説明

液相レーザーアブレーション装置

【課題】長時間に亘るアブレーション操作を継続した場合においてもアブレーション効率の低下が少なく、良質な微細化粒子を安定した状態で製造できる液相レーザーアブレーション装置を提供する。
【解決手段】被微細化成分を含有するターゲット25と、このターゲット25にレーザー光5を照射することによりターゲット成分を原子,分子,イオンまたはクラスター状の微細化粒子として放出するレーザー発振装置4と、上記ターゲット25を液体中に保持する反応容器11とを備え、上記反応容器11は、流通口24を有する仕切り板21によって内部空間がアブレーション室22と回収室23とに仕切られており、上記アブレーション室22内にターゲット25が収容保持されアブレーションによる微細化反応を進行せしめる一方、上記アブレーション室22内での微細化反応によって生じた微細化粒子を含む液体を、仕切り板21の流通口24を介して上記回収室23に導入するように構成したことを特徴とする液相レーザーアブレーション装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液相中でパルスレーザー光を用いてナノメートルオーダーの微細な粒子をアブレーション操作によって生成・回収する液相レーザーアブレーション装置に係り、特に長時間に亘るアブレーション操作を継続した場合においてもアブレーション効率の低下が少なく、良質な微細化粒子を安定した状態で製造できる液相レーザーアブレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に直径が1〜数百nm程度である微細なナノ粒子は、半導体、金属、絶縁体等の種々の材料で合成が試みられ、電子素子、光素子、記録媒体、電池、触媒などへの応用が期待されている。さらに近年になっては、医薬品分野や化粧品分野での応用も研究されている。
【0003】
各種材料粉末の成型体(ターゲット)にパルスレーザー光を照射して、微細化成分として放出されたナノメートルオーダーの微細粒子を生成する方法は、従来から主としてアブレーション操作を減圧条件下の真空容器中で行う方法、すなわち気相中で実施されていた。
【0004】
これに対し、アブレーション操作を液体中で実施する、いわゆる液相レーザーアブレーション法では下記のような特徴を有するため、気相法と共にその実用化に向けて研究が進められている。
(1)気相法とは異なり、生成した微細なナノ粒子の飛散がなく、生成した微細粒子を全部製品として使用できるために、材料歩留りが高い。
(2)高価な真空装置が不要であるため、装置構成が簡素であり、装置設備費が安価であり、運転操作も容易である。
(3)生成した微細化ナノ粒子の粒度分布がシャープであり、特性のばらつきが少ない。
(4)生成した微細化ナノ粒子が外気に接触しないため、不純物の混入が少なく化学変化による変質が少ないので高純度の製品が得られる。
(5)気相中よりも液相中の方が微細化粒子の凝集は少なく、液相中に粒子が均一に分散した状態のままで装置から取り出すことができるため、ナノ粒子の濃度の調整も容易である。
【0005】
このように液相レーザーアブレーション法では上記のような特徴を有するため、液相中でのレーザーアブレーション操作の研究が進められている。例えば、特許文献1(特開2004−90081号公報)には、液相中でのレーザーアブレーションに関する技術が開示されており、具体的にはセル中に充填された溶液中の水平方向に浸漬されているターゲットの表面に、集光レンズにより集束されたパルスレーザー光を、セル上方より溶液表面を経由して照射することにより、ターゲットを構成する例えば金属などのナノ粒子を生成している。
【特許文献1】特開2004−90081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献1(特開2004−90081号公報)に記載された従来の液相レーザーアブレーション装置においては、生成したナノ粒子は、ターゲットの上面と溶液面との間の溶液中に浮遊して、その部分における浮遊粒子濃度は運転時間の経過と共に高くなる。そのために、パルスレーザー光が浮遊粒子と衝突して散乱減衰され、十分なパルスレーザー光がターゲットに照射されにくくなり、効率が高いアブレーションが継続できないという技術上の課題があった。また、一定のアブレーション効率を安定して得るためには、レーザー光の照射位置を厳正に制御したり、発振のタイミングを厳正に制御する等の複雑で高度な技量が要求されていた。
【0007】
このように、液相中でのレーザーアブレーション操作の技術レベルは、未だに研究段階途上にあり、実用段階で使用できる完成された技術レベルには到達していないのが実情である。
【0008】
本発明は、上記従来装置における問題点を解決するためになされたものであり、研究段階のみならず、実用段階においても使用することが可能な液相レーザーアブレーション装置であり、特に長時間に亘るアブレーション操作を継続した場合においてもアブレーション効率の低下が少なく、良質なナノメートルオーダーの微細化粒子を安定した状態で製造できる液相レーザーアブレーション装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、パルスレーザー光を用いたアブレーション操作によって生成したナノメートルオーダーの微細粒子を、液相中に分散した状態で回収できる装置を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、パルスレーザーを用いたアブレーションによって生成したナノメートルオーダーの微細粒子を、基板上に堆積させることによって効率的に回収する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係る液相レーザーアブレーション装置は、被微細化成分を含有するターゲットと、このターゲットにレーザー光を照射することによりターゲット成分を原子,分子,イオンまたはクラスター状の微細化粒子として放出するレーザー発振装置と、上記ターゲットを液体中に保持する反応容器とを備え、上記反応容器は、流通口を有する仕切り板によって内部空間がアブレーション室と回収室とに仕切られており、上記アブレーション室内にターゲットが収容保持されアブレーションによる微細化反応を進行せしめる一方、上記アブレーション室内での微細化反応によって生じた微細化粒子を含む液体を、仕切り板の流通口を介して上記回収室に導入するように構成したことを特徴とする。
【0012】
すなわち本発明は、液相中のターゲットにパルスレーザー光を照射してナノメートルオーダーの微細な粒子を生成する装置であって、密閉可能な反応容器と、該反応容器中に充填された液体と、該反応容器を左右2室(アブレーション室および回収室)に仕切る仕切り板と、この仕切り板の一方の側面に取り付けられたターゲットと、該ターゲットに向けて水平方向に照射されるパルスレーザー光が通過する上記反応容器の側面を切り欠いて取り付けられたレーザー光導入窓とを備えて構成されている。上記レーザー光導入窓は、レーザー光の反射散乱を防止するための反射防止コーティングを施した透過性の高い石英ガラスで構成される。また、上記仕切り板には、反応容器の仕切られた左右2室(アブレーション室および回収室)を連通する多数の孔又はスリットが設けられており、アブレーション室において生成した微細粒子が、上記孔又はスリットを通り回収室に移動できるように構成されている。
【0013】
上記構成の液相レーザーアブレーション装置によれば、反応容器が仕切り板で左右2室、すなわちアブレーション室と回収室とに仕切られているため、1つの反応容器について微細粒子の生成と、生成された微細粒子の回収とを各々別の室(空間)で行うことができる。また、仕切り板に多数の孔又はスリットが設けられ、反応容器内に充填された液体が左右2室の間を自由に移動できるように構成されているため、アブレーション室において生成した微細粒子が液体に同伴されて、微細粒子の濃度勾配による拡散効果等によって仕切り板の孔又はスリットを通り、アブレーション室から回収室に移動する。したがって、アブレーション室内のターゲット近傍における微細粒子の滞留が少なく、微細粒子によってレーザー光が散乱減衰されることが少ないために、レーザー光によるアブレーション操作を効率的に長時間継続することができ、微細粒子の製造効率を高めることが可能になる。
【0014】
なお反応容器を仕切る上記の仕切り板を、反応容器内の長手方向に移動自在に構成することにより、上記アブレーション室および回収室の各容積を相対的に増減し最適な容量に調整することが可能であり、またレーザー光導入窓からターゲット表面間での距離が一定になるように調整することも可能である。
【0015】
また、上記液相レーザーアブレーション装置において、前記反応容器の回収室内に対向するように一対の回収電極を配置し、この回収電極に直流電圧を印加して回収電極間に電場を形成し、この電場によって微細化粒子を吸引し上記回収電極表面に収集する回収装置を設けることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、仕切り板によって反応容器が左右2室(アブレーション室および回収室)に仕切られ、ターゲットが存在しない回収室に一組の回収電極が挿入され、該回収電極に直流電流を通すことによって上記回収電極間に電場が形成される。したがって、アブレーション室において発生し液体に同伴されて回収室に移動した微細粒子は電場によって回収電極方向に吸引され、電極の負極及び/又は正極表面上に逐次堆積され効率的に回収される。そのため、ターゲットを配置したアブレーション室の液体は粒子濃度が低い清浄な状態に維持される結果、液体中の微細粒子によってレーザー光が散乱減衰されることが少ないために、レーザー光によるアブレーション操作を効率的に長時間継続することができ、微細粒子の製造効率をさらに高めることが可能になる。
【0017】
さらに、上記液相レーザーアブレーション装置において、前記反応容器の回収室の対向する側壁外部に一対の磁石を配置する一方、各磁石の位置に対応する上記回収室の側壁内部に対向するように一対の回収基板を配置して回収基板間に磁場を形成し、この磁場によって微細化粒子を吸引し上記回収基板表面に収集する回収装置を設けることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、仕切り板によって反応容器が左右2室(アブレーション室および回収室)に仕切られ、ターゲットを配置していない回収室において、対向する反応容器の両側面に外側から一組の磁石が取り付けられ、上記磁石間に磁場が形成される。したがって、アブレーション室において発生し液体に同伴されて回収室に移動した微細粒子は磁場によって回収基板方向に吸引され、回収基板表面上に逐次堆積され効率的に回収される。そのため、ターゲットを配置したアブレーション室の液体は粒子濃度が低い清浄な状態に維持される結果、液体中の微細粒子によってレーザー光が散乱減衰されることが少ないために、レーザー光によるアブレーション操作を効率的に長時間継続することができ、微細粒子の製造効率をさらに高めることが可能になる。
【0019】
また、上記液相レーザーアブレーション装置において、前記レーザー発振装置からターゲットに向かって照射されたレーザー光の照射点がターゲットの全有効面積に及ぶようにレーザー発振装置とターゲットとの相対位置を連続的に調整するレーザー光スキャニング機構を設けることが好ましい。このレーザー光のスキャニング機構としては、例えば、レーザー光の照射方向に垂直な面、すなわちターゲットの面に対して、ターゲットを収容した反応容器を上下・左右方向に自由に移動させることが可能なX−Yステージ等で構成される。
【0020】
上記構成によれば、レーザー光スキャニング機構によってレーザー発振装置とターゲットとの相対位置が調整されるため、ターゲットにおけるレーザー光の照射点が1点に集中せずにターゲットの全有効面積に及ぶ。したがって、ターゲットの全有効面を均一に消耗させることができ、アブレーション操作が安定すると共に、特にターゲット材料の使用歩留りを大幅に向上させることができる。
【0021】
また、反応容器に一体的にレーザー光のスキャニング機構を装備した場合には、レーザー光発振装置自体がスキャニング機構を装備していなくても、ターゲットの全有効面に隈無くレーザー光を照射することができる。
【0022】
さらに、上記液相レーザーアブレーション装置において、前記反応容器のアブレーション室の底部に液体を供給する液体供給口を設ける一方、前記回収室の上部に、微細化粒子を含む液体の排出口を設け、微細化粒子を含有する懸濁液を連続的または間歇的に反応容器の外部に回収する懸濁液回収装置を設けて構成することもできる。
【0023】
上記構成によれば、液相中のターゲットにパルスレーザー光を照射することにより、ナノメートルオーダーの微細な粒子がアブレーション室において生成し、この微細粒子は反応容器の液体供給口から連続的または間歇的に供給された液体によって回収室に移動する。したがって、微細粒子は液体に分散した状態で連続的または間歇的に反応容器外に排出され回収される。そのため、ターゲットを配置したアブレーション室の液体は粒子濃度が低い清浄な状態に維持される結果、液体中の微細粒子によってレーザー光が散乱減衰されることが少ないために、レーザー光によるアブレーション操作を効率的に長時間継続することができ、微細粒子の製造効率をさらに高めることが可能になる。特にアブレーション室において生成した微細粒子が供給された液体によって強制的に回収室に移動されるため、ターゲットの周辺から微細粒子が効果的に除去されるので、レーザー光の減衰を防止することができ、長時間に亘り安定した状態で微細粒子を生成することができる。
【0024】
また、上記液相レーザーアブレーション装置において、前記円盤状のターゲットを、その表面が液体表面に対して直角となるようにアブレーション室内に垂直に配置する一方、前記反応容器の側壁に配置したレーザー光導入窓を経由して導入されたレーザー光を上記ターゲットに略水平方向から照射するように構成すると良い。
【0025】
上記構成によれば、反応容器の一側面を切り欠いて取り付けられたレーザー光導入窓を介して水平方向からレーザー光が照射されるので、垂直方向から液体面を介してレーザー光を照射する方式と比較して、レーザー光が液体表面のゆらぎの影響を受けて散乱することがなく安定した状態で微細粒子を生成することが可能となる。また、一般的に水平方向に発振されるレーザー光をあえて垂直方向に変更して反射損失を招くことがなく、高い効率でレーザー光を利用することができる。
【0026】
さらに上記液相レーザーアブレーション装置において、レーザー光をターゲットの所定位置に集束させるフォーカスレンズを備えて構成することが好ましい。このフォーカスレンズを備えてレーザー光をターゲットの所定位置に集束させることにより、ターゲット表面におけるレーザー光のエネルギー密度を高めることができ、アブレーション効率をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
上記構成の液相レーザーアブレーション装置によれば、反応容器が仕切り板で左右2室、すなわちアブレーション室と回収室とに仕切られているため、1つの反応容器について微細粒子の生成と、生成された微細粒子の回収とを各々別の室で行うことができる。また、仕切り板に多数の孔又はスリットが設けられ、反応容器内に充填された液体が左右2室の間を自由に移動できるように構成されているため、アブレーション室において生成した微細粒子が液体に同伴されて、微細粒子の濃度勾配による拡散効果等によって仕切り板の孔又はスリットを通り、アブレーション室から回収室に移動する。したがって、アブレーション室内における微細粒子の滞留が少なく、微細粒子によってレーザー光が散乱減衰されることが少ないために、レーザー光によるアブレーション操作を効率的に長時間継続することができ、微細粒子の製造効率を高めることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の第1実施形態の全体構成を概略的に説明する正面図であり、図2は図1に示す反応容器ユニットの構成を示す縦断面図である。
【0030】
本実施形態に係る液相レーザーアブレーション装置は、大別して反応容器ユニット1と、集光レンズユニット2と、スキャニングユニット3とから構成されている。
【0031】
上記反応容器ユニット1を構成する反応容器11は、具体的には上面が開いた断面が略矩形のガラス製の有底容器である。この反応容器11の上縁には、平板状の上蓋12が被着されており、この上蓋12と反応容器11の上面との間には、断面がT字形のリング状パッキン13が介在されており、反応容器11内を密閉できる構造となっている。
【0032】
反応容器11の側壁にはレーザー光5を反応容器11内に導入するレーザー光導入窓14が嵌め込まれている。このレーザー光導入窓14は、レーザー光の反射による損失を防止するために反射防止コーティングが施された透明性(透光性)が高い円板状の石英ガラスで構成されている。上記レーザー光導入窓14は、略円板状であり、一方の平面から略円板状に切り欠かれたウインドウホルダー15の該切り欠き部内にウインドウパッキンA16を介して嵌め込み固定されている。上記ウインドウホルダー15は、レーザー光導入窓14とほぼ同心状に配置され、かつレーザー光導入窓14より径が小さい円形状の切り欠きを有する。すなわち、ウインドウホルダー15は、その中央部にレーザー光導入窓14よりも径の小さな円形の貫通口17を有する形状である。
【0033】
上記ウインドウホルダー15は、レーザー発振装置4から発振されたパルスレーザー光5が照射される反応容器11の一側面(前面)に対し、レーザー光導入窓14が固定された面を該側面に向け、容器11の内側からリング状のウインドウパッキンB18を介在させて取り付け、外側から3本のボルト19によって締着固定されている。なお、この側面(反応容器11の前面)はウインドウホルダー15と同径かつ同心の貫通口20を有している。このように、レーザー光導入窓14のみを石英ガラス製とし、交換可能に構成されている。したがって反応容器全体を高価な石英ガラスで製作する必要がないので、装置全体が安価になる。
【0034】
反応容器11内には、容器内を長手方向に仕切る仕切り板21が配置される。この仕切り板21は前記ウインドウホルダー15が取り付けられた反応容器11の側面とほぼ同じ幅および高さ(内法)を有する板状部材で、反応容器11内に取り付けたときの下端部に断面がL字形になるような突出部が連設されており、該突出部を反応容器11の底面に置き、仕切り板21を垂直に立て、前記の上蓋12を反応容器11の上面に固定したときに、該上蓋12(パッキン13)の下面と反応容器11の底面との間で固定される構造である。このとき、反応容器11において、レーザー光5が照射される側(図中左側)にアブレーション室22が形成される一方、仕切り板21を隔てた反対側(図中右側)に回収室23が形成される。
【0035】
上記仕切り板21には、多数の孔又はスリット24が穿設されており、反応容器11内に充填された液体が、上記孔又はスリット24を経由してアブレーション室22と回収室23との間を自由に移動することができるように構成されている。
【0036】
仕切り板21の一側面側には円盤状のターゲット25が装着されている。このターゲット25は、略円板状に切り欠かれたターゲットホルダー26の該切り欠き部内に、3本のセットビス27で固定されている。すなわち、ターゲットホルダー26の外周面を等角度(120度)で分割した3箇所において外方からセットビス27をねじ込むことにより、位置決め固定されている。そして、このターゲットホルダー26はボルト28等により仕切り板21に固定されている。
【0037】
図1に示すように、反応容器11の上蓋12の開孔部には、反応容器11内の圧力を一定に保持するための圧抜き33が取り付けられている。反応容器11の上縁にはパッキン13を介在させて上蓋12が載せられ、2ヶ所(両脇)にベルト掛け金具35,35を突設した板状のプレート34上に、上記上蓋12を被せた反応容器11が載置され、このプレート34に設けた2ヶ所のベルト掛け金具35,35間に固定ベルト36を装着して締めつけることにより、反応容器11が固定されている。
【0038】
次に図1を参照して集光レンズユニット2部分の構成を説明する。
【0039】
集光レンズ201はレンズホルダー202に嵌め込まれて固定されている。このレンズホルダー202はポール203を介して略円筒状のポールスタンド204に固定されている。該ポールスタンド204の下部には光学ベンチ用キャリア205が固定されており、その長手方向(スライド方向)がレーザー光5の照射方向と一致している。上記光学ベンチ用キャリア205は、略L字型のベース206の底面部上に固定された光学ベンチ207上に、スライド可能に取り付けられている。レンズホルダー202の下部に取り付けられたポール203は、上記ポールスタンド204の筒内を上下に移動することができる。208、209は、ポール203をポールスタンド204に、光学ベンチ用キャリア205を光学ベンチ207に各々固定するためのネジである。集光レンズ201の軸調整(位置の微調整)は、レンズホルダー202に取り付けられている調節ネジ210,211を回して実施される。
【0040】
さらに図1を参照してレーザー光スキャニング機構3部分の構成を説明する。
【0041】
前記ターゲット25を収容した反応容器ユニット1は、任意の平面内の横(X軸)方向と縦(Y軸)方向とに自由にスライドすることが可能なX−Yステージ301上に固定される。本実施形態では、レーザー光の発振経路が固定されているので、レーザー光の照射を受ける側であるターゲット25を収容した反応容器ユニット1を垂直面内で移動可能なように構成されている。なお、上記X−Yステージ301の横(X軸)方向と縦(Y軸)方向との動作は図示しないコントローラー及びコントロールプログラム(パソコン)によって制御される。
【0042】
上記X−Yステージ301の基部は、略L字型のベース(装置基台)206の側面部に固定されている。このX−Yステージ301の内側面には、略L型断面を有する架台アングル302の垂直部分が固定されている。一方、前記反応容器11が取り付けられたプレート34の前方には、このプレート34を取り付けるための貫通孔が穿設されており、この貫通孔に対向する架台アングル302の水平部分には裏面よりカムロックファスナーのソケット37を取り付け、架台プレート34の上方より上記貫通孔を通り上記ソケット37にカムロックファスナーのプラグ38を差し込むことにより、前記反応容器11を一体化したプレート34が架台アングル302に固定される。
【0043】
ここで、レーザー光発振装置4を保護するため、具体的には反応容器11内のターゲット25に対して照射されたレーザー光5がレーザー光導入窓14やターゲット25で反射してレーザー光発振装置4に照射されないようにするために、ターゲット25を収容した反応容器11がレーザー光発振装置4方向に向けて僅かに傾斜していることが好ましい。その傾斜角度を調整するために、架台アングル302の基端部側のプレート34の下部にスペーサを介装固定し、プレート34と架台アングル302との間に1〜2度程度の傾斜角度を持たせることが好ましい。
【0044】
上記の通り、反応容器11はプレート34および架台アングル302を介してX−Yステージ301取り付けられているので、該X−Yステージ301の横(X軸)方向と縦(Y軸)方向のスライドに伴って、反応容器11をレーザー光5の照射方向に垂直な面内においてに、左右方向および上下方向の2次元面内で自由に移動させることができる。
【0045】
上記構成によれば、レーザー光スキャニング機構によってレーザー発振装置とターゲットとの相対位置が調整されるため、ターゲットにおけるレーザー光の照射点が1点に集中せずにターゲットの全有効面積に及ぶ。したがって、ターゲットの全有効面を均一に消耗させることができ、アブレーション操作が安定すると共に、特にターゲット材料の使用歩留りを大幅に向上させることができる。
【0046】
上記X−Yステージ301は、レーザー光5を発振装置4側でスキャニングできない場合、すなわちレーザー光5の照射位置が固定されターゲット25を移動してその表面全体に隈無くレーザー光5を照射してアブレーションさせる場合に用いるものである。従って、上記レーザー光5が発振装置4側でスキャニングできる方式である場合には、本実施形態のレーザー光スキャニング機構3を用いる必要はない。その場合には、反応容器11が取り付けられたプレート34を、例えば昇降台に載せて一度位置決めした後には、それ以降の位置移動を実施する必要はない。
【0047】
上記構成の液相レーザーアブレーション装置1によれば、反応容器11が仕切り板21で左右2室、すなわちアブレーション室22と回収室23とに仕切られているため、1つの反応容器11について微細粒子の生成と、生成された微細粒子の回収とを各々別の室(空間)で行うことができる。また、仕切り板21に多数の孔又はスリット24が設けられ、反応容器11内に充填された液体が左右2室の間を自由に移動できるように構成されているため、アブレーション室22において生成した微細粒子が液体に同伴されて、微細粒子の濃度勾配による拡散効果等によって仕切り板21の孔又はスリット24を通り、アブレーション室22から回収室23に移動する。したがって、アブレーション室22内のターゲット25近傍における微細粒子の滞留が少なく、微細粒子によってレーザー光5が散乱減衰されることが少ないために、レーザー光5によるアブレーション操作を効率的に長時間継続することができ、微細粒子の製造効率を高めることが可能になる。
【0048】
図3は、本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の第2実施形態の要部構成を概略的に説明する平断面図であり、生成したナノメートルオーダーの微細粒子を、回収電極上に堆積させて回収する場合の反応容器ユニット1の構成を示す平断面図である。
【0049】
本実施形態に係る液相レーザーアブレーション装置は、第1実施形態の構成に加えて下記構成を付加して構成される。すなわち、前記反応容器11の回収室23内に対向するように一対の回収電極39,40を配置し、この回収電極39,40に直流電圧を印加して回収電極39,40間に電場を形成し、この電場によって微細化粒子を上記回収電極39,40の表面に収集する回収装置60を設けたことを特徴とする。
【0050】
すなわち、略平板状の一対の回収電極39,40を、反応容器11の回収室23に上方から垂直に挿入し、かつ両回収電極39,40は所定の対向距離を隔てて平行に挿入されている。各回収電極39,40の端子は上蓋12に取り付けられており、その両端子は直流電源(DC電源)に接続されている。
【0051】
上記構成によれば、仕切り板21によって反応容器11が左右2室(アブレーション室22および回収室23)に仕切られ、ターゲット25が存在しない回収室23に一組の回収電極39,40が挿入され、該回収電極39,40に直流電流を通すことによって上記回収電極39,40間に電場が形成される。したがって、アブレーション室22において発生し液体に同伴されて回収室23に移動した微細粒子は電場によって回収電極39,40方向に吸引され、電極の負極及び/又は正極表面上に逐次堆積され効率的に回収される。そのため、ターゲット25を配置したアブレーション室22の液体は粒子濃度が低い清浄な状態に維持される結果、液体中の微細粒子によってレーザー光5が散乱減衰されることが少ないために、レーザー光5によるアブレーション操作を効率的に長時間継続することができ、微細粒子の製造効率をさらに高めることが可能になる。
【0052】
図4は、本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の第3実施形態の要部構成を概略的に説明する平断面図であり、生成したナノメートルオーダーの微細粒子を、回収基板上に堆積させて回収する場合の反応容器ユニット1の構成を示す平断面図である。
【0053】
本実施形態に係る液相レーザーアブレーション装置は、第1実施形態の構成に加えて下記構成を付加して構成される。すなわち、前記反応容器11の回収室23の対向する側壁外部に一対の磁石41,42を配置する一方、各磁石41,42の位置に対応する上記回収室23の側壁内部に対向するように一対の回収基板43,44を配置して回収基板43,44間に磁場を形成し、この磁場によって微細化粒子を上記回収基板43,44の表面に収集する回収装置70を設けたことを特徴とする。
【0054】
上記構成によれば、仕切り板21によって反応容器11が左右2室(アブレーション室22および回収室23)に仕切られ、ターゲット25を配置していない回収室23において、対向する反応容器11の両側面に外側から一組の磁石41,42が取り付けられ、上記磁石41,42間に磁場が形成される。したがって、アブレーション室22において発生し液体に同伴されて回収室23に移動した微細粒子は磁場によって回収基板43,44方向に吸引され、回収基板43,44表面上に逐次堆積され効率的に回収される。そのため、ターゲット25を配置したアブレーション室22の液体は粒子濃度が低い清浄な状態に維持される結果、液体中の微細粒子によってレーザー光5が散乱減衰されることが少ないために、レーザー光5によるアブレーション操作を効率的に長時間継続することができ、微細粒子の製造効率をさらに高めることが可能になる。
【0055】
図5は、本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の第4実施形態の要部構成を概略的に説明する系統図であり、生成したナノメートルオーダーの微細粒子を、液体中に分散した状態で回収する装置の構成を示す系統図である。
【0056】
本実施形態に係る液相レーザーアブレーション装置は、第1実施形態の構成に加えて下記構成を付加して構成される。すなわち、前記反応容器11のアブレーション室22の底部に液体を供給する液体供給口29を設ける一方、前記回収室23の上部に、微細化粒子を含む液体の排出口30を設け、微細化粒子を含有する懸濁液を連続的または間歇的に反応容器11の外部に回収する懸濁液回収装置80を設けたことを特徴とする。
【0057】
すなわち、アブレーション室22の一側面(前記ウインドウホルダー15が取り付けられた側面と直交する一側面)の下部には、液体の供給孔29が設けられる一方、上記一側面と対向する回収室23側の側面上部には、微細粒子を含有した液体の排出孔30が設けられる。また、上記供給口29および排出口30から延びる配管路には、各々開閉弁47,51が配設されている。液体を貯留する液体容器45は、ビニールチューブなどの液体供給管46、チューブポンプなどの液体供給ポンプ48および開閉弁47を介して反応容器11の液体供給孔29に接続されている。一方、回収室23に移動した微細粒子を含む懸濁液を排出する排出口30は、開閉弁51およびビニールチューブなどの液体排出管50を介して回収容器49に接続されている。
【0058】
なお図1および図2に示すように反応容器11は、その上面に前記上蓋12を固定することによって気密に密閉することが可能であるので、液体供給管46を介して液体を反応容器11に連続的に供給すると、液体とそれに分散した微細粒子は排出孔30から押し出され、液体排出管50を通って連続的に回収容器49に排出される。また、液体排出管50の先端(出口)を循環配管52として液体容器45に挿入すれば、一定量の液体を反応容器11内に循環させることができる。
【0059】
上記構成によれば、液相中のターゲット25にパルスレーザー光5を照射することにより、ナノメートルオーダーの微細な粒子がアブレーション室22において生成し、この微細粒子は反応容器11の液体供給口29から連続的または間歇的に供給された液体によって回収室23に移動する。したがって、微細粒子は液体に分散した状態で連続的または間歇的に反応容器11外に排出され回収される。そのため、ターゲット25を配置したアブレーション室22の液体は粒子濃度が低い清浄な状態に維持される結果、液体中の微細粒子によってレーザー光5が散乱減衰されることが少ないために、レーザー光5によるアブレーション操作を効率的に長時間継続することができ、微細粒子の製造効率をさらに高めることが可能になる。特にアブレーション室22において生成した微細粒子が供給された液体によって強制的に回収室23に移動されるため、ターゲット25の周辺から微細粒子が効果的に除去されるので、レーザー光5の減衰を防止することができ、長時間に亘り安定した状態で微細粒子を生成することができる。
【0060】
次に本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の運転方法およびナノメートルオーダーの微細粒子の生成及び回収方法について概略的に説明する。本発明に係る装置は上記各実施形態で説明したように、液体の供給方法により、回分式、連続式及び循環式に大別することができるが、本発明の装置は何れの方式でも使用することができる。
【0061】
上記いずれの方式でレーザーアブレーション装置を運転する場合においても共通する操作は以下の通りである。
【0062】
まず、パルスレーザー光5の条件(波長、出力、パルス回数)を選定する。パルスレーザー光5の波長等の条件は、ターゲットを構成する被微細化物の材料の種類等によって大きく変化するものであり、ターゲットが金属や酸化物から成る場合には、波長が短く各光子の強度が高い紫外領域のレーザー光を使用することが好適である一方、ターゲットが有機物等から構成される場合には、波長が長く、光子強度が低い赤外領域のレーザー光を使用することが好適である。
【0063】
被微細化物が銅(Cu)のような金属材である場合には、その金属の溶製材から成るターゲットを使用する。また、被微細化物が酸化セリウム(CeO)のような酸化物セラミックスである場合には、その酸化物の焼結体から成るターゲットを使用する。さらに、被微細化物がシリコン(Si)のような高純度金属材である場合には、その単結晶体から成るターゲットを使用する。
【0064】
次に、コントローラーとパソコン(スキャニングプログラム)の電源を入れ、X−Yステージ301を機械原点(照準基準点)に移動する。次に集光レンズ201からのターゲット25の距離(位置)を定める。次にターゲット25をターゲットホルダー26に取り付け、仕切り板21を反応容器11内の所定位置にセットする。また、回分式運転の場合には、所定量の液体を反応容器11に充填する。さらに、回収室23に微細粒子の回収装置を設置する場合には、必要に応じて回収電極39,40または磁石41,42(及び回収基板43,44)を取り付ける。次にパッキン13を介在させて上蓋12を載せた反応容器11をプレート34上に置き、ベルト掛け金具35に固定ベルト36を掛けることにより反応容器11をプレート34に固定する。最後にロックファスナー(ソケット37,プラグ38)を用いて、プレート34を架台アングル302上に固定することにより、運転開始準備が完了する。
【0065】
まず、図1および図2に示すように電場・磁場による回収装置を装備せずに回分式で運転される第1実施形態のレーザーアブレーション装置を運転する場合の手順および作用効果は以下のとおりである。
【0066】
まず、スキャニングプログラムを作動させ、またレーザー発振装置4を起動して、運転を開始すると、パルスレーザー光5がターゲット25に照射され、ターゲット25を構成する成分が微細粒子として放出される。ターゲット25より放出された微細粒子は、容器11内に滞留している液体中に分散して、仕切り板21の孔またはスリット24を通り濃度勾配などによりアブレーション室22から回収室23へと拡散する。ここで、反応容器11内に例えば小型のファンやポンプなどを設置して、液体をアブレーション室22と回収室23との間を強制的に循環させることにより、発生した微細粒子をターゲット25の周囲から速やかに除去することが可能になり、パルスレーザー光5の微細粒子との衝突による減衰が防止できアブレーション操作を高い効率で継続できる。そして、所定時間運転を継続した後に、レーザー発振装置4を停止し、同時にスキャニングプログラムを停止する。ここで回収室23において液体中に分散している微細粒子は、そのままの状態で使用されることが好ましいが、粒子濃度が低い場合は、液体を蒸発させる等の各種方法により濃縮して使用することができる。
【0067】
次に、図3に示すように電場による回収装置60を装備して回分式で運転される第2実施形態のレーザーアブレーション装置を運転する場合の手順および作用効果は以下のとおりである。
【0068】
まず、スキャニングプログラムを作動させ、両回収電極39,40に所定の電流を流して電場を形成し、またレーザー発振装置4を起動して装置の運転を開始すると、パルスレーザー光5がターゲット25に照射され、ターゲット25を構成する成分が微細粒子として放出される。ターゲット25より放出された微細粒子は、反応容器11内に滞留している液体中に分散して、仕切り板21の孔またはスリット24を通り、粒子の濃度勾配などによりアブレーション室22から回収室23へと拡散する。
【0069】
ここで、前記第1実施形態で補足したように、反応容器11内に小型のファンやポンプを設置して、液体をアブレーション室22と回収室23との間を強制的に循環させることにより、発生した微細粒子をターゲット25の周囲から速やかに除去することが可能になり、パルスレーザー光5の減衰が防止できアブレーション操作を、さらに高い効率で継続できる。
【0070】
アブレーション室22から回収室23へと拡散した微細粒子は、電場の作用により、負極及び/又は正極となる回収電極39,40上に膜状に堆積する。そして、所定時間運転を継続した後、レーザー発振装置4を停止し、同時にスキャニングプログラムを停止し、さらに両回収電極39,40に流している電流を切る。
【0071】
次に、図4に示すように磁場による回収装置70を装備して回分式で運転される第3実施形態のレーザーアブレーション装置を運転する場合の手順および作用効果は以下のとおりである。
【0072】
まず、スキャニングプログラムを作動させ、またレーザー発振装置4を起動して運転を開始する。なお、反応容器11に磁石41,42を取り付けた時点で、回収室23内には磁場が形成されている。運転開始により、パルスレーザー光5がターゲット25に照射され、ターゲット25を構成する成分が微細粒子として放出される。ターゲット25から放出された微細粒子は、反応容器11内に滞留している液体中に分散して、仕切り板21の孔またはスリット24を通りアブレーション室22から回収室23へと濃度勾配などにより拡散する。
【0073】
ここで、前記第1および第2実施形態で補足したように、反応容器11内に小型のファン等を設置して、液体を強制的に循環させることにより、発生した微細粒子をターゲット25の周囲から速やかに除去することが可能になり、パルスレーザー光5の減衰が防止できアブレーション操作を、さらに高い効率で継続できる。
【0074】
回収室23へと拡散した微細粒子は、磁場の作用により、磁石41,42に近接して設けられた回収基板43,44上に膜状に堆積する。そして所定時間運転を継続した後に、レーザー発振装置4を停止し、またスキャニングプログラムを停止する。
【0075】
次に、図5に示すように微細化粒子を含有する懸濁液を連続的に反応容器11の外部に回収する懸濁液回収装置80を装備して連続式で運転される第4実施形態のレーザーアブレーション装置を運転する場合の手順および作用効果は以下のとおりである。この実施形態においては、液体は液体容器45から反応容器11を経て回収容器49に一方的に流れるのみで循環していない。
【0076】
まず、液体供給口29および液体排出口30に付設した開閉弁47,51を開き、液体供給ポンプ48を作動せしめて反応容器11内に一定流量で液体を供給する。このとき、仕切り板21に多数の孔またはスリット24が穿設されているので、供給口29より供給された液体は、反応容器11内のアブレーション室22と回収室23との液面を均一に上昇せしめ、排出口30を通り反応容器11外に排出される。
【0077】
次に、スキャニングプログラムを作動させ、またレーザー発振装置4を起動して、装置の運転を開始すると、パルスレーザー光5がターゲット25に照射され、ターゲット25を構成する成分が微細粒子として放出される。この微細粒子は、反応容器11内をアブレーション室22から回収室23に移動している液体に同伴して、ターゲット25の周囲から速やかに除去される。したがって、パルスレーザー光5の微細粒子との衝突による減衰が効果的に防止でき、アブレーション操作が高い効率で実施される。
【0078】
上記微細化粒子を含有する懸濁液は、液体排出管50を通り、液体中にナノメートルオーダーの分散した状態のままで、回収容器49内に回収される。所定時間運転を継続した後、レーザー発振装置4を停止し、同時にスキャニングプログラムを停止し、またポンプ48を止めて液体の供給を停止する。
【0079】
前記第1実施形態の場合と同様に、回収容器49に回収された微細粒子の懸濁液は、液体中に微細粒子が分散した状態でそのまま使用されることが好ましいが、粒子濃度が低い場合は、液体を蒸発させる等の各種方法により濃縮して使用すればよい。
【0080】
なお、回収容器49内に回収電極39,40を取り付けて該回収容器49に電場をかけ、または回収容器49の外側に磁石41,42を装着すると同時に、この回収容器49の内側に回収基板43,44を取り付けて回収容器49に磁場をかけることにより、微細粒子を回収電極または回収基板上に膜状に堆積させて回収するように構成することも可能である。
【0081】
次に、図5に示す循環配管52を使用して液体を液体容器45と反応容器11との間を循環するように構成した循環式で運転される第5実施形態のレーザーアブレーション装置を運転する場合の手順および作用効果は以下のとおりである。なお本実施形態においては、液体は液体容器45から反応容器11および循環配管52を経て再び液体容器45に戻るように循環して流れる。
【0082】
すなわち、液体供給口29および液体排出口30に付設した両開閉弁47,51を開け、液体供給ポンプ48を始動せしめて反応容器11内に一定流量で液体を供給する。仕切り板21には多数の孔24が穿設されているので、供給口29から供給された液体は反応容器11内のアブレーション室22と回収室23との液面を均一に上昇せしめ、該液体は排出口30を通り反応容器11の回収室23から排出される。ここで、液体排出管50は液体容器45に戻る循環配管52に接続され、その先端(出口)は液体容器45に挿入されているために、液体は液体容器45と反応容器11との間を循環する。
【0083】
次に、スキャニングプログラムを作動させ、またレーザー発振装置4を起動して装置の運転を開始すると、パルスレーザー光5がターゲット25に照射され、ターゲット25を構成する成分が微細粒子として放出される。生成した微細粒子は、反応容器11内をアブレーション室22から回収室23に移動している液体に同伴して、ターゲット25の周囲から速やかに除去される結果、パルスレーザー光5の微細粒子との衝突による減衰が効果的に防止でき、アブレーション操作が高い効率で継続できる。
【0084】
上記生成した微細粒子は、液体と共に液体排出管50および循環配管52を通り、液体中にナノメートルオーダーが分散懸濁した状態で液体容器45に回収される。液体容器45に戻された液体は、繰り返し反応容器11に供給されるので、装置の運転時間の経過と共に該液体中に分散している微細粒子の濃度は高くなる。この懸濁液中の微細粒子濃度が所定値になるまで所定時間装置を運転した後に、レーザー発振装置4を停止し、同時にスキャニングプログラムを停止し、また液体供給ポンプ48を止めて液体の供給を停止する。
【0085】
なお、上記第5実施形態において、液体容器45に回収された液体(懸濁液)を濃縮して微細粒子の濃度を高める方法は、前記第4実施形態で説明した連続式操作の場合と同様である。また、液体容器45内に電場または磁場を形成し、その吸引力によって微細粒子を回収電極または回収基板上に膜状に堆積させて回収する方法も、前記第4実施形態で説明した連続式操作の場合と同様に採用することができる。
【0086】
次に上記の第1実施形態から第5実施形態の構成を有する液相レーザーアブレーション装置に種類が異なるターゲットを使用して実際にアブレーション操作を実施した場合の具体的な試験例について以下の実施例および比較例を参照して説明する。なお各比較例で使用した反応容器は仕切り板を使用せず、また回収室を形成していない点以外は対応する各実施例で使用した反応容器を使用したものである。
【0087】
なお、各実施例に係るアブレーション装置に共通して使用される部品の仕様および条件は以下の通りである。
(1)反応容器としては、内のり寸法で縦50mm×横75mm×深さ52mmの寸法を有する内容積が約200cmである箱状のガラス製容器であり、底面から排出口まで充填される液体の有効内容積が約160cmである反応容器を使用した。
(2)反応容器に充填する液体としては純水を使用した。
(3)ターゲットとしては、金属としての銅(Cu)の溶製材から成るターゲット、酸化物セラミックスとしての酸化セリウム(CeO)の焼結体から成るターゲットおよび高純度金属材としてのシリコン(Si)単結晶体から成るターゲットであり、外形20mm×厚さ5mmのターゲットを使用した。
(4)レーザー発振装置としては、波長が266nmである紫外線領域のレーザー光を発振し、出力が100mJ/pulseであり、パルス回数が10pulse/secであるNd:YAGレーザー発振装置を使用した。
(5)生成した微細粒子の粒度分布の測定装置としては、高感度・高濃度粒子径測定装置(マルバーン社製;Malvern HPPSを使用する一方、粒子の顕微鏡写真は、分析電子顕微鏡(日本電子(株)社製;JEM2000FXII)を使用して撮影した。
【0088】
[実施例1]
図1および図2に示す第1実施形態に係るアブレーション装置に、銅(Cu)製ターゲットを装着し、反応容器に所定量の純粋を充填した後には液体の供給排出はせず、また電場・磁場による回収装置を付設せずに回分式で1時間以上のアブレーション処理を実施した。
【0089】
その結果、粒度分布が狭く、ほぼ単分散状態に近い平均粒子径が13nmである銅(Cu)の微細粒子が純水中に分散した懸濁液(ナノサスペンション)が効率的に得られた。
【0090】
また、仕切り板を使用せず、また回収室を形成していない点以外は実施例1に係る装置と同一の仕様を有する比較例に係る装置を使用して同一条件でアブレーション処理を実施したところ、比較例に係る装置では徐々にアブレーション効率が低下した。これに対して、実施例1に係る装置ではターゲット周辺に生成した微細粒子が迅速に回収室に移行したためにレーザー光の減衰が少なく、高いアブレーション効率が長時間維持できた。
【0091】
ちなみに、単位処理時間あたりの微細粒子の収率を比較すると本実施例装置では、比較例の装置と比較して16〜28%も収率が改善できることが判明した。また、運転開始直後に較べレーザー光の減衰等による微細粒子の収率が15%低下するまでに可能な連続運転時間を測定した。その結果、実施例1では比較例と較べて2〜3倍も連続運転可能時間が延伸できることも判明した。
【0092】
[実施例2]
大きさが縦25mm×横25mm×厚さ1mmである一対の銅製回収電極を回収室内に配置し各電極を直流電源(24V、0.5A)に接続して電場によって微細粒子を回収する回収装置を設けた図3に示す第2実施形態に係るアブレーション装置に、酸化セリウム(CeO)から成るターゲットを装着し、反応容器に所定量の純水を充填した後には液体の供給排出はせずに回分式で1時間以上のアブレーション処理を実施した。
【0093】
その結果、図6に示すように、負極となる回収電極の両面に、酸化セリウム(CeO)から成り、粒径が5〜20nmである微細粒子が薄膜状に堆積された状態が確認できた。なお、本実施例の場合、正極となる回収電極にはほとんど微細粒子の堆積は観察されなかった。
【0094】
また、単位処理時間あたりの微細粒子の収率を比較すると本実施例装置では、生成した微細粒子がターゲット付近から除去される効率が高いために、比較例の装置と比較して25〜35%も収率が改善できることが判明した。また、運転開始直後に較べレーザー光の減衰等による微細粒子の収率が15%低下するまでに可能な連続運転時間を測定した。その結果、実施例2では比較例と較べて3〜4倍も連続運転可能時間が延伸できることも判明した。
【0095】
[実施例3]
表面磁束密度が3600ガウス(360mT)であり、大きさが縦40mm×横15mm×厚さ5mmである一対のネオジウム磁石を回収室の外壁に装着する一方、一対の銅製回収基板を回収室内壁に配置し磁場によって微細粒子を回収する回収装置を設けた図4に示す第3実施形態に係るアブレーション装置に、酸化セリウム(CeO)から成るターゲットを装着し、反応容器に所定量の純水を充填した後には液体の供給排出はせずに回分式で1時間以上のアブレーション処理を実施した。
【0096】
その結果、図7におよび図8に示すように、S極及びN極となる両方の回収基板に、酸化セリウム(CeO)がナノメートルオーダーの微細粒子として均一に堆積されていることが確認できた。
【0097】
また、単位処理時間あたりの微細粒子の収率を比較すると本実施例装置では、生成した微細粒子がターゲット付近から除去される効率が高いために、比較例の装置と比較して20〜35%も収率が改善できることが判明した。また、運転開始直後に較べレーザー光の減衰等による微細粒子の収率が15%低下するまでに可能な連続運転時間を測定した。その結果、実施例3では比較例と較べて2.5〜4倍も連続運転可能時間が延伸できることも判明した。
【0098】
[実施例4]
図5に示すように液体容器45から液体を毎時300mLの供給速度で連続的に反応容器11に供給する一方、微細化粒子を含有する懸濁液を連続的に反応容器11の外部の回収容器49に回収する懸濁液回収装置80を装備して連続式で運転される第4実施形態のレーザーアブレーション装置に、シリコン(Si)から成るターゲットを装着し、また電場・磁場による回収装置を付設せずに連続式で1時間以上のアブレーション処理を実施した。
【0099】
その結果、粒度分布が狭く、ほぼ単分散状態である平均粒子径が11nmのシリコン(Si)の微細粒子が純水中に分散した懸濁液(ナノサスペンション)が効率的に得られた。
【0100】
また、単位処理時間あたりの微細粒子の収率を比較すると本実施例装置では、生成した微細粒子がターゲット付近から迅速に除去されるために、比較例の装置と比較して50〜65%も収率が改善できることが判明した。また、運転開始直後に較べレーザー光の減衰等による微細粒子の収率の低下が殆どなく、従来の装置と比較して連続運転可能時間が大幅に延伸できることも判明した。
【0101】
[実施例5]
循環配管52を使用して液体容器45と反応容器11との間を、液体が毎時600mLの循環速度で循環するように構成した循環式で運転される図5に示す第5実施形態に係る液相レーザーアブレーション装置に、酸化セリウム(CeO)から成るターゲットを装着し、また電場・磁場による回収装置を付設せずに循環式で1時間以上のアブレーション処理を実施した。
【0102】
その結果、粒度分布が狭く、ほぼ単分散状態であり、平均粒子径が32nmである酸化セリウム(CeO)の微細粒子が純水中に分散した懸濁液(ナノサスペンション)が効率的に得られた。
【0103】
また、単位処理時間あたりの微細粒子の収率を、仕切り板および回収室を形成しない回分方式の従来例と比較すると本実施例装置では、生成した微細粒子がターゲット付近から除去される効率が高いために、従来装置と比較して35〜45%も収率が改善できることが判明した。また、運転開始直後に較べレーザー光の減衰等による微細粒子の収率が15%低下するまでに可能な連続運転時間を測定したところ、その結果、実施例5では従来例と較べて4〜6倍も連続運転可能時間が延伸できることも判明した。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明に係る液相レーザーアブレーション装置を使用して液相中に分散した状態で回収されたナノメートルオーダーの微細粒子及びナノメートルオーダーの微細粒子が基板状に膜状に堆積されたものは、医薬品分野(液体製剤)、エレクトロニクス分野(電子部品、誘電体、磁性体)、バイオ分野(バイオセンサー、生体材料)の他、機能性材料や触媒としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明に係る液相レーザーアブレーション装置の一実施形態の全体構成を概略的に説明する正面図。
【図2】図1に示す反応容器ユニットの構成を示す断面図。
【図3】反応容器の回収室に一対の回収電極を配置し、生成したナノメートルオーダーの微細粒子を回収電極上に堆積させて回収する場合の構成を示す反応容器ユニットの平断面図。
【図4】反応容器の回収室外壁に一対の磁石を配置する一方、回収室内部に対向するように一対の回収基板を配置し、生成したナノメートルオーダーの微細粒子を回収基板上に堆積させて回収する場合の構成を示す反応容器ユニットの平断面図。
【図5】反応容器のアブレーション室に液体を供給する一方、生成したナノメートルオーダーの微細粒子を含む液体を回収室から反応容器外に排出し微細粒子が液体中に分散した状態で回収する機構を設けたアブレーション装置の構成を示す系統図。
【図6】回分式のアブレーション操作において電場によって回収電極(負極)に堆積された酸化セリウム(CeO)微細粒子の粒子構造を示す透過型電子顕微鏡写真。
【図7】回分式のアブレーション操作において磁場によって回収基板(S極側)に堆積された酸化セリウム(CeO)微細粒子の粒子構造を示す透過型電子顕微鏡写真。
【図8】回分式のアブレーション操作において磁場によって回収基板(N極側)に堆積された酸化セリウム(CeO)微細粒子の粒子構造を示す透過型電子顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0106】
1…反応容器ユニット、2…集光レンズユニット、3…スキャニングユニット、4…レーザー光発振装置、5…レーザー光、11…反応容器、12…上蓋、13…パッキン、14…レーザー光導入窓、15…ウインドウホルダー、16…ウインドウパッキンA、17…貫通口、18…ウインドウパッキンB、19…固定ボルト、20…貫通口、21…仕切り板、22…アブレーション室、23…回収室、24…孔又はスリット(流通口)、25…ターゲット、26…ターゲットホルダー、27…セットビス、28…固定ボルト、29…液体の供給口、30…液体の排出口、33…圧抜き、34…プレート、35…ベルト掛け金具、36…固定ベルト、37…ソケット、38…プラグ、39,40…回収電極、41,42…磁石、43,44…回収基板、45…液体容器、46…液体供給管、47…開閉弁、48…液体供給ポンプ、49…回収容器、50…液体排出管、51…開閉弁、52…循環配管、60…回収装置、70…回収装置、80…懸濁液回収装置、201…集光レンズ、202…レンズホルダー、203…ポール、204…ポールスタンド、205…光学ベンチ用キャリア、206…ベース(装置基台)、207…光学ベンチ、208,209…固定ネジ、210,211…調整ネジ、301…X−Yステージ、302…架台アングル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被微細化成分を含有するターゲットと、このターゲットにレーザー光を照射することによりターゲット成分を原子,分子,イオンまたはクラスター状の微細化粒子として放出するレーザー発振装置と、上記ターゲットを液体中に保持する反応容器とを備え、上記反応容器は、流通口を有する仕切り板によって内部空間がアブレーション室と回収室とに仕切られており、上記アブレーション室内にターゲットが収容保持されアブレーションによる微細化反応を進行せしめる一方、上記アブレーション室内での微細化反応によって生じた微細化粒子を含む液体を、仕切り板の流通口を介して上記回収室に導入するように構成したことを特徴とする液相レーザーアブレーション装置。
【請求項2】
前記反応容器の回収室内に対向するように一対の回収電極を配置し、この回収電極に直流電圧を印加して回収電極間に電場を形成し、この電場によって微細化粒子を上記回収電極表面に収集する回収装置を設けたことを特徴とする請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置。
【請求項3】
前記反応容器の回収室の対向する側壁外部に一対の磁石を配置する一方、各磁石の位置に対応する上記回収室の側壁内部に対向するように一対の回収基板を配置して回収基板間に磁場を形成し、この磁場によって微細化粒子を上記回収基板表面に収集する回収装置を設けたことを特徴とする請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置。
【請求項4】
前記レーザー発振装置からターゲットに向かって照射されたレーザー光の照射点がターゲットの全有効面積に及ぶようにレーザー発振装置とターゲットとの相対位置を連続的に調整するレーザー光スキャニング機構を設けたことを特徴とする請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置。
【請求項5】
前記反応容器のアブレーション室の底部に液体を供給する液体供給口を設ける一方、前記回収室の上部に、微細化粒子を含む液体の排出口を設け、微細化粒子を含有する懸濁液を連続的または間歇的に反応容器の外部に回収する懸濁液回収装置を設けたことを特徴とする請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置。
【請求項6】
前記円盤状のターゲットは、その表面が液体表面に対して直角となるようにアブレーション室内に垂直に配置されている一方、前記反応容器の側壁に配置したレーザー光導入窓を経由して導入されたレーザー光を上記ターゲットに略水平方向から照射するように構成したことを特徴とする請求項1記載の液相レーザーアブレーション装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−122845(P2006−122845A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317045(P2004−317045)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000152181)株式会社奈良機械製作所 (15)
【Fターム(参考)】