(即ち、Bにおいて、反応は起こっていなかった)。流れ6において、芳香族ニトロ化合物は、ガスクロマトグラフィーによって検出されなかった。温度差ΔTadiabaticが+8Kに上昇するまで(即ち、DNTが、Aにおいて完全にもはや反応しなくなるまで)、温度差以外は一定の条件下で反応を実施した。360時間後、この温度差に達した。次いで、反応を停止した。流れ6中に、一定の3.8重量%のニトロトルイジンが存在していた。
【0064】
実施例2(本発明)
【数7】

と、断熱的に運転する反応空間への流れ3中に存在する中間生成物であるニトロトルイジンの濃度(cNT;重量%、流れ3の総重量に基づく)との、図5に示した関係を、実施例1の反応において生成した混合物の熱容量および水素化反応の反応熱を用いて得た。cNTは、断熱が完全であると仮定した場合の、ニトロトルイジンの最小濃度である。図5に示した関係は更に、ニトロ基の完全反応に十分な水素が、断熱的に運転する反応空間に常に存在しているという仮定に基づく。図5(または同等の図)の調製に必要なデータは、例えば、当業者に既知のデータバンクDIPPRから得ることができる。断熱的に運転する反応空間に過負荷がかからないことを確実にするために、
【数8】

となった時点で、新しい触媒を添加した。
【0065】
実施例3(本発明)
実施例1の装置において、水中に懸濁した触媒の15gを計量添加し、反応を開始した。ΔTadiabaticが1Kの値を超えるたびに、3gの触媒を添加した。断熱的に運転する反応空間を出る反応生成物(流れ4)を、一定の間隔で、ガスクロマトグラフィーによって分析した。DNT、ニトロトルイジンおよびニトロソ化合物が検出された。
【符号の説明】
【0066】
1 水素化する出発物質混合物の流れ
2 水素流
3 断熱的に運転する反応空間を有する反応器Bに流入する反応混合物の流れ
4 濾過器Cに流入する完全反応混合物の流れ
5 反応器に返送される反応生成物と触媒の濃厚混合物の流れ
6 後処理に送られる反応生成物の流れ
7 不活性ガスの排出のために使用する気流
A 等温的に運転する反応空間を有する反応器
B 断熱的に運転する反応空間を有する反応器
C 濾過器
D ポンプ
E 断熱的に運転する反応空間を有する反応器Bと触媒分離器Cの機能が組み込まれている装置
G 2つの反応空間を分離するための内蔵構成要素
A1 等温的に運転する反応空間
A2 断熱的に運転する反応空間
A’ 等温的に運転する反応空間A1を有する反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの反応器または複数の反応器に配置され、直列接続された少なくとも2つの反応空間において、液相で、式:
【化1】

[式中、R2およびR3は、相互に独立に、水素、メチルまたはエチルを示し、R3は更に、NOを示してよい]
で示される芳香族ニトロ化合物を、触媒の存在下で水素化することにより、式:
【化2】

[式中、R1およびR2は、相互に独立に、水素、メチルまたはエチルを示し、R1は更に、NHを示してよい]
で示される芳香族アミンを製造する方法であって、少なくとも1つの反応空間は等温的に運転し、その下流に接続された少なくとも1つの反応空間は断熱的に運転する方法。
【請求項2】
断熱的に運転する反応空間の少なくとも1つにおいて実施する水素化の部分のパラメーター特性をモニタリングすることにより、水素化反応の進行をモニターし、そのパラメーターが臨界値に達するかまたは超えたとき、パラメーターが再び臨界値未満となるように少なくとも1つの工程パラメーターを変化させる、請求項1に記載の方法であって、適当なパラメーターを、色、温度、ニトロ基およびニトロソ基含有化合物の濃度からなる群から選択する方法。
【請求項3】
適当なパラメーターが、断熱的に運転する反応空間の少なくとも1つにおいて、または断熱的に運転する反応空間の少なくとも1つからの生成物出口において測定される温度Tadiabaticである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
パラメーターTadiabaticの臨界値が200℃〜250℃である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
化学分析または分光分析により、ニトロ基およびニトロソ基含有化合物の濃度を測定する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
適当なパラメーターが、断熱的に運転する反応空間の少なくとも1つと、その上流にある等温的に運転する反応空間との温度差:
【数1】

であり、断熱的に運転する反応空間からの生成物出口において、または断熱的に運転する反応空間においてTadiabaticを測定し、その上流にある等温的に運転する反応空間において、または断熱的に運転する反応空間への入口においてTisothermalを測定する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
パラメーターΔTadiabaticの臨界値(ΔTadiabatic, crit.)が−10K〜+8Kである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの工程パラメーターの変更を、下記選択肢:
a)新しい触媒の供給、
b)使用済み触媒の供給量の増加、
c)新しい芳香族ニトロ化合物の供給量の段階的削減、
d)反応空間の少なくとも1つにおける圧力の増大、
e)反応空間の少なくとも1つにおける温度の上昇
から選択する、請求項2〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
反応空間の全てにおいて、50℃〜250℃の温度および6bar〜101barの絶対圧力を維持する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
任意の断熱的に運転する反応空間における圧力の、その上流にある等温的に運転する反応空間における圧力に対する比が0.5より大きい、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ジニトロトルエン(式IIにおいて、R2=メチル、およびR3=NO)を水素化してトルイレンジアミン(式Iにおいて、R1=NH、およびR2=メチル)を得る、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
2〜10個の反応空間を直列接続する、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
芳香族ニトロ化合物の流れ方向において第一の反応空間を等温的に運転し、最後の反応空間を断熱的に運転する、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−517236(P2013−517236A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548398(P2012−548398)
【出願日】平成23年1月10日(2011.1.10)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050233
【国際公開番号】WO2011/086050
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】